説明

有機無機複合粒子およびその製造方法、並びに、熱伝導性樹脂組成物およびその製造方法

【課題】十分な熱伝導性を有する有機無機複合粒子であって、使用時に熱伝導率の低下が起こりにくく、かつ、簡素な方法により製造可能な有機無機複合粒子およびその製造方法、並びに、有機無機複合粒子とマトリックス樹脂とを含む熱伝導性樹脂組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】有機無機複合粒子は、ビニル系ポリマーからなる核と、この核を覆う無機粒子と、前記核と前記無機粒子との間に介在するポリアルコキシシロキサンとを含み、前記無機粒子の熱伝導率が10W/(m・K)以上である。有機無機複合粒子の製造方法は、重合性ビニル系モノマー100重量部と、重合開始剤と、重合性ビニル系モノマーに対して不活性なポリアルコキシシロキサンオリゴマーとを含むモノマー混合物を、熱伝導率が10W/(m・K)以上の無機粒子0.5重量部以上の存在下で水系懸濁重合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル系ポリマーからなる核と、この核を覆う無機粒子とを含む有機無機複合粒子およびその製造方法に関する。また、本発明は、前記有機無機複合粒子とマトリックス樹脂とを含む熱伝導性樹脂組成物およびその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
平均粒子径が0.01〜100μmのビニル系ポリマー粒子は、例えば、塗料用の添加剤(艶消し剤、微細な凹凸を塗膜表面に付与するための意匠性付与剤等)、インク用の添加剤(艶消し剤等)、接着剤の主成分または添加剤、人工大理石用の添加剤(低収縮化剤等)、紙処理剤、化粧品用の充填材(滑り性向上のための充填材)、クロマトグラフィーに用いるカラム充填材、静電荷像現像に使用されるトナー用の添加剤、フィルム用のブロッキング防止剤、光拡散体(光拡散フィルム等)用の光拡散剤等の用途で使用されている。
【0003】
上記ビニル系ポリマー粒子は、通常、重合性ビニル系モノマーの懸濁重合により製造されている。懸濁重合では、重合性ビニル系モノマーを含む液滴を、液滴の合一がなく、かつ、液滴が安定に懸濁した系で重合させることができる方法、および、重合によって均一な粒子径分布を有する微細なビニル系ポリマー粒子を得ることができる方法を実現するために、種々の検討がなされてきた。
【0004】
これら方法を実現するために、懸濁重合では、様々な懸濁安定剤を使用することが報告されている。懸濁安定剤としては、一般に、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、澱粉等の水溶性高分子や、微粉末状の難溶性無機化合物が使用されている。難溶性無機化合物としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、第3リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難水溶性塩類;珪酸、粘土、シリカ等が知られている。
【0005】
懸濁安定剤として水溶性高分子を用いた場合、懸濁重合によって得られた粒子は、粒子径分布が広いという欠点があった。加えて、併発する乳化重合により、所望の粒径範囲よりも微細な粒径を持つ微粒子が多く発生するという欠点もあった。
【0006】
また、懸濁安定剤として難水溶性無機化合物を用いた場合、粒子径分布を比較的狭くできる。しかし、微小なビニル系ポリマー粒子を得るためには、懸濁安定剤(難水溶性塩類)の量を比較的多くする必要があるという欠点、および、併発する乳化重合により、所望の粒径範囲よりも微細な粒径を持つ微粒子が多く発生するという欠点があった。難水溶性塩類を比較的多量に用いると、重合後に、比較的多量の酸による洗浄を行い、引き続き多量の水による洗浄を行う必要があり、製造工程が煩雑となる。
【0007】
前記の欠点を解決するための技術として、懸濁安定剤としてシリカ等を用いることによって、微粒子の発生を抑制し、粒子径分布の狭い重合体粒子を得る方法が知られている(特許文献1〜3参照)。
【0008】
特許文献1には、重合性単量体系を水相中で重合させるトナーの製造方法において、水相にシリカと水溶性無機塩とを含有させる方法が記載されている。特許文献1によれば、シリカと水溶性無機塩とを併用することで、粒度の揃ったトナーが得られるとされている。
【0009】
また、特許文献2および3には、疎水性無機酸化物をアルコールのような親水性有機化合物の存在下で水性媒体中に分散させてなる無機分散安定剤の存在下で、重合性単量体を含む単量体組成物を分散させ、重合させる樹脂粒子の製造方法が記載されている。前記疎水性無機酸化物としては、疎水性シリカ、疎水性アルミナ、疎水性チタニア、疎水性ジルコニア、疎水性マグネシア、疎水性酸化亜鉛、疎水性酸化クロム等が挙げられている。特許文献2および3によれば、疎水性無機酸化物を、親水性有機化合物の存在下で、水性媒体中に分散させ、得られた水性分散媒体中で、重合性モノマーを所定粒子径に懸濁させ、次いで懸濁重合させることで、粒子径分布の狭い重合体粒子が得られるとされている。
【0010】
また、特許文献4には、懸濁重合時のモノマー滴の安定性を簡便な方法により向上させることを目的として、重合性ビニル系モノマーと重合開始剤とを含むモノマー混合物を、重合性ビニル系モノマーに対し不活性なポリアルコキシシロキサンオリゴマーと、コロイダルシリカからなる懸濁安定剤と、アルカリ金属のハロゲン化物との存在下で水系懸濁重合させることで重合体粒子を得る方法が記載されている。この方法によれば、懸濁重合時に、重合性ビニル系モノマーの液滴が安定して存在可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭62−266561号公報
【特許文献2】特開平10−237216号公報
【特許文献3】特開2000−355639号公報
【特許文献4】特開2007−217645号公報
【特許文献5】特開2007−211187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、近年、電子機器の小型化および高集積化に伴う発熱量の増加が問題になっており、効率良く排熱させることの重要性が増している。この対策として、放熱シートや放熱グリスの活用場面が広がっている。放熱シートや放熱グリスとしては、耐熱性、密着性、難燃性、長期信頼性等に優れることから、シリコーン樹脂を主成分とするものが大部分を占めている。シリコーン樹脂自体は放熱性(熱伝導性)を殆ど持たないため、通常、熱伝導性を持つフィラー(以下、単に熱伝導性フィラーと称する)をシリコーン樹脂中に充填して放熱シートや放熱グリスとして用いられている。
【0013】
ビニル系ポリマーと無機粒子とを含む有機無機複合粒子であって、熱伝導性フィラーとして利用可能な程度の十分な熱伝導性を有する有機無機複合粒子を実現できれば、無機粒子と比較して流動性(樹脂と混合した時の柔軟性)および軽量性を向上できるので、価値が高いと考えられる。
【0014】
特許文献1〜4のような懸濁安定剤としてシリカ等を用いた懸濁重合では、懸濁安定剤として使用したシリカ等が表面に残存したポリマー粒子が得られると考えられる。しかしながら、特許文献1〜4に記載されているポリマー粒子は、熱伝導性フィラーとして適したものではない。
【0015】
まず、特許文献1では、コロイダルシリカがトナー表面に有意量で残存するか不明であり、コロイダルシリカがトナーの熱伝導性に寄与するかは疑わしい。さらに、コロイダルシリカは1〜1.5W/(m・K)程度という低い熱伝導率しか有していないため、コロイダルシリカが有意量でトナー表面に残存していたとしても、トナーは実質的に熱伝導性を示さない。
【0016】
また、特許文献2および3によれば、得られた樹脂粒子の表面には分散安定剤の一成分として用いられた疎水性無機酸化物が固定化されているとされている。しかしながら、疎水性無機酸化物は樹脂粒子との親和性があまり高くないため、実際には、樹脂粒子の使用時、例えば樹脂粒子を他の樹脂と混合する時に、疎水性無機酸化物が樹脂粒子表面から剥がれる可能性がある。そのため、特許文献2において、疎水性無機酸化物として熱伝導性のものを用いたとしても、疎水性無機酸化物が固定化された樹脂粒子は、使用時に熱伝導性が低下し易い。
【0017】
また、特許文献4には、重合性ビニル系モノマー由来の重合体成分と、コロイダルシリカ由来のシリカ成分とを含む重合体粒子が記載されている。しかしながら、特許文献4の重合体粒子は、無機成分がコロイダルシリカ由来のシリカ成分であり、コロイダルシリカ由来のシリカ成分は1〜1.5W/(m・K)程度という低い熱伝導率しか有していないため、実質的に熱伝導性を示さないという問題があった。
【0018】
特許文献5には、ポリマー粒子の表面に、シランカップリング剤によって、金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子が記載されている。また、特許文献5には、金属酸化物微粒子の例として、酸化ケイ素(シリカ)粒子、酸化アルミニウム(アルミナ)粒子、および酸化セリウム粒子が挙げられている。
【0019】
しかしながら、特許文献5の複合微粒子は、ポリマー粒子と金属酸化物微粒子とシランカップリング剤とを含む溶液に、超音波を照射することによって製造することが必要である(特許文献5の段落[0024]参照)。したがって、特許文献5の複合微粒子は、モノマーから製造する際に、少なくとも、モノマーを重合させてポリマー粒子を製造する工程と、ポリマー粒子と金属酸化物微粒子とシランカップリング剤とを含む溶液に、超音波を照射する工程とが必要であり、多くの製造工程を必要とするという問題があった。なお、前記シランカップリング剤は、モノマーに対して活性なもの(モノマーと共重合しうるもの)であるため、もしモノマーの重合時に存在すれば、モノマーと結合してその機能(ポリマー粒子と金属酸化物微粒子とを結合する機能)を失ってしまう。このため、前記の2つの工程は、明確に分離する必要がある。
【0020】
本発明は、前記従来の課題に鑑み、十分な熱伝導性を有する有機無機複合粒子であって、使用時(例えば、マトリックス樹脂との混合時等)に熱伝導率の低下が起こりにくく、かつ、簡素な方法により製造可能な有機無機複合粒子およびその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、十分な熱伝導性を有する熱伝導性樹脂組成物であって、耐久性を備え、簡素な方法により製造可能な熱伝導性樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の有機無機複合粒子は、前記課題を解決するために、ビニル系ポリマーからなる核と、この核を囲む無機粒子とを含む有機無機複合粒子であって、前記核と前記無機粒子との間に介在するポリアルコキシシロキサンとを含み、前記無機粒子の熱伝導率が、10W/(m・K)以上であることを特徴としている。
【0022】
上記構成によれば、ビニル系ポリマーからなる核と無機粒子との間にポリアルコキシシロキサンが介在しており、ポリアルコキシシロキサンは、ビニル系ポリマーおよび無機粒子の双方に対して親和性を有する化合物であるので、核および無機粒子と物理的に結合しやすい。それゆえ、無機粒子は、ポリアルコキシシロキサンを介して核の表面に強固に固着され、核の表面から剥がれにくくなっている。その結果、上記構成の有機無機複合粒子は、使用時(例えばマトリックス樹脂との混合時)に熱伝導率が低下しにくい。
【0023】
また、上記構成の有機無機複合粒子は、特許文献5の複合微粒子と異なり、重合性ビニル系モノマーとポリアルコキシシロキサンオリゴマーとを含むモノマー混合物を、無機粒子の存在下で重合させる製造方法によって、モノマーから1工程で製造することが可能である。それゆえ、上記構成の有機無機複合粒子は、簡素な方法により製造可能である。
【0024】
また、上記構成の有機無機複合粒子は、無機粒子の熱伝導率が10W/(m・K)以上であるので、十分な熱伝導性を有しており、放熱シート用または放熱グリス用の熱伝導性フィラーとして好適である。また、上記構成の有機無機複合粒子を熱伝導性フィラーとして使用して放熱シートまたは放熱グリスを製造した場合、従来の熱伝導性フィラー(アルミナ等)を使用した放熱シートまたは放熱グリスと比べて、より軽量かつ柔軟な放熱シートまたは放熱グリスを実現できる。
【0025】
なお、本明細書において、「熱伝導率」は、後述するレーザーフラッシュ法により測定された300K(27℃)での熱伝導率を意味するものとする。
【0026】
本発明の有機無機複合粒子の製造方法は、前記課題を解決するために、重合性ビニル系モノマーと重合開始剤とを含むモノマー混合物を、無機粒子の存在下で水系懸濁重合させる有機無機複合粒子の製造方法であって、前記モノマー混合物が、前記重合性ビニル系モノマーに対して不活性なポリアルコキシシロキサンオリゴマーをさらに含み、前記無機粒子の使用量が、前記重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.5重量部以上であり、前記無機粒子の熱伝導率が、10W/(m・K)以上であることを特徴としている。
【0027】
上記方法によれば、重合性ビニル系モノマーが重合してビニル系ポリマーからなる核を形成し、ポリアルコキシシロキサンオリゴマーが縮合して核および無機粒子と物理的に結合することによって無機粒子を核の表面に固定化する。その結果、使用時(例えば、マトリックス樹脂との混合時等)に無機粒子が剥がれにくく熱伝導率が低下しにくい有機無機複合粒子を製造できる。
【0028】
また、上記方法によれば、特許文献5の複合微粒子と異なり、一般的な懸濁重合による粒子の製造方法と同様、モノマーから1工程で粒子を製造することができ、簡素な方法を実現できる。また、上記方法によれば、無機粒子の使用量が重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.5重量部以上であるので、懸濁重合時のモノマー混合物の分散安定性が向上し、粒子の凝集を防止できるので、有機無機複合粒子を容易に得ることができる。
【0029】
また、上記方法によれば、無機粒子の熱伝導率が10W/(m・K)以上であるので、十分な熱伝導性を有し、放熱シート用または放熱グリス用の熱伝導性フィラーとして好適な有機無機複合粒子を製造できる。
【0030】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、前記課題を解決するために、本発明の有機無機複合粒子と、マトリックス樹脂とを含むことを特徴としている。
【0031】
上記構成によれば、本発明の有機無機複合粒子を含んでいるので、無機粒子が剥がれることによる熱伝導率の低下が起こりにくく、耐久性が高い。また、上記構成によれば、本発明の有機無機複合粒子を用いているので、モノマーからの製造が簡素であり、十分な熱伝導性を有している。また、本発明の熱伝導性樹脂組成物を放熱シートまたは放熱グリスとして使用した場合、従来の熱伝導性フィラー(アルミナ等)を使用した放熱シートまたは放熱グリスと比べて、より軽量かつ柔軟な放熱シートまたは放熱グリスを実現できる。
【0032】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物の製造方法は、前記課題を解決するために、本発明の有機無機複合粒子の製造方法によって有機無機複合粒子を製造する工程と、前記有機無機複合粒子と、マトリックス樹脂とを混合する工程とを含むことを特徴としている。
【0033】
上記方法によれば、本発明の有機無機複合粒子の製造方法を用いるので、無機粒子が剥がれることによる熱伝導率の低下が起こりにくく、耐久性が高い熱伝導性樹脂組成物を製造できる。また、上記方法によれば、本発明の有機無機複合粒子の製造方法を用いるので、モノマーからの製造が簡素であり、十分な熱伝導性を有する熱伝導性樹脂組成物を製造できる。
【発明の効果】
【0034】
以上のように、本発明によれば、十分な熱伝導性を有する有機無機複合粒子であって、使用時に熱伝導率の低下が起こりにくく、かつ、簡素な方法により製造可能な有機無機複合粒子およびその製造方法を提供できる。
【0035】
さらに、本発明によれば、十分な熱伝導性を有する熱伝導性樹脂組成物であって、耐久性を備え、簡素な方法により製造可能な熱伝導性樹脂組成物およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1で得られた有機無機複合粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)像である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔有機無機複合粒子〕
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0038】
本発明の有機無機複合粒子は、ビニル系ポリマーからなる核と、この核を囲む無機粒子とを含む有機無機複合粒子であって、前記核と前記無機粒子との間に介在するポリアルコキシシロキサンとを含み、前記無機粒子の熱伝導率が、10W/(m・K)以上である。
【0039】
前記ビニル系ポリマーは、重合性ビニル系モノマーの重合体である。重合性ビニル系モノマーは、重合可能な炭素−炭素二重結合(広義のビニル結合)を有する化合物である。本発明において使用可能な重合性ビニル系モノマーとしては、特に限定されず、1個のアルケニル基(広義のビニル基)を有する単官能モノマー、2個以上のアルケニル基(広義のビニル基)を有する多官能モノマー等が挙げられる。
【0040】
前記単官能モノマーとしては、例えば、α−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル;スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル;アクリロニトリル、アクリルアミド等のようなアクリル酸エステル以外のアクリル酸誘導体;メタクリロニトリル、メタクリルアミド等のようなメタクリル酸エステル以外のメタクリル酸誘導体等が挙げられる。
【0041】
前記α−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、アクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2−(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のメタクリル酸エステル;α−クロロアクリル酸メチル等のα−ハロアクリル酸エステル等が挙げられる。
【0042】
場合によっては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のような不飽和カルボン酸を単官能モノマーとして使用することもできる。さらに、これらを2種以上組み合わせて用いてもよい。また、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物;ビニルナフタリン塩等を、本発明の効果を妨げない範囲で1種または2種以上組み合わせて単官能モノマーとして使用することもできる。
【0043】
前記単官能モノマーは、α−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル、スチレン、およびスチレン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。前記単官能モノマーがこれらの少なくとも1種である場合、単官能モノマーの汎用性がある点、ビニル系ポリマーおよび有機無機複合粒子の微粒子化が比較的容易である点、および単官能モノマーを原料として作製した有機無機複合粒子について広く用途展開を図ることが可能である点で、有利である。単官能モノマーは、安価であることから、スチレンおよびメタクリル酸メチルの少なくとも一方であることがさらに好ましい。
【0044】
前記多官能モノマーとしては、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等のジ(α−メチレン脂肪族カルボン酸)エステル;ジビニルベンゼン;多官能イソシアヌレート等が挙げられる。重合性ビニル系モノマーとして多官能モノマーを使用することで、架橋したビニル系ポリマーからなる核を含む有機無機複合粒子を得ることができる。
【0045】
前記重合性ビニル系モノマーは、単官能モノマーおよび多官能モノマーの両方を含むことが好ましい。これにより、ビニル系ポリマー中に良好な架橋構造を形成して、有機無機複合粒子に良好な耐溶剤性を付与することができる。多官能モノマーの使用量は、重合性ビニル系モノマーの全体に対して、0.5〜50重量%の範囲内であることが好ましく、1〜40重量%の範囲内であることがより好ましい。これにより、ビニル系ポリマー中にさらに良好な架橋構造を形成して、有機無機複合粒子にさらに優れた耐溶剤性を付与することができる。
【0046】
前記無機粒子は、ポリアルコキシシロキサンを介して核を囲んでいればよく、ポリアルコキシシロキサンを介して核を完全に被覆していてもよく、ポリアルコキシシロキサンを介して核を部分的に被覆していてもよい。無機粒子は、有機無機複合粒子の熱伝導率を向上させる機能を持つ。無機粒子は、有機無機複合粒子を懸濁重合によって製造するときには、懸濁液中におけるモノマー混合物の分散を安定化させる懸濁安定剤(分散安定剤)としても機能する。
【0047】
前記無機粒子としては、10W/(m・K)以上の熱伝導率を有する公知の無機粒子をいずれも使用できる。10W/(m・K)以上の熱伝導率を有する無機粒子としては、例えば、アルミナ粒子(熱伝導率:15〜38W/(m・K))、酸化亜鉛粒子(熱伝導率:20〜54W/(m・K))等の金属酸化物;窒化ホウ素粒子(熱伝導率:40〜210W/(m・K))、窒化アルミニウム粒子(熱伝導率:70〜270W/(m・K))、窒化珪素粒子(熱伝導率:25〜80W/(m・K))等の窒化物粒子;アルミニウム粒子(熱伝導率:110〜256W/(m・K))、銅粒子(熱伝導率:340〜400W/(m・K))、銀粒子(熱伝導率:418〜430W/(m・K))、ニッケル粒子(熱伝導率:90〜95W/(m・K))、亜鉛粒子(熱伝導率:113〜117W/(m・K))、ステンレス鋼粒子(熱伝導率:15〜26W/(m・K))等の金属粒子;ダイヤモンド粒子(熱伝導率:900〜2300W/(m・K))、グラファイト粒子(熱伝導率:110〜1200W/(m・K))等の炭素粒子等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら無機粒子は、球状であっても不定形状であってもよい。また、これら無機粒子は、単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。無機粒子としては、アルミナ粒子が好ましい。無機粒子がアルミナ粒子である場合、無機粒子の熱伝導率が比較的高いために有機無機複合粒子の熱伝導率を比較的高くすることができる点、無機粒子が安価であるために有機無機複合粒子を安価に実現できる点、および無機粒子の粒子径の制御が容易となる点で、有利である。
【0048】
前記無機粒子の平均粒子径は、できるだけ小さいことが好ましく、1μm以下であることが好ましく、10〜300nmの範囲内であることがより好ましい。無機粒子の平均粒子径が1μm以下である場合、有機無機複合粒子表面に無機粒子がより均一な割合で存在することになるため、有機無機複合粒子が熱伝導性をより効果的に発現できる。
【0049】
なお、本明細書において、無機粒子の「平均粒子径」は、レーザー回折式粒度分布計にて測定した体積基準の粒度分布における積算分率が50%となる粒子径(メディアン径)を意味するものとする。
【0050】
有機無機複合粒子中における無機粒子の含有量(ポリアルコキシシロキサンと無機粒子とが縮合して縮合物を形成している場合には、縮合物中における無機粒子に由来する部位の量)は、ビニル系ポリマー100重量部に対して、0.5〜50重量部の範囲内であることが好ましく、1〜30重量部の範囲内であることがより好ましい。無機粒子の含有量がビニル系ポリマー100重量部に対して0.5重量部以上である場合、十分に高い熱伝導性を有機無機複合粒子に付与することができる。また、無機粒子の含有量がビニル系ポリマー100重量部に対して50重量部以下である場合、十分に高い柔軟性を有機無機複合粒子に付与することができる。
【0051】
ポリアルコキシシロキサンは、2〜100個のアルコキシシランが重縮合した化合物であるポリアルコキシシロキサンオリゴマー、または、100個より多くのアルコキシシランが重縮合した化合物であるポリアルコキシシロキサンポリマーである。
【0052】
前記ポリアルコキシシロキサンは、核と無機粒子との間に介在していればよく、核を完全に被覆していてもよく核を部分的に被覆していてもよい。ポリアルコキシシロキサンは、無機粒子と縮合していても、無機粒子と縮合していなくてもよい。ポリアルコキシシロキサンは、無機粒子が水酸基をその表面に有する粒子(例えば、アルミナ粒子等の金属酸化物粒子;自然酸化膜で覆われたアルミニウム粒子等の金属粒子など)である場合には、無機粒子と縮合する(無機粒子表面の水酸基と縮合する)ことによって縮合物を形成していることが好ましい。これにより、有機無機複合粒子表面上に存在する無機粒子をより強固に核の表面に固着できるので、無機粒子がさらに剥がれにくくなる。
【0053】
前記ポリアルコキシシロキサンとしては、以下の一般式
【0054】
【化1】

(式中、nは、n≧2を満たす数を表し、Rは、それぞれCH3、C25、C37、またはC49を表し、互いに同一でも異なっていてもよい)
で表されるポリアルコキシシロキサンであることが好ましい。すなわち、前記ポリアルコキシシロキサンの珪素上の置換基Rの全てが、炭素数1〜4のアルキル基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはブトキシ基)であることが好ましい。ポリアルコキシシロキサンを無機粒子と核との界面に存在させるために、ポリアルコキシシロキサンがある程度以上の親水性を持つ事が必要とされる。置換基Rの全てが炭素数1〜4のアルキル基である場合、置換基Rの少なくとも1つが長鎖炭化水素基や芳香族炭化水素基などである場合と比較して、ポリアルコキシシロキサンの疎水性が弱く(親水性が強く)なり、ポリアルコキシシロキサンが核内部に取り込まれることを回避できる。
【0055】
前記一般式で表されるポリアルコキシシロキサンとしては、ポリメトキシシロキサン、ポリエトキシシロキサン、ポリプロポキシシロキサン、ポリブトキシシロキサン等が挙げられる。前記一般式で表されるポリアルコキシシロキサンは、珪素上の置換基の全てが炭素数1〜4のアルキル基であるテトラアルコキシシロキサンまたはアルコキシシロキサンオリゴマーを重縮合することによって得ることができる。
【0056】
有機無機複合粒子中におけるポリアルコキシシロキサンの含有量(ポリアルコキシシロキサンと無機粒子とが縮合して縮合物を形成している場合には、縮合物中におけるポリアルコキシシロキサンに由来する部位の量)は、ビニル系ポリマー100重量部(重合性ビニル系モノマー約100重量部に相当する)に対して、0.5〜5重量部の範囲内であることが好ましく、1〜3重量部の範囲内であることがより好ましい。ポリアルコキシシロキサンの含有量がビニル系ポリマー100重量部に対して0.5重量部以上である場合、ポリアルコキシシロキサンによって無機粒子を核の表面により強固に固着させることができ、無機粒子が核表面からより剥がれにくくなる。ポリアルコキシシロキサンの含有量がビニル系ポリマー100重量部に対して5重量部以下である場合、ポリアルコキシシロキサンの含有量に見合ったポリアルコキシシロキサンの効果(無機粒子を核の表面に固着させる効果)を得ることができる。
【0057】
本発明の有機無機複合粒子は、核表面に存在する無機粒子由来の熱伝導性を利用する用途、例えば、放熱シート用または放熱グリス用の熱伝導性フィラーの用途への利用が期待される。本発明の有機無機複合粒子は、その他の用途、例えば、塗料用の添加剤(艶消し剤、意匠性付与剤等)、インク用の添加剤(艶消し剤等)、接着剤の主成分または添加剤、人工大理石用の添加剤(低収縮化剤等)、紙処理剤、化粧品用の充填材(滑り性向上のための充填材)、クロマトグラフィーに用いるカラム充填材、静電荷像現像に使用されるトナー用の添加剤、フィルム用のブロッキング防止剤、光拡散体(光拡散フィルム等)用の光拡散剤等の用途にも、利用可能である。
【0058】
〔有機無機複合粒子の製造方法〕
本発明の有機無機複合粒子の製造方法は、重合性ビニル系モノマーと重合開始剤とを含むモノマー混合物を、無機粒子の存在下で水系懸濁重合させる方法であって、前記モノマー混合物が、前記重合性ビニル系モノマーに対して不活性なポリアルコキシシロキサンオリゴマーをさらに含み、前記無機粒子の使用量が、前記重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.5重量部以上であり、前記無機粒子の熱伝導率が、10W/(m・K)以上である。この方法により、前述した本発明の有機無機複合粒子を製造することができる。
【0059】
本発明の方法では、重合性ビニル系モノマーを含むモノマー混合物を重合させる。重合性ビニル系モノマーについては、前述した通りである。重合性ビニル系モノマーを重合させるために、重合開始剤がモノマー混合物中に使用される。重合開始剤としては、一般に水系懸濁重合に用いられている油溶性の重合開始剤、例えば過酸化物系重合開始剤およびアゾ系重合開始剤等が挙げられる。
【0060】
前記過酸化物系重合開始剤としては、具体的には、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、o−クロロ過酸化ベンゾイル、o−メトキシ過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0061】
前記アゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−イソプロピルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、(2−カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等が挙げられる。
【0062】
これらの中でも、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、および過酸化ラウロイルが、重合開始剤の分解速度の点で、前記重合開始剤として好ましい。
【0063】
前記重合開始剤の使用量は、重合性ビニル系モノマー100重量部に対して、0.01〜10重量部であることが好ましく、0.1〜5.0重量部であることがより好ましい。重合開始剤の使用量を重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.01重量部以上とすることで、重合をより確実に開始させることができる。一方、前記重合性ビニル系モノマーを10重量部以下にすることで、重合開始剤の使用量に見合った効果を得ることができ、コストに見合った効果を得ることができる。
【0064】
本発明の方法では、ポリアルコキシシロキサンオリゴマーをモノマー混合物に含める。ポリアルコキシシロキサンオリゴマーは、重合性ビニル系モノマーに不活性(重合性ビニル系モノマーと共重合しないことを意味する)であればよいが、下記一般式
【0065】
【化2】

(式中、nは、2<n<40を満たす数を表し、Rは、それぞれCH3、C25、C37、またはC49(炭素数1〜4のアルキル基)を表し、互いに同一でも異なっていてもよい)
で表されるポリアルコキシシロキサンオリゴマーであることが好ましい。
【0066】
ポリアルコキシシロキサンオリゴマーが上記一般式で表されるポリアルコキシシロキサンオリゴマーである場合(置換基Rが、CH3、C25、C37、またはC49である場合)、置換基Rの少なくとも1つが長鎖炭化水素基や芳香族炭化水素基などである場合と比較して、ポリアルコキシシロキサンの疎水性が弱く(親水性が強く)なり、ポリアルコキシシロキサンが核内部に取り込まれることを回避できる。前記一般式(1)でn>2であるポリアルコキシシロキサンオリゴマーは、低分子量のオリゴマーでないため、そのアルコキシ基が加水分解しても水溶性が強くなることがなく、モノマー混合物中に安定に存在させ易い。また、前記一般式(1)でn<40であるポリアルコキシシロキサンオリゴマーは、重合性ビニル系モノマーとの相溶性が良好であり、また、良好な縮合反応性を有している。
【0067】
前記一般式で表されるポリアルコキシシロキサンオリゴマーとしては、例えば、ポリメトキシシロキサンオリゴマー、ポリエトキシシロキサンオリゴマー、ポリプロポキシシロキサンオリゴマー、ポリブトキシシロキサンオリゴマー等が挙げられる。これらの中でも、難水溶性でモノマー混合物中に安定に存在させ易く、かつビニル系ポリマーとの相分離が良好であることから、ポリメトキシシロキサンオリゴマーまたはポリブトキシシロキサンオリゴマーが好ましい。ポリメトキシシロキサンオリゴマーまたはポリブトキシシロキサンオリゴマーのうちでも、重量平均分子量が300〜3000の範囲内であるポリメトキシシロキサンオリゴマーまたはポリブトキシシロキサンオリゴマーが好ましく、重量平均分子量が300〜2000であるポリメトキシシロキサンオリゴマーまたはポリブトキシシロキサンオリゴマーがより好ましい。重量平均分子量が300〜3000の範囲内であるポリメトキシシロキサンオリゴマーまたはポリブトキシシロキサンオリゴマーは、有機無機複合粒子を形成し易い。これらポリアルコキシシロキサンオリゴマーは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
なお、本明細書において、「重量平均分子量」は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定された重量平均分子量を意味するものとする。GPCによる重量平均分子量の測定は、例えば以下の条件
カラム:「TSK gel G−1000R」(東ソー株式会社製)
「TSK gel G−2000H」(東ソー株式会社製)
「TSK gel G−4000H」(東ソー株式会社製)
流出溶媒:テトラヒドロフラン
流出速度:1ml/分
流出温度:40℃
で行うことができる。
【0069】
ポリアルコキシシロキサンオリゴマーの使用量は、重合性ビニル系モノマー100重量部に対して、0.5〜5重量部の範囲内であることが好ましく、1〜3重量部の範囲内であることがより好ましい。ポリアルコキシシロキサンオリゴマーの使用量が重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.5重量部以上である場合、懸濁安定剤としての無機粒子が水性媒体中に残存することなく核に固着するので、有機無機複合粒子を単離し易くなり、また、無機粒子が核表面からさらに剥がれにくくなる。一方、ポリアルコキシシロキサンオリゴマーの使用量が重合性ビニル系モノマー100重量部に対して5重量部以下である場合、使用量に見合った効果(有機無機複合粒子を単離し易くすると共に、無機粒子を核表面から剥がれにくくする効果)を得ることができる。
【0070】
前記重合性ビニル系モノマーと、前記ポリアルコキシシロキサンオリゴマーと、前記重合開始剤とは、公知の方法により混合されてモノマー混合物とされる。なお、モノマー混合物はその他の成分を含んでいてもよく、その場合、公知の方法によりその他の成分が前記3成分と混合されてモノマー混合物とされる。
【0071】
次に、モノマー混合物を水系懸濁重合させるためには、モノマー混合物を、水性媒体中に懸濁させて重合すればよい。前記水性媒体としては、水、または、水と水溶性溶媒との混合媒体が挙げられる。水溶性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコールが挙げられる。水性媒体の使用量は、懸濁重合時におけるモノマー混合物の分散を十分に安定化させるために、重合性ビニル系モノマーおよびポリアルコキシシロキサンオリゴマーの合計100重量部に対して100〜1000重量部の範囲内であることが好ましい。
【0072】
本発明の製造方法では、水系懸濁重合時に無機粒子を存在させる。無機粒子は、懸濁液中におけるモノマー混合物の分散を安定化させる懸濁安定剤として水性媒体中に添加される。無機粒子としては、前述した通り、種々の無機粒子を用いることができるが、少量のアルカリ金属ハロゲン化物の存在下において水系に容易に分散させることができる点、ポリアルコキシシロキサンオリゴマーを介しての核表面への付着性、および得られる有機無機複合粒子に求められる特性(熱伝導特性等)の両方を十分に充たす点で、アルミナ粒子が好ましい。
【0073】
前述した通り、無機粒子の平均粒子径は、1μm以下であることが好ましい。無機粒子の平均粒子径が1μm以下である場合、無機粒子の添加量が少なくても、懸濁重合時にモノマー混合物を十分に安定的に分散させることができ、粒径の小さい有機無機複合粒子を得ることができる。また、この場合、無機粒子の添加量を少なくすることができるので、経済的である。
【0074】
無機粒子の使用量は、重合性ビニル系モノマー100重量部に対して、0.5重量部以上であればよいが、1〜50重量部の範囲内であることがより好ましく、1〜30重量部の範囲内であることがさらに好ましい。無機粒子の使用量が重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.5重量部未満であると、水性媒体中におけるモノマー混合物の分散安定性が低くなって、粒子径の小さい有機無機複合粒子を得ることが困難になるので、好ましくない。また、無機粒子の使用量が重合性ビニル系モノマー100重量部に対して50重量部以下である場合、無機粒子の使用量に見合った無機粒子の効果(水性媒体中におけるモノマー混合物の分散安定性を向上させる効果)を得ることができる。
【0075】
本発明の有機無機複合粒子の製造方法では、前記モノマー混合物を、前記無機粒子とアルカリ金属ハロゲン化物との存在下で水系懸濁重合させることが好ましい。すなわち、水系懸濁重合の反応系に、モノマー混合物および無機粒子の他に、アルカリ金属ハロゲン化物を添加することがより好ましい。アルカリ金属ハロゲン化物を添加することにより、無機粒子に電荷を付与して、水性媒体中での無機粒子の分散を促進し、無機粒子の凝集を抑制することができる。アルカリ金属ハロゲン化物としては、特に限定されず、公知のものをいずれも使用できる。アルカリ金属ハロゲン化物としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、臭化ナトリウム、臭化マグネシウム等が挙げられる。アルカリ金属ハロゲン化物としては、他のハロゲン化物(臭化物、ヨウ化物)と比較して電気陰性度が大きく、より少量で無機粒子に電荷を付与し、水系での分散を安定化することができる点で、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩化物が好ましい。これらアルカリ金属ハロゲン化物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
前記アルカリ金属ハロゲン化物の使用量は、水性媒体100重量部に対して、0.1〜10重量部の範囲内であることが好ましく、0.5〜5重量部の範囲内であることがより好ましい。アルカリ金属ハロゲン化物の使用量が水性媒体100重量部に対して0.1重量部以上である場合、懸濁安定剤としての無機粒子がモノマー混合物の分散安定性を十分に向上させることができる。また、アルカリ金属ハロゲン化物の使用量が水性媒体100重量部に対して0.1重量部以上である場合、無機粒子が核に固着せず水性媒体中に残存することを防止でき、有機無機複合粒子の単離を容易にすることができる。一方、アルカリ金属ハロゲン化物の使用量が水性媒体100重量部に対して10重量部以下である場合、アルカリ金属ハロゲン化物の使用量に見合った効果(無機粒子の凝集を抑制する効果)を得ることができる。
【0077】
さらに、無機粒子(および必要に応じて用いられるアルカリ金属ハロゲン化物)による懸濁安定性向上の効果を妨げない範囲内で、ポリアルコキシシロキサンオリゴマーおよび無機粒子(および必要に応じて用いられるアルカリ金属ハロゲン化物)以外の他の懸濁安定剤を水系懸濁重合の反応系に添加してもよい。
【0078】
また、無機粒子(および必要に応じて用いられるアルカリ金属ハロゲン化物および/または他の懸濁安定剤)と、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の界面活性剤とを水系懸濁重合の反応系に併用することも可能である。
【0079】
前記アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム)、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸塩;オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリウム等の脂肪酸石鹸;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸塩;アルカンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩;アルキルリン酸エステル塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物:ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0080】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックポリマー等が挙げられる。
【0081】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0082】
両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキサイド、リン酸エステル系界面活性剤、亜リン酸エステル系界面活性剤等が挙げられる。
【0083】
これら必要に応じて用いられる他の懸濁安定剤および界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら必要に応じて用いられる他の懸濁安定剤および界面活性剤の選択および使用量は、得られる有機無機複合粒子の粒子径が所望する粒子径であるかと、および、懸濁重合時におけるモノマー混合物の分散安定性が十分であるかとを考慮して決定すればよい。
【0084】
また、水系での乳化粒子の発生を抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を水系懸濁重合の反応系に用いてもよい。
【0085】
このようにして調製された水性媒体にモノマー混合物を添加し、モノマー混合物を水性媒体中に液滴として分散させて水性懸濁液とし、水系懸濁重合を行う。
【0086】
モノマー混合物の分散方法としては、例えば、水性媒体中にモノマー混合物を直接添加して、プロペラ翼等の攪拌力によりモノマー混合物を液滴として水性媒体中に分散させる方法;水性媒体中にモノマー混合物を直接添加して、ローターとステーターとから構成される高剪断力を利用する分散機であるホモミキサーを用いてモノマー混合物を水性媒体中に分散させる方法;水性媒体中にモノマー混合物を直接添加して、超音波分散機を用いてモノマー混合物を水性媒体中に分散させる方法;水性媒体中にモノマー混合物を直接添加して、マイクロフルイダイザーやナノマイザー等の高圧型分散機を用いて、モノマー混合物の液滴同士の衝突や反応容器内壁に対するモノマー混合物の液滴の衝突を利用して、モノマー混合物を水性媒体中に分散させる方法;MPG(マイクロポーラスガラス)多孔膜を通してモノマー混合物を水性媒体中に圧入させる方法等が挙げられる。高圧型分散機を用いる方法、およびMPG多孔膜を用いる方法が、粒子径をより均一に揃えることができるので、より好ましい。
【0087】
次いで、モノマー混合物が液滴として分散された水性懸濁液を、加熱することにより懸濁重合を開始させる。重合反応中は、水性懸濁液を攪拌するのが好ましく、その攪拌は、例えば、液滴の浮上や重合後の有機無機複合粒子の沈降を防止できる程度に緩く行えばよい。
【0088】
懸濁重合において、重合温度は、30〜120℃の範囲内にするのが好ましく、40〜80℃程度の範囲内にするのがさらに好ましい。そして、この重合温度を保持する時間は、0.1〜20時間の範囲内であることが好ましい。
【0089】
なお、重合性ビニル系モノマーおよび/またはポリアルコキシシロキサンオリゴマーの沸点が重合温度付近または重合温度未満である場合には、重合性ビニル系モノマーおよび/またはポリアルコキシシロキサンオリゴマーが揮発しないように、オートクレーブ等の耐圧重合設備を使用して、密閉下あるいは加圧下で懸濁重合を行うことが好ましい。
【0090】
次に、無機粒子が水酸基をその表面に有する粒子である場合、ポリアルコキシシロキサンオリゴマーと無機粒子とを、酸触媒または塩基触媒を用いて縮合させることが好ましい。ポリアルコキシシロキサンオリゴマーと無機粒子とを縮合させることで、有機無機複合粒子表面上に存在する無機粒子をより強固に核の表面に固着できる。酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、硝酸アンモニウム等を用いることができる。塩基触媒としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ピロリン酸ナトリウム等を用いることができる。なお、反応容器が鋼製やステンレス製である場合、反応容器の腐食を避ける等の理由から、水酸化ナトリウム、アンモニア、ピロリン酸ナトリウム等の塩基触媒を用いることが好ましい。
【0091】
酸触媒または塩基触媒の使用量は、ポリアルコキシシロキサンオリゴマー100重量部に対して、0.01〜30重量部の範囲内であることが好ましく、1〜20重量部の範囲内であることがより好ましい。酸触媒または塩基触媒の使用量が0.01重量部以上である場合、ポリアルコキシシロキサンオリゴマーと無機粒子との縮合が十分に進行するので、無機粒子をさらに強固に核の表面に固着できる。酸触媒または塩基触媒の使用量が30重量部以下である場合、酸触媒または塩基触媒の使用量に見合った効果(無機粒子をより強固に核の表面に固着させる効果)を得ることができる。
【0092】
得られた有機無機複合粒子は、吸引濾過、遠心脱水、遠心分離、加圧脱水等の方法により含水ケーキとして分離できる。さらに、得られた含水ケーキを水洗し、乾燥することにより目的の有機無機複合粒子を得ることができる。
【0093】
本発明の有機無機複合粒子の形状は、特に限定されないが、例えば球状である。また、本発明の有機無機複合粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、1〜100μmの範囲内とすることができる。1〜100μmの平均粒子径を有する有機無機複合粒子は、後述する本発明の有機無機複合粒子の製造方法によって得ることができる。
【0094】
本明細書において、有機無機複合粒子の「平均粒子径」は、コールター方式にて測定した体積基準の粒度分布における頻度分布が最大となる平均粒子径(最頻粒子径)、具体的には実施例にて後述する測定方法で測定された平均粒子径を意味するものとする。
【0095】
ここで、有機無機複合粒子の平均粒子径の調整は、モノマー混合物と水性媒体および無機粒子との混合条件、他の懸濁安定剤や界面活性剤等の添加量、前記攪拌装置の攪拌条件、分散条件などを調整することで可能である。
【0096】
〔熱伝導性樹脂組成物およびその製造方法〕
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、前述した本発明の有機無機複合粒子と、マトリックス樹脂(ベース樹脂)とを含むものである。マトリックス樹脂としては、特に限定されるものではないが、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂などが挙げられる。熱伝導性樹脂組成物中におけるマトリックス樹脂の含有量は、有機無機複合粒子100重量部に対して10〜100重量部の範囲内であることが好ましい。マトリックス樹脂の含有量が有機無機複合粒子100重量部に対して10重量部以上である場合、有機無機複合粒子に由来する十分な熱伝導性を熱伝導性樹脂組成物に付与できる。一方、マトリックス樹脂の含有量が有機無機複合粒子100重量部に対して100重量部以下である場合、熱伝導性樹脂組成物の成形が容易になる。
【0097】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、前述した本発明の製造方法によって有機無機複合粒子を製造した後、前記有機無機複合粒子とマトリックス樹脂とを混合する方法によって製造することができる。
【0098】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、例えば、電子部品等の発熱体からの放熱を行うための放熱シート、放熱グリス等として利用可能である。本発明の熱伝導性樹脂組成物を放熱シートとして利用する場合には、熱伝導性樹脂組成物を加熱圧縮成形等によって成形することによって、硬化したシート状の熱伝導性樹脂組成物とすればよい。本発明の熱伝導性樹脂組成物を放熱グリスとして利用する場合には、マトリックス樹脂としてシリコーングリス等を用いればよい。
【実施例】
【0099】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。まず、実施例および比較例中における有機無機複合粒子の平均粒子径の測定方法および熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率の測定方法について下記する。
【0100】
〔有機無機複合粒子の平均粒子径の測定方法〕
有機無機複合粒子の平均粒子径は、コールター方式精密粒度分布測定装置マルチサイザーIII(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定した。測定方法は、Coulter Electronics Limited発行のReference MANUAL FOR THE COULTER MULTISIZER(1987)に従って、50μmアパチャーを用いてマルチサイザーIIIのキャリブレーションを行い、平均粒子径の測定を行った。
【0101】
具体的には、有機無機複合粒子0.1gを0.1%ノニオン系界面活性剤水溶液10ml中にタッチミキサーおよび超音波を用いて分散させて分散液とした。マルチサイザーIII本体に備え付けの測定用電解液ISOTON(登録商標)II(ベックマン・コールター株式会社製)を満たしたビーカー中に、前記分散液を緩く攪拌しながらスポイトで滴下して、マルチサイザーIII本体画面の濃度計の示度を10%前後に合わせた。次に、マルチサイザーIII本体に、アパチャーサイズ(径)を50μm、Current(アパーチャー電流)を800μA、Gain(ゲイン)を4、Polarity(内側電極の極性)を+と入力して、manual(手動モード)で体積基準の粒度分布を測定した。なお、アパチャーサイズ等は、必要に応じて変更して入力可能である。測定中はビーカー内を気泡が入らない程度に緩く攪拌しておき、有機無機複合粒子10万個の粒度分布を測定した時点で測定を終了した。平均粒子径は、コールター方式にて測定した体積基準の粒度分布における頻度分布が最大となる平均粒子径(最頻粒子径)であり、体積平均粒子径を意味する。
【0102】
〔熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率の測定方法〕
熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率は、熱伝導率測定装置TC−7000H(アルバック理工製)を用い、レーザーフラッシュ法により測定した。試料(熱伝導性樹脂組成物)の熱伝導率λは、試料の密度ρ、比熱容量Cp、および熱拡散率αより、次式によって算出した。
【0103】
λ=ρ×Cp×α
試料の密度ρは、試料の重量および体積より算出した。試料の体積は、試料の形状および寸法より算出した。
【0104】
試料の比熱容量Cpは、前記熱伝導率測定装置において、パルス状のレーザーを試料に照射することによって試料を加熱し、加熱された試料の温度上昇を測定し、測定された温度上昇と、試料に加えられた熱量(レーザーの照射量)とから算出した。
【0105】
試料の熱拡散率αは、パルス状のレーザーの照射によって加熱された試料の裏面(照射面と反対側の面)の温度応答を、ハーフタイム法で解析することにより求めた。
【0106】
〔実施例1〕
まず、水2700gに対し、無機粒子(懸濁安定剤として機能する)としての球状アルミナ微粒子ASFP−20(電気化学工業株式会社製、平均粒子径200nm、熱伝導率27W/(m・K))225gと、界面活性剤としてのドデシル硫酸ナトリウム0.6gと、アルカリ金属ハロゲン化物としての塩化ナトリウム(NaCl)27gとを混合して、分散媒を調製した。この分散媒を、攪拌装置を有する重合容器に入れた。
【0107】
別途、重合性ビニル系モノマーとしてのメタクリル酸メチル(単官能性モノマー)810gおよびエチレングリコールジメタクリレート(多官能性モノマー)45gと、ポリアルコキシシロキサンオリゴマーとしてのMKCシリケートMS57(三菱化学株式会社製;前記一般式(1)で表されるポリアルコキシシロキサンオリゴマーにおいて、Rがメチル基であり、nの平均が15〜18であり、重量平均分子量が1300〜1500であるポリアルコキシシロキサンオリゴマー)45gと、重合開始剤としての2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4.5gとを均一に混合して、モノマー混合物を調製した。
【0108】
本実施例では、重合性ビニル系モノマー100重量部(ビニル系ポリマー約100重量部に
相当する)に対して、球状アルミナ微粒子ASFP−20の使用量は26重量部、塩化ナトリウムの使用量は3.2重量部、MKCシリケートMS57の使用量は5.3重量部である。
【0109】
前記モノマー混合物を重合容器中の前記分散媒に加えて、ホモミキサーにて攪拌速度7000rpmで約10分間攪拌して、モノマー混合物を分散媒中に液滴として微分散させた。
【0110】
続いて、攪拌装置による攪拌を攪拌速度300rpmで継続させ、モノマー混合物を加えた分散媒(反応液)の温度を60℃になるまで昇温し、反応液の温度を60℃に保持し4時間かけて懸濁重合を行うことで、重合性ビニル系モノマーを重合させてビニル系ポリマー粒子(核)を生成させた。さらに、塩基触媒としての水酸化ナトリウムを2g(ポリアルコキシシロキサンオリゴマー100重量部に対して4.4重量部)添加して、100℃に3時間保持することで、球状アルミナ微粒子をMKCシリケートMS57と縮合させた。
【0111】
次いで、重合容器内の反応液を攪拌装置により攪拌しながら室温まで冷却した。次いで、反応液を定性濾紙No.101で吸引濾過した。濾過の残渣(含水ケーキ)をイオン交換水3リットルで洗浄し、続いて脱液し、その後、60℃のオーブン中で一昼夜乾燥させることで目的の有機無機複合粒子を取り出した。得られた有機無機複合粒子の平均粒子径は、前述の測定方法により測定したところ、10.5μmであった。
【0112】
なお、得られた有機無機複合粒子を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が球状アルミナ微粒子によりムラなく覆われていることが確認できた(図1参照)。なお、MKCシリケートMS57は、球状アルミナ微粒子と縮合していることから、球状アルミナ微粒子とビニル系ポリマー粒子(核)との間に介在していると考えられる。
【0113】
〔実施例2〕
球状アルミナ微粒子ASFP−20の使用量を90g(重合性ビニル系モノマー100重量部に対して11重量部)に、ドデシル硫酸ナトリウムの使用量を0.27gに、ホモミキサーの攪拌速度を3000rpmにそれぞれ変更したことを除き、実施例1と同様にして有機無機複合粒子を得た。得られた有機無機複合粒子の平均粒子径は、前述の測定方法により測定したところ、35.0μmであった。
【0114】
〔実施例3〕
無機粒子として球状アルミナ微粒子ASFP−20に代えて球状アルミナ微粒子AO−502(株式会社アドマテックス製;平均粒子径700nm、熱伝導率28W/(m・K))225gを用いたことを除き、実施例1と同様にして有機無機複合粒子を得た。得られた有機無機複合粒子の平均粒子径は、前述の測定方法により測定したところ、13.4μmであった。
【0115】
〔実施例4〕
重合性ビニル系モノマーをメタクリル酸メチル550g、スチレン260g、およびエチレングリコールジメタクリレート45gに変更した(重合性ビニル系モノマーの全重量は変更なし)ことを除き、実施例1と同様にして有機無機複合粒子を得た。得られた有機無機複合粒子の平均粒子径は、前述の測定方法により測定したところ、11.9μmであった。
【0116】
〔実施例5〕
無機粒子(懸濁安定剤として機能する)として、球状アルミナ微粒子ASFP−20に代えて平均粒子径0.6μmの窒化アルミニウム(AlN)粒子(熱伝導率100W/(m・K))225gを用い、塩化ナトリウムの使用量を40.5g(重合性ビニル系モノマー100重量部に対して4.7重量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして有機無機複合粒子を得た。得られた有機無機複合粒子の平均粒子径は、前述の測定方法により測定したところ、12.1μmであった。
【0117】
〔実施例6〕
塩化ナトリウムを使用しないことを除き、実施例1と同様にして有機無機複合粒子を得た。得られた有機無機複合粒子の平均粒子径は、前述の測定方法により測定したところ、60μmと大きかった。これは、分散媒中でのモノマー混合物の分散安定性が実施例1〜5と比較して悪いためと考えられる。また、重合安定性も、実施例1〜5と比較して悪く、凝集物も発生した。この結果は、アルカリ金属ハロゲン化物を使用しなかったことに起因すると考えられる。
【0118】
〔比較例1〕
ポリアルコキシシロキサンオリゴマーを使用しないことを除き、実施例1と同様にして有機無機複合粒子を得た。得られた有機無機複合粒子の平均粒子径は9.5μmであった。しかし、有機無機複合粒子を定性濾紙にて吸引濾過する際に、反応液の濾過性が悪かったため、反応液から有機無機複合粒子を単離することが困難であった。この結果は、ポリアルコキシシロキサンオリゴマーを使用しなかったことに起因すると考えられる。
【0119】
〔比較例2〕
球状アルミナ微粒子ASFP−20の添加量を2.7g(重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.32重量部)に変更したことを除いて、実施例1と同様にして有機無機複合粒子の製造を試みた。しかし、分散媒中でのモノマー混合物の分散安定性が悪いため粒子が凝集して、目的とする一次粒子(有機無機複合粒子)が得られなかった。この結果は、無機粒子の添加量が、重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.5重量部未満であったことに起因すると考えられる。
【0120】
なお、比較例2では、目的とする有機無機複合粒子が得られなかったが、懸濁安定剤としての10W/(m・K)以上の熱伝導率を有する無機粒子の添加量が重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.5重量部未満であっても、このような熱伝導率を有する無機粒子以外の懸濁安定剤を適量使用すれば、目的とする有機無機複合粒子を得ることが可能である。例えば、比較例2において、懸濁安定剤として10W/(m・K)未満の熱伝導率を有する無機粒子(例えばコロイダルシリカ)を222.3g用いれば、目的とする有機無機複合粒子を得ることが可能である。
【0121】
実施例1〜6および比較例1・2の結果を表1にまとめて示す。
【0122】
【表1】

前記表中における略称は、以下の通りである。
【0123】
ASFP−20:平均粒子径200nmの球状アルミナ微粒子ASFP−20
AO−502:平均粒子径700nmの球状アルミナ微粒子AO−502
SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
MMA:メタクリル酸メチル
EGDMA:エチレングリコールジメタクリレート
St:スチレン
MS57:MKCシリケートMS57(一般式(1)で、Rがメチル基、nの平均が15〜18、重量平均分子量1300〜1500であるポリアルコキシシロキサンオリゴマー)
ABN−V:2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)
〔実施例7〕
まず、実施例1と同様にして有機無機複合粒子を得た。得られた有機無機複合粒子の平均粒子径は、前述の測定方法により測定したところ、10.5μmであった。
【0124】
前記有機無機複合粒子10gと、マトリックス樹脂としてのシリコーン系ベース樹脂YE5822(A)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製;2成分付加反応型液状シリコーンゴムの主成分)4.5gとを混合し、攪拌および脱泡した後、硬化剤YE5822(B)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製;2成分付加反応型液状シリコーンゴムの副成分)0.45gを添加し、再度、攪拌および脱泡した。得られた混合物を所定の型枠内に流し込み、熱プレス機(株式会社東洋精機製作所社製、ラボプレス101)を用いて、100℃、13MPaで10分間、加熱圧縮成形を行うことにより、硬化したシート状の熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0125】
得られたシート状の熱伝導性樹脂組成物について熱伝導率を測定したところ、0.26W/(m・K)であった。
【0126】
〔実施例8〕
まず、実施例2と同様にして有機無機複合粒子を得た。得られた有機無機複合粒子の平均粒子径は、前述の測定方法により測定したところ、35.0μmであった。
【0127】
前記有機無機複合粒子10gと、シリコーン系ベース樹脂YE5822(A)4.5gとを混合し、攪拌および脱泡した後、硬化剤YE5822(B)0.45gを添加し、再度、攪拌および脱泡した。得られた混合物を所定の型枠内に流し込み、熱プレス機を用いて、100℃、13MPaで10分間、加熱圧縮成形を行うことにより、硬化したシート状の熱伝導性樹脂組成物を得た。
【0128】
得られたシート状の熱伝導性樹脂組成物について熱伝導率を測定したところ、0.28W/(m・K)であった。
【0129】
〔比較例3〕
まず、水2300gを5Lのオートクレーブに供給し、90℃に加熱した後、懸濁安定剤としてのピロリン酸ナトリウム100gを水に溶解させて水溶液とし、次いで懸濁安定剤としての塩化マグネシウム185gを水に溶解させた。さらに、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム4.0gを水溶液に混合することにより、懸濁安定剤および界面活性を含有する水溶液を分散媒として得た。
【0130】
他方、重合性ビニル系モノマーとしてのメタクリル酸メチル1170gおよびエチレングリコールジメタクリレート130gと、重合開始剤としての2,2’−アゾビス2,4−ジメチルバレロニトリル)6.8gとを均一に混合して単量体混合物を調製した。
【0131】
この単量体混合物を前記分散媒に加え、ホモミキサーにて7000rpmで約10分攪拌して、モノマー混合物を分散媒中に微分散させた後、50℃、攪拌速度320rpmで2時間、重合反応を行い、次いで、90℃、攪拌速度475rpmで1.5時間、重合反応を行った。
【0132】
次いで、攪拌しながら重合容器内の反応液を室温まで冷却した。20%塩酸水溶液115mlを加えて懸濁安定剤を分解し、次いで反応液を吸引濾過した。濾過の残渣をイオン交換水により洗浄し、続いて脱液し、その後、50℃のオーブン中で一昼夜乾燥させることで目的の粒子を得た。
【0133】
得られた粒子は、前述の測定方法により測定したところ、平均粒子径11.0μmであった。
【0134】
前記粒子10gと、マトリックス樹脂としてのシリコーン系ベース樹脂YE5822(A)7.4g(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)とを混合し、攪拌および脱泡した後、硬化剤YE5822(B)(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)0.74gを添加し、再度、攪拌および脱泡した。得られた混合物を所定の型枠内に流し込み、熱プレス機(株式会社東洋精機製作所社製、ラボプレス101)を用いて、100℃、13MPaで10分間、加熱圧縮成形を行うことにより、硬化したシート状の樹脂組成物を得た。
【0135】
得られたシート状の樹脂組成物について熱伝導率測定を行ったところ、0.17W/(m・K)であった。この結果より、実施例7および8の有機無機複合粒子を含む熱伝導性樹脂組成物は、有機無機複合粒子を含まない比較例3の樹脂組成物と比較して熱伝導率が1.5〜1.6倍程度まで向上していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の有機無機複合粒子は、核表面に存在する無機粒子由来の熱伝導性を利用する用途、例えば、放熱シート用または放熱グリス用の熱伝導性フィラーの用途への利用が期待される。本発明の有機無機複合粒子は、その他の用途、例えば、塗料用の添加剤(艶消し剤、意匠性付与剤等)、インク用の添加剤(艶消し剤等)、接着剤の主成分または添加剤、人工大理石用の添加剤(低収縮化剤等)、紙処理剤、化粧品用の充填材(滑り性向上のための充填材)、クロマトグラフィーに用いるカラム充填材、静電荷像現像に使用されるトナー用の添加剤、フィルム用のブロッキング防止剤、光拡散体(光拡散フィルム等)用の光拡散剤等の用途にも、利用可能である。
【0137】
また、本発明の熱伝導性樹脂組成物は、電子部品等の発熱体からの放熱を行うための放熱シート、放熱グリス等として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系ポリマーからなる核と、この核を囲む無機粒子とを含む有機無機複合粒子であって、
前記核と前記無機粒子との間に介在するポリアルコキシシロキサンとを含み、
前記無機粒子の熱伝導率が、10W/(m・K)以上であることを特徴とする有機無機複合粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機無機複合粒子であって、
前記ポリアルコキシシロキサンの含有量が、前記ビニル系ポリマー100重量部に対し0.5〜5重量部の範囲内であることを特徴とする有機無機複合粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機無機複合粒子であって、
前記無機粒子の平均粒子径が、1μm以下であることを特徴とする有機無機複合粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機無機複合粒子であって、
前記無機粒子の含有量が、前記ビニル系ポリマー100重量部に対して0.5〜50重量部の範囲内であることを特徴とする有機無機複合粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機無機複合粒子であって、
前記無機粒子が、アルミナ粒子であることを特徴とする有機無機複合粒子。
【請求項6】
重合性ビニル系モノマーと重合開始剤とを含むモノマー混合物を、無機粒子の存在下で水系懸濁重合させる有機無機複合粒子の製造方法であって、
前記モノマー混合物が、前記重合性ビニル系モノマーに対して不活性なポリアルコキシシロキサンオリゴマーをさらに含み、
前記無機粒子の使用量が、前記重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.5重量部以上であり、
前記無機粒子の熱伝導率が、10W/(m・K)以上であることを特徴とする有機無機複合粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の有機無機複合粒子の製造方法であって、
前記無機粒子の使用量が、前記重合性ビニル系モノマー100重量部に対して50重量部以下であることを特徴とする有機無機複合粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の有機無機複合粒子の製造方法であって、
前記ポリアルコキシシロキサンオリゴマーの使用量が、前記重合性ビニル系モノマー100重量部に対して0.5〜5重量部の範囲内であることを特徴とする有機無機複合粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の有機無機複合粒子の製造方法であって、
前記無機粒子の平均粒子径が、1μm以下であることを特徴とする有機無機複合粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の有機無機複合粒子の製造方法であって、
前記無機粒子が、アルミナ粒子であることを特徴とする有機無機複合粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の有機無機複合粒子の製造方法であって、
前記ポリアルコキシシロキサンオリゴマーが、下記一般式
【化3】

(式中、nは、2<n<40を満たす数を表し、Rは、それぞれCH3、C25、C37、またはC49を表し、互いに同一でも異なっていてもよい)
で表されるポリアルコキシシロキサンオリゴマーであることを特徴とする有機無機複合粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれか1項に記載の有機無機複合粒子の製造方法であって、
前記重合性ビニル系モノマーが、1個のビニル基を有する単官能モノマーと、2個以上のビニル基を有する多官能モノマーとを含むことを特徴とする有機無機複合粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項6〜12のいずれか1項に記載の有機無機複合粒子の製造方法であって、
前記単官能モノマーが、α−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル、スチレン、およびスチレン誘導体から選択される少なくとも一種であり、
前記多官能モノマーが、ジ(α−メチレン脂肪族カルボン酸)エステルであることを特徴とする有機無機複合粒子の製造方法。
【請求項14】
請求項6〜13のいずれか1項に記載の有機無機複合粒子の製造方法であって、
前記モノマー混合物を、前記無機粒子とアルカリ金属ハロゲン化物との存在下で水系懸濁重合させることを特徴とする有機無機複合粒子の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機無機複合粒子と、マトリックス樹脂とを含むことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項16】
請求項6〜14のいずれか1項に記載の製造方法によって有機無機複合粒子を製造する工程と、
前記有機無機複合粒子と、マトリックス樹脂とを混合する工程とを含むことを特徴とする熱伝導性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−214000(P2011−214000A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55830(P2011−55830)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】