説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法および有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】低駆動電圧・長発光寿命を維持したまま生産性を改善する。
【解決手段】陽極、陰極および有機機能層が基板上に形成され、前記有機機能層が前記陽極と前記陰極との間に介在しかつ発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法が開示されている。当該製造方法は、塗布装置203b1などを用いて前記基板上に前記有機機能層を構成する所定の塗布液を塗布する工程と、活性エネルギー線照射装置310などを用いて塗布後の塗布層に活性エネルギー線を照射する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。詳しくは、ウェットプロセスによる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、低電圧駆動が可能で寿命の改善された有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光型の電子ディスプレイデバイスとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、ELDと略記する)がある。ELDの構成要素としては、無機エレクトロルミネッセンス素子(以下、無機EL素子ともいう)や有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)が挙げられる。無機EL素子は平面型光源として使用されてきたが、発光素子を駆動させるためには交流の高電圧が必要である。
【0003】
一方、有機エレクトロルミネッセンス素子は、発光する化合物を含有する発光層を、陰極と陽極で挟んだ構成を有し、発光層に電子及び正孔を注入して、再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、このエキシトンが失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用して発光する素子であり、数V〜数十V程度の電圧で発光が可能であり、更に自己発光型であるために視野角に富み、視認性が高く、薄膜型の完全固体素子であるために省スペース、携帯性等の観点から注目されている。
【0004】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、従来実用に供されてきた主要な光源、例えば、発光ダイオードや冷陰極管と異なり、面光源であることも大きな特徴となっている。この特性を有効に活用できる用途として、照明用光源や様々なディスプレイのバックライトがある。特に近年、需要の増加が著しい液晶フルカラーディスプレイのバックライトとして用いることも好適である。
【0005】
有機エレクトロルミネッセンス素子をこのような照明用光源、あるいはディスプレイのバックライトとして実用する為の課題として発光効率の向上が挙げられる。発光効率の向上の為には、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する有機機能層の一部においてそれぞれ別個の機能を有する材料を複数混合して構成する所謂ホスト/ゲスト構造を組み入れることが一般的となりつつある。例えば、発光層におけるホスト材料/発光ドーパントの組み合わせ、電子輸送層における電子輸送材料/アルカリ金属材料の組み合わせ等が挙げられる。
【0006】
一方、これら有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法としては、蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、スプレー法、印刷法)等があるが、真空プロセスを必要とせず、連続生産が簡便であるという理由で近年はウェットプロセスにおける製造方法が注目されている。
【0007】
しかしながら、ウェットプロセスにおける製造の場合、塗膜中に溶媒が残留しやすく、残留した溶媒の影響で素子性能、特に発光寿命を劣化させる場合がある。塗膜中に残留する溶媒を除去する為には、塗膜を加熱乾燥することが常套である。しかし、加熱乾燥時の温度は、使用する材料の劣化や塗膜の構造変化に伴う性能劣化を起こさない範囲に限定される。とりわけ、材料のガラス転移点を越える温度で加熱乾燥すると塗膜の構造変化や積層界面における混合を生じやすく、性能劣化を起こしやすい。したがって、性能劣化を引き起こすような高温で短時間の加熱乾燥をすることができず、加熱乾燥に時間がかかり、生産性が上がらないという問題もある。
【0008】
これに対し、特許文献1の技術によれば、発光層を構成する材料をバブリング法で脱酸素し、その構成材料の酸素濃度および水分濃度を制御し、発光寿命の低下を防止している(段落0029〜0043など参照)。
特許文献2の技術によれば、発光層を構成する材料(液状体)を塗布した後に、この液状体を2段階で減圧して乾燥させ、発光層の厚みや形状のばらつきを抑えようとしている(段落0070〜0076や図7など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−146865号公報
【特許文献2】特開2010−80167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の技術による条件では、発光層の構成材料中から溶媒を十分に除去するとは考え難い。さらには特許文献1の技術では、段落0047の記載などから、処理温度100℃、処理時間60minの条件で脱溶媒しており生産性に優れているともいえない。
特許文献2の技術でも、真空乾燥装置を用いているため、圧力の変動だけでは、発光層の構成材料中から溶媒を十分に除去することができないと考えられる。
したがって、本発明の主な目的は、安易な加熱乾燥によっても有機機能層の溶媒を除去可能とし、低駆動電圧・長発光寿命を維持したまま生産性を改善することができる有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
陽極、陰極および有機機能層が基板上に形成され、前記有機機能層が前記陽極と前記陰極との間に介在しかつ発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記基板上に前記有機機能層を構成する所定の塗布液を塗布する工程と、
塗布後の塗布層に活性エネルギー線を照射する工程と、
を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の他の態様によれば、上記有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法で製造された有機エレクトロルミネッセンス素子が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、活性エネルギー線の照射により、有機機能層の溶媒の除去を促進することができ、低駆動電圧・長発光寿命を維持したまま生産性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】照明用に使用する有機ELパネルの一例を示す概略図である。
【図2】図1に示す有機ELパネルを、帯状の可撓性基板を使用して製造する製造工程の一例を示す模式図である。
【図3】図2に示す供給工程と、第1電極及び第2電極用取り出し電極形成工程までの模式図である。
【図4】図2に示す正孔輸送層形成工程の模式図である。
【図5】図2に示す発光層形成工程および電子輸送層形成工程の一部の模式図である。
【図6】図2に示す陰極バッファ層(電子注入層)形成工程以降の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を図1〜図6を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本発明の塗布方法を有機エレクトロルミネッセンスパネル(以下、有機ELパネルとも云う)を製造する時の有機化合物層の塗布に適用した場合に付き説明する。
【0016】
有機ELパネルは透明基板上にITO(Indium tin oxide)等の透明導電膜からなる陽極が設けられ、その上に発光層や電子輸送層などを含む有機機能層、及び陽極と交差して成膜されたアルミニウム等からなる陰極がこの順に設けられることにより構成されたものである。例えば発光層は蛍光性有機化合物の非常に薄い層となっている。通常、有機物は絶縁体であるが有機層の膜厚を非常に薄くすることにより電流注入が可能となり有機EL素子として10V以下の低電圧で駆動することが可能となる。有機ELパネルは蛍光性有機化合物の非常に薄い薄膜を陽極と陰極ではさみ電流を流すことで発光する電流駆動型発光素子であり、近年、フラットディスプレイなどの表示装置や、電子写真複写機、プリンターなどの光源への使用が検討されている。
【0017】
図1は照明用に使用する有機ELパネルの一例を示す概略図である。図1(a)は有機ELパネルの一例を示す概略斜視図を示す。図1(b)は図1(a)のA−A’に沿った概略断面図である。
【0018】
図1に示すとおり、有機ELパネル1は、可撓性基板101上に順次、陽極(第1電極)102と、正孔輸送層103と、発光層104と、電子輸送層105と、陰極バッファ層(電子注入層)106と、陰極(第2電極)107と、接着剤層108と、封止部材109とを有している。陽極102と陰極107との間に形成された正孔輸送層103、発光層104、電子輸送層105および陰極バッファ層106により有機機能層が構成されている。有機機能層は少なくとも発光層104を含むものであれば構成可能となっている。接着剤層108と、封止部材109とにより封止層を形成している。
有機ELパネル1は、陽極(第1電極)102の取り出し電極102aと、陰極(第2電極)107用の取り出し電極107aの端部を除いて接着剤層108により封止された密着封止構造となっている。陽極(第1電極)102と可撓性基板101との間にガスバリア膜(不図示)を設けても構わない。本発明では第2電極107の上を接着剤層108を介して封止部材109で封止された状態を有機ELパネルと云い、第2電極までが形成された状態を有機EL素子と云う。
【0019】
本図に示す有機ELパネルの層構成は一例を示したものであるが、陽極(第1電極)と陰極(第2電極)との間の他の代表的な層構成としては次の(i)〜(v)の構成が挙げられる。有機ELパネルを構成している各層については後に説明する。
【0020】
(i)陽極(第1電極)/発光層/陰極(第2電極)
(ii)陽極(第1電極)/発光層/電子輸送層/陰極(第2電極)
(iii)陽極(第1電極)/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極(第2電極)
(iv)陽極(第1電極)/正孔輸送層(正孔注入層)/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファ層(電子注入層)/陰極(第2電極)
(v)陽極(第1電極)/陽極バッファ層(正孔注入層)/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファ層(電子注入層)/陰極(第2電極)
【0021】
図2は図1に示す有機ELパネルを、帯状の可撓性基板を使用して製造する製造工程の一例を示す模式図である。
【0022】
図2に示すとおり、有機ELパネルの製造工程2は、帯状の可撓性基板の供給工程201と、第1電極形成工程202と、正孔輸送層形成工程203と、発光層形成工程204と、電子輸送層形成工程205と、陰極バッファ層(電子注入層)形成工程206と、第2電極形成工程207と、封止工程208と、回収工程209とを有している。
尚、回収工程209としては複数の有機ELパネルを有した帯状の可撓性基板から、個別の有機ELパネルを得る断裁装置を用いても構わないし、複数の有機ELパネルを有した帯状の可撓性基板をロール状に巻き取る巻き取り装置を用いてもよい。巻き取り装置を用いた場合、一旦、ロール状に巻き取り回収した後、別の工程で帯状の可撓性基板上に作製されている複数の有機ELパネルを個の有機ELパネルとして断裁しても構わない。
【0023】
図2に示す様にロール状に巻いた帯状の可撓性基板を使用し、第1電極形成工程202〜封止工程208を順次経て、有機ELパネルを作製する方式を「ロールツーロール方式」と云う。ロールツーロール方式とは、端的には、帯状の可撓性基板を搬送しながらその可撓性基板上に陽極や有機機能層、陰極などを順次連続的に形成する製造方式である。
【0024】
尚、図2は供給工程201〜回収工程209を連続した場合を示しているが、工程全体が長くなり、設置が困難となる場合は適宜工程を分断し、帯状の可撓性基板をロール状に巻き取り保管し、再度次の工程に帯状の可撓性基板をロール状で供給する様にしても構わない。各工程については図3〜図6で説明する。
【0025】
図3は図2に示す供給工程と、第1電極及び第2電極用取り出し電極形成工程までの模式図である。
【0026】
供給工程201では、ロール状で帯状の可撓性基板301を繰り出す繰り出し装置(不図示)用いており、連続的に、次工程の第1電極及び第2電極用取り出し電極形成工程202に帯状の可撓性基板3を、搬送ローラー201bを介して繰り出す様になっている。帯状の可撓性基板3には予め第1電極及び第2電極用取り出し電極を形成する位置を決めるためのアライメントマーク(不図示)を付けておくことが好ましい。
【0027】
第1電極及び第2電極用取り出し電極形成工程202では、第1電極形成装置(第2電極用取り出し電極形成装置も兼ねる)202aと、第1アキュームレータ202bと、第2アキュームレータ202cと、巻き取り装置202dとを使用している。第1電極形成装置(第2電極用取り出し電極形成装置も兼ねる)202aは蒸発源容器202a2を有する蒸着装置202a1を有している。
【0028】
第1アキュームレータ202bは下側の複数の搬送ローラー202b1と上側の複数の搬送ローラー202b2とを有し、供給工程201との速度調整のために配設されている。第2アキュームレータ202cは下側の複数の搬送ローラー202c1と上側の複数の搬送ローラー202c2とを有し、巻き取り装置202dによる速度調整のために配設されている。
【0029】
第1電極形成工程202では、供給工程201から連続的に供給されてくる帯状の可撓性基板3に付けられているアライメントマーク(不図示)を検出装置(不図示)で読み取り、検出装置(不図示)の情報に従って第1電極形成装置(第2電極用取り出し電極形成装置も兼ねる)202aで決められた位置に取り出し電極を有する第1電極(不図示、図1の第1電極102に相当する)及び第2電極用取り出し電極(不図示、図1の第2電極用の取り出し電極107aに相当する)をマスクパターン成膜する。
尚、形成する第1電極及び第2電極用取り出し電極の数は、帯状の可撓性基板の幅、作製する有機ELパネルの大きさ等から適宜決めることが可能である。第1電極及び第2電極用取り出し電極の厚さは、100nm〜200nmが好ましい。
第1電極及び第2電極用取り出し電極が形成された後は巻き取り装置202dにより搬送ローラー202d1を介して第1電極及び第2電極用取り出し電極までが積層された帯状の可撓性基板を一旦巻き取り一次保管することが好ましい。一次保管した後、正孔輸送層形成工程203(図2、図4参照)に送られる。
尚、巻き取り、保管しない場合は連続して正孔輸送層形成工程203(図2、図4参照)に送られる。
【0030】
供給工程201と第1電極正形成工程(第2電極用取り出し電極形成装置も兼ねる)202とは真空環境下で行うことが好ましい。
尚、図3では第1電極形成工程(第2電極用取り出し電極形成装置も兼ねる)を蒸着法で形成する場合を示してあるが、形成方法については、特に限定はなく、例えばスパッタリング法などを用いることが出来る。
【0031】
図4は図2に示す正孔輸送層形成工程の模式図である。
【0032】
正孔輸送層形成工程203は、繰り出し部203aと、塗布部203bと、乾燥部203cと、パターン形成部203dと、巻き取り部203eとを有している。正孔輸送層形成工程203では、第1電極までが形成された帯状の可撓性基板3の第1電極及び第2電極用取り出し電極の上を含め全面に正孔輸送層形成用塗布液が塗布され、乾燥部203c、パターン形成工程203dを経てパターン化した正孔輸送層(不図示、図1の正孔輸送層103に相当する)を形成した後、一旦巻き取り、保管することが可能となっている。又、引き続き発光層形成工程204(図2参照)に搬送しても構わない。図4の正孔輸送層形成工程203は大気圧環境下に配設されている。
【0033】
繰り出し部203aでは、第1電極及び第2電極用取り出し電極までが既に形成され、巻き芯に巻き取られたロール状に巻かれた帯状の可撓性基板3が搬送ローラー203a1を介して供給される様になっている。繰り出し部203aと塗布部203bとの間には必要に応じてアキュームレータ203a2と帯電防止手段203a3とを配設することが可能である。
アキュームレータ203a2は下側の複数の搬送ローラー203a21と上側の複数の搬送ローラー203a22とを有し、塗布部203bでの速度調整のために配設されている。
帯電防止手段203a3は、非接触式帯電防止装置203a31と接触式帯電防止装置203a32とを有している。
【0034】
非接触式帯電防止装置203a31としては例えば、非接触式のイオナイザーが挙げられる。イオナイザーの種類については特に制限はなく、イオン発生方式はAC方式、DC方式どちらでも構わない。ACタイプ、ダブルDCタイプ、パルスACタイプ、軟X線タイプが用いることが出来るが、特に精密除電の観点から、ACタイプが好ましい。ACタイプの使用の際に必要となる噴射気体については、空気かN2が用いられるが、十分に純度が高められたN2で行うことが好ましい。又、インラインで行う観点より、ブロワータイプもしくはガンタイプより選ばれる。
接触式帯電防止装置203a32としては、除電ロール又はアース接続した導電性ブラシを用いて行われる。除電器としての除電ロールは、接地されており、除電された表面に回転自在に接触して表面電荷を除去する。この様な除電ロールとしては、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス等の金属製ロールの他に、カーボンブラック、金属粉、金属繊維等の導電性材料を混合した弾性のあるプラスチックやゴム製のロールが使用される。特に、帯状の可撓性基板3aとの接触をよくするため、弾性のあるものが好ましい。アース接続した導電性ブラシとは、一般には、線状に配列した導電性繊維からなるブラシ部材や線状金属製のブラシを有する除電バー又は除電糸構造のものを挙げることが出来る。除電バーについては、特に限定はないが、コロナ放電式のものが好ましく用いられ、例えば、キーエンス社製のSJ−Bが用いられる。除電糸についても、特に限定はないが、通常フレキシブルな糸状のものが好ましく用いられ、例えば、ナスロン社製の12/300×3をその一例として挙げることが出来る。
【0035】
非接触式帯電防止装置203a31は帯状の可撓性基板3の上に形成されている正孔輸送層面側に使用し、接触式帯電防止装置203a32は帯状の可撓性基板3の裏面側に使用することが好ましい。
【0036】
塗布部203bは、前計量方式の塗布装置203b1と第1電極(陽極)及び第2電極用取り出し電極が形成された帯状の可撓性基板3を保持する保持部材であるバックアップロール203b2とを用いている。バックアップロール203b2は振動手段(不図示)を有している。
前計量方式の塗布装置203b1による正孔輸送層形成用塗布液は、バックアップロール203b2を振動手段(不図示)により振動させながら、第1電極(陽極)及び第2電極用取り出し電極の上を含め、第1電極(陽極)及び第2電極用取り出し電極が形成された帯状の可撓性基板3の上、全面に非接触で塗布される。
正孔輸送層の厚さは、5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。
【0037】
図4は前計量方式の塗布装置203b1としてはエクストルージョン型コータを使用した場合を示しているが、この他に例えば、スライド型コータ、インクジェットヘッド等の塗布装置の使用が可能である。これらの前計量方式の塗布装置の使用は正孔輸送層の材料に応じて適宜選択することが可能となっている。
【0038】
乾燥部203cは乾燥装置203c1と加熱処理装置203c2とを有している。
乾燥装置203c1は、塗布後の塗布層(正孔輸送層形成用塗布液による層)に対し、少なくとも塗布前から乾燥を開始出来る様に配設され、乾燥は塗布の開始と同時に行う様になっている。
加熱処理装置203c2は乾燥装置203c1の後に連続して配設されており、乾燥装置203c1で溶媒を蒸発することで形成された正孔輸送層を帯状の可撓性基板3の裏面側から裏面伝熱方式で加熱する様になっている。加熱処理装置203c2における正孔輸送層の加熱処理条件として、正孔輸送層の平滑性向上、残留溶媒の除去、正孔輸送層の硬化等を考慮し、正孔輸送層のガラス転移温度に対して−30〜+30℃、且つ、正孔輸送層を構成している有機化合物の分解温度を超えない温度で裏面伝熱方式の熱処理を行うことが好ましい。
【0039】
パターン形成部203dは、溶媒塗布部203d1と除去部203d2とを有している。
溶媒塗布部203d1では、正孔輸送層を溶解する溶媒を塗布する塗布装置203d12を使用し、第1電極(陽極)の取り出し電極の上、第2電極用取り出し電極の上及び第1電極(陽極)の周囲の不要部分に塗布を行う。
この後、除去部203d2で塗布した溶媒及び溶媒で溶解された正孔輸送層を除去し、パターン化した正孔輸送層を形成する。
塗布装置203d12としては、インクジェットヘッドが微細な塗布が出来るから好ましい。除去部203d2での溶媒及び溶媒で溶解された正孔輸送層の除去は、吸引方式、スポンジ等の拭き取り部材による方法が挙げられる。203d13は乾燥部203cから搬送されてくる正孔輸送層が形成された可撓性基板3の載置台を示す。
【0040】
巻き取り部203eは、パターン形成部203dと巻き取り装置203e1との間には必要に応じて帯電防止手段203e2とアキュームレータ203e3とを有しており、パターン形成部203dでの処理が終了し、パターン化した正孔輸送層までが形成されている帯状の可撓性基板3が搬送ロール203e4を介して巻き取る様になっている。
帯電防止手段203e2は非接触式帯電防止装置203e21と接触式帯電防止装置203e22とを有しており、非接触式帯電防止装置203a31および接触式帯電防止装置203a32と同じものを使用することが好ましい。
アキュームレータ203e3は下側の複数の搬送ローラー203e31と上側の複数の搬送ローラー203e32とを有し、巻き取り部203eでの速度調整のために配設されている。
【0041】
発光層形成工程204および電子輸送層形成工程205(図2参照)は、図4に示す正孔輸送層形成工程203と基本的に同じ構成となっているので詳細の説明は省略し、発光層形成及び電子輸送層形成の概要と、正孔輸送層形成工程203との相違点とについて説明する。
電子輸送層形成工程205(図2参照)では電子輸送層を蒸着で形成してもよく、この場合は、図5に示す陰極バッファ層(電子注入層)形成工程と同じ構成となっていることが好ましい。
【0042】
発光層形成工程204(図2参照)では正孔輸送層までが形成されている帯状の可撓性基板3の上に前計量型塗布方式の塗布装置により形成された正孔輸送層の上全面に発光層形成用塗布液がバックアップロールに配設した振動手段により振動を付与しながら非接触で塗布される。前計量型塗布方式の塗布装置としては正孔輸送層形成用塗布液を塗布するのに使用した塗布装置と同じ塗布装置の使用が可能である。
【0043】
発光層形成工程204では、乾燥部203cの構成が相違しており、図5に示すとおり、可撓性基板3の搬送方向の塗布部203bより下流側に加熱処理装置300が設けられている。
加熱処理装置300は図4の加熱処理装置203c2と同様の構成を有しており、塗布部203bで形成された塗布層(発光層形成用塗布液による層)を帯状の可撓性基板3の裏面側から裏面伝熱方式で加熱する様になっている。加熱処理装置300における発光層の加熱処理条件として、可撓性基板の変性、発光層の平滑性向上、残留溶媒の除去、発光層の硬化等を考慮し、可撓性基板の構成材料のガラス転移温度未満でかつ有機機能層(正孔輸送層,発光層)の構成材料のガラス転移温度未満の温度で裏面伝熱方式の熱処理を行うことが好ましい。
【0044】
加熱処理装置300の内部には活性エネルギー線照射装置310(照射源)が設けられており、加熱処理装置300による加熱処理と同時に、塗布部203bで形成された塗布層(発光層形成用塗布液による層)に向けて活性エネルギー線を照射するようになっている。
活性エネルギー線の照射による場合、活性エネルギー線としては、化合物の化学結合に対してエネルギーを与え、その結合そのものやその化合物の高次構造に対して変化を与えうるエネルギー線、例えば、紫外線、X線、放射性同位元素の崩壊によるガンマ線、あるいは、電子線、イオン線、中性原子線、他の素粒子線、例えば、陽子線、中性子線、陽電子線等が挙げられる。その発生方法や照射方法は各種存在する。例えば、エネルギー線の発生源であれば、マグネトロン、LED光源、レーザ光源、金属ターゲットに高速電子線を照射するX線源、放射性同位元素の崩壊によるガンマ線源、シンクロトロン(放射光)、熱電子を高電圧で加速して得る高圧電子線源、FIB(収束イオンビーム)などがあり、照射方法も、狭い領域に収束させた活性エネルギー線を走査して広い領域に照射したり、活性エネルギー線を広い領域に拡大して同時に照射したりする方法も用いることができる。条件としては、対象となる化合物に合わせて照射線の種類や中心エネルギーを選んだり、素子構造や膜厚に合わせて、照射領域や時間を適宜選定したりする。好ましくは、変化させたい結合の結合エネルギーに合わせて線源や照射エネルギー・時間を選定する。
【0045】
光などの活性エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の活性エネルギー線の照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましい。
【0046】
活性エネルギー線の照射は連続波によるものでもパルス波によるものでもよい。
活性エネルギー線の照射は真空下でおこなわれてもよい。
活性エネルギー線の照射強度は200〜5000mJ/cmとし、好ましくは2000mJ/cmとする。照射強度が200mJ/cm未満であると塗布液中の溶媒の脱離促進の効果が得にくく、照射強度が5000mJ/cmを超えると発光層(有機機能層)に好ましくない影響を与え発光性能が劣化する傾向がある。
活性エネルギー線は好ましくは紫外線であり、当該紫外線の波長領域は好ましくは中心波長が150〜380nmである。
本実施形態では、活性エネルギー線照射装置300として紫外線ランプを使用し、当該紫外線ランプを点灯させることにより、塗布部203bで形成された発光層に向けて紫外線を照射している。
【0047】
発光層形成工程204では、塗布部203bの構成部材(塗布装置203b1やバックアップロール203b2など)や、乾燥部203cの構成部材(加熱処理装置300や活性エネルギー線照射装置310など)をグローブボックス320で被覆し、発光層形成用塗布液の塗布やそれにより形成された発光層の加熱、当該発光層への活性エネルギー線の照射を窒素雰囲気下でおこなってもよい。
乾燥部203cの構成部材(加熱処理装置300や活性エネルギー線照射装置310など)を真空チャンバーで被覆し、発光層の加熱や発光層への活性エネルギー線の照射を真空雰囲気下(100Pa以下の圧力下)でおこなってもよい。
【0048】
パターン形成部では、形成された発光層を溶解する溶媒を塗布する塗布装置(例えば、インクジェットヘッド)を使用し、第1電極(陽極)の取り出し電極の上、第2電極用取り出し電極の上及び第1電極(陽極)の周囲の不要部分に塗布を行う。この後、除去部で塗布した溶媒及び溶媒で溶解された発光層を除去し、パターン化した発光層を形成する。
【0049】
他方、電子輸送層形成工程205(図2参照)では、発光層までが形成されている帯状の可撓性基板3の上に前計量型塗布方式の塗布装置により形成された発光層の上全面に電子輸送層形成用塗布液がバックアップロールに配設した振動手段により振動を付与しながら非接触で塗布される。前計量型塗布方式の塗布装置としては正孔輸送層形成用塗布液を塗布するのに使用した塗布装置と同じ塗布装置の使用が可能である。
【0050】
電子輸送層形成工程205でも、発光層形成工程204と同様に、乾燥部203cの構成が相違しており、図5に示すとおり、可撓性基板3の搬送方向の塗布部203bより下流側に加熱処理装置400が設けられており、加熱処理装置400の内部に活性エネルギー線照射装置410が設けられている。加熱処理装置400および活性エネルギー線照射装置410の各構成やそれによる電子輸送層への各作用などは、発光層形成工程204で説明したのと同様となっている。
電子輸送層形成工程205でも、発光層形成工程204と同様に、塗布部203bや乾燥部203cの各構成部材をグローブボックス420で被覆し、電子輸送層形成用塗布液の塗布やそれにより形成された電子輸送層の加熱、当該電子輸送層への活性エネルギー線の照射を窒素雰囲気下でおこなってもよい。もちろん、乾燥部203cの構成部材(加熱処理装置400や活性エネルギー線照射装置410など)を真空チャンバーで被覆し、電子輸送層の加熱や電子輸送層への活性エネルギー線の照射を真空雰囲気下でおこなってもよい。
なお、発光層形成工程204と電子輸送層形成工程205とでは、いずれか一方の工程において、活性エネルギー線照射装置が設けられ活性エネルギー線が照射されるようにしてもよい。
【0051】
パターン形成部では、形成された電子輸送層を溶解する溶媒を塗布する塗布装置(例えば、インクジェットヘッド)を使用し、第1電極(陽極)の取り出し電極の上、第2電極用取り出し電極の上及び第1電極(陽極)の周囲の不要部分に塗布を行う。この後、除去部で塗布した溶媒及び溶媒で溶解された電子輸送層を除去し、パターン化した電子輸送層層を形成する。
【0052】
なお、電子輸送層を蒸着方式で形成する場合、電子輸送層形成工程205(図2参照)では、発光層までが形成されている帯状の可撓性基板3の上に付けられているアライメントマーク(不図示)を検出装置(不図示)で読み取り、検出装置(不図示)の情報に従って蒸着装置で決められた位置に取り出し電極を除き、既に形成されているパターン化した発光層の上に電子輸送層をマスクパターン成膜する。電子輸送層の厚さは、5nm〜50nmの範囲が好ましい。
【0053】
図6は図2に示す陰極バッファ層(電子注入層)形成工程以降の模式図である。
尚、図6では回収工程に断裁装置を用い、又、電子輸送層までが形成された帯状の可撓性基板を使用する場合を示す。
【0054】
陰極バッファ層(電子注入層)形成工程206は、ロール状に巻き取られたパターン化した電子輸送層までが形成された帯状の可撓性基板3の繰り出し部206aを有し、蒸発源容器206cを有する蒸着装置206bと、アキュームレータ206dとを用いている。
アキュームレータ206dは、下側の複数の搬送ローラー206d1と上側の複数の搬送ローラー206d2とを有し、繰り出し部206aと蒸着装置206bとの間に配設されており、繰り出し部206aと蒸着装置206bとの速度調整のために配設されている。
【0055】
陰極バッファ層(電子注入層)形成工程206では繰り出し部206aから搬送ローラー206a1を介して連続的に供給されてくる電子輸送層(不図示、図1の電子輸送層105に相当する)までが形成された帯状の可撓性基板3に付けられているアライメントマーク(不図示)を検出装置(不図示)で読み取り、検出装置(不図示)の情報に従って蒸着装置206bで決められた位置に取り出し電極を除き、既に形成されているパターン化した電子輸送層の上に陰極バッファ層(電子注入層)(不図示、図1の電子注入層107に相当する)をマスクパターン成膜する。陰極バッファ層(電子注入層)の厚さは、0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0056】
第2電極形成工程207は、蒸発源容器207bを有する蒸着装置207aとアキュームレータ207cとを用いている。アキュームレータ207cは、下側の複数の搬送ローラー207c1と上側の複数の搬送ローラー207c2とを有し、陰極バッファ層(電子注入層)形成工程206と第2電極形成工程207との間に配設されており、陰極バッファ層(電子注入層)形成工程206との速度調整のために配設されている。
【0057】
第2電極形成工程207では陰極バッファ層(電子注入層)形成工程206から連続的に供給されてくる陰極バッファ層(電子注入層)までが既に形成された帯状の可撓性基板3に付けられているアライメントマーク(不図示)を検出装置(不図示)で読み取り、検出装置(不図示)の情報に従って蒸着装置207aで決められた位置に、第2電極(陰極)用取り出し電極(不図示、図1の第2電極用取り出し電極107aに相当する)と接続する様に、及び第1電極電と交差する様に第2電極(陰極)(不図示、図1の第2電極(陰極)107に相当する)を、既に形成されている陰極バッファ層(電子注入層)(不図示、図1の陰極バッファ層(電子注入層)106に相当する)の上にマスクパターン成膜する。
【0058】
第2電極(陰極)としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。この段階で、可撓性基板/第1電極(陽極)/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極バッファ層(電子注入層)/第2電極(陰極)の構成を有する有機EL素子が出来上がる。
【0059】
図6では、陰極バッファ層(電子注入層)形成工程206と第2電極(陰極)形成工程207が蒸着装置の場合を示したが、陰極バッファ層(電子注入層)及び第2電極(陰極)の形成方法については、特に限定はなく、例えばドライ方式のスパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法などを用いることが出来る。又、陰極バッファ層(電子注入層)は湿式塗布方式を用いることも可能である。
【0060】
封止工程208は封止部材供給工程208bを有し、封止剤塗設装置208aと、貼合装置208cと、アキュームレータ208eとを用いている。
封止部材供給工程208bからは封止部材208b1が送られてくる。
アキュームレータ208eは、下側の複数の搬送ローラー208e1と上側の複数の搬送ローラー208e2とを有し、第2電極(陰極)形成工程207との速度調整のために配設されている。
【0061】
尚、封止部材208b1にも第2電極までが既に形成された帯状の可撓性基板3に付けられているアライメントマーク(不図示)と同じ位置にアライメントマーク(不図示)が付けられている。
【0062】
封止工程208では第2電極までが既に形成された帯状の可撓性基板3に付けられているアライメントマーク(不図示)を検出装置(不図示)で読み取り、検出装置(不図示)の情報に従って封止剤塗設装置208aにより、有機EL素子の上部と周囲に取り出し電極(不図示、図1の取り出し電極102a及び取り出し電極107aに相当する)を除いて塗設される。
【0063】
この後、貼合装置208cにより、封止剤が塗設され形成された複数の有機EL素子を有する帯状の可撓性基板3に付けられているアライメントマーク(不図示)と封止部材208b1のアライメントマーク(不図示)とを合わせ有機EL素子を密着封止する。この段階で有機ELパネルが作製される。
この段階で作製された有機ELパネルは複数個が連続的に繋がっているため回収工程209で個別の有機ELパネルに断裁される。
【0064】
回収工程209は断裁装置209aとアキュームレータ209bと回収箱209cとを用いている。
アキュームレータ209bは、下側の複数の搬送ローラー209b1と上側の複数の搬送ローラー209b2とを有し、封止工程208との速度調整のために配設されている。
断裁装置209aでは複数の有機ELパネルが形成されている帯状の可撓性基板3に付けられているアライメントマーク(不図示)又は封止部材208b1のアライメントマーク(不図示)を検出装置(不図示)で読み取り、検出装置(不図示)の情報に従って打ち抜き断裁が行われ個別の有機ELパネル6として回収箱209cに回収される。209dは有機ELパネルが打ち抜かれたロール状に巻かれたスケルトンを示す。断裁された有機ELパネル6は図1で示した有機ELパネルと同じ構成を有している。
【0065】
以下、本発明の塗布方法を使用した一例として挙げた有機ELパネルを構成している材料に付き説明する。
【0066】
《発光層》
本発明に係る発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0067】
発光層の膜厚は、特に制限はないが、形成する膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加するのを防止し、且つ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、2nm〜200nmの範囲に調整することが好ましく、更に好ましくは5nm以上、100nm以下の範囲に調整される。
【0068】
以下に発光層に含まれる発光ドーパント(発光ドーパント化合物ともいう)、ホスト化合物について説明する。
【0069】
(1)ホスト化合物(発光ホスト等ともいう)
本発明に用いられるホスト化合物について説明する。
ここで、本発明においてホスト化合物とは、発光層に含有される化合物の内でその層中での質量比が20%以上であり、且つ室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物と定義される。好ましくはリン光量子収率が0.01未満である。また、発光層に含有される化合物の中で、その層中での質量比が20%以上であることが好ましい。
【0070】
ホスト化合物としては、公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、または複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、後述する発光ドーパントを複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0071】
また、本発明に用いられる発光ホストとしては、従来公知の低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でも良い。
【0072】
併用してもよい公知のホスト化合物としては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、且つ発光の長波長化を防ぎ、なお且つ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
【0073】
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が挙げられる。
【0074】
特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0075】
(2)発光ドーパント
本発明に係る発光ドーパントについて説明する。
より発光効率の高い有機EL素子を得る観点から、本発明の有機EL素子の発光層としては、上記のホスト化合物を含有すると同時に、リン光ドーパントを含有する。
【0076】
(2.1)リン光ドーパント
本発明に係るリン光ドーパントについて説明する。
本発明に係るリン光ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
【0077】
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に係るリン光ドーパントは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
【0078】
リン光ドーパントの発光は原理としては2種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こってホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光ドーパントに移動させることでリン光ドーパントからの発光を得るというエネルギー移動型、もう一つはリン光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光ドーパント上でキャリアの再結合が起こりリン光ドーパントからの発光が得られるというキャリアトラップ型であるが、何れの場合においても、リン光ドーパントの励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
【0079】
リン光ドーパントは、有機EL素子の発光層に使用される公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0080】
本発明に係るリン光ドーパントとしては、好ましくは元素の周期表で8〜10族の金属を含有する錯体系化合物であり、更に好ましくはイリジウム化合物、オスミウム化合物、または白金化合物(白金錯体系化合物)、希土類錯体であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。
【0081】
以下に、リン光ドーパントとして用いられる化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。これらの化合物は、例えば、Inorg.Chem.40巻、1704〜1711に記載の方法等により合成できる。
【0082】
【化1】

【0083】
【化2】

【0084】
【化3】

【0085】
【化4】

【0086】
【化5】

【0087】
【化6】

【0088】
【化7】

【0089】
【化8】

【0090】
【化9】

【0091】
【化10】

【0092】
【化11】

【0093】
【化12】

【0094】
次に、本発明の有機EL素子の構成層として用いられる、注入層、阻止層、電子輸送層等について説明する。
【0095】
《注入層:正孔注入層(正孔バッファ層),電子注入層(陰極バッファ層)》
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0096】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0097】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0098】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0099】
また、特開平6−025658号に記載されているフェロセン化合物、特開平10−233287号等に記載されているスターバースト型の化合物、特開2000−068058号、特開2004−6321号に記載されているトリアリールアミン型の化合物、特開2002−117979号に記載されている含硫黄環含有化合物、US2002/0158242、US2006/0251922号、特開2006−49393号等に記載されているヘキサアザトリフェニレン化合物等も正孔注入層として挙げられる。
【0100】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0101】
《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》
阻止層は、上記の如く有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0102】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、本発明に係わる正孔阻止層として用いることができる。
【0103】
本発明の有機EL素子の正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
【0104】
正孔阻止層には、前述のホスト化合物として挙げたアザカルバゾール誘導体を含有することが好ましい。
【0105】
また、本発明においては、複数の発光色の異なる複数の発光層を有する場合、その発光極大波長が最も短波にある発光層が、全発光層中、最も陽極に近いことが好ましいが、このような場合、該最短波層と該層の次に陽極に近い発光層との間に正孔阻止層を追加して設けることが好ましい。更には、該位置に設けられる正孔阻止層に含有される化合物の50質量%以上が、前記最短波発光層のホスト化合物に対しそのイオン化ポテンシャルが0.3eV以上大きいことが好ましい。
【0106】
イオン化ポテンシャルは化合物のHOMO(最高被占分子軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義され、例えば下記に示すような方法により求めることができる。
【0107】
(1)米国Gaussian社製の分子軌道計算用ソフトウェアであるGaussian98(Gaussian98、Revision A.11.4,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,Pittsburgh PA,2002.)を用い、キーワードとしてB3LYP/6−31G*を用いて構造最適化を行うことにより算出した値(eV単位換算値)の小数点第2位を四捨五入した値としてイオン化ポテンシャルを求めることができる。この計算値が有効な背景には、この手法で求めた計算値と実験値の相関が高いためである。
【0108】
(2)イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接測定する方法により求めることもできる。例えば、理研計器社製の低エネルギー電子分光装置「Model AC−1」を用いて、あるいは紫外光電子分光として知られている方法を好適に用いることができる。
【0109】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に係る正孔阻止層、電子輸送層の膜厚としては、好ましくは3nm〜100nmであり、更に好ましくは5nm〜30nmである。
【0110】
《正孔輸送層》
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0111】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0112】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0113】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、更には米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0114】
更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0115】
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、所謂p型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることからこれらの材料を用いることが好ましい。
【0116】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、ダイコート法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5nm〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0117】
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0118】
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0119】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。更に上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0120】
また8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、およびこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様にn型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0121】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、ダイコート法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5nm〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0122】
また、本発明においては、不純物をドープしたn性の高い電子輸送層を用いる。その例としては、特開平4−297076号公報、同10−270172号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0123】
本発明においては、このようなn性の高い電子輸送層を用いることがより低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0124】
《陽極(第1電極)》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。
【0125】
陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。
【0126】
この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0127】
《陰極(第2電極)》
一方、陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
【0128】
これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
【0129】
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0130】
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0131】
《基板(可撓性基板など)》
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基体、基板、基材、支持体等とも言う)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
【0132】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(JSR製)あるいはアペル(三井化学製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
【0133】
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜またはその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、水蒸気透過度が0.01g/m2/日・atm以下のバリア性フィルムであることが好ましく、更には酸素透過度10−3g/m2/日以下、水蒸気透過度10−5g/m2/日以下の高バリア性フィルムであることが好ましい。
【0134】
バリア膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0135】
バリア膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
【0136】
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
【0137】
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し量子効率は、1%以上であることが好ましく、より好ましくは5%以上である。ここに、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
【0138】
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
【0139】
《封止部材や接着剤層》
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されておればよく、凹板状でも平板状でもよい。また透明性、電気絶縁性は特に問わない。
【0140】
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属または合金からなるものが挙げられる。
【0141】
本発明においては、素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。
【0142】
更には、ポリマーフィルムはJIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/m2/24h以下、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m2/24h)以下のものであることが好ましい。
【0143】
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
【0144】
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
【0145】
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
【0146】
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化珪素、二酸化珪素、窒化珪素等を用いることができる。
【0147】
更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスタ−イオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
【0148】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0149】
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0150】
なお、本発明に係る有機EL素子の構成材料(有機機能層を構成する塗布液(発光層用塗布液や電子輸送層用塗布液など))を溶解または分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
【0151】
また有機EL素子の製造方法において、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
このようにして得られた多色の表示装置に、直流電圧を印加する場合には陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また交流電圧を印加してもよい。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【実施例】
【0152】
以下、実施例を挙げて本発明の具体的な効果を示すが、本発明の態様はこれに限定されるものではない。
【0153】
《サンプル(有機EL素子)の作製》
基本的には、図2〜図6を参照しながら説明した製造方法の工程にしたがい、下記のとおりにサンプル(有機EL素子)を作製した。
(1)比較例1の作製
(陽極(第1電極)の形成)
厚さ100μm、幅200mm、長さ500mのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人・デュポン社製フィルム、以下、PENと略記する)に、ガスバリア膜を形成したもの(特開2007−83644号の実施例1に記載の方法で形成した)を準備した。尚、帯状の可撓性基板には、予め第1電極を形成する位置を示すためにアライメントマークを設け、5×10−1Paの真空環境条件で厚さ120nmのITO(インジウムチンオキシド)をスパッタリング法により、マスクパターン成膜を行い、引き出し部を帯状の可撓性基板の巾手方向の両端側に有する10mm×10mmの大きさの第1電極を一定間隔に12列を連続的に形成し巻き取った。
【0154】
(第1正孔輸送層形成)
ポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer社製Bytron P AI4083)を純水で65%、メタノール5%で希釈した溶液を第1正孔輸送層形成用塗布液として、PENの上全面(但し、両端の10mmは除く)に、エクストルージョン塗布機を使用し乾燥後の厚みが30nmになるように塗布した。塗布後、乾燥・加熱処理を行い、第1正孔輸送層を形成した。
第1正孔輸送層形成用塗布液の塗布条件は、温度は25℃、露点温度−20℃以下のNガス環境の大気圧下で、且つ清浄度クラス5以下(JIS B 9920)で行った。
【0155】
(第1正孔輸送層のパターン化:除去工程)
第1正孔輸送層が形成された可撓性基板に、マイクロ波(2.45GHz)を照射して第1電極を熱パターンとしてその位置を検出して、これを位置決めマークとして用い、第1電極の取り出し電極部分の上および第1電極の周囲の不要の部分に、正孔輸送層に対してこれを膨潤させる良溶媒であるメチルエチルケトンを供給して、所定の拭き取り装置により、装置内温度10℃で1.96×10Pa程度の押圧でワイピングヘッド(押圧ロールをテープ状部材に押圧したヘッド)を可撓性基板との相対速度が5cm/毎秒となるよう擦って、有機エレクトロニクス構造体の間を連続的に拭き取り除去した。尚、温度は5℃、メチルエチルケトンの蒸気圧は5℃において4173Paである。また、マイクロ波照射機は四国計測工業(株)製μ−reactorを用いた。
【0156】
第1正孔輸送層を除去後、可撓性基板を乾燥し一旦巻き取った。尚、尚溶剤の供給量は10ml/min、温度10℃で行った。
【0157】
次いで、以下の通り、第2正孔輸送層、発光層、電子輸送層を順次、エクストルージョン塗布機を使用し塗布、乾燥、巻き取りを繰り返すことで形成した。搬送速度は、3m/分とした。
【0158】
(第2正孔輸送層)
窒素雰囲気下で、可撓性基板上に、下記のとおりに調製した正孔輸送層用塗布液をエクストルージョン塗布法により塗布(製膜)した。塗布後、窒素雰囲気下で、正孔輸送層用塗布液による塗布層を加熱乾燥させ、膜厚約20nmの第2正孔輸送層を形成した。
(正孔輸送層用塗布液)
モノクロロベンゼン 100g
ポリ−(N,N′−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N′−ビス(フェニル)ベンジジン)(ADS254BE:アメリカン・ダイ・ソース社製) 0.5g
【0159】
(発光層)
第2正孔輸送層上に、下記のとおりに調製した発光層形成用塗布液をエクストルージョン塗布法により塗布(製膜)した。塗布後、発光層形成用塗布液による塗布層を、120℃で30分間加熱し乾燥させ、膜厚約50nmの発光層とした。
(発光層形成用塗布液)
酢酸ブチル 100g
H−A 1g
D−28 0.11g
Ir−1 0.002g
Ir−14 0.002g
【0160】
(電子輸送層)
発光層上に、下記のとおりに調製した電子輸送層形成用塗布液をエクストルージョン塗布法により塗布(製膜)した。塗布後、電子輸送層用塗布液による塗布層を、120℃で45分間加熱し乾燥させ、膜厚約15nmの電子輸送層とした。
(電子輸送層形成用塗布液)
2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール 100g
ET−A 0.75g
【0161】
【化13】

【0162】
塗布条件は、いずれも温度は25℃、露点温度−20℃以下のNガス環境、大気圧下で、且つ清浄度クラス5以下(JIS B 9920)で行った。
【0163】
(有機機能層(第2正孔輸送層,発光層,電子輸送層)のパターン化:除去工程)
巻き取った前記、第1正孔輸送層が形成された可撓性基板(PEN)を供給して、PET上に形成された第1電極パターンを位置決めマークとして、マイクロ波センサを用いて、位置決めを行い、第1電極の取り出し電極部分の上および第1電極(第1正孔輸送層)の周囲の不要の部分を、前記拭き取り装置により、第2正孔輸送層、発光層に対し親和性が高い溶剤であるo−キシレン、電子輸送層に対して良溶媒である1−ブタノールをそれぞれ2:1の混合比で混合した溶剤を供給して、温度15℃、前記同様、押圧ロール(テープ状部材)の可撓性基板との相対速度が5cm/毎秒となるよう擦って連続的に拭き取り除去した。尚、ワイピングヘッドの押圧は1.96×10Paとした。拭き取り温度は、拭き取り装置内を15℃まで冷却して溶剤のトータルの供給量は20ml/minで行った。
【0164】
因みに、1−ブタノールの15℃における蒸気圧は368Pa、また、o−キシレンの15℃における蒸気圧は475Paである。
【0165】
これにより膨潤また溶解された3つの有機機能層を一度に擦って除去パターニングを行った。パターニング後、乾燥装置で乾燥し、一旦巻き取り1時間保管した。
【0166】
次いで、以下に示す条件で前記有機機能層の上に順次陰極バッファ層(電子注入層)、陰極(第2電極)、封止層を形成し、断裁しさらに熱処理を行い、有機ELパネルを作製し「比較例1」のサンプルとした。
【0167】
(陰極バッファ層(電子注入層)の形成)
パターン化された有機機能層が形成されたロール状のPENに付けられた陽極の位置に従って電子輸送層の上および第1電極の引き出し部を除いた部分に蒸着装置で5×10−4Paの真空環境条件にてLiFを用い、マスクパターン蒸着成膜して、厚さ0.5nmの陰極バッファ層(電子注入層)を積層した。
【0168】
(陰極(第2電極)の形成)
引き続き、同様に陰極バッファ層(電子注入層)上に第1電極の大きさに合わせ、第1電極の引き出し部と反対側に第2電極の引き出し部が配置されるように、5×10−4Paの真空下にてアルミニウムを使用し蒸着法にてマスクパターン成膜し、厚さ100nmのアルミニウム層からなる第2電極を積層し有機エレクトロニクス構造体(有機EL構造体)を形成した。
【0169】
(封止部材の貼合)
次いで、有機エレクトロニクス構造体を有する帯状の可撓性基板に付けられたアライメントマークを検出し、アライメントマークの位置に従って第1電極および第2電極の引き出し部の一部を除いて、接着剤層を有する帯状の封止部材を貼合した。
帯状の封止部材として、PET50μmにアルミ箔30μmバリア層をラミネートしたフィルムを用いた。接着剤層の接着剤には、メルティングポイント120℃の熱硬化型接着剤を用い、層厚は30μmとした。
【0170】
(断裁)
次いで、作製した複数の有機EL素子が連続的に繋がった状態のものを個別の有機ELパネルの大きさに、アライメントマークを検出し、アライメントマークの位置に従って断裁した。まず長手方向に各列毎に断裁し、長手方向に一列で有機エレクトロニクス素子が配置された試料を得、これをさらに巾手方向に断裁して、個々の有機EL素子(比較例1のサンプル)を作製した。
【0171】
(2)比較例2〜3,実施例1〜9の作製
比較例1の作製において、発光層および電子輸送層を形成する場合の乾燥環境条件(圧力)や加熱処理条件、活性エネルギー線の照射(照射波長172nm,照射強度2000mJ/cm)の有無を、表1のとおりに変更して比較例2〜3,実施例1〜9のサンプル(有機EL素子)を作製した。
なお、実施例1〜9の作製中、活性エネルギー線の照射は加熱処理と同時におこなった。
【0172】
【表1】

【0173】
《有機EL素子の評価》
(1)輝度−電圧特性
作製した有機EL素子に対し、印加する電圧を変化させながら輝度を測定し、正面輝度1000cd/mの発光が得られるときの電圧値を内挿により求めた。測定には分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング製)を用いた。比較例1のサンプルの測定値を100として、各サンプルから得られた結果(相対値)を表2に表した。表2中、○,△,×の基準は下記のとおりである。電圧の相対値は小さい値の方が駆動電圧が低く、好ましい結果であることを示す。
「○」…相対値が91〜110である
「△」…相対値が111〜120である
「×」…相対値が121以上である
【0174】
(2)発光寿命
作製した有機EL素子に対し、正面輝度1000cd/mとなるような電流を与えて連続駆動させ、正面輝度が初期の半減値(500cd/m)になるまでに掛かる時間を求めた。比較例1のサンプルの測定値を100として、各サンプルから得られた結果(相対値)を表2に表した。表2中、○,△,×の基準は下記のとおりである。発光寿命の相対値は大きい値の方が発光寿命が長く、好ましい結果であることを表す。
「○」…相対値が91〜110である
「△」…相対値が81〜90である
「×」…相対値が80以下である
【0175】
(3)生産性
作製した有機EL素子に対し、発光層および電子輸送層の形成工程で費やした乾燥時間(活性エネルギー線の照射時間を含む加熱処理時間)を求め、その結果を表2に表した。表2中、○,△,×の基準は下記のとおりである。
「○」…乾燥時間が0〜30minである
「△」…乾燥時間が31〜60minである
「×」…乾燥時間が61min以上である
【0176】
【表2】

【0177】
(4)まとめ
表2に示すとおり、比較例1〜3と実施例1〜9との各サンプルを比較すると、実施例1〜9のサンプルは、基準となる比較例1のサンプルと同等の駆動電圧・発光寿命を示し、さらに塗布液中の溶媒を乾燥させ除去するのに要する時間(生産性)が優れていた。
以上から、低駆動電圧・長発光寿命を維持したまま生産性を改善する上では、発光層および電子輸送層の形成工程の少なくとも一方において、活性エネルギー線を照射することが有用であることがわかる。
【符号の説明】
【0178】
1 有機ELパネル
101 可撓性基板
102 陽極(第1電極)
103 正孔輸送層
104 発光層
105 電子輸送層
106 陰極バッファ層(電子注入層)
107 陰極(第2電極)
108 接着剤層
109 封止部材
2 製造工程
202 第1電極形成工程
203 正孔輸送層形成工程
203a 繰り出し部
203b 塗布部
203b1 塗布装置
203b2 バックアップロール
203c 乾燥部
203d パターン形成部
203e 巻き取り部
204 発光層形成工程
205 電子輸送層形成工程
206 陰極バッファ層(電子注入層)形成工程
207 第2電極形成工程
208 封止工程
300,400 加熱処理装置
310,410 活性エネルギー線照射装置(照射源)
320,420 グローブボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、陰極および有機機能層が基板上に形成され、前記有機機能層が前記陽極と前記陰極との間に介在しかつ発光層を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記基板上に前記有機機能層を構成する所定の塗布液を塗布する工程と、
塗布後の塗布層に活性エネルギー線を照射する工程と、
を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記塗布液を塗布する工程では、前記発光層を構成する第1の塗布液を前記基板上に塗布し、
前記活性エネルギー線を照射する工程では、塗布後の第1の塗布層に活性エネルギー線を照射することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記有機機能層が電子輸送層を含んでおり、
前記塗布液を塗布する工程では、前記電子輸送層を構成する第2の塗布液を前記基板上に塗布し、
前記活性エネルギー線を照射する工程では、塗布後の第2の塗布層に活性エネルギー線を照射することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記活性エネルギー線を照射する工程と同時に、加熱処理をおこなうことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
前記活性エネルギー線が紫外線であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法で製造された有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−128954(P2012−128954A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276674(P2010−276674)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発/有機EL照明の高効率・高品質化に係る基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】