説明

有用タンパク質の製造方法

【課題】
カイコ絹糸中に含まれる組換えタンパク質の簡便な回収法を開発し、もって産業用途への実用化にむけた課題解決を図る。
【解決手段】
遺伝子組換えカイコ(トランスジェニックカイコ)により絹糸中に産生された組換えタンパク質を、絹糸を中性塩の溶液、銅アルカリ溶液、または尿素溶液で溶解した後、塩濃度の低い水溶液で透析または希釈し、絹糸タンパク質を沈殿させることにより、複雑なタンパク質精製工程を経ることなく純度よく組換えタンパク質を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスジェニックカイコの絹糸などに大量に存在する有用タンパク質を、簡便に純度高く抽出、精製して、有用タンパク質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年昆虫染色体への外来遺伝子の組み換えが試みられ、核多核体病ウイルスの一種であるAutographa californica Nuclear Polyhedrosis Virus (AcNPV)(オートグラファカリフォルニアヌクレアポリヘドロシスウイルス)のDNAを用いてカイコフィブロイン重鎖遺伝子にクラゲ緑色蛍光タンパク質遺伝子を付加した融合遺伝子を、相同組み換えにより、カイコ染色体上に導入し、発現させる方法が開発され(非特許文献1参照)、その技術を用いたヒト・コラーゲン遺伝子を導入したカイコおよびその製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
また最近、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac(ピギーバック)を用いることにより、外来遺伝子を昆虫の細胞へと導入できることが明らかとなり(特許文献2参照)、クラゲ緑色蛍光タンパク質遺伝子をカイコ染色体へと導入し、そのタンパク質をA3プロモーターにより発現させる方法が開発され、絹糸腺組織や繭中にそのタンパク質が確認された。また、交配により子孫へと遺伝子が安定に伝わることも確認された(非特許文献2参照)。さらにこの方法を改良することにより、サイトカインなどのタンパク質をカイコの絹糸腺または絹糸中に大量に産生させる技術も確立された(特許文献3参照)。
【0004】
本技術を用いた低コストタンパク質生産を実現するには、絹糸中に大量に産生された組換えタンパク質を純度よく大量に回収することが求められるが、これまでのところ絹糸からの効率的な組換えタンパク質の回収法は知られていない。
【0005】
一方、絹糸を加工する技術として、酸または中性塩の溶液に溶解した後、透析、希釈により絹糸を構成するタンパク質を沈殿させたり、または乾燥することにより絹糸を構成するタンパク質を粉末やフィルムとして得る方法が開示されている(特許文献4,5,6参照)が、これらは絹糸タンパク質(主にフィブロイン)を回収するためのものであり、絹糸中に存在する組換えタンパク質の回収については記載されていない。
【特許文献1】特開2001−161214号公報
【特許文献2】米国特許第6218185号明細書
【特許文献3】特願2002-60374号公報
【特許文献4】特開平6-70702号公報
【特許文献5】特開平11-104228号公報
【特許文献6】特開2001-54359号公報
【非特許文献1】ジーンズアンドデベロップメント(Genes and Development)1999年、第13巻、p.511−516
【非特許文献2】ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotechnology)2000年、第18巻、p.81−84
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有用タンパク質をコードする遺伝子を染色体中へと導入されたトランスジェニックカイコの絹糸に産生された有用タンパク質を簡便に純度高く抽出、精製する方法は知られていない。産業用途への応用を想定した場合、低コストで純度よく絹糸から組換えタンパク質を回収する技術は重要である。そこで、カイコ絹糸中に含まれる組換えタンパク質の簡便な回収法を開発し、もって産業用途への実用化にむけた課題解決を図る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、遺伝子組換えカイコ(トランスジェニックカイコ)により絹糸中に産生された組換えタンパク質を、絹糸を溶解剤の水溶液で溶解した後、透析または希釈により溶解剤の濃度を下げることで、絹糸タンパク質を沈殿させることにより、複雑なタンパク質精製工程を経ることなく純度よく抽出、精製できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、外来タンパク質とフィブロインを含む絹糸を溶解剤の水溶液に溶解し、水溶液の溶解剤の濃度を下げることによりフィブロインを沈殿させた後に、上清から有用タンパク質を回収することを特徴とする高純度有用タンパク質の製造方法に関するものであり、具体的には以下の通りである。
【0009】
(1)絹糸中に遺伝子組換え法で発現させた有用タンパク質を含有する絹糸を溶解剤に溶解し、フィブロインを沈殿させた後に、上清から有用タンパク質を回収することを特徴とする有用タンパク質の製造方法。
【0010】
(2)溶解剤の濃度を下げることによりフィブロインを沈殿させることを特徴とする(1)記載の有用タンパク質の製造方法。
【0011】
(3)有用タンパク質が、それをコードする遺伝子を染色体へと導入されたカイコの絹糸中に発現したものであることを特徴とする(1)または(2)記載の有用タンパク質の製造方法。
【0012】
(4)溶解剤が中性塩、銅アルカリおよび尿素から選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であることを特徴とする(1)から(3)のいずれか記載の有用タンパク質の製造方法。
【0013】
(5)中性塩が塩化カルシウム、チオシアン酸リチウム、臭化リチウムのいずれかであることを特徴とする(4)記載の有用タンパク質の製造方法。
【0014】
(6)溶解剤が、10重量%以上の濃度の塩化カルシウム水溶液であることを特徴とする (5)に記載の有用タンパク質の製造方法。
【0015】
(7)溶解剤の濃度を低下させるために水もしくは水とアルコールとの混合液を添加することを特徴とする(2)から(6)のいずれか記載の有用タンパク質の製造方法。
【0016】
(8)上清から溶媒を除去し有用タンパク質を濃縮して回収することを特徴とする請求項(1)から(6)のいずれか記載の有用タンパク質の製造方法。
【0017】
(9)減圧条件下で溶媒のみを揮発させ、溶媒を除去することを特徴とする(8)記載の有用タンパク質の製造方法。
【0018】
(10)有用タンパク質が、等張な水溶液に可溶性であることを特徴とする(1)から(9)のいずれか記載の有用タンパク質の製造方法。
【0019】
(11)有用タンパク質がサイトカイン、インターフェロン、抗原タンパク質のいずれかであることを特徴とする(1)から(10)のいずれか記載の有用タンパク質の製造方法。
【0020】
(12)有用タンパク質がネコインターフェロンまたはイヌパルボウイルスVP2抗原であることを特徴とする(11)記載の有用タンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、遺伝子組換えカイコ(トランスジェニックカイコ)により絹糸中に産生された組換えタンパク質を複雑なタンパク質精製工程を経ることなく純度よく抽出、精製できることが可能となり、もって特に高純度が求められる医薬品用途など、トランスジェニックカイコにより産生された有用タンパク質を産業用途へと応用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明における遺伝子組み換え法で発現させた有用タンパク質とは、産業上利用価値の高いタンパク質であり、基本的に本来カイコの絹糸中に大量に存在しないタンパク質を遺伝子組み換え法で発現させたタンパク質である。好ましくは、生理食塩水などの等張な水溶液に可溶性のタンパク質であり、水に対する溶解度において絹フィブロインタンパク質と差が大きいものが望ましい。好ましくは、サイトカイン、インターフェロン、抗原タンパク質などの生物の体液中に溶解して存在するタンパク質である。例えば、ネコインターフェロンーω、イヌパルボウイルスVP2抗原などがある。
【0023】
有用タンパク質をコードする遺伝子の取得方法としては、任意の取得方法を用いることが可能である。例えば、ネコインターフェロン-ω遺伝子は、E.Coli(pFeIFN1)(微工研条寄第1633号)から抽出したプラスミドから切り出すことで得ることができる。または、切り出したネコインターフェロン-ω遺伝子を、カイコのクローニングベクター(T.Horiuchiら、Agric.Biol.Chem.,51,1573-1580,1987)に連結して作製した組換えプラスミドとカイコ多核体病ウイルスDNAとを、カイコ樹立細胞にコ・トランスフェクションして作製したrBNV100から得ることも可能である。
【0024】
本発明におけるカイコ染色体への遺伝子導入方法については、遺伝子が安定に染色体に組み込まれ、発現し、交配により子孫にも安定に遺伝子が伝わるような遺伝子導入方法であればよく、カイコ卵にマイクロインジェクションする方法、遺伝子銃を用いる方法などを用いることができるが、好ましくは、トランスポザーゼ遺伝子を含むヘルパープラスミド(Nature Biotechnology 18, 81-84, 2000)と同時に目的遺伝子を含むカイコ染色体への外来遺伝子導入用ベクターをカイコ卵にマイクロインジェクションする方法が採用される。
【0025】
目的遺伝子は、マイクロインジェクションされたカイコ卵から孵化し成長した組換えカイコにおいて生殖細胞へ導入される。こうして得られた組換えカイコの子孫は、その染色体上に目的遺伝子を安定に保持することが可能である。本発明で得られる遺伝子組換えカイコは、通常のカイコと同様な方法で、継代維持可能である。
【0026】
用いるカイコ染色体への外来遺伝子導入ベクターについては、ウイルスベクター、トランスポゾン由来DNA配列を含んだベクター、または染色体には組み込まれないプラスミドベクターなどが利用できる。好ましくはトランスポゾン由来DNA配列を含んだベクターが用いられる。
【0027】
トランスポゾン由来のDNAとしては、ショウジョウバエ由来のトランスポゾンであるmariner(マリナー)(Third International workshop on transgenesis of invertebrate organisms,p37-38,1999), Minos(ミノス)(Insect Mol.Biol.9,277-281,2000)や鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac(ピギーバック)(Nature Biotechnology 18,81-84,2000)などを用いることが可能であるが、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac由来のDNA配列を持ったトランスポゾンが好適に使用される。piggyBac由来のDNA配列の構造としては、TTAA配列を含む1対の末端逆位配列が必須であり、そのDNA配列の間にサイトカイン遺伝子など外来遺伝子が挿入された構造を有するものである。トランスポゾン由来のDNA配列を利用して外来遺伝子をカイコ染色体へ導入するためには、さらにtransposase(トランスポゼース)を利用することが好ましい。例えば、piggyBac由来のtransposase(トランスポゼース)を発現することが可能なDNAを同時に導入することで、カイコ細胞内において転写・翻訳されたtransposaseがその2対の末端逆位配列を認識してその間の遺伝子断片を切り出し、カイコ染色体へと転移させることにより、カイコ染色体へ遺伝子が導入される頻度を著しく向上させることができる。
【0028】
本発明において用いる有用タンパク質をコードする遺伝子をカイコ染色体に導入する目的で使用される遺伝子導入ベクターは、タンパク質の発現を的確に制御するように設計されるならば特に限定されないが、通常は、導入する有用タンパク質をコードする遺伝子遺伝子に対して絹糸腺特異的な発現を制御するプロモーターを上流に、任意のポリA配列を下流に連結した構造を持ち、これら遺伝子配列の外側に、1対のトランスポゾン由来のDNA配列を有する。さらにはプロモーターとの間に任意の遺伝子由来のシグナル配列などを連結してもよく、ポリAとの間にも任意の遺伝子配列を連結してもよい。また人工的に設計、合成された遺伝子配列を連結することもできる。また、必要に応じてバクテリア宿主内で複製するための配列、抗生物質耐性遺伝子、蛍光タンパク遺伝子、LacZ遺伝子などを連結することもできる。例えば、適切なプロモーター下流に結合された緑色蛍光タンパク質GFPの遺伝子を、1対のトランスポゾン由来DNA配列の間の適切な部位に導入することができる。このことによって、遺伝子組換えカイコのスクリーニングを容易にすることが可能である。また、本ベクターは、pUC9、19など、大腸菌由来プラスミドの一部または全てを含むこともできる。
【0029】
さらに、ここで用いるプロモーターは特に限定されず、どのような生物由来のプロモーターであってもカイコ細胞内で有効に働くプロモーターであればよいが、カイコ絹糸腺で特異的にタンパク質の発現を誘導するように工夫されたプロモーターが好ましい。例えば、フィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーター、p25プロモーター、セリシンプロモーターなどのカイコ絹糸腺タンパク質のプロモーターが挙げられる。さらに好ましくは、フィブロインH鎖プロモーターである。
【0030】
本発明において使用されるDNAを取得する方法に特に制限はない。既知の遺伝子情報に基づき、PCR(polymerase chain reaction)法を用いて必要な遺伝子領域を増幅取得する方法、既知の遺伝子情報に基づきゲノムライブラリーやcDNAライブラリーより相同性を指標としてスクリーニングする方法などが挙げられる。本発明においては、これらの遺伝子は遺伝的多型性や変異剤などを用いた人為的変異処理による変異型も含む。遺伝的多型性とは遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものをいう。
【0031】
本発明で用いられる遺伝子組換えカイコとは、外来タンパク質遺伝子がカイコ染色体に導入されたカイコのことであり、そのカイコ染色体DNAを常法に従って制限酵素処理したのち、常法に従って標識した外来タンパク質遺伝子をプローブとしてサザンブロッティングを行う時、ポジティブなシグナルを与えるカイコのことである。抗原タンパク質遺伝子が導入される染色体上の遺伝子座位は、カイコの発生、分化、成長を阻害しない部位であれば特に制限はない。
【0032】
このようにして確認された遺伝子組換えカイコの飼育を行う。飼育方法は各ステージ(卵、稚蚕、壮蚕、蛹、蛾)において温度、湿度、明暗、給餌方法、ウイルス駆除の時期など適宜調整を行い飼育する。そして絹糸中に遺伝子組み換え法で発現させた有用タンパク質を含有する繭を回収する。
【0033】
使用する繭は生繭、乾燥繭でも良いが、好ましくは生繭を精錬して主に絹糸表面のセリシン層を除去したものを用いるのがよい。セリシン除去方法はどういう手順でも構わないが、好ましくは絹糸を0.5〜1.0%の石鹸水中で、70〜90℃、5〜10分処理した後、蒸留水中で70〜90℃、5〜10分の洗浄を1〜5回行い、乾燥する方法が好ましく採用できる。
【0034】
このようにして得られた絹糸中に遺伝子組み換え法で発現させた有用タンパク質を含有する絹糸を溶解剤で溶解する。このとき、溶解剤は、中性塩、銅アルカリおよび尿素から選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であることが好ましい。
【0035】
溶解剤として中性塩を含有する溶液を使用する場合、中性塩を水または水とアルコールの混合液に溶解したものが好ましい。中性塩としては、塩化カルシウム、チオシアン酸リチウム、臭化リチウム等が好ましく用いられるが、上記特開平6-70702号公報、特開平11-104228号公報、特開2001-54359号公報にも記載されている塩化カルシウムの水溶液を用いるのがコスト的に好ましい。アルコールには、メタノール、エタノールなどを用いることができる。また、溶解剤の中性塩の濃度は10重量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは、溶解時間を考えると30〜飽和重量%の範囲が適当である。この範囲であれば、絹糸の溶解に支障がない。絹糸を溶解する際には、溶液を60〜80℃程度に加熱することが好ましい。これ以下では溶解時間が非常に長くなってしまい、逆にこれ以上加熱するとアルコールの蒸発量が多大となる。
【0036】
溶解剤として銅アルカリを含有する溶液を使用する場合、2価の銅イオンを含んだアルカリ性の溶液であればよく、銅アルカリとしては、硫酸銅、水酸化第2銅などが好ましく使用できる。これらの銅アルカリをアルカリ性溶液などに溶解したものが使用できるが、好ましくはシュバイツアー試薬(硫酸銅(II)五水和物1g、濃アンモニア水10mL、2M水酸化ナトリウム水溶液4mL)、または銅エチレンジアミン試薬(60g/L水酸化第二銅、86g/Lエチレンジアミン水溶液)が用いられる。
【0037】
溶解剤として尿素を含有する溶液を使用する場合、溶媒に水を用いて尿素の濃度は6M(mol/L)以上であることが好ましく、さらに好ましくは、溶解時間を考えると9M(mol/L)〜飽和重量M(mol/L)の範囲が適当である。この範囲であれば、絹糸の溶解に支障がない。絹糸を溶解する際には、溶液を60〜80℃程度に加熱することが好ましい。
【0038】
これらの溶解剤に絹糸中に遺伝子組み換え法で発現させた有用タンパク質を含有する絹糸を溶解させる場合、通常は、絹糸を細かく砕いたり、切断したり、すりつぶしてから溶解する。砕いたり切断したりする方法は絹糸に含有される有用タンパク質がこわれない方法であればどのような方法でもかまわない。より細かく砕いてから溶解する方が短時間で溶解することが可能であり、好ましい。
【0039】
また、絹糸中に遺伝子組み換え法で発現させた有用タンパク質を含有する絹糸を溶解させる場合、溶解剤の温度を60〜80℃程度に加熱し、撹拌するのが好ましい。溶解する際の容器は、溶解剤に侵されることがなく、絹糸や有用タンパク質に悪影響を与えることがない材質の容器であればどのようなものでもよく、ガラス製の容器などが採用できる。
【0040】
このようにして、絹糸中に遺伝子組み換え法で発現させた有用タンパク質を含有する絹糸を溶解剤に完全に溶解する。溶解剤に溶解しない不純物などがある場合は、ここで濾過などの方法で除去しておくのが好ましい。
【0041】
次に、絹糸の主要構成成分であるフィブロインを沈殿させる。フィブロインを沈殿させるには、溶解剤へのフィブロインの溶解度を低下させることで沈殿させることが出来る。沈殿させるには、希釈(絹糸が溶解している溶解剤の濃度を低下させる)、透析(絹糸が溶解しているよう介在の温度を低下させる)などの方法が採用できる。希釈が好ましく採用でき、この場合、希釈液を加えて十分に攪拌する。希釈液には、水、または水とアルコールの混合液を用いることが好ましい。混合比としては、好ましい比率を検討することにより求められるが、好ましくはメタノール0〜50重量%の溶液を用いることができる。また、希釈倍率は、検討により適宜変化させることもできる。好ましくは最低30倍〜50倍程度とするのが良い。希釈倍率を上げれば沈殿を生じる時間は短縮されるが材料費および設備費が高くなるという問題が生じる。従って、実用的には30〜50倍程度が適当である。こうすることで、フィブロインが沈殿する。
【0042】
フィブロインを沈殿させた後、上清から有用タンパク質を回収する。
【0043】
上清からの有用タンパク質の回収方法は、特に制約はなくタンパク質溶液を濃縮する方法であれば、いかなる方法を用いてもよい。例えば、限外濾過法、エバポレーション、カラム担体を用いた吸脱着などがあげられる。ただし、目的の有用タンパク質によっては、その求められる活性、性質などを保持するような濃縮法を検討し、採用することが必要である。好ましくは、減圧条件下で溶媒のみを蒸発させ、溶媒を除去することで、有用タンパク質を濃縮させることを特徴としたエバポレーターで濃縮することが望ましい。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0045】
参考例1 カイコ genomic DNA(ゲノミックディエヌエー)の調製
5齢3日目のカイコを解剖し、後部絹糸腺組織を取り出した。1×SSCで洗浄した後、DNA 抽出バッファー(50mM Tris-HCl pH8.0,1mM EDTA pH8.0, 100mM NaCl)200μlを加えた。Proteinase K(プロテイナーゼケー)(final 200μg/ml)を加えて組織をグラインダーで充分すりつぶし、更にDNA抽出バッファーを350μl、10%SDS 60μlを加え混合後、50℃、2時間保温した。Tris-HCl飽和フェノール pH8.0、500μlを加え10分混合後、10,000rpm 5分 4℃にて遠心分離し上清を回収した。上清に等量のフェノール/クロロフォルム/イソアミルアルコール(25:24:1)を加え混合後、遠心分離した。再度フェノール/クロロフォルム/イソアミルアルコールを加え、遠心分離後上清を回収した。等量のクロロフォルム/イソアミルアルコール(24:1)を加え混合後、遠心分離した上清に再度クロロフォルム/イソアミルアルコールを加え、遠心分離後上清を回収した。得られた上清に1/10量の3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)を加え混合し、更に2.5倍量の冷エタノールを加え-80℃にて30分静置後、15,000rpm 10分 4℃にて遠心分離しgenomic DNAを沈殿させた。70%エタノールでDNAの沈殿を洗浄した後、風乾させた。RNase入り滅菌水で100μg/mlとなるように溶解、希釈しgenomic DNA溶液を調製した。
【0046】
参考例2 遺伝子の調製
用いた遺伝子は既知の配列を利用して、その両端配列のプライマーを作製し、適当なDNAソースを鋳型としてPCRを行うことにより取得した。プライマーの端には後の遺伝子操作のために制限酵素切断部位を付加した。
【0047】
フィブロインH鎖プロモーター・フィブロインH鎖遺伝子第一エキソン・第一イントロン・第二エキソン領域(GeneBank登録番号AF226688の塩基番号62118〜63513番目:以下HP領域)は、Bombyx mori genomic DNA(ボンビックスモリゲノミックディエヌエー)を鋳型に、プライマー1(配列番号1)とプライマー2(配列番号2)の2種類のプライマーを用いたPCRにより取得した。
【0048】
ネコインターフェロンーω遺伝子(GeneBank登録番号S62636の塩基番号9〜593番目:以下IC領域)はネコインターフェロンーω遺伝子をコードするバキュロウイルスrBNV100を鋳型にプライマー3(配列番号3)とプライマー4(配列番号4)の2種類のプライマーを用いてPCRにより取得した。rBNV100は、例えばE.coli(pFeIFN1)(微工研条寄第1633号)から抽出したプラスミドからネコインターフェロンーωの遺伝子を切り出して、カイコのクローニングベクター(T.Horiuchiら、Agric.Biol.Chem.,51,1573-1580,1987)に連結して作製した組換えプラスミドとカイコ多核体病ウイルスDNAとを、カイコ樹立細胞にコ・トランスフェクションして作製することができる。
【0049】
フィブロインH鎖C末端領域遺伝子・フィブロインH鎖ポリAシグナル領域(GeneBank登録番号AF226688の塩基番号79099〜79995番目:以下HA領域)は、Bombyx mori genomic DNAを鋳型に、プライマー5(配列番号5)とプライマー6(配列番号6)の2種類のプライマーを用いたPCRにより取得した。
【0050】
PCRはKODplus(ケーオーディプラス)(東洋紡(株)製)を用いて添付のプロトコールに従って行った。すなわち、それぞれの鋳型を10ng加え、各プライマーを50pmol、添付の10×PCRバッファーを10μl、1mM MgCl2、0.2mM dNTPs、2単位KODplusとなるように各試薬を加え、全量100μlとする。DNAの変性条件を94℃,15秒、プライマーのアニーリング条件を55℃,30秒、伸長条件を68℃,60秒〜300秒の条件でPerkin-Elmer社(パーキンーエルマー社)のDNAサーマルサイクラーを用い、30サイクル反応させた。
【0051】
これらの反応液を1%アガロースゲルにて電気泳動し、それぞれHP領域では約1.4kbp.、IC領域では約580bp.、HA領域では約0.9bpのDNA断片を常法に従って抽出、調製した。これらのDNA断片をポリヌクレオチドキナーゼ(宝酒造(株)製)によりリン酸化した後、HincIIで切断後脱リン酸化処理したpUC19ベクターに宝酒造(株)のDNA Ligation Kit Ver.2(ディエヌエーライゲーションキットバージョン2)を用いて16℃、終夜反応を行い、連結した。これらを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体にPCR断片が挿入されていることを、得られたコロニーを前述と同じ条件でPCRすることによって確認し、PCR断片の挿入されたプラスミドを常法によって調整した。これらのプラスミドをシークエンスすることにより、得られた断片がそれぞれの遺伝子の塩基配列であることを確認した。
【0052】
参考例3 遺伝子導入用プラスミドの作製
遺伝子導入用プラスミドには、トランスポゾンpiggyBacの一対の逆向き反復配列の間に、配列番号7に記するネコインターフェロン−ω遺伝子の発現カセットを挿入した遺伝子構造を含むプラスミドpigFeIFN−ωを用いた。
【0053】
すなわち、米国特許第6218185号に開示されるプラスミドp3E1.2よりtransposaseをコードする領域を取り除き、そのBgl II部位およびHpa I部位を平滑化しネコインターフェロン−ω遺伝子の発現カセットを挿入し、pigFeIFN−ωを得た。
【0054】
本実施例における遺伝子発現カセットの構成は、フィブロインH鎖プロモーター・フィブロインH鎖遺伝子第一エキソン・第一イントロン・第二エキソン領域・ネコインターフェロンーω・フィブロインH鎖C末端領域・フィブロインH鎖ポリAシグナル領域(配列番号7)である。
【0055】
フィブロインH鎖遺伝子の第一イントロンは遺伝子の発現量増大に重要であり、フィブロインH鎖タンパク質のC末端領域は発現した遺伝子産物の絹糸中への分泌に重要な機能を持つ(特願2002-268726号公報)。
【0056】
以下に具体的な方法を示す。
【0057】
HP・IC・HAコンストラクトの作製は以下の手法により行った。参考例2で調製したネコインターフェロンーω(IC領域)を持つプラスミドをSal IとHind IIIにより切断し、ここにフィブロインH鎖プロモーター・フィブロインH鎖遺伝子第一エキソン・第一イントロン・第二エキソン領域を持つプラスミドからSal IとHind IIIにより切り出した約1.4kbp.断片(HP領域)を挿入した。さらにこれをBamH Iにより切断し、ここにフィブロインH鎖C末端領域・フィブロインH鎖ポリAシグナル領域を持つプラスミドからBamH Iにより切り出した約0.9kbp.断片(HA領域)を挿入した。このHP・IC・HAを持つプラスミドをAsc Iで切断し、切り出した約2.9kbp断片を宝酒造(株)T4 DNA Polymerase(ティーフォーディエヌエーポリメラーゼ)により平滑化したものと、p3E1.2をBgl II、Hpa Iで切断し、750bpの遺伝子断片を除去後、平滑化、脱リン酸化処理したものとを連結し、HP・IC・HA遺伝子カセットを含む遺伝子導入用コンストラクトpigFeIFN−ωを作製した。作製したpigFeIFN−ω遺伝子導入用コンストラクトをQIAGEN Plasmid Maxi Kit(キアゲンプラスミドマキシキット)を用い、添付のプロトコールに従って精製した。
【0058】
参考例4 ピギーバックトランスポゼースタンパク質の調製
(1)遺伝子のクローニングおよび発現ベクターの作製
ピギーバックトランスポゼース遺伝子のクローニングには、米国特許6218185号公報で開示されているピギーバックトランスポゼース遺伝子の塩基配列を参考にオリゴヌクレオチドプライマーを合成した。プライマーの端には後の遺伝子操作のために制限酵素切断部位を付加した。
【0059】
ピギーバックトランスポゼースタンパク質遺伝子のクローニングには、プライマー8(配列番号8)とプライマー9(配列番号9)の2種類のプライマーを用い、米国特許6218185号公報により開示されるプラスミドp3E1.2をテンプレートとして用いたPCRにより取得した。
【0060】
PCRは0.2mlのミクロ遠心チューブを用い、鋳型DNAを10ng、各プライマーを50pmol、添付の10×PCRバッファーを10μl、1mM MgCl、0.2mM dNTPs、2単位KODplusとなるように各試薬を加え、全量を100μlとした。DNAの変性条件を94℃、30秒、プライマーのアニーリング条件を60℃、30秒、DNAプライマーの伸長反応条件を72℃、3分の各条件でBioRad社のサーマルサイクラーを用い、30サイクル反応させた。この反応液を1%アガロースゲルにて電気泳動し、約1.8kbpのDNA断片を常法に従って抽出、調整した。
【0061】
このDNA断片をポリヌクレオチドキナーゼ(宝酒造(株)製)によりリン酸化した後、HincIIで切断後脱リン酸化処理したpUC19ベクターに宝酒造(株)のDNAライゲーションキットVer.2を用いて16℃、終夜反応を行い、連結した。これを用いて常法に従い大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体にPCR断片が挿入されていることを、得られたコロニーを前述と同じ条件でPCRすることによって確認し、PCR断片の挿入されたプラスミドを常法によって調整した。このプラスミドをシークエンスすることにより、得られた断片が遺伝子の塩基配列であることを確認した。
【0062】
このプラスミドを、NcoI、およびBamHIで消化し、得られた1.8kbpのNcoI/BamHI断片を、予めNcoI、およびBamHIで消化しておいたpTV118N(宝酒造(株)製)のNcoI/BamHI間隙に常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTV−piggyと命名した。このプラスミドを導入した大腸菌を培養することで、ピギーバックトランスポゼースタンパク質のN末端アミノ酸配列に10個のヒスジチン残基が付加された分子量約70kDaの組換えピギーバックトランスポゼースタンパク質を生産することができる。
【0063】
(2)組換えピギーバックトランスポゼースタンパク質の産生
pTV−piggyでE.coli BL21株をアンピシリン耐性に形質転換し、得られた形質転換体をそれぞれBL21−piggy株と命名した。
【0064】
次にBL21−piggy株で、組換えピギーバックトランスポゼースタンパク質を産生させた。まず、BL21−piggy株を50μg/mlのアンピシリンナトリウムを含んだ滅菌LB培地(Sambrook, J. et al., 2001、Molecular Cloning 3rd. edition, Cold Spring Harbor Lab. Press)(LB-amp培地)5mlに1白金耳植菌し、37℃で24時間振とうして前培養を行った。
【0065】
この前培養液をLB-amp培地50mlに全量植菌し、37℃、振幅30cmで、180rpmの条件下で3時間培養した後に1mM IPTG(isopropyl-1-thio-β-D-galactoside)添加し、更に4時間培養した。対照実験として、BL21をpTV118Nで形質転換した形質転換体を対照として用い同様の培養を行った。こうして得られた菌体を集め、5mlのトリス(TBS)緩衝液(宝酒造製)に再懸濁後、超音波破砕および遠心分離により細胞破砕液を調製した。この細胞破砕液をSDS-PAGEで分画し、Penta-His Antibody抗体(QIAGEN社製)でウエスタンブロッティングを行った結果、BL21−piggy株由来の細胞破砕液から、分子量約70kDaの組み換えピギーバックトランスポゼースタンパク質を検出した。
【0066】
(3)組換えピギーバックトランスポゼースタンパク質の精製
この組み換えタンパク質は、N末端アミノ酸配列に10個のヒスチジン残基があることから、ニッケルイオンとの相互作用を利用した精製を行った。
【0067】
まず、10mlのキレーティング セファロース ファースト フロー(Chilating Sepharose Fast Flow)担体(アマシャム バイオサイエンス社製)を充填したカラムシステムを構築した。このカラムに50mlの50mM 硫酸ニッケル水溶液、50mlのTBS緩衝液の順で流した後、(2)と同様の方法で得られたBL21−piggy株の500ml培溶液由来の50ml細胞破砕液を流した。その後、100mlの5mM イミダゾールを含むTBS緩衝液、100mlの50mM イミダゾールを含むTBS緩衝液をこの順序で流した。更に50mlの600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液を流した。カラムに流した各々の緩衝液を(2)と同様の方法でウエスタンブロッティングを行ったところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液に約70kDaタンパク質を検出した。また、カラムに流した各々の緩衝液をSDS-PAGEし、クマシーブリリアントブルーで染色したところ、600mM イミダゾールを含むTBS緩衝液から、約70kDaの単一バンドを検出し、この精製タンパク質は組換えピギーバックトランスポゼースタンパク質であることを確認した。透析によりイミダゾールを除去した後、ウシ血清アルブミンを標準タンパク質として、Pierce社 BCA試薬を用いてタンパク質濃度を定量した。
【0068】
参考例5 遺伝子組換えカイコの作製
参考例3に記載の遺伝子導入用プラスミドと参考例5ピギーバックトランスポゼースタンパク質を、DNA濃度を約200μg/ml、ピギーバックトランスポゼースタンパク質濃度を約2.7μg/ml(モル比1:10)含んだ0.5mMリン酸バッファー(pH7.0)、5mM KCl溶液を調整し、3〜20nlを産卵後4時間以内のカイコ卵500個に対してマイクロインジェクションした。
【0069】
そのカイコ卵より孵化した幼虫を飼育し、得られた成虫(G0)を群内で掛け合わせ得られた次世代(G1)を4齢時にその体液を注射用針(21G)で採取し、PCRにより遺伝子の導入をスクリーニングした。PCRは配列番号3および配列番号4のプライマーを用いて宝酒造(株)製のPremix Taqにより行った。すなわち、Premix Taqを最終濃度2倍希釈、プライマーそれぞれ0.5μMとなるように調製した液を20μLずつ分注し、体液を0.5〜2μL加え、DNAの変性条件を94℃、30秒、プライマーのアニーリング条件を55℃、30秒、DNAプライマーの伸長反応条件を72℃、1分の各条件でBioRad社のサーマルサイクラーを用い、30サイクル反応させた。これらの反応液を1%アガロースゲルにて電気泳動し、約580bpのDNA断片が確認されたものを、遺伝子導入陽性と判断した。その結果、染色体中にネコインターフェロンω遺伝子の発現カセットが導入された遺伝子組換えカイコが得られた。
【0070】
参考例6 ウエスタン解析による絹糸腺組織中の組換えタンパク質の発現解析
非形質転換カイコ、HP・IC・HA形質転換カイコの後部絹糸腺組織、および繭を回収し、ネコインターフェロンωの発現をウエスタン解析により調べた。カイコ後部絹糸腺は100mMリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)中でホモジナイズし、遠心分離後上清を回収しサンプルとし、カイコ繭は10mgあたり4mlの60%LiSCNを加え攪拌後、終夜室温に静置し繭を溶解したものを8M尿素・2%SDS・5%2-メルカプトエタノールで10培希釈したものをサンプルとした。SDS-PAGE(エスディエスーページ)後、ECL PlusTM Western blotting Kit(イーシーエルパルスティエムウエスタンブロッティングキット) (アマシャムファルマシア社製)を用い、添付のプロトコールに従ってネコインターフェロンの検出を行った。すなわち、ブロッティングしたメンブレンをブロッキング溶液(5%スキムミルク・0.1%Tween20・PBS)中で4℃終夜ブロッキングした。メンブレンをTPBS(0.1%Tween20・PBS)で2回洗浄し、TPBSで1000倍希釈した抗ネコインターフェロン抗体で室温1時間処理した。メンブレンをTPBSで2回洗浄し、更にTPBSで5分間3回洗浄した。その後TPBSで10000倍希釈した後、HRPラベル抗ラビットIgG抗体で室温1時間処理した。メンブレンをTPBSで2回洗浄し、更にTPBSで5分間3回洗浄した後、ECL PlusTM Western blotting Detection System(イーシーエルパルスティエムウエスタンブロッティングデテクションシステム)(アマシャムファルマシア社製)の検出試薬(溶液A+溶液B)を加えた。発光をHyperfilmTMECLTM (ハイパーフィルムティエムイーシールティエム)に露光、現像した。その結果非形質転換カイコからはシグナルが検出されなかったのに対し、HP・IC・HAコンストラクトおよびHUP・IC・HAコンストラクト導入形質転換カイコの絹糸腺組織および繭からはシグナルが検出された。
【0071】
その結果をモレキュラーイメージャー(BioRad社製)を用いてシグナル強度を測定し、濃度既知のネコインターフェロンのシグナル強度と比較しタンパク質含量を測定したところ、HP・IC・HA形質転換カイコでは繭重量の約0.8〜2.0%のネコインターフェロンが産生されており、これはカイコ一頭当たりの重量に換算すると0.4〜1mgであった。
【0072】
実施例1
得られたネコインターフェロンを含むカイコ絹糸を0.5%の石鹸(玉の肌石鹸(株))水溶液で80℃、10分精錬した。その後、水中で80℃、10分の洗浄を2回行い、乾燥させた。
【0073】
メタノール4g、蒸留水6gの混合溶液中に塩化カルシウムを10g加え、十分に溶解させた後、細かく切った乾燥した絹糸を1g加え、75℃で加熱することにより溶解させた。溶解後、メタノール116gと蒸留水464gの混合液を攪拌しながら加え、30倍に希釈した。この状態で一晩静置し、生じた沈殿と上清を分離した。
【0074】
得られた上清をエバポレーションにより100倍に濃縮し、SDS-PAGE電気泳動により解析した。同時にネコ抗原タンパク質標準品と、前途記載の生じた沈殿も解析した。結果を図1に示す。e-PAGEL E-T520L(ATTO社製)を用いてゲル1枚あたり20mA、100分間電気泳動した。泳動後、2D−銀染色試薬「第一」(第一化学薬品(株))を用いてゲルを銀染色した。
【0075】
その結果、得られた濃縮画分に、分子量25KDaのネコインターフェロンが高純度に抽出、精製されていることがわかった。
【0076】
実施例2
得られたネコインターフェロンを含むカイコ絹糸を0.5%の石鹸(玉の肌石鹸(株))水溶液で80℃、10分精錬した。その後、水中で80℃、10分の洗浄を2回行い、乾燥させた。
【0077】
銅エチレンジアミン試薬(60g/L水酸化第二銅、86g/Lエチレンジアミン水溶液)を10mL加え、十分に溶解させた後、細かく切った乾燥した絹糸を1g加え、溶解させた。溶解後、メタノール116gと蒸留水464gの混合液を攪拌しながら加え、30倍に希釈した。この状態で一晩静置し、生じた沈殿と上清を分離した。
【0078】
実施例1と同様に解析した結果、得られた濃縮画分に、分子量25KDaのネコインターフェロンが高純度に抽出、精製されていることがわかった。
【0079】
参考例7
イヌパルボウイルスVP2抗原遺伝子(GeneBank登録番号38245の塩基番号2787〜4538番目:以下VP領域)をイヌパルボウイルスVP2抗原遺伝子をコードするプラスミドpAc6C2B23(ATCC寄託番号67682号)を鋳型にプライマー10(配列番号10)とプライマー11(配列番号11)の2種類のプライマーを用いてPCRにより取得した。参考例2,3,4,5と同様の方法でイヌパルボウイルスVP2抗原を絹糸中に発現するトランスジェニックカイコを作製した(導入遺伝子構造を配列番号12に示す)。参考例6と同様に抗VP2抗原抗体(コスモバイオ)を用いてウェスタンブロッティングを行い、絹糸中のイヌパルボウイルスVP2抗原の含有量を調べたところ、1.2〜2.2%であった。
【0080】
実施例3
得られたイヌパルボウイルスVP2抗原を含むカイコ絹糸を0.5%の石鹸(玉の肌石鹸(株))水溶液で80℃、10分精錬した。その後、水中で80℃、10分の洗浄を2回行い、乾燥させた。
【0081】
メタノール4g、蒸留水6gの混合溶液中に塩化カルシウムを10g加え、十分に溶解させた後、細かく切った乾燥した絹糸を1g加え、75℃で加熱することにより溶解させた。溶解後、メタノール116gと蒸留水464gの混合液を攪拌しながら加え、30倍に希釈した。この状態で一晩静置し、生じた沈殿と上清を分離した。
【0082】
得られた上清をエバポレーションにより100倍に濃縮し、SDS-PAGE電気泳動により解析した。同時にイヌパルボウイルスVP2抗原タンパク質標準品と、前途記載の生じた沈殿も解析した。結果を図1に示す。e-PAGEL E-T520L(ATTO社製)を用いてゲル1枚あたり20mA、100分間電気泳動した。泳動後、2D−銀染色試薬「第一」(第一化学薬品(株))を用いてゲルを銀染色した。
【0083】
その結果、得られた濃縮画分に、分子量70kDaのイヌパルボウイルスVP2抗原が高純度に抽出、精製されていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、有用タンパク質を発現しているカイコの絹糸から、簡便に高純度の有用タンパク質を抽出、精製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例1で得られた回収された組換えタンパク質の電気泳動結果を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1.分子量マーカー(アプロタンパク質マーカーLow range)
2.ネコ抗原タンパク質標準品
3.絹糸溶解画分
4.上清濃縮画分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絹糸中に遺伝子組換え法で発現させた有用タンパク質を含有する絹糸を溶解剤に溶解し、フィブロインを沈殿させた後に、上清から有用タンパク質を回収することを特徴とする有用タンパク質の製造方法。
【請求項2】
溶解剤の濃度を下げることによりフィブロインを沈殿させることを特徴とする請求項1記載の有用タンパク質の製造方法。
【請求項3】
有用タンパク質が、それをコードする遺伝子を染色体へと導入されたカイコの絹糸中に発現したものであることを特徴とする請求項1または2記載の有用タンパク質の製造方法。
【請求項4】
溶解剤が中性塩、銅アルカリおよび尿素から選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の有用タンパク質の製造方法。
【請求項5】
中性塩が塩化カルシウム、チオシアン酸リチウム、臭化リチウムのいずれかであることを特徴とする請求項4記載の有用タンパク質の製造方法。
【請求項6】
溶解剤が、10重量%以上の濃度の塩化カルシウム水溶液であることを特徴とする請求項5に記載の有用タンパク質の製造方法。
【請求項7】
溶解剤の濃度を低下させるために水もしくは水とアルコールとの混合液を添加することを特徴とする請求項2から6のいずれか1項記載の有用タンパク質の製造方法。
【請求項8】
上清から溶媒を除去し有用タンパク質を濃縮して回収することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の有用タンパク質の製造方法。
【請求項9】
減圧条件下で溶媒のみを揮発させ、溶媒を除去することを特徴とする請求項8記載の有用タンパク質の製造方法。
【請求項10】
有用タンパク質が、等張な水溶液に可溶性であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の有用タンパク質の製造方法。
【請求項11】
有用タンパク質がサイトカイン、インターフェロン、抗原タンパク質のいずれかであることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項記載の有用タンパク質の製造方法。
【請求項12】
有用タンパク質がネコインターフェロンまたはイヌパルボウイルスVP2抗原であることを特徴とする請求項11記載の有用タンパク質の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−176831(P2007−176831A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375161(P2005−375161)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】