説明

有機溶媒分散シリカゾル及びその製造方法

【課題】 コロイダルシリカ粒子表面の固体酸性の作用により、経時的に樹脂の変質や分解等を引き起こし、変色やクラックが発生することがある。また、シリカゾルをケトンやエステル、アミド等の溶媒に分散させた場合、シリカの固体酸性の触媒作用によってゾルの分散媒である溶媒の分解や着色が起こり経時的に樹脂の変質や分解等を引き起こす。
よって、経時的に樹脂の変質や分解等を引き起こさず、また、分散媒である有機溶媒の分解や着色が起きない有機溶媒分散シリカゾルを提供する。
【解決手段】 アルカリ土類金属イオンが表面に結合したコロイダルシリカ粒子を含む有機溶媒分散シリカゾルによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒分散シリカゾル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒分散シリカゾルは、レンズ、瓶、フィルムやプレートのような合成樹脂成型体の表面に形成させるハードコート膜や薄膜のマイクロフィラー、樹脂内添剤等として使用できる。有機溶媒分散シリカゾルの製造方法としては、例えば下記の方法が開示されている。
(1)水性シリカゾル中の金属イオンをイオン交換法で除去し、次いでメタノールと混合した後、限外濾過法によって濃縮脱水するメタノール分散シリカゾルの製造方法(特許文献1参照)。
(2)親水性コロイダルシリカ、シリル化剤、疎水性有機溶媒、水、アルコールからなる分散液を中和し、加熱、熟成後、溶媒を蒸留置換する疎水性オルガノシリカゾルの製造方法(特許文献2参照)。
(3)水を分散媒としたシリカゾルと有機溶媒とを混合した後、限外濾過で脱水する、有機溶媒を分散媒とするシリカゾルの製造方法(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平02−167813号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平11−043319号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭59−008614号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
有機溶媒分散シリカゾルをポリエステルやアクリル樹脂、ポリカーボネート等の合成樹脂に配合して使用する場合、コロイダルシリカ粒子表面の固体酸性の作用により、経時的に樹脂の変質や分解等を引き起こし、変色やクラックが発生することがある。また、シリカゾルをケトンやエステル、アミド等の有機溶媒に分散させた場合、シリカの固体酸性の触媒作用によってゾルの分散媒である有機溶媒に分解や着色が起こる。それらを使用する種々の用途において問題となることがあった。
【0004】
よって、経時的に樹脂の変質や分解等を引き起こさず、また、分散媒である有機溶媒の分解や着色が起きない有機溶媒分散シリカゾルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1実施態様は、アルカリ土類金属イオンが表面に結合したコロイダルシリカ粒子を含む有機溶媒分散シリカゾルである。
【0006】
以下に、好ましい態様を示す。
【0007】
表面に結合したアルカリ土類金属がコロイダルシリカ粒子表面の1nm2当り0.001〜0.2個であること。
【0008】
アルカリ土類金属イオンがカルシウムイオン又はマグネシウムイオンであること。
【0009】
本発明の第2実施態様は、水性シリカゾルにアルカリ土類金属化合物を添加して、コロイダルシリカ粒子の表面にアルカリ土類金属イオンが結合した表面処理シリカゾルを得た後、得られた表面処理シリカゾルの分散媒である水を有機溶媒に置換することを含む有機溶媒分散シリカゾルの製造方法、もしくは有機溶媒分散シリカゾルにアルカリ土類金属化合物を添加して、アルカリ土類金属イオンが表面に結合したコロイダルシリカ粒子を含む有機溶媒分散シリカゾルを製造する方法である。
【0010】
以下に、好ましい態様を示す。
【0011】
水性シリカゾルが酸性水性シリカゾルである有機溶媒分散シリカゾルの製造方法。
【0012】
アルカリ土類金属化合物の添加量がアルカリ土類金属イオンとしてコロイダルシリカ粒子表面の1nm2当り0.001〜0.2個となる量であること。
【0013】
アルカリ土類金属化合物がアルカリ土類金属水酸化物であること。
【0014】
アルカリ土類金属化合物が水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムであること。
【0015】
有機溶媒分散シリカゾルに添加するアルカリ土類金属化合物としては、該有機溶媒分散シリカゾルの分散媒である有機溶媒に可溶な物質であること。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有機溶媒分散シリカゾルは、シリカの固体酸性が低いため、樹脂などに配合して使用した際に、アルカリ土類金属が粒子表面に結合していないシリカゾルと比較して、樹脂の変質や分解等を抑制することが可能であり、また種々の有機溶媒に分散させた際の溶媒の分解を抑制することができる。
【0017】
本発明の有機溶媒分散シリカゾルは、種々の用途において改良をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の有機溶媒分散シリカゾルについて詳述する。
【0019】
本発明の有機溶媒分散シリカゾルは、アルカリ土類金属イオンが粒子表面に結合したコロイダルシリカ粒子の安定な有機溶媒分散液である。
【0020】
本発明において原料となる水性シリカゾルは、水ガラスを原料として公知の方法により製造することができる、5.5〜550m2/gの比表面積を有するコロイダルシリカ粒子が水に安定に分散したものであり、その粒子形状は当該技術分野で知られているいずれでもよい。
【0021】
水性シリカゾル中に遊離するアルカリ金属イオンが存在すると、アルカリ土類金属化合物を添加したゾルや溶媒置換後のゾルの安定性が低下する。そのため予め、アルカリ金属イオンを除去した酸性水性シリカゾルを使用するのが好ましい。例えばアルカリ性水性シリカゾルからイオン交換等の方法で遊離の陽イオンを除去して酸性水性シリカゾルとしたもの、そして陽イオン、及び大部分もしくは全量の陰イオンを除去したものを用いることが好ましい。またイオン交換したシリカゾルに少量の硫酸やカルボン酸などの酸を加えてpH調整を行っても良い。
【0022】
酸性水性シリカゾルのSiO2濃度としては5〜55質量%が好ましい。またコロイダルシリカ粒子の比表面積は5.5〜550m2/gであり、27〜550m2/gがより好ましく、90〜550m2/gが最も好ましい。そして、水性シリカゾルに含まれるコロイダルシリカ粒子の粒子径(比表面積径)は窒素吸着法(BET法)により求めた比表面積S(m2/g)からD(nm)=2720/Sの式で計算される。
【0023】
よって、酸性水性シリカゾルの粒子径は5〜500nmであり、5〜100nmがより好ましく、5〜30nmが最も好ましい。粒子径が5nm以下のゾルでは高濃度化が困難であり、500nm以上のゾルでは沈降性が大きく、貯蔵安定性が悪い。
【0024】
本発明において水性シリカゾルに添加するアルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物、塩類(硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、塩酸塩、炭酸塩などの無機酸塩、カルボン酸などの有機酸塩)を使用することができる。アルカリ土類金属の種類としては、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、及びラジウム(Ra)が挙げられる。このうちマグネシウムとカルシウムに関しては、その化合物の入手及び取扱いが容易であるため好ましい。さらには水酸化物塩である水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムは本発明において特に好ましく用いられる。
また、本発明の有機溶媒分散シリカゾルは、有機溶媒分散シリカゾルにアルカリ土類金属化合物を添加して得ることもできる。有機溶媒分散シリカゾルに添加するアルカリ土類金属化合物としては、該有機溶媒分散シリカゾルの分散媒である有機溶媒に可溶なアルカリ土類金属の塩類(硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、塩酸塩、炭酸塩などの無機酸塩、カルボン酸などの有機酸塩)やアルコキシド等を使用する事ができる。アルカリ土類金属アルコキシドの具体例としては、カルシウムジメトキシド、カルシウムジイソプロポキシド、カルシウムジメトキシエトキシド、マグネシウムジエトキシド、マグネシウムジメトキシエトキシド等が挙げられる。原料として用いる有機溶媒分散シリカゾルは市販品を使用する事ができ、例えばMT−ST(メタノール分散シリカゾル、日産化学工業株式会社製)やMEK−ST(メチルエチルケトン分散シリカゾル、日産化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0025】
アルカリ土類金属イオン結合量としては、コロイダルシリカ粒子の1nm2当りの結合量が0.001〜0.2個であることが好ましく、0.002〜0.1個であることがより好ましい。アルカリ土類金属イオンの結合量が0.001個/nmより少ない場合は十分な固体酸性抑制効果が期待できない。またアルカリ土類金属イオン結合量が0.2個/nmより多い場合は有機溶媒分散シリカゾルの安定性が低下する。コロイダルシリカ粒子の単位面積(nm)当りのアルカリ土類金属イオン結合量は、BET法により求めたコロイダルシリカ粒子の粒子径(nm)とアルカリ土類金属化合物の添加量から算出される。
【0026】
本発明において、有機溶媒分散シリカゾルの有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類、炭化水素等の全ての有機溶媒を使用することができる。
【0027】
アルコール類としては、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、2-ブタノール、エチレングリコール、グリセリン、プリピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、1,5−ペンタンジオール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0028】
エーテル類としては、具体的には、ジエチルーテル、ジブチルーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0029】
エステル類としては、具体的には、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸メチル、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボニルアクリレート、トリプロピレングリコールジアリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
【0030】
ケトン類としては、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0031】
炭化水素類としては、具体的には、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、スチレン、ハロゲン化炭化水素類としてはジクロロメタン、トリクロロエチレン等が挙げられる。
【0032】
エポキシドとしては、具体的には、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
【0033】
その他の有機溶媒としては、アセトニトリル、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0034】
以下、本発明の有機溶媒分散シリカゾルの製造方法について詳述する。
【0035】
本発明は、5〜500nmの酸性水性シリカゾルに、コロイダルシリカ粒子の1nm2当りアルカリ土類金属イオンが0.001〜0.2個、より好ましくは0.002〜0.1個となる量のアルカリ土類金属化合物を添加し、その後、有機溶媒置換を行うことを含む。
【0036】
まず酸性水性シリカゾルにアルカリ土類金属化合物を添加する工程については、酸性水性シリカゾルを撹拌しながら、室温又は加熱下において、アルカリ土類金属化合物を粉末または水溶液もしくはスラリーの状態で添加する。添加後は撹拌を十分に行い、アルカリ土類金属化合物を溶解させる。
【0037】
酸性水性シリカゾル中にアニオン成分を多く含む場合やアルカリ土類金属化合物としてアルカリ土類金属塩を用いる場合には、含まれるアニオン成分によってアルカリ土類金属イオンのシリカ表面への結合が阻害されるため、添加後、アニオン成分を部分的にもしくは全て除去する必要がある。その方法としては、イオン交換法、限外ろ過法等がある。アニオン成分を減少させることにより、アルカリ土類金属イオンがコロイダルシリカ粒子表面に結合する。
【0038】
次の有機溶媒置換工程については、公知技術のいずれの方法を用いても良い。例えば、蒸留置換法や限外ろ過法等が挙げられる。親水性有機溶媒に置換する場合は、アルカリ土類金属結合水性シリカゾルを直接、親水性有機溶媒に置換することによって、本発明の有機溶媒分散シリカゾルを得ることができる。
【0039】
また疎水性有機溶媒に置換する場合は、シリカ表面を疎水化処理した後、所望の溶媒へ置換する方法が知られている。疎水化処理の方法としては、ゾルを過剰のアルコールの共存下加熱することによりシリカ粒子表面のシラノール基をエステル化する方法(特開昭57−196717号公報)やシリル化剤又はシランカップリング剤でシリカ表面を処理する方法(特開昭58−145614号公報、特開平03−187913号公報、特開平11−43319号公報)が知られている。
【0040】
また、有機溶媒分散シリカゾルにアルカリ土類金属化合物を添加して得られる本発明の有機溶媒分散シリカゾルの製造方法は、原料となる有機溶媒分散シリカゾルとして、コロイダルシリカの表面が疎水化処理された有機溶媒分散シリカゾルと疎水化処理されていない有機溶媒分散シリカゾルのいずれを用いても良いが、コロイダルシリカの表面が疎水化処理された有機溶媒分散シリカゾルを用いる方が好ましい。
これらの方法により、本発明の有機溶媒分散シリカゾルを得ることができる。
【実施例】
【0041】
実施例1
内容積1Lのポリエチレン製容器中で、小粒子径酸性水性シリカゾル(BET粒子径7nm、SiO2濃度15質量%、pH2.7)754gをディスパーで1000rpmの回転速度で撹拌しながら水酸化カルシウムを0.045g添加し、30分間室温で撹拌して溶解させることによってカルシウム結合水性シリカゾルを得た(pH3.1)。このゾル732gを撹拌機、コンデンサー、温度計及び注入口2箇を備えた内容積1Lのガラス製反応器に仕込み、反応器内ゾルの沸騰を維持し、液面を若干上げながら、別のボイラーで発生させたメタノールの蒸気を反応器内のシリカゾル中に連続的に吹き込んだ。留出液の体積が10Lになったところで置換を終了し、メタノール分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度15.6質量%、粘度1.7mPa・s、水分1.3質量%、ゾルを同質量の純水で希釈して測定したときのpH3.6、コロイダルシリカ粒子表面の1nm2当りのCaイオン 0.008個)730gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、1.7mPa・sであり、安定であった。
【0042】
実施例2
実施例1にて調製したメタノール分散カルシウム結合シリカゾル674gを内容積1Lの撹拌機を備えたガラス製反応器に仕込み、ヘキサメチルジシロキサン16.9gを添加して液温を55℃で2時間保持した。そのゾルを内容積1Lのナスフラスコに移し、ロータリーエバポレーターにて溶媒留去しながら、メチルエチルケトンを1230g添加し、メチルエチルケトン分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度1.6mPa・s、水分0.1質量%)512gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、1.7mPa・sであり、安定であった。
【0043】
実施例3
内容積2Lのポリエチレン製容器中で、酸性水性シリカゾル[スノーテックス(商標)OS、BET粒子径10nm、SiO2濃度20質量%、pH2.8、日産化学工業(株)製]1223gをディスパーで1000rpmの回転速度で撹拌しながら水酸化カルシウムを0.099g添加し、30分間室温で撹拌して溶解させることによってカルシウム結合水性シリカゾルを得た(pH3.5)。このゾル1116gを撹拌機、コンデンサー、温度計及び注入口2箇を備えた内容積2Lのガラス製反応器に仕込み、反応器内ゾルの沸騰を維持し、液面を若干上げながら、別のボイラーで発生させたメタノールの蒸気を反応器内のシリカゾル中に連続的に吹き込んだ。留出液の体積が11Lになったところで置換を終了し、メタノール分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度1.7mPa・s、水分1.4質量%、ゾルを同質量の純水で希釈して測定したときのpH3.8、コロイダルシリカ粒子表面の1nm2当りのCaイオン0.012個)1105gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、1.7mPa・sであり、安定であった。
【0044】
実施例4
実施例3にて調製したメタノール分散カルシウム結合シリカゾル626gを内容積1Lの撹拌機を備えたガラス製反応器に仕込み、ヘキサメチルジシロキサン12.5gを添加し、液温を55℃で2時間保持した。そのゾルを内容積1Lのナスフラスコに移し、ロータリーエバポレーターにて溶媒留去しながら、メチルエチルケトンを1300g添加し、メチルエチルケトン分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.6質量%、粘度1.8mPa・s、水分0.1質量%)630gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、1.8mPa・sであり、安定であった。
【0045】
実施例5
内容積3Lのポリエチレン製容器中で、酸性水性シリカゾル[スノーテックス(商標)O、BET粒子径12nm、SiO2濃度20質量%、pH2.8、日産化学工業(株)製]2346gをディスパーで1000rpmの回転速度で撹拌しながら水酸化カルシウムを0.105g添加し、60分間室温で撹拌して溶解させることによってカルシウム結合水性シリカゾルを得た(pH3.2)。このゾル1572gを撹拌機、コンデンサー、温度計及び注入口2箇を備えた内容積2Lのガラス製反応器に仕込み、反応器内ゾルの沸騰を維持し、液面を若干上げながら、別のボイラーで発生させたメタノールの蒸気を反応器内のシリカゾル中に連続的に吹き込んだ。留出液の体積が13Lになったところで置換を終了し、メタノール分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度1.7mPa・s、水分1.3質量%、ゾルを同質量の純水で希釈して測定したときのpH3.7、コロイダルシリカ粒子表面の1nm2当りのCaイオン0.008個)1550gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、1.7mPa・sであり、安定であった。
【0046】
実施例6
実施例5にて調製したメタノール分散カルシウム結合シリカゾル717gを内容積1Lの撹拌機を備えたガラス製反応器に仕込み、ヘキサメチルジシロキサン20.5gを添加し、液温を55℃で2時間保持した。そのゾルを内容積1Lのナスフラスコに移し、ロータリーエバポレーターにて溶媒留去しながら、メチルエチルケトンを1409g添加し、メチルエチルケトン分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.4質量%、粘度1.4mPa・s、水分0.1質量%)710gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、1.5mPa・sであり、安定であった。
【0047】
実施例7
実施例5において、水酸化カルシウム添加量を0.211gで行った以外は実施例5と同様にして行い、メタノール分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.3質量%、粘度1.6mPa・s、水分1.5質量%、ゾルを同質量の純水で希釈して測定したときのpH4.6、コロイダルシリカ粒子表面の1nm2当りのCaイオン0.016個)を得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、1.7mPa・sであり、安定であった。
【0048】
実施例8
実施例5において、水酸化カルシウムの代わりに水酸化マグネシウムを0.156gで添加した以外は実施例5と同様にして行い、メタノール分散マグネシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度1.6mPa・s、水分1.6質量%、ゾルを同質量の純水で希釈して測定したときのpH4.6、コロイダルシリカ粒子表面の1nm2当りのMgイオン0.015個)を得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、1.7mPa・sであり、安定であった。
【0049】
実施例9
酸性水性シリカゾル[スノーテックス(商標)O、BET粒子径12nm、SiO2濃度20質量%、pH2.8、日産化学工業(株)製]2346gを、水素型強酸性陽イオン交換樹脂アンバーライトIR−120B200mlを充填した約25℃のカラムに1時間当たりの空間速度15の通液速度で通過させた。次いで、この通過により得られたゾルを内容積3Lのポリエチレン製容器に仕込み、ディスパーで1000rpmの回転速度で撹拌しながら、水酸化カルシウム0.432gを純水10gに分散させたスラリーを添加し、60分間室温で撹拌して溶解させることによってカルシウム結合水性シリカゾルを得た(pH4.6)。このゾル1572gを撹拌機、コンデンサー、温度計及び注入口2箇を備えた内容積2Lのガラス製反応器に仕込み、反応器内ゾルの沸騰を維持し、液面を若干上げながら、別のボイラーで発生させたメタノールの蒸気を反応器内のシリカゾル中に連続的に吹き込んだ。留出液の体積が13Lになったところで置換を終了し、メタノール分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度1.7mPa・s、水分1.0質量%、ゾルを同質量の純水で希釈して測定したときのpH5.1、コロイダルシリカ粒子表面の1nm2当りのCaイオン0.033個)1550gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、1.7mPa・sであり、安定であった。
【0050】
実施例10
メタノール分散シリカゾル[MT−ST、BET粒子径12nm、SiO2濃度30質量%、日産化学工業(株)製]800gを内容積1Lの撹拌機を備えたガラス製反応器に仕込み、ヘキサメチルジシロキサン8.0gを添加して液温を55℃で2時間保持した。得られたゾルにメタクリル酸カルシウム水和物[東京化成工業(株)製]を0.36g添加し、30分間撹拌して溶解させることによりメタノール分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度30質量%、粘度1.8mPa・s、水分1.5質量%、コロイダルシリカ粒子表面の1nm2当りのCaイオン 0.019個)808gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、1.8mPa・sであり、安定であった。
【0051】
実施例11
酸性水性シリカゾル[スノーテックス(商標)OL、BET粒子径47nm、SiO2濃度20質量%、pH3.2、日産化学工業(株)製]1102gを、水素型強酸性陽イオン交換樹脂アンバーライトIR−120B50mlを充填した約25℃のカラムに1時間当たりの空間速度15の通液速度で通過させた。次いで、この通過により得られたゾルを内容積2Lのポリエチレン製容器に仕込み、ディスパーで1000rpmの回転速度で撹拌しながら、水酸化カルシウム0.237gを純水200gに溶解させた溶液を添加し、60分間室温で撹拌することによって、カルシウム結合水性シリカゾルを得た(pH7.4)。このゾルの212.7gを内容積1Lのガラス製ナスフラスコに仕込み、エチレングリコールを176.0g添加した後、ロータリーエバポレーターで濃縮することによってエチレングリコール分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.6質量%、粘度38.1mPa・s、水分0.1質量%、ゾルを同質量の純水で希釈して測定したときのpH7.9、コロイダルシリカ粒子表面の1nm2当りのCaイオン0.151個)180.4gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、38.2mPa・sであり、安定であった。
【0052】
実施例12
水酸化カルシウム0.126gを純水200gに溶解させた溶液を添加した以外は、実施例11と同様にして行い、エチレングリコール分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度37.1mPa・s、水分0.1質量%、ゾルを同質量の純水で希釈して測定したときのpH6.3、コロイダルシリカ粒子表面の1nm2当りのCaイオン0.080個)180.4gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、37.3mPa・sであり、安定であった。
【0053】
実施例13
水酸化カルシウム0.040gを純水200gに溶解させた溶液を添加した以外は、実施例11と同様にして行い、エチレングリコール分散カルシウム結合シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度36.5mPa・s、水分0.1質量%、ゾルを同質量の純水で希釈して測定したときのpH3.9、コロイダルシリカ粒子表面の1nm2当りのCaイオン0.025個)180.4gを得た。このゾルの一部をガラス製容器に密閉し、50℃の恒温槽内で1ヶ月保持した後粘度を測定したところ、36.6mPa・sであり、安定であった。
【0054】
比較例1
水酸化カルシウムを添加しなかった以外は実施例1及び2と同様にして行い、メチルエチルケトン分散シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度1.5mPa・s、水分0.1質量%)を得た。
【0055】
比較例2
水酸化カルシウムを添加しなかった以外は実施例3及び4と同様にして行い、メチルエチルケトン分散シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度1.7mPa・s、水分0.1質量%)を得た。
【0056】
比較例3
水酸化カルシウムを添加しなかった以外は実施例5と同様にして行い、メタノール分散シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度1.3mPa・s、水分1.3質量%、ゾルを同質量の純水で希釈して測定したときのpH3.2)を得た。
【0057】
比較例4
比較例3にて調製したメタノール分散シリカゾルを用いて、実施例6と同様の手法により、メチルエチルケトン分散シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度1.3mPa・s、水分0.1質量%)を得た。
【0058】
比較例5
水酸化カルシウムの代わりに水酸化ナトリウム10質量%溶液を1.0g添加した以外は実施例5及び6と同様にして行い、ナトリウム結合メチルエチルケトン分散シリカゾル(SiO2濃度20.5質量%、粘度1.1mPa・s、水分0.1質量%、コロイダルシリカ粒子の表面の1nm2当りのNaイオン0.014個)を得た。
【0059】
比較例6
メタクリル酸カルシウム水和物を添加しなかった以外は実施例10と同様にして行い、メタノール分散シリカゾル(SiO2濃度30.5質量%、粘度1.8mPa・s、水分1.5質量%)を得た。
【0060】
樹脂原料と混合した時の着色評価試験
アクリルモノマー[ビスコート#150(商品名)、大阪有機化学工業(株)製]10mLと上記メタノール分散シリカゾル2mLとを20mLの蓋付ガラス瓶中で混合し、50℃の恒温槽内で1週間保管した。それらの外観の変化を以下に示す。
【0061】
なお、ブランクは、アクリルモノマー10mLを20mLの蓋付ガラス瓶中で、50℃の恒温槽内で1週間保管した。
【0062】
【表1】

表1に示したとおり、シリカゾルの粒子表面にアルカリ土類金属を結合させることにより、結合させないものに比べて、アクリルモノマーと混合した際の着色を抑えることを確認した。
【0063】
メチルエチルケトン分散シリカゾルの着色評価試験
上記のメチルエチルケトン分散シリカゾルをそれぞれ100mLの蓋付ガラス瓶に入れ、50℃の恒温槽内で2週間及び4週間保管した。それらの紫外領域(λ=350nm)での吸光度の変化及び外観の変化を以下に示す。
【0064】
【表2】

表2に示したとおり、シリカゾルの粒子表面にCaイオンを結合させることにより、結合させないものに比べて、メチルエチルケトン分散シリカゾルの経時的な黄色の着色を抑えることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の有機溶媒分散シリカゾルは、シリカの固体酸性が低く、樹脂などに配合して使用した際に、アルカリ土類金属が粒子表面に結合していないシリカゾルと比較して、樹脂の変質や分解等を抑制することが可能であり、レンズ、瓶、フィルムやプレートのような合成樹脂成型体の表面に形成させるハードコート膜や薄膜のマイクロフィラー、樹脂内添剤等として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ土類金属イオンが表面に結合したコロイダルシリカ粒子を含む有機溶媒分散シリカゾル。
【請求項2】
表面に結合したアルカリ土類金属イオンがコロイダルシリカ粒子表面の1nm2当り0.001〜0.2個である請求項1に記載の有機溶媒分散シリカゾル。
【請求項3】
アルカリ土類金属イオンがカルシウムイオン又はマグネシウムイオンである請求項1又は請求項2に記載の有機溶媒分散シリカゾル。
【請求項4】
水性シリカゾルにアルカリ土類金属化合物を添加して、コロイダルシリカ粒子の表面にアルカリ土類金属イオンが結合した表面処理シリカゾルを得た後、得られた表面処理シリカゾルの分散媒である水を有機溶媒に置換することを含む有機溶媒分散シリカゾルの製造方法。
【請求項5】
水性シリカゾルが酸性水性シリカゾルである請求項4に記載の有機溶媒分散シリカゾルの製造方法。
【請求項6】
アルカリ土類金属化合物の添加量が、アルカリ土類金属イオンとしてコロイダルシリカ粒子表面の1nm2当り0.001〜0.2個となる量である請求項4又は請求項5に記載の有機溶媒分散シリカゾルの製造方法。
【請求項7】
アルカリ土類金属化合物がアルカリ土類金属水酸化物である請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の有機溶媒分散シリカゾルの製造方法。
【請求項8】
アルカリ土類金属化合物が水酸化カルシウム又は水酸化マグネシウムである請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載の有機溶媒分散シリカゾルの製造方法。
【請求項9】
有機溶媒分散シリカゾルにアルカリ土類金属化合物を添加して得られる請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の有機溶媒分散シリカゾルの製造方法。

【公開番号】特開2007−63117(P2007−63117A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202670(P2006−202670)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】