説明

有機顔料組成物

【課題】顔料の比表面積を大きくしても顔料の凝集が生じず、良好な流動性および耐熱性を示す顔料組成物を提供すること。
【解決手段】有機顔料組成物は、有機顔料と、少なくとも1つはスルホン酸基またはカルボン酸基を含有する下記式(I)のベンゼン系化合物またはナフタレン系化合物のうち少なくとも1種の有機化合物と、を含むことを特徴とする。


上記式中のA1〜A6のうち少なくとも1つはスルホン酸基またはカルボン酸基を示し、その残りのものは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、アセトアセチル基、またはアセトアセチルアミノ基のうちいずれかを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機顔料組成物に関する。より詳細には、液晶ディスプレイ用カラーフィルタ用のカラーレジストインキに好適に用いられる有機顔料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液晶ディスプレイ用カラーフィルタは、ガラス基板上に顔料を含んだカラーレジストインキを塗布することにより製造されている。
【0003】
近年、このような液晶ディスプレイ用カラーフィルタは、高画質化の要求から高コントラスト化が求められている。一般に、2枚の偏光板でカラーフィルタを挟み、その一方から光を照射して透過光を観察する場合において、2枚の偏光板を直交状態に配置した場合の透過光の輝度に対する、同偏光板を平行状態に配置した場合の透過光の輝度の比が大きくなるほど高いコントラストが得られることになる。そして、このような輝度比は、カラーフィルタに含まれる顔料の粒子径に影響され、粒子径の大きいものほど透過光を散乱させる傾向にあるため、高いコントラストを得るためには粒子径の小さい顔料の使用が求められている。
【0004】
顔料の粒子径を測定する方法としては、透過型電子顕微鏡による顔料粒子観察と比表面積を指標とする方法がよく知られている。高いコントラストを得るためには、より粒子径が小さい顔料、すなわち、より大きい比表面積を有する顔料が必要である。本願明細書においては、以下、顔料粒子の大きさについては比表面積で表現する。
【0005】
上記のような要求の下、顔料の比表面積を大きくすると(粒子径を小さくすると)、カラーフィルタ用有機顔料分散体(カラーレジストインキやその前駆体であるミルベースインキ)において顔料が凝集し、粘度が上昇するなどその取扱いが困難となる。また、昨今の液晶ディスプレイの大画面化に伴いカラーフィルタのサイズが拡大したことから、従来にも増してカラーレジストインキの均一な塗布性能が求められるところ、このように粘度が上昇し流動性が悪化したカラーレジストインキでは、均一に塗布することが困難となっている。
【0006】
このため、顔料の比表面積を大きくしても凝集が生じないという有機顔料分散体用の顔料組成物を提供する種々の提案がされている。たとえば、特開2007−002076号公報(特許文献1)、特開2007−002077号公報(特許文献2)、および特開2007−025193号公報(特許文献3)では、水性媒体中で顔料を粉砕した後、水性媒体を有機溶剤で置換することにより顔料の凝集を防止することが提案されている。また、特開2009−242527号公報(特許文献4)および特開2010−106260号公報(特許文献5)では、顔料を粉砕した後、樹脂を添加することで顔料の凝集を防止することが提案されている。
【0007】
しかしながら、上記のような提案においても未だ十分に顔料の凝集を防止できない場合があり、更なる改良が求められている。
【0008】
またさらに、このようなカラーレジストインキは、カラーフィルタの製造時にガラス基板上で200℃以上の高温にて成膜されるため、耐熱性が要求されるが、比表面積の大きい顔料を使用したカラーレジストインキでは十分な耐熱性が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−002076号公報
【特許文献2】特開2007−002077号公報
【特許文献3】特開2007−025193号公報
【特許文献4】特開2009−242527号公報
【特許文献5】特開2010−106260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、顔料の比表面積を大きくしても顔料の凝集が生じず、良好な流動性および耐熱性を示す顔料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の有機顔料組成物は、有機顔料と、下記式(I)または(II)で表わされる有機化合物のうち少なくとも1種の有機化合物と、を含むことを特徴とする。
【0012】
【化1】

【0013】
(式(I)中のA1〜A6のうち、少なくとも1つはスルホン酸基またはカルボン酸基を示し、その残りのものは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、アセトアセチル基、またはアセトアセチルアミノ基のうちいずれかを示す。)
【0014】
【化2】

【0015】
(式(II)中のA7〜A14のうち、少なくとも1つはスルホン酸基またはカルボン酸基を示し、その残りのものは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、アセトアセチル基、またはアセトアセチルアミノ基のうちいずれかを示す。)
また、上記式(I)または(II)で表わされる有機化合物は、少なくとも1つのスルホン酸基またはカルボン酸基と、アミノ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、およびアセトアセチルアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基と、を有することが好ましい。
【0016】
また、上記有機顔料は、アゾバルビツール酸金属錯体であることが好ましく、また互変異性体の形態であっても良く、炭素数1〜6のアルキル基などの置換基を有していても良い。
【0017】
なお、金属錯体化させる金属は、鉄、銅、コバルト、ニッケルおよびクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属である。
【0018】
また、上記有機顔料は、C.I.ピグメントイエロー150であることが特に好ましい。また、本発明は、上記有機顔料組成物を含有するカラーフィルタ用有機顔料組成物分散体にも係わる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有機顔料組成物は、上記の通りの構成を有することにより、顔料の比表面積を大きくしても顔料の凝集が生じず、良好な流動性および耐熱性を示すという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<有機顔料組成物>
本発明の有機顔料組成物は、有機顔料と、上記式(I)または(II)で表わされる有機化合物のうち少なくとも1種の有機化合物と、を含むことを特徴とする。本発明の有機顔料組成物は、このような有機顔料と有機化合物とを含む限り、他の成分を含むことができる。他の成分としては、たとえば、水、有機溶剤、分散剤、樹脂、表面処理剤、上記以外の有機顔料、顔料誘導体等を挙げることができる。
【0021】
このような本発明の有機顔料組成物は、液晶ディスプレイ用カラーフィルタの製造に使用されるカラーレジストインキまたはその前駆体であるミルベースインキに好適に用いることができる。この点、本発明は、このような有機顔料組成物を含有するカラーフィルタ用有機顔料組成物分散体にも係わる。本発明のカラーフィルタ用有機顔料組成物分散体は、より具体的にはカラーレジストインキまたはその前駆体であるミルベースインキを含む。このようなカラーフィルタ用有機顔料組成物分散体において、本発明の有機顔料組成物以外の組成は特に限定されず、従来公知の組成を全て含むものとする。
【0022】
本発明の有機顔料組成物が上記のような優れた効果を示す詳細なメカニズムは、未だ十分には解明されていないものの、次のような作用によるものではないかと考えられる。すなわち、顔料を微粒化した場合(すなわち比表面積を大きくした場合)にそれが凝集するのは、顔料粒子の表面積の増大に伴い、表面活性エネルギーが増加して凝集力が強くなることがその原因の一つと考えられる。これに対し、本発明の上記式(I)または(II)で表わされる有機化合物は、いずれも芳香環による適度なπ平面を有しており、以って同様にπ平面を持つ顔料分子との親和性が高くなることから顔料分子に対し容易に作用することができる。そして、上記有機化合物が有するスルホン酸基またはカルボン酸基による静電反発作用により顔料分子の凝集が防止されるとともに、該有機化合物は各種溶剤との親和性にも優れるため、顔料分散のエネルギー自体を低減できることにより凝集の抑制が助長され、これらの相乗作用により、顔料の凝集が防止されるものと考えられる。そして、このように、本発明の有機顔料組成物を含んだカラーフィルタ用有機顔料組成物分散体(カラーレジストインキまたはミルベースインキ)は、良好な流動性を示すものとなる。
【0023】
<有機顔料>
本発明の有機顔料組成物に含まれる有機顔料は、特に限定されない。有機顔料として高度な共役系が形成された平面構造を有するものを採用した場合に、本発明の効果が好適に発揮されるため、そのような構造を有する有機顔料を採用することが好ましい。
【0024】
本発明の有機顔料としては、たとえば、アゾバルビツール酸金属錯体を挙げることができる。
【0025】
また、上記有機顔料は、その互変異性体の形態であっても良く、炭素数1〜6のアルキル基などの置換基を有していても良い。
【0026】
なお、金属錯体化させる金属は、鉄、銅、コバルト、ニッケルおよびクロムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である。
【0027】
上記の炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、1−メチル−n−プロピル基、2−メチル−n−プロピル基、n−ペンチル基、1−メチル−n−ブチル基、2−メチル−n−ブチル基、3−メチル−n−ブチル基、1,1−ジメチル−n−プロピル基、1,2−ジメチル−n−プロピル基、2,2−ジメチル−n−プロピル基、1−エチル−n−プロピル基、2−エチル−n−プロピル基、n−ヘキシル基、1−メチル−n−ペンチル基、2−メチル−n−ペンチル基、3−メチル−n−ペンチル基、4−メチル−n−ペンチル基、1,1−ジメチル−n−ブチル基、1,2−ジメチル−n−ブチル基、1,3−ジメチル−n−ブチル基、2,2−ジメチル−n−ブチル基、2,3−ジメチル−n−ブチル基、3,3−ジメチル−n−ブチル基、1−エチル−n−ブチル基、2−エチル−n−ブチル基、3−エチル−n−ブチル基、(1−メチル)エチル−n−プロピル基などが挙げられる。
【0028】
また、金属錯体化させる金属は、好ましくはニッケルまたはクロムである。
このような互変異性体の形態を有するアゾバルビツール酸金属錯体の中でも、ニッケル錯体(すなわち、C.I.ピグメントイエロー150)が特に好ましい。
【0029】
なお、このような有機顔料としては、従来公知の合成方法で合成されたものを使用することができるとともに、各種市販品をそのまま用いることもできる。また、このような市販品の中には、有機顔料を他の化合物(たとえばメラミン)で包接した包接化合物や固溶体が含まれるが、本発明においては、このような包接化合物や固溶体も有機顔料として好適に使用することができる。また、このような有機顔料としては、分散剤や樹脂によりその粒子表面が処理されているものも好適に使用することができる。すなわち、本発明の有機顔料は、このような包接化合物や固溶体、ならびに顔料粒子表面が分散剤や樹脂により処理されているものも含むものとする。なお、本発明の有機顔料組成物は、有機顔料を1種または2種以上含むことができる。
【0030】
なお、本発明の有機顔料の比表面積は特に限定されない。本発明は、上記の通り、顔料の比表面積を大きくしても凝集を防止できるという効果を示すものであるが、有機顔料の比表面積は、目的とするカラーフィルタの特性、カラーレジストインキの組成等により任意に調整されるため、その比表面積を一律に規定することはできず、カラーフィルタの高コントラスト化を実現できる範囲で任意の比表面積を採用することができる。好ましくは、100〜350m2/g程度の比表面積を有する有機顔料を採用することができる。
【0031】
<有機化合物>
本発明の有機顔料組成物は、上記式(I)または(II)で表わされる有機化合物のうち少なくとも1種の有機化合物を含むことを特徴とする。
【0032】
ここで、上記式(I)中のA1〜A6のうち、少なくとも1つはスルホン酸基またはカルボン酸基を示し、その残りのものは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、アセトアセチル基、またはアセトアセチルアミノ基のうちいずれかを示す。
【0033】
また、上記式(II)中のA7〜A14のうち、少なくとも1つはスルホン酸基またはカルボン酸基を示し、その残りのものは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、アセトアセチル基、またはアセトアセチルアミノ基のうちいずれかを示す。
【0034】
このように式(I)または(II)で表わされる有機化合物は、芳香環を有し、かつその分子中に少なくとも1つのスルホン酸基またはカルボン酸基を有することを特徴とする。当該有機化合物は、このような構造を有することにより、上記で述べたようなメカニズムに基づき有機顔料に作用し、有機顔料が凝集することを防止する作用を有するものと考えられる。当該有機化合物としては、その置換位置が全てスルホン酸基またはカルボン酸基で置換されたものを含み得るが、好ましくはスルホン酸基またはカルボン酸基以外の置換基、すなわち、上記に列挙した置換基(水素原子を含む)を、スルホン酸基またはカルボン酸基が置換している置換位置以外の置換位置(すなわち、上記において「その残りのもの」と表現した位置)に有することが好ましい。
【0035】
ここで、上記の炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、1−メチル−n−プロピル基、2−メチル−n−プロピル基などが挙げられる。
【0036】
また、上記の炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、1−メチル−プロポキシ基、2−メチル−プロポキシ基などが挙げられる。
【0037】
また、上記の炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、1−メチル−プロピルアミノ基、2−メチル−プロピルアミノ基などが挙げられる。
【0038】
また、上記式(I)で表わされる有機化合物としては、具体的には、安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、2−アミノ安息香酸、2−ニトロ安息香酸、2−メチル安息香酸、2−メトキシ安息香酸、2−メチルアミノ安息香酸、2−アセトアセチル安息香酸、4−アミノ−5−メチル安息香酸、2−アミノ−4−クロロ−5−メチル安息香酸、ベンゼンスルホン酸、2−アセトアセチルアミノ安息香酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4−アミノベンゼンスルホン酸、4−ニトロベンゼンスルホン酸、4−メチルベンゼンスルホン酸、4−メトキシベンゼンスルホン酸、4−メチルアミノベンゼンスルホン酸、4−アセトアセチルベンゼンスルホン酸、4−アセトアセチルアミノベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メチルベンゼンスルホン酸、2−アミノ−4−クロロ−5−メチルベンゼンスルホン酸、4−アセトアセチルアミノベンゼンスルホン酸などを挙げることができる。
【0039】
また、上記式(II)で表わされる有機化合物としては、具体的には、2−ナフタレンカルボン酸、3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、3−アミノ−2−ナフタレンカルボン酸、3−ニトロ−2−ナフタレンカルボン酸、3−メチル−2−ナフタレンカルボン酸、3−メトキシ−2−ナフタレンカルボン酸、3−メチルアミノ−2−ナフタレンカルボン酸、3−アセトアセチル−2−ナフタレンカルボン酸、3−アミノ−2−メチル−1−ナフタレンカルボン酸、3−アミノ−4−クロロ−2−メチル−1−ナフタレンカルボン酸、1−ナフタレンスルホン酸、2−ヒドロキシ−1−ナフタレンスルホン酸、2−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸、2−ニトロ−1−ナフタレンスルホン酸、2−メチル−1−ナフタレンスルホン酸、2−メトキシ−1−ナフタレンスルホン酸、2−メチルアミノ−1−ナフタレンスルホン酸、2−アセトアセチル−1−ナフタレンスルホン酸、7−アミノ−4−メチル−1−ナフタレンスルホン酸、7−アミノ−4−クロロ−1−ナフタレンスルホン酸などを挙げることができる。
【0040】
なお、上記式(I)または(II)で表わされる有機化合物は、少なくとも1つのスルホン酸基またはカルボン酸基と、アミノ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、およびアセトアセチルアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基と、を有することが好ましい。このような有機化合物を採用すると、上記のような本発明の効果が特に顕著に示され、とりわけ耐熱性の向上が顕著であるため特に好適である。
【0041】
このような有機化合物を例示すると、たとえば2−アミノ安息香酸、2−アミノ−5−メチル安息香酸、2−アセトアセチルアミノ安息香酸、2−アミノ−4−クロロ−5−メチルベンゼンスルホン酸、2−アミノ−5−メチルベンゼンスルホン酸、4−アセトアセチルアミノベンゼンスルホン酸、2−アミノ−1−ナフタレンカルボン酸、2−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸などを挙げることができる。
【0042】
本発明の式(I)または(II)で表わされる有機化合物は、本発明の有機顔料組成物において少なくとも1種含まれる。よって、当該有機化合物は、1種単独で用いることができるとともに2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、このような有機化合物(2種以上を組み合わせて用いる場合はその合計量)は、有機顔料に対して1〜10質量%、好ましくは2〜5質量%の範囲で用いることができる。
【0043】
<製造方法>
本発明の有機顔料組成物は、種々の方法により製造することができ、特にその製造方法が限定されるものではない。たとえば、次のようにして製造することができる。
【0044】
まず、本発明で用いられる有機顔料は、合成反応後または市販品購入後に微粒化される。微粒化の方法としては、ソルトミリング法を用いることができる。ソルトミリング法とは、有機顔料、水溶性の無機塩および水溶性の溶剤を含む混合物を、ニーダーなどの装置を用いて混練して、有機顔料の比表面積を大きくする方法である。その条件は、混練に用いる装置、スケール等により、適宜調整できる。
【0045】
ソルトミリング法に用いられる水溶性の無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。これらの無機塩は、有機顔料を微小化するために使用され、市販の食塩などを粉砕機にて粉砕し、使用することができる。これらの無機塩の使用量は、有機顔料に対する質量比で、好ましくは3質量倍以上20質量倍以下、より好ましくは3質量倍以上10質量倍以下である。無機塩の使用量がこの範囲にあると、所望の比表面積の有機顔料が得られ、また、後の工程における洗浄処理が多大でなく、さらにソルトミリング処理装置の容積効率の点から有機顔料の処理量が少なくならないので、好ましい。
【0046】
ソルトミリング法に用いられる水溶性の溶剤は、ソルトミリング時に湿潤剤として用いられるものであり、水溶性であれば特に限定されない。しかし、ソルトミリング時に温度が上昇し、溶剤が蒸発しやすい状態になるため、高沸点の溶剤が好ましい。水溶性の溶剤の使用量は、有機顔料の質量に対する質量比で、好ましくは0.5〜7質量倍、より好ましくは0.6〜5質量倍である。水溶性の溶剤の使用量がこの範囲にあると、混練が可能であり、また混合物が液状に近くならずに、混練時に適度にシェアがかかり、有機顔料の微粒化ができるので、好ましい。
【0047】
このような水溶性の溶剤としては、たとえば2−(メトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールなどが挙げられ、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0048】
本発明においては、上記の式(I)または(II)で表わされる有機化合物を、ソルトミリングする前に有機顔料と混合してもよいし、ソルトミリング中に添加してもよいし、ソルトミリング終了後に添加してもよい。そして、ソルトミリング終了後、ろ過などの方法で、水溶性の溶剤を除いた後、有機顔料と混在している水溶性の無機塩および残っている水溶性の溶剤を除去するために水で洗浄し、さらにろ過して微粒化された有機顔料と水からなる含水ケーキを得る。この場合、含水ケーキ中の固形分としては、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜40質量%である。含水ケーキ中の固形分がこの範囲にあると、含水ケーキの取り扱いが容易であることから好ましい。なお、有機顔料および水を含む含水ケーキの固形分は、赤外線加熱乾燥質量測定法などによって、測定することができる。なお、含水ケーキ中の固形分以外の成分は、水である。
【0049】
そして、ソルトミリング工程を経て得られる有機顔料を含む組成物は、必要に応じ有機溶剤および重合体樹脂(天然樹脂および合成樹脂から選ばれる少なくとも1種の高分子重合体)が添加されて、再度混練される。なお、本発明においては、上記の式(I)または(II)で表わされる有機化合物を、この有機溶剤および重合体樹脂の添加後に添加してもよい。次いで、その混練後、水または有機溶剤を含んだ水をデカンテーションなどの方法で分離し、重合体樹脂を含んだ有機顔料の含溶剤組成物を取り出し乾燥することにより、本発明の有機顔料組成物を得ることができる。なお、上記で用いられる有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、その他の溶剤などが挙げられる。重合体樹脂としては、たとえばアクリル系樹脂、フェノール系樹脂などが挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<実施例1>
<有機顔料の微粒化>
有機顔料として市販のC.I.ピグメントイエロー150(商品名:「LEVASCREEN YELLOW G03」、LANXESS社製、比表面積:126m2/g)100g、塩化ナトリウム1000g、およびジエチレングリコール200gからなる混合物をステンレス製1Lニーダー(モリヤマ社製)に投入後、10時間混練することによりソルトミリング法を実行した。次に、この混合物を10Lの水に投入し、ディスパーで2時間撹拌した後、ろ過、水洗を繰り返して塩化ナトリウムおよびジエチレングリコールを除き、300gの含水ケーキを得た。なお、この微粒化された有機顔料の比表面積は210m2/gであった。
【0052】
得られた含水ケーキ300gを秤量し、ベンチニーダー(商品名:「PNV−1型」、(株)入江商会製)に投入し、羽根の回転数を30rpm、含水ケーキの温度が30℃になるように条件を調整した。引き続き、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート200g、およびアルカリ可溶性アクリル樹脂(酸価:120、分子量:12000)50gを加えて、10分間混練した。その後、デカンテーションにより、液状成分を取り除いた後、ギアオーブンで乾燥することにより、樹脂処理された微粒化顔料140gを得た。
【0053】
<有機顔料組成物の調製>
上記のようにして微粒化された有機顔料100g、および上記式(II)で表わされる有機化合物である2−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸2gをプラネタリー型ミキサー中に投入し、50rpmで5分間混合することにより本発明の有機顔料組成物を得た。
【0054】
<有機顔料組成物分散体の調製>
50mLポリエチレン容器に、上記で得られた有機顔料組成物6.3g、分散剤(商品名:「アジスパーPB821」、味の素ファインテクノ(株)社製)2.3g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート23.2gを秤量し、さらに直径0.3mmのジルコニアビーズ70gを加えて、ペイントコンディショナー(商品名:「DAS200」、LAU社製)を用いて3時間分散処理した。その後、100メッシュのフィルターにてジルコニアビーズを除去することにより、有機顔料組成物分散体を得た。
【0055】
<粘度の測定>
上記有機顔料組成物分散体について、コーン/プレート型粘度計(商品名:「MODEL DV−III+」、BROOK FIELD社製)を用いて、せん断速度30sec-1における粘度(mPa・s)を測定した。上記有機顔料組成物分散体は、粘度が低い程、有機顔料の凝集が防止されていることを示し、カラーレジストインキとした場合の流動性に優れていることを示す。結果を表1に示す。
【0056】
<耐熱性の評価>
上記有機顔料組成物分散体30gに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート34.3gを加え、有機顔料濃度7%のスピンコート液を得た(このスピンコート液はカラーレジストインキを模したサンプルである)。そして、このスピンコート液をガラス基板(大きさ10cmの正方形、厚み1mm)にスピンコーター(商品名:「ASS−3C2」、ABLE社製)を用いて塗布し、防爆オーブンにて100℃で3分間乾燥することにより耐熱性評価用着色ガラス基板を得た。なお、スピンコーターの回転数は乾燥後の着色ガラス基板の色度(XYZ表色系)がx=0.423、y=0.500となる条件に設定した。このようにして得られた着色ガラス基板を200℃で2時間乾燥した。そして、乾燥前後の着色ガラス基板の色差(ΔEab)を分光光度計(商品名:「Coler−Eye 7000A」、X−Rite社製)を用いて測定することにより耐熱性を評価した。すなわち、色差が小さいほど耐熱性が良好であることを示す。結果を表1に示す。
【0057】
<実施例2〜4および比較例1〜3>
実施例1で用いた式(II)で表わされる有機化合物(2−アミノ−1−ナフタレンスルホン酸)を、表1に示した有機化合物に置き換えることを除き、他は全て実施例1と同様にして有機顔料組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして粘度を測定し、耐熱性を評価した。その結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1中、「式」の欄のローマ数字は以下の式を示す。なお、実施例2〜4の有機化合物は、上記式(I)で表わされる有機化合物であり、実施例1の有機化合物は、上記式(II)で表わされる有機化合物である。なお、比較例1は、有機化合物を含有しないことを示す。
【0060】
【化3】

【0061】
【化4】

【0062】
【化5】

【0063】
【化6】

【0064】
【化7】

【0065】
【化8】

【0066】
表1より明らかなように、実施例1〜4の有機顔料組成物は、比較例1〜3の有機顔料組成物に比し、低粘度で流動性に優れた有機顔料組成物分散体を与えた。さらに、これらの実施例の有機顔料組成物分散体を塗布した着色ガラス基板においては、優れた耐熱性も示され、以って流動性と耐熱性とを高度に両立することができた。以上の結果より、本発明の有機顔料組成物が、顔料の比表面積を大きくしても顔料の凝集が生じず、良好な流動性および耐熱性を示すという優れた効果を有することが確認できた。
【0067】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0068】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料と、下記式(I)または(II)で表わされる有機化合物のうち少なくとも1種の有機化合物と、を含む有機顔料組成物。
【化1】

(式(I)中のA1〜A6のうち、少なくとも1つはスルホン酸基またはカルボン酸基を示し、その残りのものは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、アセトアセチル基、またはアセトアセチルアミノ基のうちいずれかを示す。)
【化2】

(式(II)中のA7〜A14のうち、少なくとも1つはスルホン酸基またはカルボン酸基を示し、その残りのものは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、アセトアセチル基、またはアセトアセチルアミノ基のうちいずれかを示す。)
【請求項2】
前記式(I)または(II)で表わされる有機化合物は、少なくとも1つのスルホン酸基またはカルボン酸基と、アミノ基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、およびアセトアセチルアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基と、を有する、請求項1記載の有機顔料組成物。
【請求項3】
前記有機顔料は、アゾバルビツール酸金属錯体である、請求項1または2に記載の有機顔料組成物。
【請求項4】
前記有機顔料は、C.I.ピグメントイエロー150である、請求項3記載の有機顔料組成物。
【請求項5】
請求項1記載の有機顔料組成物を含有するカラーフィルタ用有機顔料組成物分散体。

【公開番号】特開2012−52030(P2012−52030A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195968(P2010−195968)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(591229440)住化カラー株式会社 (22)
【Fターム(参考)】