説明

有機繊維コードの接着剤処理方法

【課題】ゴムとの接着性およびコード物性を付与するのに必要な最少量の接着剤を塗布し、接着剤の消費量を低減するとともに接着剤カスのディップマシンへの付着、汚染を抑えることができる有機繊維コードの接着剤方法を提供する。
【解決手段】接着剤液を吐出するためのバルブ27と該バルブ27の吐出端に刷毛状ノズル28を備えた塗布具26を用い、前記バルブ27から接着剤液を前記ノズル28に吐出供給すると共に有機繊維コード11を該刷毛状ノズル28内を走行させコード表面に接着剤を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コードの接着剤処理方法に関し、詳しくは、タイヤ補強用等に用いられる有機繊維コードに対し、適切なコード物性およびゴムとの接着性を付与するためのコード表面に接着剤を塗布する接着剤処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ補強用等に用いられるポリエステルやポリアミド(ナイロン)等の有機繊維コードは、通常、ゴムとの接着を向上するためにレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)液等の接着剤液を溜めたディップ浴中に浸漬し接着剤液を塗布(ディップ工程)した後、乾燥、熱処理を施すことにより改質されて、補強用コードとしての接着性と所望のコード物性を付与される。
【0003】
このコード改質のための乾燥、熱処理工程においては、従来、処理する繊維ごとに所望する物性に合うよう、適切な張力下で、熱オーブン中の高温下に有機繊維コードを一定時間暴露する方法が用いられていた(特許文献1、2など)。
【0004】
従来、ディップ工程では、コードの処理速度が遅い時は問題が少ないが、処理速度が20m/分以上の高速になると、コード表面に過剰の接着剤液が付着し、理論的には単分子膜で覆うだけで良いはずの接着剤量は、ディップ直後の接着剤付着量が10〜14重量%にもなっていた。過剰の接着剤液は絞りロール、バキューム装置、エアーなどで除去し、接着剤付着量を4〜5重量%に調整されるが、除去できなかった接着剤液はカスとなってディップマシンのロールやガイドに付着するため、定期的にマシンを清掃する必要があった。
【0005】
また、コード表面に単分子膜で良い接着剤の膜厚が、数千〜数万倍の厚さになり、資源の多消費、生産性の低下を招き、結果としてコード価格を上昇させていた。
【0006】
下記特許文献3には、従来の接着剤液への浸漬方式に代えて、繊維撚りコードの表面に、薄く、均一な接着層を形成させる接着剤液の塗布方法として、コードを接着剤の噴霧によって被覆すること、具体的には、噴霧にはコーティングノズル、コーティングガイドなどの繊維用塗布器具を用い、さらにインターレーサー等のエアーブロー器具を用いて被覆を均一化させることが記載されている。しかしながら、コードに接着剤液を直接噴霧すると、たとえエアーブローにより被覆を均一化しようとしても、コード表面には接着剤の被覆ムラが生じ、カス付きの発生の問題が残される。
【特許文献1】特開平5−339838号公報
【特許文献2】特開2006−307365号公報
【特許文献3】特開2005−68572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記の従来技術における問題点を解決するもので、有機繊維コードに対し、ゴムとの接着性およびコード物性を付与するのに必要な最少量の接着剤を塗布し、接着剤の消費量を低減するとともに接着剤カスのディップマシンへの付着、汚染を抑えることで、省資源化、生産性を向上させることができる有機繊維コードの接着剤方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、コード表面に接着剤液を塗布する有機繊維コードの接着剤処理方法において、前記接着剤液を吐出するためのバルブと前記バルブの吐出端に保水性を有する前記コードと接触する接触型塗布部とを備えた塗布具を用い、前記バルブから接着剤液を前記塗布部に吐出供給すると共に前記有機繊維コードを該塗布部内を走行させる、又は該塗布部に押し当てながら走行させ、前記接着剤液を前記有機繊維コード表面に塗布することを特徴とする有機繊維コードの接着剤処理方法である。
【0009】
本発明においては、前記塗布部は有機繊維を収束した刷毛状体からなり、前記有機繊維コードを該刷毛状体の内部を走行させることができる。
【0010】
また、本発明においては、前記塗布部は柔軟な多孔質体からなり、前記有機繊維コードを該多孔体の内部を走行させる又は該多孔体に押し当てながら走行させることができる。
【0011】
また、前記ノズルへの前記接着剤液の供給方法は、インクジェット方式であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機繊維コードに必要最少量の接着剤液を塗布することで、ゴムとの接着性およびコード物性を付与し、RFLなどの接着材料の消費量を節減し、またディップマシンへのカス付きを低減することでマシンの稼働率を向上することで、有機繊維コード処理工程の操業性、生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。本実施形態においては、タイヤ用シングルコードのディップ処理加工の例に従い説明するが、本発明は本例に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明に係る有機繊維コードの処理装置1の構成を示す概略図である。
【0015】
図1において、有機繊維コード11の繰り出しロール12から引き出された有機繊維コード(以下、コードと言うことがある)11は、延伸ロール13、15により張力が付加された状態で、接着剤液塗布装置2においてコード11表面に接着剤液が塗布された後、熱処理炉14(処理温度120〜260℃、温度毎に分割された複数の処理炉を持つものでもよい)において乾燥、熱処理され処理コードとなって巻き取りロール16に巻き取られる。
【0016】
接着剤液塗布装置2は、FRL液をコード11に塗布する塗布具26、接着剤液を貯溜する密閉式タンク22、エアーを前記塗布具26とタンク22に供給するエアーコントローラー21、及びタンク22内部を加圧するタンク加圧配管23,タンク22から接着剤液を塗布具26に供給する液送配管24、塗布具26から接着剤液を吐出するためのエアー配管がそれぞれに接続され構成されている。
【0017】
エアーコントローラー21は、塗布具26とタンク22に供給するエアー圧をそれぞれ独立して制御することができるもので、例えば、武蔵エンジニアリング(株)の「バブルコントローラーME−303VT(デジタルコントロール)」などを利用することができる。
【0018】
塗布具26は、接着剤液の吐出量を制御するバルブ27と、バルブ27の吐出端部に設けられた前記コード11と接触する接触型塗布部28とからなる。
【0019】
バルブ27としては、接着剤液の吐出量、吐出圧をコントローラー21からのエアー圧によりコントロールするものであり、塗布部27に接着剤液を定量供給することができる。 バルブ27は市販品が利用できる。例えば、武蔵エンジニアリング(株)の電解液注入バルブ ELV−10、超小型定量吐出バルブ MiniVal NCV−12S、小型定量吐出バルブ MinVal NCV−10、ニードルコントロールバルブ NCV−6、ニードルコントロールバルブ NCV−7DV、ピストンコントロールバルブ PCV−5、ピストンコントロールバルブ PCV−5−1P、容積計量式定量吐出バルブ PPV−5、高圧バルブ HPV−1NC、ニードル弁式定量吐出バルブ NAV−1、ダイアフラムバルブ DCV−2/DCV−3などが挙げられる。
【0020】
接触型塗布部28は、コード11を接触させながら走行させることで、接着剤液をコード11表面に塗布するものである。すなわち、コード11を保水性を有することで接着剤液を含んだ塗布部28の内部又は塗布部表面に押し付けながらコード11を走行させ、コード11に接着剤液を塗布するものである。
【0021】
塗布部28としては、図2に示すような有機繊維を収束した刷毛状体(刷毛ノズル)があり、バルブ27の吐出端部に接続され、コード11をバルブ27から定量供給される接着剤液を含んだ刷毛状体の内部を走行させることで、コード11表面に定量かつ均一に接着剤液を塗布することができら。さらに、塗布の均一性を向上するために刷毛ノズルの刷毛の向きを複数方向(2〜4方向)に設けてもよい(図2の塗布具26’参照)。もちろん、塗布部28は、バルブ27に対して着脱自在にされている。
【0022】
上記刷毛ノズルの刷毛29は、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維、豚、馬などの動物の毛、鳥の羽毛など有機繊維を収束したもので構成され、撥水性を有する材料は親水性加工により保水性を付与し使用することができる。
【0023】
中でも好ましい刷毛材料は、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維フィラメントを収束したもので、フィラメント径は0.03〜1.0mm、好ましくは0.05〜0.5mm、より好ましくは0.05〜0.2mmであり、刷毛部分が保水性と共に柔軟性を有することが接着剤液の均一塗布、また塗布時のコード損傷防止の観点から好ましい。
【0024】
コード11への接着剤液の塗布量は、バブル27からの接着剤液の吐出量、吐出頻度、塗布部28の刷毛の形態(刷毛材料、フィラメント径、密度など)による保水率、塗布処理部の長さ、コードの走行速度などにより所望の塗布量に調整することができる。
【0025】
刷毛ノズルとしては、武蔵エンジニアリング(株)BN−S1(ポリエステルフィラメント0.08mm径)などの市販品を利用することもできる。
【0026】
塗布部28の保水率は、特に限定されないが、30〜80%であり、好ましくは40〜70%である。保水率が30%未満であると、接着剤液の未塗布部分が生じやすくなり接着力を低下させ、80%を超えると接着剤液が過剰塗布され、塗布ムラも生じやすくなり、また接着剤液が走行するコード11に過剰付着することで周囲に飛散したり、後の熱処理装置14のカス付きの原因となる。
【0027】
上記保水率としては、例えば、接着剤液を含んだ塗布部28の重量(WF)、23℃、65%RHの雰囲気下に7日間放置した乾燥重量(WT)とすると、保水率(%)=(WF−WT)×100/WT、で表される。
【0028】
また、本発明においては、図3に示すように前記塗布部28が保水性を有する柔軟な多孔質体30からなり、コード11を多孔質体30の内部を走行させる(図3(a))又は多孔質体30に押し当てながら走行させる(図3(b))ことでも、接着剤液をコード11表面に均一塗布することができる。図3(c)、(d)はそれぞれの側面図である。
【0029】
コード11を多孔質体30の内部を走行させる場合は、図3(c)に示すように、多孔質体30にコード走行方向に沿う切り込み31を設け、切り込み31内でコード11を走行させることで実施できる。また、コード11を多孔質体30に押し当てながら走行させる場合は、図3(d)に示すように、コード11に付与された張力によりコード11が多孔質体30内に沈み込むように走行させることで実施できる。この場合も、塗布の均一性を向上するために多孔質体30を複数方向(2〜4方向)に設けることが好ましくい(図2の塗布具26’参照)。もちろん、塗布部28は、バルブ27に対して着脱自在にされている。
【0030】
また、図3(b)、(d)に示す、コード11を多孔質体30に押し当てながら走行させる場合は、多孔質体30がコード11の走行摩擦により押し当てられた部分で切り込み状となる可能性があるが、この場合は図3(a)、(c)の形態として実施できる。
【0031】
多孔質体30としては、特に限定されないが、軟質のポリウレタンフォーム、ゴムスポンジ、ポリエチレンフォーム、アクリルフォームなどの発泡体が挙げられる。
【0032】
多孔質体30の柔軟性は、特に限定されないが、JIS K7222「発泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の求め方」に準じる見掛け密度が20〜80kg/mであり、好ましくは30〜70kg/mである。見掛け密度が20kg/m未満であると柔軟になりすぎて、接着剤液が過剰塗布され、塗布ムラも生じやすくなり、また接着剤液が走行するコード11に過剰付着することで周囲に飛散したり、後の熱処理装置14のカス付きの原因となる。80kg/mを超えると多孔質体30が硬質化し、接着剤液の未塗布部分が生じやすくなり接着力を低下させ、またコード11を損傷するおそれもある。
【0033】
本発明におけるコード11としては、ナイロン6、ナイロン66、アラミドなどのポリアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、レーヨン、ポリケトン、ビニロン等があり、タイヤを始めとして各種ゴム製品に使用できるものは全て適用可能である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0035】
図1の概略図に示すコードの処理装置を作製した。タイヤ補強用のナイロン66、1400dtex/2コード(旭化成(株)「レオナ66」、上×下撚数=36×36回/10cm)を、シングルコードで接着剤処理を行った。塗布部は図2に示す刷毛タイプを使用した。
【0036】
実施例は、接着剤液としては下記D5A処方(濃度15%)を使用し、武蔵エンジニアリング(株)のバブルコントローラーME−303VTデジタルコントロール付きの密閉容器に接着剤液を入れ、吐出圧力1.5MPa、100パルス/秒で、1パルス当たり0.05gの接着剤液をバブルから刷毛ノズル(武蔵エンジニアリング(株)BN−S1(ポリエステルフィラメント0.08mm径))に吐出しながら、コードを20m/分で走行させ接着剤液をコード表面に塗布した後、熱処理炉にて乾燥、熱処理し、処理コードを巻き取った。
【0037】
比較例は、市金工業社(株)製のシングルコード処理機を使用し、D5A処方にて従来の浸漬法により接着剤液をコードに塗布した以外、実施例と同様の処理速度を20m/分、熱処理条件で処理し処理コードを得た。
【0038】
処理コードの接着剤付着率(JIS L1017に記載のディップピックアップ、a)溶解法、ナイロンの場合に準拠)、接着力(JIS L1017に記載のTテストに準拠(A法、埋め込み長さ10mm))、コード1000m処理後の装置の汚れ(目視観察)、コード1000m処理当たりの接着剤液消費量(重量法)を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
[D5A処方]
A液 水:152g
レゾルシン:7.7g
37%ホルマリン:10.4g
10%苛性ソーダ:7.1g
B液 水:174.7g
ビニルピリジンラテックス:112.5g
SBRラテックス:38.7g
アンモニア水:7.1g
A液を22℃で、16時間熟成後、B液に混合し使用。
【0040】
【表1】

【0041】
表に示される通り、従来の浸漬法に比べ、必要最少量の接着剤をコード表面に塗布できることから、接着剤消費量を低減しながら、優れた接着力が得られる。また、処理装置の接着剤カスによる汚れが防止できるので、装置の清掃頻度を大幅に減ずることができ、稼働率の向上に寄与できる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係る有機繊維タイヤコード熱処理方法は、ナイロン、ポリエステルなどのタイヤコードのシングルコードの熱処理、コードセッターによる複数本タイヤコードの同時処理に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態のコードの処理装置を示す概略図である。
【図2】接着剤塗布部の拡大図である。
【図3】他の例の接着剤塗布部の拡大図である。
【符号の説明】
【0044】
11……有機繊維コード
26……塗布具
27……バルブ
28……刷毛状ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コード表面に接着剤液を塗布する有機繊維コードの接着剤処理方法において、
前記接着剤液を吐出するためのバルブと前記バルブの吐出端に保水性を有する前記コードと接触する接触型塗布部とを備えた塗布具を用い、前記バルブから接着剤液を前記塗布部に吐出供給すると共に前記有機繊維コードを該塗布部内を走行させる、又は該塗布部に押し当てながら走行させ、前記接着剤液を前記有機繊維コード表面に塗布する
ことを特徴とする有機繊維コードの接着剤処理方法。
【請求項2】
前記塗布部は有機繊維を収束した刷毛状体からなり、前記有機繊維コードを該刷毛状体の内部を走行させる
ことを特徴とする請求項1に記載の有機繊維コードの接着剤処理方法。
【請求項3】
前記塗布部は柔軟な多孔質体からなり、前記有機繊維コードを該多孔体の内部を走行させる又は該多孔体に押し当てながら走行させる
ことを特徴とする請求項1に記載の有機繊維コードの接着剤処理方法。
【請求項4】
前記ノズルへの前記接着剤液の供給方法が、インクジェット方式である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機繊維コードの接着剤処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−138278(P2009−138278A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312324(P2007−312324)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】