説明

有機EL素子

【課題】ホストの選択性を広げつつ色味の温度依存性を抑えることを可能にする有機EL素子を提供する。
【解決手段】陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に配置され少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成され、該発光層が、ホストと、第1ドーパントとなる金属錯体と、第2ドーパントとなる金属錯体と、を有し、該第1ドーパントとなる金属錯体が、非共役性配位子と、共役性配位子とを有し、該第1ドーパントの最低3重項励起準位が、非発光性配位子の最低3重項励起準位に由来することを特徴とする、有機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)は、1対の電極の間に少なくとも1層の有機化合物層が配置されている電子素子である。ここで有機化合物層は、少なくとも発光層を有し、電荷を注入・輸送する層が適宜含まれる単層又は複数層からなる積層体である。
【0003】
近年、有機EL素子の研究開発が進められている。この研究開発で解決すべき課題の1つとして、素子の発光効率の向上がある。ここで素子の発光効率を向上させる試みとして、蛍光ではなく燐光を用いることが検討されている。燐光、即ち、3重項励起状態からの発光を利用することができれば、従来の蛍光(1重項)を利用した素子と比べて、理論的に3倍程度の発光効率の向上が期待される。
【0004】
特許文献1には、発光層に、発光材料である3種類の材料(ホスト、燐光発光材料A、燐光発光材料B)が含まれている有機EL素子が提案されている。この有機EL素子は、発光層に含まれている3種類の発光材料間でのエネルギー移動を利用することで素子の発光効率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−077674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで特許文献1の有機EL素子の構成材料である2種類の燐光発光材料は、室温で燐光発光する材料である。ここで単色発光を実現させるためには、発光層内に含まれる燐光発光材料の含有量を制限する必要がある。また2種類の燐光発光材料は、温度によりその発光量子効率が変化するために高温下及び低温下において発光色の色味が変化する可能性がある。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされるものであり、その目的は、ホストの選択性を広げつつ色味の温度依存性を抑えることを可能にする有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に配置され少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成され、
該発光層が、ホストと、第1ドーパントとなる金属錯体と、第2ドーパントとなる金属錯体と、を有し、
該第1ドーパントとなる金属錯体が、非共役性配位子と、共役性配位子とを有し、
該第1ドーパントの最低3重項励起準位が、非発光性配位子の最低3重項励起準位に由来することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有機EL素子は、発光層に含まれる第1ドーパントが、少なくとも一つの配位子が非共役性の配位子を有する金属錯体である。また第1ドーパントの最低3重項励起準位が非発光性配位子の最低3重項励起準位に由来することで、両発光材料間のエネルギー移動を効果的に利用することに加えて、第1ドーパントの発光を抑えて濃度の制限を広くすることができる。従って、本発明によれば、ホストの選択性を広げつつ色味の温度依存性を抑えることを可能にする有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】発光層に含まれる各材料の最低励起準位の大小関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に配置され少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成される。
【0012】
以下、本発明の有機EL素子の実施形態について説明する。有機EL素子は、一般的に透明基板上に、透明電極、ホール輸送層、発光層、電子輸送層及び金属電極がこの順番で積層されている。また有機EL素子において、発光層と電子輸送層との間に励起子拡散防止層をさらに設けていてもよい。またホール輸送層は、単一の層で構成されていてもよいし複数の層で構成されていてもよい。電子輸送層も、ホール輸送層と同様に単一の層で構成されていてもよいし複数の層で構成されていてもよい。ただし、本発明の実施形態は、上述の形態に限定されるものではない。
【0013】
本発明において、発光層は、ホストと、第1ドーパントとなる金属錯体と、第2ドーパントとなる金属錯体と、を有している。
【0014】
本発明において、発光層とは、陽極と陰極との間に配置される有機化合物層のうち発光機能を有する層をいう。また本発明において、ホストとは、発光層に含まれる構成材料のうち主成分に相当する材料、より具体的には、発光層内の含有率が50重量%以上である材料をいう。これに対して、ドーパントとは、発光層に含まれる構成材料のうち主成分ではない材料、より具体的には、発光層内の含有率が50重量%以下である材料をいう。従って、本発明においては、発光層内の第1ドーパントと第2ドーパントとの総含有率は50重量%以下である。
【0015】
本発明において、発光層に含まれるホストは、特に限定はされないが、好ましくは、ベンゼン環又は縮合環が直線状に連結して共役長が長い芳香族化合物である。より好ましくは、ベンゼン環又は縮合環が直線状に連結して共役長が長く、かつ分子長軸に対する側方において芳香族置換基が導入されていない芳香族化合物である。分子長軸に対する側方において芳香族置換基が導入されていないと、分子同士のスタッキングが密になりやすいためキャリア移動が容易になる。その結果、素子の駆動電流を低く抑えることができるため、素子寿命を改善することができる。さらに、ホストを炭素原子及び水素原子のみからなる炭化水素化合物にすることでも、素子寿命を改善することができると考えられる。もちろん、分子内にヘテロ原子(N等)を有してもよい。またホストは、その純度を考慮すると、ポリマーであるよりも数百量体以下のオリゴマーの方が好ましく、数量体の低分子量の化合物であることがより好ましい。
【0016】
ベンゼン環又は縮合環が直線状に連結している芳香族化合物として、例えば、複数のフルオレン環がフルオレン骨格の2位及び7位を連結部として結合しているフルオレン多量体が挙げられる。このフルオレン多量体は、アモルファス性に優れると共に、ガラス転移温度(Tg)が120℃以上と高い。フルオレン多量体は、好ましくは、連結されているフルオレン骨格が2つ以上5つ以下である化合物である。ただし、ベンゼン環や縮合環(ナフタレン環等)の長軸に相当する部位を連結部として結合していれば、フルオレン多量体を構成するフルオレン骨格の一部をベンゼン環や他の縮合環に置き換えてもよい。
【0017】
一方で、分子長軸に対する側方において芳香族置換基が導入されていないとは、分子の長軸方向とは異なる方向に、カルバゾリル基、アンスリル基等の芳香族置換基が導入されていないことをいう。例えば、上述したフルオレン多量体では、分子の長軸方向であるフルオレン環の2位及び7位、並びに3位及び6位を除いた1位、4位、5位、8位及び9位のいずれの位置にも芳香族置換基を持たないことをいう。
【0018】
またホストとして、上述した芳香族化合物の他に、AlやZn等に代表される有機金属錯体も好ましい。有機金属錯体は、一般的な有機化合物に比べて最低1重項励起準位(吸収したエネルギーが緩和(ストークスシフト)した結果の励起準位)と、最低3重項励起準位との差が小さい。一方で、ドーパントの最低3重項励起準位からの発光を吸収することが無いように、ホストの最低3重項励起準位は、最終エミッタ−である第2ドーパントの最低3重項励起準位よりも高くする必要がある。ここで有機金属錯体の最低3重項励起準位を第2ドーパントの最低3重項励起準位に近づけると、上述したように、有機金属錯体の最低1重項励起準位と最低3重項励起準位との差が小さいので、ホストのバンドギャップを小さくすることができる。この結果、ホールや電子の電荷漏れ、及びホストの最低1重項励起準位から隣接する材料の1重項励起準位へのエネルギーの拡散を防止することができる。
【0019】
以下に、ホストの具体例を示す。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
第1ドーパントは、発光を目的として発光層に含ませるドーパントではないが、下記(1)乃至(3)の機能を有する材料である。
(1)ホストからエネルギーを受ける機能
(2)最低1重項励起状態から最低3重項励起状態への項間交差を行う機能
(3)第2ドーパントへエネルギーを供給する機能
【0023】
第1ドーパントは、非共役性配位子と、共役性配位子とを有する金属錯体である。ここでいう非共役性配位子とは、配位子である分子のうち中心金属との配位に関係する部位が中心金属に対して共役が弱いことを意味する。また共役が弱いとは、2重結合や3重結合が複数の単結合により隔たれていて中心金属との配位に関係する部位が共役構造を形成していないことをいう。即ち、非共役性配位子とは、中心金属との間で形成されるπ結合が弱い配位子であることを意味する。
【0024】
例えば、アセチルアセトネート配位子とフェニルピリジン配位子を比較する。ここで、アセチルアセトネート配位子は、2つの酸素原子がIrやPt等の中心金属と配位する。一方、フェニルピリジン配位子は、ベンゼン環内の炭素原子及びピリジン環内の窒素原子が中心金属と配位する。ここでアセチルアセトネート配位子は、中心金属との配位に関係する部位が共役構造を形成していない。このため、配位子が中心金属と配位する際に、配位子と中心金属との間で形成されるπ結合に関与する原子は実質的に酸素原子一つであるので、配位子と中心金属とを結ぶπ結合は1本しか形成されない。これに対して、フェニルピリジン配位子は、中心金属との配位に関係する部位が共役構造を形成している。このため、配位子が中心金属と配位する際に、配位子と中心金属との間で形成されるπ結合に関与する原子は実質的に窒素原子及び炭素原子の2つであるので、配位子と中心金属とを結ぶπ結合は2本形成される。従って、アセチルアセトネート配位子は、フェニルピリジン等のように複数の原子が金属原子に配位して複数のπ結合を形成する配位子と比べて配位子と中心金属との間で形成されるπ結合が弱い。
【0025】
ところで、Ir、Pt等の重金属原子を中心金属とする有機金属錯体では、配位子と中心金属とのπ結合が中心金属のスピン−軌道相互作用に影響し、相互作用が大きいほど、3重項励起状態から基底状態への遷移モーメントが大きくなる。その結果、発光速度定数が大きくなり、量子収率が向上すると考えられる。上記スピン−軌道相互作用は、π結合の数が少ないほど小さくなるので、アセチルアセトネート体等の非共役性配位子を利用した発光は一般的に量子収率が低いと考えられる。
【0026】
また本発明においては、第1ドーパントの最低3重項励起準位は、非発光性配位子の最低励起準位に由来する。ところで、Ir等の中心金属を有する有機金属錯体の最低励起状態は、一般的には中心金属のd軌道から配位子の空軌道に飛ぶことによって生じる。一方で、本願発明においては、第1ドーパントを構成する非共役性配位子の最低非占有軌道(lowest unoccupied molecular orbital;LUMO)が他の配位子のLUMOに比べて低くなっている。ここで非共役性配位子のLUMOを低くするための方法として、例えば、下記(A)又は(B)が考えられる。
(A)非共役性配位子のバンドギャップを小さくすること
(B)非共役性配位子のHOMO−LUMOを真空準位に対して低くすること
上記(A)を行う具体的な方法として、非共役性配位子中に縮合環等を付加して配位子内に共役構造を形成することが考えられる。一方、上記(B)を行う具体的な方法として、フッ素等の電子吸引基を非共役性配位子に付加することが考えられる。
【0027】
このような第1ドーパントを用いることで、燐光発光に必要な3重項励起エネルギーを効率よく発光材料である第2ドーパントへエネルギー移動させることができる。また上記第1ドーパントを用いることで、第2ドーパントの発光のみが観測される構成を形成することが可能である。その結果、エネルギー的に大きな発光色である緑や青を発光させたい場合でも所望の発光色以外の発光を抑制することができるので第2ドーパントを広い範囲で選択することができる。
【0028】
また本発明においては、室温下におけるIr(ppy)3の発光強度を1としたときに、室温下における第1ドーパントの相対発光強度が0.14以下であることが好ましい。第1ドーパントの相対発光強度が小さければ、第2ドーパントからの発光を選択的に取り出すことが容易になる。
【0029】
本発明の有機EL素子において、素子を構成する発光層には、ホストが50重量%含まれているので、一対の電極から供給される正孔及び電子が再結合する場所はホストの可能性が高い。ここでホストにおいて正孔及び電子が再結合すると、この再結合により励起されたホスト(最低1重項励起状態のホスト)が生成される。励起されたホストが有する励起エネルギーは、ホストの最低1重項励起状態から第2ドーパントの最低3重項励起状態へ直接的にエネルギー移動は行われない。当該励起エネルギーは、はじめに第1ドーパントもしくは第2ドーパントの最低1重項励起状態へ移動する。ここで第1ドーパントへエネルギー移動が行われた場合では、最低1重項励起状態から最低3重項励起状態へと項間交差が起こる。そして第1ドーパントの最低3重項励起準位から第2ドーパントの最低3重項励起準位へ励起エネルギーが移動する。
【0030】
ここで第1ドーパントを発光層に含ませる利点として、例えば、下記(i)乃至(v)が挙げられる。
(i)ホストの最低3重項励起状態から励起エネルギーが移動したとしても第1ドーパントの発光が変化しないため、ホストの選択性が広がる。
(ii)第1ドーパントの発光は、第1ドーパントの濃度に依存しないため、第1ドーパントの濃度を比較的に高くしても本発明の効果を奏する。
(iii)ホストの最低1重項励起状態と第2ドーパントの最低1重項励起状態との差が大きくても本発明の効果を奏するため、第2ドーパントの選択性が広がる。
(iv)ホストの最低1重項励起状態と第2ドーパントの最低3重項励起状態との差が大きくても本発明の効果を奏するため第2ドーパントの選択性が広がる。
(v)第2ドーパントで項間交差が生じていなくてもよいため、第2ドーパントの最低1重項励起状態と最低3重項励起状態との差が大きくても本発明の効果を奏する。このため第2ドーパントの選択性が広がる。
【0031】
このような利点からホスト及び第2ドーパントの具体的な構造を決めた上で、発光効率を向上させるために好ましい第1ドーパントを適宜選択することができる。
【0032】
第1ドーパントは、項間交差を生じさせるために、中心金属が、白金(Pt)、銅(Cu)、レニウム(Re)、イリジウム(Ir)等の重金属原子であることが好ましい。特に、イリジウム等のオクタテトラヘドラル型の錯体を形成する金属原子が好ましい。
【0033】
以下に、第1ドーパントの具体例を示す。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
【化3】

【0035】
第2ドーパントは、好ましくは、燐光発光材料である。そのため、第2ドーパントの最低3重項励起状態に励起エネルギーが効率よく供給されることが必要である。
【0036】
第2ドーパントとなる燐光発光材料は特に限定はないが、好ましくは、金属錯体である。また第2ドーパントとして使用される金属錯体として、好ましくは、中心金属が白金、銅、レニウム、イリジウム等である金属錯体である。特に好ましくは、中心金属がイリジウムの金属錯体である。一方、赤色発光の実現や3重項エネルギー移動の観点から、第2ドーパントとして使用される金属錯体は、主骨格がフェニルイソキノリンやフェニルキノリン等である配位子を有していることが好ましい。
【0037】
以下に、本発明に用いられる第2ドーパントの具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
ところで、発光層に含まれる2種類のドーパント(第1ドーパント、第2ドーパント)は、中心金属を同じにする又は配位子の構造が同じにするのが好ましい。また第2ドーパントにおいて、燐光寿命は1.6μs以下であるのが好ましい。燐光寿命が長くなると、3重項励起状態になっている第2ドーパントが飽和し励起子同士が衝突することによる発光効率の低下が起こりやすくなると考えられるからである。
【0044】
尚、発光層中に含まれるドーパントは、必ずしも上述した2種類のドーパント(第1ドーパント、第2ドーパント)のみでなければならないわけではない。第1ドーパントと第2ドーパントとの間でエネルギーの転移が効率よく行われ、3重項励起準位の低いドーパントが発光しさえすれば、別のドーパント(第3ドーパント等)をさらに発光層に含ませてもよい。
【0045】
発光層内における第1ドーパント及び第2ドーパントの含有率は特に限定されるものではないが、第1ドーパントにおいては、0.1重量%以上40重量%以下が好ましく、第2ドーパントにおいては、0.1重量%以上20重量%以下が好ましい。ただし、第1ドーパントの含有率と第2ドーパントの含有率との和は、好ましくは、40重量%以下である。
【0046】
本発明の有機EL素子においては、ホストの発光スペクトルと、第1ドーパントの吸収スペクトル及び/又は第2ドーパントの吸収スペクトルとの重なりが大きいことが好ましい。2種類のドーパントがホストの励起エネルギーを無駄なく吸収して、第2ドーパントの発光がより効率的に行われるからである。
【0047】
図1は、発光層に含まれる各材料の最低励起準位の大小関係を示す図である。図1より、第1ドーパントの励起エネルギーは、第2ドーパントへ移動する。ここで第1ドーパントから第2ドーパントへのエネルギー移動を実現させるには、第1ドーパントの最低3重項励起準位を第2ドーパントの最低3重項励起準位よりも高くする必要がある。またこのときに、ホストの最低3重項準位は第1ドーパントの最低3重項準位と比べて高くても低くてもかまわないが、一般的に、第1ドーパントの最低3重項準位と比べて低い方が好ましい。ホストのバンドギャップが小さくなると共に、発光層に流れる電流が大きくなる結果、消費電力を少なくすることができるからである。
【0048】
また本発明において、ホストの最低1重項励起状態SH1は、第2ドーパントの最低1重項励起状態SD2-1よりも高いことが好ましい。
【0049】
次に、本発明の有機EL素子を構成する他の部材について説明する。本発明の有機EL素子を構成する電極は、金属材料からなる金属電極又は透明導電性材料からなる透明電極である。少なくともいずれか一方が透明電極であるのが好ましい。また電極の構成材料は、電子注入性やホール注入性を考慮して適宜選択される。透明電極の構成材料となる透明導電性材料として、ITOやIZOが挙げられる。金属電極の構成材料となる金属材料として、アルミニウムや金、白金、クロム、銅等の金属単体あるいはこれらの金属単体のうち2種類以上を混合してなる合金が挙げられる。
【0050】
本発明の有機EL素子において、素子を構成する有機化合物層に、電荷輸送層(ホール輸送層、電子輸送層)や電荷注入層(ホール注入層、電子注入層)が含まれている場合、電荷輸送層や電荷注入層の構成材料として、公知の材料を使用してもよい。具体的には、ホール輸送層やホール注入層が有機化合物層に含まれる場合、公知のホール注入・輸送性材料を使用することができる。一方、電子輸送層や電子注入層が有機化合物層に含まれる場合、公知の電子注入・輸送性材料を使用することができる。
【0051】
本発明の有機EL素子は、必要に応じて、酸素や水分から隔離されるように工夫が施されていることが好ましい。例えば、封止缶を利用したり、有機材料あるいは無機材料の少なくともいずれか一方を含む材料からなる封止膜を形成したりしてもよい。
【0052】
本発明の有機EL素子は、特に、赤色発光素子として好ましく用いることができる。ただし、第2ドーパントの発光色によっては、緑色あるいは青色の有機EL素子として用いることができる。また第2ドーパントの組み合わせによっては白色の有機EL素子として用いることができる。
【0053】
また本発明の有機EL素子は、ディスプレイ等の表示装置の構成部材として用いることができる。例えば、本発明の有機EL素子は、ディスプレイの画素部又は副画素部に用いることができる。尚、ここでいうディスプレイには、テレビやパソコンやデジタルカメラやカムコーダー等に搭載される表示装置、車体に搭載される表示装置等が含まれる。また本発明の有機EL素子を照明、電子写真方式の画像形成装置等の表示部あるいは感光体への露光光源等として用いてもよい。
【0054】
上述した表示装置等に本発明の有機EL素子を用いる際は、単数で用いてもよく、あるいは複数で用いてもよい。用いられる有機EL素子が複数ある場合、各有機EL素子の駆動方式として、例えば、パッシブ方式やアクティブマトリクス方式がある。また有機EL素子が複数の場合、各有機発光素子の発光色は単一であってもよいし複数であってもよい。有機EL素子から発せられる発光の色が複数種類ある場合、フルカラー発光ができる。また本発明の有機EL素子は基板側から光を取り出すことができるいわゆるボトムエミッション構造の素子でもよく、あるいは基板側とは反対の側から光を取り出すいわゆるトップエミッション構造の素子でもよい。
【実施例】
【0055】
[第1ドーパント]
後述する実施例及び比較例において、下記に示す化合物を第1ドーパントとして使用した。
【0056】
【化9】

【0057】
また第1ドーパントの発光強度について、以下に述べる方法で評価した。
【0058】
石英セルに、対象化合物のトルエン溶液(濃度:10-5mol%)を注入した後、10分間窒素ガスでバブリングすることで残存酸素の脱気を行った。次に、脱気したセルにXeランプ(ランプの波長:400nm)を照射したときに生じる発光スペクトルを、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて測定した。尚、発光スペクトルを測定するときの温度条件を室温とした。次に、同一のセルについて、紫外可視分光光度計(JASCO社製;V−560)を用いて吸収スペクトルを測定した。それぞれ測定した発光スペクトル及び吸収スペクトルにおいて下記の計算を行い、計算値を求めた。
【0059】
【数1】

【0060】
Ir(ppy)3についても同様に、発光スペクトル及び吸収スペクトルを測定した後、上記式に基づいて計算を行い計算値を求めた。次に、Ir(ppy)3のときの計算値を1としたときの各第1ドーパントの相対計算値を求めた。結果を表1に示す。尚、表1に示される相対計算値は、Ir(ppy)3に対する相対発光強度に相当する。
【0061】
【表1】

【0062】
尚、例示化合物D1−1及び例示化合物D1−2の分子軌道を、計算シミュレーションを用いて、計算した。現在広く用いられているGaussian03(Gaussian03,Revision D.01,M.J.Frisch,G.W.Trucks,H.B.Schlegel,G.E.Scuseria,M.A.Robb,J.R.Cheeseman,J.A.Montgomery,Jr.,T.Vreven,K.N.Kudin,J.C.Burant,J.M.Millam,S.S.Iyengar,J.Tomasi,V.Barone,B.Mennucci,M.Cossi,G.Scalmani,N.Rega,G.A.Petersson,H.Nakatsuji,M.Hada,M.Ehara,K.Toyota,R.Fukuda,J.Hasegawa,M.Ishida,T.Nakajima,Y.Honda,O.Kitao,H.Nakai,M.Klene,X.Li,J.E.Knox,H.P.Hratchian,J.B.Cross,V.Bakken,C.Adamo,J.Jaramillo,R.Gomperts,R.E.Stratmann,O.Yazyev,A.J.Austin,R.Cammi,C.Pomelli,J.W.Ochterski,P.Y.Ayala,K.Morokuma,G.A.Voth,P.Salvador,J.J.Dannenberg,V.G.Zakrzewski,S.Dapprich,A.D.Daniels,M.C.Strain,O.Farkas,D.K.Malick,A.D.Rabuck,K.Raghavachari,J.B.Foresman,J.V.Ortiz,Q.Cui,A.G.Baboul,S.Clifford,J.Cioslowski,B.B.Stefanov,G.Liu,A.Liashenko,P.Piskorz,I.Komaromi,R.L.Martin,D.J.Fox,T.Keith,M.A.Al−Laham,C.Y.Peng,A.Nanayakkara,M.Challacombe,P.M.W.Gill,B.Johnson,W.Chen,M.W.Wong,C.Gonzalez,and J.A.Pople,Gaussian,Inc.,Wallingford CT,2004)を用いて、DFT基底関数6−31+G*の計算手法を使った。この方法は計算精度的に誤差を含み、厳密には正確ではないが、分子設計を行う上で有効な指針を与えてくれることを確認した。またこの計算シミュレーションの結果、各化合物のLUMOはアセチルアセトネート配位子側に局在し、最低3重項励起準位はIrからアセチルアセトネート配位子への遷移に帰属されることが分かった。
【0063】
また、例示化合物D1−3についても例示化合物D1−1、D1−2と同様の方法で相対計算値を求めた。その結果、相対計算値(Ir(ppy)3に対する相対発光強度)は0.005であった。
【0064】
[実施例1]
透明基板上に、透明電極(陽極)、ホール輸送層、発光層、電子輸送層及び陰極がこの順で積層されている有機EL素子を、以下に示す方法により作製した。
【0065】
ガラス基板(透明基板)上に、スパッタリング法によりITO膜を成膜した。このときITO膜の膜厚を100nmとした。次に、フォトリソグラフィーによるITO膜のパターニングを行うことにより、電極面積が3mm2の透明電極を複数得た。次に、10-5Paの真空チャンバー内において、抵抗加熱による真空蒸着により、ITO電極(透明電極)上に、後述する有機化合物層及び電極層を連続成膜した。連続成膜した有機化合物層及び電極層の種類、構成材料及び膜厚を下記表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
上記構成材料のうち、KF、Al以外の材料の構造式を以下に示す。
【0068】
【化10】

【0069】
以上により、有機EL素子を得た。得られた有機EL素子について、輝度600cd/m2としたときの発光効率を評価した。またTOPCON社製BM−7を用いて色度測定を行った。結果を表3に示す。
【0070】
[実施例2]
実施例1において、発光層に含まれる第1ドーパントを、D1−XからD1−Yに変更したことを除いては、実施例1と同様の方法により有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0071】
[実施例3]
実施例1において、発光層に含まれる第2ドーパントを、Ir(4F5mpiq)3からIr(ppy)3に変更したことを除いては、実施例1と同様の方法により有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0072】
[比較例1]
実施例1において、発光層に含まれる第1ドーパントを、D1−Xから化合物Zに変更したことを除いては、実施例1と同様の方法により有機EL素子を作製した。得られた有機EL素子について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
表3より、第1ドーパントとして発光強度が小さい化合物を使用すると、エネルギー移動が効率よく行うことができる。また本発明の有機EL素子を構成する発光層に含まれる第1ドーパントは、発光強度が小さいため、第二ドーパントより高い濃度で発光層内に含まれていたとしても自らが発光することがないので、目標の色度に調整することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に配置され少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成され、
該発光層が、ホストと、第1ドーパントとなる金属錯体と、第2ドーパントとなる金属錯体と、を有し、
該第1ドーパントとなる金属錯体が、非共役性配位子と、共役性配位子とを有し、
該第1ドーパントの最低3重項励起準位が、非発光性配位子の最低3重項励起準位に由来することを特徴とする、有機EL素子。
【請求項2】
陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に配置され少なくとも発光層を含む有機化合物層と、から構成され、
該発光層が、ホストと、第1ドーパントとなる金属錯体と、第2ドーパントとなる金属錯体と、を有し、
室温下におけるIr(ppy)3の発光強度を1としたときの室温下における該第1ドーパントの相対発光強度が、0.14以下であることを特徴とする、有機EL素子。
【請求項3】
前記第2ドーパントが燐光発光材料であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記第1ドーパント及び第2ドーパントの中心金属がIr又はPtであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機EL素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−66192(P2011−66192A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215403(P2009−215403)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】