説明

有機EL装置

【課題】封止性が向上した信頼性の高い有機EL装置を得る。
【解決手段】素子基板10の一方の面に、画像が形成される領域である表示領域100と表示領域100を囲む外周部99とを有し、表示領域100内に第1の電極25と、第2の電極27と、第1の電極25と第2の電極27との間に挟持された少なくともEL材料層を含む発光機能層26と、を備え、発光機能層26の発光48を第2の電極27を介して射出する有機EL素子29と、隣り合う有機EL素子29間を隔てる隔壁77と、隔壁77の上面に形成された、第2の電極27と電気的に接続された補助配線20と、隔壁77及び有機EL素子29を覆うパシベーション層85と、を備える有機EL装置1であって、隔壁77の上面には凸部79が形成されていることを特徴とする有機EL装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機等の電子機器の表示部に用いる表示装置として、表示領域内に規則的に配置された有機EL素子を発光させて画像を形成する有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置の実用化が進んでいる。有機EL素子は、駆動素子が形成された素子基板側に配置された有機EL素子毎に独立した画素電極(陽極)と、該画素電極と対向する陰極(共通電極)と、の一対の電極と、該一対の電極間に挟持される少なくとも有機EL層を含む発光機能層とからなる。そして、近年、上述の発光を有効に利用して輝度等を向上させるために、陰極側から発光を取り出すトップエミッション型の有機EL装置の採用が進んでいる。
【0003】
トップエミッション型の有機EL装置における問題の一つに、陰極の抵抗がある。陰極は一般的に表示領域全面に形成されている。そして、透光性と導電性を両立させるために、層厚数nm乃至数十nmの極薄い金属層、あるいは金属に比較して高抵抗のITO(酸化インジウム・錫合金)等で形成されており、高い面抵抗(シート抵抗)を有している。したがって、表示領域の中央近傍においては、電圧降下により有機EL素子に対する電流の供給量が低下して表示品質が劣化する現象が生じ得る。そのため、例えば特許文献1では、有機EL素子間を区画する隔壁の対向基板側の面に、各々が陰極と導通しており、かつ、互いに平行に延在する複数本の補助配線としての補助陰極配線をマスク蒸着により形成する方法が提示されている。かかる補助陰極配線は、層厚(素子基板の法線方向の寸法)の制限が緩いため上述の面抵抗を低減でき、表示品質の劣化を緩和できる。
【0004】
【特許文献1】特開2007−265756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の補助陰極配線の形成は信頼性に影響を与えかねないと言う問題がある。マスク蒸着工程は、蒸着マスクを隣り合う画素電極間を絶縁する隔壁に密着させる必要がある。その際、隔壁と蒸着マスクとの間の干渉により生じた欠陥が最終的にパシベーション層にクラック等を発生させることが起こり得る。図7及び図8に、かかるクラックの発生の態様を示す。なお、図7、及び図8は後述する本発明の実施形態における図4及び図5に対応する図であり、各構成要素の名称等は後述する図1〜6の説明で記載されている。そこで、パシベーション層に発生し得るクラックについてのみ説明し、個々の構成要素及び符号等の説明は一部省略する。
【0006】
図7(a)〜(e)は、3原色光のいずれかを発光する発光機能層26を用いるトップエミッション型の有機EL装置におけるクラックの発生を示している。本図では、赤色発光機能層26Rと緑色発光機能層26Gとを示している。発光機能層26は隔壁77間の凹部(開口部)にのみ形成されており、隔壁77の上面には形成されていない。なお、各符号の末尾のアルファベットは、それぞれR=赤、G=緑、B=青を表わしている。以下の記載において、対応する色を区別しない場合、すなわち総称を示す場合にはアルファベットを省略して表記する。また、以下の記載において、基板(素子基板)10側の反対側を「上面」又は「上層」と表記する。
【0007】
図7(a)は、隔壁77に密着するように蒸着マスク21を被せて補助陰極配線20を形成した状態を示している。図7(b)は、図7(a)のC−C’線における断面図である。図7(c)は蒸着マスク21を隔壁77から離した状態、図7(d)は発光機能層26上及び隔壁77上に陰極27を形成した状態、図7(e)は陰極27上にパシベーション層85を形成した状態を、それぞれ示している。
【0008】
図7(a)及び図7(b)に示すように、補助陰極配線20は有機EL素子29間の隔壁77上に一つおきに形成されている。したがって、隔壁77の上面のうち補助陰極配線20が形成されない領域では、隔壁77と蒸着マスク21とは面接触している。ここで、かかる接触部において、隔壁77と蒸着マスク21との双方が完全な平滑であれば問題はないが、どちらかに突起等が存在する場合、将来的に有機EL装置の信頼性を低下させることとなる。図7(b)に示すように蒸着マスク21に局所的にマスク突起22が存在する場合、図7(c)に示すように隔壁77の上面に隔壁傷24が形成される。かかる隔壁傷24が形成された隔壁77上に陰極27を形成すると、図7(d)に示すように該陰極にクラック17が生じ得る。かかるクラックは、図7(e)に示すように陰極27の上面に形成されるパシベーション層85にも同様にクラック17を生じさせる。そして、かかるクラック17はパシベーション層85の封止性能を損ね、水分の滲入経路となる。その結果、該クラック近傍の有機EL素子29の発光機能は経時的に失われて、該有機EL素子の形成位置はいわゆるダークスポットとなる。
【0009】
図8(a)〜(e)は、蒸着マスク21ではなく隔壁77が平滑ではない場合におけるクラック17の発生を示している。本図に示す有機EL装置は、各有機EL素子29間で共通の、白色光を発光する白色発光機能層26Wが基板(素子基板)10の、隔壁77の上面を含む全面に形成されている。そして、隔壁77の上面の平坦性が若干損われており、局所的厚膜部23が存在している。
【0010】
図8(a)は、隔壁77上に形成された白色発光機能層26Wに密着するように蒸着マスク21を被せて補助陰極配線20を形成した状態を示している。図8(b)は、図8(a)のD−D’線における断面図である。図8(c)は蒸着マスク21を隔壁77から離した状態、図8(d)は白色発光機能層26Wの上層及び隔壁77上に陰極27を形成した状態、図8(e)は陰極27の上層にパシベーション層85を形成した状態を、それぞれ示している。
【0011】
図8(b)に示すように、局所的厚膜部23が存在する位置では、白色発光機能層26Wは局所的厚膜部23と蒸着マスク21とにより強く圧迫されている。したがって、白色発光機能層26Wの一部は蒸着マスク21に強く密着している。かかる状態から蒸着マスク21を離すと、図8(c)に示すように、白色発光機能層26Wの一部が隔壁77から剥離して、隔壁77の表面が露出する。かかる状態で隔壁77の上面を含む基板(素子基板)10の全面に陰極27を形成すると、図8(d)に示すように該陰極にクラック17が発生する。そしてかかるクラックは、陰極27の上層に形成されるパシベーション層85にも同様のクラック17を発生させ、最終的にはダークスポットの原因となる。
【0012】
本発明は、上述の問題、すなわち補助陰極配線20の形成に起因するクラック17の発生、そして該クラックによるダークスポットの発生を抑止して信頼性の高い有機EL装置を得るためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0014】
[適用例1]基板の一方の面に、画像が形成される領域である表示領域と該表示領域を囲む外周部とを有し、上記表示領域内に第1の電極と、第2の電極と、上記第1の電極と上記第2の電極との間に挟持された少なくともEL材料層を含む発光機能層と、を備え、上記EL材料層の発光を上記第2の電極を介して射出する有機EL素子と、隣り合う上記有機EL素子間を隔てる隔壁と、上記隔壁の上面に形成された、上記第2の電極と電気的に接続された補助配線と、上記隔壁及び上記有機EL素子を覆うパシベーション層と、を備える有機EL装置であって、上記隔壁の上面には凸部が形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【0015】
このような構成であれば、上述の補助陰極の形成時において、上記凸部で上記マスクを支持できるため、上記隔壁の上面に局所的に強い圧力がかかることを抑制できる。したがって、第2の電極あるいは発光機能層に損傷が生じることを抑制でき、有機EL装置の信頼性を向上できる。
【0016】
[適用例2]上述の有機EL装置であって、上記凸部の頂点は曲面形状を有することを特徴とする有機EL装置。
【0017】
このような構成であれば、上記マスクを支持する際に、隔壁の上面に局所的に強い圧力がかかることを抑制するとともに、上記凸部に加わる圧力を極めて均一にすることができる。したがって、第2の電極あるいは発光機能層に損傷が生じることをより効果的に抑制することが可能となり、有機EL装置の信頼性を向上できる。
【0018】
[適用例3]上述の有機EL装置であって、上記凸部は該凸部の頂点に力が加わった時に変形可能な材料で形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【0019】
このような構成であれば、上記マスクを支持する際に、隔壁の上面に局所的に強い圧力がかかることをより効果的に抑制することが可能となる。したがって、第2の電極あるいは発光機能層に損傷が生じることをより効果的に抑制することが可能となり、有機EL装置の信頼性を向上できる。
【0020】
[適用例4]上述の有機EL装置であって、上記外周部には、上記隔壁が上記表示領域を囲むように環状に形成されており、上記凸部の密度は、上記表示領域内における該密度よりも上記外周部内における該密度の方が高いことを特徴とする有機EL装置。
【0021】
このような構成であれば、上記外周部における上述の損傷をより一層抑制できる。水分等の滲入は上記外周部からであるため、より一層信頼性の向上した有機EL装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照し、有機EL装置の実施形態について説明する。以下に記載する実施形態は第1の実施形態と第2の実施形態とがあり、双方共隔壁77の上面に形成された凸部79(図2参照)の機能に特徴がある。そこで、まず双方の実施形態にかかる有機EL装置の概要について説明し、次に凸部79の機能及び効果について述べる。なお、以下に示す各図においては、各構成要素を図面上で認識され得る程度の大きさとするため、各構成要素の寸法や比率を実際のものとは適宜に異ならせてある。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態にかかる有機EL装置1、及び後述する第2の実施形態にかかる有機EL装置2、そして上述した従来の有機EL装置にも共通する有機EL装置の回路構成図である。有機EL装置1は、表示領域100と外周部とを備えている。表示領域100には、X方向に延在する複数の走査線102と、Y方向に延在する複数の信号線104と、同じくY方向に延在する複数の電源線106と、が形成されている。X方向が信号線104と電源線106とで規定され、Y方向が走査線102の中心線で規定される区画毎に有機EL画素30が形成されている。
【0024】
有機EL画素30は射出する光の色により、赤色有機EL画素30Rと緑色有機EL画素30Gと青色有機EL画素30Bとに区別されており、かかる3種類の有機EL画素30が表示領域100内に規則的に形成されている。
【0025】
各々の有機EL画素30は、走査線102を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(薄膜トランジスタ)108と、スイッチング用TFT108を介して信号線104から供給される画像信号を保持する保持容量110と、保持容量110によって保持された画像信号がゲート電極に供給される駆動用TFT112と、駆動用TFT112を介して電源線106から駆動電流が流れ込む有機EL素子29(図3参照)等からなる。
【0026】
有機EL素子29も、射出する光の色により3種類あり、上述の3種類の有機EL画素30にそれぞれ対応している。本実施形態の有機EL装置1においては、上述の射出光の色は、発光機能層26内の有機EL層の形成材料によって得られている。ただし、後述するように色純度を向上させるためにカラーフィルタ層80も備えている。一方で、後述する有機EL装置2においては、カラーフィルタ層80(図3参照)により白色光を三原色光のいずれかの光に変えて射出している。したがって、有機EL素子29は3種類の有機EL画素30間で共通である。なお、上述の3種類の有機EL画素30は、有機EL素子29以外の要素は共通である。
【0027】
表示領域100の周辺の領域である外周部には、走査線駆動回路120、及び信号線駆動回路130が形成されている。走査線駆動回路120は、図示しない外部回路より供給される各種信号に応じて、走査線102に走査信号を順次供給する。信号線駆動回路130は、信号線104に画像信号を供給する。電源線106には、図示しない外部回路から画素駆動電流が供給される。走査線駆動回路120の動作と信号線駆動回路130の動作とは、同期信号線140を介して外部回路から供給される同期信号により相互に同期が図られている。
【0028】
走査線102が駆動されスイッチング用TFT108がオン状態になると、その時点の信号線104の電位が保持容量110に保持され、保持容量110の状態に応じて駆動用TFT112のレベルが決まる。そして、駆動用TFT112を介して電源線106から画素電極25(図2参照)に駆動電流が流れ、有機EL素子29は駆動電流の大きさに応じて発光する。
【0029】
図2は、本実施形態の有機EL装置1の模式断面図である。本実施形態の有機EL装置1及び後述する第2の実施形態にかかる有機EL装置2は、隣り合う有機EL素子29の間を区画する隔壁77の断面形状に特徴がある。そこで、本図では隔壁77と、該隔壁によって区画される3種類の有機EL素子29(R,G,B)と、該有機EL素子を駆動する駆動用TFT(以下、単に「TFT」と称する。)112等の断面を表示し、スイッチング用TFT108と保持容量110は図示を省略する。以下、素子基板10側から順に説明する。
【0030】
素子基板10上には、TFT112が、上述する図示しないスイッチング用TFT108及び保持容量110等とともに形成されている。TFT112は、半導体層31と、走査線102と同一の層をパターニングして形成されたゲート電極33、及び、半導体層31とゲート電極33との間に形成されたゲート絶縁層70等からなる。半導体層31のうちゲート電極33と重なる領域がチャネル領域38であり、該チャネル領域の両側にソース領域35とドレイン領域36とが形成されている。
【0031】
TFT112の対向基板11側には、窒化シリコン、又は酸化シリコンからなる層間絶縁層71が形成されている。ソース領域35は、層間絶縁層71を局所的にエッチングして形成されたコンタクトホール(符号無し)を介してソース電極53と電気的に接続されており、同様にドレイン領域36は層間絶縁層71を局所的にエッチングして形成されたコンタクトホール(符号無し)を介してドレイン電極54と電気的に接続されている。ソース電極53とドレイン電極54との上層には、窒化シリコンからなる第1の保護層73と平坦化層72とが順に積層されている。
【0032】
平坦化層72の上層における所定の領域には反射層28が形成されている。上記「所定の領域」とは、将来的に有機EL素子29が形成される領域を含む領域である。有機EL素子29の発光は上方向と下方向とに半々に射出される。一方で、本実施形態の有機EL装置1はトップエミッション型であり、上方向にのみ表示領域100(図1参照)を有している。そこで、反射層28により、有機EL素子29の発光を上層方向に反射させて発光を有効に利用している。したがって、反射層28が形成される領域は、将来的に有機EL素子29が形成される領域を少なくとも含む必要がある。
【0033】
反射層28の形成材料は、反射率が高く加工性(パターニング性)に優れた材料が好ましい。有機EL装置1では、反射層28は、Al(アルミニウム)を用いている。反射層28の上面は、窒化シリコンからなる第2の保護層74で覆われている。該第2の保護層は、後述する画素電極25の形成時に反射層28を保護する機能を果たしている。
【0034】
反射層28の形成領域を含む平坦化層72の上面には、該反射層を覆うように、ITO(酸化インジウム・錫合金)層を島状にパターニングしてなる第1の電極としての画素電極25が形成されている。画素電極25は個々の有機EL画素30(図1参照)毎に形成されており、隣り合う画素電極25間は隔壁77で区画されている。
【0035】
隔壁77は、層厚(Z方向の寸法)が略2.0μm、幅(X方向の寸法)が略15.0μmであり、感光性の樹脂層を、図示するようにテーパーがつくようにパターニングして形成されている。該隔壁により囲まれた領域(符号無し)、すなわち画素電極25が露出する領域が、将来的に有機EL素子29が形成される領域である。そして、本実施形態の有機EL装置1は、該隔壁の上面が平坦ではなく凸部79が形成されている。該凸部は断面がお椀型をしている。したがって、有機EL装置1(及び有機EL装置2)の備える隔壁77は、従来の有機EL装置の隔壁のように平坦な上面は有していない。凸部79の寸法は厚さ(高さ)方向が略0.1μm、幅(X方向の寸法)が略5.0μmである。かかる形状は、上述の感光性の樹脂層のパターニングの際に、いわゆるハーフ露光することで得られている。なお、凸部79の機能については後述する。
【0036】
上述の隔壁77で囲まれた領域、すなわち画素電極25の上層には、3種類の有機EL素子29(R,G,B)毎に夫々異なる発光機能層26が形成されている。具体的には、赤色有機EL素子29Rには赤色発光機能層26Rが形成され、緑色有機EL素子29Gには緑色発光機能層26Gが形成され、青色有機EL素子29Bには青色発光機能層26Bが形成されている。夫々の発光機能層26は、素子基板10側から順に正孔注入層と正孔輸送層と有機EL層と電子輸送層と電子注入層との計5層が積層されて形成されており、上述の各々の発光色は、有機EL層の形成材料により得られている。
【0037】
隔壁77の上面には、後述する陰極27の導電性を補なうための補助陰極配線20が、凸部79を覆うように形成されている。補助陰極配線20の形成材料は、その形成目的上高い導電性すなわち低抵抗性が必要であり、本実施形態の有機EL装置1においてはAl等で形成されている。そして、本実施形態の有機EL装置1においては補助陰極配線20は隔壁77の上面のすべてに形成されているのではなく、Y方向に延在する隔壁77に対して1本おきに形成されている。したがって、本図のようにY方向に対して垂直な断面においては、補助陰極配線20が形成された隔壁77の両側には補助陰極配線20が形成されていない隔壁77が位置することとなる。
【0038】
補助陰極配線20の形成方法は、上述の[背景]で述べたようにマスクを用いた蒸着法が好ましい。蒸着法以外にイオンプレーティング法、スパッタリング法、イオンビーム法等を用いることもできる。上記いずれの方法においてもマスクが必要であり、形成領域を隔壁77の上面に限定するためにはマスクを隔壁77に密着させる必要がある。
【0039】
補助陰極配線20が形成された発光機能層26の上面には、第2の電極としての陰極27が形成されている。有機EL装置1はトップエミッション型の有機EL装置であるため、陰極27は導電性と共に、透明性又は半透過反射性を有することが必要である。一方で、陰極27は画素電極25の形成材料よりも仕事係数が低い材料で形成される必要がある。したがって、層厚数nm〜十数nmの極薄いAlあるいはMgAg(マグネシウム・銀)合金等で形成することが好ましい。
【0040】
陰極27は素子基板10の全面に形成されるため、隔壁77で囲まれた領域内において画素電極25と発光機能層26と陰極27の積層体が形成される。かかる積層体が、有機EL素子29(R,G,B)である。陰極27は少なくとも表示領域100(図1参照)の全域に形成されており、0電位となっている。したがって、画素電極25に電圧が印加されると該電圧に応じた電流が発光機能層26に流れる。発光機能層26に含まれる有機EL層は、該電流量に応じて発光し、発光48として射出される。
【0041】
上述したように陰極27は極薄い金属材料で形成されているため、高い面抵抗を有している。そのため、表示領域100の中央近傍においては、電圧降下により画素電極25との間に印加する電圧が低下し、上述の発光量が低下する現象が発生し得る。補助陰極配線20はかかる電圧降下を抑制するために形成される要素であり、隔壁77の上面における陰極27を実質的に厚膜化して面抵抗を低減する機能を果たしている。
【0042】
陰極27の上層には、有機EL素子29等を保護するためにパシベーション層85が形成されている。パシベーション層85は、無機材料層と有機材料層と無機材料層との3層構造が好ましい。そして、該パシベーション層まで形成された素子基板10は、接着層78及び周辺シール材13(図6参照)を介して対向基板11と貼り合わされている。対向基板11の素子基板10と対向する側の面にカラーフィルタ層80が配置されており、上記の面の反対側の面には、外光反射を抑制するための円偏光板88が配置されている。円偏光板88は直線偏光板と1/4波長補正板(直交する偏光成分間に1/4波長の位相差を与える素子。)との積層体である。光が反射する際に、偏光の回転方向が逆転する性質を利用して、上述の反射層等で反射された外光が表示領域100から射出されることを抑制している。
【0043】
カラーフィルタ層80は、3種類(3色)のカラーフィルタ81(赤色カラーフィルタ81Rと緑色カラーフィルタ81Gと青色カラーフィルタ81B)と、各々のカラーフィルタ81間に形成されたブラックマトリクス82と、からなる。上述したように本実施形態にかかる有機EL装置1は発光機能層26を有機EL素子29の発光色毎に個別に形成しているため、カラーフィルタ81(R,G,B)は必須ではない。しかし、カラーフィルタ81により色純度を一層向上させて表示品質を向上させることはできる。ブラックマトリクス82が形成されている領域は平面視で隔壁77の形成領域と略一致しており、隣り合う有機EL素子29間の混色を抑制している。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態にかかる有機EL装置について述べる。凸部79の機能については第1の実施形態と第2の実施形態とを合せて後述する。図3は、有機EL装置2の模式断面図である。本実施形態にかかる有機EL装置2は有機EL装置1と同様のトップエミッション型の有機EL装置であり、発光機能層26以外は有機EL装置1と同様の要素で構成されている。そこで、かかる共通する要素には同一の符号を付与して、説明の記載は一部省略する。
【0045】
図示するように有機EL装置2においては、隔壁77の上面及び画素電極25が形成された素子基板10の全面に白色発光機能層26Wが形成されている。したがって、有機EL素子29は発光色では区別できず、全て共通である。有機EL画素30(図1参照)の種類すなわち3種類の発光色は、カラーフィルタ層80の働きのみで得られている。したがって、有機EL装置2のカラーフィルタ層80、特にブラックマトリクス82を除く3色のカラーフィルタ81(R,G,B)は、有機EL装置1の該カラーフィルタとは異なり濃く形成されている。
【0046】
隔壁77の上面には、有機EL装置1の該隔壁の上面と同様に凸部79が形成されている。したがって、白色発光機能層26Wは、隔壁77の上面において該凸部を覆うように形成されている。そして補助陰極配線20は該白色発光機能層の上層に形成されている。
【0047】
(実施形態にかかる有機EL装置の凸部の効果)
図4(a)〜(e)は、第1の実施形態にかかる有機EL装置1における凸部79の機能と効果を示す図であり、上述の[背景]の記載で用いた図7に対応する図である。図4(a)は、隔壁77に密着するように蒸着マスク21を被せて補助陰極配線20を形成した状態を示している。図4(b)は、図4(a)のA−A’線における断面図である。図4(c)は蒸着マスク21を隔壁77から離した状態、図4(d)は発光機能層26上及び隔壁77上に陰極27を形成した状態、図4(e)は陰極27上にパシベーション層85を形成した状態を、それぞれ示している。ここで、蒸着マスク21の隔壁77側の面の一部の領域には、図示するようにマスク突起22が存在している。
【0048】
図4(a)に示すように、隣り合う有機EL素子29の間の隔壁77の上面には凸部79が規則的に形成されている。そして、図4(b)に示すように、補助陰極配線20の形成に用いる蒸着マスク21は、凸部79と密着するように素子基板10上に配置される。具体的には、蒸着マスク21はお椀型の断面形状を有する凸部79の頂点で支えられる。ここで、隔壁77の上面は素子基板10の基板面内において完全な平面を有してはおらず、蒸着マスク21の隔壁77側の面も同様である。したがって、従来の有機EL装置における補助陰極配線20の形成工程では、素子基板10の面内に分布する隔壁77の上面の極一部に、蒸着マスク21による圧力がかかり得る。しかし、本実施形態にかかる有機EL装置1が備える凸部79は断面形状がお椀型であり、頂点を有している。すなわち、凸部79の頂点が曲面形状を有している。そして、該頂点は若干の変形が可能である。したがって、素子基板10の面内に分布する凸部79の殆んどが略一様に蒸着マスク21に接触することとなり、隔壁77の上面の極一部の領域にのみ強い圧力がかかることが抑制される。
【0049】
また、マスク突起22は蒸着マスク21の隔壁77側の面内の極一部の領域にのみ存在するため、平面視においてマスク突起22と凸部79の頂点とが重なる可能性は少ない。さらに、凸部79の頂点は従来の有機EL装置の隔壁77の上面とは異なり横方向すなわち素子基板10の面方向に若干の変形が可能である。したがって、たとえマスク突起22と平面視で重なった場合においても、圧力により隔壁傷24(図7参照)が生じる可能性が非常に少ない。したがって、図4(c)に示すように補助陰極配線20を形成した後に素子基板10から蒸着マスク21を離した段階において、マスク突起22の存在にもかかわらず、隔壁77には隔壁傷24が生じない。したがって、図4(d)に示すように、マスク突起22を有する蒸着マスク21を用いて補助陰極配線20を形成したにもかかわらず、クラック17(図7参照)を有しない陰極27を隔壁77上に形成できる。
【0050】
そしてさらに、図4(e)に示すように、陰極27の上層にクラック17を有しないパシベーション層85を形成できる。上述したように、パシベーション層85にクラック17が存在する場合、該クラックを透して水分が浸入し得る。そしてかかる水分は、該クラック近傍の有機EL素子29の機能を失わせて、いわゆるダークスポットを発生させ得る。本実施形態にかかる有機EL装置1は、隔壁77の上面に凸部79を形成しているため、補助陰極配線20をマスク蒸着法により形成しているにもかかわらず、クラック17を有しないパシベーション層85を形成できる。その結果、本実施形態にかかる有機EL装置1は、補助陰極配線20による高い表示品質と、クラック17を有しないパシベーション層85による高い信頼性を併せ持つことができる。
【0051】
次に、第2の実施形態にかかる有機EL装置2における、凸部79の機能と効果について説明する。図5(a)〜(e)は、第2の実施形態にかかる有機EL装置2における凸部79の機能と効果を示す図であり、上述の[背景]の記載で用いた図8に対応する図である。
【0052】
図5(a)は、隔壁77に密着するように蒸着マスク21を被せて補助陰極配線20を形成した状態を示している。図5(b)は、図5(a)のB−B’線における断面図である。図5(c)は蒸着マスク21を隔壁77から離した状態、図5(d)は発光機能層26上及び隔壁77上に陰極27を形成した状態、図5(e)は陰極27上にパシベーション層85を形成した状態を、それぞれ示している。
【0053】
そして、図5(b)に示すように、有機EL装置2の隔壁77の上面には、上述の図8において説明した隔壁77と同様に、局所的厚膜部23が点在している。白色発光機能層26Wは隔壁77の上面にも形成されているため、蒸着マスク21を隔壁77に密着させた場合、白色発光機能層26Wは蒸着マスク21と局所的厚膜部23とによって、上下方向(Z方向)に挟まれることとなる。しかし、有機EL装置2においては隔壁77の上面は平坦ではなく、凸部79が形成されている。したがって、上述の局所的厚膜部23が該凸部の頂点に位置していない限り、白色発光機能層26Wが蒸着マスク21と局所的厚膜部23とにより強く圧迫されることはない。
【0054】
また、局所的厚膜部23が凸部79の頂点に位置している場合においても、凸部79の弾力性により、蒸着マスク21と隔壁77とが局所的に接触することが抑制されるため、白色発光機能層26Wが蒸着マスク21により強く圧迫されることが抑制される。さらに、凸部79の頂点近傍においては、局所的厚膜部23自体が従来の有機EL装置における局所的厚膜部とは異なり頂点を有するように形成されるため、白色発光機能層26Wに加わる圧力は周囲に逃げることができる。
【0055】
したがって、図5(c)に示すように、補助陰極配線20の形成が終了し、蒸着マスク21を素子基板10から離した段階において、局所的厚膜部23の発生箇所における白色発光機能層26Wの剥離等の発生は抑制されている。
【0056】
したがって、図5(d)に示すように、隔壁77の上面に局所的厚膜部23が存在しているにもかかわらず白色発光機能層26Wの上層にクラック17(図8参照)を有しない陰極27を形成できる。そしてさらに、図5(e)に示すように、陰極27の上層にクラック17を有しないパシベーション層85を形成できる。
【0057】
上述したようにクラック17はダークスポットの原因となり得る。本実施形態にかかる有機EL装置2は、隔壁77の上面に凸部79を形成しているため、隔壁77のパターニング時に局所的厚膜部23が発生していても、クラック17を有しないパシベーション層85を形成できる。その結果、本実施形態にかかる有機EL装置2は、補助陰極配線20による高い表示品質と高い信頼性を併せ持つことができる。
【0058】
次に、第1の実施形態にかかる有機EL装置1と第2の実施形態にかかる有機EL装置2とに共通する凸部79の形成密度について述べる。図6(a)〜(d)は、有機EL装置1及び有機EL装置2(以下、単に「有機EL装置」と表記する。)の表示領域100と外周部99とにおける凸部79の形成密度の違いを示す図である。具体的には、図6(a)は素子基板10に対して垂直な方向の断面図であり、図6(b)は素子基板10の基板面内における各領域の配置を示す図であり、図6(c)及び図6(d)は、凸部79の形成密度を示す図である。
【0059】
図6(a)及び上述の図2等に示すように、有機EL装置は素子基板10と周辺シール材13と一方の面に円偏光板88が貼付された対向基板11とを備えている。かかる要素で形成される空間内には、カラーフィルタ層80と内側素子群14と外側素子群15と隔壁層16とが形成されている。内側素子群14が形成されている領域が表示領域100であり、外側素子群15が形成されている領域が外周部99である。図6(b)に示すように、外周部99は表示領域100の周囲を同心円状に囲むように形成されている。なお、外周部99の周囲の領域は周辺シール材13の形成領域である。
【0060】
ここで、内側素子群14とは表示領域100内に形成されるスイッチング用TFT108、保持容量110、及び駆動用TFT112等の総称であり、外側素子群15とは外周部99に形成されている走査線駆動回路120及び信号線駆動回路130等を形成する素子の総称である。隔壁層16とは、表示領域100内において有機EL素子29間を区画する隔壁77と、外周部99において外側素子群15を覆う樹脂層(符号無し)の総称である。
【0061】
図6(c)は外周部99において隔壁層16上に形成された凸部79を示しており、図6(d)は表示領域100おいて隔壁層16上に形成された凸部79を示している。外周部99における凸部79は表示領域100における凸部79に比べて略2倍の密度で形成されている。
【0062】
かかる密度差により、上述の双方の実施形態にかかる有機EL装置は凸部79にかかる圧力を素子基板10の面内に広く分散させることができ、該凸部の変形を抑制できる。また、ダークスポットの原因となり得る水分は、主として基板(素子基板10及び対向基板11)と周辺シール材との界面から滲入する。したがって、外周部99における凸部79の形成密度を上げることで、外周部99におけるクラック等の発生をより一層抑制でき信頼性をより一層向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1の実施形態にかかる有機EL装置の回路構成を示す図。
【図2】第1の実施形態の有機EL装置の模式断面図。
【図3】第2の実施形態の有機EL装置の模式断面図。
【図4】第1の実施形態にかかる有機EL装置における凸部の機能と効果を示す図。
【図5】第2の実施形態にかかる有機EL装置における凸部の機能と効果を示す図。
【図6】凸部の形成密度の違いを示す図。
【図7】従来の有機EL装置におけるクラックの発生を示す図。
【図8】従来の有機EL装置におけるクラックの発生を示す図。
【符号の説明】
【0064】
10…素子基板、11…対向基板、13…周辺シール材、14…内側素子群、15…外側素子群、16…隔壁層、17…クラック、20…補助陰極配線、21…蒸着マスク、22…マスク突起、23…局所的厚膜部、24…隔壁傷、25…第1の電極としての画素電極、26B…青色発光機能層、26G…緑色発光機能層、26R…赤色発光機能層、26W…白色発光機能層、27…第2の電極としての陰極、28…反射層、29…有機EL素子、29R…赤色有機EL素子、29G…緑色有機EL素子、29B…青色有機EL素子、31…半導体層、33…ゲート電極、35…ソース領域、36…ドレイン領域、38…チャネル領域、48…発光、53…ソース電極、54…ドレイン電極、70…ゲート絶縁層、71…層間絶縁層、72…平坦化層、73…第1の保護層、74…第2の保護層、77…隔壁、78…接着層、79…凸部、80…カラーフィルタ層、81B…青色カラーフィルタ、81G…緑色カラーフィルタ、81R…赤色カラーフィルタ、82…ブラックマトリクス、85…パシベーション層、88…円偏光板、99…外周部、100…表示領域、102…走査線、104…信号線、106…電源線、108…スイッチング用TFT、110…保持容量、112…駆動用TFT、120…走査線駆動回路、130…信号線駆動回路、140…同期信号線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面に、画像が形成される領域である表示領域と該表示領域を囲む外周部とを有し、
前記表示領域内に、
第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に挟持された少なくともEL材料層を含む発光機能層と、を備え、前記EL材料層の発光を前記第2の電極を介して射出する有機EL素子と、
隣り合う前記有機EL素子間を隔てる隔壁と、
前記隔壁の上面に形成された、前記第2の電極と電気的に接続された補助配線と、
前記隔壁及び前記有機EL素子を覆うパシベーション層と、
を備える有機EL装置であって、
前記隔壁の上面には凸部が形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL装置であって、前記凸部の頂点は曲面形状を有することを特徴とする有機EL装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機EL装置であって、前記凸部は該凸部の頂点に力が加わった時に変形可能な材料で形成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機EL装置であって、前記外周部には、前記隔壁が前記表示領域を囲むように環状に形成されており、
前記凸部の密度は、前記表示領域内における該密度よりも前記外周部内における該密度の方が高いことを特徴とする有機EL装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−153171(P2010−153171A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329368(P2008−329368)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】