説明

有機ハロゲン化合物の簡易測定方法及び装置

【課題】試料液中に含有されるPCB類を始めとする有機ハロゲン化合物の濃度を、簡易的且つ短時間、高検出感度で測定できる。
【解決手段】発光細菌に有機ハロゲン化合物を接触させたときの発光量の減少を利用して、試料液中の有機ハロゲン化合物を測定する有機ハロゲン化合物の簡易測定装置10において、試料液と活性炭とを混合して、試料液中の有機ハロゲン化合物を活性炭に吸着させることにより有機ハロゲン化合物を濃縮する濃縮装置12と、濃縮装置12で処理後の活性炭と発光細菌の菌体溶液を混合することにより有機ハロゲン化合物と発光細菌とを接触させて有機ハロゲン化合物を測定する測定装置14と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機ハロゲン化合物の簡易測定方法及び装置に係り、特に、土壌や地下水に含まれるポリ塩化ビフェニル(PCB)等の有機ハロゲン化合物の濃度を、発光細菌を利用した毒性、有害試験により簡易的に測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
2002年に制定された土壌汚染対策法によって、テトラクロロエチレンやトリクロロエチレン等の有機塩素系化合物、カドミウム、六価クロムなどの重金属類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)や有機リン化合物等の農薬類が特定有害物質として規制対象となっている。ダイオキシン類についても、ダイオキシン類対策特別措置法等によって環境基準が制定されている。
【0003】
その中でもPCBは、化学的、熱的に安定であるため、トランスやコンデンサ等の電気機器の絶縁油や可塑剤、化学機器の熱媒体等に広く適用されていた。しかし、現在では生体に対する有害性が指摘されており、製造及び使用が禁止されるとともに、PCBによる土壌及び地下水汚染の調査や浄化対策の必要性が高まりつつある。
【0004】
土壌汚染調査は、初めに広範囲にわたる表層調査を実施し、汚染の疑わしいエリアの絞り込みを行なう。絞り込みを行った後、不透水層までの詳細調査を行なうが、絞込み精度を高めるためには更に詳細な調査を行なう必要がある。また、汚染が存在した場合は浄化対策をとるが、一般的には、対象土壌を掘削して、場外搬出した後廃棄処分するか、或いはオンサイトの浄化処理を行った後埋め戻している。この際、掘削を行うべきかの掘削管理が土壌汚染調査にとって非常に重要となるが、事前に行なった詳細調査によるコンター図だけでは不十分である。したがって、土壌や地下水のサンプルを実際に分析し、掘削すべきか否かのスクリーニングを行なう必要がある。
【0005】
このとき、例えば通常のPCB分析手法としては、GC−LRMSやGC−HRMS、GC−ECI等の機器分析によって測定するため、分析結果が得られるまでには数日間かかるという問題がある。
【0006】
これらの機器分析では、サンプルを分析施設へ持ち込む必要があること、前処理や測定に長時間を要すること、専門的な分析者が必要であること、高コストであること等の問題がある。このため、汚染の可能性のあるエリアを全て網羅するには時間、費用ともに莫大なものとなる。
【0007】
このようなことから、JISK0311:1999に規定されている公定法分析を補完し、高濃度汚染の有無の判断を現場で測定が可能で、簡易且つ安価に分析できる方法が望まれている。これまで、土壌汚染物質の簡易分析法としては、例えば特許文献1では、土壌等に含まれる有機ハロゲン化合物類をトルエン抽出し、その後金属ナトリウムと反応させて水相に移行させた後、滴定法、比濁法、分光光度法により有機ハロゲン化合物を分析する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2では、有機ハロゲン化合物の分析において、金属ナトリウムと陽イオン交換樹脂からなる分析用前処理キットを用いることで、前処理操作を簡易化する方法が提案されている。
【0009】
また、特許文献3及び4では、主に、ダイオキシン類を対象とした簡易分析方法が提案されている。
【特許文献1】特開2006−177981号公報
【特許文献2】特開2006−226813号公報
【特許文献3】特開2004−156970号公報
【特許文献4】特開2001−305121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の方法では、操作が煩雑である上、分析時間が最短でも8時間以上かかるという問題があった。また、PCBの検出可否や検出感度については不明であった。
【0011】
特許文献2の方法では、有機ハロゲン化合物の濃度が数十〜数千ppmレベルの高濃度を対象としており、低濃度の場合は検出できない虞があった。
【0012】
特許文献3及び4の方法では、公定法を若干改良したものであり、作業や分析時間を考慮すると、簡易的な方法とはいえなかった。
【0013】
このように、上記特許文献1〜4の方法では、例えば土壌や地下水に含有されるPCB等の有機ハロゲン化合物を短時間で簡便に、且つ高検出感度で測定できるものではなく、ましてや掘削すべきか否かのスクリーニングのためのオンサイト簡易測定(汚染現場で測定する)には使用できない。
【0014】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、試料液中に含有されるPCB類を始めとする有機ハロゲン化合物の濃度を、簡易的且つ短時間、高検出感度で測定できるので、特に土壌や地下水に含有される有機ハロゲン化合物をオンサイトで測定することができる有機ハロゲン化合物の簡易測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、発光細菌に有機ハロゲン化合物を接触させたときの発光量の減少を利用して、試料液中の有機ハロゲン化合物を測定する有機ハロゲン化合物の簡易測定方法において、前記試料液と活性炭とを混合して前記試料液中の有機ハロゲン化合物を前記活性炭に吸着させることにより前記有機ハロゲン化合物を濃縮する濃縮工程と、前記濃縮工程後の活性炭と前記発光細菌の菌体溶液を混合することにより前記有機ハロゲン化合物と前記発光細菌とを接触させて前記試料液中に含有される有機ハロゲン化合物の濃度を測定する測定工程と、を備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物の簡易測定方法を提供する。
【0016】
発光細菌のような微生物、魚、両生類などの生物材料を用いて化学物質の有害性を評価するバイオアッセイ法は、例えば医学、薬学、環境学の分野で使用されており、その中でも発光細菌を用いた急性毒性試験は測定時間が15分と非常に短時間であり、且つ操作が簡便であるとのメリットを有する。
【0017】
かかる発光細菌のバイオアッセイ法を、例えば土壌や地下水に含有されるPCB等の有機ハロゲン化合物の簡易測定に利用できれば、短時間で且つ簡易に測定することできる。
【0018】
しかし、土壌や地下水に含有されるPCB等の有機ハロゲン化合物は、極微量であり、発光細菌のバイオアッセイ法を簡易測定方法として採用しても高検出感度で測定できないため試料液の濃縮が必要となる。従来のバイオアッセイ法では通常、ヘキサン等の有機溶媒による液液抽出を行った後、加熱して濃縮液を調製することで試料液の濃縮を行っていた。
【0019】
しかしながら、従来の濃縮方法は、作業に時間と手間を要するために、測定している時間は短くても試料液濃度が極微量の場合には前処理に時間を要してしまう。また、大量の有機溶媒を必要とするため、汚染現場での簡易測定には不便である。更には、濃縮液中の有機溶媒が発光細菌に有害性を及ぼし、測定感度を低下させてしまうとの問題もある。
【0020】
したがって、かかる観点から、発明者は発光細菌のバイオアッセイ法を、試料液中に含有されるPCB類等の有機ハロゲン化合物が極微量であっても、簡易的且つ短時間で、しかも高検出感度で測定できる有機ハロゲン化合物の簡易測定方法及び装置として改良した。
【0021】
本発明の請求項1によれば、試料液と活性炭とを混合して、試料液中の有機ハロゲン化合物を活性炭に吸着させることにより、有機ハロゲン化合物を濃縮するようにしたので、短時間で且つ簡易に濃縮作業を行うことができる。また、有機溶媒を使用しないため、発光細菌に対する有害性もないので、簡易測定でありながら試料液中に含有される有機ハロゲン化合物の濃度を高検出感度で測定することができる。
【0022】
なお、本発明は、吸着を利用した濃縮なので、試料液の体積に対する活性炭の使用体積量は少なくする必要がある。
【0023】
請求項2は請求項1において、前記有機ハロゲン化合物はポリ塩化ビフェニル(PCB)であることを特徴とする。
【0024】
請求項2によれば、PCBの濃度測定には高検出感度が必要であり、本発明が特に有効である。
【0025】
請求項3は請求項1又は2において、前記濃縮工程では、前記測定工程における菌体溶液の発光細菌濃度が5000〜40000CFU/菌体溶液mLになるように、前記試料液と前記活性炭とを混合して濃縮することを特徴とする。
【0026】
請求項3は、高検出感度となるための好ましい発光細菌の菌体濃度を規定してものであり、菌体溶液の発光細菌濃度が5000〜40000CFU/菌体溶液mLになるように、試料液と活性炭とを混合して濃縮することが好ましい。発光細菌の菌体濃度が5000CFU/菌体溶液mL未満では充分な検出感度を得ることができず、40000CFU/菌体溶液mLを超えても検出感度は殆ど変わらない。より好ましい菌体濃度は8000〜20000CFU/菌体溶液mLの範囲である。
【0027】
請求項4は請求項3において、前記測定工程で前記活性炭と接触させる前記菌体溶液の所定体積量を1としたときに、活性炭の体積量が1/100以上、1/20以下になるように、前記濃縮工程で前記試料液と混合する活性炭の体積量を調整することを特徴とする。
【0028】
請求項4は、測定工程において、有機ハロゲン化合物が吸着された活性炭に、菌体溶液を接触させたときに、活性炭が測定に悪影響を及ぼさない範囲を規定したものであり、菌体溶液の体積量を1としたときに、活性炭の体積量が1/100以上、1/20以下になるように、濃縮工程で試料液と混合する活性炭の体積量を調製することが好ましい。
【0029】
菌体溶液の体積量1に対して活性炭の体積量が1/100を下回ると、試料液中の有機ハロゲン化合物を活性炭に吸着する能力が不十分になり、1/20を超えると測定精度に影響を及ぼすためである。
【0030】
請求項5は請求項1〜4のいずれか1において、前記濃縮工程では、前記活性炭の平均粒子径が0.001〜0.1mm範囲のものを使用することを特徴とする。
【0031】
請求項5は濃縮工程で使用する活性炭の好ましい粒径を規定したものであり、吸着性能と、活性炭の取り扱いとを考慮すると、平均粒子径が0.001〜0.1mm範囲が好ましい。より好ましい範囲は、0.005〜0.05mmの範囲である。
【0032】
請求項6は請求項1〜5のいずれか1において、前記簡易測定方法によって、土壌又は地下水に含まれる有機ハロゲン化合物をオンサイトで測定することを特徴とする。
【0033】
本発明の簡易測定方法は、土壌又は地下水が汚染された現場での測定において、一層効果を発揮するからである。
【0034】
請求項7に記載の発明は、前記目的を達成するために、発光細菌に有機ハロゲン化合物を接触させたときの発光量の減少を利用して、試料液中の有機ハロゲン化合物を測定する有機ハロゲン化合物の簡易測定装置において、前記試料液と活性炭とを混合して、前記試料液中の有機ハロゲン化合物を前記活性炭に吸着させることにより前記有機ハロゲン化合物を濃縮する濃縮装置と、前記濃縮装置で処理後の活性炭と前記発光細菌の菌体溶液を混合することにより前記有機ハロゲン化合物と前記発光細菌とを接触させて前記有機ハロゲン化合物を測定する測定装置と、を備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物の簡易測定装置を提供する。
【0035】
請求項7は、本発明を装置として構成したものであり、濃縮装置と測定装置との2つの装置からなるように構成したものである。
【0036】
請求項8に記載の発明は、前記目的を達成するために、発光細菌に有機ハロゲン化合物を接触させたときの発光量の減少を利用して、試料液中の有機ハロゲン化合物を測定する有機ハロゲン化合物の簡易測定装置において、前記試料液を注入する試料注入部と、活性炭を注入する活性炭注入部と、前記発光細菌の菌体溶液を注入する菌体注入部と、前記注入された試料液と活性炭とを混合して試料液中の有機ハロゲン化合物を活性炭に吸着する濃縮部と、前記有機ハロゲン化合物が吸着された活性炭と前記注入された菌体溶液とを接触させて有機ハロゲン化合物を測定する測定部と、が、一体的に設けられたことを特徴とする有機ハロゲン化合物の簡易測定装置を提供する。
【0037】
請求項8は、本発明を装置として構成したものであり、試料注入部と、活性炭注入部と、菌体注入部と、濃縮部と、測定部と、が1つの装置として組み込まれるように構成したものである。
【発明の効果】
【0038】
以上説明したように、本発明に係る有機ハロゲン化合物の簡易測定方法及び装置によれば、試料液中に含有されるPCB類を始めとする有機ハロゲン化合物の濃度を、簡易的且つ短時間、高検出感度で測定できる。
【0039】
したがって、本発明は土壌や地下水に含有される有機ハロゲン化合物をオンサイトで測定する簡易測定方法及び装置として特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、添付図面に従って本発明に係る有機ハロゲン化合物の簡易測定方法及び装置の好ましい実施の形態について説明する。
【0041】
発光細菌は、発光細菌の呼吸機構に伴って発光するが、この過程でPCB等の有害性物質が作用すると発光細菌がダメージを受けて発光が抑制される。本発明は、この性質を利用し、発光量を測定することで試料液中に含有されるPCB等の有機ハロゲン化合物の濃度を測定するものである。そして、測定の前処理としての有機ハロゲン化合物の濃縮過程において、従来の有機溶媒による液液抽出法ではなく、活性炭の吸着法を利用することで、前処理の作業を簡易且つ短時間で行うと共に、測定する際の検出感度を向上できるようにしたものである。
【0042】
本発明に使用される発光細菌としては、例えば、海洋性発光細菌(Vibro fischri)などが挙げられる。
【0043】
本発明が対象とする有機ハロゲン化合物としては、例えば、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン類、クロロフェノール類、PCB類、ダイオキシン類、クロロベンゾフラン類、各種ブロモ化合物、各種のハロゲン系農薬類などの多種類の有機ハロゲン誘導体が挙げられる。中でも、PCB類、ダイオキシン類の検出に好適である。
【0044】
まず、本発明に使用される簡易分析装置の概要について説明する。
【0045】
図1は、本発明に使用される簡易分析装置10の全体構成を示す概略図であり、図2は、簡易分析装置のうちの測定装置14の概略図である。なお、本実施の形態では、有機ハロゲン化合物の一例としてPCBの例で以下に説明する。
【0046】
簡易分析装置10は、図1に示すように、主に、試料液中のPCBを濃縮する濃縮装置12と、発光細菌を用いて濃縮されたPCBの濃度を測定する測定装置14とで構成される。
【0047】
濃縮装置12は、試料液と活性炭とを混合して試料液中のPCBを活性炭に吸着させることによりPCBを濃縮する。濃縮装置12としては、例えば図1に示すように、試料液と活性炭とを混合するための容器16(例えば、コルク栓付きの試験管)と、容器16を震盪させて内部の試料液と活性炭を混合する震盪機18と、容器16を保持した状態で震盪機の震盪板に着脱自在にセットするための保持具20とで構成される。試料液や活性炭を容器16に注入する手段としては特に制限はなく、試料液と活性炭の所定体積量を正確に注入できるものであれば、どのようなものでもよい。
【0048】
震盪機18としては、例えば図1に示すように、震盪機本体18Aの上に敷設されたレール18B上にスライド自在に支持された震盪板18Cを、震盪機本体18A内に内蔵された震盪機構により矢印方向に往復移動することで、震盪板18Cにセットされた保持具20を介して容器16を震盪させる構造のものを採用できる。この場合、後述するように、測定装置14で測定する際のPCBと発光細菌との反応促進のために、検出用の専用プレート22(図2参照)を震盪させる必要がある。したがって、専用プレート22を震盪機18の震盪板18Cに着脱できるようにすることが好ましい。なお、本実施の形態では、PCBを濃縮するための手段として震盪機18を使用して試料液と活性炭とを混合するようにしたが、試料液と活性炭とを効率的に混合できる手段であれば、震盪機18に限定するものではない。
【0049】
濃縮装置12において、試料液中のPCBを吸着した活性炭は、次に、容器16から取り出されて専用プレート22のセル24内に移される。そして、発光細菌の菌体溶液をシリンジ19でセル内に所定体積量(通常は1mL)注入して反応させる。この反応において、専用プレート22を再び震盪機18の震盪板18Cにセットして震盪させることにより、反応を促進させることが好ましい。
【0050】
反応終了後、専用プレート22は測定装置14にセットされ、試料液中に含有されるPCB濃度に応じた発光細菌の発光量が測定される。そして、測定装置14にケーブル17を介して接続されたPC(コンピュータ)26によって、測定された発光量から試料液のPCB濃度が演算され、表示部26Aに表示される。本発明で使用する測定装置14としては、オンサイト対応土壌毒性検査システムROTAS(Rapid Onsite Toxicity Audit System、日立化成工業)を好ましく使用できる。
【0051】
次に、試料液中のPCBを活性炭に吸着させて濃縮するための好ましい条件、及び発光細菌に対する活性炭の影響について従来の有機溶媒と対比して説明する。
【0052】
試料液中のPCBを活性炭に吸着させる効果は、活性炭の粒径に影響するので、図3では、PCB濃度が0.003mg/L含有の試料液100mLに対して粒径の異なる活性炭を1mL添加し、10分間震盪させたときの活性炭に対するPCB吸着効果を調べた。
【0053】
図3の横軸は活性炭の粒径(mm)であり、縦軸は活性炭に吸着されずに試料液中に残留したPCB濃度である。
【0054】
図3から分かるように、活性炭の平均粒径が0.01mm以下であれば、試料液中のPCBを活性炭に100%吸着することができる。また、活性炭の平均粒径が0.1mmの場合でも残留PCBは0.0001mg/Lであり、97%は吸着することができる。この結果から、試料液と微細な粒径の活性炭とを混合して10分程度震盪するだけで、試料液中のPCBを活性炭に吸着させて濃縮することが可能である。具体的にどの程度の平均粒径の活性炭を使用するかは、活性炭の取り扱いの点も含めて、平均粒径が0.001mm以上、0.1mm以下の範囲であることが好ましく、0.005mm以上、0.05mm以下の範囲であることがより好ましい。
【0055】
このように、濃縮装置12におけるPCBの濃縮において、従来のように有機溶媒を使用せずに活性炭を使用することにより、短時間でPCBを濃縮させることができる。なお、震盪時間としては、確実な濃縮と濃縮時間とのバランスから10分〜30分の範囲が好ましい。
【0056】
また、上記した測定装置14での測定時における発光細菌の発光量は、菌体濃度の高濃度化に伴って増加することから、測定時における発光細菌の菌体濃度が好ましい濃度になるように濃縮装置12で濃縮する必要がある。かかる観点から好ましい濃度を調べたところ、特に図示しないが、発光細菌の菌体濃度が5000CFU/菌体溶液mLを下回ると、充分な検出感度が得られない。一方、40000CFU/菌体溶液mLを超えて菌体濃度を高めても検出感度の上昇は殆ど見られなかった。このことから、測定時における発光細菌の菌体濃度が5000〜40000CFU/菌体溶液mL、より好ましくは8000〜20000CFU/菌体溶液mLになるように、試料液と活性炭とを混合してPCBを濃縮することが好ましい。
【0057】
図4は発光細菌に対する有機溶媒の影響について調べた試験結果であり、図5は発光細菌に対する活性炭の影響を調べた試験結果である。
【0058】
図4は、発光細菌の菌体溶液1mL(菌体濃度10000CFU/mLの場合)を4つ用意し、各菌体溶液に対して各種有機溶媒(ヘキサン、メタノール、エタノール、DMSO)を50μL添加したときの発光量を比較したグラフ図である。なお、菌体溶液1mLは、上記したように、測定装置14のセル24内に注入する注入体積量であり、影響が全くない場合の発光量は1になる。
【0059】
図4から分かるように、メタノール又はDMSOは影響が少なかったものの約20%の発光量減少が確認された。また、エタノールは40%の発光量減少、ヘキサンは一番影響が大きく、90%以上の発光量減少がみられた。このように、極めて微量な有機溶媒であっても発光細菌に悪影響を及ぼすことが分かる。
【0060】
一方、図5は、発光細菌の菌体溶液1mL(菌体濃度10000CFU/mLの場合)を4つ用意し、各菌体溶液に対して活性炭を1μL、10μL、50μL、及び100μL添加したときの、発光細菌の発光量を比較したグラフ図である。なお、活性炭は上記した好ましい粒径範囲のうちの0.01mmのものを使用した。
【0061】
図5から分かるように、菌体溶液1mLに対して活性炭を50μL添加しても発光量は全く減少しなかった。活性炭50μLは、図4で示した有機溶媒50μLと同じ体積濃度に相当する。また、菌体溶液1000μLに対して活性炭を100μL添加した場合には、発光量が約20%低下した。但し、この発光量の低下は、発光細菌に対して活性炭が有害な作用を及ぼしたのではなく、測定装置の専用プレート22のセル24内における活性炭量が多過ぎるために、測定が正確に行えないことが原因と考察される。
【0062】
発光細菌の菌体溶液1mLに対して活性炭量(体積)を1/20以下にすることが好ましいが、混合する活性炭量が1/100未満では、試料液中のPCBが活性炭に充分に吸着されず濃縮効果が落ちる。したがって、検出時の測定に影響を与えず、且つ濃縮時にPCBを確実に(略100%)吸着することができる活性炭量は、発光細菌の菌体溶液1mLに対して活性炭量(体積)を1/100以上、1/20以下にすることが好ましい。より好ましくは1/50以上、1/20以下である。
【0063】
この結果から、測定装置14で活性炭と接触させる菌体溶液の所定体積量を1としたときに、活性炭の体積量が1/100以上、1/20以下になるように、濃縮装置12で試料液と混合する活性炭の体積量を調整することが好ましい。具体的には、セル24内に注入する菌体溶液の注入量を上記の如く1mLとした場合、セル24内に存在する活性炭の体積量は10μL(上記1/100に相当)以上、50μL(上記1/20に相当)以下にすることが好ましい。
【0064】
上記図4、図5及び菌体濃度の試験結果から、濃縮装置12におけるPCBの好ましい濃縮条件をまとめると次のようになる。
【0065】
A)濃縮装置12に使用される活性炭の粒径は、0.001mm以上、0.1mm以下の範囲であることが好ましく、0.005mm以上、0.05mm以下の範囲であることがより好ましい。
【0066】
B)濃縮装置12では、測定装置14における菌体溶液の発光細菌濃度が5000〜40000CFU/菌体溶液mLになるように、試料液と活性炭とを混合して濃縮することが好ましく、8000〜20000CFU/菌体溶液mLがより好ましい。
【0067】
C)測定装置14で活性炭と接触させる菌体溶液の所定体積量を1としたときに、活性炭の体積量が1/100以上、1/20以下になるように、濃縮装置12で試料液と混合する活性炭の体積量を調整することが好ましい。
【0068】
次に、図1の簡易分析装置10を用いて、PCB濃度の異なる複数の試料液と発光細菌の発光量との関係を測定した測定結果を説明する。
【0069】
試料液100mL中のPCB濃度が0.000006mg、0.00006mg、0.0006mg、0.006mgの4水準の試料液を調製した。なお、以下説明する測定ステップは、一例として、前記4水準のうちの0.006mgの例で示してある。
【0070】
次に、試料液0.006mgを濃縮装置12の容器16にそれぞれ注入すると共に、容器16内に平均粒径が0.01mmの活性炭を1mL添加した。そして、震盪機18により10分間震盪させて各試料液中のPCBを活性炭に吸着させた。これにより、0.006mgのPCBが吸着した1mLの活性炭を得ることができる。即ち、試料液の体積100mLに含有するPCBを1mL体積の活性炭に全て吸着させることで、PCBを100倍に濃縮することができる。
【0071】
次に、容器16内から活性炭(PCBが吸着)のみを全量取り出し、取り出した活性炭を測定装置14の専用プレート22のセル24内に0.05mL移した。そして、セル24内に発光細菌の菌体溶液を1mL注入し、15分間反応させた。この15分の反応中に、活性炭に吸着されたPCBと発光細菌とが充分に接触して反応するように、震盪機18に専用プレート22をセットして震盪させた。このときの菌体溶液中のPCB濃度は0.0003mg/Lなる。図6では、菌体溶液をリッター(L)換算して示してあるので、0.3mg/Lになる。
【0072】
次に、専用プレート22を測定装置14にセットし、セル24内における発光細菌の発光量を測定した。
【0073】
判定基準として、EC50、即ち発光量が初期の半分になった場合を有効と判断した。このとき、発光細菌の菌体溶液とPCBを吸着させていない活性炭とを混合したセルを一つ形成し、このセルおける発光量をコントロール(対照値)とし、補正に使用した。
【0074】
他のPCB濃度が0.000006mg、0.00006mg、0.0006mgの試料についても同様に測定し、その結果を図6に示す。
【0075】
図6から分かるように、PCB濃度が0.003mg/LでEC50となり、検出感度として第二溶出基準値である0.003mg/Lを満足し、充分な検出感度を得ることができた。なお、第二溶出基準値とは、土壌溶出量基準の10〜30倍に相当するものであり、第二溶出基準値を検出可能な検出感度を有すれば、簡易測定装置として、充分に使用可能である。
【0076】
したがって、本発明は、従来の有機溶媒を使用した濃縮と比較し、短時間且つ簡易に高検出感度の測定を行えることができ、測定時間、操作の簡便性、検出感度の全て点で簡易測定装置として要望される機能を備えている。なお、従来の有機溶媒を使用した場合の濃縮時間は60分以上かかっていた。
【0077】
なお、図7は、図1の簡易測定装置の別態様であり、1つの装置として構成したものである。
【0078】
図7に示すように、簡易分析装置30は、主に、試料液を注入する試料液注入部32と、
活性炭を注入する活性炭注入部34と、発光細菌の菌体溶液を注入する菌体注入部36と、注入された試料液と活性炭とを混合して試料液中の有機ハロゲン化合物を活性炭に吸着する濃縮部38と、有機ハロゲン化合物が吸着された活性炭と注入された菌体溶液とを接触させて有機ハロゲン化合物の濃度を測定する測定部40と、が、一体的に設けられて構成される。なお、測定部40での測定結果は、接続されたPC26に出力される。これにより、操作者は、簡易分析装置30をPC26に接続すると共に、採取した試料液を試料液注入部32に注入し、活性炭を活性炭注入部34に注入し、発光細菌の菌体溶液を菌体注入部36に注入するだけで、試料液の濃縮も含めたPCB濃度の測定を連続且つ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の有機ハロゲン化合物の簡易分析装置の全体構成の一例を示す概略図
【図2】図1の測定装置の一例を示す説明図
【図3】濃縮装置で使用する活性炭の好ましい粒径を説明する説明図
【図4】有機溶媒の添加量と発光細菌の発光量との関係を説明する説明図
【図5】活性炭添加量と発光細菌の発光量との関係を説明する説明図
【図6】簡易測定装置でPCB濃度の異なる試料液を測定した時の発光量を示す説明図
【図7】簡易分析装置の別態様を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0080】
10、30…簡易分析装置、12…濃縮装置、14…測定装置、16…容器、18…震盪機、20…保持具、22…専用プレート、24…セル、26…コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光細菌に有機ハロゲン化合物を接触させたときの発光量の減少を利用して、試料液中の有機ハロゲン化合物を測定する有機ハロゲン化合物の簡易測定方法において、
前記試料液と活性炭とを混合して前記試料液中の有機ハロゲン化合物を前記活性炭に吸着させることにより前記有機ハロゲン化合物を濃縮する濃縮工程と、
前記濃縮工程後の活性炭と前記発光細菌の菌体溶液を混合することにより前記有機ハロゲン化合物と前記発光細菌とを接触させて前記試料液中に含有される有機ハロゲン化合物の濃度を測定する測定工程と、を備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物の簡易測定方法。
【請求項2】
前記有機ハロゲン化合物はポリ塩化ビフェニル(PCB)であることを特徴とする請求項1の有機ハロゲン化合物の簡易測定方法。
【請求項3】
前記濃縮工程では、前記測定工程における菌体溶液の発光細菌濃度が5000〜40000CFU/菌体溶液mLになるように、前記試料液と前記活性炭とを混合して濃縮することを特徴とする請求項1又は2の有機ハロゲン化合物の簡易測定方法。
【請求項4】
前記測定工程で前記活性炭と接触させる前記菌体溶液の所定体積量を1としたときに、活性炭の体積量が1/100以上、1/20以下になるように、前記濃縮工程で前記試料液と混合する活性炭の体積量を調整することを特徴とする請求項3の有機ハロゲン化合物の簡易測定方法。
【請求項5】
前記濃縮工程では、前記活性炭の平均粒子径が0.001〜0.1mm範囲のものを使用することを特徴とする請求項1〜4の何れか1の有機ハロゲン化合物の簡易測定方法。
【請求項6】
前記簡易測定方法によって、土壌又は地下水に含まれる有機ハロゲン化合物をオンサイトで測定することを特徴とする請求項1〜5の何れか1の有機ハロゲン化合物の簡易測定方法。
【請求項7】
発光細菌に有機ハロゲン化合物を接触させたときの発光量の減少を利用して、試料液中の有機ハロゲン化合物を測定する有機ハロゲン化合物の簡易測定装置において、
前記試料液と活性炭とを混合して、前記試料液中の有機ハロゲン化合物を前記活性炭に吸着させることにより前記有機ハロゲン化合物を濃縮する濃縮装置と、
前記濃縮装置で処理後の活性炭と前記発光細菌の菌体溶液を混合することにより前記有機ハロゲン化合物と前記発光細菌とを接触させて前記有機ハロゲン化合物を測定する測定装置と、を備えたことを特徴とする有機ハロゲン化合物の簡易測定装置。
【請求項8】
発光細菌に有機ハロゲン化合物を接触させたときの発光量の減少を利用して、試料液中の有機ハロゲン化合物を測定する有機ハロゲン化合物の簡易測定装置において、
前記試料液を注入する試料注入部と、
活性炭を注入する活性炭注入部と、
前記発光細菌の菌体溶液を注入する菌体注入部と、
前記注入された試料液と活性炭とを混合して試料液中の有機ハロゲン化合物を活性炭に吸着する濃縮部と、
前記有機ハロゲン化合物が吸着された活性炭と前記注入された菌体溶液とを接触させて有機ハロゲン化合物を測定する測定部と、が、一体的に設けられたことを特徴とする有機ハロゲン化合物の簡易測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−71938(P2010−71938A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242577(P2008−242577)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】