説明

有機電界発光素子

低電流密度で高輝度が得られる発光効率に優れ、かつ高い駆動安定性を有するフラットパネル・ディスプレイ等の表示素子や照明等に適用可能な燐光を用いた有機電界発光素子(有機EL素子)を提供する。
基板上に、陽極、有機層及び陰極が積層されてなる有機電界発光素子であって、少なくとも1層の有機層がホスト剤とドープ剤を含む発光層であり、発光層中にホスト剤として、同一分子中に下記式Iで表されるピラゾール構造を2〜4個持つピラゾール系化合物を使用した有機電界発光素子。


(式中、Ar〜Arは独立に、水素又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示すが、少なくとも1つは水素以外の基を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電界発光素子に関するものであり、詳しくは、有機化合物からなる発光層に電界をかけて光を放出する薄膜型デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機材料を用いた電界発光素子(以下、有機EL素子という)の開発は、電極からの電荷注入効率向上を目的として電極の種類を最適化し、芳香族ジアミンからなる正孔輸送層と8−ヒドロキシキノリンアルミニウム錯体からなる発光層とを電極間に薄膜として設けた素子の開発(Appl. Phys. Lett., Vol.51, p913,1987)により、従来のアントラセン等の単結晶を用いた素子と比較して大幅な発光効率の改善がなされたことから、自発光・高速応答性といったと特徴を持つ高性能フラットパネルへの実用を目指して進められてきた。
【0003】
このような有機EL素子の効率を更に改善するため、上記の陽極/正孔輸送層/発光層/陰極の構成を基本とし、これに正孔注入層、電子注入層や電子輸送層を適宜設けたもの、例えば陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/陰極や、陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/陰極、陽極/正孔注入層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極などの構成のものが知られている。この正孔輸送層は、正孔注入層から注入された正孔を発光層に伝達する機能を有し、また電子輸送層は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有している。
【0004】
こうした構成層の機能にあわせて、これまでに多くの有機材料の開発が進められてきた。
【0005】
一方、上記の芳香族ジアミンからなる正孔輸送層と8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体からなる発光層とを設けた素子をはじめとした多くの素子が蛍光発光を利用したものであったが、燐光発光を用いる、すなわち、三重項励起状態からの発光を利用すれば、従来の蛍光(一重項)を用いた素子と比べて、3倍程度の効率向上が期待される。この目的のためにクマリン誘導体やベンゾフェノン誘導体を発光層とすることが検討されてきたが、極めて低い輝度しか得られなかった。その後、三重項状態を利用する試みとして、ユーロピウム錯体を用いることが検討されてきたが、これも高効率の発光には至らなかった。
【0006】
本発明に関連する先行文献として次に示す文献がある。
【特許文献1】特開2002-352957号公報
【特許文献2】特開2001-230079号公報
【特許文献3】特開2001-313178号公報
【特許文献4】特開2003-45611号公報
【特許文献5】特開2002-158091号公報
【非特許文献1】Nature, vol.395,p151,1998
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett., vol.75,p4,1999
【0007】
上記の非特許文献1には、白金錯体(PtOEP)を用いることで、高効率の赤色発光が可能なことが報告された。その後、非特許文献2では、イリジウム錯体(Ir(Ppy)3)を発光層にドープすることで、緑色発光で効率が大きく改善されている。更に、これらのイリジウム錯体は発光層を最適化することにより、素子構造をより単純化しても極めて高い発光効率を示すことが報告されている。
【0008】
有機EL素子をフラットパネル・ディスプレイ等の表示素子に応用するためには、素子の発光効率を改善すると同時に駆動時の安定性を十分に確保する必要がある。しかしながら、非特許文献2に記載の燐光分子(Ir(Ppy)3)を用いた高効率の有機EL素子では、駆動安定性が実用的には不十分であるのが現状である(Jpn. J. Appl. Phys.,vol.38,L1502,1999)。
【0009】
上記の駆動劣化の主原因は、基板/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極、もしくは基板/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極のような素子構造における発光層の薄膜形状の劣化によると推定される。この薄膜形状の劣化は、素子駆動時の発熱等による有機非晶質薄膜の結晶化(又は凝集)等に起因するとされ、耐熱性の低さは材料のガラス転移温度(Tg)の低さに由来すると考えられる。
【0010】
非特許文献2では、発光層としてカルバゾール化合物(CBP)、もしくはトリアゾール化合物(TAZ)を、また正孔阻止層としてフェナントロリン誘導体(HB-1)を使用しているが、これらの化合物は対称性がよく分子量が小さいために、容易に結晶化・凝集して薄膜形状が劣化する上、Tgは結晶性の高さから観測さえ困難である。こうした発光層内の薄膜形状が安定でないことは、素子の駆動寿命を短くし、耐熱性も低下させるという悪影響をもたらす。上述のような理由から、燐光を用いた有機電界発光素子においては、素子の駆動安定性に大きな問題を抱えているのが実状である。
【0011】
ところで、上記特許文献1では、発光層にホスト剤と燐光を発するドープ剤を含む有機EL素子において、ホスト剤としてオキサジアゾール基を有する化合物を使用することが開示されている。特許文献2では、有機層中にチアゾール構造又はピラゾール構造を有する有機EL素子が開示されている。特許文献3では、燐光性のイリジウム錯体化合物とカルバゾール化合物を含む発光層を有する有機EL素子が開示されている。特許文献4では、カルバゾール化合物(PVK)、オキサジアゾール基を有する化合物(PBD)及びイリジウム錯体化合物(Ir(ppy)3)を含む発光層を有する有機EL素子が開示されている。特許文献5では、燐光性発光性化合物としてオルトメタル化金属及びポリフィリン金属錯体を提案している。しかし、これらも上記したような問題がある。なお、特許文献2は燐光を利用する有機EL素子を開示していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
燐光を用いた有機EL素子の駆動安定性及び耐熱性の改善は、フラットパネル・ディスプレイ等の表示素子や照明等の応用を考える上で必須の要求であり、本発明はこのような実状に鑑み、高効率で高い駆動安定性を有する有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、基板上に、陽極、有機層及び陰極が積層されてなる有機電界発光素子であって、少なくとも1層の有機層がホスト剤とドープ剤を含む発光層であり、このホスト剤として、同一分子中に下記式Iで表されるピラゾール構造を2〜4個持つピラゾール系化合物を使用することを特徴とする有機電界発光素子である。
【化1】

【0014】
ここで、ピラゾール系化合物としては、下記式IIで表される化合物が好ましく挙げられる。
【化2】

式I及び式IIにおいて、Ar〜Arは独立に、水素又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示し、Xは直接結合又は置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を示す。
【0015】
ドープ剤としては、燐光発光性のオルトメタル化金属錯体及びポルフィリン金属錯体から選ばれる少なくとも一つの金属錯体を含有するものが好ましく挙げられる。また、金属錯体の中心金属として、周期律表7ないし11族から選ばれる少なくとも一つの金属を含む有機金属錯体を含有するものが好ましく挙げられる。そして、かかる金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金及び金から選ばれる金属が好ましく挙げられる。
【0016】
本発明の有機電界発光素子は、発光層と陰極との間に正孔阻止層を有すること、又は、発光層と陰極との間に電子輸送層を有することも有利である。
【0017】
本発明の有機電界発光素子(有機EL素子)は、基板上に設けた陽極と陰極の間に、少なくとも1層の有機層を有し、この有機層の少なくとも1層が発光層であるが、この発光層に特定のホスト剤と燐光を発するドープ剤を含む。そして、ホスト剤を主成分とし、ドープ剤を副成分として含む。
【0018】
ここで、主成分とは、その層を形成する材料のうち50重量%以上を占めるものを意味し、副成分とはそれ以外の成分をいう。そして、ホスト剤となる化合物は、燐光性のドープ剤の励起三重項準位より高いエネルギー状態の励起三重項準位を有する。
【0019】
本発明の発光層に含むホスト剤としては、安定な薄膜形状を与え、高いガラス転移温度(Tg)を有し、正孔及び/又は電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。更に、電気化学的、化学的に安定であり、トラップとなったり発光を消光したりする不純物が製造時や使用時に発生しにくい化合物であることが要求される。かかる要求を満たす化合物として、前記式Iで表されるピラゾール構造を有するピラゾール系化合物を使用する。
【0020】
式Iにおいて、Ar〜Arは、各々独立に、水素又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示すが、少なくとも1つは芳香族炭化水素基である。
【0021】
前述のようにホスト材料として安定な薄膜形状を与える要件の一つとして適度な分子量があげられ、このためにはピラゾール構造を2個以上有することが望ましい。また、本材料を用いる有機EL素子は一般に真空蒸着により成膜を行うが、この場合、必要以上に大きな分子量を有する有機化合物は蒸着に必要なエネルギーが過大になり、気化よりも分解が優先する。このため、ピラゾール構造は4個程度までが好ましく、より好ましくは2個である。
【0022】
ピラゾール系化合物としては、上記式IIで表される化合物が好ましく挙げられる。式IIにおいて、Ar1〜Arは式Iで説明したと同じである。
式I及び式IIにおいて、Ar〜Arとしては、水素又は1〜3環の芳香族炭化水素基が好ましく挙げられ、置換基を有することができる。置換基の数は、0〜3の範囲が好ましい。芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、アンスラセニル基のような1〜3環のアリール基が好ましく挙げられる。これらの基は置換基を有することができ、置換基としては、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6の低級アルキル基、フェニル基、メチルフェニル基等の炭素数6〜12のアリール基が好ましく挙げられる。より好ましい置換基としては炭素数1〜3のアルキル基がある。
【0023】
有利には、Ar2が芳香族炭化水素基であり、Ar又はArの1又は2が芳香族炭化水素基であるものである。より好ましくは、ArとAr2が芳香族炭化水素基であり、Arが水素又は芳香族炭化水素基であるものである。有利な芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、メチルフェニル基、メチルナフチル基又はフェニルフェニル基がある。そして、ArとAr2がフェニル基で、Arが水素又はフェニル基で、Xがフェニレン基である化合物が好ましいものとしてある。
【0024】
具体的には、次のような芳香族炭化水素基が好ましく挙げられる。フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、2,4,5-トリメチルフェニル基、4-エチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アンスラセニル基、2-アンスラセニル基、9-アンスラセニル基、9-フェンスレニル基等。なお、Ar〜Arは、相互に同一であっても異なってもよい。
【0025】
また、X1は直接結合又は置換基を有しうる2価の芳香族炭化水素基を示す。好ましくは、1〜3環の2価の芳香族炭化水素環基であり、具体的には、1,4-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-ナフチレン基、1,5-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基、3,3'-ビフェニレン基、4,4'-ビフェニレン基、9,10-アンスラセニレン基等が挙げられる。また、置換基としては、炭素数1〜6のアルキル基等が挙げられる。より好ましいX1としては、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニレン基がある。
【0026】
一方、安定な薄膜形状を与える要件として、結晶性が抑制されることも重要であり、有機化合物において、結晶性は分子構造の対称性(平面性)、極性基の分子間相互作用などにより支配されると考えられる。本発明で使用するピラゾール系化合物においては、ピラゾール環の1、3又は4位に芳香族基を有することにより分子構造が平面となることを阻害し、結晶性を抑制する。また、極性の強い窒素原子の周囲に嵩高い芳香族基を配することで、分子内相互作用も抑制する効果を導き出す。
【0027】
式IIで表される化合物の好ましい具体例を表1〜6に示すが、これらに限定されるものではない。なお、表中のX1、Ar1〜Arは、式IIの記号に対応する。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
【表6】

【0034】
【表7】

【0035】
【表8】

【0036】
【表9】

【0037】
【表10】

【0038】
【表11】

【0039】
本発明の有機EL素子は発光層に、副成分、すなわち燐光性ドープ剤を含有する。このドープ剤としては、前記特許文献や非特許文献に記載の公知の燐光性金属錯体化合物を使用し得、それらの金属錯体の中心金属が、好ましくは周期律表7〜11族から選ばれる金属を含む燐光性有機金属錯体である。この金属として好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金及び金から選ばれる金属が挙げられる。このドープ剤及び金属は1種であっても2種以上であってもよい。
燐光性ドープ剤は、燐光発光性のオルトメタル化金属錯体又はポリフィリン金属錯体であることも好ましく、かかるオルトメタル化金属錯体又はポリフィリン金属錯体については、特許文献5等に記載されているように公知である。したがって、これら公知の燐光性ドープ剤を広く使用することができる。
【0040】
好ましい有機金属錯体としては、Ir等の貴金属元素を中心金属として有するIr(bt)2・acac3等の錯体類(式A)、Ir(Ppy)3等の錯体類(式B)、PtOEt3等の錯体類(式C)が挙げられる。これらの錯体類の具体例を以下に示すが、下記の化合物に限定されない。
【0041】
【化3】

【0042】
【化4】

【0043】
【化5】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】有機EL素子の層構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0045】
1:基板
2:陽極
3:正孔注入層
4:正孔輸送層
5:発光層
6:正孔阻止層
7:電子輸送層
8:陰極
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の有機EL素子の一例について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明に用いられる一般的な有機EL素子の構造例を模式的に示す断面図であり、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は陰極を各々表わす。通常、正孔注入層3〜電子輸送層7は有機層であり、本発明の有機EL素子は発光層5を含む有機層の一層以上を有する。有利には発光層5を含めて三層以上、より好ましくは五層以上の有機層を有することがよい。また、図1は一例であり、これに加えて一以上の他の層を有することもでき、一以上の層を省略することも可能である。
【0047】
基板1は有機EL素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機EL素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0048】
基板1上には陽極2が設けられるが、陽極2は正孔輸送層への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、あるいは、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などの場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。更に、導電性高分子の場合は電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる。陽極2は異なる物質で積層して形成することも可能である。陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常、60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常、5〜1000nm、好ましくは10〜500nm程度である。不透明でよい場合、陽極2は基板1と同一でもよい。また、更には上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0049】
正孔注入の効率を向上させ、かつ、有機層全体の陽極への付着力を改善させる目的で、正孔輸送層4と陽極2との間に正孔注入層3を挿入することも行われている。正孔注入層3を挿入することで、初期の素子の駆動電圧が下がると同時に、素子を定電流で連続駆動した時の電圧上昇も抑制される効果がある。
正孔注入層に用いられる材料に要求される条件としては、陽極とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定、すなわち、融点及びガラス転移温度が高く、融点としては300℃以上、ガラス転移温度としては100℃以上が要求される。更に、イオン化ポテンシャルが低く陽極からの正孔注入が容易なこと、正孔移動度が大きいことが挙げられる。
【0050】
この目的のために、これまでに銅フタロシアニン等のフタロシアニン化合物、ポリアニリン、ポリチオフェン等の有機化合物や、スパッタ・カーボン膜や、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、モリブデン酸化物等の金属酸化物が報告されている。陽極バッファ層の場合も、正孔輸送層と同様にして薄膜形成可能であるが、無機物の場合には、更に、スパッタ法や電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法が用いられる。以上のようにして形成される正孔注入層3の膜厚は、通常、3〜100nm、好ましくは5〜50nmである。
【0051】
正孔注入層3の上には正孔輸送層4が設けられる。正孔輸送層で使用される材料に要求される条件としては、正孔注入層3からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、更に安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、発光層5に接するために発光層からの発光を消光したり、発光層との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させないことが求められる。上記の一般的要求以外に、車載表示用の応用を考えた場合、素子には更に耐熱性が要求される。従って、Tgが90℃以上の材料が望ましい。
【0052】
このような正孔輸送材料としては、例えば、4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン、4,4',4"-トリス(1-ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物、トリフェニルアミンの四量体からなる芳香族アミン化合物、2,2',7,7'-テトラキス-(ジフェニルアミノ)-9,9'-スピロビフルオレン等のスピロ化合物等が知られている。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【0053】
上記の化合物以外に、正孔輸送層4の材料として、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルトリフェニルアミン、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン等の高分子材料が挙げられる。塗布法の場合は、正孔輸送材料を1種又は2種以上と、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを添加し、溶解して塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により陽極2又は正孔注入層3上に塗布し、乾燥して正孔輸送層4を形成する。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、通常、50重量%以下が好ましい。
【0054】
真空蒸着法の場合には、正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10- 4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた、陽極が形成された基板1上に正孔輸送層4を形成させる。正孔輸送層4の膜厚は、通常、5〜300nm、好ましくは10〜100nmである。この様に薄い膜を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法がよく用いられる。
【0055】
正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、前記ホスト剤と燐光を発するドープ剤を含有し、電界を与えられた電極間において、陽極から注入されて正孔輸送層を移動する正孔と、陰極から注入されて電子輸送層7(又は正孔阻止層6)を移動する電子との再結合により励起されて、強い発光を示す。なお、発光層5は本発明の性能を損なわない範囲で、本発明で必須の成分として使用するホスト材以外の他のホスト材料や蛍光色素など、他成分を含んでいてもよい。
【0056】
発光層ホスト剤に使用される材料に要求される条件としては、正孔輸送層4からの正孔注入効率が高く、かつ、電子輸送層7(又は正孔阻止層6)からの電子注入効率が高いことが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが適度の値を示し、しかも正孔・電子の移動度が大きく、更に電気的安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。また、隣接する正孔輸送層4、電子輸送層7(又は正孔阻止層6)との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させないことが求められる。上記の一般的要求以外に、車載表示用の応用を考えた場合、素子には更に耐熱性が要求される。したがって、Tgとして80℃以上の値を有する材料が望ましい。
【0057】
ドープ剤として、前記式A〜Cで表わされる有機金属錯体を使用する場合、それが発光層中に含有される量は、0.1〜30重量%の範囲にあることが好ましい。0.1重量%以下では素子の発光効率向上に寄与できず、30重量%を越えると有機金属錯体同士が2量体を形成する等の濃度消光が起き、発光効率の低下に至る。従来の蛍光(1重項)を用いた素子において、発光層に含有される蛍光性色素(ドーパント)の量より、若干多い方が好ましい傾向がある。有機金属錯体が発光層中に膜厚方向に対して部分的に含まれたり、不均一に分布してもよい。発光層5の膜厚は、通常10〜200nm、好ましくは20〜100nmである。
【0058】
発光層5は、有利には真空蒸着法で形成される。ホスト剤、ドープ剤の双方を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、ホスト剤、ドープ剤の双方を同時蒸発させ、正孔輸送層4の上に形成させる。この際、ホスト剤、ドープ剤別々に蒸着速度を監視しながらドープ剤のホスト剤への含有量を制御する。
【0059】
正孔阻止層6は発光層5の上に、発光層5の陰極側の界面に接するように積層されるが、正孔輸送層から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する役割と、陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成される。正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いことが必要とされる。正孔阻止層6は正孔と電子を発光層内に閉じこめて、発光効率を向上させる機能を有する。
【0060】
電子輸送層7は電界を与えられた電極間において陰極から注入された電子を効率よく正孔阻止層6の方向に輸送することができる化合物より形成される。電子輸送層7に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。
【0061】
このような条件を満たす材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体(Alq3)などの金属錯体、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3-又は5-ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン、キノキサリン化合物、フェナントロリン誘導体、2-t-ブチル-9,10-N,N'-ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。電子輸送層7の膜厚は、通常、5〜200nm、好ましくは10〜100nmである。
電子輸送層7は、正孔輸送層4と同様にして塗布法あるいは真空蒸着法により正孔阻止層6上に積層することにより形成される。通常は、真空蒸着法が用いられる。
【0062】
陰極8は、発光層5に電子を注入する役割を果たす。陰極8として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。更に、陰極と電子輸送層の界面にLiF、MgF2、Li2O等の極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である。陰極8の膜厚は通常、陽極2と同様である。低仕事関数金属からなる陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す。この目的のために、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0063】
なお、図1とは逆の構造、例えば、基板1上に陰極8、正孔阻止層6、発光層5、正孔輸送層4、陽極2の順、又は基板1/陰極8/電子輸送層7/正孔阻止層6/発光層5/正孔輸送層4/正孔注入層3/陽極2の順に積層することも可能である。
【実施例】
【0064】
合成例1
300ml四つ口フラスコに、水酸化ナトリウム10.9g(0.27mol)、エタノール52.7g及びイオン交換水98.3gを仕込んだ。室温で10分間攪拌して、水酸化ナトリウムを溶解させたのち、アセトフェノン26.1g(0.22mol)を加えた。その後、氷水で冷却し、テレフタルアルデヒド14.1g(0.11mol)を加えた。添加後、還流下4時間加熱攪拌を継続した。反応終了後、室温まで冷却し固形分を濾別回収した。エタノールでリスラリーした後、減圧乾燥して28.5gの黄色粉体を得た。この生成物を薄膜クロマトグラフィー(TLCG)にて分析を行ったところ単一の生成物であった。この生成物をMASSにて分析した結果、目的とするカルコンの分子量338と一致した。生成物の単離収率は80.1%であった。
【0065】
合成例2
2000ml四つ口フラスコに、水酸化カリウム20.1g(0.36mol)及びエタノール1482.7gを仕込んだ。室温で攪拌して水酸化カリウムを溶解したのち、合成例1で得たカルコン32.8g(0.10mol)を室温で加えた。更に、フェニルヒドラジン40.4g(0.37mol)を室温で加えた。添加後、還流下2.5時間加熱攪拌を継続した。反応終了後、室温まで冷却し固形分を濾別回収した。メタノール及びヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥して42.1gの黄色粉体を得た。この生成物は、TLCG分析で単一の生成物であることが確認され、MASS分析で目的とするピラゾリン化合物の分子量518と一致した。収率は83.7%。
【0066】
合成例3
500ml四つ口フラスコに、ピリジン354.4g(4.480mol)を仕込んだ。その後、5塩化アンチモン57.6g(0.19mol)を発熱が激しくならないようにゆっくりと滴下した。滴下後、室温になるまで放冷し合成例2で得られたピラゾリン化合物25.9g(0.050mol)を加えた。ピラゾリン化合物添加後、室温で3.5時間攪拌を継続した。反応終了後、固形分を濾別回収した。エタノールで洗浄して42.1gの淡褐色粉体を得た。この粉体を塩化メチレンで2回再結晶をし、18.3gの白色結晶を得た。この生成物は、TLCG分析で単一の生成物であることが確認され、MASS分析で目的とする5,5'-(1,4-フェニレン)ビス[1,3-ジフェニル-1H-ピラゾール](以下、PBPという)の分子量514と一致した。融点は246.8℃であった。収率は71.4%であった。なお、PBPは表1のNo.101の化合物である。
【0067】
PBPのIR分析結果を下記に示す。
IR(KBr)3061, 3047, 1595, 1499, 1487, 1460, 1427, 1358, 1215, 1178, 1082, 1066, 972, 954, 847, 795, 773, 764, 696, 602
合成例1〜3の反応式を次に示す。
【0068】
【化6】

【0069】
合成例4
水酸化ナトリウムを11.0g(0.28mol)、エタノールを54.0g、イオン交換水を100.1g、アセトフェノンを1−アセトナフトン37.0g(0.22mol)及びテレフタルアルデヒドを14.0g(0.10mol)とした以外は合成例1、2及び3と同様の操作を行い、5,5’-(1,4-フェニレン)ビス[1-フェニル-3-(1-ナフチル)-1H-ピラゾール](以下、PBNPという)を合成した。PBNPの純度100%(HPLC面積比)、質量分析値614、融点は230.2℃であった。なお、PBNPはNo .104の化合物である。
【0070】
PBNPのIR分析結果を下記に示す。
IR(KBr) 3047, 1595, 1514, 1501, 1431, 1381, 1360, 1321, 1032, 972, 937, 912, 849, 814, 802, 773, 739, 692, 660
合成例4の反応式を次に示す。
【0071】
【化7】

【0072】
合成例5
300ml四つ口フラスコに、ナトリウム水素化ビスメトキシエトキシアルミニウム94.6g(0.25mol)及びTHF72.2gを仕込んだ。5℃以下で攪拌し、モルホリン24.2g(0.28mol)を5℃以下で滴下した。滴下後、5℃以下で20分攪拌を継続し、試薬溶液を調整した。
次に、2000ml四つ口反応器に。4,4’-ビフェニルジカルボン酸メチル27.1g(0.10mol)及びTHFを133.4g仕込んだ。この溶液に上記で調整した試薬溶液を5℃以下で滴下した。滴下後、15℃で4.5時間攪拌を継続した。反応終了後、塩化メチレン622.2g及び水411.2gを滴下し抽出を行った。得られた塩化メチレン層を減圧下濃縮を行い乾固した。この残査にアセトンを303.2g滴下し溶解させた後、20℃で水1600.3gを滴下した。その後、5℃で昼夜攪拌し、固形分を濾別回収した。得られた固形分をアセトンで洗浄した後、減圧乾燥して4,4’-ビフェニルジカルボアルデヒド18.1gを得た。
次に、上記で得られた4,4’-ビフェニルジカルボアルデヒドを出発原料として、合成例1、2及び3と同様の反応操作を行い、4,4’-ビス(1,3-ジフェニル-5-ピラゾール)ジフェニル(以下、BPPPという)を合成した。純度99.60%(HPLC面積比)、質量分析値590、融点は241.0℃であった。なお、BPPPはNo.119の化合物である。
【0073】
BPPPのIR分析結果を下記に示す。
IR(KBr) 3061, 3049, 3028, 1595, 1497, 1456, 1425, 1398, 1362, 1213, 1182, 1069, 1005, 970, 955, 829, 806, 766, 692, 681, 600
合成例5の反応式を次に示す。
【0074】
【化8】

【0075】
合成例6
300ml四つ口フラスコに、ナトリウム水素化ビスメトキシエトキシアルミニウム94.6g(0.25mol)及びTHF72.2gを仕込んだ。5℃以下で攪拌し、モルホリン24.2g(0.28mol)を5℃以下で滴下した。滴下後、5℃以下で20分攪拌を継続し、試薬溶液を調整した。
次に、4,4’-ビフェニルジカルボン酸メチルを2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル12.2g(0.05mol)、THFを12.2gとした以外は合成例5と同様の操作を行い2,6-ビス(1,3-ジフェニル-5-ピラゾール)ナフタレン(以下、BPNという)を合成した。純度99.38%(HPLC面積比)、質量分析値564、融点は251.7℃であった。なお、BPNはNo.173の化合物である。
【0076】
BPNのIR分析結果を下記に示す。
IR(KBr)3063, 3047, 1597, 1547, 1497, 1456, 1437, 1416, 1364, 1327, 1219, 1161, 1074, 988, 957, 895, 862, 818, 806, 766, 694, 677, 662
合成例6の反応式を次に示す。
【0077】
【化9】

【0078】
合成例7
200ml四つ口フラスコに、デオキシベンゾイン29.4g(0.15mol)、テレフタルアルデヒド10.0g(0.07mol)及びベンゼン77.9gを仕込んだ。室温で攪拌し、ピペリジン2.6g(0.03mol)を室温で加えた。滴下後、還流下、エステル管により脱水を行いながら18時間加熱攪拌を継続した。反応終了後、室温まで冷却し固形分を濾別回収した。得られた結晶をベンゼンで洗浄した後、減圧乾燥して3,3’-(1,4-フェニレン)ビス(1,2-ジフェニル-2-プロペン-1 -オン)28.8gを得た。
次に、1000ml四つ口フラスコに、前記で得られた3,3’-(1,4-フェニレン)ビス(1,2-ジフェニル-2-プロペン-1-オン)20.0g(0.04mol)、エチレングリコール497.2g及びフェニルヒドラジン35.5g(0.33mol)を室温で加えた。添加後、還流下1.5時間加熱攪拌を継続した。反応終了後、室温まで冷却し固形分を濾別回収した。得られた結晶を塩化メチレンに溶解させた後、不溶分を濾過した。得られた濾液を減圧下濃縮を行い乾固した。この残査にメタノールを762.3g滴下し、30分加熱撹拌を行った。撹拌終了後、室温まで冷却し固形分を濾別回収した。得られた結晶をメタノールで洗浄した後、減圧乾燥して5,5’-(1,4-フェニレン)ビス(1,3,4-トリフェニル-2-ピラゾリン)5.6gを得た。
次に、200ml四つ口フラスコに、ピリジン93.1g(1.18mol)を仕込んだ。その後、5塩化アンチモン17.5g(0.06mol)を発熱が激しくならないように10分かけて滴下した。滴下後、室温になるまで放冷し前記で得られた5,5’-(1,4-フェニレン)ビス(1,3,4-トリフェニル-2-ピラゾリン)10.4g(0.015mol)を加えた。添加後、室温で18時間攪拌を継続した。反応終了後、固形分を濾別回収した。エタノールで洗浄した後、減圧乾燥して4.9gの類白色結晶を得た。得られた結晶を塩化メチレンに溶解させた後、不溶分を濾過した。得られた母液を減圧下濃縮を行い乾固した。残査を塩化メチレンで再結晶を行い、5,5’-(1,4-フェニレン)ビス(1,3,4-トリフェニル-1H-ピラゾール)(以下、4-Ph-PBPという)の白色精製結晶2.4gを得た。純度100%(HPLC面積比)、質量分析値666,融点は312.3℃であった。なお、4-Ph-PBPはNo.110の化合物である。
【0079】
4-Ph-PBPのIR分析結果を下記に示す。
IR(KBr) 3051, 3034, 1597, 1497, 1452, 1431, 1358, 1323, 1182, 1138, 1074, 1026, 968, 908, 854, 775, 760, 752, 700, 658
合成例7の反応式を次に示す。
【0080】
【化10】

【0081】
参考例1
発光層主成分(ホスト材料)候補としての化合物の耐熱特性について、DSC測定によるガラス転移温度(Tg)の測定を行った。なお、TAZは3-フェニル-4-(1'-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール、CBPは4,4’-N, N ’-ジカルバゾールジフェニル、BCPは2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、OXD-7は1,3-ビス[(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾリル]フェニレンの略称であり、それぞれ既知のホスト材料である。その結果を表12に示す。
【0082】
【表12】

【0083】
参考例2
ホスト材料の薄膜安定性について、次の評価を実施した。ホスト材料のみをガラス基板上に100nmの膜厚で蒸着膜を作成した。その後、温度25℃湿度30%雰囲気下において、蒸着膜を保存し、目視にて薄膜の結晶化する日数を追跡した。その結果を表13に示す。
【表13】

【0084】
実施例1
図1において、正孔注入層3及び正孔阻止層6を省略した層構造を有する有機EL素子を次のようにして作製した。
ガラス基板1上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜(ジオマテック社製)を2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成し、これを、純水による水洗、アセトンによる超音波洗浄、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行って、真空蒸着装置内に設置した。
上記装置の粗排気を油回転ポンプで行った後、装置内の真空度が5〜9×10-4Paになるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。上記装置内に配置されたモリブデンボートに入れた4,4’-ビス[N,N’-(3-トリル)アミノ]-3,3’-ジメチルビフェニル(HMTPD)を加熱して蒸着を行い60nmの膜厚で正孔輸送層4を形成した。その上へ、発光層主成分としてPBPを、燐光性有機金属錯体としてトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム錯体(Ir(ppy)3)とを異なる蒸着源から二元同時蒸着法により、25nmの膜厚で形成して発光層5を形成した。このときのIr(ppy)3の濃度は7wt%であった。更に、電子輸送層7として、Alq3を膜厚50nmの膜厚で形成した。
ここで、上記素子を一旦前記装置内より大気中に取り出し、陰極上着用マスクとして2m m幅のストライプ状シャドーマスクを陽極2のITOストライプとは直交するように素子を密着させて、別の真空装置内に設置した。有機層と同様にして排気を行い、電子輸送層上に、電子注入層としてフッ化リチウム(LiF)を0.5nm、陰極としてアルミニウムを170nm蒸着した。
得られた有機電界発光素子に外部電源を接続し直流電圧を印加したところ、これらの有機電界発光素子は表14のような発光特性を有することが確認された。表14において、視感発光効率は1000cd/m2での値、輝度/電流は輝度−電流密度特性の傾きを、電圧は1000cd/m2での値を各々示す。なお、素子発光スペクトルの極大波長は515nmであり、Ir(ppy)3からの発光が得られていることが確認された。
【0085】
実施例2
発光層5の主成分として、PBNPを用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作成した。この有機EL素子からもIr(ppy)3からの発光が得られていることが確認された。
【0086】
実施例3
発光層5の主成分として、BPPPを用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作成した。この素子特性を表14に示す。
【0087】
実施例4
発光層5の主成分として、BPNを用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作成した。この有機EL素子からもIr(ppy)3からの発光が得られていることが確認された。
【0088】
実施例5
発光層5の主成分として、4-Ph-PBPを用いた以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作成した。この素子特性を表14に示す。
【0089】
比較例1
発光層の主成分として、TAZを用いた以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を作成した。この素子特性を表14に示す。
【0090】
【表14】

【産業上の利用可能性】
【0091】
燐光を用いた有機電界発光素子の発光効率の向上、並びに駆動安定性及び耐熱性を改善して、フラットパネル・ディスプレイ等の表示素子や照明等の応用性を高めた有機電界発光素子を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、陽極、有機層及び陰極が積層されてなる有機電界発光素子であって、少なくとも1層の有機層がホスト剤とドープ剤を含む発光層であり、このホスト剤として、同一分子中に下記式Iで表されるピラゾール構造を2〜4個持つピラゾール系化合物を使用することを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】

(式中、Ar〜Arは独立に、水素又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示すが、少なくとも1つは水素以外の基を示す)
【請求項2】
ピラゾール系化合物が、下記式I Iで表されるものである請求項1記載の有機電界発光素子。
【化2】

(式中、Ar〜Arは独立に、水素又は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示すが、少なくとも1つは水素以外の基を示し、Xは直接結合又は置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を示す)
【請求項3】
式IIで表される化合物において、ArとAr2が芳香族炭化水素基であり、Arが水素又は芳香族炭化水素基である請求項2記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
式IIで表される化合物においてArとAr2がフェニル基、Arが水素又はフェニル基、Xがフェニレン基である請求項2又は3記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
ドープ剤が、燐光発光性のオルトメタル化金属錯体及びポルフィリン金属錯体から選ばれる少なくとも一つの金属錯体を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
金属錯体の中心金属が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金及び金から選ばれる少なくとも一つの金属である請求項5に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
発光層と陰極との間に、正孔阻止層、電子輸送層又は両者を有すること特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/030901
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514185(P2005−514185)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013752
【国際出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(000229656)株式会社日本ファインケム (10)
【Fターム(参考)】