説明

有機薄膜の膜厚測定方法

【課題】無機元素を含む膜厚を精度よく測定できる有機薄膜の膜厚測定方法を提供する。
【解決手段】基材の表面に形成され、無機元素を含み、密度が2g/cm以下の有機薄膜40中の無機元素の濃度Cと、標準試料による無機元素の特性X線強度Kとに基づき、有機薄膜に電子線を照射したときの特性X線強度Kを検出し、式1


(ρは有機薄膜の乾燥密度(g/cm);Eは入射電子1個のエネルギー;E(A)は無機元素のK殻の励起エネルギー;Rは無機元素の原子番号補正定数;S’は標準試料の阻止能;U=E/E(A);K=(K/R)/(K/f(x))、但し、Rは薄膜表面の特性X線の発生関数、f(x)は標準試料の吸収補正係数)によって有機薄膜の膜厚ΔZを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂等を含む有機薄膜の膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、牛乳カートン等の飲料用の紙容器として、四角の筒状胴部をヒートシールで密封した、いわゆる切妻屋根型の紙容器(ゲーブルトップ型)が広く使用されている(特許文献1参照)。これらの紙容器において、消費者はヒートシール部を剥して容器を開口し、内容物の注ぎ口として使用する。
ところで、ヒートシールで貼り合わせて密封された紙片同士を剥す際、ヒートシールの接着力が強すぎると、開口が容易ではなく、また開口部がきれいに剥がれず破損したり、ささくれ、更に注ぎ口がきれいに形成されずに内容物がこぼれて不衛生になる等の問題がある。
【0003】
そこで、ヒートシール部となる紙片の貼り合わせ面に、抗接着剤(アブヒーシブ剤)を塗布する技術が開発されている(特許文献2参照)。例えば、このような抗接着剤は、シリコーン樹脂、ポリエチレンワックス、大豆レシチン、高級脂肪酸アマイド等の離型剤と;エチルセルロース、環化ゴム等の基ポリマーと;酢酸エチルやアルコール類等の溶剤と;を組み合わせて調製される。
又、抗接着剤の抗接着度(接着強度)の調整は、離型剤の種類や抗接着剤の塗工量により行われている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−162748号公報
【特許文献2】特開平3−217480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般に抗接着剤は無色透明であるため目視で塗工量を判定することは難しい。従って、通常はヨウ素液を抗接着剤の塗布部に塗布し、発色の度合で塗工量を判定しているが、発色状態から抗接着剤の塗工量や膜厚を定量化するのは困難であった。
塗工層の膜厚を測定する一般的な方法として、断面を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察する方法があるが、抗接着剤の塗工層は厚みが非常に薄く、さらに抗接着剤は有機薄膜であるために顕微鏡で鮮明に映し出されず、膜厚を測定することは難しい。
従って、本発明は、無機元素を含む膜厚を精度よく測定できる有機薄膜の膜厚測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有機薄膜の膜厚測定方法は、特定の無機元素を含まない基材の表面に形成され、前記無機元素を含み、密度が2g/cm以下の有機薄膜の膜厚ΔZを測定する方法であって、
質量割合で表した前記有機薄膜中の前記無機元素の濃度Cと、前記無機元素の単体からなる標準試料による前記無機元素の特性X線強度Kとに基づき、前記有機薄膜に電子線を照射したときの特性X線強度Kを検出し、式1
【数1】

(ρは前記有機薄膜の乾燥密度(g/cm);Eは入射電子1個のエネルギー;E(A)は前記無機元素のK殻の励起エネルギー;Rは前記無機元素の原子番号補正定数;S’は前記標準試料の阻止能;eは電荷量;Nはアボガドロ数;U=E/E(A) ;K=(K/R)/(K/f(x))、但し、Rは薄膜表面の特性X線の発生関数、f(x)は前記標準試料の吸収補正係数)によって前記膜厚ΔZを測定する。
【0007】
前記無機元素はケイ素であり、前記無機元素は前記有機薄膜中に有機ケイ素化合物として含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無機元素を含む有機薄膜の膜厚を精度よく測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の実施形態について説明する。本発明の有機薄膜の膜厚測定方法は、基材の表面に形成された有機薄膜の膜厚を測定するるものである。まず、本発明を好適に適用できる対象の一例として、牛乳カートン等の飲料用の紙容器について説明する。
図1は、紙容器50を示す斜視図であり、図2は、紙容器50の組立て加工前のカートンブランク(基材)を示す展開図である。紙容器50は、公知の切妻屋根型(ゲーブルトップ型)の紙容器であり、表裏面に熱可塑性樹脂を積層した板紙素材を折り畳んでなっている。
【0010】
紙容器50は、4つの胴部パネル4,5,6,7からなる概略四角の有底角筒状をなし、基材をそれぞれ胴部縦折線1,2,3で折り返すことで、各胴部パネル4,5,6,7の角部が形成される。又、胴部パネル7の一辺に縦罫線8を介して縦方向シールパネル9が形成され、縦方向シールパネル9を胴部パネル4の縁に重ね合わせてシールすることで、胴部パネル7と胴部パネル4とを連接して筒状とし、全体として四角の筒状胴部10が形成されている。
【0011】
胴部10のうち、対向する胴部パネル4,6の上端には、頂部横折線11,12を介して互いに対向する一対の切妻屋根形成パネル13,14が連接されている。この一対の切妻屋根形成パネル13,14の上部には、シール横折線15,16を介して外側トップシールパネル17,18が連設されている。また、筒状胴部10の他の対向する胴部パネル5,7の上端には、頂部横罫線19,20を介して互いに対向して一方が注出口になり開封される一対の妻壁形成パネル21,22が連接される。この一対の妻壁形成パネル21,22の上部には、シール横折線23,24を介して内側トップシールパネル25,26が連接されている。
そして、一対の妻壁形成パネル21,22には、胴部パネル5,7との境界となる頂部横折線19,20の両端から、内側トップシールパネル25,26との境界となるシール横折線23,24の中央に繋がるそれぞれ2本の折込線27,28が設けられている。そして、妻壁形成パネル21が2本の折込線27で折られて切妻屋根形成パネル13,14の間に折り込まれる。同様に、妻壁形成パネル22が2本の折込線28で折られて切妻屋根形成パネル13,14の間に折り込まれる。このようにして、紙容器50の胴部10の上部には、切妻屋根型の頂部29が形成されている。
【0012】
さらに、外側トップシールパネル17,18および内側トップシールパネル25,26同士がシールされてトップシール部30が形成される。
ここで、トップシール部30のうち、妻壁形成パネル21側に位置する部分のシール部が剥されて開口され、内容物の注ぎ口となる。従って、注ぎ口としてシールが剥される、外側トップシールパネル17、18及び内側トップシールパネル25のヒートシール部の所定位置に、ヒートシールの接着強度を調整し、剥離を容易にする抗接着剤(アブヒーシブ剤)層40が塗布されている。
【0013】
本発明は、例えば上記した抗接着剤層40(有機薄膜)の膜厚の測定に用いることができる。
上記板紙素材は、表裏面に熱可塑性樹脂を積層した板紙であり、板紙としては、坪量30〜400g/m2程度の液体紙容器用耐酸性原紙を使用できる。又、熱可塑性樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエステル等のヒートシール可能な樹脂を挙げることができる。
なお、詳しくは後述するが、本発明における「基材」とは、有機薄膜に1次電子線を照射して特性X線強度Kを測定する際、1次電子線が有機薄膜を突き抜けて下地に入り込んだ場合の下地をいう。従って、上記板紙素材の熱可塑性樹脂層まで1次電子線が入り込む場合、「基材」とは熱可塑性樹脂層を示すことになる。
又、基材(上記例では熱可塑性樹脂)は、後述する有機薄膜に含まれる無機元素を含まないものとする。例えば、基材として、板紙にポリエチレン(20μm厚程度)をラミネートし、1次電子線がポリエチレン層まで入り込む場合、ポリエチレン層に含まれて特性X線を出す元素はC、O、Hであり、無機元素を含まない。
【0014】
基材の表面に形成される有機薄膜としては、上記した抗接着剤層が例示される。上記実施形態では、抗接着剤層は、離型剤となるシリコーン樹脂と、基ポリマーであるエチルセルロース等のセルロース系樹脂とを含み、効果を損なわない範囲で粘度調整剤や、界面活性剤等助剤等を含んでもよく、シリコーン樹脂中のSiが本発明の「無機元素」に該当する。
又、離型剤としてシリコーン樹脂以外のポリエチレンワックス、大豆レシチン、又は高級脂肪酸アマイド等を用いることができる。さらに、基ポリマーとして環化ゴムを用いることができる。
抗接着剤層は、上記した離型剤、基ポリマーの他、溶剤として例えば酢酸エチルやアルコール類等を配合した塗料を塗布後、乾燥して形成することができる。
【0015】
なお、離型剤としてシリコーン樹脂以外の成分を用いる場合、シリコーン樹脂に起因するSi(無機元素)が抗接着剤層中に存在しない。そこで、このような場合は、抗接着剤層中に無機元素を含む物質(例えば、アルミナ、シリカ)を配合し、無機元素に由来する特性X線強度を検出できるようにする。
又、有機薄膜中の無機元素は、有機薄膜全体の密度が2g/cm以下となるように含有させる。これは、本発明が有機薄膜を突き抜けて下地の基材まで1次電子を照射し、有機薄膜全体の無機元素から発生する特性X線強度を検出するためであり、有機薄膜の密度が2g/cmを超えると、特性X線が有機薄膜を透過できなくなり、膜厚の測定が精度よく行えないからである。
なお、上記した有機薄膜中の無機元素の濃度は、後述するCを百分率(%)で表したものである。
【0016】
次に、測定方法の詳細について説明する。
まず、上記した有機薄膜に1次電子を照射し、発生する特性X線強度を検出する。この方法は、エネルギー分散型X線分光法といい、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー)で測定を行うことが可能である。
ここで、本発明は、有機薄膜を突き抜けて下地の基材まで1次電子を照射し、有機薄膜全体の無機元素から発生する特性X線強度を検出する。そのため、下地の基材に1次電子が入り込むよう、1次電子の加速電圧を調整する。例えば、上記抗接着剤層の膜厚は約2〜3μm程度と考えられ、又、基材(ポリエチレン)の密度が0.9g/cmであることから、加速電圧を15kVとすれば1次電子は約10μmの深さまで侵入することになる。このようなことから、加速電圧を15kVとすることが好ましい。
【0017】
又、本発明においては、予め、質量割合で表した有機薄膜中の無機元素の濃度Cを、既知値として取得しておく。本発明を、例えば有機薄膜の塗工量の工程管理に用いる場合、有機薄膜の塗料の組成等は既知であるので、濃度Cを予め知ることができる。
ここで、C=(有機薄膜中の無機元素の質量)/(有機薄膜の質量)で表される。
さらに、本発明においては、予め上記した無機元素の単体からなる標準試料をエネルギー分散型X線分光法で測定しておき、標準試料による無機元素の特性X線強度Kを得ておく。
【0018】
そして、有機薄膜に電子線を照射したときの特性X線強度Kを検出し、式1
【数1】

によって前記膜厚ΔZを求める。
ここで、ρは有機薄膜の乾燥密度(g/cm);Eは入射電子1個のエネルギー;EK(A)は前記無機元素のK殻の励起エネルギー;Rは前記無機元素の原子番号補正定数;S’は前記標準試料の阻止能;eは電荷量;Nはアボガドロ数;U=E/E(A) ;K=(K/R)/(K/f(x))、但し、Rは有機薄膜表面の特性X線の発生関数、f(x)は前記標準試料の吸収補正係数である。
又、得られたΔZの単位はcmである。
【0019】
式1は、公知の式(Philbert-Tixier法)を変形して、ΔZについて記述したものである。ここで、Philbert-Tixier法は、薄膜のEPMA分析において、元素A,Bの相対濃度を求める式である。通常、Philbert-Tixier法では、元素A,Bについてそれぞれ上記式1を立て、両者の比を取ることで未知のρ及びΔZを消去し、元素A,Bの相対濃度を求めている(日本表面科学会編、「電子プローブ・マイクロアナライザー」丸善、94頁、平成10年発行)。
一方、本発明においては、上記したようにρが既知であり、又、濃度Cも既知であることを利用し、ΔZを逆に求めている。又、本発明を適用する有機薄膜は、特性X線強度を測定する無機元素を含んだ状態で、薄膜の密度が2g/cm以下であるため、1次電子線が有機薄膜を貫通し、有機薄膜全体の無機元素の量を測定できる。そのため、既知の濃度Cと、得られた無機元素の特性X線強度とから、ΔZを逆算できる。これに対し、従来EPMAで一般に測定されてきた金属材料等は、無機元素が100%含まれ、密度が2g/cmを超えるため(たとえば、無機元素がケイ素の場合は、シリコン板)、表面の特性X線強度しか得られず、膜厚を精度よく測定することはできない。
有機薄膜の密度は、有機薄膜の材料物質の重量と体積とを測定して計算することができる。また、実質的には、有機薄膜を構成する主成分である物質(例えば上述した基ポリマー)の密度を有機薄膜の密度とみなしてもよく、得られる密度の値にほとんど差は生じない。
【0020】
又、本発明においては、予め標準試料により特性X線強度Kを測定しておくことで、式1に含まれる各種の係数を算定できるようにしている。
例えば、S’は、標準試料の阻止能を示し、式2
【数2】

で表される。ここで、Zは対象とする無機元素の原子番号;Aは対象とする無機元素の原子量;W=1.116×E(A)/(11.5×Z)である。
【0021】
又、Rは有機薄膜表面の特性X線の発生関数(電子線の背面散乱効果の係数)であり、式3
=1+2.8(1−0.9/U)×η (3)
で表される(Reuterの式)。ここで、η=−0.0254+0.016Z−0.000186Z+8.3×10-7×Z3であり;Zは有機薄膜の直下の基材を構成する物質の原子番号;但し、基材が化合物の場合、η=ΣCiηiで表され、各化合物のηiをモル分率Ciで加重平均したものとなる。
例えば、上記実施形態のように、有機薄膜の基材がポリエチレンの場合、ポリエチレンはCnH2n+2で表されるから、CとHの重量組成比は約12:2となる(nが大きい場合)。従って、CとHについてηiを求め、モル分率Ciで加重平均してポリエチレンのηが得られる。
により、有機薄膜の直下の基材に含まれる物質に応じて、Kが補正される。
【0022】
f(χ)は、標準試料の吸収補正係数であり、Philbertの方法やφ(ρz)の方法を適用すると、式4
【数3】

で表される。ここで、h=1.2(定数)×A/{(Z};σ=4.5×105/(EO1.65−EC1.65);χ=μ/ρcosecφで表される。なお、μ/ρは質量吸収係数で、物質固有の値である。φはX線取り出し角度、σはレナード常数、EO は加速電圧、EC は最小励起電圧である。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に明示しない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0024】
<ゲーブルトップ型紙容器の製造>
容器の外側の面から見て、ポリエチレン樹脂層20μm/晒クラフト紙330g/m/ポリエチレン樹脂層60μmの構成からなる積層体を板紙素材として使用し、これを打ち抜いて、図2に示す紙容器用ブランクを複数枚作製した。次に、抗接着剤(H141 東洋インキ製造株式会社製、固形分18質量%;シリコーン樹脂とセルロース系樹脂とを含みこれらの固形分を示す)を用い、ブランクの所定の場所(図1の符号40の位置)にフレキソ印刷で塗布した。
次に、このブランクを製函機で折り曲げ罫線押し圧加工、及びサイドシール加工し、カートンブランクにした後、外側トップシールパネル17,18および内側トップシールパネル25,26同士をヒートシールし、トップシール部30を形成し、図1に示す紙容器50を製造した。
【0025】
<開封力の測定>
上記紙容器50のトップシール部30のうち、抗接着剤層40を介してシールを行った部分(妻壁形成パネル21側)の開封力を、JIS-S-0022(「高齢者/障害者配慮設計指針−包装・容器−開封性試験方法、屋根型紙パック引きはがし試験」に準じて測定した。
【0026】
<EPMA用測定試料の作製>
上記した紙容器用ブランクの製造の際、フレキソ印刷の印圧を変更することによって抗接着剤層40の塗布量を調整したブランク1〜3をそれぞれ作製した。これらのブランク1〜3を製函せず、ブランク1〜3につき、それぞれ抗接着剤層40を形成した部分から約5mm×5mmの大きさの測定試料を板紙素材とともに切り出し、測定試料1〜3とした。
なお、各ブランク1〜3につき、測定試料1〜3をそれぞれ6点採取した。
【0027】
<特性X線強度の測定>
まず、ケイ素標準物質(日本電子社製)を電子顕微鏡(走査型電子顕微鏡JSM5610LV、元素分析装置JED2200、共に日本電子株式会社製)の測定室内にセットし、ケイ素の特性X線強度を測定した。入射電圧を15kevとした。入射電圧を15kevとすれば、1次電子は約10μmの深さまで侵入することになるが、ポリエチレン樹脂層(密度0.9g/cm)の厚みが20μmであるので、1次電子はポリエチレン樹脂層まで侵入する。従って、ポリエチレンを基材とみなした。
X線強度の測定値は、バックグランドを差し引いたネット値とした。なお、ケイ素標準物質は、直径2mm、長さ1cmのパイプの先端中に標準物質(ケイ素)が埋めこまれているものを用いた。
次に、上記測定試料1〜3を上記電子顕微鏡の測定室内にセットし、同様にして、ケイ素の特性X線強度を測定した。測定試料1〜3のケイ素の特性X線強度は、6点の試料を測定した平均値とした。
【0028】
そして、式1により、各測定試料1〜3における抗接着剤層40の膜厚(ΔZ)を計算した。
なお、式1中、ρ=1.1g/cm;E=15×103×1.6022×10-19×107erg;E(A)=1.838kev=1.838×103×1.6022×10-19×107erg(ケイ素のK殻の励起エネルギー);R=0.91;S’=0.2074;e=1.6022×10-19C=4.8032×10-10esu;N=6.02×1023;U=E/E(A) =15/1.838=8.1610とした。
但し、R=は、1/U=0.123の値と、ケイ素の原子番号との関係に基づき、所定のグラフ(Values of R as a function of z and 1/U)から求めた。又、S’は、W=13.22として式2から計算した。
【0029】
一方、Rの計算に当り、基材をポリエチレン(CnH2n+2)とし、CとHの重量組成比を12:2とした。そして、ηC=−0.0254+0.016(6)−0.000186(6)+8.3×10-7(6)3=0.061、ηH=−0.0254+0.016(1)−0.000186(1)+8.3×10-7(1)3=−0.0096とし、ηポリエチレン=12/14ηC+2/14ηH=0.0509を得た。この値を式3に代入し、R=1+2.8(1−0.9/U)η=1+2.8(1−0.9/8.161)×0.0509=1.127とした。
又、f(χ)の計算に当り、h=1.2×28.09/{14}=0.172;σ=4.5×10-5×(E1.65−E(A) 1.65)=5.9269×10;χ=655.8とした。式4より、f(χ)=0.8746となった。
【0030】
得られた結果を表1に示す。なお、Cは、シリコーン樹脂とセルロース系樹脂とを含有する上記抗接着剤(H141)の固形分を元素分析してケイ素相対濃度を測定し、その結果から抗接着剤中のケイ素の含有率を測定して求めた。
又、抗接着剤層の密度ρは、抗接着剤を乾燥固化し、その重量と体積を測定して求めた。
そして、上記したX線強度の測定値から、式1を変形してΔZ×ρ×Cを示す値(式5)
【数4】

が得られるので、式5の値と、C及びρの実測値を式1に入れ、ΔZを算出した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から、本発明の方法によって計算したΔZが薄いほど開封力が大きく、これは実際に抗接着剤層40の塗布量が少ないほど開封し難いという事実に適合している。つまり、本発明の方法によって、基材を除去せずに抗接着剤層40の膜厚を算出できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を適用する対象の一例である紙容器を示す斜視図である。
【図2】紙容器の組立て加工前のカートンブランク(基材)を示す展開図である。
【符号の説明】
【0034】
30 トップシール部
40 抗接着剤層(有機薄膜)
50 紙容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の無機元素を含まない基材の表面に形成され、前記無機元素を含み、密度が2g/cm以下の有機薄膜の膜厚ΔZを測定する方法であって、
質量割合で表した前記有機薄膜中の前記無機元素の濃度Cと、前記無機元素の単体からなる標準試料による前記無機元素の特性X線強度Kとに基づき、前記有機薄膜に電子線を照射したときの特性X線強度Kを検出し、式1
【数1】

(ρは前記有機薄膜の乾燥密度(g/cm);Eは入射電子1個のエネルギー;E(A)は前記無機元素のK殻の励起エネルギー;Rは前記無機元素の原子番号補正定数;S’は前記標準試料の阻止能;eは電荷量;Nはアボガドロ数;U=E/E(A) ;K=(K/R)/(K/f(x))、但し、Rは薄膜表面の特性X線の発生関数、f(x)は前記標準試料の吸収補正係数)によって前記膜厚ΔZを測定する有機薄膜の膜厚測定方法。
【請求項2】
前記無機元素はケイ素であり、前記無機元素は前記有機薄膜中に有機ケイ素化合物として含まれている請求項1に記載の有機薄膜の膜厚測定方法。

【図1】
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【図2】
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