説明

有機エレクトロルミネッセンス表示装置及び有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法

【課題】有機エレクトロルミネッセンス表示素子を密閉し、外気に含まれる水分よりこれを封止し、長寿命な有機EL表示装置を得ることにあり、又、有機EL表示素子或いはその他の電子デバイス等を密閉し、密閉空間への水分の浸透を抑えることのできる優れた封止方法を得ることにある。
【解決手段】有機EL表示素子、該有機EL表示素子を収納し外気を遮断する密閉容器からなる有機EL表示装置であり、該密閉容器が、該有機EL表示素子の上下面に重ね合わせた二つの樹脂基板及び該樹脂基板の間に、有機EL表示素子の外周を囲んで設けられ、二つの樹脂基板を接着し該有機EL表示素子を外気から遮断するシール材から形成され、かつ、該二つの樹脂基板の切断面はテーパを形成するように切断され、少なくとも該樹脂基板の切断面に、金属酸化物又は窒化物を含有する膜が少なくとも1層形成した有機EL表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示素子等の電子デバイスを密閉し、外気に含まれる水分よりこれを封止し、長寿命なものとする封止方法に関し、又、該方法により得られる有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置或いは電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置などの表示装置用の基板として、或いはCCDやCMOSセンサーのような電子デバイス用の基板として、熱安定性や透明性の高さからガラスが用いられてきた。
【0003】
近年、携帯電話等の携帯情報端末機器の普及に伴い、これら端末機器にも受けられる表示装置や電子光学デバイスにおいては、割れやすく思いガラスよりも、可撓性が高く割れにくく、軽いプラスチック基板の採用が検討されている。
【0004】
しかしながら、通常生産されているプラスチック基板は、その内部に水分を含んでおり、例えばこれを有機エレクトロルミネッセンス表示装置に用いた場合、その水分が徐々に表示装置内に拡散し、拡散した水分の影響により表示装置等の耐久性が低下するという問題があった。例えば、非発光領域であるダークスポットが発光領域に発生してしまう等の問題がある。
【0005】
しかしながら、プラスチック基板は透湿性を有しているため、水分の透過性の低いシリカ等の金属酸化物膜をプラスチック基板に直接蒸着により形成したり、又、例えば、WO0036665においては、アクリレートを含むモノマーを蒸着し、重合し、シリカを蒸着し、更にアクリレートを含むモノマーを蒸着して重合することにより封止膜を形成したり、樹脂基板に更に水分の透過性の低い膜を形成する方法により、樹脂基板の透湿性を低下させる試みが各種行われている。
【0006】
通常は、表示素子や電子デバイスをこれらの基板上に形成し、外気から封止するには該表示素子や電子デバイスをこれらの基板上に形成した後、上記水分の透湿性を低下させた基板を更に重ね合わせ周囲をやはり透湿性の低い封止材料で閉じ密閉容器とする方法が一般的である。
【0007】
しかしながら、樹脂基板上に形成された透湿性の低い膜は、基板平面側からの水分の侵入はブロック可能であるが、デバイスの大きさに合わせて切断されたプラスチック基板の断面側からの水の透過については、阻止できないため、例えば、水分の透過による前記の故障が、特に表示素子の外周に近い領域で起こったり、又、切断面から取扱中にポリマー膜や無機物膜が剥がれやすく、剥がれた部分から水分の透過を更に許してしまうという問題があり、更に封止を如何に完全に行うかが問題になっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は有機エレクトロルミネッセンス表示素子を密閉し、外気に含まれる水分よりこれを封止し、長寿命な有機EL表示装置を得ることにあり、又、有機EL表示素子或いはその他の電子デバイス等を密閉し、密閉空間への水分の浸透を抑えることのできる優れた封止方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は以下の手段により達成される。
【0010】
1.有機エレクトロルミネッセンス表示素子と、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子を収納して外気を遮断する密閉容器とからなる有機エレクトロルミネッセンス表示装置において、該密閉容器が、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子の上面及び下面にそれぞれ重ね合わせられた対向する二つの樹脂基板、及び、該二つの樹脂基板の間にあって、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子の外周を取り囲むように設けられ、二つの樹脂基板同士を接着する、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子を外気から遮断するためのシール材から形成されており、該二つの樹脂基板の切断面がテーパを形成するように切断されており、少なくとも該二つの樹脂基板の切断面に、金属酸化物又は窒化物を含有する膜が少なくとも1層形成されてなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【0011】
2.前記密閉容器の樹脂基板表面及び切断面、シール材外周面の全てに、金属酸化物又は窒化物を含有する膜が少なくとも1層形成されていることを特徴とする前記1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【0012】
3.有機エレクトロルミネッセンス表示素子と、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子の上面及び下面にそれぞれ重ね合わせられた対向する二つの樹脂基板、及び、該対向する樹脂基板の間にあって、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子の外周を取り囲むように設けられ、対向する樹脂基板同士を接着する、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子を外気から遮断するためのシール材、から形成された密閉容器において、該二つの樹脂基板の切断面がテーパを形成するように切断されており、かつ、該二つの樹脂基板の少なくとも切断面に、金属酸化物又は窒化物を含有する膜を少なくとも1層形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【0013】
4.密閉容器の樹脂基板表面及び切断面、シール材外周面の全てに、金属酸化物又は窒化物を含有する膜を少なくとも1層形成することを特徴とする前記3に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【0014】
5.前記金属酸化物又は窒化物を含有し、膜厚が100nm以上である少なくとも1層の膜を、有機珪素化合物を含有する反応性ガスを用いて、大気圧プラズマ法により形成することを特徴とする前記3又は4に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【0015】
6.大気圧又は大気圧近傍の圧力下において、有機珪素化合物を含有する反応性ガスを、対向する電極間の放電によりプラズマ状態とすることで発生したプラズマ流に、少なくとも樹脂基板切断面を曝すことにより、金属酸化物又は窒化物を含有する少なくとも1層の膜を、少なくとも樹脂基板切断面に形成することを特徴とする前記5に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【0016】
7.前記密閉容器の樹脂基板表面及び切断面、シール材外周面の全てに、金属酸化物又は窒化物を含有する膜を少なくとも1層形成することを特徴とする前記6に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【0017】
8.前記金属酸化物又は窒化物を含有する膜の、膜厚が100nm以上であり、該膜の最表面に、更に、金属酸化物又は窒化物を含有し、膜厚が70nmを越えない、膜中の炭素含有率が0.2%以下である膜を形成することを特徴とする前記6又は7に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【0018】
9.100kHzを越えた高周波電圧で、且つ、1W/cm2以上の電力を供給し放電させることを特徴とする前記5〜8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【発明の効果】
【0019】
有機EL表示素子等の各種電子デバイスを密閉・封止して、水分の影響から保護しする優れた方法が得られ、又、該方法により耐傷性に優れた長寿命な有機EL表示装置を得ることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
我々は種々検討の結果、上記の構成により上記問題点を克服した水分の封止膜を有する樹脂基板、及びそれを用いて作製した密閉容器により長寿命の表示素子を得ることができた。
【0021】
ポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂基板は、前記有機EL表示素子等の電子デバイスの基板として用いて、これを外部から密閉し、水分の影響を除くためには、樹脂フィルム自身の水分の透過性が十分低いレベルになく、水分の透過性を十分に低下させ水蒸気を封止するため、樹脂フィルムに、例えば100nm以上、好ましくは500nm以上というようにある程度の厚みをもたせた水分の透過性の低い封止膜を組み合わせることが必要である。これらの封止膜を有する樹脂基板を用い前記有機EL表示素子等を密閉することにより、水分の封止性能は向上するが、本発明においては、前記有機EL表示素子等の電子デバイスを外部から封止し、水分の影響を除くためには、該封止膜を金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を樹脂基板表面のみでなく、更に形成された密閉容器を構成する基板の切断面にも形成することがより封止効果が高いことをみいだしたものである。
【0022】
以下本発明について、図を用いて実施の形態を説明する。
【0023】
前述のように、封止膜を有する樹脂基板を用いて表示素子や電子デバイスを外気から遮断するには、該表示素子や電子デバイスを透湿性の低い前記樹脂基板上に形成した後、前記水分の透湿性を低下させた樹脂基板を更に重ね合わせ周囲をやはり透湿性の低いシール材で閉じ密閉容器とする方法が一般的である。
【0024】
図1は、前記、例えばWO0036665等に開示されたシリカを蒸着し、更にアクリレートを含むモノマーを蒸着して重合した、或いは、後述するシリカ等の金属酸化物或いは窒化物等を含有する封止膜を形成したポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂基板を示している(基板を構成する樹脂については後述する)。図1においてSが樹脂基板、11が前記封止膜を表す。
【0025】
これらの封止膜を有する樹脂基板を用いて、密閉容器を形成するには、先ず、これらのポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムに封止膜を形成した樹脂基板を作成しようとする有機EL表示素子や電子デバイスの大きさに合わせたサイズに断裁し、これを基板としてもちい、この基板上に前記有機EL表示素子や電子デバイスを形成する。
【0026】
前記有機EL表示素子や電子デバイス等を密閉するためには、こうした基板上に素子を形成した後、素子の上部に対向する基板としてこれらの基板を重ね合わせ、更に、素子の周囲に、水分の透過性の低いシール材を取り囲むように配置して、素子を形成した基板と上部に重ね合わされた基板の両者を貼り合わせ、素子を外気から遮断する。
【0027】
この様な構成を有する有機EL表示素子を密閉容器内に封止した有機EL表示装置の一例を図2に示した。ここにおいて、1は樹脂基板S及び前記封止膜11からなる基板であり、2はシール材、3が有機EL表示素子を表している。ここでは両基板は同じものを使用しているが、水分の透過性の低い基板であればそれぞれ異なったものを用いてもよい。
【0028】
又、図3には、樹脂基板Sの両側の面に封止膜(それぞれ11及び12)を有する基板を用いて構成した有機EL表示装置の別の一例を示した。封止膜11及び12はそれぞれ異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0029】
前記図2において説明すると、有機EL表示素子3は、2つの基板1および封止材料2によって外気から遮断された空間に封止されており、封止膜11によって矢印Aの方向、即ち、有機EL素子の基板、或いは、表示素子に重ねられたもう一つの基板に対して垂直な方向からの水分或いは水蒸気の侵入については、封止膜の存在によって充分抑えられるが、一方で、図において矢印Bで示された基板の切断面から、即ち基板面に対して平行な方向からの水分の浸透に対しては封止膜が存在せずかなり無防備である。断面の面積はそれ程大きくないにも係わらず、それでも有機EL表示素子を封止した表示装置としては、密閉容器を構成する基板断面からの水分の浸透は比較的大きく、表示装置の、周囲の基板断面に近い領域に、ダークスポット等の故障を引き起こしてしまう。表示装置の周囲といえども表示装置においてこの故障は画像の品位に影響し致命的である。
【0030】
又、図3に示されるような樹脂基板Sの両側に封止膜11及び12を有する基板1を用いた場合においては、有機EL表示素子は、封止材料2に透湿性の低い材料を用いる限り、この封止材料及び上下の基板の封止材料との接着面に形成されたそれぞれの封止膜11の間に完全に外気から完全に密閉され封止されている。
【0031】
しかしながら、封止膜に用いた例えば金属酸化物の膜の形成されていない基板1の断面(切断面)から樹脂フィルム中を水分が浸透してゆくことで(やはり矢印Bにより示す)、断面に近い封止膜の一部が、樹脂フィルム内部から、水分による浸透をうけて破壊されたりすることで、ひび割れや剥落が促進したりする現象があり、前記、図2における場合ほどは顕著でないものの、やはり、表示装置の周囲部分は中心部分に比べ劣化が進みやすい。又、封止材料との接着が均一で、完全でない場合、更に寿命が劣化するので、更に有機EL表示素子の寿命を向上させるためには、やはり基板断面からの水分の浸透を防止することが必要である。
【0032】
従って、本発明は、この様なプラスチックフィルム等の樹脂基板および封止膜からなる複合基板をもちいて有機EL表示素子等(他の電子デバイスでもよいが)を外部から密閉し、これを水分の影響から完全に封止するための方法を提供するものである。
【0033】
本発明によれば、液晶表示素子、有機エレクトロルミネッセンス表示素子或いはCCDやCMOSセンサーのような電子デバイスなどを、樹脂基板を用いて外気より遮断した密閉容器を形成した後に、外部から、透湿性の低い、金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を封止膜として形成することができ、外部の水分から内部の表示素子を遮断することができる。
【0034】
本発明は、有機EL表示素子等の電子デバイスを、少なくとも樹脂基板を用いて形成した密閉容器により外部から遮断した後、該密閉容器を構成する基板の切断面を構成するシール材及び少なくとも基板切断面(断面)に、水透過性の低い金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を封止膜として形成することによって、水分による有機EL表示素子等の電子デバイスの劣化を防止し、寿命を向上させる方法或いは該方法により形成された有機EL表示装置を提供するものである。
【0035】
従って、本発明の一態様としては、前記図1に示された様な予め封止膜を形成したプラスチック基板及びシール材により前記の表示素子等を密閉する密閉容器を構成した後に、改めて、基板の切断面に封止膜を形成する態様があげられる。
【0036】
又、別の態様としては、最初から封止膜を形成した樹脂基板を用いることなく、例えば、プラスチック、例えばポリエチレンフタレート等の樹脂基板そのものとシール材(後述するが、例えば、熱硬化型エポキシ系樹脂、紫外線硬化型エポキシ系樹脂、または反応開始剤を用いた常温硬化型エポキシ系樹脂等を用いることができる)で構成した密閉容器中に有機EL表示素子或いはその他の電子デバイス等を予め封止した後、密閉容器を構成するその樹脂基板表面、切断面、更には、各樹脂基板を接着すると同時に該表示素子を外部から遮断するためのシール材等、密閉容器の外部表面全体に封止膜をあとから形成する態様をあげることができる。
【0037】
又、本発明は、これらの表示素子を水分から遮断し、内部に封止する密閉容器を構成するための、特に基板断面(及び基板)に用いられる、水分の透過性の低い封止膜を提供するものである。
【0038】
水の透過性が低い封止膜の材料としては比較的硬い緻密な膜を形成するため、金属酸化物又は窒化物が適している。
【0039】
金属酸化物或いは窒化物を含有する膜は、例えば、ゾルゲル法といわれる溶液を塗設する方法、又、真空蒸着、スパッタリング、CVD法(化学蒸着)等いかなる方法で形成してもよいが、少なくとも前記基板の切断面に膜形成するには、蒸着法やプラズマ処理による方法が適しており、特に、後に詳述する、大気圧或いは大気圧近傍でのプラズマ処理による形成方法が適しており、特に、有機金属化合物を反応性ガスとして用い、対向する電極間での放電によりプラズマ状態としたプラズマ流を、前記表示素子を密閉した密閉容器の少なくとも基板切断面に吹き付けることで、少なくとも該切断面(断面)に形成する方法が、形成した表示素子等の形状や大きさ等にかかわらず、プラズマ流の方向に膜形成(表面処理)をしたい面を向けることで任意の部位に膜形成(表面処理)ができることや、又、プラズマ放電処理の特徴である緻密な膜を形成できること、反応性ガスの選択、更にプラズマ発生条件によって膜の物性等を制御できること等のため好ましい。ちなみに大気圧或いは大気圧近傍とは、大気圧に近い圧力をさし、20kPa〜110kPaの圧力下、好ましくは93kPa〜104kPaの圧力下である。
【0040】
大気圧プラズマ法に用いられる本発明の金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を封止膜として形成する反応性ガスとして用いられる化合物としては有機金属化合物がある。
【0041】
本発明において前記金属酸化物或いは窒化物を含有する膜において、含有するとは、これを主成分、全構成成分中90%以上を金属酸化物或いは窒化物が占めるということである。
【0042】
金属酸化物或いは窒化物としては酸化珪素、酸化チタン、酸化インジウム、酸化スズ、ITO(酸化インジウム錫)、アルミナ等の金属酸化物、窒化珪素等の金属窒化物、酸窒化珪素、酸窒化チタン等の金属酸窒化物等があげられる。
【0043】
酸化珪素は透明性が高いものの、ガスバリア性が少し低めでやや水分を通すことから窒素原子を含んだ方が好ましい。酸窒化珪素、又、酸窒化チタンの場合、SiOxy、TiOxyという組成で表され、窒素の比率を上昇させるとガスバリア性が増強されるが、逆に光の透過率が低下するため、基板に光透過性が必要な場合、x、yは以下の式を満足するような値であれば光透過性の点でもより一層好ましい。
【0044】
0.4≦x/(x+y)≦0.8
例えばx=0である場合、すなわちSiNでは殆ど光を通さない。酸素原子、窒素原子の比率はXPS(VGサイエンティフィック社製ESCACAB−200R)を用いて後述する炭素含有率と同様に測定できる。
【0045】
本発明において、金属酸化物或いは窒化物を含有する膜の主成分としては水分の透過性が小さいため特に酸化珪素、及び酸化スズが好ましい。
【0046】
又、これらの金属酸化物或いは窒化物を形成するための反応性ガスとしては、例えば有機金属化合物、金属水素化合物を用いることができ、該化合物は常温常圧で、気体、液体、固体いずれの状態であっても構わないが、気体の場合にはそのまま放電空間に導入でき、液体、固体の場合は、加熱、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用する。又、溶媒で希釈して使用してもよく、溶媒としては、メタノール,エタノール,n−ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒が使用出来る。尚、これらの希釈溶媒は、プラズマ放電処理中において、分子状、原子状に分解されるため、影響は殆ど無視することができる。
【0047】
有機金属化合物として、酸化珪素膜を形成するためには腐食性、有害ガスの発生がなく、工程上の汚れなども少ないことから、例えば、下記一般式(1)〜(5)で表される化合物が好ましい。
【0048】
【化1】

【0049】
式中、R21からR26は、水素原子または1価の基を表す。n1は自然数を表す。
【0050】
一般式(1)で表される化合物の例としては、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン等が挙げられる。
【0051】
【化2】

【0052】
式中、R31およびR32は、水素原子または1価の基を表す。n2は自然数を表す。
【0053】
一般式(2)で表される化合物の例としては、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0054】
一般式(3)
(R41nSi(R424-n
式中、R41およびR42は、水素原子または1価の基を表す。nは、0から3までの整数を表す。
【0055】
一般式(3)で表される、有機珪素化合物の例としては、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、i−ブチルトリメトキシシラン、n−へキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0056】
【化3】

【0057】
式中、Aは、単結合あるいは2価の基を表す。R51〜R55は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、芳香族複素環基、アミノ基またはシリル基を表す。R51およびR52、R54およびR55は縮合して環を形成していてもよい。
【0058】
一般式(4)において、Aとして好ましくは単結合あるいは、炭素数1〜3の2価の基である。R54およびR55は縮合して環を形成していてもよく、形成される環としては例えばピロール環、ピペリジン環、ピペラジン環、イミダゾール環等を挙げることができる。R51〜R53は好ましくは水素原子、メチル基またはアミノ基である。
【0059】
一般式(4)で表される化合物の例としては、アミノメチルトリメチルシラン、ジメチルジメチルアミノシラン、ジメチルアミノトリメチルシラン、アリルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノジメチルシラン、1−トリメチルシリルピロール、1−トリメチルシリルピロリジン、イソプロピルアミノメチルトリメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、アニリノトリメチルシラン、2−ピペリジノエチルトリメチルシラン、3−ブチルアミノプロピルトリメチルシラン、3−ピペリジノプロピルトリメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン、1−トリメチルシリルイミダゾール、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ブチルアミノ)ジメチルシラン、2−アミノエチルアミノメチルジメチルフェニルシラン、3−(4−メチルピペラジノプロピル)トリメチルシラン、ジメチルフェニルピペラジノメチルシラン、ブチルジメチル−3−ピペラジノプロピルシラン、ジアニリノジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルシラン等があげられる。
【0060】
一般式(4)において、特に好ましい化合物は一般式(5)で表されるものである。
【0061】
【化4】

【0062】
式中、R61からR66はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基または芳香族複素環基を表す。
【0063】
一般式(5)においてR61からR66は気化の容易性の観点から好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基であり、より好ましくはR61からR63のうちすくなくとも2つおよびR64からR66のうち少なくとも2つがメチル基のものである。
【0064】
一般式(5)で表される化合物の例としては、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ビス(クロロメチル)−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン等が挙げられる。
【0065】
又、酸化スズを形成するためには例えば、ジブチル錫ジアセテート等があげられる。
【0066】
又、更に酸素ガスや窒素ガスを所定割合で上記有機金属化合物と組み合わせて、酸素原子と窒素原子の少なくともいずれかと珪素或いは、錫等の金属原子を含有する膜を得ることが出来る。
【0067】
更に、後述するように、膜中の炭素含有率を調整するために前記の如く混合ガス中に水素ガス等を混合してもよい。
【0068】
これらの反応性ガスに対して、周期表の第18属原子、具体的には、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等、特に、ヘリウム、アルゴンが好ましく用いられるが、不活性ガスを混合し、混合ガスとしてプラズマ放電発生装置(プラズマ発生装置)に供給することで膜形成を行う。不活性ガスと反応性ガスの割合は、得ようとする膜の性質によって異なるが、混合ガス全体に対し、不活性ガスの割合を90.0〜99.9%として反応性ガスを供給する。
【0069】
これらの有機金属化合物を反応性ガスとして用いて、プラズマ発生条件をコントロールすることにより金属酸化物或いは窒化物を含有する膜の柔軟性を制御できる。即ち、プラズマの発生条件を制御し膜を形成することで、金属酸化物或いは窒化物を含有する膜中に炭素原子を含有させることが出来(炭素含有率を変化させることが出来)、炭素の含有率の値によって膜の柔軟性が変化する。
【0070】
これは、真空プラズマ法、スパッタ法などと比較して、大気圧プラズマ法では電極間に存在する反応ガス由来のイオン等などの粒子が高い密度で存在することになるので、有機金属化合物由来の炭素が残りやすいことに起因する。膜中の炭素は、膜に柔軟性を与え、耐傷性が向上することからわずかに含有することが好ましく、具体的には0.2〜5質量%含有することが好ましい。5質量%を越えて含有すると、膜の屈折率などの物性が経時的に変化することがあり好ましくない。
【0071】
膜中の炭素含有率を0.2〜5質量%とするには後述する様に放電を100kHzを越える高周波電圧で、且つ、1W/cm2以上の電力を供給してプラズマ放電を起こさせることが好ましく、又高周波電圧としては連続したサイン波形を有していることが好ましい。
【0072】
この炭素含有率は、主に電源の周波数と供給電力に依存し、電極に印加する電圧の高周波の周波数が高いほど、及び供給電力が大きくなるほど少なくなる。又、混合ガス中に水素ガスを注入すると炭素原子が消費されやすくなり、膜中の含有量を減らすことができ、これによっても制御出来る。
【0073】
水蒸気の封止性を高めるために形成される100nm以上、好ましくは500nm以上の膜厚を有する金属酸化物或いは窒化物を含有する膜は、柔軟性のある膜とすることにより、ひび割れを起こしたり剥離するのを応力緩和によって防止する。又、本発明において断面の形状はミクロの視点で見たときの粗さ等により撓んだときの基板切断面からの剥離やひび割れも軽減する。
【0074】
上記のような、例えば、Si、O、N更にCを所定の割合で含有する膜を形成する為の混合ガスについて以下に具体的に例示する。
【0075】
x/(x+y)が0.80以下であって、更に炭素を0.2〜5質量%含有する酸窒化珪素(SiON)膜を、シラザンと酸素ガスの反応ガスから形成する場合について説明する。この場合、膜中のSiとNは、全てシラザン由来である。
【0076】
酸素ガスは、混合ガスのうち0.01〜5体積%が好ましく、より好ましくは0.05〜1体積%である。又、酸素とシラザンの反応効率から、シラザンに対する酸素ガスのモル比が、得たい膜の組成比(モル比)の1〜4倍になるような体積で混合することが好ましい。このようにして酸素ガスの混合ガス全体に対する割合と、シラザンに対する割合が設定される。
【0077】
又、酸素ガスを導入せず、SiN膜をシラザンから形成する場合、気化させたシラザンは混合ガス全体に対し、0.2〜1.5体積%でよい。このままであると、炭素がかなり膜中に残ってしまうので、最大でも混合ガスの2体積%以下の水素ガスを混合し、形成した膜中の炭素を減らすことができる。
【0078】
Si源としては、上記のような有機珪素化合物だけでなく、無機珪素化合物を用いてもよい。
【0079】
又、酸素源として酸素ガス以外にオゾン、二酸化炭素、水(水蒸気)等を用いてもよいし、窒素源としてシラザンや窒素ガス以外に、アンモニア、窒素酸化物等を用いてもよい。
【0080】
本発明において、密閉容器を形成するためにもちいることのできる樹脂基板としては、可撓性があり、厚みが50〜500μmの樹脂フィルムが好ましく、特に限定はないが、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン類、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル或いはポリアリレート類等の樹脂から成るフィルムでをあげることが出来る。特にアートン(商品名JSR(株)製)或いはアペル(商品名三井化学(株)製)といったシクロオレフィン系樹脂も好ましい。
【0081】
これらの樹脂基板をもちいて前記の封止膜をこれらの上に形成した後、或いは、これらの樹脂基板をそのままもちいて有機EL表示素子等を密閉容器に封止した表示装置を最初に構成してもよいが、いずれにしても、封止後に、前記の場合には、封止膜の形成されていない該密閉容器を構成する樹脂基板の少なくとも切断面に、又、後者の場合には、表示部となる樹脂基板面や裏面の基板そしてその切断面等に、後から、水の透過性が低い、前記金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を前記大気圧乃至大気圧近傍でのプラズマ処理法によって形成する。特に、後述する、大気圧下での放電により反応性ガス及び不活性ガスを混合した混合ガスを放電プラズマとし、これをプラズマ流として、膜形成しようとする部位に吹き付けることで容易に膜形成(表面処理)を行える装置をもちいることが好ましい。
【0082】
樹脂基板断面或いは、樹脂基材表面といえども、水の透過性を低下させるためにはある程度の厚みをもった金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を形成する必要があり、好ましくは100nm以上、更に好ましくは200nm以上(好ましくは1000nm以下)の膜厚を有する前記材料膜を少なくとも1層形成する必要がある。特に樹脂基板としてもちいる樹脂フィルムは50μm〜500μmの厚みがあるため、該基板の断面(切断面)の面積は、本発明のプラズマ放電処理によって得られる膜の厚み(100nm〜1000nm)に比べると大きい。
【0083】
又、本発明において、前記金属酸化物或いは窒化物を含有する膜中の炭素含有率については特に選ばないが、可撓性をもたせるために柔軟性の高い炭素含有率が0.2〜5%の範囲にある金属酸化物或いは窒化物膜とすることが好ましい。
【0084】
一方、封止膜の表面は比較的硬い膜であることが耐傷性を向上させるという観点からは好ましく、最表面の炭素含有率は0.2%以下であることが好ましい。
【0085】
従って、炭素含有率が0.2〜5%の範囲にある金属酸化物或いは窒化物膜の表面に炭素含有率の低い、より硬い膜を組み合わせて積層するのが好ましい。表面に硬度の高い膜を有することで、傷やクラック等が入り難くなると同時に、隣接して形成された膜厚の大きい、柔らかい膜の応力緩和により表面の膜も割れにくくなると同時に、水蒸気の透過を抑えることができ好ましい。表面に形成される膜の膜厚としては余り厚みがあると膜自体は柔軟性が低いためクラックが入りやすいので70nm以下の膜厚が好ましい。又、少なくとも5nm以上ないと効果が少ない。
【0086】
図4が、本発明で用いられる放電プラズマ処理をおこなうプラズマ製膜装置の一例であり、電極間に載置できない様な性状、例えば厚みのある基材101上に膜を形成する場合に、予めプラズマ状態にした反応性ガスをプラズマ風として基材上に噴射して薄膜を形成するためのものである。
【0087】
図4のプラズマ製膜装置100において、35aは誘電体、35bは金属母材、105は電源である。金属母材35bに誘電体35aを被覆した2つの電極(一方の電極はアースに接地される)のスリット状の放電空間に、上部から不活性ガス及び反応性ガスからなる混合ガスを導入し、電源105により高周波電圧を印加することにより放電空間で放電させ、反応性ガスをプラズマ状態とし、該プラズマ状態の反応性ガスからなるプラズマ流を基材101上に噴射することにより基材101表面に反応性ガス由来の膜を形成する。
【0088】
前記電極間には、高いプラズマ密度を得るため、高周波電圧で、ある程度大きな電力を供給することが好ましい。具体的には、100kHz以上150MHz以下の高周波の電圧を印加することが好ましく、200kHz以上であればより一層好ましい。又、電極間に供給する電力の下限値は、1W/cm2以上50W/cm2以下であることが好ましく、2W/cm2以上であればより一層好ましい。
【0089】
尚、電極における電圧の印加面積(cm2)は放電が起こる範囲の面積のことである。
【0090】
又、電極間に印加する高周波電圧は、断続的なパルス波であっても、連続したサイン波であってもよいが、製膜速度が大きくなることから、サイン波であることが好ましい。
【0091】
このような電極としては、前記のように金属母材上に誘電体を被覆したものであることが好ましい。いずれか一方の電極に誘電体を被覆すること、好ましくは、両方に誘電体を被覆することである。誘電体としては、非誘電率が6〜45の無機物であることが好ましい。
【0092】
電極の一方に誘電体を設置した場合の誘電体と電極の最短距離、上記電極の双方に固体誘電体を設置した場合の固体誘電体同士の距離としては、いずれの場合も均一な放電を行う観点から,0.5mm〜20mmが好ましく、特に好ましくは1mm±0.5mmである。この電極間の距離は、電極周囲の誘電体の厚さ、印加電圧の大きさを考慮して決定される。
【0093】
又、更に誘電体表面を研磨仕上げし、電極の表面粗さRmax(JIS B 0601)を10μm以下にすることで誘電体の厚み及び電極間のギャップを一定に保つことができ放電状態を安定化出来る。更に、誘電体の熱収縮差や残留応力による歪みやひび割れをなくし、且つ、ノンポーラスな高精度の無機誘電体を被覆することで大きく耐久性を向上させることができる。
【0094】
又、金属母材に対する誘電体被覆による電極製作において、前記のように、誘電体を研磨仕上げすることや、電極の金属母材と誘電体間の熱膨張の差をなるべく小さくすることが必要であるので、母材表面に、応力を吸収出来る層として泡混入量をコントロールして無機質の材料をライニングすることが好ましい。特に材質としては琺瑯等で知られる溶融法により得られるガラスであることがよく、更に導電性金属母材に接する最下層の泡混入量を20〜30体積%とし、次層以降を5体積%以下とすることで、緻密且つひび割れ等の発生しない良好な電極ができる。
【0095】
又、電極の母材に誘電体を被覆する別の方法として、セラミックスの溶射を空隙率10vol%以下まで緻密に行い、更にゾルゲル反応により硬化する無機質の材料にて封孔処理を行うことがあげられる。ここでゾルゲル反応の促進には、熱硬化やUV硬化がよく、更に封孔液を希釈し、コーティングと硬化を逐次で数回繰り返すと、より一層無機質化が向上し、劣化のない緻密な電極ができる。
【0096】
電極は、金属等の導電性母材35bに対しセラミックスを溶射後、無機材料を用いて封孔処理したセラミック被覆処理誘電体35aを被覆した組み合わせで構成されているものである。溶射に用いるセラミックス材としては、アルミナ・窒化珪素等が好ましく用いられるが、この中でもアルミナが加工しやすいので、更に好ましく用いられる。
【0097】
或いは、金属等の導電性母材35bへライニングにより無機材料を設けたライニング処理誘電体35aを被覆した組み合わせから構成してもよい。ライニング材としては、珪酸塩系ガラス、硼酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、ゲルマン酸塩系ガラス、亜テルル酸塩ガラス、アルミン酸塩系ガラス、バナジン酸塩ガラスが好ましく用いられるが、この中でもホウ酸塩系ガラスが加工しやすいので、更に好ましく用いられる。
【0098】
金属等の導電性母材35bとしては、銀、白金、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属等が挙げられるが、加工の観点からステンレスが好ましい。
【0099】
又、尚、本実施の形態においては、電極は冷却水による冷却手段を有していてもよい(不図示)。
【0100】
又、放電時の高温による悪影響を抑制するため、表面処理(膜形成)しようとする基材の温度を常温(15℃〜25℃)〜200℃未満、更に好ましくは常温〜100℃内で抑えられるように必要に応じて電極冷却ユニット(不図示)で冷却する。
【0101】
図4の電源105などの本発明の膜の形成に用いるプラズマ製膜装置の電源としては、特に限定はないが、ハイデン研究所製インパルス高周波電源(連続モードで使用100kHz)、パール工業製高周波電源(200kHz)、パール工業製高周波電源(800kHz)、日本電子製高周波電源(13.56MHz)、パール工業製高周波電源(150MHz)等が使用出来る。
【0102】
この様なプラズマ製膜装置を用い、本発明に係わる金属酸化物或いは窒化物を含有する封止膜を形成できる。
【0103】
次いで、以下に、本発明に係わる有機EL表示素子を樹脂基板及び封止材から成る密閉容器中に封止する好適な例を説明する。
【0104】
図5は、有機EL表示素子を樹脂基板及びシール材により密閉した有機EL表示装置の一例を示す断面図及び上面図である。この有機EL表示素子は透明な基板1および対向する基板4、更に有機EL表示素子の周囲を取り囲むように配置され該基板同士を接着し有機EL表示素子を外気より遮断するシール材2とから構成され、EL表示素子積層体を外気から遮断するための密閉容器を構成している。透明な基板1及び基板4としては、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルケトン等の樹脂からなるプラスチックシートであり、特に前記の封止膜を塗設していないものである。図では有機EL層を形成した基板面積を大きくなっており、該基板上には内部に封止された有機EL表示素子の電極と外部との導通をとるためのリード線等のパターンが該密閉容器から外部にでるかたちで形成されている。
【0105】
簡単に図5の構成について述べると、基板1上に形成された有機EL表示素子3は、先ず、基板1上に、所望の電極物質、例えば陽極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは10nm〜200nmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により陽極(アノード)が形成し、更に、陽極上に、ここでは図示していないが、正孔注入層、発光層、電子注入層等の材料からなる薄膜が形成され、更にこれらの上に、蒸着やスパッタリングなどの方法により陰極(カソード)等の薄膜を積層した構成となっている(図5においては詳しく図示されていない)。発光を透過させるためには、陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明である構成となっていればよい。
【0106】
有機EL表示素子3の上面、図では、陰極の側に、基板4として、やはりポリエチレンテレフタレートフィルム等の樹脂基板が重ねられ、密閉は、対向基板4の下面(もう一方の基板1と向き合う面)の有機EL表示素子3の周囲を取り囲む様に基板の周辺部に塗布法や転写法等によって設けられたほぼ枠状のシール材2を介して基板4と透明基板1とが互いに貼り合わされることで行われる。前記リード線等により外部との接続のために基板1よりも基板4の面積は小さいものが選ばれている。シール材2は、熱硬化型エポキシ系樹脂、紫外線硬化型エポキシ系樹脂、または反応開始剤をマイクロカプセル化して加圧することにより反応が開始する常温硬化型エポキシ系樹脂等からなっている。この場合、シール材2の所定の箇所には空気逃げ用開口部等を設け(図省略)封止を完全にする。空気逃げ用開口部は、真空装置内において減圧雰囲気(真空度1.33×10-2MPa以下が好ましい)或いは窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気中において、上記硬化型エポキシ系樹脂のいずれか、或いは紫外線硬化型樹脂等で封止される。
【0107】
この場合のエポキシ系樹脂は、ビスフェノールA形、ビスフェノールF形、ビスフェノールAD形、ビスフェノールS形、キシレノール形、フェノールノボラック形、クレゾールノボラック形、多官能形、テトラフェニロールメタン形、ポリエチレングリコール形、ポリプロピレングリコール形、ヘキサンジオール形、トリメチロールプロパン形、プロピレンオキサイドビスフェノールA形、水添ビスフェノールA形、またはこれらの混合物を主剤としたものである。シール材2を転写法により形成する場合には、フィルム化されたものが好ましい。
【0108】
該対向基板4については、ガラス、樹脂、セラミック、金属、金属化合物、またはこれらの複合体等で形成してもよい。JIS Z−0208に準拠した試験において、その厚さが1μm以上で水蒸気透過率が1g/m2・1atm・24hr(25℃)以下であることが望ましく、これらの基材から選択してもよく、可撓性のある樹脂基材を用いることが好ましい。
【0109】
これらの有機EL表示装置において、基板の切断面に効率よく前記の金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を形成するには、前記図4で表される装置をもちいて切断面に前記プラズマ状態の反応性ガスを含む混合ガス(プラズマ風)を噴射しなければ成らない。連続的にこれを行うには、図5の(a)に示したように、図4に示されるプラズマ製膜装置100を用いてプラズマ化した混合ガスを基板面に対し上方から噴射するのが好ましい。例えば、金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を形成しようとする有機EL表示装置の幅より大きい電極幅(図の奥行き方向での幅)を有するプラズマ発生装置をもちい、電極又は処理しようとする有機EL表示装置をプラズマ製膜装置に対して相対的に移動させる(例えば有機EL装置をベルト等の搬送手段で矢印の方向に移動させる)ことで、噴射されたプラズマによって基板表面及び移動方向の切断面に表面加工(膜形成)を同時に行うことが出来る。又、必要であれば、更に処理しようとする表示装置のベルト上への配置を90度(或いは必要なら45度と細かくして実施する)回転させて、一回目にベルトの側面側であった断面を進行方向に向けた位置でもう一度搬送し、更に膜形成処理を実施することで、各基板断面に、又、基板表面にも同時に金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を形成することができる。図5の(b)に基板表面及び切断面に膜形成をした有機EL表示装置を示した。
【0110】
又、これらの有機EL表示装置は、図示されていないが、形成した透明電極及びアルミニウム陰極の一部をシール材の外側に端子として取り出せる構造になっており、該基板断面及び基板のその他の面に対して膜形成をおこなうことによって、該端子が被覆されてしまう形状となっている場合には、図5(a)及び(b)に示したような基板1上において、シール材の外側(従って、形成された密閉容器の外側)に引き出された端子及びリード線等について、封止膜形成後に、マスクを用いて、レジストを形成し、外部との接続をとるリード線又は端子部について、プラズマエッチング、或いは,RIE等の常法によってエッチングすることで金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を除きリード線又は端子部分を露出させる必要がある。
【0111】
又、これらの目的に適ったレジストとしては、例えば、ネガ型或いはポジ型の感光性樹脂がある。この上にマスクを重ね放射線を照射して、レジスト材料に必要な構造変化を起こさせフォトマスクと同様のレジストパターンを形成させる。
【0112】
レジストパターンを形成後、酸化珪素或いは窒化物等の金属酸化物を含有する膜をエッチングで取り除去するには、ハロゲン化炭化水素等を用いたプラズマエッチング、反応性イオンエッチング(RIE)等を用いる。
【0113】
又、リード線が基板から完全に引き出し線のかたちで引き出してある場合には特に基板表面かリード線或いは端子のパターンを露出させる必要はないので、そのまま、基板切断面や基板表面に封止膜を形成させることができる。
【0114】
前記の如く、基板の一方の面及び両方の基板の四方の切断面、又、リード線等の形成された基板1の表面にプラズマ処理を行った後に、基板の反対側に、再度、前記プラズマ処理を行うことで、図5の(c)に示すように、表示装置の各面全面に完全に金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を形成する。次いで、リード線を覆っている封止膜をプラズマエッチングにより除去し、基板1上のリード線又は端子の導電性パターンを露出させ、密閉容器の内部に有機EL表示素子を封止した有機EL表示装置を得ることができる。
【0115】
図6にプラズマ製膜装置100を、処理しようとする有機EL表示装置の基板面に対し垂直な方向に対し2つそれぞれθ、θ′という角度で配置した装置の一例を示す。この様な装置を用いることで、更に、該基板の切断面に効率よくプラズマ処理する方法を示す。θは5〜60度という角度が好ましい。この方法によれば、前記の方法に比べ、各面に、より均一に、プラズマ処理による金属酸化物或いは窒化物を含有する膜の形成が行える。
【0116】
又、図7には、有機EL表示装置の基板断面にプラズマによる膜形成を効率よく行う装置の一例を示す。図2に示されるような金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を有する複合樹脂基板を基板1及び4の両方に用いた場合、両基板面に対する処理を省略することができるので、基板断面にのみ金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を形成すればよい。この場合、図7の(a)及びこれを上側からみた上面図を(b)に示すが、ベルトの両側に二つのプラズマ製膜装置100を、それぞれの2枚の電極板の間隙(プラズマ流が噴射される)がベルトと平行になるように配置し、該装置の2枚の電極板の間隙(プラズマ流が噴射される)に沿ってプラズマ流が丁度基板の切断面に噴射されるようベルトを移動させ、表示装置を搬送して(矢印Cで示す方向に)両切断面に膜形成をおこなうことで、有機EL表示素子を封じ込めることができる。
【0117】
又、金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を、樹脂基板を用いて形成した密閉容器の断面に形成する場合には、予め樹脂基板の切断面をテーパを形成するように(θとしては5〜60度が好ましい)切断した基板を用いて有機EL表示素子を密閉し、有機EL表示装置を形成すれば(図8)、図5に示すように上方からプラズマを噴射する際に効率的に基板の切断面に膜形成が行える。勿論、図6と同様に2つのプラズマ製膜装置を用いてもよい。
【0118】
本発明に係わる金属酸化物或いは窒化物を含有する膜は、水分の透過性を小さくするためにはある程度の厚みを有していることが必要であり、前記のように、水蒸気の透過を低下させるため100nm以上の厚みを有する金属酸化物或いは窒化物の膜及びこれよりも膜厚の小さい、即ち70nmを越えない膜であって、スリ傷等に強い、比較的硬い、即ち、炭素含有率の低い金属酸化物或いは窒化物を含有する膜を、その上に最表面層として形成することが好ましい。100nm以上の厚みを有する金属酸化物或いは窒化物の膜については、折り曲げ等に強い、ある程度柔軟性を有する膜、即ち、炭素含有率が0.2〜5%の範囲にある金属酸化物或いは窒化物を含有する膜であることが好ましい。それにより、膜剥がれやクラックの発生を抑え、且つ、表面に傷等のつきにくい水分の透過性の低い封止膜が得られる。
【0119】
従って、上記のプラズマ処理によって形成される水の透過性の低い金属酸化物或いは窒化物を含有する膜の形成は、それぞれ形成条件を変えて少なくとも2段階で行われることが好ましい。
【0120】
又、これらの膜は必ずしも、1層ずつである必要はなく、表面層が、比較的硬い、即ち、炭素含有率の低い金属酸化物或いは窒化物を含有する膜であればよく、これら二種の層が交互に配置されていてもよい。
【0121】
従って、本発明は別の観点からみると、樹脂フィルムを基材とした、複合的な膜の積層体からなる水の透過性を抑えた樹脂基板であり、有機EL表示装置や各種の電子デバイス用の基板として好適に用いることができるものである。
【0122】
即ち、本発明の一態様は、金属酸化物又は窒化物を含有し、炭素含有率が0.2%以下であり、膜厚が70nmを越えない膜及び金属酸化物又は窒化物を含有し、膜厚が100nm以上である少なくとも一層の膜を積層したことを特徴とする水分の封止膜である。
【0123】
本発明に係わるこれらの水分の透過性が低い金属酸化物を含有する膜を用いた封止法によって、樹脂基材の特徴である可撓性を維持しつつ、樹脂基材中の水分や外部から樹脂基材を透過して浸透する水蒸気等の水分を遮断できるため、封止された内部空間を低湿度に保つことができ、有機エレクトロルミネッセンス表示素子としての寿命を非常に高めることが出来る。
【0124】
次いで、本発明にかかわるこれらの封止膜により封止される有機エレクトロルミネッセンス表示素子について説明する。
【0125】
本発明において有機エレクトロルミネッセンス表示素子(有機EL表示素子とも表記する)は、陽極と陰極の一対の電極の間に発光層を挾持する構造をとる。本明細書でいう発光層は、広義の意味では、陰極と陽極からなる電極に電流を流した際に発光する層のことを指す。具体的には、陰極と陽極からなる電極に電流を流した際に発光する有機化合物を含有する層のことを指す。本発明に係わる有機EL表示素子は、必要に応じ発光層の他に、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層および電子輸送層を有していてもよく、陰極と陽極で狭持された構造をとる。また、保護層を有していても良い。
【0126】
具体的には、
(i)陽極/発光層/陰極
(ii)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
(iii)陽極/発光層/電子注入層/陰極
(iv)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
(v)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
などの構造がある。
【0127】
さらに、電子注入層と陰極との間に、陰極バッファー層(例えば、フッ化リチウム、等)を挿入しても良い。また、陽極と正孔注入層との間に、陽極バッファー層(例えば、銅フタロシアニン、等)を挿入しても良い。
【0128】
上記発光層は、発光層自体に、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層および電子輸送層等を設けてもよい。即ち、発光層に(1)電界印加時に、陽極又は正孔注入層により正孔を注入することができ、かつ陰極又は電子注入層より電子を注入することができる注入機能、(2)注入した電荷(電子と正孔)を電界の力で移動させる輸送機能、(3)電子と正孔の再結合の場を発光層内部に提供し、これを発光につなげる発光機能、のうちの少なくとも1つ以上の機能を有してもよく、この場合は、発光層とは別に正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層および電子輸送層の少なくとも1つ以上は設ける必要がなくなることになる。また、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層および電子輸送層等に発光する化合物を含有させることで、発光層としての機能を付与させてもよい。尚、発光層は、正孔の注入されやすさと電子の注入されやすさに違いがあってもよく、また、正孔と電子の移動度で表される輸送機能に大小があってもよいが、少なくともどちらか一方の電荷を移動させる機能を有するものが好ましい。
【0129】
この発光層に用いられる発光材料の種類については特に制限はなく、従来有機EL表示素子における発光材料として公知のものを用いることができる。このような発光材料は主に有機化合物であり、所望の色調により、例えば、Macromol.Symp.125巻17頁から26頁に記載の化合物が挙げられる。
【0130】
発光材料は発光性能の他に、正孔注入機能や電子注入機能を併せ持っていても良く、正孔注入材料や電子注入材料の殆どが発光材料としても使用できる。
【0131】
発光材料はp−ポリフェニレンビニレンやポリフルオレンのような高分子材料でも良く、さらに前記発光材料を高分子鎖に導入した、または前記発光材料を高分子の主鎖とした高分子材料を使用しても良い。
【0132】
また、発光層にはドーパント(ゲスト物質)を併用してもよく、有機EL表示素子のドーパントとして使用される公知のものの中から任意のものを選択して用いることができる。
【0133】
ドーパントの具体例としては、例えばキナクリドン、DCM、クマリン誘導体、ローダミン、ルブレン、デカシクレン、ピラゾリン誘導体、スクアリリウム誘導体、ユーロピウム錯体等がその代表例として挙げられる。また、イリジウム錯体(例えば特開2001−247859号明細書に挙げられるもの、あるいはWO0070655号明細書16〜18ページに挙げられるような式で表される例えばトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム等)やオスミウム錯体、あるいは2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィリン白金錯体のような白金錯体もドーパントとして挙げられる。
【0134】
上記材料を用いて発光層を形成するには、例えば蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により薄膜化することにより形成する方法があるが、特に分子堆積膜であることが好ましい。ここで、分子堆積膜とは、上記化合物の気相状態から沈着され形成された薄膜や、該化合物の溶融状態又は液相状態から固体化され形成された膜のことである。通常、この分子堆積膜はLB法により形成された薄膜(分子累積膜)と凝集構造、高次構造の相違や、それに起因する機能的な相違により区別することができる。
【0135】
また、この発光層は、特開昭57−51781号に記載されているように、樹脂などの結着材と共に上記発光材料を溶剤に溶かして溶液としたのち、これをスピンコート法などにより薄膜化して形成することができる。このようにして形成された発光層の膜厚については特に制限はなく、状況に応じて適宜選択することができるが、通常は5nm〜5μmの範囲である。
【0136】
正孔注入層の材料である正孔注入材料は、正孔の注入、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。この正孔注入材料としては、例えばトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマーなどが挙げられる。正孔注入材料としては、上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第三級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0137】
上記芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)ビフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには、米国特許第5,061,569号に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)などが挙げられる。
【0138】
また、p型−Si、p型−SiCなどの無機化合物も正孔注入材料として使用することができる。この正孔注入層は、上記正孔注入材料を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔注入層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度である。この正孔注入層は、上記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であってもよく、同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0139】
電子注入層は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。この電子注入層に用いられる材料(以下、電子注入材料という)の例としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられる。また、特開昭59−194393号公報に記載されている一連の電子伝達性化合物は、該公報では発光層を形成する材料として開示されているが、本発明者らが検討の結果、電子注入材料として用いうることが分かった。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子注入材料として用いることができる。また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えばトリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)など、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も電子注入材料として用いることができる。その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基などで置換されているものも電子注入材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も電子注入材料として用いることができるし、正孔注入層と同様にn型−Si、n型−SiCなどの無機半導体も電子注入材料として用いることができる。
【0140】
この電子注入層は、上記化合物を、例えば真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法などの公知の薄膜化法により製膜して形成することができる。電子注入層としての膜厚は特に制限はないが、通常は5nm〜5μmの範囲で選ばれる。この電子注入層は、これらの電子注入材料一種又は二種以上からなる一層構造であってもよいし、あるいは同一組成又は異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0141】
さらに、陽極と発光層または正孔注入層の間、および、陰極と発光層または電子注入層との間にはバッファー層(電極界面層)を存在させてもよい。
【0142】
バッファー層とは、駆動電圧低下や発光効率向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日 エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(第123頁〜第166頁)に詳細に記載されており、陽極バッファー層と陰極バッファー層とがある。
【0143】
陽極バッファー層は、特開平9−45479号、同9−260062号、同8−288069号等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0144】
陰極バッファー層は、特開平6−325871号、同9−17574号、同10−74586号等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。
【0145】
上記バッファー層はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるが、その膜厚は0.1〜100nmの範囲が好ましい。
【0146】
さらに上記基本構成層の他に必要に応じてその他の機能を有する層を積層してもよく、例えば特開平11−204258号、同11−204359号、および「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日 エヌ・ティー・エス社発行)」の第237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層などのような機能層を有していても良い。
【0147】
バッファー層は、陰極バッファー層または陽極バッファー層の少なくとも何れか1つの層内に本発明の化合物の少なくとも1種が存在して、発光層として機能してもよい。
【0148】
有機EL表示素子における陽極は、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAuなどの金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnOなどの導電性透明材料が挙げられる。
【0149】
上記陽極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また、陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは10nm〜200nmの範囲で選ばれる。
【0150】
有機EL表示素子の陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属などが挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化などに対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えばマグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al23)混合物、リチウム/アルミニウム混合物などが好適である。上記陰極は、これらの電極物質を蒸着やスパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光を透過させるため、有機EL表示素子の陽極又は陰極のいずれか一方が、透明又は半透明であれば発光効率が向上し好都合である。
【0151】
以下に、樹脂フィルム等の樹脂基板を用いて、密閉容器中に封止する、本発明に係わる陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極からなる有機EL表示素子の好適な例を説明する。
【0152】
図9は、基板1上に有機EL表示素子3が形成された本発明の有機EL表示装置の一例を示す断面図である。基板1は、前記のポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルケトン等の樹脂からなるシート基材でも、又、該基材上に金属酸化物又は窒化物を含有する複数の膜を封止膜として有する図1に示した本発明に係わる基板であってもよい。
【0153】
先ず、該基板1上には複数の陽極(アノード)301が互いに平行して設けられている。所望の電極物質、例えば陽極用物質からなる薄膜を、1μm以下、好ましくは10nm〜200nmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させ、陽極(アノード)301を作製する。有機EL表示素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物、具体例としてはAuなどの金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、インジウムジンクオキシド(IZO)、SnO2、ZnOなどの導電性透明材料が用いられる。
【0154】
次に、この上に有機EL層302を形成する。即ち、ここで図示していないが、正孔注入層、発光層、電子注入層等の前記各材料からなる有機EL層薄膜を形成させる。
【0155】
次いで、上記有機EL層302上には、前述のような物質から選ばれる陰極(カソード)303を、蒸着やスパッタリングなどの方法により薄膜を形成させることにより作製する。なお、前述の如く、発光を透過させるためには、有機EL表示素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光効率が向上し好都合である。
【0156】
有機EL層302の各層の作製方法としては、前記の如くスピンコート法、キャスト法、蒸着法などがあるが、均質な膜が得られやすく、かつピンホールが生成しにくいなどの点から、真空蒸着法が好ましい。薄膜化に、真空蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は、使用する化合物の種類、分子堆積膜の目的とする結晶構造、会合構造などにより異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10-6〜10-3Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚5nm〜5μmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0157】
これらの層の形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を、1μm以下好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば蒸着やスパッタリングなどの方法により形成させ、陰極を設けることにより、所望の有機EL表示素子が得られる。
【0158】
この有機EL表示素子3の積層体の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、作製順序を逆にして、陰極、電子注入層、発光層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた有機EL表示素子に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧5〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。さらに、交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
【0159】
又、陰極(カソード)303を含む有機EL表示素子3の表面全体には、保護膜を設けてもよい。例えば、無機保護膜は、CeO2中にSiO2を分散したものからなっている。無機保護膜5の形成は、スパッタリング法、イオンプレーティング法、蒸着法等によって行い、膜厚は1〜100000Å好ましくは500〜10000Åとする。この場合、無機保護膜の形成は、陰極(カソード)303を形成した後、大気中に戻すことなく真空中で連続して形成するか、或いは窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気中での搬送が可能な搬送系で搬送して再度真空中において形成することができる。
【0160】
陰極(カソード)303の上面には、対向する基板4が重ねられ、これにより有機EL表示素子は外部から遮断・封止される。基板4には、予め水分の透過性の低い金属酸化物又は窒化物を含有する膜が等が形成されていても勿論構わない。
【0161】
外部からの遮断・封止は、基板4の基板1と向き合う面の周辺部に塗布法や転写法等によって設けられたほぼ枠状のシール材2を介して対向基板と透明基板1とが互いに貼り合わされることで行われる。シール材2は、熱硬化型エポキシ系樹脂、紫外線硬化型エポキシ系樹脂、または反応開始剤をマイクロカプセル化して加圧することにより反応が開始する常温硬化型エポキシ系樹脂等からなっている。この場合、シール材2の所定の箇所には空気逃げ用開口部等を設け(図省略)封止を完全にする。空気逃げ用開口部は、真空装置内において減圧雰囲気(真空度1.33×10-2MPa以下が好ましい)或いは窒素ガスまたは不活性ガス雰囲気中において、上記硬化型エポキシ系樹脂のいずれか、或いは紫外線硬化型樹脂等で封止される。
【0162】
この場合のエポキシ系樹脂は、ビスフェノールA形、ビスフェノールF形、ビスフェノールAD形、ビスフェノールS形、キシレノール形、フェノールノボラック形、クレゾールノボラック形、多官能形、テトラフェニロールメタン形、ポリエチレングリコール形、ポリプロピレングリコール形、ヘキサンジオール形、トリメチロールプロパン形、プロピレンオキサイドビスフェノールA形、水添ビスフェノールA形、またはこれらの混合物を主剤としたものである。シール材を転写法により形成する場合には、フィルム化されたものが好ましい。
【0163】
対向する基板4については、ガラス、樹脂、セラミック、金属、金属化合物、またはこれらの複合体等で形成してもよい。JIS Z−0208に準拠した試験において、その厚さが1μm以上で水蒸気透過率が1g/m2・1atm・24hr(25℃)以下であることが望ましく、これらの基材から選択してもよいが、前記封止膜を有するものが好ましく、又、可撓性のある樹脂基材を用いることが好ましい。
【0164】
尚、該シール材は、透明電極及びアルミニウム陰極の一部を端子及びリード線として取り出せる構造になっている必要がある。前記図9においても、基板上に設けられた陽極(アノード)301、又、これらの陽極と有機EL層302を挟んでその上に形成された陰極用物質の薄膜パターンからなる陰極303から、シール材を通して封止された密閉容器からシール材を通して外部に導通をとるための端子及びリード線が形成されこれが取り出せる構造となっているが、図9においは省略されている。
【0165】
又、本発明において、水分を吸収する、或いは水分と反応する材料(例えば酸化バリウム等)等を上記基板に層形成して密閉容器内に封入することもできる。
【0166】
以上のように構成された有機EL表示装置では、透明基板1と対向基板4とを枠状のシール材2を介して互いに貼り合わせているので、これらにより、有機EL表示素子を完全に密閉する容器を形成し、これに前記金属酸化物及び窒化物を含有する膜を形成することで、対向基板4およびシール材2によって透明基板1上に設けられた、陽極(アノード)301、陰極(カソード)303等を含む有機EL表示素子を外部から完全に封止することができ、特に基板の切断面からの水分の浸透も抑えられ、内部を低湿度の状態に維持でき、有機EL表示装置の耐湿性がより一層向上し、ダークスポットの発生、成長をより一層抑制することができる。
【0167】
尚、本発明の基材及び上記有機EL表示素子を封入する前記構成は本発明の1つの態様であり、有機EL表示素子構成及び本発明の基材を含めた構成はこれらに限られるものではない。
【実施例】
【0168】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが本発明はこれにより限定されるものではない。
【0169】
実施例1
以下に示す各基板を作製した。以下に示す例では、プラズマ放電処理を行う場合、図4に示すプラズマ製膜装置100を用い、プラズマ発生には、日本電子(株)製高周波電源JRF−10000を電源に用いた。又、ステンレス製の電極母材を用い、これに対しセラミックス(アルミナ)を溶射後、無機材料を用いて封孔処理したアルミナ被覆処理誘電体を被覆し電極としたものをもちいた。反応性ガスは以下の組成のガスを用いた。
【0170】
(酸化珪素膜形成用反応性ガス)
不活性ガス:アルゴン98.25体積%
反応性ガス1:水素ガス1.5体積%
反応性ガス2:テトラメトキシシラン蒸気(アルゴンガスにてバブリング)0.25体積%
(基板A)
厚さ100μmのPETフィルムの片面に前記プラズマ製膜装置を用い、電源は日本電子(株)製高周波電源JRF−10000を用いて、周波数13.56MHzの電圧で、且つ、20W/cm2の電力を供給して、プラズマ発生させた。発生させたプラズマ流をフィルム表面に噴射し、酸化珪素の膜11aを500nmの厚みになるまで形成し基板Aを得た。
【0171】
(基板K)
前記基板Aの上に、前記のプラズマ放電装置100を用い、日本電子(株)製高周波電源JRF−10000を用いて周波数13.56MHzの電圧で、且つ、40W/cm2の電力を供給して、プラズマ発生させ、発生させたプラズマ流をフィルム表面に噴射し、更に酸化珪素の膜11bを70nmの厚みで形成し基板Kを得た。
【0172】
基板Kにおいては、最表面層の形成時に印加する高周波の供給電力を変更して、炭素含有率を隣接する酸化珪素層よりも小さい値(0.1%)となるようにした。
【0173】
上記の各基板の酸化珪素膜の炭素含有率を、それぞれ膜を形成した段階でそれぞれ、XPS表面分析装置を用いて測定した。XPS表面分析装置は、特に限定されるものではなく、いかなる機種も使用することが出来るが、本実施例においては、VGサイエンティフィックス社製ESCALAB−200Rを用いた。X線アノードにはMgを用い、出力600W(加速電圧15kV、エミッション電流40mA)で測定した。エネルギー分解能は、清浄なAg3d5/2ピークの半値幅で規定したとき、1.5〜1.7eVとなるように設定した。測定を行う前に、汚染による影響を除くために、薄膜の膜厚の10〜20%の厚さに相当する表面層をエッチング除去する必要がある。表面層の除去には、希ガスイオンが利用できるイオン銃を用いることが好ましく、イオン種としては、He、Ne、Ar、Xe、Krなどが利用できる。本測定においては、Arイオンエッチングを用いて表面層を除去した。
【0174】
先ず、結合エネルギー0eVから1100eVの範囲を、データ取り込み間隔1.0eVで設定し、如何なる元素が検出されるかを求めた。次に、検出された、エッチングイオン種を除く全ての元素について、データの取り込み間隔を0.2eVとして、その最大強度を与える光電子ピークについてナロースキャンを行い、各元素のスペクトルを予定した。得られたスペクトルは、測定装置、或いは、コンピュータの違いによる含有率算出結果の違いをなくすために、VAMAS−SCA−JAPAN製のCOMMON DATA PROCESSING SYSTEM(Ver.2.3以降が好ましい)上に転送した後、同プログラムで処理を行い、炭素含有率の値を原子数濃度(atomic concentration)として求めた。
【0175】
又、定量処理を行う前に、各元素についてCount Scaleのキャリブレションを行い、5ポイントのスムージング処理を行った。定量処理では、バックグラウンドを除去したピークエリア強度(cps*eV)を用いた。バックグラウンド処理には、Shirleyによる方法を用いた。Shirley法については、D.A.Shirley,Phys.Rev.,B5,4709(1972)を参考にすることが出来る。
【0176】
基板A及びKついて、下記の耐傷性試験を行った結果を表1に示す。
【0177】
《耐傷性の測定》
1×1cmの面にスチールウールを貼り付けたプローブを、各基板の薄膜面に250gの荷重をかけて押し付け10回往復運動させた後、スリ傷のはいる本数を測定した。
【0178】
【表1】

【0179】
最表面に炭素含有率が0.2%の、500nmの膜厚を有する酸化珪素膜のみを有する基板に比べ、最表面に炭素含有率がこれより小さい酸化珪素膜を更に形成した基板は耐傷性に優れることがわかる。
【0180】
実施例2
有機EL表示装置の作製
図10の(a)に断面図を示したような有機EL表示装置1を作製した。先ず、実施例1で作製した基板Kを基板1として用いて、基板Kの酸化珪素膜11a及び11bを有する面と反対側の面上にスパッタリングターゲットとして酸化インジウムと酸化亜鉛との混合物(Inの原子比In/(In+Zn)=0.80)からなる焼結体をもちい、DCマグネトロンスパッタリング法にて透明導電膜であるIZO(Indium Zinc Oxide)膜を形成した。即ち、スパッタリング装置の真空装置内を1×10-3Pa以下にまで減圧し、アルゴンガスと酸素ガスとの体積比で1000:2.8の混合ガスを真空装置内が1×10-1Paになるまで真空装置内に導入した後、ターゲット印加電圧420V、基板温度60℃でDCマグネトロン法にて透明導電膜であるIZO膜を厚さ250nm形成した。このIZO膜に、パターニングを行い陽極(アノード)301とした後、この透明導電膜を設けた透明支持基盤をi−プロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
【0181】
この陽極301となる透明導電膜上に方形穴あきマスクを介して真空蒸着法により、有機EL層302を、α−NPD層(膜厚25nm)、CBPとIr(ppy)の蒸着速度の比が100:6の共蒸着層(膜厚35nm)、BC層(膜厚10nm)、Alq3層(膜厚40nm)、フッ化リチウム層(膜厚0.5nm)を順次積層することで形成した(図10には詳細に示していない)。更に別のパターンが形成されたマスクを介して、膜厚100nmのアルミニウムからなる陰極(カソード)303を形成した。
【0182】
【化5】

【0183】
このように得られた積層体に、乾燥窒素気流下、更に基板4として基板Kを封止膜11a及び11bが、表面になるよう重ねあわせ、有機EL表示素子を封止した。
【0184】
基板4の基板1と向き合う面に、重ね合わされたときに有機EL層の周囲を取り囲むように(塗布法や転写法等によって)設けられたほぼ枠状のシール材2によって、基板1及び4を貼り合わせ、有機EL表示素子3を内部空間に封止した。シール材としては光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を使用した。有機EL表示装置1は、シール材の外側の基板1上に、透明電極及びアルミニウム陰極の一部と導通するリード線及び端子が引き出された構造になっている。この様にして有機EL表示装置1を作製した(図10の(a))。
【0185】
次に、プラズマ製膜装置を2つ用いた図7で示した方法により(それぞれの装置を図7におけるθでそれぞれ45度とし)、各プラズマ製膜装置をそれぞれ基板Aを作製したときと同じ条件でプラズマ流を形成し、噴射して、作製した有機EL装置1をベルトで搬送しつつ、有機EL表示装置1の基板1及び基板4の、プラズマ製膜装置の側2つの断面、シール材の表面及び基板1のシール材の外側の表面に、酸化珪素膜を形成した。次いで、有機EL表示装置をベルトの移動方向に対し、90度回転させて設置位置を変更し、同様に未処理の切断面、シール材の表面及び基板1のシール材の外側の表面に等に酸化珪素膜を更に形成させた。搬送の時間を調整し、形成した酸化珪素膜の膜厚が500nmとなるようにした。
【0186】
次いで同じ装置を用い、プラズマ発生条件を基板Kの最表面の酸化珪素膜11bを形成したときと同じ条件で、更に各切断面等に厚み70nmの酸化珪素膜を形成し、有機EL表示装置の上下の各面及び4つの側面(切断面)全てに酸化珪素膜11a及び11bを形成し、有機EL表示装置2を作製した(図10の(b)で示す)。
【0187】
尚、有機EL表示装置1の基板1のシール材の外側の、電極に導通する端子及びリード線パターンを有する領域にレジスト材料としてエッチングレジストER−235N(東洋紡製)を適用し、透明電極及びアルミニウム電極に導通する端子及びリード線パターンマスクを介して露光し、該端子及びリード線パターン以外の部分に、常法によりレジストを形成した後、やはり常法によりC48を主体とした材料ガスを用いてプラズマエッチングすることにより端子及びリード線部分を露出させるようにした。
【0188】
これら二つの有機EL表示装置1及び2について、以下の評価を行った。
【0189】
《評価項目1》
封入直後に表示部の50倍の拡大写真を撮影した。80℃、相対湿度80%の条件下で、300時間保存後50倍の拡大写真を撮影し観察されたダークスポットの面積増加率を評価した。
【0190】
《評価項目2》
封入直後に50倍の拡大写真を撮影した。表示素子を45°に折り曲げて元に戻す折り曲げ試験を1000回繰り返した後に、評価項目1と同様の保存試験を行いダークスポット面積の増加率を評価した。
【0191】
面積増加率は評価項目1及び2とも以下の基準で評価した。
【0192】
これらの拡大写真を比較し、保存後のダークスポットの面積の増加率を有機EL表示装置1を100として有機EL表示装置2について評価したところ、10%未満であり、これらの結果から、二つの封止膜を有する樹脂基板(基板K)及びシール材によって形成した密閉容器の周囲の切断面に酸化珪素の膜を形成し、周囲を完全に酸化珪素膜で覆った有機EL表示装置2は、上下の基板面のみに酸化珪素膜を形成した、基板Kを用いた有機EL表示装置1に比べて、ダークスポットの面積増加率が小さいことが明らかである。特に、表示装置周囲の部分にダークスポットの増加が顕著であった。又、折り曲げ試験を繰り返した場合には、更にその差が顕著であった。
【0193】
本実施例には、表示素子内に水分を吸着或いは水分と反応する材料(例えば酸化バリウム)を封入しなかったが、これらの材料を表示素子内に封入することを妨げるものではない。
【0194】
実施例3
実施例2の有機EL表示装置1と同様に、但し、基板1及び4として基板Kの代わりに厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いて、二つのポリエチレンテレフタレートフィルム及びシール材によって4方が密閉された容器中に有機EL表示素子を封止した、図5の(a)と同様な有機EL表示装置を作製した。これに同様に、図6で示されるように、図4のプラズマ製膜装置100を2つ用い、電源としては、日本電子(株)製高周波電源JRF−10000を、又、電極としては、母材がステンレス、これにセラミックス(アルミナ)を溶射、無機材料を用い封孔処理したアルミナ被覆処理誘電体で被覆した電極をもちい、反応性ガスとしては、以下の組成のガスを用い、周波数13.56MHzの電圧で、且つ、20W/cm2の電力を供給して、プラズマ発生させ、同様にして図11の(a)で示されるような基板面及び四方の断面に同時に500nmの膜厚の酸化スズ膜11aを形成した。
【0195】
(酸化スズ膜形成用反応性ガス)
不活性ガス:アルゴン98.25体積%
反応性ガス1:水素ガス1.5体積%
反応性ガス2:ジブチルスズジアセテート0.25体積%(60℃に加熱した液体にアルゴンガスをバブリング)
更に、同じ装置で、プラズマ放電装置の条件を同時に変え、前記基板Kの第2層目の膜形成をおこなったときの条件と同じ条件、即ち、周波数(13.56MHz)で、且つ、(40W/cm2)の電力を供給して酸化珪素の膜11bを70nmの厚みで形成した(図11の(b))。
【0196】
次いで、同じ装置で、反対側の基板面に、上記の基板及び及び四方の切断面に形成したものと同じ500nmの酸化スズ膜11aをそして70nmの酸化珪素膜11bをそれぞれ前記と同じ条件で、連続的に形成して、密閉容器の表面が、完全に酸化スズ膜及び酸化珪素膜からなる封止膜で覆われた有機EL表示装置3を作製した(図11の(c))。
この有機EL表示装置3につき、前記同様の評価を行ったところ、有機EL表示装置2と同様に、ダークスポットの面積増加率が小さい(5%以下)又、折り曲げ試験を繰り返した場合にもダークスポットの発生は少ないことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】封止膜を形成した樹脂基板を示す図である。
【図2】有機EL表示素子を密閉容器内に封止した有機EL表示装置の一例示す図である。
【図3】有機EL表示素子を密閉容器内に封止した有機EL表示装置の別の一例を示す図である。
【図4】プラズマ製膜装置の一例を示す図である。
【図5】有機EL表示素子を密閉した有機EL表示装置の一例を示す断面図及び上面図である。
【図6】プラズマ製膜装置を2つ配置した装置の一例を示す図である。
【図7】有機EL表示装置の基板断面に膜形成を効率よく行う装置の一例を示す図である。
【図8】切断面をテーパを形成するように切断した基板を用いて有機EL表示素子を密閉した有機EL表示装置の一例を示す図である。
【図9】有機EL表示装置の一例を示す断面図である。
【図10】作製した有機EL表示装置の断面図である。
【図11】作製した有機EL表示装置の断面図である。
【符号の説明】
【0198】
1,4 基板
2 シール材
3 有機EL表示素子
301 陽極
302 有機EL層
303 陰極
100 プラズマ製膜装置
101 基材
105 電源
35a 誘電体
35b 金属母材
S 樹脂基板
11,11a,11b,12 封止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機エレクトロルミネッセンス表示素子と、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子を収納して外気を遮断する密閉容器とからなる有機エレクトロルミネッセンス表示装置において、該密閉容器が、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子の上面及び下面にそれぞれ重ね合わせられた対向する二つの樹脂基板、及び、該二つの樹脂基板の間にあって、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子の外周を取り囲むように設けられ、二つの樹脂基板同士を接着する、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子を外気から遮断するためのシール材から形成されており、該二つの樹脂基板の切断面がテーパを形成するように切断されており、少なくとも該二つの樹脂基板の切断面に、金属酸化物又は窒化物を含有する膜が少なくとも1層形成されてなることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項2】
前記密閉容器の樹脂基板表面及び切断面、シール材外周面の全てに、金属酸化物又は窒化物を含有する膜が少なくとも1層形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項3】
有機エレクトロルミネッセンス表示素子と、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子の上面及び下面にそれぞれ重ね合わせられた対向する二つの樹脂基板、及び、該対向する樹脂基板の間にあって、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子の外周を取り囲むように設けられ、対向する樹脂基板同士を接着する、該有機エレクトロルミネッセンス表示素子を外気から遮断するためのシール材、から形成された密閉容器において、該二つの樹脂基板の切断面がテーパを形成するように切断されており、かつ、該二つの樹脂基板の少なくとも切断面に、金属酸化物又は窒化物を含有する膜を少なくとも1層形成することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【請求項4】
密閉容器の樹脂基板表面及び切断面、シール材外周面の全てに、金属酸化物又は窒化物を含有する膜を少なくとも1層形成することを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【請求項5】
前記金属酸化物又は窒化物を含有し、膜厚が100nm以上である少なくとも1層の膜を、有機珪素化合物を含有する反応性ガスを用いて、大気圧プラズマ法により形成することを特徴とする請求項3又は4に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【請求項6】
大気圧又は大気圧近傍の圧力下において、有機珪素化合物を含有する反応性ガスを、対向する電極間の放電によりプラズマ状態とすることで発生したプラズマ流に、少なくとも樹脂基板切断面を曝すことにより、金属酸化物又は窒化物を含有する少なくとも1層の膜を、少なくとも樹脂基板切断面に形成することを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【請求項7】
前記密閉容器の樹脂基板表面及び切断面、シール材外周面の全てに、金属酸化物又は窒化物を含有する膜を少なくとも1層形成することを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【請求項8】
前記金属酸化物又は窒化物を含有する膜の、膜厚が100nm以上であり、該膜の最表面に、更に、金属酸化物又は窒化物を含有し、膜厚が70nmを越えない、膜中の炭素含有率が0.2%以下である膜を形成することを特徴とする請求項6又は7に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。
【請求項9】
100kHzを越えた高周波電圧で、且つ、1W/cm2以上の電力を供給し放電させることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス表示素子の封止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−317671(P2007−317671A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188128(P2007−188128)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【分割の表示】特願2002−44435(P2002−44435)の分割
【原出願日】平成14年2月21日(2002.2.21)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】