説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 発光層のみで効率よくホ−ルと電子を再結合させることができ、効率や寿命を向上することができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】 電極1,2間に発光層4と発光層4にホールまたは電子を輸送する輸送層3,5とを少なくとも設けて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。このような有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層4に電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有することを特徴とする。発光層4に電子受容性ド−パントとして機能する化合物を含有することによって、発光層4へのホールや電子の注入のバランスを最適にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ、液晶表示機用バックライト、サイン光源、照明光源などに用いられる有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイの薄型化、液晶表示機を備える電子機器の小型化や薄型化、あるいはサイン光源、照明器具の形状の自由化などのために、薄く、軽量であり、かつ高効率である発光体が近年ますます要求されるようになってきている。このような要求に応じることができるものとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機電界発光素子)が注目されている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子が低電圧で発光することは、イ−ストマン・コダック社のC.W.Tangらにより、電極間に二層の薄膜を積層した構成の素子において初めて示された(Appl.Phys.Lett.,51,12,913(1978))。そしてこれ以降、有機エレクトロルミネッセンス素子は、数V程度の低電圧で100〜10000cd/m程度の高輝度の発光が可能なこと、発光層を構成する材料の組み合わせで多数の色を発光させることが可能なこと、非常に薄い面発光体として使用可能なこと、などから産業界で注目され、素子構成に改良を加えた種々の薄膜構成の有機エレクトロルミネッセンス素子が検討されている。
【0004】
ここで、有機エレクトロルミネッセンス素子の基本的な素子構成は、陽極/有機発光層/陰極であるが、その他に、陽極/ホ−ル輸送層/有機発光層/電子輸送層/陰極の構成や、陽極/ホ−ル注入層/ホ−ル輸送層/有機発光層/電子輸送層/陰極の構成や、陽極/ホ−ル注入層/有機発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極の構成や、陽極/ホ−ル注入層/有機発光層/電子注入層/陰極の構成など、種々の構成のものが挙げられる。このような多層構造とすることによって、陽極や陰極として形成される電極から有機発光層へのホ−ルおよび電子の注入特性を向上させ、また、ホ−ルと電子の再結合領域が有機発光層に特定されるために、発光特性が向上することが一般に知られている。また、近年の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料の進化により、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性は当時に比して大幅に向上し、また当初懸念されていた寿命も比較的高いレベルにまで到達し、種々の用途に有機エレクトロルミネッセンス素子が実用化されようとし始めている(特許文献1等参照)。
【特許文献1】特開平9−139288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、有機エレクトロルミネッセンス素子の効率や寿命をさらに高いものとすることが求められており、材料の改良のみならず、デバイス構造の改善を行うことが必要である。有機エレクトロルミネッセンス素子の効率や寿命を低下させる要因の一つとして、発光層以外でのホ−ルと電子の再結合が挙げられる。これは、陰極側から有機発光層への電子注入能力及び/または陽極側から有機発光層へのホ−ル注入能力が低いため、また、有機発光層へのホ−ルと電子の注入量及びバランスが最適でないために、再結合エネルギ−が発光に寄与できないことが理由である。よって、高効率、長寿命の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供するためには、有機発光層へのホ−ル及び/または電子の注入性能を向上させ、また、有機発光層へのホ−ル及び/または電子の注入バランスを最適にすることが必要であり、有機発光層のみで効率よくホ−ルと電子を再結合させることが課題となっている。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、発光層で効率よくホ−ルと電子を再結合させることができ、効率や寿命を向上することができる有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、電極間に発光層と発光層にホールまたは電子を輸送する輸送層とを少なくとも設けて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層に電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有して成ることを特徴とするものである。
【0008】
また請求項2の発明は、請求項1において、発光層の一部に電子受容性ドーパントとして機能する化合物が含有されていることを特徴とするものである。
【0009】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、発光層に、電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位と、発光性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位とを有することを特徴とするものである。
【0010】
また請求項4の発明は、請求項3において、電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位と、発光性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位との間に、発光層ホスト材料のみからなる部位を有することを特徴とするものである。
【0011】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4において、電子受容性ドーパントとして機能する化合物が金属酸化物であることを特徴とするものである。
【0012】
また請求項6の発明は、請求項5において、金属酸化物が、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステンから選ばれるものであることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の請求項7に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、電極間に発光層と発光層にホールまたは電子を輸送する輸送層とを少なくとも設けて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層に電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有して成ることを特徴とするものである。
【0014】
また請求項8の発明は、請求項7において、発光層の一部に電子供与性ドーパントとして機能する物質が含有されていることを特徴とするものである。
【0015】
また請求項9の発明は、請求項7又は8において、発光層に電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有する部位と、発光性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位とを有することを特徴とするものである。
【0016】
また請求項10の発明は、請求項9において、電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有する部位と、発光性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位との間に、発光層ホスト材料のみからなる部位を有することを特徴とするものである。
【0017】
また請求項11の発明は、電子供与性ドーパントとして機能する物質が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属からなる群から選択された1種以上の金属であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電極間に発光層を積層して形成される有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層に電子受容性ド−パントとして機能する化合物や、電子供与性ド−パントとして機能する物質を含有することによって、発光層へのホールや電子の注入のバランスを最適にすることができるものであり、発光層で効率よくホ−ルと電子を再結合させることができ、効率や寿命を向上することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0020】
図1は電極1,2の間に有機発光層4を積層して形成される有機エレクトロルミネッセンス素子の構造の一例を示すものであり、基板10の表面に透明導電膜からなる電極(陽極)1を積層し、陽極1の表面上にホ−ル輸送層3を介して有機発光層4を積層すると共に、さらにこの有機発光層4の上に電子輸送層5を介して電極(陰極)2が積層してある。以下、本構造を例として説明するが、この構造はあくまでも一例であり、例えば発光層4と電子輸送層5の間にホールブロック層を形成するなど、本発明の趣旨に反しない限り図1の構造に限定されるものではない。また上記の発光層4は複数の発光色の層を積層して形成することもできる。
【0021】
そして本発明に係る有機エレクトロルミネッセンスの第一の形態は、発光層4内に電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有させるようにしたものである。電子受容性ドーパントとして機能する化合物は、発光層4の全体に含有していてもよく、また発光層4の一部の部位にのみ含有していてもよい。例えば図2の実施の形態では、発光層4を構成材料の数の異なる複数の部分から形成し、発光層4のうち陽極1側の部分4aは、発光性有機物質に加えて電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有させるようにしてある。勿論、電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有させる位置は図2のものに限定されるものではなく、また電子受容性ド−パントとして機能する化合物は発光層4内で濃度勾配を有する状態、例えば発光層4の陽極1の側では濃度が高く、陰極2の側になるに従って濃度が低くなるようにして、発光層4に含有させるようにすることもできる。
【0022】
また、発光層4には発光性ドーパントとして機能する化合物を含有させることができるものであり、例えば図3の実施の形態では、発光層4を構成材料の数の異なる複数の部分から形成し、発光層4のうち陽極1側の部分4aは、発光性有機物質に加えて電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有させ、発光層4のうち陰極2側の部分4bは、発光性有機物質に加えて発光性ドーパントとして機能する化合物を含有させるようにしてある。勿論、電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有させる位置や、発光性ドーパントとして機能する化合物を含有させる位置は、図3のものに限定されるものではない。
【0023】
図4の実施の形態では、発光層4が発光性ド−パントとして機能する化合物を含有する部位と、電子受容性ド−パントとして機能する化合物を含有する部位とを備え、さらにこれらの部位の間に、発光層ホスト材料のみからなる部位を有するようにしてある。例えば図4の実施の形態では、発光層4を構成材料の数の異なる複数の部分から形成し、発光層4のうち陽極1側の部分は、発光性有機物質に加えて電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有させると共に、発光層4のうち陰極2側の部分4bは、発光性有機物質に加えて発光性ドーパントとして機能する化合物を含有させるようにし、この間の発光層4cを発光層ホスト材料のみからなる層として形成してある。勿論、これらの各位置は図4のものに限定されるものではない。
【0024】
上記のように、発光層4内に電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有させ、また発光層4内に電子受容性ドーパントとして機能する化合物や発光性ド−パントとして機能する化合物を含有させることによって、発光層4へのホ−ル注入性能及び/または発光層4内でのホ−ル輸送性能を、発光層4内で部分的かつ、選択的に向上させることができるものであり、この結果、発光層へのホ−ル及び/または電子の注入バランスを最適にすることにより、発光層4を効率よく発光させることができ、優れた発光特性、寿命特性を得ることができるものである。
【0025】
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンスの第二の形態は、発光層4内に電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有させるようにしたものである。電子供与性ドーパントとして機能する物質は、発光層4の全体に含有していてもよく、また発光層4の一部の部位にのみ含有していてもよい。例えば図5の実施の形態では、発光層4を構成材料の数の異なる複数の部分から形成し、発光層4のうち陰極2側の部分4dは、発光性有機物質に加えて電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有させるようにしてある。勿論、電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有させる位置は図5のものに限定されるものではなく、また電子供与性ド−パントとして機能する物質は発光層4内で濃度勾配を有する状態、例えば発光層4の陰極2の側では濃度が高く、陽極1の側になるに従って濃度が低くなるようにして、発光層4に含有させるようにすることもできる。
【0026】
また、発光層4には発光性ドーパントとして機能する化合物を含有させることができるものであり、例えば図6の実施の形態では、発光層4を構成材料の数の異なる複数の部分から形成し、発光層4のうち陰極2側の部分4dは、発光性有機物質に加えて電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有させ、発光層4のうち陽極1側の部分4eは、発光性有機物質に加えて発光性ドーパントとして機能する化合物を含有させるようにしてある。勿論、電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有させる位置や、発光性ドーパントとして機能する化合物を含有させる位置は、図6のものに限定されるものではない。
【0027】
図7の実施の形態では、発光層4が発光性ド−パントとして機能する化合物を含有する部位と、電子受容性ド−パントとして機能する物質を含有する部位とを備え、さらにこれらの部位の間に、発光層ホスト材料のみからなる部位を有するようにしてある。例えば図7の実施の形態では、発光層4を構成材料の数の異なる複数の部分から形成し、発光層4のうち陰極2側の部分4dは、発光性有機物質に加えて電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有させると共に、発光層4のうち陽極1側の部分4eに発光性有機物質に加えて発光性ドーパントとして機能する化合物を含有させるようにし、この間の発光層4fを発光層ホスト材料のみからなる層として形成してある。勿論、これらの各位置は図7のものに限定されるものではない。
【0028】
上記のように、発光層4内に電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有させ、また発光層4内に電子供与性ドーパントとして機能する物質や発光性ド−パントとして機能する化合物を含有させることによって、発光層4への電子注入性能及び/または発光層4内での電子輸送性能を、発光層4内で部分的かつ、選択的に向上させることができるものであり、この結果、発光層へのホール及び/または電子の注入バランスを最適にすることにより、発光層4を効率よく発光させることができ、優れた発光特性、寿命特性を得ることができるものである。
【0029】
尚、上記の第一の形態及び第二の形態では、発光層4に電子受容性ド−パントと電子供与性ド−パントのうち一方を含有するものを例に挙げ説明したが、本発明は発光層4に電子受容性ド−パントと電子供与性ド−パントの両方を含有する場合においても、同様に適用することができるのは言うまでもない。また本発明において、発光層4に含有させる電子受容性ド−パントや電子供与性ド−パントは1種単独でもよく、複数種を併用してもよい。電子受容性ド−パントや電子供与性ド−パントを含有させる方法としては、発光層ホスト材料及び/または発光性ド−パントと共蒸着する方法、発光層ホスト材料及び/または発光性ド−パントと交互に蒸着する方法、発光層ホスト材料及び/または発光性ド−パントを蒸着した後に蒸着して発光層4に拡散させる方法、発光層ホスト材料及び/発光性ド−パントと溶解した液をスピンコ−ト等で塗布して発光層4を形成する方法などがあり、発光層ホスト材料及び/または発光性ド−パントと共存させる方法であれば特に限定することなく使用することができる。
【0030】
ここで、本発明において発光層4に用いることのできる発光性有機物質としては、公知の任意のものを挙げることができる。例えば、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾ−ル、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナ−ト)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナ−ト)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナ−ト)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−タ−フェニル−4−イル)アミン、1−アリ−ル−2,5−ジ(2−チエニル)ピロ−ル誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチルベンゼン誘導体、ジスチルアリ−レン誘導体、及びこれらの発光性化合物からなる基を分子内の一部に有するものであるが、これに限定されるものではない。またこれらの化合物に代表される蛍光色素由来の化合物のみならず、三重項状態からの燐光発光が可能な発光材料も好適に用いることができる。燐光性ド−パントとしては、例えば周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。この金属として好ましくはルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、および金が挙げられる。
【0031】
発光層4は上記のような発光性有機物質の単独又は混合の層として形成することができるが、電子輸送性の材料またはホ−ル輸送性の材料をホスト材料として、これに発光性ドーパントを含有させたものでも形成することができる。この発光層ホスト材料としては、電子輸送性の材料、ホ−ル輸送性の材料のいずれも使用することができるものであり、これらは混合して用いることもできる。さらに層内で濃度勾配を有する状態で、陽極1の側ではホ−ル輸送性の材料が多く、陰極2の側になるに従って電子輸送性の材料の割合が多くなるようにして用いることもできる。電子輸送性のホスト材料やホ−ル輸送性のホスト材料としては特に制限されるものではないが、前述した発光層4に用いることができる発光性有機材料や、後述するホ−ル輸送層3を構成する材料、電子輸送層5を構成する材料に相当するものから、適宜選択して用いることができる。また、燐光発光を示す発光層4に使用されるホスト材料としては、蛍光発光を示す発光層に使用されるホスト材料として前述した材料の他に、カルバゾ−ル誘導体、ポリビニルカルバゾ−ルなどが挙げられる。また発光性ドーパントとしては、上記の発光性有機物質を用いることができるものである。
【0032】
そして発光層4に含有される上記の電子受容性ド−パントとして機能する化合物としては、有機物をルイス酸化学的に酸化しうる性質を有するものを挙げることができる。具体的には、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステンなどの金属酸化物、塩化第2鉄、臭化第2鉄、ヨウ化第2鉄、ヨウ化アルミニウム、塩化ガリウム、臭化ガリウム、ヨウ化ガリウム、塩化インジウム、臭化インジウム、ヨウ化インジウム、5塩化アンチモン、5フッ化砒素、3フッ化硼素等の無機化合物やDDQ(ジシアノ−ジクロロキノン)、TNF(トリニトロフルオレノン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)、4F−TCNQ(テトラフルオロ−テトラシアノキノジメタン)等の有機化合物を使用することができるが、これに限定されるものではない。そして、これらの電子受容性ドーパントを、発光性ドーパントを含有させた部分のホスト材料、または、発光性ドーパントを用いない場合は、所望の発光をさせようとする発光性有機物質と、共通の材料に含有させることができる。
【0033】
また発光層4に含有される上記の電子供与性ド−パントとして機能する物質としては、有機物に対し還元性を有するものを挙げることができる。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物または希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の炭酸塩からなる群から選択される少なくとも1種類以上の物質などが挙げられる。また、電子供与性ド−パントとして、芳香族化合物がアルカリ金属に配位した金属錯体も挙げられるが、これらに限定されるものではない。そして、これらの電子供与性ドーパントを、発光性ドーパントを含有させた部分のホスト材料、または、発光性ドーパントを用いない場合は、所望の発光をさせようとする発光性有機物質と、共通の材料に含有させることができる。
【0034】
一方、本発明において、ホ−ル輸送層3(あるいはホ−ル注入層)を構成する材料としては、ホ−ルを輸送する能力を有し、陽極1からのホ−ル注入効果を有するとともに、発光層4に対して優れたホ−ル注入効果を有し、さらに電子のホ−ル輸送層3への移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物を挙げることができる。具体的にはN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、ポリアリ−ルアルカン、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン、及びポリビニルカルバゾ−ル等の高分子材料が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0035】
また電子輸送層5を構成する電子輸送材料としては、電子を輸送する能力を有し、陰極2からの電子注入効果を有するとともに、発光層4に対して優れた電子注入効果を有し、さらにホ−ルの電子輸送層5への移動を防止し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物を挙げることができる。具体的には、フルオレン、バソフェナントロリン、バソクプロイン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、オキサゾ−ル、オキサジアゾ−ル、トリアゾ−ル、イミダゾ−ル、アントラキノジメタン、4,4’−N,N’−ジカルバゾ−ルビフェニル(CBP)等やそれらの化合物、金属錯体化合物もしくは含窒素五員環誘導体を挙げることができる。上記の金属錯体化合物としては、具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリナ−ト)アルミニウム、トリ(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナ−ト)アルミニウム、トリス(8−ヒドロキシキノリナ−ト)ガリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナ−ト)ベリリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナ−ト)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリナ−ト)(o−クレゾラ−ト)ガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナ−ト)(1−ナフトラ−ト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリナ−ト)−4−フェニルフェノラ−ト等があるが、これらに限定されるものではない。また上記の含窒素五員環誘導体としては、オキサゾ−ル、チアゾ−ル、オキサジアゾ−ル、チアジアゾ−ルもしくはトリアゾ−ル誘導体が好ましい。具体的には、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサゾ−ル、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾ−ル、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾ−ル、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)1,3,4−オキサジアゾ−ル、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾ−ル、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−トリアゾ−ル、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾ−ル等があるが、これらに限定されるものではない。さらに、ポリマ−有機発光素子に使用されるポリマ−材料も使用することができる。例えば、ポリパラフェニレン及びその誘導体、フルオレン及びその誘導体等である。
【0036】
尚、輸送層に3,5にアルカリ金属等をドープした場合、低電圧化して多少の高効率化が得られる場合があるが、本発明のように、発光層4に電子受容性ドーパントや電子受容性ドーパントをドープすると、発光層4での再結合確率を増大させ、高い効率化を得ることができるものである。
【0037】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する他の部材、例えば、積層された素子を保持する基板10、陽極1、陰極2等には、従来から使用されているものをそのまま用いることができる。
【0038】
上記の陽極1は発光層4にホ−ルを注入するための電極であり、この陽極1としては、仕事関数の大きい金属、合金、電気伝導性化合物、あるいはこれらの混合物からなる電極材料を用いるのが好ましく、特に仕事関数が4eV以上の電極材料を用いるのが好ましい。このような電極材料としては、具体的には、金などの金属、CuI、ITO(インジウム−スズ酸化物)、SnO、ZnO、IZO(インジウム−亜鉛酸化物)等の導電性透明材料が挙げられる。例えばこれらの電極材料を基板10の上に真空蒸着法やスパッタリング法等の方法で成膜することによって、陽極1を薄膜として作製することができる。発光層4における発光を陽極1を透過させて基板10から外部に照射する場合には、陽極1の光透過率を70%以上にすることが好ましい。また、陽極1のシ−ト抵抗は数百Ω/□以下であることが好ましく、特に100Ω/□以下であることが好ましい。さらに陽極1の膜厚は、陽極1の光透過率、シ−ト抵抗等の特性を上記のように制御するために、材料により異なるが、通常500nm以下に設定するのが好ましく、より好ましくは10〜200nmの範囲である。
【0039】
上記の陰極2は、発光層4中に電子を注入するための電極であり、この陰極2としては、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が5eV以下の電極材料を用いるのが好ましい。このような電極材料としては、アルカリ金属、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属等や、これらと他の金属との合金などを用いることができるものであり、例えばナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、Al/LiF混合物などを例として挙げることができる。これらの他にアルミニウム、Al/Al混合物なども使用可能である。またアルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、あるいは金属酸化物を下地として用い、上記の仕事関数が5eV以下である材料(あるいはこれらを含有する合金)を1層以上積層して陰極2を作製することもできる。例えば、アルカリ金属/Alの積層、アルカリ金属のハロゲン化物/アルカリ土類金属/Alの積層、Al/Alの積層などを例として挙げることができる。またITO、IZOなどに代表される透明電極で陰極2を作製し、発光層4で発光した光を陰極2の側から取り出す構成に形成するようにしてもよい。さらに、陰極2の界面の電子輸送層5にリチウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属をド−プしてもよい。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0041】
(実施例1)
基板10として、厚み0.7mmの透明ガラス板を用い、この基板10の一方の表面に、ITO(インジウム−スズ酸化物)をスパッタしてシ−ト抵抗10Ω/□の透明電極からなる陽極1を形成した。そしてこれを、純水、イソプロピルアルコ−ルで10分間超音波洗浄した後、乾燥させた。
【0042】
次に陽極1を形成したこの基板10を真空蒸着装置にセットし、3×10−5Paの減圧下、2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン(「スピロ−TAD」と略す)を150Å厚に蒸着し、陽極1の上にホ−ル輸送層3を形成した。
【0043】
次に、ホ−ル輸送層3の上に、4,4’−N,N’−ジカルバゾ−ルビフェニル(新日鐵化学株式会社製:「CBP」と略す)と電子受容性ド−パントとしてMoOをモル比1:1の割合で100Å厚に共蒸着し、MoOをド−プした発光層4の一部4aを形成した。またこの上に「CBP」を100Å厚に蒸着してホスト材料のみからなる発光層4の一部4cを形成し、さらにこの上に「CBP」と発光性ド−パントとしてビス(2−フェニルベンゾチアゾラ−ト−N,C’)イリジウム(アセチルアセトナ−ト)(「Bt2Ir(acac)」と略す)を重量比96:4の割合で300Å厚に共蒸着し、「Bt2Ir(acac)」)をド−プした発光層の一部4bを形成した。尚、上記の有機物の蒸着速度はいずれも1〜2Å/sに設定した。
【0044】
次に、上記のように3層構成で形成した発光層4の上に、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(新日鐵化学株式会社製:「BCP」と略す)を100Å厚に蒸着し、ホ−ルブロック層(図示省略)を形成した。また、その上にトリス(8−ヒドロキシキノリナ−ト)アルミニウム(新日鐵化学株式会社製:「Alq3」と略す)を400Å厚に蒸着し、電子輸送層5を形成した。最後に、電子輸送層5の上にLiFを5Å厚に蒸着し、さらにその上にAlを5Å/sの蒸着速度で厚み1000Å蒸着して陰極2を形成することによって、図4のような構成の有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0045】
(実施例2)
実施例1と同様に陽極1を形成した基板10を真空蒸着装置にセットし、3×10−5Paの減圧下、4,4’−ビス[N,N’−(3−トリル)アミノ]−3,3’−ジメチルビフェニル(新日鐵化学株式会社製:「HMTPD」と略す)を450Å厚に蒸着し、陽極1の上にホ−ル輸送層3を形成した。
【0046】
次に、ホ−ル輸送層3の上に、「CBP」と発光性ド−パントとして「Bt2Ir(acac)」を重量比96:4の割合で300Å厚に共蒸着し、「Bt2Ir(acac)」をド−プした発光層4の一部4eを形成した。またこの上に「CBP」を100Å厚に蒸着してホスト材料のみからなる発光層4の一部4fを形成し、さらにこの上に「CBP」と電子供与性ド−パントとしてCsをモル比1:1の割合で100Å厚に共蒸着し、Csをド−プした発光層4の一部4dを形成した。尚、上記有機物の蒸着速度はいずれも1〜2Å/sに設定した。
【0047】
次に、この3層構成の発光層4の上にビス(2−メチル−8−キノリナ−ト)−4−フェニルフェノラ−ト(「BAlq」と略す)を200Å厚に蒸着し、電子輸送層5を形成した。最後に、電子輸送層5の上にLiFを5Å厚に蒸着し、さらにその上にAlを5Å/sの蒸着速度で厚み1000Å蒸着して陰極2を形成することによって、図7のような構成の有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
【0048】
(比較例1)
実施例1と同様に陽極1を形成した基板10を真空蒸着装置にセットし、3×10−5Paの減圧下、「スピロ−TAD」を500Å厚に蒸着し、陽極1の上にホ−ル輸送層3を形成した。
【0049】
次に、ホ−ル輸送層3の上に、「CBP」と発光性ド−パントとして「Bt2Ir(acac)」を重量比96:4の割合で300Å厚に共蒸着し、Bt2Ir(acac)をド−プした発光層4を形成した。
【0050】
次に、発光層4の上に「BCP」を100Å厚に蒸着し、ホ−ルブロック層を形成した。また、その上に「Alq3」を400Å厚に蒸着し、電子輸送層5を形成した。最後に、電子輸送層5の上にLiFを5Å厚に蒸着し、さらにその上にAlを5Å/sの蒸着速度で厚み1000Å蒸着して陰極2を形成することによって、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図1参照)。
【0051】
(比較例2)
実施例1と同様に陽極1を形成した基板10を真空蒸着装置にセットし、3×10−5Paの減圧下、「HMTPD」を450Å厚に蒸着し、陽極1の上にホ−ル輸送層3を形成した。
【0052】
次に、ホ−ル輸送層3の上に、「CBP」と発光性ド−パントとして「Bt2Ir(acac)」を重量比96:4の割合で300Å厚に共蒸着し、「Bt2Ir(acac)」をド−プした発光層4を形成した。
【0053】
次に、発光層4の上に「BAlq」を400Å厚に蒸着し、電子輸送層5を形成した。最後に、電子輸送層5の上にLiFを5Å厚に蒸着し、さらにその上にAlを5Å/sの蒸着速度で厚み1000Å蒸着して陰極2を形成することによって、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た(図1参照)。
【0054】
上記のように実施例1,2及び比較例1,2で得た有機エレクトロルミネッセンス素子を電源(KEYTHLEY製「2400」)に接続し、マルチチャンネルアナライザ−(コニカミノルタ株式会社製「CS−1000」)を用いて、電流密度、電圧、輝度、電流効率、外部量子効率の測定を行った。尚、輝度の測定はトプコン株式会社製「BM−5A」で行った。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1の実施例1と比較例1、実施例2と比較例2との比較にみられるように、各実施例のものは輝度が高く、また電流効率や外部量子効率が高いことが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の一例を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態の一例を示す正面図である。
【図3】本発明の実施の形態の他の一例を示す正面図である。
【図4】本発明の実施の形態のさらに他の一例を示す正面図である。
【図5】本発明の実施の形態のさらに他の一例を示す正面図である。
【図6】本発明の実施の形態のさらに他の一例を示す正面図である。
【図7】本発明の実施の形態のさらに他の一例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 電極(陽極)
2 電極(陰極)
3 ホール輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
10 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に発光層と発光層にホールまたは電子を輸送する輸送層とを少なくとも設けて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層に電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有して成ることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
発光層の一部に電子受容性ドーパントとして機能する化合物が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
発光層に、電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位と、発光性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
電子受容性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位と、発光性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位との間に、発光層ホスト材料のみからなる部位を有することを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
電子受容性ドーパントとして機能する化合物が金属酸化物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
金属酸化物が、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化レニウム、酸化タングステンから選ばれるものであることを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
電極間に発光層と発光層にホールまたは電子を輸送する輸送層とを少なくとも設けて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光層に電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有して成ることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
発光層の一部に電子供与性ドーパントとして機能する物質が含有されていることを特徴とする請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
発光層に電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有する部位と、発光性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位とを有することを特徴とする請求項7又は8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
電子供与性ドーパントとして機能する物質を含有する部位と、発光性ドーパントとして機能する化合物を含有する部位との間に、発光層ホスト材料のみからなる部位を有することを特徴とする請求項9に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
電子供与性ドーパントとして機能する物質が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属からなる群から選択された1種以上の金属であることを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−319070(P2006−319070A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139099(P2005−139099)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【出願人】(505095811)財団法人 山形県産業技術振興機構 (3)
【Fターム(参考)】