説明

有機溶媒中にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法

【課題】有機溶媒中にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法であって、
水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収することによる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性媒体中での重合反応を介する有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法に関する。詳しくは、水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収することによる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒中にナノ分散した導電性高分子微粒子の製造方法が幾つか報告されている。
特開2005−314538号公報には、有機溶媒中にナノ分散したピロールおよび/またはピロール誘導体からなる導電性高分子微粒子の製造方法を開示するが、ここでは、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合攪拌してなるO/W型の乳化液中に、ピロールおよび/またはピロール誘導体のモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することによる有機溶媒中にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法が示されている。
【0003】
特開2005−60671号公報には、ポリアニリン導電性インクの製造方法が記載されているが、ここでは、アニオン界面活性剤の存在下、水性媒体中でアニリンを重合してポリアニリンコロイドを得る工程と、重合反応終了後の反応液に1種類以上の有機溶媒を添加して2層分離させてポリアニリンコロイドを有機層に移行させる工程からなる有機溶媒中にナノ分散したポリアニリン微粒子の製造方法が示されている。
【0004】
水性媒体中での重合反応を介する有機溶媒中にナノ分散したポリピロール微粒子を製造する目的で、アニリンの代わりにピロールモノマーを用いて特開2005−60671号公報に記載の製造方法を実施したところ、水性媒体中でのピロールの重合が終了した段階で、既に数百μmの粒状、もしくは数ミリ以上の塊状物になっており、この状態で有機溶媒を添加しても所望する有機溶媒中にナノ分散したポリピロール微粒子は全く得られなかった。
従って、単に特開2005−60671号公報に記載の製造方法を用いただけでは、水性媒体中での重合反応を介する有機溶媒中にナノ分散したポリピロール微粒子は製造できないことが明らかとなった。
【特許文献1】特開2005−314538号公報
【特許文献2】特開2005−60671号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水性媒体中での重合反応を介する有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加し更に重合を進行させると、結果として得られるポリピロール微粒子の粒径が大きくなり過ぎることが無く、そのため攪拌を停止して2層に分離させた際に、安定して有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子が得られることを見出し、更に該方法は、アニオン界面活性剤だけでなく、
ノニオン界面活性剤を用いても同様に有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子が得られること及び水性媒体中に予めドーパントを添加しておくことで、従来法では得られなかった導電性に優れ且つ導電率(抵抗値)の経時変化が極めて少ないポリピロールナノ分散微粒子が得られることをも見出し本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、
1.有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法であって、
水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収することによる方法、
2.前記有機溶媒の添加は、ポリピロールの粒子径が100nm以下である時点で行われることを特徴とする前記1.記載のポリピロール微粒子の製造方法、
3.前記水性媒体中にドーパントが存在している事を特徴とする前記1.記載のポリピロール微粒子の製造方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法は、水性媒体中でのポリピロール重合において、該重合率が10〜60%の時点で有機溶媒を添加することにより、特開2005−60671号公報の製造方法を採用した際の問題、即ち、生成したポリピロールの粒径が大きくなり過ぎて有機溶媒層に分散しなくなることを回避でき、これにより、安定して有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子を容易に得ることができる製造方法の提供を可能とする。
【0009】
更に本発明は、ノニオン界面活性剤を用いるナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法を可能にするだけでなく、予めドーパントを添加しておくことで、従来法では得られなかった導電性に優れ且つ導電率(抵抗値)の経時変化が極めて少ないポリピロールナノ分散微粒子を得ることも可能とする。
特に、ノニオン界面活性剤はドーパントとして作用しないため、該界面活性剤の使用により導電性の制御を容易に行うことができる。
また、有機溶媒を添加する時点における水媒体中の重合率を制御することにより、得られるポリピロールの粒径を制御することも可能となる。
水性媒体中でのポリピロールの酸化重合において、何故、重合反応の途中で有機溶媒を添加するとポリピロールの粒経があまり大きくならず、また、ポリピロール粒子の凝集が起こらず、安定して有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子が容易に得られるかについては必ずしも明確ではない。
しかし、ポリピロールの粒径をあまり大きくせず、また、ポリピロール粒子の凝集を起こさないためには、反応系中にある程度の量の残存モノマー(未反応のモノマー)の存在が重要であることが観察されており、そのため、重合率が向上して残存モノマーの量が減少すると急激にポリピロールの粒径の増大及びポリピロール粒子の凝集が起こるものと考えられる。
【0010】
本発明のポリピロール微粒子の製造方法は、そのポリピロール微粒子の生成過程及び操作において、特開2005−314538号公報に記載のポリピロール微粒子の製造方法とは全く異なるものと考えられる。
例えば、本発明のポリピロール微粒子の製造方法による操作と、特開2005−314538号公報に記載のポリピロール微粒子の製造方法による操作を模式化して比較したものを図1に示したが、その操作は全く異なるものである。
また、特開2005−314538号公報に記載のポリピロール微粒子の製造方法において想定されるポリピロール粒子の生成過程の模式図を図2に示した。
ここで、乳化液中の微細な油滴の中にピロールモノマー1の多くが取り込まれ、界面活性剤2(アニオン)は油滴の表面に存在していると考えられる。ここに酸化剤4が添加されると油滴中でピロールモノマーの重合が起こり、ポリピロール微粒子3が生成すると考えられる。その結果、攪拌を止めるとポリピロール微粒子3が分散した有機相と水相に分離するものと考えられる。
一方、本発明のポリピロール微粒子の製造方法において想定されるポリピロール微粒子の生成過程の模式図は、図3に示されるように、上記とは全く異なると考えられるものである。
水中に溶解したピロールモノマー1は複数の界面活性剤2(アニオン及び/又はノニオン)の疎水性部位で取り囲まれるようにして存在していると考えられ、ここに酸化剤4が添加されると、前記の疎水部位で取り囲まれた領域内でピロールモノマーの重合が起こるものと考えられる。有機溶媒が添加されると大きな油滴内にポリピロール微粒子3が分散し、更に重合反応が進行するものと考えられ、そして、攪拌を止めるとポリピロール微粒子3が分散した有機相と水相に分離するものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明の有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法は、水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収することにより達成される。
【0012】
本発明で使用可能なピロールおよび/またはピロール誘導体としては、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール、3−フェニルナフチルアミノピロール等が挙げられる。特に好ましいのはピロールである。
【0013】
水性媒体中に可溶化できるピロールおよび/またはピロール誘導体の量としては、水に対して80g/L以下であり、特に好ましくは、20g/Lないし1g/Lである。
水性媒体中に可溶化できない量のピロールおよび/またはピロール誘導体(飽和濃度以上のピロールおよび/またはピロール誘導体)が添加されると、重合開始直後から塊状のポリピロールが生成され、目的とする微粒子は得られない。また、ピロールおよび/またはピロール誘導体のモノマーが1g/L以下では、重合反応が極めて遅くなり、所望する微粒子を得るまでの時間が長時間となることからあまり好ましくない。
【0014】
本発明に使用することができるアニオン界面活性剤としては、通常使用されるアニオン界面活性剤が使用でき、特に限定されるものではないが、疎水性末端を複数有するもの(例えば、疎水基に分岐構造を有するものや、疎水基を複数有するもの)が好ましい。このような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用することにより、安定したミセルを形成させることができ、重合後において水相と有機溶媒相との分離が容易であり、
有機溶媒相に分散した導電性微粒子が入手し易い。疎水性末端を複数有するアニオン界面活性剤の中でも、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端4つ)、スルホコハク酸ジ−2−オクチルナトリウム(疎水性末端4つ)および分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端2つ)が好適に使用できる。
また、上記のアニオン界面活性剤は単独又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0015】
本発明に使用することができるノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、アルキルグルコシド類、脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類が挙げられる。
上記のノニオン界面活性剤は単独又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0016】
アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤の使用量は、ピロールおよび/ピロール誘導体のモノマー1molに対し0.2mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.05mol〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では得られた導電性微粒子に導電性の湿度依存性が生じてしまう場合がある。
【0017】
本発明で使用する酸化剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸およびクロロスルホン酸のような無機酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルナフタレンスルホン酸のような有機酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過酸化水素のような過酸化物が使用できる。これらは単独で使用しても、二種類以上を併用してもよい。塩化第二鉄等のルイス酸でもポリピロールを重合できるが、生成した粒子が凝集し、ポリピロールを微分散できない場合がある。特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
【0018】
使用する酸化剤の量は、ピロールおよび/またはピロール誘導体のモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、導電性微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上ではポリピロールが凝集して導電性微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0019】
本発明で使用する水性媒体は、基本的に水であり、所望により、形成されるポリピロール微粒子の導電率の向上と導電率の経時変化を減少させる目的でドーパント等を加えることができる。
使用する水性媒体の量は、使用するピロールおよび/またはピロール誘導体が可溶化できる量、即ち、前記で定義されたように、ピロールおよび/またはピロール誘導体の濃度が80g/L以下となる量であって、特に好ましくは、20g/Lないし1g/Lとなる量である。
【0020】
上記のように本発明においては、ドーパントを加えることができる。
特開2005−60671号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合では、ドーパントを用いておらず、そのため、得られるポリピロールの導電率は必ずしも高いものではなく、また、経時変化を受けやすいものであった。
本発明では、水性媒体中に所定のドーパントを添加することで、導電率の向上と経時変化を減少させることを可能とし得る。
本発明でドーパントを使用する場合のドーパントの種類としては、ピロールおよび/またはピロール誘導体のモノマーに可溶であれば特に制限はなく、一般的にピロールおよび
/またはピロール誘導体の重合体を含んでなる導電性微粒子に好適に用いられるアクセプター性ドーパントを適宜使用できるが、代表的なものとしては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、アリルスルホン酸等のスルホン酸類、過塩素酸、塩素、臭素等のハロゲン類、ルイス酸、プロトン酸等がある。これらは、酸形態であってよいし、塩形態にあることもできる。モノマーに対する溶解性の観点から好ましいものは、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸テトラエチルアンモニウム、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム、トリフルオロメタンスルホン酸テトラブチルアンモニウム、トリフルオロスルホンイミドテトラブチルアンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等である。
【0021】
ドーパントを使用する場合のドーパントの使用量は、生成するピロール重合体単位ユニット当たりドーパント0.01〜0.3分子となる量が好ましい。0.01分子以下では、十分な導電性パスを形成するに必要なドーパント量としては不十分であり、高い導電性を得ることが難しい。一方、0.3分子以上加えてもドープ率は向上しないから、0.3分子以上のドーパントの添加は経済上好ましくない。ここでピロール重合体単位ユニットとは、ピロールモノマーが重合して得られるピロール重合体のモノマー1分子に対応する繰返し部分のことを指す。
【0022】
本発明の製造方法において、水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤をを含む水性媒体において重合を開始した後、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒が添加される。ポリピロールの重合率が20〜50%となる時点で有機溶媒が添加されるのがより好ましい。重合率が10%未満の時点で有機溶媒が添加された場合、ポリピロールの共役二重結合が充分に成長していないため、所定の導電性が得られなくなる。また、その後の重合が極めて遅くなる他、水と有機溶媒の分離も極めて悪くなる。逆に重合率が60%を越えた時点で有機溶媒が添加された場合、有機溶媒へ移行するポリピロール粒子の大きさは数百nm以上の大きな粒子となり、分散安定性も悪いものとなる。
尚、重合率は、ガスクロマトグラフィーを用いて残存モノマーを測定し、当初の添加モノマー量と残存モノマー量の比から容易に算出することができる。
【0023】
ポリピロールの粒径をあまり大きくせず、また、ポリピロール粒子の凝集を起こさないためには、反応系中に、ある程度の量の残存モノマー(未反応のモノマー)の存在が重要であると考えられ、そのため、重合率が向上して残存モノマーの量が減少すると急激にポリピロールの粒径の増大及びポリピロール粒子の凝集が起こるものと考えられる。
即ち、ポリピロールの粒径をあまり大きくせず、また、ポリピロール粒子の凝集を起こさないためには、反応系中の残存モノマー(未反応のモノマー)量が、当初に添加したモノマー量の40〜90%が残存する時点で有機溶媒を添加することが重要であるといえる。
また、同様に、有機溶媒を添加する時点において水性媒体中に分散している微粒子の大きさも極めて重要である。水性媒体中におけるポリピロールの重合率(%)とその際得られるポリピロールの平均粒子径(nm)の関係を示すグラフを図4に示すが、該グラフからポリピロールの重合率が、ある一定値を超えるとポリピロールの平均粒子径が急激に大きくなることが判る。そのため、例えば、ポリピロールの平均粒子径が100nmを超えた時点で有機溶媒を添加しても、有機溶媒へ移行するポリピロール粒子の大きさは結果的に数百nm以上の大きな粒子となりやすく、また、分散安定性も悪いものとなりやすい。
従って、有機溶媒の添加は、ポリピロールの粒子径が100nm以下の時点で行うのが好ましい。
尚、ポリピロールの平均粒子径は、レーザードップラー法により容易に測定することができる。
【0024】
添加する有機溶媒としては、水への溶解度が1%以下の有機溶媒であれば特に限定されないが、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類が挙げられる。
有機溶媒の使用量は、重合反応に使用する水の量に対して体積比で5ないし40%(v/v)が好ましく、特に好ましくは、10ないし25%(v/v)である。
5%(v/v)未満では、粒子密度が高くなるため分散性が悪くなり、結果として凝集が起こる。40%(v/v)を超える場合は相対的に粒子密度が低くなるため、粒子間の反発力が小さくなり、分散を保てなくなる。
【0025】
前記ポリピロール微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、ピロールおよび/またはピロール誘導体のモノマー及び所望によりドーパントを水に加えて混合攪拌する工程、
(b)酸化剤を加えて酸化重合を開始する工程、
(c)重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を添加する工程、
(d)混合攪拌して更に重合反応を進行させる工程、
(e)有機相を分液し有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子を回収する工程。
【0026】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0027】
こうして本発明の製造方法により得られた有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子は、導電性塗料の導電性成分として好ましく使用することができる。該導電性塗料はポリピロール微粒子を有機溶媒に分散してなり、さらに用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ等の樹脂を加えることも可能である。
また、これらのポリピロール微粒子は、乾燥させて粉末状のポリピロール微粒子とすることができ、該粉末状ポリピロール微粒子は、合成樹脂成型品等に導電性充填材等として用いることもできる。
【0028】
また、上記の導電性塗料を基材に塗布し、乾燥させることによって導電性薄膜を得ることもできる。塗布する対象は特に限定されないが、導電性塗料中に含まれる有機溶媒により損傷を受けないよう選択する必要がある。また塗布方法も特に限定されず、例えばグラビア印刷機、インクジェット印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。
【0029】
また本発明のポリピロール微粒子は、導電性塗料以外にも、防錆塗料、半導体材料、コンデンサ用電解質、有機EL素子の正孔輸送材、二次電池用電極材等の様々な用途に好ましく適用することができる。
【実施例】
【0030】
以下の実施例により本発明をより詳しく説明する。但し、実施例は本発明を説明するためのものであり、いかなる方法においても本発明を限定することを意図しない。
【0031】
実施例1
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(アニオン界面活性剤:ペレックスOT−P)1.5mmolをイオン交換水100mLに溶解し、次いでピロールモノマー21.2mmolを加え30分攪拌し、次いで0.12M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(6mmol相当)を加え、1時間反応を行った(重合率50%、平均粒子径78nm)。次いで、酢酸ブチル25mLを添加し、4時間攪拌した。攪拌終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄して酢酸ブチル中に分散した状態で黒色の導電性微粒子(平均粒子径85nm)を得た。
【0032】
実施例2ないし8
酢酸ブチル(有機溶媒)を下表(表1)に示す有機溶媒に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、導電性微粒子を得た。
【表1】

【0033】
実施例9
ピロールモノマーを加えた後に、新たにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2mmolを添加した以外は実施例1と同様の操作を行い、導電性微粒子を得た。
【0034】
実施例10
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(アニオン界面活性剤:ペレックスOT−P)をポリオキシエチレンアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤エマルゲン409P(花王株式会社)に変えた以外は実施例9と同様の操作を行い、導電性微粒子を得た。
【0035】
実施例11
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(アニオン界面活性剤:ペレックスOT−P)1.5mmolを0.42mmolに変え、更にノニオン界面活性剤エマルゲン409P2.1mmolを加えた以外は実施例1と同様の操作を行い、導電性微粒子を得た。
【0036】
実施例12
ピロールモノマーを加えた後に、新たにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2mmolを添加した以外は実施例11と同様の操作を行い、導電性微粒子を得た。
【0037】
実施例13
過硫酸アンモニウム水溶液を加えた後の1時間の反応時間を15分間(重合率10%、平均粒子径15nm)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、導電性微粒子を得た。
【0038】
実施例14
過硫酸アンモニウム水溶液を加えた後の1時間の反応時間を75分間(重合率60%、平均粒子径100nm)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、導電性微粒子を得た。
【0039】
比較例1
過硫酸アンモニウム水溶液を加えた後の1時間の反応時間を90分間(重合率70%、平均粒子径300nm)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、導電性粒子を得た。
【0040】
比較例2
過硫酸アンモニウム水溶液を加えた後の1時間の反応時間を5分間(重合率5%、平均粒子径2nm)に変えた以外は実施例1と同様の操作を行い、導電性微粒子を得た。
【0041】
比較例3(特開2005−314538号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合法に準じる製造方法)
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム1.5mmolを酢酸ブチル50mLに溶解し、さらにイオン交換水100mLを加え20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、30分攪拌し、次いで0.12M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(6mmol相当)を少量づつ滴下し、4時間反応を行った。反応終了後、静置したが有機相と水相の分離が明確でなく、有機相の回収が不可能であった。
【0042】
比較例4(特開2005−314538号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合法に準じる製造方法)
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系ノニオン界面活性剤エマルゲン409P(花王株式会社)1.5mmolをトルエン50mLに溶解し、さらにイオン交換水100mLを加え20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、30分攪拌し、次いで0.12M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(6mmol相当)を少量づつ滴下し、4時間反応を行った。反応終了後、静置したが有機相と水相の分離が明確でなく、有機相の回収が不可能であった。
【0043】
比較例5(特開2005−314538号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合法に準じる製造方法)
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム1.5mmolをトルエン50mLに溶解し、さらにイオン交換水100mLを加え20℃に保持しつつ乳化するまで攪拌した。得られた乳化液にピロールモノマー21.2mmolを加え、30分攪拌し、次いで0.12M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(6mmol相当)を少量づつ滴下し、4時間反応を行った。反応終了後、有機相を回収し、イオン交換水で数回洗浄してトルエン中に分散した状態で黒色の導電性微粒子(平均粒子径60nm)を得た。
【0044】
試験例1
実施例1〜14および比較例1、2、5において得られた導電性微粒子を同一の方法を用いて導電性塗料とし、該導電性塗料をガラス板に塗布して得られる導電性薄膜の特性について評価した。評価は、導電性塗膜の抵抗値(Ω)、導電性塗膜の抵抗値経時変化及び導電性塗料の分散安定性について以下に示す基準で評価した。
抵抗値経時変化
抵抗値が1桁上昇するのにかかった時間
◎:3ヶ月以上
○:2ヶ月以上
△:1ヶ月以上2ヶ月以内
×:1ヶ月以内
分散安定性
◎:2ヶ月以上安定に分散している
○:1ヶ月以上2ヶ月以内安定に分散している
△:1週間で凝集が起こり沈殿する
×:分散してもすぐ凝集する
評価結果を表2に纏めた。
尚、表中の“重合方法”に記載のA、B、“界面活性剤”の“アニオン”に記載のC、D、“ノニオン”に記載のE及び“ドーパント”に記載のFは、それぞれ以下を意味する。
A:水性媒体中で重合反応を開始し、特定の重合率となった時点で有機溶媒を添加して更に重合反応を行う重合方法
B:特開2005−314538号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合法に準じる重合方法
C:スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(アニオン界面活性剤:ペレックスOT−P)
D:ノニオン界面活性剤エマルゲン409P
E:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
また、表中の“重合率”は、実施例1ないし14及び比較例1,2では、有機溶媒を添加する前のポリピロールの重合率(%)を示している。
また、表中の“添加前平均粒径”は、有機溶媒を添加する前のポリピロールの平均粒子径を意味し、また、“反応後平均粒径”は、有機相の回収後におけるポリピロールの平均粒子径を意味する。
また、ポリピロールの平均粒子径は、Microtrac社製Nanotrac UPA150を用いてレーザードップラー法により測定し、ポリピロールの重合率は、ガスクロマトグラフィーを用いて残存モノマーを測定し、当初の添加量と残存モノマーの比から算出した。
【表2】

【0045】
実施例1〜8で示されるように、使用した有機溶媒の種類(脂肪族エステル類、芳香族溶媒、ケトン類、環状飽和炭化水素類、鎖状飽和炭化水素類、鎖状飽和アルコール類、芳香族エステル類、脂肪族エーテル類)に関係なく、同等に優れる抵抗値経時変化及び分散安定性を示した。
実施例9、10および12で示されるように、水性媒体中にドーパント(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を添加した場合は、使用する界面活性剤がアニオン界面活性剤(実施例9)、ノニオン界面活性剤(実施例10)、アニオン界面活性剤+ノニオン界面活性剤(実施例12)に関係なく、特に優れる抵抗値経時変化及び分散安定性を示した。
実施例10及び11で示されるように、アニオン界面活性剤に変えて、ノニオン界面活性剤(実施例10)、アニオン界面活性剤+ノニオン界面活性剤(実施例11)を使用しても、同様に、優れる抵抗値経時変化及び分散安定性を示した。
実施例13で示されるように、有機溶媒を添加する時点の重合率が10%の場合は、優れる抵抗値経時変化及び分散安定性を示したが、一方、比較例2で示されるように、有機溶媒を添加する時点の重合率が5%の場合では、抵抗値経時変化及び分散安定性共に悪化した。
実施例14で示されるように、有機溶媒を添加する時点の重合率が60%の場合は、優れる抵抗値経時変化及び分散安定性を示したが、一方、比較例1で示されるように、有機溶媒を添加する時点の重合率が70%の場合では、抵抗値経時変化及び分散安定性共に悪化した。
比較例5で示されるように、特開2005−314538号公報に記載のO/W型の乳化液中での重合法を用いた場合、分散安定性は良好であったものの、抵抗値経時変化においては劣るものであった。
比較例3で示されるように、比較例5のトルエンを酢酸ブチルに変えると重合反応そのものが進行しなかった。
比較例4で示されるように、比較例5のアニオン界面活性剤をノニオン界面活性剤に変えると重合反応そのものが進行しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のポリピロール微粒子の製造方法による操作と、特開2005−314538号公報に記載のポリピロール微粒子の製造方法による操作を模式化して比較した図である。
【図2】特開2005−314538号公報に記載のポリピロール微粒子の製造方法において想定されるポリピロール粒子の生成過程の模式図である。
【図3】本発明のポリピロール微粒子の製造方法において想定されるポリピロール微粒子の生成過程の模式図である。
【図4】水性媒体中におけるポリピロールの重合率(%)とその際得られるポリピロールの平均粒子径(nm)の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0047】
1:ピロールモノマー
2:界面活性剤
3:ポリピロール微粒子
4:酸化剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒層にナノ分散したポリピロール微粒子の製造方法であって、
水性媒体中に可溶化できる量のピロールおよび/またはピロール誘導体、アニオン界面活性剤および/またはノニオン界面活性剤、および酸化剤を含む水性媒体において重合を開始し、そして、ポリピロールの重合率が10〜60%となる時点で有機溶媒を該重合系に添加し更に重合を進行させ、その後、層分離された2層のうちの有機溶媒層を回収することによる方法。
【請求項2】
前記有機溶媒の添加は、ポリピロールの粒子径が100nm以下である時点で行われることを特徴とする請求項1記載のポリピロール微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記水性媒体中にドーパントが存在している事を特徴とする請求項1記載のポリピロール微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−214401(P2008−214401A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50512(P2007−50512)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】