説明

有機EL表示装置の製造方法

【課題】発光画素上での点欠陥、リークまたは寿命特性の劣化を抑制しつつ、補助配線と上部電極とを電気的に導通させることが可能な有機EL表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】下部電極12及び上部電極16に挟持された有機発光層を備える有機EL表示装置において、下部電極12を囲む隔壁13を形成する領域に、予め補助配線層14を形成し、その後、有機発光層及び上部電極16を形成して積層構造とし、積層構造の上に形成された有機化合物層を局所的に加熱することにより、補助配線層14と上部電極16とを電気的に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光画素間に補助配線を備えた有機EL表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイとして、自発光型デバイスである有機EL素子を有する有機EL表示装置が注目されている。
【0003】
上面発光型の有機EL表示装置では、上部電極として透明または半透明の材料からなる共通電極が形成される。しかし、この透明または半透明の材料は抵抗値が高いため、上部電極の面内において電圧降下が発生し、画面上での発光輝度が不均一になってしまう。
【0004】
そこで、各画素を囲む絶縁性の隔壁領域上に、Alなどの低抵抗材料からなる補助配線を形成して、画素をマトリクス状に配置された領域内での上部電極抵抗に起因する電圧降下を抑制し、輝度を均一化することが行われる。
【0005】
しかし、このように隔壁領域上に補助配線を形成した後、有機層を形成した場合には、補助配線と上部電極との間に絶縁性を有する有機層が存在するため電気的導通が取れなくなる。この問題に対して、有機層形成後に補助配線上にレーザーを照射して補助配線上の有機層を除去した後、上部電極を形成するといった製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−11810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された製造方法では、有機層形成後に補助配線上の有機層をレーザー除去していることに起因する課題がある。
【0008】
第1に、レーザー照射による除去有機物に起因して、レーザー除去された有機物が画素上の有機層表面に付着し、点欠陥やリークの原因になる。
【0009】
第2に、有機層形成から上部電極形成までに時間が空いてしまうことに起因する課題がある。すなわち、レーザー照射の間、有機層の表面が露出したままであるため、チャンバー内の水分や酸素と有機層が反応する。また、隔壁に有機材料を用いた場合には、レーザー照射により分解・生成した有機物によって有機EL表示装置の寿命特性を劣化させてしまうおそれがある。
【0010】
本発明はこれらの問題点を解決するためになされたものであり、発光画素上での点欠陥、リークまたは寿命特性の劣化を抑制しつつ、補助配線と上部電極との電気的導通を確保することが可能な有機EL表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の有機EL表示装置の製造方法は、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明は、基板上に、第1電極及び第2電極に挟持された有機化合物層を有する複数の発光画素が、絶縁物からなる隔壁により分離されて配置された有機EL表示装置の製造方法に関するものである。そして、本発明の有機EL表示装置の製造方法は、次の3つの工程を含んでいることを特徴としている。
【0012】
第1の工程は、隔壁が形成される領域に、予め補助配線層を形成する工程である。第2の工程は、複数の発光画素に形成された有機化合物層の上に、発光画素間を跨いで共通して有機発光層及び第2電極を順に形成して積層構造とする工程である。第3の工程は、積層構造の上に形成された有機化合物層を局所的に加熱することにより、積層構造中の有機発光層を部分的に除去し、補助配線層と第2電極とを電気的に接続する工程である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機EL表示装置の製造方法によれば、有機化合物層及び上部電極を形成した後にレーザー処理を行うので、仮にレーザー照射時にパーティクルが飛散したとしても上部電極上に付着するので、点欠陥やリークを引き起こす可能性は小さい。さらに、有機化合物層が表面に露出している時間を短縮できるので、チャンバー内の水分や酸素との反応も抑制できる。そして、有機EL表示装置の寿命特性への影響も小さくした上で、レーザー照射により補助配線層と上部電極を電気的に接続し、上部電極面内での電位ばらつきが抑制され、パネル面内の発光画素間の輝度ムラを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る有機EL表示装置の製造方法の実施形態について説明する。
【0015】
本発明の有機EL表示装置の製造方法は、基板上に、第1電極(下部電極)及び第2電極(上部電極)に挟持された有機化合物層を有する複数の発光画素が、絶縁物からなる隔壁により分離されて配置された有機EL表示装置を製造するための方法である。本発明の有機EL表示装置の製造方法は、次の3つの工程を含んでいる。
【0016】
まず、隔壁が形成される領域に、予め補助配線層を形成する。次いで、複数の発光画素に形成された有機化合物層の上に、発光画素間を跨いで共通して有機発光層及び第2電極(上部電極)を順に形成して積層構造とする。次いで、積層構造の上に形成された有機化合物層を局所的に加熱することにより、積層構造中の有機発光層を部分的に除去し、補助配線層と第2電極(上部電極)とを電気的に接続する。
【0017】
ここで、各発光画素を囲む補助配線層は、基板面に対して格子状に形成することが可能である。また、局所的な加熱手段として、レーザー照射の他、電子ビームなどを使用することができる。レーザーを用いる場合、レーザーにより有機発光層が加熱されれば、レーザーの波長は特に限定されない。例えば、補助配線層上に、連続的にレーザー光を照射して、補助配線層と第2電極(上部電極)とを電気的に接続することが可能である。また、補助配線層上に、パルス状に出力されたレーザー光を照射して、補助配線層と第2電極(上部電極)とを電気的に接続することが可能である。この際、補助配線層のエッジ部分に、レーザー光を照射して、補助配線層と第2電極(上部電極)とを電気的に接続することが可能である。
【0018】
具体的には、上部電極形成後に、さらに、キャップガラスあるいは封止膜等により、水分等による劣化防止処置を施した後に、レーザー照射による補助配線層と上部電極の接続処理を行う。この場合、レーザー照射処理を、真空雰囲気中や窒素雰囲気中ではなく、大気中で行うことができるため、真空装置にレーザー照射装置を内蔵する必要がなくなる。その結果、レーザー照射装置を簡易化でき、コスト的にも有利である。さらに、有機EL表示装置の点灯試験後に接続不良が発見された場合であっても、容易にレーザーの再照射が可能であるため、確実に補助配線層と上部電極との接続を行うことができる。
【0019】
<第1の実施形態>
図1乃至図5は、本発明の第1の実施形態に係る製造方法を適用した有機EL表示装置を示すものである。図1は、有機EL表示装置の断面模式図である。図2は、有機EL表示装置の平面模式図である。なお、図2に示す線分ABの断面に対応するのが図1である。図3は、他の有機EL表示装置の断面模式図である。図4は、図1に示す隔壁を中心とした拡大図である。図5は、さらに他の有機EL表示装置の断面模式図である。
【0020】
なお、図1乃至図5において、11は基板、12は下部電極(第1電極)、13及び33は隔壁、14及び34は補助配線層、15は有機化合物層、16は上部電極(第2電極)、17はレーザーをそれぞれ示す。また、18及び28は補助配線層14と上部電極16の接続部分、59はキャップガラスをそれぞれ示す。
【0021】
本発明の第1の実施形態に係る有機EL表示装置の製造方法では、まず、基板11上にAl、Ag、Crなど可視光に対する反射率の高い材料を成膜してパターン形成を行い、各発光画素に対応した下部電極12を形成した。
【0022】
その後、基板11上にアクリル樹脂を塗布して、スピンコートにより展延し、パターン形成することにより、発光画素周辺を囲むように絶縁物からなる隔壁13を形成した。本実施形態では、絶縁物としてアクリル樹脂を用いたが、アクリル樹脂の代わりにポリイミド樹脂を用いてもよい。絶縁物からなる隔壁13を形成することにより、複数の発光画素が分離されて配置される。
【0023】
ここで形成された隔壁13上に、上部電極16よりも低抵抗な材料、例えば、Al、Ag、Crなどを補助配線層14として形成した。補助配線層14は、隔壁13上に形成されるので、隔壁13同様に縦横それぞれ直角に交差した格子状に形成される。
【0024】
本実施形態において、補助配線層14は隔壁13の形成後に形成したが、下部電極12と同時に形成してもよい。この場合、図3に示すように、補助配線層34の表面が露出するように、隔壁33に開口を持たせるようにパターン形成する。
【0025】
次の有機化合物層15を形成するに先立って、前処理を行った。前処理では、まず、基板11をUV及びオゾンで洗浄し、減圧下においてベークを行った。次に、基板11を有機EL蒸着装置の処理室へ移して真空排気し、酸素プラズマ洗浄処理を行った。
【0026】
次に、正孔輸送層、発光層、電子注入層より構成される有機化合物層15を形成する。このように、有機化合物層15は、第1電極(下部電極)12及び第2電極(上部電極)16に挟持されている。
【0027】
正孔輸送層は、画像表示領域のみに開口を持つメタルマスクを用いて、αNPDを35nm成膜した。
【0028】
発光層は、Alq3を正孔輸送層上に15nm形成した。なお、本実施形態においてRGBの塗り分けは行っていないが、RGBの塗り分けを行う場合には、RGB各発光画素領域に対応したメタルマスクを用いて成膜すればよい。
【0029】
電子注入層は、Alq3と炭酸セシウム(Cs2CO3)を9:1(体積比)の割合で共蒸着して発光層上に形成した。この時の膜厚は35nmであった。
【0030】
さらに、DCマグネトロンスパッタリング法により、上部電極16としてITO(Indium Tin Oxide)130nmを成膜して、積層構造を形成した。
【0031】
その後、補助配線層14の上を、縦または横どちらか一方向にのみ、レーザー17を連続的に照射しながら相対的に走査させた(図2参照)。次いで、補助配線層14の上の有機化合物層15を溶融・変形あるいは蒸発・昇華させることにより、補助配線層14と上部電極16とを接触させた。この時のレーザー17の出力、スポット径、走査速度は、補助配線層14と上部電極16とを電気的に接続することが可能であり、かつ発光画素領域に熱的な悪影響を及ぼさないような条件に最適化されていればよい。
【0032】
ここで、図4に、上部電極16と補助電極14とを電気的に接続した後の形状の一例を示す。なお、上部電極16と補助電極14とを電気的に接続した後の形状は、図4に示す形状に限定されるものではない。
【0033】
図4(a)では、局所的に加熱された有機化合物層15が蒸発・昇華して、上部電極16と補助配線層14とが電気的に接続されている。図4(b)では、局所的に加熱された有機化合物層15が収縮して孔を形成し、上部電極16と補助配線層14とが電気的に接続されている。図4(c)では、局所的に加熱された有機化合物層15及び上部電極16が溶融・混合して、導電性の混合体48が形成されることにより電気的に接続されている。
【0034】
その後、基板11を真空蒸着チャンバーに連結したグローブボックスに移し、窒素雰囲気中で乾燥剤を入れたキャップガラスにより封止した。
【0035】
このようにして得られた有機EL表示装置に直流電圧を印加し発光させたところ、面内で均一な発光特性が確認された。
【0036】
なお、本実施形態においては、補助配線層14と上部電極16とをレーザー17により電気的に接続した後に封止を行ったが、先に封止を行ってから、大気中においてキャップガラス59越しにレーザーを照射して電気的に接続してもよい(図5参照)。この方法によれば、大気中でレーザー17を走査することができるので、装置の簡易化が可能となる。
【0037】
<第2の実施形態>
図6は、本発明の第2の実施形態に係る製造方法を適用した有機EL表示装置の平面模式図である。また、図7は、本発明の第2の実施形態に係る製造方法を適用した他の有機EL表示装置の平面模式図である。なお、図6及び図7中、12は下部電極、13は隔壁、14は補助配線層、15は有機化合物層、68及び78は補助配線層14と上部電極(図示せず)の接続部分をそれぞれ示す。
【0038】
第2の実施形態において、上部電極の形成工程までは第1の実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0039】
第2の実施形態では、上部電極を形成した後、補助配線層14の上を縦または横どちらか一方向にのみ、レーザー17を相対的に走査させた。この時、レーザーの出力をパルス状にON/OFFして切り替える。すなわち、図6に示すように、補助配線層14の上に点状のレーザー照射領域が複数配置される。
【0040】
また、図7に示すように、補助配線層14が縦と横で交差した部分を通過するタイミングで、レーザー照射するように設定してもよい。このように補助配線層14が交差した部分にレーザー照射することで、レーザーと基板の位置合わせが多少ずれることがあっても、発光画素上をレーザー照射して有機EL構造を破壊してしまう可能性を低減できる。
【0041】
その後、第1の実施形態と同様に、基板を真空蒸着チャンバーに連結したグローブボックスに移し、窒素雰囲気中で乾燥剤を入れたキャップガラスにより封止した。
【0042】
このようにして得られた有機EL表示装置に直流電圧を印加し発光させたところ、面内で均一な発光特性が確認された。
【0043】
なお、本実施形態においても、補助配線層14と上部電極とをレーザーにより電気的に接続した後に封止を行ったが、先に封止をしてから、大気中においてキャップガラス越しにレーザーを照射して電気的に接続してもよい。
【0044】
<第3の実施形態>
図8は、本発明の第3の実施形態に係る製造方法を適用した有機EL表示装置の平面模式図である。なお、図8中、12は下部電極、13は隔壁、14は補助配線層、15は有機化合物層、88は補助配線層14と上部電極(図示せず)の接続部分をそれぞれ示す。
【0045】
第3の実施形態において、上部電極の形成工程までは第1の実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0046】
第3の実施形態では、上部電極を形成した後、補助配線層14のエッジ部分において縦または横どちらか一方向にのみ、レーザーを相対的に走査させた。補助配線層14のエッジ部分においては段差形状を有しているため、レーザー照射時に補助配線層14と上部電極との接触が起こりやすい。このため、必要に応じて、図8に示すように、補助配線層14の両サイドともにエッジをレーザー照射してもよい。
【0047】
その後、第1の実施形態と同様に、基板を真空蒸着チャンバーに連結したグローブボックスに移し、窒素雰囲気中で乾燥剤を入れたキャップガラスにより封止した。
【0048】
このようにして得られた有機EL表示装置に直流電圧を印加し発光させたところ、面内で均一な発光特性が確認された。
【0049】
なお、本実施形態においても、補助配線層14と上部電極とをレーザーにより電気的に接続した後に封止を行ったが、先に封止をしてから、大気中においてキャップガラス越しにレーザーを照射して電気的に接続してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る製造方法を適用した有機EL表示装置の断面模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る製造方法を適用した有機EL表示装置の平面模式図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る製造方法を適用した他の有機EL表示装置の断面模式図である。
【図4】図1に示す隔壁を中心とした拡大図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る製造方法を適用した、さらに他の有機EL表示装置の断面模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る製造方法を適用した有機EL表示装置の平面模式図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る製造方法を適用した他の有機EL表示装置の平面模式図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る製造方法を適用した有機EL表示装置の平面模式図である。
【符号の説明】
【0051】
11 基板
12 下部電極(第1電極)
13 隔壁
14 補助配線層
15 有機化合物層
16 上部電極(第2電極)
17 レーザー
18、28、68、78、88 接続部分
33 隔壁
34 補助配線層
48 導電性の混合体
59 キャップガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、第1電極及び第2電極に挟持された有機化合物層を有する複数の発光画素が、絶縁物からなる隔壁により分離されて配置された有機EL表示装置の製造方法であって、
前記隔壁が形成される領域に、予め補助配線層を形成する工程と、
前記複数の発光画素に形成された有機化合物層の上に、発光画素間を跨いで共通して前記有機発光層及び前記第2電極を順に形成して積層構造とする工程と、
前記積層構造の上に形成された有機化合物層を局所的に加熱することにより、前記積層構造中の有機発光層を部分的に除去し、前記補助配線層と前記第2電極とを電気的に接続する工程と、
を有することを特徴とする有機EL表示装置の製造方法。
【請求項2】
前記補助配線層上に、連続的にレーザー光を照射して、前記補助配線層と前記第2電極とを電気的に接続することを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項3】
前記補助配線層上に、パルス状に出力されたレーザー光を照射して、前記補助配線層と前記第2電極とを電気的に接続することを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置の製造方法。
【請求項4】
前記補助配線層のエッジ部分に、レーザー光を照射して、前記補助配線層と前記第2電極とを電気的に接続することを特徴とする請求項2又は3に記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−283396(P2009−283396A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136619(P2008−136619)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】