説明

有機エレクトロルミネッセンス素子及びこれを用いた表示装置

【課題】 新規な発光材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】 単体状態における発光波長が溶液中の発光波長よりも短波長である有機化合物を発光材料として用い、該発光材料に該発光材料よりも発光層中の含有量が低くなるように導電性材料をドープして発光層を形成し、電極間に挟持して素子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面型の表示装置に用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子とこれを用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子は、高速応答性や高効率の発光素子として、応用研究が精力的に行われている。その基本的な構成を図1(a)、(b)に示した(例えば非特許文献1を参照)。図1中、11は金属電極、12は発光層、13はホール輸送層、14は透明電極、15は透明基板、16は電子輸送層である。
【0003】
図1に示したように、一般に有機EL素子は透明基板15上に透明電極14と金属電極11の間に複数の有機化合物層を挟持した積層体から構成される。
【0004】
図1(a)では、有機化合物層が発光層12とホール輸送層13からなる。透明電極14としては、仕事関数が大きなITOなどが用いられ、透明電極14からホール輸送層13への良好なホール注入特性を持たせている。金属電極11としては、アルミニウム、マグネシウム或いはそれらを用いた合金などの仕事関数の小さな金属材料を用い有機化合物層への良好な電子注入性を持たせる。これら電極には、50〜200nmの膜厚が用いられる。
【0005】
発光層12には、電子輸送性と発光特性を有するアルミキノリノール錯体など〔代表例は、トリス(8−キノラリト)アルミニウム(Alq3)〕が用いられる。また、ホール輸送層13には、例えばトリフェニルジアミン誘導体(代表例は、ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニル〕ベンジジン(α−NPD))など電子供与性を有する材料が用いられる。
【0006】
以上の構成を有する有機EL素子は整流性を示し、金属電極11を陰極に、透明電極14を陽極になるように電界を印加すると、金属電極11から電子が発光層12に注入され、透明電極14からはホールが注入される。
【0007】
注入されたホールと電子は発光層12内で再結合により励起子が生じ発光する。この時ホール輸送層13は電子のブロッキング層の役割を果たし、発光層12/ホール輸送層13界面の再結合効率が上がり、発光効率が上がる。
【0008】
さらに、図1(b)では、図1(a)の金属電極11と発光層12の間に、電子輸送層16が設けられている。発光と電子・ホール輸送を分離して、より効果的なキャリアブロッキング構成にすることで、効率的な発光を行うことができる。電子輸送層16としては、例えば、オキサジアゾール誘導体などを用いることができる。
【0009】
【非特許文献1】Macromol.Symp.125、1〜48(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有機EL素子は平面型の表示装置を構成する発光素子として着目されており、より多様な要求に応えるべく、その主要部材である発光材料の開発が急務となっている。
【0011】
本発明の課題は、新たな発光材料を用いた新規な有機EL素子を提供し、素子の用途や製造工程、発光材料以外の部材等における選択自由度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一は、一対の電極間に、発光層を含む少なくも一層の有機化合物層を挟持した有機エレクトロルミネッセンス素子であり、該有機化合物層において、発光層が少なくとも2種類以上の化合物からなり、最も高濃度の化合物が発光材料であり、単体の固体状態における発光波長が溶液中での発光波長よりも短波長である有機化合物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第二は、上記第一の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いたことを特徴とする表示装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来にない新規な発光材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子及び該素子を用いた表示装置が提供される。よって、該素子や表示装置の構成、製造における選択自由度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と記す)の基本構成は、図1に示したものと同様であり、発光層12以外の部材としては従来と同様である。
【0016】
これまでの有機EL素子に用いられている発光材料は、単体の固体状態における発光波長が溶液中での発光波長と同等、もしくは長波長、または全く発光しない、のいずれかであった。これに対して本発明のEL素子に発光材料として用いられる有機化合物は、単体の固体状態での発光波長が溶液中での発光波長より短波長になることを特徴としている。当該有機化合物においては、何らかの分子間相互作用によりこのような発光が得られていると考えられる。
【0017】
ここで、固体状態とは結晶状態、もしくはアモルファス状態のいずれかを指し、溶液中の発光波長とはトルエン、クロロホルム、クロロベンゼン、メチルTHF、THF、アセトニトリル、メタノール、エタノール、水、DMFもしくはアセトンのいずれかの溶液を溶媒とし、10-5mol/l以下の濃度で測定を行ったときの発光波長である。このような有機化合物の固体状態での発光を利用するためには、溶液のような低濃度で用いるのではなく、単体の固体状態に近い、より高濃度で用いる必要がある。具体的には50%以上の濃度で発光層に発光材料を混合することが望ましい。但し、100%濃度で用いると、発光材料の導電性、チャージバランスの問題で電流量が低くなるが、導電性材料を発光層にドープすることで、高効率発光を得ることができる。即ち、上記発光材料の固体状態での発光波長を維持したまま、高濃度で発光層に用いることができる。
【0018】
本発明において、発光層は少なくとも2種類の化合物から構成されるが、そのうち発光材料である有機化合物が最も高濃度に含まれる。発光層中の発光材料の濃度は50%以上が好ましく、より好ましく70%以上で、100%未満である。ここでいう濃度とは、質量%である。また、発光層に混合する化合物は濃度消光を抑制するためでなく、キャリアを輸送するためのドーピングとして用いる。本発明においては、発光層における発光材料とドーピング材料との濃度比をコントロールすることで、分光分子同士が隣接することにより発光状態が変化し、発光効率が低下する現象である濃度消光を考慮することなく、また、発光波長をほぼ維持したまま最適な電荷のバランスを有した素子作製を可能にし、高効率な素子を作ることができる。
【0019】
以上のような観点からも、本発明の有機EL素子は発光素子として適しており、該有機EL素子を用いて良好な表示装置を構成することができる。
【0020】
実際に、通電試験においても、本発明の有機EL素子は高い効率を示すことが判明した。
【0021】
本発明の有機EL素子は、固体状態での発光波長が溶液状態での発光波長より短波長である有機化合物を発光材料として用いるが、当該有機化合物として具体的には、金属錯体が好ましく、中心金属がCu,Re,Ru,W,Ag,Auである金属錯体が好ましく用いられる。中でもリン光発光性金属錯体が好ましい。該有機化合物の一例を下記表1、表2に示す。尚、表中の記号で示される構造式を化1,化2に具体的に示す。また、表中のPhはフェニル基である。但し、これらは、代表例を例示しただけで、本発明に用いうる有機化合物は、これらに限定されるものではない。また、本発明の有機EL素子は、これらの有機化合物を含む発光層が、対向する2つの電極に狭持され、該電極間に電圧を印加することにより発光する電界発光素子であることが好ましい。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
本発明の有機EL素子は、省エネルギーや高輝度が必要な製品に応用が可能である。応用例としては表示装置・照明装置やプリンターの光源、液晶表示装置のバックライトなどが考えられる。表示装置としては、省エネルギーや高視認性・軽量なフラットパネルディスプレイが可能となる。また、プリンターの光源としては、現在広く用いられているレーザビームプリンタのレーザー光源部を、本発明の有機EL素子に置き換えることができる。独立にアドレスできる素子をアレイ上に配置し、感光ドラムに所望の露光を行うことで、画像形成する。本発明の有機EL素子を用いることで、装置体積を大幅に減少することができる。照明装置やバックライトに関しては、本発明による省エネルギー効果が期待できる。
【0027】
ディスプレイへの応用では、アクティブマトリクス方式であるTFT駆動回路を用いて駆動する方式が考えられる。
【0028】
以下、図2〜4を参照して、本発明の有機EL素子をアクティブマトリクス方式の表示装置に適用した際のアクティブマトリクス基板について説明する。
【0029】
図2は、本発明の有機EL素子を複数配列し、駆動手段を備えたアクティブマトリクス基板の構成を模式的に示した平面図である。パネルには、画素回路20、走査信号ドライバ21、情報信号ドライバ22、電流供給源23が配置され、それぞれゲート走査線25、情報線26、電流供給線27に接続される。ゲート走査線25と情報線26の交点に配置される画素回路20の構成例を図3に示す。走査信号ドライバー21は、ゲート走査線G1、G2、G3...Gnを順次選択し、これに同期して情報信号ドライバー22から画像信号が印加される。
【0030】
次に画素回路20の動作について説明する。この画素回路20においては、ゲート走査線25に選択信号が印加されると、TFT31がONとなり、容量33に画像信号が供給され、TFT32のゲート電位を決定する。有機EL素子34には、TFT32のゲート電位に応じて、電流供給線27より電流が供給される。TFT32のゲート電位は、TFT31が次に走査選択されるまで容量33に保持されるため、有機EL素子34には次の走査が行われるまで電流が流れ続ける。これにより1フレーム期間常に発光させることが可能となる。
【0031】
図4は、本実施例で用いられるTFTの断面構造の模式図を示した図である。ガラス基板40上にp−Si層44が設けられ、チャネル43、ドレイン42、ソース41の各領域にはそれぞれ必要な不純物がドープされる。この上にゲート絶縁膜48を介してゲート電極45が設けられると共に、上記ドレイン領域42、ソース領域41に接続するドレイン電極46、ソース電極47が形成されている。これらの上に絶縁層49、52及び画素電極としてITO電極50を積層し、コンタクトホールにより、ITO電極50とドレイン電極46が接続される。
【0032】
本発明は、スイッチング素子に特に限定はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型等でも容易に応用することができる。
【0033】
上記ITO電極50の上に多層或いは単層の有機化合物層51/陰極層52を順次積層し有機EL表示パネルを得ることができる。本発明の有機EL素子を用いた表示パネルを駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0035】
(実施例1、比較例1)
図1(b)に示す有機化合物層が3層の有機EL素子を作製した。先ず、ガラス基板(透明基板15)上に100nm厚のITO電極(透明電極14)をパターニングして、対向する電極面積が3mm2になるようにした。そのITO電極基板上に、以下の有機化合物層と電極層を10-4Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着し、連続成膜した。比較例として有機化合物層2についてCBP(4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル)をドープしない系も作製した。
有機化合物層1(ホール輸送層13)(40nm):TFB4
有機化合物層2(発光層12)(20nm):有機化合物4+CBP(質量比=70:30)
有機化合物層3(電子輸送層16)(50nm):Bphen
金属電極層1(1nm):KF
金属電極層2(100nm):Al
【0036】
【化3】

【0037】
本例で用いた有機化合物4の発光波長は固体状態では515nm、トルエン溶液中では561nmである。図5にそれぞれの発光波長スペクトルを示す。
【0038】
有機EL素子の特性は、電圧−電流特性をヒューレッドパッカード社製、微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。図6に電圧−電流特性を、図7に電流−発光輝度特性を、図8に電圧−発光輝度特性を、図9に発光輝度−発光効率特性を、図10に実施例1(図中白丸),比較例1(図中黒丸)のそれぞれの素子の発光波長スペクトルを示す。
【0039】
その結果、CBPを30質量%加えることによって発光効率が向上し、また、発光波長はほとんど変化しないことがわかった。
【0040】
この結果より、固体状態での発光波長が溶液中での発光波長より短い有機化合物は発光層が100%濃度においても発光することが可能ではあるが、導電性材料を少量ドーピングすることによって発光波長をほぼ維持したまま発光効率を向上させうることがわかった。
【0041】
(実施例2)
縦75mm、横75mm、厚さ1.1mmのガラス基板上に透明電極(陽極側)として約100nm厚のITO膜をスパッタ法にて形成後、単純マトリクス電極としてライン/スペース=100μm/40μmの間隔で100ラインをパターニングした。次に、実施例1と同様の条件で3層からなる有機化合物層を作成した。
【0042】
続いて、マスク蒸着にて、ライン/スペース=100μm/40μmで100ラインの金属電極をITO電極に直交するように真空度2.66×10-3Paの条件下で真空蒸着法にて成膜した。金属電極はKFを膜厚1nm、続いてAlを150nmで形成した。
【0043】
この100×100の単純マトリクス型有機EL素子の構成を図10に模式的に示す。図中、111はガラス基板、112は透明電極、113は有機化合物層、114は金属電極である。当該素子を窒素雰囲気で満たしたグローブボックス中にて図12のような10Vの走査信号、±3Vの情報信号によって、7V〜13Vの間で、単純マトリクス駆動をおこなった。フレーム周波数30Hzでインターレス駆動したところ、滑らかな動画像が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の有機EL素子の構成例を示す断面模式図である。
【図2】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す断面模式図である。
【図3】本発明の有機EL素子を用いたアクティブマトリクス基板の構成を示す平面模式図である。
【図4】図3の画素回路の等価回路を示す図である。
【図5】実施例1及び比較例1で用いた有機化合物の発光波長スペクトルである。
【図6】実施例1及び比較例1の有機EL素子の電圧−電流特性を示す図である。
【図7】実施例1及び比較例1の有機EL素子の電流−発光輝度特性を示す図である。
【図8】実施例1及び比較例1の有機EL素子の電圧−発光輝度特性を示す図である。
【図9】実施例1及び比較例1の有機EL素子の発光輝度−発光効率特性を示す図である。
【図10】実施例1及び比較例1の有機EL素子の発光波長スペクトルである。
【図11】実施例2の積層構成を示す模式図である。
【図12】実施例2で用いた駆動波形図である。
【符号の説明】
【0045】
11 金属電極
12 発光層
13 ホール輸送層
14 透明電極
15 透明基板
16 電子輸送層
20 画素回路
21 走査信号ドライバ
22 情報信号ドライバ
23 電流供給源
25 ゲート走査線
26 情報戦
27 電流供給線
31,32 TFT
33 容量
34 有機EL素子
35 アノード
40 ガラス基板
41 ソース領域
42 ドレイン領域
43 チャネル領域
44 p−Si層
45 ゲート電極
46 ドレイン電極
47 ソース電極
48 ゲート絶縁膜
49,52,53 絶縁層
50 ITO電極
51 有機化合物層
52 陰極層
111 ガラス基板
112 透明電極
113 有機化合物層
114 金属電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に、発光層を含む少なくも一層の有機化合物層を挟持した有機エレクトロルミネッセンス素子であり、該有機化合物層において、発光層が少なくとも2種類以上の化合物からなり、最も高濃度の化合物が発光材料であり、単体の固体状態における発光波長が溶液中での発光波長よりも短波長である有機化合物であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記発光材料が、金属錯体である請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記金属錯体の中心金属がCu,Re,Ru,W,Ag,Auのいずれかである請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記金属錯体がリン光発光性金属錯体である請求項2または3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
上記一対の電極間に電圧を印加することにより上記発光層が発光する電界発光素子である請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いたことを特徴とする表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−114663(P2006−114663A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299928(P2004−299928)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】