説明

有機樹脂被覆金属板の製造方法および有機樹脂被覆金属板の製造装置

【課題】 押し出しラミネート法による有機樹脂被覆金属板の製造方法において、特に加熱溶融樹脂が接触するロールに付着するオリゴマーの除去方法、およびオリゴマーを除去しながら有機樹脂被覆金属板を製造するために用いる装置を提供する。
【解決手段】 加熱溶融した有機樹脂をTダイからフィルム状にして長尺帯状の金属板上に連続的に押し出し、Tダイとラミネートロールの間に設けたプレロール上に溶融樹脂を落下させて接触させた後にラミネートロールで挟圧して有機樹脂被覆金属板を製造する工程において、プレロールの幅方向と平行に導電体を設け、一定時間毎に導電体に電流を印加した状態でプレロール上に溶融樹脂を落下させ、静電ピンニングによってプレロール表面に密着させることにより、プレロール上に付着したオリゴマーを溶融樹脂面に転写して除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押し出しラミネート法による有機樹脂被覆金属板の製造方法において、ロールに付着するオリゴマーを除去する方法およびオリゴマーを除去しながら有機樹脂を金属板に被覆する有機樹脂被覆金属板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱溶融した有機樹脂を直接金属板上に押し出して被覆する有機樹脂被覆金属板は、例えば図2に示す製造方法および製造装置を用いて製造されていた。すなわち、
1) 図示しない金属板の供給手段から、長尺帯状の金属板1を連続的に(図面上で下方に)繰り出す。
2) 図示しない加熱溶融手段を用いて加熱溶融した有機樹脂2をTダイ3のダイリップから吐出し、フィルム状に押し出された加熱溶融した有機樹脂2のネックインを減少させ、フィルム厚さを均一化するためにTダイ3とラミネートロール5の間に設けたプレロール4の表面に落下させる。なお、図中の矢印は金属板の走行方向を示す。
3) プレロール4の表面に落下させて接触させた加熱溶融した有機樹脂2を連続的に繰り出された金属板1上に導き、プレロール4の直後に設けた対のラミネートロール5を用いて金属板1と有機樹脂2を挟み付けて圧着し、被覆積層して有機樹脂被覆金属板10とする。
【0003】
この従来の製造方法を用いて有機樹脂被覆金属板を製造する場合、加熱溶融した有機樹脂2をTダイ3から連続的に吐出してプレロール4の表面に落下させて接触させると、溶融樹脂中のオリゴマーがプレロール4の表面に堆積して行き、一定量以上堆積すると部分的に塊状に脱落して溶融樹脂に付着し、その結果塊状のオリゴマーが金属板に付着するようになり、重大な品質欠陥となる。加熱溶融した有機樹脂をTダイから連続的に吐出してそのまま樹脂フィルムや樹脂シートとして製造する工程においては、成形ロールや冷却ロールの周辺にロールを清拭するためのブラシや吸引装置などの除去装置を設置する十分なスペースを取ることができるので、製造工程を停止することなくこれらのロールに付着したオリゴマーを連続的に除去することができるが、有機樹脂をTダイから連続的に吐出して金属板に積層するいわゆる押出ラミネート材の製造工程においては、これらの除去装置を設置するスペースを取ることが困難であり、頻繁に製造工程を停止してロールに付着したオリゴマーを除去する必要があり、生産性を低下させている。
【0004】
熱可塑性樹脂フィルムの製造に用いられるロール表面の付着物を除去する方法として、特許文献1はロール表面に紫外線を照射して除去する方法を提案している。しかし、この方法は熱可塑性樹脂フィルムの縦方向の延伸に用いる延伸ロールのような樹脂が固化した状態で析出するオリゴマーは十分に除去することができるが、加熱溶融状態で樹脂が接触するプレロール上に析出するオリゴマーは十分に除去することができない。
【0005】
従来技術を示す文献として、以下のものがある。
【特許文献1】特開2001−341196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、押し出しラミネート法による有機樹脂被覆金属板の製造方法において、特に加熱溶融樹脂が接触するロールに付着するオリゴマーの除去方法、およびオリゴマーを除去しながら有機樹脂被覆金属板を製造するために用いる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の有機樹脂被覆金属板の製造工程におけるオリゴマーの除去方法は、加熱溶融した有機樹脂をTダイからフィルム状にして長尺帯状の金属板上に連続的に押し出し、Tダイとラミネートロールの間に設けたプレロール上に溶融樹脂を落下させて接触させた後にラミネートロールで挟圧して有機樹脂被覆金属板を製造する工程において、プレロールの幅方向と平行に導電体を設け、一定時間毎に導電体に電流を印加した状態でプレロール上に溶融樹脂を落下させ、静電ピンニングによってプレロール表面に接触させることにより、プレロール上に付着したオリゴマーを溶融樹脂面に転写して除去することを特徴とする、有機樹脂被覆金属板の製造方法(請求項1)である。
【0008】
また、本発明の有機樹脂被覆金属板の製造装置は、金属板の供給手段と、有機樹脂の加熱溶融手段と、Tダイと、プレロールと、プレロールの幅方向に平行に設けた導電体と、導電体に電流を印加する通電手段と、ラミネートロールとからなり、下記の1)〜4)に示す工程を経てプレロール上に付着したオリゴマーを除去しながら有機樹脂を金属板に被覆することを特徴とする、有機樹脂被覆金属板の製造装置(請求項2)である。
1) 金属板の供給手段から長尺帯状の金属板を連続的に繰り出す。
2) 加熱溶融手段を用いて加熱溶融した有機樹脂を、Tダイのダイリップから吐出し、ラミネートロールの直前に設けたプレロール表面に落下させる。
3) プレロールの幅方向と平行に設けた導電体に、一定時間毎に、通電手段から電流を印加した状態でプレロール上に溶融樹脂を落下させ、静電ピンニングによってプレロール表面に接触させる。
4) プレロールに接触した溶融樹脂を連続的に繰り出された金属板上に導き、プレロールの直後に設けた対のラミネートロールを用いて金属板および有機樹脂を挟み付けて圧着し、積層被覆する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、加熱溶融した有機樹脂をTダイからフィルム状にして長尺帯状の金属板上に連続的に押し出し、Tダイとラミネートロールの間に設けたプレロール上に溶融樹脂を落下させて接触させた後にラミネートロールで挟圧して有機樹脂被覆金属板を製造する工程において、プレロール上に付着するオリゴマーを除去することを目的としており、プレロールの幅方向と平行に導電体を設け、一定時間毎に導電体に電流を印加した状態でプレロール上に溶融樹脂を落下させ、静電ピンニングによってプレロール表面に接触させることにより、プレロール上に付着したオリゴマーを溶融樹脂面に転写して除去するものであり、製造工程を停止することなく、オリゴマーを除去しながら連続的に有機樹脂被覆金属板を製造することができる。なお、オリゴマーを溶融樹脂面に転写した部分を被覆した有機樹脂被覆金属板の部分は、後に格外部分として除去する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、本発明の有機樹脂被覆金属板に用いる金属板としては、表面処理鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、ステンレス鋼板、銅板、銅合金板などを用いることができる。表面処理鋼板としては、ぶりき、電解クロム酸処理鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛合金めっき鋼板、電気亜鉛−コバルト−モリブデン複合めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、銅めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板などが適用できる。
【0011】
金属板に被覆する有機樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのホモポリマーのポリエステル樹脂、エチレンテレフタレート・エチレンイソフタレート共重合体などの共重合ポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体などのポリオレフィン樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロンなどのポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂が好適に適用される。また、金属板との密着性を向上さるために、金属板と接する樹脂層として融解温度の低い樹脂を用いた複数層の樹脂として金属板に被覆してもよい。
【0012】
次に、上記の構成部材を用いる本発明を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明において、有機樹脂被覆金属板は図1に示すようにして製造される。すなわち、図示しない金属板の供給手段から長尺帯状の金属板1を連続的に繰り出し、図示しないジャケットロールなどの加熱手段を用いて、被覆する有機樹脂の融解温度以上の温度範囲に加熱する。
【0013】
加熱された金属板1は被覆する有機樹脂2を加熱溶融して吐出するTダイ3に送られるが、加熱溶融した有機樹脂2を金属板1と接触させる前に、有機樹脂2のネックインを減少させ、フィルム厚さを均一化するためにTダイ3とラミネートロール5の間に設けたプレロール4の表面に落下させて接触させる。
【0014】
このとき、プレロール4の幅方向に平行に金属製のワイヤーなどからなる導電体6を設けておき、図示しない導電体に電流を印加する通電手段から導電体6に電流を印加した状態でプレロール4上に加熱溶融した有機樹脂2を落下させると、加熱溶融した有機樹脂2は静電ピンニングによってプレロール4の表面に接触する。このようにすると、導電体6に電流を印加する以前に加熱溶融した有機樹脂2との接触によりプレロール4上に析出して蓄積していたオリゴマーは、加熱溶融した有機樹脂2に転写され、プレロール4の表面から離脱して除去される。静電ピンニングとは、フィルム製造設備でT−ダイから流出した溶融樹脂を冷却ロールで急速冷却してフィルムを製造する場合に、電極を使って直流の高電圧を印加して溶融した樹脂フィルムに静電気を帯電させて、帯電効果を利用する方法である。
【0015】
導電体6に対する直流電流の印加は、数時間間隔で1〜10秒程度行なうことでプレロール4上にその時間内に析出したオリゴマーをほぼ完璧に除去することができる。印加する電流の電圧は高電圧であるほど加熱溶融した有機樹脂2のプレロール4に対する密着性が向上するが、高すぎるとプレロール4と導電体6の間でスパークが生じるので適切な電圧に調整する。
【0016】
プレロール4の材質としては導電性物質であれば特に制限するものではないが、加熱溶融した有機樹脂2と接触する表面を鏡面仕上げとすることにより、密着性が向上する。
【0017】
上記のようにして、プレロール4に落下接触させて平坦度や厚さを均一化し、また間歇的に静電ピンニングしてプレロール4上に析出したオリゴマーを加熱溶融した有機樹脂2に転写した後、金属板1上に導き、ラミネートロール5で両者を挟圧して積層し、その後金属製の冷却ロール等で積層した樹脂被覆鋼板を冷却して樹脂被覆金属板10とする。直流電流の印加は、例えば導電体6と金属製の冷却ロール間等で行う。
【0018】
直流電流を印加中にオリゴマーが転写付着した有機樹脂で被覆された樹脂被覆金属板10の部分はわずかであり、後に樹脂被覆金属板10を切板として裁断する際、またはコイル状の樹脂被覆金属板10を巻き解きながら部材として打ち抜く際に格外部分として除去することができる。このようにして、プレロール上に析出したオリゴマーを除去しながら、連続的に有機樹脂被覆金属板を製造することが可能となり、生産性が向上する。
【実施例】
【0019】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
[金属板]
有機樹脂を被覆する金属板として、アルミニウム合金板(JIS 5052 H19、厚さ0.3mm)を用いた。
[有機樹脂]
金属板に被覆する有機樹脂として、下記の2層の共重合ポリエステル樹脂(A)およびポリブチレンテレフタレート(B)を用いた。
<共重合ポリエステル樹脂(A)>
上層:(エチレンテレフタレート(95モル%)・エチレンイソフタレート(5モル %)、融解温度230℃、IV値0.9)
下層:(エチレンテレフタレート(85モル%)・エチレンイソフタレート(15モル %)、融解温度215℃、IV値0.7)
<ポリブチレンテレフタレート(B)>
融解温度230℃、IV値1.4)
【0020】
(実施例1)
上記の2層の共重合ポリエステル樹脂(A)を加熱溶融し、上層樹脂を270℃で、下層樹脂を250でTダイから押し出し、50℃に加熱したステンレス鋼製の鏡面を有するプレロールに接触させた後、200℃に加熱した上記のアルミニウム合金板に導き、ラミネートロールで両者を挟み付けて圧着し積層した。なお、プレロールに平行して2mm径の銅製のワイヤを展張し、15Vの電圧で直流電流を下記の条件で印加して静電ピンニングを行ないながら積層作業を行なった。
[条件1]
静電ピンニングなし
[条件2]
2時間毎に10秒間の静電ピンニングを実施
【0021】
条件1で静電ピンニングを実施せずに連続的に積層作業を行なったところ、約4時間後にプレロールからオリゴマーが脱落し始め、樹脂被膜上に欠陥が発生した。一方、条件2で2時間毎に10秒間の静電ピンニングを実施しながら連続的に積層作業を行なったところ、樹脂被膜上に欠陥が発生することなく、連続的に積層作業を行なうことができた。
【0022】
(実施例2)
上記のポリブチレンテレフタレート(B)を加熱溶融し、270℃でTダイから押し出した以外は実施例1と同様にして積層作業を行なった。静電ピンニングは下記の条件で実施した。
[条件3]
静電ピンニングなし
[条件4]
1.5時間毎に10秒間の静電ピンニングを実施
【0023】
条件3で静電ピンニングを実施せずに連続的に積層作業を行なったところ、約2時間後にプレロールからオリゴマーが脱落し始め、樹脂被膜上に欠陥が発生した。一方、条件4で1.5時間毎に10秒間の静電ピンニングを実施しながら連続的に積層作業を行なったところ、樹脂被膜上に欠陥が発生することなく、連続的に積層作業を行なうことができた。
【0024】
このように、樹脂の種類により静電ピンニングを実施する間隔を調整することにより、樹脂被膜上に欠陥を発生させることなく、連続的に積層作業を行なうことが可能となり、有機樹脂被覆金属板の生産性を向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明においては、加熱溶融した有機樹脂をTダイからフィルム状にして長尺帯状の金属板上に連続的に押し出し、Tダイとラミネートロールの間に設けたプレロール上に溶融樹脂を落下させて接触させた後にラミネートロールで挟圧して有機樹脂被覆金属板を製造する工程において、プレロールの幅方向と平行に導電体を設け、一定時間毎に導電体に電流を印加した状態でプレロール上に溶融樹脂を落下させ、静電ピンニングによってプレロール表面に接触させることにより、プレロール上に付着したオリゴマーを溶融樹脂面に転写して除去することにより、製造工程を停止することなく、オリゴマーを除去しながら樹脂被膜上に欠陥を発生させることなく、連続的に積層作業を行なうことが可能となり、有機樹脂被覆金属板の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の有機樹脂被覆金属板の製造装置と製造方法の一工程例を示す概略図。
【図2】従来の有機樹脂被覆金属板の製造装置と製造方法の一工程例を示す概略図。
【符号の説明】
【0027】
1 : 金属板
2 : 有機樹脂
2a: はみ出した樹脂部分
3 : Tダイ
4 : プレロール
5 : ラミネートロール
6 : 導電体
10 : 樹脂被覆金属板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱溶融した有機樹脂をTダイからフィルム状にして長尺帯状の金属板上に連続的に押し出し、Tダイとラミネートロールの間に設けたプレロール上に溶融樹脂を落下させて接触させた後にラミネートロールで挟圧して有機樹脂被覆金属板を製造する工程において、プレロールの幅方向と平行に導電体を設け、一定時間毎に導電体に電流を印加した状態でプレロール上に溶融樹脂を落下させ、静電ピンニングによってプレロール表面に接触させることにより、プレロール上に付着したオリゴマーを溶融樹脂面に転写して除去することを特徴とする、有機樹脂被覆金属板の製造方法。
【請求項2】
金属板の供給手段と、有機樹脂の加熱溶融手段と、Tダイと、プレロールと、プレロールの幅方向に平行に設けた導電体と、導電体に電流を印加する通電手段と、ラミネートロールとからなり、下記の1)〜4)に示す工程を経てプレロール上に付着したオリゴマーを除去しながら有機樹脂を金属板に被覆することを特徴とする、有機樹脂被覆金属板の製造装置。
1) 金属板の供給手段から長尺帯状の金属板を連続的に繰り出す。
2) 加熱溶融手段を用いて加熱溶融した有機樹脂を、Tダイのダイリップから吐出し、ラミネートロールの直前に設けたプレロール表面に落下させる。
3) プレロールの幅方向と平行に設けた導電体に、一定時間毎に、通電手段から電流を印加した状態でプレロール上に溶融樹脂を落下させ、静電ピンニングによってプレロール表面にピンニングさせて接触させる。
4) プレロールに接触した溶融樹脂を連続的に繰り出された金属板上に導き、プレロールの直後に設けた対のラミネートロールを用いて金属板および有機樹脂を挟み付けて圧着し、積層被覆する。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−90667(P2007−90667A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283225(P2005−283225)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】