説明

有機EL発光装置

【課題】長時間に渡り安定した輝度で発光する有機EL発光装置を提供する。
【解決手段】陽極14及び陰極17と、陽極14及び陰極17に挟持される発光層12、電子注入輸送層16とを少なくとも有する発光素子10を複数有し、複数の発光素子10に電流を供給する電流源と、駆動時に複数の発光素子10に印加される電圧をモニタするモニタ回路と、モニタ回路出力に応じて電流源の出力制御を行う出力制御手段と、を有する有機EL発光装置において、電子注入輸送層16がセシウムを30mol%以上含む有機EL発光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフラットパネルディスプレイ、プロジェクションディスプレイ、プリンター等に用いられる多色発光素子を複数有する有機EL発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネル対応の自発光型デバイスが注目されている。自発光型デバイスとしては、プラズマ発光表示素子、フィールドエミッション素子、エレクトロルミネセンス(EL)素子等がある。
【0003】
この中で、特に、有機EL素子に関しては、1987年にT.W.Tangらにより蛍光性金属キレート錯体とジアミン系分子の薄膜を積層した構造を利用して、低電圧DC駆動で高輝度な発光が得られることが実証され、研究開発が精力的に進められている。
【0004】
有機EL素子の課題として、駆動電圧の低減や、発光効率の向上、駆動劣化特性の改善等が挙げられる。これらの課題を解決するために、有機化合物層への電子注入材料のドーピングが知られている。
【0005】
特許文献1、特許文献2では電子注入層として電子輸送材料と、アルカリメタル或いはその塩、酸化物を用いることで、駆動電圧低減を果たしている。また特許文献3は、取り扱いの容易な炭酸セシウムと電子輸送材料の混合層を電子注入層として用い、そのドープ濃度を8重量%以下とすることで、経時的な劣化を抑制する技術を開示している。
【0006】
【特許文献1】特開平10−270171号公報
【特許文献2】特開平10−270172号公報
【特許文献3】特開2005−063910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討の結果、電子輸送材料にアルカリメタル或いはその塩、酸化物を高濃度ドープすることは、初期の駆動電圧低減の効果はあるものの、発光し続けるにつれて発光効率の低下および駆動電圧の上昇を招くことが明らかになった。
【0008】
また、駆動電圧をモニタすることによって発光効率の変化量を見積り、その分を補正した電流値で駆動する方法も考えられる。ところが、発光素子の構成によって駆動電圧の変化と発光効率の変化の対応関係が異なり、駆動電流の補正が正確に行えないという問題点があった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、電子輸送材料にセシウムをドープした電子注入輸送層を用いた有機EL素子において、駆動電圧の変化と発光効率の変化に安定した対応関係を持たせ、正確な補正駆動を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するため、陽極及び陰極と、該陽極及び陰極に挟持される発光層、電子注入輸送層とを少なくとも有する発光素子を複数有し、複数の前記発光素子に電流を供給する電流源と、駆動時に複数の前記発光素子に印加される電圧をモニタするモニタ回路と、該モニタ回路出力に応じて前記電流源の出力制御を行う出力制御手段と、を有する有機EL発光装置において、前記電子注入輸送層がセシウムを30mol%以上含むことを特徴とする有機EL発光装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
電子輸送材料にセシウムをドープした電子注入輸送層を用いた有機EL素子の駆動電圧をモニタすることで発光効率の変化を見積り、補正駆動を行う有機EL発光装置において、補正値を正確に導き出し、長時間に亘って安定した発光強度を維持する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の有機EL発光装置の具体的な一実施形態について説明するが、本発明はこの形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明で用いる発光素子は、陽極及び陰極と、陽極及び陰極に挟持される発光層、電子注入輸送層とを少なくとも有する。図1にその一例を示す。図1に示す発光素子10では、基板15上に陽極14が形成され、その上に有機化合物層として、正孔輸送層13、発光層12、電子注入輸送層16が形成され、陰極17が形成されている。
【0014】
基板15として好適に使用される具体的な基板としては、各種のガラス基板や、poly−SiでTFT等の駆動回路を形成したガラス基板、シリコンウエハー上に駆動回路を設けたもの等が挙げられる。発光した光を基板15と反対側より取り出す場合は、基板15は透明である必要は無いが、基板15側から光を取り出す場合には、基板15は透明であることが好ましい。
【0015】
陽極14に用いる材料としては、仕事関数の大きな導電性材料が好ましい。これに加え、発光した光を基板15と反対側より取り出す場合は、反射率の高い金属材料が好ましい。その例としては、Cr、Pt、Ag、Au等、及びこれらの金属材料を含む合金等が好適に用いられる。また、高反射率の金属材料上に薄膜の透明導電性材料を積層することで光学的な取り出し効率を高めることもできる。透明導電性材料としてITO等仕事関数の大きな材料を用いる場合は、金属材料の仕事関数は必ずしも大きい必要は無い。
【0016】
発光した光を基板15と反対側に取り出す場合は、陰極17の材料は透明であることが好ましく、ITO等の透明導電材料が用いられる。また、金属材料を1nmから10nm程度の薄膜で形成し、透光性のある状態で用いても良い。さらに、陽極14と半透過陰極17を用い、干渉効果を利用して、外部取り出し効率の向上、色純度の向上を図ることもできる。
【0017】
正孔輸送層13を形成する正孔輸送材料としては、トリフェニルジアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ポリフィリル誘導体、スチルベン誘導体等の低分子化合物等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0018】
発光層12としては、単一の材料で所望の発光を得る材料、或いはホスト材料にゲスト材料をドープしたものが用いられる。その方法としては、例えばホスト材料、ゲスト材料を同時に真空蒸着し、それぞれの蒸着レートを調整することで任意のドープ濃度の発光層を得ることができる。ゲスト材料は必要に応じて複数の種類をドープしても良い。
【0019】
電子注入輸送層16は、アルミキノリノール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェニルキノキサリン誘導体、シロール誘導体等に代表される電子輸送材料中に、セシウムがドープされている。ここで、セシウムは30mol%以上含まれ、好ましくは40mol%以上60mol%以下含まれる。セシウムをドープする方法は特に限定されず、例えば電子輸送材料と、炭酸セシウム、セシウム酸化物等のセシウム含有化合物を共蒸着する方法が挙げられるが、大気中で安定な炭酸セシウムがより好適に用いられる。この方法では、各材料の蒸着レートを制御することで、ドープ濃度を制御することができる。
【0020】
陰極17、陽極14及び有機化合物層の形成方法は特に限定はされない。有機材料からなる場合、電解重合法、キャスティング法、スピンコート法、浸漬コート法、スクリーン印刷法、マイクロモールド法、マイクロコンタクト法、ロール塗布法、インクジェット法、LB法等で形成することができる。また、用いる材料により真空蒸着法、CVD法、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法、スパッタ法等も有効な形成方法である。また、これらを所望の形状にパターニングする方法としては、マスク蒸着やフォトリソグラフィなどが挙げられる。その他、ソフトリソグラフィ、インクジェット法も有効なパターニング方法である。
【0021】
陽極14及び陰極17、有機化合物層の膜厚は特に限定はされないが0.1nm−10μmの範囲が好ましい。
【0022】
本発明で用いる発光素子10は、空気中の水分、酸素等から遮断する目的で発光素子10上にキャップを設けるとよい。発光した光を基板15と反対側より取り出す場合は、キャップは透光性のものがよく、ガラス等が用いられる。また、キャップと、発光素子10の間に空隙を設け、乾燥剤等を配置しても良い。
【0023】
また、窒化珪素(例えばSiN)、酸化珪素(例えばSiO)などの無機材料や、高分子材料等の膜を発光素子10上に配置し、外気と遮断してもよい。
【0024】
本発明の有機EL発光装置は、上記発光素子を複数有すると共に、補償駆動回路を有する。ここで、補償駆動回路は、複数の発光素子に電流を供給する電流源と、駆動時に複数の発光素子に印加される電圧をモニタするモニタ回路と、モニタ回路出力に応じて電流源の出力制御を行う出力制御手段とを有する。
【0025】
図2に補償駆動回路の一例を示す。尚、図2では、簡単に説明するために単素子のみの構成を示すが、同様の思想をマトリクス状に展開できることは言うまでもない。図2において、発光素子10は、可変電流源31と抵抗32と直列に電源ライン及びグランドラインに接続されるとともに、両端が電圧計33に接続されてその駆動電圧をモニタしている。電圧計33はADコンバータなどで構成され、駆動電圧をデジタル値としてコントローラ34に送る。メモリテーブル35には、予め素子構成に応じて特徴付けられた、駆動電圧変化と発光効率変化の関係が格納されており、コントローラ34は駆動電圧値をメモリテーブル35と参照することで最新の素子状態、すなわち発光効率を知ることが出来る。したがって、発光効率の変化分に応じて補正した電流値を可変電流源31に指示することで、発光素子10が劣化した場合でも一定の強度で発光させることが出来る。
【0026】
本発明の有機EL発光装置は、発光素子を面内に複数配置し、ディスプレイ等のディスプレイの情報表示部に用いてもよい。ディスプレイのサイズは特に制限されないが、例えば1インチから30インチまでが好ましい。画素数は特に制限はなく、例えばQVGA(320×240画素)、VGA(640×480画素)、XGA(1024×728画素)、SXGA(1280×1024画素)、UXGA(1600×1200画素)、QXGA(2048×1536画素)が挙げられる。また、カラー表示できることが好ましく、その場合、赤、青、緑の発光素子を独立に配列させることで表示する方法、またはカラーフィルターを用いる方法、何れにおいても有効である。また、駆動方法としては単純マトリックス方法、アクティブマトリックス方法、何れにおいても有効である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
ここで、本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。
【0029】
【化1】

【0030】
<実施例1>
図1に示す発光素子10を製造した。
【0031】
ガラス基板(コーニング社:1737)(基板15)上に、銀を100nm、及びITOを20nm形成した基板を用い、フォトリソグラフィ法によりパターニングして、陽極14(透明電極)を形成し、陽極基板を形成した。
【0032】
その陽極基板を、大気圧下でUV−O3洗浄した後、以下の有機化合物層を10-4Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着により連続成膜した。
正孔輸送層13:HT−1(20nm)
発光層12:EM−1、EM−2およびEM−3共蒸着層(20nm)
電子注入輸送層16:ET−1と炭酸セシウムの共蒸着層(50nm)
【0033】
発光層12の混合比は体積比で、EM−1:EM−2:EM−3=87:10:3とした。また、電子注入輸送層16は、各材料の蒸着レートを制御することで、セシウムのドープ濃度を48mol%とした。その後、スパッタ法によりITO(陰極17)を成膜して発光素子10を得た。
【0034】
こうして作成した素子の基本特性を調べるため、10mA/cm2の電流密度を連続通電したときの発光輝度の変化と駆動電圧の変化を調べた。初期の発光輝度は1500cd/m2、駆動電圧は3.9Vであったが、時間を経るにしたがって輝度は減少し、駆動電圧は上昇した。結果を図3(サンプル12)に示す。図3において、横軸は輝度変化を初期値(L0)との比(L/L0)で表し、縦軸は駆動電圧変化を初期値との差(ΔV)で示した。このように、発光効率と駆動電圧は、素子劣化に応じて一対一に対応していることが分かった。
【0035】
この素子を、図2に示す補償駆動回路を用いて発光させた。メモリテーブル35には、予め図3で得られた情報を格納しておいた。輝度1500cd/m2の設定で発光させたところ、初期は10mA/cm2が流れており、200時間経過後は補償駆動回路の働きにより電流密度が10.5mA/cm2に上昇しながらも輝度は1500cd/m2を保っていた。
【0036】
また、同様の構成で10素子作成して再現実験を行ったところ、10素子とも同様の結果を得ることが出来た。
【0037】
<実施例2>
電子注入輸送層16の蒸着レートを変えることでセシウムのドープ濃度を57mol%とした以外は、実施例1と同様にして素子を作成した。
【0038】
この素子を10mA/cm2の電流密度で連続駆動したときの輝度変化と駆動電圧変化を図3(サンプル13)に示す。
【0039】
この素子を10素子作成して、実施例1と同様に1500cd/m2での補償駆動実験を行ったところ、10素子とも実施例1と同様の結果を得ることが出来た。
【0040】
<比較例1>
電子注入輸送層16の蒸着レートを変えることでセシウムのドープ濃度を18mol%とした以外は、実施例1と同様にして素子を作成した。
【0041】
この素子を10mA/cm2の電流密度で連続駆動したときの輝度変化と駆動電圧変化を図3(サンプル11)に示す。
【0042】
図3に示すように、実施例1,2よりも駆動電圧の変化が大きくなっており、このデータに応じたメモリテーブル35を用意して補償駆動を行ったところ、ほぼ1500cd/m2一定で発光させることが出来た。ところが、同様の素子を10素子作成したところ、製造バラつきによって電子注入輸送層16のセシウム濃度がバラつき、補正すべき値が安定しなかった。そのため、同一のメモリテーブル35で補償駆動したときの200時間後の輝度は1350〜1600cd/m2までばらついてしまった。
【0043】
<実施例3>
発光層12をEM−1、EM−2とEM−4の共蒸着(混合比は体積比でEM−1:EM−2:EM−4=83:15:2)で形成し、電子注入輸送層16の蒸着レートを変えてセシウムドープ濃度を42mol%とした以外は、実施例1と同様に素子を作成した。
【0044】
この素子を10mA/cm2の電流密度で連続駆動したところ、初期の発光輝度は1300cd/m2、駆動電圧は3.8Vであったが、時間を経るにしたがって輝度は減少し、駆動電圧は上昇した。輝度変化と駆動電圧変化を図4(サンプル22)に示す。縦軸と横軸は図3と同様である。
【0045】
この素子を、図2に示す補償駆動回路を用いて発光させた。メモリテーブル35には、予め図4で得られた情報を格納しておいた。輝度1300cd/m2の設定で発光させたところ、初期は10mA/cm2が流れており、200時間経過後は補償駆動回路の働きにより電流密度が10.4mA/cm2に上昇しながらも輝度は1300cd/m2を保っていた。
【0046】
また、この素子を10素子作成して補償駆動実験を行ったところ、10素子とも同様の結果を得ることが出来た。
【0047】
<実施例4>
電子注入輸送層16の蒸着レートを変えることでセシウムのドープ濃度を55mol%とした以外は、実施例3と同様にして素子を作成した。
【0048】
この素子を10mA/cm2の電流密度で連続駆動したときの輝度変化と駆動電圧変化を図4(サンプル23)に示す。
【0049】
この素子を10素子作成し、実施例3と同様に輝度1300cd/m2の設定で補償駆動実験を行ったところ、10素子とも実施例3と同様の結果を得ることが出来た。
【0050】
<比較例2>
電子注入輸送層16の蒸着レートを変えることでセシウムのドープ濃度を25mol%とした以外は、実施例3と同様にして素子を作成した。
【0051】
この素子を10mA/cm2の電流密度で連続駆動したときの輝度変化と駆動電圧変化を図4(サンプル21)に示す。
【0052】
図4に示すように、実施例3,4よりも駆動電圧の変化が大きくなっており、このデータに応じたメモリテーブル35を用意して補償駆動を行ったところ、ほぼ1300cd/m2一定で発光させることが出来た。ところが、同様の素子を10素子作成したところ、製造バラつきによる電子注入輸送層16のセシウム濃度のバラツキによって補正すべき値が安定しなかった。そのため、同一のメモリテーブル35で補償駆動したときの200時間後の輝度は1150〜1400cd/m2までばらついてしまった。
【0053】
<実施例5>
実施例1と同様に作成した素子(電子注入輸送層16のセシウムドープ濃度:48mol%)を、20mA/cm2の電流密度で連続駆動した。初期の発光輝度は2800cd/m2、駆動電圧は4.4Vであったが、時間を経るにしたがって輝度は減少し、駆動電圧は上昇した。輝度変化と駆動電圧変化を図5(サンプル12)に示す。縦軸と横軸は図3と同様である。
【0054】
この素子を、図2に示す補償駆動回路を用いて発光させた。メモリテーブルには、予め図5で得られた情報を格納しておいた。輝度2800cd/m2の設定で発光させたところ、初期は20mA/cm2が流れており、200時間経過後は補償駆動回路の働きにより電流密度が21.8mA/cm2に上昇しながらも輝度は2800cd/m2を保っていた。
【0055】
また、この素子を10素子作成して補償駆動実験を行ったところ、10素子とも同様の結果を得ることが出来た。
【0056】
<実施例6>
実施例2と同様に作成した素子(電子注入輸送層16のセシウムドープ濃度:57mol%)を、20mA/cm2の電流密度で連続駆動したときの輝度変化と駆動電圧変化を図5(サンプル13)に示す。
【0057】
この素子を10素子作成し、実施例5と同様に輝度2800cd/m2の設定で補償駆動実験を行ったところ、10素子とも安定した輝度で発光させることが出来た。
【0058】
<比較例3>
比較例1と同様に作成した素子(電子注入輸送層16のセシウムドープ濃度:18mol%)を、20mA/cm2の電流密度で連続駆動したときの輝度変化と駆動電圧変化を図5(サンプル11)に示す。
【0059】
図5に示すように、実施例5,6よりも駆動電圧の変化が大きくなっており、このデータに応じたメモリテーブル35を用意して補償駆動を行ったところ、ほぼ2800cd/m2一定で発光させることが出来た。ところが、同様の素子を10素子作成したところ、製造バラつきによる電子注入輸送層16のセシウム濃度のバラツキによって補正すべき値が安定しなかった。そのため、同一のメモリテーブル35で補償駆動したときの200時間後の輝度は2500〜3000cd/m2までばらついてしまった。
【0060】
<まとめ>
以上説明した、図3〜5に示すデータは、それぞれ座標(1,0)を通る下に凸の曲線である。そして、実施例1〜6、即ち電子注入輸送層16のセシウム含有量が多い時にはほぼ一致した曲線となり、比較例1〜3、即ち電子注入輸送層16のセシウム量が少ない時には輝度減少に対する電圧の変化量が大きくなっている。そこで、輝度減少と電圧変化量の関係を定量的に論じるための指標として輝度が初期値から4%下がった点、すなわちL/L0=0.96におけるΔVを採用する。サンプル21〜23(図4)については、データを外挿してL/L0=0.96における値を導いた。これをセシウム濃度依存性としてプロットしたものを図6に示す。ここで、輝度変化と電圧変化の関係を示す指標としてL/L0=0.96におけるΔVを用いたが、他の値を用いても同様の結果を得ることができる。
【0061】
図6のプロットから、セシウムの増加に伴ってΔVが急激に減少し、セシウム濃度40mol%以上60mol%以下で一定値に飽和する曲線を引くことができる。そこで、高濃度側で飽和した部分及び低濃度側で急峻に立ち上がっている部分でそれぞれ接線を引くと、セシウム濃度30mol%で交差する。即ち、電子注入輸送層16のセシウム濃度が30mol%以上であれば素子の輝度変化と駆動電圧変化の関係がほぼ一定となるので、この素子に対して補償駆動を行うことで長時間に亘って正確な輝度で発光させられる有機EL素子を安定して作成することが出来る。さらに、セシウム濃度40mol%以上60mol%以下であれば駆動電圧の変化は一定であるので、さらに精密な補償駆動を安定して行うことが出来る。逆に30mol%未満の場合には濃度変化に対して輝度変化と電圧変化の関係が変わりやすいので、素子の製造安定性に問題がある。
【0062】
以上のことから、電子注入輸送層16のセシウム濃度を30mol%以上とすることで、安定した補償駆動が可能となった。また、電子注入輸送層16のセシウム濃度を40mol%以上60mol%以下とすることがさらに好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の発光素子の構成を示す断面模式図である。
【図2】本発明の有機EL素子を駆動する補償駆動回路の一例を示す図である。
【図3】実施例1,2および比較例1の輝度劣化と電圧変化を示す図である。
【図4】実施例3,4および比較例2の輝度劣化と電圧変化を示す図である。
【図5】実施例5,6および比較例3の輝度劣化と電圧変化を示す図である。
【図6】電圧変化のセシウム濃度依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 発光素子
12 発光層
13 正孔輸送層
14 陽極(透明電極)
15 基板(透明基板)
16 電子注入輸送層
17 陰極
31 可変電流源
32 抵抗
33 電圧計
34 コントローラ
35 メモリテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極と、該陽極及び陰極に挟持される発光層、電子注入輸送層とを少なくとも有する発光素子を複数有し、複数の前記発光素子に電流を供給する電流源と、駆動時に複数の前記発光素子に印加される電圧をモニタするモニタ回路と、該モニタ回路出力に応じて前記電流源の出力制御を行う出力制御手段と、を有する有機EL発光装置において、
前記電子注入輸送層がセシウムを30mol%以上含むことを特徴とする有機EL発光装置。
【請求項2】
前記電子注入輸送層がセシウムを40mol%以上60mol%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の有機EL発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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