説明

有機EL表示パネルおよびその製造方法

【課題】有機発光層に水分が浸透することを防止して、画素の発光特性や寿命などを損なうことがない有機EL表示パネルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】マスク材31を用いて陰極電極の形成材料33を蒸着によって拡散させ、有機発光層7を覆う陰極電極8を形成する。この蒸着法による陰極電極8の形成では、陰極電極の形成材料33の拡散による広がり角に対応して、隔壁9,9・・・が傾斜して形成されているため、陰極電極の形成材料33が中心から広がるように角度をもって拡散していくような蒸着特有の積層形態であっても、陰極電極8を隔壁9,9・・・の根元まで隙間無く形成することが可能になる。。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL表示パネルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示パネルとは、陽極電極と陰極電極の間に有機発光層を挟持してなる有機EL素子基板と、この有機EL素子基板に対向する封止基板とを、封止基板の外周部に配設した紫外線硬化型樹脂などのシール材により封止したものである。
【0003】
この有機EL表示パネルを構成する有機EL素子基板は、陽極電極の一面に、例えば画素に相当する矩形領域が複数配列された格子状に区画する絶縁層を形成し、さらにこの絶縁層から立ち上がる隔壁を形成して、この隔壁どうしの間で陽極電極の一面と絶縁層の一部とを覆う有機発光層と陰極電極とを順次積層することによって形成されている。
【0004】
ところで、この有機発光層は、水分が僅かに浸透しただけでも特性劣化を起こし、ダークフレームと称される非発光部分の拡大による輝度低下や画素の縮小、あるいは有機EL表示パネルの寿命低下などを生じさせる原因となる。このため、有機発光層に水分を浸透させないような構造にすることが求められている。
【特許文献1】特開2001−296819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の有機EL素子基板では、絶縁層によって区画された陽極電極上のそれぞれの矩形領域に、蒸着などによって有機発光層を積層した後、水の浸透しない材質からなる陰極電極を積層して有機発光層を覆うことによって、有機発光層に水分が浸透することを防止する構造であった。
【0006】
しかしながら、従来の有機EL素子基板では、絶縁層上に形成される隔壁が、絶縁層から遠ざかるほど幅が広がる逆三角形状に形成されていたため、蒸着によって陰極電極を形成する際に、隔壁の根元部分に陰極電極の端部が完全に接続させることが難しかった。このため、陰極電極の端部と隔壁との間に隙間ができてしまい、この隙間に露出した有機発光層の端部から、水分が有機発光層の内部まで浸透してしまうという不具合が生じることがあった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、有機発光層に水分が浸透することを防止して、画素の発光特性や寿命などを損なうことがない有機EL表示パネルおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、基板に形成された陽極電極を複数の矩形領域が配列された格子状に区画する絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層から立ち上がる隔壁を形成する工程と、前記陽極電極と前記絶縁層とを覆う有機発光層を形成する工程と、端部が前記隔壁に接し、前記有機発光層を覆う陰極電極を形成する工程とを有する有機EL表示パネルの製造方法であって、前記隔壁を形成する工程は、放射光光源から一定の広がり角で放射状に広がる露光光で露光させたフォトレジストを現像して前記隔壁とし、前記陰極電極を形成する工程は、前記陰極電極の形成材料を前記放射光光源と略同一の広がり角で前記有機発光層に向けて放射状に拡散、積層させる蒸着法によって行うことを特徴とする有機EL表示パネルの製造方法が提供される。また、前記広がり角は10°〜30°の範囲に設定されればよい。
【0009】
また、本発明によれば、基板に形成された陽極電極を複数の矩形領域が配列された格子状に区画する絶縁層と、前記絶縁層から立ち上がる隔壁と、前記陽極電極と前記絶縁層とを覆う有機発光層と、端部が前記隔壁に接し、前記有機発光層を覆う陰極電極とを有する有機EL表示パネルであって、前記隔壁を構成する側壁は、前記基板の中心方向に向けて傾斜するように形成され、前記側壁の傾斜角度を、前記基板の中心から周縁方向に遠ざかる位置に形成される隔壁ほど大きくすることを特徴とする有機EL表示パネルが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機EL表示パネルの製造方法によれば、陰極電極形成時の形成材料の拡散による広がり角に対応して、隔壁が傾斜して形成されているため、陰極電極の形成材料が中心から広がるように角度をもって拡散していくような蒸着特有の積層形態であっても、陰極電極を隔壁の根元まで隙間無く形成することが可能になる。
【0011】
従来のような、逆三角形の隔壁では、蒸着特有の形成材料の広がりによって隔壁の根元が陰になって陰極電極が形成されずに有機発光層の端部が露出してしまうことがあった。しかし、本発明のように隔壁を中心に向かって傾斜するように形成することで、隔壁の根元部分まで透水性の無い陰極電極が形成されて有機発光層を端部まで完全に覆うことができるので、有機発光層の端面を露出させずに、有機発光層への水分の浸透を完全に防止することが可能になる。
【0012】
これにより、捕水材などで完全に捕捉しきれずに残留している水分があったとしても、有機発光層に浸透することが無く、有機発光層が水分の浸透によって特性劣化を起こし、ダークフレームなどの非発光部分の拡大による輝度低下や画素の縮小、あるいは有機EL表示パネルの寿命低下などの不具合の発生を効果的に防止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る有機EL表示パネルについて、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る有機EL表示パネルの一例を示す概略断面図である。有機EL表示パネル1は、有機EL素子基板(基板)2と、有機EL素子基板2に対向する封止基板3と、これら基板を接合して有機EL素子を封止するシール材4と、有機EL素子基板2と封止基板3とシール材4とから形成される密封空間に設けた捕水材5とから概略構成されている。
【0014】
有機EL素子基板2は、例えば厚さ0.4〜1.1mmの透明なガラス基板からなり、その上には、ITO等の透明な陽極電極11が形成されている。有機EL素子基板2の下部側10は、いわゆる視認側に当たる。
【0015】
そして、陽極電極11上には、光源となる有機発光層7,7・・・、アルミニウム等の金属材料からなる陰極電極8,8・・・、ポリイミド樹脂等からなる絶縁層6,6・・・が形成され、陽極電極11と陰極電極8とで有機発光層7を挟み込んで電流を印加できるようになっている。また、絶縁層6,6・・・上には、ノボラック樹脂等からなる隔壁9,9・・・が立ち上がるように形成されている。
【0016】
封止基板3は、例えばガラス、アクリル系樹脂などからなり、有機EL素子基板2を覆うように設けられている。また、封止基板3の形状は、平板上の基板の外周部に凸部が設けられたものとなっており、この凸部が、シール材4を介して有機EL素子基板2と接合されることにより、有機EL素子が封止されている。
【0017】
シール材4は、例えばエポキシ系、アクリル系等の紫外線硬化型樹脂からなるものである。これらのなかでも、外部からの水分の浸入を防止する点から、透水性の低い樹脂であることが好ましい。
【0018】
凸部で囲まれた封止基板3の表面上には、全面に渡って捕水材5が設けられている。捕水材5は、凸部で囲まれた封止基板3の表面全面ではなく、一部に設けても良いが、パネル内における捕水効率を上げるために、全面に渡って設けることが好ましい。なお、捕水材とは、捕水機能を有する物質を粘性のある溶媒に混合したものであり、捕水機能を有する物質としては、例えば、ゼオライト、アルミナ、シリカゲル、モレキュラーシーブなどの物理吸着型のものや、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸チタンなどの化学吸着型のものを挙げることができる。
【0019】
図2は、有機EL素子基板の部分拡大断面図である。有機EL表示パネル1は、互いに隣接する絶縁層6,6・・・どうしの間が、例えば1つの画素領域Pとされる。この画素領域Pにおいて、陽極電極11と陰極電極8に挟まれた有機発光層7に電流を印加することで、有機発光層7を発光させる。
【0020】
絶縁層6,6・・・の上に形成される隔壁9,9・・・は、図1に示すように、有機EL素子基板(基板)2の中心Rに向けて傾斜するように形成されている。そして、隔壁9,9・・・の傾斜角度は、有機EL素子基板2の中心Rから周縁方向Eに向けて遠ざかる位置に形成される隔壁ほど大きくなっている。こうした隔壁9,9・・・の傾斜は、後ほど詳述する有機EL表示パネルの製造方法における、陰極電極を蒸着法によって形成する際の陰極電極材料の広がり(拡散)Sに対応している(図2参照)。なお、隔壁9,9・・・の傾斜の作用は後述する。
【0021】
画素領域Pの外側で、それぞれの有機発光層7や陰極電極8は、絶縁層6の端部に乗り上げるように形成される。そして、有機発光層7や陰極電極8は、端部が隔壁9の側面に接する。すなわち、有機発光層7は金属材料などで形成された透水性の無い陰極電極8によって端部まで完全に覆われ、端面などが露出することがない。
【0022】
このように、金属膜など透水性の無い材料で形成された陰極電極8によって有機発光層7を端部まで完全に覆うことによって、従来課題であった、有機発光層の端面から絶縁層6との界面に沿って水分が有機発光層の奥まで浸透してしまうといったことを確実に防止することが可能になる。
【0023】
これにより、捕水材5で完全に捕捉しきれずに残留している水分があったとしても有機発光層7に浸透することが無く、有機発光層7が水分の浸透によって特性劣化を起こし、ダークフレームなどの非発光部分の拡大による輝度低下や画素の縮小、あるいは有機EL表示パネルの寿命低下などの不具合の発生を効果的に防止することが可能になる。
【0024】
次に、本発明の有機EL表示パネルの製造方法について説明する。図3は、本発明の有機EL表示パネルを製造するにあたって、有機EL素子基板に有機発光層や隔壁などを形成する工程を示した説明図である。まず、図3(a)に示すように、例えば透明なガラスからなる有機EL素子基板2の一面2a上に、ITOからなる透明な陽極電極11を形成する。
【0025】
そして、この陽極電極11の一面11a上に、例えばポリイミド樹脂等からなる絶縁層6を格子状に形成し、陽極電極11を画素に相当する矩形領域ごと区画する。こうした絶縁層6を格子状に形成するには、例えば、絶縁材料を陽極電極11の一面11a全体に形成した後、フォトレジスト等によって絶縁材料のエッチングを行うことで形成すればよい。あるいは、格子状のマスクを用いて蒸着する方法で形成されればよい。
【0026】
次に、図3(b)に示すように、絶縁層6を覆うように、陽極電極11の一面11aに隔壁形成材料(フォトレジスト)21を積層する。隔壁形成材料21としては、例えばノボラック樹脂などのフォトレジストが好ましく挙げられる。そして、図3(c)に示すように、開口22aを備えたマスク材22を隔壁形成材料21の上面に載置して、光源23から露光光Lを照射することにより、開口22aに対応した部分だけ露光部分21aとして硬化し、マスク材22で覆われた部分は露光光Lに当たらずに未露光部分21bとして残る。
【0027】
こうした隔壁形成材料(フォトレジスト)21の露光にあたって、光源23として放射光を照射する放射光光源が用いられる。光源23から照射される放射光は、光軸Qを中心にして一定の広がり角(照射角)で放射状に広がる。この後、図4(a)に示すように、弱アルカリ液などの現像液を用いて、露光済みの隔壁形成材料(フォトレジスト)21を現像する。これにより、図4(b)に示すように、絶縁層6の上にフォトレジストからなる隔壁9,9・・・が形成される。この隔壁9,9・・・は、放射光によって露光したために、有機EL素子基板(基板)2の中心に向かって斜めに傾斜している。こうした隔壁9,9・・・の傾斜は、後述する蒸着法による陰極電極の形成時における陰極電極の形成材料の拡散角度に略等しくなっている。
【0028】
次に、図5(a)に示すように、蒸着マスク材31を用いて、有機発光層の形成材料32を蒸着によって拡散させ、陽極電極11の一面11aから絶縁層6の端部までを覆う有機発光層7を形成する。つづいて、図5(b)に示すように、蒸着マスク材31を用いて陰極電極の形成材料33を蒸着によって拡散させ、有機発光層7を覆う陰極電極8を形成する。なお、蒸着マスク材31を使用しないで各種材料を蒸着しても、隔壁9,9・・・によって隣接する陰極電極8,8・・・を分離することができる。しかし、陰極電極8,8・・・を確実に分離する観点から蒸着マスク材31を使用して蒸着することが好ましい。
【0029】
この蒸着法による陰極電極8の形成では、陰極電極の形成材料33の拡散による広がり角に対応して、隔壁9,9・・・が傾斜して形成されているため、陰極電極の形成材料33が中心から広がるように角度をもって拡散していくような蒸着特有の積層形態であっても、陰極電極8を隔壁9,9・・・の根元まで隙間無く形成することが可能になる。
【0030】
従来のような、逆三角形の隔壁では、蒸着特有の形成材料の広がりによって隔壁の根元が陰になって陰極電極が形成されずに有機発光層の端部が露出してしまうことがあった。しかし、本発明のように隔壁9,9・・・を中心に向かって傾斜するように形成することで、隔壁9の根元部分まで透水性の無い陰極電極8が形成されて有機発光層7を端部まで完全に覆うことができるので、有機発光層7の端面を露出させずに、有機発光層7への水分の浸透を完全に防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の有機EL表示パネルの一例を示す断面図である。
【図2】図1の部分拡大図である。
【図3】本発明の有機EL表示パネルの製造方法を示す説明図である。
【図4】本発明の有機EL表示パネルの製造方法を示す説明図である。
【図5】本発明の有機EL表示パネルの製造方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1…有機EL表示パネル、2…有機EL素子基板(基板)、3…封止基板、6…絶縁層、7…有機発光層、8…陰極電極、9…隔壁、23…光源(放射光光源)。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された陽極電極を複数の矩形領域が配列された格子状に区画する絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層から立ち上がる隔壁を形成する工程と、前記陽極電極と前記絶縁層とを覆う有機発光層を形成する工程と、端部が前記隔壁に接し、前記有機発光層を覆う陰極電極を形成する工程とを有する有機EL表示パネルの製造方法であって、
前記隔壁を形成する工程は、放射光光源から一定の広がり角で放射状に広がる露光光で露光させたフォトレジストを現像して前記隔壁とし、前記陰極電極を形成する工程は、前記陰極電極の形成材料を前記放射光光源と略同一の広がり角で前記有機発光層に向けて放射状に拡散、積層させる蒸着法によって行うことを特徴とする有機EL表示パネルの製造方法。
【請求項2】
前記広がり角は10°〜30°の範囲に設定されることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示パネルの製造方法。
【請求項3】
基板に形成された陽極電極を複数の矩形領域が配列された格子状に区画する絶縁層と、前記絶縁層から立ち上がる隔壁と、前記陽極電極と前記絶縁層とを覆う有機発光層と、端部が前記隔壁に接し、前記有機発光層を覆う陰極電極とを有する有機EL表示パネルであって、
前記隔壁を構成する側壁は、前記基板の中心方向に向けて傾斜するように形成され、前記側壁の傾斜角度を、前記基板の中心から周縁方向に遠ざかる位置に形成される隔壁ほど大きくすることを特徴とする有機EL表示パネル。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−165167(P2007−165167A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−361550(P2005−361550)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(000103747)オプトレックス株式会社 (843)
【Fターム(参考)】