説明

有機酸を高産生するための組換え微生物米国政府の援助に関する記載本発明は、エネルギー省によって授与された協力契約番号(CooperativeAgreementNo.)DE−FC36−02GO12001において米国政府から援助を受けてなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。

有機酸を産生するための組換え微生物を開示する。この組換え微生物は、ペントースリン酸サイクルにおいて利用される酵素の酵素活性を有するポリペプチドを発現する。この組換え微生物としては、Zwischenferment(Zwf)遺伝子を発現するように形質転換された組換えActinobacillus succinogenesを挙げることができる。この組換え微生物は、コハク酸および乳酸などの有機酸を産生するための発酵プロセスにおいて有用であり得る。Zwfなどの酵素を発現する組換え微生物を生成するように、微生物を形質転換するために有用な新規プラスミドもまた開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2005年1月26日に提出された米国仮特許出願第60/647,141号;および2004年12月22日に提出された米国仮特許出願第60/639,443号の米国特許法第119条(e)に基づく利益を主張するものである。上述の出願は、それらの全体が本明細書中に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
石油化学材料から現在得られている多くの化学物質は、天然に存在する炭水化物から生成することができる。特に、4炭素ジカルボン酸であるコハク酸は、消費財産業にとって多くの重要な中間体および特殊化学物質を生成し、現在、再生不可能な石油化学材料から得られた出発物質に依存している商業的プロセスのための出発物質として使用され得る大量の汎用化学物質となる潜在性を有している。例えば、汎用化学物質として、コハク酸は、多くの産業についての溶媒および出発物質として有用な1,4−ブタンジオール(BDO)およびテトラヒドロフラン(THF)化合物の製造に使用される石油化学の出発物質に取って代わる可能性がある。例えば、BDOおよびTHF化合物は、自動車の車体用の樹脂、家庭用器具の用途のための熱可塑物および繊維産業におけるLycra(商標)などの弾性ポリマーの製造に有用である。さらに、BDOおよびTHF化合物はまた、農薬産業および医薬品産業における多くの特殊な用途を有する。特に、BDOの世界的な消費は、年間4%もの高率で増加すると予想される。
【0003】
BDOおよびTHFを生成するために現在使用されている石油化学物質としては、アセチレン、ホルムアルデヒド、ブタン、ブタジエンおよびプロピレンオキシドが挙げられる。これらのすべてが、様々な有害特性(例えば、極度の引火性、化学的不安定性および毒性)を有する。さらに、これらの材料は、石油から得られるので、再生不可能な資源を枯渇させ、処分または破棄によって、最終的に炭素を(二酸化炭素として)大気中に放出する。従って、石油化学的に得られた材料の代替物としてコハク酸を開発することは、有害な材料の取扱いおよび貯蔵を減少させ、産業的安全性および地域社会の安全性を促進し、汚染および環境コストを減少させ、そして石油への依存を減少させ得る。
【0004】
糖の発酵によるコハク酸および他の有機化合物の製造は、経済的に実行可能である。多くの微生物が、炭素源としてコーンシュガーを使用してコハク酸を産生するために使用されてきた。従って、石油化学系出発物質の代替物としてコハク酸を開発することは、発酵性の糖を提供することができるトウモロコシおよび他の農産物ならびに/またはバイオマスについての市場を拡大し得る。
【0005】
形式上、コハク酸生成についての生化学経路は、二酸化炭素分子を3炭素化合物であるホスホエノールピルビン酸(PEP)に添加して4炭素化合物であるオキサロ酢酸(OAA)を生成するものである。コハク酸への経路の次の工程は、逆向きのトリカルボン酸サイクル(TCAサイクル)の一部であり、そして2つの必須の還元工程を含む。OAAからコハク酸塩へ導く生化学プロセスにおいて、OAAは、L−リンゴ酸塩を生成するためにはじめに還元されなければならない。次いでL−リンゴ酸塩は、脱水されてフマル酸塩
および水を生成する。次いでフマル酸塩は、還元されてコハク酸を与える。化学分野では、「還元」とは、化合物への水素分子の付加のことをいう。
【0006】
一般に、遊離水素分子は、細胞内の生物系に見られない。正確に言えば、還元は、水素の生化学的等価物として(すなわち、水素分子の担体として)機能し、「還元当量」とよばれる補酵素の使用を介して実施される。還元当量としては、補酵素である、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(「NADH」)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(「NADPH」)、還元型フラビンアデニンジヌクレオチド(「FADH」)および還元型フラビンモノヌクレオチド(「FMNH」)が挙げられる。一般に、NADHおよびNADPHは、ピリジンジヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼ酵素によって様々な微生物において相互変換され得る。
【0007】
OAAからコハク酸塩への変換に必要とされる還元当量は、NAD(P)H、FADHまたは他の補助因子によって提供される。十分な量の還元当量が、OAAからコハク酸塩への変換に利用可能であることが不可欠である。十分な還元当量が、利用可能でない場合、生化学経路は、効率的に機能せず、一部のOAAしか所望のコハク酸塩に変換されない。
【0008】
還元当量は、細胞代謝に通常見られる多くの生物学的プロセスにおいて生成され得る。例えば、還元当量は、ペントースリン酸サイクル(PPC)において生じ得る。PPCでは、グルコース−6−リン酸が、Zwischenferment酵素またはZwfとしても知られるグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ酵素によってD−6−ホスホグルコノ−δ−ラクトンに変換される。この変換の一部として、NADPが還元当量の受容体としてNADPHに変換される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
商業生産に十分な濃度のコハク酸を生成する微生物はほとんどないことがこれまで説明されてきた。このような微生物の1つが、ウシの反芻胃から単離された通性の嫌気性生物であるActinobacillus succinogenesである。この生物体は、高濃度のコハク酸を産生し、高濃度の糖に耐性である。Actinobacillus
succinogenesは、コハク酸の最良の既知産生株の1つであるが、この株の発酵収率は、還元当量の欠如によって制限され得る。従って、発酵によって産生されるコハク酸の収率を高めるような改良が望まれ、それにはコハク酸を産生するための微生物の改良株の使用が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
概要
有機酸を産生するための組換え微生物を開示する。組換え微生物は、ペントースリン酸サイクルにおいて利用される酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドを発現する。1つの実施形態において、この酵素は、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼであり、Zwischenferment酵素またはZwfとも呼ばれる。例えば、組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現し得る。1つの実施形態において、組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発現するDNA分子で形質転換された、コハク酸を産生する微生物の組換え株である。
【0011】
組換え微生物は、代表的には、商業生産に適したレベルで1つ以上の有機酸を産生することができる。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、コハク酸を産生する微生物である。例えば、その微生物は、商業生産に適した濃度でコハク酸を産生し得る。商業
生産に適した濃度とは、少なくとも約20g/L、40g/L、60g/L、80g/L、100g/L、120g/Lおよび/または140g/Lであり得る。望ましくは、組換え微生物は、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができる。
【0012】
組換え微生物は、発酵システムにおける商業生産に適した濃度でコハク酸を産生することを促進するように、比較的高濃度のコハク酸に耐性となるように選択されてもよく、および/またはそのように組換えで操作されてもよい。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、比較的少量の望ましくない副産物(例えば、酢酸塩、ギ酸塩および/またはピルビン酸塩)(例えば、わずか約2.0g/Lの酢酸塩、わずか約2.0g/Lのギ酸塩および/またはわずか約3.0g/Lのピルビン酸塩)を産生するように選択され得る。組換え微生物は、少なくとも約1g/L、2g/L、4g/Lおよび/または8g/Lの濃度のモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性である株(または株の変異株)由来であってもよい。別の実施形態において、組換え微生物の変異株は、少なくとも約1g/L、2g/L、4g/Lおよび/または8g/Lの濃度のモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性であるように選択され得る。
【0013】
1つの実施形態において、組換え微生物は、Actinobacillus succinogenes(すなわち、「A.succinogenes」)またはActinobacillus succinogenesに関連する微生物の株由来である。A.succinogenesの1つの適切な株は、ATCCアクセッション番号55618としてAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託されたBacterium 130Zである。Bacterium 130Zおよび他の適切な株の説明については、米国特許第5,504,004号を参照のこと。
【0014】
他の適切な微生物は、組換え微生物を調製するために選択されてもよく、そして16S
rRNA内の配列同一性によって決定されるようにA.succinogenesに関連する微生物を含んでもよい。例えば、A.succinogenesに関連する適切な微生物は、A.succinogenes 16S rRNAに対して実質的な配列同一性を示す16S rRNAを有し得る(すなわち、A.succinogenes 16S rRNAに対して少なくとも約90%の配列同一性を示す16S rRNAを有する微生物またはより適切には、A.succinogenes 16S rRNAに対して少なくとも約95%の配列同一性を示す微生物)。Pasteurellaceae科の多くの代表的な微生物は、A.succinogenes 16S rRNAに対して少なくとも約90%の配列同一性を示す16S rRNAを有する。例えば、Guettlerら,INT’L J.SYSTEMATIC BACT.(1999),49,207〜216の209頁、表2を参照のこと。適切な微生物としては、Bisgaard Taxon6およびBisgaard Taxon10などの微生物を挙げることができる。
【0015】
いくつかの実施形態において、組換え微生物は、A.succinogenes以外の生物体から調製することができる。例えば、組換え微生物は、有機酸を産生するための発酵システムにおける用途に適切な任意の微生物から調製することができる。適切な微生物としては、E.coliを挙げることができる。E.coliの適切な株は、当該分野で公知である。
【0016】
モノフルオロ酢酸ナトリウムに耐性である微生物の変異株はまた、組換え微生物を調製するのに適切であり得る。例えば、米国特許第5,521,075号および同第5,573,931号を参照のこと。1つの実施形態において、組換え微生物は、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムに耐性であるA.succinogenesの変異
株から調製される。1つの適切な変異株は、FZ45である。米国特許第5,573,931号を参照のこと。ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託された組換え微生物は、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムに耐性であるA.succinogenesの変異株(すなわち、FZ45)由来である。
【0017】
組換え微生物は、代表的には、ペントースリン酸サイクルにおいて利用される酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換される。例えば、組換え微生物は、Zwf酵素の生化学活性(すなわち、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ活性および/またはNADPレダクターゼ活性)の1つ以上を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換することができる。望ましくは、そのポリヌクレオチドは、NADPからNADPHへの変換を促進するポリペプチドをコードする。そのポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、その微生物に対して内因性であってもよく、またはその微生物に通常存在する遺伝子または酵素由来であってもよい。いくつかの実施形態において、そのポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、その微生物の内因性の遺伝子または酵素に相同であり得る。他の実施形態において、そのポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、異種であり得る(すなわち、その微生物に通常存在しない遺伝子または酵素由来であり得るか、またはその微生物以外の供給源由来であり得る)。
【0018】
組換え微生物は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの改変体および/またはそのポリペプチドの改変体を発現し得る。そのポリヌクレオチドが、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性(例えば、NADPレダクターゼ活性)を有するポリペプチドをコードする場合、そのポリヌクレオチドの改変体は、そのポリヌクレオチドに対して少なくとも約90%の配列同一性または望ましくは、そのポリヌクレオチドに対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含み得る。そのポリペプチドがZwf酵素の1つ以上の生化学活性(例えば、NADPレダクターゼ活性)を有する場合、改変体は、そのポリペプチドに対して少なくとも約90%の配列同一性、または望ましくは、そのポリペプチドに対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリペプチドを含み得る。従って、そのポリペプチドがNADPレダクターゼ活性を有する場合、適切なポリヌクレオチドは、選択されたZwf酵素に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み得る。
【0019】
組換え微生物が、Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発現するポリヌクレオチドで形質転換されない微生物よりも高いZwf酵素活性を示す場合、組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発現するポリヌクレオチドで形質転換されているかもしれない。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発現するポリヌクレオチドで形質転換されていない微生物よりも、少なくとも約5倍(5×)高いZwf酵素活性(または望ましくは少なくとも約10倍(10×)高いZwf酵素活性、もしくはより望ましくは少なくとも約50倍(50×)高いZwf酵素活性)を示す。Zwf酵素活性としては、NADPレダクターゼ活性を挙げることができる。Zwf酵素活性は、(例えば、Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発現するポリヌクレオチドで形質転換されていない微生物と比べる場合)組換え微生物に存在するNADPHのレベルを計測することによって測定することができる。
【0020】
組換え微生物は、Zwf遺伝子などのZwf酵素をコードするポリヌクレオチドを発現し得る。ポリヌクレオチドの改変体は、Zwf遺伝子に対して少なくとも約90%の配列同一性、または望ましくはZwf遺伝子に対して少なくとも約95%の配列同一性を有し、かつZwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み得る。ポリヌクレオチドの改変体は、そのポリヌクレオチドの核酸フラグメントを含み得る。例えば、フラグメントは、Zwf遺伝子の少なくとも約90%またはZwf遺伝子の少なくとも約95%を含み得る。核酸フラグメントは、任意の適切な長さで
あり得る。例えば、核酸フラグメントは、少なくとも約10、50、100、250、500、1000および/または1400のヌクレオチドを含み得る。フラグメントは、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードし得る。
【0021】
適切なZwf遺伝子は、組換え微生物の内因性または天然のZwf遺伝子(すなわち、組換え微生物が由来する微生物に通常存在するZwf遺伝子)またはそれらの改変体を含み得る。他の適切なZwf遺伝子は、微生物に対して異種のZwf遺伝子(すなわち、組換え微生物を調製するために使用した微生物に通常存在しないか、またはそれ以外の供給源から得られたZwf遺伝子)またはそれらの改変体を含み得る。適切なZwf遺伝子は、選択されたZwf遺伝子のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約90%の配列同一性(好ましくは、選択されたZwf遺伝子のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約95%の配列同一性)を有する改変体を含み得、そしてZwf酵素の1つ以上の生化学活性(すなわち、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ活性および/またはNADPレダクターゼ活性)を有するポリペプチドをコードし得る。
【0022】
適切なZwf遺伝子は、E.coli Zwf遺伝子またはその改変体を含み得る。E.coli Zwf遺伝子のポリヌクレオチド配列は、アクセッション番号NC_000913として、ヌクレオチド1,932,863〜1,934,338(配列番号1)の逆相補鎖およびアクセッション番号M55005としてヌクレオチド708〜2180(配列番号2)がGenBankに寄託されている。E.coli Zwf遺伝子の適切な改変体は、配列番号1(または配列番号2)のポリヌクレオチドに対して少なくとも約90%の配列同一性(望ましくは少なくとも約95%の配列同一性)を有するポリヌクレオチドを含み得るので、そのポリヌクレオチドは、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性(すなわち、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ活性および/またはNADPレダクターゼ活性)を有するポリペプチドをコードする。
【0023】
適切なZwf遺伝子は、A.succinogenes Zwf遺伝子またはその改変体を含み得る。A.succinogenes 130Zのドラフトゲノム配列は、最近確立され、構築された。そしてエネルギー省のウェブサイトであるJoint Genome Instituteで2005年9月には公的に利用可能となった。Zwf遺伝子は、「グルコース−6−リン酸1−デヒドロゲナーゼ」と注釈をつけられており、コンティグ115、ヌクレオチド8738〜10225(すなわち、配列番号5)上に存在する。コードされるポリペプチド(すなわち、A.succinogenes Zwf酵素)の予測アミノ酸配列は、配列番号6として存在する。Zwf酵素は、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)のウェブサイトで入手可能な「BLAST」アラインメントアルゴリズムバージョンBLASTP2.2.12、BLOSUM62行列を使用したところ、E.coli Zwf酵素に対して43%のアミノ酸配列同一性および60%のアミノ酸相同性を示す。A.succinogenes Zwf遺伝子の適切な改変体は、配列番号5のポリヌクレオチドに対して少なくとも約90%の配列同一性(望ましくは少なくとも約95%の配列同一性)を有するポリヌクレオチドを含み得るので、そのポリヌクレオチドは、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性(すなわち、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ活性および/またはNADPレダクターゼ活性)を有するポリペプチドをコードする。
【0024】
組換え微生物は、内因性Zwf酵素(すなわち、組換え微生物が由来する微生物内に存在するZwf酵素)またはその改変体を発現し得る。他の実施形態において、組換え微生物は、微生物に対して異種であるZwf酵素(すなわち、組換え微生物が由来する微生物に存在しないか、または発現しないZwf酵素)またはその改変体を発現し得る。適切なZwf酵素は、選択されたZwf酵素のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%アミノ
酸配列同一性(望ましくは選択されたZwf酵素に対して少なくとも約95%アミノ酸配列同一性)を有し、そしてZwf酵素の1つ以上の生化学活性(例えば、NADPレダクターゼ活性および/またはグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ活性)を有する改変体を含み得る。適切なZwf酵素は、E.coli Zwf酵素(例えば、配列番号3、NC_000913のヌクレオチド1,932,863〜1,934,338のヌクレオチド配列の逆相補鎖によってコードされるポリペプチド)またはその改変体およびA.succinogenes Zwf酵素(例えば、配列番号6)またはその改変体を含み得る。
【0025】
改変体ポリペプチドは、Zwf酵素のフラグメントを含み得る。例えば、フラグメントは、配列番号3のアミノ酸配列の少なくとも約90%、またはより望ましくは配列番号3のアミノ酸配列の少なくとも約95%を含み得る。他の実施形態において、フラグメントは、配列番号6のアミノ酸配列の少なくとも約90%、またはより望ましくは配列番号6のアミノ酸配列の少なくとも約95%を含み得る。ポリペプチドフラグメントは、任意の適切な長さであり得る。例えば、ポリペプチドフラグメントは、(例えば、配列番号3または配列番号6の)少なくとも約10、50、100、200および/または300のアミノ酸を含み得る。ポリペプチドフラグメントは、代表的にはZwf酵素の1つ以上の生化学活性を有する。
【0026】
組換え微生物は、内因性(すなわち、天然)Zwf酵素をコードする内因性(すなわち、天然)Zwf遺伝子を発現するポリヌクレオチドで形質転換されたコハク酸を産生する微生物を含み得る。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、異種Zwf酵素をコードする異種Zwf遺伝子を発現するポリヌクレオチドで形質転換されたコハク酸を産生する微生物を含み得る。ATCCアクセッション番号PTA−6255としてAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託された組換え微生物は、異種Zwf酵素をコードする異種Zwf遺伝子(例えば、E.coli Zwf遺伝子)を発現するコハク酸を産生する微生物(すなわち、A.succinogenes)の組換え株である。
【0027】
組換え微生物は、比較的高レベルのZwf酵素活性を有するポリペプチドを発現し得る(すなわち、そのポリペプチドが「過剰発現」し得る)。例えば、組換え微生物は、非組換え微生物と比べて比較的高レベルな内因性Zwf酵素を発現し得る。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、DNA分子で形質転換されていない組換え微生物と比べて比較的高レベルな内因性Zwf酵素を発現するDNA分子(例えば、プラスミド)で形質転換され得る。
【0028】
Zwf遺伝子などのポリヌクレオチドは、組換え微生物が由来する選択された微生物における発現に最適化され得る。例えば、異種Zwf遺伝子は、非天然微生物における発現に最適化され得る。いくつかの実施形態において、Zwf遺伝子は、A.succinogenesまたはBisgaard Taxon6もしくはBisgaard Taxon10などの微生物における発現に最適化され得る。他の実施形態において、Zwf遺伝子は、E.coliにおける発現に最適化され得る。
【0029】
Zwf遺伝子などのポリヌクレオチドは、任意の適切なストラテジによって組換え微生物における発現に最適化され得る。例えば、Zwf遺伝子は、組換え微生物におけるZwf遺伝子の発現を促進するプロモーター配列にZwf遺伝子を作動可能に連結することによって組換え微生物における発現に最適化され得る。このプロモーター配列は、組換え微生物における比較的高レベルな発現を促進するために最適化され得る(すなわち、「過剰発現」を促進するために最適化され得る)。Zwf遺伝子は、微生物にとって内因性であるプロモーター配列(すなわち、微生物にとって天然なプロモーター)または微生物にと
って異種であるプロモーター配列(すなわち、微生物には通常存在しないかまたはそれ以外の供給源由来であるプロモーター)に作動可能に連結されていてもよい。適切なプロモーターは、選択されたZwf遺伝子に対して天然でないプロモーターであるプロモーター(すなわち、微生物にとって内因性であってもよく、または微生物にとって異種であってもよい非Zwf遺伝子プロモーター)を含み得る。適切なプロモーターとしては、誘導性プロモーターまたは構成的プロモーターを挙げることができる。適切なプロモーターは、コハク酸を産生する微生物のプロモーター由来であり得る。
【0030】
他の実施形態において、Zwf遺伝子の発現は、翻訳レベルで最適化され得る。例えば、異種Zwf遺伝子は、遺伝子にとって天然ではない宿主として組換え微生物が由来する微生物における好ましい使用頻度を証明するコドンを含むように改変され得る。
【0031】
別の実施形態において、Zwf遺伝子などのポリヌクレオチドの発現は、組換え微生物において比較的コピー数の多いポリヌクレオチドを提供することによって最適化され得る。例えば、Zwf遺伝子は、組換え微生物において比較的コピー数が多くなるように複製することができる後成的エレメント(例えば、プラスミド)上に存在し得る。
【0032】
いくつかの実施形態において、組換え微生物は、Zwf遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含むDNA分子で形質転換された、Actinobacillus succinogenesまたは関連微生物などのコハク酸を産生する微生物の組換え株である。Zwf遺伝子は、内因性または異種のZwf遺伝子由来であり得、例えば、A.succinogenes Zwf遺伝子(例えば、配列番号5)およびE.coli Zwf遺伝子(例えば、配列番号1および2)を含み得る。他のZwf遺伝子は、公知であり、それらのポリヌクレオチド配列は、公開されている(例えば、GenBankを参照のこと)。コハク酸を産生する微生物の適切な内因性または天然プロモーター配列は、例えば、ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーター配列を含み得る。A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーター配列は、ヌクレオチド1〜258(配列番号4)であるアクセッション番号AY308832としてGenBankに寄託されている。ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターは、Zwf遺伝子について適切な異種プロモーター(すなわち、非Zwf遺伝子プロモーター)であり得る。
【0033】
本明細書に記載するように、組換え微生物は、後成的エレメントとして組換えDNA分子を含み得、そして/または組換えDNA分子は、(例えば、組換えの適切な方法によって)微生物のゲノムに組み込まれ得る。特定の実施形態において、DNA分子は、プラスミド、組換えバクテリオファージ、細菌人工染色体(BAC)および/またはE.coliP1人工染色体(PAC)である。DNA分子は、選択可能なマーカーを含み得る。適切な選択可能なマーカーとしては、カナマイシン耐性、アンピシリン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性に対するマーカーおよびこれらの選択可能なマーカーの組み合わせを含み得る。1つの実施形態において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性である。
【0034】
本明細書に記載するように、組換えDNA分子は、組換え微生物(例えば、A.succinogenes)においてポリヌクレオチドを発現するための、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結された適切なプロモーターを含み得る。そのプロモーターは、コハク酸を産生する微生物においてポリペプチドを発現するのに適切であり得る。いくつかの実施形態において、組換えDNA分子は、(E.coli Zwf遺伝子またはA.succinogenes Zwf遺伝子などの異種Zwf遺伝子を含み得る)Zwf遺伝子またはその改変体に作動可能に連結されたホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーター
(例えば、A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーター)を含む。例えば、DNA分子は、GenBankアクセッション番号NC_000913として寄託されたDNA配列のヌクレオチド1,932,863〜1,934,338の逆相補鎖(配列番号1)に作動可能に連結されたか;またはGenBankアクセッション番号M55005として寄託されたDNA配列(配列番号2)に作動可能に連結されたか;または配列番号5のDNA配列に作動可能に連結された、GenBankアクセッション番号AY308832として寄託されたDNA配列のヌクレオチド1〜258(配列番号4)またはその改変体を含み得る。いくつかの実施形態において、そのプロモーターは、配列番号4のポリヌクレオチドに対して少なくとも約95%の配列同一性を有し、かつ組換え微生物においてプロモーター活性を有するポリヌクレオチドを含み得る。
【0035】
組換えDNA分子を含む組換え微生物は、発酵システムにおいて有機酸(例えば、コハク酸または乳酸)を産生するのに適切であり得る。組換えDNA分子を含む組換え微生物は、組換えDNA分子を含まない微生物に対して、発酵システムにおいて高レベルな有機酸(例えば、コハク酸または乳酸)を産生し得る。
【0036】
1つ以上の上述の組換えDNA分子を含むDNAプラスミドもまた開示される。このDNAプラスミドは、選択可能なマーカーを含み得る。適切な選択可能なマーカーとしては、適切なプロモーター(例えば、構成的プロモーター)に作動可能に連結された、アンピシリン耐性、ストレプトマイシン耐性、カナマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性およびスルホンアミド耐性の1以上の遺伝子を挙げることができる。1つの実施形態において、DNAプラスミドは、カナマイシン耐性についての遺伝子を含む。
【0037】
DNAプラスミドは、1以上の適切な宿主細胞においてプラスミドを維持および/または複製するために必要な配列を含み得る。1つの実施形態において、DNAプラスミドは、適切な宿主細胞間のシャトルベクターとして機能することができる。DNAプラスミドは、A.succinogenesとE.coliとの間のシャトルベクターとして機能することができ得る。
【0038】
1以上の上述のDNA分子を含む宿主細胞もまた開示される。例えば、その宿主細胞は、DNA分子を含むDNAプラスミドを含み得る。宿主細胞は、DNA分子を含むDNAプラスミドを産生および単離するのに適切であり得る。
【0039】
宿主細胞は、発酵システムにおいて1以上の有機酸を産生するのに適切であり得る。いくつかの実施形態において、宿主細胞は、発酵システムにおいて1以上の有機酸(例えば、コハク酸または乳酸)の産生を促進するのに適切なレベルでZwf遺伝子(およびそれに続いてZwf酵素)を発現する。いくつかの実施形態において、宿主細胞は、宿主細胞における還元当量(例えば、NADPH)の濃度を高めるのに適切なレベルでZwf遺伝子(およびそれに続いてZwf酵素)を発現し得る。宿主細胞は、その株における還元当量(例えば、NADPH)の濃度を高めるのに適切なレベルでZwf遺伝子(およびそれに続いてZwf酵素)を発現するA.succinogenesの組換え株を含み得る。このような株は、発酵システムにおいて組換えDNA分子を含まない株と比べて高レベルなコハク酸を産生するのに適切であり得る。
【0040】
いくつかの実施形態において、宿主細胞は、(例えば、発酵システムにおいて)少なくとも約20g/L、40g/L、60g/L、80g/L、100g/L、120g/L、140g/Lおよび/または160g/Lの濃度でコハク酸を産生することができる。特定の実施形態において、宿主細胞は、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸
を産生することができる。望ましくは、宿主細胞は、実質的な濃度でコハク酸以外の選択された有機酸を産生しない。宿主細胞がコハク酸以外の有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、ピルビン酸およびそれらの混合物)を産生する場合、望ましくはコハク酸以外の有機酸は、わずか約30g/L、より望ましくはわずか約20g/L、より望ましくはわずか約10g/L、そしてなおもより望ましくはわずか約5g/Lの濃度で産生する。
【0041】
上述の組換え微生物は、1以上の有機酸を産生するために栄養培地を発酵させる工程を含む方法において使用され得る。いくつかの実施形態において、この方法は、Zwf遺伝子(例えば、E.coli Zwf遺伝子)を発現する組換え微生物によって栄養培地を発酵する工程を含み得る。この方法によって産生された有機酸は、コハク酸および乳酸を含み得る。さらなる実施形態において、この方法は、少なくとも約20g/L、40g/L、60g/L、80g/L、100g/L、120g/Lおよび/または160g/Lの濃度でコハク酸を産生するのに適している。
【0042】
特に、この方法は、有機酸(例えば、コハク酸)の産生を促進するのに適切なレベルでZwf遺伝子(およびそれに続いてZwf酵素)を発現するA.succinogenesの組換え株を用いて栄養培地を発酵させる工程を含み得る。Zwf遺伝子は、異種Zwf遺伝子を含み得る。異種Zwf遺伝子(すなわち、E.coli Zwf遺伝子)を発現するA.succinogenesの組換え株は、ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託されている。特定の実施形態において、組換え微生物は、有機酸(例えば、コハク酸)の産生を促進するのに適切なレベルでZwf遺伝子(異種であり得る)を発現する、Bisgaard Taxon6またはBisgaard Taxon10などの微生物の組換え株である。適切な組換え微生物はまた、有機酸(例えば、乳酸)の産生を促進するのに適切なレベルでZwf遺伝子(異種であり得る)を発現するE.coliの組換え株を含み得る。
【0043】
この方法において、比較的高レベルな選択された有機酸(例えば、コハク酸および/または乳酸など)を産生する組換え微生物を用いて栄養培地を発酵させることが望ましいことがある。従って、選択された組換え微生物は、高レベルな有機酸(例えば、コハク酸および/または乳酸)に耐性であり得る。組換え微生物はまた、比較的低レベルな他の望ましくない副産物を産生するように選択され得る。例えば、組換え微生物は、比較的低レベルな酢酸塩、ギ酸塩、ピルビン酸塩およびそれらの混合物(例えば、わずか約2.0g/L、わずか約2.0g/Lのギ酸塩および/またはわずか約3.0g/Lのピルビン酸塩)を産生し得る。約1g/L、2g/L、4g/Lおよび/または8g/Lの濃度のモノフルオロ酢酸ナトリウムに耐性である上記の組換え微生物は、この方法に適切である。
【0044】
この方法において、栄養培地は、代表的には発酵性の炭素源を含む。発酵性の炭素源は、発酵性のバイオマスによって提供され得る。1つの実施形態において、発酵性の炭素源は、糖作物、デンプン作物および/またはセルロース作物残渣を含む供給材料由来である。一般に、発酵性の炭素源は、グルコースなどの糖である。発酵性の炭素源はまた、糖アルコールを含み得る。適切な実施形態において、この方法によりグルコース(g)に対して少なくとも約100%のコハク酸収量(g)を生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書中に開示されるのは、ペントースリン酸サイクルにおいて利用される酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドを発現する組換え微生物である。本明細書中で使用されるとき、「微生物」は、任意の適切な単細胞生物(例えば、細菌、菌類および酵母)を含む。本明細書中で使用されるとき、「組換え微生物」とは、天然に存在しない微生物を生じる様式で改変された微生物のことを意味する。「組換え微生物」は、DNA分
子(例えば、組換えDNA分子)で形質転換された微生物を含み得る。
【0046】
組換え微生物は、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドを発現するDNA分子で形質転換された微生物を含み得る。ペントースリン酸サイクルは、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ(Zwischenferment酵素またはZwfとも呼ばれる);6−ホスホグルコノラクトナーゼ;6−ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ(Gndとも呼ばれる);リボース−5−リン酸イソメラーゼAおよびB;リブロースリン酸−3−エピメラーゼ;トランスケトラーゼIおよびII;ならびにトランスアルドラーゼAおよびBを含むいくつかの酵素を利用する。これらの酵素のうち、ZwfおよびGndは、NADPHの形態の2つの水素等価物を生成する。
【0047】
組換え微生物は、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性(例えば、グルコース−6−リン酸−1−デヒドロゲナーゼ活性およびNADPレダクターゼ活性)を有する任意の適切なポリペプチドまたはそれらの改変体を発現し得る。例えば、1つの適切なZwf酵素は、E.coli Zwf酵素またはその改変体である。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、非組換え微生物に存在するレベルと比べて高いレベルでZwf酵素を発現(すなわち、その酵素を「過剰発現」)し得る。
【0048】
組換え微生物は、Zwf酵素のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%の配列同一性、およびより望ましくはZwf酵素のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%の配列同一性を有する改変体ポリペプチドを発現し得る。適切な実施形態において、組換え微生物は、Zwf酵素に対して少なくとも約96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有するZwf酵素の改変体を発現し得る。望ましくは、改変体ポリペプチドは、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を有する。改変体ポリペプチドは、Zwf酵素のフラグメントを含み得る。適切なZwf酵素としては、A.succinogenes Zwf酵素、E.coli Zwf酵素およびそれらの改変体が挙げられる。
【0049】
組換え微生物は、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(例えば、Zwf遺伝子またはその改変体)を発現し得る。例えば、組換え微生物は、Zwf遺伝子、またはZwf遺伝子に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するDNA配列を含む改変体、およびより望ましくはZwf遺伝子に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するDNA配列を含む改変体を発現し得る。適切な実施形態において、組換え微生物は、Zwf遺伝子に対して少なくとも約96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するDNA配列を含むZwf遺伝子の改変体を発現し得る。望ましくは、改変体ポリヌクレオチドは、Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードする。改変体ポリヌクレオチドは、Zwf遺伝子のフラグメントを含み得る。いくつかの実施形態において、組換え微生物は、A.succinogenes Zwf遺伝子、E.coli Zwf遺伝子またはそれらの改変体を発現し得る。
【0050】
組換え微生物は、任意の適切な微生物由来であり得る。代表的には、その微生物は、商業生産に適切なレベルで有機酸を産生することができる。本明細書中で使用されるとき、「有機酸」は、少なくとも1つのカルボキシル基を含む。例えば、「有機酸」は、コハク酸および乳酸を含む。本明細書中で使用されるとき、有機酸は、有機酸アニオンまたはその塩によって代替的に意味され得る。例えば、「コハク酸」は、「コハク酸塩」のことをいうことがあり;「乳酸」は、「乳酸塩」のことをいうことがあり;「ギ酸」は、「ギ酸塩」のことをいうことがあり;そして「ピルビン酸」は、「ピルビン酸塩」のことをいうことがある。
【0051】
本明細書中に説明されるような組換え微生物を調製するための適切な微生物としては、
A.succinogenesを含むActinobacillus属のメンバー;Bisgaard Taxon6;Bisgaard Taxon10;Mannheimia succiniciproducens;E.coli;Anaerobiospirillum succiniciproducens;Ruminobacter amylophilus;Succinivibrio dextrinosolvens;Prevotella ruminicola;Ralstonia eutropha;およびコリネ型細菌(例えば、Corynebacterium glutamicum、Corynebacterium ammoniagenes、Brevibacterium flavum、Brevibacterium lactofermentum、Brevibacterium divaricatum);Lactobacillus属のメンバー;酵母(例えば、Saccharomyces属のメンバー);およびそれらの任意の部分集合を挙げることができるが、これらに限定されない。本明細書中に説明されるような組換え微生物を調製するための適切な微生物は、コハク酸を産生する微生物を含み得る。
【0052】
組換え微生物は、代表的には異種Zwf遺伝子であり得るZwf遺伝子を発現する。Zwf遺伝子は、組換え微生物における発現に最適化され得る。例えば、Zwf遺伝子は、非組換え微生物と比べて組換え微生物においてその遺伝子の過剰発現を促進するプロモーターに作動可能に連結されてもよい。このプロモーターは、微生物にとって内因性(すなわち、組換え微生物が由来する微生物にとって天然)または微生物にとって異種(すなわち、組換え微生物が由来する微生物にとって天然でないか、またはその微生物以外の供給源由来である)であってもよい。このプロモーターは、Zwf遺伝子にとって内因性であってもよく、またはZwf遺伝子にとって異種(すなわち、非Zwf遺伝子プロモーター)であってもよい。このプロモーターは、Zwf遺伝子の構成的発現および/または誘導性発現を促進してもよく、そして/またはこのプロモーターは、Zwf遺伝子の構成的発現および/または誘導性発現を促進するように適切な方法によって改変されてもよい。
【0053】
Zwf遺伝子は、対応するmRNAの翻訳を促進するように改変されてもよい。例えば、Zwf遺伝子は、内因性遺伝子または天然の遺伝子に存在しないコドンを含むように改変されてもよい。これらの非内因性コドンは、組換え微生物におけるコドン使用頻度を反映するように選択されてもよい。コドン使用表は、多くの微生物について作成されており、そして当該分野で公知である。Zwf遺伝子は、以下に提供されるようなA.succinogenesについてのコドン使用頻度を反映して改変されてもよい:
Actinobacillus succinogenesについての例示的なコドン使用頻度
出典:GenBank発表144.0[2004年11月12日]
【0054】
【表1】

【0055】
組換え微生物は、Zwf遺伝子(例えば、内因性Zwf遺伝子および/またはE.coli Zwf遺伝子などの異種Zwf遺伝子)を発現するA.succinogenesの組換え株を含み得る。組換え微生物を生成するための他の適切な微生物としては、Bisgaard Taxon6(スウェーデンのCulture Collection、University of Goeteborg(CCUG)にアクセッション番号15568として寄託されている);Bisgaard Taxon10(CCUGアクセッション番号15572として寄託されている);およびE.coliの任意の適切な株(これについて多くの株が当該分野で公知である)が挙げられる。組換え微生物は、高レベルな1つ以上の有機酸(例えば、コハク酸および乳酸など)を産生する株由来であってもよく、そして/または組換え微生物は、非組換え微生物と比べて高レベルまたは促進されたレベルの1つ以上の有機酸(例えば、コハク酸および乳酸など)を産生するように選択および/または操作されてもよい。
【0056】
組換え微生物は、比較的高レベルの望ましくない副産物に耐性である株および/または比較的低レベルの望ましくない副産物を産生する微生物の株由来であってもよい。望ましくない副産物としては、ギ酸塩(またはギ酸)、酢酸塩(または酢酸)および/またはピルビン酸塩(またはピルビン酸)を挙げることができる。低レベルの酢酸を産生する株を選択するための方法は、当該分野で公知である。例えば、米国特許第5,521,075号および同第5,573,931号を参照のこと。これらは、本明細書中に参考として援用される。例えば、比較的低レベルの酢酸塩を産生する微生物の株は、約1.0〜約8.0g/Lの濃度のモノフルオロ酢酸ナトリウムなどの有毒な酢酸誘導体の存在下で微生物
を生育することによって選択することができる。選択された株は、グルコース発酵において比較的低レベルの酢酸塩(例えば、約2.0g/L未満)、ギ酸塩(例えば、約2.0g/L未満)および/またはピルビン酸塩(例えば、約3.0g/L未満)を産生し得る。組換え微生物を生成するための1つの適切なモノフルオロ酢酸耐性株は、ATCCアクセッション番号55618として寄託されたA.succinogenesの誘導体であるFZ45と呼ばれるA.succinogenesの株である。モノフルオロ酢酸塩に耐性である微生物株を調製するために適切な方法を記載している米国特許第5,573,931号を参照のこと。
【0057】
組換え微生物は、比較的高レベルの望ましくない副産物に耐性であるように、そして/または比較的低レベルの望ましくない副産物を産生するように選択および/または操作されてもよい。例えば、形質転換後、組換え微生物の集団を、比較的高レベルの酢酸塩に耐性である株および/または比較的低レベルの酢酸塩を産生する株を選択するためにモノフルオロ酢酸ナトリウムの存在下で生育してもよい。
【0058】
Zwf酵素の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドをコードするDNA配列は、当該分野で公知である方法(例えば、適切なプライマーを用いたZwf遺伝子のPCR増幅および適切なDNAベクターへのクローニング)を使用することによって得ることができる。適切なZwf遺伝子のポリヌクレオチド配列は、開示されている(例えば、GenBankを参照のこと)。例えば、A.succinogenes Zwf遺伝子のポリヌクレオチド配列は、公開されている(配列番号5および6)(エネルギー省のウェブサイトのJoint Genome Instituteを参照のこと)。E.coli Zwf遺伝子は、GenBankに(例えば、GenBankアクセッション番号NC_000913(配列番号1)およびGenBankアクセッション番号M55005(配列番号2)として)寄託されている。Zwf遺伝子またはその改変体は、適切なプライマーを用いた微生物のゲノムDNAのPCR増幅によって得ることができる。
【0059】
DNAベクターは、組換え微生物においてその遺伝子を発現するための適切な任意のベクターであってもよい。適切なベクターとしては、プラスミド、人工染色体(例えば、細菌人工染色体)および/または改変バクテリオファージ(例えば、ファージミド)が挙げられる。ベクターは、後成的エレメントとして存在するように設計されてもよく、そして/またはベクターは、微生物のゲノムと組み換えるように設計されてもよい。
【0060】
DNA分子は、代表的にはZwf酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターを含む。プロモーターは、組換え微生物が由来する微生物にとって内因性または天然であってもよく、またはその微生物にとって異種であってもよい(すなわち、組換え微生物以外の供給源由来であってもよい)。さらに、プロモーターは、選択されたZwf遺伝子にとって天然プロモーターであっても、または選択されたZwf遺伝子に対して天然プロモーター以外のプロモーター(すなわち、非Zwf遺伝子プロモーター)であってもよい。組換え微生物が、A.succinogenesの株である場合、適切な内因性または天然プロモーターは、GenBankアクセッション番号AY308832として寄託された、ヌクレオチド1−258を含むA.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーター(配列番号4)またはその改変体である。プロモーターは、当該分野で公知であるクローニング方法を使用してZwf遺伝子に作動可能に連結することができる。例えば、プロモーターおよびZwf遺伝子は、適合した制限酵素認識部位を含むプライマーを使用してPCRによって増幅することができる。次いで増幅されたプロモーターおよび遺伝子を、酵素で消化し、そして適切なマルチクローニングサイトを含む適切なベクターにクローニングすることができる。
【0061】
さらに、DNA分子は、選択可能なマーカーを含んでもよい。選択可能なマーカーは、1つ以上の抗生物質製剤に対する耐性を付与することができる。例えば、選択可能なマーカーとしては、アンピシリン耐性、ストレプトマイシン耐性、カナマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性、スルホンアミド耐性に対する遺伝子またはこれらのマーカーの組み合わせを挙げることができる。代表的には、選択可能なマーカーは、そのマーカーの発現を促進するプロモーターに作動可能に連結されている。選択可能なマーカーを含むプラスミドおよび他のクローニングベクターは、当該分野で公知である。
【0062】
DNA分子は、代表的には、宿主細胞を形質転換するために使用される。適切な宿主細胞は、DNA分子を保存および/または産生するために有用である任意の細胞を含む。
【0063】
適切な宿主細胞は、DNA分子上に存在する任意の遺伝子を発現する細胞を含んでいてもよい。適切な宿主細胞はまた、発酵プロセスにおいて商業生産に適した濃度(例えば、少なくとも約20g/L、より適切には少なくとも約50g/L、およびより適切には少なくとも約100g/L)のコハク酸などの有機酸を産生することができる細胞を含んでいてもよい。
【0064】
有機酸を産生するための方法は、代表的にはZwf遺伝子を発現する組換え微生物を用いて栄養培地を発酵させる工程を含む。例えば、この方法は、Zwf遺伝子(例えば、E.coli Zwf遺伝子などの異種Zwf遺伝子)を発現する組換えA.succinogenesを用いて栄養培地を発酵させる工程を含んでいてもよい。発酵において産生された有機酸は、コハク酸を含み得る。この方法に適した1つの組換え微生物は、ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託された、E.coli Zwf遺伝子を発現するA.succinogenesの組換え株である。この方法はまた、コハク酸を産生するためにZwf遺伝子(例えば、E.coli Zwf遺伝子などの異種Zwf遺伝子)を発現するBisgaard Taxon6またはBisgaard Taxon10の組換え株を用いて栄養培地を発酵させる工程を含んでいてもよい。この方法はまた、乳酸などの1つ以上の有機酸を産生するためにZwf遺伝子を発現する(またはZwf遺伝子を過剰発現する)E.coliの組換え株を用いて栄養培地を発酵させる工程を含んでいてもよい。
【0065】
この方法では、比較的高レベルの産生された有機酸(例えば、コハク酸)に耐性である組換え微生物を使用してもよい。この方法ではまた、比較的高レベルの望ましくない副産物に耐性である微生物の株および/または比較的低レベルの望ましくない副産物を産生する微生物の株を使用してもよい。
【0066】
栄養培地は、代表的には発酵性の炭素源を含む。発酵性の炭素源は、発酵性のバイオマスによって提供され得る。発酵性のバイオマスは、糖作物(例えば、糖、ビート、サトウモロコシ、サトウキビ、飼料用ビート);デンプン作物(例えば、穀物(例えば、トウモロコシ、コムギ、モロコシ、オオムギ)および塊茎(例えば、ジャガイモおよびサツマイモ));セルロース作物(例えば、トウモロコシ茎葉、トウモロコシ繊維、コムギわらおよび飼料(例えば、スーダングラス飼料およびモロコシ))を含む種々の作物および/または供給原料由来であってもよい。このバイオマスは、発酵性の炭素源(例えば、糖)の放出を促進するように処理されてもよい。例えば、このバイオマスは、単糖を放出するように酵素(例えば、セルラーゼおよび/またはキシラナーゼ)で処理されてもよい。発酵性の炭素源は、単糖および糖アルコール(例えば、グルコース、マルトース、マンノース、マンニトール、ソルビトール、ガラクトース、キシロース、アラビノースおよびそれらの混合物)を含み得る。
【0067】
この方法は、代表的にはグルコースなどの投入炭素源に対して比較的高い収率のコハク酸を生じる。例えば、この方法は、グルコース投入量(g)に対して少なくとも約90%のコハク酸収率(g)を有してもよい。あるいは、収率は、%コハク酸収量(mol)/グルコース投入量(mol)として計算されてもよい。従って、この方法は、グルコース投入量(mol)に対して少なくとも約140%のコハク酸収率(mol)を有してもよい。望ましくは、この方法は、グルコース投入量(mol)に対して少なくとも約130%または少なくとも約170%のコハク酸収率(mol)を有してもよい。
【0068】
この方法はまた、代表的には(例えば、発酵に非組換え微生物を使用する方法と比べて)比較的高濃度のコハク酸を産生する。例えば、発酵は、少なくとも約50g/Lコハク酸の濃度に達し得る。望ましくは、発酵は、少なくとも約90g/Lのコハク酸の濃度、またはより望ましくは少なくとも約130g/Lのコハク酸の濃度に達し得る。いくつかの実施形態において、発酵は、代表的には実質的なレベル(例えば、わずか約2.0g/Lの酢酸塩、わずか約2.0g/Lのギ酸塩および/またはわずか約3.0g/Lのピルビン酸塩)の望ましくない副産物(例えば、酢酸塩、ギ酸塩、ピルビン酸塩およびそれらの混合物)を産生しない。
【0069】
この方法を、(例えば、発酵に非組換え微生物を使用する方法と比べて)比較的高濃度の乳酸を産生するために使用してもよい。例えば、組換え微生物を、少なくとも約25g/Lの濃度で乳酸を産生する発酵に使用してもよい。1つの実施形態において、発酵収量は、グルコース1グラムあたり乳酸約0.5gであり得る。乳酸を産生するための方法は、Zwf遺伝子の1つ以上の生化学活性を有するポリペプチドを発現(または過剰発現)する組換えE.coliを用いて適切な炭素源を発酵させる工程を含んでもよい。例えば、この方法は、プラスミドなどの後成的エレメントからE.coli Zwf遺伝子を発現する組換えE.coliを用いて適切な炭素源を発酵させる工程を含んでもよい。
【0070】
実施形態の説明
1つの実施形態において、組換え微生物は、異種Zwf遺伝子を発現するActinobacillus succinogenesの組換え株である。異種Zwf遺伝子は、Actinobacillus succinogenesにおける発現に最適化されていてもよい。異種Zwf遺伝子は、E.coli Zwf酵素をコードし得る。組換え株は、ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託された組換えActinobacillus succinogenesを含み得る。組換え株は、(例えば、適切な炭素源を利用する発酵システムにおいて)約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができてもよい。組換え株は、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性であってもよい。
【0071】
いくつかの実施形態において、組換え株は、異種Zwf遺伝子を発現するBisgaard Taxon6またはBisgaard Taxon10に属する微生物の組換え株である。異種Zwf遺伝子は、E.coli Zwf酵素をコードし得る。
【0072】
別の実施形態において、組換え株は、異種Zwf遺伝子に作動可能に連結されたActinobacillus succinogenesに対する転写プロモーターを含むDNA分子を含むActinobacillus succinogenesの組換え株である。転写プロモーターとしては、A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターまたはその改変体(例えば、ポリヌクレオチドが、A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーター活性を有する場合、配列番号4のポリヌクレオチドまたは配列番号4に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチド)を挙げることができる。異種Zwf遺伝子は、E.coli Zwischenferment酵素ま
たはその改変体(例えば、ポリヌクレオチドがE.coli Zwischenferment酵素活性を有する場合、配列番号1のポリヌクレオチドまたは配列番号1に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチド)をコードし得る。異種Zwf遺伝子は、E.coli Zwf遺伝子を含んでもよい。必要に応じて、Zwf遺伝子は、Actinobacillus succinogenesにおける発現に最適化されてもよい。DNA分子は、後成的であってもよい(例えば、プラスミド上に存在してもよい)。DNA分子としては、選択可能なマーカー(例えば、カナマイシン耐性、アンピシリン耐性、ストレプトマイシン耐性、スルホンアミド耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性またはその組み合わせ)を挙げることができる。
【0073】
別の実施形態において、組換え株は、異種Zwf酵素を含むActinobacillus succinogenesの組換え株である。異種Zwf酵素は、Actinobacillus succinogenesにおける発現に最適化されたZwf遺伝子から発現されてもよい。異種Zwf酵素は、E.coli Zwischenferment酵素を含み得る。組換え株は、ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託された組換えA.succinogenesを含み得る。組換え株は、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができ得る。必要に応じて、組換え株は、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性である。
【0074】
1つの実施形態において、コハク酸を産生するための方法は、異種Zwf遺伝子を発現する組換え微生物を用いて栄養培地を発酵させる工程を含む。組換え微生物としては、Actinobacillus succinogenesの組換え株(例えば、ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託されたA.succinogenes組換え株)を挙げることができる。組換え微生物は、Bisgaard Taxon6の組換え株またはBisgaard Taxon10の組換え株を含んでもよい。異種Zwf遺伝子は、E.coli Zwf遺伝子を含み得る。必要に応じて、組換え株は、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性である。必要に応じて、組換え株は、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができる。栄養培地は、発酵性の糖(例えば、グルコース)を含んでいてもよい。代表的には、この方法によってグルコース(g)に対して少なくとも約100%のコハク酸収率(g)を生じる。
【0075】
1つの実施形態において、組換えDNA分子は、異種Zwf遺伝子に作動可能に連結されたA.succinogenesについての転写プロモーターを含む。例えば、この転写プロモーターとしては、A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターまたはその改変体(例えば、ポリヌクレオチドがActinobacillus succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーター活性を有する場合、配列番号4のポリヌクレオチドまたは配列番号4に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチド)を挙げることができる。
【0076】
1つの実施形態において、組換えDNA分子は、DNAプラスミド中に存在する。代表的には、DNAプラスミドは、選択可能なマーカー(例えば、アンピシリン耐性、カナマイシン耐性、ストレプトマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、クロラムフェニコール耐性、スルホンアミド耐性およびそれらの組み合わせからなる群から選択される遺伝子)を含む。DNAプラスミド中に存在し得るDNA分子は、宿主細胞中に存在し得る。宿主細胞は、発酵システムにおいて約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができ得る。
【0077】
1つの実施形態において、組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発
現するDNA分子で形質転換された、コハク酸を産生する微生物の組換え株である。DNA分子は、NADPレダクターゼ活性を含んでもよいZwf酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでもよい。DNA分子は、ポリペプチドがZwf酵素活性(例えば、NADPレダクターゼ活性)を有する場合、Zwf酵素のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%の配列同一性(または望ましくは少なくとも約95%の配列同一性)を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号3または配列番号6)を含んでもよい。DNA分子は、ポリヌクレオチドがZwf酵素活性を有するポリペプチドをコードする場合、Zwf遺伝子のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも約90%の配列同一性(または望ましくは少なくとも約95%の配列同一性)を有するポリヌクレオチド配列(例えば、配列番号1;配列番号2;または配列番号5)を含んでもよい。いくつかの実施形態において、組換え株は、その16S rRNAがActinobacillus succinogenesの16S rRNAに対して少なくとも約90%の配列同一性を有する微生物由来であり得る。例えば、組換え株は、Actinobacillus succinogenes、Bisgaard Taxon6またはBisgaard Taxon10の株由来であり得る。
【0078】
別の実施形態において、組換え微生物は、異種Zwf遺伝子で形質転換されたコハク酸を産生する微生物の組換え株である。異種Zwf遺伝子は、その微生物における発現に最適化されてもよい。いくつかの実施形態において、異種Zwf遺伝子は、E.coli Zwf酵素をコードし得る。いくつかの実施形態において、Zwf遺伝子は、ポリヌクレオチドがZwf酵素活性を有する場合、配列番号1に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含んでもよい。
【0079】
別の実施形態において、組換え微生物は、Zwf酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼに対する転写プロモーターを含むDNA分子で形質転換されたコハク酸を産生する微生物の組換え株である。転写プロモーターとしては、Actinobacillus succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターを挙げることができる。いくつかの実施形態において、プロモーターは、ポリヌクレオチドがプロモーター活性を有する場合、配列番号4に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含み得る。
【0080】
別の実施形態において、組換え微生物は、後成的であるDNA分子で形質転換された組換え株である。そのDNA分子は、プラスミド上に存在してもよい。
【0081】
別の実施形態において、組換え微生物は、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができる組換え株である。
【0082】
組換え株は、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性であり得る。いくつかの実施形態において、組換え株は、ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託された組換えActinobacillus succinogenesである。
【0083】
別の実施形態において、組換え微生物は、組換え微生物を用いて栄養培地を発酵させる工程を含む方法においてコハク酸を産生するために使用される。栄養培地は、代表的には、グルコースなどの発酵性の糖を含む。この方法は、グルコース(g)に対して少なくとも約100%のコハク酸収率(g)を生じ得る。
【0084】
いくつかの実施形態において、コハク酸を産生する微生物に対する転写プロモーターを含むDNA分子は、異種Zwf遺伝子に作動可能に連結される。転写プロモーターは、ホ
スホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターを含んでもよい。いくつかの実施形態において、このプロモーターは、ポリヌクレオチドがプロモーター活性を有する場合、配列番号4に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む。このDNA分子は、プラスミド内に存在してもよい。このDNA分子は、宿主細胞(例えば、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができる宿主細胞)内に存在してもよい。
【0085】
実施例
微生物株およびプラスミド
A.succinogenes FZ45株は、モノフルオロ酢酸ナトリウムに耐性であるActinobacillus succinogenes 130Zの安定な細菌の変異株である。Guettlerら,INT’L J.SYST.BACT.(1999)49:207〜216;および米国特許第5,573,931号を参照のこと。E.coli−A.succinogenesシャトルベクターpLS88(ATCCアクセッション番号86980としてAmerican Type Culture Collectionに寄託)をカナダのマニトバ大学のLeslie Slaney博士より入手した。プラスミドpLS88は、Haemophilus ducreyiから単離されたと説明されており、スルホンアミド、ストレプトマイシンおよびカナマイシンに対する耐性を与えることができる。
【0086】
遺伝子操作
組換えDNA操作は、概して当該分野で説明されている方法に従った。プラスミドDNAをアルカリ溶菌法によって調製した。1.5mlの培養物から抽出された多コピープラスミドに対する代表的な再懸濁体積は、50μlであった。大量のDNA調製には、製造者の指示書に従ってQiagen Plasmid Purification Midi and Maxiキットを使用した。制限エンドヌクレアーゼ、分子量スタンダードおよび着色済マーカーを、New England BiolabsおよびInvitrogenから購入し、消化は、約5倍過剰量の酵素を使用した以外は製造者の推奨のとおりに実施した。DNAをエチジウムブロマイド存在下のTris−酢酸−アガロースゲル上で解析した。DNAをアガロースゲルから抽出し、製造者の指示書に従ってQiagenゲル抽出キットを使用して精製した。DNAを、制限酵素消化物と組み合わせてエビアルカリホスファターゼ(Roche)を使用して脱リン酸化した。ホスファターゼを15分間70℃で加熱不活性化した。ライゲーションを、20μl反応体積中のベクターDNAに対して3〜5倍過剰モル量の挿入物および1μlのT4 DNAリガーゼ(New England Biolabs)を使用して25℃で1時間実施した。E.coli形質転換をInvitrogenから購入した「library efficiencyコンピテント細胞」を使用して製造者の指示書に従って実施した。
【0087】
ライゲーション混合物を使用した形質転換体を、適切な抗生物質を含む標準的なLBプレート上に希釈することなく播いた。PCR増幅をガイドラインとしてPerkin Elmerマニュアルを使用して実施した。プライマー設計は、(米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)データベースに提供されるような)公開された配列に基づいた。プライマーには、設計された制限酵素認識部位を含んだ。ベクターNTIプログラムを使用してダイマーおよびヘアピン形成ならびに融解温度についてプライマーを分析した。すべてのプライマーは、Michigan State Macromolecular Structure Facilityへ注文した。PCR増幅は、Eppendorf Gradient Master CyclerまたはPerkin Elmer Thermocyclerを用いて実施した。各プライマー対について、ベクターNTIプログラムを使用して開始アニーリング温度を決定した。増幅産物を消化するための制限酵素をInvitrogenまたはNew England Biolabsから購
入した。
【0088】
プラスミドpJR762.55
A.succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーター配列(ppepck、配列番号4、ヌクレオチド1−258を含むGenBankアクセッション番号AY308832)を、以下のプライマー:順方向、5’−AAAGAATTCTTAATTTCTTTAATCGGGAC(配列番号7);および逆方向5’−GCGTCGACATACTTCACCTCATTGAT(配列番号8)を使用してA.succinogenes FZ45ゲノムDNAから増幅した。EcoRIおよびSalI制限配列(下線のヌクレオチド)をクローニングを促進するために含め、生じた0.27−kb PpepckフラグメントをpLS88にEcoRI/SalIフラグメントとして挿入してプラスミドpJR762.55を生成した。
【0089】
プラスミドpJR762.73
E.coli由来のZwf遺伝子を、以下のプライマー:順方向、5’−CCGCTCGAGGGCGGTAACGCAAACAGC(配列番号9);および逆方向5’−CCGCTCGAGTTACTCAAACTCATTCCAGG(配列番号10)を使用してBL21(DE3)株のゲノムDNA(ATCCアクセッション番号NC_000913)から増幅した。XhoI制限配列(下線のヌクレオチド)をクローニングを促進するために含め、生じた1.5kbのZwfフラグメントをpJR762.55のSalI部位に挿入してプラスミドpJR762.73を生成した。
【0090】
A.succinogenesの形質転換
エレクトロポレーションのためのA.succinogenesコンピテント細胞をトリプシン大豆肉汁培地(tryptic soy broth medium)(TSB)中で細胞をOD600が約0.6になるまで生育することによって調製した。細胞を遠心分離し、滅菌水で2回、10%v/vグリセロールで2回洗浄し、10%グリセロールで0.01×元の培養体積に再懸濁した。細胞を急速冷凍し、マイナス80℃で保存した。約40μlの解凍した細胞を、400W、25mFおよび1.8kVに設定されたBioRad GenePulserを用いて0.1cmキュベット内でエレクトロポレーションに供した。エレクトロポレーション後、1mlの室温TSB培地をすぐに加えて、細胞を37℃で1時間インキュベートした。細胞溶液を、カナマイシン(100μg/ml)を含むTSB寒天プレート上に播いた。
【0091】
A.succinogenesの光学密度測定
マグネシウムで中和した発酵物由来のサンプルを、420×gで2分遠心分離してMgCOを沈殿させ、任意の残存する沈殿物を可溶化するために0.5N HClで希釈した後、OD660を測定した。
【0092】
A.succinogenesの回分発酵
A.succinogenesの発酵は、別途特定されないかぎり、以下の培地:グルコース80g/L、液体飼料シロップ(LFS)85g/L、ビオチン0.2mg/L、5mM リン酸、酵母抽出物3g/L、Sensient AG900を含む51個の発酵槽中で実施した。pHは、Mg(OH)を用いて7.0に維持した。撹拌は250rpm、温度38℃に設定し、二酸化炭素を0.025v.v.mの割合で散布した。上で記載した培地を含む血清バイアル中で生じさせた発酵体を、1.25%接種菌液を用いて接種した。A.succinogenesの組換え株のための発酵培地は、100μg/mlのカナマイシンを含んだ。
【0093】
LFSの精製
光学密度測定を介した増殖の測定を必要とする発酵のために、LFSの冷水抽出物を使用した。懸濁された固体および少量の油をSorvall GSAローターで9,000rpm、20分間LFSを遠心分離することによって除去した。上清を分離漏斗で、室温で3時間沈殿させた。下部の水相は、代表的には粗LFSの57%(w/v)を示した。
【0094】
Zwf発現を確認するための生化学アッセイ
グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼアッセイは、Choiら、2003によって説明されているように実施した(Choi,Jae−Chulk,Shin,Hyun−Dong,Lee,Yong−Hyun(2003)Enzyme and Microbial Technology 32,p.178〜185;“Modulation
of 3−hydroxyvalerate molar fraction on poly(3−hydroxybutyrate−3−hydroxyvalerate) using Ralstonia eutropha transformant co−amplifying phbC and NADPH generation−related Zwf genes”を参照のこと)。D−6−ホスホグルコノ−δ−ラクトンの形成速度は、NADPHの増加によって測定した。この測定は、340nmの吸光度を測定することによって定量した。各アッセイは、Tris−HCl 50μl[1M]、pH7.5、MgCl 200μl[50mM]、NADP 100μl[10mM]、グルコース−6−リン酸 100μl[10mM]、HO 450μlおよび細胞抽出物 100μlを含む1ml中で実施した。特異的な活性は:特異的活性=dA/dt/0.623×(タンパク質濃度)またはμmol/分mg−1として計算した。高いZwf活性が、A.succinogenesPEPCKプロモーター由来のE.coli Zwf遺伝子を発現するプラスミド pJR762.73を含むすべての組換え株で観察された。プラスミドpJR762.73を保持する形質転換されたActinobacillus株(FZ45)ならびにBisgaard Taxon6(BT6)およびBisgaard Taxon10(BT10)の形質転換株において高い活性が観察された。これらの結果を、図3に示す。
【0095】
E.coli発酵
E.coli株DH5α/pJR762.73(Zwf)、DH5α/pJR762.17(Zwf)およびDH5α/pLS88を、4リットルの以下の培地:900AG酵母抽出物 15g;トウモロコシ・スティープ・リカー 15g;NaHPO 1.16g;NaHPO.HO 0.84g:(NHSO 3g;MgSO.7HO,0.61;CaCl.2HO 0.25gおよびグルコース 45g/リットルを使用してNBS5リットルBioflo III発酵槽中で生育させた。pHは、KCO(3.3N)の自動添加によって6.7に制御した。発酵は、1.25%接種材料でそれぞれ開始した。条件は、E.coli細胞の迅速な生育に好都合な好気性で開始し;500rpmで撹拌し、培地を0.5リットル/リットル分で空気の注入散布(sparged with air)した。細胞密度が、OD660単位の最小値6.2に達したとき発酵槽の状態を有機酸産生に好都合な嫌気性にし;次いで培地にCOとHとの混合物(95:5)を0.2リットル/リットル分で散布し、そして撹拌を250rpmに減速した。定期的にサンプルを回収し、有機酸生成物および残留グルコース濃度をHPLCを用いて測定した。
【0096】
発酵ブロスの解析
35℃に設定されたWaters717オートサンプラーおよびWaters2414屈折率検出器を備えたWaters1515アイソクラティックポンプを使用して逆相高圧液体クロマトグラフフィ(HPLC)によってコハク酸、グルコース、乳酸、ピルビン酸塩、エタノールおよびギ酸濃度を測定した。Waters Breezeソフトウェア(バージョン3.3)を使用してHPLCシステムを制御し、データを収集、処理した。
Bio−Rad Aminex HPX−87H(300mm×7.8mm)カラムを55℃に保たれたカチオンHガードカラムとともに使用した。移動相は、0.5ml/分で移動する0.021N硫酸であった。サンプルを0.45μmフィルターに通して濾過し、5.0μlをカラムに注入した。実行時間は、30分であった。
【0097】
CO測定
発酵槽散布システムをモニタリングし100ml/分でCOを供給するために質量流量制御装置(Brooksモデル5850I)を使用した。排気冷却システムを通って発酵槽に存在するCOを測定するために質量流量計(Brooksモデル5860I)を使用した。4−20ma Bio−Command Interfaceを介して2つのCO流量計をコンピュータに接続した。BioCommand Plus Bioprocessingソフトウェアは、60秒毎に入口および出口のCO流量を記録した。CO消費の速度(ml/分)を、任意の所定の分にわたる入口と出口との間の速度の差として表した(CO利用=CO入口−CO出口)。任意の所定の発酵間隔の間に消費されるCOの体積は、その間隔の各分の合計速度である。消費されたCOのモルは、理想気体の法則を使用して計算した(消費リットル/(22.4リットル/モル)=消費モル)。
【0098】
質量流量計は、COの製造者によって較正されており、その精密度は、最大測定限界の1%または2ml/mであった。発酵設備を、COに5%水素を混合することによってガス漏れをモニタリングした。水素の漏出は、Tif8800CO/可燃性ガス分析機器を使用して検出した。
【0099】
A.succinogenes発酵の代謝フラックス解析
Actinobacillus succinogenesにおける嫌気性コハク酸産生の間の代謝フラックス分布(MFA)を、FluxAnalyzerソフトウェアパッケージを使用して解析した。FluxAnalyzerパッケージは、Steffen Klamt教授(Max Planck Institute,Magdeburg,Germany)から入手し、マニュアルに提供された指示に従って操作した。FluxAnalyzerパッケージは、実際の数学的計算を実施するMATLABプログラム用のグラフィカルユーザーインターフェースを提供することによって代謝フラックスの解析を促進する。MATLABソフトウェアは、Math Work Incから購入した。代謝経路全体の既知構成要素および予側される構成要素の細胞外濃度の変化を測定することによって、主な細胞内代謝産物についての細胞内フラックスを、以下に説明する代謝ネットワークモデルを使用して計算した。以下に示す20個の既知代謝産物および27個の反応を使用して特異的なネットワーク(標識されたA_succinogenes)を構築した(バイオマス組成物および増殖速度は考慮しない):
A succinogenes代謝ネットワークモデル
グルコース(in)→グルコース(R1)
グルコース→グルコース−6P(R2)
グルコース−6P+2NAD→2PEP+2NADH(R3)
PEP→ピルビン酸塩(R4)
PEP+CO→OAA(R5)
ピルビン酸塩→ピルビン酸塩(out)(R6)
ピルビン酸塩+NAD→アセチルCoA+NADH+CO(R7)
ピルビン酸塩+NADH+CO→リンゴ酸(R8)
アセチルCoA→酢酸塩(R9)
酢酸塩→酢酸塩(out)(R10)
酢酸塩+OAA→クエン酸塩(R11)
クエン酸塩+NAD→CO+NADH+α−KG(R12)
OAA+NADH→リンゴ酸+NAD(R13)
リンゴ酸→フマル酸塩(R14)
フマル酸塩+NADH→コハク酸+NAD(R15)
コハク酸→コハク酸(out)(R16)
CO(in)→CO(R17)
グリセロール(in)→グリセロール(R18)
グリセロール+2NAD→PEP+2NADH(R19)
ソルビトール(in)→ソルビトール(R20)
ソルビトール+NAD→グルコース−6P+NADH(R21)
キシロース(in)→キシロース(R22)
キシロース→R5P(R23)
R5P+5/3NAD→5/3PEP+5/3NADH(R24)
グルコース−6P+2NADP→R5P+CO+2NADPH(R25)
アセチルCoA+2NADH→エタノール+2NAD(R26)
エタノール→エタノール(out)(R27)
先に説明した分析方法を使用して発酵の経時変化に関して発酵サンプルを解析した。グルコース、グリセロール、アラビノース、キシロース、ソルビトール、コハク酸、酢酸、エタノール、ピルビン酸塩、乳酸の濃度および発酵体積を各サンプリング時において測定した。代謝産物の量は、式:(代謝産物,g)=V(発酵槽,l)C(代謝産物,g/l)に従って計算した。t−tの間の代謝産物の消費速度または代謝産物の産生速度を、式:代謝産物の消費速度(mol/h,tおよびt)=[量(代謝産物,g,t)−量(代謝産物,g,t)]/[(t−t代謝産物の分子量]を使用して計算した。すべての時間についての代謝フラックスの比較のために、フラックスマップにおけるグルコース消費速度を100と仮定して、フラックスマップにおける代謝産物の消費速度または生成速度を調節した。マップ「Mcp」における代謝産物の消費速度または生成速度を以下の式:Mcp=(代謝消費/または生成速度)×100/(グルコース消費速度)に従って決定した。
【0100】
操作指示書に従ってFluxAnalyzerパッケージにおける代謝ネットワークモデルに様々な代謝産物の消費速度または生成速度を入力した。「Calculate/Balance Rates」という機能を計算可能な速度すべてを計算するために使用した。このシステムが非重複性である場合、最適化手順を開始して、線形目的関数を最小化した。このシステムが重複性である場合、3つの方法(単純な最小2乗法、分散−重みつき最小2乗法Iおよび分散重みつき最小2乗法II)のうち1つ以上を速度を計算するために適用した。流動速度を、フラックスマップ上に直接示した。最終的なフラックスマップを、保存目的でMicrosoft Excelファイルにコピーした。
【0101】
A.succinogenes FZ45における生化学経路の代謝フラックス解析
A.succinogenes FZ45を用いた回分発酵におけるコハク酸産生に対する異なる炭素源の効果を評価するために代謝フラックス解析を使用した。この解析により、A.succinogenes FZ45におけるコハク酸産生についての主要経路が以下の様式:ホスホエノールピルビン酸塩(PEP)→オキサロ酢酸塩(OAA)→リンゴ酸塩→フマル酸塩→コハク酸で流れることが証明された。グリオキシル酸分路およびPEP−輸送システム(PTS)が生物体内で実質的に使用されないようであった。グルコース発酵は、約94%(コハク酸(g)/グルコース(g))の収率で61.7g/Lコハク酸の濃度に達した。ソルビトールなどのより少ない炭素源を使用して実施された発酵により、高収率(108%コハク酸(g)/グルコース(g))でより多量のコハク酸(77.3g/L)が産生された。このことは、還元力がグルコースの発酵の間の制限因子になり得ることを示唆する。
【0102】
Zwfの過剰発現によるグルコースからのコハク酸の高産生
100μg/mlカナマイシンを形質転換株用の発酵培地に添加した以外は標準的な産生条件下でFZ45株、FZ45/pLS88株およびFZ45/pJR762.73株を培養した。FZ45/pLS88は、第2のコントロールとして機能し、PEPカルボキシキナーゼプロモーターまたはZwf遺伝子を保持しないクローニングベクターを用いて形質転換する。使用した炭素源は、グルコースであった。FZ45/pJR762.73株は、コハク酸の最終濃度の増加と対応して、コントロールFZ45株およびFZ45/pLS88株を超えるコハク酸産生の増加を示した。グルコースから産生されたコハク酸の総量は、284gから302gに増加し、産生されたコハク酸のモル収率は、144%から155%に増加し(コハク酸のモル/グルコース100モル)、重量収率は94.7%から101.9%に増加し、そして発酵ブロス中のコハク酸の最終濃度は62g/Lから65g/Lに増加した。これらの結果を表1にまとめる。すべての形質転換FZ45誘導体は、非形質転換FZ45と比べて遅い増殖を示すが、これは付加的な染色体外のプラスミドDNAの複製によって引き起こされた可能性がある。
【0103】
【表2】

【0104】
さらに、表2に示すように、FZ45/pJR762.73株では、酢酸およびピルビン酸の2種類の代謝産物の産生がより少なかった。
【0105】
【表3】

【0106】
FZ45とFZ45/pJR762.73との両方の代謝フラックス解析により、FZ45/pJR762.73が、非形質転換FZ45よりも多く炭素をペントースリン酸経路に導いたことが示された(図1および図2を参照のこと)。従って、グルコースが炭素源として使用されるとき、Zwfタンパク質の過剰発現は、コハク酸の収率を増大し、他の代謝産物の産生を減少させるのに十分であった。
【0107】
少ない炭素源を使用したA.succinogenes FZ45//pJR762.73による発酵
炭素源としてマンニトールを利用するA.succinogenes FZ45/pJR762.73による発酵もまた実施した。マンニトールは、グルコースよりも還元された6−炭素糖アルコールである。Zwfの発現はまた、マンニトールを使用してコハク酸産生を促進した(表3を参照のこと)。しかしながら、この糖アルコールを使用した発酵は、非形質転換FZ45株を用いても高収率であることが示された。これは、代謝の還元当量物の量の増加がコハク酸産生を促進することを示唆する。
【0108】
【表4】

【0109】
組換えBisgaard Taxon6およびBisgaard Taxon10におけるZwf発現の効果
生物体Bisgaard Taxon6(BT6)およびBisgaard Taxon10(BT10)を使用して他の種におけるZwf発現の効果もまた試験した。両方の生物体は、Pasteurellaceae科に属し、A.succinogenesに関連する。また、両方の生物体は、コハク酸を産生することが知られている。上で説明した方法および同じプラスミドであるpJR762.73(A.succinogenesPEPCKプロモーター下にZwf遺伝子を保持する)を使用して、両方のBisgaard Taxonを形質転換した。これらの形質転換株の両方において、炭素源としてグルコースを使用したコハク酸産生が増加したことが示された。これらの結果を、以下の表4に示す。
【0110】
【表5】

【0111】
Bisgaard Taxon株を用いたこれらの発酵のフラックス解析によって、ペントースリン酸経路の利用がこのプラスミドを保持する株において実際に増加したことが示唆された。BT6/pJR762.73は、コントロールよりも多くの炭素を、ペント
ースリン酸経路を介して送った(33mol%対20mol%)。同様に、BT10/pJR762.73は、コントロールのわずか5mol%と比べて、ペントースリン酸経路を介して35mol%の炭素を送った。
【0112】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本明細書中で開示される本発明に様々な置換および改変がなされ得ることは、当業者にとって容易に明らかであるだろう。例として本明細書中に記載される本発明は、本明細書中に詳細に開示されない任意の要素(単数または複数)、制限(単数または複数)なしに適切に実施することができる。使用された用語および表現は、説明の用語として使用されるのであって、限定の用語ではない。様々な改変をすることは、示され、そして説明された特徴またはそれらの一部の任意の等価物を排除するこのような用語および表現の使用において意図されないが、本発明の範囲内で可能であることが認識される。従って、本発明は特定の実施形態および任意の特徴によって説明されたが、本明細書中に開示された概念の改変および/または変更は、当業者にゆだねられ、このような改変および変更が本発明の範囲内であると考えられることが理解されるべきである。
【0113】
さらに、本発明の特徴または態様がマーカッシュ群または代替の他の群の形で記載される場合、当業者は、本発明がまた本明細書によってマーカッシュ群または他の群の任意の個別のメンバーまたはメンバーの部分群に関して記載されることを認識するだろう。
【0114】
また、反対の指示がない限り、様々な多くの値が実施形態について提供される場合、追加の実施形態が、ある範囲の終点として任意の2つの異なる値をとることによって記載される。このような範囲はまた、説明された本発明の範囲内である。
【0115】
本明細書中に引用されたすべての参考文献、特許および/または出願は、それぞれの参考文献が個々にそれらの全体において参考により援用されたのと同程度に、任意の表および図を含むそれらの全体が参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】グルコースを使用したA.succinogenes変異株FZ45の回分発酵の代謝フラックス解析
【図2】グルコースを使用した組換えA.succinogenes FZ45/pJR762.73の回分発酵の代謝フラックス解析
【図3】形質転換株の細胞抽出物におけるZwf酵素活性。抽出物を、以下に記載するように調製し、Zwf活性についてアッセイした。pJR762.73を保持するすべての株は、Zwf活性の大規模な増加を示し、それを対数メモリ上に図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zwf酵素活性を有するポリペプチドを発現するDNA分子で形質転換されたコハク酸を産生する微生物の組換え株。
【請求項2】
前記微生物の16S rRNAがActinobacillus succinogenesの16S rRNAと少なくとも約90%の配列同一性を有する、請求項1に記載の組換え株。
【請求項3】
前記微生物が、Actinobacillus succinogenes、Bisgaard Taxon6およびBisgaard Taxon10からなる群から選択される微生物である、請求項2に記載の組換え株。
【請求項4】
Zwf酵素活性が、NADPレダクターゼ活性を含む、請求項1に記載の組換え株。
【請求項5】
前記微生物が、異種Zwf遺伝子で形質転換される、請求項1に記載の組換え株。
【請求項6】
前記異種Zwf遺伝子が、前記微生物における発現に最適化されている、請求項5に記載の組換え株。
【請求項7】
前記異種Zwf遺伝子が、E.coliのZwf酵素をコードする、請求項5に記載の組換え株。
【請求項8】
前記Zwf遺伝子が、配列番号1と少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含む、請求項5に記載の組換え株。
【請求項9】
前記ポリペプチドが、配列番号3と少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1に記載の組換え株。
【請求項10】
前記DNA分子が、Zwf酵素活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結されたホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼについての転写プロモーターを含む、請求項1に記載の組換え株。
【請求項11】
前記転写プロモーターが、Actinobacillus succinogenesホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターを含む、請求項10に記載の組換え株。
【請求項12】
前記プロモーターが、配列番号4と少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含み、該ポリヌクレオチドが、プロモーター活性を有する、請求項10に記載の組換え株。
【請求項13】
前記DNA分子が、後成的である、請求項1に記載の組換え株。
【請求項14】
前記DNA分子が、プラスミド上に存在する、請求項13に記載の組換え株。
【請求項15】
前記組換え株が、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができる、請求項1に記載の組換え株。
【請求項16】
前記組換え株が、少なくとも約1g/Lのモノフルオロ酢酸ナトリウムのレベルに耐性である、請求項1に記載の組換え株。
【請求項17】
前記組換え株が、ATCCアクセッション番号PTA−6255として寄託されている組換えActinobacillus succinogenesである、請求項1に記載の組換え株。
【請求項18】
NADPレダクターゼ活性を有するポリペプチドを発現するDNA分子で形質転換され、該ポリペプチドが、配列番号3と少なくとも約95%の配列同一性を有する、コハク酸を産生する微生物の組換え株。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の組換え微生物を用いて栄養培地を発酵する工程を含む、コハク酸を産生するための方法。
【請求項20】
前記栄養培地が、グルコースを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、グルコース(g)に対して少なくとも約100%のコハク酸収量(g)を生じる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
異種Zwf遺伝子に作動可能に連結されたコハク酸を産生する微生物についての転写プロモーターを含むDNA分子。
【請求項23】
前記コハク酸を産生する微生物が、Actinobacillus succinogenesである、請求項22に記載のDNA分子。
【請求項24】
前記転写プロモーターが、ホスホエノールピルビン酸(PEP)カルボキシキナーゼプロモーターを含む、請求項22に記載のDNA分子。
【請求項25】
前記プロモーターが、配列番号4と少なくとも約95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドを含み、該ポリヌクレオチドが、プロモーター活性を有する、請求項22に記載のDNA分子。
【請求項26】
請求項22〜25のいずれかに記載のDNA分子を含むDNAプラスミド。
【請求項27】
請求項26に記載のDNAプラスミドを含む宿主細胞。
【請求項28】
前記宿主細胞が、約50g/L〜約130g/Lの濃度でコハク酸を産生することができる、請求項27に記載の宿主細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−525026(P2008−525026A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548341(P2007−548341)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/045714
【国際公開番号】WO2006/083410
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(593093836)ミシガン バイオテクノロジー インスティテュート (2)
【Fターム(参考)】