説明

有機無機ハイブリッド組成物

【課題】酸化鉄微粒子と有機液晶性分子との混合体からなる有機無機ハイブリッド組成物、及び、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子との混合体からなり、かつ、サーモトロピック液晶性を示す有機無機ハイブリッド組成物を提供すること。
【解決手段】単分散である酸化鉄微粒子と、酸化鉄微粒子の特定の結晶面に特異的吸着する機能を有する官能基を備えた有機液晶性分子とを含む有機無機ハイブリッド組成物。官能基は、リン酸基、ホスホン酸基又はカルボン酸基が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機無機ハイブリッド組成物に関し、さらに詳しくは、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子との混合体、あるいは、これらの混合体であってサーモトロピック液晶性を示す有機無機ハイブリッド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶は、液体と固体の中間の状態にある物質であり、流体の流動性と、結晶の異方性とを併せ持つ。また、ある種の液晶は、磁場や電場のような外場が作用すると、配向ベクトル(異方性がある方向の単位ベクトル)が変化し、外場を除去すると、その弾性復元力により元の状態に戻るという性質がある。そのため、この種の液晶は、電卓、時計、コンピュータ、テレビなどの表示素子に用いられている。
液晶の中でも、温度を変化させることによって液晶状態に至るものを、サーモトロピック(温度相転移型)液晶という。サーモトロピック液晶は、分子配列の違いにより、ネマチック液晶、スメクチック液晶、及び、コレステリック液晶に大別される。現在実用化されている液晶ディスプレイに使用されている液晶は、ほとんどがネマチック液晶である。また、この種の用途に用いられる液晶は、一般に、シアノビフェニール化合物のような有機化合物である。
【0003】
一方、無機化合物からなる微粒子は、その組成に応じて、種々の特性(例えば、磁気特性、光触媒特性など)を示す。しかしながら、無機微粒子自身には、一般に、有機液晶のような自己組織性や配向性がない。そのため、無機微粒子に有機液晶の持つこれらの特性を付与することができれば、外場の変化に応じて無機微粒子の組織構造や配列状態を制御できると考えられる。
最近、このような考え方に基づき、無機微粒子へのサーモトロピック液晶性の付与を検討した例が報告されている。例えば、非特許文献1には、針状の単分散酸化チタンの表面が、アミノ基を有する有機液晶でコーティングされた有機無機ハイブリッド液晶が開示されている。同文献には、
(1) 単分散性に優れた長軸方向粒径約300nmの酸化チタン粒子と、有機液晶性アミンとをナノレベルでハイブリッド化すると、サーモトロピック液晶性を示す有機無機ハイブリッド液晶となる点、及び、
(2) 液晶性の発現には、(a)用いる酸化チタン微粒子の単分散性が優れていること、(b)酸化チタン粒子が針状の形態を有すること、(c)有機液晶のメソゲン部位を適切に選択すること、などが重要である点、
が記載されている。
【0004】
【非特許文献1】"Organic-Inorganic Hybrid Liquid Crystals: Hybridization of Calamitic Liquid-Crystalline Amines with Monodispersed Anisotropic TiO2 Nanoparticles", Kiyoshi Kanie and Tadao Sugimoto, Journal of the American Chemical Society, 2003, 125, 10518-10519
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化チタン微粒子に対して、アミンは高い吸着性を示す。そのため、単分散性に優れた酸化チタン微粒子に有機液晶性アミンを加えると、酸化チタン微粒子の表面に有機液晶性アミンのアミノ基が吸着し、サーモトロピック液晶性が発現する。しかしながら、酸化チタン微粒子自身には、外場応答性がないので、ハイブリッド液晶の配列状態を外部刺激により制御するためには、有機液晶性分子が持つ外場応答性を利用する以外に方法がない。
これに対し、酸化鉄微粒子は、外場応答性(例えば、磁場応答性)を持つものがある。そのため、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子とをハイブリッド化することができれば、酸化鉄微粒子が持つ外場応答性と、有機液晶性分子が持つ外場応答性(例えば、電場応答性)とを複合的に活用して、ハイブリッド液晶の組織構造や配列状態を制御することができると考えられる。しかしながら、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子とをハイブリッド化させた例は、従来にはない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子との混合体からなる有機無機ハイブリッド組成物を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子との混合体からなり、かつ、サーモトロピック液晶性を示す有機無機ハイブリッド組成物を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、複数の外場の変化を複合的に活用することによって、酸化鉄微粒子の組織構造や配列状態を制御することが可能な有機無機ハイブリッド組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明に係る有機無機ハイブリッド組成物は、単分散である酸化鉄微粒子と、前記酸化鉄微粒子の特定の結晶面に特異的吸着する機能を有する官能基を備えた有機液晶性分子とを含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
ある種の官能基は、酸化鉄微粒子の特定の結晶面に特異的に吸着する。このような官能基を備えた有機液晶性分子と、単分散である酸化鉄微粒子とを分散媒中に分散させ、分散媒を留去すると、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子との混合物からなる有機無機ハイブリッド組成物が得られる。
また、酸化鉄微粒子の表面を構成する結晶面と官能基の組み合わせを最適化すると、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子とがナノレベルでハイブリッド化させれ、サーモトロピック液晶性を示す有機無機ハイブリッド液晶が得られる。すなわち、酸化鉄微粒子に対して、有機液晶性分子が持つ自己組織性や配向性を付与することができる。
有機無機ハイブリッド液晶は、有機液晶性分子に由来する外場応答性と、酸化鉄微粒子自身に由来する外場応答性とを併せ持つ。そのため、これらの外場応答性を複合的に活用すれば、複数の外場の変化に応じて、酸化鉄微粒子の組織構造や配列構造を複合応答させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る有機無機ハイブリッド組成物は、酸化鉄微粒子と、有機液晶性分子とを備えている。
本発明において、微粒子を構成する酸化鉄の結晶構造は、特に限定されるものではない。酸化鉄としては、具体的には、α−Fe23、Fe34、γ−Fe23などがある。有機無機ハイブリッド組成物は、これらのいずれか1種の酸化鉄微粒子を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
酸化鉄微粒子は、単分散であっても良く、あるいは、多分散であっても良い。但し、酸化鉄微粒子にサーモトロピック液晶性を付与するためには、酸化鉄微粒子は、単分散である必要がある。ここで、「単分散」とは、酸化鉄微粒子の長軸径(粒子寸法が最大となる方向の長さ)の標準偏差が長軸径の10%以下であり、かつ、その短軸径(粒子寸法が最小となる方向の長さ)の標準偏差が短軸径の10%以下であることをいう。
【0010】
酸化鉄微粒子の大きさは、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。但し、酸化鉄微粒子の平均粒径が大きくなりすぎると、単分散粒子の合成が困難となる。従って、液晶性を呈するハイブリッド組成物を容易に得るためには、酸化鉄微粒子の平均粒径は、数μm以下が好ましく、さらに好ましくは、1μm以下である。
【0011】
酸化鉄微粒子の形状は、等方的であってもよく、あるいは、異方的であっても良い。酸化鉄微粒子の形状としては、具体的には、スピンドル型、立方体型、六角円盤型などがある。これらの中でも、スピンドル型の酸化鉄微粒子は、その表面に有機液晶性分子を吸着させることによって、微粒子の長軸方向がほぼ一方向を向いた液晶(いわゆる、「ネマチック液晶」)を形成しやすいという特徴がある。また、立方体状の酸化鉄微粒子は、その表面に有機液晶性分子を吸着させることによって、3次元秩序を持つ液晶(いわゆる、「キュービック液晶」)を形成しやすいという特徴がある。
【0012】
酸化鉄微粒子の表面を構成する結晶面の種類は、特に限定されるものではない。但し、酸化鉄微粒子に液晶性を付与するためには、酸化鉄微粒子は、その表面の少なくとも一部に、後述する官能基を特異的に吸着する性質を有する結晶面を含むものが好ましい。
酸化鉄微粒子の表面を構成する結晶面は、酸化鉄の結晶構造、微粒子の形状、製造方法等により異なる。例えば、後述する方法を用いてα−Fe23からなるスピンドル型の微粒子を合成した場合、微粒子の長軸方向は、c軸とほぼ平行になる。また、例えば、後述する方法を用いてα−Fe23からなる立方体型の微粒子を合成した場合、微粒子の表面は、{012}面により構成される。また、例えば、後述する方法を用いて、α−Fe23からなる六角円盤型の微粒子を合成した場合、微粒子の主平面は、c軸に対してほぼ垂直な面からなる。
【0013】
本発明において、「有機液晶性分子」とは、その分子構造のいずれかに、酸化鉄微粒子の特定の結晶面に特異的吸着する機能を有する官能基(以下、これを「吸着官能基」という)を備えている有機化合物をいう。有機液晶性分子は、単独でも液晶性を呈するものでも良く、あるいは、単独では液晶性を呈しないが、酸化鉄微粒子と組み合わせることによって液晶性を呈するものでも良い。
【0014】
有機液晶性分子の吸着官能基以外の部分の構造は、特に限定されるものではないが、単独で又は酸化鉄微粒子と組み合わせることによって液晶性を発現させるためには、剛直なメソゲン部(コア部)と、メソゲン部に結合する柔軟な末端鎖部とを備えたものが好ましい。「メソゲン部」とは、ベンゼン環、シクロヘキサン環若しくはこれらの誘導体が連なったロッド状の部分、又は、円盤形分子の円盤の部分をいう。また、末端鎖部とは、アルキル鎖などをいう。メソゲン部と末端鎖部は、直接、結合していても良く、あるいは、適当なスペーサ部(例えば、−COO−)を介して結合していても良い。
有機液晶性分子は、分子構造のいずれかにC−F結合を有するもの(フッ素系有機液晶分子)であっても良く、あるいは、分子構造のいずれかにC−F結合を有しないもの(炭化水素系有機液晶分子)であっても良い。
また、酸化鉄微粒子に液晶性を付与するためには、酸化鉄微粒子を疎水化することが望ましい。そのためには、有機液晶性分子は、酸化鉄微粒子表面に吸着した際に、有機液晶性分子の疎水基(アルキル基、ベンゼン環、フルオロベンゼン環など)が最表面になるような構造を持つものが好ましい。
さらに、吸着官能基は、有機液晶性分子のいずれの部分に結合していても良い。但し、液晶性の発現を容易化するためには、吸着官能基は、剛直なメソゲン部よりもむしろ、柔軟な末端鎖部(特に、末端鎖部の末端)に結合しているのが好ましい。
【0015】
吸着官能基の種類は、酸化鉄微粒子の組成、及び、微粒子表面を構成する結晶面の種類に応じて最適なものを選択する。吸着官能基としては、具体的には、リン酸基(−OPO(OH)2)、ホスホン酸基(−PO(OH)2)、カルボン酸基(−COOH)などがある。
リン酸基、ホスホン酸基及びカルボン酸基は、いずれも、酸化鉄の表面に吸着しやすいので、これらのいずれかを含む有機液晶性分子と酸化鉄微粒子とを組み合わせると、酸化鉄微粒子に液晶性を付与することができる場合がある。特に、リン酸基及びホスホン酸基は、α−Fe23のc軸に対して平行な面に特異的吸着する性質があるので、これらのいずれかを備えた有機液晶性分子は、スピンドル型又は立方体型のα−Fe23粒子と組み合わせて用いる有機液晶性分子として特に好適である。
【0016】
リン酸基、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有する有機液晶性分子としては、具体的には、次の(a)式〜(c)式で表されるものが好ましい。
【0017】
【化1】

【0018】
但し、(a)式〜(c)式において、それぞれ、
環A、環B、環C、及び、環Dは、それぞれ、1,4−フェニレン基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピラジン−2,5−ジイル基、ピリダジン−3,6−ジイル基、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキセレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、トランスデカリン−2,6−ジイル基、[2・2・2]ビシクロオクタン−1,4−ジイル基、又は、1,3−ジオキサン−トランス−2,5−ジイル基を表し、これらは、それぞれ独立的に1〜2個の水素原子がフッ素原子に置換されていても良い。
J、K、Lは、それぞれ独立的に、単結合、−CH2CH2−、−C≡C−、−CF=CF−、−(CH2)4−、−CH(CH3)CH2−、−CH2CH(CH3)−、−CF2O−、−OCF2−、−CH2O−、−OCH2−、−COO−、又は、−OCO−を表す。
Iは0〜20の整数を表し、m及びnは、それぞれ独立的に0又は1を表す。
Rは、
(i)炭素原子数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基若しくはアルコキシ基、
(ii)炭素原子数2〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基若しくはアルケニルオキシ基、
(iii)炭素原子数2〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルカノイルオキシ基、
(iv)炭素原子数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシカルボニル基、又は、
(v)水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、シアナト基若しくはチオシアナト基、
を表す。
前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記アルカノイルオキシ基及び前記アルコキシカルボニル基は、それぞれ、1個又は2個以上の水素原子がフッ素原子、又は、炭素原子数1〜12のアルコキシ基により置換されていても良く、分岐により不正炭素が生じる場合は、光学的に活性であってもラセミ体であっても良い。
【0019】
リン酸基を有する有機液晶性分子は、特に、次の(a1)式又は(a2)式で表されるものが好ましい。また、ホスホン酸基を有する有機液晶性分子は、次の(b1)式で表されるものが好ましい。さらに、カルボン酸基を有する有機液晶性分子は、次の(c1)式で表されるものが好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
有機無機ハイブリッド組成物は、いずれか1種の有機液晶性分子を含むものでもよく、あるいは、2種以上を含むものでも良い。また、有機無機ハイブリッド組成物は、上述した各種の酸化鉄微粒子と有機液晶性分子とが単に混合している混合物であっても良く、あるいは、有機液晶性分子が吸着官能基を介して酸化鉄微粒子表面に吸着しているものでも良い。特に、相対的に多量の有機液晶性分子が酸化鉄微粒子表面に吸着している組成物は、サーモトロピック液晶性を示す場合がある。
ハイブリッド組成物に含まれる有機液晶性分子と酸化鉄微粒子の比率は、サーモトロピック液晶性の発現に影響を及ぼす。一般に、有機液晶性分子の量が相対的に少ない場合及び相対的に多い場合のいずれも、酸化鉄微粒子に自己組織性や配向性を付与することができない。従って、液相性を呈するハイブリッド組成物(すなわち、ハイブリッド液晶)を得るためには、有機液晶性分子と酸化鉄微粒子の比率は、有機液晶性分子の組成、吸着官能基の種類、酸化鉄微粒子の組成、微粒子の形状、微粒子の表面を構成する結晶面の種類等に応じて、最適な比率を選択するのが好ましい。
例えば、有機液晶性分子がリン酸基を有する有機液晶分子であり、酸化鉄微粒子がα−Fe23である場合において、サーモトロピック液晶性を発現させるためには、酸化鉄微粒子の重量(H)に対する有機液晶性分子の重量(L)の比(L/H)は、1/1〜1/2が好ましい。
【0022】
次に、本発明に係るハイブリッド組成物の製造方法について説明する。
まず、酸化鉄微粒子を合成する。酸化鉄微粒子は、溶媒可溶性の鉄原料を溶媒に溶解させ、この溶液から酸化鉄微粒子を析出させる液相合成法により合成することができる。
鉄原料は、合成しようとする酸化鉄の組成、粒子形状、使用する溶媒の種類等に応じて最適なものを選択する。鉄原料には、通常、FeCl3などの塩類が用いられる。
溶媒は、使用する鉄原料の種類に応じて、最適なものを選択する。溶媒には、通常、水が用いられる。溶媒中の鉄原料の濃度は、特に限定されるものではなく、合成しようとする酸化鉄微粒子の組成、形状等に応じて最適なものを選択する。一般に、希薄溶液を用いるほど、粒径及び粒子形状の揃った単分散粒子が得やすくなる。
【0023】
所定量の鉄原料を含む溶液を密閉可能な耐圧容器に入れ、所定の温度で加熱すると、溶液中に酸化鉄微粒子が析出する。
この時、溶液中に種粒子を添加すると、酸化鉄微粒子の平均粒径及び単分散性を制御することができる。一般に、種粒子の添加量が多くなるほど、単分散性の高い微粒子(粒子径の平均値に対する標準偏差の割合が小さい粒子)が得られる。また、一般に、種粒子の添加量が多くなるほど、平均粒子径の小さい微粒子が得られる。
種粒子としては、具体的には、
(1) 合成しようとする酸化鉄と同一組成及び同一結晶構造を有するもの、
(2) 合成しようとする酸化鉄と異なる組成を有し、かつ、種粒子の表面を構成する結晶面の格子定数が、酸化鉄の特定の結晶面の格子定数に近似しているもの、
などを用いることができる。
【0024】
また、溶液中に形態制御剤を添加すると、酸化鉄微粒子の形状を制御することができる。形態制御剤には、酸化鉄の特定の結晶面に特異的吸着する性質を有するイオンを含む化合物を用いる。形態制御剤を溶液中に添加することによって、特定の形状を有する酸化鉄微粒子が得られるのは、形態制御剤に含まれるイオンが酸化鉄微粒子の特定の結晶面に選択的に吸着し、その結晶面に対して垂直方向への粒子の成長が抑制されるためである。
例えば、単分散α−Fe23粒子を合成する場合において、溶液中にリン酸イオンを添加すると、長軸方向が、α−Fe23のc軸にほぼ平行なスピンドル型のα−Fe23粒子が得られる。
また、例えば、単分散α−Fe23粒子を合成する場合において、溶液中に鉄の錯体または塩化物イオンを添加すると、立方体型のα−Fe23粒子が得られる。
また、例えば、単分散α−Fe23粒子を合成する場合において、溶液中に水酸化物イオン、又は、水酸基を有する有機分子若しくはポリマ(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなど)を添加すると、六角円盤型のα−Fe23粒子が得られる。
また、例えば、単分散α−Fe23粒子を合成する場合において、溶液中に硫酸イオンを添加すると、回転楕円体型又はピーナツ型のα−Fe23粒子が得られる。
【0025】
さらに、得られた酸化鉄微粒子を適当な条件下で焼成すると、平均粒径及び粒子形状を変化させることなく、酸化鉄の組成及び/又は結晶構造を変化させることができる。
例えば、液相合成法を用いてα−Fe23を合成した後、水素気流下、330℃で加熱すると、α−Fe23をFe34に変換することができる。さらに、得られたFe34を空気気流下、240℃で加熱すると、Fe34をγ−Fe23に変換することができる。
【0026】
次に、有機液晶性分子を合成する。所定の吸着官能基を有する有機液晶性分子は、有機液晶性分子の構造を有する化合物を出発原料に用いて、これに周知の処理(例えば、付加反応、置換反応、縮合反応など)で吸着官能基を有する化合物を反応させることによって合成できる。すなわち、ベンゼン環、シクロヘキサン環若しくはこれらの誘導体が連なったロッド状の部分からなる剛直なメソゲン部(コア部)と、メソゲン部に結合するアルキル鎖などの柔軟な末端鎖部とを備えた構造を有する化合物を出発原料に用いて、リン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基などの吸着官能基を有する化合物を反応させ、得られた反応物を、溶媒抽出、洗浄、ろ過などにより精製することによって得られる。
例えば、上述した(a1)式で表される有機液晶性分子は、トランス−4−[トランス−4−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]シクロヘキサンブタノールを出発原料に用いて、OH基を−OPO(OH)2基に変換することにより得られる。
また、例えば、上述した(a2)式で表される有機液晶性分子は、NC−C64−C64−OHを出発原料に用いて、OH基を−O−(CH2)6−OPO(OH2)2基に変換することにより得られる。
【0027】
次に、合成した酸化鉄微粒子と有機液晶性分子とを分散媒中に分散させる。
分散媒は、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子とを均一に分散させることができるものであればよい。このような分散媒としては、具体的には、CHCl3/MeOH混合溶媒などがある。また、分散媒の量は、特に限定されるものではなく、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子とを均一に分散させることができる量であれば良い。
酸化鉄微粒子及び有機液晶性分子に分散媒を加えてこれらを均一に分散させると、酸化鉄微粒子の表面に有機液晶性分子が吸着する。さらに、得られた分散液から分散媒を留去すると、本発明に係る有機無機ハイブリッド組成物が得られる。
【0028】
次に、本発明に係る有機無機ハイブリッド組成物の作用について説明する。
ある種の官能基(吸着官能基)は、酸化鉄微粒子の特定の結晶面に特異的に吸着する性質を持つ。このような吸着官能基を備えた有機液晶性分子と、単分散である酸化鉄微粒子とを適当な分散媒中に分散させ、分散媒を留去すると、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子との混合物からなる有機無機ハイブリッド組成物が得られる。
また、酸化鉄微粒子の表面を構成する結晶面と有機液晶性分子の組み合わせを最適化すると、酸化鉄微粒子と有機液晶性分子とがナノレベルでハイブリッド化され、サーモトロピック液晶性を示す有機無機ハイブリッド液晶が得られる。すなわち、酸化鉄微粒子に対して、有機液晶性分子が持つ自己組織性や配向性を付与することができる。酸化鉄微粒子と有機液晶性分子の組み合わせを最適化することによって、酸化鉄微粒子に液晶性が付与されるのは、大半の有機液晶性分子が、吸着官能基を介して酸化鉄微粒子の表面に特異的に吸着するためと考えられる。
【0029】
ハイブリッド液晶は、有機液晶性分子に由来する外場応答性(例えば、電場応答性、光応答性など)と、酸化鉄微粒子自身に由来する外場応答性(例えば、磁場応答性など)とを併せ持つ。そのため、これらの外場応答性を複合的に活用すれば、複数の外場の変化に応じて、酸化鉄微粒子の組織構造や配列構造を複合応答させることができる。
また、ハイブリッド化によって酸化鉄微粒子に自己配列・自己組織性が付与されるので、従来、困難であった大面積での酸化鉄微粒子の均一配列、均一配向が可能となる。さらには、液晶状態から固化させることによって、酸化鉄微粒子の配列状態を長期間に渡って安定保存することができる。また、外乱によって配列状態が乱れた場合には、一旦液体状態としたのち液晶状態に戻すことにより、酸化鉄微粒子を再配列させる(すなわち、組織構造を自己修復させる)ことができる。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
[1. 酸化鉄微粒子の合成]
[1.1 スピンドル型単分散ヘマタイト粒子(H1〜H3)の合成]
H1〜H3は、希薄溶液からの微粒子合成法により合成した。形態制御剤には、KH2PO4を用いた。また、サイズ制御剤には、粒径5nm以下のα−Fe23粒子がFe3+イオン濃度で約30mmol/L含む種粒子分散液を用いた。
まず、1000mL容メスフラスコに、予めろ過により不純物を取り除いた2.0mol/L FeCl3水溶液10mL、0.09M KH2PO4溶液5.0mL、及び、α−Fe23種粒子分散液をFe3+基準で、0.85mol%(H1)、0.22mol%(H2)、又は、0.022mol%(H3)加え、イオン交換水で総体積を1000mLとした。これを密閉可能なガラスボトルに移し、超音波分散(30min)させた。次いで、これを予め100℃に加熱しておいたオーブン中で1日間(H1)、又は、2日間(H2、H3)加熱経時することによりヘマタイトを熟成した。遠心分離(18000rpm、30min)した後、1.0mol/L NH3水溶液、イオン交換水でそれぞれ2回ずつ洗浄(超音波分散後、遠心分離(18000rpm、15min))し、凍結乾燥させることにより、H1〜H3を得た。
【0031】
[1.2 立方体型単分散ヘマタイト粒子(H4)の合成]
H4は、既存法(Sugimoto, T.; Wang, Y.; Muramatsu, A. Colloids Surf.A(1998), 134, 265.)に従い、形態制御剤やサイズ制御剤を添加せず、FeCl3水溶液にNaOH水溶液を攪拌しながら添加して、高粘度のFe(OH)3ゲルを作製した後、これを100℃のオーブン中で8日間加熱経時することにより合成した。
[1.3 立方体型多分散ヘマタイト粒子(H5)の合成]
溶液中にKH2PO4を添加しなかった以外は、H1〜H3と同一条件下で、平均粒径の異なる立方体型粒子を合成した。得られた立方体型粒子を混合し、H5とした。
【0032】
[1.4 六角円盤型単分散ヘマタイト粒子(H6)の合成]
ポリテトラフルオロエチレン製フィルタ(平均ポアサイズ:0.2μm)で吸引ろ過して不純物を取り除いた2.0mol/L FeCl3水溶液140mLを密栓可能な500mL容ガラスボトルに加えた。そのガラスボトルを予め60℃に加温しておいた湯浴につけ、メカニカルスターラーで溶液を攪拌(300rpm)した。攪拌しながら、FeCl3水溶液に5.4mol/L NaOH溶液を10分以上かけて130mL加えた後、pH=1.9になるようにNaOH溶液をさらに加えて、赤褐色ゲル状のFe(OH)3を得た。ガラスボトルを密栓し、予め100℃に加熱しておいたオーブンで6時間加熱経時した。加熱後、流水で急冷することにより、茶色のβ−FeOOH懸濁液を得た。これを遠心分離(18000rpm、15min)し、0.5mol/L NaNO3溶液で2回洗浄(超音波分散後、遠心分離(18000rpm、30min))し、140mLのイオン交換水に分散させることにより、β−FeOOH分散液を得た。
【0033】
次に、混合溶液(7.5mol/L NaOH、2.0mol/L NaCl)を形態制御剤として用いて、β−FeOOHをH6に変換した。
すなわち、先に合成したβ−FeOOH分散液10mLを遠心分離(18000rpm、30min)し、沈殿を混合溶液(7.5mol/L NaOH、2.0mol/L NaCl)に超音波分散させた。この分散液を密栓できるポリテトラフルオロエチレンボトルに移し、予め70℃に加熱しておいたオーブン中で3日間加熱経時した。経時後、反応容器を冷水で室温に冷却した。得られたゲル状物を遠心管に移し、遠心分離(18000rpm、15min)により固液分離した。得られた固相をイオン交換水で2回洗浄(超音波分散後、遠心分離(18000rpm、15min))して、H6とβ−FeOOHの混合物を得た。
次に、得られた固相を1.0mol/L HClに分散して、室温で1日放置した後、遠心分離(18000rpm、15min)した。次いで、β−FeOOHとH6の大きさの違いにより分級(イオン交換水に分散後、遠心分離(3000rpm、10min)を5回)して、β−FeOOHを取り除いた。その後、凍結乾燥させることにより、赤紫色のH6を粉体として得た。
【0034】
[1.5 評価]
得られた粉末(H1〜H6)は、XRD測定により、いずれもヘマタイト(α−Fe23)であることを確認した。図1に、合成された酸化鉄微粒子((a)H1、(b)H2、(c)H3、(d)H4、(e)H5、(f)H6)のTEM写真を示す。なお、図1中、(e)のスケールは、(a)〜(d)と共通である。H1〜H3は、スピンドル型の単分散粒子であった。一方、H4は、立方体型の単分散粒子であり、H5は、立方体型の多分散粒子であった。さらに、H6は、六角円盤型の単分散粒子であった。
【0035】
[2. 有機液晶性分子の合成]
[2.1 有機液晶性分子(L1)の合成]
以下の手順に従い、(a1)式に示す有機液晶性分子(L1)を合成した。
トランス−4−[トランス−4−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]シクロヘキサンブタノール(1.75g、5.0mmol)と、1H−テトラゾール(1.05g、15mmol)の無水テトラヒドロフラン(20mL)溶液に、アルゴン雰囲気下、0℃で攪拌しながら、ジ−tert−ブチルジイソプロピルホスホラアミダイト(2.2mL、7.0mmol)を10分以上かけてゆっくり滴下した。得られた溶液を30分かけて室温まで昇温し、さらに3時間室温で攪拌した。次いで、メタクロロ過安息香酸(65%、2.65g、10mmol)のジクロロメタン溶液10mLを、反応溶液に0℃で一気に加えた。反応混合物を室温まで昇温し、室温で10分間攪拌した。
【0036】
得られた反応混合物を、ジエチルエーテル(100mL)、水(100mL)、及び、10%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(20mL)の混合液に加え、分液ロートで有機相を回収した。ジエチルエーテルを用いて水相から有機物の抽出を3回行い、合わせた有機相を5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液、飽和塩化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム/炭酸水素ナトリウム水溶液(pH=10)、飽和塩化ナトリウム水溶液で順に洗浄した。得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、セライトろ過した後、有機相をロータリーエバポレータで減圧濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=3/1〜1/1)で精製することにより、4−{トランス−4−[トランス−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]シクロヘキシル}ブチルジ−tert−ブチルホスフェートを単離収率64%(1.73g、3.20mmol)で無色透明液体として得た。
得られた化合物をジクロロメタン(10mL)に溶解し、0℃で攪拌しながらトリフルオロ酢酸5mLを滴下した後、0℃で30分間攪拌した。次いで、反応混合物をロータリーエバポレータを用いて減圧濃縮することにより、目的とするL1を単離収率96%(1.32g、3.07mmol)で白色固体として得た。
次の(1)式に、L1の合成スキームを示す。
【0037】
【化3】

【0038】
[2.2 有機液晶性分子(L2)の合成]
L1と同様の手順に従い、(a2)式に示す有機液晶性分子(L2)を合成した。次の(2)式に、L2の合成スキームを示す。
【0039】
【化4】

【0040】
[2.3 有機液晶性分子(L3)の合成]
L1と同様の手順に従い、(b1)式に示す有機液晶性分子(L3)を合成した。次の式(3)に、L3の合成スキームを示す。
【0041】
【化5】

【0042】
[2.4 有機液晶性分子(L4)の合成]
パラジウム炭素を触媒として、4−{トランス−4−[トランス−4−(3,4−ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]シクロヘキシル}ブテンを水素化することにより、有機液晶性分子(L4)を合成した。次の(4)式に、L4の合成スキームを示す。
【0043】
【化6】

【0044】
[2.4 評価]
合成された有機液晶性分子L1〜L4は、いずれも単独でサーモトロピック液晶性を示すことを確認した。次の(5)〜(8)式に、合成した有機液晶性分子L1〜L4の分子構造及び相転移温度を示す。
【0045】
【化7】

【0046】
[3. 酸化鉄微粒子H1〜H6と有機液晶性分子L1〜L4のハイブリッド化]
有機液晶性分子L1〜L4と、ヘマタイト微粒子H1〜H6とを重量比で1:2又は1:1となるように秤量・混合し、CHCl3/MeOH中で超音波分散させた。次いで、これをアルゴン気流下、60℃で加熱し、分散媒を留去した。
【0047】
[3.1 ハイブリッド組成物の評価(1)]
まず、得られたL1〜L3/H1〜H6ハイブリッドが液晶性を示すかどうかを、偏光顕微鏡観察により調べた。図2に、混合比L/H=1/2のハイブリッドの90℃における偏光顕微鏡写真((i)L1/H2、(ii)L1/H5、(iii)L1/H6)を示す。なお、図2中、(a)は偏光観察下、(b)は非偏光観察下を示す。また、(i)(a)及び(i)(b)の挿入図は、シェアリングにより形成されるモノドメイン状態を示す。
L1/H2ハイブリッド(図2(i))は、流動性及び複屈折を示し、サーモトロピック液晶性を示した。同様の挙動が、L1/H1ハイブリッド(図示せず)及びL1/H3ハイブリッド(図示せず)でも観察された。
これに対し、L1/H4ハイブリッド(図示せず)及びL1/H5ハイブリッド(図2(ii))では、L1とHが相分離することなく均一に混ざり合った。しかしながら、液晶性の発現に伴う複屈折は観察されなかった。
さらに、L1/H6ハイブリッド(図2(iii))では、両者が均一に混ざり合うことなく、相分離することが明らかとなった。同様に、L4/H2ハイブリッド(図示せず)でも、両者が完全に相分離した。
【0048】
H6は、c軸に垂直な面が発達することにより得られる六角円盤型粒子である。一方、H1〜H3は、c軸に平行な面が発達することにより得られるスピンドル型粒子である。リン酸基は、c軸に平行な面に対して高い吸着性を示すことが知られていることから、L1とHとのハイブリッド化には、リン酸基の面特異的吸着が鍵であることがわかる。また、リン酸基を持たないL4とH2との混合物が完全に相分離することからも、スピンドル型粒子をハイブリッド液晶化するためには、リン酸基の存在が重要であることがわかる。
【0049】
また、ホスホン酸基を有するL3を用いた場合、L1と同様の挙動を示した。ヘマタイト微粒子とのハイブリッド化においては、リン酸基及びホスホン酸基のどちらも適していることが明らかとなった。一方、シアノビフェニル基を有するL2とH2とのハイブリッドでは、両者は均一に混ざり合った。しかしながら、液晶性の発現に伴う流動性を示さず、約260℃付近で分解した。このことから、液晶性の発現には、メソゲン部位の選択も重要であることがわかった。
【0050】
[3.2 ハイブリッド組成物の評価(2)]
L1/H2=1/2ハイブリッド、及び、L1/H4=1/1ハイブリッドについて、90℃及び170℃で小角X線散乱測定を行った。図3に、その結果を示す。
図3に示すように、H2単独では、組織構造の形成に伴う散乱波は観察されなかった。しかしながら、H2とL1とをハイブリッド化させることによって、49.7nmあるいは46.5nmの周期構造の形成に伴う強い散乱が観察された。用いた微粒子の粒径から、この散乱は、スピンドル型微粒子の短軸方向に相当する粒子間相互作用によるものと帰属できる。すなわち、L1/H2ハイブリッドは、一次元的な組織を持つネマチック液晶状態を形成していると結論できる(図5参照)。同様の組織構造形成に伴う散乱は、L1/H1及びL1/H3ハイブリッドにおいても観察された。
【0051】
一方、偏光顕微鏡観察下において暗視野となるL1/H4ハイブリッドは、図4に示すように、170℃において45.6nm、30.4nm、及び、22.8nmの周期に対応する散乱が観察された。これは、格子定数a=91.2nmの単純立方格子構造を有するキュービック液晶性超格子のd200面、d300面、及び、d400面に対応すると帰属できる(図5参照)。このような組織構造の形成は、多分散性の微粒子H5を用いたハイブリッドでは全く観察されないことから、キュービック液晶相の発現には、用いたH4の単分散性が鍵であることがわかった。
【0052】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る有機無機ハイブリッド組成物は、複数の外場の変化に応じて微粒子の配列状態が変化する複合応答アクティブデバイスとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1(a)〜図1(f)は、それぞれ、液晶化に用いたα−Fe23微粒子H1〜H6のTEM写真である。
【図2】図2(i)、図2(ii)、及び、図2(iii)は、それぞれ、L1/H2ハイブリッド、L1/H5ハイブリッド、及び、L1/H6ハイブリッドの90℃における偏光顕微鏡写真((a)は偏光観察下、(b)は非偏光観察下。)である。また、図2(i)(a)及び(b)中の挿入図は、シェアリングにより形成されるモノドメイン状態を示す。
【図3】L1/H2=1/2ハイブリッド((a)90℃、(b)170℃)及びH2単独(c)の小角X線散乱測定の結果である。
【図4】L1/H4=1/1ハイブリッド((d)90℃、(e)170℃)及びH4単独(f)の小角X線散乱測定の結果である。
【図5】実施例で得られた有機無機ハイブリッド液晶の概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単分散である酸化鉄微粒子と、
前記酸化鉄微粒子の特定の結晶面に特異的吸着する機能を有する官能基を備えた有機液晶性分子と
を含む有機無機ハイブリッド組成物。
【請求項2】
前記酸化鉄微粒子は、α−Fe23、Fe34、及び、γ−Fe23から選ばれるいずれか1種以上である請求項1に記載の有機無機ハイブリッド組成物。
【請求項3】
前記酸化鉄微粒子は、スピンドル型、立方体型、又は、六角円盤型である請求項1又は2に記載の有機無機ハイブリッド組成物。
【請求項4】
前記有機液晶性分子は、その分子構造のいずれかにリン酸基を有するものである請求項1から3までのいずれかに記載の有機無機ハイブリッド組成物。
【請求項5】
前記有機液晶性分子は、次の(a)式で表されるものである請求項4に記載の有機無機ハイブリッド組成物。
【化1】

但し、環A、環B、環C、及び、環Dは、それぞれ、1,4−フェニレン基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピラジン−2,5−ジイル基、ピリダジン−3,6−ジイル基、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,4−シクロヘキセレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基、トランスデカリン−2,6−ジイル基、[2・2・2]ビシクロオクタン−1,4−ジイル基、又は、1,3−ジオキサン−トランス−2,5−ジイル基を表し、これらは、それぞれ独立的に1〜2個の水素原子がフッ素原子に置換されていても良い。
J、K、Lは、それぞれ独立的に、単結合、−CH2CH2−、−C≡C−、−CF=CF−、−(CH2)4−、−CH(CH3)CH2−、−CH2CH(CH3)−、−CF2O−、−OCF2−、−CH2O−、−OCH2−、−COO−、又は、−OCO−を表す。
Iは0〜20の整数を表し、m及びnは、それぞれ独立的に0又は1を表す。
Rは、
(i)炭素原子数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基若しくはアルコキシ基、
(ii)炭素原子数2〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルケニル基若しくはアルケニルオキシ基、
(iii)炭素原子数2〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルカノイルオキシ基、
(iv)炭素原子数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシカルボニル基、又は、
(v)水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、シアナト基若しくはチオシアナト基、
を表す。
前記アルキル基、前記アルコキシ基、前記アルカノイルオキシ基及び前記アルコキシカルボニル基は、それぞれ、1個又は2個以上の水素原子がフッ素原子、又は、炭素原子数1〜12のアルコキシ基により置換されていても良く、分岐により不正炭素が生じる場合は、光学的に活性であってもラセミ体であっても良い。
【請求項6】
前記有機液晶性分子は、次の(a1)式で表されるものである請求項4に記載の有機無機ハイブリッド組成物。
【化2】

【請求項7】
前記有機液晶性分子は、その分子構造のいずれかにホスホン酸基を有するものである請求項1から3までのいずれかに記載の有機無機ハイブリッド組成物。
【請求項8】
前記有機液晶性分子は、その分子構造のいずれかにカルボン酸基を有するものである請求項1から3までのいずれかに記載の有機無機ハイブリッド組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−177051(P2007−177051A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375936(P2005−375936)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年 7月28日、http://pubs.acs.org/cgi−bin/article.cgi/jacsat/2005/127/i33/html/ja054232f.html/QueryZIP/C3−I/((((VOL@@<MATCHES>@@127)))<AND>((SPN@@<MATCHES>@@11578)))<AND>(<ANY>(jacsat)<IN>CDN)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】