説明

有機性廃棄物の処理方法

【課題】従来にないレベルでアンモニアを除去した状態でメタン発酵を行い、優れたメタン発酵効率を達成する。
【解決手段】プロテアーゼを産生する好熱性細菌により有機性廃棄物を処理する工程と、上記工程によって処理された有機性廃棄物とアンモニア成分とを分離する工程と、上記工程によってアンモニア成分と分離された有機性廃棄物を原料としてメタン発酵を行う工程とを含む、有機性廃棄物の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物を用いてメタン発酵を行う工程を含む当該有機性廃棄物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生ゴミ等のタンパク質を含む固形の有機性廃棄物をメタン発酵することによって、メタンガスを回収するとともに最終的な廃棄物量を低減するシステムが、循環型社会システムの形成に向けて実用化されつつある。メタン発酵は、Methanosarcina属等のメタン生成古細菌等によって進行するが、有機性廃棄物に含まれるタンパク質の分解に伴って生成されるアンモニアによって当該細菌を阻害するといった問題がある。そこで、有機性廃棄物に水を加えて当該細菌によるメタン発酵を阻害しない程度までアンモニア濃度を低下させる手法が考えられるが、有機性廃棄物の投入量に対し発酵処理量が大量になり、また発酵後に水処理施設が必要となるため、建設コスト、維持管理コストが高くなる。
【0003】
一方、メタン発酵の前処理として、超好熱嫌気性菌を用いて有機性廃棄物に含まれる有機物を分解する技術が特許文献1(特開2003-326237号公報)に開示されている。また、特許文献1には、有機物を分解する設備にアンモニア回収装置を付属させることが開示されている。しかし、特許文献1は、超好熱嫌気性菌を用いて有機性廃棄物を分解、可溶化するといった特徴が開示されているものの、当該超好熱嫌気生菌の具体例が何ら開示されていない。したがって、特許文献1に開示された技術において、超好熱嫌気生菌は有機性廃棄物を分解、可溶化する際にアンモニアを生成するのか否か不明である。
【0004】
また、特許文献2(特開2006-205017号公報)には、有機性廃棄物を可溶化し、アンモニア及び水素を生成させ、生成したアンモニア及び水素を除去し、アンモニア及び水素が除去された可溶化有機性廃棄物をメタン発酵処理するといった技術が開示されている。特許文献2に開示された技術では、有機性廃棄物を可溶化するに際して56〜80℃の温度条件を採用しており、これによりアンモニアの生成速度を速めると行った特徴が開示されている。また、特許文献2に開示された技術では、この温度条件に見合った微生物を用いることが開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2のいずれにおいても、有機性廃棄物を処理する細菌が生成するアンモニア成分を最も効果的に除去する技術が開示されていない。これら特許文献1及び2を参照しても、メタン発酵工程を含む有機性廃棄物処理方法において、優れたメタン発酵効率を達成することができないといった問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2003-326237号
【特許文献2】特開2006-205017号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題に鑑み、従来にないレベルでアンモニアを除去した状態でメタン発酵を行い、優れたメタン発酵効率を達成することができる有機性廃棄物の処理方法、有機性廃棄物処理システム、バイオガス製造方法及びバイオガス製造システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、プロテアーゼを産生する好熱性細菌を使用することによって有機性廃棄物に含まれるタンパク質成分に由来するアンモニア成分を大量に生成させることができ、生成したアンモニア成分を分離した後にメタン発酵を行うことによってメタン発酵を安定して行えるといった知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
【0010】
(1)プロテアーゼを産生する好熱性細菌により有機性廃棄物を処理する工程と、上記工程によって処理された有機性廃棄物とアンモニア成分とを分離する工程と、上記工程によってアンモニア成分と分離された有機性廃棄物を原料としてメタン発酵を行う工程とを含む、有機性廃棄物の処理方法。
【0011】
(2)上記好熱性細菌は、Pyrococcus属に属する細菌、Staphyrothermus属に属する細菌及びThermococcus属に属する細菌から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする(1)記載の有機性廃棄物の処理方法。
【0012】
(3)上記好熱性細菌はThermococcus sp. CMI株(受託番号NITE P-261)であることを特徴とする(1)記載の有機性廃棄物の処理方法。
【0013】
(4)上記微生物を用いて有機性廃棄物を処理する工程は60〜100℃の温度条件で行うことを特徴とする(1)記載の有機性廃棄物の処理方法。
【0014】
本発明に係る有機性廃棄物の処理方法においては、プロテアーゼを産生し、かつアミノ酸やペプチドを炭素源かつエネルギー源として資化する好熱性細菌を使用することによって、有機性廃棄物に含まれるタンパク質成分をアミノ酸に分解し、そのアミノ酸を炭素源として利用することからアンモニアを生成することができる。したがって、本発明に係る有機性廃棄物の処理方法においては、メタン発酵を行う工程において、メタン発酵の阻害要因の1つであるアンモニア成分の濃度が非常に低い状態を維持することとなる。これにより、本発明に係る有機性廃棄物の処理方法においては、メタン発酵を安定して行うことができる。
【0015】
また、本発明によれば、上述した有機性廃棄物の処理方法に更に、メタン発酵によって生成したメタンガスを主成分とするバイオガスを回収する工程を含むバイオガスの製造方法を提供することができる。
【0016】
さらに、本発明によれば、上述した有機性廃棄物の処理方法と同様な技術思想として有機性廃棄物処理システムを提供することができる。すなわち、本発明に係る有機性廃棄物処理システムは、プロテアーゼを産生する好熱性細菌により有機性廃棄物を処理するプロテアーゼ処理槽と、上記プロテアーゼ処理槽で処理された有機性廃棄物とアンモニア成分とを分離するアンモニア分離装置と、上記アンモニア分離装置においてアンモニア成分と分離された有機性廃棄物を原料としてメタン発酵を行うメタン発酵槽とを備えている。
【0017】
なお、上記好熱性細菌としては、Pyrococcus属に属する細菌、Staphyrothermus属に属する細菌及びThermococcus属に属する細菌から選ばれる少なくとも一種を使用することが好ましい。特に上記好熱性細菌としてはThermococcus sp. CMI株(受託番号NITE P-261)を使用することが好ましい。また、上記プロテアーゼ処理槽は、槽内を60〜100℃の温度条件で稼働することが好ましい。
【0018】
さらにまた、本発明によれば、上述した有機性廃棄物処理システムに更に、上記メタン発酵槽で生成されたメタンを主成分とするバイオガスを回収して蓄積するバイオガス貯留槽を備えるバイオガス製造システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有機性廃棄物を用いてメタン発酵を行うに際して、メタン発酵を安定的に行うことができる。したがって、本発明によれば、有機性廃棄物を利用して効率よくメタンガスを主成分として製造することができるバイオガス製造法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0021】
本発明を適用した有機性廃棄物処理システムにおけるシステムフローの一例を図1に示す。図1に示すように、有機性廃棄物処理システムは、プロテアーゼを産生する好熱性細菌により有機性廃棄物を処理する工程を実行するためのプロテアーゼ処理槽1と、プロテアーゼ処理槽1で処理された有機性廃棄物とアンモニア成分とを分離する工程とを実行するためのアンモニア分離装置2と、アンモニア分離装置2でアンモニア成分と分離された有機性廃棄物を原料としてメタン発酵を行う工程を実行するためのメタン発酵槽3とを備えている。
【0022】
プロテアーゼ処理槽1においては、有機性廃棄物を好熱性細菌によって処理する。有機性廃棄物としては、特に限定されないが、水産加工廃棄物、漁業系廃棄物、生ごみ、都市下水汚泥、食品廃棄物、家畜糞尿及び下水余剰汚泥等を挙げることができる。有機性廃棄物としては、水産加工工場、漁港、食品工場及び各種工場等から排出された状態のものを使用することができる。また、有機性廃棄物としては、本発明に係る有機性廃棄物処理システムに適用する前に水分含量を調節するような前処理、所望の大きさまで粉砕するような前処理等を適宜行ったものであっても良い。
【0023】
本発明において、好熱性細菌としては、プロテアーゼを産生して有機性廃棄物に含まれるタンパク質成分を分解する能力を有するものが使用される。このような好熱性細菌であれば、特に限定されることなく使用することができる。好熱性細菌としては、Pyrococcus属に属する細菌、Staphyrothermus属に属する細菌及びThermococcus属に属する細菌等を例示することができる。また、好熱性細菌としては、一種類を使用しても良いし、多種類を同時又連続的に使用しても良い。
【0024】
好熱性細菌の産生するプロテアーゼとしては、特に耐熱性プロテアーゼであることが好ましい。ここで、耐熱性プロテアーゼとは、タンパク質分解活性の至適温度範囲が例えば60℃以上、好ましくは60〜90℃、より好ましくは70〜90℃、最も好ましくは80〜90℃であるプロテアーゼを意味する。タンパク質分解活性の至適温度範囲が60℃以上であれば、上述した有機性廃棄物に付着した細菌等の増殖を防止することができ、プロテアーゼ処理槽1内部における好熱性細菌の寡占状態を維持することができる。その結果、有機性廃棄物に対するプロテアーゼ処理が安定的に効率よく進行することとなる。
【0025】
このような耐熱性プロテアーゼとしては、特に限定されないが、例えば表1に示すような種類を挙げられる。
【0026】
【表1】

【0027】
特に、本発明に係る有機性廃棄物処理システムにおいては、好熱性細菌として、耐熱性プロテアーゼを産生して、タンパク質分解能に優れたThermococcus sp. strain CMI(以下、単にCMI株と称する場合もある)を使用することが好ましい。このThermococcus sp. strain CMIは(独)製品評価技術基盤機構に受託番号NITE P-261として寄託されている。
【0028】
また、CMI株以外にも、耐熱性プロテアーゼを産生してタンパク質分解能に優れた好熱性細菌としては、Thermococcus sp. strain MI-3、Thermococcus sp. strain MI-2、Thermococcus sp. strain MI-6、Thermococcus sp. strain Ku-9、Thermococcus sp. strain MI-4 Thermococcus sp. strain、Thermococcus sp. strain TW-1 tc-2株Thermococcus sp. strainを挙げることができる(以下、単にMI-3株等と称する場合もある)。
【0029】
本発明に係る有機性廃棄物処理システムでは、上述のような好熱性細菌を用いて処理対象の有機性廃棄物をプロテアーゼ処理槽1内部で処理する。このとき、プロテアーゼ処理槽1は、その内部温度が、好熱性細菌由来のプロテアーゼによるタンパク質分解活性の至適温度範囲になるように温度制御することが好ましい。例えば、耐熱性プロテアーゼを産生する好熱性細菌を使用する場合、プロテアーゼ処理槽1の内部は、例えば60〜100℃の温度範囲、好ましくは60〜90℃の温度範囲、より好ましくは70〜90℃の温度範囲、最も好ましくは80〜90℃の温度範囲となるように温度制御する。このようにプロテアーゼ処理槽1を60〜100℃の温度範囲に制御することによって、有機性廃棄物に付着していた細菌等の増殖を防止することができる。特に、プロテアーゼ処理槽1を80℃を超える温度、例えば85℃に制御した場合には、有機性廃棄物に付着していた細菌の増殖を確実に防止できると同時に、好熱性細菌由来の耐熱性プロテアーゼによるタンパク質分解活性を高く維持することができる。したがって、プロテアーゼ処理槽1内を80℃を超える温度、例えば85℃に制御することによって、有機性廃棄物に含まれるタンパク質成分を非常に効率よく分解処理することができる。
【0030】
プロテアーゼ処理槽1の温度制御の方法や手段としては、特に限定されないが、例えば、詳細を後述するメタン発酵槽3から生成されたメタンガスをコージェネ利用する際ら得られる熱を利用したり、本発明に係る有機性廃棄物処理システムから最終的に排出される残査を処理するための溶融炉や燃焼室並びにボイラーからの熱を利用することができる。なお、これら溶融炉や燃焼室並びにボイラーについては、図1に示していないが、これら施設は本発明に係る有機性廃棄物処理システムに併設することができる。すなわち、本発明に係る有機性廃棄物処理システムは、これら溶融炉や燃焼室並びにボイラーを含むものであっても良い。
【0031】
また、プロテアーゼ処理槽1内部は、使用する好熱性細菌に由来するプロテアーゼによるタンパク質分解活性を高く維持するために、各種条件を調整することが好ましい。各種条件としては、例えば、プロテアーゼ処理槽1内部の嫌気性及びpH等を挙げることができる。好熱性細菌としてCMI株を使用する場合、プロテアーゼ処理槽1内部の嫌気性を維持するとともにpHを6.5〜7.0に維持することが好ましい。さらに、プロテアーゼ処理槽1は、有機性廃棄物と好熱性細菌とを効率的に接触させるため、撹拌手段を備えていることが好ましい。
【0032】
以上、説明したようにプロテアーゼ処理槽1によれば、好熱性細菌由来のプロテアーゼによって有機性廃棄物に含まれるタンパク質成分がアミノ酸或いはペプチドに分解される。生成したアミノ酸或いはペプチドは好熱性細菌によって資化され、脂肪酸及びアンモニアが生成される。言い換えると、プロテアーゼ処理槽1によれば、有機性廃棄物中の窒素含有量を大幅に低減させることができる。
【0033】
次に、本発明に係る有機性廃棄物処理システムでは、プロテアーゼ処理槽1で処理された有機性廃棄物とアンモニア成分とを分離する。言い換えると、本発明に係る有機性廃棄物処理システムでは、メタン発酵槽3に供給する有機性廃棄物として、アンモニア成分を除去した有機性廃棄物を準備する。有機性廃棄物とアンモニア成分とを除去する方法及び手段としては、何ら限定されず、従来公知の方法及び装置を適用することができる。
【0034】
例えば、アンモニアストリッピング法、担体に吸着させる方法、化学反応を利用してアンモニアを窒素に変換する方法等を挙げることができる。本発明に係る有機性廃棄物処理システムにおいて、アンモニア分離装置2とは、これらの方法を適用して有機性廃棄物とアンモニアとを分離する装置である。
【0035】
アンモニアストリッピング法を適用したアンモニア分離装置2としては、プロテアーゼ処理槽1による処理後の有機性廃棄物のpHをアルカリ側に調整する手段と、その後、スチームや空気等のガスを供給する手段とを備えている。有機性廃棄物に含まれるアンモニウムイオンは、pHをアルカリ側に調整することでアンモニアに変換され、ガスにより気相へと排出される。このようにしてアンモニア分離装置2によれば、有機性廃棄物に含まれるアンモニア成分を分離することができる。なお、アンモニア分離装置2は、分離した後のアンモニアを回収する回収装置を備えていても良い。
【0036】
以上のようにして、有機性廃棄物とアンモニアとを分離することができ、その結果、処理対象の有機性廃棄物の窒素含有量を大幅に低減させることができる。その後、本発明に係る有機性廃棄物処理システムでは、メタン発酵槽3において有機性廃棄物を原料としてメタン発酵を行う。メタン発酵槽3に供給される有機性廃棄物には、上述した一連の工程を経ることによって好熱性細菌がタンパク質成分から生成した低級脂肪酸が含まれている。有機性廃棄物に含まれる低級脂肪酸は、そのままメタン生成微生物によってメタン発酵の基質として利用されるか、又は他の微生物の基質として利用されメタン生成微生物によるメタン発酵の基質に変換される。メタン生成微生物は、水素及びギ酸を基質とするもの、或いは酢酸を基質とするものが知られている。したがって、メタン発酵の基質としては、水素、ギ酸及び酢酸を挙げることができる。
【0037】
ここで、メタン生成微生物としては、メタン発酵能を有する微生物であれば特に限定されず、例えば、Methanobacterium属に属する細菌や、Methanobrevibacter属に属する細菌、Methanococcus属に属する細菌、Methanomicrobium属に属する細菌、Methanogenium属に属する細菌、Methanospirillum属に属する細菌、Methanosarcina属に属する細菌(酢酸資化性メタン生成古細菌)、Methanosaeta属に属する細菌(酢酸資化性メタン生成古細菌)等を挙げることができる。本発明に係る有機性廃棄物処理システムにおいては、これらメタン生成微生物のいずれを単独で使用しても良いし、複数種類を組み合わせて使用しても良い。
【0038】
また、メタン発酵槽3は、これらメタン生成微生物以外の微生物が生育していても良い。例えば、有機性廃棄物に含まれる低級脂肪酸を、メタン生成微生物によるメタン発酵の基質として利用しうる物質へと代謝するような微生物がメタン発酵槽3内で生育していても良い。
【0039】
本発明に係る有機性廃棄物処理システムにおいては、上述した一連の工程によって有機性廃棄物の窒素含有量が大幅に低減されているため、メタン生成微生物を阻害する要因となるアンモニアの生成が大幅に低減されることになる。このため、メタン生成微生物によるメタン発酵は、安定的に且つ効率的に進行することとなる。
【0040】
また、本発明に係る有機性廃棄物処理システムにおいては、メタン発酵槽3で発生したメタンガスを主成分とするバイオガスを回収しておくバイオガス貯留槽を備えていても良い。回収したバイオガスは、石油の代替品として広く利用することができる。例えば、バイオガスをCompressed Natural Gas(CNG)として利用して、CNGを燃料とする自動車エンジン等の内燃機関に利用することができる。また、回収されたバイオガスは、熱と電気を同時に供給することができる熱電併給システム(コージェネレーションシステム)の燃料として利用することもできる。
【0041】
以上、説明したように、本発明に係る有機性廃棄物処理システムは、有機性廃棄物を初期原料としてメタン発酵を安定的且つ高効率で行うことができるため、有機性廃棄物を有効に利用した循環型社会のインフラストラクチャーとして利用することが期待される。なお、本発明に係る有機性廃棄物処理システムは、図1に示したようにプロテアーゼ処理槽1、アンモニア分離装置2及びメタン発酵槽3を備える構成に限定されるものではない。上述した好熱性細菌によるプロテアーゼ処理、生成したアンモニアと有機性廃棄物との分離及びメタン発酵を全て同一の槽内で行うこともできる。また、プロテアーゼ処理槽1、アンモニア分離装置2及びメタン発酵槽3は、それぞれ異なる場所に設置されていても良い。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
本実施例では、多数の微生物の中から有機性廃棄物処理システムに好適な微生物を同定した。
【0044】
先ず、本実施例では、表2に挙げた89株の独自に採取した好熱性細菌分離株と菌株保存機関より入手した好熱性細菌の基準菌株について、それぞれのタンパク質分解能(プロテアーゼ保持の有無)について調査した。なお、これら89株は、全て好熱性細菌に分類される。
【0045】
【表2】

【0046】
本実施例では、これら好熱性細菌におけるタンパク質分解能を検討するため、表3に組成を示した無機培地に、唯一の炭素源としてカゼインを0.2%添加して使用した。
【0047】
【表3】

【0048】
表3に示した組成の培地10mlを20ml容ガラスバイアルに分注し、加温して酸素除去した後、窒素ガスを封入してバイアル内部を嫌気状態とした。これをオートクレーブ滅菌して、各菌株の前培養液が培地に対して終濃度で1%になるように接種した。表2に示した培養温度で6日間培養を行い、培養0日目と最終日のNH4-N濃度を測定し、NH4-N生成量及びNH4-N転換率を算出した。その結果、菌無接種のコントロールと比較して明確なNH4-N生成のあった7菌株の結果を表4に示した。
【0049】
【表4】

【0050】
本実施例によれば、表4に示した7菌株は、プロテアーゼを産生する好熱性細菌として本発明に係る有機性廃棄物処理システムに利用できることが判明した。なかでも、CMI株は、NH4-N生成量及びNH4-N転換率が最も優れており、本発明に係る有機性廃棄物処理システムに非常に有用であることが判明した。
【0051】
なお、表4に示した好熱性細菌のうちCMIは、石油地下備蓄基地より分離したThermococcus sp. strain CMIである(参考文献:Y. Takahata, T. Hoaki and T. Maruyama (2001) Starvation survivability of Thermococcus strain isolated from Japanese oil reservoirs. Arch. Microbiol. 176: 264-270)。また、Thermococcus sp. strain CMIは(独)製品評価技術基盤機構に受託番号NITE P-261として寄託されている。
【0052】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1で同定した7種類の好熱性細菌のうちThermococcus sp. strain CMIについて、タンパク質分解における至適温度を調査した。本実施例では、実施例1で調整した培地を使用した。培養条件として培養温度を80℃、85℃及び90℃の3条件として6日間培養を行い、菌無接種のコントロール(加温影響のみ)を差し引いた値についてNH4-N生成量とNH4-N転換率を求めた。
【0053】
その結果を図2に示した。図2から判るように、85℃の培養条件でNH4-N転換率が最も高く40.4%であり、次いで80℃の培養条件で30.7%であった。なお、90℃の培養条件では、NH4-N転換率が23.9%であった。この結果から、Thermococcus sp. strain CMIにおけるタンパク質分解能の至適温度は、85℃程度であることが明らかとなった。
【0054】
〔実施例3〕
本実施例では、実施例1で同定した7種類の好熱性細菌のうちThermococcus sp. strain CMIについて、タンパク質分解における至適pHを調査した。本実施例では、pHを6.5、7.0、7.5及び8.0の4条件とした以外は実施例1と同様に調整した培地を使用した。なお、培地のpHは、表3に示した組成のうちバッファーを換えることで調節した。すなわち、pH6.5及び7.0の場合には、表2と同様にBis Tris propaneを使用したが、pH7.5及び8.0の場合にはBis Tris propaneの替わりにHEPES 4.8 g/lを使用した。また、本実験例では培養条件を85℃に設定して8日間培養を行い、NH4-Nについてコントロールを差し引いた値から生成量と転換率を求めた。
【0055】
その結果を図3に示した。図3から判るように、8日間の培養ではpH6.5及び7.0でNH4-N転換率が高く45%に達した。この結果から、Thermococcus sp. strain CMIにおけるタンパク質分解能の至適pHは、6.5〜7.0程度であることが明らかとなった。
【0056】
〔実施例4〕
本実験例では、実施例1で同定した7種類の好熱性細菌のうちThermococcus sp. strain CMIについて、有機物中の窒素含有量とNH4-N転換率との関係を調査した。本実施例では、培地に添加する有機物として種々の濃度のカゼイン、模擬生ゴミとしてドックフード及びサケの残渣(皮、ヒレ、骨、肉等の混合物)を用いた。具体的にはカゼイン濃度は0.2%、0.4%、0.8%、1%、4%の5条件を設定した。またドックフードを有機物として使用する場合、実用上のシステムにおいて想定される含水率80%と90%の2条件を設定した。なお、サケの残渣を使用する場合も同様な理由で含水率90%に設定した。
【0057】
本実施例において、含水率調整には表3に示した培地を用い、培地作製手順は実施例1と同様にして行った。ドッグフードとサケの残渣については1cm角程度に粉砕して用いた。全てにおいて培養温度を80℃とし、7日間培養した。培養終了後、菌体数をリアルタイムPCRにて測定し、菌体あたりのNH4-N生成量及びNH4-N転換率を算出した。その結果を表5及び図4に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
表5及び図4から判るように、有機物の種類に拘わらず、有機物のN含有量とNH4-N転換率との間に相関関係(R2=0.9456)が見られた。すなわち、Thermococcus sp. strain CMIは、有機性廃棄物の種類やタンパク質含有量に制限されず、有機性廃棄物処理システムに有効に利用できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明を適用した有機性廃棄物処理システムにおけるシステムフローの一例を示す模式図である。
【図2】CMI株におけるタンパク質分解活性と温度との関係を示す特性図である。
【図3】CMI株におけるタンパク質分解活性とpHとの関係を示す特性図である。
【図4】CMI株における、有機物に含まれる窒素含有量とNH4-N転換率との関係を示す特性図である。
【符号の説明】
【0061】
1…プロテアーゼ処理槽
2…アンモニア分離装置
3…メタン発酵槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼを産生する好熱性細菌により有機性廃棄物を処理する工程と、
上記工程によって処理された有機性廃棄物とアンモニア成分とを分離する工程と、
上記工程によってアンモニア成分と分離された有機性廃棄物を原料としてメタン発酵を行う工程とを含む、有機性廃棄物の処理方法。
【請求項2】
上記好熱性細菌は、Pyrococcus属に属する細菌、Staphyrothermus属に属する細菌及びThermococcus属に属する細菌から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項3】
上記好熱性細菌はThermococcus sp. CMI株(受託番号NITE P-261)であることを特徴とする請求項1記載の有機性廃棄物の処理方法。
【請求項4】
上記微生物を用いて有機性廃棄物を処理する工程は60〜100℃の温度条件で行うことを特徴とする請求項1記載の有機性廃棄物の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−289974(P2008−289974A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−136486(P2007−136486)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】