説明

有機EL素子駆動装置

【課題】有機EL素子の駆動装置において、長寿命化と消費電力の低減とのバランスを図る。
【解決手段】
有機EL素子10の電極間に電源Vinの直流電圧を印加して前記有機EL素子を駆動する駆動手段2と、有機EL素子の駆動開始時に第1の所定の駆動電流を流して有機EL素子の順方向電圧VF1を測定し測定値を一時保存する手段と、第2の所定の駆動電流に切替える手段3と、第2の所定の駆動電流を流した時の順方向電圧VF2と一時保存した測定値VF1を比較して変化率を算出し、変化率に応じてPWM駆動方式又はDC駆動方式かいずれか一方の駆動方式を選択する手段と、選択後の駆動方式で有機EL素子を駆動することを特徴とする有機EL駆動装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子を駆動する有機EL素子駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化の一環として電球を蛍光灯型照明やLED照明に置き換えるなど消費電力をより小さくできる発光素子が着目され、さらに次世代照明として有機ELパネルも着目されている。
有機EL素子は、電気的には図6に示すような等価回路で表すことができる。すなわち、有機EL素子は、寄生容量成分Cと、この容量成分に並列に結合するダイオードとによる構成に置き換えることができ、有機EL素子は容量性の発光素子であると考えられている。この有機EL素子は、発光駆動電圧が印加されると、先ず、素子の電気容量に相当する電荷が電極に変位電流として流れ込み蓄積される。続いて素子固有の一定の電圧を越えると、電極から発光層を構成する有機層に電流が流れ始め、この電流に比例した明るさで発光すると考えられている。
【0003】
図7は、このような有機EL素子の発光静特性を示したものである。有機EL素子は図7に示すように、駆動電圧が発光閾値電圧以上の発光可能領域においては、駆動電流にほぼ比例した輝度で発光する特性を有している。
有機EL素子に類似した電流−電圧特性を示すLED(発光ダイオード)では、図8に示すように、パルス信号を用いパルス信号をPWM(Pulse Width Modulation)制御することにより、調光(輝度=明るさ制御)を効率良く行なっている。同様に、有機EL素子のパルス駆動・調光方式も、図8に示すLEDのパルス駆動・調光方式と同じ方式を用いられていることが多い。
【0004】
図9は、有機EL素子の温度−寿命特性を示したものである。また、図10は有機EL素子の長寿命化のための駆動電圧波形を示したものである。
図9に示すように、有機EL素子の材料は、高温動作時の寿命が非常に短く、発光に伴う発熱だけで寿命が短くなる傾向にある。このため、従来の有機EL素子駆動装置は、有機EL素子をパルス駆動するときに、特許文献1又は図10に示すように、有機EL素子の逆耐圧未満の逆電圧VLを持つパルス信号を有機EL素子に印加することにより、有機EL素子の寄生容量に蓄積された(−)電荷を周期毎にリセットする。これにより、蓄積された(−)電荷によるパネルの温度の上昇を防ぎ、DC駆動方式と比較して有機EL素子の長寿命化を実現していた(特許文献1又は図10)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3169974号公報(図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機ELは有機材料特有のデバイス特性により、PWM駆動するとDC駆動よりも発光のための電力効率が悪くなるという問題が二つある。
一つの問題は、有機EL素子の容量性によるPWM駆動時の駆動損失である。図6に示す寄生容量Cにより、PWM駆動において充放電が行われるために、発光に関わらない電力を消費してしまう点である。ただし、寄生容量Cの放電エネルギーを駆動電源へ回生することで消費電力の改善は可能である。
【0007】
もう一つの問題は、有機ELの輝度を一定条件にして発光に必要な駆動電力を比較すると、電力差を生じることである。
図11は平均電流密度4mA/cm2のDC電流とPWM駆動時電流波形を示したものである。図11において、DC電流密度4mA/cm2の順方向電圧は6.5Vであり、平均電流密度を4mA/cm2としたデューティー50%のPWM駆動時の順方向電圧は7.3Vとなる。すなわち、PWM駆動の場合は、パルス電流の平均電流値をDC駆動時に相当する電流とすることでDC駆動時と同じ輝度を得られるが、パルス電流のピーク値での順方向電圧がDC駆動時の平均電流時の順方向電圧よりも大きいため、発光させるための駆動電力に差が生じる。
図12は有機EL素子の周囲温度変化をパラメータとした順方向電流IF−順方向電圧VF特性を示したものである。図12において、特に周囲温度が低温時においては、有機EL素子の順方向電圧が上昇傾向となり、かつ駆動電流−順方向電圧特性の変化率も大きくなる傾向のため、PWM駆動するとDC駆動よりも電力効率が非常に悪い駆動方式になっていた。
【0008】
本発明は、有機EL素子の長寿命化と消費電力の低減とのバランスを図ることができる有機EL素子駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、光透過型基板上において互いに対向するカソード電極とアノード電極との間に配置された有機物質からなる有機EL(エレクトロルミネッセンス)層を有する有機EL素子と、前記有機EL素子に接続された電源と、前記カソード電極及び前記アノード電極間に前記電源の直流電圧を印加して前記有機EL素子を駆動する駆動手段と、前記有機EL素子の駆動開始時に前記有機EL素子の順方向電圧を測定し前記測定値を一時保存する手段と、前記有機EL素子を流れる駆動電流値を切替える手段と、前記駆動電流値切替え前後の順方向電圧を比較する手段と、前記駆動電流切替え前後の順方向電圧の変化率を算出し、所定の比率以上か比較して、PWM駆動方式又はDC駆動方式かいずれか一方の駆動方式を選択する手段を備えることを特徴とする。
また、前記駆動方法の選択手段は、電源投入時に行われることを特徴とする。
また、前記駆動方法の選択手段は、電源投入時及び予め決められた所定の時間を経過するごとに行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係わる有機EL素子駆動装置によれば、有機EL素子の長寿命化と消費電力の低減をバランスよく図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る有機EL素子駆動装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係わる有機EL素子の駆動方式に関し、DC駆動及びPWM駆動時の順方向電流IFと順方向電圧VFを波形と数値で表したものである。
【図3】本発明に係わる有機EL素子駆動時の周囲温度が変化した場合のDC駆動方式とPWM駆動方式を選択する判定基準を示す。
【図4】本発明に係る有機EL素子駆動装置の温度−寿命特性を示す図である。
【図5】本発明の実施例2に係る有機EL素子駆動装置の概念図である。
【図6】有機EL素子を電気的に示した等価回路である。
【図7】有機EL素子の発光静特性を示したものである。
【図8】LED素子を駆動するLEDのパルス駆動・調光を示す図である。
【図9】有機EL素子の温度−寿命特性を示したものである。
【図10】有機EL素子の長寿命化のための駆動電圧波形を示す図である。
【図11】有機EL素子をDC駆動及びPWM駆動した場合の波形と、前記素子の順方向電流IF−順方向電圧VF特性を示す図である。
【図12】有機EL素子の周囲温度変化をパラメータとした順方向電流IF−順方向電圧VF特性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の有機EL素子駆動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例1に係る有機EL素子駆動装置の概念図である。
有機EL素子駆動装置1は、図1に示すように、有機EL素子の駆動電流に対する順方向電圧値の変化率を利用することにより、PWM駆動かDC駆動かを選択し、有機EL素子の長寿命化と駆動装置の高効率を図ることを特徴とする。
【0014】
図1において、直流電源Vinは、有機EL駆動装置1のEL駆動部2に接続され、EL駆動部2へは調光制御部3からの出力信号が入力される。調光制御部3へは、VF変化率比較&駆動方式選択部5からの出力信号が入力される。VF測定&一時保存部4は、調光制御部3からの信号hが入力され、また、EL駆動部からの出力信号Vfも入力される。また、VF測定&一時保存部4は、保存されたVF測定値をVF変化率比較&駆動方式選択部5に出力する。なお、EL駆動部2の出力は、有機EL素子の電極に接続され、調光制御部3からの信号に基づき、EL駆動部2は有機EL素子へ直流電源Vinを供給する。すなわち図1において、有機EL素子は、EL駆動部2を介して直流電源Vinより電源供給されるが、EL駆動部2は調光制御部3の信号に基づき駆動される。
【0015】
次にこのように構成された実施例1に関して有機EL素子の特性を引用して説明する。
前述した図12では、有機ELの周囲温度を変化させた場合の電圧−電流特性を示した。図12で示したように有機EL素子は、低電流駆動時及び周囲温度が低温時に、素子抵抗が高くなる特徴を有し、前記の条件下では順方向電流IFの変化による順方向電圧VFの変化が大きい。
【0016】
また、図2はDC駆動及びPWM駆動の駆動電流と順方向電圧VFを波形と数値で表した一例である。図2に示すようにPWM駆動した場合、パルス電流の平均値IFave における順方向電圧VF1と パルス電流のピーク値IFmaxでの順方向電圧VF2の変化が大きい為、DC駆動時よりもPWM駆動した場合には消費電力が12%増加してしまう。この消費電力の増加は、前述した周囲温度をパラメータとした順方向電流―順方向電圧特性より、周囲温度が低温時になるほど顕著になる。
【0017】
次に、有機EL素子の温度−寿命特性について、前述した図9で示したように駆動方式に関わらず、有機EL素子の寿命は、周囲温度上昇により指数関数的に短くなる。しかし、PWM駆動すればDC駆動と比較して10〜20%前後、寿命特性を延ばす改善ができる。
【0018】
従い、DC駆動方式は消費電力に長所を持っており、またPWM駆動方式は寿命特性に長所を持っているが寿命特性は温度パラメータで変化することから、前記2つの方式の長所をより引き出すために、DC駆動方式とPWM駆動方式を最適な条件の時に切替えればよい事になる。そこで、DC駆動方式とPWM駆動方式を選択する判定基準として、周囲温度による順方向電圧VF変化率を基にすれば、PWM駆動方式の消費電力が増加する比率を検出でき、駆動方式を切替える条件とすることができる。
【0019】
図3は、有機EL素子の順方向電流IFと順方向電圧VF特性から、DC駆動方式とPWM駆動方式を選択する判定基準として、周囲温度による順方向電圧VF変化率を採用したものを表している。ここで、図3では、順方向電圧VF変化率=3.5%を判定基準としている。
【0020】
図4は、有機EL素子駆動時の周囲温度によりDC駆動方式とPWM駆動方式を切替えた場合の寿命特性を示したものである。図4に示すように、周囲温度=30℃近辺でDC駆動方式とPWM駆動方式をどちらか選択することで、30℃を超える周囲温度では寿命特性を優先し、30℃以下の周囲温度では消費電力を減らし、有機EL素子駆動装置の効率を上げることができる。ここで、周囲温度30℃での駆動方式の選択は一例であり、有機EL素子の固有の特性に合わせて選択するのが望ましい。
【0021】
実施例1の有機EL素子駆動装置の動作について図1を用いてより具体的に説明する。
本発明は、有機EL駆動装置の電源投入時に調光制御部3よりEL駆動部2へPWM駆動制御信号を送出すると共に、VF測定&一時保存部4へVF測定を行うように測定のための出力信号hを送出する。前記PWM駆動パルス制御信号は、まず、所定の第1の電流となるパルス電流=PWM駆動パルス電流の平均電流値IFaveに相当する電流の駆動信号を調光制御部3からEL駆動部2に出力し、前記第1の電流を有機EL素子に流し、この条件の有機EL素子の順方向電圧VF1をVF測定&一時保存部4にて測定し、前記測定値を一時保存する。
【0022】
次に、所定の第2の電流となるパルス電流=PWM駆動パルス電流のピーク電流値IFmaxに相当する電流の駆動信号を調光制御部3からEL駆動部2に出力し、前記第2の電流を有機EL素子に流し、この条件の有機EL素子の順方向電圧VF2をVF測定&一時保存部4にて測定し、VF変化率比較&駆動方式選択部へ測定値を出力する。また、同時に前記一時保存された測定値VF1もVF変化率比較&駆動方式選択部5へ出力する。
【0023】
VF変化率比較&駆動方式選択部5は前記測定値VF1及びVF2の変化率を下式にて計算する。
VF変化率(%)=((VF2/VF1)X100)−100 ・・・・・(1)
すなわち、平均値電流IFaveからパルス電流のピーク値IFmaxでのVF変化率(=IF−VF特性の傾き)を判定する。VF変化率比較&駆動方式選択部5は、例えばVF変化率が3.5%以下ならばPWM駆動を継続、3.5%を超えたらDC駆動に切り替える選択信号を調光制御部3へ出力する。ここで、周囲温度により駆動方式を選択する基準をVF変化率3.5%としたが、VF変化率の数値は、有機EL素子固有の特性に応じて任意に設定するものであり、3.5%に限定するものではない。
【0024】
これにより、有機EL素子駆動装置1の起動時に最適な駆動方式を選択する事ができ、有機EL素子駆動装置の効率を改善する事ができる。
以上、説明したように、本発明によれば、有機EL素子の長寿命化と消費電力の低減をバランスよく図ることができる。
【実施例2】
【0025】
図5は、本発明の実施例2に係る有機EL素子駆動装置の概念図である。
図5は、実施例1の図1の有機EL素子駆動装置1にタイマー部6を加えたものである。
ここでタイマー部6の出力は、有機EL素子駆動装置1aの調光制御部3aに接続される。
但し、図5において図1と実質的に同一の部分には同一の参照符号を付してその説明を省略する。
本実施例のタイマー部6は、電源投入後、予め決められた所定の時間を経過するごとに調光制御部3aに有機EL素子駆動装置1aの駆動方式の選択を行う信号dsを出力する。
これにより、有機EL素子駆動装置1aは起動時ならびに所定の時間を経過するごとに最適な駆動方法を選択することができるので、有機EL素子10を長時間駆動している場合でも、周囲温度の変化に対して有機EL素子駆動方法を最適に対応させることが可能になる。
以上、説明したように、本発明によれば、有機EL素子の長寿命化と消費電力の低減をよりバランスよく図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の有機EL素子駆動装置は、有機EL素子を使用した照明ユニットなどに使用される。
【符号の説明】
【0027】
1、1a・・・有機EL素子駆動装置
2・・・EL駆動部
3、3a・・・調光制御部
4・・・VF測定&一時保存部
5・・・VF変化率比較&駆動方式選択部
6・・・タイマー部
10・・・有機EL素子
C・・・有機EL素子の等価回路における寄生容量成分C
D・・・有機EL素子の等価回路におけるダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過型基板上において互いに対向するカソード電極とアノード電極との間に配置された有機物質からなる有機EL(エレクトロルミネッセンス)層を有する有機EL素子と、前記有機EL素子に接続された電源と、前記カソード電極及び前記アノード電極間に前記電源の直流電圧を印加して前記有機EL素子を駆動する駆動手段と、前記有機EL素子の駆動開始時に第1の所定の駆動電流を流して前記有機EL素子の順方向電圧を測定し、前記測定値を一時保存する手段と、前記有機EL素子を流れる駆動電流を第2の所定の駆動電流に切替える手段と、前記第2の所定の駆動電流の順方向電圧と前記一時保存した測定値を比較して変化率を算出し、前記変化率が所定の比率以上かを比較して、PWM駆動方式又はDC駆動方式かいずれか一方の駆動方式を選択する手段と、選択後の駆動方式で前記有機EL素子を駆動することを備える、ことを特徴とする有機EL駆動装置。
【請求項2】
前記駆動方法の選択手段は、電源投入時に行われることを特徴とする請求項1記載の有機EL駆動装置。
【請求項3】
前記駆動方法の選択手段は、電源投入時及び予め決められた所定の時間を経過するごとに行われることを特徴とする請求項1記載の有機EL駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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