説明

有機繊維コードの改質方法

【課題】安定的にかつ高品質で有機繊維コードを改質することができ、かつ、従来に比しさらなる高効率化を図ることが可能な有機繊維コードの改質方法を提供する。
【解決手段】有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードを接着剤にディップするディップ工程と、ディップされた有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、乾燥された有機繊維コードを改質する熱処理工程とを含む有機繊維コードの改質方法である。乾燥工程で、ディップされた有機繊維コードに対し、マイクロ波および遠赤外線を連続して照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機繊維コードの改質方法(以下、単に「改質方法」とも称する)に関し、詳しくは、ディップされた有機繊維コードを乾燥するための乾燥工程の改良に係る有機繊維コードの改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機繊維コードをレゾルシン・ホルマリン/ゴムラテックス(RFL)液等の接着剤液にディップした後に、熱媒体として熱風を用いることで乾燥および熱処理を施して改質を行い、有機繊維コードにタイヤ用としての所望の物性やゴムとの接着性を付与することが行われている。
【0003】
また、上記乾燥工程にマイクロ波を適用して、接着剤ディップコードの乾燥を短時間で高効率に行う技術や(特許文献1)、上記乾燥工程に遠赤外線を適用する技術(特許文献2)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−307365号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2007−186825号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のように、上記有機繊維コードの改質工程において熱媒体として熱風のみを用いた場合、熱伝導率の低い空気を使用することから、乾燥効率をより良好にすることが求められていた。また、生産性を高めるために乾燥炉における有機繊維コードの搬送方向の長さを長くすると、改質装置の大型化を招くため、スペースおよびコストが増大するという問題が生じていた。
【0006】
一方、乾燥工程にマイクロ波のみを用いた場合には、乾燥処理時間(マイクロ波照射時間)が10秒以下と極めて短時間であるため、高効率で処理を行うことが可能である。しかしその反面、照射時間の僅かな変動により有機繊維コードの含有水分率が大きく変動して、安定して品質の高い改質を行うことが困難になるおそれがあり、また、コード自体が高エネルギーのマイクロ波により異常に加熱されて、溶融してしまうおそれもあった。
【0007】
また、遠赤外線を用いた場合には、乾燥工程後の有機繊維コードの含有水分率を容易に最適値にすることが可能であり、安定してかつ高い品質で有機繊維コードを改質させることができる。しかしながらこの場合、熱風を用いた場合以上の処理能力は達成できるものの、十分なものではなく、より大幅な高効率化により、処理速度の高速化を図ることができる技術の実現が求められていた。
【0008】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、安定的にかつ高品質で有機繊維コードを改質することができ、かつ、従来に比しさらなる高効率化を図ることが可能な有機繊維コードの改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、ディップ処理後の乾燥工程において、有機繊維コードに対しマイクロ波の照射と遠赤外線の照射とを連続的に行うことで、上記問題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の有機繊維コードの改質方法は、有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードを接着剤にディップするディップ工程と、ディップされた該有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、乾燥された該有機繊維コードを改質する熱処理工程とを含む有機繊維コードの改質方法において、
前記乾燥工程で、ディップされた前記有機繊維コードに対し、マイクロ波および遠赤外線を連続して照射することを特徴とするものである。
【0011】
本発明においては、前記マイクロ波の照射時間が、1.5〜3.5秒間であることが好ましく、前記遠赤外線の照射時間が、6〜15秒間であることが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、前記マイクロ波の照射出力が、1.5〜7.5kW/mであることが好ましく、前記遠赤外線の照射出力が、16〜48kW/mであることが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記有機繊維コードの水分率が、0.1〜4.0%であることが好ましく、前記有機繊維コードとして、緯糸を有しない単線コードを1〜250本にて同時に改質することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記構成としたことにより、安定的にかつ高品質で有機繊維コードを改質することができるとともに、従来に比しさらなる高効率化を図ることが可能な有機繊維コードの改質方法を実現することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明は、有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードの改質方法であって、有機繊維コードを接着剤にディップするディップ工程と、ディップされた有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、乾燥された有機繊維コードを改質する熱処理工程とを含むものである。
【0016】
本発明においては、上記乾燥工程において、ディップされた有機繊維コードに対し、マイクロ波の照射および遠赤外線の照射を連続して行う。有機繊維コードに対し、マイクロ波の照射後、連続して遠赤外線の照射を行うことにより、安定して高い品質で改質を行うことができ、かつ、従来以上の高効率化を達成することが可能となった。
【0017】
ここで、マイクロ波の照射条件としては、ディップされた有機繊維コードからある程度まで水分を蒸発させることができるものであれば、特に制限されるものではなく、所望に応じ設定することができる。例えば、マイクロ波出力は、乾燥処理する単位時間当たりの水分量に基づき適宜選定することが可能である。また、乾燥時には、乾燥効率を高めるために、熱風または温風の発生装置を併用して、乾燥炉内が蒸発に伴い発生した水蒸気で過飽和状態とならないように装置外部へ水蒸気を排出することが好ましい。
【0018】
かかるマイクロ波の照射条件としては、本発明の所望の効果が得られる適切な照射時間との組み合わせで照射され、例えば、マイクロ波の照射時間が、1.5〜3.5秒間であることが好ましく、また、マイクロ波の照射出力が、1.5〜7.5kW/mであることが好ましい。マイクロ波の照射量が過多の場合は、コードの温度が急激に上昇して、コードの融解に起因するコード切れを招くおそれがあり、一方、マイクロ波の照射量が少なすぎる場合は、所望の効果が得られないおそれがあり、好ましくない。
【0019】
また、遠赤外線の照射条件についても、マイクロ波照射後の有機繊維コードから十分に水分を蒸発させることができるものであれば、特に制限されるものではなく、所望に応じ設定することができる。例えば、遠赤外線出力は、乾燥処理する単位時間当たりの水分量に基づき適宜選定することが可能である。また、乾燥時には、熱処理炉内を所定温度に加温し、かつ温度分布を均一化して熱効率を高めるために、ファンを併用して空気を循環させることが好ましい。さらに、熱処理炉内を強制熱風循環させて、炉内温度により遠赤外線出力を制御することも好適である。
【0020】
かかる遠赤外線の照射条件としては、本発明の所望の効果が得られる適切な照射時間との組み合わせで照射され、例えば、遠赤外線の照射時間が、6〜15秒間であることが好ましく、また、遠赤外線の照射出力が、16〜48kW/mであることが好ましい。遠赤外線の照射量が過多の場合は、コード表面の接着層が均一に形成されず、急激な乾燥によってディップカスが多量に発生してしまうおそれがあり、一方、遠赤外線の照射量が少なすぎる場合は、所望の効果が得られないおそれがあり、好ましくない。
【0021】
マイクロ波および遠赤外線の照射条件の組み合わせとしては、具体的には例えば、マイクロ波の照射を出力4.5kW/mで1.5〜3.5秒間行った後、遠赤外線の照射を出力48kW/mで6〜15秒間行うものとすることができる。乾燥工程におけるマイクロ波の照射が不十分であると、乾燥不足により装置内の汚染や接着力の低下が生じ、遠赤外線の照射が不十分であると水分率が高くなり、いずれも好ましくない。マイクロ波および遠赤外線の照射をバランスよく用いることで、本発明の所期の効果を得ることができる。
【0022】
本発明の改質方法においては、ディップ済み有機繊維コードの乾燥工程について上記条件を満足するものであればよく、これにより所期の効果を得ることができ、乾燥工程以外の各工程については、常法に従い適宜実施することが可能である。
【0023】
例えば、ディップ工程においては、ディップにより有機繊維コードに付着した接着剤を吸引して、接着剤の付着量を一定量に調整することが好ましい。具体的には、ディップ設備にバキューム装置を設置して、ディップ後の有機繊維コード表面を吸引し、過剰に付着した接着剤を除去することにより、付着量のコントロールを行う。これにより、ディップ工程において有機繊維コードに常に一定量の接着剤を付着させることで、その後の乾燥工程における局所的な乾燥不良や、熱乾燥によるコードの融解に起因するコード切れ、熱処理工程における処理むらの発生などを防止することが可能となる。特に、単線コードのディップ処理の場合、付着量が過多となる傾向があるため、バキューム装置を用いたコントロールを行うことがより有効である。
【0024】
また、本発明においては、乾燥工程後に乾燥後の有機繊維コードの水分量を測定して、マイクロ波出力および遠赤外線出力を自動的に変動させて水分量を制御することも好ましく、これにより、乾燥不良の発生をより効果的に防止することができる。この場合の水分量の測定は、乾燥に用いる装置の出口に、市販の非接触方式の水分率測定装置(例えば、アドバンステクノロジー社 プロセス水分計ST−2200A)を配置することにより行うことができる。
【0025】
本発明における改質は、有機繊維コードの水分率が0.1%未満とならないよう、すなわち、有機繊維コードの水分率を0.1%以上の状態に保持しつつ行うことが好ましい。有機繊維コードが絶乾状態になると、コード自体がマイクロ波を吸収してコード温度が上昇し、コードの融解に起因するコード切れを招くおそれがある。
【0026】
また、本発明における改質は、有機繊維コードの水分率が4.0%より多くならないよう、すなわち、有機繊維コードの水分率を4.0%以下の状態に保持しつつ行うことが好ましい。水分率が、4.0%より多いと、十分に乾燥されない状態で熱処理工程に入ることになり、熱処理炉装置内の汚染をまねくおそれがあり、また、コード表面の接着の改質が不十分になるおそれがあり、好ましくない。
【0027】
本発明の改質方法は、特に、有機繊維コードとして、簾状の反物よりも、緯糸を有しない単線コードの改質を行う際に有効であり、本発明によれば、例えば、1〜250本程度の単線コードを同時に改質することが可能である。
【0028】
なお、本発明において処理対象となる有機繊維コードとしては、特に制限されず、種々のものを適用することができる。その繊維材料としては、例えば、ナイロン、アラミドなどのポリアミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、レーヨン、ポリケトン、ビニロン等、タイヤ補強用に使用できる撚コードは全て適用可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
有機繊維コードを接着剤にディップするためのディップ槽と、ディップされた有機繊維コードを乾燥するための乾燥炉A,Bと、乾燥された有機繊維コードを改質するための熱処理炉A,Bとを備える改質処理設備において、以下、下記の表1および2中に示す処理条件をそれぞれ適用して、有機繊維コードの改質処理を行った。有機繊維コードとしては、材質:ポリエチレンテレフタレート,原糸繊度:1670dtex,撚本数:2本,上撚数×下撚数:39回/10cm×39回/10cmのものを用い、明確な結果を得るために、この試験を実施する前に、あらかじめ有機繊維コードにエポキシ化合物を用いて改質処理を施した。また、接着剤としては、通常タイヤ補強用コードに使用されているRFL液を用いた。
【0030】
乾燥炉Aではマイクロ波の照射による乾燥を行い、有機繊維コードにかける温度および張力は160℃×0.227g/dtexとした。マイクロ波発生装置としては、芝浦メカトロニクス社製 TMG−490C(水冷式、波長2450MHz、出力1.5〜7.5kW/m)を用いた。また、乾燥炉Bでは遠赤外線の照射による乾燥を行い、有機繊維コードにかける温度および張力は160℃×0.227g/dtexとした。遠赤ヒーターとしては、出力16〜48kW/mのものを用いた。
【0031】
また、熱処理炉A,Bにおいて、有機繊維コードにかける温度および張力は240℃×0.227g/dtexとした。
【0032】
各実施例および比較例の条件に従い改質された有機繊維コードにつき、下記に従い、トータル処理時間、乾燥工程での糸の切れやすさ、水分率、破断強力、2.02g/dtex(66N)での伸び(中間伸度)、熱収縮率および接着力を測定した。その結果を、下記の表1および2中に併せて示す。
【0033】
<トータル処理時間>
トータル処理時間は、乾燥工程および熱処理工程に要した処理時間の総和を、比較例2を100とする指数にて示したものであり、数値が小さいほど高効率処理であることを示す。
【0034】
<乾燥工程での糸の切れやすさ>
乾燥工程での糸の切れやすさは、一回に処理する単線コードの総数を100として、ディップ処理中に発生した糸切れ本数と、ディップ処理後に発見された切れかかっている糸の本数との総和を指数で示した値により評価した。数値が小さいほど結果が良好である。
【0035】
<水分率>
水分率は、乾燥工程を経た有機繊維コードのうち約3gを試料として取り出し、この試料につき、島津製作所社製の電子水分計を用いて温度を300℃に設定して測定した。
【0036】
<破断強力および中間伸度>
破断強力および中間伸度はそれぞれ、JISL 1017に準拠して、島津製作所社製のオートグラフを用いて測定した。なお、改質前(ディップ処理前)の有機繊維コードの破断強力は238N、中間伸度は11.8%であった。
【0037】
<熱収縮率>
熱収縮率は、改質した有機繊維コードに50gの引張負荷を加えた状態で、177℃のオーブン内に30分間置いたときの収縮量を測定し、この収縮量を元の長さで除したものに100を乗じて算出した。なお、改質前の有機繊維コードの熱収縮率は7.0%であった。
【0038】
<接着力>
接着力は、改質した有機繊維コードをゴム中に埋設し、これを所定の温度、圧力下で加硫した後に、有機繊維コードをゴム中から引き抜くのに要した引張力により評価した。結果は、比較例2の引張力の値を100とする指数にて示した。数値が大なるほど結果が良好である。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
上記表1および2中に示すように、乾燥工程を、有機繊維コードに対するマイクロ波照射と遠赤外線照射との組合せにより行った各実施例においては、いずれか一方により行った比較例と比較して、破断強力等のコード物性を維持しつつ、適正な水分率が効率よく得られていることが確かめられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードを接着剤にディップするディップ工程と、ディップされた該有機繊維コードを乾燥する乾燥工程と、乾燥された該有機繊維コードを改質する熱処理工程とを含む有機繊維コードの改質方法において、
前記乾燥工程で、ディップされた前記有機繊維コードに対し、マイクロ波および遠赤外線を連続して照射することを特徴とする有機繊維コードの改質方法。
【請求項2】
前記マイクロ波の照射時間が、1.5〜3.5秒間である請求項1記載の有機繊維コードの改質方法。
【請求項3】
前記遠赤外線の照射時間が、6〜15秒間である請求項1または2記載の有機繊維コードの改質方法。
【請求項4】
前記マイクロ波の照射出力が、1.5〜7.5kW/mである請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の有機繊維コードの改質方法。
【請求項5】
前記遠赤外線の照射出力が、16〜48kW/mである請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の有機繊維コードの改質方法。
【請求項6】
前記有機繊維コードの水分率が、0.1〜4.0%である請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の有機繊維コードの改質方法。
【請求項7】
前記有機繊維コードとして、緯糸を有しない単線コードを1〜250本にて同時に改質する請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の有機繊維コードの改質方法。

【公開番号】特開2009−235661(P2009−235661A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45172(P2009−45172)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】