説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】本発明は、発光層として低分子系発光材料を含有する塗膜を用いる有機EL素子において、発光効率の低下や寿命特性の劣化などの素子性能劣化の要因となる不純物のコンタミネーションを抑制し、発光特性の良好な有機EL素子を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明は、第1電極層と、上記第1電極層上に形成された混合防止層と、上記混合防止層上に直接形成され、低分子系発光材料を含有する塗膜である発光層と、上記発光層上に形成された第2電極層とを有し、上記混合防止層が、上記発光層の製膜性を良好に保ち、かつ上記発光層の光学特性を劣化させない材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供することにより、上記目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光層として低分子系発光材料を含有する塗膜を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELと略すことがある。)素子は、原理的には、2つの電極(陽極および陰極)の間に発光層を挟んだ構造を有するものである。有機EL素子においては、電極から発光層へ電荷を円滑に輸送し、反対の電極からの電荷をブロックするために、電極と発光層との間に電荷輸送層が形成されたり、電極から発光層への電荷の注入を安定化させるために、電極と発光層との間に電荷注入層が形成されたりする場合もある。
【0003】
有機EL素子の発光層に用いられる発光材料としては、低分子系発光材料と高分子系発光材料とに大別される。低分子系発光材料と高分子系発光材料とでは、発光メカニズムにあまり大きな違いはないが、製膜方法等に大きな違いがある。
【0004】
低分子系発光材料を用いた発光層の製膜方法としては、主に真空蒸着法が用いられる。蒸着法の利点としては、(1)異なる材料を順次蒸着して容易に多層構造を形成できること、(2)昇華精製による材料の高純度化が容易であり、さらに蒸着そのものが昇華精製プロセスであることから高純度な薄膜を形成できること、等が挙げられる。低分子系発光材料を用いた素子では、多層構造および材料の高純度化という特長を活かし、発光効率が高く長寿命な素子が開発されている。例えば非特許文献1には、正孔輸送性を有する膜上に電子輸送性を有する発光層を蒸着して積層した素子が提案されている。しかしながら、蒸着法の場合、大面積パネルでの膜厚や共蒸着ドーパント濃度の面内分布の均一制御、さらには塗り分けが難しく、大掛かりな真空装置を必要とするため、製造コストが高くなるという問題がある。
【0005】
一方、高分子系発光材料を用いた発光層の製膜方法としては、主に湿式塗布法が用いられる。塗布法では、蒸着法と比較して膜厚や共蒸着ドーパント濃度の面内分布の均一制御が容易であり、さらに材料の利用効率が高く、製造コストを抑えることができるという利点がある。しかしながら、塗布法の場合、塗膜の積層が困難であり、不純物が混入しやすいという問題がある。このため、高分子系発光材料を用いた素子では、蒸着法と比較して単純な層構成とするのが一般的である。例えば特許文献1には、高分子系発光材料としてポリフェニレンビニレン(PPV)を用いた素子が提案されている。しかしながら、高分子系発光材料を用いた素子は、低分子系発光材料を用いた素子と比較して効率や寿命などの性能に劣るため、性能向上のために多層化などの試みがなされている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
このように製膜方法に関しては塗布法を用いる高分子系発光材料の方が有利であるが、低分子系発光材料は高分子系発光材料と比較して発光効率が高く寿命が長く、材料性能の観点からは低分子系発光材料の方が優れている。そこで、製膜方法および材料性能の特長を活かして、湿式塗布法で低分子系発光材料を製膜する試みがなされている。一般に低分子系発光材料は溶剤に難溶であるといわれているが、溶剤に可溶で湿式塗布法により製膜可能な低分子系発光材料も開発されている。例えば特許文献3には、溶剤への高い溶解性を示し、湿式塗布法で製膜可能なビスアントラセン誘導体を含む低分子系発光材料、およびこれを用いた素子が提案されている。
【0007】
しかしながら、低分子系発光材料を湿式塗布法で製膜し、塗膜を積層した素子では、蒸着法で製膜した素子に比べて、効率や寿命等の発光特性が低下するという問題がある。これは発光層を形成する際に、下地となる層中に含まれる有機分子や金属もしくはそのイオンが、発光層形成用塗工液中の有機溶剤に溶出して、発光層中に不純物として混入するからである。これらの不純物は、(1)消光サイトを形成したり不純物自身が発光したりするなどして発光材料の再結合効率を低下させる、あるいは(2)発光層の製膜性を悪化させて発光のために用いられる電流の割合を低下させるなど、電流効率や寿命等の発光特性を低下させる要因となる。このように、低分子系発光材料自体の特性が優れていたとしても、塗布法では積層構造および材料の高純度化という特長を十分に活かすことが困難であった。
【0008】
【特許文献1】WO90/13148号
【特許文献2】特表2002−507825号公報
【特許文献3】特開2004−224766号公報
【非特許文献1】C.W. Tang and S. A. VanSlyke; Appl. Phys. Lett., 51(1987)913
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、発光層として低分子系発光材料を含有する塗膜を用いる有機EL素子において、発光効率の低下や寿命特性の劣化などの素子性能劣化の要因となる不純物のコンタミネーションを抑制し、発光特性の良好な有機EL素子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、第1電極層と、上記第1電極層上に形成された混合防止層と、上記混合防止層上に直接形成され、低分子系発光材料を含有する塗膜である発光層と、上記発光層上に形成された第2電極層とを有し、上記混合防止層が、上記発光層の製膜性を良好に保ち、かつ上記発光層の光学特性を劣化させない材料を含有することを特徴とする有機EL素子を提供する。
【0011】
本発明によれば、混合防止層が、発光層の製膜性を良好に保ち、かつ発光層の光学特性を劣化させない材料を含有するものであり、混合防止層上に発光層形成用塗工液を塗布した際に、混合防止層の構成成分が発光層形成用塗工液中の溶剤に溶出して、発光層中に不純物として混入した場合であっても、混合防止層から溶出するのは発光層の光学特性を劣化させない材料であるので、発光特性の低下の大きな要因とはならない。また、混合防止層が発光層の製膜性を良好に保つ材料を含有するので、混合防止層上に塗布ムラのない均一な発光層を形成することができ、発光層の塗布ムラによる電流効率や寿命特性の低下を回避することができる。したがって本発明においては、コンタミネーションによる発光特性の低下を抑制することが可能であり、素子性能の劣化を効果的に抑制することができる。
【0012】
上記発明においては、上記第1電極層と上記混合防止層との間に電荷注入層が形成されていることが好ましい。電荷注入層の構成成分が発光層形成用塗工液中の溶剤に溶出しやすいものであっても、混合防止層が形成されているので、電荷注入層の構成成分や不純物等が発光層に混入するのを防ぐことができるからである。また、電荷注入層を設けることによって、第1電極層から混合防止層への電荷の注入が安定化し、発光効率を高めることができるからである。
【0013】
また本発明においては、上記混合防止層に含有される材料のHOMO−LUMOギャップが、上記発光層に含有される低分子系発光材料のHOMO−LUMOギャップよりも大きいことが好ましい。これにより、発光層中に混合防止層の構成成分が多少混入したとしても、発光層内で混合防止層の構成成分が励起されて光や熱が発生するのを防ぐことができ、発光効率の低下を抑制することができるからである。
【0014】
さらに本発明においては、上記混合防止層が電荷輸送性を有することが好ましい。これにより、第1電極層から発光層へ電荷を円滑に輸送することができ、発光効率を向上させることが可能となるからである。
【0015】
また本発明においては、上記混合防止層の厚みが5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。上記混合防止層の厚みが薄すぎると、均一な膜の形成が困難で、コンタミネーションを抑制する効果が十分に得られないおそれがあり、また厚すぎると電荷の移動が妨げられる場合があるからである。したがって、混合防止層の厚みが上記範囲であることにより、コンタミネーションの抑制効果を得ることができ、また電荷の移動を円滑にすることができる。
【0016】
さらに本発明においては、上記第1電極層と上記混合防止層との間、および上記発光層と上記第2電極層との間の少なくともいずれか一方に、電荷輸送層が形成されていてもよい。これにより、発光効率を高めることができるからである。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、発光層として低分子系発光材料を含有する塗膜を用い、第1電極層と発光層との間に混合防止層を形成することで、発光特性を向上させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の有機EL素子について詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、第1電極層と、上記第1電極層上に形成された混合防止層と、上記混合防止層上に直接形成され、低分子系発光材料を含有する塗膜である発光層と、上記発光層上に形成された第2電極層とを有し、上記混合防止層が、上記発光層の製膜性を良好に保ち、かつ発光層の光学特性を劣化させない材料を含有することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の有機EL素子について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。図1に例示するように、本発明の有機EL素子10は、2つの電極(第1電極層1および第2電極層4)の間に発光層3が挟まれた構造を有し、第1電極層1と発光層3との間に混合防止層2が形成されているものであり、混合防止層2と発光層3とが直接接している。
【0020】
発光層は、低分子系発光材料を含有する塗膜であり、通常は低分子系発光材料を溶剤に溶解もしくは分散させた発光層形成用塗工液を用いて形成される。本発明においては、混合防止層は、発光層の製膜性を良好に保ち、かつ発光層の光学特性を劣化させない材料を含有するものであり、例えば混合防止層上に発光層形成用塗工液を塗布した際に混合防止層の構成成分が発光層形成用塗工液中の溶剤に溶出した場合であっても、発光層内に溶出するのは発光層の光学特性を劣化させない材料であるので、発光特性の低下の大きな要因とはならない。また、混合防止層が発光層の製膜性を良好に保つ材料を含有するので、混合防止層上に均一にムラなく発光層形成用塗工液を塗布することができ、発光層の塗布ムラによる電流効率や寿命特性の低下を回避することができる。したがって、コンタミネーションによる発光特性の低下を抑えることができ、素子性能の劣化を効果的に抑制することができる。
なお、本発明において、混合防止層の構成成分が発光層形成用塗工液中の溶剤に溶出するとは、混合防止層の構成成分が溶剤に溶解する場合だけでなく、混合防止層の構成成分が溶剤に分散する場合が含まれる。
【0021】
特に、図2に例示するように、第1電極層1と混合防止層2との間に正孔注入層5が形成されている場合には、混合防止層の形成が有利である。
従来では、正孔注入層を塗布法で形成した場合、正孔注入層形成用塗工液および発光層形成用塗工液に共通の溶剤を用いると、発光層形成時に正孔注入層の構成成分が溶出しやすく、塗膜の積層が困難であった。そこで、安定して塗膜を積層するために、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)を用いて正孔注入層を形成するのが一般的である。これは、正孔注入層形成用塗工液の溶剤として水を用い、発光層形成用塗工液の溶剤として有機溶剤を用いることができるからである。しかしながら、PEDOT−PSSを用いた正孔注入層にはPSSによる酸性の低分子成分やイオン性の不純物(Na、SO等)が含まれている。一般に、この低分子成分や不純物は発光層形成用塗工液中の有機溶剤に不溶であるが、分子量や原子量が小さく、さらにPEDOT−PSSとの相互作用が小さいため、正孔注入層上に発光層形成用塗工液を塗布した際に有機溶剤に分散してしまう場合があり、発光層中に混入することがあった。この低分子成分や不純物は消光サイト形成や製膜性低下の原因になりうる。
これに対し本発明においては、図2に例示するように、正孔注入層5と発光層3との間に混合防止層2が形成されているので、上記のようなコンタミネーションを防ぐことができ、良好な発光特性を得ることが可能である。
【0022】
また従来では、発光層形成用塗工液には、発光層に対して下地となる層の構成成分を溶解等させないような溶剤が使用されていたが、本発明においては上述したように混合防止層の構成成分が溶出しても発光層への影響は少ないので、使用できる溶剤の選択肢が広がるという利点を有する。これにより、発光特性の低下を抑制するとともに、簡便な製造方法で有機EL素子を作製することが可能となる。
以下、本発明の有機EL素子の各構成について説明する。
【0023】
1.混合防止層
本発明に用いられる混合防止層は、発光層の製膜性を良好に保ち、かつ発光層の光学特性を劣化させない材料を含有するものであり、発光層と直接接するように形成されるものである。
【0024】
本発明において、「発光層の製膜性を良好に保つ」とは、混合防止層上に発光層形成用塗工液を塗布して発光層を形成する場合に、混合防止層に含有される材料と発光層形成用塗工液との相溶性が良く、均一な塗膜が得られることをいう。
【0025】
一般に、製膜性の評価としては、溶解度パラメーターや、層表面の濡れ性の評価として表面張力などが用いられる。中でも、溶解度パラメーターを用いる方法は、分子同士の相溶性を見積もることができるだけでなく、対象が混合物である場合でも容易に適用することができる。したがって、本発明においては溶解度パラメーターを用いて製膜性を評価する。
【0026】
発光層の製膜性を良好に保つ材料として、具体的には発光層形成用塗工液に使用される溶剤に対する溶解度パラメーター(以下、SP値と称呼する場合がある。)の差が、下記の方法Aを用いた場合に2未満であるもの等が挙げられる。
なお、方法Aにおいては、溶剤の溶解度パラメーターは、Hildebrandの方法により計算して求め、また混合防止層に含有される材料の溶解度パラメーターは、高分子系の材料である場合はHansenの方法などにより計算して求める。
【0027】
また、発光層の製膜性を良好に保つ材料として、具体的には発光層形成用塗工液に使用される溶剤に対するSP値の差が、下記の方法Bを用いた場合に4未満、好ましくは2未満であるもの等が挙げられる。
なお、方法Bにおいては、SP値は、Bicerranoの方法[Prediction of polymer properties, Marcel Dekker Inc., New York (1993)]により決定する。このBicerranoの方法では、高分子の溶解度パラメーターを原子団寄与法により求めている。
【0028】
ここで、原子団寄与法とは、分子をいくつかの原子団に分割し、各原子団に経験パラメーターを割り振って分子全体の物性を決定する手法である。なお、原子団寄与法については、R. F. Fedors, Polymer Eng. Sci., 14, (2), 147-154 (1974) を参照することができる。
分子の溶解度パラメーターδは下記式(I)で定義される。
δ≡(δd2+δp2+δh21/2 (I)
上記式(I)において、δdはLondon分散力項、δpは分子分極項、δhは水素結合項である。
上記の各項は、分子の構成原子団iの各項のモル引力乗数(Fdi,Fpi,Ehi)およびモル体積Viを用いて以下の式で計算される。
δd2=ΣFdi/ΣVi
δp2=(ΣFpi21/2/ΣVi
δh2=(ΣEhi/ΣVi1/2
例えば、構成原子団iの各項のモル引力乗数(Fdi,Fpi,Ehi)は、van Krevelenによる値(K. E. Meusburger, "Pesticide Formulations : Innovations and Developments" Chapter 14, Am. Chem. Soc., 151-162 (1988)、および、A. F. M. Barton, "Handbook of Solubility Parameters and Other Cohesion Parameters" CRC Press Inc., Boca Raton,FL, (1983) 参照)を使用し、モル体積Viは、Fedorsによる値(R. F. Fedors, Polymer Eng. Sci., 14, (2), 147-154 (1974) 参照)を使用することができる。
Bicerranoの方法は、高分子系の材料の溶解度パラメーターの計算方法として好適な方法である。方法Bにおいては、溶剤の溶解度パラメーターについても、このBicerranoの方法を適用する。
【0029】
上述のような材料は、有機材料および無機材料のいずれであってもよい。発光層形成用塗工液中の溶剤に対する溶解度パラメーターの差が上述の範囲以上であると、混合防止層上に発光層形成用塗工液を塗布した際、あるいは得られた塗膜を乾燥させる際に、塗工液がはじかれてしまう場合がある。特に、本発明においては発光層に低分子系発光材料を用いるので、分子が小さいために、発光層に高分子系発光材料を用いる場合と比較して、製膜性に対する悪影響は大きいと考えられる。この場合、発光層に塗布ムラが生じてピンホールが発生するので、無効電流の原因となり、電流効率が低下し、寿命特性が低下するおそれがある。
【0030】
具体的に、本発明に用いられる混合防止層に含有される材料の溶解度パラメーターをSA、発光層形成用塗工液に使用される溶剤の溶解度パラメーターをSBとしたときに、溶解度パラメーターSAと溶解度パラメーターSBとが、下記式(II)の関係を満たすことが発光層の製膜性を良好に保ち、寿命性能を向上させる点から好ましい。
|SA−SB|<X (II)
上記式(II)において、Xは、上記の方法Aの場合はX=2、上記の方法Bの場合は、X=4、好ましくはX=2である。
【0031】
ここで、溶解度パラメーターとは、物質同士の相溶性、非相溶性を示す指標であり、分子中の官能基の極性と関係する指標である。接触する2つの物質間でSP値の差が小さければ、2つの分子同士の極性の差も小さくなる。この場合、2つの物質間での凝集力が近くなるため、相溶性や溶解性が大きく、易溶性となり、2つの物質間での界面の密着安定性、すなわち接触面積は安定に保たれる。一方、接触する2つの物質間でSP値の差が大きければ、2つの物質間での凝集力の差も大きくなる。この場合、相溶性や溶解性が小さく、難溶性ないし不溶性となり、2つの物質間での接触面積を小さくするように界面が変化して、はじきが生じる。
【0032】
したがって、上述したように、発光層形成用塗工液中の溶剤に対する溶解度パラメーターの差が上述の範囲以上である材料を含有する混合防止層は、発光層形成用塗工液をはじくので、発光層に塗布ムラが生じてしまうおそれがある。そのため、本発明における混合防止層は、このような発光層の製膜性を悪化させる材料を含有しないことが好ましい。発光層の製膜性を悪化させる材料としては、例えば発光層形成用塗工液中の溶剤に対する溶解度パラメーターの差が、上記の方法Aを用いた場合に2以上、上記の方法Bを用いた場合に4以上であるもの等が挙げられる。
【0033】
溶解度パラメーターは、重合体であれば1繰り返し単位で算出し、非重合体であれば分子全体で算出する。また、後述するように混合防止層が2種以上の材料を含有する場合、溶解度パラメーターは2種以上の材料の混合割合に応じた平均値で算出する。なお、混合防止層が2種以上の材料を含有する場合、全成分に対して重量パーセントで10%以下のものは無視する。
【0034】
なお、層表面の濡れ性やSP値を評価するための実験的な評価方法として、溶剤を用いた接触角測定法などがあるが、本発明においては上記の計算による方法でSP値を算出することとする。
【0035】
また本発明において、「発光層の光学特性を劣化させない」とは、具体的に(1)発光層内での再結合効率を低下させないこと、(2)発光層に含有される低分子系発光材料を分解等しないこと、(3)第1電極層から発光層への電荷の移動を著しく阻害しないこと、をいう。
発光層の光学特性を劣化させない材料として、具体的にはHOMO−LUMOギャップが、発光層に含有される低分子系発光材料のHOMO−LUMOギャップよりも大きいもの等が挙げられる。このような材料は、有機材料および無機材料のいずれであってもよい。
ここで、混合防止層に含有される材料のHOMO−LUMOギャップが、発光層に含有される低分子系発光材料のHOMO−LUMOギャップよりも大きいとは、混合防止層に含有される材料のうち少なくとも1種のHOMO−LUMOギャップが、発光層に含有される低分子系発光材料のうち少なくとも1種のHOMO−LUMOギャップよりも大きいことをいう。例えば後述するように、混合防止層が電荷輸送性を有する材料をバインダ中に分散させたものであり、発光層がホスト材料に1種のドーパント材料を添加したものである場合、混合防止層に含有される電荷輸送性を有する材料のHOMO−LUMOギャップが、発光層に含有されるドーパント材料のHOMO−LUMOギャップよりも大きければよい。また例えば、混合防止層が電荷輸送性を有する材料をバインダ中に分散させたものであり、発光層がホスト材料に複数種のドーパント材料を添加したものである場合、混合防止層に含有される電荷輸送性を有する材料のHOMO−LUMOギャップが、発光層に含有される複数種のドーパント材料のうち少なくとも1種のHOMO−LUMOギャップよりも大きければよい。
【0036】
混合防止層に含有される材料のHOMO−LUMOギャップが、発光層に含有される低分子系発光材料のHOMO−LUMOギャップよりも大きいと、発光層内に混合防止層の構成成分が多少溶出した場合にも、低分子系発光材料よりもHOMO−LUMOギャップが大きいため、低分子系発光材料から混合防止層に含有される材料へエネルギー移動が生じるのを抑制することができる。例えば混合防止層に含有される材料のHOMO−LUMOギャップが低分子系発光材料のHOMO−LUMOギャップより小さい場合には、低分子系発光材料で励起されたエネルギーが混合防止層に含有される材料へ移動する可能性がある。この際、混合防止層に含有される材料が無放射失活性の再結合を行う場合は、励起エネルギーが光ではなく熱エネルギーに変換されるため、再結合効率が低下して電流効率が低下する。また、混合防止層に含有される材料が放射失活性の再結合を行う場合であっても、もともと内部発光量子収率が高いという特長をもつ低分子系発光材料と比較して、混合防止層に含有される材料の内部発光量子収率は低い場合が多く、やはり再結合効率が低下して電流効率が低下する。さらに、混合防止層に含有される材料自身が発光するような場合は、素子の発光色が低分子系発光材料そのものの色から変化するおそれがある。
【0037】
混合防止層に含有される材料のHOMO−LUMOギャップは、発光層に含有される低分子系発光材料のHOMO−LUMOギャップに対して、0.05eV以上大きいことが好まく、より好ましくは0.1eV以上である。上記範囲であれば、混合防止層の構成成分の溶出による消光や発光色の混色等を効果的に抑制することができるからである。また一般に、HOMO−LUMOギャップが比較的大きいものは絶縁体であるが、後述するように混合防止層は絶縁性を有するものであってもよいことから、上記範囲の上限は3eV程度とする。
なお、HOMO−LUMOギャップの値としては、測定対象となる材料を用いて石英ガラス基板上に単層薄膜を形成し、石英ガラス上に形成された単層薄膜の光吸収を日立分光光度計U−4100を用いて測定し、吸収スペクトルの吸収端のエネルギー値から光学的方法で決定した値を用いることができる。
【0038】
この場合、第1電極層が陽極である場合には、混合防止層に含有される材料のHOMOレベルが、陽極に用いられる導電性材料の仕事関数よりも大きく、発光層に含有される低分子系発光材料のHOMOレベルよりも小さいことが好ましい。また、第1電極層が陽極である場合であって、第1電極層(陽極)と混合防止層との間に正孔注入層が形成されている場合には、各層に含有される材料のHOMOレベルまたは仕事関数が陽極<正孔注入層<混合防止層<発光層の順に大きくなることが好ましい。
また、第1電極層が陰極である場合には、混合防止層に含有される材料のLUMOレベルが、陰極に用いられる導電性材料の仕事関数よりも小さく、発光層に含有される低分子系発光材料のLUMOレベルよりも大きいことが好ましい。また、第1電極層が陰極である場合であって、第1電極層(陰極)と混合防止層との間に電子注入層が形成されている場合には、各層に含有される材料のLUMOレベルまたは仕事関数が陰極>電子注入層>混合防止層>発光層の順に小さくなることが好ましい。
具体的には、混合防止層に含有される材料のHOMOレベルまたはLUMOレベルは、発光層に含有される低分子系発光材料のHOMOレベルまたはLUMOレベル、および、陽極または陰極に用いられる導電性材料の仕事関数によって異なるものであり、適宜選択される。
【0039】
一方、発光層の光学特性を劣化させる材料としては、例えば消光サイトになりうる金属やそのイオンを含むもの、あるいは、そのHOMO−LUMOギャップが発光層に含まれるすべての低分子系発光材料のHOMO−LUMOギャップよりも小さいもの、などが挙げられる。消光サイトになりうる金属やそのイオンを含む材料は、無放射の熱失活過程を形成するため、電流効率を低下させ、寿命特性を低下させるおそれがある。また、発光層形成用塗工液に使用される溶剤に溶出しやすい材料の多くは、低分子系発光材料よりも内部発光量子収率が小さいため、発光層に含まれるすべての低分子系発光材料よりもHOMO−LUMOギャップが小さいと、エネルギー移動が生じて発光効率を低下させ、寿命特性を低下させるおそれがある。さらにこのような再結合が生じると、発光色が変化するなどの原因にもなりうる。本発明における混合防止層は、このような発光層の光学特性を劣化させる材料を含有しないことが好ましい。
【0040】
本発明に用いられる混合防止層は、電荷輸送性を有するものであっても有さないものであってもよい。すなわち、混合防止層に用いられる材料は、電荷輸送性を有していてもよく有していなくてもよい。電荷輸送性としては正孔輸送性と電子輸送性とがあり、いずれであってもよいが、第1電極層が陽極であるか陰極であるかにより適宜選択される。例えば第1電極層が陽極である場合は、混合防止層は正孔輸送性を有していてもよく有していなくてもよい。
中でも本発明においては、混合防止層が電荷輸送性を有することが好ましい。混合防止層が電荷輸送性を有する場合は、第1電極層から発光層へ電荷を円滑に輸送することができ、発光効率を向上させることが可能となるからである。
【0041】
混合防止層に用いられる正孔輸送性を有する材料としては、陽極から注入された正孔を発光層へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、高分子系の材料および低分子系の材料のいずれも用いることができる。中でも、SP値の差が大きな不純物の影響を小さくするためには、高分子系の材料を用いることが好ましい。また、正孔移動度が高い材料であることが好ましい。さらには、陰極から移動してきた電子の突き抜けを防止することが可能な材料であることが好ましい。これにより、発光層内での正孔および電子の再結合効率を高めることができるからである。
【0042】
このような正孔輸送性を有する材料としては、例えばアリールアミン類(アリールアミン誘導体)、アントラセン誘導体、カルバゾール類(カルバゾール誘導体)、チオフェン誘導体、フルオレンおよびその誘導体(総称してフルオレン誘導体)、ジスチリルベンゼン誘導体、スピロ化合物等が挙げられる。アリールアミン類(アリールアミン誘導体)の具体的としては、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)−ベンジジン(α−NPD)、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、コポリ[3,3´−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)等を挙げることができる。アントラセン誘導体の具体例としては、9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(9,10−アントラセン)]等を挙げることができる。カルバゾール類(カルバゾール誘導体)の具体例としては、4,4−N,N´−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)等を挙げることができる。チオフェン誘導体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(ビチオフェン)]等を挙げることができる。フルオレン誘導体の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4´−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)等を挙げることができる。ジスチリルベンゼン誘導体の具体例としては、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)を挙げることができる。スピロ化合物の具体例としては、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(9,9´−スピロ−ビフルオレン−2,7−ジイル)]等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0043】
また、混合防止層に用いられる電子輸送性を有する材料としては、陰極から注入された電子を発光層へ輸送することが可能な材料であれば特に限定されるものではなく、高分子系の材料および低分子系の材料のいずれも用いることができる。中でも、電子移動度が高い材料であることが好ましい。さらには、陽極から移動してきた正孔の突き抜けを防止することが可能な材料であることが好ましい。これにより、発光層内での正孔および電子の再結合効率を高めることができるからである。
このような電子輸送性を有する材料としては、例えばオキサジアゾール類、トリアゾール類、フェナントロリン類、アルミニウム錯体等が挙げられる。フェナントロリン類の具体例としては、バソキュプロイン、バソフェナントロリン等が挙げられ、アルミニウム錯体の具体例としては、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)等が挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0044】
さらに、混合防止層は絶縁性を有するものであってもよい。すなわち、混合防止層に用いられる材料は絶縁性を有していてもよい。
混合防止層に用いられる絶縁性を有する材料としては、例えばポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアクリレート等の樹脂材料や、シランカップリング剤などが挙げられる。また、これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0045】
またさらに、混合防止層は、電荷輸送性を有する材料と絶縁性を有する材料とを含有するものであってもよい。例えば、電荷輸送性を有する材料をバインダ中に分散させたものを混合防止層としてもよい。すなわち、混合防止層は、必要に応じてバインダを含有していてもよい。バインダとしては、上記の絶縁性を有する材料や、後述する硬化性樹脂等を用いることができる。具体的には、バインダとしては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエステル等のバインダ樹脂を用いることができる。
【0046】
また、混合防止層は、必要に応じて熱および/または光等により硬化する材料を含有していてもよい。この場合、混合防止層は、硬化性樹脂(熱および/または光硬化性樹脂)、あるいは、電荷輸送性を有する材料において分子内に熱および/または光硬化性の官能基が導入されたもの(熱および/または光硬化性の官能基を含む、電荷輸送性を有する材料)を含有することが好ましい。後者の場合、混合防止層は、熱および/または光硬化性の官能基を含む、正孔輸送性を有する材料を含有することがより好ましい。混合防止層が熱および/または光等により硬化する材料を含有することにより、混合防止層を硬化させることが可能になるため、混合防止層上に発光層形成用塗工液を塗布する際に、混合防止層の構成成分の溶出を低減することができる。仮に、混合防止層に含まれる正孔移動度の高い正孔輸送性を有する材料が発光層中に混入した場合、電界が集中するべき発光層の正孔移動度が高くなり、キャリアバランスが崩れ、正孔が電子輸送層にまで到達して電子輸送層においても再結合が生じる可能性がある。電子輸送層での再結合は、電子輸送層に用いられる材料による発光色の混色や、効率低下の原因となる。さらに、混合防止層に含まれる正孔輸送性を有する材料が発光層中に混入することは、再結合エネルギーのドーパントへの移動を確率的に阻害し、量子収率を低下させるため、やはり効率低下の原因となり、結果として寿命が短くなるおそれがある。したがって、混合防止層に熱および/または光等により硬化する材料を含有させて、混合防止層を硬化させることにより、発光層形成用塗工液の塗布時に混合防止層に含まれる正孔輸送性を有する材料が発光層へ溶出することによる素子特性の劣化を防止することが可能になり、発光効率を向上させ、また著しく素子寿命を向上させることが可能になる。
【0047】
熱および/または光等により硬化する材料としては、上記電荷輸送性を有する材料において分子内に熱および/または光硬化性の官能基(硬化性の官能基)が導入されたもの、あるいは、硬化性樹脂等を使用することができる。
【0048】
電荷輸送性を有する材料に導入される熱および/または光硬化性の官能基としては、具体的に、アクリロイル基やメタクリロイル基などのアクリル系の官能基、またはビニル基、ビニレン基、エポキシ基、イソシアネート基、シンナメート基、シンナモイル基、クマリン基、カルバゾール基等を挙げることができる。
分子内に熱および/または光硬化性の官能基が導入された正孔輸送性を有する材料としては、例えば、構造内にビニル基を有するフルオレン誘導体、具体的には、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alto−co−(9,9−ジ−{5‐ペンテニル}−フルオレニル−2,7−ジイル)]、ポリ[(9,9−ジ−{5‐ペンテニル}−フルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4´−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)]を挙げることができる。
【0049】
混合防止層が、熱および/または光硬化性の官能基を含む、電荷輸送性を有する材料を含有する場合、混合防止層には、例えば、硬化反応を促進させるような硬化剤や、光反応を開始するための添加剤がさらに含有されていてもよい。例えば、電荷輸送性を有する材料がエポキシ基を有する場合には、酸などの硬化剤が用いられ、電荷輸送性を有する材料がエチレン性二重結合を有する場合には、光重合開始剤が用いられる。
【0050】
また、硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても光硬化性樹脂であってもよく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、シランカップリング剤、および、ビニル基、ビニレン基、アクリロイル基、メタクリロイル基などのエチレン性二重結合を分子内に2つ以上有する化合物等を挙げることができる。硬化性樹脂を用いる場合には、上述したように硬化性樹脂をバインダとして、上記電荷輸送性を有する材料を硬化性樹脂中に分散させたものを混合防止層とすることができ、これにより電荷輸送性を向上させることができる。
【0051】
さらに、混合防止層は、必要に応じて塗布性改良剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0052】
混合防止層が、電荷輸送性を有する材料とは別に、さらに熱および/または光等により硬化する材料を含有する場合、上記の硬化剤や光反応開始剤等の添加剤を含めた熱および/または光硬化性組成物の含有量は、層の硬化性と発光特性との兼ね合いから適宜選択され、混合防止層中にて10〜80重量%であることが好ましく、20〜70重量%であることがより好ましい。
また、混合防止層が、電荷輸送性を有する材料として、熱および/または光硬化性の官能基を含む、電荷輸送性を有する材料を含有する場合、上記の硬化剤や光反応開始剤等の添加剤の添加量は、層の硬化性と発光特性との兼ね合いから適宜選択される。
【0053】
本発明において、混合防止層および発光層に用いられる材料の好ましい組み合わせとしては、例えば(1)混合防止層にTFBを用い、発光層に2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチル−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)および1−tert−ブチル−ペリレン(TBP)を用いる組み合わせ、(2)混合防止層にPVKを用い、発光層にPBDおよびTBPを用いる組み合わせ、(3)混合防止層にPCを用い、発光層にPBDおよびTBPを用いる組み合わせ、(4)混合防止層にα−NPDおよびPCを用い、発光層にPBDおよびTBPを用いる組み合わせ、(5)混合防止層にTFBおよびエポキシ樹脂を用い、発光層にPBDおよびTBPを用いる組み合わせ、(6)混合防止層にTFBを用い、発光層に9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)およびTBPを用いる組み合わせ、(7)混合防止層にTFBを用い、発光層にPBDおよびクマリン6を用いる組み合わせ、(8)混合防止層にTFBを用い、発光層にPBDおよびナイルレッドを用いる組み合わせ、などが挙げられる。
【0054】
また本発明においては、混合防止層の厚みが5nm〜500nmの範囲内であることが好ましい。混合防止層の厚みが上記範囲未満であると、発光層形成時における第1電極層や電荷注入層からの構成成分や不純物の溶出の防止効果が十分に得られない場合があるからである。また、発光層形成時において混合防止層の構成成分が溶出した場合には、厚みが上記範囲未満であると、均一な混合防止層を形成できなかったり、混合防止層の構成成分のほとんどが溶出してしまったりする可能性があるからである。一方、厚みが上記範囲より厚いと、混合防止層の体積抵抗が大きくなりすぎて駆動電圧が高くなりすぎる可能性があるからである。
混合防止層が電荷輸送性を有さず、絶縁性を有する場合には、中でも5nm〜15nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは5nm〜10nmの範囲内である。厚みが上記範囲より大きいと、上述したように電荷が著しく移動しにくくなる可能性があるからである。
なお、混合防止層の厚みは、プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、Nanopics1000)を用いて測定することができる。
【0055】
上記混合防止層の形成方法としては、塗布法または蒸着法を用いることができる。中でも、塗布法が好ましい。塗布法では、高価な設備を必要とせず、製造コストの削減を図れるからである。また、発光層は塗布法により形成されるものであるので、例えば混合防止層および発光層の順に塗布法で製膜でき、製造効率が向上するからである。
【0056】
混合防止層の形成方法として塗布法を用いる場合は、上述した材料を溶剤に溶解もしくは分散させた混合防止層形成用塗工液を塗布することにより混合防止層を形成することができる。
この混合防止層形成用塗工液に用いられる溶剤としては、上述した材料を溶解もしくは分散させることができるものであれば特に限定されるものではなく、これらの材料の種類に応じて適宜選択される。具体例としては、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン等を挙げることができる。
また、混合防止層形成用塗工液の塗布方法としては、混合防止層を均一に形成することが可能な方法であることが好ましく、例えばディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、スプレイコート法、キャスト法、インクジェット法、LB法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。
さらに、上記混合防止層形成用塗工液の塗布後は、通常、乾燥が行われる。乾燥方法としては、一般的な乾燥方法を用いることができる。
この際、例えば混合防止層形成用塗工液の塗布量を多くしたり、乾燥時間を短くしたりすることにより、所定の厚みとなるように混合防止層を形成することができる。
【0057】
一方、混合防止層の形成方法として適用される蒸着法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
【0058】
2.発光層
本発明に用いられる発光層は、低分子系発光材料を含有する塗膜であり、混合防止層と直接接するように形成されるものである。
なお、本発明において「塗膜」とは、塗工液を用いて湿式塗布法で形成される膜をいう。また、発光層が塗膜であることは、パージ&トラップ−GC/MS法等を用いて溶剤を検知することにより確認することができる。さらに、発光層端部の形状を顕微鏡などで観察することにより、蒸着法により形成された膜と区別することができる。
【0059】
本発明に用いられる低分子系発光材料の分子量としては、70〜2000程度であり、好ましくは100〜1000の範囲内である。分子量が上記範囲未満である低分子系発光材料では、一般的にガラス転移温度が低い場合が多く、加熱により溶剤を十分に乾燥させることが困難となる場合があるからである。逆に、分子量が上記範囲より大きいと、低分子系発光材料を蒸発または昇華させることが困難となり、精製するなど高純度化させることが困難となる場合があるからである。
低分子系発光材料の分子量は、分子構造から決定される。低分子系発光材料の構造は、一般的に、質量分析法NMR法、IR法、質量分析法などにより決定される。
【0060】
このような低分子系発光材料としては、蛍光材料およびリン光材料のいずれも用いることができる。具体的には、色素系発光材料、金属錯体系発光材料等の発光材料を挙げることができる。
【0061】
色素系発光材料としては、例えばトリフェニルアミン誘導体、アリールアミン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピアゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ジスチリルアリレーン誘導体、シロール誘導体、カルバゾール誘導体、アントラセン誘導体、ジナフチルアントラセン誘導体、フェニルアントラセン誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、トリフマニルアミン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマー、フェナントロリン類などを挙げることができる。またこれらにフルオレン基やスピロ基を導入した化合物も用いることができる。
具体的に、トリフェニルアミン誘導体としては、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。アリールアミン誘導体としては、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)等が挙げられる。オキサジアゾール誘導体としては、(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)等が挙げられる。ジナフチルアントラセン誘導体としては、9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)等が挙げられる。カルバゾール誘導体としては、4,4−N,N´−ジカルバゾール−ビフェニル(CBP)、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)等が挙げられる。フェナントロリン類としては、バソキュプロイン、バソフェナントロリン等が挙げられる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0062】
また、金属錯体系発光材料としては、例えばアルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾール亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体等、あるいは、中心金属にAl、Zn、Be等または、Tb、Eu、Dy等の希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造等を有する金属錯体を挙げることができる。
具体的には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体(Bebq)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0063】
上記発光層中には、発光効率の向上や発光波長を変化させる等の目的でドーパントを添加してもよい。このようなドーパントとしては、例えばペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾン、キノキサリン誘導体、カルバゾール誘導体、フルオレン誘導体を挙げることができる。また、これらにスピロ基を導入した化合物も用いることができる。
具体的には、1−tert−ブチル−ペリレン(TBP)、クマリン6、ナイルレッド、1,4−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ベンゼン(DPVBi)、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(TPB)等を挙げることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0064】
また、りん光系のドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属イオンを中心に有し、燐光を示す有機金属錯体を使用することができる。具体的には、Ir(ppy)、(ppy)Ir(acac)、Ir(BQ)、(BQ)Ir(acac)、Ir(THP)、(THP)Ir(acac)、Ir(BO)、(BO)(acac)、Ir(BT)、(BT)Ir(acac)、Ir(BTP)、(BTP)Ir(acac)、FIr6、PtOEP等を用いることができる。これらの材料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0065】
本発明における発光層は、低分子系発光材料を含有するものであればよく、低分子系発光材料のみを含有していてもよく、低分子系発光材料と高分子系発光材料とを含有していてもよい。中でも、発光層が低分子発光材料のみを含有するものであることが好ましい。低分子系発光材料は高分子系発光材料と比較して発光効率が高く長寿命であり、材料性能に優れているからである。また、低分子系発光材料にその他の材料を添加すると、発光特性が低下する場合があるからである。
【0066】
発光層の厚みとしては、電子と正孔との再結合の場を提供して発光する機能を発現することができる厚みであれば特に限定されるものではなく、例えば1nm〜5μm程度とすることができ、好ましくは5nm〜500nm程度である。
【0067】
また、発光層は、上記低分子系発光材料を溶剤に溶解もしくは分散させた発光層形成用塗工液を塗布することにより形成することができる。発光層形成用塗工液の塗布後は、通常、塗膜中に残留する溶剤を取り除くために乾燥する。
【0068】
この発光層形成用塗工液に用いられる溶剤としては、上述した低分子系発光材料を溶解もしくは分散させることができるものであれば特に限定されるものではなく、例えばトルエン、キシレン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム等を挙げることができる。
【0069】
また、発光層形成用塗工液の塗布方法としては、発光層を均一かつ高精細に形成することが可能な方法であることが好ましく、例えばディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、スプレイコート法、キャスト法、インクジェット法、LB法、スプレイ法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。
【0070】
さらに、上記発光層形成用塗工液の塗布後は、通常、乾燥が行われる。乾燥方法としては、一般的な乾燥方法を用いることができ、真空乾燥、加熱による乾燥、またはそれらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0071】
3.第1電極層および第2電極層
本発明に用いられる第1電極層および第2電極層は、いずれか一方は陽極、他方は陰極とされるものである。上述したように混合防止層が電荷輸送性を有する場合は、この第1電極層が陽極であるか陰極であるかにより混合防止層の電荷輸送性の種類が適宜選択される。
【0072】
本発明においては、第1電極層および第2電極層のうち、光の取出し面となる電極層は透明である必要がある。一方、光の取出し面と反対側の電極層は、透明であってもなくてもよい。
【0073】
さらに、第1電極層および第2電極層は、基板上に全面に形成されたものであってもよく、パターン状に形成されたものであってもよい。
【0074】
また、第1電極層および第2電極層は抵抗が小さいことが好ましく、一般には導電性材料である金属材料が用いられるが、有機化合物または無機化合物を用いてもよい。
【0075】
陽極に用いられる材料としては、一般に陽極として使用される材料を用いることができるが、正孔が注入しやすいように仕事関数の大きい導電性材料を用いることが好ましい。例えば、Au、Ta、W、Pt、Ni、Pd、Cr、Cu、Mo、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属;これらの金属の酸化物;AlLi、AlCa、AlMg等のAl合金、MgAg等のMg合金、Ni合金、Cr合金、アルカリ金属の合金、アルカリ土類金属の合金等の合金;酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム等の無機酸化物;金属ドープされたポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体等の導電性高分子;α−Si、α−SiC;などが挙げられる。これらの導電性材料は、単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上を用いる場合には、各材料からなる層を積層してもよい。
【0076】
陰極に用いられる材料としては、一般に陰極として使用される材料を用いることができるが、電子が注入しやすいように仕事関数の小さい導電性材料を用いることが好ましい。例えば、MgAg等のマグネシウム合金、AlLi、AlCa、AlMg等のアルミニウム合金、Li、Cs、Ba、Sr、Ca等のアルカリ金属類およびアルカリ土類金属類の合金などが挙げられる。
【0077】
第1電極層および第2電極層の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を用いることができ、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、EB蒸着法、イオンプレーティング法等の物理的蒸着(PVD)法、あるいは、化学的蒸着(CVD)法などを挙げることができる。また、第1電極層および第2電極層のパターニング方法としては、所望のパターンに精度よく形成することができる方法であれば特に限定されるものではないが、具体的にはフォトリソグラフィー法等を挙げることができる。
【0078】
4.電荷注入層
本発明においては、図2に例示するように、第1電極層1と混合防止層2との間に電荷注入層5が形成されていることが好ましい。これにより、第1電極層から混合防止層への電荷の注入が安定化し、発光効率を高めることができるからである。
電荷注入層としては、陽極から混合防止層に正孔を注入する正孔注入層と、陰極から混合防止層に電子を注入する電子注入層とがある。例えば図2において、第1電極層が陽極である場合は、電荷注入層5は正孔注入層となる。
以下、正孔注入層および電子注入層について分けて説明する。
【0079】
(1)正孔注入層
本発明に用いられる正孔注入層は、陽極から混合防止層へ正孔を安定に注入することができる材料を含有するものであれば特に限定されるものではない。正孔注入層に用いられる材料としては、高分子系の正孔注入材料および低分子系の正孔注入材料のいずれも用いることができる。例えば、アリールアミン類;フタロシアニン類;カルバゾール類;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリフェニレンビニレン、およびそれらの誘導体等の導電性高分子;などを挙げることができる。
具体的には、アリールアミン類としては、ビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン(α−NPD)、N,N´−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N´−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、コポリ[3,3´−ヒドロキシ−テトラフェニルベンジジン/ジエチレングリコール]カーボネート(PC−TPD−DEG)、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。カルバゾール類としては、ポリビニルカルバゾール(PVK)等が挙げられ、ポリチオフェン誘導体としてはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)等が挙げられる。
【0080】
また、正孔注入層に用いられる材料としては、ポルフィリン誘導体やトリフェニルアミン誘導体などにルイス酸や四フッ化テトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)、塩化鉄、バナジウムやモリブデンなど無機の酸化物などを混合し、導電性を高くした材料を用いることもできる。
【0081】
さらに、正孔注入層には、金属酸化物、炭化物などの無機材料を用いることもできる。例えば、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウムおよび酸化チタン等の金属酸化物;アモルファスカーボン、C60、カーボンナノチューブ等の炭化物が挙げられる。
【0082】
また、正孔注入層には、電極との結合基をもつ材料を用いることもできる。電極との結合基をもつ材料としては、りん酸化合物、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物、シランカップリング剤等を挙げることができる。具体的には、4−(トリフルオロメチル)ベンゼンスルホニルクロリド、4‐クロロフェニルホスホロジクロリダート、9−フルオレニルメチルクロロホーメート等が挙げられる。これらの材料を用いて正孔注入層を形成する場合には、スピンコート法、浸漬法、ディップコート法等が好適に用いられる。
【0083】
さらに、正孔注入層は、高分子系の正孔注入材料をバインダに分散させたものであってもよい。この際に用いられるバインダとしては、上記混合防止層に用いられるバインダを挙げることができる。
【0084】
正孔注入層の厚みとしては、正孔注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではなく、通常は0.5nm〜10μm程度となるように設定され、好ましくは10nm〜500nmの範囲内である。
【0085】
正孔注入層の形成方法としては、塗布法または蒸着法を用いることができる。中でも、塗布法が好ましい。正孔注入層を塗布法により形成する場合には、従来では特に正孔注入層からの構成成分や不純物の溶出が懸念されていたが、本発明においては混合防止層が形成されているので、そのような不具合を回避することができるからである。また、塗布法では、高価な設備を必要とせず、製造コストの削減を図れるからである。さらに、発光層は塗布法により形成されるものであるので、例えば正孔注入層、混合防止層、発光層の順に塗布法で製膜でき、製造効率が向上するからである。
【0086】
正孔注入層の形成方法として塗布法を用いる場合は、上記の材料を溶剤に溶解もしくは分散させた正孔注入層形成用塗工液を塗布することにより正孔注入層を形成することができる。
この正孔注入層形成用塗工液に用いられる溶剤としては、上記の材料を溶解もしくは分散させることができるものであれば特に限定されるものではなく、例えばトルエン、キシレン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、テトラリン、メシチレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム等を挙げることができる。
また、正孔注入層形成用塗工液の塗布方法としては、正孔注入層を均一に形成することが可能な方法であることが好ましく、例えばディップコート法、ロールコート法、ブレードコート法、スピンコート法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、スプレイコート法、キャスト法、インクジェット法、LB法、スプレイ法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。
【0087】
一方、正孔注入層の形成方法として適用される蒸着法としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、EB蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
【0088】
(2)電子注入層
本発明に用いられる電子注入層は、陰極から混合防止層へ電子を安定に注入することができる材料を含有するものであれば特に限定されるものではない。電子注入層に用いられる材料としては、例えばアルミリチウム合金、リチウム、セシウム等のアルカリ金属やその合金;フッ化リチウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属のハロゲン化物;ストロンチウム、カルシウム等のアルカリ土類金属;フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等のアルカリ土類金属のハロゲン化物;酸化マグネシウム、酸化ストロンチウム、酸化アルミニウム等の酸化物;フラーレン、カーボンナノチューブ等の炭素系材料;などを用いることができる。
【0089】
上記電子注入層の厚みとしては、電子注入機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
なお、電子注入層の形成方法については、上記正孔注入層の形成方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0090】
5.電荷輸送層
本発明においては、第1電極層と混合防止層との間に電荷輸送層が形成されていてもよい。図3に例示するように、第1電極層1と混合防止層2との間に電荷注入層5が形成されている場合には、電荷輸送層6は電荷注入層5と混合防止層2との間に形成される。これにより、第1電極層から混合防止層への電荷の輸送が円滑になり、発光効率を高めることができる。
電荷輸送層としては、陽極から注入された正孔を混合防止層に輸送する正孔輸送層と、陰極から注入された電子を混合防止層に輸送する電子輸送層とがある。例えば図3において、第1電極層1が陽極である場合は、電荷輸送層6は正孔輸送層となる。
以下、正孔輸送層および電子輸送層について分けて説明する。
【0091】
(1)正孔輸送層
本発明に用いられる正孔輸送層は、陽極から注入された正孔を混合防止層へ円滑に輸送することができる材料を含有するものであれば特に限定されるものではない。正孔輸送層に用いられる材料としては、上述した正孔注入層に用いられる材料を使用することができる。通常、正孔輸送層は、上記正孔注入層に正孔輸送機能を付与することにより、正孔注入層と一体化される場合が多い。
【0092】
(2)電子輸送層
本発明に用いられる電子輸送層は、陰極から注入された電子を混合防止層へ円滑に輸送することができる材料を含有するものであれば特に限定されるものではない。電子輸送層に用いられる材料としては、例えばオキサジアゾール類、トリアゾール類、フェナントロリン類、シロール誘導体、シクロペンタジエン誘導体、アルミニウム錯体等を挙げることができる。具体的には、オキサジアゾール誘導体としては(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)等が挙げられ、フェナントロリン類としてはバソキュプロイン、バソフェナントロリン等が挙げられ、アルミニウム錯体としてはトリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)等が挙げられる。
【0093】
上記電子輸送層の厚みとしては、電子輸送機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
なお、電子輸送層の形成方法については、上述の電荷注入層の欄に記載した正孔注入層の形成方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0094】
6.電荷注入輸送層
本発明においては、図3に例示するように、発光層3と第2電極層4との間に電荷注入輸送層7が形成されていてもよい。ここでいう「電荷注入輸送層」とは、第2電極層から発光層へ安定して電荷を注入する電荷注入機能、および第2電極層から注入された電荷を発光層に円滑に輸送する電荷輸送機能の少なくともいずれか一方を有する層をいう。これにより、発光層への電荷の注入が安定化し、電荷の移動が円滑になるので、発光効率を高めることができる。
電荷注入輸送層としては、陽極から注入された正孔を発光層へ輸送する正孔注入輸送層と、陰極から注入された電子を発光層へ輸送する電子注入輸送層とがある。例えば第2電極層が陰極である場合は、発光層と第2電極層との間に電子注入輸送層が形成される。
以下、正孔注入輸送層および電子注入輸送層について分けて説明する。
【0095】
(1)正孔注入輸送層
本発明に用いられる正孔注入輸送層としては、発光層に正孔を注入する正孔注入層および発光層に正孔を輸送する正孔輸送層のいずれか一方であってもよく、正孔注入層および正孔輸送層が積層されたものであってもよく、または、正孔注入機能および正孔輸送機能の両機能を有する単一層であってもよい。
【0096】
正孔注入輸送層に用いられる材料としては、陽極から注入された正孔を発光層へ円滑に輸送することができる材料であれば特に限定されるものではなく、高分子系の材料および低分子系の材料のいずれも用いることができる。具体的には、上記の正孔注入層や正孔輸送層に用いられる材料を挙げることができる。
【0097】
正孔注入輸送層の厚みとしては、陽極から正孔を注入し、発光層へ正孔を輸送する機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
なお、正孔注入輸送層の形成方法については、上述の電荷注入層の欄に記載した正孔注入層の形成方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0098】
(2)電子注入輸送層
本発明に用いられる電子注入輸送層としては、発光層に電子を注入する電子注入層および発光層に電子を輸送する電子輸送層のいずれか一方であってもよく、電子注入層および電子輸送層が積層されたものであってもよく、または、電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一層であってもよい。
例えば図3に示すように、電子注入輸送層7が電子注入層11および電子輸送層12が積層されたものである場合は、発光層3側から電子輸送層12、電子注入層11の順に設けられる。
【0099】
電子注入機能および電子輸送機能の両機能を有する単一層からなる電子注入輸送層としては、電子輸送性の有機材料にアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属をドープした金属ドープ有機層を用いることができる。電子輸送性の有機材料としては、例えばバソキュプロインやバソフェナントロリン等のフェナントロリン類などを挙げることができる。ドープされるアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属としては、例えばLi、Cs、Ba、Sr等が挙げられる。
【0100】
上記の単一層からなる電子注入輸送層の厚みとしては、電子注入機能および電子輸送機能が十分に発揮される厚みであれば特に限定されるものではない。
なお、単一層からなる電子注入輸送層の形成方法については、上述の電荷注入層の欄に記載した正孔注入層の形成方法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0101】
また、電子注入層および電子輸送層については、上述の電荷注入層の欄に記載した電子注入層および上述の電荷輸送層の欄に記載した電子輸送層とそれぞれ同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0102】
7.基板
本発明においては、第1電極層または第2電極層が所定の強度を有する場合には、第1電極層または第2電極層自体が支持体となり得るが、所定の強度を有する基板上に第1電極層または第2電極層が形成されていてもよい。
【0103】
本発明に用いられる基板としては、特に限定されるものではないが、一般的には基板側を光の取出し面とすることが好ましいことから、透明であることが好ましい。このような基板としては、例えばソーダ石灰ガラス、アルカリガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラス等のガラス基板;フィルム状に成形が可能な樹脂基板;などを用いることができる。
樹脂基板に用いられる樹脂としては、耐溶剤性および耐熱性の比較的高いものであることが好ましい。具体的には、フッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリミクロイキシレンジメチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、アクリロニトリル-スチレン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、シリコーン樹脂、非晶質ポリオレフィン等が挙げられる。また、これらの共重合体を用いることもできる。さらに必要に応じて、水分や酸素等のガスを遮断するガスバリア性を有する基板を用いてもよい。
【0104】
8.有機EL素子の製造方法
本発明の有機EL素子の製造方法の一例について説明する。
例えば第1電極層が陽極である場合は、まずガラス基板上にスパッタリング法によりITO膜を製膜して第1電極層を形成する。この第1電極層上に正孔注入層形成用塗工液をスピンコート法で塗布し乾燥させて正孔注入層を形成し、次いで正孔注入層上に混合防止層形成用塗工液をスピンコート法で塗布し乾燥させて混合防止層を形成する。さらに混合防止層上に発光層形成用塗工液をスピンコート法で塗布し乾燥させて発光層を形成し、発光層上に真空蒸着法により電子輸送層を形成する。最後に電子輸送層上にスパッタリング法により電子注入層および第2電極層(陰極)を順次製膜する。このようにして、有機EL素子を作製することができる。
【0105】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0106】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて具体的に説明する。なお、特に記載がない限り、水分濃度0.1ppm以下、酸素濃度0.1ppm以下の窒素置換グローブボックス内で素子を作製した。また、SP値については、Bicerranoの方法により求めた。
【0107】
[実施例1]
低分子系発光材料を用いて塗布法で発光層を形成し、混合防止層を挿入した有機EL素子の作製方法を示す。素子作製の手順は、ガラス基板上に陽極、正孔注入層、混合防止層、発光層、電子輸送層、電子注入層、および陰極を順次積層し、最後に封止した。
【0108】
(陽極の形成)
ガラス基板(厚み:0.7mm)上に酸化インジウム錫(ITO)を真空中(圧力:1×10−4Pa)でスパッタリング法により蒸着して、ITO膜(厚み:150nm)を形成した。そして、このITO膜が形成された基板を、中性洗剤、超純水の順に超音波洗浄し、UVオゾン処理を施した。
【0109】
(正孔注入層の形成)
ITO膜上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)(重量比PEDOT:PSS=1:20)溶液を大気中でスピンコート法により塗布して、PEDOT−PSS膜(厚み:80nm)を形成した。そして、水分を蒸発させるために大気中でホットプレートを用いて乾燥させた。
正孔注入層に用いたPEDOT−PSSでは、PEDOT(繰り返し単位の原子量の総和:72)のSP値は21.7、PSS(繰り返し単位の原子量の総和:104)のSP値は24.4と算出された。PEDOT:PSS(重量比PEDOT:PSS=1:20)のSP値は、その混合状態にもよるが、ほとんどがPSS成分であることから、24.4であると考えられる。
【0110】
(混合防止層の形成)
ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4´−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB)(アメリカン・ダイ・ソース社製、品番:ADS259BE、Mw:7×10)(SP値18.8)をキシレンに溶解させた溶液を、正孔注入層上にスピンコート法により塗布して、TFB膜(厚み:50nm)を形成した。そして、キシレンを蒸発させるためにホットプレートを用いて乾燥させた。
【0111】
(発光層の形成)
2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチル−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)と、1−tert−ブチル―ペリレン(TBP)とを重量比が10:3になるようにトルエン(SP値20.4)に溶解させて、発光層形成用塗工液を調製した。この発光層形成用塗工液を混合防止層上にスピンコート法により塗布して、TBPをドーパントとして含有したPBDの薄膜(厚み:50nm)を形成した。そして、トルエンを蒸発させるためにホットプレートを用いて乾燥させた。
【0112】
(電子輸送層の形成)
発光層上に、ビス(2−メチル−8−キノリラト)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム錯体(BAlq)を真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱蒸着法により製膜し、BAlq膜(厚み:20nm)を形成した。
【0113】
(陰極の形成)
電子輸送層上に、LiFを真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱蒸着法により製膜して電子注入層(厚み:0.5nm)を形成し、次いでAlを真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱蒸着法により製膜して陰極(厚み:100nm)を形成した。
最後に、無アルカリガラスとUV硬化型エポキシ接着剤とを用いて封止し、有機EL素子を作製した。
【0114】
[実施例2]
実施例1において、混合防止層を下記のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(混合防止層の形成)
ポリビニルカルバゾール(PVK)(Mw:5.0×10)(SP値21.1)をジクロロエタンに溶解させた溶液をスピンコート法により塗布して、PVK膜(厚み:10nm)を形成した。
【0115】
[実施例3]
実施例1において、混合防止層を下記のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(混合防止層の形成)
ポリカーボネート(PC)(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、ユーピロンE2000F、Mw:3.5×10)をジクロロエタンに溶解させた溶液をスピンコート法により塗布して、PC膜(厚み:5nm)を形成した。
【0116】
[実施例4]
実施例1において、混合防止層を下記のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(混合防止層の形成)
正孔輸送性を有する低分子系の材料としてビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)を用い、バインダとしてポリカーボネート(PC)(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、ユーピロンE2000F、Mw:3.5×10)用いた。PCとα−NPDとを重量比が5:1になるようにジクロロエタンに溶解させた溶液をスピンコート法により塗布して、PC中にα−NPDを分散させた膜(厚み:5nm)を形成した。
【0117】
[実施例5]
実施例1において、混合防止層を下記のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(混合防止層の形成)
液状タイプの水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭電化工業製、アデカレジンEP−4080S)(SP値22.1)に、硬化剤として無水フタル酸を添加して、熱硬化性樹脂組成物を調製した。TFB(SP値18.8)および熱硬化性樹脂組成物を、TFBとエポキシ樹脂との重量比が1:1になるようにキシレンに溶解させた溶液をスピンコート法により塗布して、塗膜(厚み:10nm)を形成した。そして、塗膜を硬化させるためにホットプレートを用いて乾燥させた。混合防止層に含有される材料のSP値は、上記の重量比(混合比)より20.5と算出された。
【0118】
[実施例6]
実施例1において、発光層を下記のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(発光層の形成)
9,10−ジ−2−ナフチルアントラセン(DNA)とTBPとを重量比が10:3になるようにシクロヘキサノン(SP値19.7)に溶解させた溶液をスピンコート法により塗布して、TBPをドーパントとして含有したDNAの薄膜(厚み:50nm)を形成した。
【0119】
[実施例7]
実施例1において、発光層を下記のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(発光層の形成)
PBDとクマリン6とを重量比が10:1になるようにトルエン(SP値20.4)に溶解させた溶液をスピンコート法により塗布して、クマリン6をドーパントとして含有したPBDの薄膜(厚み:50nm)を形成した。
【0120】
[実施例8]
実施例1において、発光層を下記のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(発光層の形成)
PBDとナイルレッドとを重量比が10:1になるようにトルエン(SP値20.4)に溶解させた溶液をスピンコート法により塗布して、ナイルレッドをドーパントとして含有したPBDの薄膜(厚み:50nm)を形成した。
【0121】
[実施例9]
実施例1において、混合防止層を下記のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(混合防止層の形成)
ポリカーボネート(PC)(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、PCZ800、Mw:8×10)(SP値19.2)をジクロロエタンに溶解させた溶液をスピンコート法により塗布して、PC膜(厚み:5nm)を形成した。
【0122】
[実施例10]
実施例1において、混合防止層を下記のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(混合防止層の形成)
正孔輸送性を有する低分子系の材料としてビス(N−(1−ナフチル−N−フェニル)ベンジジン)(α−NPD)(SP値20.3)を用い、バインダとしてポリカーボネート(PC)(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、PCZ800、Mw:8×10)(SP値19.2)用いた。PCとα−NPDとを重量比が5:1になるようにジクロロエタンに溶解させた溶液をスピンコート法により塗布して、PC中にα−NPDを分散させた膜(厚み:5nm)を形成した。混合防止層に含有される材料のSP値は、上記の重量比(混合比)より19.4と算出された。
【0123】
[比較例1]
実施例1において、混合防止層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
【0124】
[比較例2]
実施例1において、発光層を下記のようにして形成した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。
(発光層の形成)
真空中(圧力:1×10−4Pa)で抵抗加熱蒸着法により、PBDとTBPとの比が10:3になるようにPBDおよびTBPを共蒸着して、TBPをドーパントとして含有したPBDの薄膜(厚み:50nm)を形成した。
【0125】
[比較例3]
比較例2において、混合防止層を形成しなかった以外は、比較例2と同様にして有機EL素子を作製した。
【0126】
[比較例4]
実施例6において、混合防止層を形成せず、また比較例2と同様にして発光層を形成した以外は、実施例6と同様にして有機EL素子を作製した。
【0127】
[比較例5]
実施例7において、混合防止層を形成せず、また比較例2と同様にして発光層を形成した以外は、実施例7と同様にして有機EL素子を作製した。
【0128】
[比較例6]
実施例8において、混合防止層を形成せず、また比較例2と同様にして発光層を形成した以外は、実施例8と同様にして有機EL素子を作製した。
【0129】
[評価]
実施例1〜8および比較例1〜6の有機EL素子の電流効率および寿命特性を評価した。いずれの有機EL素子の発光面にも、肉眼で観察した限りでは、ダークスポット等の欠陥は生じていなかった。
電流効率は、電流−電圧−輝度(I−V−L)測定して算出した。I−V−L測定では、陰極を接地して陽極に正の直流電圧を50mV刻みで走査(1sec./div.)して印加し、各電圧における電流および輝度を記録した。下記表には、2V印加時の電流密度および電流効率のピーク値を示す。
寿命特性は、定電流駆動で輝度が経時的に徐々に低下する様子を観察して評価した。初期輝度に対して50%の輝度に劣化するまでの時間を寿命とした。
結果を表1,2に示す。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【0132】
表1から、実施例1および比較例1の電流効率の比率、ならびに、比較例2および比較例3の電流効率の比率を比較することにより、コンタミネーションによる発光特性の低下が抑制されていることが確認された。発光層を蒸着法で形成した場合、混合防止層を有する比較例2の電流効率は、混合防止層を有さない比較例3と比較して、電流効率が向上している。これは、混合防止層が正孔輸送層として機能しているためであると考えられる。一方、発光層を塗布法で形成した場合、混合防止層の有無による電流効率の増加率は、蒸着法で形成した場合よりも大きい。さらに、実施例1では、発光層形成用塗工液中の溶剤と正孔注入層に含有される材料と混合防止層に含有される材料とのSP値の差を見ると、トルエン(発光層形成用塗工液中の溶剤)とPEDOT−PSS(正孔注入層に含有される材料)とのSP値の差は4であるのに対し、トルエン(発光層形成用塗工液中の溶剤)とTFB(混合防止層に含有される材料)とのSP値の差は1.6と小さい。これは、混合防止層を形成することにより、混合防止層が正孔輸送層として機能することによる電流効率の増加だけでなく、塗布法で形成する際のコンタミネーションによる電流効率の低下が抑制されたためであると考えられる。
【0133】
実施例1および比較例1〜3の2Vにおける電流密度を比較すると、混合防止層を有することにより、塗布法で形成された発光層のリークを抑制できていることが確認された。これらの有機EL素子の発光開始電圧は3V以上であり、非発光時の2Vの電流密度を比較することにより発光層の製膜性を比較できる。発光層を塗布法で形成した比較例1の電流密度は5×10−5mA/cmであるが、それ以外の素子では測定器の測定限界である1×10−6mA/cm以下の値である。
混合防止層に用いたTFBのHOMO−LUMOギャップは、吸収スペクトルの吸収端の値から3.4eVと測定された。一方、発光材料のうち、ホスト材料であるPBDのHOMO−LUMOギャップは3.6eV、ドーパント材料であるTBPは2.7eVであった。混合防止層に用いたTFBのHOMO−LUMOギャップは、ホスト材料よりも小さいが、実際に発光するドーパント材料よりもHOMO−LUMOギャップよりも大きいので、TFBが発光層内に多少相溶しても発光特性を低下させることはない。
【0134】
また表2から、実施例2〜5,9,10および比較例1の電流効率を比較することにより、混合防止層にTFB以外の材料を用いることが可能であることが確認された。実施例2では、混合防止層としてPVK膜を形成することにより、電流効率が向上していることが確認された。実施例3,5,9では、正孔輸送性のない絶縁性の材料でも電流効率の向上が確認され、正孔輸送性がなくとも混合防止層として機能することが確認された。実施例4,10では、バインダおよび正孔輸送性を有する材料の組み合わせも混合防止層として機能することが確認された。
実施例3,9と比較して実施例4,10の電流効率が高い原因は、正孔輸送機能が付与されたためと考えられる。また実施例1と比較して実施例5の電流効率が高い原因は、発光層と混合防止層との相溶を抑制されたためであると考えられる。本発明においては、発光層の光学特性を劣化させない材料を混合防止層に用いているが、発光層の発光特性や電気伝導特性を劣化させないためには、できる限り発光層と混合防止層との相溶を抑制することが好ましい。
実施例2〜5,9,10で混合防止層に用いた材料のHOMO−LUMOギャップは、いずれも3.0eV以上であり、ドーパント材料であるTBPの2.7eVより大きい。したがって、混合防止層の構成成分が発光層内に多少相溶しても発光特性を低下させることはない。
【0135】
さらに表2から、実施例6および比較例4の電流効率を比較することにより、発光層のホスト材料としてPBD以外の材料を用いることが可能であることが確認された。また、実施例7および比較例5、ならびに、実施例8および比較例6の電流効率を比較することにより、発光層のドーパント材料として青色発光以外の緑色発光や赤色発光の材料を用いることが可能であることが確認された。
実施例6〜8におけるドーパント材料のHOMO−LUMOギャップは、いずれも2.7eV以下であり、混合防止層に用いたTFBの3.4eVより小さい。したがって、混合防止層の構成成分が発光層内に多少相溶しても発光特性を低下させることはない。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の有機EL素子の他の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0137】
1 … 第1電極層
2 … 混合防止層
3 … 発光層
4 … 第2電極層
5 … 電荷注入層(正孔注入層または電子注入層)
10 … 有機EL素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極層と、前記第1電極層上に形成された混合防止層と、前記混合防止層上に直接形成され、低分子系発光材料を含有する塗膜である発光層と、前記発光層上に形成された第2電極層とを有し、前記混合防止層が、前記発光層の製膜性を良好に保ち、かつ前記発光層の光学特性を劣化させない材料を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記第1電極層と前記混合防止層との間に電荷注入層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記混合防止層に含有される材料のHOMO−LUMOギャップが、前記発光層に含有される低分子系発光材料のHOMO−LUMOギャップよりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記混合防止層が電荷輸送性を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記混合防止層の厚みが5nm〜500nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記第1電極層と前記混合防止層との間、および前記発光層と前記第2電極層との間の少なくともいずれか一方に、電荷輸送層が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−134693(P2007−134693A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−279225(P2006−279225)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】