説明

有機物の抽出方法、有機物の製造方法、有機物抽出装置組立体、湿潤材料の処理方法

【課題】生体の細胞を含む湿潤材料から、効率的に有機物を抽出しうる抽出方法、有機物製造方法、装置、及び湿潤材料を効率的に処理しうる方法を提供する。
【解決手段】生体の細胞を含む湿潤材料からの有機物抽出方法であって、液体状態のジメチルエーテルと前記湿潤材料とを混合して第1の混合系を得、前記第1の混合系において前記細胞外に残存した液体状態のジメチルエーテルを前記第1の混合系から導出し、前記第1の混合系内の前記細胞内のジメチルエーテルを気化させて前記細胞を破砕し、前記第1の混合系に抽出溶媒を供給して第2の混合系を得、前記抽出溶媒とその中に溶解した前記有機物とを含む混合物を、前記第2の混合系から導出することを含む抽出方法;そのような工程を含む有機物製造方法、そのような方法のための装置、及びそのような工程を含む湿潤材料の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物の抽出方法、有機物の製造方法及び有機物抽出装置組立体に関し、特に、生体の細胞を含む湿潤材料からの有機物の抽出方法及び抽出装置組立体並びにそのような湿潤材料を原料とした有機物の製造方法に関する。本発明はまた、湿潤材料の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類等の生体に、有用な有機物を生産させ回収することが従来より知られている。例えば、イカダモ等の藻類は、多くの油分を生産する能力があり、且つ水中で栽培することができ農地を必要としないことから、このような藻類から油分を抽出しバイオ燃料として用いることが提案されている。しかしながら、このような生体を培養して得られる材料は、多量に水分を含有する湿潤材料となる。このような湿潤材料からの有機物の抽出には、一般に高いエネルギーが必要となる。
【0003】
湿潤材料から有用な有機物を効率的に回収する方法としては、有機溶媒を用いる抽出方法(例えば特許文献1)を適用することが考えられる。しかしながら、このような抽出方法を、細胞内に有用な物質を包含している生体に適用する場合、細胞膜が抽出を妨げるため、抽出効率が低い。
【0004】
細胞からの抽出効率を向上させるために、抽出の操作において、細胞膜を破砕することが考えられる。細胞膜を破砕する方法としては、機械的破砕方法が考えられる。しかしながら、藻類の細胞を含む湿潤材料を破砕しようとする場合、かかる湿潤材料は大量の水分を含み粘度が高いことから、効率的な破砕はほとんど不可能である。
【0005】
他の破砕方法としては、オゾンを使用する方法、超音波を使用する方法、超臨界を使用する方法、凍結する方法、蒸気等で加熱する方法等が考えられる。例えば特許文献2では、凍結の膨張力を利用して細胞を破砕する。しかしながら、これらの方法はいずれも、破砕のための特段の操作、施設、大きなエネルギー等の要件が必要となるため、十分な細胞の破砕を達成するには破砕効率が低く、有機物の抽出の操作と組み合わせて効率的な破砕を達成するには至らない。したがって、生体の細胞を含む湿潤材料から有機物を抽出するに際して、細胞を効率的に破砕し、効率的な抽出を達成しうる抽出方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/101579号
【特許文献2】特表2005−514193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、生体の細胞を含む湿潤材料から、効率的に有機物を抽出しうる抽出方法、そのような抽出方法により効率的に有用な有機物を製造する方法、及びそのような抽出方法を効率的に行いうる抽出装置組立体、並びにかかる湿潤材料を効率的に処理しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、下記〔1〕〜〔8〕が提供される。
〔1〕 生体の細胞を含む湿潤材料からの有機物抽出方法であって、
(A) 液体状態のジメチルエーテルと前記湿潤材料とを混合して第1の混合系を得、前記細胞内にジメチルエーテルを移行させ、
(B) 前記第1の混合系において前記細胞外に残存した液体状態のジメチルエーテルの少なくとも一部を、前記第1の混合系から導出し、
(C) 前記第1の混合系内の前記細胞内のジメチルエーテルを気化させて前記細胞を破砕し、
(D) 前記第1の混合系に抽出溶媒を供給し、前記細胞の破砕物と前記抽出溶媒とを混合して第2の混合系を得、前記破砕物中の前記有機物を前記抽出溶媒中に移行させ、
(E) 前記抽出溶媒とその中に溶解した前記有機物とを含む混合物を、前記第2の混合系から導出することを含む抽出方法。
〔2〕 工程(D)で供給される前記抽出溶媒が、液体状態のジメチルエーテルを含む、〔1〕に記載の抽出方法。
〔3〕 工程(D)で前記抽出溶媒として供給される液体状態のジメチルエーテルの一部又は全部が、工程(B)で前記第1の混合系から導出したジメチルエーテルである、〔2〕に記載の抽出方法。
〔4〕 工程(D)において、前記有機物に加え、前記湿潤材料中の水分の一部又は全部を、ジメチルエーテル中に移行させる、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の抽出方法。
〔5〕 前記生体が、藻類である、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の抽出方法。
〔6〕 有用な有機物の製造方法であって、
前記有用な有機物を生合成しうる生体を培養して前記生体の細胞を含む湿潤材料を調製し、
前記湿潤材料から、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の抽出方法により、前記有用な有機物を抽出することを含む製造方法。
〔7〕 生体の細胞を含む湿潤材料から有機物を抽出するための有機物抽出装置組立体であって、
(a) 液体状態のジメチルエーテルと前記湿潤材料とを混合して第1の混合系を得、前記細胞内にジメチルエーテルを移行させる接触槽、
(b) 前記接触槽に接続された第1の導出装置であって、前記混合系において前記細胞外に残存した液体状態のジメチルエーテルの少なくとも一部を、前記第1の混合系から導出する第1の導出装置、
(c) 前記接触槽に接続された気化装置であって、前記第1の混合系内の前記細胞内のジメチルエーテルを気化させて前記細胞を破砕する気化装置、
(d) 前記接触槽に接続された供給装置であって、前記第1の混合系に抽出溶媒を供給し、前記接触槽において前記細胞の破砕物と前記抽出溶媒とが混合された第2の混合系を得る供給装置、及び
(e) 前記接触槽に接続された第2の導出装置であって、前記破砕物中の前記有機物を前記抽出溶媒中に移行させた後、前記抽出溶媒とその中に溶解した前記有機物とを含む混合物を、前記第2の混合系から導出する第2の導出装置を備える抽出装置組立体。
〔8〕 生体の細胞を含む湿潤材料の処理方法であって、
(A) 液体状態のジメチルエーテルと前記湿潤材料とを混合して第1の混合系を得、前記細胞内にジメチルエーテルを移行させ、
(B) 前記第1の混合系において前記細胞外に残存した液体状態のジメチルエーテルの少なくとも一部を、前記第1の混合系から導出し、
(C) 前記第1の混合系内の前記細胞内のジメチルエーテルを気化させて前記細胞を破砕し、
(D) 前記第1の混合系に抽出溶媒を供給し、前記細胞の破砕物と前記抽出溶媒とを混合して第2の混合系を得、前記破砕物中の内容物を前記抽出溶媒中に移行させ、
(E) 前記抽出溶媒とその中に溶解した前記内容物とを含む混合物を、前記第2の混合系から導出することを含む処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機物の抽出方法、本発明の有機物の製造方法、本発明の抽出装置組立体及び本発明の湿潤材料の処理方法によれば、有機物の抽出に用いる媒体及び施設等を効率的に用いて、湿潤材料中の細胞を効率的に破砕することができ、したがって、効率的な有機物の抽出若しくは製造又は湿潤材料の処理を達成することができる。
【0010】
特に、工程(A)において湿潤材料に加える液体として、液体状態のジメチルエーテルを採用することにより、種々の利点が得られる。例えば、液体状態のジメチルエーテルは水性の物質にも油性の物質にも親和性があるため、細胞と接触させるだけで、他の追加の工程、他の追加の補助媒体が存在しなくても細胞内に移行しうるので、簡便に細胞内に移行させることができる。また、液体状態のジメチルエーテルは常温常圧で気体であるので、圧力を開放して大気圧とするという簡単な操作で迅速に気化させることができ、簡便な操作で急速に細胞内の圧力を高めることができ、その結果簡便かつ効率的な細胞の破砕を達成することができる。また、液体状態のジメチルエーテルは気化させることにより簡単に混合系から除去することができるので、抽出対象の精製が容易となる。また、その後の抽出の工程に悪影響を与えることが少ない。
【0011】
特に、工程(D)で供給される前記抽出溶媒として液体状態のジメチルエーテルを含むものを採用した場合、工程(A)で用いる媒体と工程(D)で用いる抽出媒体とを兼ねることができる。このため、抽出の作業、及びその後の抽出媒体からの所望の物質の分離がさらに簡便となり、より簡単な施設とより少ない種類の材料でより効率的な作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の方法を実施しうる本発明の抽出装置組立体の一例を概略的に示す構成図である。
【図2】図2は、本願実施例及び比較例において、混合系の撹拌を開始してから液体を接触槽から導出するまでの経過時間と、油分抽出率との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(抽出方法及び有機物の製造方法)
本発明の抽出方法は、生体の細胞を含む湿潤材料から、有機物を抽出する方法である。また、本発明の有機物の製造方法は、前記有用な有機物を生合成しうる生体を培養して前記生体の細胞を含む湿潤材料を調製し、前記湿潤材料から、本発明の抽出方法により有用な有機物を抽出することを含む製造方法である。
【0014】
(湿潤材料)
本発明に用いる湿潤材料は、生体の細胞の内部、外部又はその両方において水分を含有する。また、かかる湿潤材料は、抽出の対象である有機物を含有する。かかる有機物は細胞の内部に含まれていてもよく、細胞の外に存在していてもよいが、抽出対象の有機物の全部又は一部が細胞の内部に含まれている場合に、特に好ましく本発明の方法を適用することができる。
【0015】
前記生体の具体例としては、抽出対象の有機物を産生しうる生体を挙げることができるが、特に藻類、及び活性汚泥に含まれる各種の微生物を挙げることができる。本発明において藻類とは、水圏に棲息することができ光合成をしうる生物全般をいい、特に、イカダモ等の油分を産生しうる生物を好ましく挙げることができる。これらの生体は、抽出対象の有機物を産生する限りにおいて、野生株であってもよく、遺伝子組み換え等により作られた非野生株であってもよい。非野生株は、野生株に有用な有機物を産生しうる遺伝子、効率的な培養を可能とする遺伝子等の、任意の遺伝子を導入したものとすることができる。
【0016】
本発明の有機物の製造方法において、有機物を生合成しうる生体の培養は、特に限定されず適切な条件となるよう適宜調節された条件において行うことができる。藻類の培養において、藻類が油分等の有用な材料を多く生合成するような培養条件は、藻類の生育に最適な条件から離れた過酷な条件であることがあり、そのような条件において生育した藻類は、細胞膜が通常の培養条件で生育したものに比べて厚くなることがある。そのような厚い細胞膜を有する藻類の利用においては、細胞内に存在する有用な材料を回収することが困難となるが、本発明ではそのような藻類からも、効率的な抽出を行うことができる。
【0017】
前記生体の細胞を含む湿潤材料としては、生体及びその培養に必要な各種の物質を含む混合物を挙げることができる。例えば、前記生体として藻類等の海中又は淡水中で培養できる生体を用いる場合、かかる生体及び海水又は淡水を含む混合物を、湿潤材料として本発明の方法に供することができる。または例えば、前記生体として活性汚泥に含まれる微生物を用いる場合、かかる生体を含む活性汚泥を、湿潤材料として本発明の方法に供することができる。
【0018】
必要に応じて、かかる混合物又は活性汚泥などの生体の細胞を含む材料に対し、細胞の予備的な破砕等の細胞膜がジメチルエーテルを透過しやすくする前処理、脱水(機械圧搾、遠心分離等)などの加工をした後、かかる加工物を抽出対象の湿潤材料としてもよい。ただし、藻類の培養物などの培養物から通常の機械圧搾や遠心分離で分離しうる水分はわずかであり、これらの処理をおこなってもなお大量の水分を含有する場合が多いが、そのような湿潤材料であっても、あるいは予備的な脱水をしていない湿潤材料であっても、本発明の方法により効率的な抽出を達成しうる。
【0019】
前記湿潤材料中の水分の含有割合は、少ないほうが、エネルギー効率の観点からは好ましいが、本発明においては、湿潤材料中の水分含有割合(工程(A)に供する直前の段階における、湿潤材料全量に対する水分の割合)は50質量%以上、さらには70質量%以上であってもよい。このように多量の水分を含む湿潤材料であっても、本発明の方法では、効率的に油分を抽出することができる。従って、本発明の方法に供する前の予備的な脱水処理を簡略にした湿潤材料、あるいは行わなかった湿潤材料からであっても、効率的な抽出を行うことができる。
【0020】
抽出対象の有機物としては、各種の産業において有用な種々の有機物を挙げることができ、好ましくはジメチルエーテルに可溶な有機物を挙げることができる。ジメチルエーテルは、水溶性の物質及び油溶性の物質のいずれをも溶解することができるので、幅広い範囲の有機物に本発明を適用することができる。
抽出対象の有機物は、燃料として有用な油性の物質、及び化学的、生物学的又は医学的に有用な水溶性又は油溶性の物質であり得る。抽出対象の有機物は、糖、脂質、タンパク質(ポリペプチドを含む)、種々の微量栄養素となりうる化合物(ビタミン等))、ポリヌクレオチド、及びその他の生理活性物質であってもよい。
【0021】
有機物のより具体的な例は、下記の通りである。
アスタキサンチン;
アスコルビン酸、クエン酸又はそれらの塩であるカロテノイド;
ユビキノン;
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロースおよびアラビノース;
ポリヌクレオチド;
リコペン、β−カロテン、β−クリプトキサンチン、3−ヒドロキシエキネノン、シス−アドニキンサンチン、カンタキサンチン、アドニルビン、ゼアキサンチンおよびアドニキサンチン;
アポトーシス誘導促進蛋白質の阻害物;
ヒドロキシピリドン誘導体;
分子中にヒドロキシ基を有するエステル化合物;
α−リポ酸;
3−イミノプロペン化合物またはその塩;
ポリプロピレンオキサイド、プロピレンオキサイドと他のアルキレンオキサイドとの共重合体;ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール部分酢化物;または、ポリ−N−アクリロイルピペリジン、ポリ−N−n−プロピルメタアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N−イソプロピルメタアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド、ポリ−N−アクリロイルピロリジン、ポリ−N、N−エチルメチルアクリルアミド、ポリ−N−シクロプロピルメタアクリルアミド、ポリ−N−エチルアクリルアミドの単独重合体または共重合体から選ばれる高分子化合物;
カレンジン酸;
少なくとも1種の非天然アミノ酸を含むタンパク質を含む組成物であって、タンパク質がα1アンチトリプシン、アンジオスタチン、抗血友病因子、抗体、アポリポタンパク質、アポタンパク質、心房性ナトリウム利尿因子、心房性ナトリウム利尿ポリペプチド、心房性ペプチド、C−X−Cケモカイン、T39765、NAP−2、ENA−78、Gro−a、Gro−b、Gro−c、IP−10、GCP−2、NAP−4、SDF−1、PF−4、MIG、カルシトニン、cキットリガンド、サイトカイン、CCケモカイン、単球化学誘引タンパク質−1、単球化学誘引タンパク質−2、単球化学誘引タンパク質−3、単球炎症性タンパク質−1α、単球炎症性タンパク質−1β、RANTES、I309、R83915、R91733、HCC1、T58847、D31065、T64262、CD40、CD40リガンド、Cキットリガンド、コラーゲン、コロニー刺激因子(CSF)、補体因子5a、補体阻害剤、補体受容体1、サイトカイン、上皮好中球活性化ペプチド−78、GROα/MGSA、GROβ、GROγ、MIP−1α、MIP−1δ、MCP−1、表皮増殖因子(EGF)、上皮好中球活性化ペプチド、エリスロポエチン(EPO)、表皮剥離毒素、IX因子、VII因子、VIII因子、X因子、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、G−CSF、GM−CSF、グルコセレブロシダーゼ、ゴナドトロピン、増殖因子、増殖因子受容体、ヘッジホッグタンパク質、ヘモグロビン、肝細胞増殖因子(HGF)、ヒルジン、ヒト血清アルブミン、ICAM−1、ICAM−1受容体、LFA−1、LFA−1受容体、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、IGF−I、IGF−II、インターフェロン、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、インターロイキン、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラクトフェリン、白血病阻害因子、ルシフェラーゼ、ニュールチュリン、好中球阻害因子(NIF)、オンコスタチンM、骨形成タンパク質、腫瘍遺伝子産物、副甲状腺ホルモン、PD−ECSF、PDGF、ペプチドホルモン、ヒト増殖ホルモン、プレイオトロピン、プロテインA、プロテインG、発熱外毒素A、B又はC、リラキシン、レニン、SCF、可溶性補体受容体I、可溶性I−CAM1、可溶性インターロイキン受容体、可溶性TNF受容体、ソマトメジン、ソマトスタチン、ソマトトロピン、ストレプトキナーゼ、スーパー抗原、ブドウ球菌エンテロトキシン、SEA、SEB、SEC1、SEC2、SEC3、SED、SEE、ステロイドホルモン受容体、スーパーオキシドジスムターゼ、毒素性ショック症候群毒素、チモシンα1、組織プラスミノーゲンアクチベーター、腫瘍増殖因子(TGF)、TGF−α、TGF−β、腫瘍壊死因子、腫瘍壊死因子α、腫瘍壊死因子β、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)、VLA−4タンパク質、VCAM−1タンパク質、血管内皮増殖因子(VEGEF)、ウロキナーゼ、Mos、Ras、Raf、Met、p53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、テストステロン受容体、アルドステロン受容体、LDL受容体及びコルチコステロン受容体から構成される群から選択されるタンパク質、又はこれに相同である化合物;
少なくとも1種の非天然アミノ酸を含むタンパク質を含む組成物であって、タンパク質がサイトカイン、増殖因子、増殖因子受容体、インターフェロン、インターロイキン、炎症性分子、腫瘍遺伝子産物、ペプチドホルモン、シグナル伝達分子、ステロイドホルモン受容体、転写アクチベーター、転写サプレッサー、エリスロポエチン(EPO)、インスリン、ヒト成長ホルモン、上皮好中球活性化ペプチド−78、GROα/MGSA、GROβ、GROγ、MIP−1α、MIP−1δ、MCP−1、肝細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、白血病阻害因子、オンコスタチンM、PD−ECSF、PDGF、プレイオトロピン、SCF、cキットリガンド、VEGEF、G−CSF、IL−1、IL−2、IL−8、IGF−I、IGF−II、FGF(繊維芽細胞増殖因子)、PDGF、TNF、TGF−α、TGF−β、EGF(表皮増殖因子)、KGF(ケラチノサイト増殖因子)、SCF/cキット、CD40L/CD40、VLA−4/VCAM−1、ICAM−1/LFA−1、ヒアルリン/CD44、Mos、Ras、Raf、Met、p53、Tat、Fos、Myc、Jun、Myb、Rel、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、テストステロン受容体、アルドステロン受容体、LDL受容体及びコルチコステロン受容体から構成される群から選択されるタンパク質、又はこれに相同である化合物;
ダイズタンパク質のサーモリシン分解物又はダイズタンパク質のサーモリシン様プロテアーゼ分解物又はサーモリシン分解物;
オートインデューサー−2を阻害する物質;
中鎖脂肪酸を構成脂肪酸に含むトリグリセリド;
プロテインキナーゼCのアイソザイム;
ER(Endoplasmic Reticulum;小胞体)Degradation Enhancing α-mannosidase-likeproteinをコードするmRNAを特異的に切断するRNA干渉物質を配合することを特徴とする皮膚組成物;
クリプトキサンチン及び/又はそのエステル体;
アンヒドロ糖;
Leu−Glu−His−Alaで表されるペプチド、その誘導体及びこれらの塩からなる群より選択される一種以上;
ポリ−γ−L−グルタミン酸又はその塩、ポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体およびポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の塩;
HDAC(ヒストンデアセチラーゼ)活性阻害剤としてのスルホンアミド結合を含むカルバミン酸化合物;
脱アセチル化硫酸化グルクロノフカン;
脱アセチル化脱グルクロン酸化硫酸化グルクロノフカン;
硫酸化グルクロノフカンオリゴ糖;
カロテノイド;
イミデート化合物;
テトラヒドロクルクミン類;
プレニルフラボノイド;
ミノサイクリン化合物;
炎症性サイトカイン産生抑制作用を有するアネトール誘導体;及び
キナゾリン誘導体。
【0022】
本発明の好ましい一態様において、抽出対象の有機物は、生体が産生する油分である。油分のより具体的な例としては、バイオ燃料として利用しうる油分を含有する生物中のかかる油分等を挙げることができる。
【0023】
(工程(A))
本発明の抽出方法は、液体状態のジメチルエーテルと前記湿潤材料とを混合して第1の混合系を得、前記細胞内にジメチルエーテルを移行させる工程(工程(A))を含む。
【0024】
工程(A)に用いるジメチルエーテルの製造方法及び製造装置の例は、例えば特開平11−130714号、特開平10−195009号、特開平10−195008号、特開平10−182535号から特開平10−182527号、特開平09−309852号から特開平09−309850号、特開平09−286754号、特開平09−173863号、特開平09−173848号、特開平09−173845号などに開示されている。
【0025】
ジメチルエーテルは常温常圧で気体であるため、工程(A)は、通常、ジメチルエーテルの液体状態を維持するため、気密状態の接触槽内等の加圧された環境下で行う。工程(A)における混合の態様は、特に限定されず、ジメチルエーテルを含む媒体と湿潤材料とを接触槽内で混合し撹拌する態様、湿潤材料を媒体に浸漬する態様、媒体を循環させその流れを湿潤材料に通す態様等の、通常の抽出方法で採られる任意の態様とすることができ、湿潤材料の性状に応じて適宜選択することができる。
【0026】
工程(A)において、ジメチルエーテルと湿潤材料とを混合して第1の混合系を得てから、工程(B)に供するまでの間に、必要に応じてインターバルを置いて、細胞内へのジメチルエーテルの移行を促進することができる。かかるインターバルにおいて第1の混合系を保持する条件は、混合系の温度0℃〜60℃、保持時間5分間〜30分間とすることができる。この間の気圧は、ジメチルエーテルの大部分が液体状態を維持できる気圧であることが好ましく、例えば0.25〜1.45MPa、特に好ましくは0.44〜1.14MPaとすることができる。かかるインターバルにおいて、第1の混合系は静置してもよいが、より効率的な移行を達成するため、第1の混合系を撹拌することが好ましい。
【0027】
工程(A)においては、第1の混合系には、湿潤材料及びジメチルエーテル以外の物質が混在していてもよい。例えば、補助的な媒体が混在してもよい。そのような物質としては、ジメチルエーテル同様、25℃、1気圧で気体である物質であることが好ましい。また、毒性が低い、油分を溶解しやすい、容易に入手しうる等の特性の1以上を備える物質であることが好ましい。具体的には、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒド、ブタン及びプロパン等の物質を例示することができる。これらの中でも特に、入手の容易さ(安価さ)、毒性の低さ、取り扱いにおける危険の少なさにおいて有利であるブタン及びプロパンを好ましく用いることができる。
【0028】
第1の混合系における湿潤材料とジメチルエーテルとの割合は、質量比で、好ましくは湿潤材料1に対してジメチルエーテル0.5〜100とすることができる。
【0029】
本発明の抽出方法を複数回繰り返し行う場合は、2回目以降の本発明の実施に当たり、前に行った本発明の抽出方法のいずれかの工程から回収されたジメチルエーテルまたはジメチルエーテルを含む混合物を、工程(A)及びその他の工程(工程(D)など)において再利用することもできる。
【0030】
(工程(B))
本発明の抽出方法は、前記混合系において前記細胞外に残存した液体状態のジメチルエーテルの少なくとも一部を、前記第1の混合系から導出する工程(工程(B))を含む。かかる工程を行うことにより、続く工程(C)における気化の操作を迅速に行うことができ、以降の工程の所要エネルギーを低減し、効率的な操作を行うことができる。
【0031】
工程(B)を行うにあたり、第1の混合系から液体状態のジメチルエーテルを分離する方法は、特に限定されず、生体の細胞を第1の混合系中に留めてジメチルエーテルを及びその他の液体を透過させるフィルターを用いる方法、及び細胞を沈殿させジメチルエーテル及びその他の液体を上清として上清のみを流出させる方法等を挙げることができる。工程(B)におけるジメチルエーテルの導出は、ジメチルエーテルを液体状態のまま、即ち気化させずに導出することが、エネルギー効率の観点から好ましい。
【0032】
工程(B)においてジメチルエーテルを導出する際には、ジメチルエーテルに同伴して他の物質が導出されてもよい。具体的には、上に述べた補助的な媒体、水分等の、第1の混合系中に含まれるジメチルエーテル以外の液体が共に導出されてもよい。工程(A)において既に抽出対象の有機物がジメチルエーテル中に一部移行した場合は、それが共に導出されてもよい。また、生体の細胞の一部が導出されてもよい。抽出の効率の観点からは、生体の細胞が導出される量は少ないことが好ましいが、工程(B)の操作を効率的に行うという観点との兼ね合いから、少量の細胞が導出することも許容される。
【0033】
通常、工程(A)で混合したジメチルエーテルのうちの一部は、細胞内に移行する。しかしながら、一般的にジメチルエーテルは生体の細胞を全く自由に透過しうるものではないため、細胞内に移行したジメチルエーテルのうち、抽出対象の有機物を同伴して細胞外に戻り工程(B)で導出されるものの割合はわずかである。したがって工程(B)を終了した時点で、ジメチルエーテルのうち一部は細胞内にとどまっており、且つ、抽出対象の有機物であって細胞内にあったもののうちの多くも細胞内にとどまっている。
【0034】
工程(B)において第1の混合系から導出したジメチルエーテル又はジメチルエーテルを含む混合物は、そのまま、工程(D)において供給する抽出溶媒として用いることができる。又は、必要に応じてジメチルエーテル以外の成分の全部又は一部を分離した後、工程(D)において供給する抽出溶媒として用いることもでき、本発明の方法を再度行う際に工程(B)において用いる媒体として再利用することもできる。
【0035】
(工程(C))
本発明の抽出方法は、前記第1の混合系内の前記細胞内のジメチルエーテルを気化させて前記細胞を破砕する工程(工程(C))を含む。工程(B)の終了後に工程(C)を行ない、細胞内のジメチルエーテルを気化させることにより細胞を膨張させ破砕させることにより、細胞の破砕を容易に達成することができ、その結果、効率的な抽出を達成することができる。
【0036】
工程(C)を行う具体的操作は特に限定されないが、例えば、第1の混合系を収容する気密状態の接触槽の上部から排気し、圧力を解放して大気圧まで減圧する操作とすることができる。
【0037】
工程(C)においては、効率的な細胞の破砕を達成するために、第1の混合系中のジメチルエーテルを速やかに気化させることが好ましい。具体的には、減圧を開始してから5分間以内に大気圧まで減圧することが好ましい。
【0038】
工程(C)において排気した気体状態のジメチルエーテルは、必要に応じて、回収し、液化し、工程(D)において供給する抽出溶媒として用いることもでき、本発明の方法を再度行う際に再利用することもできる。
【0039】
工程(C)の終了後、細胞の破砕物を含む第1の混合系は、そのまま次の工程(D)に供することもできるが、破砕をより確実に行うため、工程(A)〜(C)をもう1回以上行ってから工程(D)に供することもできる。
【0040】
(工程(D))
本発明の抽出方法は、前記第1の混合系に抽出溶媒を供給し、前記細胞の破砕物と前記抽出溶媒とを混合して第2の混合系を得、前記破砕物中の前記有機物を前記抽出溶媒中に移行させる工程(工程(D))を含む。
【0041】
工程(D)で添加する抽出溶媒は、ジメチルエーテル又はジメチルエーテルを含む混合物を好ましく用いることができる。具体的には、これまでの工程から回収されたジメチルエーテル又はジメチルエーテルを含む混合物を再利用することができる。さらに、本発明の抽出方法を複数回繰り返し行う場合は、前に行った本発明の抽出方法のいずれかの工程から回収されたジメチルエーテルまたはジメチルエーテルを含む混合物を再利用することもできる。
【0042】
細胞の破砕物と抽出溶媒とを混合した第2の混合系においては、細胞の内容物が容易に抽出溶媒に移行するので、抽出を極めて効率的に達成することができる。
【0043】
(工程(E))
本発明の抽出方法は、前記抽出溶媒とその中に溶解した前記有機物とを含む混合物を、前記第2の混合系から導出する工程(工程(E))を含む。
【0044】
抽出溶媒としてジメチルエーテルを用いた場合は、ジメチルエーテルは多くの有機物及び水と混合しうるため、工程(E)で導出する混合物は、通常、抽出溶媒及びその中に溶解した有機物に加えて、ジメチルエーテル中に溶解した水を含む。但し、工程(B)で細胞外に大量に存在する水分の一部を予備的に混合系から排出している場合、工程(E)で導出する混合物中の水の含有割合が低減するので、後の精製の工程を効率的に行うことができる。例えば、抽出対象の有機物が水溶性で且つ細胞外に容易に溶出しない場合、工程(B)で細胞外に大量に存在する水分を予備的に排出し、その後工程(D)及び(E)で、水分の含有割合が低下した混合系から、効率的に有機物を抽出することができる。
【0045】
工程(E)により系外に導出した混合物からは、任意の処理により、所望の有機物を精製することができる。抽出溶媒としてジメチルエーテルを用いた場合は、抽出対象の有機物は多くの場合ジメチルエーテルより沸点が高いため、ジメチルエーテルを揮発させることにより、混合物からジメチルエーテルを容易に除去することができる。ジメチルエーテルを除去した後は、水と所望の有機物とを含有する混合物が残留する。この残留した混合物から、相分離、分留、カラムクロマトグラフィー、再結晶等の任意の精製方法を適宜選択して用い、所望の有機物を得ることができる。特に、油性(疎水性)の物質を抽出する場合、ジメチルエーテルが留去した後に水相と油相とが分離しうるので、容易にかかる油性の物質の濃度を高めることができる。
【0046】
工程(E)の終了後、細胞の破砕物の残余を含む第2の混合系は、接触槽から取り出し、廃棄又は再利用等に供することもできるが、もし所望の有機物の抽出が不十分であれば、工程(D)〜(E)をもう1回以上繰り返してから取り出すこともできる。
【0047】
工程(C)、及び工程(E)の後の精製工程において、ジメチルエーテルを気化させる際に、導管44等から排出される気体により系外になされる仕事を、適切な膨張機等の構成要素により回収し、回収したエネルギーを、気化したジメチルエーテルを再び液化するための凝縮器を構成する圧縮機を駆動させるエネルギーの一部又は全部として利用することができる。例えば膨張機により回転させたタービンによる回転を、圧縮機のポンプに伝達させる構成をとることができる。このような構成をとることにより、ジメチルエーテルを媒体としたヒートポンプを構成することができ、これにより、ジメチルエーテルの気化及び液化を非常に低エネルギーで実現することができ、ひいては本発明の方法をさらにより高効率で行うことができる。
【0048】
(有機物抽出装置組立体)
本発明の有機物抽出装置組立体は、生体の細胞を含む湿潤材料から有機物を抽出するための有機物抽出装置組立体であって、
(a) 液体状態のジメチルエーテルと前記湿潤材料とを混合して第1の混合系を得、前記細胞内にジメチルエーテルを移行させる接触槽、
(b) 前記接触槽に接続された第1の導出装置であって、前記混合系において前記細胞外に残存した液体状態のジメチルエーテルの少なくとも一部を、前記第1の混合系から導出する第1の導出装置、
(c) 前記接触槽に接続された気化装置であって、前記第1の混合系内の前記細胞内のジメチルエーテルを気化させて前記細胞を破砕する気化装置、
(d) 前記接触槽に接続された供給装置であって、前記第1の混合系に抽出溶媒を供給し、前記接触槽において前記細胞の破砕物と前記抽出溶媒とが混合された第2の混合系を得る供給装置、及び
(e) 前記接触槽に接続された第2の導出装置であって、前記破砕物中の前記有機物を前記抽出溶媒中に移行させた後、前記抽出溶媒とその中に溶解した前記有機物とを含む混合物を、前記第2の混合系から導出する第2の導出装置を備える。
【0049】
本発明の装置組立体において、接触槽は、ジメチルエーテルの液体状態を維持するための高圧状態をつくることのできる任意の容器とすることができる。第1及び第2の導出装置は、接触槽に接続され接触槽と流体流連通をなす導管を含む装置とすることができる。さらに、必要に応じて、流体の流通を制御するためのバルブ及びポンプなどを有していてもよい。さらに、第1及び第2の導出装置は、接触槽内部又は接触槽出口に設けられたフィルターと協同して導出を行うよう構成されていてもよい。
【0050】
本発明の抽出装置組立体において、接触槽に接続された第1の導出装置、第2の導出装置、気化装置及び供給装置は、それらのうちの一の装置の一部又は全部が、他の装置の一部又は全部を兼ねていてもよい。例えば、第1の導出装置の導管、導出された液体を貯留及び分離する構成要素、及びその他の構成要素が、第2の導出装置の構成要素を兼ねていてもよい。
【0051】
以下において、本発明の抽出方法を実践するのに適した、本発明の抽出装置組立体及びそれを用いた抽出方法の具体例を、図面を参照して示す。図面は、本発明が理解できる程度に、構成要素の形状、大きさおよび配置が概略的に示すものに過ぎない。本発明は以下の説明によって限定されるものではなく、各構成要素は特許請求の範囲及びその均等の範囲において適宜変更可能である。
【0052】
図1は、かかる抽出装置組立体の一例を概略的に示す構成図である。図1に示す装置組立体100は、液体状態のジメチルエーテルを貯留する貯留槽11、液体状態のジメチルエーテルと湿潤材料との混合及びその他の操作を行う接触槽12、及び接触槽12から導出された液体の分離を行う分離槽13を有し、さらに各槽へ又は各槽から流体及びその他の材料を導く導管を有している。
【0053】
装置組立体100において、接触槽12は接触槽(a)として機能する。接触槽12に接続された導管のうち、槽底部から流体を導出させる導管32が、第1の導出装置(b)及び第2の導出装置(e)として機能する。また、接触槽12の頂部から流体を導出させる導管42が、気化装置(c)として機能する。接触槽12の頂部から流体を導入する導管22及び/又は62が、供給装置(d)として機能する。
【0054】
図示していないが、装置組立体100はさらに、各槽内の温度及び気圧を調節するための温度計及び圧力計、各槽内の気圧を調節し流体の流出及び流入を制御するためのバルブ、各槽内における撹拌を行うための構成要素、並びに各槽内及び導管内における酸素等の不所望な気体をパージするための不活性ガス(窒素等)流通装置などの任意の構成要素をさらに含む。
【0055】
操作において、まず接触槽12に、導入経路51を通して、湿潤材料を導入する。続いて、貯留槽11に貯留している液体状態のジメチルエーテルを、導管31から導出し、導管22を通して接触槽12に導入し、液体状態のジメチルエーテルと湿潤材料とを混合し、第1の混合系を得る。なお、貯留槽11に接続される導管のうち、導管21及び41は、貯留槽11に貯留させるジメチルエーテル量及び圧力の調節等の用途に用いることができる。
【0056】
続いて、接触槽12内の第1の混合系から、導管32を通して、液体状態のジメチルエーテルを含む流体を導出する。篩53等の適切な構成要素により、湿潤材料中の細胞を可能な限り多く接触槽12内に残し、ジメチルエーテルを含む流体を可能な限り多く接触槽12から導出する。
【0057】
かかる導出は、導管22からのジメチルエーテルの導入から所定のインターバル(上記工程(A)において説明したもの)を置いて、必要に応じて所定時間第1の混合系を静置するか、若しくは撹拌し、湿潤材料中の細胞内にジメチルエーテルを移行させた後に行うことができる。または、導管22から接触槽12に導入したジメチルエーテルを連続的に導管32へ導出しても十分な接触時間でジメチルエーテルと湿潤材料とが接触するよう接触槽12内部の構造を構成し、導管22からのジメチルエーテルの導入と、導管32からの流体の導出とを連続して行なってもよい。または、導管32による接触槽12底部からの導出に加えて、又は当該導出に代えて、湿潤材料中の細胞を沈殿させジメチルエーテル及びその他の液体を上清として、上清のみを接触槽12側面に設けた導管より流出させてもよい。
【0058】
接触槽12から、導管32又は他の導管を通して導出した、液体状態のジメチルエーテルを含む液体は、導管23を経由して、分離槽13に貯留させることができる。分離槽13において、液体状態のジメチルエーテル及び他の物質を含む液体は、そのまま、又は必要に応じてジメチルエーテル以外の物質の一部又は全部を分離した後、本発明の装置組立体の操作における他の工程のためのジメチルエーテルとして用いることができる。かかる分離は、分離槽13内で、及び/又は混合物を導管33から導出した後任意の他の分離槽において行うことができる。例えば、分離槽13の温度及び圧力を所定の状態としてジメチルエーテルを気化させ導管43から導出することにより、液体状態のジメチルエーテル、水分及び他の物質を含む液体から、ジメチルエーテルを留去することができる。導出された気体状態のジメチルエーテルは、任意の凝縮手段により凝縮させて、本発明の装置組立体の操作における他の工程に用いることができる。
【0059】
続いて、接触槽12内のジメチルエーテルを気化させる。かかる気化は、導管42から圧力を開放し常圧とすることにより達成することができる。この操作により、細胞内のジメチルエーテルが気化し、細胞の破砕が達成される。導管42からは、気体状態のジメチルエーテルから実質的になる気体が導出される。これは必要に応じて、導管44を経由して回収し、凝縮して液体状態とし、本発明の装置組立体の操作における他の工程に用いることができる。
【0060】
続いて、接触槽12へ、抽出溶媒を供給する。かかる供給は、抽出溶媒としてジメチルエーテルを用いる場合、装置組立体中のジメチルエーテルが存在する任意の箇所から供給することができる。例えば、貯留槽11内のジメチルエーテルを導管31及び22を経由して接触槽12へジメチルエーテルを供給することができる。また、分離槽13内のジメチルエーテルまたはジメチルエーテルを含む混合物を導管63及び62を経由して、接触槽12へジメチルエーテルを供給することもできる。供給された抽出溶媒と、細胞の破砕物とが混合されることにより、第2の混合系が得られる。第2の混合系においては、破砕物中の所望の抽出対象の有機物(破砕前の細胞内に存在していたもの)が、抽出溶媒に移行する。移行を促進するために、必要に応じて第2の混合系の撹拌等の操作を行うことができる。
【0061】
続いて、接触槽12から、導管32又は他の導管を通して、抽出溶媒とその中に溶解した抽出対象の有機物とを含む混合物を導出する。系外に導出した混合物から、所望の有機物を、分離槽13及び/又は他の任意の装置を用いて精製することができる。その後、接触槽12中に残った細胞の破砕物の残余を含む第2の混合系を取り出し、廃棄等の処理をすることができる。
【0062】
(湿潤材料の処理方法)
本発明の湿潤材料の処理方法は、生体の細胞を含む湿潤材料の処理方法であって、
(A) 液体状態のジメチルエーテルと前記湿潤材料とを混合して第1の混合系を得、前記細胞内にジメチルエーテルを移行させ、
(B) 前記第1の混合系において前記細胞外に残存した液体状態のジメチルエーテルの少なくとも一部を、前記第1の混合系から導出し、
(C) 前記第1の混合系内の前記細胞内のジメチルエーテルを気化させて前記細胞を破砕し、
(D) 前記第1の混合系に抽出溶媒を供給し、前記細胞の破砕物と前記抽出溶媒とを混合して第2の混合系を得、前記破砕物中の内容物を前記抽出溶媒中に移行させ、
(E) 前記抽出溶媒とその中に溶解した前記内容物とを含む混合物を、前記第2の混合系から導出することを含む。
【0063】
かかる処理方法を実施することにより、例えば活性汚泥の廃棄に際し、その水分を効率的に除去し、効率的な廃棄を行うことができる。具体的には、細胞を破砕することにより、細胞内部の水分を効率的に抽出し、水分と有機物とを効率的に分別し、有機物を含む廃棄物量を効率的に、大幅に減量することができる。
【実施例】
【0064】
以下において、実施例を参照して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0065】
(実施例1)
図1に概略的に示す抽出装置組立体を用い、湿潤材料からの油分の抽出を行った。
生体の細胞を含む湿潤材料として、緑藻の一種を水中で培養して得た培養物を用いた。この湿潤材料は、水分80質量%及び固形分20質量%をそれぞれ含んでいた。さらに、固形分中には油分が33質量%含まれていた。かかる水分、固形分及び油分の含有割合は、湿潤材料を加熱して乾燥させ、さらにそこから定法により油分を抽出することにより求めた。
【0066】
(1−1:工程(A)に対応)
接触槽12に湿潤材料を20g仕込んだ。一方、40mLのジメチルエーテルを計量し貯留槽11に充填し、バルブ(不図示)を操作することにより貯留槽11のジメチルエーテル全量を、導管31及び22を経由して接触槽12に供給した。この時の接触槽12の温度は24℃、圧力は0.57MPaであった。接触槽12の内容物を撹拌して第1の混合系とし、湿潤材料とジメチルエーテルとを10分間接触させた。
【0067】
(1−2:工程(B)及び(C)に対応)
接触終了後、バルブを操作することにより、篩53を通過した液体を導管32から導出し、導管23を通し分離槽13に移送した。その後、導管32の経路上に設けられたバルブを閉め、導管42の経路上のバルブを開放し、接触槽12内のジメチルエーテルを排気し、接触層12内の圧力を大気圧まで減圧した。接触槽12内の圧力が0.57MPaから大気圧になるまでの所要時間は約50秒であった。
接触槽12内の緑藻をサンプリングして1000倍の光学顕微鏡で観察したところ、緑藻の細胞が破砕されていることが確認された。
【0068】
(1−3:工程(D)及び(E)に対応)
分離槽13内の、液体状態のジメチルエーテルを含む液体を、接触槽12に再び供給し、第2の混合系を得た。この時の接触槽12の温度は24℃、圧力は0.57MPaであった。
第2の混合系を得てから直ちに撹拌を開始し、所定時間経過した後、バルブを操作することにより、篩53を通過した液体を導管32から導出し、分離槽13に移した。その後、分離槽13内部を常圧まで減圧することにより、ジメチルエーテルを蒸発排気した。その後、分離槽13中の残液をサンプリングして分析に供した。
サンプリングした残液をガスクロマトグラフィーで分析し、油分含有割合を求めた。また、残液の総量から、残液全量中の油分含有割合を求めた。さらに仕込んだ湿潤材料中の油分量に対する比率を計算し、油分抽出率を求めた。第2の混合系の撹拌を開始してから液体を接触槽12から導出するまでの経過時間と、油分抽出率との関係をプロットした。結果を図2に示す。
【0069】
(実施例2)
実施例1の(1−1)〜(1−3)中の、接触層12内の温度を24℃、圧力を0.57MPaとした工程において、温度を40℃、圧力を0.88MPaに変更した他は、実施例1と同様にして、油分の抽出を行ない、油分抽出率を求めた。結果を図2に示す。
【0070】
(比較例1)
図1に概略的に示す抽出装置組立体を用い、湿潤材料からの油分の抽出を行った。
生体の細胞を含む湿潤材料として、実施例1で用いたものと同じ、緑藻の一種を水中で培養して得た培養物を用いた。
接触槽12に湿潤材料を20g仕込んだ。一方、40mLのジメチルエーテルを計量し貯留槽11に充填し、バルブ(不図示)を操作することにより貯留槽11のジメチルエーテル全量を、導管31及び22を経由して接触槽12に供給し、混合系を得た。この時の接触槽12の温度は24℃、圧力は0.57MPaであった。この混合系を得てから直ちに撹拌を開始し、所定時間経過した後、バルブを操作することにより、篩53を通過した液体を導管32から導出し、分離槽13に移した。その後、分離槽13内部を常圧まで減圧することにより、ジメチルエーテルを蒸発排気した。その後、分離槽13中の残液をサンプリングして分析に供した。
サンプリングした残液をガスクロマトグラフィーで分析し、油分含有割合を求めた。また、残液の総量から、残液全量中の油分含有割合を求めた。さらに仕込んだ湿潤材料中の油分量に対する比率を計算し、油分抽出率を求めた。混合系の撹拌を開始してから液体を接触槽12から導出するまでの経過時間と、油分抽出率との関係をプロットした。結果を図2に示す。
【0071】
(比較例2)
比較例1中の、接触層12内の温度を24℃、圧力を0.57MPaとした工程において、温度を40℃、圧力を0.88MPaに変更した他は、比較例1と同様にして、油分の抽出を行ない、油分抽出率を求めた。結果を図2に示す。
【0072】
図2の結果から、本発明の抽出方法では、細胞の破砕を行わなかった比較例の抽出方法に比べて、油分抽出率が非常に大きく向上し、短い抽出時間で効率的な抽出を達成しうることが分かる。また、第1の混合系を操作する温度及び圧力条件を実施例2の通り変更することにより、さらに顕著な、100%に近い抽出率を達成しうることが分かる。
【符号の説明】
【0073】
100:装置組立体
11:貯留槽
12:接触槽
13:分離槽
21、31、41、22、32、42、23、33、43、44、62、63:導管
51、52:湿潤材料の経路
53:篩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の細胞を含む湿潤材料からの有機物抽出方法であって、
(A) 液体状態のジメチルエーテルと前記湿潤材料とを混合して第1の混合系を得、前記細胞内にジメチルエーテルを移行させ、
(B) 前記第1の混合系において前記細胞外に残存した液体状態のジメチルエーテルの少なくとも一部を、前記第1の混合系から導出し、
(C) 前記第1の混合系内の前記細胞内のジメチルエーテルを気化させて前記細胞を破砕し、
(D) 前記第1の混合系に抽出溶媒を供給し、前記細胞の破砕物と前記抽出溶媒とを混合して第2の混合系を得、前記破砕物中の前記有機物を前記抽出溶媒中に移行させ、
(E) 前記抽出溶媒とその中に溶解した前記有機物とを含む混合物を、前記第2の混合系から導出することを含む抽出方法。
【請求項2】
工程(D)で供給される前記抽出溶媒が、液体状態のジメチルエーテルを含む、請求項1に記載の抽出方法。
【請求項3】
工程(D)で前記抽出溶媒として供給される液体状態のジメチルエーテルの一部又は全部が、工程(B)で前記第1の混合系から導出したジメチルエーテルである、請求項2に記載の抽出方法。
【請求項4】
工程(D)において、前記有機物に加え、前記湿潤材料中の水分の一部又は全部を、ジメチルエーテル中に移行させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抽出方法。
【請求項5】
前記生体が、藻類である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抽出方法。
【請求項6】
有用な有機物の製造方法であって、
前記有用な有機物を生合成しうる生体を培養して前記生体の細胞を含む湿潤材料を調製し、
前記湿潤材料から、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抽出方法により、前記有用な有機物を抽出することを含む製造方法。
【請求項7】
生体の細胞を含む湿潤材料から有機物を抽出するための有機物抽出装置組立体であって、
(a) 液体状態のジメチルエーテルと前記湿潤材料とを混合して第1の混合系を得、前記細胞内にジメチルエーテルを移行させる接触槽、
(b) 前記接触槽に接続された第1の導出装置であって、前記混合系において前記細胞外に残存した液体状態のジメチルエーテルの少なくとも一部を、前記第1の混合系から導出する第1の導出装置、
(c) 前記接触槽に接続された気化装置であって、前記第1の混合系内の前記細胞内のジメチルエーテルを気化させて前記細胞を破砕する気化装置、
(d) 前記接触槽に接続された供給装置であって、前記第1の混合系に抽出溶媒を供給し、前記接触槽において前記細胞の破砕物と前記抽出溶媒とが混合された第2の混合系を得る供給装置、及び
(e) 前記接触槽に接続された第2の導出装置であって、前記破砕物中の前記有機物を前記抽出溶媒中に移行させた後、前記抽出溶媒とその中に溶解した前記有機物とを含む混合物を、前記第2の混合系から導出する第2の導出装置を備える抽出装置組立体。
【請求項8】
生体の細胞を含む湿潤材料の処理方法であって、
(A) 液体状態のジメチルエーテルと前記湿潤材料とを混合して第1の混合系を得、前記細胞内にジメチルエーテルを移行させ、
(B) 前記第1の混合系において前記細胞外に残存した液体状態のジメチルエーテルの少なくとも一部を、前記第1の混合系から導出し、
(C) 前記第1の混合系内の前記細胞内のジメチルエーテルを気化させて前記細胞を破砕し、
(D) 前記第1の混合系に抽出溶媒を供給し、前記細胞の破砕物と前記抽出溶媒とを混合して第2の混合系を得、前記破砕物中の内容物を前記抽出溶媒中に移行させ、
(E) 前記抽出溶媒とその中に溶解した前記内容物とを含む混合物を、前記第2の混合系から導出することを含む処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−31170(P2011−31170A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179513(P2009−179513)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000165273)月島機械株式会社 (253)
【Fターム(参考)】