説明

有機エレクトロルミネッセンス装置、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法、電子機器

【課題】耐久性を向上させた封止層を備え、高い信頼性を実現した有機EL装置を提供する。
【解決手段】素子基板20Aと、一対の電極間に有機発光層12を挟持し、素子基板20A上に配置された複数の発光素子21と、少なくとも複数の発光素子21を覆って設けられた有機緩衝層18と、少なくとも有機緩衝層18を覆って設けられたガスバリア層19と、を備え、ガスバリア層19は、窒素を含有するケイ素化合物を含む第1ガスバリア層19aと、第1ガスバリア層19aの形成材料の酸化物を形成材料に含み第1ガスバリア層19aよりも薄く形成された第2ガスバリア層19bと、が、交互に積層された構造を有し、第1ガスバリア層19aおよび第2ガスバリア層19bは、各々2層以上形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス装置、有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された平面表示装置のニーズが高まっている。この様な平面表示装置の一つとして、有機発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下「有機EL装置」という)が知られている。
【0003】
有機EL装置は、陽極と陰極との間に有機発光層(発光層)や、電子注入層などの機能層が挟持される構成の有機発光素子(有機EL素子)を複数備えている。これらのうち、陰極や電子注入層は、電子を放出しやすい特性を備える材料で形成することから、大気中に存在する水分と反応し劣化しやすい。これらが劣化すると、ダークスポットと呼ばれる非発光領域を形成してしまう。そのため、有機EL装置では、有機発光素子から大気中の水分を遮断する封止構造が重要となる。
【0004】
近年では、数μmの厚みの薄い封止膜を用いて有機発光素子を外部雰囲気と遮断することが可能となっている。このような封止技術を用いると、内部に気体や液体を封入するための中空構造を備えず完全な固体構造が実現可能となる。固体構造を備える有機EL装置は、大幅な薄型化や軽量化が可能となり、更なる高機能・高品質な有機EL装置とすることが期待できる。
【0005】
上述した薄膜の封止膜は、透明で透湿性の低い無機化合物層を用いて外部雰囲気からの水分浸入を遮断している。ところが、このような無機化合物層は高密度、高ヤング率、高膜応力を備えているため脆く破損しやすいという課題がある。封止膜が覆う有機発光素子の周辺には、発光素子間に設けられた画素隔壁や、発光素子に接続された配線、などに起因する凹凸形状が形成されており、このような凹凸部で特に破損しやすい。無機化合物層を厚膜化して破損を防ごうとすると、成膜時の残留応力が大きくなって反りやクラックの原因となりやすく、かえって性能を低下させるおそれがある。ひとたび封止膜が破損すると、破損部分から連続して水分が浸入し、発光素子が劣化し続けることになる。すると、封止膜の破損部分にダークスポットが発生するのみならず、破損部分を中心としてダークスポットが成長し、非発光部分を周囲に広げてしまうため、製品寿命が著しく短くなってしまう。
【0006】
そのため、凹凸を平坦化し熱応力を緩和するために樹脂層を形成し、水分透過防止の機能を担う無機化合物層と積層させる構成が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。また、形成材料や密度が異なる無機化合物層を積層させ、このような積層構造で発光素子を被覆することで、破損の抑制や高被覆を実現し、良好な封止を実現する技術が提案されている(例えば特許文献3,4参照)。
【特許文献1】特開平10―312883号公報
【特許文献2】特開2000―223264号公報
【特許文献3】特開2007―184251号公報
【特許文献4】特開2003―282237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、無機化合物層を樹脂層上に積層させる場合には、樹脂層の上に無機化合物層を設ける際に、温度変化等による樹脂層の伸縮により、樹脂層の端部の無機化合物層が追従できずに割れてしまうおそれがある。樹脂層を用いない場合には、発光素子近傍の凹凸形状の平坦化が困難であり、無機化合物層が破損しやすい凹凸形状が残留するため、製造する有機EL装置の信頼性が低いものとなる。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、耐久性を向上させた封止層を備え高い信頼性を実現した有機EL装置を提供することを目的とする。また、このような有機EL装置の製造方法を提供することを目的とする。更に、このような有機EL装置を備えた電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置は、基板と、一対の電極間に有機発光層を挟持し、前記基板上に配置された複数の発光素子と、前記複数の発光素子を覆って設けられた有機緩衝層と、前記有機緩衝層を覆って設けられたガスバリア層と、を備え、前記ガスバリア層は、窒素を含有するケイ素化合物を含む第1無機膜と、前記第1無機膜の形成材料の酸化物を形成材料に含み前記第1無機膜よりも薄く形成された第2無機膜と、が、交互に積層された構造を有し、前記第1無機膜および前記第2無機膜は、各々2層以上形成されていることを特徴とする。
【0010】
第1無機膜は、窒素原子を含むケイ素化合物を形成材料としている。窒素原子を含むケイ素化合物では、原子間の結合に窒素原子(結合数:3)が介在するため、共有結合の数が多く、高密度でガスバリア性が高い膜となる。一方で、ヤング率が高く柔軟性に欠ける。
【0011】
第2無機膜は、第1無機膜の形成材料の酸化物を形成材料としている。このような酸化物では、原子間の結合に酸素原子(結合数:2)が介在してくるため、元の第1無機膜の形成材料よりも相対的に原子間の共有結合の数が減少する。すると、第1無機膜の形成材料よりも相対的にガスバリア性が低く、ヤング率が低い膜となる。
【0012】
本発明のガスバリア層では、このような性質を備える第1無機膜と第2無機膜とが交互に複数積層している。即ち、2つの第1無機膜の間に、相対的に第1無機膜よりも低ヤング率の第2無機膜が挟持されている構成となっている。
【0013】
このようなガスバリア層に応力が掛かった場合には、2つの第1無機膜の間では、層内方向(第2無機膜の面方向)の剪断力に対して相対的に柔軟性を備える第2無機膜が、第1無機膜よりも大きく変形する。そのため、第2無機膜を備えない場合と比べると、層内方向の剪断力に対して大きな変形が可能である。本発明のガスバリア層には、このような積層構造が複数設けられているため、全体として大きな変形が可能となる。したがって、ガスバリア層は、第2無機膜を備えない場合と比べると、応力に対して柔軟に変形することができ、応力による破損を起こしにくくなる。
【0014】
一方、第2無機膜は第1無機膜よりも薄い膜であり、ガスバリア性能の主体は第1無機膜が担っている。そのためガスバリア層は、第1無機膜の性質を色濃く反映し、高いガスバリア性を示す。
【0015】
したがって、本発明の構成によれば、ガスバリア層は、高いガスバリア性と、応力に対する耐久性を兼ね備えた層となり、信頼性の高い有機EL装置とすることができる。
【0016】
本発明においては、前記複数の発光素子の表面を覆って、前記複数の発光素子と前記有機緩衝層との間に形成された電極保護層を備え、前記電極保護層は、窒素を含有するケイ素化合物を含む第3無機膜と前記第3無機膜の形成材料の酸化物を形成材料に含み前記第3無機膜よりも薄く形成された第4無機膜とが交互に積層された構造を有し、前記第3無機膜および前記第4無機膜は、各々2層以上形成されていることが望ましい。
この構成によれば、発光素子上を更に電極保護層にて覆うことにより、更にガスバリア性を高め封止性能を上げることができる。また、設ける電極保護層は、ガスバリア層と同様の構成の第3無機膜と第4無機膜との積層構造を備えるため、高いガスバリア性と高い耐久性とを兼ね備えた層となっている。したがって、更に信頼性の高い有機EL装置とすることができる。
【0017】
本発明においては、前記第2無機膜は、含有するケイ素原子に対する酸素原子の原子数比が、1以上2以下であることが望ましい。
第2無機膜におけるケイ素原子に対する酸素原子の原子数比が1未満であると、第1無機膜とのヤング率差が小さくなり、必要とする柔軟性が得られにくい。また、酸素原子数比が2の場合には酸化シリコン(SiO)となるため、原子数比は2が上限である。したがって、この構成とすることで、応力に対して変形することが可能なガスバリア層とすることができる。
【0018】
前記第4無機膜の膜厚においても、含有するケイ素原子に対する酸素原子の原子数比が、1以上2以下であることが望ましい。
第4無機膜におけるケイ素原子に対する酸素原子の原子数比が1未満であると、第3無機膜とのヤング率差が小さくなり、必要とする柔軟性が得られにくい。また、酸素原子数比が2の場合には酸化シリコン(SiO)となるため、原子数比は2が上限である。したがって、この構成とすることで、応力に対して変形することが可能な電極保護層とすることができる。
【0019】
本発明においては、前記第2無機膜の膜厚は、0.1nm以上10nm以下であることが望ましい。
0.1nm未満の膜厚だと、ケイ素原子1原子分程度の厚みとなるために、第1無機膜と第2無機膜との層間方向に第2無機膜の広がりがない。そのため、層内方向において、第2無機膜が含む共有結合の角度変化等に基づく第2無機膜の変形ができず、ガスバリア層全体の変形ができなくなる。また、第1無機膜のガスバリア性に影響を与えないためには、第2無機膜の膜厚は10nm程度までの膜厚とすることが好ましい。したがって、この構成とすることで、耐久性とガスバリア性とを兼ね備えたガスバリア層とすることができる。
【0020】
前記第4無機膜の膜厚においても、同様の理由により0.1nm以上10nm以下であることが望ましい。
0.1nm未満の膜厚だと、第3無機膜と第4無機膜との層間方向に第4無機膜の広がりがなく、ガスバリア層全体の変形ができなくなる。また、第3無機膜のガスバリア性に影響を与えないためには、第4無機膜の膜厚は10nm程度までの膜厚とすることが好ましい。したがって、この構成とすることで、耐久性とガスバリア性とを兼ね備えたガスバリア層とすることができる。
【0021】
本発明においては、前記有機緩衝層の周縁端部の角度が、20度以下であることが望ましい。
この構成によれば、有機緩衝層の周縁端部において、有機緩衝層を覆って形成されるガスバリア層が急峻な角度を備えて形成されないため、有機緩衝層の周縁端部でのガスバリア層の損傷を抑制することが可能となる。したがって、ガスバリア層による封止を確実なものとすることができる。ここで、「有機緩衝層の周縁端部の角度」とは、有機緩衝層が形成された下地面に対する、有機緩衝層の周縁端部における接触角度(仰角)を示す。
【0022】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法は、上述の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、窒素を含有するケイ素化合物を含む材料膜を成膜する工程と、前記材料膜の表面に酸素プラズマ処理を施し、前記材料膜の表面に酸素プラズマ処理を施し、前記材料膜の表面に該材料膜の形成材料の酸化物を含む酸化膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
この方法によれば、薄膜の酸化膜を容易に成膜でき、良好な耐久性を備えた有機EL装置を容易に製造することができる。
【0023】
本発明の電子機器は、上述の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、耐久性が高く長寿命である電子機器とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下、図1〜図6を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0025】
図1は有機EL装置1を模式的に示す断面図である。本発明における有機EL装置は、いわゆる「トップエミッション方式」の有機EL装置である。トップエミッション方式は、光を有機EL素子が配置された基板側ではなく対向する基板側から取り出すため、発光面積が素子基板に配置された各種回路の大きさに影響されず、発光面積を広く確保できる効果がある。そのため、電圧及び電流を抑えつつ輝度を確保することが可能であり、発光素子の寿命を長く維持することができる。
【0026】
有機EL装置1は、複数の発光素子21が配置された素子基板20Aと、複数の発光素子21を覆って積層して形成される有機緩衝層18とガスバリア層19の各層と、この素子基板20Aの複数の発光素子21が配置された面に対向配置された支持基板31と、を備えており、これら素子基板20Aと支持基板31とは、シール層33および接着層34とを介して貼り合わされている。以下、各構成要素について順に説明する。
【0027】
(素子基板)
素子基板20Aは、基板本体20と、基板本体20上に形成された各種配線やTFT素子を備える素子層14と、を備えている。基板本体20は、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。透明基板としては、例えばガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、光透過性を備えるならば、前記材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。本実施形態では、基板本体20の材料としてガラスを用いる。
【0028】
基板本体20上には、駆動用TFT123や不図示の各種配線が形成されており、これらの構成を無機絶縁膜で覆った素子層14が形成されている。素子層14を覆う無機絶縁膜は、例えば酸窒化シリコンで構成されている。
【0029】
素子基板20A上には、素子基板20Aが備える配線やTFT素子等に由来する表面の凹凸を緩和するための平坦化層16と、平坦化層16上に配置される発光素子21からの射出光を支持基板31側に反射する金属反射板15と、が形成されている。平坦化層16は、絶縁性の樹脂材料で形成されており、形成方法はフォトリソグラフィを用いるため、材料には例えば感光性のアクリル樹脂や環状オレフィン樹脂などが用いられている。
【0030】
金属反射層15は、配線と製造工程を兼ねるため、配線材料と同じ例えばアルミニウムやチタン、モリブデン、銀、銅などの金属またはそれらを組み合わせた合金材料で形成されており、光を反射する性質を備えている。本実施形態ではアルミニウムで形成されている。金属反射層15は、後述する発光素子21と基板本体20との間で発光素子21に平面的に重なるように配置されている。
【0031】
平坦化層16上であって、金属反射層15と平面的に重なる領域には、発光素子21が配置されており、隣り合う発光素子21の間および発光素子21と基板本体20の端部との間には隔壁13が形成されている。換言すると、発光素子21は隔壁13によって区画されている。隔壁13は平坦化層16と同様に絶縁性の樹脂材料で形成されており、形成方法はフォトリソグラフィを用いるため、材料には例えば感光性のアクリル樹脂や環状オレフィン樹脂などが用いられている。
【0032】
発光素子21は、陽極10と陰極11に発光層12が挟持されて構成されており、隔壁13に囲まれた平坦化層16上に設けられている。発光素子21の厚みは500nm程度であり、隔壁13とは1μm以上の厚み(高さ)差を有している。
【0033】
陽極10は、平坦化層16上に形成され、素子基板20Aが備える駆動用TFTに接続されている。また陽極10は、仕事関数が5eV以上の正孔注入効果の高い材料が好適に用いられる。このような正孔注入効果の高い材料としては、例えばITO(Indium Thin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物を挙げることができる。本実施形態ではITOを用いる。なお、陽極10は必ずしも光透過性を有する必要は無く、アルミニウム等の光を透さない金属電極としてもよい。その場合には、陽極10が光を反射し先述の金属反射板15の機能を兼ね備えるため、金属反射板15は設けなくても良い。
【0034】
発光層12は、白色に発光する白色発光層を採用している。本実施形態では、この白色発光層は低分子系の発光材料を用いて真空蒸着法を用いて形成されている。白色の発光材料としては、スリチルアミン系発光層にアントラセン系のドーパントをドーピングした層(青色)と、スリチルアミン系発光層にルブレン系のドーパントをドーピングした層(黄色)と、を同時に発光させて白色発光を実現している発光材料を挙げることができる。ここでは低分子系の発光材料を用いているが、高分子系の発光材料を用いて発光層を形成することとしても良い。また、各層の構成を変化させ、赤色、緑色、青色の3色を同時に発光させて白色発光を取り出す3層構造とすることも可能である。また発光素子21は、発光層12として、赤色発光層を有する赤色発光素子と、緑色発光層を有する緑色発光素子と、青色発光層を有する青色発光素子と、を有するようにしても良い。
【0035】
なお、陽極10と発光層12との間に、トリアリールアミン多量体(ATP)層(正孔注入層)、トリフェニルジアミン系誘導体(TPD)層(正孔輸送層)、発光層12と陰極11との間にアルミニウムキノリノール(Alq3)層(電子注入層)、LiF(電子注入バッファー層)をそれぞれ成膜し、各電極からの電子および正孔の注入を容易にさせる構成とすることが好ましい。
【0036】
陰極11は、発光層12と隔壁13との表面を覆って、最も外側(素子基板20Aの外周部に近い側)に配置された隔壁13の頭頂部に至るまで延在して形成されている。陰極11の形成材料には、電子注入効果の大きい(仕事関数が4eV以下)材料が好適に用いられる。例えば、カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、リチウム、銀、又はこれらの金属化合物である。金属化合物としては、フッ化カルシウム等の金属フッ化物や酸化リチウム等の金属酸化物、アセチルアセトナトカルシウム等の有機金属錯体が該当する。これらの材料は真空蒸着法を用いるのが一般的であるが、蒸気圧の低い金属酸化物などについては、ECRプラズマスパッタ法やイオンプレーティング法、対向ターゲットスパッタ法などの高密度プラズマ成膜法を用いて陰極11を形成してもよい。
【0037】
陰極11の上には、陰極11の導通を補助する補助配線22が形成されている。補助配線22は、ITOやZnO(酸化亜鉛)、IZO(インジウム亜鉛酸化物、アイゼットオー(登録商標))、AZO(アルミニウム亜鉛酸化物)、GZO(ガリウム亜鉛酸化物)などの透明な金属酸化物導電体を用いて形成される。本実施形態では、補助配線22を厚く形成し、陰極11の保護層としての機能を付与することとしている。
【0038】
また、素子基板20A上であって、素子基板20Aの外周部近傍の平坦化層16が形成されていない領域には陰極配線22Aが形成され、陰極配線22Aと陰極11とは補助配線22により接続され導通している。
【0039】
陰極配線22Aは、陰極11を不図示の電源まで通電させることを目的として形成されており、主に素子基板20Aの外周部付近に設けられる。陰極配線22Aの形成材料には、アルミニウム−シリコン合金や、チタン、タングステン、モリブデン、タンタルなどの金属が用いられ、これらの材料を単層もしくは多層に積層して形成したものが用いられる。また、陰極配線22Aの最表層には、陽極10と同じ材料であるITOが形成されている。陽極10の形成時と同時に、陰極配線22Aの最表層にもITOを形成しておくことで、製造工程におけるフォトリソグラフィ工程での陰極配線22Aの腐食を防ぐことができる。
【0040】
(薄膜封止層)
素子基板20A上には、発光素子21を覆い全面に複数の保護層が積層した薄膜封止層が形成されている。この薄膜封止層として、本実施形態の有機EL装置1は、有機緩衝層18とガスバリア層19とを備えている。
【0041】
素子基板20A上には、陰極配線22Aの端面を覆い、陰極配線22A、補助配線22の表面を覆って全面に、有機緩衝層18が形成されている。有機緩衝層18は、隔壁13の形状の影響により凹凸状に形成された補助陰極22の表面の凹凸を埋め、起伏を緩和するように配置される。この有機緩衝層18は、素子基板20Aの反りや体積膨張により発生する応力を緩和し、隔壁13からの陰極11や発光層12の剥離を防止する機能を有する。また、有機緩衝層18の上面の起伏が緩和されるので、後述するガスバリア層19に応力が集中する部位がなくなり、クラックの発生を防止することができる。有機緩衝層18のヤング率は、0.1GPa以上5GPa以下の範囲であると好適である。
【0042】
有機緩衝層18の形成材料としては、流動性に優れ且つ溶媒や揮発成分の無い、全てが高分子骨格の原料となる有機化合物材料であることが好ましく、その様な形成材料としてエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーを好適に用いることができる。ここでは、分子量1000未満の原料をモノマー、分子量1000以上3000以下の原料をオリゴマーとする。例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0043】
また、有機緩衝層18の形成材料には、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤が含まれる。このような硬化剤としては、電気絶縁性や接着性に優れ、かつ硬度が高く強靭で耐熱性に優れる硬化被膜を形成するものが好適に用いられ、透明性に優れ且つ硬化のばらつきの少ない付加重合型が好ましい。例えば、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。これらの硬化剤を加えた有機緩衝層18の形成材料は優れた熱硬化性樹脂として振る舞う。これらの酸無水物系硬化剤は、水分子と反応してカルボン酸を生じると重合しなくなるため、有機緩衝層18の形成材料は、含水率10ppm以下に調整されていることが望ましい。
【0044】
さらに、酸無水物の反応(開環)を促進する反応促進剤として1,6−ヘキサンジオールなど分子量が大きく揮発しにくいアルコール類やアミノフェノールなどのアミン化合物を微量添加することで低温硬化しやすくなる。これらの硬化は60〜100℃の範囲で加熱することで行われ、その硬化被膜はエステル結合を持つ高分子となる。
【0045】
また、硬化時間を短縮するためよく用いられるカチオン放出タイプの光重合開始剤を用いてもよいが、硬化収縮が急激に進まないよう反応の遅いものが良く、また、塗布後の加熱による粘度低下で平坦化を進めるように最終的には熱硬化を用いて硬化物を形成するものが好ましい。更には、陰極11やガスバリア層19との密着性を向上させるシランカップリング剤や、イソシアネート化合物等の捕水剤などの添加剤が混入されていても良い。
【0046】
有機緩衝層形成材料の粘度は、2000mPa・s(室温:25℃)以上が好ましい。塗布直後に発光層12へ浸透して、ダークスポットと呼ばれる非発光領域を発生させないためである。また、これらの原料を混合した緩衝層形成材料の粘度としては、4000mPa・s以上10000mPa・s以下(室温)が好ましい。この範囲の粘度に調節することで、気泡の発生を抑制することができる。
【0047】
また、有機緩衝層18の最適な膜厚としては、2μm以上5μm以下が好ましい。有機緩衝層18の膜厚が厚いほうが異物混入した場合等にガスバリア層19の破損を防ぎやすいが、有機緩衝層18を合わせた層厚が5μmを超えると、後述する着色層32aと発光層12の距離が広がり側面に逃げる光が増えるため光を取り出す効率が低下するためである。
【0048】
有機緩衝層18の上には、有機緩衝層18の端部を含め全面を覆うガスバリア層19が形成されている。またガスバリア層19の端部は素子層14と接している。ガスバリア層19は、発光素子21に酸素や水分が浸入するのを防止する機能を備えており、これにより酸素や水分による発光素子21の劣化等を抑えることができる。
【0049】
本発明のガスバリア層19は、窒素を含むケイ素化合物(窒化シリコンや酸窒化シリコンなど)と、その酸化物と、が交互に積層した構造を備えている。ガスバリア層19の合計膜厚は、100nm以上800nm以下が好ましい。ガスバリア層19が100nm未満である場合は、膜厚が薄いため破損しやすく、800nmより大きい場合、例えば1000nm以上となると、膜応力や柔軟性の低下によりクラックが発生しやすくなるため好ましくない。封止性能に加え生産性を考慮すると200nm以上500nm以下の膜厚がより好ましい。ガスバリア層19の構成や製造方法については、後に詳述する。
【0050】
図では、ガスバリア層19は素子基板20Aよりも小さく(狭く)形成されている様に示しているが、ガスバリア層19は素子基板20Aの端部にまで延在していても構わない。効率化のために、1枚の大型基板上に複数の基板を形成した後に製造過程において切り離す、いわゆる多面取りを行って製造する場合には、支持基板31を貼り合わせた後に、ガスバリア層19ごとパネルを切断してもよい。
【0051】
(支持基板)
素子基板20Aに対向して、支持基板31と、支持基板31上に形成されたカラーフィルタ層32と、を備えている。
【0052】
支持基板31は、発光素子21から射出される光を透過する光透過性と、薄膜封止層を保護する強度とを備えた基板であり、例えばガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂等の光透過性を備えた有機高分子(樹脂)を用いて形成することができる。また、光透過性を備えるならば、前記材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。中でも、透明性の高さと透湿性の低さから、特にガラス基板が好適に用いられる。また、紫外線を遮断または吸収する層や、光反射防止膜、放熱層などの機能層が形成されていても良い。
【0053】
支持基板31上には、カラーフィルタ層32が形成されている。カラーフィルタ層32には、透過光を赤色(R)、緑色(G)、青色(B)のいずれかの光に変調する着色層32aがマトリクス状に配列形成されている。着色層32aは、アクリル樹脂などの樹脂層に、赤色、緑色、青色を示す顔料または染料を混合して形成されている。また、必要に応じてライトブルーやライトシアン、白などの着色層32aを備えることとしても良い。
【0054】
この着色層32aの各々は、白色の光を射出する発光素子21に対向して配置されている。これにより、発光素子21から射出された光は着色層32aの各々を透過して、赤色光、緑色光、青色光として観察者側に射出され、カラー表示を行うようになっている。
【0055】
また、隣り合う着色層32aの間および着色層32aの周囲には、光漏れを防ぎ視認性を向上させるブラックマトリクス層32bが形成されている。ブラックマトリクス層32bは黒色に着色された樹脂で形成されている。
【0056】
カラーフィルタ層32は、着色層32aが0.5μm以上2μm以下の範囲で各色に適した厚みに調整されている。また、ブラックマトリクス層32bは、1μm程度の厚みを有している。
【0057】
(シール層)
素子基板20Aと支持基板31とは、素子基板20Aの外周部近傍に配置されるシール層33によって貼り合わされている。
【0058】
シール層33は、装置内部への水分浸入防止の機能と、素子基板20Aと支持基板31との貼り合わせ位置を固定する機能と、を有している。
【0059】
また、シール層33は、有機緩衝層18の周縁端部に重なるように設けられている。有機緩衝層18とガスバリア層19とは、熱膨張率の異なる材料にて形成されていることがほとんどであり、熱膨張率の差に由来してガスバリア層19が破損するおそれがある。その様な破損は、ガスバリア層19の形状が変化する有機緩衝層18の端部において起こりやすい。しかし、ガスバリア層19をシール層33と有機緩衝層18とで挟持すると、応力集中によるガスバリア層19のクラックや剥離等の損傷を防ぐことができる。
【0060】
シール層33の形成材料は、紫外線によって硬化して粘度が向上する樹脂材料で構成されている。好ましくはエポキシ基を有する分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーが用いられる。ここでは、分子量1000未満のものをモノマー、分子量1000以上3000以下のものをオリゴマーとしている。このような形成材料としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシオリゴマーやビスフェノールF型エポキシオリゴマー、フェノールノボラック型エポキシオリゴマー、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ε−カプロラクトン変性3,4-エポキシシクロヘキシルメチル3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキレートなどがあり、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0061】
また、シール層33の形成材料には、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤が含まれる。この硬化剤としては、ジアゾニウム塩、ジフェニルヨウドニウム塩、トリフェルスルフォニウム塩、スルホン酸エステル、鉄アレーン錯体、シラノール/アルミニウム錯体など、主に紫外線照射によりカチオン重合反応を起こさせる光反応型開始剤が好適に用いられる。これらの硬化剤を加えたシール層33の形成材料は光(紫外線)硬化性樹脂として振る舞う。
【0062】
シール層33の形成材料の塗布時における粘度は、10Pa・s以上200Pa・s以下(室温)であることが好ましい。また、紫外線照射後に徐々に粘度が上昇するようにカチオンホールド剤と呼ばれる添加剤を用いると、貼り合わせ後の光照射工程を削除することができる上に、シール層33の形成材料が流動しにくくなるため貼り合わせ工程が容易になる。更に、1mm以下の細いシール幅でもシール層33の断裂を防ぎ、貼り合わせ後の充填剤のはみ出しを防ぐことができるため好ましい。また、含水量は1000ppm以下に調整された材料であることが好ましい。
【0063】
通常、シール層33を形成するための材料には、基板間の距離を制御するための所定粒径の球状粒子(スペーサ)や、粘度を調整するため燐片状や塊状の無機材料(無機フィラー)などの充填物が混合されていることが多い。しかし、これらの充填物は貼り合わせ圧着時にガスバリア層19を損傷させるおそれがあるため、本実施形態ではこれらの充填物が混入していないシール層形成材料を用いる。
【0064】
接着層34は、シール層33で囲まれた有機EL装置1の内部に隙間なく充填されている。接着層34は、素子基板20Aに対向配置された支持基板31を固定し、カラーフィルタ層との離間距離を一定に保ち、かつ外部からの機械的衝撃に対して緩衝機能を有し、薄膜封止層を保護する機能を備える。
【0065】
接着層34の形成材料は、透光性を有し接着機能を備えた有機材料(透明接着剤)が好ましく、更には、流動性に優れ、溶媒のような揮発成分を持たないものが良い。このような形成材料としては、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの樹脂接着剤を用いることができるが、耐熱性や耐水性を考慮すると、エポキシ系接着剤が好適である。例えば、シール層の形成材料として示した分子量3000以下のエポキシモノマー/オリゴマーを挙げることができ、これらが単独もしくは複数組み合わされて用いられる。
【0066】
また、接着層34の形成材料には、添加剤として、エポキシモノマー/オリゴマーと反応する硬化剤が含まれる。この硬化剤としては、電気絶縁性に優れ、かつ強靭で耐熱性に優れる硬化皮膜を形成するものが好適に用いられ、透明性に優れ且つ硬化のばらつきの少ない付加重合型が良い。例えば、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、またはそれらの重合物などの酸無水物系硬化剤が好ましい。また、芳香族アミンや脂肪族アミンなどのアミン硬化剤を用いても良い。これらの硬化剤を加えた接着層34の形成材料は熱硬化性樹脂として振る舞う。他の添加剤として、ガスバリア層19との密着性を向上させるシランカップリング剤を含むとしても良い。
【0067】
接着層34の形成材料の硬化は、80〜120℃の範囲で加熱することにより行われ、その硬化皮膜は酸窒化シリコンとの密着性に優れるエステル結合を持つ高分子となる。なお、接着層34の形成材料には、シール層の形成材料と同様の理由によりスペーサや無機フィラーなどの充填剤が混入していないものを用いる。
【0068】
接着層34の形成材料の塗布時の粘度は、100〜1000mPa・s(室温)が好ましい。理由は、貼り合わせ後の空間への材料充填性を考慮したもので、加熱直後に一度粘度が下がってから硬化が始まる材料が好ましい。また、含水量は1000ppm以下に調整された材料であることが好ましい。
【0069】
図1(b)は、有機EL装置1の周辺部の断面構造を示した断面図であり、図1(a)において波線で丸く囲んだ符号Aで示す部分を示す図である。
【0070】
有機緩衝層18は、階段状に重なって形成された陰極配線22Aと補助配線22とを覆い素子層14に接して形成されている。有機緩衝層18の表面では、下地形状の凹凸が緩和されている。
【0071】
有機緩衝層18の周縁端部における素子基板20Aの面方向に対する仰角(周縁端部の角度)θ1は、20度以下で形成されることが好ましく、特に10度前後で形成されることが好ましい。これにより、有機緩衝層18の周縁端部35を覆うガスバリア層19の応力集中によるクラックや剥離等の損傷を防ぐことができる。本実施形態では、仰角θ1は10度となっている。
【0072】
ガスバリア層19は、窒素を含むケイ素化合物を形成材料とする第1ガスバリア層(第1無機膜、材料膜)19aと、第1ガスバリア層の形成材料の酸化物を形成材料とする第2ガスバリア層(第2無機膜、酸化膜)19bと、が交互に積層して形成されている。
【0073】
第1ガスバリア層19aは、水分透過性が低くガスバリア性が高い、窒素を含むケイ素化合物で形成されている。このような化合物には、例えば、窒化ケイ素や酸窒化ケイ素が挙げられる。本実施形態の第1ガスバリア層19aは、各々が50nmに形成されている。
【0074】
第1ガスバリア層19aの形成材料が含む窒素原子の量は、設計により増減が可能であり、窒素原子量を増やすと、原子間の共有結合数が増える(共有結合の密度が上がる)ため、水分などを透過しにくい(ガスバリア性が高い)層とすることができる。ガスバリア性は、例えば水分の透過しにくさについては、JIS−K7129「プラスチック−フィルム及びシート−水蒸気透過度の求め方(機器測定法)」で定められた水蒸気透過度を求めることにより評価できる性質である。例えば、JIS−K7129B法を用いて評価した膜厚100nmの酸窒化シリコンの水蒸気透過率は、0.05g/m・day以下である。
【0075】
一方で、第1ガスバリア層19aの形成材料の窒素原子量が増えると、ヤング率が上がり柔軟性が失われる。窒化シリコンのヤング率は300GPa、酸化シリコンのヤング率は100GPaであり、酸窒化シリコンのヤング率は含有する酸素と窒素の量比により、100GPaから300GPaの間の値をとる。本実施形態の第1ガスバリア層19aは、ヤング率が150〜300GPaの範囲となるように窒素量を設定したものを用いることができる。
【0076】
第2ガスバリア層19bは、第1ガスバリア層19aの形成材料の酸化物を材料として用い形成されている。そのため、第2ガスバリア層19bの形成材料は、第1ガスバリア層19aの形成材料から、一部または全部の窒素原子を酸素原子に置き換えた構造となっている。酸素原子量が増えると、原子間の共有結合数が減る(共有結合の密度が下がる)ため、第1ガスバリア層19aよりも水分などを透過しやすい(ガスバリア性が低い)層となる。例えば、JIS−K7129B法を用いて評価した膜厚100nmの酸化シリコンの水蒸気透過率は、0.1〜0.5g/m・dayである。ガスバリア性能としては、酸化シリコンのケイ素原子に対する酸素原子の比が1.5〜1.7程度であるものが最も高い。
【0077】
一方で、共有結合密度が第1ガスバリア層19aの形成材料よりも低くなるため、相対的にヤング率が低い層となる。
【0078】
本発明のガスバリア層19は、このような性質を備える第1ガスバリア層19aと第2ガスバリア層19bとが交互に複数積層している。即ち、2つの第1ガスバリア層19aの間に、相対的に低ヤング率の第2ガスバリア層19bが挟持されている構成となっている。第2ガスバリア層19bは、薄膜成膜または第1ガスバリア層19aの表面を酸化して形成されており、膜厚が1〜10nm程度と非常に薄い膜となっている。
【0079】
第2ガスバリア層19bの膜厚は、例えば、形成後のガスバリア層19の断面において、酸素濃度分布を測定し、酸素濃度の変化する箇所を第1ガスバリア層19aと第2ガスバリア層19bとの界面として測定することができる。
【0080】
このような構成のガスバリア層19に応力が掛かった場合には、2つの第1ガスバリア層19aの間では、相対的に柔軟性を備える第2ガスバリア層19bが第1ガスバリア層19aよりも大きく変形する。そのため、第2ガスバリア層19bを備えない場合と比べて大きな変形が可能である。また、ガスバリア層19には、複数の第2ガスバリア層19bが積層されている。そのため、それぞれの第2ガスバリア層19bの変形は少なくても、複数の第2ガスバリア層19bがそれぞれに変形することで、全体として大きな変形が可能となる。したがって、ガスバリア層19は、第2ガスバリア層19bを備えない場合と比べると、応力に対して柔軟に変形することができ、応力による破損を起こしにくくなる。
【0081】
また、第2ガスバリア層19bは非常に薄い膜であり、ガスバリア性能の主体は第1ガスバリア層19aが担っている。そのためガスバリア層19は、第1ガスバリア層19aの性質を反映し、高いガスバリア性を示す。
【0082】
したがって、ガスバリア層19は、高いガスバリア性と、応力に対する耐久性を兼ね備えた層となっている。
本実施形態の有機EL装置1は、以上のような構成となっている。
【0083】
(有機EL装置の製造方法)
次に、図2から図6を参照して本実施形態における有機EL装置1の製造方法を説明する。
【0084】
まず、図2(a)に示すように、補助配線22までが形成された素子基板20Aに有機緩衝層18を形成する。具体的には、まず減圧雰囲気下でスクリーン印刷法により補助配線22上に有機緩衝層18の形成材料を配置する。減圧雰囲気下で有機緩衝層18の形成材料を配置することで、有機緩衝層18の形成材料やスクリーンメッシュに含まれる揮発性の不純物や水分を極力除去し、塗布時に発生する気泡を除去することができる。スクリーン印刷法ではスキージによる摩擦により配置した材料の表面が強制的に平坦化されるため、他の材料配置方法と比較して材料表面を平坦にすることが可能である。
【0085】
続いて、配置した有機緩衝層18の形成材料を60〜100℃の範囲で加熱して硬化させる。この加熱硬化は、大気圧での水分が10ppm以下に管理された窒素雰囲気下において行われる。この際、加熱直後から反応が開始されるまでの間は、一時的に有機緩衝層18の形成材料の粘度が低下するため、形成材料が電極保護層17や陰極11を透過して発光層12に浸透しダークスポットを発生させるおそれがある。そこで、ある程度硬化が進むまでは60〜80℃の低温で硬化し、ある程度反応が進んで高粘度化したところで80℃以上に温度を上げて完全硬化させることが好ましい。
【0086】
次に、図2(b)に示すように、有機緩衝層18上に酸窒化シリコンを成膜し、第1ガスバリア層19aを形成する。具体的には、ECR(電子サイクロトロン共鳴)プラズマスパッタ法やイオンプレーティング法(圧力勾配型プラズマガン成膜法など)、ICP(誘導結合型プラズマ)−CVD法、SWP(表面波プラズマ)−CVDなどの高密度プラズマ成膜法で形成する。ここでは、後述するICP−CVD装置40を用いて形成することとして図示している。
【0087】
次に、図2(c)に示すように、第1ガスバリア層19aの表面に酸素プラズマ処理を行い、第1ガスバリア層19aの表面を酸化して、非常に薄い第2ガスバリア層19bを成膜する。ここでは、後述するICP−CVD装置40を用いて形成することとして図示している。
【0088】
図2(b)と図2(c)の処理を必要回数繰り返すことで、複数の第1ガスバリア層19aと第2ガスバリア層19bとが交互に積層したガスバリア層19を形成することができる。
【0089】
ここで、ガスバリア層19の形成方法について、図3および図4を用いて更に詳しく説明する。ガスバリア層19の形成は、前述の高密度プラズマ成膜法であれば製造可能であるが、大面積化が可能で生産効率の高い製造方法として、ICP−CVD成膜法および搬送成膜ができる圧力勾配型プラズマガン成膜法が好ましい。図3は、ICP−CVD成膜法に用いるICP−CVD装置を示す図である。図4は、圧力勾配型プラズマガンを用いるイオンプレーティング式成膜装置を示す図である。
【0090】
図3に示す様に、ICP−CVD装置40は、導電性材料からなるチャンバ41と、チャンバ41内に配置されて被処理基板Xを載置するサセプタ42と、チャンバ41の天井に設けられた誘電体壁43と、チャンバ41の外の誘電体壁43上に設けられた高周波アンテナ44と、を備えている。サセプタ42は、載置された被処理基板Xを加熱する加熱機構を内蔵している。また、チャンバ41の壁面には、チャンバ41内に各種の原料ガスMGを供給する供給管45が設けられている。供給管45は、反応に用いるガスの種類に応じて、互いに独立に複数備えるものとする。更に、チャンバ41には、排気口(図示略)が適宜設けられている。
【0091】
高周波アンテナ44は、第1整合器46を介して、第1高周波電源47と接続されている。第1高周波電源47は、高周波アンテナ44から誘導結合プラズマを発生させるのに十分な出力を持った高周波電力が供給されるようになっている。一方、サセプタ42は、第2整合器48を介して、バイアス用の高周波電力を供給する第2高周波電源49と接続されている。
【0092】
ICP−CVD装置40は、高周波アンテナ44に通電し誘導電界を発生させるとともに、供給管45を介してチャンバ41内に原料ガスMGを導入し、原料ガス由来のプラズマを生成させて、チャンバ41内の被処理基板Xに成膜するようになっている。
【0093】
このようなICP−CVD装置40を用い、第1ガスバリア層19aを形成するには、原料ガスMGとして、モノシラン(SiH)、アンモニア(NH)、一酸化二窒素(NO)を供給し、チャンバ41内部で発生させる誘電結合プラズマにより原子化・励起し、被処理基板X上に成膜する。これは、図2(b)に示す製造工程での成膜処理に相当する。
【0094】
同様に、第2ガスバリア層19bを形成するには、原料ガスとして酸素(O)、雰囲気ガスとしてアルゴン(Ar)を供給し、チャンバ41内で酸素プラズマを発生させ、第1ガスバリア層19aの表面を酸化して、酸化物の薄膜である第2ガスバリア層19bを成膜する。これは、図2(c)に示す製造工程での成膜処理に相当する。
【0095】
以上の工程を必要回数繰り返すことで、第1ガスバリア層19aと第2ガスバリア層19bとが交互に積層したガスバリア層19を形成することができる。
【0096】
図4は、圧力勾配型プラズマガンを備えたイオンプレーティング式成膜装置50を模式的に示す図であり、図4(a)は第1ガスバリア層19aを成膜する様子を示す模式図、図4(b)は第2ガスバリア層19bを成膜する様子を示す模式図である。
【0097】
イオンプレーティング式成膜装置50は、チャンバ51と、チャンバ51と接続された成膜室52と、チャンバ51の側壁に接続された圧力勾配型のプラズマガン53と、チャンバ51内の下部に配置された導電性材料からなるハース54と、ハース54の凹部に備えられた蒸着材料55と、を備えている。ハース54は、ハース用磁石を内蔵している。ハース用磁石は、プラズマガン53から射出されたArプラズマのプラズマビームPBをハース54に導く機能を備える。また、チャンバ51の壁面には、チャンバ51内に成膜用雰囲気ガスAGを供給する供給口56や、排気口(図示略)が適宜設けられている。
【0098】
成膜室52は、内部に被処理基板Xを戴置し搬送する搬送機構が設けられており、成膜室52内を往復する構成となっている。成膜室52には、成膜が終了した被処理基板Xを搬出し、未処理の被処理基板Xを搬入する搬入部57が設けられている。
【0099】
このようなイオンプレーティング式成膜装置50では、プラズマガン53から射出されたプラズマビームPBが、ハース54上の蒸着材料55に照射され、蒸着材料55を蒸発させる。蒸発した蒸着材料55が、成膜室52内で搬送される被処理基板Xに付着することで、被処理基板X上に成膜が行われるようになっている。蒸着材料55にはSiやSiO等、成膜する種類に応じた材料を用いる。
【0100】
このようなイオンプレーティング式成膜装置50を用いて、第1ガスバリア層19aを形成するには、例えば図4(a)に示すように、被処理基板Xを一方の方向に搬送している際に、成膜用雰囲気ガスAGとしてアルゴン(Ar)と窒素(N)とを供給すると共に、プラズマビームPBで蒸着材料55を蒸発させて成膜する。これは、図2(b)に示す製造工程における成膜処理に相当する。
【0101】
同様に、第2ガスバリア層19bを形成するには、例えば図4(b)に示すように、被処理基板Xを他方の方向に搬送している際に、成膜用雰囲気ガスAGとしてアルゴン(Ar)と酸素(O)とを供給し、蒸着材料55を蒸発させない程度に出力を下げたプラズマビームPBを照射する。このようにすると、チャンバ51内で酸素プラズマが発生し、酸素プラズマにより第1ガスバリア層19aの表面を酸化して、酸化物の薄膜である第2ガスバリア層19bを成膜することができる。これは、図2(c)に示す製造工程における成膜処理に相当する。
【0102】
以上の工程を必要回数繰り返すことで、第1ガスバリア層19aと第2ガスバリア層19bとが交互に積層したガスバリア層19を形成することができる。
【0103】
一方、支持基板31側においては、図5(a)に示すように、カラーフィルタ層32が形成された支持基板31の周辺部にシール層33の形成材料を配置する。具体的には、ニードルディスペンス法により、前述したシール層33の形成材料を支持基板31の周囲に塗布していく。なお、この塗布方法は、スクリーン印刷法を用いてもよい。本実施形態に係るシール層33形成材料の塗布時の粘度は50Pa・s(室温)である。含水量はあらかじめ1000ppm以下に調整しておく。
【0104】
次に、図5(b)に示すように、支持基板31に配置されたシール層33の形成材料に囲まれた内部に接着層34の形成材料を配置する。配置方法としてジェットディスペンス法を用い、塗布を行う。なお、接着層34の形成材料は、必ずしも支持基板31の全面に塗布する必要はなく、必要量を支持基板31上の複数箇所に分けて塗布すればよい。本実施形態に係る接着層34形成材料の塗布時の粘度は500mPa・s(室温)である。
シール層33の形成材料の粘度は接着層34の形成材料の粘度よりも十分に高いため、シール層33の形成材料は接着層34の形成材料のはみ出しを防止する土手としての機能を発揮することができる。
【0105】
次に、図5(c)に示すように、シール層33および接着層34が塗布された支持基板31に紫外線照射を行う。例えば、照度30mW/cm2 、光量2000mJ/cm2の紫外線を支持基板31上に配置された各形成材料に照射する。すると、光反応型開始剤を含むシール層33の形成材料が優先的に反応して硬化を開始するため、シール層33の形成材料の粘度が向上する。
【0106】
続いて、図6(a)に示すように、基板間のアライメント作業を行い、図2(c)に示したガスバリア層19までが形成された素子基板20Aと、図5(c)に示したシール層33の硬化を開始させた支持基板31と、を貼り合わせる。貼り合わせは、減圧雰囲気下で行う。
【0107】
次に、図6(b)に示すように、圧着して貼り合わせた後に大気中で加熱(ポストベーク)して、シール層33および接着層34の形成材料の硬化を完了させる。
以上より、本実施形態における有機EL装置1を得ることができる。
【0108】
以上のような構成の有機EL装置1によれば、ガスバリア層19は、高いガスバリア性を備える酸窒化シリコンを形成材料とした第1ガスバリア層19aと、応力に対して変形を可能とする相対的にヤング率が低い酸化シリコン(SiO)を形成材料とした第2ガスバリア層19bと、の積層構造を備えるため、耐久性を兼ね備えた層となっており、信頼性の高い有機EL装置1とすることができる。
【0109】
また、本実施形態では、第2ガスバリア層19bを1nmの厚みに形成している。そのため、耐久性とガスバリア性とを兼ね備えたガスバリア層とすることができる。
【0110】
また、本実施形態では、有機緩衝層18の周縁端部における仰角θ1が、10度となっている。そのため、有機緩衝層18の周縁端部において、有機緩衝層18を覆って形成されるガスバリア層19は、下地形状に対応して急峻な角度を備えずに形成されるため、有機緩衝層18の周縁端部でのガスバリア層19の損傷を抑制することができる。
【0111】
また、以上のような有機EL装置の製造方法によれば、薄膜の第2ガスバリア層19bを容易に成膜でき、良好な耐久性を備えた有機EL装置を容易に製造することができる。
【0112】
なお、本実施形態においては、第2ガスバリア層19bは、第1ガスバリア層19aの表面の一部を酸化して形成することとしたが、別途積層して形成しても構わない。
【0113】
また、本実施形態においては、トップエミッション方式の有機EL装置としたが、ボトムエミッション方式を採用することとしても構わない。
【0114】
[第2実施形態]
図7は、本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の説明図である。本実施形態の有機ELは、第1実施形態の有機EL装置と一部共通している。異なるのは、補助配線に陰極の保護層としての機能も付与するのではなく、陰極を保護する電極保護層を設けることである。したがって、本実施形態において第1実施形態と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0115】
図7(a)に示すように、陰極11の端部には、陰極11と陰極配線22Aとの通電を補助する目的で補助陰極配線24が設けられており、陰極11、陰極配線22A、補助陰極配線24の表面を覆って全面に、電極保護層17が形成されている。この電極保護層17により、透光性を備える程度(20nm以下)に非常に薄く陰極11を形成したとしても、陰極11やその下の発光層12の破損を抑制することができる。また、発光素子21に酸素や水分が浸入するのを防止する機能も備えており、これにより酸素や水分による発光素子21の劣化を抑えることができる。
【0116】
本実施形態の電極保護層17は、ガスバリア層19と同様に、窒素を含むケイ素化合物(窒化シリコンや酸窒化シリコンなど)と、その酸化物と、が交互に積層した構造を備えている。電極保護層17の膜厚は、100nm以上400nm以下の範囲が好ましい。例えば3〜5μm程度の膜厚に形成すれば、隔壁13に起因する凹凸を完全に埋没させることも可能であるが、柔軟性に欠け、膜応力が高くなるため好ましくない。
【0117】
図7(b)に示すように、電極保護層17は、ガスバリア層19と同様に窒素を含むケイ素化合物を形成材料とする第1保護層17a(第3無機膜、材料膜)と、第1保護層の形成材料の酸化物を形成材料とする第2保護層17b(第4無機膜、酸化膜)と、が交互に積層して形成されている。電極保護層17は、前述のガスバリア層19と同じ形成方法を用いて形成することができる。
【0118】
このように形成された電極保護層17は、ガスバリア層19と接して設けられており、電極保護層17とガスバリア層19とで有機緩衝層18を封止する構成となっている。有機緩衝層18の周縁端部における電極保護層17表面に対する仰角(周縁端部の角度)θ2は、20度以下で形成されることが好ましく、特に10度前後で形成されることが好ましい。本実施形態では、仰角θ2は10度となっている。
【0119】
以上のような構成の有機EL装置2では、外部環境からの水分の浸入を更に効果的に抑制することができ、更に耐久性が高く高品質な有機EL装置とすることができる。
【0120】
[電子機器]
次に、本発明に係る電子機器の実施形態について説明する。図8は、本発明の有機EL装置を用いた電子機器の例を示すものであり、図8(a)は携帯電話を示す斜視図、図8(b)はテレビジョン受像機を示す斜視図である。図8(a)は、本発明の有機EL装置を、携帯電話表示部のような小型パネルに応用した例であり、図8(b)は、本発明の有機EL装置を、薄型テレビの表示部のような大型パネルに応用した例である。
【0121】
図8(a)に示す携帯電話1300は、本発明の有機EL装置を小サイズの表示部1301として備え、複数の操作ボタン1302、受話口1303、及び送話口1304を備えて構成されている。これにより、本発明の有機EL装置により構成された表示品質に優れる表示部を具備した携帯電話1300を提供することができる。
【0122】
図8(b)に示すテレビジョン受像機1400は、受信機本体(筐体)1402、スピーカーなどの音声出力部1404、上述した有機EL装置1を用いた表示部1406を備える。これにより、高品質な表示部1406を具備し軽量な薄型大画面テレビ1400を提供することができる。
【0123】
これらの電子機器は、本発明の有機EL装置を備えているため、耐久性が高く長寿命な表示部を備えた電子機器とすることができる。
【0124】
また本発明の有機EL装置は、上記の電子機器に限らず、電子ブック、プロジェクタ、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、テレビジョン受像機、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができ、かかる構成とすることで、表示品質が高く、信頼性に優れた表示部を備えた電子機器を提供できる。
【0125】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0126】
以下に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、発明の効果を確認するため、有機EL装置の代わりとなる評価用の試験体を作成して評価を行った。
【0127】
本実施例で用いた試験体は、ガラス性の支持基板上にマグネシウム膜(Mg膜)を成膜し、Mg膜を覆って電極保護層(SiON)/有機緩衝層/ガスバリア層からなる薄膜封止層を形成し、更に薄膜封止層上にガラス性の対向基板を貼り合わせたものを用いた。電極保護層は支持基板に接して形成し、Mg膜を封止する構造とした。また、電極保護層とガスバリア層とが接する様に形成し、有機緩衝層を封止する構造とした。
【0128】
用いた試験体では、各構成の厚みを、Mg膜:50nm、電極保護層(SiON):400nm、有機緩衝層:3μm、ガスバリア層:400nm、とした。実施例の試験体では、ガスバリア層の形成において、50nmのSiON層を8層積層し、各層を成形する前に酸素プラズマ処理を行って酸化物の薄膜を形成した。一方、比較例の試験体では、ガスバリア層の形成において50nmのSiON層を8層積層して形成し、酸素プラズマ処理は行わなかった。
【0129】
このような試験体を用いた評価においては、Mg膜を有機EL装置の陰極に見立て、Mg膜の劣化具合を評価することで、有機EL装置の陰極を覆う薄膜封止層の封止性能を評価する構成とした。
【0130】
上記のような試験体を、1.7気圧、120℃、相対湿度85%RHの試験環境に設定した高度加速寿命試験装置(プレッシャークッカー試験機)内に500時間放置し、放置後のMg膜の変質を目視評価した。
【0131】
試験体が備える50nmの厚みを備えたMg膜は、金属光沢を備えていて不透明であるが、Mg膜が変質しMgO(酸化マグネシウム)になると、Mgの金属光沢を失い透明になる。つまり、放置後のMg膜にこのような変質部分がある場合には、薄膜封止層が損傷し、損傷部分から水分や空気が浸入したことを示すことになる。このことから、放置後のMg膜にこのような変質部分が発生しているかどうかを目視確認し評価を行った。
【0132】
その結果、図9に示すように、実施例の試験体にはMg膜に変質が見られなかったのに対し、比較例の試験体では、Mg膜の周縁部で透明になった変質部分が確認できた。
【0133】
この結果より、本発明の構成を備えるガスバリア層の耐久性の向上が確認でき、本発明の構成が課題解決に有効であることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置を模式的に示す断面図である。
【図2】本実施形態における有機EL装置の製造方法を示す工程図である。
【図3】ICP−CVD成膜法に用いるICP−CVD装置を示す説明図である。
【図4】圧力勾配型プラズマガン成膜法に用いる成膜装置を示す説明図である。
【図5】本実施形態における有機EL装置の製造方法を示す工程図である。
【図6】本実施形態における有機EL装置の製造方法を示す工程図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の電子機器の例を示す斜視図である。
【図9】実施例の結果を示す表である。
【符号の説明】
【0135】
1,2…有機EL装置(有機エレクトロルミネッセンス装置)、10…陽極(電極)、11…陰極(電極)、12…発光層(有機発光層)、17…電極保護層、17a…第1保護層(第3無機膜)、17b…第2保護層(第4無機膜)、18…有機緩衝層、19…ガスバリア層、19a…第1ガスバリア層(第1無機膜)、19b…第2ガスバリア層(第2無機膜)、20A…素子基板(基板)、21…発光素子、1300…携帯電話(電子機器)、1400…テレビジョン受像機(電子機器)、θ1,θ2…仰角(周縁端部の角度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
一対の電極間に有機発光層を挟持し、前記基板上に配置された複数の発光素子と、
前記複数の発光素子を覆って設けられた有機緩衝層と、
前記有機緩衝層を覆って設けられたガスバリア層と、を備え、
前記ガスバリア層は、
窒素を含有するケイ素化合物を含む第1無機膜と、
前記第1無機膜の形成材料の酸化物を形成材料に含み前記第1無機膜よりも薄く形成された第2無機膜と、が交互に積層された構造を有し、
前記第1無機膜および前記第2無機膜は、各々2層以上形成されていることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項2】
前記複数の発光素子の表面を覆って、前記複数の発光素子と前記有機緩衝層との間に形成された電極保護層を備え、
前記電極保護層は、
窒素を含有するケイ素化合物を含む第3無機膜と、
前記第3無機膜の形成材料の酸化物を形成材料に含み前記第3無機膜よりも薄く形成された第4無機膜と、が交互に積層された構造を有し、
前記第3無機膜および前記第4無機膜は、各々2層以上形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記第2無機膜において、含有するケイ素原子に対する酸素原子の原子数比は、1以上2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記第2無機膜の膜厚は、0.1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項5】
前記第4無機膜において、含有するケイ素原子に対する酸素原子の原子数比は、1以上2以下であることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項6】
前記第4無機膜の膜厚は、0.1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項2または5に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項7】
前記有機緩衝層の周縁端部の角度が、20度以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項8】
請求項1から7に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法であって、
窒素を含有するケイ素化合物を含む材料膜を成膜する工程と、
前記材料膜の表面に酸素プラズマ処理を施し、前記材料膜の表面に該材料膜の形成材料の酸化物を含む酸化膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス装置の製造方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置を備えていることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−27561(P2010−27561A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−190948(P2008−190948)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】