説明

有機太陽電池

【課題】長寿命化が可能な有機太陽電池を提供する。
【解決手段】透光性基板からなる基板1と、基板1の一表面側に形成された有機太陽電池素子2と、有機太陽電池素子2を覆う形で基板1の上記一表面側に形成された表面保護層3とを備えている。有機太陽電池素子2は、基板1の上記一表面側に形成された正電極(第1の電極)21と、正電極21上に形成されたホール輸送層22と、ホール輸送層22上に形成され太陽光を吸収して発電する発電層(光電変換層)である混合層23と、混合層23上に形成された電子輸送層24と、電子輸送層24上に形成された凹凸界面形成用電子輸送層25と、凹凸界面形成用電子輸送層25上に形成された負電極(第2の電極)26とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業の発展に伴ってエネルギーの使用量が飛躍的に増加しており、地球への環境負荷が小さく且つ経済的で高性能な新しいクリーンエネルギー源の研究開発が各所で行われている。ここで、太陽電池は、無限にあるといってよい太陽光を利用することから、新しいエネルギー源として注目されている。
【0003】
ここにおいて、現在実用化されている太陽電池の殆どは、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンを用いた無機シリコン系太陽電池である。しかし、無機シリコン系太陽電池は、その製造プロセスが複雑でコストが高いという欠点を有するため、広く一般家庭に普及するには至ってない。このような欠点を解消するために、簡単なプロセスで低コスト化・大面積化が可能な、有機材料を用いた有機太陽電池(有機発電素子)の研究が盛んになってきている。
【0004】
一例として、有機太陽電池の一種であり、多孔質酸化チタン、ルテニウム色素、ヨウ素とヨウ素イオンを用いた光化学反応に基づく色素増感型太陽電池が、10%という高い変換効率を有することが発表された(非特許文献1参照)。
【0005】
また、色素増感型太陽電池とは種類の異なる有機太陽電池である有機薄膜型太陽電池においても、低分子材料である電子供与性半導体および電子吸引性半導体を真空蒸着法により蒸着することで形成したダブルへテロ構造の発電層を一対の電極である正電極と負電極との間に備えた有機薄膜型太陽電池において、3.6%の変換効率が得られたたことが報告されている(非特許文献2参照)。
【0006】
また、有機太陽電池における発電層の材料としては、低分子材料に限らず、高分子材料(ポリマー)を用いることの検討も進んでいる。これは、発電層の材料が低分子材料の場合には発電層を真空蒸着法により形成する必要があるのに対して、発電層の材料が高分子材料の場合には発電層を塗布・印刷技術を利用して形成でき、製造コストの低コスト化を図れるためである。
【0007】
高分子材料を用いた有機太陽電池としては、共役系ポリマーとフラーレン誘導体との混合層を発電層として備えた有機薄膜型太陽電池で、近年、5.5%の変換効率を得たことが報告されており(非特許文献3参照)、様々な研究機関で高効率な有機薄膜型太陽電池を得るための工夫・検討がなされている。
【0008】
ところが、有機薄膜型太陽電池は、有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)と同じような構造、材料を用いていることから、実用化を図る上で耐久性に問題があった。
【0009】
有機薄膜型太陽電池の耐久性の向上を図る手段としては、例えば、酸素や水分を除去することで光照射による特性の低下を抑える技術が報告されている(非特許文献4,5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Christophe J Barbe,et,al,「Nanocrystalline Titanium Oxide Electrodes for PhotovoltaicApplication」,J.Am.Ceram.Soc.,80,1997,p.3157-3171
【非特許文献2】P.Peumans,et,al,「Very-high-efficiency double-heterostructure copper phthalocyanine/C60photovoltaic cells」,APPLIED PHYSICS LETTERS,VOLUME79,NUMBER 1,2001,p.126-128
【非特許文献3】J.PEET,et,al,「Efficiency enhancement in low-bandgap polymer solar cells byprocessing with alkane dithiols」,nature materials,VOL6,2007,p.497-500
【非特許文献4】Kenji Kawano,el,al,「Degradation of organic solar cells due to air exposure」,Solar Energy Materials & Solar cells.90,2006,p.3520-3530
【非特許文献5】H.Neugebauer et,al,「Stability and photodegradation mechanisms of conjugatedpolymer/fullerene plastic solar cells」, Solar EnergyMaterials & Solar cells.61,2000,p.35-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、有機薄膜太陽電池の実用化には、光を電気に効率良く変換し、その特性を長時間維持することが必要である。しかしながら、有機太陽電池の耐久性の向上を図るために、上記非特許文献4,5に開示された技術を適用して酸素や水分を除去しても特性の劣化は徐々に進行してしまう。
【0012】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、長寿命化が可能な有機太陽電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、ホールを収集する第1の電極と電子を収集する第2の電極との間に、電子供与性半導体と電子吸引性半導体との混合層を有する有機太陽電池であって、混合層と第2の電極との間に、第2の電極との接触界面に凹凸を有する電子輸送層からなる凹凸界面形成用電子輸送性層を設けてなることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、混合層と第2の電極との間に、第2の電極との接触界面に凹凸を有する電子輸送性層からなる凹凸界面形成用電子輸送層を設けてあるので、混合層と前記第2の電極との間に存在する界面での密着性を向上できるから、発電に際して光吸収により発生した混合層中の電荷が蓄積されるのを抑制して第2の電極に効率良く移動させることができ、長寿命化を図れる。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記凹凸界面形成用電子輸送性層は、前記混合層における前記第2の電極側に形成された複数のドーム状もしくはドット状の凸状体からなること特徴とする。
【0016】
この発明によれば、前記凹凸界面形成用電子輸送性層が、前記混合層における前記第2の電極側に形成された複数のドーム状もしくはドット状の凸状体からなることにより、前記凹凸がストライプ状に形成されているような場合に比べて、電荷が通過する前記凹凸界面形成用電子輸送層と前記第2の電極との接触界面の面積を大きくすることができるから、電荷の蓄積の抑制効果が大きくなり、長寿命化を図れる。
【0017】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記凸状体は、高さが4nm〜6nm、平均径が80nm〜120nmのドーム状に形成されてなることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、前記第2の電極を前記凹凸界面形成用電子輸送層と隙間なく密着させることができ、電荷の蓄積の抑制効果が大きくなり、長寿命化を図れる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明では、発電に際して光吸収により発生した混合層中の電荷が蓄積されるのを抑制して第2の電極に効率良く移動させることができ、長寿命化を図れるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態の有機太陽電池の概略断面図である。
【図2】同上の実施例1の特性説明図である。
【図3】同上の実施例2の特性説明図である。
【図4】同上の比較例の特性説明図である。
【図5】同上の実施例1における凹凸界面形成用電子輸送層の表面形状を示し、(a)はAFM像図、(b)はAFM像の断面図である。
【図6】同上の実施例2における凹凸界面形成用電子輸送層の表面形状に関し、(a)はAFM像図、(b)はAFM像の断面図である。
【図7】同上の比較例における電子輸送層の表面形状を示し、(a)はAFM像図、(b)はAFM像の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態の有機太陽電池は、図1に示すように、平面視矩形状の基板1と、基板1の一表面側(図1における上面側)に形成された有機太陽電池素子2と、有機太陽電池素子2を覆う形で基板1の上記一表面側に形成された表面保護層3とを備えている。
【0022】
有機太陽電池素子2は、基板1の上記一表面側に形成された正電極21と、正電極21上に形成されたホール輸送層22と、ホール輸送層22上に形成され太陽光を吸収して発電する発電層(光電変換層)である混合層23と、混合層23上に形成された電子輸送層24と、電子輸送層24における混合層23側とは反対側に形成された負電極26とを備え、さらに、電子輸送層24上に形成され負電極26との接触界面に凹凸を有する電子輸送層からなる凹凸界面形成用電子輸送層25を備えている。すなわち、本実施形態では、混合層23上に平坦な連続膜状の電子輸送層24が形成され、電子輸送層24上に、負電極26との接触界面に凹凸を有する電子輸送層からなる凹凸界面形成用電子輸送層25が形成され、凹凸界面形成用電子輸送層25上に負電極26が形成されている。なお、本実施形態では、正電極21が、ホールを収集する第1の電極を構成するとともに、負電極26が電子を収集する第2の電極を構成しており、正電極21と負電極26とが一対の電極を構成している。
【0023】
上述の有機太陽電池は、基板1として透光性基板を用いるとともに、正電極21を透明電極により構成してあり、基板1の他表面を太陽光(外来光)の光入射面としている。
【0024】
基板1を構成する透光性基板は、無色透明な基板に限らず、多少の着色がなされたものでもよい。ここにおいて、基板1を構成する透光性基板としては、ソーダライムガラス基板や無アルカリガラス基板などのガラス基板を用いているが、ガラス基板に限らず、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂などにより形成されたプラスチックフィルムやプラスチック基板などを用いればよい。ここで、ガラス基板は、すりガラス状のものでもよい。また、基板1は、当該基板1内に当該基板1の母材とは屈折率の異なる粒子、粉体、泡などを含有させることによって、光拡散性を付与したものでもよい。また、基板1を有機太陽電池素子2の光入射面側に設けない場合は、基板1の材料などは特に限定するものではなく、有機太陽電池素子2を支持できるものであればよい。
【0025】
また、正電極21は、混合層23中に発生したホールを効率よく収集するための電極であり、正電極21の材料としては、ITOを採用しているが、ITOに限定するものではなく、仕事関数の大きな金属、合金、電気伝導性化合物、あるいはこれらの混合物を用いることが好ましく、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位との差が大きくなりすぎないように仕事関数が4eV以上6eV以下のものを用いるのが好ましい。このような正電極2の材料としては、例えば、金などの金属、CuI、ITO、SnO、ZnO、IZOなど、PEDOT、ポリアニリンなどの導電性高分子及び任意のアクセプタなどでドープした導電性高分子、カーボンナノチューブなどの導電性光透過性材料を挙げることができる。ここにおいて、正電極21は、基板1の上記一表面側に、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法などによって形成すればよい。ここで、本実施形態のように太陽光を、正電極21を透過させて混合層23に入射させるためには、正電極2の光透過率を70%以上にすることが好ましい。さらに、正電極21は、シート抵抗を数百Ω/□以下とすることが好ましく、100Ω/□以下とすることが特に好ましい。ここで、正電極21の膜厚は、当該正電極21の光透過率、シート抵抗などの特性に応じて適宜設定すればよく、当該正電極21の材料により異なるが、500nm以下、好ましくは10nm〜200nmの範囲で適宜設定すればよい。
【0026】
また、負電極26は、混合層23中に発生した電子を効率よく収集するための電極であり、負電極26の材料としては、仕事関数の小さい金属及び合金を用いることが好ましく、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位との差が大きくなりすぎないように仕事関数が1.9eV以上5eV以下のものを用いるのが好ましい。このような負電極26の材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類など、およびこれらと他の金属との合金、例えばナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金などを挙げることができる。またアルミニウムも用いることができる。また、上述の負電極26は、基板1の上記一表面側に、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法などによって形成すればよい。
【0027】
また、上述の混合層23に用いる有機化合物の電子供与性半導体としては、導電性高分子材料の一種であるポリ(3−ヘキシルチオフェン)(以下、P3HTと略称する)を採用しているが、これに限らず、例えば、フタロシアニン系顔料、インジゴ、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、メロシアニン化合物、シアニン化合物、スクアリウム化合物、多環芳香族化合物、また有機電子写真感光体に用いられる電荷移動剤、電気伝導性有機電荷移動錯体、更には他の導電性高分子材料などを挙げることができるが、溶媒に可溶であればよく、これらに限定するものではない。
【0028】
上述のフタロシアニン系顔料としては、中心金属がCu、Zn、Co、Ni、Pb、Pt、Fe、Mgなどの2価のもの、無金属フタロシアニン、アルミニウムクロロフタロシアニン、インジウムクロロフタロシアニン、ガリウムクロロフタロシアニンなどのハロゲン原子が配位した3価金属のフタロシアニン、その他、バアナジルフタロシアニン、チタニルフタロシアニンなどの酸素が配位したフタロシアニンなどがあるが、これらに限定するものではない。
【0029】
また、多環芳香族化合物としては、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、或いは、それらの誘導体などがあるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0030】
また、電荷移動剤としては、ヒドラゾン化合物、ピラゾリン化合物、トリフェニルメタン化合物、トリフェニルアミン化合物などがあるが、これらに限定するものではない。
【0031】
また、電気伝導性有機電荷移動錯体としては、テトラチオフルバレン、テトラフェニルテトラチオフラバレンなどがあるが、これらに限定するものではない。
【0032】
また、電子を供与する導電性高分子材料としては、上述のP3HTの他、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、チオフェン系ポリマー、導電性高分子のオリゴマーなどの有機溶媒に可溶なものが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0033】
また、上述の混合層23に用いる電子吸引性半導体としては、フラーレン誘導体である[6,6]−フェニルC61−ブチリック アシッド メチル エステル(以下、PCBMと略称する)を採用しているが、これに限らず、例えば、粒径が1nm〜100nm程度の化合物半導体ナノ結晶や、C60やC70、C84などの高次フラーレンを含有するフラーレン誘導体などからなる低分子材料や導電性高分子材料、カーボンナノチューブなどを用いることもできる。ここで、化合物半導体ナノ結晶の形状は、特に限定するものではなく、ロッド状、球状、テトラポッド状でもよい。化合物半導体ナノ結晶の具体的な材料としてはInP、InAs、GaP、GaAsなどのIII-V族化合物半導体、CdSe、CdS、CdTe、ZnSなどのII-VI族化合物半導体、ZnO、SiO、TiO、Alなどの酸化物半導体、CuInSe、CuInSなどを挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。また、混合層23は、多数のロッド状の化合物半導体ナノ結晶が、電子輸送層24と接する形で200nm以下の間隔で配置されるようにしてもよいが、この間隔は特に限定するものではない。
【0034】
なお、混合層23の電子供与性半導体および電子吸引性半導体は、高分子材料、低分子材料のいずれかに限定するものではなく、どちらを採用してもよい。
【0035】
また、正電極21と混合層23との間に介在させる上述のホール輸送層22の材料としては、ポリエチレンジオイサイドチオフェン:ポリスチレンスルフォネート(PEDOT:PSS)を採用しているが、これに限らず、ホールを輸送する能力を有し、混合層23からのホール移動効果を有するとともに、正電極21に対して優れたホール移動効果を有し、また、電子をブロックするような特性を有し、かつ薄膜形成能力の優れた化合物などが挙げられる。具体的には、例えば、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)などの芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、及びポリビニルカルバゾール、ポリシラン、アミノピリジン誘導体、ポリエチレンジオイサイドチオフェン(PEDOT)などの導電性高分子などの高分子材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、ホール輸送性を有する三酸化モリブデン、五酸化バナジウム、三酸化タングステン、酸化レニウムなどの無機酸化物やp形半導体である酸化ニッケル、酸化銅などの無機酸化物なども用いることができ、無機材料であってもホール輸送性を有していれば、これらに限られることなく使用することができる。
【0036】
また、電子輸送層24および凹凸界面形成用電子輸送層25の材料としては、例えば、バソクプロイン、バソフェナントロリン、及びそれらの誘導体、TPBi、シロール化合物、トリアゾール化合物、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、ビス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、オキサジアゾール化合物、ジスチリルアリレーン誘導体、シロール化合物、TPBI(2,2’,2”−(1,3,5−ベンゼントリル)トリス−[1−フェニル−1H−ベンツイミダゾール])などがあげられるが、電子輸送性を有する材料であればよく、特にこれらに限定されるものでない。また、電子輸送層24および凹凸界面形成用電子輸送層25の材料は、混合層23の材料として挙げた化合物半導体ナノ結晶や、C60やC70、C84などの高次フラーレンを含有するフラーレン誘導体などからなる低分子材料や、導電性高分子、カーボンナノチューブなども用いることができ、電子輸送性材料であれば特に限定されることなく使用することができる。ここで、電子輸送層24および凹凸界面形成用電子輸送層25に用いる材料としては、電子移動度が10−6cm/Vs以上の材料が好ましく、10−5cm/Vs以上の材料がより好ましい。
【0037】
また、上述の表面保護層3の材料としては、ガスバリア性を有する材料を採用すればよく、例えば、フッ素系化合物、フッ素系高分子、その他の有機分子、高分子材料などを採用すればよい。ここで、表面保護層3は、基板1の上記一表面側に、蒸着法、スパッタ法、CVD法、プラズマ重合法などによって形成してもよいし、高分子材料の溶液をスピンコート法のような塗布法により塗布してから紫外線硬化あるいは熱硬化させる方法や、その他の方法によって形成することも可能である。また、表面保護層3は、汎用のポリマーからなる絶縁膜とガスバリア性を有するAl膜などの金属膜と汎用のポリマーからなる絶縁膜との積層膜により構成してもよく、この場合には、各絶縁膜を塗布法により形成し、金属膜をスパッタ法などの緻密性の高い金属膜を成膜可能な方法により形成すればよい。また、表面保護層3は、光透過性およびガスバリア性を有するフィルム状や板状の構造体で形成することも可能であり、前者の場合は例えば真空ラミネート法により基板1の上記一表面に周部を固着すればよく、後者の場合は例えば紫外線硬化樹脂などのシール剤(接着剤)により基板1の上記一表面に周部を固着すればよい。このような光透過性を有する表面保護層3を採用する場合には、負電極26を透明電極により構成すれば、太陽光を表面保護層3および負電極26を通して混合層23に入射させることができるので、基板1を必ずしも透光性基板により構成する必要がなくなるとともに、正電極21を必ずしも透明電極により構成する必要がなくなる。なお、表面保護層3側から混合層23に太陽光を入射させる場合には、表面保護層3の光透過率を70%以上にすることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態の有機太陽電池では、基板1の上記一表面上に、正電極21に電気的に接続された外部接続電極(図示せず)と、負電極26に電気的に接続された外部接続電極26aとが形成されており、基板1の上記一表面側において有機太陽電池素子2の側面には、負電極26と外部接続電極26aとの接続部位と正電極21とを電気的に絶縁するための絶縁膜4が形成されている。
【0039】
また、図1に示した構成では、有機太陽電池素子2がホール輸送層22および電子輸送層24を備えており、正電極21/ホール輸送層22/混合層23/電子輸送層24/凹凸界面形成用電子輸送層25/負電極26の層構造を有しているが、有機太陽電池素子2の層構造は特に限定するものではなくて、少なくとも正極層21と負電極26との間に混合層23を備え、且つ、負電極26に接する凹凸界面形成用電子輸送層25を備えていればよく、例えば、正電極21/混合層23/凹凸界面形成用電子輸送層25/負電極26の層構造でもよいし、正電極21/ホール輸送層22/混合層23/凹凸界面形成用電子輸送層25/負電極26の層構造や、正電極21/混合層23/電子輸送層24/凹凸界面形成用電子輸送層25/負電極26の層構造などでもよい。
【0040】
ところで、本願発明者は、鋭意研究の結果、上述のように混合層23と負電極26との間で、負電極26との接触界面に凹凸を有する電子輸送層からなる凹凸界面形成用電子輸送層25を設けることにより、有機太陽電池の耐久性の向上がみられるという知見を得た。
【0041】
そこで、本実施形態の有機太陽電池では、負電極26の当該負電極26の下地に対する密着性を向上させ、且つ、発電時に混合層23で発生した電荷の蓄積を抑制することができるような凹凸を負電極26との接触界面に有する凹凸界面形成用電子輸送層25を設けてある。
【0042】
以下、上述の知見について、図2〜図4を参照しながら説明するが、図2、図3、図4は、それぞれ、下記の実施例1、実施例2、比較例の有機太陽電池について特性を測定した結果である。なお、実施例1,2および比較例では、電子輸送層24は設けていない。また、比較例では、凹凸界面形成用電子輸送層25の代わりに凹凸を設けていない電子輸送層を有している。
【0043】
実施例1,2の有機太陽電池は、基板1をガラス基板、正電極21をITO膜として、正電極21が形成された基板1の上記一表面側にホール輸送層22を形成した。ホール輸送層22の形成にあたっては、ホール輸送層22の材料をPEDOT:PSS(スタルク社製)、ホール輸送層22の膜厚を40nmとした。ここで、ホール輸送層22を形成する際の前処理としては、アセトン、イソプロピルアルコール、セミコクリーン、超純水で各10分間の超音波洗浄を行なった後、イソプロピルアルコールの蒸気で洗浄してから、乾燥させ、その後、UVオゾン洗浄機による表面清浄化処理を10分間行った。
【0044】
また、混合層23の形成にあたっては、電子供与性半導体としてP3HT(メルク社製、レジオレギュラータイプ)を、電子吸引性半導体(ホール供与性半導体)としてフラーレン誘導体であるPCBM(Solenne社製)を用い、P3HTとPCBMとを質量比1:0.7の割合で、1,2−ジクロロベンゼンとクロロホルムとを容積比6:4で混合した混合溶媒に溶解させた。そして、正電極21およびホール輸送層22を形成した基板1を露点−76℃以下、酸素1ppm以下のドライ窒素雰囲気のグローブボックスに移送し、ホール輸送層22上に、P3HTとPCBMとを混合溶媒に溶解させた溶液をスピンコートし、膜厚が200nmの混合層23を形成した。
【0045】
次に、正電極21、正孔輸送層22、混合層23を形成した基板1を、真空蒸着装置内に移送し、凹凸界面形成用電子輸送層25と負電極26とを真空蒸着法により順次形成した。凹凸界面形成用電子輸送層25の形成にあたっては、実施例1では、凹凸界面形成用電子輸送層25の材料としてフラーレンの一種であるC60を採用して、蒸着平均膜厚を3nmとし、実施例2では、凹凸界面形成用電子輸送層25の材料としてフラーレンの一種であるC70を採用して蒸着平均膜厚を3nmとした。また、比較例では、電子輸送層の材料としてフラーレンの一種であるC60を採用して、蒸着平均膜厚を1nmとした。ただし、これらの蒸着平均膜厚は、真空蒸着装置内に配置した水晶振動子にて計測した値であって、凹凸界面形成用電子輸送層25のように凹凸を有する場合には高さを平均した値となる。ここで、後述のように、実施例1,2における凹凸界面形成用電子輸送層25は、平均高さ5nm、平均径100nmのドーム状の凸状体25aを有し、比較例における電子輸送層は、ドーム状の凸状体25aを有しておらず比較的平坦な表面を有している。
【0046】
また、負電極26の形成にあたっては、真空蒸着法により、膜厚が0.5nmのフッ化リチウム膜と膜厚が80nmのAl膜との積層膜からなる負電極25を形成した。
【0047】
次に、正電極21、正孔輸送層22、混合層23、凹凸界面形成用電子輸送層25および負電極26を形成した基板1を、露点−76℃以下のドライ窒素雰囲気のグローブボックスに大気に暴露することなく搬送した。一方、吸水材として酸化カルシウムを練り込んだゲッタをガラス製の封止板に粘着剤で貼り付けるとともに、封止板の外周部には予め紫外線硬化樹脂製のシール剤を塗布しておき、グローブボックス内において基板1に封止板をシール剤で張り合わせ、紫外線でシール剤を硬化させることによって、板状の構造体である封止板からなる表面保護層3を形成した。
【0048】
上述の図2,3,4のイ〜ニは、それぞれ、実施例1,2および比較例の有機太陽電池について、エアマス1.5G、100mW/cmの擬似太陽光を基板1の上記他表面に照射して有機太陽電池素子2の太陽電池特性(イ:開放電圧(VOC)、ロ:短絡電流密度(JSC)、ハ:形状因子(FF)および、ニ:変換効率(PCE))の経時変化を測定した結果を示すものであり、図2,3から、実施例1,2のいずれも照射開始から8時間後の効率の維持率は90〜95%と高い値を示していることが分かる。これに対して、比較例では、図4から分かるように、変換効率(PCE)が8時間の光照射により88%まで低下している。要するに、実施例1,2では、比較例に比べて長寿命化を図れることが分かる。なお、図2〜4の太陽電池特性は、実施例1,2および比較例それぞれにおいて、照射開始時の値を1として規格化した値である。
【0049】
ここにおいて、実施例1,2それぞれの凹凸界面形成用電子輸送層25の表面形状、比較例の電子輸送層の表面形状を、AFM(原子間力顕微鏡)により観察した結果を図5,6,7に示す。図5,6,7は、(a)がAFM像図、(b)がAFM像の断面図である。図5,6から、実施例1,2における凹凸界面形成用電子輸送層25の表面形状は、平均高さ5nm、平均径100nmのドーム状の凸状体25aを有していることが確認され、図7から、比較例の電子輸送層の表面形状は、比較的平坦な表面形状となっていることが確認された。
【0050】
以上説明した本実施形態の有機太陽電池は、混合層23と負電極26との間に、負電極26との接触界面に凹凸を有する電子輸送性層からなる凹凸界面形成用電子輸送層25を設けてあることにより、長寿命化を図れるが、これは、混合層23と負電極26との間に存在する界面での密着性を向上でき、駆動時の発電に際して光吸収により発生した混合層23中の電荷が蓄積されるのを抑制して負電極26に効率良く移動させることができることにより、長寿命化を図れるものと考えられる。
【0051】
また、本実施形態の有機太陽電池では、凹凸界面形成用電子輸送性層25が、混合層23における負電極26側に形成された複数のドーム状の凸状体25aからなることにより、負電極26との接触界面の凹凸がストライプ状に形成されているような場合に比べて、電荷が通過する凹凸界面形成用電子輸送層25と負電極26との接触界面の面積を大きくすることができるから、電荷の蓄積の抑制効果が大きくなり、長寿命化を図れる。なお、凸状体25aの形状は、ドーム状に限らず、ドット状でもよく、凸状体25aの形状がドット状の場合もドーム状の場合と同様の効果が得られる。
【0052】
ところで、凹凸界面形成用電子輸送層25に用いる材料としては、化学構造的に安定なフラーレンC60やフラーレンC70などの電子輸送性の有機半導体材料が挙げられる。ここにおいて、凹凸界面形成用電子輸送層25を真空蒸着法により形成する際の蒸着平均膜厚は、太陽電池の電荷の蓄積を増大させない程度の厚みであること、かつ、表面に凹凸が形成されることが必要で、2nm〜5nmが好ましく、さらには、2.5nm〜4nmが特に好ましい。ここにおいて、蒸着平均膜厚が薄すぎると、比較例のように凹凸を形成できず、逆に厚すぎると凹凸構造の隙間が埋まって平坦な表面を有する連続膜となってしまい、負電極26との密着性が低くなり、電荷が界面に蓄積し太陽電池の寿命が低下することになる。
【0053】
また、凹凸界面形成用電子輸送層25の表面形状としては、負電極26を真空蒸着法などにより形成する場合に、負電極26により隙間なく覆う(微細なボイドが形成されることなく覆う)ことが容易な表面形状であることが必要であり、凸状体25aの形状は、断面矩形状である場合よりも台形状のようなテーパを有する形状が好ましく、さらには、ドーム状の形状が特に好ましい。
【0054】
また、凸状体25aのサイズは、負電極26により凹凸界面形成用電子輸送層25の凹凸を有する表面を隙間なく覆い(微細なボイドが形成されることなく覆い)、凹凸界面形成用電子輸送層25と負電極26とが互いに強固に密着することを可能とする凹凸界面形成用電子輸送層25の表面形状を可能とすることが必要で、平均高さ/平均径の比が1/20程度のもので、平均高さが3nm〜8nmのものが好ましく、さらには、有機太陽電池の発電時の電荷の拡散特性に鑑み、4nm〜6nmが特に好ましい。ここで、平均高さ/平均径の比が小さすぎると凹凸の高低差およびピッチが小さくなり、凹凸界面形成用電子輸送層25の表面が平坦になって密着性が低下し、寿命特性が低下してしまう。逆に、平均高さ/平均径の比が大きすぎると、負電極26を真空蒸着法などにより形成する際に、凹部への蒸着材料(負電極26の材料)の進入が難しくなってボイドが発生してしまい、有機太陽電池の発電時に発生した電荷がボイド付近に蓄積し、寿命特性が低下してしまう。
【0055】
要するに、本実施形態の有機太陽電池では、凸状体25aを、高さが4nm〜6nm、平均径が80nm〜120nmのドーム状に形成することにより、負電極26を凹凸界面形成用電子輸送層25と隙間なく密着させることができ、電荷の蓄積の抑制効果が大きくなり、長寿命化を図れる。
【符号の説明】
【0056】
1 基板
2 有機太陽電池素子
3 表面保護層
21 正電極(第1の電極)
22 ホール輸送層
23 混合層
24 電子輸送層
25 凹凸界面形成用電子輸送層
25a 凸状体
26 負電極(第2の電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホールを収集する第1の電極と電子を収集する第2の電極との間に、電子供与性半導体と電子吸引性半導体との混合層を有する有機太陽電池であって、混合層と第2の電極との間に、第2の電極との接触界面に凹凸を有する電子輸送層からなる凹凸界面形成用電子輸送性層を設けてなることを特徴とする有機太陽電池。
【請求項2】
前記凹凸界面形成用電子輸送性層は、前記混合層における前記第2の電極側に形成された複数のドーム状もしくはドット状の凸状体からなること特徴とする請求項1記載の有機太陽電池。
【請求項3】
前記凸状体は、高さが4nm〜6nm、平均径が80nm〜120nmのドーム状に形成されてなることを特徴とする請求項2記載の有機太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−114004(P2011−114004A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266169(P2009−266169)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「新エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム未来技術研究開発 タンデム型高効率・高耐久性有機薄膜太陽電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】