説明

有機性廃棄物の処理システムおよび方法

【課題】温暖化ポテンシャルの高い亜酸化窒素の大気中への放出を低減し、さらにメタン発酵液中の窒素含有量を低減して土壌や地下水の窒素汚染を低減することを簡単の構造によって実現することができる有機性廃棄物の処理システムを提供する。
【解決手段】メタン発酵槽で生じる発酵液を受けて硝化処理を行う硝化処理槽と、前記硝化処理槽の処理液を受けて脱窒処理を行う脱窒処理槽と、前記メタン発酵槽から発酵液を前記脱窒処理槽に送給可能にする発酵液送給ラインと、前記硝化処理槽内に酸素を供給する好気状態形成部と、前記脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位を求める第1センサーと、前記脱窒処理槽内の処理液のpHを求める第2センサーと、前記第1センサー及び第2センサーの検出結果に基いて、前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量と、前記硝化処理槽に供給する前記酸素の供給量とを調整する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵槽で生じる発酵液を受けて硝化処理を行う硝化処理槽と、前記硝化処理槽で消化処理された処理液(硝化後発酵液)を受けて脱窒処理を行う脱窒処理槽とを備える、硝化・脱窒法を利用した有機性廃棄物の処理システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6に基づいて、従来の有機性廃棄物の処理システムの構成を説明する。図6において、符号1はメタン発酵槽を示し、該メタン発酵槽1は家畜糞尿等の有機性廃棄物をメタン発酵する。メタン発酵によってバイオガスを生成すると共に、発酵液2が生じる。発酵液2は、次段の消化処理槽3に送られ好気的な硝化処理がなされて硝化発酵液4となる。ここで、硝化発酵液4は、前記発酵液2中のアンモニア態窒素がアンモニア酸化細菌及び亜硝酸酸化細菌による生物学的な酸化(硝化)を受けて亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素に変わっている状態のものである。符号5は消化処理槽3内を好気的状態に維持するためのエアレーション用のポンプを示し、符号B1、B2、B3は開閉弁を示す。
【0003】
硝化発酵液4は、次段の脱窒処理槽6に送られ嫌気的な脱窒処理を受けて脱窒発酵液7となる。ここで、脱窒発酵液7は、前記硝化発酵液4中の前記亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素が、酸素受容体である有機物の存在下、脱窒菌により生物学的な還元(脱窒)を受けて窒素ガスとなって放出された状態のものである。
【0004】
そして、脱窒発酵液7は、次段の調整槽8に送られ、好気的な条件で放出のための浄化処理がなされ、系外に放出される。符号9は調整槽8内を好気的状態に維持するためのエアレーション用のポンプを示す。
【0005】
しかし、脱窒処理槽6における脱窒処理は安定性に欠け、前記亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素が窒素ガス(N)になり切れずに、亜酸化窒素(NO)で反応が終わり、大気中に亜酸化窒素(NO)が放出される問題がある。亜酸化窒素(NO)は、二酸化炭素の320倍の温室効果ガスとしての高いポテンシャルを有すると言われており、更に大気中での寿命も長いため、地球温暖化防止の観点から、その発生量を削減することは重要な課題である。
【0006】
また、脱窒処理を抑制すると亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素を多く含む処理液を放出することになり、土壌や地下水の窒素汚染につながる問題がある。水資源の枯渇や湖沼などの富栄養化による水質劣化は深刻化してきており、自然生態系を守る意味でも窒素などを豊富に含有する水を浄化処理することが重要な課題となっている。特に、家畜糞尿による土壌や地下水に対する窒素汚染の問題は、重要な解決すべき課題となっている。
【0007】
そこで、上記問題に鑑み、従来においても特許文献1に記載のバイオリアクタが提供されている。このバイオリアクタは、アンモニア酸化細菌を担持した微生物電極の電極電位を制御することによって、アンモニアの亜硝酸化を行い、さらに亜硝酸とアンモニアから共脱窒を行えるようにして、亜酸化窒素の大気中への放出を低減し、さらに排水中の窒素含有量を低減し、窒素汚染の問題をなくすことが意図されている。
【特許文献1】特開2008−93585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、微生物電極の電極電位の制御や亜硝酸とアンモニアから窒素を生成する共脱窒反応を安定性をもって実行するには未だ改良すべき点が残されている。
【0009】
本発明の目的は、温暖化ポテンシャルの高い亜酸化窒素の大気中への放出を低減し、さらにメタン発酵の発酵液中の窒素含有量を低減して土壌や地下水の窒素汚染を低減することを簡単な構造によって実現することができる有機性廃棄物の処理システムおよび方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る有機性廃棄物の処理システムの第1の態様は、メタン発酵槽で生じる発酵液を受けて硝化処理を行う硝化処理槽と、前記硝化処理槽の処理液を受けて脱窒処理を行う脱窒処理槽と、前記メタン発酵槽から発酵液を前記脱窒処理槽に送給可能にする発酵液送給ラインと、前記硝化処理槽内に酸素を供給する好気状態形成部と、前記脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位を求める第1センサーと、前記脱窒処理槽内の処理液のpHを求める第2センサーと、前記第1センサー及び第2センサーの検出結果に基いて、前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量と、前記硝化処理槽に供給する前記酸素の供給量とを調整する制御部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明は、脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位とpHの値が、亜酸化窒素発生等の副反応が起こりにくい範囲内と言える酸化還元電位は水素基準電極で−300mV〜+400mV、pHは6.5〜9.0にあると、脱窒反応は高い収率で進行し、前記亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素は亜酸化窒素(NO)を生成せずほとんどが窒素ガスに変わり、同時に系外に放出する発酵液(最終処理液)中の窒素含有量も低減できるとの試験結果に基づくものである。この試験結果に基づいて、酸化還元電位Eの設定下限値Emin(例えば−300mV)と、設定上限値Emax(例えば+400mV)が決められ、更にpHの設定範囲(pH:例えば6.5〜9.0)が決められる。
【0012】
本発明において、脱窒処理槽内の処理液の前記酸化還元電位値が水素基準電極で−200mV〜+200V、前記pHが7.5〜8.0の範囲であると一層好ましい。更には、pHを横軸、酸化還元電位を縦軸にとったときに(6.5,+400mV)(9.0,+200mV)(9.0,−300mV)(6.5,−200mV)の四点で囲まれた範囲にするのがよい。
【0013】
本態様によれば、前記制御部が前記第1センサー(脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位)及び第2センサー(脱窒処理槽内の処理液のpH)の検出結果に基いて、前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量と、前記硝化処理槽に供給する前記酸素の供給量とを調整する。前記発酵液は、その酸化還元電位が水素基準電極で通常−200mVより卑であり、ほとんどが−300mVより卑である。pHは7.0〜9.0であり、ほとんどは7.5〜8.5である。
【0014】
従って、検出された前記酸化還元電位Eの値が設定下限値Emin以下のときは、前段の前記硝化処理槽に送る酸素の供給量を増やすことで、該硝化処理槽内の処理液の酸化還元電位を上昇させることができ、このように酸化還元電位が上昇した状態で処理液が次段の脱窒処理槽に送られることで、当該脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位を上昇することができる。
一方、検出された前記酸化還元電位Eの値が設定上限値Emax以上であるときは、前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に前記発酵液を送給することにより、当該発酵液の低い酸化還元電位によって脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位を下げることができる。
【0015】
また、前記検出されたpHの値が設定範囲(pH:6.5〜9.0)から外れているときは前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に前記発酵液を送給することで、当該発酵液のpH値(pH:7.5〜8.5)によって脱窒処理槽内の処理液のpHを修正することができる。
【0016】
すなわち、前記制御部が前記第1センサー(脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位)及び第2センサー(脱窒処理槽内の処理液のpH)の検出結果に基いて、前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量と、前記硝化処理槽に供給する前記酸素の供給量とを調整するので、脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位とpHの値を適正範囲内に保持した状態で、脱窒反応を進行させることができる。従って、温暖化ポテンシャルの高い亜酸化窒素(NO)の大気中への放出を低減し、さらに処理液(メタン発酵液)中の窒素含有量を低減して土壌や地下水の窒素汚染の問題を低減することを構造簡単にして実現することができる。
【0017】
また、脱窒菌による脱窒反応は、水素を利用しての還元反応であるため、反応の進行には水素供与体としての有機物が必要である。この有機物は前記発酵液中に豊富に含まれている。
本発明によれば、該発酵液が脱窒処理槽に送給されるため、別に水素供与体としての有機物を添加しなくても、前記発酵液中に含まれている有機物が水素供与体となって脱窒反応を進行させることができる。
【0018】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係る有機性廃棄物の処理システムにおいて、前記脱窒処理槽には有機物の供給部が設けられ、前記制御部によって前記有機物の供給量が調整されるように構成されていることを特徴とするものである。
【0019】
発酵液中に含まれている有機物の量は変動する。有機物が少ない場合には脱窒反応の効率が低下する虞がある。
本態様によれば、前記脱窒処理槽には例えばメタノール等の有機物の供給部が設けられているので、例えば該供給部から有機物の一定量を脱窒処理槽内に適宜供給するようにすることで、発酵液中の有機物の含有量の変動の影響を防止でき、水素供与体を不足無く存在させた状態で脱窒反応を安定して効率的に進行させることができる。しかも、供給部からの有機物の供給は、発酵液中に含まれる有機物が少ない場合にそれを補填することが主たる役割になるので、当該供給部からの有機物の供給量は少量に抑えることができ、コストアップを防止できる。
【0020】
本発明の第3の態様は、前記第1の態様又は第2の態様に係る有機性廃棄物の処理システムにおいて、前記硝化処理槽は、前記メタン発酵槽で生じる発酵液をpH調整剤として利用するように構成されていることを特徴とするものである。
【0021】
硝化処理槽内では、硝化反応の進行により発酵液のアルカリ度が消費されてpHが低下していく傾向がある。pHが低下すると硝化反応の効率が低下する。
本態様によれば、硝化処理槽は、前記メタン発酵槽で生じる発酵液をpH調整剤として利用するように構成されているので、硝化処理槽内の処理液のpHの低下を抑制でき、硝化反応を安定して進行させることができる。
【0022】
本発明の第4の態様は、前記第1の態様から第3の態様のいずれか一つに係る有機性廃棄物の処理システムにおいて、前記メタン発酵槽、前記硝化処理槽及び前記脱窒処理槽は、各槽に対応した処理液の滞留時間になるように各容積が個別に設定されていることを特徴とするものである。
【0023】
前記メタン発酵槽、前記硝化処理槽及び前記脱窒処理槽には、それぞれ最適な滞留時間があり、滞留時間として長時間を要する槽、短時間で足りる槽等がある。具体的には、前記メタン発酵槽の必要な滞留時間が、ある処理量に対して15日間である場合、同量の処理量に対して硝化処理槽での滞留時間は約1日、次の脱窒処理槽での滞留時間は半日程度で足りる場合が通常である。滞留時間が短時間でよいものは長時間要するものより容積を小さくすることが可能である。
本態様によれば、前記メタン発酵槽、前記硝化処理槽及び前記脱窒処理槽は、各槽に対応した処理液の滞留時間になるように各容積が個別に設定されているので、各槽が適切な容積に設定されており、無駄がなく効率的な処理システムを実現することができる。
【0024】
本発明の第5の態様は、前記第4の態様に係る有機性廃棄物の処理システムにおいて、前記メタン発酵槽、前記硝化処理槽及び前記脱窒処理槽は、単一の槽を分割して構成され、前記各槽は連通部によって互いに連通されていることを特徴とするものである。
【0025】
本態様によれば、前記メタン発酵槽、前記硝化処理槽及び前記脱窒処理槽は、単一の槽を分割して構成され、前記各槽は連通部によって互いに連通されているので、当該処理システムをコンパクト化することができる。更に、各槽の容積をそれぞれ最適に設定することを容易且つ構造簡単にして実行することができる。
【0026】
本発明の第6の態様に係る有機性廃スラリー処理方法は、メタン発酵槽で生じる発酵液を受けて硝化処理を行う硝化処理工程と、前記硝化処理工程を経た処理液を受けて脱窒処理を行う脱窒処理工程と、前記メタン発酵槽から発酵液を前記脱窒処理槽に送給する発酵液送給工程と、前記硝化処理槽内に酸素を供給する好気状態形成工程とを備え、前記脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位とpHを検出し、検出された前記酸化還元電位の値が設定下限値以下のときは前記硝化処理槽に送る酸素の供給量を増やし、前記値が設定上限値以上であるときは、前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量を増やし、前記検出されたpHの値が設定範囲外であるときは前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量を増やすことを特徴とするものである。
本態様によれば、前記第1の態様と同様の作用効果が得られる。
【0027】
ここで、「硝化処理槽に送る酸素の供給量を増やす」とは、酸素が全く供給されていない状態から供給を開始することと、酸素がある供給量で供給されている状態から更に供給量を増やすことの両方を含む意味で使われている。また、「メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量を増やす」における「発酵液の送給量を増やす」とは、発酵液が全く送給されていない状態から送給を開始することと、発酵液がある送給量で送給されている状態から更に送給量を増やすことの両方を含む意味で使われている。
【0028】
本発明の第7の態様は、前記第6の態様に係る有機性廃スラリー処理方法において、前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量を増やすときは、該脱窒処理槽に有機物を供給することを特徴とするものである。
本態様によれば、前記第2の態様と同様の作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、前記制御部が前記第1センサー(脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位)及び第2センサー(脱窒処理槽内の処理液のpH)の検出結果に基いて、前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量と、前記硝化処理槽に供給する前記酸素の供給量とを調整するので、脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位とpHの値を適正範囲内に保持した状態で、脱窒反応を進行させることができる。従って、温暖化ポテンシャルの高い亜酸化窒素(NO)の大気中への放出を低減し、さらに処理液(メタン発酵液)中の窒素含有量を低減して土壌や地下水の窒素汚染の問題を低減することを構造簡単にして実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
[第1の実施形態]
本発明に係る有機性廃棄物の処理システムおよび方法の第1の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る有機性廃棄物の処理システムの第1の実施形態を示す構成図、図2は同処理システムにおける制御部の制御内容を説明するフローチャートである。
【0031】
本実施の形態の有機性廃棄物の処理システムは、メタン発酵槽1で生じる発酵液2を受けて硝化処理を行う硝化処理槽3と、該硝化処理槽3の硝化処理液4を受けて脱窒処理を行う脱窒処理槽6と、前記メタン発酵槽1から発酵液2を前記脱窒処理槽6に送給可能にする発酵液送給ライン10と、前記硝化処理槽3内に酸素を供給する好気状態形成部5と、前記脱窒処理槽6の次段設けられた調整槽8とを備えている。調整槽8は図5に示した従来のものと同様の構造である。
【0032】
メタン発酵槽1は、家畜糞尿等の有機性廃棄物を原料としてメタン発酵する。発酵温度は中温発酵(至適温度:約37℃)、高温発酵(至適温度:約55℃)、さらに高温の発酵(約60〜70℃)のいずれも適用できる。メタン発酵槽1では、メタン発酵によってバイオガス(CH、CO)を生成すると共に、発酵液2が生じる。発酵液2は有機廃棄物の発酵残渣であり、窒素がアンモニア態窒素(NH又はNH4+)や有機態窒素(ケルダール窒素)の形で含まれている。発酵液2は、その酸化還元電位は水素基準電極で通常−200mVより卑であり、ほとんどが−300mVより卑である。pHは7.0〜9.0であり、ほとんどは7.5〜8.5である。
【0033】
硝化処理槽3は、メタン発酵槽1から発酵液2が送られ、該発酵液2に対して好気的な硝化処理を行い硝化処理液4とする。硝化処理液4は、前記発酵液2中のアンモニア態窒素がアンモニア酸化細菌及び亜硝酸酸化細菌による生物学的な酸化(硝化)を受けて亜硝酸態窒素(NO)及び硝酸態窒素(NO)に変わっている状態のものである。
【0034】
脱窒処理槽6は、前記硝化処理槽3から硝化処理液4が送られ、該硝化処理液4に対して嫌気的な脱窒処理を行い脱窒処理液7とする。脱窒処理液7は、前記硝化処理液4中の前記亜硝酸態窒素(NO)及び硝酸態窒素(NO)が、酸素受容体である有機物の存在下、脱窒菌により生物学的な還元(脱窒)を受けて窒素ガスとなって放出された状態のものである。
【0035】
前記発酵液送給ライン10には発酵液2を送給するためのポンプ11が設けられている。また、好気状態形成部5は、エアレーション用のポンプから成り、硝化処理槽3内に空気を供給することで、好気状態を形成するようになっている。ポンプ11およびエアレーション用のポンプ5のいずれも、後述する制御部14から制御信号が送られて、その操作が制御されるようになっている。
【0036】
更に、本実施の形態の有機性廃棄物の処理システムは、前記脱窒処理槽6内の脱窒処理液7の酸化還元電位を求める酸化還元電位計である第1センサー12と、前記脱窒処理槽6内の脱窒処理液7のpHを求めるpH計である第2センサー13と、前記第1センサー12及び第2センサー13の検出結果に基いて、前記メタン発酵槽1から前記脱窒処理槽6に送る前記発酵液2の送給量と、前記硝化処理槽3に供給する前記酸素の供給量とを調整する制御部14とを備えている。
【0037】
制御部14は、その記憶部(図示せず)に、前記脱窒処理槽6内の脱窒処理液7の酸化還元電位とpHを適正範囲に保持できるように制御を実行するための酸化還元電位Eの設定下限値Emin(−300mV)と、設定上限値Emax(+400mV)、更にpHの設定範囲(pH:7.5〜8.5)が記憶されている。尚、この数値に限定されないことは勿論であり、その目的を達成できる範囲において変更できる。
【0038】
次に、図2のフローチャートに基づいて制御部14の制御内容を説明しつつ、本実施の形態に係る有機性廃棄物の処理システムの作用を説明する。
先ず、前記脱窒処理槽6内の脱窒処理液7のその時点における酸化還元電位EとpHを、第1センサー12と第2センサー13により検出する(ステップS1)。制御部14は、検出された前記酸化還元電位Eの値が設定下限値Emin以下のときは(ステップS2)、前記エアレーション用のポンプ5に制御信号を送り、前段の前記硝化処理槽3に送る前記酸素の供給量を増やす(ステップS3)ことで、該硝化処理槽3内の硝化処理液4の酸化還元電位Eを上昇させる。このように酸化還元電位Eが上昇した状態で硝化処理液4が次段の脱窒処理槽6に送られることで、当該脱窒処理槽6内の脱窒処理液7の酸化還元電位Eが上昇する。脱窒処理液7の酸化還元電位Eが上昇して、E>Eminとなったときは(ステップS4)、前記酸素の供給量を初期状態に戻す(ステップS5)。
【0039】
一方、検出された前記酸化還元電位Eの値が設定上限値Emax以上であるときは(ステップS2)、制御部14は、ポンプ11に制御信号を送り、前記メタン発酵槽1から前記脱窒処理槽6に送る前記発酵液2の送給量を増やす(ステップS6)ことにより、当該発酵液2の低い酸化還元電位によって脱窒処理槽6内の脱窒処理液7の酸化還元電位を下げることができる。これにより、脱窒処理液7の酸化還元電位Eが小さくなって、E<Emaxとなったときは(ステップS7)、前記発酵液2の送給量を初期状態に戻す(ステップS8)。
【0040】
ステップS2において、検出された前記酸化還元電位Eの値がEmin≦E≦Emaxであるときは、現状維持となる(ステップS9)。
【0041】
また、前記検出されたpHの値が設定範囲(pH:7.5〜8.5)から外れているときは(ステップS10)、前記メタン発酵槽1から前記脱窒処理槽6に送る前記発酵液2の送給量を増やす(ステップS11)ことで、当該発酵液2のpH値(pH:7.5〜8.0)によって脱窒処理槽6内の脱窒処理液7のpHを修正することができる。これにより、脱窒処理液7のpHの値が設定範囲(pH:7.5〜8.5)内になったときは(ステップS12)、前記発酵液2の送給量を初期状態に戻す(ステップS13)。
【0042】
ステップ10において、検出されたpHの値が設定範囲(pH:7.5〜8.5)内であるときは、現状維持となる(ステップS14)。
【0043】
[第2の実施形態]
本発明に係る有機性廃棄物の処理システムおよび方法の第2の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図3は本発明に係る有機性廃棄物の処理システムの第2の実施形態を示す構成図、図4は同処理システムにおける制御部の制御内容を説明するフローチャートである。
【0044】
本実施の形態の有機性廃棄物の処理システムにおいては、前記脱窒処理槽6には有機物であるメタノールの供給部20が設けられ、前記制御部14によって前記メタノールの供給量が調整されるように構成されている。
【0045】
発酵液2中に含まれている有機物の量は有機性廃棄物の種類や状態によって変動する。有機物が少ない場合には脱窒処理槽6における脱窒反応の効率が低下する虞がある。
この実施の形態では、前記脱窒処理槽6にはメタノールの供給部20が設けられているので、例えば該供給部20からメタノールの一定量を脱窒処理槽6内に適宜供給するようにしておくことで、発酵液2中の有機物の含有量が少なくて、それだけでは水素供与体の量が不足するような場合でも、その影響を防止できる。すなわち、水素供与体を不足無く存在させた状態で脱窒反応を安定して効率的に進行させることができる。ここで、供給部20からのメタノールの供給は、発酵液2中に含まれる有機物が少ない場合にそれを補填することが主たる役割になるので、当該供給部20からのメタノールの供給量は少量に抑えることができ、コストアップを防止できる。
【0046】
更に、本実施の形態の有機性廃棄物の処理システムにおいては、前記硝化処理槽3は、前記メタン発酵槽1で生じる発酵液2をpH調整剤として利用するように構成されている。具体的には、pH計30を備えており、該pH計によって測定されたpHの値が小さい(酸性)ときは、制御部14から開閉弁B1に制御信号が送られて、発酵液2が硝化処理槽3内に流入するように構成されている。
【0047】
硝化処理槽3内では、硝化反応の進行により発酵液2のアルカリ度が消費されてpHが低下していく傾向があり、pHが低下すると硝化反応の効率が低下する。
本実施の形態では、硝化処理槽3は、前記メタン発酵槽1で生じる発酵液2をpH調整剤として利用するので、硝化処理槽3内の硝化処理液4のpHの低下を防止でき、硝化反応を安定して進行させることができる。
【0048】
その他の構成は、図1に示した第1の実施形態と同様なので、同一部分に同一符号を付して、その説明は省略する。
図4のフローチャートも、第1の実施形態におけるステップS2とステップS6の間、およびにステップS10とステップS11の間に、メタノール(有機物)を脱窒処理槽6内に一定量供給する工程(ステップ21)(ステップ22)がそれぞれ追加されたことの他に違いはないため、図示をもって説明は省略する。
【0049】
[第3の実施形態]
本発明に係る有機性廃棄物の処理システムおよび方法の第3の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図5は本発明に係る有機性廃棄物の処理システムの第3の実施形態を示す構成図である。
【0050】
本実施の形態の有機性廃棄物の処理システムにおいては、前記メタン発酵槽1、前記硝化処理槽3及び前記脱窒処理槽6、更に調整槽8は、各槽1,3,6,8に対応した処理液の滞留時間になるように各容積が個別に設定されている。本実施例では、更に、前記メタン発酵槽1、前記硝化処理槽3及び前記脱窒処理槽6、更に調整槽8は、単一の槽15を分割して構成されている。そして、前記各槽1,3,6,8は連通部17,18,19によって互いに連通されている。
【0051】
尚、前記メタン発酵槽1、前記硝化処理槽3及び前記脱窒処理槽6、更に調整槽8は、図5の実施例のように単一の槽15で構成されるのではなく、各容積が前記の如く個別に設定された別個の槽でそれぞれ形成され、各槽1,3,6,8がそれぞれ連通流路で連通されている構成でもよい。
【0052】
前記メタン発酵槽1の必要な滞留時間が、ある処理量に対して15日間である場合、同量の処理量に対して硝化処理槽3での滞留時間は約1日、次の脱窒処理槽6での滞留時間は半日程度、更に調整槽8では8時間程度で足りる。滞留時間が短時間でよいものは長時間要するものより容積を小さくすることが可能である。
【0053】
そこで、本実施例では、前記メタン発酵槽1、前記硝化処理槽3及び前記脱窒処理槽6、更に調整槽8は、各槽1,3,6,8に対応した処理液の滞留時間になるように各容積が図5に示した如く、大小異ならせて最適な大きさで個別に設定されている。これにより、無駄がなく効率的な処理システムが実現されている。
【0054】
更に、本実施例では、上記したように前記メタン発酵槽1、前記硝化処理槽3及び前記脱窒処理槽6、更に調整槽8は、単一の槽15を分割して構成されているので、当該処理システムをコンパクト化することができ、当該知りシステムの運転管理、及びメンテナンスが簡単に行えるようになっている。
尚、図5において、制御部14は図示を省略されている。
【0055】
[実施例1]
廃乳を主成分とする有機性スラリー(トータル窒素:800mg/L)を第3の実施の形態の有機性廃棄物の処理システムで処理した。該有機性スラリーはメタン発酵槽1へ3L/日の割合で供給した。メタン発酵槽1(発酵温度55℃、容量50L)における滞留時間は15日間、硝化処理槽3(容量3L)における滞留時間は1日間、脱窒処理槽6(容量1.5L)における滞留時間は半日、調整槽8(容量1L)における滞留時間は8時間となるように設定されている。調整槽8から放出された最終処理液のトータル窒素を測定したところ30mg/Lに減少し、また脱窒処理槽6から放出される気体中の亜酸化窒素濃度は10ppb以下であった。
【0056】
尚、メタン発酵槽1、硝化処理槽3、脱窒処理槽6、調整槽8の四槽の容量を同じにして、各槽における滞留時間を同じに設定してもよい。
【0057】
[実施例2]
搾乳牛の糞尿(トータル窒素:0.44wt%)を第1の実施の形態の有機性廃棄物の処理システムで処理した。該有機性スラリーはメタン発酵槽1へ2L/日の割合で供給し、メタン発酵槽1、硝化処理槽3、脱窒処理槽6、調整槽8の各槽における滞留時間は実施例1と同じになるように設定した。調整槽8から放出された最終処理液のトータル窒素は0.08wt%に減少し、脱窒処理槽6から放出される気体中の亜酸化窒素濃度は10ppbであった。
【0058】
[比較例]
搾乳牛の糞尿(トータル窒素:0.44wt%)を図5の従来構造の有機性廃棄物の処理システムで処理した。該有機性スラリーはメタン発酵槽1へ3L/日の割合で供給し、メタン発酵槽1、硝化処理槽3、脱窒処理槽6、調整槽8の各槽における滞留時間は実施例1と同じになるように設定した。調整槽8から放出された最終処理液のトータル窒素は0.29wt%であり、脱窒処理槽6から放出される気体中の亜酸化窒素濃度は6200ppmであった。
【0059】
[実施例3]
活性汚泥の余剰汚泥(トータル窒素:0.2wt%)を第1の実施の形態の有機性廃棄物の処理システムで処理した。該活性汚泥の余剰汚泥はメタン発酵槽1へ2L/日の割合で供給し、メタン発酵槽1、硝化処理槽3、脱窒処理槽6、調整槽8の各槽における滞留時間は実施例1と同じになるように設定した。調整槽8から放出された最終処理液のトータル窒素は0.03wt%に減少し、脱窒処理槽6から放出される気体中の亜酸化窒素濃度は5ppbであった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、メタン発酵槽で生じる発酵液を受けて硝化処理を行う硝化処理槽と、前記硝化処理槽の処理液(硝化後発酵液)を受けて脱窒処理を行う脱窒処理槽とを備える、硝化・脱窒法を利用した有機性廃棄物の処理システム及び方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る有機性廃棄物の処理システムの第1の実施形態を示す構成図である。
【図2】同処理システムにおける制御部の制御内容を説明するフローチャートである。
【図3】本発明に係る有機性廃棄物の処理システムの第2の実施形態を示す構成図である。
【図4】同処理システムにおける制御部の制御内容を説明するフローチャートである。
【図5】本発明に係る有機性廃棄物の処理システムの第3の実施形態を示す構成図である。
【図6】従来の有機性廃棄物の処理システムの構成図である。
【符号の説明】
【0062】
1 メタン発酵槽、 2 発酵液、 3 硝化処理槽、 4 硝化処理液、 5 好気状態形成部、 6 脱窒処理槽、 7 脱窒処理液、 8 調整槽、 9 ポンプ、 10 発酵液送給ライン、 11 ポンプ、 12 第1センサー(酸化還元電位計)、 13 第2センサー(pH計)、 14 制御部、 15 単一の槽、 17,18,19 連通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵槽で生じる発酵液を受けて硝化処理を行う硝化処理槽と、
前記硝化処理槽の処理液を受けて脱窒処理を行う脱窒処理槽と、
前記メタン発酵槽から発酵液を前記脱窒処理槽に送給可能にする発酵液送給ラインと、
前記硝化処理槽内に酸素を供給する好気状態形成部と、
前記脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位を求める第1センサーと、
前記脱窒処理槽内の処理液のpHを求める第2センサーと、
前記第1センサー及び第2センサーの検出結果に基いて、前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量と、前記硝化処理槽に供給する前記酸素の供給量とを調整する制御部と、を備えていることを特徴とする有機性廃棄物の処理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の有機性廃棄物の処理システムにおいて、
前記脱窒処理槽には有機物の供給部が設けられ、
前記制御部によって前記有機物の供給量が調整されるように構成されていることを特徴とする有機性廃棄物の処理システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の有機性廃棄物の処理システムにおいて、
前記硝化処理槽は、前記メタン発酵槽で生じる発酵液をpH調整剤として利用するように構成されていることを特徴とする有機性廃棄物の処理システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の有機性廃棄物の処理システムにおいて、
前記メタン発酵槽、前記硝化処理槽及び前記脱窒処理槽は、各槽に対応した処理液の滞留時間になるように各容積が個別に設定されていることを特徴とする有機性廃棄物の処理システム。
【請求項5】
請求項4に記載の有機性廃棄物の処理システムにおいて、
前記メタン発酵槽、前記硝化処理槽及び前記脱窒処理槽は、単一の槽を分割して構成され、前記各槽は連通部によって互いに連通されていることを特徴とする有機性廃棄物の処理システム。
【請求項6】
メタン発酵槽で生じる発酵液を受けて硝化処理を行う硝化処理工程と、
前記硝化処理工程を経た処理液を受けて脱窒処理を行う脱窒処理工程と、
前記メタン発酵槽から発酵液を前記脱窒処理槽に送給する発酵液送給工程と、
前記硝化処理槽内に酸素を供給する好気状態形成工程と、を備え、
前記脱窒処理槽内の処理液の酸化還元電位とpHを検出し、
検出された前記酸化還元電位の値が設定下限値以下のときは前記硝化処理槽に送る前記酸素の供給量を増やし、前記値が設定上限値以上であるときは、前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量を増やし、
前記検出されたpHの値が設定範囲外であるときは前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量を増やすことを特徴とする有機性廃棄物の処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の有機性廃棄物の処理方法において、
前記メタン発酵槽から前記脱窒処理槽に送る前記発酵液の送給量を増やすときは、該脱窒処理槽に有機物を供給することを特徴とする有機性廃棄物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−110706(P2010−110706A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286306(P2008−286306)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】