説明

有機ポリマーでコーティングした無機一体成形品

本発明は、表面が物理吸着または化学吸着された有機ポリマーでコーティングされた無機一体成形品およびこのタイプの材料の製造方法に関する。本発明の材料は、クロマトグラフィー用、とくに生体材料の高圧液体クロマトグラフィー用吸着剤として非常に好適である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、表面が物理吸着または化学吸着された有機ポリマーでコーティングされた無機一体成形品およびこのタイプの材料の製造方法に関する。本発明の材料は、クロマトグラフィー用、とくに生体材料の高圧液体クロマトグラフィー用吸着剤として非常に好適である。
【0002】
タンパク質、核酸などの生体材料の分離または精製に用いられるクロマトグラフの担体材料または吸着剤は、良好な分離特性に加えて、高いアルカリ安定性を有していなくてはならない。その理由はとくに、吸着剤が受ける特殊な洗浄および滅菌方法にある。
【0003】
例えば、いわゆる定置洗浄法において、吸着剤をカラム容量に応じて10分間〜3時間に亘って1M 水酸化ナトリウム溶液で処理する。微生物の汚染を防止するため、担体材料は長期貯蔵のために、0.1M 水酸化ナトリウム溶液中に貯蔵される。担体材料の全てがこのような条件下で安定なわけではない。例えば、二酸化ケイ素系の無機担体材料は、しばしば前記条件下で十分に安定ではない。
【0004】
この理由のため、デキストラン、アガロース、セルロース、ポリスチレンまたはメタクリレートエステルなどの有機ポリマー、またはかかる有機ポリマーでコーティングした無機粒子材料が、バイオクロマトグラフィーの担体材料として頻繁に用いられている。
【0005】
ポリマーコーティング無機粒子の例は、例えば、US 4,308,254またはUS 5,271,833において挙げられる。US 4,308,254は、例えば、ポリサッカライドポリマーでコーティングした、シリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムまたは酸化チタンから作られた無機多孔性粒子を開示している。US 5,271,833は、有機ポリマーによって囲まれた無機酸化物粒子を開示している。
【0006】
純粋な有機ポリマーの欠点は、しばしば好ましくない孔構造および、結果としての不適当な比表面積である。加えて、架橋程度の低いポリマーは、とくに、ある溶媒中で大幅に膨れる。
【0007】
ポリマーコーティング粒子において、これらの欠点は、安定した無機コアによってある程度克服できるに過ぎない。とくに、十分に高い分離効率を保証するためには、通常、相当小さな粒子を用いなければならず、これは、カラム背圧の顕著な増大をもたらす。とくに高圧で粒子は、比較的緊密に密集する。可撓性ポリマー層は、この方法で、とくに不撓性の無機コアによって顕著に変形し、破壊する場合もある。このことは、当然、カラムの分離効率および耐用年数の顕著な減少をもたらす。
【0008】
さらなるアプローチは、DE 199 29 073に開示されている。ここで、多孔性無機ロッドの孔は、相互に連結した球形の粒子を含むポリマー相で完全に満たされている。孔がポリマーで完全に満たされた成形品は、比較的製造するのが容易であるが、しかしポリマー球で完全に満たされた孔により、該成形品はクロマトグラフの適用には中程度の適合性しか示さない。一方で、一体品のチャネル中のポリマー球は、当然、直接カラムに充填されるポリマー球と同じ特性を有しており、したがって、同じ欠点を有する。他方で、相対的に小さなチャネルがとくに完全に塞がれるという顕著な危険が存在し、したがって不均一な圧力条件が一体品に生じ、再び分離特性の障害をもたらす。
【0009】
今回、前述の欠点をポリマーコーティング無機一体成形品の使用によって克服しうることを見出した。このために、多孔性無機一体成形品を有機ポリマーのコーティングで均一に被覆する。一体品材料の所定の硬い構造は、高圧であってさえ、吸着剤の変形または破壊を防ぐ。加えて、無機成形品の孔構造およびコーティング方法の好適な選択によって、高流速であってさえ、中程度のカラム背圧しか示さない吸着剤の製造が可能になる。
【0010】
したがって本発明は、少なくとも1つの有機ポリマーでコーティングされた多孔性無機一体成形品に関する。
好ましい態様において、多孔性無機一体成形品はSiOに基づく材料である。
とくに好ましい態様において、多孔性無機一体成形品は、2〜100nmの直径を有するメソポア(mesopores)および0.1μmより大きい平均直径を有するマクロポア(macropores)を備えた双峰性孔構造(bimodal pore structure)を有する。
【0011】
さらに好ましい態様において、有機ポリマーは、ポリスチレンまたはポリ(メタ)アクリレートおよび、例えばポリ(メタ)アクリルアミド誘導体などの他のポリ(メタ)アクリル酸誘導体である。
好ましい態様において、有機ポリマーは、無機成形品に物理吸着(physisorbed)されている。
【0012】
本発明はさらに、少なくとも1つの有機ポリマーでコーティングした多孔性無機一体成形品の製造方法であって、以下の製造工程:
a)多孔性無機一体成形品を供給する工程
b)工程a)からの多孔性無機一体成形品を、少なくとも有機プレポリマーまたはモノマーおよび/またはオリゴマーを含むコーティング溶液で含浸する工程
c)前記成形品をコーティングする工程であって、コーティングの間、該成形品が少なくとも長手側が不活性材料で不浸透性になるように被覆されているかまたは不活性溶媒に貯蔵されている工程、
d)反応残渣および溶媒の除去のための、工程c)からの成形品を洗浄および乾燥する工程
を有する、前記製造方法に関する。
【0013】
好ましい態様では、工程c)において、プレポリマーまたはモノマーおよび/またはオリゴマーが、コーティング溶液から無機成形品へ凝結する。
とくに好ましい態様において、凝結は、温度を下げることによって行われる。
【0014】
本発明はまた、本発明の成形品の、少なくとも2つの物質のクロマトグラフ分離、とくに生体材料の分離および/または精製への使用にも関する。
【0015】
本発明の目的のため、成形品は、とくにクロマトグラフ分離用単品として用いることができ、粒子のようにカラムに多量に導入することのない成形品である。とくにこれらは平板状または円柱状の成形品である。平板状の成形品は、溶出液の通流方向に直交するその最も大きい寸法を有する。とくに好ましくは、溶出液が流れる軸に沿って等しい長さまたはより長い寸法を有する、円柱状の成形品である。成形品のサイズおよび寸法は、クロマトグラフィーで用いられる通常の寸法に対応する。平板状の成形品は典型的には、0.2〜20μmの厚さを有し、円柱状の成形品は典型的には、0.1cm〜5cmの直径および1〜30cmの長さ(最長寸法)を有する。予備的分離のため、規定の寸法は既知のカラム寸法に対応して超過され得る。小型化された適用のため、規定の寸法は、キャピラリーの範囲まで縮小され得る。
【0016】
多孔性無機一体成形品は、典型的には、酸化アルミニウム、二酸化チタンまたは好ましくは二酸化ケイ素などの無機酸化物からなる。
【0017】
クロマトグラフ吸着剤としての本発明のコーティング成形品の適合性について主として重要なことは、無機成形品の孔構造である。一方で、それは、どのように均一にポリマーコーティングが成形品に適用し得るかに影響する。他方で、それは、コーティング成形品の分離効率およびカラム背圧(back pressure)に影響する。本発明の好適な成形品は少なくとも、コーティング後でさえも成形品を通じて、なお流れを容易にする孔を有する。したがって好ましくは、少なくともマクロポアを有する材料である。
【0018】
双峰性孔分布を有する材料、すなわち、マクロポアおよびメソポアの両方を有する成形品は、とくに有利であることが示された。付加的なメソポアによって、低い液体の反対圧力を受ける、より大きな表面積が可能になる。
【0019】
したがって本発明においてとくに好ましいのは、0.1μmより大きい平均直径を有するマクロポアおよびマクロポアの壁の中にあるメソポア(ここでメソポアは2〜100nmの直径を有する)を有する多孔性無機一体成形品の使用である。このタイプの材料は、例えば、WO 95/03256に準ずるゾル−ゲル法およびとくに好ましくはWO 98/29350に準じて製造し得る。
【0020】
成形品をコーティングするのに好適な有機ポリマーは、オリゴマーおよび/もしくはポリマーとして成形品に適用可能な有機材料または重合もしくは重縮合によって成形品に適用される有機オリゴマーおよび/もしくはモノマーである。有機ポリマーは、成形品に化学吸着または物理吸着され得る。
【0021】
好適な有機ポリマーは、例えば、ポリスチレン、ポリメタクリレート、メラミン、ポリサッカライド、ポリシロキサンおよびそれらの誘導体または、例えば、テトラアルコキシシランおよびメチルトリアルコキシシランのコーティングなどの2種または3種以上の好適な化合物のコポリマーである。また好適であるのは、例えば、ポリスチレンとイオン交換基を担持する化合物とのコポリマーなどの、前記物質とクロマトグラフィーに好適な分離エフェクターを担持する化合物とのコポリマーである。好ましいものとして、化学吸着または物理吸着されたポリスチレンまたはポリスチレン誘導体が挙げられ、とくに好ましくは、物理吸着されたポリ(メタ)アクリレートまたはポリ(メタ)アクリレート誘導体ならびに例えば、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体などの他のポリ(メタ)アクリル酸誘導体である。これらには、とくに、ポリ(メタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよびエチルメタクリレートのコポリマーまたはポリ(オクタデシルメタクリレート)が含まれる。
【0022】
ポリマーコーティングは、本発明にしたがって、種々の方法:
1)無機成形品への共有結合の形成を伴わない物理吸着モノマーおよび/またはオリゴマーの重合または重縮合によるもの、
2)無機成形品への共有結合の形成を伴う物理吸着モノマーおよび/またはオリゴマーの重合または重縮合によるもの、
3)無機成形品への結合の形成を伴わないプレポリマーの固定化(物理吸着)によるもの、
4)無機成形品でのプレポリマーの化学吸着によるもの、
によりなし得る。
【0023】
したがって、成形品の本発明によるコーティングのために用いられる溶液は、有機プレポリマーまたはモノマーおよび/もしくはオリゴマーを含む。加えて、それは、典型的には、好適な溶媒および、任意に、例えば、フリーラジカルイニシエーターなどのさらなる構成物を含む。本発明に従い、これをコーティング溶液と呼ぶ。
【0024】
本明細書でプレポリマーは、成形品へ導入後、さらに何ら重合することがない、即ち、互いにさらに架橋することがない、既にオリゴマー化および/またはポリマー化した化合物を意味する。適用の性質に応じて、成形品へ吸着させるか(物理吸着)または成形品と共有結合させる(化学吸着)。
【0025】
対照的に、モノマーおよび/またはオリゴマーは、重合または重縮合に適し、成形品へ導入後、さらなる重合または重縮合によって架橋または重合化される化合物である。ここでオリゴマーは、既にモノマーの架橋または重合によって、予め生成された化合物である。
【0026】
粒子をコーティングする方法が、一体成形品のコーティングにはあまり適用し難いことが見出された。この理由は、とくに、成形品の内部の乏しいアクセス可能性にある。良好なクロマトグラフ分離特性を有するコーティング成形品を製造するために、成形品のコーティングは、厚さおよび化学組成に関して、成形品全体に亘って均一でなければならない。本発明の成形品は有機ポリマーで完全に満たされないので、成形品の内部でのコーティングの分配は、成形品の孔の閉塞を避けるために、できるだけ制御されなければならないか、または、連結した孔を形成するポロゲン(porogen)を有機ポリマーへ添加しなければならない。
【0027】
粒子のコーティングの方法は、しばしば、ポリマー溶液またはモノマーおよびフリーラジカルイニシエーターの溶液の適用を含む。溶媒は、後に除去される。この方法は、成形品のコーティングには適用できない。一体成形品の乾燥の間に、溶媒の蒸発処理は、比較的小さな表面(一体品の外表面)で行われる。乾燥によって、ポリマー溶液が成形品の内部から絶え間なく引き出され(吸い取り紙効果;毛管作用)、均一なコーティングの生成を事実上不可能にする。
【0028】
本発明によれば、改善された特性、とくに、例えばアルカリ溶液に対する改善された安定性を有するコーティングした成形品が得られる。このように改善されたコーティング成形品の製造のための好適なコーティング方法は、コーティング溶液が成形品に導入され、そしてポリマーコーティングの化学吸着または物理吸着が、コーティング溶液の溶媒を予め除去することなしに行われるものである。溶媒は、化学吸着または物理吸着が完了した後に除かれるだけである。
【0029】
好適な方法は、とくに、モノマーおよび/またはオリゴマーの重合または重縮合が、溶媒の存在下で行うことができるものであるか、または、好ましくは、プレポリマーまたはモノマーおよび/もしくはオリゴマーが溶媒から成形品へ凝結され得る方法である。
【0030】
両方の場合において、さらに、成形品のコーティングが成形品の外壁に過剰に厚いポリマーコーティングをもたらさないことが保証されるべきである。クロマトグラフィーに用いるための成形品は、一般的に、カラムの被覆によって液密に囲まなくてはならず、溶出液の送り込みと放出のための連結が与えられなければならないので、外壁の厚さおよび場合によっては不規則なコーティングによって、被覆することが極めてより困難になる。一般的に、外壁のコーティングは最初に除去されなければならない。これは順次成形品の外壁を傷めるかもしれない。
【0031】
したがって、成形品のコーティングは、好ましくは、本発明により、既に、成形品の少なくとも長手側をしっかりと囲む被覆の中で行われる。被覆は、コーティングに関与する試薬および溶媒に不活性であるべきである。コーティング溶液は、次いで好ましくは、クロマトグラフィーカラムへと同様に、適当な連結を介して被覆された成形品へ送り込むことができる。
【0032】
コーティング用の不活性溶剤に被覆していない成形品を導入することによって、まったく同様にコーティングを行うことができる。この方法において、最初に成形品をコーティング溶液に含浸させる。続いて、コーティングを行うために不活性溶液へできるだけ完全に浸ける。この場合において、不活性とは、溶媒が重合または重縮合に関与しないことを意味する。
【0033】
本発明による方法を行うために、適切である場合、有機ポリマーコーティングの物理吸着または化学吸着に必要な官能基を無機材料の表面に提供するため、コーティング溶液で満たす前に成形品を化学的に修飾することが必要かもしれない。好適な方法は、吸着剤の分野の当業者に知られている。官能基の導入のための好適な反応は、原則として、分離エフェクターのクロマトグラフ担持材料への導入のためにも用いられているものである。SiOを基礎とする成形品のため、特に、これは好適に官能化されたシランとの反応である。シランは、例えば、モノマーおよび/またはオリゴマーのグラフト重合の際に、成形品と共有結合するのを容易にする重合可能な基を有することができる。このタイプの官能性を導入する方法は、例えば、WO 94/19687に開示されている。
【0034】
まさに同様に、成形品の均一なコーティングのため、成形品のコーティング溶液での含浸の前に、特に成形品への共有結合によって、成形品の表面に好適なフリーラジカルイニシエーターを均一に分配するのが有利であり得る。
【0035】
有機ポリマーでの無機成形品のコーティングのため、成形品を最初にコーティング溶液で含浸する。これは例えば、成形品を対応する溶液に浸けることによって、または被覆した成形品の場合、コーティング溶液をそれに通し、またはその上に送り込むことによって行うことができる。
【0036】
次いで、成形品のコーティングは、コーティング溶液の性質に応じて行われる。コーティング溶液がプレポリマーを含む場合、これらを好適な条件下で成形品に凝結する。プレポリマーの化学吸着が目的の場合、これは例えば、温度を上げること、温度を下げること、照射または成形品とプレポリマーとの間の化学反応を開始する試薬を添加することによって行うことができる。
【0037】
均一なコーティングの生成のために特に有利であることが示された変法は、溶解度積を下げるように溶解度を減少させることによって、好ましくは温度を下げることによって、プレポリマーがコーティング溶液から凝結するものである。温度の顕著な減少によって、過飽和溶液の形成が起こり、これによりプレポリマーが成形品に一様に堆積する。これらの変法において、凝結の割合は、例えば、温度変化率によって制御できる。
【0038】
コーティング溶液に不溶性で、したがって懸濁液として適用されるプレポリマーの場合、温度の増大もまた、適切な場合には、成形品の一様なコーティングに効果をあげることができ、特に、温度の増加によってポリマーが溶け、その結果として成形品の表面に堆積する場合に効果をあげることができる。
プレポリマーが成形品に共有結合する場合、該結合は、凝結の後に、照射、反応イニシエーターの添加などの、好適な開始を介して開始され得る。
【0039】
加えて、複数のポリマー層を、異なったものでさえ、続いて成形品に適用することは可能である。
コーティングの完了後、未反応モノマーまたは非吸着ポリマーなどの反応残渣を除去するために、成形品を適当な溶媒で十分にリンスする。
コーティングした成形品を次いで、好ましくは減圧下で、乾燥する。
【0040】
本発明によりコーティングされた成形品は、直接、クロマトグラフ分離に用いるか、または最初に、分離エフェクターで官能化することができる。これらは例えば、イオン性基、疎水性基、キレート基またはキラル基である。このタイプの官能性の導入のための方法は、クロマトグラフ担持材料の分野の当業者および関連の教科書、例えば、Handbuch der HPLC(HPLCのハンドブック), Ed. K.K. Unger; GIT-Verlag (1989)およびPorous Silica, K.K. Unger, Elsevier Scientific Publishing Company (1979)において知られている。
【0041】
本発明の成形品は、塩基安定な有機ポリマーの使用における良好な塩基安定性によって区別され、および同時に良好な分離効率および低カラム背圧を示すので、特にバイオクロマトグラフィーに好適である。
【0042】
さらに、本発明によりコーティングされた成形品は、例えば、酵素などの生体触媒などの触媒の固定化のための固相として用いることができる。好適に官能化された成形品はまた、通気合成(through-flow synthesis)のための共反応剤として用い得る。
【0043】
さらなるコメントがなくても、当業者は最も広い範囲で上記の記載を利用することができるであろう。したがって、好ましい態様および例は、単に絶対的になんら限定されない記述的開示であるとみなされるべきである。
【0044】
本明細書中で言及された全ての出願、特許および刊行物の、および対応する出願、2002年10月31日出願のEP 02024250.9、2002年10月31日出願のEP 02024251.7の完全な開示内容は、参照として本出願に組み込まれる。
【0045】

例1:本発明によるポリマーコーティング成形品とC18−官能化成形品の特性の比較
1.1 標準のC18修飾を有する一体品の製造
クロマトグラフィーにおいてシリカゲル表面をマスキングする通常の方法は、疎水性シランとの反応による表面修飾である。この目的のため、比表面積300m/gおよび孔体積1ml/gを有する6個のよく乾燥した(減圧下、100℃)多孔シリカ一体成形品(WO 98/29350に準じて製造;長さ15cm)を、トルエン100mlおよびオクタデシルジメチルクロロシラン15mlの反応混合物の中に置いた。成形品から空気を除去するために、反応混合物を抜き、そして窒素で再爆気した。
【0046】
反応は、24時間、110℃の加熱により行った。反応時間後、成形品を取り出し、トルエン抽出により未反応シランを除去した。減圧下、100℃での乾燥の後、20%の重量の増加が観察された。
元素分析の測定では、炭素16.2%の含量であった。
【0047】
1.2 スチレン/ジビニルベンゼンのポリマーコーティングを有する成形品の製造
成形品(1.1の出発材料と同じ)のシリカゲル表面のコーティングは、スチレンおよびジビニルベンゼンの混合物の重合によって行った。このため最初に、トルエン50ml中、アゾイソブチロニトリル0.5gを含むスチレン12gおよびジビニルベンゼン6gのモノマー混合物を調製した。
比表面積300m/gおよび孔体積1ml/gを有し、長さ15cmの6個のよく乾燥した(減圧下、100℃)シリカ成形品を反応混合物の中に置いた。成形品から空気を除去するために、反応混合物を抜き、そして窒素で再爆気した。
【0048】
重合のため、次いで含浸させたロッドを80℃に予め加熱した未使用のトルエンを含む反応装置に置いた。この理由は、成形品の外部のポリマー層および/または溶液のポリマーが、洗浄をより困難にし、後の安定性調査を歪めさせないように、コーティング溶液だけが成形品の内部の反応にもたらされるべきであるためである。80℃で5時間後、成形品を取り出し、トルエン抽出により、未反応モノマーおよび非吸着ポリマーを除去した。減圧下、100℃での乾燥後、6%の重量増加が観察された。
元素分析の測定では、炭素5.5%の含量であった。
【0049】
1.3 スチレン/ジビニルベンゼンによる重合可能な官能性を有する被覆された成形品の反応
シリカゲル表面のコーティングは、この場合、スチレンおよびジビニルベンゼンの混合物のin-situ重合によって行った。ポリマーを共有結合できるように、成形品を最初にトルエンおよびメタクリルオキシプロピルトリメトキシシランの混合物と反応させた。
【0050】
比表面積300m/gおよび孔体積1ml/gを有するPEEK(WO 98/29350に準じて製造)で予め被覆した長さ10cmのよく乾燥した成形品をHPLCオーブン中、80℃で整えた。トルエン20gおよびメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン2gの混合物を、0.5ml/分の流速で成形品に通し、続いてトルエンで濯いだ。
トルエン50ml中、アゾイソブチロニトリル0.5gを含むスチレン6gおよびジビニルベンゼン3gのモノマー混合物を続いて調製した。HPLCオーブン中、80℃で整えた成形品に、0.5ml/分の流速で予め脱気した反応混合物を通した。未反応モノマーおよび非吸着ポリマーを除去するため、続いて成形品を80℃でトルエン50mlで濯いだ。減圧下、100℃で乾燥後、10%の重量増加が観察された。
元素分析の測定では、炭素9.3%の含量であった。
【0051】
1.4 ポリマー層の安定性試験
A)静的試験
シリカゲル表面のマスキングを試験し、ポリマーコーティングの一様性と不透過性を調査するため、成形品を水酸化ナトリウム溶液処理に供した。シリカゲルは水酸化ナトリウム溶液に高い溶解性を有するので、担持材料が攻撃され、溶解された場合、表面被覆率は低減するはずである。
【0052】
試験のため、成形品を、水1l中、NaOH 4gの溶液(0.1N水酸化ナトリウム溶液)100ml中に置き、そしてサンプルを調査のために、1時間後、5時間後および24時間後に回収した。サンプルから、水による徹底的な抽出により、可溶性成分および残留水酸化ナトリウム溶液を除去した。続いて成形品を、もはや吸着しないポリマー成分を除去するために、最初にメタノールで、次いでトルエンで抽出した。
得られたサンプルを乾燥し、元素分析により調査した。比較として、1N水酸化ナトリウム溶液でも実験を行った。
【0053】
B)動的試験
追加として、水1l中、NaOH 4gの溶液(0.1N水酸化ナトリウム溶液)を流速0.2ml/分で24時間、PEEK被覆成形品に通し、後者を水、メタノールおよびトルエンで濯いで洗浄した。
【0054】
C)試験の結果
表1は、成形品の残存する炭素含有量または種々の時間の水酸化ナトリウム溶液での処理後の成形品の状態を示す:
FK1:C18−官能化成形品(1.1参照)
FK2:トルエン中、スチレン/ジビニルベンゼンでコーティングした成形品(1.2参照)
FK3:被覆中、スチレン/ジビニルベンゼンでコーティングした成形品(1.3参照)−成形品は炭素含有量の決定のために、被覆をはずさなくてはならなかったので、1つの値だけが決定できた。
【表1】

【0055】
C18−官能化成形品が、相当な量の重量、およびしたがって炭素修飾をも水酸化ナトリウム溶液中に失い、そして場合によって、破壊されるか、または完全に溶解されさえすることが観察された。対照的に、ポリマーコーティングサンプルは、水酸化ナトリウム溶液に対し良好な安定性を示した。実験によって、ポリマーでの無機一体品のコーティングによって、新規な、改善された特性を有する材料が得られることが示された。
【0056】
アルカリ溶液中の安定性試験は、ポリマーコーティングによる成形品の封入が示されることを可能にする。しかしながら、また、水酸化ナトリウム溶液に不安定なポリマーによるコーティングを用いることもまた適用によっては全く適切である。
例えば、親水性ポリマーまたはポリサッカライドでの生体適合性表面の作製もまた、ここで考慮されるべきである。
また、例は、他の無機担持でのポリマーの調製を限定するものではない。
【0057】
1.5 BET調査
コーティングした成形品のFK2は、比表面積および孔体積の測定によって特徴付けられる。表面積280m/gおよび孔体積0.92ml/gがここで得られた。
この結果は、成形品の孔が、「ポリマー化(polymerised up)」、即ちブロックされなかったが、しかし、代わりに一様な層が表面に形成されたことを示す。したがって成形品の孔は、完全にポリマーで満たされるのではない。したがって、アクセス可能な孔のスペースが本発明のコーティングされた一体品に残される。
【0058】
例2:プレポリマーの凝結によるコーティングされた外来物の製造
2.1 合成
以下の反応は、図1に記載の装置で行った。成形品(1)は、圧安定性被覆(2)で囲まれている。コーティング溶液ならびにさらなる洗浄溶液などを、コンテナ(3)で予め混合し、ポンプ(4)によって、圧力容器(5)を介して、耐圧鋼で作られた受け入れコンテナ(6)へ、そしてそこから成形品(1)を通して廃棄コンテナ(7)へ送り込む。
【0059】
最初に、成形品(Chromolith(登録商標)、Merck KGaA、Darmstadt、材料SiO2;内径ID=4.6mm;長さL=25mm)を、用いた溶媒のDMFで調整した。したがって出発材料は、完全に溶媒に含浸した成形品である。
【0060】
ジメチルホルムアミド(DMF;p.a.)中、ポリ(メタクリレート)溶液(濃度c=10mgml−1)を含むコーティング溶液を調製し、受け入れコンテナ(6)に導入した。圧力は、HPLCポンプ(Bischoff brand)によって、部分的に空気で満たされた圧力容器(5)において発生し、コーティング溶液は成形品へ強制的に送られた。空気が、圧力プロモーター(エアクッション)として機能するので、ポリマーの濃度がこの方法において一定のままであることが保証される。ここで適用される圧力は、流速1mlmin−1で、〜0.4barである。
【0061】
成形品に現在存在する溶液の体積V=約0.33mlである。3mlが流れた後、成形品を取り出し、ねじ込み式連結でしっかりとシールし、続いて、40分間、−55℃(メタノール/ドライアイス)の温度に保つように調製した冷浴に導入した。次いで、40℃で1torr、12時間、真空ラインで溶媒を除去した。
【0062】
同様にして、ポリ(メタクリレート)〔PEMA〕の代わりに、例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)〔P2HEMA〕、2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよびエチルメタクリレートのコポリマー〔P2HE.−E〕またはポリ(オクタデシルメタクリレート)〔POMA〕でコーティングを行うことができる。
圧縮ガスを有するコンテナ、例えば、窒素ボンベも、HPLCポンプの代わりに圧力発生に用いることができる。
【0063】
2.2 炭素含量および形態
元素分析で測定した、コーティングした成形品の炭素含量を表2に示す。
【表2】

【0064】
走査型電子顕微鏡像(SEM)によって、形態に関し、コーティングした成形品とコーティングしていない成形品との間に違いがないことが示された。成形品のマクロポア構造は保持されていた。図2は、コーティングしていない成形品(Chromolith(登録商標)、Merck KGaA製)のSEM写真(図2A)および2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよびエチルメタクリレートのコポリマーでコーティングした成形品のもの(図2B)との比較を示す。
【0065】
2.3 クロマトグラフ性状
クロマトグラフ試験の前に、すでにポリ(メタクリレート)でコーティングした成形品を、移動相でさらに1時間、1mlmin−1で調整した。
【0066】
クロマトグラフ調査のため、3つの選択したタンパク質:リゾチーム、シトクロムC、ミオグロビン(LCM試験混合物)を試験混合物として用いた。該タンパク質を、トリフルオロ酢酸(TFA)を添加せずに水に溶解した。用いた移動相は、勾配モードでTFAを添加した有機/水溶出液であった:
流速:1ml/分;検出:215nm、400nm;
室温
注入体積:5μl
95/5%(v/v)A/Bから5/95%(v/v)A/Bまで5分間
A:水+0.1%TFA
B:アセトニトリル+0.09%TFA
【0067】
反対圧力は、ポリ(メタクリレート)コーティング成形品に対して約20barであり、コーティングしていない成形品(Chromolith(登録商標))に対して約30barであった。
得られたクロマトグラムは、タンパク質混合物の溶出プロフィールが、予測どおり、コーティングの疎水性に依存して変化したことを示した。分離効率および低いカラム背圧は、クロマトグラフィー用吸着剤としての、本発明による材料の良好な適合性を確認するものである。
【0068】
例3:化学吸着によるコーティングされた外来物の製造
イニシエーターとしてのアゾ誘導体を、例2.1の装置において、一体成形品(Chromolith(登録商標)Si、Merck KGaA、Darmstadt、材料SiO;内径ID=4.6mm;長さL=25mm)と共有結合し、続いてモノマーをポリマー化した。
【0069】
3.1 p−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシランのシリカゲル表面とのカップリング
p−(クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン3.95g(16.04mmol)と乾燥テトラヒドロフラン(THF;p.a.)25mlとの混合物を調製した。一体品を、乾燥テトラヒドロフラン(THF)で調整した。次いで、前記混合物を窒素(HSOで乾燥)で処理し、受け入れコンテナへ導入した。圧力は、HPLCポンプ(Bischoff brand)によって、空気で満たされた圧力容器内で発生し、こうして溶液を一体品へ強制的に送った。続いて、一体品を取り出し、ねじ込み式連結でしっかりとシールし、室温で35時間、垂直に立てておいた。処理した一体品は、次いで、THFで、そして続いてメタノールで洗浄した。
元素分析によって、炭素含量%C:〜2.87%を得た。
【0070】
3.2 4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)(ACPA)のシラン誘導体化一体品とのカップリング
3.1によりシランで誘導体化した一体品を乾燥トルエンで調整した。4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)(ACPA)3.63g(10.66mmol)、α−ピコリン5.40gおよび乾燥トルエン15mlの溶液を次いで窒素(HSOで乾燥)で処理し、受け入れコンテナに導入した。圧力は、HPLCポンプ(Bischoff brand)によって、空気で満たされた圧力容器内で発生し、こうして溶液をシラン誘導体化一体品へ強制的に送った。続いて、一体品を取り出し、ねじ込み式連結でしっかりとシールし、50℃のオーブン中、11時間垂直に置き、そこで一体品は良好な熱による密着を有した。反応が完了したとき、一体品をトルエンで、そして続いてメタノールで洗浄した。
元素分析によって、炭素含量%C:〜4.64%を得た。
【0071】
3.エチルメタクリレートでの熱重合
アゾイニシエーターで誘導体化された一体品を乾燥トルエンで調整した。エチルメタクリレート(EMA)1.86g(15mmol)、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA)0.30g(1.5mmol)および乾燥トルエン15mlの溶液を、次いで窒素(HSOで乾燥)で処理し、受け入れコンテナに導入した。圧力は、HPLCポンプ(Bischoff brand)によって、空気で満たされた圧力容器内で発生し、こうして溶液をアゾイニシエーターとカップリングした一体品へ強制的に送った。続いて、一体品を取り出し、ねじ込み式連結でしっかりとシールし、90℃のオーブン中、4時間垂直に置き、そこで一体品は良好な熱による密着を有した。反応が完了したとき、一体品をトルエンで、そして続いてメタノールで洗浄した。
元素分析によって、炭素含量%C:〜12.16%を得た。
製品の炭素含量は、用いた反応剤の濃度を変えることによって、影響を受ける可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】成形品を製造するための反応を行う装置を示した図である。
【図2】コーティングしていない成形品(Chromolith(登録商標)、Merck KGaA製)のSEM写真(図2A)および2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよびエチルメタクリレートのコポリマーでコーティングした成形品のSEM写真(図2B)との比較を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの有機ポリマーでコーティングされた多孔性無機一体成形品からなる成形品。
【請求項2】
多孔性無機一体成形品がSiOからなることを特徴とする、請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
多孔性無機一体成形品が、2〜100nmの直径を有するメソポアおよび0.1μmより大きい平均直径を有するマクロポアを備えた双峰性孔構造を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の成形品。
【請求項4】
有機ポリマーが、ポリスチレンおよび/またはポリメタクリレートであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の成形品。
【請求項5】
有機ポリマーが、無機成形品に物理吸着されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の成形品。
【請求項6】
a)多孔性無機一体成形品を供給する工程
b)工程a)からの多孔性無機一体成形品を、少なくとも有機プレポリマーまたは有機モノマーおよび/またはオリゴマーを含むコーティング溶液で含浸する工程
c)前記成形品をコーティングする工程であって、コーティングの間、該成形品が少なくとも長手側が不活性材料で不浸透性になるように被覆されているかまたは不活性溶媒に貯蔵されている工程、
d)反応残渣および溶媒の除去のための、工程c)から得た成形品を洗浄および乾燥する工程
による、少なくとも1つの有機ポリマーでコーティングした多孔性無機一体成形品の製造方法。
【請求項7】
工程c)において、プレポリマーまたはモノマーおよび/またはオリゴマーが、コーティング溶液から無機成形品へ凝結することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
凝結が、温度を下げることによって行われることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の成形品の、少なくとも2つの物質のクロマトグラフ分離への使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−504515(P2006−504515A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−547532(P2004−547532)
【出願日】平成15年10月21日(2003.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011612
【国際公開番号】WO2004/039495
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】