説明

有機薄膜太陽電池用薄膜の製造方法

【課題】アセン系化合物を用いて、大面積化が容易であり、低コスト化が可能となる塗布法によって、効率の良い有機薄膜太陽電池を与える有機薄膜太陽電池用薄膜を製造する方法を提供する。
【解決手段】電極が形成された基板と、p型有機半導体と、n型有機半導体とを有する有機薄膜太陽電池用薄膜を製造する方法であって、1)電極が形成された基板の該電極上に、直接又は有機層を介して、1種以上のアセン系化合物を含むp型有機半導体塗布液を塗布し、塗布時及び/又は塗布後の基板温度を40℃以上に設定することによってp型有機半導体層を成膜するp型層形成工程、並びに2)該p型有機半導体層の上に、1種以上のn型有機半導体を含むn型有機半導体塗布液を塗布して薄膜を作製する薄膜形成工程を含む、有機薄膜太陽電池用薄膜の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセン系化合物を用いる、有機薄膜太陽電池用薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池に関しては、Tangによって報告(非特許文献1)されて以来、活発に研究開発が行なわれている。一般に、有機薄膜太陽電池に用いられる有機半導体薄膜は、低分子系有機物を用いる薄膜と高分子系有機物を用いる薄膜との2つに分けられる。低分子系有機物を用いた薄膜の製造方法としては真空蒸着が一般的である。しかし、蒸着法では、真空中で製膜するため大面積化が難しく、材料の利用効率も十分ではない。
【0003】
一方、高分子系有機物を用いた薄膜の製造方法としては各種印刷法を用いることができる。各種印刷法としては、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。これらによれば大気圧での製膜が可能であり、蒸着法に比べ大面積化が容易である。また、材料の利用効率も高いためにコスト面で有利である。
【0004】
近年、p型有機半導体とn型有機半導体とが混合された形態となっているバルクへテロ構造が盛んに研究されている。低分子系有機物を用いる場合は、主に共蒸着によって、バルクへテロ構造を作製できる。例えば、非特許文献2に記載されているように亜鉛フタロシアニンとC60フラーレンにて3.6%の変換効率を達成している。
【0005】
また、アセン系化合物を用いた太陽電池の研究もされている。例えば、特許文献1及び2には、アセン系化合物を用いた太陽電池について記載されているが、p型半導体膜とn型半導体膜とを塗布法にて作製する具体的な条件について記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2005/119794号パンフレット
【特許文献2】特開2007−335760号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C.W.Tang,Appl.Phys.Lett.,48,p.183(1986)
【非特許文献2】T.Tajima,S.Toyoshima,K.Hara,K.Saito,and K.Yase,Jpn.J.Appl.Phys.,45,L217(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アセン系化合物を用いて、大面積化が容易であり、低コスト化が可能となる塗布法によって、効率の良い有機薄膜太陽電池を与える有機薄膜太陽電池用薄膜を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記のような問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1]電極が形成された基板と、p型有機半導体と、n型有機半導体とを有する有機薄膜太陽電池用薄膜を製造する方法であって、
1)電極が形成された基板の該電極上に、直接又は有機層を介して、1種以上のアセン系化合物を含むp型有機半導体塗布液を塗布し、塗布時及び/又は塗布後の基板温度を40℃以上に設定することによってp型有機半導体層を成膜するp型層形成工程、並びに
2)該p型有機半導体層の上に、1種以上のn型有機半導体を含むn型有機半導体塗布液を塗布して薄膜を作製する薄膜形成工程
を含む、有機薄膜太陽電池用薄膜の製造方法。
【0011】
[2]上記アセン系化合物が、下記化学式(1):
【化1】

{式中、R1〜R10は、各々独立して、水素原子を表すか、又は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン基、アシル基、エステル基、エーテル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、シリル基及び光反応性基からなる群から選択される1つ以上の基を含む官能基を表し、R1〜R10のうち少なくとも1つは水素原子以外であり、そしてnは2〜7の整数である。}で表される1種以上の化合物である、上記[1]に記載の有機薄膜太陽電池用薄膜の製造方法。
【0012】
[3]上記アセン系化合物が、ペンタセン、ペンタセン誘導体、テトラセン及びテトラセン誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物である、上記[1]又は[2]に記載の有機薄膜太陽電池用薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法に従って塗布液を用いて太陽電池用薄膜を製造することにより、該薄膜を用いて低コストで簡単に効率の高い太陽電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の製造方法を用いて作製される有機薄膜太陽電池の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための典型的な形態について詳細に説明する。本発明は、電極が形成された基板と、p型有機半導体と、n型有機半導体とを有する有機薄膜太陽電池用薄膜を製造する方法であって、1)電極が形成された基板の該電極上に、直接又は有機層を介して、1種以上のアセン系化合物を含むp型有機半導体塗布液を塗布し、塗布時及び/又は塗布後の基板温度を40℃以上に設定することによってp型有機半導体層を成膜するp型層形成工程、並びに2)該p型有機半導体層の上に、1種以上のn型有機半導体を含むn型有機半導体塗布液を塗布して薄膜を作製する薄膜形成工程、を含む、有機薄膜太陽電池用薄膜の製造方法を提供する。
【0016】
<p型有機半導体及びn型有機半導体>
本発明において用いるp型有機半導体塗布液中に含まれるアセン系化合物とは、複数のベンゼン環が縮合してなる構造を有する化合物である。本発明において用いるアセン系化合物の好ましい例としては、下記化学式(1):
【0017】
【化2】

{式中、R1〜R10は、各々独立して、水素原子を表すか、又は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン基、アシル基、エステル基、エーテル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、シリル基及び光反応性基からなる群から選択される1つ以上の基を含む官能基を表し、R1〜R10のうち少なくとも1つは水素原子以外であり、そしてnは2〜7の整数である。}で表される1種以上の化合物が挙げられる。
【0018】
上記化学式(1)において、脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。ハロゲン基としては、フッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基等が挙げられる。アシル基としてはベンゾイル基等が挙げられる。光反応性基としては、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、シンナミル基、ブタジイニル基、スチリル基、イソペンタジエニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキサジエニル基等が挙げられる。上記官能基は、上述した基のうち1つ又は2つ以上を含むものであることができ、該基のうち2つ以上を含む官能基としては、ベンジル基やトリイソプロピルシリルエチニル基などを含む基が挙げられる。
【0019】
アセン系化合物は、変換効率が高い有機薄膜太陽電池用薄膜を製造できる点で、ペンタセン、ペンタセン誘導体、テトラセン及びテトラセン誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物であることが好ましい。特に好ましいアセン系化合物としては、テトラセン(分子量228)、ペンタセン(分子量278)、6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(下記化学式(2):
【0020】
【化3】

で表される構造、分子量639)、2−ヘキシルペンタセン(分子量362)、2−ヘキシルテトラセン(分子量312)等が挙げられる。これらは変換効率が高い有機薄膜太陽電池用薄膜を製造できる点で特に好ましい。
【0021】
本発明において用いるp型有機半導体塗布液は、上述のアセン系化合物以外のp型有機半導体を含有してもよい。p型有機半導体としては、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(1−ナフチル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPD、分子量588)、N,N’−ジフェニル−N、N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD、分子量516)、1,3,5−トリス(3−メチルジフェニルアミノ)ベンゼン(m−MTDATA、分子量788)、等の芳香族アミン系材料が挙げられる。また、その他にも、銅フタロシアニン(CuPc、分子量576)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc、分子量578)等のフタロシアニン系錯体、ポリフィリン系化合物、ペリレン系誘導体、イミダゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、スチルベン誘導体、ポリアリールアルカン誘導体等が挙げられる。また、チオフェンの誘導体、ポリフェニルビニレン(PPV)の誘導体などが挙げられる。チオフェンの誘導体として、具体的には、P3HT(Poly(3−hexylthiophene−2,5−diyl))、P3OT(Poly(3−octylthiophene−2,5−diyl))、P3DDT(Poly(3−dodecylthiophene−2,5−diyl))が挙げられる。
【0022】
次に、本発明において用いるn型有機半導体塗布液中に含有させるn型有機半導体としては、フッ素化アセン系化合物、フラーレン系化合物、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体等が挙げられる。太陽電池に良好な効率を発現させることができる点で、フラーレン系化合物及びペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体が特に好ましい。より具体的には、C60フラーレン(分子量721)、C60フラーレン誘導体、C70フラーレン(分子量841)、C70フラーレン誘導体、及びペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体、フッ素化アセン系化合物が、太陽電池に良好な効率を発現させることができる点で特に好ましい。
【0023】
C60フラーレン誘導体としては、下記化学式(3):
【0024】
【化4】

で表されるもの([6,6]−PhenylC61butyric acid methyl ester、分子量911)が好ましく、C70フラーレン誘導体としては、下記化学式(4):
【0025】
【化5】

で表されるもの([6,6]−PhenylC71butyric acid methyl ester、分子量1031)が好ましく、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体としては、下記化学式(5):
【0026】
【化6】

で表されるもの(N、N‘−Dioctyl−3,4,9,10−perylenedicarboximide,分子量617)が好ましい。
【0027】
フッ素化アセン系化合物としては、フッ素化ペンタセン(分子量530)が好ましく、下記化学式(6):
【化7】

で表されるものが好ましい。
【0028】
<p型有機半導体塗布液及びn型有機半導体塗布液>
本発明において用いるp型有機半導体塗布液は、1種以上のアセン系化合物が、溶解又は分散又は溶解と分散とが混在した状態で含有されている塗布液である。より具体的には、アセン系化合物として、ペンタセン、ペンタセン誘導体、テトラセン及びテトラセン誘導体からなる群から選択される1種以上を含むことが太陽電池の良好な効率を発現する上で好ましい。
【0029】
本発明において用いるn型有機半導体塗布液は、1種以上のn型有機半導体が、溶解又は分散又は溶解と分散とが混在した状態で含有されている塗布液である。具体的には、特に限定はしないが、n型有機半導体として、フッ素化アセン系化合物、C60フラーレン(分子量721)、C60フラーレン誘導体、C70フラーレン(分子量841)、C70フラーレン誘導体、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体からなる群から選択される1種以上を含むことが太陽電池の良好な効率を発現する上で好ましい。
【0030】
本発明において用いるp型有機半導体塗布液及びn型有機半導体塗布液(以下、これらを纏めて単に「塗布液」ともいう。)は、通常溶媒を含有し、溶媒は典型的には有機溶媒である。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン(デカリン)、テトラリン、1−メチルナフタレン等の炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、また、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の極性溶媒等が挙げられる。これら有機溶媒を単独で、又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0031】
本発明において用いる塗布液には、分散性及び成膜性を向上させる目的で、添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、特に限定はなく、例えばアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤、シリコン系の添加剤等を使用することができる。添加剤の添加量としては、分散安定性及び成膜性の向上と変換効率とのバランスの観点から、p型又はn型の有機半導体塗布液100質量%に対し、0.000001質量%〜1質量%が好ましい。
【0032】
上記アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、スルホン酸基又は硫酸エステル基と重合性の不飽和二重結合とを分子中に有する、いわゆる反応性界面活性剤等が挙げられる。
【0033】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、及び、これらの骨格と重合性の不飽和二重結合とを分子中に有する反応性ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0034】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0035】
また、シリコン系の添加剤としてはポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0036】
本発明において用いる塗布液は、例えば以下のいずれかの方法で調製できる。
1)p型又はn型の有機半導体と該有機半導体に適した有機溶媒とを選択し、有機半導体と有機溶媒とを混合、攪拌して塗布液を調製する方法。
2)有機半導体と該有機半導体に適した有機溶媒とを選択し、有機半導体と有機溶媒とを混合し、ボールミル又はホモジナイザーを用いて塗布液を調製する方法。
3)上記1)又は2)の方法で調製した塗布液中の有機溶媒を別の溶媒で置換して、塗布液を調製する方法。
【0037】
上記1)から3)の方法において、用いる有機半導体は1種類でも2種類以上でもよく、有機溶媒も1種類でも2種類以上を混合して使用してもよい。また、上記1)から3)の方法にて調製した塗布液を混合して使用することもできる。上記1)から3)の方法で塗布液を調製する場合、有機半導体の溶液又は分散液の温度を40℃以上にすることで、有機半導体の溶媒への溶解が進み、太陽電池用の塗布液として適した液となる。溶液又は分散液を加温する場合、塗布液の調製中(例えば攪拌中若しくはボールミル作業中若しくはホモジナイザー作業中)又はそれらの作業の終了後でもよいが、塗布液の調製を開始する時点から加温した方がより均一な塗布液を調製でき好ましい。塗布液中の有機半導体の濃度は、適切な膜厚の半導体層を作製し、太陽電池の高い効率を得ることができる点で、0.01質量%以上20質量%以下が好ましく、0.05質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0038】
<有機薄膜太陽電池の構成>
図1に、本発明の製造方法を用いて作製される有機薄膜太陽電池の構成の一例を示す。図1に示す構成の有機薄膜太陽電池においては、基板1上に、電極2、p型有機半導体層3、n型有機半導体層4及び電極5が形成されている。基板1は、図1では電極2側に存在する(すなわち基板1、電極2、p型有機半導体層3及びn型有機半導体層4が本発明に係る有機薄膜太陽電池用薄膜を構成する)が、電極2側と電極5側との両方に基板が存在してもよい。
【0039】
基板1としては、ガラス基板、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PP(ポリプロピレン)のようなプラスチックの基板、アルミ基板、ステンレス(SUS)基板、紙基板等の通常用いられるあらゆる基板が挙げられる。ただし、太陽電池が基板側から光を取り入れる場合は、透明な基板を選ぶ必要がある。
【0040】
電極2としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO、亜鉛酸化物とも言う。)、酸化スズ(SnO2、スズ酸化物とも言う。)、酸化インジウム(In23、インジウム酸化物とも言う。)、酸化チタン(TiO2、チタン酸化物とも言う。)等が挙げられる。これらは、通常、結晶格子のところどころが欠けたいわゆる格子欠陥を多く有する。つまり、電極2は、通常、酸素欠陥状態で製造され、それによって余剰電子が生成し、光半導性を示すことになる。したがって、電極2の製造時には、酸素の供給量を抑制する還元焼成、又はある種のドーパントの添加によって積極的に空孔の形成を促進させてもよい。
【0041】
ドーパントとしては、電極2が酸化亜鉛の場合はアルミニウム(Al)やガリウム(Ga)が使用される。また、電極2が酸化スズの場合はアンチモン(Sb)(又は酸化アンチモン)が使用される。また、電極2が酸化チタンの場合はニオブ(Nb)が用いられる。また、電極2が酸化インジウムの場合はスズ(Sn)(酸化スズ)が使用され、この場合に形成される酸化スズインジウム(ITO、インジウム・スズ酸化物ともいう。)は、透明導電性材料として利用される。前記したすべての金属の酸化物も好ましく使用できる。また、金、白金等の金属も使用できる。また、PEDOT:PSS(ポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホン酸)といった導電性ポリマーの使用も可能である。太陽電池が電極2側から光を取り入れる場合は、電極2としては透明なものが好ましい。
【0042】
本発明においては、電極2が形成された基板1として、例えば、ITO付きガラス基板を好ましく使用できる。
【0043】
電極2の上には、p型有機半導体層3とn型有機半導体層4とが形成される。p型有機半導体層3とn型有機半導体層4との層の界面は、ミキシングにより、p型有機半導体とn型有機半導体とが混在していてもよい。また、p型有機半導体層3とn型有機半導体層4が完全にミキシングし、p型有機半導体とn型有機半導体とが混在していてもよい。また、電極2とp型有機半導体層3との間にホール側のバッファ層を導入してもよい。ホール側のバッファ層としては、前記のPEDOT:PSSやアセン系化合物を用いることができる。また、n型有機半導体層4と電極5との間に電子側のバッファ層を導入しても良い。電子側のバッファ層としては、BAlq((p−フェニルフェノラート)アルミニウム(III))、BCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、又はバソクプロイン)、TAZ(3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール)等が挙げられる。
【0044】
電極5としては、リチウム、リチウム−インジウム合金、カルシウム、マグネシウム、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、インジウム、ルテニウム、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−カルシウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金、ITO,IZO等が挙げられる。これらの電極物質は単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。太陽電池が電極5側から光を取り入れる場合、電極5の材料は透明であることが好ましい。また、n型有機半導体層4と電極5との間、又は電極5とバッファ層との間に、フッ化リチウム等を蒸着してもよい。
【0045】
<有機薄膜太陽電池用薄膜の製造工程>
本発明においては、前述したようなp型有機半導体塗布液及びn型有機半導体塗布液をそれぞれ用い、p型層形成工程においてp型有機半導体層を形成し、その後、n型有機半導体塗布液を塗布して薄膜を作製する。塗布液の塗布方法としては、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、浸漬法、スプレー法、凸版印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、スクリーン印刷法等の方法が挙げられる。しかし塗布方法はこれらに限らず通常用いられるあらゆる塗布方式を利用できる。
【0046】
まず、p型層形成工程においては、電極が形成された基板の該電極上に、直接又は任意に有機層を介してp型有機半導体塗布液を塗布する。有機層としては、PEDOT:PSS等が挙げられる。塗布時及び/又は塗布後の基板温度は40℃以上に設定する。基板を40℃以上に加熱することによって、良好な効率を発現する太陽電池を作製することができる。理論に拘束されることを望まないが、基板を加熱することによってp型有機半導体の膜質が変化し、太陽電池の良好な効率に寄与すると推定される。また、基板温度が40℃未満の場合、有機半導体の種類によっては、溶媒の乾燥前に結晶が析出し、適切な薄膜が形成できない。結晶性のアセン系化合物において、40℃以上に加熱する効果が重要である。さらに塗布時及び/又は塗布後の基板温度は50℃以上に設定することが好ましく、100℃以上に設定することがより好ましい。塗布時及び塗布後の基板温度は、250℃以下であることが好ましい。
【0047】
例えばアセン系化合物としてペンタセンを用いる場合、基板の温度でペンタセン結晶の形態が変化するので、温度制御が太陽電池の性能発現において重要である。また、本発明においてはn型有機半導体を含む薄膜も塗布法で作製するため、下地となるp型有機半導体層の結晶状態は、P/N接合の界面の面積に変化を及ぼす。本発明の製造方法においては、例えば以下の方法によってP/N接合界面を増大させ、太陽電池の効率向上に寄与することができる。
【0048】
1)p型有機半導体層が、次に塗布されるn型有機半導体塗布液の溶媒に溶解する場合には、下地であるp型有機半導体層膜の表面が溶媒によって侵食される。その結果、バルクへテロ接合のような状態を形成することができる。
2)p型有機半導体塗布液の温度制御と基板の温度制御とにより、p型有機半導体層の膜質をコントロールすることができる。その結果、p型有機半導体層の表面を不均一にすることができるため、下地のp型有機半導体層がn型有機半導体塗布液の溶媒に実質的に溶解しない場合には、p型有機半導体層の表面形状がそのまま素子構造に反映される。これによりP/N接合の接触面積が大きくなり、太陽電池特性が良好となる。
【0049】
さらに上記1)と2)とを組合せることも可能である。例えば、p型有機半導体層がn型有機半導体塗布液の溶媒にわずかに溶解する場合には、上記1)及び2)の方法によって、p型有機半導体層の表面を不均一にしてp型有機半導体層とn型有機半導体層との接触界面を大きくし、なおかつバルクへテロ構造を付与することもできる。
【0050】
さらに、本発明においては、n型有機半導体塗布液中にもアセン系化合物を含有させることによって、1液でバルクへテロ構造を形成することができる。具体的には、p型層形成工程においてp型有機半導体層を成膜した後、薄膜形成工程において、アセン系化合物とn型有機半導体とを含有する混合液をn型有機半導体塗布液として塗布し、薄膜を作製する。この塗布においても塗布時及び/又は塗布後に基板を40℃以上に加熱する。これによりバルクへテロ接合を形成することができる。すなわちこの態様においては、薄膜形成工程において形成される薄膜が、アセン系化合物によるp型領域とn型有機半導体によるn型領域とからなるバルクヘテロ構造を有する層となる。
【0051】
本発明において、p型層形成工程において形成されたp型有機半導体層の膜厚としては、5nm以上5μm以下が好ましい。さらに該膜厚としては、5nm以上3μm以下がより好ましく、10nm以上2μm以下がさらに好ましい。該膜厚が5nm以上、5μm以下である場合、効率が良好である。また、薄膜形成工程を完了させた後の、p型有機半導体層と該薄膜との合計膜厚としては、10nm以上7μm以下が好ましい。該合計膜厚としては、20nm以上、5μm以下がより好ましく、30nm以上、3μm以下がさらに好ましい。該合計膜厚が10nm以上、7μm以下である場合変換効率が良好である。なお、上記の各厚みは、触針式段差膜厚計、デジタルマイクロスコープ、光干渉を用いた顕微鏡、透過型電子顕微鏡のいずれか1種以上を用いて測定される値である。
【実施例】
【0052】
以下、具体的な実施例により、本発明の製造方法について詳細に説明する。
[実施例1]
(1)工程1:アセン系化合物を含むp型有機半導体塗布液の調製
ペンタセン(東京化成工業(株)製)と1−メチルナフタレンとを混合し、0.08質量%の塗布液を調製した。さらにこの塗布液に対して、ポリジメチルシロキサンを15ppm添加した。この塗布液を窒素雰囲気下にて200℃のホットプレート上にて1時間攪拌した。
【0053】
(2)工程2:p型有機半導体層の作製
ITO電極付きガラス基板を200℃のホットプレート上に置いた。ここで、ITO電極付きガラス基板としては、2−プロパノール及び水にて洗浄後、UVオゾン処理にてドライ洗浄したものを使用した。この基板をホットプレート上で5分以上放置した後、窒素雰囲気下で上記(1)にて調製したペンタセン塗布液を滴下し、塗布後、200℃のホットプレート上に30分間置き、ペンタセンからなるp型有機半導体層を作製した。ペンタセンからなるp型有機半導体層の厚みを光干渉を用いた顕微鏡(Vert Scan2.0/株式会社菱化システム)で測定したところ、30nmから100nmの間であった。
【0054】
(3)工程3:n型有機半導体塗布液を塗布することによる薄膜の作製
60PCBM(SIGMA−ALDRICH社製:[6,6]−PhenylC61butyric acid methyl ester)とクロロホルムとを混合し、0.1質量%塗布液を調製した。この塗布液を室温で1時間攪拌した。この塗布液を窒素雰囲気下、室温にて、上記(2)で作製したp型有機半導体層の上に塗布した後、室温にて薄膜を形成した。その後、100℃で20分間乾燥させ、ペンタセン(p型有機半導体)と60PCBM(n型有機半導体)からなる薄膜を作製した。該薄膜の厚み(p型有機半導体とn型有機半導体を合わせた厚み)を上記(2)と同じ方法で測定したところ、150nmから250nmの間であった。以上により有機薄膜太陽電池用薄膜を作製した。
【0055】
(4)工程4:電極の形成
上記(3)で形成した薄膜の上にアルミニウム電極を蒸着し、有機薄膜太陽電池を作製した。
【0056】
[比較例1]
(1)工程1:アセン系化合物を含むp型有機半導体塗布液の調製
ペンタセン(東京化成工業(株)製)と1−メチルナフタレンとを混合し、0.08質量%の塗布液を調製した。さらにこの塗布液に対して、ポリジメチルシロキサンを15ppm添加した。この塗布液を窒素雰囲気下にて200℃のホットプレート上にて1時間攪拌した。
【0057】
(2)工程2:p型有機半導体層の作製
ITO電極付きガラス基板を2−プロパノール及び水にて洗浄後、UVオゾン処理にてドライ洗浄した。そのITO電極付きガラス基板の上に室温にて、上記(1)の塗布液を滴下した。その結果、滴下から2時間経過しても、溶媒が乾燥せず、さらに溶媒中にペンタセンの微結晶が多数析出したため、電極を覆うような連続な膜を作製することが困難となり、有機薄膜太陽電池の作製はできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、大面積化が容易であり、低コスト化が可能となる塗布法にて、変換効率が高い有機薄膜太陽電池を与える有機薄膜太陽電池用薄膜を製造することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 基板
2,5 電極
3 p型有機半導体層
4 n型有機半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極が形成された基板と、p型有機半導体と、n型有機半導体とを有する有機薄膜太陽電池用薄膜を製造する方法であって、
1)電極が形成された基板の該電極上に、直接又は有機層を介して、1種以上のアセン系化合物を含むp型有機半導体塗布液を塗布し、塗布時及び/又は塗布後の基板温度を40℃以上に設定することによってp型有機半導体層を成膜するp型層形成工程、並びに
2)該p型有機半導体層の上に、1種以上のn型有機半導体を含むn型有機半導体塗布液を塗布して薄膜を作製する薄膜形成工程
を含む、有機薄膜太陽電池用薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記アセン系化合物が、下記化学式(1):
【化1】

{式中、R1〜R10は、各々独立して、水素原子を表すか、又は、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン基、アシル基、エステル基、エーテル基、アミノ基、アミド基、シアノ基、シリル基及び光反応性基からなる群から選択される1つ以上の基を含む官能基を表し、R1〜R10のうち少なくとも1つは水素原子以外であり、そしてnは2〜7の整数である。}で表される1種以上の化合物である、請求項1に記載の有機薄膜太陽電池用薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記アセン系化合物が、ペンタセン、ペンタセン誘導体、テトラセン及びテトラセン誘導体からなる群から選択される1種以上の化合物である、請求項1又は2に記載の有機薄膜太陽電池用薄膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−9622(P2011−9622A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153606(P2009−153606)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】