説明

有機EL装置の製造方法及び有機EL装置

【課題】樹脂膜の揮発成分や外部の酸素、水分に起因して対向電極が酸化し、有機EL素子が劣化してしまうのを防止した、有機EL装置の製造方法及び有機EL装置を提供する。
【解決手段】画素電極20と対向電極60との間に、少なくとも有機発光層を含む有機機能層40を有してなる有機E素子を備えた有機EL装置の製造方法である。基板10上に画素電極20を形成する工程と、画素電極20上に有機機能層40を形成する工程と、有機機能層40上に、少なくともマグネシウムを含む金属又は合金を成膜し、対向電極60aを形成する工程と、対向電極60aの表層部を酸化して少なくとも酸化マグネシムを含む酸化膜60bを形成する工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置の製造方法及び有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された平面表示装置のニーズが高まっている。このような平面表示装置の一つとして、有機発光層を含む機能層(有機機能層)を有する有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)を発光させて表示を行う、有機エレクトロルミネッセンス装置(有機EL装置)が提案されている。
【0003】
有機ELディスプレイなどとして用いられる有機EL装置は、一般に、ガラス基板上に駆動回路、画素電極、画素を区画する隔壁、有機発光層を含む有機機能層、対向電極を備えて構成されている。対向電極が陰極の場合には、この対向電極の形成材料として、通常はカルシウムやマグネシウムなどの仕事関数が低い金属が用いられる。
ところが、これらの材料は空気中の酸素や水分によって酸化され易く、したがってこれらを遮断するため、種々の封止構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、無機絶縁膜を用いるもの、樹脂膜(層)を用いるもの、さらにはこれらを組み合わせたものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−252574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した封止構造として例えば無機絶縁膜を用いる場合では、有機機能層の劣化防止のため成膜温度を十分に高くすることができず、したがって水分透過性が低い無欠陥の膜を形成するのが困難である。
また、樹脂膜(層)を用いる場合では、これに含有される揮発成分や、樹脂膜内を拡散浸入する外部の酸素、水分により、有機EL素子が劣化してしまう。
さらに、無機絶縁膜と樹脂膜(層)とを組み合わせて用いる場合では、有機EL素子の劣化をある程度は防止できるものの、樹脂膜(層)の揮発成分や外部の酸素、水分が樹脂膜内を拡散し、無機絶縁膜の欠陥部から内部に浸入することにより、依然として有機EL素子が劣化してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、樹脂膜の揮発成分や外部の酸素、水分に起因して対向電極が酸化し、有機EL素子が劣化してしまうのを防止した、有機EL装置の製造方法及び有機EL装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明の有機EL装置の製造方法は、画素電極と対向電極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機機能層を有してなる有機E素子を備えた有機EL装置の製造方法であって、
基板上に前記画素電極を形成する工程と、
前記画素電極上に前記有機機能層を形成する工程と、
前記有機機能層上に、少なくともマグネシウムを含む金属又は合金を成膜し、前記対向電極を形成する工程と、
前記対向電極の表層部を酸化して少なくとも酸化マグネシムを含む酸化膜を形成する工程と、を備えることを特徴としている。
【0008】
この有機EL装置の製造方法によれば、対向電極の表層部を酸化して少なくとも酸化マグネシムを含む酸化膜を形成するようにしたので、酸化マグネシウムはその水溶解度が小さく、したがって水や酸素等のガスに対する遮断性に優れているため、水や酸素等のガスに起因して対向電極が酸化し、有機EL素子が劣化してしまうのを防止することが可能になる。
【0009】
また、前記有機EL装置の製造方法においては、前記対向電極の表層部の酸化膜上に、前記対向電極に導通する補助対向電極を形成する工程を有しているのが好ましい。
このようにすれば、対向電極の表層部が酸化されて絶縁性の酸化膜となり、対向電極の導電性が低下しても、補助対向電極を形成することにより、この補助対向電極を合わせた全体の導電性が十分に確保されるようになる。
【0010】
本発明の別の有機EL装置の製造方法は、画素電極と対向電極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機機能層を有してなる有機E素子を備えた有機EL装置の製造方法であって、
基板上に前記画素電極を形成する工程と、
前記画素電極上に前記有機機能層を形成する工程と、
前記有機機能層上に前記対向電極を形成する工程と、
前記対向電極上に、酸化マグネシム膜を形成する工程と、を備えることを特徴としている。
【0011】
この有機EL装置の製造方法によれば、対向電極上に酸化マグネシム膜を形成するようにしたので、酸化マグネシウムはその水溶解度が小さく、したがって水や酸素等のガスに対する遮断性に優れているため、水や酸素等のガスに起因して対向電極が酸化し、有機EL素子が劣化してしまうのを防止することが可能になる。
【0012】
本発明の有機EL装置は、画素電極と対向電極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機機能層を有してなる有機E素子を備えた有機EL装置であって、
基板上に設けられた前記画素電極と、
前記画素電極上に設けられた前記有機機能層と、
前記有機機能層上に設けられた、少なくともマグネシウムを含む金属又は合金からなる前記対向電極と、を含み、
前記対向電極は、前記有機機能層と反対の側の表層部が、少なくとも酸化マグネシムを含む酸化膜になっていることを特徴としている。
【0013】
この有機EL装置によれば、対向電極の表層部が、少なくとも酸化マグネシムを含む酸化膜になっているので、酸化マグネシウムはその水溶解度が小さく、したがって水や酸素等のガスに対する遮断性に優れているため、水や酸素等のガスに起因して対向電極が酸化し、有機EL素子が劣化してしまうのが防止される。
【0014】
また、前記有機EL装置においては、前記対向電極の表層部の酸化膜上に、前記対向電極に導通する補助対向電極が設けられているのが好ましい。
このようにすれば、対向電極の表層部の酸化膜が絶縁性であり、対向電極の導電性が低下していても、補助対向電極が設けられていることにより、この補助対向電極を合わせた全体の導電性が十分に確保されるようになる。
【0015】
本発明の別の有機EL装置は、画素電極と対向電極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機機能層を有してなる有機E素子を備えた有機EL装置であって、
基板上に設けられた前記画素電極と、
前記画素電極上に設けられた前記有機機能層と、
前記有機機能層上に設けられた前記対向電極と、を含み、
前記対向電極上には、前記有機機能層と反対の側に酸化マグネシム膜が設けられていることを特徴としている。
【0016】
この有機EL装置によれば、対向電極上に酸化マグネシム膜が設けられているので、酸化マグネシウムはその水溶解度が小さく、したがって水や酸素等のガスに対する遮断性に優れているため、水や酸素等のガスに起因して対向電極が酸化し、有機EL素子が劣化してしまうのが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る有機EL装置の配線構造を示す模式図である。
【図2】本発明に係る有機EL装置の構成を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の有機EL装置の第1実施形態を示す要部拡大平面図である。
【図4】(a)は図3のA−A線矢視断面図、(b)はB−B線矢視断面図である。
【図5】(a)〜(c)本発明の製造方法を説明するための要部側断面図である。
【図6】本発明の有機EL装置を用いた電子機器の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、有機EL装置と記す)について、図面を参照して詳しく説明する。なお、以下で参照する各図面においては、図面を見易くするために各部の大きさ等を適宜変更して示している。
まず、本発明に係る有機EL装置の概略構成について、図1、図2を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る有機EL装置1の配線構造を示す模式図である。この有機EL装置1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor:以下、TFT)を用いたアクティブマトリクス方式のもので、複数の走査線101と、各走査線101に対して略直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103とからなる配線構成を有し、走査線101と信号線102との各交点付近にサブ画素Xを形成したものである。なお、本発明においてはTFTなどを用いるアクティブマトリクスは必須ではなく、単純マトリクス向けの素子基板を用いて単純マトリクス駆動させてもよい。
【0020】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路104が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路105が接続されている。
さらに、サブ画素Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から共有される画素信号を保持する保持容量113と、該保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(陽極)20と、該画素電極20と対向電極(陰極)60との間に挟持された有機機能層40と、が設けられている。
【0021】
このような構成のもとに有機EL装置1は、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、該保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して、電源線103から画素電極20に電流が流れ、さらに機能層40を介して対向電極60に電流が流れる。これにより、機能層40を構成する有機発光層は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0022】
図2は、本発明に係る有機EL装置1の構成を模式的に示す平面図である。
図2に示すように有機EL装置1は、基板10を有し、この基板10に、平面視矩形状の画素部130を形成したものである。画素部130は、サブ画素Xがマトリクス状に配置された実表示領域140と、実表示領域140の周囲に配置されたダミー領域150とに区画されている。
【0023】
各々のサブ画素Xが備える有機機能層40は、本実施形態では白色光を発光するように構成されている。したがって、これらサブ画素Xは、R、G、Bに対応するカラーフィルターにより、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各色の光を出射するようになっている。
実表示領域140においては、図の縦方向に同一色のサブ画素Xが配列しており、いわゆるストライプ配置を構成している。そして、実画素領域140では、マトリクス状に配置されたサブ画素Xから出射し、カラーフィルターによってRGBの各色とされた光を混色させることにより、フルカラー表示を可能にしている。
【0024】
実表示領域140の図2中両側には走査線駆動回路105が配置されており、これら走査線駆動回路105は、ダミー領域150の下層側に配置されている。また、実表示領域140の図2中上側には検査回路160が配設されており、この検査回路160は、ダミー領域150の下層側に配設されている。この検査回路160は、有機EL装置100の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)を備え、製造途中や出荷時における表示装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されている。
【0025】
次に、有機EL装置の具体的な構成例として、本発明の第1実施形態を説明する。図3は、本発明の有機EL装置の第1実施形態を示す要部拡大平面図、図4(a)は図3のA−A線矢視断面図、図4(b)は図3のB−B線矢視断面図である。
本実施形態の有機EL装置1は、図3中破線で示すように、平面視が長円形状(トラック形状)の複数のサブ画素Xを縦横に配置したものである。
【0026】
これらサブ画素Xの平面視形状は、隔壁34の開口内に露出した画素電極(陽極)20の平面視形状に対応しており、画素電極20は、各サブ画素X毎に島状に独立して形成されている。したがって、サブ画素Xは、それぞれ独立して形成されたものとなっており、独立した発光素子(有機EL素子)として機能するようになっている。
【0027】
また、この有機EL装置1では、図4(a)、(b)に示すように、基体13と、基体13上に形成された画素電極20と、画素電極20の周縁部を覆ってその開口32a内に画素電極20を臨ませ、露出させる絶縁膜32と、この絶縁膜32上に形成されて画素電極20を囲う前記隔壁34と、画素電極20の露出面を覆って形成された機能層40と、機能層40を覆って基体13上に形成された対向電極60と、対向電極60を覆って形成された封止層80と、封止層80を覆って設けられた封止基板90と、を備えている。
【0028】
そして、本実施形態では、絶縁膜32の開口32a内に露出した画素電極(陽極)20と、これの直上に配置された機能層40と、この機能層40を覆う対向電極(陰極)60とから、有機EL素子70が形成されている。また、本実施形態の有機EL装置1では、有機EL素子70で発光した光を対向電極60側に射出する、トップエミッション方式が採用されている。
【0029】
基体13は、基板10と、基板10上に形成されて配線や駆動素子等を備える素子層11と、を備えている。基板10としては、本実施形態ではトップエミッション方式を採用しているので、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えばアルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したもの、また熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、さらにはそのフィルム(プラスチックフィルム)などが挙げられる。透明基板としては、例えばガラス、石英ガラス、窒化ケイ素等の無機物や、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の有機高分子(樹脂)を用いることができる。また、前記材料を積層または混合して形成された複合材料を用いることもできる。本実施形態では、基板10の材料として前述した不透明のプラスチックフィルムを用いる。
【0030】
素子層11は、有機EL装置1を駆動させるための各種配線や図1に示すスイッチング用TFTや駆動用TFTなどの駆動素子、及び無機材料または有機材料からなる絶縁膜などを備えて構成されている。各種配線や駆動素子は、フォトリソグラフィ技術やエッチング技術等を用いてパターニングすることで形成されており、また、絶縁膜は、蒸着法やCVD法、スパッタ法などの公知の成膜法によって形成されている。
【0031】
素子層11上には、図4(a)に示すように、素子層11に含まれる駆動用TFT(図示せず)のソース電極と接続する電極22が形成されている。また、この素子層11上には、前記電極22を覆って平坦化層12が形成されている。平坦化層12は、素子層11に形成される各構成要素による凹凸をなくし、有機EL素子を形成するのに適した平坦な面を実現するために形成されたものである。平坦化層12の形成材料としては、アクリル樹脂等の有機絶縁材料や無機絶縁材料が用いられる。
【0032】
平坦化層12には、前記電極22に通じるコンタクトホール12aが形成されており、このコンタクトホール12aを含む平坦化層12上の領域には、画素電極20が形成されている。これにより、このコンタクトホール12a内の導電部を介して、前記電極22と画素電極20とが電気的に接続されている。
【0033】
画素電極20は、仕事関数が5eV以上の正孔注入効果が高い材料によって形成されたものである。このような材料としては、例えばITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)等の金属酸化物が用いられる。なお、本実施形態ではトップエミッション方式が採用されているため、画素電極20は透光性を備える必要がない。したがって、本実施形態では、前記ITOからなる透明導電層の下側に、Al等の光反射性金属層が形成されて積層構造とされ、この積層構造によって画素電極20が形成されている。このような画素電極20は、公知の成膜法で成膜された後、パターニングされることにより、それぞれ独立した島状に形成されている。
【0034】
また、平坦化層12の上には、前記絶縁膜32が形成されている。この絶縁膜32は、前記したように画素電極20の周縁部に一部が乗り上げることで該周縁部を覆い、かつ、その開口32a内に画素電極20を臨ませ、露出させたものである。ここで、開口32aは、図3中に破線で示したように、平面視長円形状(トラック形状)に形成されている。
また、この絶縁膜32は、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)等の無機絶縁材料で形成されたもので、隔壁34に比べて十分に薄いものであり、エッチング等の公知のパターニング方法によって開口32aが形成されている。したがって、この絶縁膜32の上面と開口32a内に露出する画素電極20の上面との間には、ほとんど段差が形成されておらず、よって絶縁膜32の上面と画素電極20の上面とはほぼ平坦な面を形成している。
【0035】
この絶縁膜32上には、図4(a)に示すように隔壁34が形成されている。この隔壁34は、画素電極20の周縁部に乗り上げた絶縁膜32の一部を露出させるだけで、絶縁膜32のほぼ全面を覆って形成されたものであり、前記開口32aに連通する開口34aを形成したものである。したがって、この開口34a内に画素電極20を露出させている。また、この隔壁34は、アクリル樹脂等の有機材料によって形成されたもので、公知のパターニング方法によって形成されたものである。
【0036】
開口34a内の画素電極20上、及び隔壁34上には、これらを覆って前記有機機能層40が形成されている。この有機機能層40は、本実施形態では低分子系の有機EL材料からなる有機発光層を含んで形成されたものである。このような有機機能層40としては、例えば陽極(画素電極20)側から正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、電子注入層が順次積層された構造が知られており、さらに正孔輸送層や電子輸送層を省略した構造や、正孔注入層と正孔輸送層との両方の機能を備えた正孔注入・輸送層を用いたり、電子注入層と電子輸送層との両方の機能を備えた電子注入・輸送層を用いた構造などが知られている。本発明では、このような構造のうち適宜な構造が選択され、形成されている。
【0037】
また、有機機能層40の材料としては、それぞれ公知のものを用いることができる。
例えば、有機発光層の材料としては、本実施形態では白色発光する有機発光材料として、スチリルアミン系発光材料やスチリルアミン系発光材料などが用いられる。
さらに、正孔注入層の材料としては、トリアリールアミン(ATP)多量体などが用いられ、正孔輸送層の材料としては、TDP(トリフェニルジアミン)系のものなどが用いられ、電子注入・輸送層の材料としては、アルミニウムキノリノール(Alq3)などが用いられる。
【0038】
そして、この有機機能層40上には、該有機機能層40を覆って対向電極(陰極)60が形成されている。この対向電極60は、本実施形態ではトップエミッション方式であり、光取り出し側となることから、光透過性を有するように形成されている。本実施形態では、マグネシウム(Mg)と銀(Ag)とが、その膜厚比がMg:Ag=10:1となるようにして、共蒸着法によって厚さ12nm程度に形成されている。このようなMgとAgとの共蒸着膜は、他の対向電極材料に比べて平滑性、平坦性、緻密性に優れているので、形成された対向電極60は、平滑・平坦性、緻密性に優れたものとなっている。
【0039】
また、この対向電極60は、本実施形態ではMgAgの共蒸着膜からなる対向電極層60aと、この対向電極層60aの、前記有機機能層40と反対の側の表層部の酸化膜60bと、からなっている。酸化膜60bは、後述するように対向電極層60aの表層部が酸化されて形成されたもので、厚さが10nm以下、例えば2〜5nm程度に形成されたものである。
【0040】
このように対向電極層60aが酸化され、したがってこの酸化膜60bは酸化マグネシムを主に含んで形成されていることにより、水溶解度が小さいものとなる。すなわち、酸化マグネシウムはその水溶解度が8.6mg/100gであり、これによって水やさらには酸素等のガスに対する遮断性に優れたものとなる。また、酸化膜60bはその厚さが10nm以下になっているので、対向電極60とこれの上に形成される補助配線(補助対向電極)との間の導通が確保され、コンタクトホールの形成などが不要になっている。
【0041】
対向電極60の酸化膜60b上には、図3及び図4(b)に示すように補助配線(補助対向電極)50が形成されている。この補助配線50は、サブ画素Xの長辺と直交する方向(サブ画素Xの短辺の長さ方向)に沿って隔壁34上に形成されたもので、対向電極60より高導電性の材料によって形成されたものである。高導電性の材料として具体的には、金、銀、銅、アルミニウム、クロムといった低抵抗金属材料が用いられる。
【0042】
本実施形態では、マスクを用いた蒸着法(マスク蒸着法)によってAlで選択的に形成されている。すなわち、隔壁34上にて、サブ画素Xの長辺と直交する方向にストライプ状に形成されている。この補助配線50は、その厚さが例えば200nm程度と、対向電極60の厚さに比べて十分に厚く形成されている。
なお、対向電極60は、陰極取り出し端子(図示せず)へつながる陰極コンタクト部に接続されている。また、補助配線50も、陰極コンタクト部に接続されていてもよい。
【0043】
前記対向電極60及び補助配線50の表面には、これらを覆って水分や酸素を遮断するための透明な封止層80が形成され、この封止層80上には透明な接着材(図示せず)を介して、ガラス等の透明な封止基板90が貼り合わされている。本実施形態では、封止基板90に赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各カラーフィルター95が形成されている。また、透明封止層は、ガスバリア層と、このガスバリア層を覆って形成された保護層とを有して形成されている。ガスバリア層は、例えば窒化シリコンや酸窒化シリコン、酸化シリコンなどの無機化合物からなっており、保護層は、例えばウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリオレフィン系などの、柔軟でガラス転移点が低い樹脂材料によって形成されている。
【0044】
このような構成のもとに本実施形態の有機EL装置1では、前記の画素電極20と機能層40と対向電極60とにより、有機EL素子70が形成されている。すなわち、画素電極20と対向電極60との間に電圧が印加されると、画素電極20から正孔注入層に正孔が注入され、正孔輸送層を介して有機発光層に輸送される。また、対向電極60から電子注入層に電子が注入され、電子輸送層を介して有機発光層に輸送される。すると、有機発光層に輸送された正孔と電子とが再結合することにより、有機発光層が発光するようになっている。
【0045】
有機発光層から画素電極20側に出射した光は、前記した透明導電層を透過して光反射性金属層に反射され、再度有機発光層側に入射するようになっている。なお、対向電極20は半透過反射膜として機能するので、所定範囲の波長以外の光は光反射性金属層側に反射され対向電極60と光反射性金属層との間で往復する。このようにして、対向電極60と光反射性金属層との間の光学的距離に対応した共振波長の光だけが増幅されて取り出される。すなわち、対向電極60と光反射性金属層とを含んだこれらの間が共振器として機能するようになっており、発光輝度が高くしかもスペクトルがシャープな光を射出させることが可能になっている。ここで、前記光学的距離は、対向電極60と光反射性金属層との間に含まれる層の光学的距離の和によって求められ、各層の光学的距離は、その膜厚と屈折率との積によって求められる。
【0046】
このような構成の有機EL装置1を製造するに際して、特に有機機能層40を形成するには、従来と同様の蒸着法により、正孔注入・輸送層、有機発光層、電子輸送・注入層を順次形成する。その際、図3のB−B線矢視断面図に対応する図5(a)に示すように、従来と同様にして形成した画素電極20を覆うとともに、隔壁34上も覆って全面に有機機能層40の各形成材料を蒸着する。
【0047】
また、対向電極60を形成するには、まず、従来と同様の共蒸着法により、有機機能層40を覆ってMgAgの共蒸着膜を形成し、図5(b)に示すように対向電極層(対向電極)60aを形成する。次いで、この対向電極層60aの表層部を酸化することにより、図5(c)に示すように該表層部を酸化膜60bとする。対向電極層60aの酸化方法としては、酸素プラズマ処理が好適に用いられるが、単に酸素ガスに暴露するだけでも可能である。
【0048】
このようにして酸化処理すると、対向電極層60aはその表面(表層部)が酸化され、表層部に厚さが例えば2〜5nm程度の酸化膜60bが形成される。なお、MgとAgとの共蒸着膜は、酸化処理されるとMgがより容易に酸化され、水溶解度の小さい酸化マグネシウム(MgO)になる。
【0049】
このようにして対向電極60を形成したら、その上に補助配線(補助対向電極)50を形成する。補助配線50の形成には、従来と同様にして蒸着マスク(図示せず)を用い、Alを選択的に成膜して図4(b)に示したように補助配線50を形成する。なお、この補助配線50の形成に先立ち、必要に応じて対向電極60の酸化膜60bにコンタクトホールを形成し、補助配線50と対向電極層60aとの間をより良好に導通させるようにしてもよい。
【0050】
続いて、対向電極60(酸化膜60b)及び補助配線50を覆って、珪素窒化物や珪素酸窒化物、珪素酸化物などの無機化合物からなるガスバリア層を形成し、さらにその上にウレタン系、アクリル系、エポキシ系、ポリオレフィン系などの樹脂材料によって保護層を形成し、これによって封止層80を形成する。その後、この封止層80上に、透明な接着材(図示せず)を介してガラス等の透明な封止基板90が貼り合わせ、図4(b)に示した有機EL装置1を得る。
【0051】
このようにして得られた有機EL装置1は、対向電極60の表層部が酸化マグネシムを含む酸化膜60bになっているので、酸化マグネシウムはその水溶解度が小さく、したがって水や酸素等のガスに対する遮断性に優れているため、水や酸素等のガスに起因して対向電極60が酸化し、有機EL素子70が劣化してしまうのが防止されたものとなる。よって、耐久性に優れ、良好な表示品質が長期に亘って確保されたものとなる。
また、本実施形態の製造方法にあっては、対向電極60の表層部を酸化して酸化マグネシムを含む酸化膜60bを形成するので、前記したように有機EL素子70の劣化が防止され、耐久性に優れた良好な表示品質の有機EL装置1を製造することができる。
【0052】
また、対向電極60の表層部の酸化膜60b上に補助配線(補助対向電極)50を形成するので、対向電極層60aの表層部が酸化されて絶縁性の酸化膜60bとなり、対向電極60の導電性が低下しても、補助配線50によってこれを合わせた対向電極60全体の導電性を十分に確保することができる。
【0053】
次に、本発明の有機EL装置の第2実施形態を説明する。
この第2実施形態が先の第1実施形態と異なるところは、主に対向電極の構成及びその製造方法にある。
すなわち、第2実施形態において対向電極は、図4(a)、(b)に示した第1実施形態における対向電極層60aのみからなっており、この対向電極(対向電極層)60a上に、酸化膜60bが形成されている。酸化膜60bは、先の実施形態のように対向電極層60aの表層部が酸化されて形成されたものでなく、対向電極層60aの表面上に新たに形成された、酸化マグネシウム膜からなっている。
【0054】
このような酸化膜60bを形成するには、図5(b)に示したように対向電極(対向電極層60a)を形成した後、この対向電極(60a)の表面上に酸化マグネシウムを成膜し、図5(c)に示したように酸化膜60bを厚さ10nm以下、例えば2〜5nm程度に形成する。厚さを10nm以下にすれば、対向電極(60a)とこれの上に形成される補助配線(補助対向電極)との間の導通を確保することができ、コンタクトホールの形成などを不要にすることができる。
【0055】
酸化膜の形成方法、すなわち酸化マグネシウムの成膜方法としては、酸化マグネシウムを成膜材料とし、これを蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等によって直接成膜する方法や、マグネシウムを成膜原料とし、これを反応性スパッタ法や反応性イオンプレーティング法によって酸化マグネシウムにし、成膜する方法などが採用される。また、マグネシウムを成膜材料とし、これを蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等によって直接成膜し、その後、これを酸化して酸化マグネシウムとしてもよい。成膜したマグネシウム膜の酸化方法としては、酸素プラズマ処理が好適に用いられるが、単に酸素ガスに暴露するだけでも可能である。
【0056】
このようにして形成した酸化マグネシウムからなる酸化膜60bも、その水溶解度が小さく、水や酸素等のガスに対する遮断性に優れたものとなる。
したがって、本実施形態の有機EL装置にあっても、水溶解度が小さく、水や酸素等のガスに対する遮断性に優れた酸化マグネシム膜(酸化膜60b)が対向電極(60a)上に設けられているので、水や酸素等のガスに起因して対向電極(60a)が酸化し、有機EL素子が劣化してしまうのが防止されたものとなる。よって、耐久性に優れ、良好な表示品質が長期に亘って確保されたものとなる。
また、本実施形態の製造方法にあっては、対向電極60a上に酸化マグネシム膜(酸化膜60a)を形成するので、前記したように有機EL素子70の劣化が防止され、耐久性に優れた良好な表示品質の有機EL装置を製造することができる。
【0057】
(実験例)
第1実施形態の製造方法、及び第2実施形態の製造方法で有機ELパネルを製造した。これら有機ELパネルでは、酸化膜60bの厚さをそれぞれ5nmとした。また、比較のため、酸化膜60bを形成しない従来構造の有機ELパネルを製造した。なお、これら有機ELディスプレイについては、特別な封止構造を形成することなく、酸化膜60bあるいは対向電極を露出させた状態で発光を行わせ、評価を行った。
【0058】
これら有機ELパネルを、85℃、相対湿度90%の条件のもとで保存し、発光欠陥が生じるまでの時間を比較した。
その結果、酸化膜60bを形成しない従来構造の有機ELパネルでは、およそ150時間で全面の15%程度が発光しなくなってしまった。これに対し、第1実施形態、第2実施形態の有機ELパネルでは、1500時間以上発光欠陥が発生せず、表示について良好な信頼性が得られることが確認された。
【0059】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。例えば、前記第1、第2実施形態では有機発光層として白色発光をするものを形成し、カラーフィルターによってRGBの各色の発光をなさせるようにしたが、有機発光層の形成材料としてRGBの各色の発光をなさせる材料を塗り分けて3種類の有機発光層を形成し、カラーフィルターの形成を省略するようにしてもよい。
【0060】
(電子機器)
次に、本発明の有機EL装置の応用例として、電子機器について説明する。図6は、本発明の有機EL装置を用いた電子機器の一例を示す斜視図である。図6に示す携帯電話1300は、本発明の有機EL装置を小サイズの表示部1301として備え、複数の操作ボタン1302、受話口1303、及び送話口1304を備えて構成されている。これにより、本発明の有機EL装置によって構成された表示部を具備した、優れた携帯電話1300となる。
【0061】
なお、本発明の有機EL装置は、前記携帯電話に限らず、電子ブック、プロジェクタ、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、テレビジョン受像機、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1…有機EL装置、10…基板、20…画素電極、34…隔壁、40…有機機能層、50…補助配線(補助対向電極)、60…対向電極、60a…対向電極層(対向電極)、60b…酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素電極と対向電極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機機能層を有してなる有機E素子を備えた有機EL装置の製造方法であって、
基板上に前記画素電極を形成する工程と、
前記画素電極上に前記有機機能層を形成する工程と、
前記有機機能層上に、少なくともマグネシウムを含む金属又は合金を成膜し、前記対向電極を形成する工程と、
前記対向電極の表層部を酸化して少なくとも酸化マグネシムを含む酸化膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項2】
前記対向電極の表層部の酸化膜上に、前記対向電極に導通する補助対向電極を形成する工程を有していることを特徴とする請求項1記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項3】
画素電極と対向電極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機機能層を有してなる有機E素子を備えた有機EL装置の製造方法であって、
基板上に前記画素電極を形成する工程と、
前記画素電極上に前記有機機能層を形成する工程と、
前記有機機能層上に前記対向電極を形成する工程と、
前記対向電極上に、酸化マグネシム膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項4】
画素電極と対向電極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機機能層を有してなる有機E素子を備えた有機EL装置であって、
基板上に設けられた前記画素電極と、
前記画素電極上に設けられた前記有機機能層と、
前記有機機能層上に設けられた、少なくともマグネシウムを含む金属又は合金からなる前記対向電極と、を含み、
前記対向電極は、前記有機機能層と反対の側の表層部が、少なくとも酸化マグネシムを含む酸化膜になっていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項5】
前記対向電極の表層部の酸化膜上に、前記対向電極に導通する補助対向電極が設けられていることを特徴とする請求項4記載の有機EL装置。
【請求項6】
画素電極と対向電極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機機能層を有してなる有機E素子を備えた有機EL装置であって、
基板上に設けられた前記画素電極と、
前記画素電極上に設けられた前記有機機能層と、
前記有機機能層上に設けられた前記対向電極と、を含み、
前記対向電極上には、前記有機機能層と反対の側に酸化マグネシム膜が設けられていることを特徴とする有機EL装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−154795(P2011−154795A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13917(P2010−13917)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】