説明

有機電界発光素子材料及びそれを使用した有機電界発光素子

【課題】発光効率が高く、且つ繰り返し使用時での安定性の優れた有機電界発光素子材料及びそれを使用した有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】非経験的分子軌道計算により算出される中性分子の全エネルギーと、該分子のラジカル・カチオン状態における全エネルギーとの差の絶対値が5.10電子ボルト以上であり、且つ中性分子の最高準位占有分子軌道のエネルギー準位と、該分子のラジカル・カチオン状態におけるβスピン電子に関する最低準位非占有分子軌道のエネルギー準位との差の絶対値が2.40電子ボルト以下であることを特徴とする有機電界発光素子材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子材料として、正孔の移動効率に優れていることを特徴とする有機電界発光素子材料及びそれを使用した有機電界発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機物質を使用した電界発光素子は、固体発光型の安価な大面積フルカラー表示素子としての用途展開が有望視され、近年、活発に研究開発が行われている。
一般に有機電界発光素子は、発光層及び該層を挟んだ一対の対向電極から構成されている。この素子における発光は次の様な機構に基づくものである。すなわち、両電極間に電界が印加されると、陰極側から電子、陽極側から正孔が注入される。これらが発光層において再結合し、エネルギー準位が伝導帯から価電子帯に移行する際にエネルギーが光として放出され、発光現象として観測される。
【0003】
従来の有機電界発光素子は、無機電界発光素子に比べて駆動電圧が高く、発光輝度、発光効率等の特性が何れに関しても低水準のものであった。また、これらの特性の劣化も著しいことから実用化には至っていなかった。
近年、10V以下の低電圧で発光し、且つ高い蛍光量子効率を有する有機化合物を含有する薄膜を積層した型の有機電界発光素子が報告され、関心を集めている。
この研究は、イーストマン・コダック社のC.W.Tang氏らによりAppl.Phys.Lett.,第51巻,913頁(1987年発行)に報告された有機薄膜を積層した電界発光素子に端を発している。この報告では、金属キレート錯体を蛍光体層、アミン系化合物を正孔注入層に使用して高輝度の緑色発光を得ている。6〜7Vの直流電圧で輝度は1000cd/m2、最大発光効率は1.5lm/Wを達成し、実用領域に近い性能を示している。現在、企業及び研究機関等で開発が進められている有機電界発光素子は、基本的にこのイーストマン・コダック社の構成を踏襲していると言える。
【0004】
有機電界発光素子を構成する主要な材料としては、正孔注入材料、正孔輸送材料、発光材料、電子輸送材料、電子注入材料が挙げられる。これらの材料の中で、正孔注入材料及び正孔輸送材料としては、これまでにアミン系の化合物を中心とする多種類の材料が提案されている。例えば、特許第3008897号ではビアントリル誘導体、特許第3565870号では芳香族トリアミン誘導体、特許第3549555号ではピレニル基を有するトリアミン誘導体、特開平7-126226号ではベンジジン系のテトラアミン誘導体、特開平8-3122号では芳香族ヘキサアミン誘導体、特許第3329227号ではビフェニリル基を有するトリアミン誘導体、特開平10-92581号では芳香族テトラアミン誘導体、特開平10-102052号ではビフェニル骨格及びナフチル骨格を有するトリアミン誘導体、特開平10-168446号では芳香族テトラアミン誘導体、特開平11-54280号ではビナフチル骨格を有するジアミン誘導体、特開平11-124358号ではフェニルナフチル骨格を有するジアミン誘導体、特開平11-236360号ではビフェニル骨格を有するジアミン誘導体、特開平11-338172号ではナフタレン環を3個以上有するジアミン誘導体、特開2000-150168号では2-ナフチル基を有するテトラアミン、特開2000-309566号ではジアミンが種々の連結基で結合したテトラアミン、特開2002-343577号ではトリアミンが種々の連結基で結合したヘキサアミン、特開2002-356462号ではベンジジン誘導体、特開2003-31372号ではトリアミン、特開2003-81924号ではトリアミン、テトラアミン、ペンタアミン及びヘキサアミン、特開2004-91334号ではアントラセン環を有するテトラアミン誘導体、特開2004-107292号ではビナフタレン環を有するジアミン誘導体、特開2004-155705号では芳香族テトラアミン誘導体、特開2004-315495号ではフルオレン骨格を有するジアミン誘導体が開示されている。
【0005】
しかしながら、現在までの有機電界発光素子は構成の改善により発光強度は改良されているが、駆動に要する電圧が高く、繰り返し使用時の安定性にも欠けるという重大な問題点を有している。従って、これらの問題点を解決する為に、優れた正孔注入輸送能力をもち、且つ耐久性の高い正孔注入材料の開発が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特許第3008897号公報
【特許文献2】特許第3565870号公報
【特許文献3】特許第3549555号公報
【特許文献4】特開平7-126226号公報
【特許文献5】特開平8-3122号公報
【特許文献6】特許第3329227号公報
【特許文献7】特開平10-92581号公報
【特許文献8】特開平10-102052号公報
【特許文献9】特開平10-168446号公報
【特許文献10】特開平11-54280号公報
【特許文献11】特開平11-124358号公報
【特許文献12】特開平11-236360号公報
【特許文献13】特開平11-338172号公報
【特許文献14】特開2000-150168号公報
【特許文献15】特開2000-309566号公報
【特許文献16】特開2002-343577号公報
【特許文献17】特開2002-356462号公報
【特許文献18】特開2003-31372号公報
【特許文献19】特開2003-81924号公報
【特許文献20】特開2004-91334号公報
【特許文献21】特開2004-107292号公報
【特許文献22】特開2004-155705号公報
【特許文献23】特開2004-315495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
背景技術に述べたように、従来の有機電界発光素子は駆動に要する電圧が高く、省電力性能という点で欠けていた。また、繰り返し使用時の安定性が低い為に寿命が短く、この点においても欠点のあるものであった。本発明は従来の有機電界発光素子において認められた上記の課題を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、発光効率が高く、且つ繰り返し使用時での安定性の優れた有機電界発光素子材料及びそれを使用した有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らが上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、有機分子の中性状態及びラジカル・カチオン状態の両状態に関して、非経験的分子軌道計算により算出される全分子エネルギー及び特定の分子軌道エネルギーに基づいたパラメーターが特定の条件を満たすような有機化合物を有機電界発光素子材料として、少なくとも一層に使用した有機電界発光素子はその発光効率が高く、繰り返し使用時での安定性にも優れ、その結果寿命が長いことを見出し本発明を完成させた。
【0009】
本発明は、非経験的分子軌道計算により算出される中性分子の全エネルギーと、該分子のラジカル・カチオン状態における全エネルギーとの差の絶対値が5.10電子ボルト以上であり、且つ中性分子の最高準位占有分子軌道のエネルギー準位と、該分子のラジカル・カチオン状態におけるβスピン電子に関する最低準位非占有分子軌道のエネルギー準位との差の絶対値が2.40電子ボルト以下であることを特徴とする有機電界発光素子材料に関するものである。なお、最高準位占有分子軌道はHOMO、最低準位非占有分子軌道はLUMOと略記されることもある。これらの軌道に関しては、米沢貞次郎「量子化学入門 上・下」(化学同人)において詳しく説明されている。
【0010】
また、本発明は陽極と陰極とからなる一対の電極間に一層または発光層を含む複数層の有機化合物薄膜を形成した有機電界発光素子において、少なくとも一層が前記の有機電界発光素子材料を含有する層である有機電界発光素子に関するものである。
【0011】
また、本発明は発光層と陽極との間に少なくとも一層の正孔注入層を形成してなる上記有機電界発光素子において、少なくとも一層が前記の有機電界発光素子材料を含有する層である有機電界発光素子に関するものである。
【0012】
また、本発明は発光層と陽極との間に正孔注入層及び正孔輸送層を形成してなる上記有機電界発光素子において、少なくとも一層前記の有機電界発光素子用材料を含有する有機電界発光素子に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば発光効率が高く、且つ繰り返し使用時での安定性に優れた有機電界発光素子材料及びそれを使用した有機電界発光素子を得ることができる。本発明の有機電界発光素子材料を用いて作製した有機電界発光素子は、従来の素子に比べてより低い駆動電圧で発光し、且つ長寿命であるため、壁掛けテレビ等のフラットパネルディスプレイや平面状発光体として好適に使用することができる。また、複写機、プリンター、液晶ディスプレイ、計器類等の光源、その他、表示板、標識灯等への応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
有機電界発光素子の陽極とそれに隣接する正孔注入層との界面においては、正孔注入層を構成する有機分子が酸化され、その結果、正孔注入層内にラジカル・カチオンが生成する。すなわち、正孔が陽極から正孔注入層に注入される。注入された正孔は正孔注入層の内部を陰極側に向かって移動する。このとき正孔は、正孔注入層内の中性状態及びラジカル・カチオン状態の有機分子間の相互作用に基づいたホッピング伝導と呼ばれる機構に従って移動するものと考えられている。正孔注入層内を陰極側に向かって移動する正孔は、正孔輸送層との界面に達した時点で、正孔注入層内の正孔注入材料のラジカル・カチオンと、正孔輸送層内の正孔輸送材料の中性分子との相互作用により正孔輸送層内に移動し、更に発光層へと移動する。一方、陰極から電子を注入され、還元により生じた電子注入材料のラジカル・アニオンもまたホッピング伝導に従い発光層へと移動する。発光層内においては、これらのラジカル種が再結合して電子授受反応を引き起こし、励起分子から固有の蛍光を発し、電界発光として観測される。
【0015】
上記の発光機構を円滑に発現させることにより、発光効率が高く、且つ繰り返し使用時の安定性に優れた有機電界発光素子材料及びそれを使用した有機電界発光素子を得ることができる。このためには、陽極と正孔注入層、正孔注入層と正孔輸送層のそれぞれの界面において前者から後者へと正孔が円滑に注入され、且つ、注入された正孔が円滑に層内を陰極側へ移動し、隣接する正孔輸送層へ到達することが必要条件となる。
【0016】
陽極から正孔注入層への正孔の円滑な注入のためには、正孔注入層のイオン化ポテンシャルが陽極あるいは正孔輸送層のイオン化ポテンシャルに対して適正な値であることが必要である。また、正孔注入層において正孔が円滑に移動するためには、該層内で正孔が高い移動度を示すことが必要である。上記の効果の相乗的作用により素子全体の合成電気抵抗が減少し、その結果、正孔注入層を構成要素のひとつとする電界発光素子を駆動させるために必要な電圧を低減化させることができる。これらの効果により、素子駆動に関する省電力化のみならず、原理的に発光効率をも向上させることができる。その結果、本発明の目的である、発光効率が高く、且つ耐久性のある長寿命な有機電界発光素子の創製が可能になる。
【0017】
本発明の発明者らは上記の考察に基づいて以下に示すような非経験的分子軌道計算を行った。すなわち、正孔注入材料の有機分子に対して、その中性状態及びラジカル・カチオン状態におけるそれぞれの全分子エネルギーを計算した。この場合、中性分子は電荷が0、スピン多重度が一重項であるのに対して、ラジカル・カチオンは電荷が+1、スピン多重度が二重項の分子種である。後者は中性状態の分子から一個の電子を取り去った状態に相当する。従って、両者の全分子エネルギーの差は正孔注入材料の分子を陽イオン化するために必要なエネルギー、すなわちイオン化ポテンシャルに相当する。
【0018】
また、正孔注入層内での正孔の移動がより円滑に行われるためには、正孔注入層材料の分子間での正孔のホッピング伝導の効率を高くする必要がある。ホッピング伝導は陽極界面において、正孔注入層材料の分子の酸化により生じたラジカル・カチオンと中性状態の分子との相互作用に基づく現象であり、両分子種間の相互作用を高揚させることにより、この伝導現象の効率を高めることが可能である。中性分子とラジカル・カチオンとの相互作用は、フロンティア軌道理論によれば前者の最高準位占有分子軌道と後者の半占分子軌道(この軌道は‘SOMO’と略記されることもあり、詳細は前記の米沢貞次郎「量子化学入門 上・下」を参照)との相互作用に基づくものである。この場合、これらの軌道間相互作用は軌道間のエネルギー差が小さい程大きくなることが理論的に予測されていることから、本発明者らは非経験的分子軌道計算により、これらの軌道エネルギーを計算した。但し、ラジカル・カチオンのような開殻系分子に対する分子軌道計算では、閉殻系分子の場合のように一つの分子軌道にスピンの異なる電子が二つ存在する状態としての軌道エネルギーは計算原理的に算出されず、スピンの異なる電子がそれぞれ別の分子軌道に存在する状態での軌道エネルギーがそれぞれ算出される。
【0019】
本発明では非経験的分子軌道計算に基づいたエネルギー値を用いている。非経験的分子軌道法はab initio分子軌道法とも呼ばれる計算法であり、計算過程においては必要最小限のパラメーターのみが用いられるため、他の計算方法に比較してより厳密な計算が可能である。この計算方法においてもBorn-Oppenheimer近似と呼ばれる近似方法が用いられている。この近似方法では電子運動に対して相対的に原子核の位置を固定し、電子波動関数は核の運動には影響されないと仮定する。非経験的分子軌道法では、シュレーディンガー方程式に基づき、一連の数学的手順に従って分子の電子状態を計算し、汎用的に有機分子、無機分子を含めた一般の分子に対して、物理的、化学的性質を定量的に計算することが出来る。しかしながら、解析的に厳密な解が求められるのは極めて限られた分子であり、殆どの場合には、種々の数学的な近似法を用いて解を求めることになる。
【0020】
非経験的分子軌道法の原理は次のようである。N個の原子核とn個の電子からなる分子を考えると、シュレーディンガー方程式は次のように書ける。
HΨ=EΨ
上式において、Hはハミルトニアンと呼ばれ、電子の運動エネルギー、電子と原子核間の引力ポテンシャル、電子間反発ポテンシャル原子核間反発ポテンシャル等の項からなる演算子である。また、Ψはn電子の全波動関数であり、Eは分子の全エネルギーを表す。シュレーディンガー方程式は解析的に解くことが不可能であり、近似的な解を求めることになる。Ψは各電子の座標の関数であり、近似的に1個の電子の座標のみに依存する関数の積として表される。このとき、Pauliの原理を満足させるような行列式として表され、この行列式はSlater行列式と呼ばれる。このような近似的な波動関数を用いたモデルは独立粒子モデルあるいはHartree-Fock近似と呼ばれる。このモデルでは、個々の電子は他の電子の存在位置には関係せず、他の電子が形成する平均的な場の中で互いに独立に運動していると考える。この一電子波動関数Ψのうちでi番目の分子軌道Ψiはm個の原子軌道の一次結合の形として表される。
【0021】
【数1】

【0022】
上式において、χrは基底関数と呼ばれ、原子軌道を表現する関数であり、cirは固有値係数と呼ばれる各原子軌道の係数である。この固有値係数は、i番目の分子軌道における各原子軌道χrの重ね合わせの比率を表す。固有値係数は、分子の全エネルギーが最小になる条件から変分法と呼ばれる計算手法を用いることにより導かれる。すなわち、固有値係数cirを未知数とする連立方程式を解くことにより求められ、この方程式はHartree-Fock-Roothaan方程式と呼ばれる。この計算過程を経て、i番目の分子軌道に関する固有値と呼ばれる値が求められ、これが分子軌道の一電子エネルギー、すなわち軌道エネルギーに相当するものである。Hartree-Fock-Roothaan方程式から固有値係数cirを求める場合には、始めに固有値係数cirを適当な値に仮定して、方程式を解く。次に、得られた固有値係数cirを用いて再び方程式を解く。以上の操作を繰り返して行い、方程式を解く再に仮定した固有値係数cirと、方程式を解いて得られたそれとの間の差が閾値以下になるまで計算を続ける。上記の差が閾値以下に達した段階において得られた固有値係数cirを最終的な値として採用する。このように固有値係数cirを近似的に求める計算手法はSCF(self consistent field)法と呼ばれ、分子軌道法では広く用いられている。
【0023】
非経験的分子軌道法においてHartree-Fock法と呼ばれる計算法の原理の概略は上記のようである。この原理に基づいて特定の化合物に関する分子軌道計算を行うには、極めて複雑な計算を繰り返して実行する必要がある。このような分子軌道計算をコンピューターを利用して行わせるためのプログラムとしては、
Gaussian 03, Revision C.02
(M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb,
J. R. Cheeseman, J. A. Montgomery, Jr., T. Vreven, K. N. Kudin, J. C. Burant,
J. M. Millam, S. S. Iyengar, J. Tomasi, V. Barone, B. Mennucci, M. Cossi,
G. Scalmani,N. Rega, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota,
R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai,
M. Klene, X. Li, J. E. Knox, H. P. Hratchian, J. B. Cross, C. Adamo, J. Jaramillo,
R. Gomperts, R. E. Stratmann, O. Yazyev, A. J. Austin, R. Cammi, C. Pomelli,
J. W. Ochterski, P. Y. Ayala, K. Morokuma, G. A. Voth, P. Salvador, J. J. Dannenberg, V. G. Zakrzewski,S. Dapprich, A. D. Daniels, M. C. Strain, O. Farkas, D. K. Malick,
A. D. Rabuck, K. Raghavachari, J. B. Foresman, J. V. Ortiz, Q. Cui, A. G. Baboul,
S. Clifford, J. Cioslowski, B. B. Stefanov, G. Liu, A. Liashenko, P. Piskorz,
I. Komaromi, R. L. Martin, D. J. Fox, T. Keith, M. A. Al-Laham, C. Y. Peng,
A. Nanayakkara, M. Challacombe, P. M. W. Gill, B. Johnson, W. Chen, M. W. Wong, C. Gonzalez, and J. A. Pople, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2004.)
が挙げられる。
【0024】
このプログラムを用いて、既に計算方法の原理の概略において説明したHartree-Fock法により分子エネルギーを計算するに際しては、中性分子とラジカル・カチオン分子では計算方法が若干異なる。すなわち、前者のような閉殻系分子では制限Hartree-Fock(RHFと略記される)法と呼ばれる方法を用い、後者のような開殻系分子では非制限Hartree-Fock(UHFと略記される)法を用いる必要がある。この場合、制限Hartree-Fock法はひとつの分子軌道にスピンの異なる二つの電子が存在するが、非制限Hartree-Fock法では、α-及びβ-スピン電子がそれぞれエネルギー準位の異なる別の軌道に存在するという点が制限Hartree-Fock法との相違点である。また、計算時に考慮すべき条件としては基底関数系の選択も挙げられる。基底関数系の選択においては、中性分子及びラジカル・カチオン分子のそれぞれの計算での精度を整合させる意味において、両者の計算を同一の基底関数系を用いて行う必要がある。
【0025】
有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に一層または多層の有機層を形成した素子から構成される。ここで、一層型有機電界発光素子とは、陽極と陰極との間に発光層のみからなる素子を指す。一方、多層型有機電界発光素子とは、発光層への正孔あるいは電子の注入を容易にしたり、発光層内での正孔と電子との再結合を円滑に行わせたりすることを目的として、発光層以外に正孔注入層、正孔輸送層、正孔阻止層、電子注入層などを積層させたものを指す。多層型有機電界発光素子の代表的な素子構成としては、次に示すような素子構成が考えられる。
(1)陽極/正孔注入層/発光層/陰極、
(2)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極、
(3)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極、
(4)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層/陰極、
(5)陽極/正孔注入層/発光層/正孔阻止層/電子注入層/陰極、
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子注入層/陰極、
(7)陽極/発光層/正孔阻止層/電子注入層/陰極、
(8)陽極/発光層/電子注入層/陰極
【0026】
本発明の有機電界発光素子材料は上記の有機電界発光素子の中で、とりわけ、多層型有機電界発光素子における正孔注入層材料として用いるのに好適である。一般に、正孔注入層には、発光層に対して優れた正孔注入効率を示し、かつ陽極界面との密着性と薄膜形成性に優れた層を形成させることができる正孔注入材料が用いられる。また、このような材料を多層積層させ、正孔注入効果の高い材料と正孔輸送効果の高い材料とを多層積層させた場合、それぞれに用いる材料を正孔注入材料、正孔輸送材料と呼ぶことがある。これまでに正孔注入材料あるいは正孔輸送材料として用いられている材料としては、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾールチオン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、テトラヒドロイミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、ヒドラゾン誘導体、アシルヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、芳香族三級アミン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリシラン誘導体等が挙げられる。
【0027】
上記材料の中でも特に好適に使用することのできる正孔注入材料あるいは正孔輸送材料としては、芳香族三級アミン誘導体およびフタロシアニン誘導体があげられる。芳香族三級アミン誘導体としては、例えば、N,N’−ジフェニル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N,N’,N’−(4−メチルフェニル)−1,1’−フェニル−4,4’−ジアミン、N,N,N’,N’−(4−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジナフチル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−(メチルフェニル)−N,N’−(4−n−ブチルフェニル)−フェナントレン−9,10−ジアミン、N,N−ビス(4−ジ−4−トリルアミノフェニル)−4−フェニル−シクロヘキサン、およびこれら芳香族三級アミン骨格を有するオリゴマーまたはポリマーがあげられ、これらは正孔注入材料、正孔輸送材料いずれにも好適に使用することができる。また、フタロシアニン(Pc)誘導体としては、例えば、H2Pc、CuPc、CoPc、NiPc、ZnPc、PdPc、FePc、MnPc、ClAlPc、ClGaPc、ClInPc、ClSnPc、Cl2SiPc、(HO)AlPc、(HO)GaPc、VOPc、TiOPc、MoOPc、GaPc−O−GaPc等のフタロシアニン誘導体があげられ、これらは特に正孔注入材料に好適に使用することができる。
既に述べたように、多層で構成された有機電界発光素子においては、素子を構成する各層の価電子帯及び伝導帯のエネルギー準位の相対的な関係が素子の発現する特性に密接に関係している。本発明の材料を正孔注入層の材料として作製した素子は、陽極電位に対する正孔注入層の伝導体のエネルギー準位が適正化されている。
【0028】
一方、電子注入層には、発光層に対して優れた電子注入効果を示し、かつ陰極界面との密着性と薄膜形成性に優れた電子注入層を形成できる電子注入材料が用いられる。そのような電子注入材料の例としては、金属錯体化合物、含窒素五員環誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ペリレンテトラカルボン酸誘導体、フレオレニリデンメタン誘導体、アントロン誘導体、シロール誘導体、カルシウムアセチルアセトナート、酢酸ナトリウムなどがあげられる。また、セシウム等の金属をバソフェナントロリンにドープした無機/有機複合材料(高分子学会予稿集,第50巻,4号,660頁,2001年発行に記載)や第50回応用物理学関連連合講演会講演予稿集、No.3、1402頁、2003年発行記載のBCP、TPP、T5MPyTZ等も電子注入材料の例としてあげられるが、素子作成に必要な薄膜を形成し、陰極からの電子を注入できて、電子を輸送できる材料であれば、特にこれらに限定されるものではない。
【0029】
上記電子注入材料の中でも特に効果的な電子注入材料としては、金属錯体化合物または含窒素五員環誘導体があげられる。本発明に使用可能な電子注入材料の内、好ましい金属錯体化合物としては、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、トリス(5−フェニル−8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)(1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)(2−ナフトラート)アルミニウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)(フェノラート)アルミニウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)(4−シアノ−1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(4−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(5−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(2−ナフトラート)アルミニウム、ビス(5−フェニル−8−ヒドロキシキノリナート)(フェノラート)アルミニウム、ビス(5−シアノ−8−ヒドロキシキノリナート)(4−シアノ−1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)クロロアルミニウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)(o−クレゾラート)アルミニウム等のアルミニウム錯体化合物、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、トリス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、トリス(2−メチル−5−フェニル−8−ヒドロキシキノリナート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(1−ナフトラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(2−ナフトラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(フェノラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(4−シアノ−1−ナフトラート)ガリウム、ビス(2、4−ジメチル−8−ヒドロキシキノリナート)(1−ナフトラート)ガリウム、ビス(2、5−ジメチル−8−ヒドロキシキノリナート)(2−ナフトラート)ガリウム、ビス(2−メチル−5−フェニル−8−ヒドロキシキノリナート)(フェノラート)ガリウム、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−ヒドロキシキノリナート)(4−シアノ−1−ナフトラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)クロロガリウム、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(o−クレゾラート)ガリウム等のガリウム錯体化合物の他、8−ヒドロキシキノリナートリチウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)銅、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)マンガン、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)ベリリウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)亜鉛、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナート)亜鉛等の金属錯体化合物が挙げられる。
【0030】
また、本発明に使用可能な電子注入材料の中でも好ましい含窒素五員環誘導体としては、オキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体があげられ、具体的には、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−チアゾール、2,5−ビス(1−フェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ビス[2−(5 −フェニルオキサジアゾリル)]ベンゼン、1,4−ビス[2−(5−フェニルオキサジアゾリル)−4−tert−ブチルベンゼン]、2−(4’−tert− ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−チアジアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルチアジアゾリル)]ベンゼン、2−(4’−tert−ブチルフェニル)−5−(4”−ビフェニル)−1,3,4−トリアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−トリアゾール、1,4−ビス[2−(5−フェニルトリアゾリル)]ベンゼン等があげられる。
【0031】
さらに、正孔阻止層には、発光層を経由した正孔が電子注入層に達するのを防ぎ、薄膜形成性に優れた層を形成できる正孔阻止材料が用いられる。そのような正孔阻止材料の例としては、ビス(8−ヒドロキシキノリナート)(4−フェニルフェノラート)アルミニウム等のアルミニウム錯体化合物や、ビス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナート)(4−フェニルフェノラート)ガリウム等のガリウム錯体化合物、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)等の含窒素縮合芳香族化合物があげられる。
【0032】
本有機電界発光素子における発光層中には、本発明の有機電界発光素子用材料の他に、必要に応じて、他の発光材料やドーピング材料のみならず、先に述べた正孔注入材料や電子注入材料を二種類以上組み合わせて使用することもできる。また、正孔注入層、発光層、電子注入層は、それぞれ二層以上の層構成により形成されても良い。
【0033】
さらに、本発明の有機電界発光素子の陽極に使用される材料は、炭素、アルミニウム、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、タングステン、銀、金、白金、パラジウム等の金属およびそれらの合金、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)等の導電性金属酸化物、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性ポリマー等があげられる。特に本発明の有機電界発光素子の陽極に使用される導電性材料としては、抵抗値の低いものが好ましく、ITOガラス、NESAガラスが好適に使用される。
【0034】
また、本発明の有機電界発光素子の陰極に使用される材料は、電子を効率よく有機電界発光素子に注入できる材料であれば特に限定されないが、一般に、白金、金、銀、銅、鉄、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよびこれらの合金があげられる。ここで、合金としては、マグネシウム/銀、マグネシウム/インジウム、リチウム/アルミニウム等が代表例としてあげられるが、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの低仕事関数金属を含む合金が好ましい。また、フッ化リチウムのような無機塩を上記低仕事関数金属の替わりに使用することも可能である。また、これら陰極の作成方法としては、抵抗加熱、電子線ピーム照射、スパッタリング、イオンプレーティング、コーティングなどの業界公知の方法で作成することができる。以上述べた陽極および陰極は、必要に応じて二層以上の層構成により形成されていても良い。
【0035】
本発明の有機電界発光素子からの発光を効率よく取り出すためには、発光を取り出す面の基板の材質が充分透明であることが望ましく、具体的には素子からの発光の発光波長領域における透過率が50%以上、好ましくは90%以上であることが望ましい。これら基板は、機械的、熱的強度を有し、透明であれば特に限定されるものではないが、例えば、ガラスの他、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン等の透明性ポリマーが推奨される。
【0036】
また、本発明の有機電界発光素子の各層の形成方法としては、真空蒸着、電子線ピーム照射、スパッタリング、プラズマ、イオンプレーティング等の乾式成膜法、もしくはスピンコーティング、ディッピング、フローコーティング等の湿式成膜法のいずれかの方法を適用することができる。各層の膜厚は特に限定されるものではないが、膜厚が厚すぎると一定の光出力を得るために大きな印加電圧が必要となり効率が悪くなり、逆に膜厚が薄すぎるとピンホール等が発生し、電界を印加しても充分な発光輝度が得にくくなる。したがって、各層の膜厚は、1nmから1μmの範囲が適しているが、10nmから0.2μmの範囲がより好ましい。
【0037】
また、有機電界発光素子の温度、湿度、雰囲気等に対する安定性向上のために、素子の表面に保護層を設けたり、樹脂等により素子全体に被覆や封止を施したりしても良い。特に素子全体を被覆や封止する際には、光により硬化する光硬化性樹脂が好適に使用される。
【0038】
以上述べたように、本発明による有機電界発光素子は、低い駆動電圧で高い効率を示し、長寿命の発光を得ることが可能である。故に、本有機電界発光素子は、壁掛けテレビ等のフラットパネルディスプレイや平面発光体として、さらには、複写機やプリンター等の光源、液晶ディスプレイや計器類等の光源、表示板、標識灯等への応用が考えられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明する。
実施例では、本発明の化合物の合成、分子軌道計算及び該化合物を含んで成る有機電界発光素子作製の例を示す。本例では、混合比は全て重量比である。また、電極面積2mm×2mmの有機電界発光素子の特性を測定した。
【0040】
実施例1
化合物1
【化1】

【0041】
上記の化合物1の非経験的分子軌道計算を既に説明した計算プログラムGaussian 03 Revision C.02を用いて行った。このとき、中性分子の構造最適化計算は制限Hartree Fock(RHF)法で、基底関数として6-31GというGauss型の関数を用いて行った。また、ラジカル・カチオンの計算は非制限Hartree Fock(UHF)法により、中性分子の計算と同様の基底関数を用いて行った。その結果、中性分子とラジカル・カチオンとの全エネルギーの差の絶対値が6.04電子ボルト、中性分子の最高準位占有分子軌道のエネルギーとラジカル・カチオンにおけるβスピン電子に関する最低準位非占有分子軌道とのエネルギー差の絶対値が1.47電子ボルトであった。
【0042】
また、この化合物1を次に示す方法により合成した。
アントラキノン41.6g、錫粉100gを酢酸428g中に添加し、還流状態となるまで加熱を行った。次に、還流加熱下に濃塩酸244gを滴下し、滴下終了後に室温まで冷却した。反応物を水800g中に注入し、室温下に30分間攪拌した後に析出物のろ過、水洗、乾燥を行う。乾燥して得られた粉末をトルエンから再結晶させることにより、淡黄色粉末状態のビアントリル18.8gを得た。このビアントリル17.7g及びN−ブロモスクシンイミド19.6gを四塩化炭素565g中に添加し、50℃まで加熱を行った。この温度において沃素2.8gを添加した後に加熱還流下に4時間反応させた。室温まで冷却した後にろ過を行い、ロ液から溶媒を減圧溜去することにより褐色粉末が得られた。この粉末に対して、シリカゲルを吸着剤、トルエンを溶離液とするカラムクロマトグラフィーによる精製を施し、ビアントリルに臭化物の黄色針状晶10.4gを得た。この結晶10.2g、アニリン4.5g、酢酸パラジウム0.2g、トリ(t−ブチル)フォスフィン0.9g、炭酸カリウム9.9gをトルエン75g中に添加し、加熱還流下に3.5時間反応させた。次に、反応物をメタノール400ml中に注入し、室温下に攪拌した後に析出物をろ過し、メタノール洗浄を行った。得られた結晶を水300ml中に懸濁させ、室温下に攪拌した後に、ろ過、水洗、乾燥を施し、ジアニリノビアントリルの淡黄色粉末8.7gを得た。この結晶5.4g、4−ブロモ−N,N−ジフェニルアニリン6.3g、酢酸パラジウム0.2g、トリ(t−ブチル)フォスフィン0.7g、t−ブトキシナトリウム1.9gをトルエン55g中に添加し、加熱還流下に5時間反応させた。次に、反応物をメタノール200ml中に注入し、室温下に1時間攪拌した。析出物に対してろ過、メタノール洗浄を行うことにより淡褐色粉末3.7gを得た。この結晶に対して、シリカゲルを吸着剤、トルエンを溶離液とするカラムクロマトグラフィーによる精製を施すことにより淡黄色粉末を得た。この結晶が上記の化合物1であることを、質量分析、赤外分光分析及び炭素、水素、窒素に関する元素分析の結果から確認した。
元素分析の結果を次に示す。
【0043】
76544として、
炭素 水素 窒素
計算値(%) 89.21 5.32 5.48
実測値(%) 89.03 5.41 5.72
【0044】
次に、本発明の化合物を含んで成る有機電界発光素子作製の実施例を示す。本例では、混合比は全て重量比である。また、電極面積2mm×2mmの有機電界発光素子の特性を測定した。
洗浄したITO電極付きガラス板上に、化合物1を真空蒸着して膜厚30nmの正孔注入層を形成した後、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を真空蒸着して膜厚40nmの正孔輸送層を作製した。次に、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq3)とDCJTBが50:1から成る混合物を蒸着し、膜厚30nmの発光層を得た。さらにAlq3を蒸着して膜厚30nmの電子注入層を得た。その上に、マグネシウムと銀を10:1(重量比)で混合した合金で膜厚250nmの電極を形成することにより有機電界発光素子を得た。各層は10-6Torrの真空中、基板温度は室温の条件下で蒸着を行った。この素子の発光特性は、直流電圧10Vでの発光輝度4600(cd/m2)、最大発光輝度26200(cd/m2)、発光効率2.2(lm/W)を示した。また、発光輝度500(cd/m2)で定電流駆動したときの半減寿命は3300時間であった。
【0045】
DCJTB
【化2】

【0046】
実施例2
化合物2
【化3】

【0047】
上記の化合物2の非経験的分子軌道計算を実施例1と同様にプログラムGaussian 03 Revision C.02を用いて行った。このとき、中性分子の構造最適化計算も実施例1と同様に、基底関数として6-31GというGauss型の関数を用いて行った。また、ラジカル・カチオンの計算も中性分子の計算と同様の基底関数を用いて行った。その結果、中性分子とラジカル・カチオンとの全エネルギーの差の絶対値が5.77電子ボルト、中性分子の最高準位占有分子軌道のエネルギーとラジカル・カチオンにおけるβスピン電子に関する最低準位非占有分子軌道とのエネルギー差の絶対値が2.20電子ボルトであった。
【0048】
また、この化合物2を次に示す方法により合成した。
アセナフテンキノン18.2g、アニリン27.9gをトルエン534g中に溶解させ、この溶液にピリジン46gを添加し、室温下に攪拌した。次に、液温を20℃以下に保ちながら、四塩化チタン71.0gをトルエン178gに溶解させた溶液を滴下した。室温下で20時間拡販した後に反応液を水600gに注入し、酢酸エチル160gを添加した。生成する有機層を分離した後、溶媒を減圧下に溜去して得られた結晶をアセトニトリルから再結晶させ、17.6gのアセナフテンキノンジイミンを得た。この結晶16.6gを324gのエタノール中に添加し、塩化ニッケル2.7gを添加した後に、5℃以下に保ちながらテトラヒドロホウ酸ナトリウム12.1gを添加した。次に、50℃で2時間攪拌した後に室温まで冷却し、希塩酸を添加して酸性状態にした。アンモニア水によりアルカリ性とした後にクロロホルムにより抽出した。抽出液から溶媒を減圧溜去して得られた結晶をアセトニトリルから再結晶することにより1,2−ジアニリノアセナフテン9.3gを得た。この結晶8.4g、4−ヨード−-N,N−ジフェニルアニリン27.8g、炭酸カリウム10.3g及び銅粉0.5gをニトロベンゼン44g中に添加し、200℃で21時間攪拌した。室温まで冷却した後に溶媒を水蒸気蒸留により除去し、クロロホルムにより抽出を行った。次に、抽出液から溶媒を溜去して得られた結晶に対して、シリカゲルを吸着剤、トルエンを溶離液とするカラムクロマトグラフィーによる精製を施すことにより6.8gの結晶を得た。この結晶が化合物2であることを、質量分析、赤外分光分析及び炭素、水素、窒素に関する元素分析の結果から確認した。
元素分析の結果を次に示す。
【0049】
60444として、
炭素 水素 窒素
計算値(%) 87.77 5.40 6.82
実測値(%) 87.63 5.51 6.73
【0050】
次に、本発明の化合物を含んで成る有機電界発光素子作製の実施例を示す。
洗浄したITO電極付きガラス板上に、化合物2を真空蒸着して膜厚30nmの正孔注入層を作製した後、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を真空蒸着して膜厚40nmの正孔輸送層を作製した。次に、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体(Alq3)とルブレンが100:5から成る混合物を蒸着し、膜厚60nmの電子注入型発光層を作製し、次いでAlq3を蒸着して膜厚30nmの電子注入層を得た。その上に、マグネシウムと銀とを10:1で混合した合金で膜厚200nmの電極を形成して有機電界発光素子を得た。各層は10-6Torrの真空中で、基板温度室温の条件下で蒸着した。この素子は、直流電圧10Vで発光輝度3800(cd/m2)、発最大発光輝度23100(cd/m2)、発光効率2.4(lm/W)の発光特性を示した。また、発光輝度500(cd/m2)で定電流駆動したときの半減寿命は3800時間であった。
【0051】
実施例3
化合物3
【化4】

【0052】
上記の化合物3の非経験的分子軌道計算を実施例1と同様にプログラムGaussian 03 Revision C.02を用いて行った。このとき、中性分子の構造最適化計算も実施例1と同様に、基底関数として6-31GというGauss型の関数を用いて行った。また、ラジカル・カチオンの計算も中性分子の計算と同様の基底関数を用いて行った。その結果、中性分子とラジカル・カチオンとの全エネルギーの差の絶対値が5.55電子ボルト、中性分子の最高準位占有分子軌道のエネルギーとラジカル・カチオンにおけるβスピン電子に関する最低準位非占有分子軌道とのエネルギー差の絶対値が2.04電子ボルトであった。
【0053】
また、この化合物3は次に示す方法により合成した。
先ず、ピリジンを溶媒として、臭素によるカルバゾールの臭素化を行い、3−ブロモカルバゾールを合成する。次に、得られた3−ブロモカルバゾールとN,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミンをそれぞれ2:1のモル比で反応させる。この反応は、キシレンを溶媒とし、酢酸パラジウム及びトリ(t−ブチル)フォスフィンを触媒とし、3−ブロモカルバゾールと同モルのt−ブトキシナトリウムを添加して加熱還流下で行った。得られた化合物3は、シリカゲルを吸着剤、トルエンを溶離液とするカラムクロマトグラフィーによる精製を施した。この結晶が化合物2であることを、質量分析、赤外分光分析及び炭素、水素、窒素に関する元素分析の結果から確認した。
【0054】
54364として、
炭素 水素 窒素
計算値(%) 87.30 5.16 7.54
実測値(%) 87.72 5.31 7.63
【0055】
次に、本発明の化合物を含んで成る有機電界発光素子作製の実施例を示す。
洗浄したITO電極付きガラス板上に、化合物3を真空蒸着して膜厚40nmの正孔注入層を作製した後、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を真空蒸着して膜厚40nmの正孔輸送層を作製した。次に、キナクリドンとAlq3を1:50の組成比で共蒸着して膜厚30nmの発光層を得た。さらにAlq3を蒸着して膜厚30nmの電子注入層を得た。その上に、マグネシウムと銀とを10:1で混合した合金で膜厚200nmの電極を形成して有機EL素子を得た。各層は10-6Torrの真空中で、基板温度室温の条件下で蒸着した。この素子は、直流電圧10Vでの発光輝度が3100(cd/m2)、最大発光輝度が21200(cd/m2)、発光効率2.1(lm/W)の発光特性を示した。また、発光輝度500(cd/m2)で定電流駆動したときの半減寿命は3200時間であった。
【0056】
比較例1
比較化合物1
【化5】

【0057】
上記の比較化合物1の非経験的分子軌道計算を実施例1の場合と全く同様の条件で行った。その結果、中性分子とラジカル・カチオンとの全エネルギーの差の絶対値が4.90電子ボルト、中性分子の最高準位占有分子軌道のエネルギーとラジカル・カチオンにおけるβスピン電子に関する最低準位非占有分子軌道とのエネルギー差の絶対値が3.40電子ボルトであった。
【0058】
次に、比較化合物1を含んで成る有機電界発光素子を作製した。発光層として、実施例1の化合物1の代わりに上記の比較化合物1を蒸着した膜厚30nmの薄膜を設ける以外は、実施例1と同様の方法で有機電界発光素子を作製した。この素子は、直流電圧10Vでの発光輝度1400(cd/m2)、最大発光輝度7900(cd/m2)、発光効率1.1(lm/W)の発光が得られた。また、発光輝度500(cd/m2)で定電流駆動したときの半減寿命は800時間であった。
【0059】
比較例2
比較化合物2
【化6】

【0060】
上記の比較化合物2の非経験的分子軌道計算を実施例1と同様に行った。その結果、中性分子とラジカル・カチオンとの全エネルギーの差の絶対値が4.81電子ボルト、中性分子の最高準位占有分子軌道のエネルギーとラジカル・カチオンにおけるβスピン電子に関する最低準位非占有分子軌道とのエネルギー差の絶対値が3.22電子ボルトであった。
次に、比較化合物2を含んで成る有機電界発光素子を作製した。発光層として、実施例1の化合物1の代わりに上記の比較化合物2を蒸着した膜厚30nmの薄膜を設ける以外は、実施例1と同様の方法で有機電界発光素子を作製した。この素子は、直流電圧10Vでの発光輝度1600(cd/m2)、最大発光輝度9100(cd/m2)、発光効率1.3(lm/W)の発光が得られた。また、発光輝度500(cd/m2)で定電流駆動したときの半減寿命は900時間であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非経験的分子軌道計算により算出される中性分子の全エネルギーと、該分子のラジカル・カチオン状態における全エネルギーとの差の絶対値が5.10電子ボルト以上であり、且つ
中性分子の最高準位占有分子軌道のエネルギー準位と、該分子のラジカル・カチオン状態におけるβスピン電子に関する最低準位非占有分子軌道のエネルギー準位との差の絶対値が2.40電子ボルト以下であることを特徴とする有機電界発光素子材料。
【請求項2】
陽極と陰極とからなる一対の電極間に一層または発光層を含む複数層の有機化合物薄膜を形成した有機電界発光素子において、少なくとも一層が請求項1記載の有機電界発光素子材料を含有する層であることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項3】
発光層と陽極との間に少なくとも一層の正孔注入層を形成してなる請求項2記載の有機電界発光素子において、少なくとも一層が請求項1記載の有機電界発光素子材料を含有する層であることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項4】
発光層と陽極との間に正孔注入層及び正孔輸送層を形成してなる請求項3記載の有機電界発光素子において、少なくとも一層が請求項1記載の有機電界発光素子材料を含有する層であることを特徴とする有機電界発光素子。

【公開番号】特開2007−123714(P2007−123714A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316684(P2005−316684)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】