説明

有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法

【課題】透明導電層と対向する陰極層と、両電極に挟持された有機EL層を備えた有機EL素子の製造方法において、有機EL層をウエットプロセス法で作成した場合に、溶媒の除去に伴う有機EL素子の特性の低下が起きず、高性能な有機EL素子を製造する製造方法を提供する。
【解決手段】有機EL層は、有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成され、少なくとも1層機能層は、大気圧下で機能層を第一電極の上方に機能インクを用いたウエットプロセスで配置する工程と、大気圧下で形成した機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境とする工程と、減圧環境が10Paに到達後、機能層の1時間当たりの重量変化が、0.1%未満になるまで10Pa以下の気圧を保持する工程と、0.1%未満に到達後、この気圧Pnでの機能層内の溶媒の沸点をTbnとし、(Tbn+100)〜(Tbn+200)℃で機能層を加熱する有機EL素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜のエレクトロルミネッセンス現象を利用した有機薄膜の有機エレクトロルミネッセンス素子、特に高分子材料を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造に用いる有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機ELと示す)の製造方法および印刷部材に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子とは、ふたつの対向する電極の間に有機発光層を含む有機EL層が形成され、両電極間から有機EL層に電流を流すことで発光させるものであるが、効率よく発光させるには有機EL層の膜厚が重要であり、100〜1000nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これを表示用のディスプレイ化するには高精細にパターニングする必要がある。有機EL素子に用いられる有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。また、蒸着法では蒸着源が通常ボートのピンホールや坩堝のような点形状であるため、大型化した基板に対し膜厚が均一になるように薄膜層を形成するのが困難である。
【0003】
これに対し、最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶媒に溶解若しくは分散させた塗工液(以下インクと記す)にし、これをウエットプロセスにて薄膜形成する方法が試みられるようになってきている(非特許文献1参照)。薄膜形成するためのウエットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法等がある。特に高精細にパターニングしたり画素をR(赤)、G(緑)、B(青)の3色に塗り分けしたりするには、塗り分け、パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる(特許文献1、2参照)。
【0004】
この様に、ウエットコーティング法により有機EL素子を製造する方法は非常に有効である。しかしながら、溶媒を用いるためにその乾燥工程の処理を行う必要がある。その乾燥方法としては、減圧乾燥法(特許文献3参照)、加熱乾燥法(特許文献4参照)、加圧加熱乾燥法(特許文献5参照)、を用いた方式が提案されている。
【0005】
また、ウエットコーティング法により有機EL層を形成した場合、塗工により形成した層とその下部の層との密着性が低下することが知られている(非特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら一方では、通常印刷法により有機EL素子を製造する場合には200度以上の非常に沸点の高い溶剤を用いることが多く、大気圧若しくは加圧条件下における加熱乾燥では有機EL層から溶媒を十分に除去することが出来ない恐れがあり、その結果その素子寿命が短くなることがあった。また、乾燥を十分に行うために高い温度をかけると有機EL素子を構成する材料の劣化が発生することや、特許文献4にあるように溶媒の蒸発に伴うガスの移動により各層の表面形状の均一性が損なわれる恐れがある。また、ガスが抜けた後の空乏部が非特許文献1に示されるような密着性の低下につながっている恐れもある。これらもまた有機EL素子の初期特性や素子寿命に悪影響を及ぼすと考えられる。
【0007】
以下に公知文献を記す。
【特許文献1】特開2003−17261号公報
【特許文献2】特表2003−527955号公報
【特許文献3】特開平9−97679号公報
【特許文献4】特開2002−313567号公報
【特許文献5】特開2005−26000号公報
【非特許文献1】2004年 第51回応用物理学関係連合講演会 講演番号28p−ZQ−9
【非特許文献2】Y. Shi, J. Liu, and Y. Yang, "Organic Light−Emitting Devices", edited by J. Shinar, Chap. 6(Springer, NY, 2004).
【非特許文献3】畑一夫、渡辺健一著「基礎有機化学実験」丸善(1966)、115ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、有機EL層をウエットプロセス法で作成した場合においても、溶媒の除去に伴う有機EL素子の特性の低下が起きず、高性能な有機EL素子を製造可能とする製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであって、溶媒乾燥時の気圧および温度を制御し、溶媒の急速な揮発が起きないように揮発速度を制御することで、上記課題が解決できることを見いだした。
【0010】
本発明の請求項1に係る発明は、第一電極と、第一電極に対向する第二電極と、両電極に挟持された有機エレクトロルミネッセンス層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
有機エレクトロルミネッセンス層は、有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成され、前記エレクトロルミネッセンス層を構成する単数又は複数の機能層のうち少なくとも1層は、
大気圧下で機能層を第一電極の上方に機能インクを用いたウエットプロセスにより配置する工程、
前記大気圧下で形成された機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境下とする工程、
を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0011】
請求項1に係る発明によれば、有機EL層のうち少なくとも1層を塗布法により形成し、その層を乾燥させる際に大気圧から10Paまで減圧させるのに10min以上かけて減圧させることにより、減圧による溶媒沸点の降下が緩やかとなり、溶媒の急激な揮発由来の表面形状不均一化が抑制される。
【0012】
本発明の請求項2に係る発明は、前記大気圧下で配置された機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境とする工程は、窒素雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、加熱ステップを窒素雰囲気下で行うことにより、有機EL層の酸化による劣化を防ぐことが可能となる。また、乾燥した窒素を用いることで、溶
媒の気化熱により基板温度が下がった際にも結露を防ぐことが出来る。
【0014】
本発明の請求項3に係る発明は、前記大気圧下で配置された機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境下とする工程は、機能層を加熱しながら減圧することを特徴とする請求項1、又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、減圧工程の制御とともに前記有機EL層の温度を制御しながら加熱することにより、溶媒の急激な揮発を抑制し、また、溶媒の完全な除去を達成しうる。
【0016】
本発明の請求項4に係る発明は、前記機能インクの皮膜よりなる機能層がおかれている空間の気圧をPnとし、気圧Pnにおける機能層の機能インク皮膜に含まれる溶媒の沸点をTbnとした場合、前記機能層を加熱しながら減圧環境とする工程の温度は、(Tbn+100)℃よりも低い温度で行われることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、前記加熱ステップにおいて、その加熱温度を前記有機EL層に含まれる溶媒の、その圧における沸点プラス100℃以下とすることにより、よりいっそう溶媒の急激な揮発を抑制することが可能となる。
【0018】
本発明の請求項5に係る発明は、前記大気圧下で配置された機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境とする工程により10Paに到達後、さらに、
機能層の1時間当たりの重量変化が、0.1%未満になるまで10Pa以下の減圧環境を保持する工程、
前記機能層の1時間当たりの重量変化が0.1%未満となってから、その気圧Pnにおける機能層に含まれる溶媒の沸点Tbnに対し、前記機能層を(Tbn+100)℃以上(Tbn+200)℃以下の範囲で加熱することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0019】
請求項5に係る発明によれば、前記加熱ステップにおいて、乾燥基板の1時間あたりの重量減少率が0.1%未満となった後に有機EL層にかかる温度が、前記有機EL層に含まれる溶媒の、その圧における沸点プラス100℃以上且つ200℃以下とすることにより、有機EL層内の残存溶媒を完全に除去することが可能となる。なお、前記機能層の1時間あたりの重量変化は、((ある時点での機能層が載置された基板の重量)−(基板重量))を乾燥前の機能層の重量W1とし、同様にそれからXhr経過した時点での機能層の重量Wt+xとした場合、(W1÷Wt+x×100÷X)で示される。
【0020】
本発明の請求項6に係る発明は、前記大気圧下空間で配置された機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境とする工程により10Paに到達後、さらに、
機能層の1時間当たりの重量変化が0.1%未満になるまで10Pa以下の減圧環境を保持する工程、
機能層の1時間当たりの重量変化が0.1%未満となってから、機能層に含まれる機能性材料のうちいずれかの材料のガラス転移点以上の温度で、機能層を加熱する工程を、
備えることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法である。
【0021】
請求項6に係る発明によれば、前記機能層の1時間当たりの重量変化が0.1%未満となった後に有機EL層にかかる温度が、前記有機EL層を構成する材料のうちいずれかの材料のガラス転移点よりも高い温度に過熱することにより、材料の形状を変化させ、その材料を含む層と隣接する他の層との密着性を向上し、初期特性並びに寿命特性を向上せし
めることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の有機EL素子の製造方法によれば、有機EL層をウエットプロセス法で作成した場合においても、有機EL層内の残存溶媒を突沸させることなく除去することにより、層間の密着性が向上し、機能層の表面形状の均一性が保たれ溶媒の除去に伴う有機EL素子の特性の低下が起きず、有機EL素子の初期特性並びに寿命特性を向上する高性能な有機EL素子を製造可能とする製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明による有機EL素子の一例を図1に基づいて説明する。
【0024】
透光性基板上にある透明導電層からなる第一電極(以下透明導電層と記す)と、その電極に対向する第二電極(以下陰極層と記す)と、両電極に挟持された有機エレクトロルミネッセンス層(以下有機EL層と記す)を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子(以下有機EL素子と記す)である。本発明の有機EL素子は透明導電層と、その電極に対向する陰極層と、両電極に挟持された有機EL層を備え、有機EL層3は有機発光層を含む単数又は複数の機能層31から構成されている。ここでは例として、透明電極層を陽極、陰極層を陰極とし、透明導電層側から光を取り出す構造のボトムエミッション型の有機EL素子を挙げる。図1は、支持する透明性基板1上に陽極の透明電極層2、有機発光層を含む単数又は複数の機能層31からなる有機のEL層3、陰極の陰極層4からなり、該陰極層4上に封止層5を備えた有機EL素子10である。
【0025】
次に、本発明の有機EL素子の製造方法のうち、機能層の形成方法を以下説明する。
【0026】
有機EL層は、有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成され、前記有機EL層を構成する単数又は複数の機能層のうち少なくとも1層は、機能層を透明導電層の上方に機能インクを用いたウエットプロセス法により形成する。前記機能インクを用いたウエットプロセスは、有機発光材料や正孔輸送材料などの機能性材料が溶解又は分散された液である機能性インクを、塗布や噴霧、印刷等の方法で形成対象となる電極等の基板上に配置することを指し、例えばスピンコート方法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法を挙げることができる。
【0027】
前記本発明の機能層の乾燥方法を以下説明する。
【0028】
本発明の機能層の乾燥方法は、第一段目として、前記大気圧下にある空間で形成された機能層が載置された空間を10min以上かけて10Paの窒素雰囲気からなる減圧環境とすると同時に、減圧しながら機能層を加熱することにより、機能層を乾燥する。減圧、加熱を開始する前に発光層が形成された基板が載置された空間を不活性ガスで置換しておくことが好ましい。
【0029】
例えば、前記機能インクの皮膜よりなる機能層がおかれている空間の気圧Pnにおける機能層の機能インク皮膜に含まれる溶媒の沸点をTbnとした場合、前記機能層を(Tbn+100)℃よりも低い温度で加熱することにより、機能層を乾燥する。
【0030】
前記10Paの減圧環境に到達後、さらに、次いで、第二段目として、機能層の1時間当たりの重量変化が、0.1%未満になるまで10Pa以下の減圧環境を保持しながら、機能層を乾燥する。
【0031】
前記機能層の1時間当たりの重量変化が0.1%未満となってから、その気圧Pnおけ
る機能層に含まれる溶媒の沸点Tbnに対し、前記機能層を(Tbn+100)℃以上(Tbn+200)℃以下の範囲で加熱することにより、機能層を乾燥する。
【0032】
例えば、前記機能層の1時間当たりの重量変化が前記0.1%未満となってから、さらに、機能層に含まれる機能材料のうちいずれかの材料のガラス転移点以上の温度で、機能層を加熱することにより、機能層を乾燥する。なお、本発明の機能層の乾燥方法では、窒素雰囲気下において、載置した機能層への加熱の有無、及び不活性ガスへの加熱の有無を適宜最適化することが重要である。
【0033】
すなわち、本発明の機能層の乾燥方法では、ウエットプロセス法で形成された機能層を載置した空間内を、第一段目の乾燥の、10min以上かけて10Paの窒素雰囲気からなる減圧環境とすると同時に、減圧しながら機能層を加熱をし、第二段目の、機能層の1時間当たりの重量変化が、0.1%未満になるまで10Paの減圧環境を保持し、0.1%未満に到達後に第三段目の、気圧Pnにおける機能層に含まれる溶媒の沸点をTbnとした場合、機能層を(Tbn+100)℃〜(Tbn+200)℃以の範囲で加熱により、機能層を乾燥する。
【0034】
以下、各機能層について説明する。
【0035】
本発明における透光性基板1としては、透光性があり、ある程度の強度がある基材なら制限はないが、具体的にはガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。0.2mmから1mmの薄いガラス基板を用いれば、バリア性が非常に高い薄型の有機EL素子を作製することができる。
【0036】
また、可撓性のあるプラスチック製のフィルムを用いれば、巻き取りにより有機EL素子の製造が可能であり、安価に素子を提供することができる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマ、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等を用いることができる。また、透明導電層2を成膜しない側にセラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレンー酢酸ビニル共重合体鹸化物等の他のガスバリア性フィルムを積層すれば、よりバリア性が向上し、寿命の長い有機EL素子とすることができる。
【0037】
透明導電層2としては、透明または半透明の電極を形成することのできる導電性物質なら特に制限はない。具体的にはインジウムと錫の複合酸化物(以下ITOという)を好ましく用いることができる。前記透光性基板1上に蒸着またはスパッタリング法により成膜することができる。また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基材上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法等により形成することもできる。あるいは、アルミニウム、金、銀等の金属が半透明状に蒸着されたものを用いることができる。あるいはポリアニリン等の有機半導体も用いることができる。
【0038】
上記、透明導電層2は、必要に応じてエッチングによりパターニング処理、UV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0039】
本発明における有機EL層3は、有機発光層のみの単層構造に限らず、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層および電子注入層等の複数の層を積層させてもよい。各層の厚みは任意であるが好ましくは10nm〜100nm、有機EL層3の総膜厚としては100nm〜1000nmであることが好ましい。
【0040】
正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層とは、正孔輸送性及び/又は電子ブロック性
を有する材料を有する層であり、それぞれ透明導電層2から有機EL層3への正孔注入の障壁を下げる、透明導電層2から注入された正孔を陰極層4の方向へ進める、正孔を通しながらも電子が透明導電層2の方向へ進行するのを妨げる役割を担う層である。
【0041】
これらの層に用いられる材料としては、一般に正孔輸送材料として用いられているものであれば良く、銅フタロシアニンやその誘導体、1,1―ビス(4―ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’―ジフェニル―N,N’−ビス(3−メチルフェニル)―1,1’―ビフェニルー4,4’―ジアミン、N,N’―ジ(1―ナフチル)―N,N’―ジフェニルー1,1’―ビフェニルー4,4’―ジアミン等の芳香族アミン系などの低分子も用いることができるが、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物等の高分子材料が成膜性の点から好ましい。また、ポリパラフェニレン(PPP)等のポリアリーレン系、ポリフェニレンビニレン(PPV)等のポリアリーレンビニレン系等の導電性高分子若しくはポリスチレン(PS)等の高分子に、アリールアミン類、カルバゾール誘導体、アリールスルフィド類、チオフェン誘導体、フタロシアニン誘導体等の低分子の正孔輸送性、電子ブロック性を示す材料を混合した物を用いても良い。
【0042】
有機発光層とは、発光性を有する材料を有する層である。有機発光層に用いる発光体としては、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系、白金錯体系、ユーロピウム錯体系等の低分子発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系等の高分子発光体を用いることができる。
【0043】
正孔ブロック層、電子輸送層とは、電子輸送性及び/又は正孔ブロック性を有する材料を有する層であり、それぞれ陰極層4から注入された電子を透明導電層2の方向へ進める、電子を通しながらも正孔が陰極層4の方向へ進行するのを妨げる役割を担う層である。
【0044】
これらの層に用いられる材料としては、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体の電荷移動錯体、シロール誘導体、アリールボロン誘導体、ビスフェナントロリン等のピリジン誘導体、パーフルオロ化されたオリゴフェニレン誘導体、オキサジアゾール誘導体等の低分子系のものを用いても良いが、成膜性の点から、電子輸送性ポリシラン、ポリシロール、含ボロンポリマ等の電子輸送性を有する高分子系のものが好ましい。また、PPP等のポリアリーレン系、PPV等のポリアリーレンビニレン系等の導電性高分子若しくはポリスチレン等の高分子に、前述の電子輸送性若しくは正孔ブロック性を有する材料を混合した物を用いても良い。
【0045】
電子注入層とは、電子注入性を有する材料を有する層であり、陰極層4から有機EL層3への電子の注入障壁を下げる役割を担う層である。この層に用いられる材料としては前述の電子輸送層に用いられるのと同様な材料の他に、フッ化リチウムや酸化リチウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩や酸化物、若しくはこれらをPS等の高分子材料に混合した物を用いても良い。
【0046】
これらの層の形成には、スピンコート法、カーテンコート法、バーコート法、ワイヤーコート法、スリットコート法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法などのコーティング法若しくは印刷法によるウエットプロセスも利用できるが、例えば有機発光層以外の層にて、高いパターニング精度や膜厚均一性が必要とならない場合には蒸着法にて製膜しても良い。
【0047】
また、これらの層をウエットプロセスにて作成する場合に、これらの材料を溶解若しくは分散させるための溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、モノクロロベンゼン、p−シメン、ジエチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ドデシルベンゼン等の芳香族環に置換基を導入したものや、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等が挙げられる。これらの溶媒は必要に応じて単独若しくは混合して用いてもよく、また、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等を添加してもよい。
【0048】
これらの有機EL層を形成する際に、塗布方式によってはウエットプロセスによる積層が可能となる(非特許文献1参照)。その場合、有機EL層を構成する各層を形成するたびに本発明に従った方法で乾燥をしても良いし、有機EL層を構成する各層を何層か若しくは有機EL層すべてをまとめて乾燥しても良い。作業性及び生産効率を考えるとまとめて乾燥することが好ましい。一方、各層に含まれる溶媒の沸点の差が激しい場合、特により透明導電層2に近い層(下層)に含まれる溶媒の沸点が、より透明導電層2に遠い層(上層)に含まれる溶媒の沸点より低い場合は、まとめて乾燥すると先に下層の溶媒が揮発し、その蒸気が上層の中を通過し、その際に上層の膜形状に凹凸が出来てしまい、均一な面発光が得られなくなる恐れがあるため(特許文献4)、各層毎に各々乾燥することが好ましい。
【0049】
溶媒の減圧下における沸点は、沸点換算表(非特許文献3)による概算、クラウジウスークラペイロンの式による概算や、気圧‐沸点ノモグラフ(図2)による推定により算出することが出来る。大気圧における沸点が100℃程度の場合には、室温における減圧によって沸騰する可能性が高い。この場合、突沸による有機EL層のモルフォロジ劣化が起きないように、特にゆっくりと減圧にする必要がある。
【0050】
減圧させる速度は、1台の真空乾燥機にて調整しても良い。この場合、真空ポンプと真空チャンバとの間に電磁弁などを設けることで圧の調整を可能とする。また、真空度の異なる複数台の真空乾燥機を連結しても良い。
【0051】
有機EL層形成後、陰極層4を形成する。対向電極である陰極層4としてはMg、Al、Yb等の金属単体、若しくは、発光媒体材料と接する界面にLiやLiF等の化合物を1nm程度はさんで、安定性及び導電性の高いAlやCuを積層して用いる。または、電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えばMgAg、AlLi、CuLi等の合金が使用できる。陰極層4の形成方法は材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法を用いることができる。陰極層4の厚さは、10nmから1000nm程度が望ましい。
【0052】
最後にこれらの有機EL層を外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機EL素子を得ることができる。また、透光性基板が可撓性を有する場合は封止剤と可撓性フィルムを用いて密閉封止をおこなう。
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
ITO付きガラス基板を用意し、そのITOを所定のパターンにエッチングした。次いで、エッチングした透明導電層の透明電極上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物を水に分散させた液を、スピンコート法によ
りITOパターン上に塗布した。この基板を200℃にて3min、大気下にて乾燥させ、さらに10Pa窒素雰囲気下にて10min乾燥させた。乾燥後の厚さは50nmであった。
【0055】
また、ポリアリーレンビニレン系高分子発光体であるポリ(2−(2−エチルヘキシロキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン:ガラス転移温度196℃)をトルエン(大気圧での沸点111℃)50%とジエチルベンゼン(大気圧での沸点182℃)50%の混合溶媒に溶解し、基板上にスピンコート法にて塗布した。
【0056】
有機発光インクが塗布された基板に対し、室温にて大気圧(約100,000Pa)から10Paまで、10minあたりにおおよそ1桁づつ減圧となるように圧を調整しながら減圧乾燥機チャンバ内の真空引きをおこなった。その後、前記減圧乾燥機チャンバ内に乾燥した窒素を充填し、大気に戻した。この窒素置換の操作を2回行った後に、再び10Paまで同様に減圧し、前記減圧乾燥機チャンバ内の温度を100℃とし2hr乾燥を行った。尚、別途同条件で同様な基板を作成し乾燥を行ったところ、乾燥開始1時間後から同2時間後における重量変化は0.1%以下であった。
【0057】
上記の10Pa、100℃、2hrの乾燥を行った基板に対し、更に10Pa、200℃、30minの加熱を行い、ITOパターンの透明電極上に正孔注入層、発光層とが積層された基板を得た。
【0058】
さらに、前述の基板に対し、リチウムおよびアルミニウムを真空蒸着によりそれぞれ0.5nm、200nm設けて、有機EL素子を得た。得られたEL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は3000hrであった。
【0059】
本発明の比較例として実施例2を説明する。
【実施例2】
【0060】
実施例2では、実施例1と同様に、正孔注入層を作成した後、有機発光インクをスピンコート法にて塗布した基板を準備した。
【0061】
上記基板を、100℃に予熱したチャンバー内に基板を設置し、大気圧から10Paまで5minで一気に減圧し、2hrの乾燥を行った。更にその基板に、実施例と同様にリチウムおよびアルミニウムを真空蒸着にて積層させ、有機EL素子を得た。
【0062】
その結果、得られたEL素子に12Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。この素子の発光面を顕微鏡で観察したところ、微少な非発光点が無数に見られた。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は300hrであった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の高分子有機EL素子の断面図である。
【図2】気圧‐沸点ノモグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1…透光性基板
2…透明導電層(第一電極)
3…有機EL層(有機エレクトロルミネッセンス層)
4…陰極層(第二電極)
10…有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)
31…機能層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電極と、第一電極に対向する第二電極と、両電極に挟持された有機エレクトロルミネッセンス層を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、
有機エレクトロルミネッセンス層は、有機発光層を含む単数又は複数の機能層から構成され、前記エレクトロルミネッセンス層を構成する単数又は複数の機能層のうち少なくとも1層は、
大気圧下で機能層を第一電極の上方に機能インクを用いたウエットプロセスにより配置する工程、
前記大気圧下で形成された機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境下とする工程、
を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項2】
前記大気圧下で配置された機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境とする工程は、窒素雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項3】
前記大気圧下で配置された機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境下とする工程は、機能層を加熱しながら減圧することを特徴とする請求項1、又は2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項4】
前記機能インクの皮膜よりなる機能層がおかれている空間の気圧をPnとし、気圧Pnにおける機能層の機能インク皮膜に含まれる溶媒の沸点をTbnとした場合、前記機能層を加熱しながら減圧環境とする工程の温度は、(Tbn+100)℃よりも低い温度で行われることを特徴とする請求項3記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項5】
前記大気圧下で配置された機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境とする工程により10Paに到達後、さらに、
機能層の1時間当たりの重量変化が、0.1%未満になるまで10Pa以下の減圧環境を保持する工程、
前記機能層の1時間当たりの重量変化が0.1%未満となってから、その気圧Pnにおける機能層に含まれる溶媒の沸点Tbnに対し、前記機能層を(Tbn+100)℃以上(Tbn+200)℃以下の範囲で加熱することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項6】
前記大気圧下空間で配置された機能層を10min以上かけて10Paの減圧環境とする工程により10Paに到達後、さらに、
機能層の1時間当たりの重量変化が0.1%未満になるまで10Pa以下の減圧環境を保持する工程、
機能層の1時間当たりの重量変化が0.1%未満となってから、機能層に含まれる機能性材料のうちいずれかの材料のガラス転移点以上の温度で、機能層を加熱する工程を、
備えることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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