説明

有機金属錯体を用いる二酸化炭素の還元方法

一般式(1)
【化3】


(式中、R、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または低級アルキル基を表し、Mはベンゼン環に配位することができる元素を表し、X、Xは窒素配位子、Xは水素原子、カルボン酸残基もしくはHOを表し、XとXとはお互いに結合していても良い。Yはアニオン種を表す。Kはカチオン種の価数を表し、Lはアニオン種の価数を表す。ここでKおよびLはそれぞれ独立に1または2を表し、K×m=L×nの関係が成り立つ。)で表される有機金属錯体と、二酸化炭素と水と混合する。これにより、水中で、二酸化炭素を直接還元することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属錯体を用いて二酸化炭素を還元する還元方法に関し、更に詳しくは、水中において、温和な条件で二酸化炭素を還元する還元方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、二酸化炭素の還元は、有害かつ枯渇性資源由来の有機溶媒中で行われてきた。近年、環境・エネルギー問題の解決のため、二酸化炭素の還元を、無害・低コストな水中で行うことが試みられている。これまでに、水中、pH6以上で有機金属錯体を用いて炭酸水素イオンを還元した例は報告されているが(例えば、非特許文献1参照)、水中において、有機金属錯体を用いて二酸化炭素を還元した例は、今だ、報告されていない。

【非特許文献1】 G.Laurenczy et al著、Inorg.Chem.2000年,39,5083頁−5088頁

本発明は、水単独溶媒、水および有機溶媒との混合溶媒中で有機金属錯体を用いる二酸化炭素の還元反応に関するものである。このような水または水を含む溶媒のpHを単にコントロールするだけで、炭酸水素イオン(HCO3)ではなく、二酸化炭素(CO)を直接還元することができれば、反応の制御が容易となり、省エネルギー型の反応となるのみならず、環境調和型の反応として有用である。
【0003】
すなわち、本発明は、無害・低コストな水中において(温和な条件で)、有機金属錯体を用いて二酸化炭素を還元する還元方法を実現することを目的としている。
【発明の開示】
【0004】
本発明の発明者らは、鋭意検討した結果、下記式(1)で表される有機金属錯体によって、二酸化炭素を水中で還元できることを見出した。すなわち、本発明は、有害かつ枯渇性資源由来の有機溶媒中ではなく、無害かつ低コストな水中において、温和な条件で、有機金属錯体を用いて、二酸化炭素を還元可能であることを示す最初の例である。
【0005】
本発明の二酸化炭素の還元方法は、一般式(1)
【化1】

(式中、R、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または低級アルキル基を表し、Mはベンゼン環に配位することができる元素を表し、X、Xは窒素配位子、Xは水素原子、カルボン酸残基もしくはHOを表し、XとXとはお互いに結合していても良い。Yはアニオン種を表す。Kはカチオン種の価数を表し、Lはアニオン種の価数を表す。ここでKおよびLはそれぞれ独立に1または2を表し、K×m=L×nの関係が成り立つ。)
で表される有機金属錯体と、二酸化炭素と、水とを混合することを特徴としている。
【0006】
上記有機金属錯体は、一般式(1)において、Mが周期表の第8族元素または第9族元素であることが好ましく、MがRuであることがさらに好ましい。
【0007】
また、上記有機金属錯体は、一般式(1)において、Yが蟻酸イオン、ハロゲン化物イオン、トリフラートイオン、硫酸イオン、過ハロゲン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオンまたはチオシアン酸イオンであることが好ましい。
【0008】
本発明に係る二酸化炭素の還元方法は、上記有機金属錯体と、二酸化炭素と、水とを混合した反応系のpHを6以下にすることが好ましい。また、有機金属錯体と、二酸化炭素と、水を含んでなる水含有溶媒とを混合して二酸化炭素を還元するときに、反応系のpHを変化させることとしてもよい。
【0009】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1a】反応温度40℃、水素の圧力5.5MPa、二酸化炭素の圧力2.5MPaの条件下で、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩で触媒した水中での二酸化炭素の還元による蟻酸生成反応のターンオーバー数が、反応時間に依存することを示した図である。
【図1b】反応開始12時間後におけるターンオーバー数と反応温度の関係を示した図である。
【図1c】水中での二酸化炭素の還元反応のターンオーバー数が、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩で触媒し、40℃で12時間反応した場合に、二酸化炭素の圧力が1.5Mpaおよび2.5MPaの下で、水素の圧力に依存することを示した図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0012】
本発明の二酸化炭素の還元方法は、上記一般式(1)で表される有機金属錯体(以下単に「有機金属錯体」という)と、二酸化炭素と水とを接触させることにより、二酸化炭素を還元する方法である。
【0013】
上記有機金属錯体において、R、R、R、R、RおよびRで示されている低級アルキル基とは、その炭素数が1〜6の範囲内であるアルキル基のことをいい、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、t−ブチル基、イソアミル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。なお、上記有機金属錯体におけるR、R、R、R、RおよびRは、全て同じ種類のものであってもよく、それぞれ異なるものであってもよい。
【0014】
また、上記有機金属錯体において、Mはベンゼン環に配位することができる元素であれば良く、特に限定されるものではないが、Fe,Ru,Osの第8属元素;Co,Rh,Irの第9属元素が好ましい。これら周期表第8属元素および第9属元素のうちでは、Ru、Irがより好ましく、Ruが特に好ましい。これらの好ましい元素を用いることによりMを確実にベンゼン環に配位させることができる。
【0015】
また、上記有機金属錯体において、X、Xの含窒素配位子としては、ピロール、ピリジン、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、アセトニトリル、アンモニア、アニリン、1,2−エタンジアミン、1,2−ジフェニル−1,2−エタンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、2,2’−ビピリジン、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン等が挙げられるが、前記例示の窒素配位子のうち、2座配位子がより好ましく、2,2’−ビピリジンおよびその誘導体がさらに好ましい。なお、上記有機金属錯体においてX、Xで示されている含窒素配位子は、同じものであってもよく、あるいは、異なるものであってもよい。なお、X、Xの含窒素配位子は、お互いに結合していても、結合していなくてもよい。
【0016】
上記有機金属錯体において、Yで示されるアニオン種としては、蟻酸イオン、酢酸イオンのごときカルボン酸イオン、硫酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化イオン、トリフラートイオン、過塩素酸イオン、過臭素酸イオン、過ヨウ素酸イオン等の過ハロゲン化イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、チオシアン酸イオン等が挙げられる。上記例示のアニオン種のうちでは、蟻酸イオン、ハロゲン化物イオン、トリフラートイオン、硫酸イオン、過ハロゲン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオンまたはチオシアン酸イオンがより好ましい。
【0017】
また、上記有機金属錯体は、上記式(1)で表されるものであればよいが、具体例としては、例えば、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、ホルマト−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、ホルマト−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、ホルマト−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、ホルマト−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、ホルマト−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、ホルマト−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、ホルマト−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、ホルマト−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−シメン−1−イル]ルテニウム(II)テトラフルオロホウ酸塩、等が挙げられ、これら例示の化合物のうち、好ましいものとしては、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩、等が挙げられる。
【0018】
上記有機金属錯体は、例えば、文献:Organometalics 2002,21,2964頁−2969頁(著者:Seiji Ogo,Tsutomu Abura,and Yoshihito Watanabe)を参考にして製造することができる。製造方法の例を、以下、より具体的に説明する。
【0019】
(有機金属錯体の製造方法)
(1)トリアクア[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩にpH3.8の水の存在下、2,2’−ビピリジンを作用させることによって、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩を得ることができ、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジンを作用させることによって、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩を得ることができる。
(2)pH4.0の水の存在下において、上記のようにして得られたアクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩に、蟻酸ナトリウムを作用させることにより、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩を得ることができ、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩に蟻酸ナトリウムを作用させることにより、ホルマト−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩を得ることができる。
【0020】
また、pH8.0の水の存在下において、上記のようにして得られたアクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩に、蟻酸ナトリウムを作用させたのち、ヘキサフルオロリン酸ナトリウムを作用させることによって、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩を得ることができ、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸に蟻酸ナトリウムを作用させたのち、ヘキサフルオロリン酸ナトリウムを作用させることによって、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩を得ることができる。
(3)上記(2)に記載した反応の際には、反応に不活性な有機溶媒を使用することもできる。すなわち、所定のpHの水に加えて、さらに反応に不活性な有機溶媒を含む混合溶媒の存在下において、上記反応を行っても良い。上記有機溶媒としては、具体的には、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、エーテル、エステル等を挙げることができ、さらに詳しくは、トルエン、ヘキサン、クロロホルム、クロルベンゼン、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、酢酸エチルなどが挙げられる。
(4)上記(2)に記載した反応は、通常、−40〜200℃の範囲内の反応温度で行われるが、好ましくは−20〜100℃の範囲内の反応温度で行う。また、上記(2)の反応は、反応条件(反応基質の濃度、反応温度等)によって異なるが、通常、数時間から30時間程度で完結する。一般式(1)で表される有機金属錯体を用いることにより、水中において、温和な条件下で、効率的な二酸化炭素の還元反応が実現される。
【0021】
本実施の形態の還元方法で二酸化炭素を還元することによって、蟻酸もしくはそのアルカリ塩が得られる。すなわち、本実施の形態の二酸化炭素の還元方法により、水含有溶液中の二酸化炭素を還元して蟻酸またはそのアルカリ塩とすることができる。上記蟻酸のアルカリ塩を構成するアルカリとしては、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属が挙げられる。これら例示のアルカリの中では、ナトリウムおよびカリウムが好ましい。すなわち、本実施の形態の二酸化炭素の還元方法は、二酸化炭素が還元された結果、蟻酸のナトリウム塩若しくはカリウム塩が得られるような条件で行うことが好ましい。
【0022】
本発明の還元反応に用いられる上記有機金属錯体の使用量は、特に制限がないが、通常、反応基質である二酸化炭素に対するモル比で、二酸化炭素1に対して、上記有機金属錯体が、1〜1/100,000程度となる量で用いられ、好ましくは1/50〜1/10,000程度となる量で用いられる。
【0023】
また、上記一般式(1)の有機金属錯体の調製において、蟻酸もしくはその塩を用いる場合は、その使用量は、反応基質である二酸化炭素に対して当量以上であれば特に制限されないが、1〜100当量の範囲内とすることがより好ましい。
【0024】
本実施の形態の還元方法において、上記有機金属錯体と、二酸化炭素と水とを混合する方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、1)二酸化炭素を水に溶解した水含有溶液と、上記有機金属錯体と、を混合する方法、2)上記有機金属錯体を溶解した水溶液と、気体状態の二酸化炭素と、を混合する方法、3)二酸化炭素を溶解した水溶液と、上記有機金属錯体を含む液と、を混合する方法、などが挙げられる。
【0025】
本実施の形態の還元方法は、二酸化炭素の反応に対して不活性な溶媒の存在または非存在下のいずれにおいても行うことができる。本実施の形態の還元方法における溶媒としては、水(水溶媒)または、水と水以外の溶媒との混合溶媒が挙げられる。当該混合溶媒としては、水および水と混和する有機溶媒の混合溶媒であっても、水および水と混和しない有機溶媒の混合溶媒(2相溶媒)であってもよい。
【0026】
また、上記水以外の溶媒としては、例えば、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;フロリナート(商標)FC−40、FC−43、FC−70、FC−72、FC−75等のフッ素系不活性溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;および、上記溶媒として例示した化合物の混合物が挙げられる。
【0027】
水を含む溶媒中において、二酸化炭素と水とは下記の式(2)で示される化学平衡を示す(左側の反応:pK=6.35、右側の反応:pK=10.33)。

【0028】
水を含む溶媒中においては、二酸化炭素と水との反応平衡が上記式(2)の関係となっているため、上記、本実施の形態の還元方法における反応系のpHは、1〜10の範囲内であることが好ましく、1〜6の範囲内であることがより好ましい。また、本実施の形態の二酸化炭素の還元方法においては、水素イオン(H)が、還元反応を促進する触媒としての役割を果たすため(酸触媒)、反応系のpHを6以下とすることにより還元反応を促進することができる。また、上記水素イオンの触媒効果による還元反応の促進のためには、特に反応系のpHを3〜5の範囲内とすることが好ましい。なお、pHの下限は、特に限定されるものではなく、上記有機金属錯体の安定性や、目的とする還元反応の速度などに応じて設定すればよい。
【0029】
本実施の形態の還元方法は、上記有機金属錯体と二酸化炭素と水とを混合して、二酸化炭素を還元する際に、反応系のpHを変化させることとしても良い。これにより、反応系中における二酸化炭素と水との反応の平衡を移動させ二酸化炭素の量を変化させること、および水素イオンによる酸触媒効果を変化させることができるから、二酸化炭素の還元反応の反応速度等を制御することができる。
【0030】
上記有機金属錯体の還元触媒活性種は、上記一般式(1)において、Xが水素原子である有機金属錯体(ヒドリド錯体)である。このヒドリド錯体そのものは、例えば、(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩に、蟻酸もしくはその塩をpHを4以上、より好ましくはpHを4〜10の範囲内で作用させることによって、効率よく生成することができる。蟻酸もしくはその塩を作用させるときの反応条件は、本実施の形態の二酸化炭素の還元方法の条件に準ずる。また、上記ヒドリド錯体を二酸化炭素の還元剤としてそのまま用いることもできる。
【0031】
本実施の形態の二酸化炭素の還元方法は、通常、上記有機金属錯体と、二酸化炭素と、水とを混ぜて反応させるときの反応温度を−90〜200℃の範囲内として行われるが、好ましくは、−20〜100℃の範囲内として実施する。二酸化炭素の還元反応の反応時間は、反応基質である二酸化炭素の濃度、反応温度、上記有機金属錯体の量、水以外の溶媒の種類等の、反応条件によって異なるが、通常、数分から24時間程度である。すなわち、二酸化炭素の還元反応は、数分から24時間程度の時間内で完結する。
【0032】
二酸化炭素の還元反応が終了した後に得られた、目的物の単離及び精製法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、反応終了後、溶媒及び未反応原料を留去した後、必要に応じて、目的物を水洗したり、蒸留したりすればよい。また、上記有機金属錯体は、上記の水洗、蒸留、吸着等の操作によって、目的物から除去することができる。また、有機金属錯体をシリカゲル、活性白土等の適当な担体に担持させた後、濾過により除去することも可能である。また、回収した有機金属錯体は再利用することもできる。
【0033】
以上のように、本実施の形態の二酸化炭素の還元方法は、上記一般式(1)で表される有機金属錯体を用いることによって、有害かつ枯渇性資源由来の有機溶媒中ではなく、無害かつ低コストな水中において、二酸化炭素を直接還元することが可能となり、環境・エネルギー問題を解決することができる。
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0035】
〔実施例1:アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩の調製〕
トリアクア[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩496mg(1.2mmol)の水溶液100mLに、2,2’−ビピリジン187mg(1.2mmol)を加え、室温にて12時間撹拌した。このようにして得られた薄オレンジ溶液を濃縮し、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩を黄色粉末として得た(収率90%)。得られた黄色粉末が、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩であることをH−NMRの測定により確認した。測定結果を以下に示す。
H−NMR(DO at pD3.8、内部標準3−(trimethylsilyl)propionic acid−2,2,3,3−d sodium salt)δ:2.13(s,18H)、7.88(t,2H)、8.20(t,2H)、8.40(d,2H)、9.16(d,2H)。
【0036】
〔実施例2−1:ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)トリフルオロメタンスルホン酸リン酸塩の調製〕
上記実施例1の調製方法により得られた、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩48.0mg(90.0mmol)の水溶液(10mL)に、室温にて固体の水素化ホウ素ナトリウム4.0mg(106mmol)を加えると、少量の黒色沈殿と橙色溶液とが得られた。このようにして得られた橙色溶液から黒色沈殿を濾別して取り除いた後、この橙色溶液にトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム33mg(0.192mmol)を加えると、直ちに沈殿が析出した。この沈殿を濾取して、水で洗浄した後、減圧乾燥することで、上記一般式(1)で示される有機金属錯体である、橙色のヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)トリフルオロメタンスルホン酸塩を得た(収率70%)。得られたものがヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)トリフルオロメタンスルホン酸塩であることは、H−NMRの測定により確認した。測定結果を以下に示す。
H−NMR(DO、内部標準3−(trimethylsilyl)propionic acid−2,2,3,3−d sodium salt)δ:2.14(s,18H)、7.48(t,2H)、7.93(t,2H)、8.19(d,2H)、8.57(d,2H)、−7.45(s)。
【0037】
〔実施例2−2:ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩の調製〕
上記実施例1の調製方法により得られたアクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩53.3mg(0.1mmol)と蟻酸ナトリウム680mg(10mmol)とを、室温にて水15mLに溶解した溶液に、0.1M水酸化ナトリウムを添加して、pH8.0となるように調整した。当該溶液を70℃として30分間攪拌した後、室温のヘキサフルオロリン酸ナトリウム16.8mg(0.1mmol)を含む水溶液4mLに加えた。このようにして得られた(析出した)結晶を、濾別後、水洗・乾燥させて、上記一般式(1)で示される有機金属錯体である、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩を得た(収率65%)。得られたものが、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)ヘキサフルオロリン酸塩であることは、H−NMRの測定により確認した。測定結果を以下に示す。
H−NMR(DO、内部標準3−(trimethylsilyl)propionic acid−2,2,3,3−d sodium salt)δ:2.14(s,18H)、7.48(t,2H)、7.93(t,2H)、8.19(d,2H)、8.57(d,2H)、−7.45(s)。
【0038】
〔実施例2−3:ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩の調製〕
上記実施例1の調製方法により得られたアクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩5.32mg(9.97mmol)と、蟻酸ナトリウム6.64mg(97.6mmol)とをアルゴン雰囲気下で、室温の水(1mL)に溶解して水溶液を調製した。このようにして調製された水溶液に、アルゴンを通じながら、当該水溶液の温度を70℃として10分間撹拌すると、上記一般式(1)で示される有機金属錯体である、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩の橙色溶液が得られた。上記橙色溶液が、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩であることは、H−NMRの測定により確認した。測定結果を以下に示す。
H−NMR(DO、内部標準3−(trimethylsilyl)propionic acid−2,2,3,3−d sodium salt)δ:2.14(s,18H)、7.48(t,2H)、7.93(t,2H)、8.19(d,2H)、8.57(d,2H)、−7.45(s)
〔実施例3:ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩の調製〕
実施例1の調製方法により得られたアクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩53.3mg(0.1mmol)と、蟻酸ナトリウム2.72g(40mmol)とを、室温において、水20mLに溶解した水溶液に、3M蟻酸水溶液を添加して、当該水溶液をpH4.0に調整した。調整後の水溶液を40℃にして30分間攪拌した後、当該水溶液にクロロホルム10mLを加えて5回抽出をした。このようにして得られた抽出液を、塩化マグネシウムにより乾燥した後、濃縮した。濃縮により得られた残渣を、クロロホルムとジエチルエーテルの混合溶媒に溶解した後に、再結晶し、上記一般式(1)で示される有機金属錯体である、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩を得た(収率50%)。得られたものが、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)蟻酸塩であることは、H−NMRの測定により確認した。測定結果を以下に示す。
H−NMR(CDCl3、内部標準tetrametylsilane)δ:2.10(s,18H)、7.67(t,2H)、7.79(s,1H)、8.16(t,2H)、9.14(d,2H)
〔実施例4:二酸化炭素の還元〕
1気圧の二酸化炭素を30分間、水に通じることで、二酸化炭素が飽和したpH4.0の二酸化炭素水溶液を調整した。この二酸化炭素水溶液(3mL)に、上記実施例2−1の調製方法により得られた、上記一般式(1)で表される有機金属錯体としてのヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)トリフルオロメタンスルホン酸塩10.0mg(17.6mmol)を加え、二酸化炭素雰囲気下、室温で3時間撹拌した。これにより、ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)トリフルオロメタンスルホン酸塩、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)トリフルオロメタンスルホン酸塩、および蟻酸イオンが生成した。これら生成物は、H−NMRの測定により確認した。測定結果を以下に示す。
ホルマト−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)トリフルオロメタンスルホン酸塩の1H−NMR(CDCl3、内部標準tetrametylsilane)δ:2.10(s,18H)、7.67(t,2H)、7.79(s,1H)、8.16(t,2H)、9.14(d,2H)
アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)トリフルオロメタンスルホン酸塩の1H−NMR(DO at pD3.8、内部標準3−(trimethylsilyl)propionic acid−2,2,3,3−d sodium salt)δ:2.13(s,18H)、7.88(t,2H)、8.20(t,2H)、8.40(d,2H)、9.16(d,2H)。
【0039】
本実施例のように、ヒドリド−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)トリフルオロメタンスルホン酸塩(有機金属錯体)と、二酸化炭素と、水とを混合することにより、二酸化炭素を還元して蟻酸イオンとすることができた。
【0040】
〔実施例5:ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩の調製および二酸化炭素の還元〕
上記実施例1の調製方法により得られたアクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩20.0mmolを、25mlの圧力容器中で20mlの水に溶解した(pH5.0)。反応液の温度を40℃に上昇させ、溶液を二酸化炭素(2.5MPa)と水素(5.5MPa)を用いて70時間加圧した。圧力を大気圧に戻した後、溶液を環境気温に急冷した(pH2.5)。蟻酸の収量はH−NMR(DO、内部標準3−(trimethylsilyl)propionic acid−2,2,3,3−d sodium salt)の測定によって決定した。
【0041】
40℃、70時間反応後において、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩によって触媒された水中での還元反応のターンオーバー数(TONs)は、55回であり、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩によって触媒された場合のターンオーバー数は35回であった。
【0042】
すなわち、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩を用いることで、ターンオーバー数を大幅に増加させることができた。
【0043】
したがって、アクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩を用いた本実施例の反応は、アクア−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩を用いた反応よりも工業的に優れているといえる。
【0044】
触媒反応の条件は、反応時間、反応温度、水素の圧力および二酸化炭素の圧力によって最適化した。反応時間、反応温度、水素の圧力および二酸化炭素の圧力とターンオーバー数の関係を、それぞれ図1a、図1b、図1cに示した。
【0045】
図1aは、反応温度40℃、水素の圧力5.5MPa、二酸化炭素の圧力2.5MPaの条件下で、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩で触媒した水中での二酸化炭素の還元による蟻酸生成反応のターンオーバー数が、反応時間に依存することを示したものである。ターンオーバー数は、反応開始55時間後に平衡に達するまで、時間とともに増加した。
【0046】
図1bは、反応開始12時間後におけるターンオーバー数と反応温度の関係を示したものである。ターンオーバー数は反応温度の上昇とともに増加して40℃で最大値に達し、その後は、反応温度の上昇とともに減少した。
【0047】
還元反応の逆反応、すなわち、図1bに示した高温でのターンオーバー数の減少を招来する反応は、60℃、pH2.4の条件下で、水中においてヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩を10倍量の蟻酸と反応させることによって行った。
【0048】
反応開始1時間後、90%以上の蟻酸が消失し、水素および二酸化炭素が生成したことが、H−NMRおよびガスクロマトグラフィーによって確認された。
【0049】
一方、反応温度40℃で12時間反応させた時点でのターンオーバー数は、水素の圧力の増加に比例し、傾きは二酸化炭素の圧力が高いほど大きくなった。図1cは、水中での二酸化炭素の還元反応のターンオーバー数が、ヒドリド−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩で触媒し、40℃で12時間反応した場合に、二酸化炭素の圧力が1.5Mpaおよび2.5MPaの下で、水素の圧力に依存することを示したものである。
【0050】
このように、本実施例において、最適化された触媒条件下で、水溶性のアクア−4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジル−[(1,2,3,4,5,6−η)−ヘキサメチルベンゼン−1−イル]ルテニウム(II)硫酸塩を用いることにより、酸性条件下において、水中で二酸化炭素を還元できることが明らかとなった。
【0051】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のとおり、本発明の二酸化炭素の還元方法(以下「本発明の還元方法」という)は、上記一般式(1)で表される有機金属錯体と、二酸化炭素と、水とを混合するものである。このように、上記一般式(1)で表される有機金属錯体を用いることにより、有害かつ枯渇性資源由来の有機溶媒中ではなく、水中において温和な条件で二酸化炭素を還元することが可能となるから、環境・エネルギー問題を解決することができる。
【0053】
また、本発明の還元方法は、上記有機金属錯体と、二酸化炭素と、水とを混合した反応系のpHを6以下とすることが好ましい。本発明の還元反応は、酸触媒により反応が促進されるものであるから、反応系のpHを6以下とすることにより、還元反応の効率を向上させることができる。また、反応系中の二酸化炭素は、pH6以上ではその約半分以上が二酸化炭素と水との反応により炭酸水素イオン(HCO3)となるが、pH6以下とするとその過半数が弱く水和した状態の二酸化炭素として存在する。このため、反応系のpHを6以下とすることによって、反応系中の二酸化炭素の割合を向上させて、還元反応を効率良く進行させることができる。
【0054】
また、本発明の還元方法は、有機金属錯体と、二酸化炭素と、水とを混合して二酸化炭素を還元するときに、反応系のpHを変化させてもよい。上述したとおり、本発明の還元方法は、反応系のpHを変化させることにより、還元反応の反応速度、および反応系に含まれる二酸化炭素の割合を制御することができるから、反応系のpHコントロールにより、還元反応を容易に制御することが可能となる。
【0055】
したがって、本発明の二酸化炭素の還元方法によれば、有害かつ枯渇性資源由来の有機溶媒中ではなく、無害かつ低コストな水中で、二酸化炭素を直接還元することが可能となるので、環境・エネルギー問題を解決できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化2】

(式中、R、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または低級アルキル基を表し、Mはベンゼン環に配位することができる元素を表し、X、Xは窒素配位子、Xは水素原子、カルボン酸残基もしくはHOを表し、XとXとはお互いに結合していても良い。Yはアニオン種を表す。Kはカチオン種の価数を表し、Lはアニオン種の価数を表す。ここでKおよびLはそれぞれ独立に1または2を表し、K×m=L×nの関係が成り立つ。)
で表される有機金属錯体と、二酸化炭素と、水とを混合することを特徴とする二酸化炭素の還元方法。
【請求項2】
上記有機金属錯体は、一般式(1)において、Mが周期表の第8族元素または第9族元素であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の二酸化炭素の還元方法。
【請求項3】
上記有機金属錯体は、一般式(1)において、MがRuであることを特徴とする請求の範囲第2項に記載の二酸化炭素の還元方法。
【請求項4】
上記有機金属錯体は、一般式(1)において、Yが蟻酸イオン、ハロゲン化物イオン、トリフラートイオン、硫酸イオン、過ハロゲン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオンまたはチオシアン酸イオンであることを特徴とする請求の範囲第1項、第2項または第3項に記載の二酸化炭素の還元方法。
【請求項5】
上記有機金属錯体は、一般式(1)においてX、Xで表される窒素配位子が、4,4’−ジメトキシ−2,2’−ビピリジンであることを特徴とする請求の範囲第1項から第4項のいずれか1項に記載の二酸化炭素の還元方法。
【請求項6】
上記有機金属錯体と、二酸化炭素と、水とを混合した反応系のpHを6以下とすることを特徴とする請求の範囲第1項から第5項のいずれか1項に記載の二酸化炭素の還元方法。
【請求項7】
有機金属錯体と、二酸化炭素と、水とを混合して二酸化炭素を還元するときに、反応系のpHを変化させることを特徴とする請求の範囲第1項から第6項のいずれか1項に記載の二酸化炭素の還元方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【国際公開番号】WO2005/028408
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514025(P2005−514025)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013245
【国際出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】