説明

有機金属錯体、有機金属錯体含有組成物、発光材料、有機電界発光素子材料、有機電界発光素子、有機電界発光素子表示装置および有機界発光素子照明装置

【課題】溶剤への溶解性や分散性が高く、湿式成膜に適した有機金属錯体の提供。
【解決手段】式(1)


で表される有機金属錯体、該有機金属錯体からなる発光材料又は有機電界発光素子材料、該有機金属錯体と溶剤を含有する組成物、該有機金属錯体を用いた有機電界発光素子、該有機電界発光素子を具備する表示装置又は照明装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属錯体に関し、さらに詳しくは、有機電解発光素子の発光層等に用いられる有機金属錯体、該有機金属錯体からなる発光材料または有機電界発光素子材料、該有機金属錯体と溶剤を含有する組成物、該有機金属錯体を用いた有機電界発光素子、該有機電界発光素子を具備する表示装置または照明装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜型の電界発光素子としては、無機材料を使用したものに代わり、有機薄膜を用いた有機電界発光素子の開発が行なわれている。有機電界発光素子は、通常、陽極と陰極の間に、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層などを有し、この各層に適した赤、緑、青などの発光素子の開発が進んでいる。
【0003】
また、有機電界発光素子の各層の形成方法としては、蒸着成膜法や湿式成膜法がある。蒸着成膜法では、テレビやモニタ用の中・大型フルカラーパネルなどを製作する場合、歩留まりの観点で課題を有する。そのため、これら大面積の用途には湿式成膜法が好適である。
【0004】
しかしながら、湿式成膜法で有機電界発光素子の各層を形成するためには、各層を形成する材料が溶剤に溶解し、かつ湿式成膜後にも素子として高い性能を有することが望まれていた。しかし、従来開発されている蒸着成膜法に使用されてきた材料(特許文献1参照)であっても、湿式成膜法には適さないものが多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/014599号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、溶剤への溶解性や分散性が高く、湿式成膜に適した有機金属錯体を提供することを課題とする。また、湿式成膜法で形成される有機層に用いても、得られる有機電界発光素子が寿命や耐久性などの点で高い性能を保つことができる有機金属錯体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定の置換基をもつフェニルキノリン環を有する有機金属錯体が、溶剤への溶解性が高く、有機電界発光素子のリン光ドーパントとして寿命や耐久性に優れることを見出し本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、次の〔1〕〜〔10〕に存する。
〔1〕下記式(1)で表されることを特徴とする有機金属錯体。
【0009】
【化1】

【0010】
[式(1)中、R〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基または置換基を有するシリル基を示し、これらの基は互いに結合して環を形成していてもよいが、R〜R10のいずれか1つは置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有する基である。]
【0011】
〔2〕式(1)において、R〜R10のいずれか1つが置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有するフェニル基である、上記〔1〕に記載の有機金属錯体。
〔3〕式(1)において、Rが置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有するフェニル基である、上記〔1〕または〔2〕に記載の有機金属錯体。
〔4〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の有機金属錯体からなることを特徴とする発光材料。
〔5〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の有機金属錯体からなることを特徴とする有機電界発光素子材料。
〔6〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の有機金属錯体および溶剤を含有することを特徴とする有機金属錯体含有組成物。
〔7〕基板上に、陽極、陰極および該陽極と該陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層が、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の有機金属錯体を含有することを特徴とする有機電界発光素子。
〔8〕有機層が発光層である、上記〔7〕に記載の有機電界発光素子。
〔9〕上記〔7〕または〔8〕に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機電界発光表示装置。
〔10〕上記〔7〕または〔8〕に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機電界発光照明装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶剤への溶解性や分散性が高く、湿式成膜に適した有機金属錯体を提供できる。また、この有機金属錯体を用いた有機電界発光素子は、湿式成膜法で形成される有機層であっても、得られる有機電界発光素子が寿命や耐久性などの点で高い性能を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を示す断面の模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に特定されない。
本発明は、下記式(1)で表される有機金属錯体とその利用に関する。
【0015】
【化2】

【0016】
式(1)中、R〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基または置換基を有するシリル基を示し、これらの基は互いに結合して環を形成していてもよいが、R〜R10のいずれか1つは置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有する基である。
【0017】
上記のとおり、本発明の有機金属錯体は、式(1)において、R〜R10のいずれか1つが置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有する基であることに一つの特徴をもつものである。これにより、溶解性が向上し、分子が良好に分散するようになり、経時による結晶化の問題が起きにくくなり、寿命や耐久性が向上するという効果を奏するものと推測される。
【0018】
<R〜R10における基の具体例>
本発明の式(1)で表される有機金属錯体において、R〜R10の定義中の原子および基について、具体的に説明する。
【0019】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。これらの中で、フッ素が好ましい。
【0020】
炭化水素基としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基および芳香族炭化水素基が挙げられる。
ここで、飽和炭化水素基としては、アルキル基が挙げられる。
該アルキル基としては、通常炭素数1以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、また、通常15以下、好ましくは12以下、より好ましくは8以下である。下限を下回ると溶解性不足のおそれがあり、上限を上回ると熱処理時に酸化劣化するおそれがある。直鎖のアルキル基であっても、分岐したアルキル基であっても、またシクロアルキル基であってもよい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、オクタデシル基などのアルキル基が挙げられる。
【0021】
また、不飽和炭化水素基としては、アルケニル基およびアルキニル基が挙げられる。
該アルケニル基としては、通常炭素数2以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、また、通常12以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。下限を下回ると溶解性が不足するおそれがあり、上限を上回ると熱処理時に酸化劣化するおそれがある。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基などが挙げられる。
【0022】
該アルキニル基としては、通常炭素数2以上、好ましくは3以上であり、また、通常8以下、好ましくは5以下、より好ましくは3以下である。下限を下回ると溶解性が不足するおそれがあり、上限を上回ると熱処理時に酸化劣化するおそれがある。具体的には、例えば、アセチレニル基、プロピニル基などが挙げられる。
【0023】
また、芳香族炭化水素基としては、通常炭素数5以上、好ましくは6以上であり、また、通常16以下、好ましくは14以下、より好ましくは10以下である。下限を下回ると安定性が悪くなるおそれがあり、上限を上回ると錯体が形成されにくくなるおそれがある。中でも、6員環の単環、または2〜5縮合環由来の芳香族炭化水素基が好ましい。具体的には、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などの芳香族炭化水素由来の基が挙げられる。特に、ベンゼン環由来の基(フェニル基)であることが好ましい。
【0024】
アルコキシ基としては、通常炭素数1以上、好ましくは2以上であり、また、通常12以下、好ましくは10以下、より好ましくは8以下である。下限を下回ると溶解性が不足するおそれがあり、上限を上回ると熱処理時に酸化劣化するおそれがある。具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクタデシルオキシ基などのアルコキシ基が挙げられる。
【0025】
芳香族複素環基としては、通常炭素数3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上であり、また、通常15以下、好ましくは12以下、より好ましくは8以下である。下限を下回ると錯体の安定性が損なわれるおそれがあり、上限を上回ると錯体を形成できないおそれがある。具体的には、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの芳香族複素環由来の基が挙げられる。
【0026】
置換基を有するシリル基としては、炭化水素基または芳香族炭化水素基を有するシリル基が好ましく、炭化水素基を有するシリル基がより好ましい。該炭化水素基、該芳香族炭化水素基の具体例や好ましい基としては、上記と同様のものが挙げられる。さらに、置換基を有するシリル基としてはアルキル基を有するシリル基が好ましく、該アルキル基を有するシリル基としてはトリアルキルシリル基が好ましく、具体的には、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。
【0027】
これらR〜R10におけるハロゲン原子、炭化水素基、アルコキシ基、芳香族複素環基、置換基を有するシリル基の中で、アルキル基または芳香族炭化水素基が好ましい。また、R〜R10が、炭化水素基、アルコキシ基、芳香族複素環基または置換基を有するシリル基である場合、これらの基は置換基を有していてもよい。
【0028】
ここで、R〜R10が有していてもよい置換基としては、アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、アルコキシ基、(ヘテロ)アリールオキシ基、アルキルチオ基、(ヘテロ)アリールチオ基、シアノ基、アミノ基、置換基を有するシリル基などの有機基が挙げられる。中でも、アルキル基および芳香族炭化水素基が化合物の安定性の面から好ましく、芳香族炭化水素基が特に好ましい。なお、上記(ヘテロ)アリールとは、アリール及びヘテロアリールの両方を示す。
【0029】
該アルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロヘキシル基、デシル基、オクタデシル基等が挙げられる。中でも、n−ペンチル基などのペンチル基、n−ヘキシル基および2−エチルヘキシル基などのヘキシル基は非極性溶剤に高い溶解性を持つため好ましい。
【0030】
該芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜25の芳香族炭化水素基が好ましく、6員環の単環または2〜5縮合環由来の芳香族炭化水素基が好ましい。具体的には、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、フルオランテン環などの芳香族炭化水素由来の基が挙げられる。
【0031】
該芳香族複素環基としては、炭素数3〜20の芳香族炭化水素基が好ましい。具体的には、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの芳香族複素環由来の基が挙げられる。
【0032】
該アルコキシ基としては、炭素数1〜20のアルコキシ基が好ましく、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。
【0033】
該(ヘテロ)アリールオキシ基としては、炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールオキシ基が好ましく、具体的には、例えば、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、9−アントラニルオキシ基、2−チエニルオキシ基等が挙げられる。
【0034】
該アルキルチオ基としては、炭素数1〜20のアルキルチオ基が好ましく、具体的には、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、イソプロピルチオ基、シクロヘキシルチオ基等が挙げられる。
【0035】
該(ヘテロ)アリールチオ基としては、炭素数3〜20の(ヘテロ)アリールチオ基好ましく、具体的には、例えば、フェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、9−アントラニルチオ基、2−チエニルチオ基等が挙げられる。
【0036】
該置換基を有するシリル基としては、アルキル基を有するシリル基が好ましく、該アルキル基を有するシリル基としてはトリアルキルシリル基が好ましく、具体的は、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。
【0037】
また、R〜R10は、互いに結合、好ましくは隣接する基と互いに結合して環を形成していてもよい。この場合、炭素原子同士の結合が好ましく、アルキル基の末端同士の結合がより好ましい。
【0038】
上記のとおり、R〜R10のいずれか1つは置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有する基である。また、Rが該アルキル基を有する基であることが好ましい。また、該アルキル基を有する基が有していてもよい置換基の具体例や好ましい基としては、上記したものが挙げられる。
【0039】
更に、炭素数5以上のアルキル基とは、炭素数5以上の直鎖、分岐もしくは環状アルキル基であり、炭素数の下限値として、好ましくは6以上であり、より好ましくは8以上である。又、炭素数の上限値として、好ましくは15以下であり、より好ましくは12以下である。尚、有機溶剤への溶解性の観点から、炭素数5以上のアルキル基は、アルキル基の主鎖が炭素数5以上のものが特に好ましい。
炭素数5以上のアルキル基の具体例としては、直鎖のアルキル基であることが好ましく、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基などが挙げられる。
【0040】
上記のとおり、アルキル基の置換基の具体例は、上記R〜R10の置換基として例示するものが挙げられるが、炭素数5以上のアルキル基は無置換である場合に、本発明の効果がより顕著である。また、炭素数5以上のアルキル基を有する基としては、炭素数5以上のアルキル基を有するフェニル基が好ましい。
【0041】
さらに、一般式(1)において、R、R、R、R、R10としては、水素原子が特に好ましい。Rとしては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されたアルキル基またはアルケニル基が特に好ましい。Rとしては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、ハロゲン原子またはハロゲン原子で置換されたアルキル基が特に好ましい。Rとしては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、ハロゲン原子、ハロゲン原子で置換されたアルキル基、芳香族炭化水素基またはトリアルキルシリル基が特に好ましい。Rとしては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基またはトリアルキルシリル基が特に好ましい。また、R、Rが、アルキル基またはアルケニル基である場合は、互いに結合して環を形成しているものも好ましい。
【0042】
上記のとおり、式(1)において、R〜R10のいずれか1つは、特に好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有するフェニル基であるが、Irへの配位位置に対してp−位にフェニル基を有することにより、Irのd軌道と当該フェニル基におけるベンゼン環の電子軌道による混成軌道の安定性が向上、つまり錯体の安定性が向上し、耐久性の高い化合物が得られるため、特にRが置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有するフェニル基であることが好ましい。
【0043】
さらにRの中では、特にフェニル基のp位が炭素数5以上のアルキル基であることが好ましい。p位に当該アルキル基を有することにより、アルキル基の電子供与性基としての効果を発揮しやすい。本発明の有機金属錯体として、特に好ましいのは、p位が炭素数5以上のアルキル基である化合物である。
【0044】
なおIr錯体の配位子としては、本発明の有機金属錯体が有するフェニル骨格以外に、例えば上記式(1)におけるR及びRが結合して芳香族6員環を形成し、イソキノリン環を形成してなる骨格も考えられる。しかし、本発明者らの検討によると、フェニルイソキノリン骨格(からなる配位子)を有するIr錯体において、その配位子が、本発明の有機金属錯体と同様に炭素数5以上のアルキル基を有する場合、安定性が低下するという問題が生じる傾向がある。
【0045】
たとえば、フェニルイソキノリン系Ir錯体の場合、炭素数の大きいアルキル基を導入した方が安定性が低下する。具体的には、下記Piq−1とPiq−2では、アセトニトリルなどの有機溶媒に溶解した状態で室温下に静置した場合、Piq−2に比してPiq−1の分解速度が著しく大きい、すなわち安定性が低いという結果が得られる。この現象は、そもそも錯体自身の安定性が低く、それに対して、錯体を形成する配位子が錯体から遊離し、拡散していくことによるエネルギー的な安定化効果の方が大きいためと推測される。
【0046】
【化3】

【0047】
このように、ただ単に長鎖アルキル基を導入すれば、いずれの金属錯体であっても安定性が向上するわけではなく、場合により安定性を損なう場合がある。一方、本発明に係る式(1)で表される化合物は、特定の置換基、例えば好ましくは炭素数5以上のアルキル基を有するフェニル基を、特定位置、例えば式(1)におけるR位に置換することにより、溶剤への溶解性や分散性などが向上し、溶媒中に安定して存在することが判明した。
<分子量>
本発明の上記式(1)で表される有機金属錯体の分子量は、通常850以上、好ましくは900以上であり、また、通常3000以下、好ましくは2000以下である。上限を上回ると、錯体の安定性が著しく悪くなるおそれがある。
【0048】
<具体例>
以下に、本発明の上記式(1)で表される有機金属錯体の具体例を[化4]〜[化6]に示すが、本発明の有機金属錯体は、以下の例に限定されるものではない。
【0049】
【化4】

【0050】
【化5】

【0051】
【化6】



【0052】
<合成方法>
本発明の上記式(1)で表される有機金属錯体の合成方法としては、以下のような方法を用いることができる。
例えば、配位子であるフェニルキノリン誘導体は、キノリン誘導体とフェニルボロン酸誘導体などの鈴木カップリング法(Tetrahedron Letters,36号,3437〜3440頁、1979年)、フリーデルアンダー(Friedlander)キノリン合成法(Chem.Rev.109巻、2652〜2671頁、2009年)などにより合成できる。有機金属錯体は、さらにフェニルキノリン誘導体をグリセリン中で、IrCl水和物と200〜250℃で加熱する方法(J.Am.Chem.Soc.,107巻,1431〜1432頁,1985年)などにより合成できる。精製方法等は通常公知の方法を用いることができる。
【0053】
さらに具体的には、式(1)おいて、RおよびRに置換基(R)を有し、Rが炭素数6の直鎖アルキル基を有するフェニル基であり、R、R、R、R〜R10が水素原子である化合物を例に、該化合物の合成反応スキームを[化7]に示す。なお、反応スキーム中、Xはハロゲン原子を示し、acacはアセチルアセトネートを示す。
【0054】
【化7】

【0055】
<発光材料>
本発明の発光材料は、上記した有機金属錯体からなるものである。本発明の発光材料は、有機電界発光素子の発光材料(リン光ドーパント)として特に好適に用いることができる。
【0056】
<有機金属錯体含有組成物>
本発明の有機金属錯体は、溶解性に優れることから、溶剤とともに使用されることが好ましい。以下、本発明の有機金属錯体と溶剤とを含有する組成物(有機金属錯体含有組成物)について説明する。
【0057】
本発明の有機金属錯体含有組成物は、上述の本発明の有機金属錯体および溶剤を含有する。本発明の有機金属錯体含有組成物は通常湿式成膜法で層や膜を形成するために用いられ、特に好ましくは有機電界発光素子の有機層を形成するために用いられる。該有機層は、特に発光層であることが好ましい。
【0058】
有機金属錯体含有組成物における有機金属錯体の含有量は、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上であり、また、通常99.99質量%以下、好ましくは99.9質量%以下である。組成物の有機金属錯体の含有量をこの範囲とすることにより、隣接する層(例えば、正孔輸送層や正孔阻止層)から発光層へ効率よく、正孔や電子の注入が行われ、駆動電圧を低減することができる。尚、本発明の有機金属錯体は本発明の有機金属錯体含有組成物中に、1種のみ含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0059】
本発明の有機金属錯体含有組成物に含有される溶剤は、湿式成膜により有機金属錯体を含む層を形成するために用いる、揮発性を有する液体成分である。
該溶剤は、溶質である本発明の有機金属錯体や後述の電荷輸送性化合物が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されないが、好ましい溶剤としては以下のものが挙げられる。
【0060】
例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類;シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類等が挙げられる。
【0061】
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。
これらの溶剤は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
溶剤の沸点は、通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、特に好ましくは200℃以上であり、また、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下である。この範囲を下回ると、湿式成膜時において、組成物からの溶剤蒸発により、成膜安定性が低下する可能性がある。
【0062】
溶剤の含有量は、組成物100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは50質量部以上、特に好ましくは80質量部以上であり、また、好ましくは99.95質量部以下、より好ましくは99.9質量部以下、特に好ましくは99.8質量部以下である。溶剤の含有量がこの下限を下回ると、組成物の粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。一方、この上限を上回ると、成膜後、溶剤を除去して得られる膜の厚みが稼げなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。
【0063】
本発明の有機金属錯体含有組成物を例えば有機電界発光素子用に用いる場合には、上述の有機金属錯体や溶剤の他、有機電界発光素子、特に発光層に用いられる電荷輸送性化合物を含有することができる。
本発明の有機金属錯体含有組成物を用いて、有機電界発光素子の発光層を形成する場合には、本発明の有機金属錯体をドーパント材料とし、他の電荷輸送性化合物をホスト材料として含むことが好ましい。
【0064】
本発明の有機金属錯体含有組成物が含有し得る他の電荷輸送性化合物としては、従来有機電界発光素子用材料として用いられているものを使用することができる。例えば、ピリジン、カルバゾール、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クリセン、ナフタセン、フェナントレン、コロネン、フルオランテン、ベンゾフェナントレン、フルオレン、アセトナフトフルオランテン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼンおよびそれらの誘導体、キナクリドン誘導体、DCM(4-(dicyanomethylene)-2-methyl-6-(p-dimethylaminostyryl)-4H-pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン、アリールアミノ基が置換された縮合芳香族環化合物、アリールアミノ基が置換されたスチリル誘導体等が挙げられる。
【0065】
これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0066】
本発明の有機金属錯体含有組成物中の他の電荷輸送性化合物の含有量は、該組成物を100質量部とすると、通常1質量部以上であり、また、通常50質量部以下、好ましくは30質量部以下である。
【0067】
また、有機金属錯体含有組成物中の他の電荷輸送性化合物の含有量は、有機金属錯体含有組成物中の本発明の有機金属錯体に対して、通常50質量%以下、好ましくは30質量%以下であり、また、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上である。
【0068】
本発明の有機金属錯体含有組成物には、必要に応じて、上記の化合物等の他に、更に他の化合物を含有していてもよい。例えば、上記の溶剤の他に、別の溶剤を含有していてもよい。そのような溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、および比率で用いてもよい。
【0069】
また、本発明の有機金属錯体含有組成物は成膜性の向上を目的として、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0070】
<用途>
本発明の有機金属錯体は、有機電界発光素子に用いられる材料、すなわち有機電界発光素子材料として好適に使用可能であり、有機電界発光素子やその他の発光素子等の発光材料としても好適に使用可能である。
【0071】
<有機電界発光素子>
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極および該陽極と該陰極の間に有機層を有し、該有機層が上記本発明の有機金属錯体を含有することを特徴とする。該有機層としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層などいずれでもよいが、本発明の有機金属錯体を含有する有機層は発光層であることが好ましい。
【0072】
以下に、本発明の有機電界発光素子の層構成およびその一般的形成方法等について、図1を参照にして説明する。
図1は本発明に係る有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図である。図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0073】
尚、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。これは、有機電界発光素子に用いられる塗布用の組成物特有の液性に合うためである。
【0074】
(基板)
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがある。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0075】
(陽極)
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0076】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0077】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0078】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
【0079】
(正孔注入層)
正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
【0080】
本発明に係る正孔注入層3の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層3を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層3の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0081】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜により正孔注入層3を形成する場合、通常は、正孔注入層3を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0082】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は、通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物および溶剤を含有する。
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0083】
正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層3への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0084】
尚、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのもの及び芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
【0085】
正孔注入層3の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種または2種以上とを併用することが好ましい。
【0086】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
【0087】
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0088】
【化8】

【0089】
(式(I)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar〜Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar〜Arのうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。)
【0090】
【化9】

【0091】
(上記各式中、Ar〜Ar16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。R31およびR32は、それぞれ独立して、水素原子または任意の置換基を表す。)
【0092】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の基がより好ましい。
【0093】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
31およびR32が任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0094】
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
また、正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4−エチレンジオキシチオフェン(3,4-ethylenedioxythiophene)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)もまた好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0095】
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、また、通常70質量%以下、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0096】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。ここで、電子受容性化合物とは、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0097】
このような電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開2005/089024号パンフレット);塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0098】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる。
正孔注入層或いは正孔注入層形成用組成物中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上であり、また、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0099】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0100】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは200℃以上であり、また、通常400℃以下、好ましくは300℃以下である。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があるし、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0101】
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等が挙げられる。
【0102】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0103】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
【0104】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層3の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層3を形成する。
【0105】
成膜工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましい。
成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
成膜後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブンおよびホットプレートが好ましい。
【0106】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0107】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0108】
<真空蒸着法による正孔注入層の形成>
真空蒸着により正孔注入層3を形成する場合には、正孔注入層3の構成材料(前述の正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種または2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気した後、るつぼを加熱して(2種以上の材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上の材料を用いる場合はそれぞれ独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極2上に正孔注入層3を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱、蒸発させて正孔注入層3を形成することもできる。
【0109】
蒸着時の真空度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1×10−6Torr(0.13×10−4Pa)以上、通常9.0×10−6Torr(12.0×10−4Pa)以下である。蒸着速度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.1Å/秒以上、通常5.0Å/秒以下である。蒸着時の成膜温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、好ましくは10℃以上で、好ましくは50℃以下で行われる。
【0110】
(正孔輸送層)
本発明に係る正孔輸送層4の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔輸送層4を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔輸送層4は、正孔注入層がある場合には正孔注入層3の上に、正孔注入層3が無い場合には陽極2の上に形成することができる。また、本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送層を省いた構成であってもよい。
【0111】
正孔輸送層4を形成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層5に接するため、発光層5からの発光を消光したり、発光層5との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0112】
このような正孔輸送層4の材料としては、従来、正孔輸送層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層3に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0113】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体またはグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0114】
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(II)で表される繰り返し単位を含む重合体であることが好ましい。特に、下記式(II)で表される繰り返し単位からなる重合体であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、ArまたはArが異なっているものであってもよい。
【0115】
【化10】

【0116】
(式(II)中、Ar及びArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。)
【0117】
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環または2〜5縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0118】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0119】
溶解性、耐熱性の点から、ArおよびArは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基やターフェニル基)が好ましい。中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)およびフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
【0120】
ArおよびArにおける芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0121】
ポリアリーレン誘導体としては、前記式(II)におけるArやArとして例示した置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する重合体が挙げられる。
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III−1)および/または下記式(III−2)からなる繰り返し単位を有する重合体が好ましい。
【0122】
【化11】

【0123】
(式(III−1)中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基またはカルボキシ基を表す。tおよびsは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。tまたはsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRまたはRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRまたはRどうしで環を形成していてもよい。)
【0124】
【化12】

【0125】
(式(III−2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、上記式(III−1)におけるR、R、RまたはRと同義である。rおよびuは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。rまたはuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRおよびRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRまたはRどうしで環を形成していてもよい。Xは、5員環または6員環を構成する原子または原子群を表す。)
【0126】
Xの具体例としては、酸素原子、置換基を有していてもよいホウ素原子、置換基を有していてもよい窒素原子、置換基を有していてもよいケイ素原子、置換基を有していてもよいリン原子、置換基を有していてもよいイオウ原子、置換基を有していてもよい炭素原子またはこれらが結合してなる基である。
【0127】
また、ポリアリーレン誘導体としては、上記式(III−1)および/または上記式(III−2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(III−3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0128】
【化13】

【0129】
(式(III−3)中、Ar〜Arは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。vおよびwは、それぞれ独立に0または1を表す。)
【0130】
Ar〜Arの具体例としては、前記式(II)における、Ar及びArと同様である。
【0131】
上記式(III−1)〜(III−3)の具体例およびポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
【0132】
湿式成膜法で正孔輸送層4を形成する場合は、上記正孔注入層3の形成と同様にして、正孔輸送層形成用組成物を調製した後、湿式成膜後、加熱乾燥させる。
正孔輸送層形成用組成物には、上述の正孔輸送性化合物の他、溶剤を含有する。用いる溶剤は上記正孔注入層形成用組成物に用いたものと同様である。また、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層3の形成の場合と同様である。
【0133】
真空蒸着法により正孔輸送層を形成する場合もまた、その成膜条件等は上記正孔注入層3の形成の場合と同様である。
正孔輸送層4は、上記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などを含有していてもよい。
また、正孔輸送層4は、架橋性化合物を架橋して形成される層であってもよい。架橋性化合物は、架橋性基を有する化合物であって、架橋することにより網目状高分子化合物を形成する。
【0134】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン、エポキシなどの環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン由来の基などが挙げられる。
架橋性化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。架橋性化合物は1種のみを有していてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で有していてもよい。
【0135】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物としては、上記の例示したものが挙げられ、これら正孔輸送性化合物に対して、架橋性基が主鎖または側鎖に結合しているものが挙げられる。特に架橋性基は、アルキレン基等の連結基を介して、主鎖に結合していることが好ましい。また、特に正孔輸送性化合物としては、架橋性基を有する繰り返し単位を含む重合体であることが好ましく、上記式(II)や式(III−1)〜(III−3)に架橋性基が直接または連結基を介して結合した繰り返し単位を有する重合体であることが好ましい。
【0136】
架橋性化合物としては、架橋性基を有する正孔輸送性化合物を用いることが好ましい。正孔輸送性化合物の例を挙げると、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体等の含窒素芳香族化合物誘導体;トリフェニルアミン誘導体;シロール誘導体;オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。その中でも、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、カルバゾール誘導体等の含窒素芳香族誘導体;トリフェニルアミン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが好ましく、特に、トリフェニルアミン誘導体がより好ましい。
【0137】
架橋性化合物を架橋して正孔輸送層4を形成するには、通常、架橋性化合物を溶剤に溶解または分散した正孔輸送層形成用組成物を調製して、湿式成膜により成膜して架橋させる。
正孔輸送層形成用組成物には、架橋性化合物の他、架橋反応を促進する添加物を含んでいてもよい。架橋反応を促進する添加物の例を挙げると、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤および重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤などが挙げられる。
【0138】
また、さらに、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤;電子受容性化合物;バインダー樹脂などを含有していてもよい。
正孔輸送層形成用組成物は、架橋性化合物を通常0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また、通常50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下含有する。
【0139】
このような濃度で架橋性化合物を含む正孔輸送層形成用組成物を下層(通常は正孔注入層3)上に成膜後、加熱および/または光などの電磁エネルギー照射により、架橋性化合物を架橋させて網目状高分子化合物を形成する。
成膜時の温度、湿度などの条件は、前記正孔注入層3の湿式成膜時と同様である。
成膜後の加熱の手法は特に限定されない。加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下である。
【0140】
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。加熱手段としては特に限定されないが、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱するなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で、120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0141】
光などの電磁エネルギー照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。光以外の電磁エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。
照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0142】
加熱および光などの電磁エネルギー照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
このようにして形成される正孔輸送層4の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0143】
(発光層)
正孔注入層3の上、または正孔輸送層4を設けた場合には正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0144】
<発光層の材料>
発光層5は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する化合物(正孔輸送性化合物)、あるいは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有する。発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などをホスト材料として使用してもよい。発光材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよいが、本発明の有機金属錯体を用いることが好ましい。
【0145】
特に、本発明の有機電界発光素子は、その発光層が、本発明の有機金属錯体含有組成物を用いて湿式成膜法で形成されることが好ましい。
更に、発光層5は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。なお、湿式成膜法で発光層5を形成する場合は、低分子量の材料(分子量通常10000以下、好ましくは5000以下)を使用することが好ましい。
【0146】
<発光層の形成>
湿式成膜法により発光層5を形成する場合は、発光層に用いる材料を適切な溶剤に溶解させて発光層形成用組成物(本発明の有機金属錯体を含む場合は有機金属錯体含有組成物)を調製し、それを用いて成膜することにより形成する。
発光層5を湿式成膜法で形成するための発光層形成用組成物に含有させる発光層用溶剤としては、上記本発明の有機金属錯体含有組成物に含有される溶剤として説明したものと同様である。
【0147】
また、発光層形成用組成物中の発光材料、電荷輸送性化合物等の固形分濃度としては、通常0.01質量%以上、通常70質量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
【0148】
発光層形成用組成物を湿式成膜後、得られた塗膜を乾燥し、溶剤を除去することにより、発光層が形成される。具体的には、上記正孔注入層の形成において記載した方法と同様である。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されず、前述のいかなる方式も用いることができる。
【0149】
発光層5の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層5の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0150】
(正孔阻止層)
発光層5と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層6を設けてもよい。正孔阻止層6は、発光層5の上に、発光層5の陰極9側の界面に接するように積層される層である。
【0151】
この正孔阻止層6は、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
正孔阻止層6を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。
【0152】
このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005/022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層6の材料として好ましい。
【0153】
なお、正孔阻止層6の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
正孔阻止層6の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
【0154】
正孔阻止層6の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上であり、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
また、正孔阻止層にかえて、正孔緩和層を設けてもよい。
【0155】
(電子輸送層)
発光層5と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層7を設けてもよい。
電子輸送層7は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0156】
電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極9または電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0157】
なお、電子輸送層7の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子輸送層7の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
電子輸送層7の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0158】
(電子注入層)
電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率良く発光層5へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられる。例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、酸化リチウム(LiO)、炭酸セシウム(II)(CsCO)等が挙げられる(Applied Physics Letters,1997年,70巻,152頁;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices,1997年,44巻,1245頁;SID 04 Digest,154頁等参照)。
その膜厚は、通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0159】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報等参照)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0160】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0161】
(陰極)
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8または発光層5など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0162】
陰極9の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0163】
なお、陰極9の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
陰極9の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極9を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0164】
(その他の層)
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
【0165】
(電子阻止層)
任意の層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。電子阻止層は、正孔注入層3または正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層3から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0166】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、発光層5を湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0167】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
【0168】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板1上に他の構成要素を陰極9、電子注入層8、電子輸送層7、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、正孔注入層3、陽極2の順に設けてもよい。
【0169】
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0170】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V25)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0171】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0172】
本発明の有機電界発光素子は、有機ELディスプレイや有機EL照明に使用される。本発明により得られる有機電界発光素子は、例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社,平成16年8月20日発行,時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で有機ELディスプレイや有機EL照明を形成することができる。
【実施例】
【0173】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0174】
例1:化合物1(本発明の有機金属錯体1)の合成
下記(1)〜(6)のとおり、[化14]〜[化19]に示す反応スキームに従って化合物1(有機金属錯体1)を合成した。
【0175】
【化14】

【0176】
(1)化合物2の合成
3−ブロモフェニルボロン酸(25.0g,124.4mmol)、1−クロロキノリン(20.3g,124.4mmol)、トルエン(250ml)の混合物に炭酸ナトリウム(43.5g,410.7mmol)を加え、撹拌しながら30分窒素バブリングを行った。そこにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(4.31g,3.73mmol)を加え、130℃で3.5時間撹拌した。TLCで原料の消失を確認後トルエンで2回抽出し、有機層を飽和食塩水で1回洗浄、減圧濃縮を行った。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物2(28.39g,収率80%)を得た。
【0177】
【化15】

【0178】
(2)化合物3の合成
窒素気流下、ブロモヘキシルベンゼン(50.0g,207.3mmol)のテトラヒドロフラン(300ml)溶液に、−75℃でn−ブチルリチウム(1.67M)(131ml,217.7mmol)を滴下して2時間反応し、さらにトリメトキシボラン(64.6g,622.0mmol)を滴下し2時間攪拌した。その後、希塩酸(1N)、300mlを滴下し、30min攪拌した後、酢酸エチルで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮を行った。化合物3(42.5g,収率99%)を無色固体として得た。
【0179】
【化16】

【0180】
(3)化合物4の合成
窒素気流下、化合物2(13.5g,47.5mmol)と、化合物3(10.8g,52.8mmol)に、トルエン(240ml)、エタノール(120ml)、水(120ml)、リン酸三カリウム(33.5g,158mmol)を加え、撹拌しながら30分窒素バブリングを行った。そこにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(2.5g,2.18mmol)を加え、130℃で3.5時間撹拌した。TLCで原料の消失を確認後トルエンで2回抽出し、有機層を飽和食塩水で1回洗浄、減圧濃縮を行った。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物4(17.2g,収率98%)を得た。
【0181】
【化17】

【0182】
(4)化合物5の合成
窒素気流下、化合物4(13.5g,36.9mmol)と、イリジウムクロライドn水和物(6.85g,18.5mmol)に、2−エトキシエタノール(200ml)、水(66ml)を加え、135℃で10時間攪拌した。その後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮を行った。化合物5(11.9g,収率66%)を赤色固体として得た。
【0183】
【化18】

【0184】
(5)化合物6の合成
窒素気流下、化合物5(11.9g,6.22mmol)と、ナトリウムアセチルアセトネート(3.80g,31.0mmol)に、2−エトキシエタノール(100ml)を加え、135℃で9時間攪拌した。その後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮を行った。残渣をジクロロメタンで溶解し、塩基性シリカゲルで精製し原点成分を除去した。化合物6(7.75g,収率61%)を赤色固体として得た。
【0185】
【化19】

【0186】
(6)化合物1の合成
窒素気流下、化合物6(7.0g,3.56mmol)、化合物4(13.6g,37.2mmol)に、グリセロール(230ml)を加え、190℃で17時間攪拌した。その後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮を行った。残渣をジクロロメタンで溶解し、塩基性シリカゲルで精製し原点成分を除去した。再度塩基性シリカゲルで精製を行った後、トルエンに溶解し、メタノールで懸濁洗浄を行い、吸引ろ過により沈殿物を濾取した。化合物1(2.93g,収率69%)を赤色固体として得た。
【0187】
H−NMRδ[ppm];8.18(d、3H)、8.09(d、3H)、8.07(d、3H)、7.97(s、3H)7.67(d、3H)、7.47(d、6H)、7.20(t、3H)、7.16(d、6H)、6.96(d、3H)、6.72(t、3H)、6.61(d、3H)、2.59(t、6H)、1.30(m、24H)、0.89(t、9H)
【0188】
例2:化合物9(比較例の有機金属錯体9)の合成
下記(1)〜(3)のとおり、[化20]〜[化22]に示す反応スキームに従って化合物9(有機金属錯体9)を合成した。
【0189】
【化20】

【0190】
(1)化合物7の合成
窒素気流下、フェニルキノリン(9.4g,45.8mmol)と、イリジウムクロライドn水和物(8.59g,22.9mmol)に、2−エトキシエタノール(130ml)、水(42ml)を加え、135℃で10時間攪拌した。その後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮を行った。化合物7(1.78g,収率12%)を赤色固体として得た。
【0191】
【化21】

【0192】
(2)化合物8の合成
窒素気流下、化合物7(1.27g,1mmol)と、ナトリウムアセチルアセトネート(2.0g,20mmol)に、2−エトキシエタノール(280ml)を加え、135℃で4時間攪拌した。その後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮を行った。残渣をジクロロメタンで溶解し、塩基性シリカゲルで精製し原点成分を除去した。化合物8(545mg,収率39%)を赤色固体として得た。
【0193】
【化22】

【0194】
(3)化合物9の合成
窒素気流下、化合物8(245mg,0.35mmol)、フェニルキノリン(0.36g,1.75mmol)に、グリセロール(7.35ml)を加え、190℃で17時間攪拌した。その後、ジクロロメタンで抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮を行った。残渣をジクロロメタンで溶解し、塩基性シリカゲルで精製し原点成分を除去した。再度塩基性シリカゲルで精製を行った後、トルエンに溶解し、メタノールで懸濁洗浄を行い、吸引ろ過により沈殿物を濾取した。少量の化合物9を赤色固体として得た。質量分析スペクトル(m/z=804)により目的化合物の生成を確認した。
【0195】
例3:化合物10(本発明の有機金属錯体10)の合成
下記(1)〜(5)のとおり、[化23]〜[化27]に示す反応スキームに従って化合物10(有機金属錯体10)を合成した。
【0196】
【化23】

【0197】
(1)化合物11の合成
2−アミノベンゾフェノン(15.0g,76.1mmol)、3’−ブロモアセトフェノン(18.2g,91.3mmol)、酢酸(75ml)の混合物に濃硫酸(1.3ml)を加え、9時間加熱還流した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、水層を中和してさらに酢酸エチルで抽出した。有機層を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物11(24.2g,収率88%)を得た。
【0198】
【化24】

【0199】
(2)化合物12の合成
窒素気流下、化合物11(24.2g,47.5mmol)と、化合物3(18.0g,87.3mmol)に、トルエン(200ml)、エタノール(200ml)、水(100ml)、炭酸ナトリウム(21.4g,202mmol)を加え、撹拌しながら30分窒素バブリングを行った。そこにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(2.3g,2mmol)を加え、7.5時間加熱還流した。反応後、水を加えトルエンで抽出し、有機層を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物12(24.1g,収率81%)を得た。
【0200】
【化25】

【0201】
(3)化合物13の合成
窒素気流下、化合物12(12g,27.2mmol)と、イリジウムクロライドn水和物(4.7g,13.6mmol)に、2−エトキシエタノール(71ml)、水(24ml)を加え、11時間加熱還流した。反応液に水を加え、ジクロロメタンで抽出して、有機層を減圧濃縮した。濃縮液をメタノールに添加し、晶出した結晶を濾取し、化合物13(11.9g,収率79%)を赤色固体として得た。
【0202】
【化26】

【0203】
(4)化合物14の合成
窒素気流下、化合物13(11.9g,5.4mmol)と、ナトリウムアセチルアセトネート(3.3g,27mmol)に、2−エトキシエタノール(140ml)を加え、8時間加熱還流した。反応液に水を加えジクロロメタンで抽出し、有機層を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物14(6.9g,収率55%)を赤色固体として得た。
【0204】
【化27】

【0205】
(5)化合物10の合成
窒素気流下、化合物14(6.9g,5.9mmol)、化合物12(12.1g,27.4mmol)に、グリセロール(172ml)を加え、200℃で17時間攪拌した。反応液にメタノールを加え、赤褐色オイル成分を取得し、その成分をシリカゲルクロマトグラフィーによる精製、及びジメトキシエタン/メタノール溶液、テトラヒドロフラン/アセトニトリル溶液による洗浄を繰り返し、化合物10を赤色固体として得た。
【0206】
H−NMRδ[ppm];8.25(d、3H)、8.12(s、3H)、8.00(d、3H)、7.78(dd、3H)7.53(m、21H)、7.17(m、9H)、7.01(dd、3H)、6.77(ddd、3H)、6.70(d、3H)、2.58(t、6H)、1.30(m、24H)、0.88(t、9H)
【0207】
例4:化合物19(本発明の有機金属錯体19)の合成
下記(1)〜(5)のとおり、[化28]〜[化32]に示す反応スキームに従って化合物19(有機金属錯体19)を合成した。
【0208】
【化28】

【0209】
(1)化合物15の合成
2−アミノベンゾフェノン(12.62g,64.00mmol)、3’−ブロモー4−メチルアセトフェノン(15.0g,70.40mmol)、酢酸(70ml)の混合物に濃硫酸(1.0ml)を加え、6時間加熱還流した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出し、水層を中和してさらに酢酸エチルで抽出した。有機層を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物15(13.4g,収率56%)を得た。
【0210】
【化29】

【0211】
(2)化合物16の合成
窒素気流下、化合物15(13.3g,35.54mmol)と、化合物3(9.52g,46.20mmol)に、トルエン(150ml)、エタノール(75ml)、水(50ml)、炭酸ナトリウム(10.6g,100mmol)を加え、撹拌しながら30分窒素バブリングを行った。そこにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(2.0g,1.78mmol)を加え、6時間加熱還流した。反応後、水を加えトルエンで抽出し、有機層を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物16(15.7g,収率97%)を得た。
【0212】
【化30】

【0213】
(3)化合物17の合成
窒素気流下、化合物16(4.5g,9.88mmol)と、イリジウムクロライドn水和物(1.76g,4.94mmol)に、2−エトキシエタノール(32ml)、水(11ml)を加え、17時間加熱還流した。反応液に水を加え、ジクロロメタンで抽出して、有機層を減圧濃縮した。濃縮液をメタノールに添加し、晶出した結晶を濾取し、化合物17(3.7g,収率65%)を赤色固体として得た。
【0214】
【化31】

【0215】
(4)化合物18の合成
窒素気流下、化合物17(3.7g,1.62mmol)と、ナトリウムアセチルアセトネート(0.99g,8.07mmol)に、2−エトキシエタノール(55ml)を加え、5時間加熱還流した。反応液に水を加えジクロロメタンで抽出し、有機層を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物18(3.3g,収率86%)を赤色固体として得た。
【0216】
【化32】

【0217】
(5)化合物19の合成
窒素気流下、化合物18(3.3g,2.77mmol)、化合物16(6.1g,13.39mmol)に、グリセロール(40ml)を加え、260℃で7時間攪拌した。反応液にメタノールを加え、赤褐色オイル成分を取得し、その成分をシリカゲルクロマトグラフィーによる精製、及びジメトキシエタン/メタノール溶液、テトラヒドロフラン/アセトニトリル溶液による洗浄を繰り返し、化合物19を赤色固体として得た。
【0218】
H−NMRδ[ppm];8.21(d、3H)、8.01(s、3H)、7.77(dd、3H)、7.65(s、3H)7.53(m、15H)、7.21(m、6H)、7.15(m、9H)、6.75(ddd、3H)、6.59(s、3H)、2.60(t、6H)、2.00(s、9H)、1.60(m、6H)1.32(m、18H)、0.89(t、9H)
【0219】
例5:化合物24(本発明の有機金属錯体24)の合成
下記(1)〜(5)のとおり、[化33]〜[化37]に示す反応スキームに従って化合物24(有機金属錯体24)を合成した。
【0220】
【化33】

【0221】
(1)化合物20の合成
窒素気流下、3−クロロ−4−メチルフェニルボロン酸(20.0g,117.37mmol)と、1−クロロキノリン(14.77g,90.29mmol)に、トルエン(160ml)、エタノール(80ml)、水(60ml)、炭酸ナトリウム(12.7g,119.8mmol)を加え、撹拌しながら30分窒素バブリングを行った。そこにテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(5.2g,4.5mmol)を加え、7時間加熱還流した。反応後、水を加えトルエンで抽出し、有機層を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物20(16.1g,収率70%)を得た。
【0222】
【化34】

【0223】
(2)化合物21の合成
窒素気流下、化合物20(16.1g,63.45mmol)と、化合物3(19.6g,95.18mmol)に、トルエン(160ml)、りん酸カリウム(40.4g,190.35mmol)を加え、撹拌しながら30分窒素バブリングを行った。そこに酢酸パラジウム(0.071g,0.317mmol)と2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)−2’,6’−ジメトキシビフェニル(0.325g,0.793mmol)を加え、8時間加熱還流した。反応後、水を加えトルエンで抽出し、有機層を減圧濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物21(22.0g,収率83%)を得た。
【0224】
【化35】

【0225】
(3)化合物22の合成
窒素気流下、化合物21(4.0g,10.54mmol)と、イリジウムクロライドn水和物(1.87g,5.27mmol)に、2−エトキシエタノール(30ml)、水(10ml)を加え、16時間加熱還流した。反応液に水を加え、ジクロロメタンで抽出して、有機層を減圧濃縮した。濃縮液をメタノールに添加し、晶出した結晶を濾取し、化合物22(2.88g,収率56%)を赤色固体として得た。
【0226】
【化36】

【0227】
(4)化合物23の合成
窒素気流下、化合物22(2.88g,1.465mmol)と、ナトリウムアセチルアセトネート(0.89g,7.33mmol)に、2−エトキシエタノール(45ml)を加え、6時間加熱還流した。反応液に水を加えジクロロメタンで抽出し、有機層を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物23(1.1g,収率36%)を赤色固体として得た。
【0228】
【化37】

【0229】
(5)化合物24の合成
窒素気流下、化合物23(1.1g,1.05mmol)、化合物21(2.5g,6.59mmol)に、グリセロール(12ml)を加え、220℃で6時間攪拌した。反応液にメタノールを加え、赤褐色オイル成分を取得し、その成分をシリカゲルクロマトグラフィーによる精製、及びジメトキシエタン/メタノール溶液、テトラヒドロフラン/アセトニトリル溶液による洗浄を繰り返し、化合物24を赤色固体として得た。
【0230】
H−NMRδ[ppm];8.05(m、9H)、7.65(d、3H)、7.60(s、3H)、7.16(m、15H)6.70(ddd、3H)、6.5(s、3H)、2.60(t、6H)、1.95(s、9H)、1.65(m、6H)1.31(m、18H)、0.89(t、9H)
【0231】
例6:有機金属錯体の溶解性
例1〜5で合成した各化合物のトルエンに対する溶解度を次のとおり測定した。
適宜秤量した各化合物に、適宜秤量したトルエンを加えて、室温状態で均一に溶解した状態の溶液が得られることが肉眼にて確認するが、室温状態で均一に溶解した状態の溶液が得られない場合は、更にトルエンを加え、より低濃度の条件にて確認作業を繰り返して行う。室温状態で均一に溶解した状態の溶液が確認できた時点でのトルエンに対する各化合物の濃度(質量%)を溶解度とする。その結果を表1に示す。
表1から、フェニルキノリン環に特定の置換基を導入することにより、トルエンに対する溶解性が飛躍的に向上することが分かる。
【0232】
【表1】

【0233】
例7:本発明の有機電界発光素子の作製と評価
図1に示す有機電界発光素子を作製した(ただし、正孔阻止層にかえて正孔緩和層とした)。
【0234】
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0235】
まず、正孔輸送性化合物として構造式P1に示す繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子化合物(重量平均分子量:26500,数平均分子量:12000)、電子受容性化合物として構造式A1に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート及び安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用組成物を調製した。この組成物中、正孔輸送性高分子化合物P1は2.0質量%、電子受容性化合物A1は0.8質量%であった。この組成物をスピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒、大気中にて陽極上にスピンコートにより成膜した。その後、大気中で230℃、3時間加熱乾燥することにより、膜厚30nmの正孔注入層を得た。
【0236】
【化38】

【0237】
引き続き、正孔輸送性化合物として以下の構造式に示す架橋性化合物(重合体)H1(重量平均分子量:95000)および溶剤としてトルエンを含有する正孔輸送層形成用組成物を調製した。組成物中の架橋性化合物の固形分濃度は0.4質量%とした。この組成物を上記形成した正孔注入層上に、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒、窒素中でスピンコート法により成膜して、窒素中、230℃で1時間加熱により架橋させて膜厚20nmの架橋膜(正孔輸送層)を形成した。
【0238】
【化39】

【0239】
次に、発光層を形成するにあたり、以下の構造式に示す電荷輸送性化合物E−1、電荷輸送性化合物E−2、上記例1で合成した化合物1(本発明の有機金属錯体1)および溶剤としてシクロヘキシルベンゼンを含有する発光層形成用組成物(有機金属錯体含有組成物)を調製した。組成物中、電荷輸送性化合物E−1は2.5質量%、電荷輸送性化合物E−2は2.5質量%、有機金属錯体1は0.25質量%とした。この組成物を上記形成された正孔輸送層上に、スピナ回転数1500rpm、スピナ回転時間30秒、窒素中で、スピンコート法により成膜した後、減圧下(0.1MPa)、130℃で、1時間乾燥させ、膜厚60nmで発光層を得た。
【0240】
【化40】

【0241】
ここで、正孔注入層、正孔輸送層および発光層を成膜した基板を真空蒸着装置内に移し、油回転ポンプにより装置の粗排気を行った後、装置内の真空度が5.1×10−4Pa以下になるまでクライオポンプを用いて排気した後、下記構造式C−3で表される化合物を真空蒸着法によって、発光層の上に成膜し膜厚5nmの正孔緩和層を得た。蒸着速度は0.7〜1.0Å/秒の範囲で制御し、蒸着時の真空度は1.9〜2.0×10−4Paであった。
【0242】
【化41】

【0243】
続いて、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウムを加熱して、正孔緩和層上に蒸着を行い、膜厚30nmの電子輸送層を成膜した。蒸着時の真空度は1.3×10−4Pa、蒸着速度は0.6〜1.0Å/秒の範囲で制御した。
【0244】
ここで、電子輸送層まで蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して上記電子輸送層と同様にして装置内の真空度が2.1×10−4Pa以下になるまで排気した。
【0245】
電子注入層として、フッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.07〜0.17Å/秒、真空度2.3〜2.4×10−4Paで制御し、0.5nmの膜厚で電子輸送層の上に成膜した。
次に、陰極としてアルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.7〜6.1Å/秒、真空度2.3〜2.7×10−4Paで制御して膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。以上の2層の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0246】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため封止処理を行った。以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
素子の発光スペクトルの極大波長は595nmであり、有機金属錯体1からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.59,0.40)であった。効率は21.9cd/Aであった。また3000cd/mでの半減寿命は5700時間であった。このときの寿命を1とした。
【0247】
例8:比較例の有機電界発光素子の作製と評価
上記例7の素子作製において、リン光ドーパントを化合物1(有機金属錯体1)から化合物9(有機金属錯体9)に変更した以外は同様にして、有機電界発光素子を作製した。
【0248】
この素子の発光スペクトルの極大波長は604nmであり、有機金属錯体9からのものと同定された。色度はCIE(x,y)=(0.64,0.36)であった。効率は13.3cd/Aであった。3000cd/mでの半減寿命は、例7の有機金属錯体1を用いた素子の0.54倍と短いものであった。
【0249】
以上の結果から、本発明による有機金属錯体は、比較例として用いた有機金属錯体9に比べて、高効率であり、かつ半減寿命が長いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0250】
本発明による有機金属錯体を用いた有機電界発光素子は、高効率であり、かつ半減寿命が長く、実用性の高い素子である。従って、本発明は、フルカラーディスプレイ、情報表示機器、照明器具などの分野に特に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0251】
1.基板
2.陽極
3.正孔注入層
4.正孔輸送層
5.発光層
6.正孔阻止層
7.電子輸送層
8.電子注入層
9.陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

[式(1)中、R〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基または置換基を有するシリル基を示し、これらの基は互いに結合して環を形成していてもよいが、R〜R10のいずれか1つは置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有する基である。]
で表されることを特徴とする有機金属錯体。
【請求項2】
式(1)において、R〜R10のいずれか1つが置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有するフェニル基であることを特徴とする請求項1に記載の有機金属錯体。
【請求項3】
式(1)において、Rが置換基を有していてもよい炭素数5以上のアルキル基を有するフェニル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機金属錯体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機金属錯体からなることを特徴とする発光材料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機金属錯体からなることを特徴とする有機電界発光素子材料。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機金属錯体および溶剤を含有することを特徴とする有機金属錯体含有組成物。
【請求項7】
基板上に、陽極、陰極および該陽極と該陰極の間に有機層を有する有機電界発光素子において、該有機層が、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機金属錯体を含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項8】
有機層が発光層であることを特徴とする請求項7に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
請求項7または8に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機電界発光表示装置。
【請求項10】
請求項7または8に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする有機電界発光照明装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−77043(P2012−77043A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225230(P2010−225230)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】