説明

有機エレクトロルミネッセンス装置

【課題】駆動時間に対する駆動電圧の上昇を抑制可能とする。
【解決手段】有機EL装置OLEDは、陽極ANDと陰極CTDの間に発光層EMLを有し、陰極と発光層の間に位置した電子輸送層ETLとを具備し、電子輸送層は式(1)で表される骨格を有するアジン系化合物を含んでいるか、有機EL装置は発光層と電子輸送層との間に式(1)で表される骨格を有するアジン系化合物を含んだ層OLを更に具備しているか、又は、電子輸送層は式(1)で表される骨格を有するアジン系化合物を含み且つ有機EL装置は発光層と電子輸送層との間にアジン系化合物を含んだ層OLを更に具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、ELという)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を一定電流で連続駆動すると、時間の経過とともに、輝度が低下するのに加え駆動電圧が上昇する。このため、有機EL素子を照明装置及び自発光表示装置などの発光装置において使用する場合には、先の電圧上昇を見越して電源電圧を設定しなければならない。
【0003】
しかしながら、電源電圧を高めると、消費電力が増大する。また、電源電圧を高めると、それに応じて駆動電圧も高くなる。駆動電圧を高めると、有機EL素子の輝度半減寿命が短くなる。
【0004】
なお、電圧上昇と輝度低下とは、同一の劣化モードのみによって生じる訳ではなく、これらには別々の劣化モードが寄与し得る。即ち、一定電流で連続駆動した場合に輝度低下が抑制されていたとしても、このとき、電圧上昇も抑制されているとは限らない。
【0005】
非特許文献1には、電圧上昇の原因は、電子輸送層に正孔が注入されるためであることが記載されている。非特許文献2には、電子輸送層に起因した素子の劣化対策として、正孔ブロッキング層等によって電子輸送層への正孔の注入を抑制し、寿命を改善することが記載されている。
【0006】
また、非特許文献3には、正孔輸送層へのドーパントの導入、正孔注入コンタクトの位置への銅フタロシアニンからなるバッファ層の追加、又は正孔輸送性分子と電子輸送性分子とを含んだ発光層の使用などのアプローチにより、有機EL素子の輝度半減寿命が長くなることが記載されている。この文献には、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alq3という)層への正孔注入が有機EL素子の劣化の主因であることと、これは、先のアプローチによって輝度半減寿命を長くなることを説明していることとが更に記載されている。
【0007】
このように、非特許文献2及び3には、有機EL素子の寿命特性を、電子輸送層と陽極との間に介在した層によって改善することが記載されている。但し、これら文献には、有機EL素子の駆動電圧の上昇を、電子輸送層又は電子注入層によって抑制することは記載されていない。
【0008】
非特許文献4及び特許文献1には、有機EL素子の陰極と発光層との間に電子注入層として金属ドーピング層を設けることにより、その駆動電圧を低下させることが記載されている。金属ドーピング層は、例えば、Alq3に、リチウム、ストロンチウム及びサマリウムなどの金属をドープしてなる層である。このドーパントは、Alq3のラジカルアニオンを生じさせ、これにより、陰極から有機化合物層への電子注入に関するエネルギー障壁を低下させる。従って、この金属ドーピング層を設けることにより、有機EL素子の駆動電圧を低下させることができる。
【0009】
上述した金属ドーピング層を適用した有機EL素子は、初期状態において低い駆動電圧を達成する。しかしながら、本発明者は、この有機EL素子は、駆動時間に対する輝度の低下及び駆動電圧の上昇が大きいことを見出している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】藤井祐行、外4名、「有機EL素子の連続駆動時における駆動電圧の変化」、信学技報、社団法人 電子情報通信学会、EID99-165, OME99-124 (2000-03)
【非特許文献2】R. C. Kwong et al., "High Operational Stability of Electrophosphorescent Devices", Applied Physics Letters, Volume 162, Number 1, Pages 162-164 (1 July, 2002)
【非特許文献3】H. Aziz et al., "Degradation Mechanism of Small Molecule-Based Organic Light-Emitting Devices", Science, Volume 283, Pages 1900-1902 (19 March, 1999)
【非特許文献4】J. Kido et al., "Bright Organic Electroluminescent Devices Having a Metal-Doped Electron-Injecting Layer", Applied Physics Letters, Volume 73, Number 20, Pages 2866-2868 (16 November, 1998)
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−270171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、駆動時間に対する駆動電圧の上昇を抑制可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面によると、陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に位置した発光層と、前記陰極と前記発光層との間に位置した電子輸送層とを具備した有機エレクトロルミネッセンス装置であって、前記電子輸送層は下記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を含んでいるか、前記有機エレクトロルミネッセンス装置は前記発光層と前記電子輸送層との間に下記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を含んだ層を更に具備しているか、又は、前記電子輸送層は下記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を含み且つ前記有機エレクトロルミネッセンス装置は前記発光層と前記電子輸送層との間に下記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を含んだ層を更に具備している有機エレクトロルミネッセンス装置が提供される。
【化1】

【発明の効果】
【0014】
本発明によると、駆動時間に対する駆動電圧の上昇を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の有機EL装置において使用可能な有機EL素子の一例を概略的に示す断面図。
【図2】本発明の一態様に係る有機EL装置を概略的に示す平面図。
【図3】図2に示す有機EL装置に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図。
【図4】一変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図。
【図5】他の変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図。
【図6】更に他の変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図。
【図7】更に他の変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図。
【図8】更に他の変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図。
【図9】更に他の変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、本発明の有機EL装置において使用可能な有機EL素子の一例を概略的に示す断面図である。
【0018】
図1に示す有機EL素子OLEDは、陽極AND、正孔注入層HIL、正孔輸送層HTL、発光層EML、隣接層OL、電子輸送層ETL、電子注入層EIL、及び陰極CTDを含んだ多層構造を有している。
【0019】
陽極ANDは、例えば、金属、合金、導電性の金属化合物、又はそれらの組み合わせからなる。陽極ANDは、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。陽極ANDとしては、例えば、インジウム錫酸化物(以下、ITOという)層を使用する。
【0020】
陰極CTは、例えば、金属、合金、導電性の金属化合物、又はそれらの組み合わせからなる。陰極CTは、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。典型的には、陰極CTDは、陽極ANDと比較して仕事関数がより小さい。陰極CTとしては、例えば、アルミニウム層を使用する。
【0021】
発光層EMLは、陽極ANDと陰極CTDとの間に介在している。発光層EMLは、有機物からなる層であって、例えば、ホスト材料とドーパントとを含んだ混合物からなる。ホスト材料としては、例えば、Alq3を使用することができる。ドーパントは、蛍光性のドーパントであってもよく、燐光性のドーパントであってもよく、それらの混合物であってもよい。ドーパントとしては、例えば、クマリンを使用することができる。
【0022】
正孔輸送層HTLは、陽極ANDと発光層EMLとの間に介在している。正孔輸送層HTLは有機物からなり、そのイオン化エネルギーは、典型的には、陽極ANDの仕事関数と発光層EMLのイオン化エネルギーとの間にある。正孔輸送層HTLの材料としては、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下、TPDという)又はN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下、α−NPDという)を使用することができる。正孔輸送層HTLは省略することができる。
【0023】
正孔注入層HILは、陽極ANDと正孔輸送層HTLとの間に介在している。正孔注入層HILは有機物、無機物、又は有機金属化合物からなり、そのイオン化エネルギーは、典型的には、陽極ANDの仕事関数と正孔輸送層HTLのイオン化エネルギーとの間にある。正孔注入層HILの材料としては、例えば、アモルファスカーボン又は銅フタロシアニン(以下、CuPcという)を使用することができる。正孔注入層HILは省略することができる。
【0024】
電子輸送層ETLは、発光層EMLと陰極CTDとの間に介在している。電子輸送層ETLは例えば有機物からなり、その電子親和力は、典型的には、発光層EMLの電子親和力と陰極CTDの仕事関数との間にある。電子輸送層ETLの材料(以下、電子輸送材料という)としては、例えば、Alq3又は2−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,3,4−オキサジアゾール(以下、OXDという)を使用することができる。
【0025】
電子注入層EILは、電子輸送層ETLと陰極CTDとの間に介在している。電子注入層EILは有機物、無機物、又は有機金属化合物からなり、その電子親和力は、典型的には、電子輸送層ETLの電子親和力と陰極CTDの仕事関数との間にある。電子注入層EILの材料としては、例えば、弗化リチウムを使用することができる。電子注入層EILは省略することができる。おきゆう
隣接層OLは、発光層EMLと電子輸送層ETLとの間に介在している。隣接層OLは、例えば、正孔ブロッキング層、界面混合層、又はそれらの組み合わせである。隣接層OLは省略することができる。
【0026】
正孔ブロッキング層は有機物からなり、そのイオン化エネルギーは、発光層EMLのイオン化エネルギーと比較してより大きく、典型的には、電子輸送層ETLのイオン化エネルギーと比較してより大きい。正孔ブロッキング層は、例えば、(ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(パラ−フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(以下、BAlqという)又はバソクプロイン(以下、BCPという)からなる。
【0027】
界面混合層は、発光層EMLに使用するホスト材料及びドーパントの少なくとも一方と電子輸送層ETLの材料とを混合した層である。界面混合層は、例えば、青色発光層のホスト材料として用いられるアントラセンジナフチル(以下、ADNという)又はAlq3と、OXD、BAlq又はBCPとからなる。なお、隣接層OLが正孔ブロッキング層と界面混合層とを含んでいる場合、界面混合層は、例えば、発光層EMLと正孔ブロッキング層との間に配置する。
【0028】
この有機EL素子OLEDでは、電子輸送層ETL及び隣接層OLの少なくとも一方は、下記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を更に含んでいる。例えば、電子輸送層ETLは、下記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を更に含んでいる。
【化2】

【0029】
式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物は、比較的高い電子供与性を有している。それ故、電子輸送層ETLが先のアジン系化合物を更に含んでいる場合には、正孔が発光層EMLから隣接層OLを介して電子輸送層ETLへと注入されたとしても、このアジン系化合物が供与する電子によって、電子輸送層ETLが含んでいる電子輸送材料の酸化は抑制されるか、又は、酸化した電子輸送材料は直ちに還元される。また、隣接層OLが先のアジン系化合物を更に含んでいる場合には、正孔が発光層EMLから隣接層OLへと注入されたとしても、このアジン系化合物が供与する電子によって、隣接層OLから電子輸送層ETLへの正孔の注入は抑制されるため、電子輸送層ETLが含んでいる電子輸送材料の酸化は抑制される。
【0030】
また、例えば、電子輸送層ETLに、リチウム、ストロンチウム及びサマリウムなどの電子供与性に優れた金属をドープした場合、初期状態においては、式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を電子輸送層ETLにドープした場合とほぼ同等の効果を得ることができる。しかしながら、電子輸送層ETLに金属をドープした有機EL素子を連続駆動すると、時間の経過とともに金属が拡散する。その結果、発光層内での励起子の消光を引き起こし、輝度を低下させると共に電子輸送材料の酸化に起因した劣化が進行し、駆動電圧が上昇する。
【0031】
式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物は、リチウム、ストロンチウム及びサマリウムなどの金属と比較して遥かに嵩高い。それ故、このアジン系化合物を電子輸送層ETL又は隣接層OLにドープした有機EL素子OLEDは、連続駆動しても、アジン系化合物の拡散を生じ難い。そのため、電子輸送材料の酸化に起因した劣化が長期に亘って抑制される。従って、この有機EL素子OLEDは、駆動時間に対する駆動電圧の上昇が小さい。
【0032】
このアジン系化合物としては、例えば、下記式(2)で表される化合物を使用することができる。
【化3】

【0033】
上記式(2)において、X1乃至X13は、原子又は官能基を表している。X1乃至X13は、互いに等しくても、異なっていてもよい。
【0034】
X1乃至X13の各々は、水素原子、核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリール基、核原子数が5乃至50の範囲内にあるヘテロアリール基、炭素原子数が1乃至50の範囲内にあるアルキル基、炭素原子数が1乃至50の範囲内にあるアルコキシ基、炭素原子数が6乃至50の範囲内にあるアラルキル基、核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリールオキシ基、核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリールチオ基、炭素原子数が2乃至50の範囲内にあるアルコキシカルボニル基、核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリール基又はヘテロアリール基によって水素原子の1つ以上が置換されたアミノ基、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基及びカルボキシ基からなる群より選択される。ここで、「核原子数」は、環を形成している原子の数を意味している。
【0035】
核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリール基は、単環式の官能基であってもよく、多環式の官能基であってもよい。後者の場合、アリール基は、縮合核を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。このアリール基としては、例えば、電子が供与されたシクロペンタジエニル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、トリフェニレニル基又はペリレニル基を使用することができる。
【0036】
核原子数が5乃至50の範囲内にあるヘテロアリール基は、単環式の官能基であってもよく、多環式の官能基であってもよい。後者の場合、ヘテロアリール基は、縮合核を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。このヘテロアリール基としては、例えば、フリル基、ピリジル基、チエニル基、ピロリル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、キノリル基、イソキノリル基、フェナントリジニル基、アクリジニル基、ナフチリジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、フェナントロリル基、フェナジニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、シクロアジル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基又はベンゾチアジアゾリル基を使用することができる。
【0037】
炭素原子数が1乃至50の範囲内にあるアルキル基は、直鎖であってもよく、側鎖を有していてもよい。このアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ペンチル基、オクチル基、ドデシル基、シクロヘキシル基、ビシクロオクチル基又はアダマンチル基を使用することができる。
【0038】
炭素原子数が1乃至50の範囲内にあるアルコキシ基は、上述したアルキル基と酸素原子とが結合したものである。このアルコキシ基としては、例えば、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基又はフェノキシル基を使用することができる。
【0039】
炭素原子数が6乃至50の範囲内にあるアラルキル基は、上述したアルキル基の水素原子の1つ以上を上述したアリール基又はヘテロアリール基によって置換したもののうち、炭素原子数が6乃至50の範囲内にある官能基である。典型的には、このアラルキル基は、アルキル基を構成している炭素原子の数と核原子数との和が6乃至50の範囲内にある。このアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基又はナフチルエチル基を使用することができる。
【0040】
核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリールオキシ基は、上述したアリール基又はヘテロアリール基に酸素原子を結合させたものである。このアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基又はナフチルオキシ基を使用することができる。
【0041】
核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリールチオ基は、例えば、上述したアリール基又はヘテロアリール基と水素原子とを硫黄原子に結合させたものである。このアリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、トリメチルシリル基、トリメトキシシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基、トリメチルシリルオキシ基、トリメトキシシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基、又はt−ブチルジフェニルシリルオキシ若しくはシロキシ基を使用することができる。
【0042】
炭素原子数が2乃至50の範囲内にあるアルコキシカルボニル基は、上述したアルコキシ基とカルボニル基とのエステル化によって得られる官能基である。このアルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基を使用することができる。
【0043】
核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリール基又はヘテロアリール基によって水素原子の1つ以上が置換されたアミノ基は、例えば、アミノ基の水素原子の1つを上述したアリール基若しくはヘテロアリール基によって置換した官能基であるか、又は、アミノ基の水素原子の2つを上述したアリール基及びヘテロアリール基の少なくとも一方によって置換したもののうち核原子数が5乃至50の範囲内にある官能基である。この置換アミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基、又は9,9−ジメチル−9H−フルオレニルフェニルアミノ基を使用することができる。
【0044】
X1乃至X13の各々は、水素原子の1つ以上が他の原子又は官能基によって置換されていてもよい。芳香核の水素原子を置換する官能基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を使用することができる。アルキル鎖の水素原子を置換する官能基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基又はニトロ基を使用することができる。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
【0045】
X1乃至X13の各々は、X1乃至X13の他の1つ以上と飽和又は不飽和結合を形成していてもよい。例えば、X1としてフェニル基を使用し、X2としてフェニル基を使用した場合、一方のフェニル基の炭素原子と他方のフェニル基の炭素原子とは一重結合を形成していてもよい。或いは、X1としてメチル基を使用し、X2としてメチル基を使用した場合、一方のメチル基の炭素原子と他方のメチル基の炭素原子とは二重結合を形成していてもよい。
【0046】
式(2)に示す化合物は、X1乃至X4の2つとX5乃至X8の2つとがベンゼン核を含んだ単環式官能基であり、X1乃至X13の残りが水素原子であってもよい。あるいは、式(2)に示す化合物は、X9乃至X13の1つ若しくは2つがベンゼン核を含んだ単環式官能基であり、X1乃至X13の残りが水素原子であってもよい。例えば、下記式(3)乃至(6)で表される化合物は、これらの条件を満足している。
【化4】

【0047】
【化5】

【0048】
【化6】

【0049】
【化7】

【0050】
式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物としては、例えば分子量が200乃至1,000の範囲内にあるものを使用し、典型的には分子量が200乃至500の範囲内にあるものを使用する。一般に、分子量が小さな化合物は、分子量が大きな化合物と比較して拡散し易い。また、アジン系化合物のモル濃度が一定である場合、このアジン系化合物の分子量が大きいほど、これを含んだ層の電子輸送能が低い傾向にある。
【0051】
電子輸送材料に対する電子輸送層ETL及び隣接層OLが含んでいるアジン系化合物のモル比は、例えば0.1%乃至99.9%の範囲内にあり、典型的には0.1%乃至20%の範囲内にある。このモル比を小さくすると、電子輸送材料の酸化に起因した劣化を抑制する効果が小さくなる傾向にある。また、このモル比を大きくすると、アジン系化合物を含んだ層の電子輸送能が低下する傾向にある。
【0052】
上述した有機EL素子OLEDは、様々な有機EL装置に使用することができる。例えば、この有機EL素子OLEDは、有機EL表示装置、屋内若しくは屋外照明装置及び表示パネルのバックライトなどの照明装置、電子写真装置の感光ドラムに潜像を書き込むための書込装置、又は光通信において利用する送信機において使用することができる。以下、有機EL素子OLEDを有機EL表示装置に適用した例を説明する。
【0053】
図2は、本発明の一態様に係る有機EL装置を概略的に示す平面図である。
図1に示す表示装置は、アクティブマトリクス型駆動方式を採用した上面発光型の有機EL表示装置である。この表示装置は、表示パネルDPと、映像信号線ドライバXDRと、走査信号線ドライバYDRと、コントローラCNTとを含んでいる。
【0054】
表示パネルDPは、基板SUBと、走査信号線SLと、映像信号線DLと、電源線PSLと、画素PX1乃至PX3とを含んでいる。なお、図1において、X方向は基板SUBの主面に平行な方向であり、Y方向は基板SUBの主面に平行であり且つX方向と交差する方向であり、Z方向はX方向及びY方向に対して垂直な方向である。
【0055】
走査信号線SLは、各々がX方向に延びており、Y方向に配列している。映像信号線DLは、各々がY方向に延びており、X方向に配列している。
【0056】
電源線PSLは、各々がY方向に延びており、X方向に配列している。電源線PSLは、各々がX方向に延び、Y方向に配列していてもよい。
【0057】
画素PX1乃至PX3は、走査信号線SLと映像信号線DLとの交差部に対応してマトリクス状に配列している。ここでは、画素PX1乃至PX3は、各々がY方向に延びた列を形成している。画素PX1からなる列と、画素PX2からなる列と、画素PX3からなる列とは、X方向に配列しており、ストライプパターンを形成している。
【0058】
画素PX1乃至PX3は、発光色が互いに異なっている。画素PX1乃至PX3の各々は、駆動トランジスタDRと、スイッチSWと、キャパシタCと、有機EL素子OLEDとを含んでいる。
【0059】
駆動トランジスタDRは、ここでは、pチャネル薄膜トランジスタである。駆動トランジスタDRのソースは、電源線PSLに接続されている。なお、電源線PSLは、高電位電源端子に接続されている。
【0060】
スイッチSWは、ここでは、pチャネル薄膜トランジスタである。スイッチSWは、映像信号線DLと駆動トランジスタDRのゲートとの間に接続されており、そのゲートは走査信号線SLに接続されている。
【0061】
キャパシタCは、ここでは、薄膜キャパシタである。キャパシタCは、駆動トランジスタDRのゲートとソースとの間に接続されている。
【0062】
有機EL素子OLEDは、図1を参照しながら説明したのと同様の構造を有している。有機EL素子OLEDは、陽極が駆動トランジスタDRのドレインに接続されており、陰極が低電位電源端子に接続されている。
【0063】
画素PX1乃至PX3は、有機EL素子OLEDの発光色が互いに異なっている。例えば、画素PX1は赤色に発光し、画素PX2は緑色に発光し、画素PX3は赤色に発光する。
【0064】
映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、基板SUB上に配置されている。即ち、映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、COG(chip on glass)実装している。映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、COG実装する代わりに、TCP(tape carrier package)実装してもよい。或いは、映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRは、基板SUB上に形成してもよい。
【0065】
映像信号線ドライバXDRには、映像信号線DLが接続されている。この例では、映像信号線ドライバXDRには、電源線PSLが更に接続されている。映像信号線ドライバXDRは、映像信号線SLに映像信号として電圧信号を出力するとともに、電源線PSLに電源電圧を供給する。
【0066】
走査信号線ドライバYDRには、走査信号線SLが接続されている。走査信号線ドライバYDRは、走査信号線SLに走査信号として電圧信号を出力する。
【0067】
コントローラCNTは、映像信号線ドライバXDR及び走査信号線ドライバYDRに接続されている。コントローラCNTは、映像信号線ドライバXDRにその動作を制御するための制御信号を供給するとともに、走査信号線ドライバYDRにその動作を制御するための制御信号と電源電圧とを供給する。
【0068】
なお、ここでは、画素PX1乃至PX3に単純な回路構成を採用しているが、他の回路構成を採用してもよい。また、ここでは、映像信号として電圧信号を供給する電圧駆動方式を採用しているが、映像信号として電流信号を供給する電流駆動方式を採用してもよい。
【0069】
図3は、図2に示す有機EL表示装置に採用可能な構造の一例を概略的に示す断面図である。
【0070】
図3には、表示パネルDPの断面を描いている。この表示パネルDPは、ガラス基板又はプラスチック基板などの絶縁基板SUBを含んでいる。基板SUB上には、図示しないアンダーコート層が形成されている。アンダーコート層は、例えば、基板SUB上にSiNx層とSiOx層とをこの順に積層してなる。
【0071】
アンダーコート層上には、例えば不純物を含有したポリシリコンからなる半導体パターンが形成されている。この半導体パターンの一部は、半導体層SCとして利用している。半導体層SCには、ソース及びドレインとして利用する不純物拡散領域が形成されている。また、この半導体パターンの他の一部は、図2を参照しながら説明したキャパシタCの下部電極として利用している。下部電極は、図2を参照しながら説明した画素PX1乃至PX3に対応して配列している。
【0072】
半導体パターンは、ゲート絶縁膜GIで被覆されている。ゲート絶縁膜GIは、例えばTEOS(tetraethyl orthosilicate)を用いて形成することができる。
【0073】
ゲート絶縁膜GI上には、図2を参照しながら説明した走査信号線SLが形成されている。走査信号線SLは、例えばMoWなどからなる。
【0074】
ゲート絶縁膜GI上には、キャパシタCの上部電極が更に配置されている。上部電極は、画素PX1乃至PX3に対応して配列しており、下部電極と向き合っている。上部電極は、例えばMoWなどからなり、走査信号線SLと同一の工程で形成することができる。
【0075】
下部電極と上部電極とそれらの間に介在した絶縁膜GIとは、図2を参照しながら説明したキャパシタCを構成している。キャパシタCの上部電極は延長部Gを含んでおり、この延長部Gは、半導体層SCの一部と交差している。延長部Gと半導体層SCとの交差部は、駆動トランジスタDRを構成している。なお、延長部Gは、駆動トランジスタDRのゲートである。また、走査信号線SLは、他の半導体層SCと交差している。走査信号線SLと半導体層SCとの交差部は図2を参照しながら説明したスイッチSWを構成している。
【0076】
ゲート絶縁膜GI、走査信号線SL1及びSL2、並びに上部電極は、層間絶縁膜IIで被覆されている。層間絶縁膜IIは、例えば、プラズマCVD(chemical vapor deposition)法によって堆積させたSiOxからなる。
【0077】
層間絶縁膜II上には、ソース電極SE及びドレイン電極DEと、図2を参照しながら説明した映像信号線DL及び電源線PSLとが形成されている。一部のソース電極SEは、駆動トランジスタDRのソースと図2を参照しながら説明した電源線PSLとの間に接続されている。他のソース電極SEは、図2を参照しながら説明したスイッチSWのソースと駆動トランジスタDRのゲートGとの間に接続されている。
【0078】
ソース電極SE及びドレイン電極DEと、図2を参照しながら説明した映像信号線DL及び電源線PSLとは、例えば、Mo/Al/Moの三層構造を有している。これらは、同一工程で形成可能である。
【0079】
層間絶縁膜II上には、反射層REFが更に配置されている。反射層REFは、例えばアルミニウムなどの金属又は合金からなる。
【0080】
ソース電極SE、ドレイン電極DE及び反射層REFと、図2を参照しながら説明した映像信号線DL及び電源線PSLとは、パッシベーション膜PSで被覆されている。パッシベーション膜PSは、例えばSiNxからなる。
【0081】
パッシベーション膜PS上では、画素電極PEが、画素PX1乃至PX3に対応して配列している。各画素電極PEは、パッシベーション膜PSに設けたコンタクトホールを介してドレイン電極DEに接続されており、このドレイン電極は駆動トランジスタDRのドレインに接続されている。
【0082】
画素電極PEは、この例では背面電極である。また、画素電極PEは、この例では陽極である。画素電極PEの材料としては、例えば、ITOなどの透明導電性酸化物を使用することができる。
【0083】
パッシベーション膜PS上には、隔壁絶縁層PIが更に形成されている。隔壁絶縁層PIには、画素電極PEに対応した位置に貫通孔が設けられているか、又は、画素電極PEが形成する列に対応した位置にスリットが設けられている。ここでは、一例として、隔壁絶縁層PIには、画素電極PEに対応した位置に貫通孔が設けられていることとする。
【0084】
隔壁絶縁層PIは、例えば、有機絶縁層である。隔壁絶縁層PIは、例えば、フォトリソグラフィ技術を用いて形成することができる。
【0085】
各画素電極PE上には、有機物層ORGが形成されている。有機物層ORGは、図1を参照しながら説明した発光層EML及び電子輸送層ETLなどを含んでいる。
【0086】
隔壁絶縁層PI及び有機物層ORGは、対向電極CEで被覆されている。この例では、対向電極CEは、前面電極であって、画素PX1乃至PX3で共用する共通電極である。また、この例では、対向電極CEは陰極である。対向電極CEは、例えば、パッシベーション膜PSと隔壁絶縁層PIとに設けられたコンタクトホールを介して、映像信号線DLと同一の層上に形成された電極配線(図示せず)に電気的に接続されている。
【0087】
画素電極PEと有機物層ORGと対向電極CEとは、画素電極PEに対応して配列した有機EL素子OLEDを形成している。各有機EL素子OLEDは、図1を参照しながら説明した構成を有している。
【0088】
なお、この表示パネルDPにおいて、図1を参照しながら説明した正孔注入層HIL、正孔輸送層HTL、隣接層OL、電子輸送層HTL、電子注入層EIL及び陰極CTDは、隣り合った画素間の位置で分断されている必要はない。
【0089】
この有機EL表示装置は、有機EL素子OLEDに、図1を参照しながら説明した構成を採用している。従って、この有機EL表示装置は、駆動時間に対する駆動電圧の上昇が小さい。
【0090】
この有機EL表示装置には、様々な変形が可能である。
図4は、一変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図である。図4には、表示パネルDPを、その構成要素の一部を省略して描いている。
【0091】
図4に示す構造は、以下の点を除き、図1乃至図3を参照しながら説明した構造と同様である。
図4に示す構造は、正孔輸送層HTLの代わりに、正孔輸送層HTL1及びHTL2を含んでいる。正孔輸送層HTL1は有機物からなり、そのイオン化エネルギーは、典型的には、陽極ANDの仕事関数と発光層EMLのイオン化エネルギーとの間にある。正孔輸送層HTL2は、正孔輸送層HTL1と発光層EMLとの間に介在している。正孔輸送層HTL2は有機物からなり、そのイオン化エネルギーは、典型的には、正孔輸送層HTL1のイオン化エネルギーと発光層EMLのイオン化エネルギーとの間にある。
【0092】
また、図4に示す構造では、画素PX1の有機EL素子OLEDは発光層として発光層EML1乃至EML3を含み、画素PX2の有機EL素子OLEDは発光層として発光層EML2及びEML3を含み、画素PX3の有機EL素子OLEDは発光層として発光層EML3を含んでいる。画素PX1の有機EL素子OLEDでは、発光層EML2は発光層EML1と電子輸送層ETLとの間に介在しており、発光層EML3は発光層EML2と電子輸送層ETLとの間に介在している。画素PX2の有機EL素子OLEDでは、発光層EML3は発光層EML2と電子輸送層ETLとの間に介在している。発光層EML2は、発光層EML1と比較してより波長がより短い光を放出し、発光層EML3は、発光層EML2と比較してより波長がより短い光を放出する。例えば、発光層EML1の発光色は赤色であり、発光層EML2の発光色は緑色であり、発光層EML3の発光色は青色である。
【0093】
この構成を採用した場合、発光層EML2は、画素PX1及びPX2間の位置で分断されている必要はない。また、発光層EML3は、正孔注入層HIL、正孔輸送層HTL1及びHTL2、電子輸送層HTL、電子注入層EIL、陰極CTD並びに調整層MCと同様に、画素PX1及びPX2間の位置で分断されている必要はなく、画素PX2及びPX3間の位置で分断されている必要はなく、画素PX3及びPX1間の位置で分断されている必要もない。
【0094】
また、図4に示す構造は、隣接層OLを含んでおらず、調整層MCを含んでいる。調整層MCは、陽極AND及び陰極CTD並びにそれらの間に介在した層が、この調整層MCと反射層REFとによって挟まれるように配置されている。調整層MCは、光透過性の層であって、反射層REFから遠い主面は、光透過性の反射面として機能する。調整層MCの厚さは、画素PX1乃至PX3の各々において、その有機EL素子OLEDから取り出すべき光が共振を生じるように定められている。調整層MCとしては、例えば、SiN層などの透明無機絶縁層、ITO層などの透明無機導電層、有機物層ORGが含んでいる層などの透明有機物層を使用することができる。
【0095】
図5は、他の変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図である。図5には、表示パネルDPを、その構成要素の一部を省略して描いている。
図5に示す構造は、以下の点を除き、図4を参照しながら説明した構造と同様である。
【0096】
図5に示す構造では、画素PX1の有機EL素子OLEDは発光層EML2を含んでおらず、画素PX2の有機EL素子OLEDは発光層EML3を含んでいない。この構成を採用した場合、発光層EML3は、画素PX1及びPX3間の位置で分断されている必要はない。
【0097】
また、図5に示す構造では、画素PX3の有機EL素子OLEDは、正孔輸送層HTL3を更に含んでいる。正孔輸送層HTL3は有機物からなり、そのイオン化エネルギーは、典型的には、正孔輸送層HTL1のイオン化エネルギーと正孔輸送層ETL2のイオン化エネルギーとの間にある。この構成を採用した場合、上述した共振を生じさせるべき構造の光学的厚さを、正孔輸送層HTL3を利用して調節することができる。
【0098】
図6は、更に他の変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図である。図6には、表示パネルDPを、その構成要素の一部を省略して描いている。
図6に示す構造は、以下の点を除き、図4を参照しながら説明した構造と同様である。
【0099】
図6に示す構造では、画素PX1の有機EL素子OLEDは発光層EML3を含んでおらず、画素PX2の有機EL素子OLEDは発光層EML3を含んでいない。この構成を採用した場合、発光層EML2は、画素PX1及びPX2間の位置で分断されている必要はない。
【0100】
また、図6に示す構造では、画素PX3の有機EL素子OLEDは、正孔輸送層HTL3を更に含んでいる。この構成を採用した場合、上述した共振を生じさせるべき構造の光学的厚さを、正孔輸送層HTL3を利用して調節することができる。
【0101】
図7は、更に他の変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図である。図7には、表示パネルDPを、その構成要素の一部を省略して描いている。
図7に示す構造は、以下の点を除き、図4を参照しながら説明した構造と同様である。
【0102】
図7に示す構造では、画素PX1の有機EL素子OLEDは発光層EML2を含んでいない。この構成を採用した場合、発光層EML3は、画素PX1及びPX2間の位置で分断されている必要はなく、画素PX2及びPX3間の位置で分断されている必要はなく、画素PX3及びPX1間の位置で分断されている必要もない。
【0103】
また、図7に示す構造では、画素PX1の有機EL素子OLEDは正孔輸送層HTL2の代わりに正孔輸送層HTL4を含み、画素PX2の有機EL素子OLEDは正孔輸送層HTL2の代わりに正孔輸送層HTL5を含み、画素PX3の有機EL素子OLEDは正孔輸送層HTL3を更に含んでいる。正孔輸送層HTL4は有機物からなり、そのイオン化エネルギーは、典型的には、正孔輸送層HTL1のイオン化エネルギーと発光層EML1のイオン化エネルギーとの間にある。また、正孔輸送層HTL5は有機物からなり、そのイオン化エネルギーは、典型的には、正孔輸送層HTL1のイオン化エネルギーと発光層EML2のイオン化エネルギーとの間にある。この構成を採用した場合、上述した共振を生じさせるべき構造の光学的厚さを、正孔輸送層HTL3乃至HTL5を利用して調節することができる。
【0104】
図8は、更に他の変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図である。図8には、表示パネルDPを、その構成要素の一部を省略して描いている。
図8に示す構造は、画素PX1乃至PX3の各々の有機EL素子OLEDが発光層EML3の代わりに発光層EML3a及びEML3bを含んでいること以外は、図7を参照しながら説明した構造と同様である。発光層EML3a及びEML3bの発光色は、例えば青色である。発光層EML3bの正孔移動度は、例えば、発光層EML3aの正孔移動度と比較してより小さい。或いは、発光層EML3bのHOMO(highest occupied molecular orbital)レベルは、例えば、発光層EML3aのHOMOレベルと比較してより大きい。この構成を採用した場合、電子輸送層ETLに正孔が到達し難くなり、駆動電圧の上昇が抑制される。
【0105】
図9は、更に他の変形例に係る有機EL装置を概略的に示す断面図である。図9には、表示パネルDPを、その構成要素の一部を省略して描いている。
図8に示す構造は、以下の点を除き、図6を参照しながら説明した構造と同様である。
【0106】
図8に示す構造では、画素PX1の有機EL素子OLEDは正孔輸送層HTL4を更に含み、画素PX2の有機EL素子OLEDは正孔輸送層HTL2の代わりに正孔輸送層HTL5を更に含んでいる。この構成を採用した場合、上述した共振を生じさせるべき構造の光学的厚さを、正孔輸送層HTL3乃至HTL5を利用して調節することができる。
【0107】
また、画素PX1乃至PX3の各々は、混合層MLを更に含んでいる。この構成を採用した場合、電子輸送層ETLと発光層EMLとの間のキャリア注入障壁が緩和されて電子注入が促進されるため、電子輸送層ETLに正孔が到達し難くなり、駆動電圧の上昇が抑制される。
【実施例】
【0108】
以下に本発明の実施例を記載する。
【0109】
(実施例1)
ガラス基板上に、スパッタリング法により陽極を形成した。次に、真空蒸着法により、陽極上に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、隣接層、電子輸送層、電子注入層及び陰極を、この順に形成した。ここでは、陽極の材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)を使用した。正孔注入層としては、厚さが10nmのCuPc層を形成した。正孔輸送層としては厚さが50nmのTPDを発光層としては、ホストとしてADNを含み、ドーパントとして4,4’−ビス[4−(ジフェニルアミノ)スチリル]ビフェニル(以下、BDAVBiという)を1質量%の濃度で含んだ厚さが30nmの層を形成した。隣接層としては、ADNを50質量%の濃度で含み、Alq3を50質量%の濃度で含んだ厚さが5nmの層を形成した。電子輸送層としては、Alq3を90質量%の濃度で含み、式(3)に示す化合物を10質量%の濃度で含んだ厚さが30nmの層を形成した。電子注入層としては、厚さが1nmのLiF層を形成した。陰極としては、としては、厚さが1000nmのAl層を形成した。
【0110】
このようにして得られた有機EL素子を、50℃の温度条件下、駆動電流を100mA/cm2に設定して連続駆動し、輝度及び電圧を測定した。
【0111】
(実施例2)
式(3)に示す化合物の代わりに式(4)に示す化合物を使用したこと以外は、実施例1において説明したのと同様の方法により有機EL素子を製造した。そして、このようにして得られた有機EL素子を、50℃の温度条件下、駆動電流を100mA/cm2に設定して連続駆動し、輝度及び電圧を測定した。
【0112】
(実施例3)
式(3)に示す化合物の代わりに式(5)に示す化合物を使用したこと以外は、実施例1において説明したのと同様の方法により有機EL素子を製造した。そして、このようにして得られた有機EL素子を、50℃の温度条件下、駆動電流を100mA/cm2に設定して連続駆動し、輝度及び電圧を測定した。
【0113】
(実施例4)
式(3)に示す化合物の代わりに式(6)に示す化合物を使用したこと以外は、実施例1において説明したのと同様の方法により有機EL素子を製造した。そして、このようにして得られた有機EL素子を、50℃の温度条件下、駆動電流を100mA/cm2に設定して連続駆動し、輝度及び電圧を測定した。
【0114】
(比較例1)
電子輸送層として、Alq3からなる厚さが30nmの層を形成したこと以外は、実施例1において説明したのと同様の方法により有機EL素子を製造した。そして、このようにして得られた有機EL素子を、50℃の温度条件下、駆動電流を100mA/cm2に設定して連続駆動し、輝度及び電圧を測定した。
【0115】
(比較例2)
電子輸送層として、Alq3を90質量%の濃度で含み、セシウムを10質量%の濃度で含んだ厚さが30nmの層を形成したこと以外は、実施例1において説明したのと同様の方法により有機EL素子を製造した。そして、このようにして得られた有機EL素子を、50℃の温度条件下、駆動電流を100mA/cm2に設定して連続駆動し、輝度及び電圧を測定した。
【0116】
以下の表1は、実施例1乃至4並びに比較例1及び2に係る有機EL素子について得られた輝度半減時間と電圧上昇率とを示している。なお、この表1において、輝度半減時間は、比較例1に係る有機EL素子について得られたデータを1とした場合の相対値を示している。また、この表1において、電圧上昇率は、輝度が初期輝度の半分に減少したときの駆動電圧と初期の駆動電圧との差を、比較例1に係る有機EL素子について得られたデータを1とした場合の相対値を示している。
【表1】

【0117】
表1に示すように、実施例1乃至4に係る有機EL素子は、比較例1及び2に係る有機EL素子と比較して、輝度半減時間が長く、電圧上昇率が小さかった。
【符号の説明】
【0118】
AND…陽極、C…キャパシタ、CE…対向電極、CNT…コントローラ、CTD…陰極、DE…ドレイン電極、DL…映像信号線、DP…表示パネル、DR…駆動トランジスタ、EIL…電子注入層、EML…発光層、EML1…発光層、EML2…発光層、
EML3…発光層、ETL…電子輸送層、ETL1…電子輸送層、ETL2…電子輸送層、ETL3…電子輸送層、ETL4…電子輸送層、ETL5…電子輸送層、G…ゲート、GI…ゲート絶縁膜、HIL…正孔注入層、HTL…正孔輸送層、II…層間絶縁膜、MC…調整層、ML…隣接層、OL…隣接層、OLED…有機EL素子、ORG…有機物層、PE…画素電極、PI…隔壁絶縁層、PS…パッシベーション膜、PSL…電源線、PX1…画素、PX2…画素、PX3…画素、REF…反射層、SC…半導体層、SE…ソース電極、SL…走査信号線、SUB…基板、SW…スイッチ、XDR…映像信号線ドライバ、YDR…走査信号線ドライバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に位置した発光層と、前記陰極と前記発光層との間に位置した電子輸送層とを具備した有機エレクトロルミネッセンス装置であって、前記電子輸送層は下記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を含んでいるか、前記有機エレクトロルミネッセンス装置は前記発光層と前記電子輸送層との間に下記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を含んだ層を更に具備しているか、又は、前記電子輸送層は下記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を含み且つ前記有機エレクトロルミネッセンス装置は前記発光層と前記電子輸送層との間に下記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を含んだ層を更に具備している有機エレクトロルミネッセンス装置。
【化1】

【請求項2】
前記アジン系化合物は、下記式(2)で表される化合物を含んでおり、
【化2】

上記式(2)において、X1乃至X13は、互いに等しくても、異なっていてもよく、水素原子、核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリール基、核原子数が5乃至50の範囲内にあるヘテロアリール基、炭素原子数が1乃至50の範囲内にあるアルキル基、炭素原子数が1乃至50の範囲内にあるアルコキシ基、炭素原子数が6乃至50の範囲内にあるアラルキル基、核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリールオキシ基、核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリールチオ基、炭素原子数が2乃至50の範囲内にあるアルコキシカルボニル基、核原子数が5乃至50の範囲内にあるアリール基又はヘテロアリール基によって水素原子の1つ以上が置換されたアミノ基、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基及びカルボキシ基からなる群より各々が選択され、X1乃至X13の各々は、水素原子の1つ以上が他の原子又は官能基によって置換されていても、置換されていなくてもよく、また、X1乃至X13の各々は、X1乃至X13の他の1つ以上と飽和又は不飽和結合を形成していても、結合を形成していなくてもよい請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項3】
前記式(2)において、X1乃至X4の2つとX5乃至X8の2つとはベンゼン核を含んだ単環式官能基であるか、又は、X9乃至X13の1つ若しくは2つはベンゼン核を含んだ単環式官能基であるか、又は、X1乃至X4の2つとX5乃至X8の2つとはベンゼン核を含んだ単環式官能基であり且つX9乃至X13の1つ若しくは2つはベンゼン核を含んだ単環式官能基であり、X1乃至X13の残りは水素原子である請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【請求項4】
前記アジン系化合物は、下記式(3)乃至(6)で表される化合物の少なくとも1つを含んでいる請求項1乃至3の何れか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【請求項5】
前記電子輸送層は前記式(1)で表される骨格を有しているアジン系化合物を含んでいる請求項1乃至4の何れか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−181598(P2011−181598A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42539(P2010−42539)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(302020207)東芝モバイルディスプレイ株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】