説明

有機発光素子

【課題】電子注入性に優れたドナードーパントを使用した場合において、経時的な発光効率の変化を防止して、かつ、低電圧で高い発光効率が得られる有機発光素子を提供する。
【解決手段】陽極と陰極と、陽極と陰極の間に挟持され少なくとも発光層と、第一の有機化合物層と、第二の有機化合物層と、電子注入層と、をこの順に含む積層体と、から構成され、第一の有機化合物層に下記一般式[1]で示される部分構造を含まない芳香族化合物が含まれており、第二の有機化合物層に下記一般式[1]で示される部分構造を含む芳香族化合物が含まれており、電子注入層にアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が含まれていることを特徴とする有機発光素子。


(式[1]において、Arはベンゼン環を含む環状構造を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在有機発光素子(有機EL素子、有機エレクトロルミネッセンス素子)が盛んに研究開発されている。ところでこの有機発光素子の電子注入効率を向上させるために、さまざまな提案がなされている。特許文献1には、ドナー(電子供与性)ドーパントとして機能する金属を含む電子注入層を設けている有機発光素子が開示されている。また特許文献2には、特許文献1と同様の目的で金属酸化物あるいは金属塩をドナードーパントとして含む電子注入層を設けている有機発光素子が開示されている。
【0003】
一方、特許文献3及び4には、特許文献1及び2にて開示されているドナードーパントを構成材料として使用した有機発光素子において、発光効率の経時的な変化が起こり得ることが述べられている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−270171号公報
【特許文献2】特開平10−270172号公報
【特許文献3】特開2005−063910号公報
【特許文献4】特開2005−332690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3及び4にて示される経時的な発光効率の変化が起こる原因の一つとして、以下の事項が考えられる。即ち、電子注入層に含まれるドナードーパント又はドナードーパント由来の成分(以下、まとめて塩成分という。)が他の有機化合物層へ拡散することで、この塩成分が他の有機化合物層の構成材料と何らかの反応を起こすためこの変化が起こると考えられている。
【0006】
ここでドナードーパントが他の有機化合物層へ拡散すると、発光層内での消光の発生、キャリアバランスの変化(電子注入輸送特性の変化、最高被占軌道(HOMO)/最低空軌道(LUMO)レベルの変化)、有機化合物層の着色変化、等の現象が起こり得る。
【0007】
これを踏まえて特許文献3及び4では、ドーパント濃度を低くする、又は発光層と電子注入層とを空間的に隔離することで経時的な発光効率の変化を抑制することが提案されている。しかし、ドープ濃度を低くすると駆動電圧が上昇してしまったり、電子律速によりキャリアバランスを崩して発光効率が低くなってしまうという問題があった。また、発光層と電子注入層とを空間的に隔離した場合であっても、隔離により素子全体の膜厚が厚くなるのでドープ濃度を低くした場合と同様の問題が生じていた。
【0008】
本発明の目的は、電子注入性に優れたドナードーパントを使用した場合において、経時的な発光効率の変化を防止して、かつ、低電圧で高い発光効率が得られる有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機発光素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも発光層と、第一の有機化合物層と、第二の有機化合物層と、電子注入層と、をこの順に含む積層体と、から構成され、該第一の有機化合物層に下記一般式[1]で示される部分構造を含まない芳香族化合物が含まれており、該第二の有機化合物層に下記一般式[1]で示される部分構造を含む芳香族化合物が含まれており、該電子注入層にアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が含まれていることを特徴とする。
【0010】
【化1】

(式[1]において、Arはベンゼン環を含む環状構造を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電子注入性に優れたドナードーパントを使用した場合において、経時的な発光効率の変化を防止して、かつ、低電圧で高い発光効率が得られる有機発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の有機発光素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも発光層と、第一の有機化合物層と、第二の有機化合物層と、電子注入層と、をこの順に含む積層体と、から構成される。以下、図面を参照しながら本発明の有機発光素子について説明する。
【0013】
図1は、本発明の有機発光素子における第一の実施形態に示す断面模式図である。図1の有機発光素子11は、基板1上に、陽極2、正孔輸送層3、発光層5、第一の有機化合物層6、第二の有機化合物層7、電子注入層8及び陰極9が順次設けられている。図1の有機発光素子は電流を通電すると、陽極2から注入される正孔と、陰極9から注入される電子とが発光層5において再結合する。これにより有機発光素子11は光を発する。
【0014】
図2は、本発明の有機発光素子における第二の実施形態を示す断面模式図である。図2の有機発光素子12は、図1の有機発光素子11において、陽極2を、第一の電極層21と第二の電極層22との二層構成とし、陰極9を透明な材料からなる透明電極91とする以外は図1の有機発光素子11と同じ構成である。
【0015】
ただし本発明は、上記に示した実施形態に限定されるものではない。例えば、基板1側から陰極9、電子注入層8、第二の有機化合物層7、第一の有機化合物層6、発光層5、正孔輸送層3、陽極2の順序で構成されていてもよい。また本発明の有機発光素子は、素子からの発光を基板側から取り出すボトムエミッション型であってもよいし、基板と反対側の上部電極から取り出すトップエミッション型であってもよい。
【0016】
以下に、本発明の有機発光素子の主要な構成部材について説明する。
【0017】
第一の有機化合物層6は、陰極9から発生する電子を発光層5へ輸送する層である。また第一の有機化合物層6は、塩成分の拡散を防止する役割を担う層でもある。ここで第一の有機化合物層6には、下記一般式[1]で示される部分構造(環状イミン構造)を含まない芳香族化合物が構成材料として含まれている。
【0018】
【化2】

【0019】
尚、式[1]の詳細については後述する。
【0020】
第一の有機化合物層6の構成材料となる芳香族化合物として、具体的には、芳香族炭化水素化合物に代表される極性基を持たない有機化合物である。第一の有機化合物層6の構成材料を、極性基を持たない有機化合物にすることによって、塩成分の拡散をより効果的に抑制することができる。
【0021】
第一の有機化合物層6の構成材料となる化合物として、好ましくは、オリゴフルオレン系化合物、フルオレン−フェニル系化合物、その他縮合多環系化合物である。
【0022】
また、第一の有機化合物層6の構成材料としては、発光層5と接する正孔ブロック層として機能するために、最高被占軌道(HOMO)エネルギーの絶対値が大きい材料が好ましい。さらには、励起子ブロック層として機能するために、バンドギャップが広い材料がより好ましい。このような条件を満たす有機化合物として、例えば、下記に示されるオリゴフルオレン系化合物、フルオレン−フェニル系化合物、縮合多環系化合物が挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
第二の有機化合物層7は、電子注入層8から第一の有機化合物層6へ電子を注入・輸送する役割を担う層である。第二の有機化合物層7には、下記一般式[1]で示される部分構造を含む芳香族化合物が含まれている。
【0025】
【化4】

【0026】
式[1]において、Arはベンゼン環を含む環状構造を表す。
【0027】
式[1]で示される基本骨格として、具体的には、フェナントロリン骨格、ジアザフルオレン骨格、ナフチリジン骨格等が挙げられる。第二の有機化合物層7の構成材料として使用することができるフェナントロリン骨格、ジアザフルオレン骨格又はナフチリジン骨格を有する化合物の具体例を以下に示す。
【0028】
【化5】

【0029】
このように、塩成分の拡散防止を担う第一の有機化合物層6と電子注入層8との間に、式[1]で示される基本骨格を有する化合物が構成材料として含まれる第二の有機化合物層7を設けることによって、駆動電圧が低減され、発光効率が大幅に向上される。
【0030】
このメカニズムは現時点で明確ではないが、以下のように考えることができる。例えば、塩成分との親和性・結合性の悪い第一の有機化合物層6と、ドナードーパントとホストとの相互作用によりキャリア密度が豊富に存在する電子注入層8との界面では、電子が受け渡されるエネルギー準位が不連続に形成されてしまう。このため、この界面において不必要に駆動電圧の高電圧化が起こることで、キャリアバランスを崩して素子の発光効率が損なわれてしまうと考えられる。そこで塩成分の拡散を防止するのに有効な環状イミン構造を含まない芳香族化合物からなる第一の有機化合物層6と電子注入層8との間にエネルギー準位の不連続性を緩和する介在層を設ける必要がある。具体的には、第二の有機化合物層7を第一の有機化合物層6と電子注入層8との間に設けることによって、素子の駆動電圧を低くすると共に発光効率を向上させることができる。
【0031】
ところで、第一の有機化合物層6及び第二の有機化合物層7のそれぞれにおいて、塩成分の拡散を防止するメカニズムは明確ではないが、いくつかの仮説が考えられる。例えば、第一の有機化合物層6の場合、その構成材料である芳香族化合物は、キレート部位を持たない化合物である。このため、第一の有機化合物層6の構成材料である芳香族化合物は、塩成分との親和性・結合力が小さいために第二の有機化合物層7との界面において塩成分の拡散に対するポテンシャル障壁が大きくなるので塩成分の拡散が抑制されると考えられる。あるいは、第一の有機化合物層6の構成材料が塩成分の移動経路(ホッピングサイト)となりにくいために塩成分の拡散が抑制される、とも考えられる。
【0032】
一方で、第二の有機化合物層7の場合、その構成材料である環状イミン構造を含む芳香族化合物は、環状イミン構造がキレート部位となるので、第二の有機化合物層7の構成材料である芳香族化合物は塩成分との親和性・結合力が大きい。このため、第二の有機化合物層7に含まれる環状イミン構造を含む芳香族化合物が、電子輸送層8から拡散した塩成分を捕捉するためであると考えられる。尚、塩成分の拡散防止の効果は、二次イオン質量分析法SIMS(Secondary Ion MassSpectrometry)を用いた有機化合物層内におけるCs元素拡散プロファイル測定を行うことで確認することができる。
【0033】
電子注入層8には、以下に示す(a)〜(d)のいずれかが含まれる。
(a)Li,Na,K,Rb,Cs等のアルカリ金属
(b)Mg,Ca,Sr,Ba等のアルカリ土類金属
(c)LiF等のアルカリ金属ハロゲン化物、Li2O等のアルカリ金属酸化物、Cs2CO3等のアルカリ金属炭酸化物等のアルカリ金属化合物
(d)MgF2等のアルカリ土類金属ハロゲン化物、MgO等のアルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属炭酸化物等のアルカリ土類金属化合物
【0034】
ドナードーパントは無機塩、有機塩のいずれであってもよい。上述した金属、金属化合物のうちセシウム化合物は電子注入性が優れるので好ましい。また、炭酸塩は取り扱いが容易であるので好ましい。また、ドナードーパントに対応するホスト(電子注入層用ホスト)となる有機化合物は、電子輸送性を有する有機化合物が好ましい。特に、本発明の有機発光素子においては、電子注入層用ホストとして、上述した第二の有機化合物層7の構成材料である有機化合物を使用することが好ましい。こうすることで使用する材料の種類を増やさずに済むので製造コストを低減することができる。
【0035】
次に、本発明の有機発光素子を構成する他の部位についてそれぞれ詳しく説明する。
【0036】
陽極2及び陰極9を構成する材料は特に限定されるものではない。また、光の取り出し方向に対応して、電極を透明性にしたり、反射性にしたり、半透明性にしたりすることができる。陽極2及び陰極9を構成する材料として、具体的には、ITO、IZO等の酸化物導電膜、金、白金、銀やアルミニウム、マグネシウム等の金属単体又はこれら金属単体を複数種類組み合わせた合金等が挙げられる。さらに、陽極2及び陰極9は、単一の層で構成されてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0037】
正孔輸送層3は、陽極2からの発生した正孔を発光層5へ注入・輸送する役割を担う。また、必要に応じて陽極2と正孔輸送層3との間に、銅フタロシアニンや酸化バナジウム等を含む正孔注入層を形成してもよい。正孔輸送層3又は正孔注入層の構成材料としては、正孔注入輸送性能を有する低分子化合物又は高分子化合物を使用することができる。具体的には、トリフェニルジアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリフィリル誘導体、スチルベン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0038】
また、必要に応じて正孔輸送層3と発光層5との間に、最低空軌道(LUMO)エネルギーの絶対値が小さい電子ブロック層4を形成してもよい。電子ブロック層4を形成する場合、その構成材料として、例えば、下記式[3]に示される材料を使用することができる。
【0039】
【化6】

【0040】
発光層5の構成材料として、公知の発光材料を適宜使用することができる。また発光層5は、単一の化合物で構成されていてもよいし、ホストと発光ドーパントとから構成されていてもよい。発光層5がホストと発光ドーパントとから構成されている場合、さらに電荷輸送ドーパントを混合してもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に従って本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>
図2に示す有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0043】
支持体であるガラス基板(基板1)上に、スパッタリング法にてアルミニウム合金(AlNd)を成膜し第一の電極層21を形成した。このとき第一の電極層21の膜厚を100nmとした。次に、第一の電極層21上に、スパッタリング法にてITOを成膜し第二の電極層22を形成した。このとき第二の電極層22の膜厚を20nmとした。尚、第一の電極層21及び第二の電極層22は陽極2として機能する。次に、陽極2が形成されているガラス基板をアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄した後、IPAで煮沸洗浄して乾燥した。さらに、この基板表面に対してUV/オゾン洗浄を施した。
【0044】
次に、第二の電極層22上に、真空蒸着法にて下記式[2]に示される正孔輸送材料を成膜し正孔輸送層3を形成した。このとき正孔輸送層3の膜厚を110nmとした。
【0045】
【化7】

【0046】
次に、正孔輸送層3上に、真空蒸着法にて下記式[3]に示される正孔輸送材料(電子ブロック材料)を成膜し電子ブロック層4を形成した。このとき電子ブロック層4の膜厚を10nmとした。
【0047】
【化8】

【0048】
次に、電子ブロック層4上に、真空蒸着法にて下記式[4]に示されるホストと、下記式[5]に示されるゲストとを、ホストとゲストとの重量比が95:5となるように共蒸着することで発光層5を形成した。このとき発光層5の膜厚を35nmとした。
【0049】
【化9】

【0050】
次に、発光層5上に、真空蒸着法にて下記式[6]に示される材料を成膜し第一の有機化合物層6を形成した。このとき第一の有機化合物層6の膜厚を10nmとした。
【0051】
【化10】

【0052】
次に、第一の有機化合物層6上に、真空蒸着法にて下記式[7]で示されるフェナントロリン化合物を成膜し第二の有機化合物層7を形成した。このとき第二の有機化合物層7の膜厚を10nmとした。
【0053】
【化11】

【0054】
次に、第二の有機化合物層7上に、真空蒸着法にて式[7]のフェナントロリン化合物と炭酸セシウムとを、層中のセシウム濃度が8.3重量%となるように共蒸着することで電子注入層8を形成した。このとき電子注入層8の膜厚を60nmとした。
【0055】
次に、電子注入層8上に、スパッタリング法にてIZOを成膜して透明電極(陰極)91を形成した。このとき透明電極91の膜厚を30nmとした。次に、陰極まで形成したガラス基板を、窒素雰囲気下のグローブボックス中において、乾燥剤を入れたガラスキャップにより封止した。以上により、有機発光素子を得た。
【0056】
得られた素子を通電すると、印加電圧4.8Vにて電流密度20mA/cm2、発光効率2.4cd/Aの発光特性を示した。また、この素子を80℃の温度条件で10時間保管したところ、問題となり得る経時的な発光効率の変化は観測されなかった。
【0057】
次に、本実施例で第一の有機化合物層又は第二の有機化合物層の構成材料として使用した化合物について、以下に示すサンプル1又はサンプル2を作製した。そして作製したサンプル1及びサンプル2について二次イオン質量分析法SIMS(Secondary Ion MassSpectrometry)を用いて、Cs元素プロファイル測定を行った。
【0058】
(サンプル1)
ガラス基板上に、式[6]の化合物を真空蒸着法にて成膜し第一の有機化合物層を形成した。このとき第一の有機化合物層の膜厚を50nmとした。次に、第一の有機化合物層上に、真空蒸着法にて式[7]のフェナントロリン化合物と炭酸セシウムとを、層中のセシウム濃度が8.3重量%となるように共蒸着して、電子注入層を形成した。このとき電子注入層の膜厚を20nmとした。最後に、電子注入層上に、スパッタリング法にてIZOを成膜して透明電極(陰極)を形成した。このとき透明電極の膜厚を60nmとした。次に、陰極まで形成したガラス基板を、窒素雰囲気下のグローブボックス中において、乾燥剤を入れたガラスキャップにより封止した。以上によりサンプル1を得た。
【0059】
(サンプル2)
ガラス基板上に、真空蒸着法にて式[7]のフェナントロリン化合物と炭酸セシウムとを、層中のセシウム濃度が8.3重量%となるように共蒸着して、電子注入層を形成した。このとき電子注入層の膜厚を20nmとした。最後に、電子注入層上に、スパッタリング法にてIZOを成膜して透明電極(陰極)を形成した。このとき透明電極の膜厚を60nmとした。次に、陰極まで形成したガラス基板を、窒素雰囲気下のグローブボックス中において、乾燥剤を入れたガラスキャップにより封止した。以上によりサンプル2を得た。
【0060】
以上の方法で得たサンプル1(第一の有機化合物層)及びサンプル2(第二の有機化合物層)について二次イオン質量分析法SIMSを用いてCs元素プロファイル測定を行った。尚、SIMS測定に用いた一次イオン種はO2+、一次イオン加速エネルギーは3keVである。また一次イオン種によるエッチングは、Csのノックオン(打ち込み)によるプロファイル変化を避けるため、電子注入層がある素子上面側からではなく素子裏面(基板側)から進めるバックサイドSIMS法で行った。図3は、Cs元素プロファイル測定の結果を示す図である。図3において、横軸はガラス基板側からの深さであり、縦軸は、試料間の比較を行なうためにIZO中のIn強度を用いて規格化したCsの相対強度である。尚、この測定から、サンプル1より第一の有機化合物層のCs元素プロファイルが、サンプル2より第二の有機化合物層のCs元素プロファイルがそれぞれ測定される。図3に示されるCs元素プロファイル測定の結果から、環状イミン構造を含まない式[6]の化合物が含まれる第一の有機化合物層において、電子注入層に含まれるCs塩成分の拡散が抑制されているのが分かる。
【0061】
<比較例1>
実施例1において、第二の有機化合物層を形成する工程を省略し図4に示す有機発光素子を作製した以外は、実施例1と同様の方法で有機発光素子を作製した。
【0062】
得られた素子を通電すると、印加電圧5.4Vにて電流密度20mA/cm2、発光効率1.1cd/Aの発光特性を示した。この発光特性は、実施例1の素子と比較すると、駆動電圧が高く、発光効率が著しく悪いことがわかる。また、この発光素子を80℃の温度条件で10時間保管したところ、経時的な発光効率の変化が観測された。
【0063】
<実施例2>
実施例1において、式[6]の化合物に代えて、下記式[8]に示される化合物を使用して第一の有機化合物層を形成したことを除いては、実施例1と同様の方法で発光素子を作製した。
【0064】
【化12】

【0065】
得られた素子を通電すると、印加電圧4.1Vにて電流密度20mA/cm2、発光効率3.6cd/Aの発光特性を示した。また、この素子を80℃の温度条件で10時間保管したところ、問題となり得る経時的な発光効率の変化は観測されなかった。
【0066】
また実施例1と同様のサンプルを作製し、二次イオン質量分析法SIMSを用いて、Cs元素プロファイル測定を行った。本実施例においても環状イミン構造を含まない式[8]の化合物が含まれる第一の有機化合物層において、Cs塩成分の拡散が抑制されることがわかった。
【0067】
<比較例2>
実施例2において、第二の有機化合物層を形成する工程を省略し図4に示す有機発光素子を作製した以外は、実施例2と同様の方法で有機発光素子を作製した。
【0068】
得られた素子を通電すると、印加電圧4.4Vにて電流密度20mA/cm2、発光効率0.6cd/Aの発光特性を示した。この発光特性は、実施例2の素子と比較すると、駆動電圧が高く、発光効率が著しく悪いことがわかる。また、この発光素子を80℃の温度条件で10時間保管したところ、経時的な発光効率の変化が観測された。
【0069】
<実施例3>
図2に示す有機発光素子を以下に示す方法で作製した。尚、素子を作製するにあたり、発光層5までの各層を実施例1と同様の方法で作製した。
【0070】
発光層5を形成した後、この発光層5上に、真空蒸着法にて下記式[9]に示される材料を成膜し第一の有機化合物層6を形成した。このとき第一の有機化合物層6の膜厚を10nmとした。
【0071】
【化13】

【0072】
次に、第一の有機化合物層6上に、真空蒸着法にて下記式[10]で示されるフェナントロリン化合物を成膜し第二の有機化合物層7を形成した。このとき第二の有機化合物層7の膜厚を10nmとした。
【0073】
【化14】

【0074】
次に、第二の有機化合物層7上に、真空蒸着法にて式[10]のフェナントロリン化合物と炭酸セシウムとを、層中のセシウム濃度が8.3重量%となるように共蒸着することで電子注入層8を形成した。このとき電子注入層8の膜厚を60nmとした。
【0075】
次に、電子注入層8上に、スパッタリング法にてIZOを成膜して透明電極(陰極)91を形成した。このとき透明電極91の膜厚を30nmとした。次に、陰極まで形成したガラス基板を、窒素雰囲気下のグローブボックス中において、乾燥剤を入れたガラスキャップにより封止した。以上により、有機発光素子を得た。
【0076】
得られた素子を通電すると、印加電圧4.0Vにて電流密度20mA/cm2、発光効率2.5cd/Aの発光特性を示した。また、この素子を80℃の温度条件で10時間保管したところ、問題となり得る経時的な発光効率の変化は観測されなかった。
【0077】
また実施例1と同様のサンプルを作製し、二次イオン質量分析法SIMSを用いて、Cs元素プロファイル測定を行った。本実施例においても環状イミン構造を含まない式[9]の化合物が含まれる第一の有機化合物層において、Cs塩成分の拡散が抑制されることがわかった。
【0078】
<比較例3>
実施例3において、第二の有機化合物層を形成する工程を省略し図4に示す有機発光素子を作製した以外は、実施例3と同様の方法で有機発光素子を作製した。
【0079】
得られた素子を通電すると、印加電圧5.1Vにて電流密度20mA/cm2、発光効率0.7cd/Aの発光特性を示した。この発光特性は、実施例3の素子と比較すると、駆動電圧が高く、発光効率が著しく悪いことがわかる。また、この発光素子を80℃の温度条件で10時間保管したところ、経時的な発光効率の変化が観測された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の有機発光素子は、照明、ディスプレイ、電子写真方式の画像形成装置に組み込まれる露光光源等として利用できる。ディスプレイとして利用する場合、好ましくは、車内に搭載するカーナビゲーションの表示部、デジタルカメラの画像表示部、複写機やレーザービームプリンタといった事務機器の操作パネル等として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の有機発光素子における第一の実施形態を示す断面模式図である。
【図2】本発明の有機発光素子における第二の実施形態を示す断面模式図である。
【図3】実施例1で行ったCs元素プロファイルの測定結果を示す図である。
【図4】比較例1〜3で作製した有機発光素子を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0082】
1 基板
2 陽極
3 正孔輸送層
4 電子ブロック層
5 発光層
6 第一の有機化合物層
7 第二の有機化合物層
8 電子注入層
9 陰極
11,12 有機発光素子
21 第一の電極層
22 第二の電極層
91 透明電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも発光層と、第一の有機化合物層と、第二の有機化合物層と、電子注入層と、をこの順に含む積層体と、から構成され、
該第一の有機化合物層に下記一般式[1]で示される部分構造を含まない芳香族化合物が含まれており、
該第二の有機化合物層に下記一般式[1]で示される部分構造を含む芳香族化合物が含まれており、
該電子注入層にアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が含まれていることを特徴とする有機発光素子。
【化1】

(式[1]において、Arはベンゼン環を含む環状構造を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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