説明

有機光電変換素子及びその製造方法

【課題】太陽光スペクトルにマッチした分光吸収特性を有する有機光電変換素子を、より低価格で、よりエネルギー変換効率の高い有機光電変換素子として提供する。
【解決手段】第1の電極12と第2の電極16との間に少なくとも光電変換層14と電荷輸送層13,15とを積層して成る有機光電変換素子において、光電変換層がポルフィリン誘導体、若しくはアザポルフィリン誘導体から選ばれる少なくとも2種以上の材料を含有することを特徴とする有機光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機光電変換素子材料に関し、特に有機半導体材料としてポルフィリン誘導体、若しくはアザポリフィリン誘導体を用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機太陽電池は塗布法で形成できることから大量生産に適した太陽電池として注目され、多くの研究機関で盛んに研究がなされている。有機太陽電池は有機ドナー材料と有機アクセプター材料を混合した、所謂、バルクヘテロジャンクション構造によって、課題だった電荷分離効率を向上させている(例えば、特許文献1参照。)。結果としてエネルギー変換効率は5%台まで向上し、一気に実用レベルにまで発展してきた分野と言える。
【0003】
一般的に太陽電池は太陽光スペクトルにマッチした分光吸収特性を有することが好ましい。特許文献2では、より長波長域の太陽光を有効に活用するため、吸収特性を最適化した高分子型半導体材料を示している。しかしながら、この様な高分子材料においては、強い照度の光に対して弱く、素子寿命が短い傾向があり課題であった。
【0004】
一方で低分子顔料を用いた有機太陽電池では非特許文献1で紹介されているように、高い変換効率を得られるものの、真空プロセスで製膜するため、有機太陽電池の高生産性をスポイルしてしまう課題があった。それに対し、特許文献3においては可溶性の前駆体を塗布し、加熱処理によって低分子の半導体膜を得る材料及び製造方法を紹介している。しかし、このような低分子材料は、光の吸収ピークが狭く、短波長域には吸収の谷が、長波長域では太陽光スペクトルを十分に活かせていないといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5331183号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/011739号パンフレット
【特許文献3】特開2008−16834号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】応用物理、vol.77(2008),p539
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポルフィリン誘導体、若しくはアザポルフィリン誘導体を用いた有機光電変換素子を、より低価格で、よりエネルギー変換効率の高い有機光電変換素子として提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一般式(2)で示される構造の例示化合物(2)(テトラベンゾポルフィリン構造、TBPとも言う。)は、500〜530nm域に分光感度の谷が存在する。一方、一般式(1)で示した3量体構造では、HOMO準位が深くなるため吸収が短波長であり、4量体と組み合わせることで、吸収の谷部を補間することができる。更に、一般式(3)の5量体では、吸収が長波化するため、長波長域の太陽光を有効に活用できる。このように、太陽光スペクトルと最適にマッチングさせることにより、エネルギー変換効率が向上した有機光電変換素子を得ることができたものである。
【0009】
即ち、本発明は下記の構成により、上記課題を解決することができた。
【0010】
1.第1の電極と第2の電極との間に少なくとも光電変換層と電荷輸送層とを積層して成る有機光電変換素子において、光電変換層が一般式(1)ないし一般式(3)で示される有機半導体材料から選ばれる少なくとも2種以上の材料を含有することを特徴とする有機光電変換素子。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Z〜Z12は、それぞれ独立に、NまたはC(Y)〜C(Y12)を表す。Y〜Y12、R〜R12、R′〜R12′は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良い芳香環基、または置換基を有していても良い炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、M〜Mは2個の水素原子もしくは2価以上のカチオン原子を表し、該カチオン原子が3価以上の場合、更に炭素数20以下のカウンターアニオンを有していても良い。なお、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、R10およびR10′、R11およびR11′、R12およびR12′はそれぞれ結合して環を形成していても良く、該環は更に置換基を有していても良い。)
2.前記一般式(1)ないし一般式(3)で表される有機半導体材料のうち、前記一般式(2)で示される材料の存在比が80モル%以上、98モル%以下であることを特徴とする前記1記載の有機光電変換素子。
【0013】
3.前記1または2に記載の有機光電変換素子の製造方法であって、有機半導体材料が、該有機半導体材料の可溶性前駆体を塗布乾燥し、続く熱処理によって化学変換された有機半導体材料であることを特徴とする有機光電変換素子の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
エネルギー変換効率が高く、且つ安価に、有機半導体材料としてポルフィリン構造、若しくはアザポルフィリン構造を用いた有機光電変換素子及びその製造方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】有機光電変換素子の基本構造の一例の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について説明する。
【0017】
本発明の有機光電変換素子は、第1の電極と第2の電極との間に少なくとも光電変換層と電荷輸送層(以下、「電荷輸送層」とは「正孔輸送層」及び「電子輸送層」を総じて呼ぶものである。)とを積層してなる有機光電変換素子であり、当該光電変換層に前記一般式(1)ないし一般式(3)で示される有機半導体材料から選ばれる少なくとも2種以上の材料を含有することを特徴とする。
【0018】
以下、本発明の構成要素について詳細な説明をする。
【0019】
(本発明の有機光電変換素子の基本構造)
本発明の有機光電変換素子は、第1の電極と第2の電極との間に少なくとも光電変換層と電荷輸送層とを積層してなる有機光電変換素子であるが、その有機光電変換素子の基本構造の一例の概略断面図を図1に示す。図1において、有機光電変換素子10は、基板11の一方面上に、第1電極12、第1の電荷輸送層13、バルクヘテロジャンクション構造(p型半導体層及びn型半導体層を含む混合により形成されたドメイン構造)を有する光電変換層14(以下「バルクヘテロジャンクション層」ともいう。)、第2の電荷輸送層15、及び第2電極16が図1に示すように順次積層された構造からなる。
【0020】
光電変換層14に外部光を入射させるためには、前記基板11及び第1電極12、もしくは第2電極が発電に寄与する光の波長域に対して実質透明であることが好ましい。基板11と第1電極が透明で、且つ第2電極が第1電極側から入射して、光電変換層14を透過してきた光を反射させる構成であることがより好ましい。また、基板11及び第1電極、第2電極が共に透明である構成も、本発明において好ましく用いることができる。
【0021】
第1電極が正極である場合は、正孔と電子からなるフリー電荷の内、正孔を主に取り出す構成のため、上述した第1の電荷輸送層13は正孔輸送層であることが好ましい。同様に、第2電極が陰極である場合は電子を主に取り出す構成のため、第2の電荷輸送層15は電子輸送層であることが好ましい。
【0022】
本発明において、第1の電荷輸送層と第2の電荷輸送層で輸送される電荷は、電子または正孔のどちらでもよく、好ましくは対になる選択をすることがより好ましい。また、本発明の有機光電変換素子は、第1の電荷輸送層と第2の電荷輸送層の少なくともどちらかの層を有していればよく、図1に示されるように、光電変換層14を上下から挟む様な形態で、第1の電荷輸送層、第2の電荷輸送層それぞれを有することがより好ましい。
【0023】
(光電変換層)
光電変換層は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、p型半導体材料とn型半導体材料とを混合したバルクヘテロジャンクション層を有して構成される。p型半導体材料は相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は相対的に電子受容体(アクセプター)として機能する。ここで、電子供与体及び電子受容体は、“光を吸収した際に電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体及び電子受容体”であり、電極のように単に電子を供与あるいは受容するものではなく、光反応によって、電子を供与あるいは受容するものである。
【0024】
(有機半導体材料)
(p型半導体材料)
本発明の有機光電変換素子に用いられるp型有機半導体材料としては、前記一般式(1)ないし一般式(3)で示される有機半導体材料から選ばれる少なくとも2種以上の材料が用いられる。
【0025】
一般式(1)ないし一般式(3)の中で、比較的合成が容易な一般式(2)で示される4量体構造は、3量体構造や、5量体構造に対して、光吸収能とスタック形成による電荷輸送性に最も優れ、2種以上混合した場合も、主には一般式(2)で示される構造を用いることが好ましい。
【0026】
2種以上混合する場合の好ましい混合比としては、一般式(2)で示される材料が50モル%以上、99.5モル%以下含まれることが好ましく、更には75モル%以上、98モル%以下含まれることが好ましい。最も好ましくは、85モル%以上、95モル%以下である。
【0027】
一般式(1)または一般式(3)は、その総量が0.5モル%以上あれば本発明の効果を得ることができ、好ましくは2モル%以上、更に好ましくは5モル%以上混合されることが好ましい。
【0028】
前記一般式(1)ないし一般式(3)中、Z〜Z12は、それぞれ独立に、NまたはC(Y)〜C(Y12)を表す。Y〜Y12、R〜R12、R′〜R12′は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良い芳香環基、または置換基を有していても良い炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、M〜Mは2個の水素原子もしくは2価以上の金属原子を表し、該金属原子が3価以上の場合、更に炭素数20以下のカウンターアニオンを有していても良い。なお、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、R10およびR10′、R11およびR11′、R12およびR12′はそれぞれ結合して環を形成していても良く、該環は更に置換基を有していても良い。
【0029】
尚、C(Y)とは、C(炭素原子)にYが置換した構造を意味する。Y〜Y12はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は置換基を示す。Z〜Z12が窒素原子の場合、アザポルフィリン構造となる。
【0030】
〜R12、R′〜R12′およびY〜Y12はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基等から好ましく選ばれる。
【0031】
ここで、アルキル基とは例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基のような飽和脂肪族炭化水素基であり、直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、アルコキシ基とは例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのエーテル結合を介した脂肪族炭化水素基を示し、脂肪族炭化水素基は無置換でも置換されていてもかまわない。また、アリール基とは例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、ターフェニル基、ピレニル基などの芳香族炭化水素基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。また、ヘテロアリール基とは例えばチエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリニル基、イソキノリル基、キノキサリル基、アクリジニル基、カルバゾリル基などの炭素以外の原子を有する複素芳香環基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。
【0032】
また、一般式(1)ないし一般式(3)で表されるポルフィリン骨格を有する化合物もしくはその金属錯体は、後述するように有機溶媒に溶解させて用いることがあるため、有機溶媒に対する溶解性が高いことが望ましい。このため、置換基R〜R12、R′〜R12のうち少なくとも一つ以上、より好ましくは二つ以上がアルキル基またはアルコキシ基であることが好ましい態様である。
【0033】
〜Mで表される金属原子としては、特に限定されるものではないが、通常用いられる金属原子の一例として、ホウ素、マグネシウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、バナジウム、マンガン、鉛、白金などを挙げることができる。これらの中でも、光起電流を増大させる効果が大きいホウ素、マグネシウム、銅、亜鉛が好ましく用いられる。
【0034】
一般式(1)中、B−Xで示される構造としては、特に限定されるものではないが、例えば、ホウ素、マグネシウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、バナジウム、マンガン、鉛、白金などを含む構造が好ましく、合成の容易性から、更に好ましくはホウ素原子と原子Xが結合した構造であることが好ましい。ここで、Xは本発明において特に限定されないが、水素原子、ハロゲン原子又は置換基を示し、最も好ましくはハロゲン原子である。
【0035】
前記一般式(1)ないし(3)で表される化合物の具体例を下記に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

【0045】
【化11】

【0046】
【化12】

【0047】
【化13】

【0048】
【化14】

【0049】
これらの有機半導体材料を形成する方法としては、可溶性の前駆体材料を用いて形成することが好ましい。これらの前駆体材料としては、例えば、前記特開2003−304014号公報に記載のような環状構造をもつビシクロ化合物(ビシクロポルフィリン化合物)が挙げられる。これらの化合物で形成された膜は、加熱により、脱エチレン化反応が進行して、平面性の高いテトラベンゾポルフィリン等の膜を得ることができ高効率の有機半導体層を形成する。半導体前駆体として、これらのビシクロポルフィリン化合物又はその金属錯体を用いて薄膜を形成した後加熱することで、平面性の高い有機半導体層が形成できる。
【0050】
ビシクロ体から熱変換してポルフィリン誘導体を得る具体例を以下に挙げる。
【0051】
【化15】

【0052】
本発明においては、これら例示されるビシクロポルフィリン誘導体においても、3〜5量体からなる有機半導体材料から選ばれる少なくとも2種以上の材料が用いられることが好ましい。
【0053】
これらのビシクロ化合物も必要に応じ溶媒に溶解して塗布することができる。特に脱エチレン反応にて変換される分子が溶媒に難溶なものが有用である。塗布の方法としては、キャスティング法、スピンコート法、スプレーコート法、ブレードコート法、ディップコート法、バーコート法、ダイコート法など塗布法、また、凸版、凹版、平版、スクリーン印刷、インクジェットなどの印刷法等、広い意味での塗布による方法を用いることができる。また、これによりパターン化する方法などが挙げられる。また、塗布膜からフォトリソグラフ法、レーザーアブレーションなどによりパターン化してもよい。
【0054】
(n型半導体材料)
n型半導体材料としては、比較的高い光電変換効率を実現するために、例えば、フラーレン誘導体化合物等が用いられる。
【0055】
具体例としては、フラーレン、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物を骨格として含む高分子化合物が挙げられる。
【0056】
中でも、フラーレン含有高分子化合物が好ましい。フラーレン含有高分子化合物としては、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC84、フラーレンC240、フラーレンC540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ、多層ナノチューブ、単層ナノチューブ、ナノホーン(円錐型)等を骨格に持つ高分子化合物が挙げられる。フラーレン含有高分子化合物では、フラーレンC60を骨格に持つ高分子化合物(誘導体)が好ましい。
【0057】
電子受容体と電子供与体とが混合されたバルクヘテロジャンクション層の形成方法としては、本発明においては塗布法(キャスト法、スピンコート法を含む)等を例示することができる。そして、光電変換層は光電変換率を向上すべく、製造工程中において所定の温度でアニール処理され、微視的に一部結晶化されている。
【0058】
(基板)
基板は、順次積層された第1電極、好ましく用いられる第1の電荷輸送層、光電変換層、第2の電荷輸送層、及び第2電極を保持する部材である。本実施形態では、少なくとも第1電極または第2電極、更には両方の電極から光電変換される光が透過することが可能なように、光電変換すべき光の波長に対して透明な基板であることが望ましい。
【0059】
基板(以下「透明基板」ともいう。)は、例えば、ガラス基板や樹脂基板等が好適な例として挙げられるが、軽量性と柔軟性の観点から透明樹脂フィルムを用いることがより好ましい。本発明で透明基板として好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限がなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。
【0060】
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜780nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に係る透明樹脂フィルムに好ましく適用することができる。
【0061】
中でも、透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムであることがより好ましい。
【0062】
本発明に用いられる透明基材には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。
【0063】
透明樹脂フィルムが二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである場合は、フィルムに隣接する易接着層の屈折率を1.57〜1.63とすることで、フィルム基材と易接着層との界面反射を低減して透過率を向上させることができるのでより好ましい。屈折率を調整する方法としては、酸化スズゾルや酸化セリウムゾル等の比較的屈折率の高い酸化物ゾルとバインダー樹脂との比率を適宜調整して塗設することで実施できる。
【0064】
易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。また、透明基材にはバリアコート層が予め形成されていてもよいし、透明導電層を転写する反対側にはハードコート層が予め形成されていてもよい。
【0065】
(第1の電極)
第1の電極は、陰極、陽極は特に限定せず、素子構成により選択することができる。光電変換層において光電変換される光を透過させることが可能な電極であることが好ましく、300〜800nmの光を透過する電極であることがより好ましい。
【0066】
具体的な材料としては、例えば、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、フッ素ドープSnO(FTO)、ZnO、アルミニウムドープZnO(AZO)等の透明導電性金属酸化物、金、銀、白金等の金属薄膜、金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ、導電性高分子を用いることができる。
【0067】
(第2の電極)
対電極の第2の電極(「第1電極」ともいう。)は、金属(例えば、金、銀、銅、白金、ロジウム、ルテニウム、アルミニウム、マグネシウム、インジウム等)、炭素、あるいは第1の電極と同様の材料等を用いることができるが、これに限らない。
【0068】
(電荷輸送層)
電荷輸送層としては、具体的には正孔輸送層、電子輸送層が挙げられる。
【0069】
〈正孔輸送層〉
これらの層を構成する材料としては、例えば、正孔輸送層(電子ブロック層)としては、スタルクヴイテック製、商品名BaytronP等のPEDOT、ポリアニリン及びそのドープ材料、特開平5−271166号公報等に記載のトリアリールアミン系化合物、国際公開第06/19270号パンフレット等に記載のシアン化合物、また酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化タングステン等の金属酸化物等を用いることができる。
【0070】
また、本発明においては、バルクヘテロジャンクション層(光電変換層)に用いたp型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。
【0071】
〈電子輸送層〉
また、電子輸送層(正孔ブロック層)としては、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等のn型半導体材料、及び酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ガリウム等のn型無機酸化物及びフッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属化合物等を用いることができる。
【0072】
また、バルクヘテロジャンクション層(光電変換層)に用いたn型半導体材料単体からなる層を用いることもできる。
【0073】
(タンデム型構成)
太陽光利用率(光電変換効率)の向上を目的として、有機光電変換素子を積層したタンデム型の構成としてもよい。タンデム型構成の場合、基板上に順次透明電極、第1の光電変換層を積層した後、電荷再結合層を積層した後、第2の光電変換層、次いで対電極を積層することで、タンデム型の構成とすることができる。第2の光電変換層は、第1の光電変換層の吸収スペクトルと同じスペクトルを吸収する層でもよいし、異なるスペクトルを吸収する層でもよいが、好ましくは異なるスペクトルを吸収する層である。また、電荷再結合層の材料としては、透明性と導電性を併せ持つ化合物を用いた層であることが好ましく、ITO、AZO、FTO、酸化チタン等の透明金属酸化物、Ag、Al、Au等の非常に薄い金属層、PEDOT:PSS、ポリアニリン等の導電性高分子材料等が好ましい。
【0074】
(封止)
また、作製した有機光電変換素子が環境中の酸素、水分等で劣化しないために、公知の手法によって封止することが好ましい。例えば、アルミまたはガラスでできたキャップを接着剤によって接着することによって封止する手法、アルミニウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等のガスバリア層が形成されたプラスチックフィルムと有機光電変換素子上を接着剤で貼合する手法、ガスバリア性の高い有機高分子材料(ポリビニルアルコール等)をスピンコートする方法、ガスバリア性の高い無機薄膜(酸化ケイ素、酸化アルミニウム等)を直接堆積する方法、及びこれらを複合的に積層する方法等を挙げることができる。
【0075】
更に本発明においては、エネルギー変換効率と素子寿命向上の観点から、素子全体を2枚のバリア付き基板で封止した構成でもよく、好ましくは、水分ゲッター等を同封した構成であることが本発明においてより好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
〔有機光電変換素子SC−101の作製〕
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を150nm堆積したもの(シート抵抗10Ω/□)を、通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングとを用いて受光用の15mm幅と、リード電極をパターニングして、透明電極を形成した。パターン形成した透明電極を、界面活性剤と超純水による超音波洗浄、超純水による超音波洗浄の順で洗浄後、窒素による乾燥を行い、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0078】
この透明基板上に、導電性高分子であるBaytron P4083(スタルクヴィテック社製)を膜厚が20nmになるように塗布乾燥した後、150℃で30分間熱処理させ正孔輸送層を製膜した。
【0079】
これ以降は、基板を窒素チャンバー中に持ち込み、窒素雰囲気下で作製した。
【0080】
次に、クロロホルムに例示化合物2−1(4量体のTBP(テトラベンゾポルフィリンの前駆体:p型半導体材料前駆体))を0.8質量%溶解した塗布液を塗布し、乾燥膜厚が30nmになるように製膜した、続けて基板を180℃で10分間加熱し、p型半導体からなるp層を形成させた。
【0081】
続けて、上記作製した基板上に、クロロベンゼンに化合物2−1(4量体のTBP(テトラベンゾポルフィリンの前駆体:p型半導体材料前駆体))とPCBM(フロンティアカーボン:6,6−フェニル−C61−ブチリックアシッドメチルエステル、n型半導体材料)を3.0質量%になるように1:0.8で混合した液を調製し、フィルタでろ過しながら膜厚が120nmになるように塗布を行い、窒素雰囲気中、室温で乾燥後、210℃で30分間加熱処理を行った。この加熱処理により、前駆体はTBPに熱変換され、バルクヘテロジャンクション型の光電変換層(BHJ層)を形成した。
【0082】
続けて、PCBM(フロンティアカーボン:6,6−フェニル−C61−ブチリックアシッドメチルエステル、n型半導体材料)をトルエンに1質量%溶解し、上記作製したBHJ層上に塗布し乾燥膜厚が50nmのn層を形成させた。
【0083】
次に、上記一連の機能層を製膜した基板を真空蒸着装置チャンバー内に移動し、1×10−4Pa以下にまでに真空蒸着装置内を減圧した後、蒸着速度0.01nm/秒でフッ化リチウムを0.6nm積層し、更に続けて、15mm幅のシャドウマスクを通して(受光部が10mm×100mmに成るようにずらして蒸着)、蒸着速度0.2nm/秒でAlメタルを100nm積層することで第2の電極を形成した。得られた有機光電変換素子SC−101を窒素チャンバーに移動し、ガラスキャップとUV硬化樹脂を用いて封止を行って、受光部が10mm×100mmサイズの有機光電変換素子SC−101を作製した。
【0084】
〔有機光電変換素子SC−102の作製〕
前記SC−101の作製において、光電変換層に添加した化合物2−1(TBP)単独に代えて、化合物1−1(3量体前駆体)と化合物2−1を1:99(モル比)の混合物を用いた以外はSC−101と同様にしてSC−102を作製した。
【0085】
〔有機光電変換素子SC−103〜107の作製〕
以下、表1に記載の材料混合比に変更した以外はSC−101と同様にして、SC−13〜107を作製した。
【0086】
尚、化合物1−1(3量体)は、特開2007−39588号公報に記載の合成法を用いて調製した。また、化合物2−1(4量体)は特開2008−16834号公報の合成法を用いて調製し、化合物3−1(5量体)は化合物2の合成法において、副生成物としてGPCで分取した。
【0087】
尚、合成時の温度、溶媒等を選択することにより、化合物2−1〜3−1の混合比率を調整することができ、1工程でp型半導体材料前駆体の混合物の調製が可能で、特に分離工程を必要とせず、低コストで、製造できる方法を見いだすことができた。
【0088】
《エネルギー変換特性評価》
上記方法で作製した有機光電変換素子SC−101〜107について、ソーラーシミュレーターを用いたAM1.5Gフィルタ、100mW/cmの強度の光を照射し、マスクを受光部に重ね、I−V特性を評価し、特性値として、短絡電流密度Jsc(mA/cm)及び開放電圧Voc(V)、フィルファクターffから式1を用いてエネルギー変換効率η(%)を得て、SC−101のエネルギー変換効率を100としたときの相対値を表1に示した。
【0089】
(式1):Jsc(mA/cm)×Voc(V)×ff=η(%)
【0090】
【表1】

【0091】
表1から明らかなように、本発明の実施によって、エネルギー変換効率を向上させた有機光電変換素子を提供できることが示された。
【0092】
即ち、4量体単独の試料SC−101に比べ、本発明の試料は何れも変換効率に優れることが分かる。特に化合物1〜3を含む系とすることにより、より優れた結果が得られることが分かる。
【0093】
又、この系の前駆体を1工程で合成が可能で、低コストで半導体前駆体を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0094】
10 有機光電変換素子
11 基板
12 第1電極
13 第1の電荷輸送層
14 光電変換層
15 第2の電荷輸送層
16 第2電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極との間に少なくとも光電変換層と電荷輸送層とを積層して成る有機光電変換素子において、光電変換層が一般式(1)ないし一般式(3)で示される有機半導体材料から選ばれる少なくとも2種以上の材料を含有することを特徴とする有機光電変換素子。
【化1】

(式中、Z〜Z12は、それぞれ独立に、NまたはC(Y)〜C(Y12)を表す。Y〜Y12、R〜R12、R′〜R12′は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していても良い芳香環基、または置換基を有していても良い炭素数0〜20の非芳香環置換基を表し、M〜Mは2個の水素原子もしくは2価以上のカチオン原子を表し、該カチオン原子が3価以上の場合、更に炭素数20以下のカウンターアニオンを有していても良い。なお、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、RおよびR′、R10およびR10′、R11およびR11′、R12およびR12′はそれぞれ結合して環を形成していても良く、該環は更に置換基を有していても良い。)
【請求項2】
前記一般式(1)ないし一般式(3)で表される有機半導体材料のうち、前記一般式(2)で示される材料の存在比が80モル%以上、98モル%以下であることを特徴とする請求項1記載の有機光電変換素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機光電変換素子の製造方法であって、有機半導体材料が、該有機半導体材料の可溶性前駆体を塗布乾燥し、続く熱処理によって化学変換された有機半導体材料であることを特徴とする有機光電変換素子の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−267710(P2010−267710A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116527(P2009−116527)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】