説明

有機無機複合材料とその成形体、光学部品およびレンズ

【課題】無機微粒子が熱可塑性樹脂マトリックス中に分散された、高屈折性、低分散性(高アッベ数)、耐熱性、優れた透明性の有機無機複合材料を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂が式(1)および(2)の繰り返し単位の両方を含む。(式(1)中、R1〜R4は水素原子、アルキル基、アリール基、−COOR5または−OCOR5で表される置換基、R5はアルキル基またはアリール基、mは0または1。式(2)中、R11〜R14は水素原子、アルキル基、アリール基、−COOR15または−OCOR15で表される置換基、あるいはL−Xで表される置換基、R11〜R14の少なくともいずれか1つが−L−Xであり、R15はアルキル基またはアリール基、Lは単結合または2価の連結基、Xは無機微粒子と結合しうる官能基、nは0または1。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折性、透明性、軽量性、加工性に優れ、さらに金型からの離型性に優れる有機無機複合材料、並びに、これを含んで構成されるレンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等を構成するレンズ)等の光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
透明樹脂材料はガラスに比べて軽量性、耐衝撃性、成形性に優れ、かつ経済的である等の長所を有し、近年レンズ等の光学部品においても、樹脂による光学ガラスの代替化が進んでいる。
【0003】
代表的な透明熱可塑性樹脂材料としてポリカーボネート樹脂があり、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)を原料としたものは、透明性に優れているうえにガラスに比べて軽く、耐衝撃性に優れ、溶融成形が可能であるため大量生産が容易である等の特徴から、多くの分野において、光学部品として応用が図られている。しかし、屈折率は1.58程度と比較的高い値を有しているものの、屈折率の分散性の程度を表すアッベ数が30と低く、屈折率と分散特性とのバランスが悪く、光学部品を構成する樹脂として、その用途が限られているのが現状である。例えば光学部品の代表例である眼鏡レンズは、視覚機能を考慮すると眼鏡レンズ素材のアッベ数は40以上が望ましいことが知られており(非特許文献1)、ビスフェノールAを原料としたポリカーボネート樹脂をそのまま使用しても所望の特性を得ることは難しい。
【0004】
特許文献1には、高屈折率を有する無機微粒子をアッベ数の高い脂環構造を有する樹脂マトリックスに分散させることにより、高屈折率化を達成した有機無機複合材料が報告されているが、樹脂の透明性や強度を低下させる場合があり、必ずしも実用上十分とはいえなかった。
特許文献2には、無機微粒子と化学結合を形成しうる官能基を有する熱可塑性樹脂と無機微粒子の有機無機複合材料の記載があり、高い屈折率と透明性を両立している。しかしながら耐熱性や高いアッベ数との両立の観点では、必ずしも実用上十分な技術ではなかった。
【0005】
近年、有機無機複合材料を用いて成形体を形成する際の金型との離型性が新たな課題として生じてきている。有機無機複合材料は無機材料との吸着および分散性を促進させるために、有機無機複合材料は有機材料中に官能基を有している。そのため、有機材料中の官能基と金型とが密着しやすい状態となるため金型から外す際に傷が生じるなどの問題も生じてきている。このような観点から離型性は非常に大きな課題となってきているが、金型からの離型性を実用上十分に改善した有機無機複合材料は未だ開発されていないのが実情である。
【0006】
従って、高屈折性、低分散性(高アッベ数)、耐熱性、透明性、および軽量性を併せ持ち、屈折率を任意に制御でき、さらに金型からの離型性に優れる熱可塑性を有する材料、およびそれを含んで構成される光学部品は未だ見出されておらず、その開発が切に望まれていた。
【特許文献1】特開2003−73564号公報
【特許文献2】特開2007‐238929号公報
【非特許文献1】季刊化学総説No.39 透明ポリマーの屈折率制御 日本化学会編
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、無機微粒子が樹脂マトリックス中に分散され、高屈折性、低分散性(高アッベ数)、耐熱性、優れた透明性を有し、さらに良好な金型からの離型性を有する有機無機複合材料とその成型体、これを用いた光学部品およびレンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は前記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の分子構造を有する熱可塑性樹脂と無機微粒子との有機無機複合材料が、高屈折性、低分散性(高アッベ数)、耐熱性、優れた透明性を有し、さらに良好な離型性を有することを見出し、以下に記載する本発明の完成に至った。
【0009】
[1] 無機微粒子および熱可塑性樹脂を少なくとも含有する有機無機複合材料であって、該熱可塑性樹脂が下記一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位の両方を含むことを特徴とする有機無機複合材料。
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、−COOR5または−OCOR5で表される置換基を表す。ここでR5は置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。R1〜R4のうち少なくとも2つが互いに結合してアルキリデン基、単環または多環を形成していてもよい。mは0または1を表す。)
【化2】

(一般式(2)中、R11〜R14はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、−COOR15または−OCOR15で表される置換基、あるいは−L−Xで表される置換基を表し、R11〜R14の少なくともいずれか1つが−L−Xである。ここでR15は置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を表し、Lは単結合または2価の連結基を表し、Xは無機微粒子と結合しうる官能基を表す。R11〜R14のうち少なくとも2つが互いに結合してアルキリデン基、単環または多環を形成していてもよい。nは0または1を表す。)
[2] 前記無機微粒子と結合しうる官能基が、
【化3】

−SO3H、−OSO3H、−COOH、金属アルコキシド基、−OH、−NH2、−SH、−COOCO−、エーテル結合を含む環構造を有する基、またはこれらの塩から選ばれる基であることを特徴とする[1]に記載の有機無機複合材料(ただし、R21およびR22は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。)。
[3] 前記無機微粒子と結合しうる官能基が、−COOH、−SO3H、−PO(OH)2、またはこれらの塩から選ばれる基であることを特徴とする[1]または[2]に記載の有機無機複合材料。
[4] 前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が5万以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[5] 前記無機微粒子の平均1次粒子径が1〜15nmであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[6] 前記無機微粒子が酸化ジルコニウム、酸化亜鉛または酸化チタンを含有する微粒子であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[7] 有機無機複合材料に対して、前記無機微粒子を10質量%以上含むことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[8] 波長589nmにおいて、厚み1mm換算で50%以上の光線透過率を有することを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[9] 波長589nmにおける屈折率が1.55以上であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[10] アッベ数が40以上であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
[11] [1]〜[10]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を成形したことを特徴とする成形体。
[12] [1]〜[10]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を成形したことを特徴とする光学部品。
[13] [1]〜[10]のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を成形したことを特徴とするレンズ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高屈折性、低分散性(高アッベ数)、耐熱性、優れた透明性を有し、さらに良好な金型からの離型性を有する有機無機複合材料を提供することができる。また、本発明の有機無機複合材料は、レンズ基材を始めとする光学部品等の成形体を成形しやすく、特に熱可塑性を有する場合顕著に成形しやすい。本発明の有機無機複合材料を用いた成形体は、優れた透明性を有しながら、高い屈折率と高いアッベ数を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明の有機無機複合材料およびそれを含んで構成されるレンズ基材等の成形体について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[有機無機複合材料]
本発明の有機無機複合材料は、無機微粒子と、前記一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位の両方を含む熱可塑性樹脂とを含む有機無機複合材料である。
【0013】
本発明の有機無機複合材料は、固体であることが好ましい。有機無機複合材料中、溶媒含有量は5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、溶媒を含まないことが最も好ましい。
【0014】
本発明の有機無機複合材料の屈折率は波長589nmにおいて1.55以上であることが好ましく、1.565以上であることがより好ましく、1.575以上であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明の有機無機複合材料のアッベ数(νD)は、波長589nm、486nm、656nmにおけるそれぞれの屈折率nD、nF、nCを測定することで、下記式(A)により算出される。アッベ数(νD)は40以上であることが好ましく、45以上であることがより好ましく、50以上であることがさらに好ましく、55以上であることが特に好ましい。
【数1】

【0016】
本発明の有機無機複合材料の光線透過率は、波長589nmにおいて厚さ1mm換算で50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。また波長405nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが特に好ましい。波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であればより好ましい性質を有するレンズ基材を得やすい。なお、本発明における厚さ1mm換算の光線透過率は、有機無機複合材料を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置(UV−3100、(株)島津製作所製)で測定した値である。
【0017】
本発明の有機無機複合材料は、ガラス転移温度が100℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜300℃であることがより好ましく、150℃〜270℃であることが特に好ましい。ガラス転移温度が100℃以上であれば十分な耐熱性が得られやすく、ガラス転移温度が400℃以下であれば成形加工を行いやすくなる傾向がある。
【0018】
本発明の有機無機複合材料は、熱可塑性であることが、成形性、特に短い成形時間と成形体の形状精度とを達成する観点から好ましい。
【0019】
以下において、本発明の有機無機複合材料の必須構成成分である熱可塑性樹脂と無機微粒子について順に説明する。本発明の有機無機複合材料には、本発明の趣旨に反しない限りにおいてこれらの必須構成成分以外に、本発明の条件を満たさない樹脂、分散剤、可塑剤、離型剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
(熱可塑性樹脂)
本発明の有機無機複合材料に用いられる熱可塑性樹脂は、下記一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位の両方を含む共重合体である。以下に一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位について説明する。
【化4】

【0021】
一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、−COOR5または−OCOR5で表される置換基を表す。ここでR5は置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。R1〜R4のうち少なくとも2つが互いに結合してアルキリデン基、単環または多環を形成していてもよい。mは0または1を表す。なお、本明細書中において、アルキリデン基は、二重結合を表し、好ましくは =CR67(但しR6およびR7はそれぞれ独立にアルキル基を表す)で表される。
より好ましくは、R1〜R4のうち少なくとも2つが互いに結合してアルキリデン基、mで表される繰り返し単位構造以外の構造である単環またはmで表される繰り返し単位構造以外の構造である多環を形成している態様である。
前記R1〜R4のうち少なくとも2つが互いに結合してアルキリデン基や単環または多環を形成している態様としては、例えば、R1とR2が互いに結合してアルキリデン基や単環または多環を形成している場合や、R2とR3が互いに結合して単環または多環を形成している場合や、R3とR4が互いに結合してアルキリデン基や単環または多環を形成している場合等が挙げられる。前記アルキリデン基の構造としては特に制限はなく、前記単環または多環の構造としては特に制限はないが、mで表される繰り返し単位構造以外であることが好ましい。
一般式(1)としてさらに好ましくは、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、−COOR5または−OCOR5で表される置換基を表し、R5は置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、mは0または1を表す場合である。
【0022】
一般式(1)中、前記R1〜R5における前記置換または無置換のアルキル基は、炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜20であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基を挙げることができる。置換アルキル基には、例えばアラルキル基が含まれる。前記アラルキル基は、炭素数7〜30が好ましく、より好ましくは炭素数7〜20であり、例えばベンジル基、p−メトキシベンジル基を挙げることができる。また、ヒドロキシアルキル基(例えばヒドロキシエチル基)、アルコキシアルキル基(例えば、メトキシエチル基)なども、置換アルキル基に含まれる。
前記R1〜R5における前記置換または無置換のアリール基は、炭素数6〜30が好ましく、より好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニル基、2,4,6−トリブロモフェニル基、1−ナフチル基を挙げることができる。ここでいうアリール基の中には、ヘテロアリール基も含まれる。前記アルキル基の置換基、前記アリール基の置換基としては、これらのアルキル基およびアリール基を挙げることができ、その他に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基)などを挙げることができる。
前記mは、0または1であることが好ましい。
【0023】
以下に一般式(1)で表される繰り返し単位の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
一般式(2)中、R11〜R14はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、−COOR15または−OCOR15で表される置換基、あるいはL−Xで表される置換基を表し、R11〜R14の少なくともいずれか1つが−L−Xである。ここでR15は置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を表し、Lは単結合または2価の連結基を表し、Xは無機微粒子と結合しうる官能基を表す。R11〜R14のうち少なくとも2つが互いに結合してアルキリデン基、単環または多環を形成していてもよい。nは0または1を表す。
より好ましくは、R11〜R14のうち少なくとも2つが互いに結合してアルキリデン基、nで表される繰り返し単位構造以外の構造である単環またはnで表される繰り返し単位構造以外の構造である多環を形成している態様である。
前記R11〜R14のうち少なくとも2つが互いに結合してアルキリデン基や単環または多環を形成している態様としては、例えば、R11とR12が互いに結合してアルキリデン基や単環または多環を形成している場合や、R12とR13が互いに結合して単環または多環を形成している場合や、R13とR14が互いに結合してアルキリデン基や単環または多環を形成している場合等が挙げられる。前記アルキリデン基の構造としては特に制限はなく、前記単環または多環の構造としては特に制限はないが、nで表される繰り返し単位構造以外であることが好ましい。
一般式(2)としてさらに好ましくは、R11〜R14はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、−COOR15または−OCOR15で表される置換基、あるいはL−Xで表される置換基を表し、R11〜R14の少なくともいずれか1つが−L−Xであり、前記R15は置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を表し、Lは単結合または2価の連結基を表し、Xは無機微粒子と結合しうる官能基を表し、前記R11〜R14のうち少なくとも2つが互いに結合して−O−、−CO−またはその両方を含む環を形成していてもよく、nは0または1を表す場合である。
【0028】
一般式(2)中、前記R11〜R15のアルキル基は、炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜20であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基を挙げることができる。置換アルキル基には、例えばアラルキル基が含まれる。前記アラルキル基は、炭素数7〜30が好ましく、より好ましくは炭素数7〜20であり、例えばベンジル基、p−メトキシベンジル基を挙げることができる。また、ヒドロキシアルキル基(例えばヒドロキシエチル基)、アルコキシアルキル基(例えば、メトキシエチル基)なども、置換アルキル基に含まれる。
前記R11〜R15のアリール基は、炭素数6〜30が好ましく、より好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニル基、2,4,6−トリブロモフェニル基、1−ナフチル基を挙げることができる。ここでいうアリール基の中には、ヘテロアリール基も含まれる。前記アルキル基の置換基、前記アリール基の置換基としては、これらのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基を挙げることができ、その他に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基)を挙げることができる。
また、前記nは、0または1であることが好ましい。
【0029】
一般式(2)中、前記Lは、単結合または2価の連結基を表す。前記2価の連結基の好ましい範囲としては、−CO2−、−OCO−、−CONH−、−OCONH−、−OCOO−、−O−、−S−、−NH−、置換または無置換のアリーレン基、アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アリーレン基、アリーレンオキシ基、アリーレンオキシカルボニル基、およびこれらを組み合わせた基を挙げることができる。前記Lとしては単結合、−CO2−、−OCO−、−OCOO−、−O−、−S−、置換または無置換のアリーレン基、アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アリーレン基、アリーレンオキシ基、アリーレンオキシカルボニル基、およびこれらを組み合わせた基で表される2価の連結基であることがより好ましく、単結合、−CO2−、−OCO−、−OCOO−、−O−、−S−、アルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、およびこれらを組み合わせた基で表される2価の連結基であることが特に好ましい。
【0030】
一般式(2)中、前記Xは無機微粒子と結合しうる官能基を表す。ここで、「無機微粒子と結合しうる官能基」とは、無機微粒子と共有結合、イオン結合、配位結合および水素結合のいずれかが可能な官能基であり、官能基が複数存在する場合は、それぞれ無機微粒子と異なる化学結合を形成しうるものであってもよい。化学結合を形成しうるか否かは、後述する実施例に記載されるような有機溶媒中において熱可塑性樹脂と無機微粒子とを混合したときに、熱可塑性樹脂の官能基が無機微粒子と化学結合を形成しうるか否かで判定する。本発明の有機無機複合材料中において、熱可塑性樹脂の官能基は、そのすべてが無機微粒子と化学結合を形成していてもよいし、一部が無機微粒子と化学結合を形成していてもよい。
【0031】
前記無機微粒子と結合しうる官能基Xは、無機微粒子と化学結合を形成することによって、無機微粒子を熱可塑性樹脂中に安定に分散させる機能を有する。前記無機微粒子と結合しうる官能基Xは、無機微粒子と化学結合を形成しうるものであればその構造に特に制限されない。前記Xとしては、例えば、
【0032】
【化8】

−SO3H、−OSO3H、−CO2H、金属アルコキシド基(好ましくは−Si(OR23p243-p)、−OH、−NH2、−SH等が挙げられる。また、−COOCO−で表される酸無水物基やエポキシ基などのエーテル基を含む環構造を有する官能基、またはこれらの塩から選ばれる基などを好ましく用いることができる。これらの中でより好ましくは
【0033】
【化9】

−SO3H、−CO2H、または−Si(OR23p243-pであり、さらに好ましくは、
【0034】
【化10】

−SO3H、−CO2H、であり、特に好ましくは−CO2Hである。
【0035】
なお、前記R21〜R24は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を表す。前記アルキル基は、炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜20であり、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基を挙げることができる。置換アルキル基には、例えばアラルキル基が含まれる。前記アラルキル基は、炭素数7〜30が好ましく、より好ましくは炭素数7〜20であり、例えばベンジル基、p−メトキシベンジル基を挙げることができる。前記アリール基は、炭素数6〜30が好ましく、より好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニル基、2,4,6−トリブロモフェニル基、1−ナフチル基を挙げることができる。ここでいうアリール基の中には、ヘテロアリール基も含まれる。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の置換基としては、これらのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の他に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基)を挙げることができる。前記R21およびR22として特に好ましいのは水素原子であり、前記R23およびR24として特に好ましいのはメチル基である。
前記pは0〜3の整数を表し、好ましくは3である。
【0036】
以下に一般式(2)で表される繰り返し単位の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
【化11】

【0038】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、下記一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位の両方を含んでいれば、それぞれ複数含む共重合体であってもよく、一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含んでいてもよい。一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位は、共重合可能なビニル化合物から誘導される繰り返し単位であればよく、ビニル化合物の好ましい例としては、エチレンやプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンなどのα―オレフィン、スチレンなどを挙げることができる。
【0039】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂中一般式(2)で表される繰り返し単位の含まれる好ましい割合は、無機微粒子と結合しうる官能基の種類にもより一概にいえないが、0.1〜20mol%が好ましく、0.2〜10mol%がより好ましく、特に好ましくは0.3〜5mol%である。
【0040】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(分散ポリマー)の重量平均分子量は10,000〜1,000,000であることが好ましく、30,000〜500,000であることがさらに好ましく、50,000〜300,000であることが特に好ましい。前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が1,000,000以下であれば成形加工性が良好となり、10,000以上の場合には十分な力学強度のある有機無機複合材料を得ることができる。
【0041】
ここで、前記重量平均分子量は、以下のような条件でGPC測定を行うことにより求めることができる。
装置:HLC−8121GPC/HT (東ソー社)
カラム:TSKgel GMHHR-H(20)HT (7.8mm×300mm)2本
検出器:HLC−8221GPC/HT内臓RI検出器
測定溶媒:o−ジクロロベンゼン
測定流量:1mL/min
測定温度:145℃
試料注入量:500μL(0.2%溶液)
標準試料:単分散ポリスチレン×16(東ソー社)
【0042】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂において、無機微粒子と結合する上記官能基はポリマー鎖1本あたり平均0.1〜20個であることが好ましく、0.5〜10個であることがより好ましく、1〜5個であることが特に好ましい。前記官能基の含有量がポリマー鎖一本あたり平均20個以下であれば、熱可塑性樹脂が複数の無機微粒子に配位して溶液状態で高粘度化やゲル化が起こるのを防ぎやすい傾向がある。また、ポリマー鎖一本あたり平均官能基の数が0.1個以上であれば、無機微粒子を安定に分散させやすい傾向がある。
【0043】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度は100℃〜400℃であることが好ましく、130℃〜300℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が100℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、また、ガラス転移温度が400℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0044】
熱可塑性樹脂の屈折率と無機微粒子の屈折率差が大きい場合には、レイリー散乱が起こりやすくなるため透明性を維持して複合できる微粒子の量が少なくなる。本発明で用いられる熱可塑性樹脂の好ましい屈折率は1.48以上であり、1.52以上がより好ましく、1.53以上であることがさらに好ましい。なお、これらの屈折率は22℃、波長589nmにおける値である。
【0045】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける厚み1mm換算の光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、88%以上であることが特に好ましい。
【0046】
以下に、本発明で使用することができる熱可塑性樹脂の好ましい具体例を挙げるが、本発明で用いることができる熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではない。
【0047】
【化12】

【0048】
【化13】

【0049】
本発明の有機無機複合材料には、前記熱可塑性樹脂として、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の有機無機複合材料には、本発明の熱可塑性樹脂以外の樹脂を含有させてもよい。
【0050】
(無機微粒子)
本発明の有機無機複合材料に用いられる無機微粒子としては特に制限はなく、例えば特開2002−241612号公報、特開2005−298717号、特開2006−70069号各公報等に記載の微粒子を用いることができる。
本発明で用いられる無機微粒子としては、具体的には、酸化物微粒子(酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化テルル、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ビスマス、酸化錫等)、複酸化物微粒子(ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、タンタル酸カリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸バリウム、錫酸バリウム、ジルコンなど)、IIb-VIb族半導体(Zn、Cdのカルコゲン(S、Se、Te)化物または酸化物)、硫化亜鉛微粒子等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも特に、金属酸化物微粒子が好ましく、中でも酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化錫および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることが好ましく、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛および酸化チタンからなる群より選ばれるいずれか一つであることがより好ましく、さらには可視域透明性が良好で光触媒活性の低い酸化ジルコニウム微粒子を用いることが特に好ましい。本発明では、屈折率や透明性や安定性の観点から、これらの無機物の複合物を用いてもよい。またこれらの微粒子は光触媒活性低減、吸水率低減など種々の目的から、異種元素をドーピングしたり、表面層をシリカ、アルミナ等異種金属酸化物で被覆したり、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面修飾したものであってもよい。
【0051】
無機微粒子は2種類以上を併用してもよい。
【0052】
本発明で用いられる無機微粒子は、屈折率、透明性、安定性などの観点から、複数の成分による複合物であってもよい。また無機微粒子の選択の幅は広いが、例えば酸化チタンなどを用いる場合には、光触媒活性低減、吸水率低減など種々の目的から、異種元素をドープしたり、表面層をシリカ、アルミナ等異種金属酸化物で被覆したり、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤、有機酸(カルボン酸類、スルホン酸類、リン酸類、ホスホン酸類等)または有機酸基を持つ分散剤などで表面修飾しても良い。さらに目的に応じて、これらの2種類以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、錫含有ルチル型酸化チタンを酸化ジルコニウムで被覆した微粒子を好ましく用いることができる。
【0053】
本発明に用いられる無機微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、ハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。この方法の詳細は、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁(1998年)、あるいは、ラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)等に記載されている。
これらの水分を含有する反応系において合成した無機微粒子を応用する際に水分が悪影響を及ぼす場合がある。このような場合は無機微粒子合成後に他の適切な有機溶媒に置換することもできる。必要に応じて適切な分散剤を用いることで分散性を損なうことなく均一分散が可能である。
【0054】
具体的には、酸化ジルコニウム微粒子またはその懸濁液を得る方法として、ジルコニウム塩を含む水溶液をアルカリで中和し水和ジルコニウムを得た後、乾燥および焼成し、溶媒に分散させて酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;ジルコニウム塩を含む水溶液を加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;ジルコニウム塩を含む水溶液を加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得た後、限外ろ過する方法;ジルコニウムアルコキシドを加水分解して酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法;およびジルコニウム塩を含む水溶液を水熱の加圧下で加熱処理することにより酸化ジルコニウム懸濁液を得る方法等が知られており、これらのいずれの方法を用いてもよい。
【0055】
また、酸化チタン微粒子の合成原料としては硫酸チタニルが例示され、酸化亜鉛ナノ粒子の合成原料として酢酸亜鉛や硝酸亜鉛等の亜鉛塩が例示される。テトラエトキシシランやチタニウムテトライソプロポキサイド等の金属アルコキシド類も無機微粒子の原料として好適である。このような無機微粒子の合成方法としては、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁(1998年)、あるいは、ラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)に記載の方法を挙げることができる。
【0056】
特にゾル生成法により酸化物ナノ粒子を合成する場合においては、例えば硫酸チタニルを原料として用いる酸化チタンナノ粒子の合成のように、水酸化物等の前駆体を経由し、次いで酸やアルカリによりこれを脱水縮合または解膠してヒドロゾルを生成させる手順も可能である。かかる前駆体を経由する手順では、該前駆体を、濾過や遠心分離等の任意の方法で単離精製することが最終製品の純度の点で好適である。得られたヒドロゾルにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称DBS)やジアルキルスルホスクシネートモノナトリウム塩(三洋化成工業(株)製、商標名「エレミノールJS−2」)等の適当な界面活性剤を加えて、ゾル粒子を非水溶化させて単離してもよく、例えば、「色材」57巻6号,305〜308頁(1984)に記載の公知の方法を用いることができる。
【0057】
また、水中で加水分解させる方法以外の方法として、有機溶媒中で無機微粒子を作製する方法も挙げることができる。このとき、有機溶媒中には、本発明で用いる熱可塑性樹脂が溶解していてもよい。この際、必要に応じて各種表面処理剤(以下、分散剤と言う。シランカップリング剤類、アルミネートカップリング剤類、チタネートカップリング剤類、有機酸類(カルボン酸類、スルホン類、ホスホン酸類など))を共存させてもよい。
また、水中で加水分解させる方法以外の方法として、有機溶媒中や本発明における熱可塑性樹脂が溶解した有機溶媒中で無機微粒子を作製する方法を採用してもよい。
これらの方法に用いられる溶媒としては、アセトン、2−ブタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、アニソール等が例として挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、また複数種を混合して使用してもよい。
溶液中で無機粒子を作製する場合、合成時の温度により無機粒子の特性、粒子サイズ、凝集状態等が異なり適切な条件を求めることが重要である。しかしながら、常圧下では溶液の沸点以上の温度で合成することは不可能である。特性上より高温での合成が必要な場合には、例えばオートクレーブのような高圧釜を用いて高圧下で合成することにより必要な特性を得ることもできる。
【0058】
無機微粒子の合成法としては、上記の如く液相のみで行う場合以外に、更なる高温処理を行うために焼成工程を用いる場合もある。このような焼成法は、液相で微粒子を形成した後、結晶化度を高めるために行う場合や、原材料を焼成工程で直接反応させ合成する場合または微粒子の前駆体を液相で形成した後、焼成工程で所望の微粒子を合成する場合等がある。焼成法の例として特開2003-19427号公報には、無機微粒子原料成分とそれ以外の無機化合物を溶解した溶液を噴霧熱分解して粒子合成を行った後、水で洗浄して無機微粒子以外の無機化合物を取り除くことにより結晶性の高い粒子のみを得る方法が開示してある。
または、粒子の前駆体を液相で形成した後に無機塩で粒子の凝集を防ぎながら焼成により結晶化させる方法が特開2006−16236号公報に記載されている。
さらには分子ビームエピタキシー法やCVD法のような真空プロセスを用いた気相法で作製する方法など、例えば特開2006−70069号公報等に記載される各種一般的な微粒子合成法を挙げることができる。
無機微粒子の結晶化度は合成する条件により異なるが、いかなる結晶化度の無機粒子でも状況に応じて用いることができる。XRD装置で測定した場合明確なピークを有する結晶性のものであってもブロードなハローを持つアモルファスであっても構わない。一般に結晶化度の高い無機微粒子は低いものに比較して屈折率が高く、高屈折材料への応用には有利である。しかしながら、例えば酸化チタンのように光触媒活性が高い材料の場合、結晶化度を低くすることにより光触媒活性を抑制できることが知られている。無機微粒子の光触媒活性は、有機無機複合材料に光を照射した場合樹脂の分解という重大な問題を引き起こす場合がある。このような場合には、結晶化度の低い無機ナノ粒子を用いて光触媒活性を抑制することも可能である。
無機微粒子がコア−シェル構造を有する場合、コア部分とシェル部分の結晶化度は同一であっても全く異なっても構わない。これらの組み合わせは、コア部分とシェル部分の結晶構造、格子定数等で物理的に決定される場合もあるが、合成条件により意図的に作り分けることが可能な場合もある。それぞれの特性を活かしたコアとシェルの組み合わせが必要である。
【0059】
本発明で用いられる無機微粒子の数平均1次粒子サイズは、小さすぎると該微粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に該数平均1次粒子サイズが大きすぎるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合材料の透明性が極端に低下する場合がある。従って、本発明で用いられる無機微粒子の数平均1次粒子サイズの下限値は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、上限値は好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは7nm以下である。すなわち、本発明における無機微粒子の数平均1次粒子サイズとしては、1nm〜15nmが好ましく、2nm〜10nmがさらに好ましく、3nm〜7nmが特に好ましい。
【0060】
また本発明に用いられる無機微粒子は上記の平均粒子サイズを満たし、かつ粒子サイズ分布が狭いほど望ましい。このような単分散粒子の定義の仕方はさまざまであるが、例えば特開2006−160992号公報に記載されるような数値規定範囲が、本発明で用いられる微粒子の好ましい粒径分布範囲にも当てはまる。
ここで、上述の数平均1次粒子サイズとは例えば、X線回折(XRD)装置あるいは透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。
【0061】
本発明で用いられる無機微粒子の屈折率に特に制限はないが、本発明の有機無機複合材料が高屈折率を必要とする光学部品に用いられる場合には、無機微粒子は高屈折率特性を持つことが好ましい。この場合、用いられる無機微粒子の屈折率の範囲は、22℃で589nmの波長において1.9〜3.0であることが好ましく、より好ましくは2.0〜2.7であり、特に好ましくは2.1〜2.5である。微粒子の屈折率が3.0以下であれば熱可塑性樹脂との屈折率差がさほど大きくないためレイリー散乱を抑制しやすい傾向がある。また、屈折率が1.9以上であれば高屈折率化を図りやすい傾向がある。
【0062】
無機微粒子の屈折率は例えば本発明で用いられる熱可塑性樹脂と複合化した複合物を透明フィルムとして、アッベ屈折計(例えば、アタゴ社製「DM−M4」)で屈折率を測定し、別途測定した樹脂成分のみの屈折率とから換算する方法、あるいは濃度の異なる微粒子分散液の屈折率を測定することにより微粒子の屈折率を算出する方法などによって見積もることができる。またシリコンウエハ等の光学特性が既知な基板上に例えばスピンコート等で薄膜を作製し、十分乾燥した後エリプソメータで干渉パターンのフィッティングにより屈折率を求めることもできる。
【0063】
本発明の有機無機複合材料における無機微粒子の含有量は、透明性と高屈折率化の観点から、10〜80質量%が好ましく、15〜70質量%がさらに好ましく、20〜60質量%が特に好ましい。
【0064】
(添加剤)
本発明の有機無機複合材料には、上記の熱可塑性樹脂や無機微粒子以外に、均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等観点から適宜各種添加剤を配合してもよい。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記無機微粒子および熱可塑性樹脂の合計量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることがより好ましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。
【0065】
<分散剤>
本発明では、後述するように水中またはアルコール溶媒中に分散された無機微粒子を熱可塑性樹脂と混合する際に、有機溶媒への抽出性または置換性を高める目的、熱可塑性樹脂への均一分散性を高める目的、微粒子の吸水性を下げる目的、あるいは耐候性を高める目的など種々目的に応じて、上記熱可塑性樹脂以外の分散剤を添加してもよい。該分散剤の重量平均分子量は50〜50,000であることが好ましく、より好ましくは100〜20,000、さらに好ましくは200〜10,000である。
【0066】
本発明で好ましく用いられる、分散剤の例としては例えば、p−オクチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、酢酸、プロピオン酸、シクロペンタンカルボン酸、燐酸ジベンジル、燐酸モノベンジル、燐酸ジフェニル、燐酸ジ−α−ナフチル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸モノフェニルエステル、KAYAMER PM−21(商品名;日本化薬社製)、KAYAMER PM−2(商品名;日本化薬社製)、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、パラオクチルベンゼンスルホン酸、あるいは特開平5−221640号、特開平9−100111号、特開2002−187921号各公報記載のシランカップリング剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
これらの分散剤は1種類を単独で用いてもよく、また複数種を併用してもよい。
これら分散剤の添加量の総量は無機微粒子に対して、質量換算で0.01〜2倍であることが好ましく、0.03〜1倍であることがより好ましく、0.05〜0.5倍であることが特に好ましい。
【0068】
<可塑剤>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高い場合、組成物の成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、本発明の組成物の成形温度を下げるために可塑剤を使用してもよい。可塑化剤を添加する場合の添加量は有機無機複合材料の総量の1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜20質量%であることが特に好ましい。
本発明で使用する可塑剤は、樹脂との相溶性、耐候性、可塑化効果などを総合的に勘案して決定する必要があり、特開2007−238929号公報等に記載の種々公知のものから選択できる。
【0069】
<その他の添加剤>
上記成分以外に、成形性を改良する目的で変性シリコーンオイル等の公知の離型剤を添加したり、耐光性や熱劣化を改良したりする目的で、ヒンダードフェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系等の公知の劣化防止剤を適宜添加してもよい。これらを配合する場合は、有機無機複合材料の全固形分に対して0.1〜5質量%程度とすることが好ましい。
【0070】
[有機無機複合材料の製造方法]
本発明に用いられる無機微粒子は、側鎖に前記官能基を有する熱可塑性樹脂と化学結合して樹脂中に分散され、本発明の有機無機複合材料を得ることができる。
本発明に用いられる無機微粒子は粒子サイズが小さく、表面エネルギーが高いため、固体で単離すると再分散させることが難しい。よって、無機微粒子は溶液中に分散された状態で熱可塑性樹脂と混合し安定分散物とすることが好ましい。複合物の好ましい製造方法としては、(1)無機粒子を上記分散剤の存在下に表面処理を行い、表面処理された無機微粒子を有機溶媒中に抽出し、抽出した該無機微粒子を前記熱可塑性樹脂と均一混合して無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合物を製造する方法、(2)無機微粒子と熱可塑性樹脂の両者を均一に分散あるいは溶解できる溶媒を用いて両者を均一混合して無機微粒子と熱可塑性樹脂の複合物を製造する方法が挙げられる。
【0071】
上記(1)の方法によって有機無機複合材料を製造する場合には、有機溶媒としてトルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性の溶媒が用いられる。無機微粒子の有機溶剤への抽出に用いられる分散剤と前記熱可塑性樹脂は同種のものであっても異種のものであってもよいが、好ましく用いられる分散剤については、前述<分散剤>の欄で述べたものが挙げられる。
有機溶媒中に抽出された無機微粒子と熱可塑性樹脂を混合する際に、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマー等の添加剤を必要に応じて添加してもよい。
【0072】
上記(2)の方法を採用する場合は、溶剤として、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシー2−プロパノール、tert−ブタノール、酢酸、プロピオン酸等の親水的な極性溶媒の単独または混合溶媒、あるいはクロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性溶媒と上記極性溶媒との混合溶媒が好ましく用いられる。この際、前述の熱可塑性樹脂とは別に分散剤、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマーを必要に応じて添加してもよい。水/メタノールに分散された無機微粒子を用いる際には、水/メタノールより高沸点で熱可塑性樹脂を溶解する親水的な溶媒を添加した後、水/メタノールを濃縮留去することによって、無機微粒子の分散液を極性有機溶媒に置換した後、樹脂と混合することが好ましい。この際、前記分散剤を添加してもよい。
【0073】
上記(1)、(2)の方法によって得られた有機無機複合材料は、そのままキャスト成形して成形体を得ることもできるが、本発明では特に、該溶液を濃縮(スプレイドライ、減圧濃縮など)、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により溶剤を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の手法によって成形することが好ましい。
【0074】
[成形体]
本発明の有機無機複合材料を成形することにより、本発明の成形体を製造することができる。本発明の成形体は、有機無機複合材料の説明の欄で前記した屈折率と光学特性を示すものが有用である。
【0075】
また本発明の成形体は最大厚みが0.1mm以上であることが好ましい。最大厚みは、好ましくは0.1〜5mmであり、さらに好ましくは1〜3mmである。これらの厚みを有する成形体は、高屈折率の光学部品として特に有用である。このような厚い成形体は、溶液キャスト法で製造しようとしても溶剤が抜けにくいため一般に容易ではない。しかしながら、本発明の有機無機複合材料を用いれば成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に実現することができる。このように、本発明によれば、微粒子の高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する成形体を得ることができる。
【0076】
[光学部品]
本発明の成形体は、高屈折性、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れた成形体である。本発明の光学部品は、このような成形体からなるものである。本発明の光学部品の種類は、特に制限されない。特に、有機無機複合材料の優れた光学特性を利用した光学部品、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)として好適に利用することができる。かかる光学部品を備えた光学機能装置としては、例えば、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。
【0077】
また、光学機能装置に用いられる前記パッシブ光学部品としては、例えば、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル(板状成形体)、フィルム、光導波路(フィルム状やファイバー状等)、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。かかるパッシブ光学部品には、必要に応じて任意の被覆層、例えば摩擦や摩耗による塗布面の機械的損傷を防止する保護層、無機粒子や基材等の劣化原因となる望ましくない波長の光線を吸収する光線吸収層、水分や酸素ガス等の反応性低分子の透過を抑制あるいは防止する透過遮蔽層、防眩層、反射防止層、低屈折率層等や、任意の付加機能層を設けて多層構造としてもよい。かかる任意の被覆層の具体例としては、無機酸化物コーティング層からなる透明導電膜やガスバリア膜、有機物コーティング層からなるガスバリア膜やハードコート等が挙げられ、そのコーティング法としては真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法、ディップコート法、スピンコート法等公知のコーティング法を用いることができる。
【0078】
[レンズ]
本発明の有機無機複合材料を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の有機無機複合材料を用いて製造されたレンズ基材は、高屈折性、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、有機無機複合材料を構成するモノマーの種類や分散させる無機微粒子の量を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0079】
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0081】
[分析および評価方法]
本実施例において、各分析および評価方法は、下記の手段でおこなった。
【0082】
(1)X線回折(XRD)スペクトル測定
リガク(株)製「RINT1500」(X線源:銅Kα線、波長1.5418Å)を用いて、23℃で測定した。
【0083】
(2)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
日立製作所(株)社製「H−9000UHR型透過型電子顕微鏡」(加速電圧200kV、観察時の真空度約7.6×10-9Pa)にて行った。
【0084】
(3)光線透過率測定
測定する樹脂を成形して厚さ1.0mmの小片を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」((株)島津製作所製)で測定した。
【0085】
(4)屈折率測定
アッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M4」)にて波長589nmの光について行った。
【0086】
(5)分子量測定
分子量は、以下のような条件でGPC測定を行うことにより求めたポリスチレン換算で表した重量平均分子量として求めた。
装置:HLC−8121GPC/HT (東ソー社)
カラム:TSKgel GMHHR-H(20)HT (7.8mm×300mm)2本
検出器:HLC−8221GPC/HT内臓RI検出器
測定溶媒:o−ジクロロベンゼン
測定流量:1mL/min
測定温度:145℃
試料注入量:500μL(0.2%溶液)
標準試料:単分散ポリスチレン×16(東ソー社)
【0087】
(6)ガラス転移温度(Tg)測定
示差走査熱量計(DSC6200、セイコーインスツルメンツ(株)製)を用いて、窒素中、昇温温度10℃/分の条件で各試料において、ガラス転移温度(以下、Tgとも言う)を測定した。本明細書で規定されるTgは該測定に準じた値である。
【0088】
[無機微粒子分散液の調整]
(1)酸化ジルコニウム水分散物の調製
50g/Lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム懸濁液を得た。この懸濁液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水を溶媒として酸化ジルコニウム換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理して酸化ジルコニウム微粒子懸濁液を得た。TEMより数平均粒子サイズが5nmの酸化ジルコニウム微粒子の生成を確認した。
【0089】
(2)酸化ジルコニウム酢酸ブチル分散物の調製
前記(1)で調製した酸化ジルコニウム分散物(15質量%水分散物)500gに15gのp−n−プロピル安息香酸と1000gの酢酸ブチルを加え約1000g以下になるまで減圧濃縮して溶媒置換を行った後、酢酸ブチルの添加で濃度調整をすることで6.7質量%の酸化ジルコニウム酢酸ブチル分散物(2)を得た。
【0090】
[熱可塑性樹脂の合成]
(1)熱可塑性樹脂(P−1、P−4、P−6、P−8、比較ポリマーB)の合成
【化14】

【0091】
800mLのトルエンと64.2g(0.36mol)のヘキシルノルボルネン(C6NB)と64.0g(0.68mol)のノルボルネン(NB)と11.1g(0.08mol)のノルボルネンカルボン酸(NBCOOH)および分子量調整剤として53.9g(0.48mol)の1−オクテンを反応容器に仕込んだ。次いでパラジウムビスアセチルアセトナート(東京化成社製)54.9mgとトリシクロヘキシルホスフィン(ストレム社製)50.5mgをトルエン5mLで反応させた溶液を加え、2.9mlのトルエンで洗い流した。続いてジメチルアニリニウム・テトラキスペンタフルオロフェニルボレート(ストレム社製)288mgを添加し、トルエン7mlで洗い流した。この溶液を窒素気流下80℃で3時間攪拌した。得られた溶液を2Lのトルエンと3Lのヘキサンで希釈し、12Lのアセトンを加え、再沈殿させた。沈殿物をろ過し、80℃で3時間真空乾燥した後、白色固体のP−1を得た。
【0092】
前記熱可塑性樹脂P−1を重クロロホルムに溶解させ、1HNMRを測定した結果、共重合比率は、63/35/2mol%であった。得られた重合体をo−ジクロロベンゼンに溶解させ、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による分子量を測定した結果、ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)は170000であった。DSCで測定したTgは230℃であった。アッベ屈折計で測定した該樹脂の波長589nmにおける屈折率(nD)は1.531で、アッベ数(νD)は55であった。ここで屈折率およびアッベ数は、P−1を加熱圧縮成形して得られた200μm厚みのフィルム形状で測定した。
【0093】
以下に示すP−4、P−6、P−8および無機粒子と結合しうる官能基を有さないポリマーBを、モノマー種、モノマー濃度、触媒濃度、分子量調整剤の濃度を変更する以外は前記P−1の合成方法と同様にして合成した。なお、得られたP−1、P−4、P−6およびP−8光線透過率はすべて80%以上であった。
【化15】

(2)比較ポリマーA、比較ポリマーC の合成
既報に従い、特開2003−73564号公報記載のポリマーAおよび、特開2007−238929号公報記載のポリマーC、国際公開WO2005−73310号公報に樹脂(2)として記載のポリマーDを合成した。
【化16】

【0094】
[実施例1]
[材料組成物の調整並びに透明成形体の作製]
(1)有機無機複合材料の調整
前記で調製した酸化ジルコニウム微粒子酢酸ブチル分散物(2)にZrO2微粒子が固形分の30質量%になる様に熱可塑性樹脂P−1を混合した。この際、P−1はクロロベンゼンとTHFの9:1混合溶媒の2%溶液としておき、ここに酸化ジルコニウム分散液を滴下して加える方法で混合した。混合後、80℃、1時間加熱し、溶媒を濃縮留去した後、固形物を140℃、3時間以上、溶媒が1質量%以下になるまで真空乾燥することでP−1の有機無機複合材料を白色粉末状で得た。得られた有機無機複合材料のTgは、もとのP−1のTgよりも高かった。該白色粉末を、金型に入れ加熱圧縮成形し(温度;340℃、圧力;13.7MPa、時間2分)、厚さ1mmの透明成形体を得た。得られた成形体の光線透過率測定および屈折率測定を行った。結果を下記表1に示す。また、以下の基準で判定した金型からの離型性、金型残りも良好であった。結果を下記表1にあわせて記載した。
【0095】
(1)金型からの離型性
加熱成形後、ステンレスでできた金型から成型体を外す際のボタンの取れやすさを以下の基準で官能評価した。
○:自然に金型からボタンが取れる。
△:少し力を入れると金型からボタンが取れる。
×:かなり力を入れないと金型からボタンが取れない。
【0096】
(2)金型残りの評価
加熱成型後、ステンレスでできた金型から成型体を外す際の金型残りを以下の基準で評価した。
○:金型残りが無い
△:金型残りが少ない
×:金型残りが多い
【0097】
[実施例2〜4および比較例1〜4]
実施例1と同様の方法で、P−4、P−6、P−8および比較ポリマーA、ポリマーB、ポリマーCの有機無機複合材料の調整を行った。
本発明の熱可塑性樹脂P−4、P−6、P−8を用いた実施例2〜4では、特に問題なく厚さ1mmの透明成形体まで得ることができた。得られた成形体の光線透過率測定および屈折率測定を行った。結果を下記表1に示す。
比較ポリマーAを用いた比較例1の場合、酸化ジルコニウム分散液を滴下している際、一部沈殿物が生成したため、さらにジクロロベンゼンで2倍に希釈して調整し白色粉末までは得られたが、加熱圧縮成形体は白濁しており、かつ脆く、屈折率の測定はできなかった。
比較ポリマーBおよびDをそれぞれ用いた比較例2および4の場合、酸化ジルコニウム分散液を滴下後の混合液は良好な透明性を示し問題なく白色粉末までは得られたが、加熱圧縮成形体は白濁しており、かつ脆く、屈折率の測定はできなかった。
比較ポリマーCを用いた比較例3の場合、酸化ジルコニウム分散液を滴下後の混合液は良好な透明性を示したが、140℃の乾燥で若干融着し、細かな粉末ではなく白色塊状物となってしまった。得られた塊状物を粉砕後、加熱圧縮成形を200℃で実施した結果、厚さ1mmの透明成形体を得た。得られた成形体の光線透過率測定および屈折率測定を行った。比較例3について、成形性評価結果とともにこれらの測定結果を下記表1に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
表1より、本発明の実施例に従えば、高屈折率と高アッベ数を両立し、かつ耐熱性が高く、透明性に優れる複合材料が得られることが分かる。さらに、驚くべきことに比較例1〜4に対して実施例1〜4の有機無機複合材料は、金型からの離型性が大幅に向上したことがわかった。このように本発明のポリマーで金型からの離型性が大幅に向上することは、従来技術から予想できない効果であった。
また、本発明の有機無機複合組成を用いて、凹レンズ、凸レンズ等の金型形状に合わせて生産性よく正確にレンズ形状を形成できることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機微粒子および熱可塑性樹脂を少なくとも含有する有機無機複合材料であって、該熱可塑性樹脂が下記一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位の両方を含むことを特徴とする有機無機複合材料。
【化1】

(一般式(1)中、R1〜R4はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、−COOR5または−OCOR5で表される置換基を表す。ここでR5は置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。R1〜R4のうち少なくとも2つが互いに結合してアルキリデン基、単環または多環を形成していてもよい。mは0または1を表す。)
【化2】

(一般式(2)中、R11〜R14はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基、−COOR15または−OCOR15で表される置換基、あるいは、−L−Xで表される置換基を表し、R11〜R14の少なくともいずれか1つが−L−Xである。ここでR15は置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアリール基を表し、Lは単結合または2価の連結基を表し、Xは無機微粒子と結合しうる官能基を表す。R11〜R14のうち少なくとも2つが互いに結合してアルキリデン基、単環または多環を形成していてもよい。nは0または1を表す。)
【請求項2】
前記無機微粒子と結合しうる官能基が、
【化3】

−SO3H、−OSO3H、−COOH、金属アルコキシド基、−OH、−NH2、−SH、−COOCO−、エーテル結合を含む環構造を有する基、またはこれらの塩から選ばれる基であることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合材料(ただし、R21およびR22は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表す。)。
【請求項3】
前記無機微粒子と結合しうる官能基が、−COOH、−SO3H、−PO(OH)2、またはこれらの塩から選ばれる基であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機無機複合材料。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が5万以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項5】
前記無機微粒子の平均1次粒子径が1〜15nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項6】
前記無機微粒子が酸化ジルコニウム、酸化亜鉛または酸化チタンを含有する微粒子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項7】
有機無機複合材料に対して、前記無機微粒子を10質量%以上含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項8】
波長589nmにおいて、厚み1mm換算で50%以上の光線透過率を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項9】
波長589nmにおける屈折率が1.55以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項10】
アッベ数が40以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の有機無機複合材料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を成形したことを特徴とする成形体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を成形したことを特徴とする光学部品。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機無機複合材料を成形したことを特徴とするレンズ。

【公開番号】特開2010−77280(P2010−77280A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247150(P2008−247150)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】