説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】色純度が高く、実用的な寿命を有する有機EL素子を提供する。
【解決手段】陽極と陰極間に少なくとも正孔輸送層、発光層及び電子輸送層をこの順に含み、通電により発光させたとき、発光スペクトル複数が発光ピークを有し、発光ピークのうち、最大発光ピーク強度(I)と、最大発光ピークを示す波長より短波長における他の発光ピーク強度(I)が下記式(A)の関係を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子。
/I<1/50・・・(A)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関し、さらに詳しくは、寿命が長く、高発光効率発光が得られる有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、電界を印加することにより、陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子の再結合エネルギーにより蛍光物質が発光する原理を利用した自発光素子である。
【0003】
イーストマン・コダック社のC.W.Tangらによる積層型素子による低電圧駆動有機EL素子の報告(C.W.Tang,S.A.Vanslyke、アプライドフィジクッスレターズ(Applied Physics Letters)、51巻、913頁、1987年等)がなされて以来、有機材料を構成材料とする有機EL素子に関する研究が盛んに行われている。
【0004】
Tangらは、トリス(8−キノリノール)アルミニウムを発光層に、トリフェニルジアミン誘導体を正孔輸送層に用いた積層構造を採用している。積層構造の利点としては、発光層への正孔の注入効率を高めることができ、陰極に注入された電子をブロックして再結合により生成する励起子の生成効率を高めることができ、発光層内で生成した励起子を閉じこめることができる等が挙げられる。この例のように、有機EL素子の素子構造としては、正孔輸送(注入)層、電子輸送発光層の2層型、又は正孔輸送(注入)層、発光層、電子輸送(注入)層の3層型構造等がよく知られている。こうした積層型構造素子では注入された正孔と電子の再結合効率を高めるために、素子構造や形成方法に種々の工夫がなされている。
【0005】
特許文献1には、ジシアノアントラセン誘導体とインデノペリレン誘導体を発光層に、金属錯体を電子輸送層に用いた素子が開示されている。しかしながら、CIE色度が(0.63,0.37)であるため発光色が純赤色ではなく、赤橙色であった。この素子には発光層を突き抜けた正孔が電子輸送層に注入されており、その結果電子輸送層においても電子と正孔が再結合し、電子輸送層である金属錯体が微少発光することによる色度の悪化があった。さらに正孔耐久性が低い電子輸送層が劣化することにより、寿命が著しく短くなっていた。
【0006】
特許文献2には、ナフタセン誘導体とインデノペリレン誘導体を発光層に、電子輸送層にナフタセン誘導体を用いた赤色素子が開示されている。この素子は色純度が高く、実用的な寿命も有している。しかしながら、この素子は色純度向上と長寿命化を図るため、発光層と陰極の間に機能を分離した2層の有機層(電子輸送層と電子注入層)を必要とし、素子構成が複雑であった。
【0007】
特許文献3には、電子輸送層の発光を抑制する為に、発光層及び電子輸送層のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する発光防止層が提案されている。しかし、この発光素子は、発光効率が約1cd/Aと不十分であった。
【特許文献1】特開2001−307885号公報
【特許文献2】特開2003−338377号公報
【特許文献3】特開2005−235564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、色純度が高く、実用的な寿命を有する有機EL素子を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、陽極から注入された正孔が発光層と電子輸送層の界面に到達する素子において、発光層(ドーパント)以外の層、特に電子輸送層の発する光を、ドーパントから発せられる光に比べ十分に低いレベルに減少した素子では、電子輸送層への正孔の注入を抑制できるため、著しく寿命が向上し、また発光効率が高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明によれば、以下の有機EL素子が提供される。
1. 陽極と陰極間に少なくとも正孔輸送層、発光層及び電子輸送層をこの順に含み、
通電により発光させたとき、発光スペクトルが複数の発光ピークを有し、
前記発光ピークのうち、最大発光ピーク強度(I)と、最大発光ピークを示す波長より短波長における他の発光ピーク強度(I)が下記式(A)の関係を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子。
/I<1/50・・・(A)
2.前記最大発光ピーク強度(I)と前記他の発光ピーク強度(I)が、下記式(B)の関係を満たす1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
/I<1/100・・・(B)
3.前記最大発光ピーク強度(I)と前記他の発光ピーク強度(I)が、下記式(C)の関係を満たす1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
/I<1/500・・・(C)
4.前記正孔輸送層と発光層のイオン化ポテンシャルの差(ΔIp)が0.25eV以下である1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
5.前記他の発光ピークが、前記電子輸送層の発光に由来する、1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
6.前記発光層が下記式(1)で表されるインデノペリレン誘導体を含有する1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】

[式中、A〜A16はそれぞれ、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルケニルチオ基、芳香環含有アルキル基、芳香環含有アルキルオキシ基、芳香環含有アルキルチオ基、芳香環基、芳香環オキシ基、芳香環チオ基、芳香環アルケニル基、アルケニル芳香環基、アミノ基、シアノ基、水酸基、−COOR(ここで、Rは水素、アルキル基、アルケニル基、芳香環含有アルキル基又は芳香環基を表す)、−COR(ここで、Rは水素、アルキル基、アルケニル基、芳香環含有アルキル基、芳香環基又はアミノ基を表す)、又は−OCOR(ここで、Rはアルキル基、アルケニル基、芳香環含有アルキル基又は芳香環基を表す)を表す。A〜A16のなかで隣接する基は互いに結合して、置換している炭素原子と共に環を形成していてもよい。]
7.前記インデノペリレン誘導体が、ジベンゾテトラフェニルペリフランテン誘導体である6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
8.前記発光層が、下記式(2)で表される化合物を含有する1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
X−(Y) (2)
(ここで、Xは炭素環2以上の縮合芳香族環基であり、Yは置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、置換もしくは無置換のアリールアルキル基及び置換もしくは無置換のアルキル基から選択される基である。nは1〜6の整数であり、nが2以上の場合はYは同じでも異なってもよい。)
9.前記式(2)のXが、ナフタセン,ピレン,ベンゾアントラセン,ペンタセン,ジベンゾアントラセン,ベンゾピレン,ベンゾフルオレン,フルオランテン,ベンゾフルオランテン,ナフチルフルオランテン,ジベンゾフルオレン,ジベンゾピレン,ジベンゾフルオランテン、アセナフチルフルオランテン骨格の1種以上を含有する8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
10.前記式(2)が、ナフタセン誘導体、ジアミノアントラセン誘導体、ナフソフルオランテン誘導体、ジアミノピレン誘導体、ジアミノペリレン誘導体、ジベンジジン誘導体、アミノアントラセン誘導体、アミノピレン誘導体及びジベンゾクリセン誘導体からなる群より選択される1種以上の化合物である8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
11.前記電子輸送層が下記式(3)で表される化合物を含有する1〜10のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
A−B (3)
(式中、Aは炭素環3以上の芳香族炭化水素残基であり、Bは置換されてもよい複素環基である。)
12.前記式(3)で表される化合物が、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ピレン、クリセン、ベンゾアントラセン、ペンタセン、ジベンゾアントラセン、ベンゾピレン、フルオレン、ベンゾフルオレン、フルオランテン、ベンゾフルオランテン、ナフソフルオランテン、ジベンゾフルオレン、ジベンゾピレン及びジベンゾフルオランテンから選択される1以上の骨格を分子中に有する化合物である11に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
13.前記式(3)で表される化合物が含窒素複素環化合物である11に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
14.前記含窒素複素環化合物が、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、アクリジン、イミダゾピリジン、イミダゾピリミジン及びフェナントロリンから選択される1以上の骨格を分子中に有する含窒素複素環化合物である13に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
15.前記含窒素複素環化合物が、下記式(4)又は(5)で表されるベンゾイミダゾール誘導体である13に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化4】

(式中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基で、
mは0〜4の整数であり、
は、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基であり、
Lは、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリーレン基、置換基を有していてもよいピリジニレン基、置換基を有していてもよいキノリニレン基又は置換基を有していてもよいフルオレニレン基であり、
Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジニル基又は置換基を有していてもよいキノリニル基である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、色純度が高く、また、長寿命な有機EL素子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極間に少なくとも正孔輸送層、発光層及び電子輸送層を含む。
図1は、本発明の有機EL素子の一例を示す断面図である。
有機EL素子1は、基板10上に、陽極20、正孔注入層30、正孔輸送層40、発光層50、電子輸送層60、電子注入層70及び陰極80を、この順に積層した構成をしている。この他、有機EL素子は様々な構成をとることができる。
【0013】
本発明の素子は、電流密度を0.1〜1000mA/cmのいずれかの条件で発光させたとき、発光スペクトルが複数の発光ピークを有し、発光ピークのうち、最大発光ピーク強度(I)と、最大発光ピークよりも短波長側の他の発光ピーク強度(I)が下記式(A)の関係を満たす。
/I<1/50・・・(A)
この要件を満たすことにより、発光効率が高く、また、長寿命な素子を得ることができる。好ましくは、I/I<1/100(式(B))であり、特に好ましくはI/I<1/500(式(C))である。
【0014】
尚、発光ピークは次の手順で決定する。まず、得られた有機EL素子を電流密度が0.1〜1000mA/cmの範囲にある少なくとも一つの値のDC定電流で駆動することにより発光させ、その発光のスペクトルを分光放射輝度計を用いて測定する。波長は380〜780nmを1nm間隔で測定する。
得られたスペクトルで最大の発光強度を示すピークの強度を(I)とし、また最大発光ピークを示す波長より短波長における他の発光ピークの強度をIとする。
【0015】
他の発光ピークは、電子輸送層の発光に由来するものであることが好ましい。電子輸送層の発光を低減させることによって、特に、素子の寿命が改善できる。
【0016】
本発明の有機EL素子の構成は、発光層を通り過ぎて電子輸送層まで到達する正孔が存在する素子に有効である。例えば、正孔輸送層と発光層のイオン化ポテンシャルの差(ΔIp)が0.25eV以下であるEL素子では、正孔が電子輸送層まで到達する。
尚、イオン化ポテンシャルの測定方法は、後述する実施例にて説明する。
【0017】
本発明の有機EL素子は、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層に用いる材料を、上記条件を満たすように選択することにより作製できる。特に、発光層及び電子輸送層を形成する材料については、以下に説明するものを使用することが好ましい。
【0018】
[発光層]
有機EL素子の発光層は以下の機能を併せ持つものである。即ち、
(i)注入機能:電界印加時に陽極又は正孔注入・輸送層より正孔を注入することができ、陰極又は電子注入・輸送層より電子を注入することができる機能
(ii)輸送機能:注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる機能
(iii)発光機能:電子と正孔の再結合の場を提供し、これを発光につなげる機能
がある。
但し、正孔の注入されやすさと電子の注入されやすさに違いがあってもよく、また正孔と電子の移動度で表される輸送能に大小があってもよいが、どちらか一方の電荷を移動することが好ましい。
【0019】
この発光層を形成する方法としては、例えば蒸着法、スピンコート法、LB法等の公知の方法を適用することができる。発光層は、特に分子堆積膜であることが好ましい。
ここで分子堆積膜とは、気相状態の材料化合物から沈着され形成された薄膜や、溶液状態又は液相状態の材料化合物から固体化され形成された膜のことであり、通常この分子堆積膜は、LB法により形成された薄膜(分子累積膜)とは凝集構造、高次構造の相違や、それに起因する機能的な相違により区分することができる。
また、特開昭57−51781号公報に開示されているように、樹脂等の結着剤と材料化合物とを溶剤に溶かして溶液とした後、これをスピンコート法等により薄膜化することによっても、発光層を形成することができる。
【0020】
発光層は主にホスト材料とドーパント材料からなる。発光層が含有するドーパント材料のドープ濃度は、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは、0.5〜2%である。従って本発明では、発光層のイオン化ポテンシャルは、ホスト材料の値を意味する。
【0021】
本発明においてドーパント材料は、下記式(1)で表されるインデノペリレン誘導体が好ましく使用できる。
【化5】

[式中、A〜A16はそれぞれ、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルケニルチオ基、芳香環含有アルキル基、芳香環含有アルキルオキシ基、芳香環含有アルキルチオ基、芳香環基、芳香環オキシ基、芳香環チオ基、芳香環アルケニル基、アルケニル芳香環基、アミノ基、シアノ基、水酸基、−COOR(ここで、Rは水素、アルキル基、アルケニル基、芳香環含有アルキル基又は芳香環基を表す)、−COR(ここで、Rは水素、アルキル基、アルケニル基、芳香環含有アルキル基、芳香環基又はアミノ基を表す)、又は−OCOR(ここで、Rはアルキル基、アルケニル基、芳香環含有アルキル基又は芳香環基を表す)を表す。A〜A16のなかで隣接する基は互いに結合して、置換している炭素原子と共に環を形成していてもよい。]
【0022】
インデノペリレン誘導体は、特に、ジベンゾテトラフェニルペリフランテン誘導体であることが好ましい。
【0023】
本発明においてホスト材料は、下記式(2)で表される化合物が好ましく使用できる。
X−(Y) (2)
(ここで、Xは炭素環2以上の縮合芳香族環基であり、Yは置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、置換もしくは無置換のアリールアルキル基及び置換もしくは無置換のアルキル基から選択される基である。nは1〜6の整数であり、nが2以上の場合はYは同じでも異なってもよい。)
【0024】
式(2)において、Xは、好ましくは、ナフタセン、ピレン、アントラセン、ペリレン、クリセン、ベンゾアントラセン、ペンタセン、ジベンゾアントラセン、ベンゾピレン、ベンゾフルオレン、フルオランテン、ベンゾフルオランテン、ナフチルフルオランテン、ジベンゾフルオレン、ジベンゾピレン、ジベンゾフルオランテン、アセナフチルフルオランテンから選択される1以上の骨格を含有する基である。より好ましくはナフタセン骨格又はアントラセン骨格を含有する。Yは、好ましくは炭素数12〜60のアリール基、ジアリールアミノ基であり、より好ましくは炭素数12〜20のアリール基又は炭素数12〜40のジアリールアミノ基である。nは好ましくは2である。
【0025】
式(2)の具体例としては、ナフタセン誘導体、ジアミノアントラセン誘導体、ナフソフルオランテン誘導体、ジアミノピレン誘導体、ジアミノペリレン誘導体、ジベンジジン誘導体、アミノアントラセン誘導体、アミノピレン誘導体及びジベンゾクリセン誘導体からなる群より選択される1種以上の化合物が好ましい。
【0026】
[電子輸送層]
電子輸送層を形成する材料としては下記式(3)で表される化合物が好ましい。
A−B・・・(3)
(式中、Aは炭素環3以上の芳香族炭化水素残基であり、Bは置換されてもよい複素環基である。)
【0027】
式(3)の化合物は、好ましくは、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ピレン、クリセン、ベンゾアントラセン、ペンタセン、ジベンゾアントラセン、ベンゾピレン、フルオレン、ベンゾフルオレン、フルオランテン、ベンゾフルオランテン、ナフソフルオランテン、ジベンゾフルオレン、ジベンゾピレン及びジベンゾフルオランテンから選択される1以上の骨格を分子中に有する複素環化合物を1種以上含有する。より好ましくは、含窒素複素環化合物である。
【0028】
含窒素複素環化合物は、さらに好ましくは、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、アクリジン、イミダゾピリジン、イミダゾピリミジン及びフェナントロリンから選択される1以上の骨格を分子中に有する含窒素複素環化合物を1種以上含有する。含窒素複素環化合物として、下記式(4)又は(5)で表されるベンゾイミダゾール誘導体を例示できる。
【化6】

(式中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基で、
mは0〜4の整数であり、
は、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基であり、
Lは、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリーレン基、置換基を有していてもよいピリジニレン基、置換基を有していてもよいキノリニレン基又は置換基を有していてもよいフルオレニレン基であり、
Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジニル基又は置換基を有していてもよいキノリニル基である。)
【0029】
式(4)、(5)で表されるベンゾイミダゾール誘導体は、好ましくは、nが0、Rがアリール基、Lが炭素数6〜30(より好ましくは炭素数6〜20)のアリール基及びArが炭素数6〜30のアリール基である。
【0030】
上述した正孔輸送層、発光層及び電子輸送層を、上記条件を満たすように選択する他は、本発明の有機EL素子は従来公知の構成を採用することができる。以下、説明する。
【0031】
[有機EL素子の構成]
本発明に用いられる有機EL素子の代表的な構成例を示す。尚、本発明はこれに限定されるものではない。
(1)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(2)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(4)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(5)陽極/絶縁層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(6)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/絶縁層/陰極
(7)陽極/絶縁層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/絶縁層/陰極
(8)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/絶縁層/陰極
(9)陽極/絶縁層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(10)陽極/絶縁層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/絶縁層/陰極
等の構造を挙げることができる。
これらの中で通常(1)(2)(3)(4)(7)(8)(10)の構成が好ましく用いられる。
尚、本発明において、上記構成(3)(4)(9)及び(10)のように、電子輸送層及び電子注入層をそれぞれ形成してもよいが、他の構成のように電子輸送層のみを形成した場合も、従来の素子と比べて寿命を向上できる。
【0032】
[透光性基板]
本発明の有機EL素子は透光性の基板上に作製する。ここでいう透光性基板は有機EL素子を支持する基板であり、400〜700nmの可視領域の光の透過率が50%以上で、平滑な基板が好ましい。
具体的には、ガラス板、ポリマー板等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等が挙げられる。またポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。
【0033】
[陽極]
有機薄膜EL素子の陽極は、正孔を正孔輸送層又は発光層に注入する役割を担うものであり、4.5eV以上の仕事関数を有することが効果的である。本発明に用いられる陽極材料の具体例としては、酸化インジウム錫合金(ITO)、酸化錫(NESA)、酸化インジウム亜鉛合金(IZO)、金、銀、白金、銅等が適用できる。
これら材料は単独で用いることもできるが、これら材料同士の合金や、その他の元素を添加した材料も適宜選択して用いることができる。
陽極はこれらの電極物質を蒸着法やスパッタリング法等の方法で薄膜を形成させることにより作製することができる。
発光層からの発光を陽極から取り出す場合、陽極の発光に対する透過率は10%より大きくすることが好ましい。また陽極のシート抵抗は、数百Ω/□以下が好ましい。陽極の膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは10〜200nmの範囲で選択される。
【0034】
[正孔注入、輸送層]
正孔輸送層は発光層への正孔注入を助け、発光領域まで輸送する層であって、正孔移動度が大きく、イオン化エネルギーが通常5.5eV以下と小さい。このような正孔注入、輸送層としてはより低い電界強度で正孔を発光層に輸送する材料が好ましく、さらに正孔の移動度が、例えば10〜10V/cmの電界印加時に、少なくとも10−4cm/V・秒であれば好ましい。
正孔輸送層を形成する材料としては、前記の好ましい性質を有するものであれば特に制限はなく、従来、光導伝材料において正孔の電荷輸送材料として慣用されているものや、EL素子の正孔注入層に使用される公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
【0035】
具体例として例えば、トリアゾール誘導体(米国特許3,112,197号明細書等参照)、オキサジアゾール誘導体(米国特許3,189,447号明細書等参照)、イミダゾール誘導体(特公昭37−16096号公報等参照)、ポリアリールアルカン誘導体(米国特許3,615,402号明細書、同第3,820,989号明細書、同第3,542,544号明細書、特公昭45−555号公報、同51−10983号公報、特開昭51−93224号公報、同55−17105号公報、同56−4148号公報、同55−108667号公報、同55−156953号公報、同56−36656号公報等参照)、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体(米国特許第3,180,729号明細書、同第4,278,746号明細書、特開昭55−88064号公報、同55−88065号公報、同49−105537号公報、同55−51086号公報、同56−80051号公報、同56−88141号公報、同57−45545号公報、同54−112637号公報、同55−74546号公報等参照)、フェニレンジアミン誘導体(米国特許第3,615,404号明細書、特公昭51−10105号公報、同46−3712号公報、同47−25336号公報、特開昭54−53435号公報、同54−110536号公報、同54−119925号公報等参照)、アリールアミン誘導体(米国特許第3,567,450号明細書、同第3,180,703号明細書、同第3,240,597号明細書、同第3,658,520号明細書、同第4,232,103号明細書、同第4,175,961号明細書、同第4,012,376号明細書、特公昭49−35702号公報、同39−27577号公報、特開昭55−144250号公報、同56−119132号公報、同56−22437号公報、西独特許第1,110,518号明細書等参照)、アミノ置換カルコン誘導体(米国特許第3,526,501号明細書等参照)、オキサゾール誘導体(米国特許第3,257,203号明細書等に開示のもの)、スチリルアントラセン誘導体(特開昭56−46234号公報等参照)、フルオレノン誘導体(特開昭54−110837号公報等参照)、ヒドラゾン誘導体(米国特許第3,717,462号明細書、特開昭54−59143号公報、同55−52063号公報、同55−52064号公報、同55−46760号公報、同55−85495号公報、同57−11350号公報、同57−148749号公報、特開平2−311591号公報等参照)、スチルベン誘導体(特開昭61−210363号公報、同第61−228451号公報、同61−14642号公報、同61−72255号公報、同62−47646号公報、同62−36674号公報、同62−10652号公報、同62−30255号公報、同60−93455号公報、同60−94462号公報、同60−174749号公報、同60−175052号公報等参照)、シラザン誘導体(米国特許第4,950,950号明細書)、ポリシラン系(特開平2−204996号公報)、アニリン系共重合体(特開平2−282263号公報)、特開平1−211399号公報に開示されている導電性高分子オリゴマー(特にチオフェンオリゴマー)等を挙げることができる。
【0036】
好ましくは以下の式(6)で示す材料が用いられる。
Q1−G−Q2 (6)
(式中、Q1及びQ2は少なくともひとつの三級アミンを有する部位であり、Gは連結基である。)
【0037】
さらに好ましくは以下の式(7)で示すアミン誘導体である。
【化7】

[式(7)中、Ar〜Arは置換もしくは無置換の核炭素数6〜50の芳香族環、又は置換もしくは無置換の核原子数5〜50の複素芳香族環である。R、Rは置換基であり、s、tはそれぞれ0〜4の整数である。
Ar及びAr、Ar及びArはそれぞれ連結して環状構造を形成してもよい。
及びRもそれぞれ連結して環状構造を形成してもよい。]
【0038】
Ar〜Arの置換基、及びR、Rは、置換もしくは無置換の核炭素数6〜50の芳香族環、置換もしくは無置換の核原子数5〜50の複素芳香族環、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数1〜50のアルコキシ基、炭素数1〜50のアルキルアリール基、炭素数1〜50のアラルキル基、スチリル基、核炭素数6〜50の芳香族環もしくは核原子数5〜50の複素芳香族環で置換されたアミノ基、核炭素数6〜50の芳香族環もしくは核原子数5〜50の複素芳香族環で置換されたアミノ基で置換された核炭素数6〜50の芳香族環もしくは核原子数5〜50の複素芳香族環である。
【0039】
正孔輸送層は、さらに正孔の注入を助けるために別途正孔注入層を設けることもできる。正孔注入層の材料としては正孔輸送層と同様の材料を使用することができるが、ポルフィリン化合物(特開昭63−2956965号公報等に開示のもの)、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物(米国特許第4,127,412号明細書、特開昭53−27033号公報、同54−58445号公報、同54−149634号公報、同54−64299号公報、同55−79450号公報、同55−144250号公報、同56−119132号公報、同61−295558号公報、同61−98353号公報、同63−295695号公報等参照)、特に芳香族第三級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0040】
また、米国特許第5,061,569号に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有する、例えば4,4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル(以下NPDと略記する)、また特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(以下MTDATAと略記する)等を挙げることができる。
特に好ましくは式(6)又は(7)で示す材料である。
また、芳香族ジメチリディン系化合物の他、p型Si、p型SiC等の無機化合物も正孔注入層の材料として使用することができる。
【0041】
正孔注入、輸送層は上述した化合物を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法等の公知の方法により薄膜化することにより形成することができる。正孔注入、輸送層としての膜厚は特に制限はないが、通常は5nm〜5μmである。この正孔注入、輸送層は正孔輸送帯域に本発明の化合物を含有していれば、上述した材料の一種又は二種以上からなる一層で構成されてもよいし、又は前記正孔注入、輸送層とは別種の化合物からなる正孔注入、輸送層を積層したものであってもよい。
【0042】
また、有機半導体層も正孔輸送層の一部であるが、これは発光層への正孔注入又は電子注入を助ける層であって、10−10S/cm以上の導電率を有するものが好適である。このような有機半導体層の材料としては、含チオフェンオリゴマーや特開平8−193191号公報に開示してある含アリールアミンオリゴマー等の導電性オリゴマー、含アリールアミンデンドリマー等の導電性デンドリマー等を用いることができる。
【0043】
[電子注入層]
電子注入層は発光層への電子の注入を助ける層であって、電子移動度が大きく、また付着改善層は、この電子注入層の中で特に陰極との付着がよい材料からなる層である。
【0044】
本発明の好ましい形態に、電子を輸送する領域又は陰極と有機層の界面領域に、還元性ドーパントを含有する素子がある。ここで、還元性ドーパントとは、電子輸送性化合物を還元ができる物質と定義される。従って、一定の還元性を有するものであれば、様々なものが用いられ、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物又は希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体、希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも一つの物質を好適に使用することができる。
【0045】
また、より具体的に、好ましい還元性ドーパントとしては、Na(仕事関数:2.36eV)、K(仕事関数:2.28eV)、Rb(仕事関数:2.16eV)及びCs(仕事関数:1.95eV)からなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属や、Ca(仕事関数:2.9eV)、Sr(仕事関数:2.0〜2.5eV)、及びBa(仕事関数:2.52eV)からなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ土類金属が挙げられる仕事関数が2.9eV以下のものが特に好ましい。これらのうち、より好ましい還元性ドーパントは、K、Rb及びCsからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属であり、さらに好ましくは、Rb又はCsであり、最も好ましのは、Csである。これらのアルカリ金属は、特に還元能力が高く、電子注入域への比較的少量の添加により、有機EL素子における発光輝度の向上や長寿命化が図られる。また、仕事関数が2.9eV以下の還元性ドーパントとして、これら2種以上のアルカリ金属の組合わせも好ましく、特に、Csを含んだ組み合わせ、例えば、CsとNa、CsとK、CsとRb又はCsとNaとKとの組み合わせであることが好ましい。Csを組み合わせて含むことにより、還元能力を効率的に発揮することができ、電子注入域への添加により、有機EL素子における発光輝度の向上や長寿命化が図られる。
【0046】
本発明においては陰極と有機層の間に絶縁体や半導体で構成される電子注入層をさらに設けてもよい。この時、電流のリークを有効に防止して、電子注入性を向上させることができる。このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を使用するのが好ましい。電子注入層がこれらのアルカリ金属カルコゲナイド等で構成されていれば、電子注入性をさらに向上させることができる点で好ましい。具体的に、好ましいアルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、LiO、LiO、NaS、NaSe及びNaOが挙げられ、好ましいアルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS、及びCaSeが挙げられる。また、好ましいアルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl及びNaCl等が挙げられる。また、好ましいアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgF及びBeFといったフッ化物や、フッ化物以外のハロゲン化物が挙げられる。
【0047】
また、電子注入層を構成する半導体としては、Ba、Ca、Sr、Yb、Al、Ga、In、Li、Na、Cd、Mg、Si、Ta、Sb及びZnの少なくとも一つの元素を含む酸化物、窒化物又は酸化窒化物等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。また、電子注入層を構成する無機化合物が、微結晶又は非晶質の絶縁性薄膜であることが好ましい。電子注入層がこれらの絶縁性薄膜で構成されていれば、より均質な薄膜が形成されるために、ダークスポット等の画素欠陥を減少させることができる。尚、このような無機化合物としては、上述したアルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物等が挙げられる。
【0048】
[陰極]
陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム・銀合金、アルミニウム/酸化アルミニウム、アルミニウム・リチウム合金、インジウム、希土類金属等が挙げられる。
【0049】
この陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。
ここで発光層からの発光を陰極から取り出す場合、陰極の発光に対する透過率は10%より大きくすることが好ましい。
また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmである。
【0050】
[絶縁層]
有機ELは超薄膜に電界を印可するために、リークやショートによる画素欠陥が生じやすい。これを防止するために、一対の電極間に絶縁性の薄膜層を挿入することが好ましい。
【0051】
絶縁層に用いられる材料としては例えば酸化アルミニウム、弗化リチウム、酸化リチウム、弗化セシウム、酸化セシウム、酸化マグネシウム、弗化マグネシウム、酸化カルシウム、弗化カルシウム、弗化セシウム、炭酸セシウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化珪素、酸化ゲルマニウム、窒化珪素、窒化ホウ素、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化バナジウム等が挙げられる。
これらの混合物や積層物を用いてもよい。
【0052】
[有機EL素子の作製例]
以上例示した材料及び方法により陽極、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、必要に応じて正孔注入層、及び必要に応じて電子注入層を形成し、さらに陰極を形成することにより有機EL素子を作製することができる。また陰極から陽極へ、前記と逆の順序で有機EL素子を作製することもできる。
【0053】
以下、透光性基板上に陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極が順次設けられた構成の有機EL素子の作製例を記載する。
まず、適当な透光性基板上に陽極材料からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの範囲の膜厚になるように蒸着やスパッタリング等の方法により形成して陽極を作製する。次にこの陽極上に正孔輸送層を設ける。正孔輸送層の形成は、前述したように真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法等の方法により行うことができるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが発生しにくい等の点から真空蒸着法により形成することが好ましい。真空蒸着法により正孔輸送層を形成する場合、その蒸着条件は使用する化合物(正孔輸送層の材料)、目的とする正孔輸送層の結晶構造や再結合構造等により異なるが、一般に蒸着源温度50〜450℃、真空度10−7〜10−3torr、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚5nm〜5μmの範囲で適宜選択することが好ましい。
【0054】
次に、正孔輸送層上に発光層を設ける発光層の形成も、所望の有機発光材料を用いて真空蒸着法、スパッタリング、スピンコート法、キャスト法等の方法により有機発光材料を薄膜化することにより形成できるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが発生しにくい等の点から真空蒸着法により形成することが好ましい。真空蒸着法により発光層を形成する場合、その蒸着条件は使用する化合物により異なるが、一般的に正孔輸送層と同じような条件範囲の中から選択することができる。
【0055】
次に、この発光層上に電子輸送層を設ける。正孔輸送層、発光層と同様、均質な膜を得る必要から真空蒸着法により形成することが好ましい。蒸着条件は正孔輸送層、発光層と同様の条件範囲から選択することができる。
最後に陰極を積層して有機EL素子を得ることができる。
【0056】
陰極は金属から構成されるもので、蒸着法、スパッタリングを用いることができる。しかし、下地の有機物層を製膜時の損傷から守るためには真空蒸着法が好ましい。
これまで記載してきた有機EL素子の作製は一回の真空引きで一貫して陽極から陰極まで作製することが好ましい。
【0057】
本発明の有機EL素子の各層の形成方法は特に限定されない。従来公知の真空蒸着法、分子線蒸着法、スピンコーティング法、ディッピング法、キャスティング法、バーコート法、ロールコート法等による形成方法を用いることができる。
【0058】
本発明の有機EL素子の各有機層の膜厚は特に制限されないが、一般に膜厚が薄すぎるとピンホール等の欠陥が生じやすく、逆に厚すぎると高い印加電圧が必要となり効率が悪くなるため、通常は数nmから1μmの範囲が好ましい。
【実施例】
【0059】
実施例1
25mm×75mm×0.7mmのガラス基板上に、膜厚120nmのインジウムスズ酸化物からなる透明電極を設けた。このガラス基板をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行ない、真空蒸着装置にこの基板を設置した。
【0060】
その基板に、まず、正孔注入層として、N’,N’’−ビス[4−(ジフェニルアミノ)フェニル]−N’,N’’−ジフェニルビフェニル−4,4’−ジアミンを60nmの厚さに蒸着した後、その上に正孔輸送層として、N,N’−ビス[4’−{N−(ナフチル−1−イル)−N−フェニル}アミノビフェニル−4−イル]−N−フェニルアミンを10nmの厚さに蒸着した。
尚、正孔輸送層のイオン化ポテンシャルは5.5eVであった。
【0061】
ここで、イオン化ポテンシャルはサイクリックボルタンメトリーまたは光電子分光法で測定した値である。発光層のホスト材料も同様にして測定した。
【0062】
次いで、発光層として、ナフタセン誘導体である下記化合物(A−1)とインデノペリレン誘導体である下記化合物(B)を重量比40:0.4で同時蒸着し、40nmの厚さに蒸着した。
【化8】

【0063】
次に、電子輸送層として、下記化合物(C−1)を30nmの厚さに蒸着した。
【化9】

【0064】
次に、弗化リチウムを0.3nmの厚さに蒸着し、次いでアルミニウムを150nmの厚さに蒸着した。このアルミニウム/弗化リチウムは陰極として働く。このようにして有機EL素子を作製した。
得られた素子に通電試験を行なったところ、電流密度10mA/cmにて、駆動電圧4.1V、発光輝度1135cd/mの赤色発光が得られ、色度座標は(0.67,0.33)、効率は11.35cd/Aであった。このときドーパント以外の材料由来のピーク強度は、ドーパント由来のピーク強度の1/522であった。また、初期輝度5000cd/mでの直流の連続通電試験を行なったところ、初期輝度の80%に達したときの駆動時間は2041時間であった。
実施例1及び以下の実施例、比較例で作製した素子の分光放射輝度計で測定した発光スペクトルにおける、最大ピーク波長と短波長側の2番目に大きいピーク波長及び相対強度を表1に示す。
また、使用材料、IとIDの比(IO/ID)等、及び素子の評価結果を表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
実施例2
実施例1において、電子輸送層を形成する際に、化合物(C−1)の代わりに下記化合物(C−2)を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を作製した。
【化10】

【0068】
得られた素子に通電試験を行なったところ、電流密度10mA/cmにて、駆動電圧4.5V、発光輝度716cd/mの赤色発光が得られ、色度座標は(0.65,0.33)、効率は7.16cd/Aであった。このときドーパント以外の材料由来のピーク強度は、ドーパント由来のピーク強度の1/59であった。また、初期輝度5000cd/mでの直流の連続通電試験を行なったところ、初期輝度の80%に達したときの駆動時間は1190時間であった。
【0069】
比較例1
実施例1において、電子輸送層を形成する際に、化合物(C−1)の代わりにトリス(8−ヒドロキシキノナト)アルミニウム(以下、Alq)を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を作製した。
【化11】

【0070】
得られた素子に通電試験を行なったところ、電流密度10mA/cmにて、駆動電圧4.9V、発光輝度703cd/mの赤色発光が得られ、色度座標は(0.65,0.35)、効率は7.03cd/Aであった。このときドーパント以外の材料由来のピーク強度は、ドーパント由来のピーク強度の1/22であった。また、初期輝度5000cd/mでの直流の連続通電試験を行なったところ、初期輝度の80%に達したときの駆動時間は360時間であった。
【0071】
実施例3
実施例1において、発光層を形成する際に、化合物(A−1)の代わりにジアミノアントラセン誘導体である下記化合物(A−3)を用いたこと以外は同様にして有機EL素子を作製した。
【化12】

【0072】
得られた素子に通電試験を行なったところ、電流密度10mA/cmにて、駆動電圧4.1V、発光輝度978cd/mの赤色発光が得られ、色度座標は(0.67,0.33)、効率は9.78cd/Aであった。このときドーパント以外の材料由来のピーク強度は、ドーパント由来のピーク強度の1/184であった。また、初期輝度5000cd/mでの直流の連続通電試験を行なったところ、初期輝度の80%に達したときの駆動時間は1544時間であった。
【0073】
比較例2
実施例3において、電子輸送層を形成する際に、化合物(C−1)の代わりにAlqを用いたこと以外は同様にして有機EL素子を作製した。
得られた素子に通電試験を行なったところ、電流密度10mA/cmにて、駆動電圧5.3V、発光輝度622cd/mの赤色発光が得られ、色度座標は(0.65,0.35)、効率は6.22cd/Aであった。このときドーパント以外の材料由来のピーク強度は、ドーパント由来のピーク強度の1/20であった。また、初期輝度5000cd/mでの直流の連続通電試験を行なったところ、初期輝度の80%に達したときの駆動時間は310時間であった。
【0074】
比較例3
比較例1において、発光層を形成する際に、化合物(A−1)の代わりにAlqを用いたこと以外は同様にして有機EL素子を作製した。
得られた素子に通電試験を行なったところ、電流密度10mA/cmにて、駆動電圧9.4V、発光輝度140cd/mの赤色発光が得られ、色度座標は(0.58,0.38)、効率は1.40cd/Aであった。このときドーパント以外の材料由来のピーク強度は、ドーパント由来のピーク強度の1/9であった。また、初期輝度5000cd/mでの直流の連続通電試験を行なったところ、初期輝度の80%に達したときの駆動時間は20時間であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の有機EL素子は、各種表示装置、ディスプレイ、バックライト、照明光源、標識、看板、インテリア等の分野に適用でき、特にカラーディスプレイの表示素子として適している。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の有機EL素子に係る一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1 有機EL素子
10 基板
20 陽極
30 正孔注入層
40 正孔輸送層
50 発光層
60 電子輸送層
70 電子注入層
80 陰極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極間に少なくとも正孔輸送層、発光層及び電子輸送層をこの順に含み、
通電により発光させたとき、発光スペクトルが複数の発光ピークを有し、
前記発光ピークのうち、最大発光ピーク強度(I)と、最大発光ピークを示す波長より短波長における他の発光ピーク強度(I)が下記式(A)の関係を満たす有機エレクトロルミネッセンス素子。
/I<1/50・・・(A)
【請求項2】
前記最大発光ピーク強度(I)と前記他の発光ピーク強度(I)が、下記式(B)の関係を満たす請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
/I<1/100・・・(B)
【請求項3】
前記最大発光ピーク強度(I)と前記他の発光ピーク強度(I)が、下記式(C)の関係を満たす請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
/I<1/500・・・(C)
【請求項4】
前記正孔輸送層と発光層のイオン化ポテンシャルの差(ΔIp)が0.25eV以下である請求項1〜3のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記他の発光ピークが、前記電子輸送層の発光に由来する、請求項1〜4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光層が下記式(1)で表されるインデノペリレン誘導体を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

[式中、A〜A16はそれぞれ、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルケニル基、アルケニルオキシ基、アルケニルチオ基、芳香環含有アルキル基、芳香環含有アルキルオキシ基、芳香環含有アルキルチオ基、芳香環基、芳香環オキシ基、芳香環チオ基、芳香環アルケニル基、アルケニル芳香環基、アミノ基、シアノ基、水酸基、−COOR(ここで、Rは水素、アルキル基、アルケニル基、芳香環含有アルキル基又は芳香環基を表す)、−COR(ここで、Rは水素、アルキル基、アルケニル基、芳香環含有アルキル基、芳香環基又はアミノ基を表す)、又は−OCOR(ここで、Rはアルキル基、アルケニル基、芳香環含有アルキル基又は芳香環基を表す)を表す。A〜A16のなかで隣接する基は互いに結合して、置換している炭素原子と共に環を形成していてもよい。]
【請求項7】
前記インデノペリレン誘導体が、ジベンゾテトラフェニルペリフランテン誘導体である請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光層が、下記式(2)で表される化合物を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
X−(Y) (2)
(ここで、Xは炭素環2以上の縮合芳香族環基であり、Yは置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、置換もしくは無置換のアリールアルキル基及び置換もしくは無置換のアルキル基から選択される基である。nは1〜6の整数であり、nが2以上の場合はYは同じでも異なってもよい。)
【請求項9】
前記式(2)のXが、ナフタセン,ピレン,ベンゾアントラセン,ペンタセン,ジベンゾアントラセン,ベンゾピレン,ベンゾフルオレン,フルオランテン,ベンゾフルオランテン,ナフチルフルオランテン,ジベンゾフルオレン,ジベンゾピレン,ジベンゾフルオランテン、アセナフチルフルオランテン骨格の1種以上を含有する請求項8に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記式(2)が、ナフタセン誘導体、ジアミノアントラセン誘導体、ナフソフルオランテン誘導体、ジアミノピレン誘導体、ジアミノペリレン誘導体、ジベンジジン誘導体、アミノアントラセン誘導体、アミノピレン誘導体及びジベンゾクリセン誘導体からなる群より選択される1種以上の化合物である請求項8記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記電子輸送層が下記式(3)で表される化合物を含有する請求項1〜10のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
A−B (3)
(式中、Aは炭素環3以上の芳香族炭化水素残基であり、Bは置換されてもよい複素環基である。)
【請求項12】
前記式(3)で表される化合物が、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ピレン、クリセン、ベンゾアントラセン、ペンタセン、ジベンゾアントラセン、ベンゾピレン、フルオレン、ベンゾフルオレン、フルオランテン、ベンゾフルオランテン、ナフソフルオランテン、ジベンゾフルオレン、ジベンゾピレン及びジベンゾフルオランテンから選択される1以上の骨格を分子中に有する化合物である請求項11に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
前記式(3)で表される化合物が含窒素複素環化合物である請求項11に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項14】
前記含窒素複素環化合物が、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、アクリジン、イミダゾピリジン、イミダゾピリミジン及びフェナントロリンから選択される1以上の骨格を分子中に有する含窒素複素環化合物である請求項13に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項15】
前記含窒素複素環化合物が、下記式(4)又は(5)で表されるベンゾイミダゾール誘導体である請求項13に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

(式中、Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基で、
mは0〜4の整数であり、
は、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルコキシ基であり、
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基であり、
Lは、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリーレン基、置換基を有していてもよいピリジニレン基、置換基を有していてもよいキノリニレン基又は置換基を有していてもよいフルオレニレン基であり、
Arは、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジニル基又は置換基を有していてもよいキノリニル基である。)


【図1】
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