有機エレクトロルミネッセンス素子
【課題】 発光効率、発光輝度および耐久性に優れた有機EL素子、特に、青色の発光効率、発光輝度を、他の色と同等まで向上し、しかも耐久性にも優れた有機EL素子を提供する。
【解決手段】 単層の、または2層以上の積層構造を有する電界発光層に、式(1):
【化1】
〔式中、R1は置換基を有してもよいアリール基を示し、R2は置換基を有してもよいアリール基、または−O−基を示す。〕
で表される繰り返し単位を直接に、または−O−基を介して、2〜20単位、直鎖状、環状、または網目状に繋ぐと共に、式(1)の繰り返し単位を直鎖状に繋いだときは、その両末端に、置換基を有してもよいアリール基を結合した構造を有する有機ケイ素化合物を含有させる。
【解決手段】 単層の、または2層以上の積層構造を有する電界発光層に、式(1):
【化1】
〔式中、R1は置換基を有してもよいアリール基を示し、R2は置換基を有してもよいアリール基、または−O−基を示す。〕
で表される繰り返し単位を直接に、または−O−基を介して、2〜20単位、直鎖状、環状、または網目状に繋ぐと共に、式(1)の繰り返し単位を直鎖状に繋いだときは、その両末端に、置換基を有してもよいアリール基を結合した構造を有する有機ケイ素化合物を含有させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自己発光型であるため、バックライトを必要とする液晶ディスプレイよりもさらに薄いディスプレイ装置を作ることができるだけでなく、これまでよりも薄型のバックライトとして、液晶ディスプレイの薄型化をも可能とし、しかもプラズマディスプレイよりも構造が簡単である等、様々な利点を有することから、薄膜型の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」と略記する場合がある)が、次世代技術として注目されている。
【0003】
有機EL素子としては、最初、アントラセン等の有機蛍光体の単結晶や蒸着膜を、陰極と陽極とで挟んだ構造を有する素子が検討されたが、その後、電子と正孔との再結合効率を向上して、素子の発光効率を高めるために、リン光性または蛍光性を有する発光材料、電子輸送能を有する電子輸送材料、正孔輸送能を有する正孔輸送材料、成膜性を有するバインダ等、それぞれの機能に優れた化合物を複合的に用いた、単層の、あるいは2層以上の積層構造を有する機能分離型の電界発光層を備えたものが、広く研究されている。
【0004】
例えば、非特許文献1においては、電子輸送材料を含む電子輸送層と、正孔輸送材料を含む正孔輸送層とを積層した2層構造の電界発光層を備え、このうち電子輸送層に発光層としての機能を持たせた有機EL素子が提案されている。素子の構成は、陰極/電子輸送層/正孔輸送層/陽極/基板である。
この有機EL素子においては、正孔輸送層が、陽極から注入された正孔を電子輸送層に注入する働きをすると共に、陰極から電子輸送層に注入された電子が正孔と再結合せずに陽極に逃げるのを阻止して、電子輸送層内に封じ込めるためにも機能する。そのため、電子輸送層内で、電子と正孔とを効率よく再結合させることができる。そして、当該電子輸送層中に含まれる電子輸送材料等を効率よく発光させて、有機EL素子の発光効率を向上すると共に、その駆動電圧を低下させることができる。
【0005】
また、非特許文献2においては、上記2層構造を有する電界発光層において、逆に、正孔輸送層も発光層となりうることが示されている。素子の構成は、同じく、陰極/電子輸送層/正孔輸送層/陽極/基板である。
この有機EL素子においては、電子輸送層が、陰極から注入された電子を正孔輸送層に注入する働きをすると共に、陽極から正孔輸送層に注入された正孔が電子と再結合せずに陰極に逃げるのを阻止して、正孔輸送層内に封じ込めるためにも機能する。そのため、正孔輸送層内で、電子と正孔とを効率よく再結合させることができる。そして、当該正孔輸送層中に含まれる正孔輸送材料等を効率よく発光させて、有機EL素子の発光効率を向上すると共に、その駆動電圧を低下させることができる。
【0006】
さらに、非特許文献3においては、電子輸送層と正孔輸送層との間に、発光材料を含む発光層を挟んだ3層構造の電界発光層を備えた有機EL素子が提案されている。素子の構成は、陰極/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/陽極/基板である。
この有機EL素子においては、正孔輸送層が、陽極から注入された正孔を発光層に注入する働きをすると共に、陰極から発光層に注入された電子が正孔と再結合せずに陽極に逃げるのを阻止して、発光層内に封じ込めるために機能する。また、電子輸送層が、陰極から注入された電子を発光層に注入する働きをすると共に、陽極から発光層に注入された正孔が電子と再結合せずに陰極に逃げるのを阻止して、発光層内に封じ込めるために機能する。そのため、上で述べた2層構造のものに比べて、発光層内での電子と正孔の再結合効率を向上させて、有機EL素子の発光効率をさらに向上し、かつ駆動電圧をより一層、低下させることができる。
【0007】
これらの有機EL素子において、電子輸送材料としては、オキサジアゾール類、トリアゾール類が、また、正孔輸送材料としては、トリフェニルアミン誘導体等の芳香族第3級アミン類が、それぞれ一般的に用いられる。また、発光材料としては、リン光性もしくは蛍光性を有する有機金属錯体や有機金属化合物等が用いられる。
また、リン光性の発光材料は、一般に、成膜性が低く、しかも励起状態で自己消光を起こしやすいことから、有機EL素子の発光効率が低くなる傾向にあり、それを防止して発光効率を向上するために、例えば、フェニルカルバゾール誘導体等をホスト材料として使用し、このホスト材料中に、リン光性の発光材料をゲスト材料として分散させて発光層を形成することも行われる。
【非特許文献1】C. W. Tang and S. A. VanSlyke; Appl. Phys. Lett. , 51 (1987) 913
【非特許文献2】C. Adachi, T. Tsutsui and S. Saito; Appl. Phys. Lett. , 55 (1989) 1489
【非特許文献3】C. Adachi, S. Tokito, T. Tsutsui and S. Saito; Jpn. J. Appl. Phys. , 27 (1988) L269
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機EL素子を用いて、液晶ディスプレイ等に代わる新たなディスプレイ装置を作製するためには、それぞれ、赤、緑、青の光の三原色に発光する有機EL素子の構成を有する微小な発光セルを、ディスプレイのドットごとに配列すること等が考えられる。そのためには、赤、緑、および青の各色の発光セルを構成する有機EL素子が、ほぼ同じ発光効率、発光輝度で発光することが肝要である。
【0009】
しかし、現在、緑色および赤色については、上記ディスプレイ装置等を実現するために必要な高い発光効率、発光輝度を有する素子を構成しうる発光材料や発光層が既に実用化されているものの、青色については、緑色や赤色と同等の発光効率、発光輝度を有するものが開発されていないのが現状である。
例えば、青色発光の発光層として一般的に知られている、式(51):
【0010】
【化1】
【0011】
で表される4,4′−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル〈CBP〉をホスト材料として用いて、このホスト材料からなる層中に、ゲスト材料として、式(21):
【0012】
【化2】
【0013】
で表されるイリジウム(III)ビス〔(4,6−ジ−フルオロフェニル)−ピリジナト−N,C2′〕ピコリナート〈FIrpic〉を分散させた構造を有する発光層を備えた有機EL素子の量子効率は、後述する比較例1の結果からも明らかなように5.7%程度であり、発光効率の更なる向上が求められる。
また、有機EL素子は、長時間、発光させると発光輝度が大きく低下するという問題があり、安定性の向上と長寿命化も大きな課題である。そして、この課題を解決するために、電界発光層を構成する各層の耐久性を向上することも求められる。
【0014】
本発明の目的は、発光効率、発光輝度および耐久性に優れた有機EL素子、特に、青色の発光効率、発光輝度を、他の色と同等まで向上し、しかも耐久性にも優れた有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の発明は、単層の、または2層以上の積層構造を有する電界発光層と、この電界発光層に電子を注入するための陰極と、電界発光層に正孔を注入するための陽極とを備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、電界発光層が、式(1):
【0016】
【化3】
【0017】
〔式中、R1は置換基を有してもよいアリール基を示し、R2は置換基を有してもよいアリール基、または−O−基を示す。〕
で表される繰り返し単位を直接に、または−O−基を介して、2〜20単位、直鎖状、環状、または網目状に繋ぐと共に、式(1)の繰り返し単位を直鎖状に繋いだときは、その両末端に、置換基を有してもよいアリール基を結合した構造を有する有機ケイ素化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0018】
請求項2記載の発明は、電界発光層が、発光材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する発光層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
請求項3記載の発明は、発光層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、発光層と陰極との間に設けられる電子輸送層、および発光層と陽極との間に設けられる正孔輸送層のうちの少なくとも一方を備える請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0019】
請求項4記載の発明は、電界発光層が、発光材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する単層の発光層である請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
請求項5記載の発明は、電界発光層が、正孔輸送材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する正孔輸送層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0020】
請求項6記載の発明は、正孔輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、正孔輸送層と陰極との間に設けられる発光層と、この発光層と陰極との間に設けられる電子輸送層とを備える請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
請求項7記載の発明は、正孔輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、正孔輸送層と陰極との間に設けられる電子輸送層を備え、正孔輸送層と電子輸送層のうちの一方が発光層を兼ねる請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0021】
請求項8記載の発明は、電界発光層が、式(1)で表される有機ケイ素化合物を電子輸送材料として含有する電子輸送層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
請求項9記載の発明は、電子輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、電子輸送層と陽極との間に設けられる発光層と、この発光層と陽極との間に設けられる正孔輸送層とを備える請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0022】
請求項10記載の発明は、電子輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、電子輸送層と陽極との間に設けられる正孔輸送層を備え、正孔輸送層と電子輸送層のうちの一方が発光層を兼ねる請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【発明の効果】
【0023】
発明者は、まず、発光材料と共に発光層を形成するホスト材料について検討した。その結果、前記のように、直鎖状、環状、もしくは網目状に繋がれたシロキサン、またシランを基本骨格とし、この基本骨格の、ケイ素原子に結合した水素原子を全てアリール基で置換した構造を有する、式(1)で表される有機ケイ素化合物を、ホスト材料として使用すればよいことを見出した。
【0024】
すなわち、式(1)の有機ケイ素化合物においては、アリール基が、いずれも、ケイ素原子を介して結合していることから、複数のアリール基に亘る大きなπ電子共役系が形成されず、層中で、それぞれのアリール基が、独立した芳香族化合物と同等の挙動をする。例えば、アリール基がフェニル基である有機ケイ素化合物によって形成した層は、その融点以上では固体膜化することが不可能な、ベンゼンの膜と同等の機能を有するものとなる。そのため、式(1)の有機ケイ素化合物は、ホスト材料としてのエネルギーレベルが高い。しかも、それぞれのアリール基は、実際には、シロキサンまたはシランという強固な基本骨格によって結合されていることから、式(1)の有機ケイ素化合物は、例えば、真空蒸着法等によって膜化する際の成膜性にも優れている。したがって、式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料として用いて発光層を形成することにより、有機EL素子の発光効率、発光輝度を、これまでよりも向上することが可能となる。
【0025】
また、上記のように各アリール基は、発光層中で、それぞれ独立した芳香族化合物と同等の挙動をすることから、当該アリール基として、発光材料の発光波長と近い発光スペクトルを有する芳香族化合物に相当する基を選択すれば、素子の発光効率、発光輝度を、さらに向上することもできる。特に、アリール基として、ベンゼンに相当するフェニル基等の、青色の発光スペクトルを有する芳香族化合物に相当する基を選択した式(1)の有機ケイ素化合物を、ゲスト材料としての青色発光の発光材料と組み合わせて発光層を形成すれば、青色発光の有機EL素子の発光効率および発光輝度を、他の色の素子と同等程度まで向上することも可能である。
【0026】
しかも、式(1)の有機ケイ素化合物の基本骨格であるシロキサンまたはシランは、強固で、かつ耐熱性、安定性等に優れていることから、当該式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料として使用すれば、発光層の、そして当該発光層を有する有機EL素子の耐久性を向上することも可能となる。
また、式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料、正孔輸送材料をゲスト材料として用いて正孔輸送層を形成すると、当該式(1)の有機ケイ素化合物が、前記のようにホスト材料としてのエネルギーレベルが高いことから、正孔輸送材料による正孔輸送特性を向上させて、有機EL素子の発光効率、発光輝度を向上させることができる。また、正孔輸送層の、そして有機EL素子の耐久性を向上することもできる。
【0027】
さらに、式(1)の有機ケイ素化合物は良好な電子輸送能を有することから、当該有機ケイ素化合物を電子輸送材料として使用して電子輸送層を形成すると、電子輸送層の電子輸送特性を向上させて、有機EL素子の発光効率、発光輝度を向上させることができる。また、電子輸送層の、そして有機EL素子の耐久性を向上することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明を説明する。
本発明の有機EL素子は、前記のように、単層の、または2層以上の積層構造を有する電界発光層と、この電界発光層に電子を注入するための陰極と、電界発光層に正孔を注入するための陽極とを備え、電界発光層が、式(1):
【0029】
【化4】
【0030】
〔式中、R1は置換基を有してもよいアリール基を示し、R2は置換基を有してもよいアリール基、または−O−基を示す。〕
で表される繰り返し単位を直接に、または−O−基を介して、2〜20単位、直鎖状、環状、または網目状に繋ぐと共に、式(1)の繰り返し単位を直鎖状に繋いだときは、その両末端に、置換基を有してもよいアリール基を結合した構造を有する有機ケイ素化合物を含有することを特徴とするものである。
【0031】
《有機ケイ素化合物》
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物において、R1およびR2に相当するアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、o−テルフェニル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。また、アリール基に置換してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の、炭素数1〜6のアルキル基や、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等が挙げられ、特に、メチル基、エチル基等のアルキル基が好ましい。置換基は、1つのアリール基に対して1つ以上、置換することができる。
【0032】
式(1)で表される有機ケイ素化合物としては、例えば、式(11):
【0033】
【化5】
【0034】
〔式中、R1、R2、R3、R4は、同一または異なって、それぞれ置換基を有してもよいアリール基を示す。nは2〜20の整数を示す。〕
で表される直鎖シラン化合物、式(12):
【0035】
【化6】
【0036】
〔式中、R1、R2、R3、R4は、同一または異なって、それぞれ置換基を有してもよいアリール基を示す。nは2〜20の整数を示す。〕
で表される直鎖シロキサン化合物、式(13):
【0037】
【化7】
【0038】
〔式中、R1、R2は、同一または異なって、それぞれ置換基を有してもよいアリール基を示す。nは2〜20の整数を示す。〕
で表される環状シロキサン化合物、および式(14):
【0039】
【化8】
【0040】
〔式中、R1は置換基を有してもよいアリール基を示す。〕
で表される繰り返し単位からなり、ケイ素原子間が必ず−O−基で繋がれていると共に、その単位数が1〜10である網目状シロキサン化合物等が挙げられる。
このうち、式(13)で表される環状シロキサン化合物、および式(14)で表される網目状シロキサン化合物は、いずれも、式(12)で表される直鎖シロキサン化合物を、窒素雰囲気中で熱分解および閉環反応させることによって合成される。式(13)で表される環状シロキサン化合物を合成するための加熱温度は、275〜405℃程度である。
【0041】
式(11)で表される直鎖シラン化合物の具体例としては、式(11-1)で表される化合物が挙げられる。
【0042】
【化9】
【0043】
また、式(12)で表される直鎖シロキサン化合物の具体例としては、式(12-1)で表される化合物が挙げられる。
【0044】
【化10】
【0045】
さらに、式(13)で表される環状シロキサン化合物の具体例としては、式(13-1)で表される化合物(DPSiO3)、および式(13-2)で表される化合物(DPSiO4)が挙げられる。
【0046】
【化11】
【0047】
【化12】
【0048】
そして、式(14)で表される網目状シロキサン化合物の具体例としては、式(14-1)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
【化13】
【0050】
《有機EL素子》
上記式(1)の有機ケイ素化合物を含む電界発光層は、単層であってもよいし、2層以上の積層構造を有していてもよい。電界発光層が2層以上の積層構造を有する場合、式(1)の有機ケイ素化合物は、発光層、正孔輸送層、および電子輸送層のいずれか1層、または2層以上に含有させることができる。
【0051】
このうち、発光層に式(1)の有機ケイ素化合物を含有させる場合、当該発光層としては、式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料として用いて形成した層中に、ゲスト材料として、リン光性または蛍光性を有する発光材料を分散させた構造を有する層等が挙げられる。かかる構造を有する発光層は、式(1)の有機ケイ素化合物を、真空蒸着法等の気相成長法や、当該式(1)の有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布して乾燥させる溶液塗布法等の、種々の成膜法によって膜化した後、発光材料をドーピングして形成することができる。
【0052】
先に説明したように、式(1)で表される有機ケイ素化合物は、ホスト材料としてのエネルギーレベルが高く、かつ成膜性に優れると共に、耐熱性、安定性に優れていることから、上記の構造を有する発光層を含む、積層構造の電界発光層を備えた有機EL素子は、発光効率、発光輝度が高く、かつ耐久性に優れたものとなる。
また、式(1)の有機ケイ素化合物として、前記式(11-1)〜(14-1)のいずれかで表される化合物等の、式(1)中のアリール基がフェニル基である化合物など、青色の発光スペクトルを有する化合物を選択して、ゲスト材料としての青色発光の発光材料と組み合わせれば、赤色や緑色などの他の色の素子と同等レベルの高い発光効率および発光輝度を有する青色発光の有機EL素子を形成することもできる。
【0053】
発光層における、発光材料の含有割合は、式(1)の有機ケイ素化合物と発光材料との総量の0.1〜30重量%であるのが好ましく、0.1〜10重量%であるのがさらに好ましい。発光材料の含有割合がこの範囲未満では、素子の発光効率および発光輝度が低下して、十分な発光が得られないおそれがあり、この範囲を超える場合には、相対的に、式(1)の有機ケイ素化合物の量が不足するため、却って、素子の発光効率および発光輝度が低下して、十分な発光が得られないおそれがある。また、素子の耐久性が低下するおそれもある。
【0054】
発光材料としては、リン光性もしくは蛍光性を有する種々の、有機金属錯体や有機金属化合物等がいずれも使用可能である。このうち、リン光性の発光材料としては、例えば、式(21)で表されるイリジウム(III)ビス〔(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナト−N,C2′〕ピコリナート〈FIrpic〉、式(22)で表されるイリジウム(III)ビス(4′,6′−ジフルオロフェニルピリジナト)テトラキス(1−ピラゾリル)ボラート〈FIr6〉、式(23)で表されるビス〔2−(3,5−ビストリフルオロメチル−フェニル)−ピリジナト−N,C2′〕イリジウム(III)ピコリナート〈(CF3ppy)2Ir(pic)〉〔以上、青色発光〕、式(24)で表されるfac−トリス−(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)〈Ir(ppy)3〉、式(25)で表されるビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)アセチルアセトナート〈Ppy2Ir(acac)〉〔以上、緑色発光〕、式(26)で表されるビス(2−フェニルベンゾチアゾラト−N,C2′)イリジウム(III)アセチルアセトナート〈Bt2Ir(acac)〉〔黄色発光〕、式(27)で表されるビス〔2−(2′−ベンゾ(4,5−a)チエニル)ピリジナト−N,C3′〕イリジウム(III)アセチルアセトナート〈Btp2Ir(acac)〉、式(28)で表されるイリジウム(III)ビス(ジベンゾ[f,h]キノザリン)アセチルアセトナート〈Ir(DBQ)2(acac)〉〔以上、赤色発光〕等が挙げられる。
【0055】
【化14】
【0056】
【化15】
【0057】
【化16】
【0058】
【化17】
【0059】
【化18】
【0060】
【化19】
【0061】
【化20】
【0062】
【化21】
【0063】
また、蛍光性の発光材料としては、例えば、式(29)で表されるトリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)錯体〈Alq3〉〔緑色発光〕等が挙げられる。
【0064】
【化22】
【0065】
また、発光層には、当該発光層の発光波長を調整するために、レーザー色素等をドーピングすることもできる。レーザー色素としては、例えば、式(31)で表される4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(ユロリジン−4−イル−ビニル)−4H−ピラン〈DCM2〉〔赤色発光〕、式(32)で表されるクマリン6〔緑色発光〕、式(33)で表されるペリレン〔青色発光〕等が挙げられる。
【0066】
【化23】
【0067】
【化24】
【0068】
【化25】
【0069】
発光層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜30nmであるのがさらに好ましい。発光層の膜厚がこの範囲未満では、発光効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
発光層と共に、積層構造の電界発光層を構成する他の層としては、発光層と陰極との間に設けられる電子輸送層や、発光層と陽極との間に設けられる正孔輸送層等が挙げられる。このうち、電子輸送層を形成する電子輸送材料としては、例えば、式(41)で表される2−(4′−t−ブチルフェニル)−5−(4″−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール〈PBD〉、式(42)で表される3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール〈TAZ〉、式(43)で表される4,7−ジフェニル−1,10−フェナントリロン〈Bphen〉、式(44)で表される2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントリロン〈BCP〉、式(45)で表されるビス(2−メチル−8−キノリノラート−N1,O8)−(1,1′−ビフェニル−4−オラート)アルミニウム〈BAlQ2〉等が挙げられる。また、前記式(29)で表されるAlq3も、電子輸送材料として使用することができる。
【0070】
【化26】
【0071】
【化27】
【0072】
【化28】
【0073】
【化29】
【0074】
【化30】
【0075】
電子輸送層は単層であってもよいし、本来的な意味の電子輸送層と、それを補助する電子注入層、正孔阻止層等との積層構造を有していてもよい。このうち、電子注入層は、電子輸送層と陰極との間に設けられて、陰極から電子輸送層への電子の注入を補助するための層であって、上記例示の各種電子輸送材料のうち、特に、電子の注入を補助する機能に優れた、上記式(45)で表されるBAlQ2等によって形成するのが好ましい。
【0076】
また、正孔阻止層は、電子輸送層と発光層との間に設けられて、陽極から発光層に注入された正孔が、電子と再結合せずに陰極に逃げるのを阻止するための層であって、上記例示の各種電子輸送材料のうち、特に、正孔を阻止する機能に優れた、上記式(42)で表されるTAZや、式(43)で表されるBphen、式(44)で表されるBCP等によって形成するのが好ましい。
【0077】
単層の電子輸送層や、積層構造の電子輸送層を構成する各層は、それぞれ、真空蒸着法等の気相成長法や、溶液塗布法等によって形成することができる。また、単層の電子輸送層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。電子輸送層の膜厚がこの範囲未満では、電子注入効率が不十分になったり、正孔の閉じ込め効果が不十分になったりするおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0078】
また、積層構造の電子輸送層のうち、本体としての電子輸送層の膜厚は、1〜20nmであるのが好ましく、5〜10nmであるのがさらに好ましい。電子輸送層の膜厚がこの範囲未満では、電子注入効率が不十分になったり、正孔の閉じ込め効果が不十分になったりするおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0079】
また、電子注入層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。電子注入層の膜厚がこの範囲未満では、当該電子注入層による、陰極から電子輸送層に電子を注入する効果が十分に得られないおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
さらに、正孔阻止層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。正孔阻止層の膜厚がこの範囲未満では、当該正孔阻止層による、正孔が陰極に逃げるのを阻止する効果が十分に得られないおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0080】
発光層と共に積層構造の電界発光層を構成する正孔輸送層のもとになる正孔輸送材料としては、例えば、式(51)で表される4,4′−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル〈CBP〉、式(52)で表されるN,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−1,1′−ビフェニル−4,4′−ジアミン〈TPD〉、式(53)で表される4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル〈α−NPD〉、式(54)で表される4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン〈m−MTDATA〉等が挙げられる。
【0081】
【化31】
【0082】
【化32】
【0083】
【化33】
【0084】
【化34】
【0085】
正孔輸送層は単層であってもよいし、本来的な意味の正孔輸送層と、それを補助する正孔注入層、電子阻止層等との積層構造を有していてもよい。このうち、正孔注入層は、正孔輸送層と陽極との間に設けられて、陽極から正孔輸送層への電子の注入を補助するための層であって、特に、正孔の注入を補助する機能に優れた、上記式(51)〜(54)で表される各化合物や、式(55)で表される銅フタロシアニン(CuPC)等によって形成するのが好ましい。
【0086】
【化35】
【0087】
また、電子阻止層は、正孔輸送層と発光層との間に設けられて、陰極から発光層に注入された電子が、正孔と再結合せずに陽極に逃げるのを阻止するための層であって、特に、正孔を阻止する機能に優れた、式(56)で表される1,3−ジ(N−カルバゾリル)フェニル(mCP)等によって形成するのが好ましい。
【0088】
【化36】
【0089】
単層の正孔輸送層や、積層構造の正孔輸送層を構成する各層は、それぞれ、真空蒸着法等の気相成長法や、溶液塗布法等によって形成することができる。また、単層の正孔輸送層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。正孔輸送層の膜厚がこの範囲未満では、正孔注入効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0090】
また、積層構造の正孔輸送層のうち、本体としての正孔輸送層の膜厚は、1〜20nmであるのが好ましく、5〜10nmであるのがさらに好ましい。正孔輸送層の膜厚がこの範囲未満では、正孔注入効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
また、正孔注入層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。正孔注入層の膜厚がこの範囲未満では、当該正孔注入層による、陽極から正孔輸送層に正孔を注入する効果が十分に得られないおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0091】
さらに、電子阻止層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、2〜50nmであるのがさらに好ましい。電子阻止層の膜厚がこの範囲未満では、当該電子阻止層による、電子が陽極に逃げるのを阻止する効果が十分に得られないおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
積層構造を有する電界発光層のうち、正孔輸送層に式(1)の有機ケイ素化合物を含有させる場合、当該正孔輸送層としては、式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料として用いて形成した層中に、ゲスト材料として、正孔輸送材料を分散させた構造を有する層等が挙げられる。かかる構造を有する正孔輸送層は、式(1)の有機ケイ素化合物を、真空蒸着法等の気相成長法や、溶液塗布法等によって膜化した後、正孔輸送材料をドーピングして形成することができる。正孔輸送材料としては、前記例示の、式(51)〜(54)で表される各化合物等が挙げられる。
【0092】
式(1)で表される有機ケイ素化合物が、先に説明したように、ホスト材料としてのエネルギーレベルが高く、かつ成膜性に優れると共に、耐熱性、安定性に優れていることから、上記の構造を有する正孔輸送層を含む、積層構造の電界発光層を備えた有機EL素子は、発光効率、発光輝度が高く、かつ耐久性に優れたものとなる。
正孔輸送層における、正孔輸送材料の含有割合は、式(1)の有機ケイ素化合物と正孔輸送材料との総量の10〜90重量%であるのが好ましく、50〜90重量%であるのがさらに好ましい。正孔輸送材料の含有割合がこの範囲未満では、正孔輸送層による正孔輸送能が低下して、素子の発光効率および発光輝度が低下するおそれがあり、この範囲を超える場合には、相対的に、式(1)の有機ケイ素化合物の量が不足するため、却って、正孔輸送層による正孔輸送能が低下して、素子の発光効率および発光輝度が低下するおそれがある。また、阻止の耐久性が低下するおそれもある。
【0093】
式(1)の有機ケイ素化合物を含有する上記の正孔輸送層は、単層で、発光層や電子輸送層と組み合わせて電界発光層を構成してもよいし、先に説明した正孔注入層や電子阻止層と組み合わせて積層構造の正孔輸送層として、発光層や電子輸送層と組み合わせて電界発光層を構成してもよい。また、正孔輸送層と組み合わせる発光層としては、前記の、式(1)の有機ケイ素化合物を含む発光層が挙げられる他、従来公知の種々の構成を有する発光層を組み合わせることもできる。
【0094】
すなわち、式(51)で表されるCBPや、式(56)で表されるmCP、あるいは式(57):
【0095】
【化37】
【0096】
で表される2,2′−ジメチル−4,4′−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル〈CDBP〉等のフェニルカルバゾール誘導体、式(58):
【0097】
【化38】
【0098】
で表されるジフェニルジ(o−トリル)シラン〈UGH1〉、式(59):
【0099】
【化39】
【0100】
で表されるp−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン〈UGH2〉等のアリールシラン化合物等をホスト材料として用いて形成した層中に、ゲスト材料として、前記例示の各種の発光材料を分散させた構造を有する発光層を組み合わせることができる。
また、式(1)の有機ケイ素化合物を含有する正孔輸送層と組み合わせる電子輸送層としては、前記の、種々の電子輸送材料からなる単層の、あるいは2層以上の積層構造を有するものが挙げられる他、次に述べる、式(1)の有機ケイ素化合物を含有する電子輸送層を組み合わせることもできる。式(1)の有機ケイ素化合物を含有する正孔輸送層を含む電界発光層の具体例としては、当該正孔輸送層と電子輸送層の2層構造(正孔輸送層、電子輸送層はそれぞれ単層でも積層構造でもよい)で、いずれか一方が発光層を兼ねるものや、正孔輸送層と発光層と電子輸送層の3層構造(正孔輸送層、電子輸送層はそれぞれ単層でも積層構造でもよい)を有するもの等が挙げられる。
【0101】
単層の正孔輸送層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、20〜50nmであるのがさらに好ましい。正孔輸送層の膜厚がこの範囲未満では、正孔注入効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
また、積層構造の正孔輸送層のうち、本体としての正孔輸送層の膜厚は、1〜30nmであるのが好ましく、10〜20nmであるのがさらに好ましい。正孔輸送層の膜厚がこの範囲未満では、正孔注入効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0102】
積層構造を有する電界発光層のうち、電子輸送層に式(1)の有機ケイ素化合物を含有させる場合、当該電子輸送層としては、式(1)の有機ケイ素化合物を、真空蒸着法等の気相成長法や、溶液塗布法等によって膜化した層が挙げられる。
先に説明したように、式(1)で表される有機ケイ素化合物が、電子輸送能に優れ、かつ成膜性に優れると共に、耐熱性、安定性に優れていることから、上記の構造を有する電子輸送層を含む、積層構造の電界発光層を備えた有機EL素子は、発光効率、発光輝度が高く、かつ耐久性に優れたものとなる。
【0103】
式(1)の有機ケイ素化合物を含有する上記の電子輸送層は、単層で、発光層や正孔輸送層と組み合わせて電界発光層を構成してもよいし、先に説明した電子注入層や正孔阻止層と組み合わせて積層構造の電子輸送層として、発光層や正孔輸送層と組み合わせて電界発光層を構成してもよい。また、電子輸送層と組み合わせる発光層としては、前記の、式(1)の有機ケイ素化合物を含む発光層が挙げられる他、上で説明した種々の構成を有する発光層を組み合わせることもできる。式(1)の有機ケイ素化合物を含有する電子輸送層を含む電界発光層の具体例としては、当該電子輸送層と正孔輸送層の2層構造(正孔輸送層、電子輸送層はそれぞれ単層でも積層構造でもよい)で、いずれか一方が発光層を兼ねるものや、電子輸送層と発光層と正孔輸送層の3層構造(正孔輸送層、電子輸送層はそれぞれ単層でも積層構造でもよい)を有するもの等が挙げられる。
【0104】
単層の電子輸送層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、20〜50nmであるのがさらに好ましい。電子輸送層の膜厚がこの範囲未満では、電子注入効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
また、積層構造の電子輸送層のうち、本体としての電子輸送層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。電子輸送層の膜厚がこの範囲未満では、電子注入効率が低下するおそれがありおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0105】
式(1)の有機ケイ素化合物を含む単層の電界発光層は、前記積層構造の電界発光層に含まれる発光層と同様に構成することができる。すなわち、単層の電界発光層としては、式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料として用いて形成した層中に、ゲスト材料として、前記例示の各種の発光材料を分散させた構造を有する層等が挙げられる。
式(1)で表される有機ケイ素化合物が、先に説明したように、ホスト材料としてのエネルギーレベルが高く、かつ成膜性に優れると共に、耐熱性、安定性に優れていることから、上記の構造を有する単層の電界発光層を備えた有機EL素子は、発光効率、発光輝度が高く、かつ耐久性に優れたものとなる。
【0106】
また、式(1)の有機ケイ素化合物として、前記式(11-1)〜(14-1)のいずれかで表される化合物等の、式(1)中のアリール基がフェニル基である化合物など、青色の発光スペクトルを有する化合物を選択して、ゲスト材料としての青色発光の発光材料と組み合わせれば、赤色や緑色などの他の色の素子と同等レベルの高い発光効率および発光輝度を有する青色発光の有機EL素子を形成することもできる。
【0107】
かかる構造を有する単層の電界発光層は、式(1)の有機ケイ素化合物を、真空蒸着法等の気相成長法や、当該式(1)の有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布して乾燥させる溶液塗布法等の、種々の成膜法によって膜化した後、発光材料をドーピングして形成することができる。
単層の電界発光層における、発光材料の含有割合は、式(1)の有機ケイ素化合物と発光材料との総量の0.1〜30重量%であるのが好ましく、0.1〜10重量%であるのがさらに好ましい。発光材料の含有割合がこの範囲未満では、素子の発光効率および発光輝度が低下して、十分な発光が得られないおそれがあり、この範囲を超える場合には、相対的に、式(1)の有機ケイ素化合物の量が不足するため、却って、素子の発光効率および発光輝度が低下して、十分な発光が得られないおそれがある。また、素子の耐久性が低下するおそれもある。
【0108】
単層の電界発光層の膜厚は、10〜200nmであるのが好ましく、50〜100nmであるのがさらに好ましい。膜厚がこの範囲未満では、発光効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
以上で説明した積層構造の電界発光層のうち、式(1)で表される有機ケイ素化合物を含む層や、単層の電界発光層には、本発明の効果を阻害したり低下させたりしない範囲で、各層において有機ケイ素化合物と同じ機能をする他の化合物を添加してもよい。すなわち、積層構造の電界発光層のうち発光層や正孔輸送層、単層構造の電界発光層には、式(1)の有機ケイ素化合物と共に、ホスト材料として機能する、式(51)、(56)〜(59)で表される化合物等を含有させてもよい。また、積層構造の電界発光層のうち電子輸送層には、式(1)の有機ケイ素化合物と共に、式(29)、(41)〜(44)で表される化合物を含有させてもよい。
【0109】
上記電界発光層と共に有機EL素子を構成する陰極としては、電界発光層への電子の注入効率を向上することを考慮すると、仕事関数の小さい材料からなるものが好ましく、例えば、マグネシウム、アルミニウム、リチウム、インジウム、マグネシウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、アルミニウム−リチウム合金等からなる薄膜が、陰極として好適に使用される。また、陰極上には、銀等からなる保護層を形成してもよい。
【0110】
また、陽極としては、電界発光層への正孔の注入効率を向上することを考慮すると、逆に仕事関数の大きい材料からなるものが好ましい。また、電界発光層からの光を素子の外部へ効率よく取り出すことも併せて考慮すると、陰極としては、例えばインジウム−スズ複合酸化物(ITO)からなる薄膜が好適に使用される。
【実施例】
【0111】
以下に、本発明を、実施例、比較例に基づいて説明する。
実施例1:
ガラス基板上に、下記の各層を、順に、いずれも真空蒸着法によって成膜して、3層の積層構造を有する電界発光層を備えた有機EL素子を作製した。なお、発光層における発光材料のドーピング量(含有割合)は、式(13-1)で表されるDPSiO3と発光材料との総量の6重量%、または10重量%とした。
【0112】
陽極:厚み110nmのITO層。
正孔輸送層:厚み50nmの、式(52)で表されるTPDの層。
発光層:ホスト材料としての、式(13-1)で表されるDPSiO3からなる層中に、ゲスト材料(発光材料)として、式(24)で表されるIr(ppy)3をドーピングして形成した、厚み20nmの層。
【0113】
電子輸送層:厚み40nmの、式(43)で表されるBphenの層。
陰極:厚み100nmの、マグネシウム−銀合金の層。
保護層:厚み10nmの銀の層。
上記有機EL素子のうち、発光材料のドーピング量が6重量%であったものの、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、図1〜3に示す結果が得られた。図1は印加電圧と電流密度との関係を示すグラフ、図2は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフ、図3は、素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0114】
上記有機EL素子の、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、発光材料のドーピング量を6重量%としたものは、図1〜3に示す結果が、また、ドーピング量を10重量%としたものは、図4〜6に示す結果が得られた。なお、図1、4は、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフ、図2、5は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフ、図3、6は、素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0115】
これらの図から明らかなように、実施例1の構成によれば、発光材料のドーピング量が6重量%であっても、有機EL素子を、外部量子効率が10%に近い、高い発光効率で、緑色に発光できること、発光材料のドーピング量を10重量%に増加させれば、発光効率をさらに向上できることが確認された。
実施例2:
ガラス基板上に、下記の各層を、順に、いずれも真空蒸着法によって成膜して、5層の積層構造を有する電界発光層を備えた有機EL素子を作製した。なお、発光層における発光材料のドーピング量(含有割合)は、式(13-2)で表されるDPSiO4と発光材料との総量の10重量%、または20重量%とした。
【0116】
陽極:厚み110nmのITO層。
正孔注入層:厚み10nmの、式(55)で表されるCuPCの層。
正孔輸送層:厚み30nmの、式(53)で表されるα−NPDの層。
電子阻止層:厚み10nmの、式(56)で表されるmCPの層。
発光層:ホスト材料としての、式(13-2)で表されるDPSiO4からなる層中に、ゲスト材料(発光材料)として、式(21)で表されるFIrpicをドーピングして形成した、厚み20nmの層。
【0117】
電子輸送層:厚み40nmの、式(43)で表されるBphenからなる層。
陰極:厚み100nmの、マグネシウム−銀合金からなる層。
保護層:厚み10nmの銀の層。
上記有機EL素子の、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、発光材料のドーピング量を10重量%としたものは、図7〜9に示す結果が、また、ドーピング量を20重量%としたものは、図10〜12に示す結果が得られた。なお、図7、10は、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフ、図8、11は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフ、図9、12は、素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0118】
これらの図から明らかなように、実施例2の構成によれば、発光材料のドーピング量が10重量%であっても、有機EL素子を、外部量子効率が10%に近い、高い発光効率で、青色に発光できること、発光材料のドーピング量を20重量%に増加させれば、発光効率をさらに向上できることが確認された。
実施例3:
ガラス基板上に、下記の各層を、順に、いずれも真空蒸着法によって成膜して、4層の積層構造を有する電界発光層を備えた有機EL素子を作製した。なお、発光層における発光材料のドーピング量(含有割合)は、式(13-2)で表されるDPSiO4と発光材料との総量の20重量%とした。
【0119】
陽極:厚み110nmのITO層。
正孔輸送層:厚み40nmの、式(53)で表されるα−NPDの層。
電子阻止層:厚み10nmの、式(56)で表されるmCPの層。
発光層:ホスト材料としての、式(13-2)で表されるDPSiO4からなる層中に、ゲスト材料(発光材料)として、式(21)で表されるFIrpicをドーピングして形成した、厚み20nmの層。
【0120】
電子輸送層:厚み40nmの、式(43)で表されるBphenからなる層。
陰極:厚み100nmの、マグネシウム−銀合金からなる層。
保護層:厚み10nmの銀の層。
上記有機EL素子の、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、図13〜15に示す結果が得られた。なお、図13は、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフ、図14は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフ、図15は、素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0121】
これらの図から明らかなように、実施例3の構成によれば、有機EL素子を、外部量子効率が10%に近い、高い発光効率で、青色に発光できることが確認された。また、これらの図と、前記実施例2の、発光材料のドーピング量が同じ20重量%である図10〜12の結果から明らかなように、正孔注入層を設ける(実施例2)ことで、設けないもの(実施例3)に比べて、電流密度を上昇させて、発光効率を向上できることも確認された。
【0122】
実施例4:
ガラス基板上に、下記の各層を、順に、いずれも真空蒸着法によって成膜して、4層の積層構造を有する電界発光層を備えた有機EL素子を作製した。なお、発光層における発光材料のドーピング量(含有割合)は、式(13-1)で表されるDPSiO3と発光材料との総量の20重量%とした。
【0123】
陽極:厚み110nmのITO層。
正孔輸送層:厚み40nmの、式(53)で表されるα−NPDの層。
電子阻止層:厚み10nmの、式(56)で表されるmCPの層。
発光層:ホスト材料としての、式(13-1)で表されるDPSiO3からなる層中に、ゲスト材料(発光材料)として、式(21)で表されるFIrpicをドーピングして形成した、厚み20nmの層。
【0124】
電子輸送層:厚み40nmの、式(43)で表されるBphenからなる層。
陰極:厚み100nmの、マグネシウム−銀合金からなる層。
保護層:厚み10nmの銀の層。
上記有機EL素子の、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、図16〜18に示す結果が得られた。なお、図16は、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフ、図17は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフ、図18は、素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0125】
これらの図から明らかなように、実施例4の構成によれば、有機EL素子を、外部量子効率が10%という高い発光効率で、青色に発光できることが確認された。また、これらの図と、実施例3の、図13〜15の結果から明らかなように、発光層のホスト材料として、DPSiO3を用いたもの(実施例4)の方が、DPSiO4を用いたもの(実施例3)よりも発光効率を向上できることも確認された。
【0126】
比較例1:
ガラス基板上に、下記の各層を、順に、いずれも真空蒸着法によって成膜して、5層の積層構造を有する電界発光層を備えた有機EL素子を作製した。なお、発光層における発光材料のドーピング量(含有割合)は、式(51)で表されるCBPと発光材料との総量の6重量%とした。
【0127】
陽極:厚み110nmのITO層。
正孔注入層:厚み10nmの、式(55)で表されるCuPCの層。
正孔輸送層:厚み30nmの、式(53)で表されるα−NPDの層。
発光層:ホスト材料としての、式(51)で表されるCBPからなる層中に、ゲスト材料(発光材料)として、式(21)で表されるFIrpicをドーピングして形成した、厚み30nmの層。
【0128】
電子輸送層:厚み30nmの、式(45)で表されるBAlq2からなる層。
陰極:厚み100nmの、フッ化リチウムからなる層。
陰極:厚み100nmのアルミニウムの層。
上記有機EL素子の、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、図19に示す結果が得られた。なお、図19は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【0129】
図から明らかなように、比較例1の構成によれば、有機EL素子を、外部量子効率が5.7%程度という低い発光効率でしか発光できないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の実施例1で作製した、発光材料のドーピング量が6重量%である発光層を含む電界発光層を備えた有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図2】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図3】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1で作製した、発光材料のドーピング量が10重量%である発光層を含む電界発光層を備えた有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図5】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図6】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2で作製した、発光材料のドーピング量が10重量%である発光層を含む電界発光層を備えた有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図8】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図9】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2で作製した、発光材料のドーピング量が20重量%である発光層を含む電界発光層を備えた有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図11】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図12】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例3で作製した有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図14】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図15】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例4で作製した有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図17】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図18】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図19】比較例1で作製した有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自己発光型であるため、バックライトを必要とする液晶ディスプレイよりもさらに薄いディスプレイ装置を作ることができるだけでなく、これまでよりも薄型のバックライトとして、液晶ディスプレイの薄型化をも可能とし、しかもプラズマディスプレイよりも構造が簡単である等、様々な利点を有することから、薄膜型の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」と略記する場合がある)が、次世代技術として注目されている。
【0003】
有機EL素子としては、最初、アントラセン等の有機蛍光体の単結晶や蒸着膜を、陰極と陽極とで挟んだ構造を有する素子が検討されたが、その後、電子と正孔との再結合効率を向上して、素子の発光効率を高めるために、リン光性または蛍光性を有する発光材料、電子輸送能を有する電子輸送材料、正孔輸送能を有する正孔輸送材料、成膜性を有するバインダ等、それぞれの機能に優れた化合物を複合的に用いた、単層の、あるいは2層以上の積層構造を有する機能分離型の電界発光層を備えたものが、広く研究されている。
【0004】
例えば、非特許文献1においては、電子輸送材料を含む電子輸送層と、正孔輸送材料を含む正孔輸送層とを積層した2層構造の電界発光層を備え、このうち電子輸送層に発光層としての機能を持たせた有機EL素子が提案されている。素子の構成は、陰極/電子輸送層/正孔輸送層/陽極/基板である。
この有機EL素子においては、正孔輸送層が、陽極から注入された正孔を電子輸送層に注入する働きをすると共に、陰極から電子輸送層に注入された電子が正孔と再結合せずに陽極に逃げるのを阻止して、電子輸送層内に封じ込めるためにも機能する。そのため、電子輸送層内で、電子と正孔とを効率よく再結合させることができる。そして、当該電子輸送層中に含まれる電子輸送材料等を効率よく発光させて、有機EL素子の発光効率を向上すると共に、その駆動電圧を低下させることができる。
【0005】
また、非特許文献2においては、上記2層構造を有する電界発光層において、逆に、正孔輸送層も発光層となりうることが示されている。素子の構成は、同じく、陰極/電子輸送層/正孔輸送層/陽極/基板である。
この有機EL素子においては、電子輸送層が、陰極から注入された電子を正孔輸送層に注入する働きをすると共に、陽極から正孔輸送層に注入された正孔が電子と再結合せずに陰極に逃げるのを阻止して、正孔輸送層内に封じ込めるためにも機能する。そのため、正孔輸送層内で、電子と正孔とを効率よく再結合させることができる。そして、当該正孔輸送層中に含まれる正孔輸送材料等を効率よく発光させて、有機EL素子の発光効率を向上すると共に、その駆動電圧を低下させることができる。
【0006】
さらに、非特許文献3においては、電子輸送層と正孔輸送層との間に、発光材料を含む発光層を挟んだ3層構造の電界発光層を備えた有機EL素子が提案されている。素子の構成は、陰極/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/陽極/基板である。
この有機EL素子においては、正孔輸送層が、陽極から注入された正孔を発光層に注入する働きをすると共に、陰極から発光層に注入された電子が正孔と再結合せずに陽極に逃げるのを阻止して、発光層内に封じ込めるために機能する。また、電子輸送層が、陰極から注入された電子を発光層に注入する働きをすると共に、陽極から発光層に注入された正孔が電子と再結合せずに陰極に逃げるのを阻止して、発光層内に封じ込めるために機能する。そのため、上で述べた2層構造のものに比べて、発光層内での電子と正孔の再結合効率を向上させて、有機EL素子の発光効率をさらに向上し、かつ駆動電圧をより一層、低下させることができる。
【0007】
これらの有機EL素子において、電子輸送材料としては、オキサジアゾール類、トリアゾール類が、また、正孔輸送材料としては、トリフェニルアミン誘導体等の芳香族第3級アミン類が、それぞれ一般的に用いられる。また、発光材料としては、リン光性もしくは蛍光性を有する有機金属錯体や有機金属化合物等が用いられる。
また、リン光性の発光材料は、一般に、成膜性が低く、しかも励起状態で自己消光を起こしやすいことから、有機EL素子の発光効率が低くなる傾向にあり、それを防止して発光効率を向上するために、例えば、フェニルカルバゾール誘導体等をホスト材料として使用し、このホスト材料中に、リン光性の発光材料をゲスト材料として分散させて発光層を形成することも行われる。
【非特許文献1】C. W. Tang and S. A. VanSlyke; Appl. Phys. Lett. , 51 (1987) 913
【非特許文献2】C. Adachi, T. Tsutsui and S. Saito; Appl. Phys. Lett. , 55 (1989) 1489
【非特許文献3】C. Adachi, S. Tokito, T. Tsutsui and S. Saito; Jpn. J. Appl. Phys. , 27 (1988) L269
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機EL素子を用いて、液晶ディスプレイ等に代わる新たなディスプレイ装置を作製するためには、それぞれ、赤、緑、青の光の三原色に発光する有機EL素子の構成を有する微小な発光セルを、ディスプレイのドットごとに配列すること等が考えられる。そのためには、赤、緑、および青の各色の発光セルを構成する有機EL素子が、ほぼ同じ発光効率、発光輝度で発光することが肝要である。
【0009】
しかし、現在、緑色および赤色については、上記ディスプレイ装置等を実現するために必要な高い発光効率、発光輝度を有する素子を構成しうる発光材料や発光層が既に実用化されているものの、青色については、緑色や赤色と同等の発光効率、発光輝度を有するものが開発されていないのが現状である。
例えば、青色発光の発光層として一般的に知られている、式(51):
【0010】
【化1】
【0011】
で表される4,4′−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル〈CBP〉をホスト材料として用いて、このホスト材料からなる層中に、ゲスト材料として、式(21):
【0012】
【化2】
【0013】
で表されるイリジウム(III)ビス〔(4,6−ジ−フルオロフェニル)−ピリジナト−N,C2′〕ピコリナート〈FIrpic〉を分散させた構造を有する発光層を備えた有機EL素子の量子効率は、後述する比較例1の結果からも明らかなように5.7%程度であり、発光効率の更なる向上が求められる。
また、有機EL素子は、長時間、発光させると発光輝度が大きく低下するという問題があり、安定性の向上と長寿命化も大きな課題である。そして、この課題を解決するために、電界発光層を構成する各層の耐久性を向上することも求められる。
【0014】
本発明の目的は、発光効率、発光輝度および耐久性に優れた有機EL素子、特に、青色の発光効率、発光輝度を、他の色と同等まで向上し、しかも耐久性にも優れた有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の発明は、単層の、または2層以上の積層構造を有する電界発光層と、この電界発光層に電子を注入するための陰極と、電界発光層に正孔を注入するための陽極とを備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、電界発光層が、式(1):
【0016】
【化3】
【0017】
〔式中、R1は置換基を有してもよいアリール基を示し、R2は置換基を有してもよいアリール基、または−O−基を示す。〕
で表される繰り返し単位を直接に、または−O−基を介して、2〜20単位、直鎖状、環状、または網目状に繋ぐと共に、式(1)の繰り返し単位を直鎖状に繋いだときは、その両末端に、置換基を有してもよいアリール基を結合した構造を有する有機ケイ素化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0018】
請求項2記載の発明は、電界発光層が、発光材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する発光層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
請求項3記載の発明は、発光層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、発光層と陰極との間に設けられる電子輸送層、および発光層と陽極との間に設けられる正孔輸送層のうちの少なくとも一方を備える請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0019】
請求項4記載の発明は、電界発光層が、発光材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する単層の発光層である請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
請求項5記載の発明は、電界発光層が、正孔輸送材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する正孔輸送層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0020】
請求項6記載の発明は、正孔輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、正孔輸送層と陰極との間に設けられる発光層と、この発光層と陰極との間に設けられる電子輸送層とを備える請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
請求項7記載の発明は、正孔輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、正孔輸送層と陰極との間に設けられる電子輸送層を備え、正孔輸送層と電子輸送層のうちの一方が発光層を兼ねる請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0021】
請求項8記載の発明は、電界発光層が、式(1)で表される有機ケイ素化合物を電子輸送材料として含有する電子輸送層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
請求項9記載の発明は、電子輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、電子輸送層と陽極との間に設けられる発光層と、この発光層と陽極との間に設けられる正孔輸送層とを備える請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0022】
請求項10記載の発明は、電子輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、電子輸送層と陽極との間に設けられる正孔輸送層を備え、正孔輸送層と電子輸送層のうちの一方が発光層を兼ねる請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【発明の効果】
【0023】
発明者は、まず、発光材料と共に発光層を形成するホスト材料について検討した。その結果、前記のように、直鎖状、環状、もしくは網目状に繋がれたシロキサン、またシランを基本骨格とし、この基本骨格の、ケイ素原子に結合した水素原子を全てアリール基で置換した構造を有する、式(1)で表される有機ケイ素化合物を、ホスト材料として使用すればよいことを見出した。
【0024】
すなわち、式(1)の有機ケイ素化合物においては、アリール基が、いずれも、ケイ素原子を介して結合していることから、複数のアリール基に亘る大きなπ電子共役系が形成されず、層中で、それぞれのアリール基が、独立した芳香族化合物と同等の挙動をする。例えば、アリール基がフェニル基である有機ケイ素化合物によって形成した層は、その融点以上では固体膜化することが不可能な、ベンゼンの膜と同等の機能を有するものとなる。そのため、式(1)の有機ケイ素化合物は、ホスト材料としてのエネルギーレベルが高い。しかも、それぞれのアリール基は、実際には、シロキサンまたはシランという強固な基本骨格によって結合されていることから、式(1)の有機ケイ素化合物は、例えば、真空蒸着法等によって膜化する際の成膜性にも優れている。したがって、式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料として用いて発光層を形成することにより、有機EL素子の発光効率、発光輝度を、これまでよりも向上することが可能となる。
【0025】
また、上記のように各アリール基は、発光層中で、それぞれ独立した芳香族化合物と同等の挙動をすることから、当該アリール基として、発光材料の発光波長と近い発光スペクトルを有する芳香族化合物に相当する基を選択すれば、素子の発光効率、発光輝度を、さらに向上することもできる。特に、アリール基として、ベンゼンに相当するフェニル基等の、青色の発光スペクトルを有する芳香族化合物に相当する基を選択した式(1)の有機ケイ素化合物を、ゲスト材料としての青色発光の発光材料と組み合わせて発光層を形成すれば、青色発光の有機EL素子の発光効率および発光輝度を、他の色の素子と同等程度まで向上することも可能である。
【0026】
しかも、式(1)の有機ケイ素化合物の基本骨格であるシロキサンまたはシランは、強固で、かつ耐熱性、安定性等に優れていることから、当該式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料として使用すれば、発光層の、そして当該発光層を有する有機EL素子の耐久性を向上することも可能となる。
また、式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料、正孔輸送材料をゲスト材料として用いて正孔輸送層を形成すると、当該式(1)の有機ケイ素化合物が、前記のようにホスト材料としてのエネルギーレベルが高いことから、正孔輸送材料による正孔輸送特性を向上させて、有機EL素子の発光効率、発光輝度を向上させることができる。また、正孔輸送層の、そして有機EL素子の耐久性を向上することもできる。
【0027】
さらに、式(1)の有機ケイ素化合物は良好な電子輸送能を有することから、当該有機ケイ素化合物を電子輸送材料として使用して電子輸送層を形成すると、電子輸送層の電子輸送特性を向上させて、有機EL素子の発光効率、発光輝度を向上させることができる。また、電子輸送層の、そして有機EL素子の耐久性を向上することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明を説明する。
本発明の有機EL素子は、前記のように、単層の、または2層以上の積層構造を有する電界発光層と、この電界発光層に電子を注入するための陰極と、電界発光層に正孔を注入するための陽極とを備え、電界発光層が、式(1):
【0029】
【化4】
【0030】
〔式中、R1は置換基を有してもよいアリール基を示し、R2は置換基を有してもよいアリール基、または−O−基を示す。〕
で表される繰り返し単位を直接に、または−O−基を介して、2〜20単位、直鎖状、環状、または網目状に繋ぐと共に、式(1)の繰り返し単位を直鎖状に繋いだときは、その両末端に、置換基を有してもよいアリール基を結合した構造を有する有機ケイ素化合物を含有することを特徴とするものである。
【0031】
《有機ケイ素化合物》
上記式(1)で表される有機ケイ素化合物において、R1およびR2に相当するアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、o−テルフェニル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。また、アリール基に置換してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の、炭素数1〜6のアルキル基や、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子等が挙げられ、特に、メチル基、エチル基等のアルキル基が好ましい。置換基は、1つのアリール基に対して1つ以上、置換することができる。
【0032】
式(1)で表される有機ケイ素化合物としては、例えば、式(11):
【0033】
【化5】
【0034】
〔式中、R1、R2、R3、R4は、同一または異なって、それぞれ置換基を有してもよいアリール基を示す。nは2〜20の整数を示す。〕
で表される直鎖シラン化合物、式(12):
【0035】
【化6】
【0036】
〔式中、R1、R2、R3、R4は、同一または異なって、それぞれ置換基を有してもよいアリール基を示す。nは2〜20の整数を示す。〕
で表される直鎖シロキサン化合物、式(13):
【0037】
【化7】
【0038】
〔式中、R1、R2は、同一または異なって、それぞれ置換基を有してもよいアリール基を示す。nは2〜20の整数を示す。〕
で表される環状シロキサン化合物、および式(14):
【0039】
【化8】
【0040】
〔式中、R1は置換基を有してもよいアリール基を示す。〕
で表される繰り返し単位からなり、ケイ素原子間が必ず−O−基で繋がれていると共に、その単位数が1〜10である網目状シロキサン化合物等が挙げられる。
このうち、式(13)で表される環状シロキサン化合物、および式(14)で表される網目状シロキサン化合物は、いずれも、式(12)で表される直鎖シロキサン化合物を、窒素雰囲気中で熱分解および閉環反応させることによって合成される。式(13)で表される環状シロキサン化合物を合成するための加熱温度は、275〜405℃程度である。
【0041】
式(11)で表される直鎖シラン化合物の具体例としては、式(11-1)で表される化合物が挙げられる。
【0042】
【化9】
【0043】
また、式(12)で表される直鎖シロキサン化合物の具体例としては、式(12-1)で表される化合物が挙げられる。
【0044】
【化10】
【0045】
さらに、式(13)で表される環状シロキサン化合物の具体例としては、式(13-1)で表される化合物(DPSiO3)、および式(13-2)で表される化合物(DPSiO4)が挙げられる。
【0046】
【化11】
【0047】
【化12】
【0048】
そして、式(14)で表される網目状シロキサン化合物の具体例としては、式(14-1)で表される化合物が挙げられる。
【0049】
【化13】
【0050】
《有機EL素子》
上記式(1)の有機ケイ素化合物を含む電界発光層は、単層であってもよいし、2層以上の積層構造を有していてもよい。電界発光層が2層以上の積層構造を有する場合、式(1)の有機ケイ素化合物は、発光層、正孔輸送層、および電子輸送層のいずれか1層、または2層以上に含有させることができる。
【0051】
このうち、発光層に式(1)の有機ケイ素化合物を含有させる場合、当該発光層としては、式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料として用いて形成した層中に、ゲスト材料として、リン光性または蛍光性を有する発光材料を分散させた構造を有する層等が挙げられる。かかる構造を有する発光層は、式(1)の有機ケイ素化合物を、真空蒸着法等の気相成長法や、当該式(1)の有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布して乾燥させる溶液塗布法等の、種々の成膜法によって膜化した後、発光材料をドーピングして形成することができる。
【0052】
先に説明したように、式(1)で表される有機ケイ素化合物は、ホスト材料としてのエネルギーレベルが高く、かつ成膜性に優れると共に、耐熱性、安定性に優れていることから、上記の構造を有する発光層を含む、積層構造の電界発光層を備えた有機EL素子は、発光効率、発光輝度が高く、かつ耐久性に優れたものとなる。
また、式(1)の有機ケイ素化合物として、前記式(11-1)〜(14-1)のいずれかで表される化合物等の、式(1)中のアリール基がフェニル基である化合物など、青色の発光スペクトルを有する化合物を選択して、ゲスト材料としての青色発光の発光材料と組み合わせれば、赤色や緑色などの他の色の素子と同等レベルの高い発光効率および発光輝度を有する青色発光の有機EL素子を形成することもできる。
【0053】
発光層における、発光材料の含有割合は、式(1)の有機ケイ素化合物と発光材料との総量の0.1〜30重量%であるのが好ましく、0.1〜10重量%であるのがさらに好ましい。発光材料の含有割合がこの範囲未満では、素子の発光効率および発光輝度が低下して、十分な発光が得られないおそれがあり、この範囲を超える場合には、相対的に、式(1)の有機ケイ素化合物の量が不足するため、却って、素子の発光効率および発光輝度が低下して、十分な発光が得られないおそれがある。また、素子の耐久性が低下するおそれもある。
【0054】
発光材料としては、リン光性もしくは蛍光性を有する種々の、有機金属錯体や有機金属化合物等がいずれも使用可能である。このうち、リン光性の発光材料としては、例えば、式(21)で表されるイリジウム(III)ビス〔(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナト−N,C2′〕ピコリナート〈FIrpic〉、式(22)で表されるイリジウム(III)ビス(4′,6′−ジフルオロフェニルピリジナト)テトラキス(1−ピラゾリル)ボラート〈FIr6〉、式(23)で表されるビス〔2−(3,5−ビストリフルオロメチル−フェニル)−ピリジナト−N,C2′〕イリジウム(III)ピコリナート〈(CF3ppy)2Ir(pic)〉〔以上、青色発光〕、式(24)で表されるfac−トリス−(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)〈Ir(ppy)3〉、式(25)で表されるビス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)アセチルアセトナート〈Ppy2Ir(acac)〉〔以上、緑色発光〕、式(26)で表されるビス(2−フェニルベンゾチアゾラト−N,C2′)イリジウム(III)アセチルアセトナート〈Bt2Ir(acac)〉〔黄色発光〕、式(27)で表されるビス〔2−(2′−ベンゾ(4,5−a)チエニル)ピリジナト−N,C3′〕イリジウム(III)アセチルアセトナート〈Btp2Ir(acac)〉、式(28)で表されるイリジウム(III)ビス(ジベンゾ[f,h]キノザリン)アセチルアセトナート〈Ir(DBQ)2(acac)〉〔以上、赤色発光〕等が挙げられる。
【0055】
【化14】
【0056】
【化15】
【0057】
【化16】
【0058】
【化17】
【0059】
【化18】
【0060】
【化19】
【0061】
【化20】
【0062】
【化21】
【0063】
また、蛍光性の発光材料としては、例えば、式(29)で表されるトリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)錯体〈Alq3〉〔緑色発光〕等が挙げられる。
【0064】
【化22】
【0065】
また、発光層には、当該発光層の発光波長を調整するために、レーザー色素等をドーピングすることもできる。レーザー色素としては、例えば、式(31)で表される4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(ユロリジン−4−イル−ビニル)−4H−ピラン〈DCM2〉〔赤色発光〕、式(32)で表されるクマリン6〔緑色発光〕、式(33)で表されるペリレン〔青色発光〕等が挙げられる。
【0066】
【化23】
【0067】
【化24】
【0068】
【化25】
【0069】
発光層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜30nmであるのがさらに好ましい。発光層の膜厚がこの範囲未満では、発光効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
発光層と共に、積層構造の電界発光層を構成する他の層としては、発光層と陰極との間に設けられる電子輸送層や、発光層と陽極との間に設けられる正孔輸送層等が挙げられる。このうち、電子輸送層を形成する電子輸送材料としては、例えば、式(41)で表される2−(4′−t−ブチルフェニル)−5−(4″−ビフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール〈PBD〉、式(42)で表される3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール〈TAZ〉、式(43)で表される4,7−ジフェニル−1,10−フェナントリロン〈Bphen〉、式(44)で表される2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントリロン〈BCP〉、式(45)で表されるビス(2−メチル−8−キノリノラート−N1,O8)−(1,1′−ビフェニル−4−オラート)アルミニウム〈BAlQ2〉等が挙げられる。また、前記式(29)で表されるAlq3も、電子輸送材料として使用することができる。
【0070】
【化26】
【0071】
【化27】
【0072】
【化28】
【0073】
【化29】
【0074】
【化30】
【0075】
電子輸送層は単層であってもよいし、本来的な意味の電子輸送層と、それを補助する電子注入層、正孔阻止層等との積層構造を有していてもよい。このうち、電子注入層は、電子輸送層と陰極との間に設けられて、陰極から電子輸送層への電子の注入を補助するための層であって、上記例示の各種電子輸送材料のうち、特に、電子の注入を補助する機能に優れた、上記式(45)で表されるBAlQ2等によって形成するのが好ましい。
【0076】
また、正孔阻止層は、電子輸送層と発光層との間に設けられて、陽極から発光層に注入された正孔が、電子と再結合せずに陰極に逃げるのを阻止するための層であって、上記例示の各種電子輸送材料のうち、特に、正孔を阻止する機能に優れた、上記式(42)で表されるTAZや、式(43)で表されるBphen、式(44)で表されるBCP等によって形成するのが好ましい。
【0077】
単層の電子輸送層や、積層構造の電子輸送層を構成する各層は、それぞれ、真空蒸着法等の気相成長法や、溶液塗布法等によって形成することができる。また、単層の電子輸送層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。電子輸送層の膜厚がこの範囲未満では、電子注入効率が不十分になったり、正孔の閉じ込め効果が不十分になったりするおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0078】
また、積層構造の電子輸送層のうち、本体としての電子輸送層の膜厚は、1〜20nmであるのが好ましく、5〜10nmであるのがさらに好ましい。電子輸送層の膜厚がこの範囲未満では、電子注入効率が不十分になったり、正孔の閉じ込め効果が不十分になったりするおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0079】
また、電子注入層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。電子注入層の膜厚がこの範囲未満では、当該電子注入層による、陰極から電子輸送層に電子を注入する効果が十分に得られないおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
さらに、正孔阻止層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。正孔阻止層の膜厚がこの範囲未満では、当該正孔阻止層による、正孔が陰極に逃げるのを阻止する効果が十分に得られないおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0080】
発光層と共に積層構造の電界発光層を構成する正孔輸送層のもとになる正孔輸送材料としては、例えば、式(51)で表される4,4′−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル〈CBP〉、式(52)で表されるN,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−1,1′−ビフェニル−4,4′−ジアミン〈TPD〉、式(53)で表される4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル〈α−NPD〉、式(54)で表される4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン〈m−MTDATA〉等が挙げられる。
【0081】
【化31】
【0082】
【化32】
【0083】
【化33】
【0084】
【化34】
【0085】
正孔輸送層は単層であってもよいし、本来的な意味の正孔輸送層と、それを補助する正孔注入層、電子阻止層等との積層構造を有していてもよい。このうち、正孔注入層は、正孔輸送層と陽極との間に設けられて、陽極から正孔輸送層への電子の注入を補助するための層であって、特に、正孔の注入を補助する機能に優れた、上記式(51)〜(54)で表される各化合物や、式(55)で表される銅フタロシアニン(CuPC)等によって形成するのが好ましい。
【0086】
【化35】
【0087】
また、電子阻止層は、正孔輸送層と発光層との間に設けられて、陰極から発光層に注入された電子が、正孔と再結合せずに陽極に逃げるのを阻止するための層であって、特に、正孔を阻止する機能に優れた、式(56)で表される1,3−ジ(N−カルバゾリル)フェニル(mCP)等によって形成するのが好ましい。
【0088】
【化36】
【0089】
単層の正孔輸送層や、積層構造の正孔輸送層を構成する各層は、それぞれ、真空蒸着法等の気相成長法や、溶液塗布法等によって形成することができる。また、単層の正孔輸送層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。正孔輸送層の膜厚がこの範囲未満では、正孔注入効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0090】
また、積層構造の正孔輸送層のうち、本体としての正孔輸送層の膜厚は、1〜20nmであるのが好ましく、5〜10nmであるのがさらに好ましい。正孔輸送層の膜厚がこの範囲未満では、正孔注入効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
また、正孔注入層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。正孔注入層の膜厚がこの範囲未満では、当該正孔注入層による、陽極から正孔輸送層に正孔を注入する効果が十分に得られないおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0091】
さらに、電子阻止層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、2〜50nmであるのがさらに好ましい。電子阻止層の膜厚がこの範囲未満では、当該電子阻止層による、電子が陽極に逃げるのを阻止する効果が十分に得られないおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
積層構造を有する電界発光層のうち、正孔輸送層に式(1)の有機ケイ素化合物を含有させる場合、当該正孔輸送層としては、式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料として用いて形成した層中に、ゲスト材料として、正孔輸送材料を分散させた構造を有する層等が挙げられる。かかる構造を有する正孔輸送層は、式(1)の有機ケイ素化合物を、真空蒸着法等の気相成長法や、溶液塗布法等によって膜化した後、正孔輸送材料をドーピングして形成することができる。正孔輸送材料としては、前記例示の、式(51)〜(54)で表される各化合物等が挙げられる。
【0092】
式(1)で表される有機ケイ素化合物が、先に説明したように、ホスト材料としてのエネルギーレベルが高く、かつ成膜性に優れると共に、耐熱性、安定性に優れていることから、上記の構造を有する正孔輸送層を含む、積層構造の電界発光層を備えた有機EL素子は、発光効率、発光輝度が高く、かつ耐久性に優れたものとなる。
正孔輸送層における、正孔輸送材料の含有割合は、式(1)の有機ケイ素化合物と正孔輸送材料との総量の10〜90重量%であるのが好ましく、50〜90重量%であるのがさらに好ましい。正孔輸送材料の含有割合がこの範囲未満では、正孔輸送層による正孔輸送能が低下して、素子の発光効率および発光輝度が低下するおそれがあり、この範囲を超える場合には、相対的に、式(1)の有機ケイ素化合物の量が不足するため、却って、正孔輸送層による正孔輸送能が低下して、素子の発光効率および発光輝度が低下するおそれがある。また、阻止の耐久性が低下するおそれもある。
【0093】
式(1)の有機ケイ素化合物を含有する上記の正孔輸送層は、単層で、発光層や電子輸送層と組み合わせて電界発光層を構成してもよいし、先に説明した正孔注入層や電子阻止層と組み合わせて積層構造の正孔輸送層として、発光層や電子輸送層と組み合わせて電界発光層を構成してもよい。また、正孔輸送層と組み合わせる発光層としては、前記の、式(1)の有機ケイ素化合物を含む発光層が挙げられる他、従来公知の種々の構成を有する発光層を組み合わせることもできる。
【0094】
すなわち、式(51)で表されるCBPや、式(56)で表されるmCP、あるいは式(57):
【0095】
【化37】
【0096】
で表される2,2′−ジメチル−4,4′−ジ(N−カルバゾリル)ビフェニル〈CDBP〉等のフェニルカルバゾール誘導体、式(58):
【0097】
【化38】
【0098】
で表されるジフェニルジ(o−トリル)シラン〈UGH1〉、式(59):
【0099】
【化39】
【0100】
で表されるp−ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン〈UGH2〉等のアリールシラン化合物等をホスト材料として用いて形成した層中に、ゲスト材料として、前記例示の各種の発光材料を分散させた構造を有する発光層を組み合わせることができる。
また、式(1)の有機ケイ素化合物を含有する正孔輸送層と組み合わせる電子輸送層としては、前記の、種々の電子輸送材料からなる単層の、あるいは2層以上の積層構造を有するものが挙げられる他、次に述べる、式(1)の有機ケイ素化合物を含有する電子輸送層を組み合わせることもできる。式(1)の有機ケイ素化合物を含有する正孔輸送層を含む電界発光層の具体例としては、当該正孔輸送層と電子輸送層の2層構造(正孔輸送層、電子輸送層はそれぞれ単層でも積層構造でもよい)で、いずれか一方が発光層を兼ねるものや、正孔輸送層と発光層と電子輸送層の3層構造(正孔輸送層、電子輸送層はそれぞれ単層でも積層構造でもよい)を有するもの等が挙げられる。
【0101】
単層の正孔輸送層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、20〜50nmであるのがさらに好ましい。正孔輸送層の膜厚がこの範囲未満では、正孔注入効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
また、積層構造の正孔輸送層のうち、本体としての正孔輸送層の膜厚は、1〜30nmであるのが好ましく、10〜20nmであるのがさらに好ましい。正孔輸送層の膜厚がこの範囲未満では、正孔注入効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0102】
積層構造を有する電界発光層のうち、電子輸送層に式(1)の有機ケイ素化合物を含有させる場合、当該電子輸送層としては、式(1)の有機ケイ素化合物を、真空蒸着法等の気相成長法や、溶液塗布法等によって膜化した層が挙げられる。
先に説明したように、式(1)で表される有機ケイ素化合物が、電子輸送能に優れ、かつ成膜性に優れると共に、耐熱性、安定性に優れていることから、上記の構造を有する電子輸送層を含む、積層構造の電界発光層を備えた有機EL素子は、発光効率、発光輝度が高く、かつ耐久性に優れたものとなる。
【0103】
式(1)の有機ケイ素化合物を含有する上記の電子輸送層は、単層で、発光層や正孔輸送層と組み合わせて電界発光層を構成してもよいし、先に説明した電子注入層や正孔阻止層と組み合わせて積層構造の電子輸送層として、発光層や正孔輸送層と組み合わせて電界発光層を構成してもよい。また、電子輸送層と組み合わせる発光層としては、前記の、式(1)の有機ケイ素化合物を含む発光層が挙げられる他、上で説明した種々の構成を有する発光層を組み合わせることもできる。式(1)の有機ケイ素化合物を含有する電子輸送層を含む電界発光層の具体例としては、当該電子輸送層と正孔輸送層の2層構造(正孔輸送層、電子輸送層はそれぞれ単層でも積層構造でもよい)で、いずれか一方が発光層を兼ねるものや、電子輸送層と発光層と正孔輸送層の3層構造(正孔輸送層、電子輸送層はそれぞれ単層でも積層構造でもよい)を有するもの等が挙げられる。
【0104】
単層の電子輸送層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、20〜50nmであるのがさらに好ましい。電子輸送層の膜厚がこの範囲未満では、電子注入効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
また、積層構造の電子輸送層のうち、本体としての電子輸送層の膜厚は、1〜50nmであるのが好ましく、5〜20nmであるのがさらに好ましい。電子輸送層の膜厚がこの範囲未満では、電子注入効率が低下するおそれがありおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
【0105】
式(1)の有機ケイ素化合物を含む単層の電界発光層は、前記積層構造の電界発光層に含まれる発光層と同様に構成することができる。すなわち、単層の電界発光層としては、式(1)の有機ケイ素化合物をホスト材料として用いて形成した層中に、ゲスト材料として、前記例示の各種の発光材料を分散させた構造を有する層等が挙げられる。
式(1)で表される有機ケイ素化合物が、先に説明したように、ホスト材料としてのエネルギーレベルが高く、かつ成膜性に優れると共に、耐熱性、安定性に優れていることから、上記の構造を有する単層の電界発光層を備えた有機EL素子は、発光効率、発光輝度が高く、かつ耐久性に優れたものとなる。
【0106】
また、式(1)の有機ケイ素化合物として、前記式(11-1)〜(14-1)のいずれかで表される化合物等の、式(1)中のアリール基がフェニル基である化合物など、青色の発光スペクトルを有する化合物を選択して、ゲスト材料としての青色発光の発光材料と組み合わせれば、赤色や緑色などの他の色の素子と同等レベルの高い発光効率および発光輝度を有する青色発光の有機EL素子を形成することもできる。
【0107】
かかる構造を有する単層の電界発光層は、式(1)の有機ケイ素化合物を、真空蒸着法等の気相成長法や、当該式(1)の有機ケイ素化合物を含む溶液を塗布して乾燥させる溶液塗布法等の、種々の成膜法によって膜化した後、発光材料をドーピングして形成することができる。
単層の電界発光層における、発光材料の含有割合は、式(1)の有機ケイ素化合物と発光材料との総量の0.1〜30重量%であるのが好ましく、0.1〜10重量%であるのがさらに好ましい。発光材料の含有割合がこの範囲未満では、素子の発光効率および発光輝度が低下して、十分な発光が得られないおそれがあり、この範囲を超える場合には、相対的に、式(1)の有機ケイ素化合物の量が不足するため、却って、素子の発光効率および発光輝度が低下して、十分な発光が得られないおそれがある。また、素子の耐久性が低下するおそれもある。
【0108】
単層の電界発光層の膜厚は、10〜200nmであるのが好ましく、50〜100nmであるのがさらに好ましい。膜厚がこの範囲未満では、発光効率が低下するおそれがあり、逆に、この範囲を超える場合には、駆動電圧が上昇するおそれがある。
以上で説明した積層構造の電界発光層のうち、式(1)で表される有機ケイ素化合物を含む層や、単層の電界発光層には、本発明の効果を阻害したり低下させたりしない範囲で、各層において有機ケイ素化合物と同じ機能をする他の化合物を添加してもよい。すなわち、積層構造の電界発光層のうち発光層や正孔輸送層、単層構造の電界発光層には、式(1)の有機ケイ素化合物と共に、ホスト材料として機能する、式(51)、(56)〜(59)で表される化合物等を含有させてもよい。また、積層構造の電界発光層のうち電子輸送層には、式(1)の有機ケイ素化合物と共に、式(29)、(41)〜(44)で表される化合物を含有させてもよい。
【0109】
上記電界発光層と共に有機EL素子を構成する陰極としては、電界発光層への電子の注入効率を向上することを考慮すると、仕事関数の小さい材料からなるものが好ましく、例えば、マグネシウム、アルミニウム、リチウム、インジウム、マグネシウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、アルミニウム−リチウム合金等からなる薄膜が、陰極として好適に使用される。また、陰極上には、銀等からなる保護層を形成してもよい。
【0110】
また、陽極としては、電界発光層への正孔の注入効率を向上することを考慮すると、逆に仕事関数の大きい材料からなるものが好ましい。また、電界発光層からの光を素子の外部へ効率よく取り出すことも併せて考慮すると、陰極としては、例えばインジウム−スズ複合酸化物(ITO)からなる薄膜が好適に使用される。
【実施例】
【0111】
以下に、本発明を、実施例、比較例に基づいて説明する。
実施例1:
ガラス基板上に、下記の各層を、順に、いずれも真空蒸着法によって成膜して、3層の積層構造を有する電界発光層を備えた有機EL素子を作製した。なお、発光層における発光材料のドーピング量(含有割合)は、式(13-1)で表されるDPSiO3と発光材料との総量の6重量%、または10重量%とした。
【0112】
陽極:厚み110nmのITO層。
正孔輸送層:厚み50nmの、式(52)で表されるTPDの層。
発光層:ホスト材料としての、式(13-1)で表されるDPSiO3からなる層中に、ゲスト材料(発光材料)として、式(24)で表されるIr(ppy)3をドーピングして形成した、厚み20nmの層。
【0113】
電子輸送層:厚み40nmの、式(43)で表されるBphenの層。
陰極:厚み100nmの、マグネシウム−銀合金の層。
保護層:厚み10nmの銀の層。
上記有機EL素子のうち、発光材料のドーピング量が6重量%であったものの、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、図1〜3に示す結果が得られた。図1は印加電圧と電流密度との関係を示すグラフ、図2は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフ、図3は、素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0114】
上記有機EL素子の、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、発光材料のドーピング量を6重量%としたものは、図1〜3に示す結果が、また、ドーピング量を10重量%としたものは、図4〜6に示す結果が得られた。なお、図1、4は、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフ、図2、5は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフ、図3、6は、素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0115】
これらの図から明らかなように、実施例1の構成によれば、発光材料のドーピング量が6重量%であっても、有機EL素子を、外部量子効率が10%に近い、高い発光効率で、緑色に発光できること、発光材料のドーピング量を10重量%に増加させれば、発光効率をさらに向上できることが確認された。
実施例2:
ガラス基板上に、下記の各層を、順に、いずれも真空蒸着法によって成膜して、5層の積層構造を有する電界発光層を備えた有機EL素子を作製した。なお、発光層における発光材料のドーピング量(含有割合)は、式(13-2)で表されるDPSiO4と発光材料との総量の10重量%、または20重量%とした。
【0116】
陽極:厚み110nmのITO層。
正孔注入層:厚み10nmの、式(55)で表されるCuPCの層。
正孔輸送層:厚み30nmの、式(53)で表されるα−NPDの層。
電子阻止層:厚み10nmの、式(56)で表されるmCPの層。
発光層:ホスト材料としての、式(13-2)で表されるDPSiO4からなる層中に、ゲスト材料(発光材料)として、式(21)で表されるFIrpicをドーピングして形成した、厚み20nmの層。
【0117】
電子輸送層:厚み40nmの、式(43)で表されるBphenからなる層。
陰極:厚み100nmの、マグネシウム−銀合金からなる層。
保護層:厚み10nmの銀の層。
上記有機EL素子の、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、発光材料のドーピング量を10重量%としたものは、図7〜9に示す結果が、また、ドーピング量を20重量%としたものは、図10〜12に示す結果が得られた。なお、図7、10は、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフ、図8、11は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフ、図9、12は、素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0118】
これらの図から明らかなように、実施例2の構成によれば、発光材料のドーピング量が10重量%であっても、有機EL素子を、外部量子効率が10%に近い、高い発光効率で、青色に発光できること、発光材料のドーピング量を20重量%に増加させれば、発光効率をさらに向上できることが確認された。
実施例3:
ガラス基板上に、下記の各層を、順に、いずれも真空蒸着法によって成膜して、4層の積層構造を有する電界発光層を備えた有機EL素子を作製した。なお、発光層における発光材料のドーピング量(含有割合)は、式(13-2)で表されるDPSiO4と発光材料との総量の20重量%とした。
【0119】
陽極:厚み110nmのITO層。
正孔輸送層:厚み40nmの、式(53)で表されるα−NPDの層。
電子阻止層:厚み10nmの、式(56)で表されるmCPの層。
発光層:ホスト材料としての、式(13-2)で表されるDPSiO4からなる層中に、ゲスト材料(発光材料)として、式(21)で表されるFIrpicをドーピングして形成した、厚み20nmの層。
【0120】
電子輸送層:厚み40nmの、式(43)で表されるBphenからなる層。
陰極:厚み100nmの、マグネシウム−銀合金からなる層。
保護層:厚み10nmの銀の層。
上記有機EL素子の、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、図13〜15に示す結果が得られた。なお、図13は、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフ、図14は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフ、図15は、素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0121】
これらの図から明らかなように、実施例3の構成によれば、有機EL素子を、外部量子効率が10%に近い、高い発光効率で、青色に発光できることが確認された。また、これらの図と、前記実施例2の、発光材料のドーピング量が同じ20重量%である図10〜12の結果から明らかなように、正孔注入層を設ける(実施例2)ことで、設けないもの(実施例3)に比べて、電流密度を上昇させて、発光効率を向上できることも確認された。
【0122】
実施例4:
ガラス基板上に、下記の各層を、順に、いずれも真空蒸着法によって成膜して、4層の積層構造を有する電界発光層を備えた有機EL素子を作製した。なお、発光層における発光材料のドーピング量(含有割合)は、式(13-1)で表されるDPSiO3と発光材料との総量の20重量%とした。
【0123】
陽極:厚み110nmのITO層。
正孔輸送層:厚み40nmの、式(53)で表されるα−NPDの層。
電子阻止層:厚み10nmの、式(56)で表されるmCPの層。
発光層:ホスト材料としての、式(13-1)で表されるDPSiO3からなる層中に、ゲスト材料(発光材料)として、式(21)で表されるFIrpicをドーピングして形成した、厚み20nmの層。
【0124】
電子輸送層:厚み40nmの、式(43)で表されるBphenからなる層。
陰極:厚み100nmの、マグネシウム−銀合金からなる層。
保護層:厚み10nmの銀の層。
上記有機EL素子の、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、図16〜18に示す結果が得られた。なお、図16は、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフ、図17は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフ、図18は、素子の発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【0125】
これらの図から明らかなように、実施例4の構成によれば、有機EL素子を、外部量子効率が10%という高い発光効率で、青色に発光できることが確認された。また、これらの図と、実施例3の、図13〜15の結果から明らかなように、発光層のホスト材料として、DPSiO3を用いたもの(実施例4)の方が、DPSiO4を用いたもの(実施例3)よりも発光効率を向上できることも確認された。
【0126】
比較例1:
ガラス基板上に、下記の各層を、順に、いずれも真空蒸着法によって成膜して、5層の積層構造を有する電界発光層を備えた有機EL素子を作製した。なお、発光層における発光材料のドーピング量(含有割合)は、式(51)で表されるCBPと発光材料との総量の6重量%とした。
【0127】
陽極:厚み110nmのITO層。
正孔注入層:厚み10nmの、式(55)で表されるCuPCの層。
正孔輸送層:厚み30nmの、式(53)で表されるα−NPDの層。
発光層:ホスト材料としての、式(51)で表されるCBPからなる層中に、ゲスト材料(発光材料)として、式(21)で表されるFIrpicをドーピングして形成した、厚み30nmの層。
【0128】
電子輸送層:厚み30nmの、式(45)で表されるBAlq2からなる層。
陰極:厚み100nmの、フッ化リチウムからなる層。
陰極:厚み100nmのアルミニウムの層。
上記有機EL素子の、陰極および陽極を直流電源に接続して、室温(23±1℃)の大気中で、電界発光層に直流電圧を印加して発光させたところ、図19に示す結果が得られた。なお、図19は、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【0129】
図から明らかなように、比較例1の構成によれば、有機EL素子を、外部量子効率が5.7%程度という低い発光効率でしか発光できないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の実施例1で作製した、発光材料のドーピング量が6重量%である発光層を含む電界発光層を備えた有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図2】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図3】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1で作製した、発光材料のドーピング量が10重量%である発光層を含む電界発光層を備えた有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図5】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図6】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2で作製した、発光材料のドーピング量が10重量%である発光層を含む電界発光層を備えた有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図8】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図9】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2で作製した、発光材料のドーピング量が20重量%である発光層を含む電界発光層を備えた有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図11】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図12】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例3で作製した有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図14】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図15】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例4で作製した有機EL素子における、印加電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【図17】上記有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【図18】上記有機EL素子の、発光スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図19】比較例1で作製した有機EL素子における、電流密度と外部量子効率との関係を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層の、または2層以上の積層構造を有する電界発光層と、この電界発光層に電子を注入するための陰極と、電界発光層に正孔を注入するための陽極とを備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、電界発光層が、式(1):
【化1】
〔式中、R1は置換基を有してもよいアリール基を示し、R2は置換基を有してもよいアリール基、または−O−基を示す。〕
で表される繰り返し単位を直接に、または−O−基を介して、2〜20単位、直鎖状、環状、または網目状に繋ぐと共に、式(1)の繰り返し単位を直鎖状に繋いだときは、その両末端に、置換基を有してもよいアリール基を結合した構造を有する有機ケイ素化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
電界発光層が、発光材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する発光層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
発光層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、発光層と陰極との間に設けられる電子輸送層、および発光層と陽極との間に設けられる正孔輸送層のうちの少なくとも一方を備える請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
電界発光層が、発光材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する単層の発光層である請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
電界発光層が、正孔輸送材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する正孔輸送層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
正孔輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、正孔輸送層と陰極との間に設けられる発光層と、この発光層と陰極との間に設けられる電子輸送層とを備える請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
正孔輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、正孔輸送層と陰極との間に設けられる電子輸送層を備え、正孔輸送層と電子輸送層のうちの一方が発光層を兼ねる請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
電界発光層が、式(1)で表される有機ケイ素化合物を電子輸送材料として含有する電子輸送層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
電子輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、電子輸送層と陽極との間に設けられる発光層と、この発光層と陽極との間に設けられる正孔輸送層とを備える請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
電子輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、電子輸送層と陽極との間に設けられる正孔輸送層を備え、正孔輸送層と電子輸送層のうちの一方が発光層を兼ねる請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項1】
単層の、または2層以上の積層構造を有する電界発光層と、この電界発光層に電子を注入するための陰極と、電界発光層に正孔を注入するための陽極とを備える有機エレクトロルミネッセンス素子であって、電界発光層が、式(1):
【化1】
〔式中、R1は置換基を有してもよいアリール基を示し、R2は置換基を有してもよいアリール基、または−O−基を示す。〕
で表される繰り返し単位を直接に、または−O−基を介して、2〜20単位、直鎖状、環状、または網目状に繋ぐと共に、式(1)の繰り返し単位を直鎖状に繋いだときは、その両末端に、置換基を有してもよいアリール基を結合した構造を有する有機ケイ素化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
電界発光層が、発光材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する発光層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
発光層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、発光層と陰極との間に設けられる電子輸送層、および発光層と陽極との間に設けられる正孔輸送層のうちの少なくとも一方を備える請求項2記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
電界発光層が、発光材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する単層の発光層である請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
電界発光層が、正孔輸送材料をゲスト材料、式(1)で表される有機ケイ素化合物をホスト材料として含有する正孔輸送層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
正孔輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、正孔輸送層と陰極との間に設けられる発光層と、この発光層と陰極との間に設けられる電子輸送層とを備える請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
正孔輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、正孔輸送層と陰極との間に設けられる電子輸送層を備え、正孔輸送層と電子輸送層のうちの一方が発光層を兼ねる請求項5記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
電界発光層が、式(1)で表される有機ケイ素化合物を電子輸送材料として含有する電子輸送層を含む、2層以上の積層構造を有する請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
電子輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、電子輸送層と陽極との間に設けられる発光層と、この発光層と陽極との間に設けられる正孔輸送層とを備える請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
電子輸送層と共に積層構造の電界発光層を構成する他の層として、電子輸送層と陽極との間に設けられる正孔輸送層を備え、正孔輸送層と電子輸送層のうちの一方が発光層を兼ねる請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−66820(P2006−66820A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250573(P2004−250573)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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