説明

有機及び/又は無機材料の強化に適したガラス糸、この糸を含む複合体、及びこの糸に用いられる組成物

本発明は、以下の成分を含む組成のガラス強化糸に関する。50〜65wt%SiO2、12〜20wt%Al23、13〜16wt%CaO、6〜12wt%MgO、0〜3wt%B23、0〜3wt%TiO2、<2wt%Na2O+K2O、0〜1wt%F2、<1wt%Fe23。この糸は比ヤング率で表される機械特性とその溶融及び繊維化条件の間に優れた折衷を与えるガラス製である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス「強化」糸(もしくは繊維)、すなわち有機及び/又は無機材料の強化に適し、織物糸として用いることができる糸に関する。
【背景技術】
【0002】
この糸は、通常抵抗加熱により加熱される、ブッシングの底部に配置されたオリフィスから出る溶融したガラス流体を機械的に延伸することからなる方法によって得ることができる。
【0003】
本発明の目的は、比ヤング率が高くかつSiO2-Al23-CaO-MgOの特に有利な4成分組成を有するガラス糸を得ることである。
【0004】
ガラス強化糸の分野はガラス産業の特定の分野である。これらの糸は特定のガラス組成から製造され、用いられるガラスは上記の方法を用いて、直径数ミクロンのフィラメントの形態で延伸することができ、強化ロールを充たすことができる連続糸を京成することを可能にする。
【0005】
ある用途において、特に航空学において、動的条件において作動するに適し、高い機械応力に耐えることができる大きな部材を得ることが目的とされている。この部材は通常有機及び/又は無機材料及び強化材、例えばガラス糸の形態の強化材(これは通常50体積%以上を占めている)をベースとしている。
【0006】
機械特性の改良は強化材の機械特性を、例えばヤング率を一定もしくは低下させ、強化材密度ρを低くする(これは比ヤング率(E/ρ)を高める)ことにより改良することによって達成される。
【0007】
ガラス強化糸の場合の強化材の特性は主に、それが製造されるガラスの組成によって決まる。有機及び/又は無機材料を強化するためのもっとも一般的なガラス糸はEガラス及びRガラス製である。
【0008】
Eガラス糸は、そのままでもしくは布帛の形態で強化材の形成に広く用いられている。Eガラスを繊維化する条件はかなり有利であり、ガラスが1000ポイズ付近の粘度となる温度に相当する作業温度は比較的低く、ほぼ1200℃であり、液化温度は作業温度よりほぼ120℃低く、その失透速度は遅い。
【0009】
電子及び航空分野において適用するためのASTM D 578-98に規定のEガラス組成は以下のとおりである。(n質量%):52〜56%SiO2;12〜16%Al23;16〜25%CaO;5〜10%B23;0〜5%MgO;0〜2%Na2O+K2O;0〜0.8%TiO2;0.05〜0.4%Fe23;及び0〜1%F2
【0010】
しかし、Eガラスの比ヤング率はほぼ33MPakg-1m3であり、目的とする用途には不十分である。
【0011】
他のEガラス強化糸(所望により硼素を含まない)は、ASTM D 578-98スタンダードに記載されている。この糸は以下の組成を有している(wt%)。52〜62%SiO2;12〜16%Al23;16〜25%CaO;0〜10%B23;0〜5%MgO;0〜2%Na2O+K2O;0〜1.5%TiO2;0.05〜0.8%Fe23;及び0〜1%F2
【0012】
硼素を含まないEガラスを繊維化する条件は硼素を含むEガラスの条件よりも有利ではないが、経済的に許容することができる。比ヤング率はEガラスの比ヤング率に匹敵するレベルを保っている。
【0013】
硼素及びフッ素を含まないEガラス(これは引張強度が向上している)も米国特許第4,199,364号より知られている。このガラスは酸化リチウムを含んでいる。
【0014】
Rガラスは、機械特性が高く、約35.9MPakg-1m3の比ヤング率を有することが知られている。しかし、溶融及び繊維化条件は上記Eガラスよりも厳しく、従ってその最終コストは高い。
【0015】
Rガラスの組成はFR-A-1435073に記載されている。それは以下のとおりである(wt%)。50〜65%SiO2;20〜30%Al23;2〜10%CaO;5〜20%MgO;15〜25%CaO+MgO;SiO2/Al23=2〜2.8;MgO/SiO2<0.3。
【0016】
ガラス糸の機械強度を高める他の試みがなされたが、繊維化能に有害であり、加工が困難になりもしくは繊維化プラントを改良することが必要になる。
【0017】
従って、コストができるだけEガラスに近く、Rガラスに匹敵するレベルの機械強度を有するガラス強化糸に対する要求がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の1つの目的は、その機械特性、特に比ヤング率、がRガラスと同じ程度であるが、経済的に強化糸を得るために満足のいく溶融及び繊維化特性を有する連続ガラス強化糸を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、酸化リチウムを含まない安価なガラス糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
これらの目的は、以下の成分を本質的に含むガラス糸によって達成される。
SiO2 50〜65wt%
Al23 12〜20wt%
CaO 13〜16wt%
MgO 6〜12wt%
23 0〜3wt%
TiO2 0〜3wt%
Na2O+K2O <2wt%
2 0〜1wt%
Fe23 <1wt%
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
シリカ(SiO2)は本発明に係るガラスのネットワークを形成する酸化物の1つであり、その安定性において本質的な役割を担っている。本発明において、シリカの含有量が50%未満である場合、ガラスの粘度が低くなりすぎ、繊維化の間の失透の危険性が高くなる。65%より多いと、ガラスの粘度が高くなりすぎ、溶融することが困難になる。好ましくは、シリカの含有量は56〜61%である。
【0022】
アルミナ(Al23)もまた本発明に係るガラスのネットワークを形成し、シリカと組み合わせてヤング率に関して本質的な役割を果たしている。本発明において、この酸化物の量が12%より少なくなると、液体温度が高くなり、一方この酸化物の量が20%より多くなると、失透の危険性が生じ、粘度が高くなる。好ましくは、アルミナ含有量は14〜18%である。有利には、シリカとアルミナの合計は70%より多い。これは有用な比ヤング率を得ることが可能になる。
【0023】
石灰(CaO)は粘度を調整し、ガラスの失透を制御するために用いられる。CaO含有量は好ましくは13〜16%である。
【0024】
マグネシア(MgO)はCaOと同様に、粘度低下剤として機能し、また比ヤング率に対して有利な効果を有する。MgO含有量は6〜12%、好ましくは8〜10%である。CaO/MgO質量比は好ましくは1.40以上であり、有利には1.8以下である。
【0025】
また好ましくは、Al23とMgOの合計は24%以上であり、これによりとても満足な比ヤング率及び良好な繊維化条件を得ることが可能になる。
【0026】
酸化硼素(B23)は粘度低下剤として機能する。本発明のガラスにおけるその含有量は、失透及び汚染物の発生の問題を避けるため、3%以下、好ましくは2%以下である。
【0027】
酸化チタンは粘度低下剤として機能し、比ヤング率を高める。これは不純物として存在してよく(その含有量は0〜0.6%である)、又は意図的に加えてもよい。後者の場合、非標準バッチ材料を用いることが必要であり、これはコストを高める。本発明において、TiO2の意図的な添加は有利には、3%未満、好ましくは2%未満の含有量にするのみである。
【0028】
Na2O及びK2Oは、失透を防ぎ、粘度を低下させるために加えられる。しかし、Na2O及びK2O含有量は、ガラスの耐加水分解性が低下することを避けるために2%未満に保つべきである。好ましくは、本発明のガラスにおいてこれら2種の酸化物の含有量は0.8%未満である。
【0029】
フッ素(F2)は、ガラスの溶融及び繊維化を促進するために存在してよい。しかし、その含有量は1%未満である。それは、この範囲を超えると汚染物の発生及び炉の腐食の危険性が生ずるからである。
【0030】
酸化鉄(Fe23で表す)は通常不純物として存在する。Fe23含有量は、糸の色及び繊維化プラントの操作、特に炉内の熱移動を損なわないようにするため、1%未満、好ましくは0.8%未満であるべきである。
【0031】
本発明のガラス糸は酸化リチウムを含まない。この酸化物は価格が高いことに加え、ガラスの耐加水分解性に悪影響を与える。
【0032】
好ましくは、このガラス糸の組成は以下の成分を含む。
SiO2 56〜61wt%
Al23 14〜18wt%
CaO 13〜16wt%
MgO 8〜10wt%
23 0〜2wt%
TiO2 0〜2wt%
Na2O+K2O <0.8wt%
2 0〜1wt%
Fe23 <0.8wt%
【0033】
ここでAl23/(Al23+CaO+MgO)の質量比は0.4〜0.44であることが有利であり、好ましくは0.42未満である。これにより1250℃以下の液化温度のガラスを得ることが可能になる。
【0034】
本発明のガラス糸は以下の方法を用いて、上記組成のガラスより得られる。1以上のブッシングの底に配置された多数のオリフィスから流出する多数の溶融したガラス流を連続糸の1以上の束の形態で延伸し、次いでフィラメントを、移動する支持体上で集める1以上の糸にする。糸をパッケージの形態で集める場合には回転する支持体であり、糸を裁断したストランドである場合には横に移動する支持体である。またストランドをスプレーすると、マットを形成するように延伸される。
【0035】
得られた糸(所望により他の処理後)は、連続糸、裁断したストランド、ブレイド、テープもしくはマットのような様々な形態であってよく、この糸はその直径が約5〜30μmであるフィラメントから構成されている。
【0036】
ブッシングを流れる溶融ガラスは純粋なバッチ材料又は天然バッチ材料(すなわち少量の不純物を含むもの)より得られ、これらのバッチ材料は溶融される前に適当な量で混合される。通常、繊維化を可能にし、失透の問題を避けるように溶融ガラスの温度が調整される。糸の形態で組み合わされる前に、フィラメントは磨耗から保護し、その後の強化される材料への導入を容易にする目的でサイズ組成物でコートされる。
【0037】
本発明の糸より得られる複合体は、少なくとも1種の有機材料及び/又は少なくとも1種の無機材料並びにガラス糸を含み、この糸の少なくとも一部は本発明の糸である。
【0038】
本発明を説明する以下の実施例はなんら本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0039】
表1に示す組成を有する溶融ガラスを延伸することにより、直径17μmのガラスフィラメントからなるガラス糸を得た。
【0040】
ガラスの粘度が103ポアズ(デシパスカル秒)の際の温度をT(logη=3)で示す。
【0041】
ガラスの液体温度をT(液体)で示し、これはガラス内において失透するであろう最も耐熱性の高い相の成長速度がゼロとなる温度に相当し、これはこの失透した相の融点に相当する。
【0042】
この表は比ヤング率の値を示しており、これは測定に用いたガラス片の密度に対するヤング率(ASTM C1259-01により測定)の比に相当する。
【0043】
Eガラス及びRガラスの測定は比較例として行った。
【0044】
本発明の例は、溶融及び繊維化特性と機械特性の間のすぐれた折衷を示す。繊維化特性は、Rガラスの液体温度よりも低い少なくとも1280℃の液体温度において特に有利である。繊維化範囲は、約10〜50℃のT(logη=3)とT(液体)の差において明白である。
【0045】
本発明のガラスの比ヤング率はRガラスと同じ程度であり、Eガラスよりも高い。
【0046】
本発明のガラスにより、Rガラスと同じレベルの機会特性が達成され、一方Eガラスに得られるほどに繊維化温度を低下させる。
【0047】
本発明のガラス糸はRガラス糸よりも安価であり、航空分野において又はヘリコプターのブレードの強化材としてもしくは光学ケーブルとして用いることができる。
【0048】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分
SiO2 50〜65wt%
Al23 12〜20wt%
CaO 13〜16wt%
MgO 6〜12wt%
23 0〜3wt%
TiO2 0〜3wt%
Na2O+K2O <2wt%
2 0〜1wt%
Fe23 <1wt%
を本質的に含む、ガラス強化糸。
【請求項2】
MgO+Al23の含有量が24wt%より多いことを特徴とする、請求項1に記載のガラス糸。
【請求項3】
SiO2+Al23の含有量が70wt%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のガラス糸。
【請求項4】
Al23/(Al23+CaO+MgO)の質量比が0.40〜0.44、好ましくは0.42未満であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス糸。
【請求項5】
CaO/MgOの質量比が1.40以上、好ましくは1.8以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス糸。
【請求項6】
以下の成分
SiO2 56〜61wt%
Al23 14〜18wt%
CaO 13〜16wt%
MgO 8〜10wt%
23 0〜2wt%
TiO2 0〜2wt%
Na2O+K2O <0.8wt%
2 0〜1wt%
Fe23 <0.8wt%
を本質的に含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス糸。
【請求項7】
ガラス糸と1種以上の有機及び/又は無機材料からなり、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス糸を含むことを特徴とする、複合体。
【請求項8】
以下の成分
SiO2 50〜65wt%
Al23 12〜20wt%
CaO 13〜16wt%
MgO 6〜12wt%
23 0〜3wt%
TiO2 0〜3wt%
Na2O+K2O <2wt%
2 0〜1wt%
Fe23 <1wt%
を本質的に含む、ガラス強化糸の製造に適するガラス組成物。

【公表番号】特表2006−527158(P2006−527158A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516274(P2006−516274)
【出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001431
【国際公開番号】WO2004/110944
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(501399290)サン−ゴバン ベトロテックス フランス ソシエテ アノニム (33)
【Fターム(参考)】