説明

有機ELパネル

【課題】 有機ELパネルの寿命を改善し、信頼性を向上させる。
【解決手段】 有機ELパネルAは、少なくとも陽極6と有機層5と光透過性陰極2とを有する積層体を透光性基板1に形成したものである。陽極6は金属からなると共に、光透過性陰極2は透明導電膜2d及びアルミニウム膜2eを有するものである。積層体は、電子輸送層,発光層,正孔輸送層,正孔注入層を有するものである。アルミニウム膜2eは、透明導電膜2d上に、0.5nm〜1.0nmで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機層を有する積層体を透光性基板に形成した有機ELパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機材料によって形成される自発光素子である有機EL素子は、例えば、陽極となるITO(Indium Tin Oxide)等からなる第一電極と、少なくとも発光層を有する有機層と、陰極となるアルミニウム(Al)等からなる非透光性の第二電極と、を順次積層して前記有機EL素子を形成するものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
斯かる有機EL素子は、前記第一電極から正孔を注入し、また、第二電極から電子を注入して正孔及び電子が前記発光層にて再結合することによって光を発するものであり、面で均一な発光を示すとともに、高コントラストで高速応答性であるため、薄型,3Dテレビの表示器に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−194393号公報
【特許文献2】特開2000−182774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有機EL素子は、長時間の通電により劣化が生じるため、表示器で焼きつきが発生してしまうことがあった。通電劣化を抑制することが、テレビ用のような大画面表示器では、必要不可欠な課題であった。
本発明は、この問題に鑑みなされたものであり、有機ELパネルの寿命を改善し、信頼性を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、請求項1に記載したように、少なくとも陽極と有機層と光透過性陰極とを有する積層体を透光性基板に形成した有機ELパネルであって、前記陽極は金属からなると共に、前記光透過性陰極は透明導電膜及びアルミニウム膜を有するものである。
【0007】
また、本発明は、請求項2に記載したように、前記積層体は、電子輸送層,発光層,正孔輸送層,正孔注入層を有するものである。
【0008】
また、本発明は、請求項3に記載したように、前記アルミニウム膜は、前記透明導電膜上に、0.5nm〜1.0nmで形成されているものである。
【0009】
また、本発明は、請求項4に記載したように、前記陽極は、金属酸化膜及びアルミニウム膜を有するものである。
【0010】
また、本発明は、請求項5に記載したように、前記金属酸化膜は、酸化モリブデンであるものである。
【0011】
また、本発明は、請求項6に記載したように、前記電子輸送層は、電子輸送材料とリチウム錯体との混合層から構成されているものである。
【0012】
また、本発明は、請求項7に記載したように、前記電子輸送層は、電子移動度が10−5cm/V・s以上の電子輸送材料からなるものである。
【発明の効果】
【0013】
有機ELパネルの寿命が改善され、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図。
【図2】同上実施形態を示す正面図。
【図3】同上実施形態を示す要部拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、ドットマトリクス型の有機ELパネルに本発明を適用した一実施形態を添付の図面に基づいて説明する。
有機ELパネルAは、支持基板(透光性基板)1と、第一電極(光透過性陰極)2と、絶縁層3と、隔壁部4と、有機層5と、第二電極(陽極)6と、封止部材7とから主に構成されている。
【0016】
支持基板1は、長方形形状からなる透光性のガラス基板である。第一電極2は、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透光性の導電材料をスパッタリングあるいは蒸着法等の方法で支持基板1上に層状に形成し、例えばフォトリソグラフィー法にてストライプ状にパターニングしてなるものである。第一電極2は、陰極配線部2a及び陰極部2bを有しており、陰極配線部2aは終端部に外部電源と電気的に接続するための陰極端子部2cを備える。また、第一電極2は、表面がUV/O処理やプラズマ処理等の表面処理を施されている。
【0017】
絶縁層3は、ポリイミド系やフェノール系等の絶縁材料からなるものでフォトリソグラフィー法等の手段によって支持基板1上の非発光個所に所定の形状にて形成される。絶縁層3は、第一電極2の各陰極部2bの間に形成されるとともに第一電極2と若干重なるように形成され、第一電極2と第二電極6との間を絶縁するものである。
【0018】
隔壁部4は、例えばフェノール系等の絶縁材料からなるものであり、フォトリソグラフィー法等の手段によって断面が逆テーパー状に形成される。隔壁部4は第一電極2及び絶縁層3上においては陰極部2bと略直角に交わるように形成され、また、支持基板1上の後述する陽極配線部に対応する個所においては、支持基板1の有機EL素子形成面側から見て円弧状となるように形成される。
【0019】
有機層5は、第一電極2及び絶縁層3上に形成されるものであり、電子注入輸送層(電子注入層)5a,第一発光層5b,第二発光層5c,正孔輸送層5d及び正孔注入層5eを蒸着法等の手段によって順次積層形成してなり、膜厚60〜150nm程度の層状となるものである。
【0020】
電子注入輸送層5aは、第一電極2から電子を取り込み、発光層5bに伝達する機能を有し、例えばトリアジン系化合物等の電子輸送材料とリチウム錯体との混合層を蒸着法等の手段によって膜厚15〜40nm程度の層状に形成してなる。電子注入輸送層5aは、ガラス転移温度が85℃以上(さらに好ましくは130℃以上)であり、エネルギーギャップは3.1eV程度である。
【0021】
第一の発光層5bは、ホスト材料5fにゲスト材料として発光性のドーパント5g1、正孔輸送材料として5hを蒸着法等の手段によってドープし、膜厚15〜60nm程度の層状に形成してなる。ホスト材料5fは、正孔及び電子の輸送が可能であり、正孔及び電子が輸送されて再結合することで発光を示す機能を有し、3.3eV程度のエネルギーギャップを持つ。ドーパント5g1は、電子と正孔との再結合に反応して発光する機能を有し、所定の発光色を示し、前記発光層にドープされる発光物質は、例えば青緑色発光を示す蛍光ドーパントからなり、発光層に混合する正孔輸送ドーパント5hは、第一の発光層5bの正孔輸送材料の濃度は、50%以下で、ガラス転移温度が85℃以上で好ましくは120℃以上の材料である。
【0022】
第二の発光層5cは、ホスト材料5fにゲスト材料として発光性のドーパント5g2、正孔輸送材料として5hを蒸着法等の手段によってドープし、膜厚15〜60nm程度の層状に形成してなる。ホスト材料5fは、正孔及び電子の輸送が可能であり、正孔及び電子が輸送されて再結合することで発光を示す機能を有し、3.3eV程度のエネルギーギャップを持つ。ドーパント5g2は、電子と正孔との再結合に反応して発光する機能を有し、所定の発光色を示し、前記発光層にドープされる発光物質は、例えば橙色発光を示す蛍光ドーパントからなり、発光層に混合する正孔輸送ドーパント5hは、第一の発光層5bの正孔輸送材料の濃度は、50%以下で、ガラス転移温度が85℃以上で好ましくは120℃以上の材料である。
【0023】
正孔輸送層5dは、正孔を正孔注入層から発光層5cへ伝達する機能を有し、HOMOが5.2eVより大きい正孔輸送性材料あるいは10−4cm/V・s以上の正孔移動度をもつ有機材料で膜厚8〜30nm程度の層状に形成している。
正孔注入層5eは、第二電極6から正孔注入する機能を有し、HOMOが5.2eV程度のアミン系の化合物を蒸着法等の手段によって膜厚5〜40nm程度の層状に形成してなる。
【0024】
第二電極6は、金属酸化膜、例えば酸化モリブデンとアルミニウム(Al)の積層構造からなり膜厚50〜200nm程度の層状に形成してなるものである。隔壁部4によってストライプ状に切断され、円弧状の陽極配線部6a及び透明電極2に略直角に交わる陽極部6bが形成される。また、陽極配線部6aは接続配線部8に電気的に接続されている。接続配線部8は、第一電極2とともに形成されるものであり、同一材料のITOからなるものである。また、接続配線部8は、終端部に前記外部電源と電気的に接続するための陽極端子部8aが形成されている。
【0025】
以上のように、支持基板1上に第一電極2と絶縁層3と隔壁部4と有機層5と第二電極6とを順次積層して、陰極部2bと陽極部6bの対向箇所からなる発光画素がマトリクス状に設けられた有機EL素子が得られる。
【0026】
封止部材7は、例えばガラス材料からなる成型ガラス或いは平板部材をサンドブラスト、切削及びエッチング等の適宜方法で凹形状に形成してなるものである。封止部材7は、例えば紫外線硬化性エポキシ樹脂からなる接着剤7aを介して支持基板1上に気密的に配設することで、封止部材7と支持基板1とで前記有機EL素子を封止する。封止部材7は、第一電極2の陰極端子部2cおよび第二電極6に接続される陽極端子部8aが外部に露出するように支持基板1よりも若干小さめに構成されている。なお、封止部材は、平板状であってもよく、その場合、前記封止部材はスペーサーを介して支持基板上に配設される。
【0027】
以上のように、陰極部2bと陽極部6bの対向箇所からなる画素がマトリクス状に設けられた前記有機EL素子を表示部とするドットマトリクス型の有機ELパネルAが得られる。この有機ELパネルAは、第1電極2からの電子と第二電極6からの正孔とが発光層5b,5cにて再結合することによって白色発光を得るものである。また、有機ELパネルAはストライプ状に形成された複数の陰極部2bと複数の陽極部6bのそれぞれ何れかを選択して定電流を印加し、選択された陰極部2bと陽極部6bの対向箇所からなる画素を発光させる、いわゆるパッシブ駆動で駆動するものである。
【0028】
以下、陰極となる第一電極2について詳述する。
【0029】
実施例1
陰極となる第一電極2は、透明導電膜であるITO2dを80nm形成した後、アルミニウム2eを1nm形成した。アルミニウム2eの蒸着後、大気暴露することなく電子注入層としてLiFを1nm形成し、その上に電子注入輸送層5aとしてET1(Ip=6.0eV,Ea=3.0eV,4×10−4cm/V・s)とリチウムキノリン(Liq)の比率50%の混合層を10nm形成し、第一の発光層5bは、5fのホスト材用として、EM1(Ip=5.9eV,Ea=2.9eV,μe=3×10−3cm/V・s,μh=2×10−3cm/V・s)を使用し、5g1として青色のドーパントBD1(Eg=2.7eV,Ip=5.6eV)、5hとして正孔輸送材料HT1(Tg=130℃,Ip=5.4eV,μh=4×10−4cm/V・s)を使用し、EM1:BD1:HT1を21:1.2:9比率で発光層5bを形成し、第二の発光層5cとして、5fのホスト材用として、EM1(Ip=5.9eV,Ea=2.9eV,μe=3×10−3cm/V・s,μh=2×10−3cm/V・s)を使用し、5g2として橙色のドーパントAD1(Eg=2.0eV,Ip=5.2eV)、5hとして正孔輸送材料HT1(Tg=130℃,Ip=5.4eV,μh=4×10−4cm/V・s)を使用し、EM1:AD1:HT1を6:0.3:4比率で第2発光層を形成し、正孔輸送層5dとしてHT1(Tg=130℃,Ip=5.4eV,μh=4×10−4cm/V・s)を10nm形成し、正孔注入層5eとしてHI(Tg=130℃,Ip=5.2eV,μh=4×10−4cm/V・s)20nm、形成し、第二電極の陽極として6cの酸化モリブデンを20nm、6d金属としてアルミニウムを100nm形成した素子は、白色発光を示した。得られる白色素子の特性は、ピーク輝度Lp=3000cd/mで、電圧5.68V,色度CIExy(0.36,0.42)で、30℃でのDC駆動で95%寿命L95は、3000時間を越えた(Lp=3000cd/m)。
【0030】
実施例2
第一電極の陰極としてアルミニウム2eの膜厚0.5nmに形成した以外は、実施例1と同じ構成で形成した素子は、白色発光を示した。得られた白色素子の特性は、ピーク輝度Lp=3000cd/mで、電圧6.5V、色度(0.407,0.434)で、30℃でのDC駆動寿命で95%寿命L95は、2000時間を超えた(Lp=3000cd/m)。
【0031】
実施例3
第二電極の陽極6cとして、酸化モリブデンを5nm形成した以外は、実施例1と同じ構成で作製した素子は、白色発光を示した。得られた白色の素子の特性は、ピーク輝度Lp=3000cd/mで、電圧5.3V、色度(0.26,0.33)で、30℃でのDC駆動寿命で95%寿命L95は、3000時間を超えた。
【0032】
比較例1
透明電極1は、ITOを100nmを形成した後、正孔注入輸送層5aとしてHT1を30nmを形成し、第一の発光層である発光層5bは、5fのホスト材用として、EM1(Ip=5.9eV,Ea=2.9eV,μe=3×10−4cm/V・s,μh=2×10−4cm/V・s)を使用し、5g1として橙色のドーパントAD1(Eg=2.0eV,Ip=5.2eV)、5hとして正孔輸送材料HT1(Tg=130℃,Ip=5.4eV,μh=4×10−4cm/V・s)を使用し、EM1:AD1:HT1を6:0.3:4比率で発光層5bを形成し、第二の発光層である発光層5cは、ホスト材料としてEM1を使用し、ドーパントとして5jブルーグリーンドーパントBD1(Eg=2.7eV,Ip=5.6eV)、正孔輸送材料としてHT1を使用しEM1:cとしBD1:HT1を20:1.2:10で発光層5cを形成し、電子輸送層5てET1(Ip=5.8eV,Ea=3.0eV,84×10−6cm/V・s)を10nm、電子注入層5dとしてLiFを1nm形成し、陰極6としてアルミニウムを100nm形成した素子は、白色発光を示した。得られる白色色素子の特性は、ピーク輝度3000cd/mで、電圧5.6V,色度(0.32,0.33)で、30℃でのDC駆動寿命で95%寿命L95は、300時間であった。
【0033】
比較例2
第一電極の陰極としてアルミニウム2eの膜厚3nmに形成した以外は、実施例1と同じ構成で形成した素子は、白色発光を示した。得られた白色素子の特性は、ピーク輝度Lp=3000cd/mで、電圧5.3V,色度(0.39,0.41)で、30℃でのDC駆動寿命で95%寿命L95は、2000時間を超えたが、陰極として蒸着したアルミニウム全体が電極となって、表示以外が発光するため、ディスプレイには使用できない。
【0034】
比較例3
電子注入輸送層5aとしてET2(Ip=5.8eV,Ea=3.0eV,8×10−6cm/V・s)とした以外は、実施例1と同じ構成で素子を形成した。素子は、橙色発光を示した。得られる橙色素子の特性は、ピーク輝度Lp=3000cd/mで、電圧8.1V,色度(0.445,0.433),30℃でのDC駆動での95%寿命L95は、数時間であった(Lp=3000cd/m)。
【0035】
なお、本実施形態はドットマトリクス型の有機ELパネルAであったが、本発明は、セグメント型の有機ELパネルにも適用可能であり、アクティブ駆動にも適用可能である。また、本実施形態の有機ELパネルAは、第一電極2と発光層5bとの間に電子注入輸送層5aを積層形成する構成であったが、本発明においては、陰極と発光層との間に電子注入層及び電子輸送層が順次積層形成されるものであってもよい。
【0036】
また、本実施形態の有機ELパネルAにおいて、正孔輸送層5dが単一層にて構成されるものであったが、本発明においては、複数の層で構成されるものであってもよい。また、本実施形態の有機ELにおいて、発光層5b,5cと二層にて構成されるものであったが、本発明においては、一層あるいは三層以上の層で形成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0037】
A 有機ELパネル
1 支持基板(透光性基板)
2 第一電極(光透過性陰極)
2d 透明電極膜
2e アルミニウム膜
5 有機層
6 第二電極(陽極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも陽極と有機層と光透過性陰極とを有する積層体を透光性基板に形成した有機ELパネルであって、前記陽極は金属からなると共に、前記光透過性陰極は透明導電膜及びアルミニウム膜を有することを特徴とする有機ELパネル。
【請求項2】
前記積層体は、電子輸送層,発光層,正孔輸送層,正孔注入層を有することを特徴とする請求項1に記載の有機ELパネル。
【請求項3】
前記アルミニウム膜は、前記透明導電膜上に、0.5nm〜1.0nmで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機ELパネル。
【請求項4】
前記陽極は、金属酸化膜及びアルミニウム膜を有することを特徴とする請求項1に記載の有機ELパネル。
【請求項5】
前記金属酸化膜は、酸化モリブデンであることを特徴とする請求項4に記載の有機ELパネル。
【請求項6】
前記電子輸送層は、電子輸送材料とリチウム錯体との混合層から構成されていることを特徴とする請求項2に記載の有機ELパネル。
【請求項7】
前記電子輸送層は、電子移動度が10−5cm/V・s以上の電子輸送材料からなることを特徴とする請求項2に記載の有機ELパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−204037(P2012−204037A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65353(P2011−65353)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】