有機高分子アクチュエータ
【課題】 ―方向に迅速に動作する有機高分子アクチュエータを提供すること。
【解決手段】 ブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する有機高分子薄膜、溶液部、および該高分子薄膜および溶液部をはさんだ電極からなる有機高分子アクチュエータ。
【解決手段】 ブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する有機高分子薄膜、溶液部、および該高分子薄膜および溶液部をはさんだ電極からなる有機高分子アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、特に有機高分子で構成されるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子アクチュエータは、ポリピロールなどの導電性高分子と、フッ化ビニリデンにLiClO4を添加したイオン伝導性高分子の組合せが一般的であり研究されている。
【0003】
ブロックコポリマーを用いたアクチュエータとしては、ABA型のブロックコポリマーからなる構造体が、水中でpHに応答する系(非特許文献1)や、有機溶媒に膨潤した高分子がマクスウェル応力により圧縮される研究などが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Soft Mater 2007,3,1506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の高分子アクチュエータは、駆動原理がイオン拡散や高分子のコンフオメーション変化であったため、応答速度が遅かった。
【0006】
また、従来の高分子アクチュエータは、基本的に等方的な運動である。そのため、導電性高分子やイオン導電性高分子はいずれも等方的にサイズ変化するため、一方向に高速に動かすことは難しかった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、―方向に迅速に動作する高分子アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、ブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜からなる、有機高分子アクチュエータに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機高分子アクチュエータは、有機高分子で構成されているため柔らかい。
本発明の有機高分子アクチュエータは、一軸方向に動作する。
本発明の有機高分子アクチュエータは、電場に応答して可逆的に一軸方向に迅速に動作する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の高分子アクチュエータの概略構成図。
【図2】本発明のアクチュエータの作動原理を説明するための図。
【図3】本発明の高分子アクチュエータの概略構成図。
【図4】本発明のアクチュエータの作動原理を説明するための図。
【図5A】本発明の高分子アクチュエータの複数連結概略構成図。
【図5B】本発明の高分子アクチュエータの複数連結概略構成図。
【図5C】本発明の高分子アクチュエータの複数連結概略構成図。
【図6】高分子薄膜挙動観察用セルの概略構成図。
【図7】高分子薄膜挙動観察用セルの概略構成図。
【図8A】高分子薄膜の一軸変位性を示した図。
【図8B】高分子薄膜の一軸変位性を示した図。
【図9A】高分子薄膜の変位応答性を示した図。
【図9B】高分子薄膜の変位応答性を示した図。
【図9C】高分子薄膜の変位応答性を示した図。
【図10】高分子薄膜の応力下での応答挙動観察用セルと応答挙動性を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「ブロック共重合体」とは、複数の異なる単独高分子を部分構成成分とする直鎖高分子からなる共重合体をいい、本発明における交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を形成することのできるブロック共重合体は、以下の一般式(I)または(II)に示される構造のものが使用可能である。
[(A)x(B)y]z (A) (I)または
(B)[(A)x(B)y]z (II)
【0012】
一般式(I)または(II)中、Aは、疎水性高分子セグメントを表している。疎水性高分子セグメントを形成しうるモノマーとしては、エチレン系モノマー、例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル(アクリル酸とメタクリル酸を表す)、(メタ)アクリレート(アクリレートとメタクリレートを表す)、ネオペンチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート等、アルケン系モノマー、例えばブタジエン、イソプレン等を挙げることができる。高分子セグメントが疎水性であるか否かは、水に不溶か否かに基づき判断できる。好ましい疎水性セグメントはスチレンモノマーで構成される疎水性高分子セグメントである。
【0013】
一般式(I)または(II)中、Bは、水溶性高分子セグメントであり、反応性官能基を有し、反応後水溶性が向上する、さらには架橋反応が可能なモノマーの重合体を表している。水溶性高分子セグメントを形成しうるモノマーとしてはエチレン系モノマー、例えばビニルピリジン、ビニルアミン、アリルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アミノ酸、例えばリジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、ヒスチジン、ケロシン、トレオニン、セリン、システイン等を挙げることができる。高分子セグメントが水溶性であるか否かは、水に可溶か否かに基づき判断できる。好ましい水溶性セグメントはビニルピリジンモノマーで構成される水溶性高分子セグメントである。
アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルは、疎水性高分子セグメントおよび水溶性高分子セグメントの両方の構成モノマーとして例示されているが、水溶性高分子セグメントを形成しうるモノマーが、エチレン系モノマー、ビニルピリジン、ビニルアミン、アリルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、アミノ酸、例えばリジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、ヒスチジン、ケロシン、トレオニン、セリン、システイン等として構成する場合は、疎水性セグメントとして機能し、疎水性高分子セグメントを形成しうるモノマーが、エチレン系モノマー、例えば、スチレン、アルケン系モノマー、例えばブタジエン、イソプレン等の場合は、水溶性高分子セグメントして機能する。
水溶性高分子セグメント構成モノマーとして、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルを使用する場合は、疎水性高分子セグメントの構成モノマーとして同じモノマーを使用しないようにする。水溶性高分子セグメント構成モノマーとしてアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルを使用する場合は、疎水性高分子セグメントの構成モノマーとしては、スチレンモノマー、アルケン系モノマーを使用するようにする。
【0014】
一般式(I)または(II)中、xは0<x<1、yは0<y<1で、x+y=1である。x、yはモノマーユニットの分子量の観点から決めるようにすればよく、AとBの分子量が同じとき、好ましくはx≒yである。
【0015】
一般式(I)または(II)中、zは全体の分子量(数平均分子量(Mn))、好ましくは10kg mol−1〜500kg mol−1である。
なお、本発明においては、数平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィー (SEC)により測定した値で表している。
【0016】
一般式(I)または(II)に示される構造ブロック共重合体は、以下のように製造することができる。
【0017】
モノマー成分Aとしてエチレン系モノマー、例えば、スチレンを使用し、モノマー成分Bとしてエチレン系モノマー、例えばビニルピリジンを使用する場合、アニオン重合、もしくはATRP法により、調製可能である。x,y,zは開始剤やモノマーの添加量や重合時間を変化することにより調整可能である。市販品としては、ポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン(X≒1830; Y≒1810; 数平均分子量(Mn)=190kg mol−1−b−190kg mol−1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製)、ポリスチレン−b−ポリ(4−ビニルピリジン) X≒190; Y≒180;数平均分子量=(Mn)=20kg mol−1−b−19kg mol−1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製)、ポリスチレン−b−ポリメタクリル酸メチルX≒1630; Y≒1680; 数平均分子量=170kg mol−1−b−168kg mol−1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製))等が入手可能である。
【0018】
モノマー成分Aとしてアルケン系モノマー、例えばブタジエン、イソプレンを使用し、モノマー成分Bとしてエチレン系モノマー、例えばビニルピリジンを使用する場合、成分Aの末端からビニルピリジンを重合することにより、調製可能である。x,y,zはモノマーの仕込み比、重合時間を変化することにより調整可能である。市販品としてはポリブタジエン-b-ポリ(メチルメタクリレート)X≒1690;Y≒920;数平均分子量=91kg mol−1−b−91.6kg mol−1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製))、ポリ(4-ビニルピリジン)-b-ポリブタジエンX≒2020;Y≒5710;数平均分子量=109kg mol−1−b−600kg mol−1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製))等が入手可能である。
【0019】
モノマー成分Aとしてエチレン系モノマー、例えば、スチレンを使用し、モノマー成分Bとしてアミノ酸、例えばリジンを使用する場合、アミノエタンチオールを用いたスチレンの連鎖移動重合の後、末端アミンからリジンNCAを重合することにより、調製可能である。x,y,zはモノマーの仕込み比、重合時間を変化することにより調整可能である。
【0020】
モノマー成分Aとアルケン系モノマー、例えばブタジエン、イソプレンを使用し、モノマー成分Bとしてアミノ酸、例えばリジンを使用する場合、イソプレン末端からリジンNCAを重合することにより、調製可能である。x,y,zはモノマーの仕込み比、重合時間を変化することにより調整可能である。
【0021】
ブロック共重合を用いて、交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を形成するには、ブロック共重合体を、該共重合体の良溶媒に、濃度が5wt%程度になるように溶解し、得られた溶液を厚さが100〜1000nm程度になるように基板上に塗布乾燥すればよい。基板としては導電性の基板、例えば白金、ITOガラス、金、PEDOT-PSS等使用すればよい。塗布は、例えばスピンコーティング法、ディップコート法、キャスト法等公知の方法を使用すればよい。乾燥条件は、溶媒を除去できればよく、特に限定されるものではない。得られた薄膜上に上記塗布乾燥工程を繰り返し行ってもよい。
【0022】
次に、塗布乾燥して得られた高分子薄膜をアニーリングすることにより、疎水性高分子セグメントAからなるラメラ層と、水溶性セグメントBからなるラメラ層が交互に誘起された交互ラメラ構造が形成される。アニーリングは、ブロック共重合体の良溶媒の蒸気雰囲気下、溶媒の沸点近傍温度、24〜48時間程度行う。各ラメラ層の厚さは、50〜100nmの範囲で調整可能である。各ラメラ層の厚さは用いる高分子の分子量を変化させることにより調整可能である。
【0023】
高分子薄膜がラメラ構造を有するか否かは、以下のようにして確認することができる。
小角X線測定、UV-vis測定、透過型電子顕微鏡観察により、高分子薄膜がラメラ構造を形成しているかが可能である。
【0024】
本発明においては、上記確認方法において、UV-vis測定による構造色のスペクトル及び角度依存性が確認された場合、ブロック共重合体の交互ラメラ構造が高分子薄膜中に形成されているとする。
【0025】
最後に、水溶性高分子セグメント中の4級アンモニウム塩を形成しうる窒素原子を含有する反応性基を架橋する。架橋は水溶性高分子セグメントの溶出及びドメインの崩壊を阻止するために行うものである。
【0026】
架橋剤としては、ジブロモブタン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、ジクロロエタン、ジクロロプロパン、ジクロロブタン等のジハロゲン化アルキルが使用可能である。好ましい架橋剤はジブロモブタンである。
【0027】
水溶性高分子セグメントが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルあるいはメタクリル酸メチル等を用いる場合は、ジアミン、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジアミン等のジアミン化合物を用いてアミド基を形成させ、架橋反応を行うようにすればよい。
【0028】
架橋は、架橋剤を疎水性高分子セグメント及び親水性高分子セグメントに対する貧溶媒に濃度10wt%で溶解させた溶液中に、ラメラ構造を発現させた高分子薄膜を浸漬することにより行うことができる。全ての反応性基を架橋しないようにする。架橋の程度は反応性基が10〜90%程度残る程度とする。この反応性基の架橋の程度は、未反応の反応性基の割合を元素分析することにより判断するようにする。本発明はその方法に測定した未反応性基の割合が、10〜50%程度であるようにすることが好ましい。未反応性基の割合は、添加する架橋剤の量を変化させる(量が少ないほど未反応性基の割合が増加する)、反応時間を変化させる(時間が短いほど未反応性基の割合が増加する)ことによりコントールすることができる。
【0029】
架橋剤に加えて、ブロモエタン、ブロモメタン、ヨウ化エタン、ヨウ化メタン等のモノハロゲン化アルキルを添加してもよい。このモノハロゲン化アルキルは、架橋度を調整するために使用する。その使用量は架橋剤に対して10〜90wt%程度である。水溶性調整剤を使用する場合でも、上記方法で測定した未反応性基の割合が、上記程度となるようにする。
【0030】
本発明のブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜は、一方向にのみサイズ変化をさせることができ、それを利用して有機高分子アクチュエータの駆動エレメントとして使用可能である。
【0031】
本発明のブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜は、架橋された水溶性高分子セグメントからなるラメラ層内で極性反発を利用することにより、該ラメラ層のサイズを増減することができる。架橋された水溶性高分子セグメントからなるラメラ層内の4級アンモニウム塩を形成しうる窒素原子を含有する反応性基は架橋剤、水溶性調整剤と全て反応しているわけではない。例えば、疎水性セグメントしてポリスチレン、水溶性セグメントしてポリビニルピリジンで構成され、架橋剤としてジブロモブタン、水溶性調整剤としてブロモエタンを使用した場合、水溶性セグメントは下記反応式により架橋しており、反応せず架橋に関係していないピリジン環が存在する。
【化1】
【0032】
反応していないピリジン環は、外部から電界をかけることで、下記反応式:
【化2】
に示したように電荷を帯びる。このイオンと上記反応式Iに示した内部に発生している電荷との間で斥力が発生することにより力が発生し変位が生じる。そしてその変位は、異方性(一軸方向性)である。この異方性は疎水性高分子セグメントからなる硬いラメラ層が交互に構成されているため、変位するラメラ層の横方向の動きが制限されるため生じていると考えている。
【0033】
水溶性高分子セグメントが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルあるいはメタクリル酸メチル等を用いる場合は、架橋されなかった部分に、カルボキシル基を加水分解によって誘導する。得られたカルボン酸は、弱塩基のアミンとは異なり、弱酸であるが、pH刺激に応答する。
【化3】
【0034】
本発明のブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜はアクチュエータの電気エネルギーを力学的エネルギーに変換する動力源要素として使用することができる。
【0035】
そのようなアクチュエータとして、例えば、図1に示したように、本発明の高分子膜1を表面に有する導電性基板電極2と、該電極2と溶液部3をはさんで対向配置された電極4からなるアクチュエータを例示できる。図1中、Aは疎水性セグメントからなるラメラ層(以下,「Aラメラ層」という)、Bは水溶性セグメントからなるラメラ層(以下,「Bラメラ層」という)を示している。本発明においては、図1に示した電極とラメラ層の配置関係を、高分子膜(ラメラ層)と電極は水平に配置されていると定義する。
【0036】
図1のアクチュエータの電極2をアノード(+)とすると、
2H2O→O2+4H++4e−
の反応が起こり、Bラメラ層中の窒素原子を含有する未架橋の反応性基が4級アンモニウム塩を形成し、該層中に存在する電荷との間で斥力が発生し、図2右側に示したように、Bラメラ層が一軸方向に膨張する。
【0037】
図1のアクチュエータの電極2をカソード(−)とすると、
2H2O+4e−→2H2+4OH−
の反応が起こり、未架橋の反応性基から形成された4級アンモニウム塩が、元の未架橋反応性基にもどり、該層中発生していた斥力が消滅し、図2左側に示したように、膨張していたBラメラ層が一軸方向に収縮する。この膨張、収縮は可逆的に起こすことができる。
【0038】
ラメラ層には電界が形成されると、H+イオンが移動する。その電界によるイオンの移動につれ、Bラメラ層は順に変位が起こる。一層おきに形成された各Bラメラ層が変位するため、それらの変位が累積し、結果として大変位を実現することができる。
【0039】
電極と電極との間に存在する溶液は、電解質溶液である。そのような溶液は、NaCl、KCl、CaCl2,Na2CO3、FeCl2、AgNO3、PBS、トリス塩酸塩等の電解質を、水等の水性溶媒、DMSO,DMF,エチルアルコール、メチルアルコール、等の有機極性溶媒に1mM〜1Mの濃度に溶解した溶液を使用するようにすればよい。水溶液のpHが中性付近であることが好ましいとの観点から、溶媒として水を使用し、電解質として、NaCl、トリス塩酸塩を使用することが望ましい。
【0040】
上記溶液に代えて、イオン液体を使用することができる。イオン液体とは、常温常圧で液体状態の有機塩である。イオン性液体として、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンあるいは1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンに対してそれぞれアニオンがBF4−、PF6−、あるいは(CF3SO2)2N−(TFSI−)である化合物等を例示できる。具体的には、例えば1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(1-butyl-3-methylimidazolium tetrafluoroborate)である。イオン液体は蒸発することなく安定であるため、安定したデバイスを実現できる。また導電率も高いため、より高速な応答を実現することができる。また、封入してデバイスを実現することが可能となる。
【0041】
図3に別の態様のアクチュエータを例示した。図1に示したアクチュエータとは高分子膜の配置方向が異なる。図1においてはAラメラ層およびBラメラ層の一方の層が電極表面上に形成され、その層上にAラメラ層、Bラメラ層が交互に積層されている形態であった。すなわち、高分子膜が電極と平行に配置されている。図3においてはAラメラ層およびBラメラ層が交互に現れる面を電極2面に接した形態である。図1における高分子膜1を90度回転させて電極間に配置した形態である。本発明においては、図3に示した電極とラメラ層の配置関係を、高分子膜(ラメラ層)と電極は垂直に配置されていると定義する。
【0042】
図3の形態のアクチュエータは、例えば電極2をアノードにすると、電極2近傍のBラメラ層が膨張し、図4左側に示したように、厚さに傾きがある変形を生じる。また、電極4をアノードにすると、電極2近傍のBラメラ層は収縮し、電極4側のBラメラ層が膨張し、図4右側に示したように、厚さに傾きがある変形を生じる。これらの変位は可逆的に変位可能である。
【0043】
本発明の高分子アクチュエータは、図5Aに示したように、図1あるいは図3に示したアクチュエータを複数個並列に接続したアレイ状構成にしてもよく、図5Bに示したようにアクチュエータを複数個直列に接続したアレイ状構成にしてもよい。また、図5Cに示したように並列アレイ構成と直列アレイ構成をミックスしたアレイ構成としてもよい。直列につなぐことで、全体の変位を大きくすることができ、並列につなぐことで、全体の発生力を大きくすることができる。
【実施例】
【0044】
(交互ラメラ構造を有する高分子薄膜の製造例)
ポリ(スチレン−b−2−ビニルピリジン)(Poly(styrene-b-2-vinyl pyridine))(Mn=190 kg mol-1-b-190 kg mol-1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製)を溶媒(ポリプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート)に溶解した溶液(5wt%)を、白金及びITO基板上にスピンコートし、温度25℃の環境下、1500rpmで60秒間スピンコーティングして溶媒を除去し、薄膜(膜厚600nm)を形成した。
【0045】
次に、得られた薄膜をクロロホルム蒸気中に静置(温度50℃、24時間)し、ラメラ構造を誘起させた。
【0046】
その後、ブロモエタン(BE)およびジプロモプタン(DBB)をそれぞれ1wt%,9wt%となるようにヘキサンに溶解した溶液中に、ラメラ構造を誘起させた薄膜を浸潰し、BE、DBBと反応させることでポリ(2−ビニルピリジン)(poly(2-vinyl pyridine))部位を架橋させ、交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を得た(上記反応式I参照)
【0047】
得られた薄膜は、水中で構造色(青色)を呈する。さらに、45°傾けると緑色である。これは、一次元の積層構造であることを示唆している。薄膜は、AFMのスクラッチング機能により膜厚を測定し、その膜厚は約600nmであることがわかった。各ラメラ層の平均膜厚は、文献と照らし合わせると50程度であることが予測された。薄膜が水中でpHに応答して色彩を変化させることから、ブロモブタンと未反応のピリジンが存在することが確認された。
【0048】
(高分子薄膜の電場印加によるサイズの変化の確認)
基板をITO基板とした以外は、上記交互ラメラ構造を有する高分子薄膜の製造例と同様にして、ITO基板上に交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を製造した。
【0049】
高分子薄膜が形成されたITO基板をアノード電極、白金基板をカソード電極とし、両電極間を10mmとし、両極間に1mMNaCl電界液を存在させ、図6に示したような構成のセルを製造した。
ITO電極(電極間距離1cm)に10Vの電位を印加したところ、高分子薄膜が、青色(印加前)から緑色(印加後)に変化した。これにより、交互ラメラ構造を有する高分子薄膜のドメインサイズが電場印加により増加することが確認された。
【0050】
(高分子薄膜の一軸方向性変位)
基板をITO基板とした以外は、上記交互ラメラ構造を有する高分子薄膜の製造例と同様にして、ITO基板上に交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を製造した。
【0051】
得られた薄膜上にポリスチレン性の蛍光ビーズ(平均粒径500nm)を、キャストし、風乾することにより乗せた。
【0052】
蛍光ビーズが乗せられた高分子薄膜ITO基板をアノード電極、白金基板をカソード電極とし、両電極間を10mmとし、両極間に10mMトリス塩酸塩緩衝溶液を存在させ、図7に示したような構成のセルを製造した。
【0053】
両電極に交流電場0.5〜10Hz(±5 V/cm、矩形波)を印加し、ビーズの動きを一分子蛍光顕微鏡で観察した。結果を図8A、図8Bに示す。
【0054】
図8A、図8B中、X軸,Y軸はそれぞれ図7中のX軸,Y軸に対応している。図8AはX軸の変位を、図8BはY軸の変位を示している。
【0055】
この図8から、電場への応答がX軸では周波数に追随して振動するのに対して、Y軸ではまったく変位が認められないことから、高分子薄膜の応答が、一軸運動であることがわかる。
【0056】
(高分子薄膜の変位・応答性)
図7の構成のセルを使用し、周波数を0.5、1、10Hz(±5 V/cm)、矩形波)と変化させて膜の応答を観察した。一分子蛍光顕微鏡で観察した。結果を図9A〜図9Cに示す。
【0057】
周波数の増加に伴い、振幅は低下したが、再現性よく薄膜が迅速に応答することが確認できた。
【0058】
より詳細に説明すると、図9Aから10秒間に5往復なので0.5Hzの周波数に追随することがわかる。図9Bから5秒間に5往復なので1Hzの周波数に追随することがわかる。図9Cから0.5秒間に5往復なので10Hzの周波数に追随することがわかる。
【0059】
(高分子薄膜の応力下での応答挙動)
基板をITO基板とした以外は、上記交互ラメラ構造を有する高分子薄膜の製造例と同様にして、ITO基板上に交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を製造した。
【0060】
高分子薄膜が形成されたITO基板をアノード電極、白金基板をカソード電極とし、両電極間を1mmとし、両極間に10mMトリス塩酸塩緩衝溶液および応力既知のポリビニルアルコールゲルを存在させ、図10に示したような構成のセルを製造した。
【0061】
ITO電極に、0.73MPaのストレスを印加しながら、4Vの電位を印加したところ、高分子薄膜が、青色(印加前)から電場印加部(図10電場印加後写真の点線内)が緑色(印加後)に変化することから、応力下においても薄膜が変位することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の有機高分子アクチュエータは、人工筋肉、人工臓器、代替組織等のソフトアクチュエーター、また、手術用医療器具等へ応用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1:ブロック共集合体の交互ラメラ構造を有する高分子膜
2:電極
3:溶液
4:電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、特に有機高分子で構成されるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子アクチュエータは、ポリピロールなどの導電性高分子と、フッ化ビニリデンにLiClO4を添加したイオン伝導性高分子の組合せが一般的であり研究されている。
【0003】
ブロックコポリマーを用いたアクチュエータとしては、ABA型のブロックコポリマーからなる構造体が、水中でpHに応答する系(非特許文献1)や、有機溶媒に膨潤した高分子がマクスウェル応力により圧縮される研究などが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Soft Mater 2007,3,1506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の高分子アクチュエータは、駆動原理がイオン拡散や高分子のコンフオメーション変化であったため、応答速度が遅かった。
【0006】
また、従来の高分子アクチュエータは、基本的に等方的な運動である。そのため、導電性高分子やイオン導電性高分子はいずれも等方的にサイズ変化するため、一方向に高速に動かすことは難しかった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、―方向に迅速に動作する高分子アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、ブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜からなる、有機高分子アクチュエータに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機高分子アクチュエータは、有機高分子で構成されているため柔らかい。
本発明の有機高分子アクチュエータは、一軸方向に動作する。
本発明の有機高分子アクチュエータは、電場に応答して可逆的に一軸方向に迅速に動作する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の高分子アクチュエータの概略構成図。
【図2】本発明のアクチュエータの作動原理を説明するための図。
【図3】本発明の高分子アクチュエータの概略構成図。
【図4】本発明のアクチュエータの作動原理を説明するための図。
【図5A】本発明の高分子アクチュエータの複数連結概略構成図。
【図5B】本発明の高分子アクチュエータの複数連結概略構成図。
【図5C】本発明の高分子アクチュエータの複数連結概略構成図。
【図6】高分子薄膜挙動観察用セルの概略構成図。
【図7】高分子薄膜挙動観察用セルの概略構成図。
【図8A】高分子薄膜の一軸変位性を示した図。
【図8B】高分子薄膜の一軸変位性を示した図。
【図9A】高分子薄膜の変位応答性を示した図。
【図9B】高分子薄膜の変位応答性を示した図。
【図9C】高分子薄膜の変位応答性を示した図。
【図10】高分子薄膜の応力下での応答挙動観察用セルと応答挙動性を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「ブロック共重合体」とは、複数の異なる単独高分子を部分構成成分とする直鎖高分子からなる共重合体をいい、本発明における交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を形成することのできるブロック共重合体は、以下の一般式(I)または(II)に示される構造のものが使用可能である。
[(A)x(B)y]z (A) (I)または
(B)[(A)x(B)y]z (II)
【0012】
一般式(I)または(II)中、Aは、疎水性高分子セグメントを表している。疎水性高分子セグメントを形成しうるモノマーとしては、エチレン系モノマー、例えば、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル(アクリル酸とメタクリル酸を表す)、(メタ)アクリレート(アクリレートとメタクリレートを表す)、ネオペンチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート等、アルケン系モノマー、例えばブタジエン、イソプレン等を挙げることができる。高分子セグメントが疎水性であるか否かは、水に不溶か否かに基づき判断できる。好ましい疎水性セグメントはスチレンモノマーで構成される疎水性高分子セグメントである。
【0013】
一般式(I)または(II)中、Bは、水溶性高分子セグメントであり、反応性官能基を有し、反応後水溶性が向上する、さらには架橋反応が可能なモノマーの重合体を表している。水溶性高分子セグメントを形成しうるモノマーとしてはエチレン系モノマー、例えばビニルピリジン、ビニルアミン、アリルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アミノ酸、例えばリジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、ヒスチジン、ケロシン、トレオニン、セリン、システイン等を挙げることができる。高分子セグメントが水溶性であるか否かは、水に可溶か否かに基づき判断できる。好ましい水溶性セグメントはビニルピリジンモノマーで構成される水溶性高分子セグメントである。
アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルは、疎水性高分子セグメントおよび水溶性高分子セグメントの両方の構成モノマーとして例示されているが、水溶性高分子セグメントを形成しうるモノマーが、エチレン系モノマー、ビニルピリジン、ビニルアミン、アリルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、アミノ酸、例えばリジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、ヒスチジン、ケロシン、トレオニン、セリン、システイン等として構成する場合は、疎水性セグメントとして機能し、疎水性高分子セグメントを形成しうるモノマーが、エチレン系モノマー、例えば、スチレン、アルケン系モノマー、例えばブタジエン、イソプレン等の場合は、水溶性高分子セグメントして機能する。
水溶性高分子セグメント構成モノマーとして、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルを使用する場合は、疎水性高分子セグメントの構成モノマーとして同じモノマーを使用しないようにする。水溶性高分子セグメント構成モノマーとしてアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルを使用する場合は、疎水性高分子セグメントの構成モノマーとしては、スチレンモノマー、アルケン系モノマーを使用するようにする。
【0014】
一般式(I)または(II)中、xは0<x<1、yは0<y<1で、x+y=1である。x、yはモノマーユニットの分子量の観点から決めるようにすればよく、AとBの分子量が同じとき、好ましくはx≒yである。
【0015】
一般式(I)または(II)中、zは全体の分子量(数平均分子量(Mn))、好ましくは10kg mol−1〜500kg mol−1である。
なお、本発明においては、数平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィー (SEC)により測定した値で表している。
【0016】
一般式(I)または(II)に示される構造ブロック共重合体は、以下のように製造することができる。
【0017】
モノマー成分Aとしてエチレン系モノマー、例えば、スチレンを使用し、モノマー成分Bとしてエチレン系モノマー、例えばビニルピリジンを使用する場合、アニオン重合、もしくはATRP法により、調製可能である。x,y,zは開始剤やモノマーの添加量や重合時間を変化することにより調整可能である。市販品としては、ポリスチレン−b−ポリ(2−ビニルピリジン(X≒1830; Y≒1810; 数平均分子量(Mn)=190kg mol−1−b−190kg mol−1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製)、ポリスチレン−b−ポリ(4−ビニルピリジン) X≒190; Y≒180;数平均分子量=(Mn)=20kg mol−1−b−19kg mol−1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製)、ポリスチレン−b−ポリメタクリル酸メチルX≒1630; Y≒1680; 数平均分子量=170kg mol−1−b−168kg mol−1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製))等が入手可能である。
【0018】
モノマー成分Aとしてアルケン系モノマー、例えばブタジエン、イソプレンを使用し、モノマー成分Bとしてエチレン系モノマー、例えばビニルピリジンを使用する場合、成分Aの末端からビニルピリジンを重合することにより、調製可能である。x,y,zはモノマーの仕込み比、重合時間を変化することにより調整可能である。市販品としてはポリブタジエン-b-ポリ(メチルメタクリレート)X≒1690;Y≒920;数平均分子量=91kg mol−1−b−91.6kg mol−1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製))、ポリ(4-ビニルピリジン)-b-ポリブタジエンX≒2020;Y≒5710;数平均分子量=109kg mol−1−b−600kg mol−1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製))等が入手可能である。
【0019】
モノマー成分Aとしてエチレン系モノマー、例えば、スチレンを使用し、モノマー成分Bとしてアミノ酸、例えばリジンを使用する場合、アミノエタンチオールを用いたスチレンの連鎖移動重合の後、末端アミンからリジンNCAを重合することにより、調製可能である。x,y,zはモノマーの仕込み比、重合時間を変化することにより調整可能である。
【0020】
モノマー成分Aとアルケン系モノマー、例えばブタジエン、イソプレンを使用し、モノマー成分Bとしてアミノ酸、例えばリジンを使用する場合、イソプレン末端からリジンNCAを重合することにより、調製可能である。x,y,zはモノマーの仕込み比、重合時間を変化することにより調整可能である。
【0021】
ブロック共重合を用いて、交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を形成するには、ブロック共重合体を、該共重合体の良溶媒に、濃度が5wt%程度になるように溶解し、得られた溶液を厚さが100〜1000nm程度になるように基板上に塗布乾燥すればよい。基板としては導電性の基板、例えば白金、ITOガラス、金、PEDOT-PSS等使用すればよい。塗布は、例えばスピンコーティング法、ディップコート法、キャスト法等公知の方法を使用すればよい。乾燥条件は、溶媒を除去できればよく、特に限定されるものではない。得られた薄膜上に上記塗布乾燥工程を繰り返し行ってもよい。
【0022】
次に、塗布乾燥して得られた高分子薄膜をアニーリングすることにより、疎水性高分子セグメントAからなるラメラ層と、水溶性セグメントBからなるラメラ層が交互に誘起された交互ラメラ構造が形成される。アニーリングは、ブロック共重合体の良溶媒の蒸気雰囲気下、溶媒の沸点近傍温度、24〜48時間程度行う。各ラメラ層の厚さは、50〜100nmの範囲で調整可能である。各ラメラ層の厚さは用いる高分子の分子量を変化させることにより調整可能である。
【0023】
高分子薄膜がラメラ構造を有するか否かは、以下のようにして確認することができる。
小角X線測定、UV-vis測定、透過型電子顕微鏡観察により、高分子薄膜がラメラ構造を形成しているかが可能である。
【0024】
本発明においては、上記確認方法において、UV-vis測定による構造色のスペクトル及び角度依存性が確認された場合、ブロック共重合体の交互ラメラ構造が高分子薄膜中に形成されているとする。
【0025】
最後に、水溶性高分子セグメント中の4級アンモニウム塩を形成しうる窒素原子を含有する反応性基を架橋する。架橋は水溶性高分子セグメントの溶出及びドメインの崩壊を阻止するために行うものである。
【0026】
架橋剤としては、ジブロモブタン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、ジクロロエタン、ジクロロプロパン、ジクロロブタン等のジハロゲン化アルキルが使用可能である。好ましい架橋剤はジブロモブタンである。
【0027】
水溶性高分子セグメントが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルあるいはメタクリル酸メチル等を用いる場合は、ジアミン、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジアミン等のジアミン化合物を用いてアミド基を形成させ、架橋反応を行うようにすればよい。
【0028】
架橋は、架橋剤を疎水性高分子セグメント及び親水性高分子セグメントに対する貧溶媒に濃度10wt%で溶解させた溶液中に、ラメラ構造を発現させた高分子薄膜を浸漬することにより行うことができる。全ての反応性基を架橋しないようにする。架橋の程度は反応性基が10〜90%程度残る程度とする。この反応性基の架橋の程度は、未反応の反応性基の割合を元素分析することにより判断するようにする。本発明はその方法に測定した未反応性基の割合が、10〜50%程度であるようにすることが好ましい。未反応性基の割合は、添加する架橋剤の量を変化させる(量が少ないほど未反応性基の割合が増加する)、反応時間を変化させる(時間が短いほど未反応性基の割合が増加する)ことによりコントールすることができる。
【0029】
架橋剤に加えて、ブロモエタン、ブロモメタン、ヨウ化エタン、ヨウ化メタン等のモノハロゲン化アルキルを添加してもよい。このモノハロゲン化アルキルは、架橋度を調整するために使用する。その使用量は架橋剤に対して10〜90wt%程度である。水溶性調整剤を使用する場合でも、上記方法で測定した未反応性基の割合が、上記程度となるようにする。
【0030】
本発明のブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜は、一方向にのみサイズ変化をさせることができ、それを利用して有機高分子アクチュエータの駆動エレメントとして使用可能である。
【0031】
本発明のブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜は、架橋された水溶性高分子セグメントからなるラメラ層内で極性反発を利用することにより、該ラメラ層のサイズを増減することができる。架橋された水溶性高分子セグメントからなるラメラ層内の4級アンモニウム塩を形成しうる窒素原子を含有する反応性基は架橋剤、水溶性調整剤と全て反応しているわけではない。例えば、疎水性セグメントしてポリスチレン、水溶性セグメントしてポリビニルピリジンで構成され、架橋剤としてジブロモブタン、水溶性調整剤としてブロモエタンを使用した場合、水溶性セグメントは下記反応式により架橋しており、反応せず架橋に関係していないピリジン環が存在する。
【化1】
【0032】
反応していないピリジン環は、外部から電界をかけることで、下記反応式:
【化2】
に示したように電荷を帯びる。このイオンと上記反応式Iに示した内部に発生している電荷との間で斥力が発生することにより力が発生し変位が生じる。そしてその変位は、異方性(一軸方向性)である。この異方性は疎水性高分子セグメントからなる硬いラメラ層が交互に構成されているため、変位するラメラ層の横方向の動きが制限されるため生じていると考えている。
【0033】
水溶性高分子セグメントが、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルあるいはメタクリル酸メチル等を用いる場合は、架橋されなかった部分に、カルボキシル基を加水分解によって誘導する。得られたカルボン酸は、弱塩基のアミンとは異なり、弱酸であるが、pH刺激に応答する。
【化3】
【0034】
本発明のブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜はアクチュエータの電気エネルギーを力学的エネルギーに変換する動力源要素として使用することができる。
【0035】
そのようなアクチュエータとして、例えば、図1に示したように、本発明の高分子膜1を表面に有する導電性基板電極2と、該電極2と溶液部3をはさんで対向配置された電極4からなるアクチュエータを例示できる。図1中、Aは疎水性セグメントからなるラメラ層(以下,「Aラメラ層」という)、Bは水溶性セグメントからなるラメラ層(以下,「Bラメラ層」という)を示している。本発明においては、図1に示した電極とラメラ層の配置関係を、高分子膜(ラメラ層)と電極は水平に配置されていると定義する。
【0036】
図1のアクチュエータの電極2をアノード(+)とすると、
2H2O→O2+4H++4e−
の反応が起こり、Bラメラ層中の窒素原子を含有する未架橋の反応性基が4級アンモニウム塩を形成し、該層中に存在する電荷との間で斥力が発生し、図2右側に示したように、Bラメラ層が一軸方向に膨張する。
【0037】
図1のアクチュエータの電極2をカソード(−)とすると、
2H2O+4e−→2H2+4OH−
の反応が起こり、未架橋の反応性基から形成された4級アンモニウム塩が、元の未架橋反応性基にもどり、該層中発生していた斥力が消滅し、図2左側に示したように、膨張していたBラメラ層が一軸方向に収縮する。この膨張、収縮は可逆的に起こすことができる。
【0038】
ラメラ層には電界が形成されると、H+イオンが移動する。その電界によるイオンの移動につれ、Bラメラ層は順に変位が起こる。一層おきに形成された各Bラメラ層が変位するため、それらの変位が累積し、結果として大変位を実現することができる。
【0039】
電極と電極との間に存在する溶液は、電解質溶液である。そのような溶液は、NaCl、KCl、CaCl2,Na2CO3、FeCl2、AgNO3、PBS、トリス塩酸塩等の電解質を、水等の水性溶媒、DMSO,DMF,エチルアルコール、メチルアルコール、等の有機極性溶媒に1mM〜1Mの濃度に溶解した溶液を使用するようにすればよい。水溶液のpHが中性付近であることが好ましいとの観点から、溶媒として水を使用し、電解質として、NaCl、トリス塩酸塩を使用することが望ましい。
【0040】
上記溶液に代えて、イオン液体を使用することができる。イオン液体とは、常温常圧で液体状態の有機塩である。イオン性液体として、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンあるいは1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンに対してそれぞれアニオンがBF4−、PF6−、あるいは(CF3SO2)2N−(TFSI−)である化合物等を例示できる。具体的には、例えば1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(1-butyl-3-methylimidazolium tetrafluoroborate)である。イオン液体は蒸発することなく安定であるため、安定したデバイスを実現できる。また導電率も高いため、より高速な応答を実現することができる。また、封入してデバイスを実現することが可能となる。
【0041】
図3に別の態様のアクチュエータを例示した。図1に示したアクチュエータとは高分子膜の配置方向が異なる。図1においてはAラメラ層およびBラメラ層の一方の層が電極表面上に形成され、その層上にAラメラ層、Bラメラ層が交互に積層されている形態であった。すなわち、高分子膜が電極と平行に配置されている。図3においてはAラメラ層およびBラメラ層が交互に現れる面を電極2面に接した形態である。図1における高分子膜1を90度回転させて電極間に配置した形態である。本発明においては、図3に示した電極とラメラ層の配置関係を、高分子膜(ラメラ層)と電極は垂直に配置されていると定義する。
【0042】
図3の形態のアクチュエータは、例えば電極2をアノードにすると、電極2近傍のBラメラ層が膨張し、図4左側に示したように、厚さに傾きがある変形を生じる。また、電極4をアノードにすると、電極2近傍のBラメラ層は収縮し、電極4側のBラメラ層が膨張し、図4右側に示したように、厚さに傾きがある変形を生じる。これらの変位は可逆的に変位可能である。
【0043】
本発明の高分子アクチュエータは、図5Aに示したように、図1あるいは図3に示したアクチュエータを複数個並列に接続したアレイ状構成にしてもよく、図5Bに示したようにアクチュエータを複数個直列に接続したアレイ状構成にしてもよい。また、図5Cに示したように並列アレイ構成と直列アレイ構成をミックスしたアレイ構成としてもよい。直列につなぐことで、全体の変位を大きくすることができ、並列につなぐことで、全体の発生力を大きくすることができる。
【実施例】
【0044】
(交互ラメラ構造を有する高分子薄膜の製造例)
ポリ(スチレン−b−2−ビニルピリジン)(Poly(styrene-b-2-vinyl pyridine))(Mn=190 kg mol-1-b-190 kg mol-1:ポリマーソース社(Polymer Source, Inc.)製)を溶媒(ポリプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート)に溶解した溶液(5wt%)を、白金及びITO基板上にスピンコートし、温度25℃の環境下、1500rpmで60秒間スピンコーティングして溶媒を除去し、薄膜(膜厚600nm)を形成した。
【0045】
次に、得られた薄膜をクロロホルム蒸気中に静置(温度50℃、24時間)し、ラメラ構造を誘起させた。
【0046】
その後、ブロモエタン(BE)およびジプロモプタン(DBB)をそれぞれ1wt%,9wt%となるようにヘキサンに溶解した溶液中に、ラメラ構造を誘起させた薄膜を浸潰し、BE、DBBと反応させることでポリ(2−ビニルピリジン)(poly(2-vinyl pyridine))部位を架橋させ、交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を得た(上記反応式I参照)
【0047】
得られた薄膜は、水中で構造色(青色)を呈する。さらに、45°傾けると緑色である。これは、一次元の積層構造であることを示唆している。薄膜は、AFMのスクラッチング機能により膜厚を測定し、その膜厚は約600nmであることがわかった。各ラメラ層の平均膜厚は、文献と照らし合わせると50程度であることが予測された。薄膜が水中でpHに応答して色彩を変化させることから、ブロモブタンと未反応のピリジンが存在することが確認された。
【0048】
(高分子薄膜の電場印加によるサイズの変化の確認)
基板をITO基板とした以外は、上記交互ラメラ構造を有する高分子薄膜の製造例と同様にして、ITO基板上に交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を製造した。
【0049】
高分子薄膜が形成されたITO基板をアノード電極、白金基板をカソード電極とし、両電極間を10mmとし、両極間に1mMNaCl電界液を存在させ、図6に示したような構成のセルを製造した。
ITO電極(電極間距離1cm)に10Vの電位を印加したところ、高分子薄膜が、青色(印加前)から緑色(印加後)に変化した。これにより、交互ラメラ構造を有する高分子薄膜のドメインサイズが電場印加により増加することが確認された。
【0050】
(高分子薄膜の一軸方向性変位)
基板をITO基板とした以外は、上記交互ラメラ構造を有する高分子薄膜の製造例と同様にして、ITO基板上に交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を製造した。
【0051】
得られた薄膜上にポリスチレン性の蛍光ビーズ(平均粒径500nm)を、キャストし、風乾することにより乗せた。
【0052】
蛍光ビーズが乗せられた高分子薄膜ITO基板をアノード電極、白金基板をカソード電極とし、両電極間を10mmとし、両極間に10mMトリス塩酸塩緩衝溶液を存在させ、図7に示したような構成のセルを製造した。
【0053】
両電極に交流電場0.5〜10Hz(±5 V/cm、矩形波)を印加し、ビーズの動きを一分子蛍光顕微鏡で観察した。結果を図8A、図8Bに示す。
【0054】
図8A、図8B中、X軸,Y軸はそれぞれ図7中のX軸,Y軸に対応している。図8AはX軸の変位を、図8BはY軸の変位を示している。
【0055】
この図8から、電場への応答がX軸では周波数に追随して振動するのに対して、Y軸ではまったく変位が認められないことから、高分子薄膜の応答が、一軸運動であることがわかる。
【0056】
(高分子薄膜の変位・応答性)
図7の構成のセルを使用し、周波数を0.5、1、10Hz(±5 V/cm)、矩形波)と変化させて膜の応答を観察した。一分子蛍光顕微鏡で観察した。結果を図9A〜図9Cに示す。
【0057】
周波数の増加に伴い、振幅は低下したが、再現性よく薄膜が迅速に応答することが確認できた。
【0058】
より詳細に説明すると、図9Aから10秒間に5往復なので0.5Hzの周波数に追随することがわかる。図9Bから5秒間に5往復なので1Hzの周波数に追随することがわかる。図9Cから0.5秒間に5往復なので10Hzの周波数に追随することがわかる。
【0059】
(高分子薄膜の応力下での応答挙動)
基板をITO基板とした以外は、上記交互ラメラ構造を有する高分子薄膜の製造例と同様にして、ITO基板上に交互ラメラ構造を有する高分子薄膜を製造した。
【0060】
高分子薄膜が形成されたITO基板をアノード電極、白金基板をカソード電極とし、両電極間を1mmとし、両極間に10mMトリス塩酸塩緩衝溶液および応力既知のポリビニルアルコールゲルを存在させ、図10に示したような構成のセルを製造した。
【0061】
ITO電極に、0.73MPaのストレスを印加しながら、4Vの電位を印加したところ、高分子薄膜が、青色(印加前)から電場印加部(図10電場印加後写真の点線内)が緑色(印加後)に変化することから、応力下においても薄膜が変位することを示している。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の有機高分子アクチュエータは、人工筋肉、人工臓器、代替組織等のソフトアクチュエーター、また、手術用医療器具等へ応用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1:ブロック共集合体の交互ラメラ構造を有する高分子膜
2:電極
3:溶液
4:電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜からなる、有機高分子アクチュエータ。
【請求項2】
ブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜、溶液部、および該高分子薄膜および溶液部をはさんだ電極からなる有機高分子アクチュエータ。
【請求項3】
溶液部がイオン液体である、請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
電極と高分子薄膜が水平に配置されている、請求項2または3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
電極と高分子薄膜が垂直に配置されている、請求項2または3に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
ブロック共重合体が、スチレンおよびビニルピリジンから構成されるブロック共重合体である、請求項1〜5いずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項1】
ブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜からなる、有機高分子アクチュエータ。
【請求項2】
ブロック共重合体の交互ラメラ構造を有する高分子薄膜、溶液部、および該高分子薄膜および溶液部をはさんだ電極からなる有機高分子アクチュエータ。
【請求項3】
溶液部がイオン液体である、請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
電極と高分子薄膜が水平に配置されている、請求項2または3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
電極と高分子薄膜が垂直に配置されている、請求項2または3に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
ブロック共重合体が、スチレンおよびビニルピリジンから構成されるブロック共重合体である、請求項1〜5いずれかに記載のアクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【公開番号】特開2010−263693(P2010−263693A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112532(P2009−112532)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]