説明

有機無機複合組成物とその製造方法、成形体、および光学部品

【課題】酸化物粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散していて、屈折率と透明性が高くて、吸水率が低い有機無機複合組成物、ならびに、これを用いたレンズ基材等の光学部品を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と粒子サイズ1〜15nmの酸化物粒子を含有する有機無機複合組成物であって、前記酸化物粒子の表面が表面修飾剤で修飾されており、かつ、表面修飾後の前記酸化物粒子の吸水率が8%以下であることを特徴とする有機無機複合組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高屈折性、透明性、軽量性、加工性に優れる有機無機複合組成物とその製造方法、これを含んで構成される成形体、および光学部品に関する。より詳しくは、レンズ基材(例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ、OHP用レンズ等)等の光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学材料の研究が盛んに行われており、特にレンズ材料の分野においては高屈折性、透明性、易成形性、軽量性、耐衝撃性、離型性等に優れた材料の開発が強く望まれている。
【0003】
プラスチックレンズは、ガラスなどの無機材料に比べ軽量で割れにくく、様々な形状に加工できるため、眼鏡レンズのみならず近年では携帯カメラ用レンズやピックアップレンズ等の光学材料にも急速に普及しつつある。
【0004】
それに伴い、レンズを薄肉化するために素材自体を高屈折率化することが求められるようになっており、例えば、硫黄原子をポリマー中に導入する技術(特許文献1、特許文献2参照)や、ハロゲン原子や芳香環をポリマー中に導入する技術(特許文献3参照)や、インデン誘導体とビニル単量体との共重合体を用いる技術(特許文献4参照)等が活発に研究されてきた。しかし、十分に屈折率が大きくて良好な透明性を有しており、ガラスの代替となるようなプラスチック材料は未だ開発されるに至っていない。
【0005】
屈折率を有機物のみで上げることは難しいため、高屈折率を有する無機酸化物を樹脂マトリックス中に分散させることによって高屈折率材料をつくる試みがなされている(特許文献5、6参照)。このとき、レイリー散乱による透過光の減衰を低減するためには、粒子径が15nm以下の無機酸化物粒子を樹脂マトリクス中に均一に分散させることが好ましい。しかしながら、このような無機酸化物粒子は表面が親水性を有しているため、樹脂マトリクス中に均一に分散しにくくて、得られる有機無機複合組成物の透明性も低下しやすいという問題があった。
【0006】
このような問題に対処するために、シランカップリング剤、変性シリコーン、界面活性剤といった表面修飾剤を用いて酸化物粒子の表面を修飾することが提案されている(特許文献7〜9参照)。これらの表面修飾剤により表面を修飾された酸化物粒子を用いれば、樹脂に対する親和性が高いため酸化物粒子が均一に分散しやすくなり、高い透明性も維持される。
【特許文献1】特開2002−131502号公報
【特許文献2】特開平10−298287号公報
【特許文献3】特開2004−244444号公報
【特許文献4】特開2001−89537号公報
【特許文献5】特開昭61−291650号公報
【特許文献6】特開2003−73564号公報
【特許文献7】特開2007−217242号公報
【特許文献8】特開2007−262252号公報
【特許文献9】特開2007−119617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シランカップリング剤、変性シリコーン、界面活性剤といった表面修飾剤を用いて表面修飾された酸化物粒子を用いて調製された有機無機複合組成物は、吸水率が高いという問題がある。有機無機複合組成物の吸水率を下げようとして酸化物粒子の量を減らすと屈折率が低くなってしまい、また、吸水率を下げようとして表面修飾剤の吸着量を減らすと酸化物粒子が樹脂中に均一に分散しなくなってしまう。
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸化物粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散していて、屈折率と透明性が高くて、吸水率が低い有機無機複合組成物、ならびに、これを用いたレンズ基材等の光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の条件を満たす表面修飾酸化物粒子を樹脂中に分散させた有機無機複合組成物が優れた分散性、高屈折性、透明性、吸水率を示すことを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0009】
[1] 熱可塑性樹脂と粒子サイズ1〜15nmの酸化物粒子を含有する有機無機複合組成物であって、
前記酸化物粒子の表面が表面修飾剤で修飾されており、かつ、表面修飾後の前記酸化物粒子の吸水率が8%以下であることを特徴とする有機無機複合組成物。
[2] 前記酸化物粒子が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、またはこれらの混合物であることを特徴とする[1]に記載の有機無機複合組成物。
[3] 前記表面修飾剤が、芳香族基を有するカルボン酸であることを特徴とする[1]または[2]に記載の有機無機複合組成物。
[4] 前記表面修飾剤が、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする[3]に記載の有機無機複合組成物。
一般式(1)
【化1】

[式中、R1は水素原子、置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、R2は置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、nは0〜4のいずれかの整数を表し、Lは単結合、あるいは、置換または無置換のアルキレン基からなる連結基を表す。]
[5] 前記芳香族カルボン酸が、4−n−プロピル安息香酸、ジフェニル酢酸、4−フェニル安息香酸、またはこれら2つ以上の混合物であることを特徴とする[3]または[4]に記載の有機無機複合組成物。
[6] 前記表面修飾剤が前記酸化物粒子の表面に単分子吸着していることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[7] 前記表面修飾剤による酸化物粒子の表面被覆率が10〜100%であることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[8] 前記有機無機複合組成物の吸水率が2%以下であることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
[9] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法であって、
表面修飾剤を溶解させることができる溶媒中で、酸化物粒子の表面を前記表面修飾剤により修飾する工程を含むことを特徴とする有機無機複合組成物の製造方法。
[10] 前記溶媒が、メタノール、エタノール、1−ブタノール、イソプロパノール、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエン、アニソール、N−メチル−2−ピロリドン、酢酸エチル、酢酸ブチルまたはこれら2以上の混合物であることを特徴とする[9]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[11] 前記表面修飾を熱可塑性樹脂の不存在下で行うことを特徴とする[9]または[10]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[12] 前記表面修飾を行った酸化物粒子と前記熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする[11]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[13] 前記表面修飾を熱可塑性樹脂の存在下で行うことを特徴とする[9]または[10]に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
[14] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物を成形した成形体。
[15] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物を含んで構成される光学部品。
[16] 前記光学部品がレンズ基材であることを特徴とする[16]に記載の光学部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機無機複合組成物は、酸化物粒子が樹脂マトリックス中に均一に分散していて、屈折率と透明性が高くて、吸水率が低い。本発明の製造方法によれば、このような特徴的な性質を有する有機無機複合組成物を効率よく製造することができる。また、本発明の光学部品は、軽量で、屈折率と透明性が高いうえ、吸水率が低い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明の有機無機複合組成物とその製造方法、それを含んで構成される成形体および光学部品について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[有機無機複合組成物]
本発明の有機無機複合組成物は、熱可塑性樹脂と、粒子サイズ1nm〜15nmの酸化物粒子とを含み、前記酸化物粒子の表面が表面修飾剤で修飾されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の有機無機複合組成物は、吸水率が2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましい。
【0014】
また、本発明の有機無機複合組成物は、成形体とした際の、波長589nmにおける屈折率が1.60以上であり、かつ、波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であることが好ましい。成形体とした際に、波長589nmにおける屈折率が1.60以上であると高屈折率レンズ用途に好適に用いられる。また、本発明の組成物を成形体とした際に、波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率が70%以上であると、光学レンズとして好適に用いられる。
【0015】
本発明の組成物を成形体とした際の波長589nmにおける屈折率としては、1.60以上が好ましく、1.65以上がより好ましい。また、この場合の屈折率の上限は特に限定はない。 また、本発明の組成物を成形体とした際の波長589nmにおける厚さ1mm換算の光線透過率としては、70%以上が好ましく、75%以上がより好ましい。
【0016】
[熱可塑性樹脂]
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、屈折率が1.55より大きいことが好ましく、1.57より大きいことがより好ましく、1.59より大きいことが特に好ましい。なお、本発明における屈折率は、アッベ屈折計(アタゴ社「DR−M4」)にて波長589nmの光について測定した値である。
【0017】
本発明において用いられる熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度が70℃〜240℃であることが好ましく、100℃〜200℃であることがより好ましい。ガラス転移温度が120℃以上の樹脂を用いれば十分な耐熱性を有する光学部品が得られやすくなり、また、ガラス転移温度が100℃以下の樹脂を用いれば成形加工が行いやすくなる傾向がある。
【0018】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂の数平均分子量は、好ましくは18,000〜300,000、より好ましくは20,000〜250,000、さらに好ましくは220,00〜150,000である。数平均分子量18,000以上であれば実用的な力学強度を有する有機無機複合組成物が得られやすく、300,000以下であれば成形加工を行いやすい傾向がある。また、本発明に用いる樹脂を構成するポリマーは、付加系ポリマー、縮合系ポリマーのいずれであってもよく、ポリマーの種類に制限はない。
【0019】
本発明において用いられる熱可塑性樹脂は、波長589nmにおける光線透過率が75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0020】
本発明で用いられる熱可塑性樹脂は、酸化物粒子との相溶性向上のために酸化物粒子と親和性の高い官能基(親水性の官能基)を有することが好ましい。そのような官能基として、例えば以下の構造を有する官能基を挙げることができる。
【0021】
【化2】

[R11、R12、R13、R14、R15、R16は、それぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表す。]、−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、−OHまたはその塩、−Si(OR17n18n[R17、R18はそれぞれ独立に水素原子、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換のアリール基、あるいは、塩を形成しうる原子または基を表し、nは1〜3の整数を表す。]
【0022】
11、R12、R13、R14、R15、R16の好ましい範囲は、次の範囲である。
アルキル基は、炭素数1〜30が好ましく、より好ましくは炭素数1〜20であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基を挙げることができる。置換アルキル基には、例えばアラルキル基が含まれる。アラルキル基は、炭素数7〜30が好ましく、より好ましくは炭素数7〜20であり、例えばベンジル基、p−メトキシベンジル基を挙げることができる。アルケニル基は、炭素数2〜30が好ましく、より好ましくは炭素数2〜20であり、例えばビニル基、2−フェニルエテニル基を挙げることができる。アルキニル基は、炭素数2〜20が好ましく、より好ましくは炭素数2〜10であり、例えばエチニル基、2−フェニルエチニル基を挙げることができる。アリール基は、炭素数6〜30が好ましく、より好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニル基、2,4,6−トリブロモフェニル基、1−ナフチル基を挙げることができる。ここでいうアリール基の中には、ヘテロアリール基も含まれる。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の置換基としては、これらのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基の他に、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基)を挙げることができる。R11、R12、R13、R14として特に好ましいのは水素原子またはアルキル基であり、さらに好ましいのは水素原子である。
17、R18の好ましい範囲は、R11、R12、R13、R14、R15、R16と同様である。nは、好ましくは3である。
【0023】
上記のうち塩を形成しうる官能基は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0024】
これらの官能基の中でも、好ましくは、
【化3】

−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩、または−Si(OR17m1183-m1であり、より好ましくは、
【化4】

−SO3Hまたはその塩、−OSO3Hまたはその塩、−CO2Hまたはその塩であり、さらに好ましくは、
【化5】

または−CO2Hまたはその塩である。
【0025】
前記親水性の官能基の導入部位はポリマーの末端でも、主鎖中でも、側鎖中でもよい。また、複数の部位に導入されていてもよい。これらの官能基は、熱可塑性樹脂中に例えば0.1〜20質量%含ませることができ、より好ましくは0.2〜15質量%、さらに好ましくは0.2〜10質量%で含ませることができる。
【0026】
ポリマーの主鎖または側鎖に前記親水性の官能基を導入する方法は、特に制限されない。例えば、官能基を有するモノマーを共重合する方法や、ポリマーの主鎖または側鎖に反応により官能基を導入する方法が挙げられる。
【0027】
ポリマー末端に前記親水性の官能基を導入する方法としては、官能基をもつ開始剤、停止剤、連鎖移動剤などを用いて重合しポリマーを得る方法や、例えばビスフェノールAから得られるポリカーボネートのフェノール末端部を官能基を含有する反応剤で修飾する方法などを挙げることができる。例えば、新高分子実験学2、高分子の合成・反応(1)付加系高分子の合成(高分子学会編)110項〜112項に記載の硫黄含有連鎖移動剤を用いた連載移動法ビニル系モノマーのラジカル重合、新高分子実験学2、高分子の合成・反応(1)付加系高分子の合成(高分子学会編)255項〜256項に記載の、官能基含有開始剤、および/または官能基含有停止剤を用いるリビングカチオン重合、Macromolecules,36巻,7020項〜7026項(2003年)に記載の硫黄含有連鎖移動剤を用いた開環メタセシス重合などを挙げることができる。
【0028】
本発明において、熱可塑性樹脂は疎水性セグメントおよび前記親水性の官能基を含有する親水性セグメントで構成されるブロック共重合体であってもよい。
ブロック共重合体とは、疎水性セグメント(A)と親水性セグメント(B)とから構成されるブロック共重合体である。前記疎水性セグメント(A)とは、セグメント(A)のみからなるポリマーが水またはメタノールに溶解しない特性を有するセグメントをいい、前記親水性セグメント(B)とは、セグメント(B)のみからなるポリマーが水またはメタノールに溶解する特性を有するセグメントをいう。前記ブロック共重合体の型としては、AB型、B1AB2型(2つの親水性セグメントB1とB2とは同じでも異なっていてもよい)およびA1BA2型(2つの疎水性セグメントA1とA2とは同じでも異なっていてもよい)が挙げられ、分散特性が良好な点から、AB型あるいはA1BA2型のブロック共重合体が好ましく、製造適性の点から、AB型あるいはABA型(A1BA2型の2つの疎水性セグメントが同じ型)がより好ましく、AB型が特に好ましい。
【0029】
前記疎水性セグメントおよび前記親水性セグメントは、各々、ビニルモノマーの重合によって得られるビニルポリマー、ポリエーテル、開環メタセシス重合ポリマーおよび縮合ポリマー(ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンなど)など従来公知のポリマーのいずれからでも選択可能であるが、ビニルポリマー、開環メタセシス重合ポリマー、ポリカーボネート、ポリエステルが好ましく、製造適性の点からビニルポリマーがより好ましい。
【0030】
前記疎水性セグメント(A)を形成するビニルモノマー(A)としては、例えば、以下のものが挙げられる。
アクリル酸エステル類やメタクリル酸エステル類(エステル基は置換または無置換の脂肪族エステル基、置換または無置換の芳香族エステル基であり、例えば、メチル基、フェニル基、ナフチル基など);
【0031】
アクリルアミド類、メタクリルアミド類、具体的には、N−モノ置換アクリルアミド、N−ジ置換アクリルアミド、N−モノ置換メタクリルアミド、N−ジ置換メタクリルアミド(モノ置換体およびジ置換体の置換基は、置換または無置換の脂肪族基、置換または無置換の芳香族基であり、前記置換基としては、例えば、メチル基、フェニル基、ナフチル基など);
【0032】
オレフィン類、具体的には、ジシクロペンタジエン、ノルボルネン誘導体、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、ビニルカルバゾールなど;スチレン類、具体的には、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、トリブロモスチレン、ビニル安息香酸メチルエステルなど;
【0033】
ビニルエーテル類、具体的には、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテルなど;その他のモノマーとして、クロトン酸ブチル、クロトン酸ヘキシル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジブチル、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メトキシエチルビニルケトン、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルピロリドン、ビニリデンクロライド、メチレンマロンニトリル、ビニリデン、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジオクチル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェートなどが挙げられる。
【0034】
中でも、エステル基が無置換の脂肪族基、置換または無置換芳香族基であるアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類;置換基が無置換の脂肪族基、置換または無置換芳香族基であるN−モノ置換アクリルアミド、N−ジ置換アクリルアミド、N−モノ置換メタクリルアミドおよびN−ジ置換メタクリルアミド;スチレン類;が好ましく、エステル基が置換または無置換芳香族基であるアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類;スチレン類;がより好ましい。
【0035】
前記親水性セグメント(B)を形成するビニルモノマー(B)としては、例えば、以下のものが挙げられる。
アクリル酸、メタクリル酸、エステル部位に前記親水性の置換基を有するアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類;芳香環部に親水性の置換基を有するスチレン類;親水性の置換基を有するビニルエーテル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−モノ置換アクリルアミド、N−ジ置換アクリルアミド、N−モノ置換メタクリルアミドならびにN−ジ置換メタクリルアミドなどが挙げられる。
【0036】
中でも、親水性セグメント(B)としては、アクリル酸、メタクリル酸、エステル部位に前記親水性の置換基を有するアクリル酸エステル類およびメタクリル酸エステル類、芳香環部に前記親水性の置換基を有するスチレン類が好ましい。
【0037】
前記疎水性セグメント(A)を形成するビニルモノマー(A)は疎水性の特性を妨げない範囲で、前記ビニルモノマー(B)を含有していてもよい。前記疎水性セグメント(A)に含有される前記ビニルモノマー(A)と前記ビニルモノマー(B)とのモル比は、100:0〜60:40であるのが好ましい。
【0038】
前記親水性セグメント(B)を形成するビニルモノマー(B)は親水性の特性を妨げない範囲で、前記ビニルモノマー(A)を含有していてもよい。前記親水性セグメント(B)に含有される前記ビニルモノマー(B)と前記ビニルモノマー(A)とのモル比は、100:0〜60:40であるのが好ましい。
【0039】
前記ビニルモノマー(A)および前記ビニルモノマー(B)は各々、1種類を単独で用いても、2種類以上を用いてもよい。前記ビニルモノマー(A)および前記ビニルモノマー(B)は、種々の目的(例えば、酸含量調節やガラス転移点(Tg)の調節、有機溶剤や水への溶解性調節、分散物安定性の調節)に応じて選択される。
【0040】
前記親水性の官能基の含有量は前記ブロック共重合体の全体に対して0.05〜5.0mmol/gであるのが好ましく、0.1〜4.5mmol/gであるのがさらに好ましく、0.15〜3.5mmol/gであるのが特に好ましい。前記親水性の官能基の含有量が少なすぎると分散適性が小さくなる場合があり、多すぎると水溶性が高くなりすぎたり、有機無機複合組成物がゲル化したりする場合がある。尚、前記ブロック共重合体において、前記官能基はアルカリ金属イオン(例えば、Na+、K+など)またはアンモニウムイオンなどカチオン性のイオンと塩を形成していてもよい。
【0041】
前記ブロック共重合体の分子量(Mn)としては、1000〜100000が好ましく、2000〜80000であることがより好ましく、3000〜50000であることが特に好ましい。ブロック共重合体の分子量が1000より小さい場合、安定な分散物を得るのが難しくなる傾向にあり、100000より大きい場合、有機溶剤への溶解性が悪くなったり、溶解はしても、該溶液の粘度が増加して分散し難くなる傾向にあるので好ましくない。
【0042】
前記ブロック共重合体の具体例(例示化合物P−1〜P−20)を以下に列挙する。なお、本発明の熱可塑性樹脂がブロック共重合体である場合に用いられるブロック共重合体は、これらの具体例に何ら限定されるものではない。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
前記ブロック共重合体は、必要に応じてカルボキシル基などを保護したり、ポリマーに官能基を導入する手法を用いてリビングラジカル重合およびリビングイオン重合を利用して合成することができる。また、末端官能基ポリマーからのラジカル重合および末端官能基ポリマー同士の連結によって合成することができる。中でも、分子量制御やブロック共重合体の収率の点から、リビングラジカル重合およびリビングイオン重合を利用するのが好ましい。前記ブロック共重合体の製造方法については、例えば、「高分子の合成と反応(1)(高分子学会編、共立出版(株)発行(1992))」、「精密重合(日本化学会編、学会出版センター発行(1993))」、「高分子の合成・反応(1)(高分子学会編、共立出版(株)発行(1995))」、「テレケリックポリマー:合成と性質、応用(R.Jerome他、Prog.Polym.Sci.Vol16.837−906頁(1991))」、「光によるブロック,グラフト共重合体の合成(Y.Yagch他、Prog.Polym.Sci.Vol15.551−601頁(1990))」、米国特許5085698号明細書などに記載されている。
【0046】
本発明の有機無機複合組成物を製造する際には、上記の熱可塑性樹脂の1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上を混合して用いる場合は、混合後の樹脂混合物が上記で挙げた光学物性、熱物性、分子量の条件を満たすことが好ましい。また、ブロック共重合体ではない樹脂と、前記ブロック共重合体の熱可塑性樹脂を混合して使用してもよい。ブロック共重合体ではない樹脂の種類に特に制限はないが、上記で挙げた光学物性、熱物性、分子量を満たすものが好ましい。
【0047】
次にブロック共重合体の製造方法の例を示す。但し、前記ブロック共重合体は以下の合成例によって製造されたものに限定されるものではない。
【0048】
<合成例>
tert−ブチルアクリレート12.8g、2−ブロモプロピオン酸メチルエステル0.56g、臭化銅(I)0.24g、N,N,N',N',N",N"−ペンタメチルジエチレンテトラミン0.29g、メチルエチルケトン4mlからなる混合液を調製し、窒素置換する。油浴温度80℃で3時間攪拌し、スチレン91.0g、メチルエチルケトン35mlの混合液を窒素気流下添加する。油浴温度90℃で20時間攪拌し、室温に戻してからアセトン100ml、アルミナ30gを加え30分攪拌する。この反応液をろ過し、濾液を過剰のメタノールに滴下する。生じる沈殿を濾取、メタノール洗浄、乾燥し、ブロック共重合体P−1を74g得ることができる。
【0049】
[酸化物粒子]
本発明で用いられる酸化物粒子は、後述の表面修飾剤によって修飾されており、かつ、表面修飾後の酸化物粒子の吸水率が8%以下であることを特徴とする。
表面修飾後の酸化物粒子の吸水率は7%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。
【0050】
本発明において用いる酸化物粒子としては、具体的には、例えば、酸化チタン微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、酸化錫微粒子、硫化亜鉛微粒子等を挙げることができ、好ましくは酸化チタン微粒子、酸化ジルコニウム硫化亜鉛微粒子であり、より好ましくは酸化チタン微粒子、および/または酸化ジルコニウム微粒子であるが、これらに限定されるものではない。本発明では、1種類の酸化物粒子を単独で用いてもよいし、複数種の酸化物粒子を併用してもよい。
【0051】
本発明において用いる酸化物粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。ハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物粒子を得ることができる。
具体的には、酸化チタンナノ粒子の合成には硫酸チタニルが例示され、酸化亜鉛ナノ粒子の合成には酢酸亜鉛や硝酸亜鉛等の亜鉛塩が例示される。テトラエトキシシランやチタニウムテトライソプロポキサイド等の金属アルコキシド類も酸化物粒子の原料として好適である。このような酸化物粒子の合成方法としては、例えば、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス第37巻4603〜4608頁(1998年)、あるいは、ラングミュア第16巻第1号241〜246頁(2000年)に記載の公知の方法を用いることができる。
【0052】
特にゾル生成法により酸化物ナノ粒子を合成する場合においては、例えば硫酸チタニルを原料として用いる酸化チタンナノ粒子の合成のように、水酸化物等の前駆体を経由し次いで酸やアルカリによりこれを脱水縮合または解膠してヒドロゾルを生成させる手順も可能である。かかる前駆体を経由する手順では、該前駆体を、濾過や遠心分離等の任意の方法で単離精製することが最終製品の純度の点で好適である。得られたヒドロゾルにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称DBS)やジアルキルスルホスクシネートモノナトリウム塩(三洋化成工業(株)製、商標名「エレミノールJS−2」)等の適当な界面活性剤を加えて、ゾル粒子を非水溶化させて単離してもよい。例えば、「色材」57巻6号,305〜308(1984)に記載の公知の方法を用いることができる。
【0053】
酸化ジルコニウム微粒子の合成原料としては、硫酸ジルコニルが例示される。ジルコニウムテトライソプロポキサイド等の金属アルコキシド類も原料として好適に使用可能である。
【0054】
また、水中で加水分解させる方法以外には有機溶媒中や本発明における樹脂が溶解した有機溶媒中で酸化物粒子を作製してもよい。
これらの方法に用いられる溶媒としては、アセトン、2−ブタノン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、アニソール、酢酸エチル、酢酸ブチル等が例として挙げられる。これらは、1種類を単独で使用してもよく、また複数種を混合して使用してもよい。
【0055】
本発明で用いられる酸化物粒子の数平均粒子サイズは1nm〜15nmである。酸化物粒子の数平均粒子径が1nm未満であると該酸化物粒子を構成する物質固有の特性が変化する場合があり、逆に数平均粒子径15nmを超えるとレイリー散乱の影響が顕著となり、有機無機複合組成物の透明性が極端に低下する場合がある。本発明で用いられる酸化物粒子の数平均粒子サイズの下限値は、好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、上限値は好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。すなわち、本発明における酸化物粒子の数平均粒子サイズとしては、2nm〜10nmが好ましく、3nm〜5nmがさらに好ましい。
ここで、上述の数平均粒子サイズは、例えばX線回折(XRD)または透過型電子顕微鏡(TEM)で測定された値である。
【0056】
本発明で用いられる酸化物粒子の屈折率の範囲は、1.90〜3.00であることが好ましく、1.90〜2.70であることがより好ましく、2.00〜2.70であることがさらに好ましい。屈折率が1.90以上である酸化物粒子を用いれば屈折率が1.80より大きい有機無機複合組成物を作製しやすくなり、屈折率が3.00以下の酸化物粒子を用いれば透過率が80%以上の有機無機複合組成物を作製しやすい傾向がある。
【0057】
前記酸化物粒子の本発明における有機無機複合組成物中樹脂中の含有量は、屈折率向上の点から、10〜90質量%が好ましく、20〜80質量%がさらに好ましく、30〜80質量%が特に好ましい。
【0058】
[表面修飾剤]
本発明では、酸化物粒子を熱可塑性樹脂と混合する際に、熱可塑性樹脂への均一分散性を高める目的、酸化物粒子の吸水性を下げる目的で酸化物粒子を表面修飾する表面修飾剤を添加する。本発明において表面修飾剤は、熱可塑性樹脂とは異種の化合物である。
【0059】
酸化物粒子への表面修飾剤の修飾方法は、イオン結合もしくは配位結合、または共有結合等を挙げることができるが、修飾方法とこれに使用する有機物の分子構造に制限はない。
【0060】
酸化物粒子にイオン結合もしくは配位結合で修飾する表面修飾剤としては、各種親水性官能基を有する化合物を挙げることができ、具体的にはチオールやスルホン酸類等の硫黄含有有機化合物;ホスフィンやホスフィンオキシド、ホスホン酸、リン酸エステル等を有するリン含有有機化合物;アルキルアミンや芳香族アミン等を有する窒素含有有機化合物;カルボン酸類を有する有機化合物が挙げられる。
【0061】
また、酸化物粒子を共有結合で修飾する表面修飾剤の具体例としては、シリカ、アルミナ、チタニア等の酸化物の表面修飾に従来使用されているシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤やアルミニウム系カップリング剤等の活性官能基である金属アルコキシド基や、比較的マイルドな条件で金属酸化物表面と共有結合を形成することが知られているホスホン酸やホスホン酸エステルといったホスホン酸誘導体が挙げられる。
【0062】
前記表面修飾剤としては、特に高屈折率化の観点から芳香族基を有するカルボン酸であることが好ましい。前記芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ヘテロ環基などを挙げることができ、フェニル基またはナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。前記カルボン酸としてはモノカルボン酸であっても、複数のカルボキシル基を有していてもよいが、モノカルボン酸またはジカルボン酸であることが好ましく、モノカルボン酸であることがより好ましい。
【0063】
さらに、前記表面修飾剤の化学構造は、相溶性の観点から熱可塑性樹脂の化学構造の一部と同一または類似であることが好ましい。すなわち、本発明では前記熱可塑性樹脂とともに前記表面修飾剤の化学構造が芳香環を有していることが好ましく、芳香環以外の構造も前記熱可塑性樹脂と前記表面修飾剤で同一または類似であることがより好ましい。
【0064】
前記表面修飾剤としては、下記一般式(1)で表される構造で表されるものがより好ましい。
一般式(1)
【化6】

[式中、R1は水素原子、置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、R2は置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、nは0〜4のいずれかの整数を表し、Lは単結合、あるいは、置換または無置換のアルキレン基からなる連結基を表す。]
【0065】
一般式(1)中、R1は水素原子、アルキル基、アリール基からなる群から選択される置換基を表し、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、もしくは炭素数6〜10のアリール基であることが好ましく、水素原子、プロピル基、もしくはフェニル基であることがより好ましい。R1が有していてもよい置換基の例としては、アルキル基、アリール基であることが好ましく、アリール基であることがより好ましい。
【0066】
一般式(1)中、R2はアリール基を表し、炭素数6〜10のアリール基であることが好ましく、フェニル基であることがより好ましい。R1が有していてもよい置換基の例としては、アルキル基、アリール基であることが好ましく、アリール基であることがより好ましい。
【0067】
一般式(1)中、nは0〜4を表し、0〜2であることが好ましく、0または1であることがより好ましい。
【0068】
一般式(1)中、Lは単結合、置換または無置換のアルキレン基からなる群から選択される連結基を表し、単結合、または炭素数1の置換もしくは無置換のアルキレン基が好ましく、単結合または置換メチレン基であることがより好ましい。Lが有していてもよい置換基の例としては、アルキル基、アリール基であることが好ましく、アリール基であることがより好ましい。
【0069】
本発明で好ましく用いられる表面修飾剤の例としては例えば、p−オクチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、酢酸、プロピオン酸、シクロペンタンカルボン酸、燐酸ジベンジル、燐酸モノベンジル、燐酸ジフェニル、燐酸ジ-α-ナフチル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸モノフェニルエステル、KAYAMER PM−21(商品名;日本化薬社製)、KAYAMER PM−2(商品名;日本化薬社製)、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、パラオクチルベンゼンスルホン酸、4−n−プロピル安息香酸、ジフェニル酢酸、4−フェニル安息香酸あるいは特開平5−221640号、特開平9−100111号、特開2002−187921号各公報記載のシランカップリング剤などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、これらの表面修飾剤は1種類を単独で用いてもよく、また複数種を併用しても良い。
本発明で特に好ましく用いられる表面修飾剤としては、4−n−プロピル安息香酸、ジフェニル酢酸、4−フェニル安息香酸、またはこれら2つ以上の混合物を挙げることができる。
【0070】
本発明の表面修飾剤が化学結合で修飾する場合は、酸化物粒子表面の被覆率を高める観点から、前記酸化物粒子の表面に単分子吸着していることが好ましい。
本明細書中において、単分子吸着とは、酸化物粒子と表面修飾剤の親水性基とが直接化学結合で結合していることをいう。
【0071】
本発明の表面修飾剤の酸化物粒子の表面被覆率は、10〜100%であることが好ましく、20〜100%であることがより好ましく、100%であることが最も好ましい。
本明細書中において、酸化物粒子の表面被覆率とは、単分子膜を形成している状態を100%とした場合の膜の状態を表し、例えば0.7分子膜であれば70%となる。
【0072】
このように表面修飾剤が酸化物粒子表面に単分子吸着している場合の、酸化物粒子表面の状態については、「初歩から学ぶフィラー活用技術(相馬勲・永田員也・野村学共著、(株)工業調査会発行(2003年))」に詳細が記載されている。例えば、0.7分子膜や単分子膜までの表面修飾剤は、化学結合した表面修飾剤の隙間を埋めるように存在しており、表面修飾剤が酸化物粒子表面に化学結合を形成している。また、酸化物粒子表面の水酸基との水素結合や、隣接する表面修飾剤分子同士で疎水相互作用もしている。一方、それ以上の2分子膜や3分子膜等では表面修飾剤は結晶化して、表面修飾された酸化物粒子表面に存在する。
【0073】
酸化物粒子と表面修飾剤とが単分子吸着していることを確認する方法としては、酸化物粒子に対して様々な割合の表面修飾剤で表面修飾した試料を準備し、それぞれ窒素気流下での熱天秤(TG)測定する方法が挙げられる。表面修飾剤単独で加熱した場合は昇華による減量が該表面修飾剤特有の温度から認められるが、単分子膜や0.7分子膜等では表面修飾剤の昇華温度では減量が認められず、それよりも明らかに高い温度から1減量が始まり1段階で減量は終了する。これに対し、単分子膜を超える2分子膜や3分子膜等では単分子膜以上の表面修飾剤が昇華温度で一度減量が認められ、さらに単分子膜で減量が始まる温度から2段階目の減量が始まる。すなわち、熱天秤(TG)測定において多段階で減量が認められる場合は単分子膜を超えており、昇華温度以上の温度で減量が始まり1段階で終わる場合は単分子膜以下であることが確認できる。
一方、全く単分子吸着せずに酸化物粒子と表面修飾剤が存在している状態を物理混合と呼ぶが、物理混合の状態であれば前記2分子膜や3分子膜で減量が始まる温度よりも、さらに低い温度で表面修飾剤は昇華してしまう。そのため、物理混合状態と、単分子吸着している状態についても区別が容易に可能である。
したがって、複数の質量比で調整した試料を比較することで、ちょうど単分子膜を形成しているような表面修飾剤の酸化物粒子に対する質量比を求めることができる。
【0074】
本発明においては、酸化物粒子と表面修飾剤とを単分子吸着させるようにあらかじめ原料の混合比を計算により求めておき、調製することが好ましい。
あらかじめ表面修飾剤1分子当たりの吸着サイトの表面積、および球状であると想定した1モルの酸化物粒子の総表面積をそれぞれ計算により求め、酸化物粒子の総表面積を表面修飾剤1分子当たりの吸着サイトの表面積で除すると表面修飾剤の飽和吸着量(分子数)の理論値を得ることができる。このようにして得られた理論飽和吸着分子数は、公知のアボガドロ数を用いて物質量に換算することができ、最終的に1モルの酸化物粒子に対して何モルの表面修飾剤を加えれば単分子膜を形成できるかを計算で求めることができる。また、物質量比は質量比に換算しておくことが好ましい。
【0075】
これら表面修飾剤の添加量の総量は酸化物粒子に対して、質量換算で、0.01〜2倍であることが好ましく、0.03〜1倍であることがより好ましく、0.05〜0.5倍であることが特に好ましく、前述の計算により求めた特定の表面処理剤と酸化物粒子の組み合わせにおける最適の配合比率とすることが最も好ましい。
【0076】
前記表面修飾剤の重量平均分子量は50〜50000であることが好ましく、より好ましくは100〜20000、さらに好ましくは120〜15,000である。
【0077】
本発明の表面修飾剤による前記酸化物粒子表面の被覆率は、10〜100%であることが好ましく、20〜100%であることがより好ましい。
【0078】
<表面修飾法>
本発明では、有機無機複合組成物の製造の際に酸化物粒子を前記表面修飾剤で表面修飾することが必要となる。表面修飾法としては、表面修飾剤を溶解させることができる溶媒中で酸化物粒子の表面を表面修飾剤により修飾する。また、混合の方法は特に制限されない。
【0079】
前記溶媒としては、有機溶媒であればその種類は特に制限されない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、アニソール等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル2−ピロリドン(NMP)等のアミド類、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン系炭化水素類を用いることができる。
これらの中でも、メタノール、エタノール、1−ブタノール、イソプロパノール、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエン、アニソール、N−メチル−2−ピロリドン、、酢酸エチル、酢酸ブチルまたはこれら2以上の混合物が好ましく、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチルがより好ましい。これらの分散媒は、1種類を単独で用いてもよく、また複数種を併用してもよい。
【0080】
前記表面修飾法において、上記の溶媒中に表面修飾剤と酸化物粒子を混合する方法として以下の2通りの方法を好ましく用いることができる。
(1)酸化物粒子の分散物を調製する際に、一緒に表面修飾剤を混入させておく方法。すなわち、前記表面修飾を熱可塑性樹脂の不存在下で行い、その後、表面修飾を行った酸化物粒子と熱可塑性樹脂を混合して有機無機複合組成物を得る方法。
(2)酸化物粒子分散物と樹脂を混合する際に、一緒に表面修飾剤を混入させておく方法。すなわち、前記表面修飾を熱可塑性樹脂の存在下で行って、有機無機複合組成物を得る方法。
【0081】
一方、表面修飾剤を酸化物粒子表面に単分子吸着させる方法としては、原料の酸化物粒子と表面修飾剤の物質量比(モル比)を特定の範囲として、分散液を調製する方法が挙げられる。
本発明において、表面修飾剤を酸化物粒子表面に単分子吸着させる表面修飾法としては、前記(1)および(2)の方法のどちらも好ましく用いることができるが、より高い(100%に近い) の表面修飾剤の単分子膜を得る観点から、あらかじめ酸化物粒子表面を表面修飾することができる(1)の方法をより好ましく用いられる。
【0082】
[添加剤]
本発明においては上記熱可塑性樹脂、酸化物粒子および表面修飾剤以外に均一分散性、成形時の流動性、離型性、耐候性等観点から適宜各種添加剤を配合しても良い。例えば、可塑化剤、帯電防止剤、分散剤、離型剤等を挙げることができる。
これら添加剤の配合割合は目的に応じて異なるが、前記酸化物粒子および熱可塑性樹脂を足しあわせた量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜30質量%であることがよりこのましく、0〜20質量%であることが特に好ましい。
【0083】
<可塑化剤>
本発明における熱可塑性樹脂のガラス転移温度が高い場合、有機無機複合組成物の成形が必ずしも容易ではないことがある。このため、本発明の有機無機複合組成物の成形温度を下げるために可塑剤を使用してもよい。可塑化剤を添加する場合の添加量は、有機無機複合組成物の総量の1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜20質量%であることが特に好ましい。
本発明で使用できる可塑剤は樹脂との相溶性、耐候性、可塑化効果などトータルで考える必要があり、最適な可塑剤は他の材料に依存するため一概には言えないが、屈折率の観点からは芳香環を有するものが好ましく、代表的な例として下記一般式(2)で表される構造を有するものを挙げることができる。
【0084】
【化7】

(式中、B1およびB2は炭素数6〜18のアルキル基またはアリールアルキル基を表し、mは0または1を表す。Xは、下記の2価の結合基のうちいずれかを表す。)
【化8】

(式中、R31およびR32はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0085】
また、一般式(2)で表される化合物において、B1,B2は炭素数6〜18の範囲内において任意のアルキル基またはアリールアルキル基を選ぶことができる。炭素数が6未満では、分子量が低すぎてポリマーの溶融温度で沸騰し、気泡を生じたりする場合がある。また、炭素数が18を超えると、ポリマーとの相溶性が悪くなる場合があり添加効果が不十分となることがある。
【0086】
前記B1,B2としては、具体的に、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の直鎖アルキル基や、2−ヘキシルデシル基、メチル分岐オクタデシル基等の分岐アルキル基、またはベンジル基、2−フェニルエチル基等のアリールアルキル基が挙げられる。また、前記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、次に示すものが挙げられ、中でも、W−1(花王株式会社製の商品名「KP−L155」)が好ましい。
【0087】
【化9】

【0088】
<帯電防止剤>
本発明の有機無機複合組成物の帯電圧を調節するために、帯電防止剤を添加することができる。本発明の有機無機複合組成物では、光学特性改良の目的で添加した酸化物粒子自体が別の効果である帯電防止効果にも寄与する場合がある。帯電防止剤を添加する場合には、アニオン性帯電防止剤、カチオン性帯防止剤、ノ二オン性帯電防止剤、両性イオン性帯電防止剤、高分子帯電防止剤、あるいは帯電性微粒子などが挙げられ、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの例としては、特開2007−4131号公報、特開2003−201396号公報に記載された化合物を挙げることができる。
帯電防止剤の添加量はまちまちであるが、全固形分の0.001〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜30質量%であり、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0089】
<その他の添加剤>
上記成分以外に、成形性を改良する目的で変性シリコーンオイル等の公知の離型剤を添加したり、耐光性や熱劣化を改良する目的で、ヒンダードフェノール系、アミン系、リン系、チオエーテル系等の公知の劣化防止剤を適宜添加しても良く、これらを配合する場合には有機無機複合組成物の全固形分に対して0.1〜5質量%程度が好ましい。
【0090】
[有機無機複合組成物の製造方法]
本発明の有機無機複合組成物は、熱可塑性樹脂、酸化物粒子、表面修飾剤等の成分を混合することにより製造することができる。
有機無機複合組成物の好ましい製造方法としては、(1´)無機粒子を上記表面修飾剤の存在下にて表面修飾し、表面修飾された酸化物粒子を有機溶媒中に抽出し、抽出した該酸化物粒子を前記熱可塑性樹脂と均一混合して酸化物粒子と熱可塑性樹脂の複合組成物を製造する方法、(2´)酸化物粒子と熱可塑性樹脂の両者を均一に分散あるいは溶解できる溶媒を用いて両者を均一混合して、その後表面修飾剤を添加して、表面修飾された酸化物粒子と熱可塑性樹脂の有機無機複合組成物を製造する方法、が挙げられる。
本発明に用いられる酸化物粒子は粒子サイズが比較的小さく、表面エネルギーが高いため、固体で単離すると再分散させることが難しい。よって、酸化物粒子は溶液中に分散された状態で上記熱可塑性樹脂と混合し安定分散物とすることが好ましい。
【0091】
上記(1´)の手法によって酸化物粒子と熱可塑性樹脂の複合組成物を製造する場合には、有機溶媒としてトルエン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性の溶媒が用いられる。また、この他、前記表面修飾法の説明において例示した有機溶媒も好ましく用いられる。酸化物粒子の有機溶剤への抽出に用いられる表面修飾剤と前記熱可塑性樹脂は異種のものであり、好ましく用いられる表面修飾剤については、前記の表面修飾剤が挙げられる。
有機溶媒中に抽出された酸化物粒子と熱可塑性樹脂を混合する際に、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマー等の添加剤を必要に応じて添加しても良い。
【0092】
上記(2´)の場合には、溶剤として、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシー2−プロパノール、t−ブタノール、酢酸、プロピオン酸等の親水的な極性溶媒の単独または混合溶媒、あるいはクロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、クロロベンゼン、メトキシベンゼン等の非水溶性溶媒と上記極性溶媒との混合溶媒が好ましく用いられる。また、この他、前記表面修飾法の説明において例示した有機溶媒も好ましく用いられる。この際、前述の熱可塑性樹脂とは別に分散剤、可塑化剤、離型剤、あるいは別種のポリマーを必要に応じて添加しても良い。水/メタノールに分散された酸化物粒子を用いる際には、水/メタノールより高沸点で熱可塑性樹脂を溶解する親水的な溶媒を添加した後、水/メタノールを濃縮留去することによって、酸化物粒子の分散液を極性有機溶媒に置換した後、熱可塑性樹脂と混合することが好ましい。この際に前記表面修飾剤を添加する。
【0093】
[成形体の製造方法]
上記(1)、(2)の方法によって得られた有機無機複合組成物の溶液は、そのままキャスト成形して透明成形体を得ることもできるが、本発明では特に、該溶液を濃縮、凍結乾燥、あるいは適当な貧溶媒から再沈澱させる等の手法により溶剤を除去した後、粉体化した固形分を射出成形、圧縮成形等の公知の手法によって成形することが好ましい。またこの際、本発明の粉状の有機無機複合組成物を直接加熱溶融あるいは圧縮などによりレンズ等の成形体に加工することもできるが、いったん押し出し法などの手法で、一定の重さ、形状を有するプリフォーム(前駆体)を作成した後、該プリフォームを圧縮成形で変形させてレンズ等の光学部品を作成することもできる。この場合目的の形状を効率的に作成するために、プリフォームに適当な曲率をもたせることもできる。
【0094】
上記有機無機複合組成物をマスターバッチとして他の樹脂に混合して用いても良い。
【0095】
[光学部品]
上述の本発明の有機無機複合組成物を成形することにより、本発明の光学部品を製造することができる。本発明の光学部品は、有機無機複合組成物の説明で前記した屈折率や光学特性を示すものが有用である。
また本発明の光学部品としては、最大0.1mm以上の厚みを有する高屈折率の光学部品が特に有用である。好ましくは0.1〜5mmの厚みを有する光学部品への適用であり、特に好ましくは1〜3mmの厚みを有する透明物品への適用である。
これらの厚い成形体は溶液キャスト法での製造では、溶剤が抜けにくく通常容易ではないが、本発明の有機無機複合組成物を用いることにより、成形が容易で非球面などの複雑な形状も容易に付与することができ、酸化物粒子の高い屈折率特性を利用しながら良好な透明性を有する光学部品とすることができる。
【0096】
本発明の有機無機複合組成物を利用した光学部品は、本発明の有機無機複合組成物の優れた光学特性を利用した光学部品であれば特に限定はないが、例えば、レンズ基材や、特に光を透過する光学部品(いわゆるパッシブ光学部品)に使用することも可能である。かかる光学部品を備えた機能装置としては、各種ディスプレイ装置(液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等)、各種プロジェクタ装置(OHP、液晶プロジェクタ等)、光ファイバー通信装置(光導波路、光増幅器等)、カメラやビデオ等の撮影装置等が例示される。かかる光学機能装置における前記パッシブ光学部品としては、レンズ、プリズム、プリズムシート、パネル、フィルム、光導波路、光ディスク、LEDの封止剤等が例示される。
【0097】
[レンズ]
本発明の有機無機複合組成物を用いた光学部品は、特にレンズ基材に好適である。本発明の有機無機複合組成物を用いて製造されたレンズ基材は、光線透過性、軽量性を併せ持ち、光学特性に優れている。また、有機無機複合組成物を構成するモノマーの種類や分散させる酸化物粒子の量を適宜調節することにより、レンズ基材の屈折率を任意に調節することが可能である。
本発明における「レンズ基材」とは、レンズ機能を発揮することができる単一部材を意味する。レンズ基材の表面や周囲には、レンズの使用環境や用途に応じて膜や部材を設けることができる。例えば、レンズ基材の表面には、保護膜、反射防止膜、ハードコート膜等を形成することができる。また、レンズ基材の周囲を基材保持枠などに嵌入して固定することもできる。ただし、これらの膜や枠などは、本発明でいうレンズ基材に付加される部材であり、本発明でいうレンズ基材そのものとは区別される。
【0098】
本発明におけるレンズ基材をレンズとして利用するに際しては、本発明のレンズ基材そのものを単独でレンズとして用いてもよいし、前記のように膜や枠などを付加してレンズとして用いてもよい。本発明のレンズ基材を用いたレンズの種類や形状は、特に制限されない。本発明のレンズ基材は、例えば、眼鏡レンズ、光学機器用レンズ、オプトエレクトロニクス用レンズ、レーザー用レンズ、ピックアップ用レンズ、撮像レンズ(車載カメラ用レンズ、携帯カメラ用レンズ、デジタルカメラ用レンズ等;ズームレンズや、正/負のパワーレンズなど各種公知の撮像レンズを含む)、OHP用レンズ、マイクロレンズアレイ等)に使用される。
【実施例】
【0099】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0100】
[分析および評価方法]
本実施例において、各分析および評価方法は、下記の手段でおこなった。
【0101】
(1)吸水率測定
吸水率はカールフィッシャー法(水分気化法、サンプル加熱150℃)にて得た値である。具体的な方法としては、試料を窒素気流中で90℃、3時間乾燥後、さらに空気中で90℃、12時間乾燥を行い、その後、調湿処理(25℃、相対湿度80%下で24時間調湿)のあと、吸水率測定を実施した。
【0102】
(2)酸化物粒子の表面被覆率測定
「初歩から学ぶフィラー活用技術(相馬勲・永田員也・野村学共著、(株)工業調査会発行(2003年))」に記載の方法に従って、表面修飾後の酸化物粒子の表面被覆率を測定した。具体的な方法としては、表面修飾後の酸化物粒子を窒素気流中で90℃、3時間乾燥後、さらに空気中で90℃、12時間乾燥を行い、その後、熱重量示差熱分析(TG−DTA)測定を行った。
【0103】
(3)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
日立製作所(株)社製「H−9000UHR型透過型電子顕微鏡」(加速電圧200kV、観察時の真空度約7.6×10-9Pa)にて行った。
【0104】
(4)光線透過率測定
測定する樹脂を成形して厚さ1.0mmの基板を作製し、紫外可視吸収スペクトル測定用装置「UV−3100」((株)島津製作所製)で測定した。
【0105】
(5)屈折率測定
アッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M4」)にて、波長589nmの光について行った。
【0106】
(6)X線回折(XRD)スペクトル測定
リガク(株)製「RINT1500」(X線源:銅Kα線、波長1.5418Å)を用いて、23℃で測定した。
【0107】
[有機無機複合組成物の材料の合成]
[実施例101]
(1−1)単分子膜形成のための酸化ジルコニウムと4−n−プロピル安息香酸の混合比の計算
4−n−プロピル安息香酸の吸着サイトの表面積を計算により、0.26nm2と求めた。また、酸化ジルコニウム粒子のBET値は170m2/gであり、分子量123.22gであることから吸着しうる総評面積を2.09×1042と求めた。これらの値とアボガドロ定数より、酸化ジルコニウム粒子1モルに吸着する4−n−プロピル安息香酸の物質量を0.13モルと求めた。その後、両者を質量換算することにより、単分子膜を形成する最適混合比を100:18(質量比)とした。
【0108】
(1−2)酸化ジルコニウム微粒子の合成
50g/lの濃度のオキシ塩化ジルコニウム溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水和ジルコニウム分散液を得た。この分散液をろ過した後、イオン交換水で洗浄し、水和ジルコニウムケーキを得た。このケーキを、イオン交換水で溶媒として酸化ジルコニウム換算で濃度15質量%に調整して、オートクレーブに入れ、圧力150気圧、150℃で24時間水熱処理して酸化ジルコニウム微粒子分散液を得た。TEMより数平均粒子サイズが3〜5nmの酸化ジルコニウム微粒子の生成を確認した。このジルコニウム微粒子分散液をろ過したのち、メタノールを溶媒とした酸化ジルコニウム換算で濃度10質量%の酸化ジルコニウム微粒子分散液を得た。
【0109】
(1−3)酸化ジルコニウム微粒子のDMAc分散液の作製
N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)500.00g中に、4−n−プロピル安息香酸を溶解させた。これをあらかじめ準備していた450.00gの酸化ジルコニウム微粒子分散液中に添加し、十分攪拌した。つまり、この表面修飾剤溶液と(1−2)で合成した酸化ジルコニウム微粒子分散液とを表3に示した質量比となるよう混合後、メタノールをエバポレーションによって蒸発させ、酸化ジルコニウム微粒子のDMAc分散液を作製した。
【0110】
(1−4)有機無機複合組成物の作成
熱可塑性樹脂である例示化合物P−9のDMAc溶液に、(1−3)でDMAcに分散させた酸化ジルコニウム微粒子分散液を5分かけて滴下し、これを1時間攪拌した後、溶媒を除去することにより、有機無機複合組成物を得た。酸化ジルコニウム微粒子分散液の滴下量は、酸化ジルコニウム粒子換算で樹脂の固形分と同じになる量とした。
【0111】
[実施例102〜104、106]
表1に示す酸化物粒子、表面処理剤、および酸化ジルコニウム微粒子と表面処理剤の質量比を採用して、実施例101と同じプロセスにより各有機無機複合組成物を得た。
なお、実施例104で用いた酸化チタン微粒子は、特開2003−73559号公報の合成例9の記載に従って合成した。XRDとTEMより、アナタ―ゼ型酸化チタン微粒子(数平均粒子サイズは約5nm)の生成を確認した。
【0112】
[実施例105]
実施例101の(1−2)に記載の方法で、ジルコニウム微粒子分散液をろ過したのち、メタノールを溶媒とした酸化ジルコニウム換算で濃度10質量%の酸化ジルコニウム微粒子分散液を得た。一定量の酸化ジルコニウム微粒子分散液をとり、ここにDMAcをメタノールと同じ量のみ添加して、エバポレーションを行った。メタノールを蒸発させ、酸化ジルコニウム微粒子のDMAc分散液を作製した。
このあと、DMAcに分散させた酸化ジルコニウム微粒子分散液を、熱可塑性樹脂である例示化合物P−9と表面処理剤を溶解させたDMAc溶液中に、5分かけて滴下し、これを1時間攪拌した後、溶媒を除去することにより、有機無機複合組成物を得た。酸化ジルコニウム微粒子分散液の滴下量は、酸化ジルコニウム粒子換算で樹脂の固形分と同じになる量とした。
【0113】
[比較例101〜104]
実施例101の(1−2)に記載の方法で、ジルコニウム微粒子分散液をろ過したのち、メタノールを溶媒とした酸化ジルコニウム換算で濃度10質量%の酸化ジルコニウム微粒子分散液を得た。
450.00gの酸化ジルコニウム微粒子分散液をとり、ここにあらかじめ表3に示した表面処理剤を表3に記載の量だけとって500.00gのDMAcに溶解させたあと混合した。このDMAc/メタノール混合溶液をエバポレーション処理を行って、メタノールを蒸発させ、表面処理された酸化ジルコニウム微粒子のDMAc分散液を作製した。
その後は実施例101と同じプロセスにより有機無機複合組成物を得た。
【0114】
[比較例105]
実施例101の(1−2)に記載の方法で、ジルコニウム微粒子分散液をろ過したのち、メタノールを溶媒とした酸化ジルコニウム換算で濃度10質量%の酸化ジルコニウム微粒子分散液を得た。これを完全に溶剤を蒸発させて酸化ジルコニウムの乾燥粉末を得た。これに同量となるように熱可塑性樹脂である例示化合物P−9の固体と、表面処理剤を混合させた。
【0115】
[試験例1]
(吸水率)
実施例101〜106、比較例101〜105でそれぞれ得られた表面修飾後の酸化物粒子の吸水率、および有機無機複合組成物の吸水率を前述の方法により測定した。その結果を下記表3に示す。
【0116】
(酸化物粒子表面の被覆率)
実施例101〜106、比較例101〜105でそれぞれ得られた表面修飾後の酸化物粒子表面の被覆率を前述の方法により測定した。その結果を下記表3に示す。
【0117】
【表3】

【0118】
実施例の分散剤を最適な被覆率となるように表面修飾した無機粒子を用いることにより、表面修飾粒子そのものでの吸水率を8%以下に抑えることができた。この結果、熱可塑性樹脂やその他の添加剤との混合プロセスを経て得た有機無機複合組成物の吸水率を2%以下に抑えることができ、吸水率の低いレンズ基材を作製することができた。
また、実施例101〜106の有機無機複合組成物を光学部品に成形した場合に、屈折率が1.65以上で透明性が良好な光学部品が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と粒子サイズ1〜15nmの酸化物粒子を含有する有機無機複合組成物であって、
前記酸化物粒子の表面が表面修飾剤で修飾されており、かつ、表面修飾後の前記酸化物粒子の吸水率が8%以下であることを特徴とする有機無機複合組成物。
【請求項2】
前記酸化物粒子が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の有機無機複合組成物。
【請求項3】
前記表面修飾剤が、芳香族基を有するカルボン酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機無機複合組成物。
【請求項4】
前記表面修飾剤が、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする請求項3に記載の有機無機複合組成物。
一般式(1)
【化1】

[式中、R1は水素原子、置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、R2は置換または無置換のアルキル基、あるいは、置換または無置換のアリール基を表し、nは0〜4のいずれかの整数を表し、Lは単結合、あるいは、置換または無置換のアルキレン基からなる連結基を表す。]
【請求項5】
前記芳香族カルボン酸が、4−n−プロピル安息香酸、ジフェニル酢酸、4−フェニル安息香酸、またはこれら2つ以上の混合物であることを特徴とする請求項3または4に記載の有機無機複合組成物。
【請求項6】
前記表面修飾剤が前記酸化物粒子の表面に単分子吸着していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項7】
前記表面修飾剤による酸化物粒子の表面被覆率が10〜100%であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項8】
前記有機無機複合組成物の吸水率が2%以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物の製造方法であって、
表面修飾剤を溶解させることができる溶媒中で、酸化物粒子の表面を前記表面修飾剤により修飾する工程を含むことを特徴とする有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒が、メタノール、エタノール、1−ブタノール、イソプロパノール、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエン、アニソール、N−メチル−2−ピロリドン、酢酸エチル、酢酸ブチルまたはこれら2以上の混合物であることを特徴とする請求項9に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項11】
前記表面修飾を熱可塑性樹脂の不存在下で行うことを特徴とする請求項9または10に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項12】
前記表面修飾を行った酸化物粒子と前記熱可塑性樹脂とを混合することを特徴とする請求項11に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項13】
前記表面修飾を熱可塑性樹脂の存在下で行うことを特徴とする請求項9または10に記載の有機無機複合組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物を成形した成形体。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機無機複合組成物を含んで構成される光学部品。
【請求項16】
前記光学部品がレンズ基材であることを特徴とする請求項15に記載の光学部品。

【公開番号】特開2009−242486(P2009−242486A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88600(P2008−88600)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】