説明

有機電界発光素子

【課題】 電荷の注入が容易でエネルギーギャップが大きい物質を有機電界発素子の発光層に用いるとともに、有機電界発光素子の積層構造を改良することによって、効率良く高い青色の純度と高い輝度を可能にする有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】 本発明に係る有機電界発光素子は、基板上1に、基板1上に、陽極2、正孔輸送層3、発光層4、電子輸送層5、陰極6がこの順に積層された積層構造を有している。そして、発光層4には、発光性の有機物としてシクロペンタジエニリデン(Cyclopentadienydene)化合物が用いられている。また、正孔輸送層3には、正孔輸送性化合物としてエナミン化合物が用いられている。このような積層構造を有する有機電界発光素子は、純度の高い青色の光を効率よく発光させることができるため、フルカラーディスプレイの発光素子として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子に関し、より詳しくは光源やディスプレイ等に使用される有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子は、自己発光のために液晶素子にくらべて明るく、鮮明な表示が可能であるため、古くから多くの研究者によって研究されてきた。現在実用レベルに達した電界発光素子としては、無機物質のZnSを用いた素子がある。しかし、このような無機の電界発光素子は、発光のための駆動電圧として50V以上が必要であるため、広く使用されるには至っていない。
【0003】
これに対して有機物質を用いた電界発光素子である有機電界発光素子は、従来は実用的なレベルからはほど遠いものであったが、1987年にイーストマン・コダック社のシー・ダブリュ・タン(C.W.Tang)らによって開発された積層構造素子によりその特性が飛躍的に進歩した。彼らは、蒸着膜の構造が安定で電子を輸送することのできる蛍光体からなる層(電子輸送性発光層)と、正孔を輸送することのできる有機物(正孔輸送性化合物)からなる層(正孔輸送層)とを積層し、正孔と電子を蛍光体中に注入して発光させることに成功した。これによって、有機電界発光素子の発光効率が向上し、10V以下の電圧で1000cd/m以上の発光が得られるようになった。その後、電子輸送性発光層を発光層と電子輸送層に分けるなど、素子を構成する層の機能分離が進められた結果、現在では10000cd/m以上の発光特性が得られている。
【0004】
一方で、より鮮明な画質を実現するためには、赤、緑、青の色の三原色における色純度が重要になる。特に現在のフルカラーディスプレイにおける、青色の純度の高い有機電界発光素子の需要は多い。
【0005】
現在、多くの青色の発光を示す有機電界発光素子の技術が存在する。その一例が、特許文献1〜3に記載されている。
【特許文献1】特開平8−298183(平成8年(1996)11月12日公開)
【特許文献2】特開平8−306490(平成8年(1996)11月22日公開)
【特許文献3】特開平11−214159(平成11年(1999)8月6日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、より高画質なフルカラーディスプレイを開発するためには、上記の従来技術よりも、さらに高い純度の青色の発光を示す有機電界発光素子の開発が不可欠である。すなわち、高い青色の純度を有する有機電界発光素子を開発するためには、励起状態と基底状態との間のエネルギーギャップが大きく発光性に優れた物質を発光層に用いることが必要となる。
【0007】
しかし、上記のエネルギーギャップの大きい物質に対して電荷を注入することは、困難な場合が多い。これは、有機電界発光素子における発光層以外の層、例えば電子輸送層や正孔輸送層で、電荷(すなわち、電子と正孔)の再結合が生じてしまうことに起因する。これによって、エネルギーギャップの大きい物質を発光層に用いた有機電界発光素子は、電荷の注入に高い電圧が必要となるため、結果的に発光効率が低下してしまう。
【0008】
また、上記のように電荷の再結合が生じてしまうことによって、有機電界発光素子の発光スペクトルがブロードになり、発光色が白っぽくなる現象が発生するという問題も有している。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、発光性および電子輸送性に優れたシクロペンタジエニリデン化合物を有機電界発素子の発光層に用いて、効率良く高い純度で高い輝度の青色の発光を示す有機電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、シクロペンタジエニリデン(Cyclopentadienydene)化合物を発光層の物質として用いることで、高い青色の純度を維持しながら、効率良く高い輝度を示す有機電界発光素子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明にかかる有機電界発光素子は、陽極と陰極とからなる一対の電極を有し、前記陽極と陰極との間に、発光性の有機物を含んで構成される発光層を有する有機電界発光素子であって、前記発光性の有機物としてシクロペンタジエニリデン化合物が使用されていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明にかかる有機電界発光素子において、前記シクロペンタジエニリデン化合物は、下記一般式(1)
【0013】
【化5】

【0014】
(式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5はそれぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6から14のアリール基の何れかであり、Ar1は置換もしくは無置換の炭素数6から14のアリール基、または複素環残基のいずれかである。)で表されるものであってもよい。
【0015】
また、本発明にかかる有機電界発光素子において、前記シクロペンタジエニリデン化合物は、下記一般式(2)
【0016】
【化6】

【0017】
(式(2)中、R1、R2、R3、R4は前記一般式(1)におけるR1、R2、R3、R4と同義であり、Ar2は結合手、アルキレン基、または、下記式(A)、(B)、(C)、(D)のいずれかである。)
【0018】
【化7】

【0019】
(式(A)中、nは1から3までのいずれかの整数である。また、式(D)中、Xは酸素、硫黄、アルキル基、または、三級アミノ基のいずれかである。)で表されるものであってもよい。
【0020】
なお、前記R1、R2、R3、R4はフェニル基であってもよい。
【0021】
また、本発明にかかる有機電界発光素子において、前記シクロペンタジエニリデン化合物は、下記一般式(3)
【0022】
【化8】

【0023】
(式(3)中、R1、R2、R3、R4は前記一般式(1)におけるR1、R2、R3、R4と同義である。)で表されるものであってもよい。
【0024】
上記のいずれかの構造を有するシクロペンタジエニリデン化合物は、基底状態と励起状態のエネルギーギャップが大きく、また物理化学的な安定性に優れているため、発光層に用いる物質に適している。特に本発明のシクロペンタジエニリデン化合物は、エネルギーギャップが大きにも関わらず、励起状態に必要な電荷の注入を容易に行うことができる。このことは、電荷の注入に必要となる印加電圧を下げることにつながり、低い電圧でも発光することを可能にする。つまり、発光効率が向上する。さらに、上記シクロペンタジエニリデン化合物は、実施例に記載されているように、ほぼ一定で純度の高い青色の光を放出することができる。
【0025】
従って、本発明のシクロペンタジエニリデン化合物を用いた有機電界発光素子を備えるフルカラーディスプレイは、より鮮明な画質を提供することができる。さらに、本発明のシクロペンタジエニリデン化合物を用いた有機電界発光素子を備えるフルカラーディスプレイは、低い電圧で発光が可能になるため、電力の消費を軽減することにつながる。
【0026】
以上のように、基底状態と励起状態のエネルギーギャップが大きく、また物理化学的な安定性に優れた、上記シクロペンタジエニリデン化合物を発光層に使用した有機電界発光素子は、純度の高い青色の光を効率よく発することが可能である。加えて上記有機電界発光素子は、ほぼ一定の純度で高い青色の光を放出することができる。
【0027】
さらに本願発明者らは、発光層のシクロペンタジエニリデン化合物に正孔輸送性化合物、特にエナミン化合物を特定の割合で加えること、また、有機電界発光素子の積層構造を改良することによって、より一層輝度の高い発光が得られることを見出した。
【0028】
つまり、本発明の有機電界発光素子は、前記陽極と前記発光層との間に、陽極から発光層へ正孔を運ぶための正孔輸送層をさらに有し、前記陰極と前記発光層との間に、陰極から発光層へ電子を運ぶための電子輸送層をさらに有するとともに、前記発光層が、シクロペンタジエニリデン化合物と正孔輸送性化合物とを混合して形成されていることが好ましい。
【0029】
上記有機電界発光素子において、上記正孔輸送層は、陽極から発光層へ正孔を運ぶという機能を有するものであるため、正孔輸送性化合物を少なくとも含んで形成されている。また、上記電子輸送層は、陰極から発光層へ電子を運ぶという機能を有するものであるため、電子輸送性化合物を少なくとも含んで形成されている。
【0030】
ここで、正孔輸送性化合物とは、正孔を輸送する性質を有する化合物であるが、具体的には、実施の形態中で記載するものを挙げることができる。また、電子輸送性化合物とは、電子を輸送する性質を有する化合物であるが、具体的には、実施の形態中で記載するものを挙げることがでできる。
【0031】
そして、上記の有機電界発光素子においては、正孔輸送層のみならず、発光層にも正孔輸送性化合物が含まれている。
【0032】
上記のように、有機電界発光素子の発光層に、正孔輸送性化合物を加えることにより、正孔輸送層と発光層の間にある電気的なエネルギーの格差が軽減される。従って、正孔輸送層と発光層との間での電荷の注入が容易になる。その結果、効率的に電荷の注入が行われ、有機電界発光素子の輝度が上昇することになる。この結果は青色の純度の高さには影響を及ぼさない。
【0033】
すなわち、本発明の有機電界発光素子の発光層に、正孔輸送性化合物を加えることにより、高い青色の純度を維持しながら、同電圧で高い輝度を示す有機電界発光素子を得ることが可能になる。
【0034】
また、上記の有機電界発光素子において、前記電子輸送層は、前記シクロペンタジエニリデン化合物と電子輸送性化合物とを混合して形成されていることが好ましい。
【0035】
本発明の有機電界発光素子の電子輸送層に含まれる電子輸送性化合物に、少なくとも1種類のシクロペンタジエニリデンを加えることにより、電子輸送層と発光層との間にある電気的なエネルギーの格差が軽減される。また、電子輸送層に、少なくとも1種類のシクロペンタジエニリデンを加えることによって、電子輸送層と発光層との間の密着性を向上させることができる。
【0036】
従って、上記の構成によれば、電子輸送層と発光層との間の電荷の移動が容易となり、電荷の移動が滞ることによって発生する余分な各層への負荷を軽減することができる。上記の負担の軽減は、有機電界発光素子の劣化を防ぐことになり、耐久性の向上につながる。
【0037】
また、上記の有機電界発光素子において、前記電子輸送層は、前記陰極と接している部分に、8−キノリノール誘導体の金属錯体からなる電子輸送膜を有し、前記正孔輸送層は、前記陽極と接している部分に、エナミン構造を少なくとも1つ以上有するエナミン化合物からなる正孔輸送膜を有していてもよい。
【0038】
つまり、この有機電界発光素子には、陰極と電子輸送層との間に、8−キノリノール誘導体の金属錯体を電子輸送性化合物として有する電子輸送膜が形成されており、陽極と正孔輸送層との間に、エナミン構造を1つ以上有する化合物を正孔輸送性化合物として有する正孔輸送膜が形成されている。
【0039】
上記のような積層構造を有することで、各層間の電気的なエネルギーの格差を、軽減することが可能になる。その結果、各層間の電荷の移動が容易になり、より高い輝度を示すことが可能になる。さらに各層間の電荷の移動が容易になることによって、発光層に電荷を注入するために必要になる電圧が低下することになる。従って発光の開始電力が低下し、消費電力を低下させることができる。なお、この結果は青色の純度の高さには影響を及ぼさない。
【0040】
上記に記載した積層構造を用いることで、高い青色の純度を維持しながら、同電圧でさらに高い輝度を示す有機電界発光素子を得ることが可能になる。
【0041】
また、上記の有機電界発光素子は、前記正孔輸送性化合物としてエナミン構造を1つ以上有するエナミン化合物を含有していることが好ましい。
【0042】
エナミン構造を1つ以上有するエナミン化合物を正孔輸送層に加えた場合の輝度は、他の正孔輸送性物質を加えた場合よりも上昇することが明らかになっている。また上記のエナミン構造を1つ以上有する化合物を正孔輸送層に加えた場合、正孔輸送層の熱安定性は向上する。
【0043】
よって、上記有機電界発光素子の正孔輸送層にエナミン構造を1つ以上有するエナミン化合物を加えることで、有機電界発光素子はより高い輝度と熱安定性を有することが可能になる。
【0044】
また、上記有機電界発光素子の発光層の物質であるシクロペンタジエニリデン化合物に加える正孔輸送性化合物についても、正孔輸送特性に優れているという理由でエナミン化合物であることが好ましい。
【0045】
なお、上記有機電界発光素子の発光層にエナミン化合物を加える場合、電荷輸送物質でのホッピング伝導や電荷の再結合が起こらない濃度であることが好ましい。すなわち、少なくともシクロペンタジエニリデン化合物に対してエナミン化合物20mol%以下であることが好ましい。
【0046】
また、実施例において示されているように、前記発光層において、前記シクロペンタジエニリデン化合物に対する前記エナミン化合物の含有割合が5〜15mol%であることが好ましい。これによれば、発光輝度をより向上させることができる。
【0047】
また、本発明の有機電界発光素子は、水分の浸入を防ぐための保護部材をさらに有することが好ましい。
【0048】
上記有機電界発光素子の各層は、水分子によってその構造に変化を生じる場合がある。その結果、各層間の電荷の移動が困難になる、あるいは電荷の移動が行えなくなる場合が生じる。しかし、上記有機電界発光素子に水分子の浸入を防ぐための保護部材を設けることで、有機電界発光素子の性能が低下することを防ぐことが可能である。
【0049】
このように、上記保護部材を設けることで、上記有機電界発光素子は湿度の高い環境中においても、本有機電界発光素子の機能を低下させることなく、高い純度の青色を維持しながら、高い輝度を示すことができる。
【発明の効果】
【0050】
以上のように、基底状態と励起態のエネルギーギャップが大きく、しかも、電荷を容易に注入できるシクロペンタジエニリデン(Cyclopentadienydene)化合物を発光層に用いた本発明の有機電界発光素子は、純度の高い青色の発光を示すことが可能となる。
【0051】
さらに本発明の有機電界発光素子は、正孔輸送性化合物、特にエナミン化合物を特定の割合で加えること、また、有機電界発光素子の積層構造を改良することによって、フルカラーディスプレイに必要とされる高い青色の純度を維持しながら、効率よく高い輝度を示すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明についてより詳しく説明するが、本発明は、この記載に限定されるものではない。
【0053】
本実施の形態では、本発明に係る有機電界発光素子の各構成成分、有機電界発光素子の積層構造について詳細に説明する。
(I)有機電界発光素子の各構成成分
有機電界発光素子の基本的な構成について、図1を用いて説明する。
【0054】
図1は本発明における有機電界発光素子を示す断面図である。図1に示したように、本有機電界素子は、基板1上に、陽極2、正孔輸送層3、発光層4、電子輸送層5、陰極6がこの順に積層された積層構造を有している。以下に、各構成成分について具体的に説明する。
【0055】
(A)基板
基板1は、透明で表面が平滑なもの、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラスなどのガラス、プラスティック、透明樹脂等が一般的に用いられる。基板1がガラス基板の場合、ガラスからの溶出イオンを低減するためには非アルカリガラスを用いるのが好ましい。それゆえ、アルカリ性のソーダライムガラス基板を用いる場合は、予めその表面にシリカ等のバリアコートを形成するのが好ましい。
【0056】
また、上記基板1の厚さは、有機電界発光素子を形成するための積層工程に耐えうる強度を有した任意の厚さに設定することができる。つまり、基板1の厚さは、機械的強度を保つのに十分であれば特に制限はないが、ガラス基板の場合は通常0.2mm以上、好ましくは0.7mm以上とする。
【0057】
(B)陽極
陽極2は、正孔輸送層3、発光層4等に正孔を供給するものである。本実施の形態では、陽極2は、基板1上に形成されている。陽極2を形成する物質としては、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等を用いることができ、好ましくは仕事関数が4eV以上の物質を用いる。
【0058】
具体例としては、金属(金、銀、クロム、ニッケル等)、導電性金属酸化物(酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等)、これら金属と導電性金属酸化物との混合物または積層物、無機導電性物質(ヨウ化銅、硫化銅等)、有機導電性物質(ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等)及びこれらとITOとの積層物等が挙げられる。これらのうち、導電性金属酸化物からなるのが好ましく、生産性、高導電性、透明性等の観点からITOが特に好ましい。
【0059】
陽極2の形成法は、用いる物質に応じて適宜選択すればよく、例えばITOの場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾル−ゲル法等)、酸化インジウムスズ分散物の塗布等の方法を用いることができる。陽極に洗浄等の処理を施すことにより、発光素子の駆動電圧を下げたり、発光効率を高めたりすることも可能である。例えばITOからなる陽極の場合、UV-オゾン処理、プラズマ処理等が効果的である。
【0060】
陽極2のシート抵抗は、数百Ω/□以下とするのが好ましい。陽極2の膜厚は、物質に応じて適宜選択可能であるのが、通常10nm〜5μmとするのが好ましく、100〜500nmとするのが特に好ましい。
【0061】
(C)正孔輸送層
正孔輸送層3は、陽極2と発光層4との間に形成されており、陽極2から発光層4へ正孔を運ぶという機能を有する。そのため、正孔輸送層3には、少なくとも正孔輸送性化合物が含まれている。
【0062】
また、正孔輸送層3には、陽極から正孔を注入する機能、陰極から注入された電子を障壁する機能などを有している物質が含まれていてもよい。
【0063】
正孔輸送層3を構成する物質の具体例としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、ヒドラゾン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン、フルオレノン、スチルベン、シラザン、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマーやポリチオフェン等の導電性高分子、有機シラン化合物、エナミン構造を1つ以上有するエナミン化合物、カーボンブラック等が挙げられる。これらは、正孔輸送性化合物である。
【0064】
また、正孔輸送層3に含まれる正孔輸送性化合物は、エナミン化合物であることが好ましい。この正孔輸送性化合物として、エナミン化合物を用いれば、他の正孔輸送性化合物を用いた場合よりも、発光効率の向上が大きいことが明らかになっている。
【0065】
エナミン化合物は、上記特許文献1、上記特許文献2、上記特許文献3、特開平11−214160号公報、特開平11−335326号公報、特開2000−7625号公報等に記載されている。このようなエナミン化合物のうち、特にビス体、トリス体構造のものは、輸送効率が大体10〜4(cm/VS)のオーダーであり、後述の代表的なTPD(N、N´−ジフェニル−N、N’−ジ−(m−トリル)−ベンジジン)等の芳香族アミン系正孔輸送性化合物のそれより一桁程度高いのが特徴である。また、熱的安定性の目安となるガラス転移点も10度以上高いものもある。このため、エナミン化合物を少量加えることにより著しく輝度の向上、安定性に付与することができる。
【0066】
具体的には下記構造のエナミン化合物(化合物A〜化合物C)が代表的なものとして挙げられる。
【0067】
【化9】

【0068】
これらエナミン化合物以外の正孔輸送物質としては、例えば、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報参照)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPD)で代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(特開平5−234681号公報参照)、トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774号明細書参照)、TPD等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625号明細書参照)、α,α,α’,α’−テトラメチル−α,α’−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−p−キシレン(特開平3−269084号公報参照)、分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報参照)、ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4−175395号公報参照)、エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(特開平4−264189号公報参照)、スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報参照)、チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(特開平4−304466号公報参照)、スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報参照)、ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報参照)、フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5−25473号公報参照)、トリアミン化合物(特開平5−239455号公報参照)、ビスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報参照)、N,N,N−トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報参照)、フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報参照)、ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報参照)、ヒドラゾン化合物(特開平2−311591号公報参照)、シラザン化合物(米国特許第4,950,950号明細書参照)、シラナミン誘導体(特開平6−49079号公報参照)、ホスファミン誘導体(特開平6−25659号公報参照)、キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、必要に応じて(特に膜特性の強化のため)、それぞれを混合して用いてもよい。
【0069】
また、正孔輸送層3は、1種または2種以上の上記物質からなる単層構造であってもよいし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。正孔輸送層3の形成方法としては、真空蒸着法、LB法、上記物質を溶媒中に溶解または分散させてコーティングする方法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法等)、インクジェット法、印刷法、転写法等が用いられる。コーティング法の場合、上記物質を樹脂成分と共に溶解または分散させて塗布液を調製してもよい。
【0070】
上記樹脂成分としては、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリブタジエン−フッ化ビニリデン共重体、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン−スチレン共重体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が使用できる。
【0071】
また、多層構造を有する正孔輸送層3の例としては、エナミン化合物のみからなる第1の正孔輸送膜と、エナミン化合物およびエナミン化合物以外の物質(例えば、TPD,トリフェニルアミンなど)が混合された第2の正孔輸送膜との2層構造からなるものを挙げることができる。この場合、陽極2と接している側に第1の正孔輸送膜を配し、発光層4と接している側に第2の正孔輸送膜を配する。なお、後述の実施例13は、これに相当する。
【0072】
上記のような2層構造にすることによって、各層間の電気的なエネルギーの格差を、軽減することが可能になる。その結果、各層間の電荷の移動が容易になり、より高い輝度を示すことが可能になる。さらに各層間の電荷の移動が容易になることによって、発光層4に電荷を注入するために必要になる電圧を低下させることができる。
【0073】
正孔輸送層3の膜厚は特に限定されないが、通常1nm〜5μmとするのが好ましく、10〜500nmとするのが特に好ましい。
【0074】
(D)発光層
本実施の形態にかかる有機電界発光素子に電界を印加すると、発光層4では、陽極2および正孔輸送層3から注入された正孔と、陰極6および電子輸送層5から注入された電子とが再結合し、光を発する。発光層4を構成する物質は、電界印加時に陽極等から正孔を受け取る機能、陰極等から電子を受け取る機能、電荷を移動させる機能、及び正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する発光性の有機物である。このように、発光層4は、発光の色調等を左右する各層のなかでも重要な層である。
【0075】
そして、本実施の形態にかかる有機電界発光素子では、上記発光性の有機物として、シクロペンタジエニリデン(Cyclopentadienydene)化合物が使用される。シクロペンタジエニリデン化合物を発光層4の主要物質として用いることは、特に青色発光の発現の構築の観点において重要である。
【0076】
シクロペンタジエニリデン化合物は、下記式(4)で示されるシクロペンタジエニリデン構造を少なくとも1つ有する化合物である。
【0077】
【化10】

【0078】
シクロペンタジエニリデン化合物について以下具体的に述べる。このシクロペンタジエニリデン化合物の代表的なものとして、上記一般式(1)で表されるシクロペンタジエニリデン構造を1つ有するもの、上記一般式(2)で表されるシクロペンタジエニリデン構造を2つ有するもの、上記一般式(3)で表されるシクロペンタジエニリデン構造を3つ有するものを挙げることができる。
【0079】
なお、シクロペンタジエニリデン構造が4つ以上になると合成面、構造面に問題(反応性、中間体の生成、立体障害等)が生じ事実上取得することが困難となる。
【0080】
シクロペンタジエニリデン構造が1つのもの(一般式(1))としては、下記の化合物1−1から化合物1−8等が挙げられる。
【0081】
【化11】


【0082】
シクロペンタジエニリデン基が2つのもの(一般式(2))としては、下記の化合物2−1から化合物2−8等が挙げられる。
【0083】
【化12】


【0084】
シクロペンタジエニリデン基が3つのもの(一般式(3))としては、下記の化合物3−1、化合物3−2等が挙げられる。
【0085】
【化13】

【0086】
これらシクロペンタジエニリデン化合物の合成は、従来からの公知の合成法(例えば、参考文献:Organic Synthesis 3巻 306p 1955:参照)に準じて行うことができる。これによって上記の各シクロペンタエニリデン化合物を容易に得ることができる。
【0087】
具体的には、2,4−シクロペンタジエン−1−オン(この化合物の代表的なものとしてテトラサイクロン(Tetracyclones)がある。テトラサイクロンの合成は、参考文献:Organic Synthesis Vol.3 p806:にも記載されている。)に、1価または2価のアリーレン(普通はフェニル)基含有リン化合物を、必要に応じてtert−ポタシュウムブトキサイド等の弱アルカリ触媒のもと、室温から100℃程度の穏やかな条件で反応させることにより、容易に得ることができる。
【0088】
上記の反応はWittig反応といわれており、よく知られた合成法である。具体的な合成法は、参考文献:Ann Chem 1415p(1976):に準じて得ることができる。反応が不十分の時、反応溶剤としてDMF、DMSO等を用いるようにする。
【0089】
また、発光層4には、シクロペンタジエニリデン化合物以外の発光物質として、ベンゾイミダゾール化合物、ベンゾチアゾール化合物、スチリルベンゼン化合物、ポリフェレン化合物、ジフェニルブタジエン化合物、テトラフェニルブタジエン化合物、ナフタルイミド化合物、クマリン化合物、ペリレン化合物、ペリノン化合物、オキサジアゾール化合物、アルダジン化合物、ピラリジン化合物、シクロペンタジエン化合物、ビススチリルアントラセン化合物、キナクリドン化合物、ピロロピリジン化合物、チアジアゾロピリジン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチリルアミン化合物、金属錯体(8−キノリノール誘導体の金属錯体等)、高分子発光物質(ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等)、有機シラン、遷移金属錯体(イリジウムトリスフェニルピリジン錯体、白金ポルフィリン錯体等)、これらの誘導体等が含まれていてもよい。これらは、シクロペンタジエニリデン化合物と混合して使用する。
【0090】
特に、上記発光物質が遷移金属錯体等のりん光性発光物質であればより好ましい。これらのりん光性発光物シクロペンタジエニリデン化合物に対して0.1mol%から30mol%が適切である。質混合の割合は、但し、あまりりん光性発光物質の混合割合が大きくなると色純度が悪くなる傾向にある。
【0091】
また、発光層4には、上記の発光性を有する化合物以外に、正孔輸送性を有する化合物が含まれていることが好ましい。これによれば、正孔輸送層3と発光層4との間にある電気的なエネルギーの格差が軽減される。従って、正孔輸送層3と発光層4との間での電荷の注入が容易になる。その結果、効率的に電荷の注入が行われ、有機電界発光素子の輝度が上昇することになる。
【0092】
そして、正孔輸送性を有する化合物として具体的には、上述のエナミン化合物を挙げることができる。なお、発光層4において、シクロペンタジエニリデン化合物に対するエナミン化合物の含有割合が、20mol%以下であれば、電荷輸送物質でのホッピング伝導や電荷の再結合が抑制されるため好ましい。また、後述の実施例11に示されるように、上記含有割合が5〜15mol%であれば、有機電界発光素子の輝度をより向上させることができる。
【0093】
発光層4は、シクロペンタジエニリデン化合物のみからなる単層構造、または、シクロペンタジエニリデン化合物を含む2種以上の物質からなる単層構造であってもよいし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。また、発光層4を形成する複数の層がそれぞれ異なる発光色で発光し白色等を発してもよく、単一の発光層が青色、白色等の特定の色の光を発してもよい。
【0094】
発光層4の形成方法は特に限定されず、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、分子積層法、コーティング法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法等)、インクジェット法、印刷法、LB法、転写法等が使用可能である。中でも抵抗加熱蒸着法及びコーティング法などを採用することができる。発光層4の膜厚は特に限定されず、通常1nm〜5μmとするのが好ましく、10〜500nmとするのが特に好ましい。
【0095】
また発光層4内に、特開平7−258566号等記載のクマリン色素、特開2001−220577号等記載のピラン−クマリン色素を少量分散させた膜を形成することも可能である。この膜を用いた発光層の作成は、単独では結晶化しやすい、あるいは濃度消光を起こしやすい蛍光色素に対して非常に有効である。
【0096】
(E)電子輸送層
電子輸送層5は、陽極5と発光層4との間に形成されており、陽極4から発光層4へ電子を運ぶという機能を有する。そのため、電子輸送層5には、少なくとも電子輸送性化合物が含まれている。
【0097】
また、電子輸送層5には、陰極から電子を注入する機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能などを有している物質が含まれていてもよい。
【0098】
電子輸送層5を構成する物質の具体例としては、トリアゾール化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、イミダゾール化合物、フルオレノン化合物、更にはアントラキノジメタン化合物、アントロン化合物、ジフェニルキノン化合物、チオピランジオキシド、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン、ジスチリルピラジン、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン、上述の金属錯体(8−キノリノール誘導体の金属錯体(例えば、実施例に示すAlq3)、更には、メタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体等)、有機シラン、および、これらの誘導体等が挙げられる。これらは、電子輸送性化合物である。
【0099】
さらに、電子輸送層5に含まれる物質として、シクロペンタジエニリデン化合物も挙げることもできる。電子輸送層5にシクロペンタジエニリデン化合物が含まれる場合には、Alq3などのような電子輸送性化合物と混合して電子輸送層5が形成されることが好ましい。
【0100】
これによって、電子輸送層5と発光層4との間にある電気的なエネルギーの格差が軽減される。また、電子輸送層5に、少なくとも1種類のシクロペンタジエニリデン化合物を加えることによって、電子輸送層5と発光層4との間の密着性を向上させることができる。
【0101】
従って、上記の構成によれば、電子輸送層5と発光層4との間の電荷の移動が容易となり、電荷の移動が滞ることによって発生する余分な各層への負荷を軽減することができる。上記の負担の軽減は、有機電界発光素子の劣化を防ぐことになり、耐久性の向上につながる。
【0102】
また、電子輸送層5は、1種または2種以上の上記物質からなる単層構造であってもよいし、同一組成または異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。電子輸送層5の形成方法としては、真空蒸着法、LB法、物質を溶媒中に溶解または分散させてコーティングする方法(スピンコート法、キャスト法、ディップコート法等)、インクジェット法、スクリーン印刷法、熱転写法等が用いられる。コーティング法の場合、上記物質を樹脂成分と共に溶解または分散させて塗布液を調製してもよい。上記樹脂成分としては、前述した正孔輸送層の場合と同様のものが適用できる。
【0103】
多層構造を有する電子輸送層5の例としては、Alq3のような8−キノリノール誘導体の金属錯体からなる第1の電子輸送膜と、8−キノリノール誘導体の金属錯体およびシクロペンタジエニリデン化合物が混合された第2の電子輸送膜との2層構造からなるものを挙げることができる。この場合、陰極6と接している側に第1の電子輸送膜を配し、発光層4と接している側に第2の電子輸送膜を配する。なお、後述に実施例13は、これに相当する。
【0104】
上記のような2層構造にすることによって、各層間の電気的なエネルギーの格差を、軽減することが可能になる。その結果、各層間の電荷の移動が容易になり、より高い輝度を示すことが可能になる。さらに各層間の電荷の移動が容易になることによって、発光層4に電荷を注入するために必要になる電圧を低下させることができる。
【0105】
(F)陰極
陰極6は電子輸送層5、発光層4等に電子を供給するものである。陰極6を構成する物質としては、金属、合金、金属ハロゲン化物、金属酸化物、電気伝導性化合物、これらの混合物等を用いることができ、隣接する層との密着性やイオン化ポテンシャル、安定性等を考慮して選択すればよい。
【0106】
具体例としては、アルカリ金属(Li、Na、K等)及びそのフッ化物や酸化物、さらには、キノリン、フェノール等との配位化合物、アルカリ土類金属(Mg、Ca等)及びそのフッ化物や酸化物、さらには、キノリン、フェノール等との配位化合物、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム及びカリウムからなる合金及び混合金属、リチウム及びアルミニウムからなる合金及び混合金属、マグネシウム及び銀からなる合金及び混合金属、希土類金属(インジウム、イッテリビウム等)、それらの混合物等が挙げられる。
【0107】
陰極6は、仕事関数が4eV以下の物質から構成されることが好ましく、アルミニウム、リチウムとアルミニウムからなる合金または混合金属、或いはマグネシウムと銀からなる合金または混合金属からなるのがより好ましい。
【0108】
陰極6は、上記のような物質からなる単層構造であっても、上記物質からなる層を含む積層構造であってもよい。例えば、アルミニウム/フッ化リチウム、アルミニウム/酸化リチウム等の積層構造が好ましい。
【0109】
陰極6は、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、コーティング法等により形成することができる。蒸着法の場合、物質を単独で蒸着することも、二種以上の物質を同時に蒸着することもできる。合金電極を形成する場合は、複数の金属を同時蒸着して形成することが可能であり、また予め調整した合金を蒸着してもよい。陰極6のシート抵抗は、数百Ω/□以下とするのが好ましい。陰極6の膜厚は、物質に応じて適宜選択可能であるが、通常10nm〜5μmとするのが好ましく、50nm〜1μmとするのがより好ましく、100nm〜1μmとするのが特に好ましい。
(II)有機電界発光素子の積層構造
上記の各構成成分を積層した有機電界発光素子は、基本的には図1に示したような積層構造を有している。
【0110】
ここでは、各構成成分を積層した有機電界発光素子の具体例として、各実施例において作製した積層構造を有する有機電界発光素子を挙げて説明する。
【0111】
<実施例1〜5の有機電界発光素子>
本実施例1〜5の有機電界発光素子は、ガラス基板1上にインジウム錫酸化膜(ITO)の陽極2、化合物Aとして示すビスエナミン化合物を含んだ正孔輸送層3、表−1に示す各シクロペンタジエニリデン化合物を含む単独発光層4、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)を含む電子輸送層5、Al/Li混合膜の陰極6の順に積層された構造を有している。
【0112】
<実施例6〜10の有機電界発光素子>
本実施例6〜10の有機電界発光素子は、ガラス基板1上に、インジウム錫酸化膜(ITO)陽極2、化合物Bとして示すビスエナミン化合物を含んだ正孔輸送層3、表−2に示す各シクロペンタジエニリデン化合物と化合物Bとして示すビスエナミン化合物とを混合して形成された発光層4、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)を含む電子輸送層5、Al/Li混合膜を含む陰極6の順に積層された構造を有している。
【0113】
<実施例12の有機電界発光素子>
本実施例12の有機電界発光素子は、ガラス基板1上に、インジウム錫酸化膜(ITO)陽極2、化合物Bとして示すビスエナミン化合物を含んだ正孔輸送層3、表−2に示す各シクロペンタジエニリデン化合物5と化合物Bとして示すビスエナミン化合物とを混合して形成された発光層4、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)に化合物2−1として示すシクロペンタジエニリデン化合物を加えた電子輸送層5、Al/Li混合膜を含む陰極6の順に積層された構造を有している。
【0114】
<実施例13の有機電界発光素子>
本実施例13の有機電界発光素子は、ガラス基板1上に、インジウム錫酸化膜(ITO)陽極2、化合物Bとして示すビスエナミン化合物を含んだ正孔輸送層3、表−2に示す各シクロペンタジエニリデン化合物と化合物Bとして示すビスエナミン化合物とを混合して形成された発光層4、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)に化合物2−1として示すシクロペンタジエニリデン化合物を加えた電子輸送層5、Al/Li混合膜を含む陰極6の順に積層された構造を有している。
【0115】
また、実施例13の有機電界発光素子は、この構造に加えて、陽極2と正孔輸送層3との間に化合物Cとして示すトリススエナミン化合物の第1の正孔輸送膜、さらに、陰極6と電子輸送層5との間にトリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)化合物の第1の電子輸送膜を有している。
【0116】
上記の各積層構造を有する有機電界発光素子は、実施例にも示すように、高い純度で高い輝度の青色の発光を示すことができる。
【0117】
なお、本発明の有機電界発光素子は、上記積層構造に加えて、新たな機能を有する層(水分からの保護層(保護部材)、密着性向上のための中間層等)を、場合によっては、積層することが可能である。
【0118】
水分からの保護層を設けることによって、素子への水分の浸入を防止することができ、素子の安定性がより向上する。この保護層の材料には、撥水効果の良いフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂及びシリコン樹脂等が用いられる。代表的な樹脂としては、市販の全フッ化樹脂(ルキナ)(旭硝子社製)が挙げられる。保護層は、陽極6の表面に、発光層全体を覆うようにして形成する。これらについては、特開2000−133462号公報にも記載されている。
【0119】
また、本発明の有機電界発光素子の発光極大波長は、青色色純度の観点から好ましくは390〜495nmであり、より好ましくは400〜490nmである。青色色純度の観点では、発光のCIE色度値のx値は、好ましくは0.22以下、より好ましくは0.20以下であり、発光のCIE色度値のy値は、好ましくは0.53以下、より好ましくは0.50以下である。また、青色色純度の観点では、発光スペクトルの半値幅は、好ましくは100nm以下、より好ましくは90nm以下、特に好ましくは70nm以下である。
【0120】
しかし、本発明の有機電界発光素子の用途が、青色発光を目的とするものでない場合には、上記の各数値に限定されず、500nm以上にも発光極大波長を有していてもよく、白色発光素子であってもよい。
【実施例】
【0121】
次に、本発明の具体例を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0122】
(実施例1〜5)
ガラスの基板1上に透明な陽極2としてインジウム錫酸化膜(ITO)を予め形成し、電極の形にパターニングしたものを用いた。この基板1を充分にアルコール洗浄した後、蒸着する物質と一緒に真空装置内にセットし、10−4Paまで排気した。その後、正孔輸送層3として化合物Aとして示すビスエナミン化合物を50nmの厚さで成膜した。その後、発光層4として、表−1に示す5種類のシクロペンタジエニリデン化合物のいずれかからなる単独膜を、25nmの厚さで成膜した。次いで、電子輸送層5として、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)を25nmの厚さで成膜した後、陰極6として、Al/Li混合膜を150nmの厚さで成膜し、素子を作製した。これらの成膜中は、一度も真空を破ることなく、連続して行った。なお、膜厚は水晶振動子によってモニターした。素子作製後、直ちに乾燥窒素中で電極の取り出しを行い、引き続き特性測定を行った。
【0123】
特性測定は、各発光素子に、東陽テクニカ製「ソースメジャーユニット2400型」を用いて直流定電圧を印加して発光させ、その発光輝度をトプコン社製「輝度計BM-8」を用いて測定することで実施した。また、発光スペクトルは、浜松フォトニクス社製「スペクトルアナライザーPMA-11」を用いて測定した。なお、印加電圧は10Vとした。
【0124】
これら各素子の測定結果を表−1に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
得られた素子に電圧を印加したところ、均一な青色から橙色の発光が観測された。これら各素子の発光スペクトルを測定し、この発光波長を表−1に記載した。この素子の発光は、シクロペンタジエニリデン化合物に由来するものであることがわかった。
【0127】
(実施例6〜10)
ガラスの基板1上に透明な陽極2としてインジウム錫酸化膜(ITO)を予め形成し、電極の形にパターニングしたものを用いた。この基板1を充分にアルコール洗浄した後、蒸着する物質と一緒に真空装置内にセットし、10−4Paまで排気した。その後、正孔輸送層3として化合物Bとして示すビスエナミン化合物を50nmの厚さで成膜した。その後、発光層4として、表−2に示す5種類のシクロペンタジエニリデン化合物と、化合物Bとして示すビスエナミン化合物との混合膜を25nmの厚さで成膜した。表−2に示す各シクロペンタジエニリデン化合物に対するエナミン化合物の割合は5mol%とした。電子輸送層5として、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)を25nmの厚さで成膜した後、陰極6として、Al/Li混合膜を150nmの厚さで成膜し、素子を作製した。
【0128】
これらの成膜中は、一度も真空を破ることなく、連続して行った。なお、膜厚は水晶振動子によってモニターした。素子作製後、直ちに乾燥窒素中で電極の取り出しを行い、引き続き特性測定を行った。
【0129】
特性測定は、実施例1〜5と同様に、東陽テクニカ製「ソースメジャーユニット2400型」を用いて直流定電圧を印加して発光させ、その発光輝度をトプコン社製「輝度計BM-8」を用いて測定し、発光スペクトルは浜松フォトニクス社製「スペクトルアナライザーPMA-11」を用いて行った。印加電圧は、実施例1〜5と同様10Vとした。
【0130】
また、比較例として実施例10において化合物Bとして示すビスエナミン化合物の代わりに、代表的な正孔輸送物質である、N,N’−ビス[4’−(N,N−ジフェニルアミノ)−4−ビフェニリル]−N,N’−ジフェニルベンジジン(TPT)を発光層4中に5mol%に添加した以外は、他の実施例とまったく同様にして素子作成を行った。これを比較例1として表−2に記載する。
【0131】
【表2】

【0132】
得られた素子に電圧を印加したところ、均一な青色から橙色の発光が観測された。これら各素子の発光スペクトルを測定し、この発光波長を表−2に記載した。この素子の発光は、シクロペンタジエニリデン化合物に由来するものであることがわかった。
【0133】
また、表−2に示す各実施例の素子の発光輝度強度は、対応する表−1の各素子と比べて20から50%向上していた。発光スペクトルに変化は認められなかった。この中で、特に実施例10の発光素子は色度値(0.18,0.51)の青色発光が得られ、外部量子効率は7.2%であった。外部量子効率は、発光輝度、発光スペクトル、電流密度及び比視感度曲線より算出した。
【0134】
また、比較例1の発光素子は530nmの発光が顕著にあらわれた。これはAlq3の発光が現れたために色純度にみだれが生じたことによると考えられる。外部量子効率も1.8%であり、実施例10と比較して劣っていた。これは化合物BとTPTとの電荷輸送度の違いによるものと考えられる。
【0135】
(実施例11)
実施例11では、実施例10の発光素子において、ビスエナミン化合物の添加量を発光物質であるシクロペンタジエニリデン化合物に対して、0mol%、5mol%、15mol%、30mol%という各割合で加えた4つの素子を作製した。これら各素子の発光輝度をトプコン社製「輝度計BM-8」を用いて測定した。なお、0mol%は実施例5と、5mol%は実施例10と同じである。
【0136】
この結果、発光波長においては大きな相違は認められなかった。一方、輝度は、0mol%の場合から順にそれぞれ、550cd/m2、680cd/m2、590cd/m2、330cd/m2であった。この結果から、5mol%から15mol%の範囲の割合でビスエナミン化合物を含有させて蒸着することにより、輝度のさらなる向上が認められた。なお、これら各素子における発光層4の膜厚は、20〜30nmの間であった。
【0137】
(実施例12)
実施例12では、電子輸送層5のトリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)化合物に対して、化合物2−1として示すシクロペンタジエニリデン化合物10mol%を加え、蒸着し膜厚30nmの混合電子輸送層を作製した。これ以外は実施例10に準じて発光素子を作製した。
【0138】
この素子の特性を測定した結果、輝度、発光波長には大きな変化は認められなかったが、発光半減時間は、20%ほど長くなっており、安定性の改善が認められた。これは発光層4と電子輸送層5に同じ構造のシクロペンタジエニリデン化合物が存在することによって、層間の密着性が向上し、スムーズな電荷の移動が促進され、トラップの発生の防止にも繋がったことによると考えられる。
【0139】
(実施例13)
実施例13では、実施例12において陰極6と電子輸送層5との間に、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム(Alq3)化合物単独からなる第1の電子輸送膜を作製することによって、2つの層構成からなる電子輸送層を作製した。また、陽極2と正孔輸送層3との間に、化合物Cとして示すトリススエナミン化合物単独の第1の正孔輸送膜を作製することによって、2つの層構成からなる正孔輸送層を作製した。
【0140】
この素子の特性を測定した結果、発光波長には大きな変化は認められなかったが、輝度強度が950cd/m2(印加電圧:10V)となり、実施例5,12と比べて、1.5倍程度の輝度の向上が認められた。さらに、発光開始電圧は、5Vであり、実施例10の素子の開始電圧8Vとくらべても約半分の電圧で発光が認められた。
【0141】
以上のように、本発明の有機電界発光素子は、従来のものと比較して、特性の向上が認められた。この結果から、以下の(1)〜(3)の事項が考察される。
(1)本発明のシクロペンタジエニリデン化合物が優れた発光性と電子輸送性の双方の性質を有する化合物であること
(2)シクロペンタジエニリデン化合物に、さらに高い正孔輸送性を有する化合物を混合することにより、電荷の輸送性向上につながり、輝度の向上がもたらされること
(3)陽極2及び陰極6の間に存在する正孔輸送層3から電子輸送層5にスムーズな電荷の流れを起こさせることによって、高い発光性を有するシクロペンタジエニリデン化合物を低い電圧で発光させることができるということ
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明に係る有機電界発光素子は、以上のように、電荷の注入が容易でエネルギーギャップが大きい物質を有機電界発素子の発光層に用い、有機電界発光素子の積層構造を改良することによって、効率良く高い青色の純度と高い輝度の発光を可能にする有機電界発光素子を提供することができる。それゆえに、本発明は、光源やディスプレイ等に好適に用いることができる。従って、本発明は、家庭から工業にいたる様々な電気製品の分野に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】図1は、本発明における電界発光素子の構成を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0144】
1 基板
2 陽極
3 正孔輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
6 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極とからなる一対の電極を有し、前記陽極と陰極との間に、発光性の有機物を含んで構成される発光層を有する有機電界発光素子において、
前記発光性の有機物としてシクロペンタジエニリデン化合物が使用されていることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記シクロペンタジエニリデン化合物が、下記一般式(1)
【化1】

(式(1)中、R1、R2、R3、R4、R5はそれぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6から14のアリール基のいずれかであり、Ar1は置換もしくは無置換の炭素数6から14のアリール基、または複素環残基のいずれかである。)
で表されることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記シクロペンタジエニリデン化合物が、下記一般式(2)
【化2】

(式(2)中、R1、R2、R3、R4は前記一般式(1)におけるR1、R2、R3、R4と同義であり、Ar2は結合手、アルキレン基、または、下記式(A)、(B)、(C)、(D)のいずれかである。)
【化3】

(式(A)中、nは1から3までのいずれかの整数である。また、式(D)中、Xは酸素、硫黄、アルキル基、または、三級アミノ基のいずれかである。)
で表されることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記R1、R2、R3、R4がフェニル基であることを特徴とする請求項2または3に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記シクロペンタジエニリデン化合物が、下記一般式(3)
【化4】

(式(3)中、R1、R2、R3、R4は前記一般式(1)におけるR1、R2、R3、R4と同義である。)
で表されることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記有機電界発光素子は、前記陽極と前記発光層との間に、陽極から発光層へ正孔を運ぶための正孔輸送層をさらに有し、前記陰極と前記発光層との間に、陰極から発光層へ電子を運ぶための電子輸送層をさらに有するとともに、
前記発光層が、シクロペンタジエニリデン化合物と正孔輸送性化合物とを混合して形成されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記電子輸送層が、前記シクロペンタジエニリデン化合物と電子輸送性化合物とを混合して形成されていることを特徴とする、請求項6に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記電子輸送層は、前記陰極と接している部分に、8−キノリノール誘導体の金属錯体からなる電子輸送膜を有し、
前記正孔輸送層は、前記陽極と接している部分に、エナミン構造を1つ以上有するエナミン化合物からなる正孔輸送膜を有することを特徴とする請求項7に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記正孔輸送性化合物として、エナミン構造を1つ以上有するエナミン化合物を含有していることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記発光層において、前記シクロペンタジエニリデン化合物に対する前記エナミン化合物の含有割合が5〜15mol%であることを特徴とする請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
水分の浸入を防ぐための保護部材をさらに有することを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−24655(P2006−24655A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199873(P2004−199873)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】