説明

有機エレクトロルミネッセンス素子およびディスプレイ装置

【課題】本発明は、フレキシブル性を有しながらも十分なガスバリア性を示す上に、効率よく生産することができる有機EL素子を提供する。また、本発明は、同様の特性を有する有機ELディスプレイ装置を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明の有機EL素子は、少なくとも基板、1対の電極、および有機エレクトロルミネッセンス層を有し;当該基板が液晶ポリマーフィルムよりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、および当該有機エレクトロルミネッセンス素子を含むディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに代わる薄型平面ディスプレイ装置として有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、「有機エレクトロルミネッセンス」を「有機EL」という)が着目されている。有機ELディスプレイは自己発光型装置であり、広視野角、薄型軽量性、高コントラスト、高画質などの面で他の薄型平面ディスプレイ装置よりも優れている。
【0003】
従来、有機EL素子はガラス基板上に電極や有機EL層などが形成されているという構造を有する。しかし、かかる有機EL素子はガラス基板を用いる為に連続生産化が不可能で製造コストを下げられず、また、衝撃に弱いという欠点があった。さらに、大型化するためにはガラスの厚みを増やす必要があり、装置自体の重量が大幅に増えてしまう。また、有機EL材料の特性の一つにフレキシブル性があるが、ガラス基板を用いた場合は屈曲させることは不可能であるためディスプレイ全体に可撓性を持たせることができず、この特性を活かすことができない。
【0004】
これらの問題を解決するために、基板材料として高分子材料を用いる試みが行われている。しかし高分子材料はガラスに比較するとガスバリア性が低く、素子中に入り込んだ水分や酸素により有機EL層が劣化するという問題がある。
【0005】
そこで、特許文献1〜5に記載の技術では、高分子材料からなる基板上に無機酸化物や無機窒化物からなるバリア層を形成してガスバリア性を向上させたり、吸湿層を設けて水分を捕捉することにより有機EL層の劣化を抑制している。しかしながら、特許文献1〜5に記載の技術ではガスバリア性などに対する要求を十分に満たすことはできない。
【0006】
有機ELディスプレイ装置は薄型化や軽量化が可能であるという利点を有することから、テレビやパソコンへの応用が期待されているが、これらテレビなどでは常時点灯の必要があり30000時間といった長寿命が求められる。しかし有機ELは水分やガスに対する耐久性が低いことから、有機EL素子を構成する基板にはより一層高いガスバリア性が求められる。ところがこれら先行技術で基板材料として用いられているシリコンやポリカーボネート等のガスバリア性は十分ではないことから、ガスバリア層を厚くしたり吸湿層を設けたとしても有機ELの劣化は経時的に進行する。
【0007】
また、テレビなどでは大画面化が求められている。よって、より大面積の基板上により多くの電極などが形成されることになるが、従来の高分子基板は熱履歴を受けると変形し易いことから製造プロセスにおいて位置ずれを起こす傾向がある。そのため、有機EL基板にはより一層高い寸法安定性が要求される。
【0008】
ところで、特許文献6には有機EL素子の記載があり、特に段落0093にはその基板材料として液晶ポリマーが例示されている。また、特許文献7と8にはディスプレイ用基板の材料として同じく液晶ポリマーが例示されている。
【0009】
しかし特許文献6の技術は主に電極に関するものであり、基板材料については特に研究はされていない。例えば、特許文献6の有機EL素子の基板としては樹脂基板、ガラス基板、石英基板、シリコン基板、金属基板およびガリウム砒素基板が例示されており、これらのうち樹脂基板の材料の一例として液晶ポリマーが挙げられているのみである。実際、特許文献6の実施例では、有機EL素子の基板として用いられているのはガラス基板のみである。
【0010】
また、特許文献7と8の技術では基板材料としてはポリエチレンナフタレートのみが重要視されており、液晶ポリマーはまさに単なる例示に過ぎない。その理由としては、例えば特許文献7と8の図によれば基板は透明であることが求められており、実際、ポリエチレンナフタレートは透明であるといえるが、液晶ポリマーは固体状態では半透明または不透明である。よって、特にカラーフィルタに関する技術であり、基板が透明であることが不可欠である特許文献7の発明では、液晶ポリマーは用いることができない。また、特許文献7と8では液晶ポリマーは熱硬化性樹脂の一例として挙げられているが、液晶ポリマーは典型的な熱可塑性樹脂である。これらの点からも、特許文献7と8において液晶ポリマーは単なる例示として記載されたのみであり、全く検討されていないことは明らかである。
【特許文献1】特開2006−82241号公報
【特許文献2】特開2006−299145号公報
【特許文献3】特開2006−281505号公報
【特許文献4】特開2005−324469号公報
【特許文献5】特開2001−357973号公報
【特許文献6】特開2005−203728号公報
【特許文献7】特開2006−7624号公報
【特許文献8】特開2006−44231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した様に、有機EL素子をフレキシブル化したり軽量化するために、基板材料として高分子を用いる技術は知られていた。また、有機EL素子における有機EL層の寿命を延ばすためにガスバリア層などを設ける技術もあった。
【0012】
しかし、有機EL素子には極めて高い耐久性が求められるようになってきている。よって、有機EL素子の構成要素の中でも比較的厚い基板にガスバリア性をもたせることで空気や酸素の浸入を抑制することが望ましい。また、有機EL素子を大画面ディスプレイ装置に適用するに当っては高い寸法安定性が求められる。
【0013】
そこで本発明が解決すべき課題は、フレキシブル性を有しながらも十分なガスバリア性を示す上に、高い寸法安定性を有する有機EL素子を提供することにある。また、本発明は、同様の特性を有する有機ELディスプレイ装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく基板材料としてガスバリア性と寸法安定性の高い材料を探索した。その結果、液晶ポリマーは極めて高いガスバリア性と寸法安定性を示すことから有機EL素子の基板材料として優れることを見出して本発明を完成した。
【0015】
本発明の有機EL素子は、少なくとも基板、1対の電極、および有機EL層を有し;当該基板が液晶ポリマーフィルムよりなることを特徴とする。
【0016】
本発明の有機EL素子としては、基板の少なくとも片面にガスバリア層を有するものも好適である。ガスバリア性がより高まり、有機EL層に対する悪影響をより一層低減できる。
【0017】
また、本発明のディスプレイ装置は、本発明の有機EL素子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の有機EL素子は、基板材料として液晶ポリマーを用いていることからフレキシブル性を持ちながら十分なガスバリア性を共有するので長寿命である。また、高い寸法安定性を有するので大画面の有機ELディスプレイ装置にも適用可能である。よって本発明は、有機ELディスプレイ装置の実用化に寄与できるものとして産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の有機EL素子は、少なくとも基板、1対の電極、および有機EL層を有し;当該基板が液晶ポリマーフィルムよりなることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る有機EL素子の基板の材料である液晶ポリマーは、耐熱性の熱可塑性樹脂であり、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーと溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーとがある。本発明で用いる液晶ポリマーとしてはサーモトロピック液晶ポリマーが好適であり、より具体的にはサーモトロピック液晶ポリエステルやサーモトロピック液晶ポリエステルアミドが好ましい。
【0021】
サーモトロピック液晶ポリエステル(以下、単に「液晶ポリエステル」という)とは、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールや芳香族ヒドロキシカルボン酸などのモノマーを主体として合成される芳香族ポリエステルであって、溶融時に液晶性を示すものである。その代表的なものとしては、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)とテレフタル酸と4,4’−ビフェノールから合成されるI型[下式(1)]、PHBと2,6−ヒドロキシナフトエ酸から合成されるII型[下式(2)]、PHBとテレフタル酸とエチレングリコールから合成されるIII型[下式(3)]が挙げられる。
【0022】
【化1】

【0023】
本発明に係る液晶ポリマー樹脂としては、液晶性(特にサーモトロピック液晶性)を示すものであれば、例えば、上記(1)〜(3)式に示すユニットを主体(例えば、液晶ポリマーの全構成ユニット中50モル%以上)とし、他のユニットも有する共重合タイプのポリマーであってもよい。他のユニットとしては、例えばエーテル結合を有するユニット、イミド結合を有するユニット、アミド結合を有するユニットなどが挙げられる。本発明において特に好適な液晶ポリエステルからなるフィルムとしては、例えばジャパンゴアテックス社製の「BIAC(登録商標)」を挙げることができる。
【0024】
液晶ポリエステルアミドとしては、他のユニットとしてアミド結合を有する上記液晶ポリエステルが該当し、例えば下式(4)の構造を有するものが挙げられる。例えば、式(4)中、sのユニット、tのユニットおよびuのユニットのモル比が、70/15/15のものが知られている。
【0025】
【化2】

【0026】
基板材料である液晶ポリマーとしては、上記液晶ポリマーを含むポリマーアロイを用いてもよい。この場合、液晶ポリマーと混合または化学結合させるアロイ用ポリマーとしては、融点が220℃以上、好ましくは280〜360℃のポリマーがある。例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレートなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。液晶ポリマーと上記アロイ用ポリマーの混合割合は特に制限されないが、例えば質量比で10:90〜90:10であることが好ましく、30:70〜70:30であることがより好ましい。液晶ポリマーを含むポリマーアロイも液晶ポリマーによる優れた特性を保有し得る。
【0027】
本発明では以上で説明した液晶ポリマーを材料としてフィルムを形成し、基板とする。液晶ポリマーフィルムの厚さとしては10〜2000μm程度が好ましい。薄過ぎると強度やガスバリア性が不足する可能性がある一方で、厚過ぎるとフィルム化が困難となり得る。なお、平面形状や大きさは最終製品である液晶ディスプレイ装置などに合わせて決定すればよい。
【0028】
液晶ポリマーフィルムの表面粗度については、レーザー顕微鏡を用いて測定した場合の三次元中心面平均粗さ(SRa)が50nm以下であることが好ましく、より好ましくは25nm以下がよい。フィルム上に形成される電極や有機EL層の厚みが10〜100nm程度と極めて薄いため、粗度が50nmより大きいと微細な領域での短絡が生じて発光効率が低くなるおそれがある。それに対して、当該粗度が高い場合であっても、有機EL層の厚さを厚くすれば発光効率は維持できる。しかしそれでは有機EL素子が重くなるのみならず、有機EL層の抵抗が高まるために印加電圧を上げる必要が生じ、絶縁破壊の問題が生じる上に発熱量が多くなって有機EL層が劣化してしまう。しかし当該粗度が50nm以下であれば、有機EL層の厚さを適度なものとした場合でも発光効率の低下を十分に抑制することができ、有機EL素子の寿命も保つことができる。
【0029】
本発明における液晶ポリマーフィルムの表面粗度は、三次元中心面平均粗さ(SRa)をいうものとする。三次元中心面平均粗さは平面方向における凹凸をより正確に表すことができる。
【0030】
当該表面粗度は、以下の方法により測定することができる。例えばオリンパス製のOLS3000などのレーザー顕微鏡を使用し、レーザー種としてλ=408±5nmの半導体レーザーを用い、Z方向の移動分解能を0.01μmに設定して、192μm×256μmの範囲におけるZ方向の粗さを0.1μmピッチで50倍の共焦点モードで測定し、その平均値を求めるものとする。
【0031】
液晶ポリマーフィルムの表面粗度を小さくするには、熱プレス装置を用いて表面平滑化処理をすることが好ましい。例えば、離型材として少なくとも片面を鏡面加工した金属板やポリイミドなど、平滑性、耐熱性および離型性を有する高分子フィルムや板状物で液晶ポリマーフィルムを挟み、加熱加圧処理すればよい。その際の温度は、液晶ポリマーが十分に軟化はするがその融点未満とする。また、圧力は液晶ポリマーの種類や加熱温度などにもよるが、通常は1〜10MPa程度とする。熱プレス装置の種類は特に制限されず、一般的な平板プレス機の他に、熱ロール間で連続的に加圧することもできる。上記の方法以外にも、研磨による平坦化や、別途液晶ポリマーや他のポリマー材料の溶液のコーティングによる平滑層の形成などの公知方法も用い得る。
【0032】
上記液晶ポリマーフィルムではフィルム平面に平行な方向の線膨張係数が30ppm/℃以下に調整されていることが好ましい。より好ましくは25ppm/℃以下である。また、液晶ポリマーフィルムの上記線膨張係数の下限は5ppm/℃であることが望ましい。かかる範囲の線膨張係数を有する液晶ポリマーフィルムであれば、金属等からなる電極やガスバリア層との線膨張係数の差が小さいため、熱履歴を受けた場合などに発生する反りが低減されるからである。例えば金属層が接する場合には液晶ポリマーフィルムの線膨張係数を5〜20ppm/℃程度とし、有機層と接する場合には20〜30ppm/℃とすることが好ましい。
【0033】
液晶ポリマーフィルムの線膨張係数は、機器分析(TMA)法により測定することができる。より具体的には、例えば試験片幅:4.5mm、チャック間距離:15mm、荷重:1gとし、昇温速度:5℃/分で室温から200℃まで昇温後に降温速度:5℃/分で冷却する際に、160℃から25℃の間で測定される試験片の寸法変化から求める。液晶ポリマーフィルムのMD方向(フィルム製造時の走行方向)およびTD方向(MD方向に直交する方向)の線膨張係数のいずれもが上記範囲を満足することが好ましい。
【0034】
なお、液晶ポリマーフィルムの線膨張係数は、分子配向を制御することにより調節することができる。また、フィラーの添加などにより調節してもよい。但しフィラーは液晶ポリマーフィルムの表面平滑性に悪影響を与える場合があるので、線膨張係数は好適には延伸条件により調整する。
【0035】
本発明基板の少なくとも片面にはガスバリア性をより一層高めるためにガスバリア層を設けてもよい。かかるガスバリア層の材料としては、Al、Cr、Ni、Cu、Zn、Si、Fe、Ti、Ag、Au、Co;これら金属の酸化物;これら金属の窒化物;これら金属の酸化窒化物を挙げることができ、これらから1種を選択して用いるか、2種以上を選択し混合して用いることができる。
【0036】
ガスバリア層の厚さは、通常5〜1000nm程度とする。5nm未満であるとガスバリア性が十分に発揮できないおそれがある一方で、1000nmを超えるとコスト高や素子が重くなるといった問題が生じ得る。
【0037】
ガスバリア層の形成方法は特に制限されず、一般的な公知方法を用いることができる。例えば、ドライプロセスとしては真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の各種PVD法と、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVD等の各種CVD法、ウエットプロセスとしてはゾル−ゲル法、めっき法、塗布法等を挙げることができる。
【0038】
ガスバリア層は基板の片面または両面に形成することができる。ガスバリア層を片面に設ける場合、通常は後述する電極層と反対側にガスバリア層を形成する。但し、ガスバリア層を電極と同じ側に設けてもよい。例えば、基板上に形成した金属ガスバリア層をグラウンド電極として兼用してもよいし、また、当該ガスバリア層を部分的に金属酸化物とし、残留した金属部分を回路として利用してもよい。
【0039】
有機EL素子をテレビやパソコンのディスプレイなどで使用する場合には、例えば30000時間といった長寿命が必要となる。よって、ガスや水分といった有機EL層の劣化因子を素子中に侵入させないことが重要であるが、従来の高分子フィルムのガスバリア性が十分ではなかった。一方、本発明における基板材料である液晶ポリマーフィルムのガスバリア性は極めて高い。従って、本発明に係る液晶ポリマー基板にガスバリア層を形成してガスバリア性をより一層高めることにより、本発明の有機EL素子のテレビなどへの適用が可能になり得る。
【0040】
基板上に形成した回路の上にはTFTなどのトランジスタを搭載してもよい。有機ELディスプレイにはパッシブマトリクスとアクティブマトリクスの2つの駆動方式がある。パッシブマトリクスは有機EL素子をコラム(列)とロウ(行)に分けて、端部のトランジスタから各コラムまたは各ロウ毎にバイアス電圧を印加して発光させるものであり、素子ごとにトランジスタを搭載する必要はない。一方、アクティブマトリクスは有機EL素子ごとにトランジスタを有する。アクティブマトリクスはレスポンス時間が短く解像度も高いことから動画ディスプレイに向いており、本発明の有機EL素子も好適にはアクティブマトリクスに適用する。よって、本発明の有機EL素子では、基板上の電極にトランジスタを搭載する場合が多い。
【0041】
本発明に係る有機EL素子の一態様を示す図1の通り、上記基板上には少なくとも1対の電極と有機EL層を設ける。
【0042】
基板上に形成したトランジスタ上または基板上の電極は透明電極にしてもよいが、透明である必要はないので一般的にはAlやCu等の金属、或いは金属やカーボン等の導電物質を含んだ導電ペーストにより形成すればよい。或いは前述したように、ガスバリア層を電極として用いてもよい。
【0043】
電極の形成方法は特に制限されず、蒸着、スパッタリング、めっき、塗布、印刷など公知の形成方法を用いればよい。また、電極の厚さも特に制限されないが、一般的には50〜1000μm程度とすることができる。或いは、基板上に形成したトランジスタのドレイン電極をそのまま有機EL素子の電極として利用し、トランジスタと有機EL層が隣接するようにしてもよい。
【0044】
1対の電極間には有機EL層を設ける。この有機EL層は、正孔輸送層、発光層および電子輸送層からなり、それぞれ公知の材料を用いることができる。例えば低分子型の場合は、電子輸送層材料としてAlq3(トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム)など、正孔輸送層材料としてはNPB(N,N−ジナフタレン−N,N−ジフェニルベンジデン)など、発光層材料としてはAlq3やDPVBi(4,4’−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル誘導体)をホスト材としてクマリン6やDCJTB(4−(ジシアノメチレン)−2−t−ブチル−6−(1,1,7,7−テトラメチルジュロリジル−9−エニル)−4H−ピラン)などのドーピング材を加えたもの等が用いられる。高分子型では、正孔注入層材料としてスルフォン酸がドープされたポリジオキシエチレン等、発光層材料および電子輸送層材料としてポリパラフェニレンビニレン系材料やポリフルオレン系材料等が挙げられる。
【0045】
これら有機EL層の形成方法は特に制限されず、一般的な公知方法と用いることができる。例えば低分子型の場合は蒸着法、高分子型の場合は各材料の溶液を用いた印刷法により各層を形成することができる。
【0046】
有機EL層における各層の厚さは一般的なものとすることができる。例えば正孔輸送層は5〜10nm程度、発光層は5〜100nm程度、電子輸送層は5〜100nm程度とすることができる。なお、材料によっては例えば発光層と電子輸送層の両方を兼ねることができる。その様な場合の層厚は5〜100nm程度とすることができる。
【0047】
本発明の基板材料である液晶ポリマーは固体状態で不透明または半透明であるので、本発明の有機EL素子は基板から有機EL層の方向へ光が発せられるトップエミッションタイプである必要がある。よって、1対の電極のうち少なくとも有機EL層を挟んで基板と反対側の電極は透明にする必要がある。透明性が求められる光取り出し側の電極は、酸化インジウム+酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム+酸化亜鉛など透明導電物質により形成すればよい。
【0048】
当該電極の形成方法は他方の電極と同様とすればよく、また、電極の厚さも特に制限されないが、一般的には50〜1000μm程度とすることができる。
【0049】
液晶ポリマー基板上に1対の電極と有機EL層を形成した後は、これら電極と有機EL層を封止層で被覆する。当該封止層の材料としては公知のものを使用でき、例えばガラスや透明性を有したポリマー等が好適に用いられる。フレキシブル性や軽量性を求める場合は透明性を有したポリマーを用いればよいが、十分なガスバリア性を持った透明ポリマー材料は存在しないので、透明性を有する金属酸化物、金属窒化物、金属窒化酸化物等を用いてもよい。
【0050】
封止層の形成方法としては、例えば光取りだし面側の電極上にフィルムまたは板状の透明封止材を積層し、周辺部を接着剤で固定したり熱融着するなど公知の接着方法を用いて封止すればよい。また、光取りだし面側に、蒸着、スパッタリング、めっき、塗布、印刷等の公知の形成方法で薄膜を形成して封止層としてもよい。必要であれば、さらに透明な樹脂、無機物等で保護層を形成しても良い。
【0051】
本発明の有機EL素子をフルカラーディスプレイに適用する場合は、RGBの三原色により素子を形成するか、或いは白色素子上に三原色のカラーフィルターを積層する構造にしてもよい。また、図1では基板上に1組の電極と1個の有機EL層のみが形成されているが、これはあくまで模式図であって、実際には1枚の基板上に画素数に応じた駆動回路をアレイ状に形成し、各ピクセル上に電極や有機EL層を形成する。
【0052】
有機EL素子または有機ELディスプレイ装置の製造工程においては、200℃以上の熱履歴を受ける場合がある。よって、かかる熱履歴により基板が変形してしまうと歩留が低下するため、基板には十分な寸法安定性が求められる。本発明に係る有機EL素子の基板の材料は液晶ポリマーであり、熱に対する耐性が非常に高いことから、本発明に係る有機EL素子の基板は十分な寸法安定性を有する。
【0053】
本発明の有機EL素子における液晶ポリマー基板は優れたガスバリア性を有することから、特に有機EL層の保護作用に優れ、長寿命である。従って、本発明の有機EL素子を用いたディスプレイ装置も、同じく長寿命である。
【0054】
本発明の有機EL素子を用いたディスプレイ装置は、公知技術に従って構成することができる。例えば、液晶ポリマーからなる基板上に画素数に応じた駆動回路をアレイ状に形成し、各ピクセル上に電極や有機EL層を形成した上で封止する。さらに駆動形式により各ピクセルごと或いはカラム(列)およびロウ(行)ごとにトランジスタを形成する。上述したように、フルカラーディスプレイとする場合はRGBの三原色により素子を形成するか、或いは白色素子上に三原色のカラーフィルターを積層すればよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0056】
実施例1 本発明に係る有機EL素子の製造
縦100mm×横100mm×厚さ125μmの液晶ポリマーフィルム(ジャパンゴアテックス製、BIAC BC125)の上下を、離型フィルムとして十分に大きな20μm厚ポリイミドフィルム(宇部興産製、ユーピレックス20S)で挟み、真空熱プレス装置を用いて290℃、3MPaの条件で5分間加熱加圧することによって、表面平滑化処理を行った。得られた表面平滑化液晶ポリマーフィルムの粗度(Ra)をレーザー顕微鏡(オリンパス製、OLS3000)により測定した。具体的には、レーザー種としてλ=408±5nmの半導体レーザーを用い、Z方向の移動分解能を0.01μmに設定して、192μm×256μmの範囲におけるZ方向の粗さを0.1μmピッチで50倍の共焦点モードで測定した。その結果、粗度(Ra)は20nmであった。
【0057】
また、上記液晶ポリマーフィルムの線膨張係数を以下の通り測定した。即ち、液晶ポリマーフィルムを幅4.5mmに切り取り、チャック間距離:15mmで装置(TAインストロメンツ製、TMA2940)に固定し、荷重:1g、昇温速度:5℃/分で室温から200℃まで昇温後に降温速度:5℃/分で冷却する際に、160℃から25℃の間で測定される試験片の寸法変化を測定した。その結果、TD方向の線膨張係数は16ppm/℃、MD方向の線膨張係数は16ppm/℃であった。
【0058】
上記表面平滑化液晶ポリマーフィルムを32mm×25mmに切断した。その片面に、蒸着法で縦幅2mm×横長さ30mm×厚さ200μmのアルミニウム薄膜層を形成し、陰極とした。当該陰極上へ同じく蒸着法で厚さ40μmのAlq3(トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム)層を形成して発光層兼電子輸送層とし、さらに蒸着法で厚さ40μmのNPB(N,N−ジナフタレン−N,N−ジフェニルベンジデン)層を形成して正孔輸送層とした。さらに、ECRスパッタ装置を用いて当該正孔輸送層上に長さ25mm×幅2mm×厚さ40μmで陰極と直交するようにIZO(酸化インジウム+酸化亜鉛)層を形成して陽極とした。当該陽極の上に縦32mm×横25mm×厚さ1mmのガラスを積層し、UV硬化樹脂で液晶ポリマーフィルムと封止ガラスの外周部を接着して封止した。
【0059】
実施例2 本発明に係る有機EL素子の製造
平滑化処理した液晶ポリマーフィルムの片面にガスバリア層として20nm厚のアルミニウム薄膜を形成し、当該薄膜上に陰極〜陽極を積層した以外は実施例1と同様にして、本発明に係る有機EL素子を製造した。
【0060】
比較例1
液晶ポリマーフィルムの代わりに縦32mm×横25mm×厚さ125μmのポリイミドフィルム(宇部興産製、ユーピレックス125S)を用い、当該ポリイミドフィルムに表面平滑化処理を施さなかった以外は実施例1と同様にして、有機EL素子を製造した。当該ポリイミドフィルムの粗度を実施例1と同様に測定したところ18nmであった。
【0061】
比較例2
ポリイミドフィルムの陰極と反対側の面に、実施例2と同様の方法でガスバリア層であるアルミニウム薄膜を形成した以外は比較例1と同様にして、有機EL素子を製造した。
【0062】
試験例1 透湿度の測定
JIS K7129Bで定められた等圧法(MOCON法)に従い、ガスとしてO2ガスを用いて各有機EL素子の透湿度を求めた。結果を表1に示す。なお、表1中の「LCP」は液晶ポリマーを示し、「PI」はポリイミドを示す。
【0063】
試験例2 発光寿命
上記有機EL素子へ速度0.5V/秒で電圧を上げながら0Vから20Vまで電圧を付加し、発光による輝度を有機EL発光効率測定装置(プレサイスゲージ製、EL1003)により連続的に測定した。次に、輝度が1000cd/cm2となった電圧を各有機EL素子へ印加し続け、輝度が1000cd/cm2を維持できなくなった時間を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
上記結果の通り、ポリイミドのガスバリア性は低く、ポリイミドフィルムを基板として用いた有機EL素子の発光寿命は短く、実用にはほど遠いレベルである。
【0066】
それに対して液晶ポリマーのガスバリア性は極めて高い。よって、液晶ポリマーフィルムを基板として用いた有機EL素子の発光寿命は顕著に向上している。特に、液晶ポリマーフィルムへさらにガスバリア層を設けた実施例2では、発光寿命は3,000時間を超えている。この結果は、常時点灯が必要なディスプレイ装置へも十分に適応可能なレベルである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の有機EL素子の一態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0068】
1:液晶ポリマー基板、 2:ガスバリア層、 3:電極、 4:有機EL層、 5:透明電極、 6:封止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基板、1対の電極および有機エレクトロルミネッセンス層を有し;
当該基板が液晶ポリマーフィルムよりなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
基板の少なくとも片面にガスバリア層を有する請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を含むディスプレイ装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−32464(P2009−32464A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193816(P2007−193816)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】