説明

有機EL表示装置

【課題】滅点の発生を抑制し、表示品質の良好な有機EL表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】基板上に配置された陽極60と、
陽極60に対向して配置された陰極64と、
陽極60と陰極64との間に配置され、発光層62Aを含む有機物層62と、
有機物層62と陰極64との間に配置され、有孔状もしくは表面に凹凸形状を有する第1酸化物層81と、
第1酸化物層82と陰極64との間に配置され、第1酸化物層81とは膜構造が異なる第2酸化物層82と、
を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自発光性の表示素子である有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子を含んで構成される有機EL表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CRTディスプレイに対して、薄型、軽量、低消費電力の特徴を生かして、液晶表示装置に代表される平面表示装置の需要が急速に伸びてきている。中でも、各画素にスイッチ素子が設けられたアクティブマトリクス型平面表示装置は、隣接する画素間でのクロストークのない良好な表示品位が得られることから、種々のディスプレイに利用されるようになってきている。
【0003】
近年、平面表示装置として、有機エレクトロルミネッセンス(EL)表示装置の開発が盛んに行われている。この有機EL表示装置は、自己発光型のディスプレイであることから、視野角が広く、バックライトを必要とせず薄型化及び軽量化が可能であり、消費電力が抑えられ、且つ応答速度が速いといった特徴を有している。
【0004】
これらの特徴から、有機EL表示装置は、液晶表示装置に代わる、次世代平面表示装置の有力候補として注目を集めている。このような有機EL表示装置は、ガラス等の支持基板上に、表示素子として、陽極と陰極との間に発光機能を有する有機化合物を含む有機物層を保持した有機EL素子を備えている。
【0005】
このような有機EL素子には、発光寿命が短いといった欠点があり、この原因としては種々の要素が考えられる。特許文献1によれば、外部からの酸素や水分などの影響により発光効率が低下することに着目し、陰極を2層構造とし、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み有機EL層に接触する第1導電膜と、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ir(イリジウム)、Os(オスミウム)、Re(レニウム)からなる群から選択された少なくとも1種の金属またはその酸化物を含む第2導電膜との積層構造を適用する技術が開示されている。このような構成により、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化を防止し、ダークスポットの発生を抑制している。
【特許文献1】特開2002−75661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機物層に異物が混入した場合、陽極と陰極との間で電流リークが生じ、有機EL素子が滅点化することがある。
【0007】
この発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、滅点の発生を抑制し、表示品質の良好な有機EL表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の態様による有機EL表示装置は、
基板上に配置された陽極と、
前記陽極に対向して配置された陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置され、発光層を含む有機物層と、
前記有機物層と前記陰極との間に配置され、有孔状もしくは表面に凹凸形状を有する第1酸化物層と、
前記第1酸化物層と前記陰極との間に配置され、前記第1酸化物層とは膜構造が異なる第2酸化物層と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、滅点の発生を抑制し、表示品質の良好な有機EL表示装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の一実施の形態に係る表示装置について図面を参照して説明する。なお、この実施の形態では、表示装置として、自己発光型表示装置、例えば有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置を例にして説明する。
【0011】
有機EL表示装置1は、図1に示すように、画像を表示する略矩形状のアクティブエリア102を有するアレイ基板100を備えている。アクティブエリア102は、マトリクス状に配置された複数の画素PXによって構成されている。また、図1では、カラー表示タイプの有機EL表示装置1を例に示しており、アクティブエリア102は、複数種類の色に発光する画素、例えば3原色に対応した赤色画素PXR、緑色画素PXG、及び、青色画素PXBによって構成されている。
【0012】
アレイ基板100の少なくともアクティブエリア102は、封止体200によって封止されている。すなわち、これらのアレイ基板100と封止体200とは、アクティブエリア102を囲むように枠状に配置されたシール材300により貼り合せられている。シール材300は、感光性樹脂(例えば紫外線硬化型樹脂)であっても良いし、フリットであっても良い。
【0013】
この実施の形態においては、有機EL表示装置1は、アクティブマトリクス型駆動方式を採用しており、各画素PX(R、G、B)は、画素回路10及びこの画素回路10によって駆動制御される表示素子40を備えている。なお、図1に示した画素回路10は、一例であって、他の構成の画素回路を適用しても良いことは言うまでもない。
【0014】
表示素子40は、自発光性の表示素子である有機EL素子40(R、G、B)によって構成されている。すなわち、赤色画素PXRは、主に赤色波長に対応した光を出射する有機EL素子40Rを備えている。緑色画素PXGは、主に緑色波長に対応した光を出射する有機EL素子40Gを備えている。青色画素PXBは、主に青色波長に対応した光を出射する有機EL素子40Bを備えている。
【0015】
図1に示した例では、画素回路10は、駆動トランジスタDRT、スイッチングトランジスタSW、蓄積容量素子Csなどを備えて構成されている。
【0016】
駆動トランジスタDRTと有機EL素子40とは、第1電源端子ND1と第2電源端子ND2との間で、この順に直列に接続されている。この例では、電源端子ND1は高電位電源端子であり、電源端子ND2は低電位電源端子である。第1電源端子ND1は、高電位電源線P1に接続されている。第2電源端子ND2は、低電位電源線P2に接続されている。
【0017】
スイッチングトランジスタSWのゲートは、走査線SLに接続されている。スイッチングトランジスタSWのソースは、映像信号線DLに接続されている。スイッチングトランジスタSWのドレインは、駆動トランジスタDRTのゲートに接続されている。蓄積容量素子Csは、駆動トランジスタDRTのゲートと第1電源端子ND1との間に接続されている。
【0018】
これらの駆動トランジスタDRT、及び、スイッチングトランジスタSWは、多結晶シリコンからなる半導体層を備えた薄膜トランジスタによって構成されている。
【0019】
このような回路構成の場合、走査線SLからオン信号が供給されたのに基づいてスイッチングトランジスタSWがオンとなり、映像信号線DLに供給された電圧によって駆動トランジスタDRTが駆動される。これにより、映像信号線DLの電圧に応じた電流が駆動トランジスタDRTと有機EL素子40に流れる。これにより、有機EL素子40は、所定の輝度で発光する。
【0020】
スイッチングトランジスタSWがオフとなっても、蓄積容量素子Csに電圧が保持されているため、1フレーム後に再度スイッチングトランジスタSWがオンとなって映像信号線DLから新しいデータ電圧が供給されるまで、有機EL素子40は、そのまま発光している。
【0021】
各走査線SLは、画素PXの行方向Xに沿って延びており、画素PXの列方向Yに並列に配置されている。また、各映像信号線DLは、列方向Yに沿って延びており、行方向Xに並列に配置されている。これらの走査線SL及び映像信号線DLは、アクティブエリア102の外側に引き出されている。
【0022】
アレイ基板100は、アクティブエリア102の周辺に配置された駆動回路DRCを備えている。すなわち、駆動回路DRCは、有機EL素子40の駆動制御に必要な信号を出力するものであって、走査線駆動回路YDR、及び、映像信号線駆動回路XDRによって構成されている。このような駆動回路DRCは、多結晶シリコンからなる半導体層を備えた薄膜トランジスタを含んでいる。走査線駆動回路YDR及び映像信号線駆動回路XDRは、例えばnチャネル薄膜トランジスタ及びpチャネル薄膜トランジスタからなる相補型の回路を備えた構成を採用している。
【0023】
走査線駆動回路YDRは、アクティブエリア外において全ての走査線SLと接続されている。また、映像信号線駆動回路XDRは、アクティブエリア外において全ての映像信号線DLと接続されている。これらの駆動回路DRCにおいては、外部から入力された映像信号にもとづき、走査線駆動回路YDRが走査線SLのそれぞれに走査信号を供給するとともに、映像信号線駆動回路XDRが映像信号線DLのそれぞれに映像信号を供給する。これにより、各画素PXにおいては、画素回路10が駆動制御され、有機EL素子40に通電し、有機EL素子40を発光させている。
【0024】
各種有機EL素子40(R、G、B)は、基本的に同一構成であり、例えば、図2に示すように、配線基板120上に配置されている。なお、配線基板120は、ガラス基板やプラスチックシートなどの絶縁性の支持基板上に、アンダーコート層、ゲート絶縁膜、層間絶縁膜、有機絶縁膜などの絶縁層を備える他に、スイッチングトランジスタSW、駆動トランジスタDRT、蓄積容量素子Cs、各種配線(走査線、映像信号線、電源線等)や、駆動回路DRCなどを備えて構成されている。
【0025】
有機EL素子40は、配線基板120上に配置された第1電極60と、第1電極60に対向して配置され(すなわち第1電極60よりも封止基板200側に配置され)複数の色画素PXに共通の第2電極64と、これらの第1電極60と第2電極64との間に配置された有機物層62と、によって構成されている。
【0026】
より具体的な有機EL素子40の構成例について説明すると、第1電極60は、配線基板120上において色画素PX毎に独立島状に配置され、陽極として機能する。この第1電極60は、駆動トランジスタDRTに電気的に接続されている。このような第1電極60は、インジウム・ティン・オキサイド(ITO)などの光透過性を有する導電材料を用いて形成された透過層、及び、アルミニウム(Al)などの光反射性を有する導電材料を用いて形成された反射層を積層した構造であってもよいし、反射層単層、または、透過層単層として構成しても良い。
【0027】
有機物層62は、第1電極60上に配置され、少なくとも発光層62Aを含んでいる。この有機物層62は、発光層62A以外の機能層を含むことができ、例えば、ホール注入層、ホール輸送層、ブロッキング層、電子輸送層、バッファ層などの機能層を含むことができる。この有機物層62は、複数の機能層を複合した単層で構成されても良いし、各機能層を積層した多層構造であっても良い。有機物層62においては、発光層62Aが有機系材料であればよく、発光層62A以外の層は無機系材料でも有機系材料でも構わない。
【0028】
有機物層62は、複数の色画素に共通の共通層を含んでいてもよく、図2に示した例では、発光層62Aの第1電極60側及び第2電極64側にそれぞれ共通層が配置されている。一方の共通層62Hは、ホール注入層、ホール輸送層などを含み、また、他方の共通層62Eは、電子注入層、電子輸送層などを含んでいる。
【0029】
発光層62Aは、赤、緑、または青に発光する発光機能を有した有機化合物によって形成される。赤色画素PXRの有機EL素子40Rの発光層62Aは少なくとも赤に発光する有機化合物を含み、緑色画素PXGの有機EL素子40Gの発光層62Aは少なくとも緑に発光する有機化合物を含み、青色画素PXBの有機EL素子40Bの発光層62Aは少なくとも青に発光する有機化合物を含んでいる。また、各色画素PX(R、G、B)に配置される発光層62Aは、赤、緑、青にそれぞれ発光する有機化合物を積層した積層体として構成してもよいし、これらを混合した混合層として構成しても良い。
【0030】
また、有機物層62は、高分子系材料によって形成された薄膜を含んでいても良い。このような薄膜は、インクジェット法などの選択塗布法により成膜可能である。また、有機物層62は、低分子系材料によって形成された薄膜を含んでいても良い。このような薄膜は、マスク蒸着法などの手法により成膜可能である。
【0031】
第2電極64は、各色画素PXの有機物層62の上に配置され、陰極として機能する。この第2電極64は、銀(Ag)とマグネシウム(Mg)との混合物などからなる半透過層、及び、ITOなどの光透過性を有する導電材料を用いて形成された透過層を積層した構造であってもよいし、半透過層単層、または、透過層単層として構成しても良い。
【0032】
また、アレイ基板100は、アクティブエリア102において、少なくとも隣接する色画素PX(R、G、B)間を分離する隔壁70を備えている。隔壁70は、例えば各第1電極60の周縁を覆うように配置され、アクティブエリア102において格子状またはストライプ状に形成されている。このような隔壁70は、例えば樹脂材料をパターニングすることによって形成される。この隔壁70は、第2電極64によって覆われている。
【0033】
ところで、この実施の形態においては、有機EL素子40は、有機物層62と第2電極64との間に少なくとも2層の積層構造である酸化物層80を備えている。すなわち、酸化物層80は、有機物層62と第2電極64との間に配置された第1酸化物層81と、この第1酸化物層81と第2電極64との間に配置された第2酸化物層82と、を有している。
【0034】
第1酸化物層81は、有機物層62の上に積層配置され、この有孔状もしくは表面に凹凸形状(つまり、局所的に膜厚が薄くなる形状)を有している。第2酸化物層82は、第1酸化物層81の上に積層配置され、第1酸化物層81とは膜構造が異なり、平坦な形状(つまり、層内の空孔が極めて少なく概ね均一な膜厚となる形状)を有している。これにより、有機物層62内に混入した異物に起因した滅点を低減することが可能である。
【0035】
すなわち、有機物層62と第2電極64との間に酸化物層80を形成すると、異物に起因する電極間のリーク電流を遮蔽することができ、滅点が低減する効果が得られる。しかしながら、酸化物層80を形成するために用いる金属は、種類により酸化時に体積収縮するものがある。このため、形成した酸化物層80は、その内部に空隙が形成された有孔状、もしくは表面に凹凸を有した形状となり、酸化物層80の膜厚が局所的に薄くなる。
【0036】
このような酸化物層80を単層で用いると、リーク電流の遮蔽性能が不十分となり、滅点低減の効果が下がる。このため、酸化物層80の膜厚を全体的に厚く設計する必要がある。このように、厚い膜厚の単層の酸化物層80を配置した場合には、第2電極64から有機物層62への電子注入が阻害され、電圧が上昇したり、発光効率が低下したりする課題が生ずる。
【0037】
このような課題に対して、本実施の形態によれば、酸化物層80は、有孔状あるいは凹凸状の第1酸化物層81と、平坦な第2酸化物層82とを積層して構成されている。このため、第1酸化物層81単体でリーク電流を低減するには、10nm程度の厚い膜厚が必要であるのに対して、第1酸化物層81に平坦な第2酸化物層82を積層することにより、酸化物層80全体の厚みを薄くしても滅点低減効果を得ることが可能となる。
【0038】
例えば、5nm程度と薄い膜厚の第1酸化物層81の上に、2nm程度の膜厚の第2酸化物層82を積層した構成であっても、十分な滅点低減の効果が得られた。なお、ここでの膜厚とは、第1酸化物層81については、有機物層62の表面から第2酸化物層82までの距離に相当し、層内に空隙がある場合には空隙分も含む厚みであって、表面に凹凸がある場合には凸部の表面までの厚みに相当する。また、第2酸化物層82の膜厚とは、第1酸化物層81から第2電極64までの距離に相当する。
【0039】
上述したように、異物起因の滅点を低減することが可能となるとともに、有機EL素子40全体の厚みを低減することが可能となる。このため、装置の薄型化が可能となるとともに、使用する材料の低減を図ることができ、しかも、製造時間も短縮することができ、製造コストの削減が可能となる。しかも、有機物層62と第2電極64との間の距離が短縮できるため、電子注入が促進され、発光に必要な駆動電圧の低下、発光効率の向上が可能となる。
【0040】
有機EL素子40の具体的な構成例としては、例えば、図3に示すように、第1電極60の上に、順にホール注入層HI、ホール輸送層HT、発光層62A、及び、電子輸送層ETを積層した有機物層62を備え、さらに、有機物層62の上に電子注入層EIを備え、この電子注入層EIの上に、順に第1酸化物層81及び第2酸化物層82を積層した酸化物層80を備え、第2酸化物層82の上に第2電極64を備えた構成が適用可能である。
【0041】
また、図4に示す例のように、有機EL素子40としては、図3に示した例と同様に、第1電極60の上に有機物層62を備え、さらに、この有機物層62における電子輸送層ETの上に、電子注入性を有する酸化物材料によって形成された第1酸化物層81を配置し、この第1酸化物層81に第2酸化物層を積層し、さらに、第2酸化物層82の上に第2電極64を備えた構成も適用可能である。
【0042】
図4に示した構成例においては、第1酸化物層81が電子注入層EIの機能を兼ね備えているため、電子注入層EIを別途設ける必要が無く、プロセスが簡略化される。また、有機EL素子全体の厚みをより低減することが可能となる。
【0043】
上述した第1酸化物層81及び第2酸化物層82は、以下のような条件を満たす材料によって形成されている。すなわち、金属Xの分子量をw、金属Xの密度をd、金属Xの酸化物の分子量をW、金属Xの酸化物の密度をDとしたときに、第1酸化物層81はWd/Dwが1より小さい材料によって形成され、第2酸化物層82はWd/Dwが1より大きい材料によって形成されている。
【0044】
Wd/Dwが1より小さい材料は、酸化時の体積収縮率が高いため、このような材料を用いて形成した酸化物層は有孔状あるいは凹凸状となり、局所的に膜厚が薄くなる。一方、Wd/Dwが1より大きい材料は、酸化時の体積収縮率が極めて小さい(あるいはほとんど発生しない)ため、このような材料を用いて形成した酸化物層は平坦となり、略均一な膜厚となる。
【0045】
本実施例の有機EL膜厚、酸化層の構成は、例えば断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することで膜厚を測長することができ、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)による分析で元素分析が可能である。
【0046】
上述したような第2酸化物層82を組み合わせることにより、たとえ第2酸化物層82の膜厚が第1酸化物層81よりも小さくても、第1酸化物層81を形成するための材料の選択範囲が広がり、駆動電圧、発光効率などの面でディスプレイとしての最適設計が容易になる利点が得られた。
【0047】
例えば、第1酸化物層81を形成するための材料としては、以下に示すような酸化時に体積収縮が発生するようなアルカリ金属などの材料も用いることができる。例えば、Wd/Dwが1より小さい材料として、リチウム(Li)(Wd/Dw=0.6)、ナトリウム(Na)(Wd/Dw=0.3)、カリウム(K)(Wd/Dw=0.51)、カルシウム(Ca)(Wd/Dw=0.78)、ストロンチウム(Sr)(Wd/Dw=0.69)、セシウム(Cs)(Wd/Dw=0.42)、バリウム(Ba)(Wd/Dw=0.78)などが挙げられる。第1酸化物層81は、これらのいずれかの酸化物材料によって形成されている。なお、電子注入層の機能を兼ね備えた第1酸化物層81を適用する場合には、リチウムなどを選択すればよい。すなわち、酸化リチウム(LiO)によって形成された第1酸化物層81は、電子注入機能も有するため、電子注入層を別個に配置する必要がなくなる。
【0048】
一方、第2酸化物層82を形成するための材料としては、Wd/Dwが1より大きい材料として、例えば、珪素(Si)(Wd/Dw=2.04)、クロム(Cr)(Wd/Dw=3.92)、マンガン(Mn)(Wd/Dw=2.07)、銅(Cu)(Wd/Dw=1.7)などが挙げられる。第2酸化物層82は、これらのいずれかの酸化物材料によって形成されている。
【0049】
このような有機EL素子40において、有機物層62の膜厚が薄いほど酸化物層80を形成することで滅点低減の効果が大きくなる。具体的には、有機物層62の膜厚が、40nm以上、120nm以下の範囲で特に効果が大きい。有機物層62の膜厚が40nm未満の場合には、光学干渉の膜厚設計が合わず、パネルの輝度の低下を招くおそれがある。また、有機物層62の膜厚が120nmより大きい場合には、有機物層自体の絶縁性によって異物をカバレッジしやすくなるので酸化物層80を形成する利点が相対的に小さくなる。
【0050】
次に、より具体的な実施例について説明する。
【0051】
まず、配線基板120上に第1電極60を形成する。すなわち、導電材料の成膜及びパターニングにより、表面にITOからなる透過層を有する第1電極60を画素毎に形成する。
【0052】
その後、第1電極60の透過層の上に、ホール注入層HIとしてアモルファスカーボン、及び、ホール輸送層HTとしてαNPDを蒸着法により形成する。そして、赤色画素、緑色画素、及び、青色画素について、ファインマスクを用いて、Red発光層材料(ホスト:Alq3、ドーパント:DCM)、Green発光層材料(ホスト:Alq、ドーパント:クマリン)、Blue発光層材料(ホスト:BH120、ドーパント:BD−102)をそれぞれ蒸着し、それぞれの発光層62Aを形成する。そして、これらの各発光層62A上に、電子輸送層ETを形成する。これらのホール注入層HI、ホール輸送層HT、発光層62A、電子輸送層ETを積層した有機物層62の総膜厚は50nmであった。
【0053】
その後、電子輸送層ETの上に、電子注入層EIとしてフッ化リチウム(LiF)を1nmの膜厚で形成する。
【0054】
その後、電子注入層EIの上に、マグネシウム(Mg)(Wd/Dw=0.84)を5nmの膜厚で形成した後、0.5Pa下の酸素分圧で酸素雰囲気下に放置して、マグネシウムの酸化物層である第1酸化物層81を形成する。さらに、第1酸化物層81の上に、アルミニウム(Al)(Wd/Dw=1.28)を2nmの膜厚で形成した後、0.5Pa下の酸素分圧で酸素雰囲気下に放置して、アルミニウムの酸化物層である第2酸化物層82を形成する。
【0055】
続いて、第2酸化物層82の上に、マグネシウム及び銀を蒸着して25nmの膜厚の半透過層である第2電極64を形成する。さらに、封止体200による封止を実施して有機EL表示装置を構成した。
【0056】
なお、形成したマグネシウムの酸化物層81をTEMで観察すると、有孔を有していたが、アルミニウムの酸化物層82を形成した後の酸化物層82は平坦であった。
【0057】
次に、有機EL表示装置の滅点数及び電流密度:10mA/cmでの駆動電圧を計測した。有機EL表示装置のアクティブエリアの対角寸法は2インチとした。また、比較例として第1酸化物層及び第2酸化物層を有していない構成を比較例1とし、第1酸化物層のみを7nmの膜厚で形成した構成を比較例2とし、第2酸化物層のみを7nmの膜厚で形成した構成を比較例3とした。計測結果を図5に示す。
【0058】
実施例では、駆動電圧が大幅に上昇することはなく、比較例1に対して同等の駆動電圧であることが確認できた。また、実施例では、比較例1に対して滅点が大幅に低減する(20個⇒5個)効果が得られた。
【0059】
一方、比較例2では、比較例1と同等の駆動電圧であったが、第1酸化物層が有孔性のため、滅点が10個と滅点低減の効果が少なかった。また、比較例3では、滅点数は実施例と同レベルであったが、第2酸化物層が厚く、駆動電圧が比較例1よりも0.7V増と悪化しており、実施例より劣る結果であった。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、有機物層と第2電極(陰極)との間に有孔状または表面に凹凸形状を有する第1酸化物層と平坦な第2酸化物層との2種類の酸化膜を形成することにより、膜厚の小さな酸化物層でも第1電極(陽極)と第2電極(陰極)との間のリーク電流を効果的に抑えることができる。これにより、滅点低減効果を有しつつ高効率、低電圧化を実現することが可能となる。
【0061】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0062】
なお、画素回路10に映像信号として電流信号を書き込む構成を採用してもよいし、映像信号として電圧信号を書き込む構成を採用しても良い。また、画素回路10及び駆動回路DRCを構成する薄膜トランジスタとしては、pチャネル薄膜トランジスタであっても良いし、nチャネル薄膜トランジスタであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】図1は、この発明の一実施の形態に係る有機EL表示装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】図2は、図1に示した有機EL表示装置を切断したときの構造を概略的に示す断面図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る有機EL素子の構成例を概略的に示す図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る有機EL素子の他の構成例を概略的に示す図である。
【図5】図5は、実施例及び比較例のそれぞれについての滅点数、駆動電圧の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1…有機EL表示装置
PX(R、G、B)…画素 SL…走査線 DL…映像信号線
DRC…駆動回路 YDR…走査線駆動回路 XDR…映像信号線駆動回路
10…画素回路 DRT…駆動トランジスタ SW…スイッチングトランジスタ
40…有機EL素子(表示素子)
60…第1電極(陽極) 62…有機物層 62A…発光層 64…第2電極(陰極)
HI…ホール注入層 HT…ホール輸送層 ET…電子輸送層 EI…電子注入層
70…隔壁
80…酸化物層 81…第1酸化物層 82…第2酸化物層
100…アレイ基板 102…アクティブエリア
120…配線基板 200…封止体 300…シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置された陽極と、
前記陽極に対向して配置された陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に配置され、発光層を含む有機物層と、
前記有機物層と前記陰極との間に配置され、有孔状もしくは表面に凹凸形状を有する第1酸化物層と、
前記第1酸化物層と前記陰極との間に配置され、前記第1酸化物層とは膜構造が異なる第2酸化物層と、
を備えたことを特徴とする有機EL表示装置。
【請求項2】
金属Xの分子量をw、金属Xの密度をd、金属Xの酸化物の分子量をW、金属Xの酸化物の密度をDとしたときに、前記第1酸化物層はWd/Dwが1より小さい材料によって形成され、前記第2酸化物層はWd/Dwが1より大きい材料によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
さらに、前記有機物層と前記第1酸化物層との間に電子注入層を備えたことを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記有機物層は、前記陽極側から順にホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層を積層した積層体であって、
前記第1酸化物層は、電子注入性を有する酸化物材料によって形成され、前記電子輸送層に積層されたことを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記第1酸化物層の膜厚が前記第2酸化物層の膜厚より大きいことを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記有機物層の膜厚は、40nm以上、120nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項7】
前記第1酸化物層は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、セシウム(Cs)、バリウム(Ba)のいずれかの酸化物材料によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項8】
前記第2酸化物層は、珪素(Si)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、銅(Cu)のいずれかの酸化物材料によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載の有機EL表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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