有糸分裂阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を検出してモジュレートするための方法
チューブリン結合剤に対する耐性に関して腫瘍細胞をスクリーニングする方法であって、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階を含み、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現により、その腫瘍細胞がチューブリン結合剤に対する耐性または潜在的耐性を有することが指し示される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2007年3月5日に提出されたオーストラリア仮特許出願第2007901131号、および2007年9月28日に提出されたオーストラリア仮特許出願第2007905307号による優先権を主張する。これらの出願のそれぞれのすべての開示内容は、相互参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、腫瘍によるβ-チューブリン発現の特性決定に基づいた、有糸分裂阻害剤に対する腫瘍感受性に関するスクリーニングのための方法、腫瘍細胞におけるβ-チューブリン、特にII-、III-またはIVb-β-チューブリンの発現をモジュレートするための方法に関する。本発明はまた、ビンカアルカロイド、タキサン系薬剤およびエポチロン系薬剤などのチューブリン結合剤(tubulin-binding agent)に対する、ならびに他の抗癌剤に対する腫瘍細胞の感受性を強化するための分子および方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
微小管は真核細胞において細胞分裂のために必要であり、紡錘体が染色体の分配および分離を確実に遂行するための部分として機能する。微小管の主成分はα-チューブリンおよびβ-チューブリンであり、これらはヘテロ二量体を形成する。ヒトではこれまでに少なくとも7種類のβ-チューブリンアイソタイプが同定されている。これらのアイソタイプは、カルボキシ末端ドメインの配列に従って以下の通りに(タンパク質アイソタイプを指すローマ数字の分類番号、および括弧内のヒト遺伝子分類を用いて)分類される:クラスI(HM40)、クラスII(Hβ9)、クラスIII(Hβ4)、クラスIVa(H5β)、クラスIVb(Hβ2)、クラスVおよびクラスVI(Hβ1)。異なるアイソタイプは別個の組織発現パターンを呈する。例えば、クラスIII β-チューブリンは通常、神経細胞のみで発現される。
【0004】
チューブリン結合剤は、卵巣癌、乳癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、進行期神経芽細胞腫および種々のリンパ腫を含む、多くのヒト癌の治療における重要な構成要素である。これらの臨床的に重要な薬剤には、α/β-チューブリン由来のβ-チューブリンと結合して微小管動態を撹乱させ、それによって有糸分裂停止およびアポトーシスを誘導する、パクリタキセル(タキソール)などのタキサン系薬剤、エポチロン系薬剤、およびビンブラスチンなどのビンカアルカロイドが含まれる。
【0005】
チューブリンと結合すると、タキサン系薬剤およびエポチロン系薬剤は微小管の集成を強化し、その結果、重合した微小管の安定化、異常な紡錘体エステル(spindle ester)および有糸分裂中の細胞周期停止をもたらすことが知られている。一方、ビンカアルカロイドは、チューブリン二量体の付着に関与する領域を遮断することによって重合チューブリンの不安定化を誘導し、それによって微小管集成を妨げる、第2のクラスのチューブリン結合剤である。白金を基剤とするDNA傷害剤は、DNAと結合してそれを修飾する抗癌薬の大規模なクラスであり、これらは多種多様な癌の治療に有効であって、チューブリン結合剤との併用療法でよく投与される。
【0006】
しかしながら、腫瘍細胞によるタキサン系薬剤、エポチロン系薬剤およびビンカアルカロイドなどの微小管結合剤に対する耐性の発生が、さまざまな化学療法レジメンの成功のための重大な障害となっている。
【0007】
肺癌は、毎年100万例以上が診断される世界中で最も頻度の高い癌であり、依然として男性および女性の両方で癌による死亡の主な原因であり続けている。進行型非小細胞肺癌(NSCLC)はこれらの症例の80%超を占める。これらの対象のうち過半数は診断時点で転移を生じており、このため化学療法が依然として最も有効な治療選択肢である。過去10年間で、単剤としての、または併用化学療法レジメンの一部としての、パクリタキセルおよびビノレルビンなどの化学療法薬の第2相試験における使用は、期待の持てる活性および1年時の生存率の向上を示している。しかし、肺癌の治療におけるこれらの薬剤の臨床的有用性を大きく制限する薬剤耐性腫瘍細胞の出現が原因となり、一般に対象の予後は不良なままである。したがって、癌の治療における有糸分裂阻害剤の継続的な有効性を確保することを目的としてこの耐性に立ち向かってそれを克服するための方法およびアプローチに対しては、明らかな需要が存在する。
【0008】
すべての種を通じての組織発現の違いおよび高度に保存された配列を根拠として、各β-チューブリンアイソタイプは微小管における機能的な違いを与える独特な特性をもたらしている可能性が示唆されている。チューブリンアイソタイプの発現の変化は、パクリタキセル、ドセタキセルおよびエストラムスチンを含む抗微小管剤(antimicrotubule agent)に対する耐性の点から選択された細胞系で実証されているものの、得られているデータは、パクリタキセル耐性におけるβIIIチューブリンの役割に焦点を絞っている。他の種類のチューブリン結合剤に対する細胞の応答におけるβIIIチューブリンの関与度も、チューブリン結合剤に対する応答における非βIII型チューブリンアイソタイプの関与度も、ほとんど解明されていない。例えば、クラスII β-チューブリンは正常乳房組織および腫瘍乳房組織の両方で見いだされており、このことはそれがこれらの腫瘍に対する優れたバイオマーカーではない可能性を示唆している。さらに、ビンカアルカロイドとの併用療法においてDNA傷害剤を高い頻度で使用するにもかかわらず、これらの薬剤の有効性に対するβIII-チューブリン発現の影響については取り組みがなされていない。
【0009】
薬剤耐性細胞の研究に伴う1つの特有な難題は、耐性細胞で観察される可能性のあるβ-チューブリン発現の変化が、耐性表現型に寄与しているのか、それとも二次的な機序として生じているのかを確かめることである。多剤耐性細胞が複数の細胞変化を経ることは珍しいことではなく、そのため、それらは複数の耐性機序を取り入れている可能性がある。
【0010】
上記のことに鑑みれば、治療用途に関して、チューブリン結合剤および/もしくは他の有糸分裂阻害剤またはDNA傷害剤に対する腫瘍感受性を強化する薬剤に対しては需要が存在する。加えて、腫瘍を、さまざまなチューブリン結合剤および/または他の有糸分裂阻害剤に対するその感受性または潜在的感受性に関して、そのような薬剤による治療を開始する前および治療の経過中の両方においてスクリーニングしうることも望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは今回、NSCLC細胞および白血病細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現と、種々のチューブリン結合剤に対するこれらの細胞の応答との間の関連性を実証した。
【0012】
したがって、第1の局面においては、腫瘍細胞をチューブリン結合剤に対する耐性または潜在的耐性に関してスクリーニングする方法であって、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階を含み、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現により、腫瘍細胞がチューブリン結合剤に対する耐性または潜在的耐性を有することが指し示される方法が提供される。
【0013】
1つの態様において、チューブリン結合剤は微小管不安定化剤である。1つの態様において、チューブリン結合剤は微小管安定化剤である。
【0014】
1つの態様において、本方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか2つの発現を検出する段階を含む。もう1つの態様において、本方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンの発現を検出する段階を含む。
【0015】
ある態様において、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を検出する段階は、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のうち1つまたは複数の発現を検出する段階を含む。
【0016】
ある態様において、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を検出する段階は、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのうち1つまたは複数の発現を検出する段階を含む。
【0017】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を検出する段階は、チューブリンの発現のレベルを定量する段階を含んでもよい。
【0018】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を検出する段階は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を、対照細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現と比較する段階を含んでもよい。対照細胞は腫瘍細胞であってもよく、または非腫瘍細胞、例えば、腫瘍の周囲の組織から採取した細胞であってもよい。対照細胞は、チューブリン結合剤に対して耐性である腫瘍細胞であってよい。対照細胞は、チューブリン結合剤に対して感受性である腫瘍細胞であってもよい。対照細胞は、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現が低下している腫瘍細胞であってもよい。
【0019】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性を評価する方法も同じく提供される。本方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質、またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAの量を検出する段階を含む。被験腫瘍細胞チューブリン量がそれによって得られる。被験腫瘍細胞チューブリン量を対照細胞チューブリン量と比較し、それによってチューブリン量の差を決定する。対照細胞チューブリン量は、対照細胞におけるクラスII、クラスIIIもしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質、またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の各々の量である。チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性は、チューブリン量の差に基づいて評価される。
【0020】
上記の方法の対照細胞は対照非腫瘍性細胞であってもよい。上記の方法の対照細胞は対照腫瘍細胞であってもよい。対照腫瘍細胞は、チューブリン結合剤に対して耐性である腫瘍細胞であってもよく、またはチューブリン結合剤に対して感受性である腫瘍細胞であってもよい。
【0021】
ある態様において、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質の量の検出は、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質の量の検出である。1つの特定の態様において、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つまたは複数の量の検出は、クラスIII β-チューブリンタンパク質のみの量の検出である。
【0022】
他の態様において、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAの量の検出は、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAの量の検出である。1つの特定の態様において、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の量の検出は、クラスIII β-チューブリンmRNAのみの量の検出である。このため、「ある(a)」クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンタンパク質またはmRNAが検出されるという場合には、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンタンパク質またはmRNAのいずれか1つまたは複数が検出される。
【0023】
もう1つの局面においては、少なくとも1つのチューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を強化するための方法であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物の有効量を腫瘍細胞に導入する段階を含み、構築物が腫瘍細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させるような方法が提供される。
【0024】
もう1つの局面においては、対象における腫瘍を治療するための方法であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物の有効量を対象に投与する段階、および少なくとも1つのチューブリン結合剤を対象に投与する段階を含み、核酸構築物が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させ、それによって少なくとも1つのチューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を高めるような方法が提供される。
【0025】
1つの態様において、核酸構築物および少なくとも1つのチューブリン結合剤は同時に(simultaneously)投与される。1つの態様において、核酸構築物および少なくとも1つのチューブリン結合剤は並行して(concurrently)投与される。もう1つの態様において、核酸構築物は少なくとも1つのチューブリン結合剤の前に投与される。
【0026】
上記の諸局面の1つの態様において、ヌクレオチド配列はアンチセンス配列である。もう1つの態様において、ヌクレオチド配列はsiRNA配列である。もう1つの態様において、ヌクレオチド配列は短鎖ヘアピン(short hairpin)RNAである。さらにもう1つの態様において、ヌクレオチド配列はリボザイム配列である。
【0027】
上記の諸局面の任意のものの1つの特定の態様において、ヌクレオチド配列はクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である。もう1つの特定の態様において、ヌクレオチド配列はクラスII β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である。1つの特定の態様において、ヌクレオチド配列はクラスIII β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である。
【0028】
上記の諸局面の任意のものの1つの特定の態様において、少なくとも1つのチューブリン結合剤は、少なくとも1つの微小管不安定化剤であってよい。少なくとも1つの微小管不安定化剤は、ビンカアルカロイド剤、ドロスタチン系薬剤、コルヒチン系薬剤、クリプトフィシン系薬剤、キュラシンA、2-メトキシエストラジオール、およびそれらの誘導体、類似体またはプロドラッグのいずれか1つまたは複数からなる群より選択されうる。1つの特定の態様において、微小管不安定化剤はビンカアルカロイド剤である。1つの態様において、ビンカアルカロイド剤は、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンフルニン、ビンデシンおよびビノレルビン、またはそれらの誘導体、類似体もしくはプロドラッグのいずれか1つまたは複数からなる群より選択される。
【0029】
上記の諸局面の任意のものの1つの特定の態様において、少なくとも1つのチューブリン結合剤は、少なくとも1つの微小管安定化剤であってよい。少なくとも1つの微小管安定化剤は、タキサン系薬剤およびエポチロン系薬剤のいずれか1つまたは複数からなる群より選択されうる。タキサン系薬剤はパクリタキセルまたはドセタキセルであってよい。エポチロン系薬剤はエポチロンA、エポチロンBまたはエポチロンDであってよい。上記の諸局面の1つの特定の態様において、チューブリン結合剤はビンカアルカロイド剤、ドロスタチン系薬剤、コルヒチン、クリプトフィシン系薬剤、キュラシンA、2-メトキシエストラジオールまたはエポチロン系薬剤である。
【0030】
1つの特定の態様において、腫瘍細胞は非小細胞肺癌細胞(NSCLC)である。
【0031】
1つの特定の態様において、対象はヒトである。
【0032】
もう1つの局面においては、少なくとも1つのチューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を高めるための薬物の調製における、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物であって、腫瘍細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させることができる構築物の使用法も同じく提供される。
【0033】
少なくとも1つのチューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を高めるための薬学的組成物であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物である、腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させることができる構築物を、薬学的に許容される担体、希釈剤または添加剤とともに含む薬学的組成物も同じく提供される。
【0034】
もう1つの局面においては、チューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を評価するために用いられるキットであって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物を含み、その構築物が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を検出するために用いられるキットが提供される。ある態様において、キットはさらに、1つまたは複数のチューブリン結合剤を含む。特定の態様において、チューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性の診断はインビトロ診断である。もう1つの局面においては、チューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を評価するために用いられるキットであって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIV β-チューブリンポリペプチドのいずれか1つに対して特異的な少なくとも1つの抗体を含み、その抗体が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIV β-チューブリンの発現を検出するために用いられるキットが提供される。
【0035】
もう1つの局面においては、腫瘍を治療するために用いられるキットであって、(i)クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物を薬学的に許容される担体、希釈剤または添加剤とともに含む薬学的組成物、および任意で(ii)1つまたは複数のチューブリン結合剤、を含むキットが提供される。
【0036】
1つまたは複数のチューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を高めるための獣医学的組成物であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物を、許容される担体、希釈剤または添加剤とともに含む獣医学的組成物も同じく提供される。
【0037】
もう1つの局面においては、クラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリンと関連のある微小管動態を擾乱させる薬剤に関するスクリーニングの方法であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンのうち少なくとも1つと関連のある微小管動態を擾乱させる疑いのある候補薬剤を、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンのうち少なくとも1つを発現する第1の細胞に曝露させて、候補薬剤に対する細胞の応答を検出する段階、候補薬剤を、細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンのうち少なくとも1つの発現が低下している同じ種類の第2の細胞に曝露させて、候補薬剤に対する第2の細胞の応答を検出する段階、ならびに候補薬剤に対する第1および第2の細胞の応答を比較する段階を含み、第1の細胞の応答と比較した候補薬剤に対する第2の細胞の応答の変化により、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンと関連のある微小管動態を擾乱させる候補薬剤の活性が表される方法が提供される。特定の態様において、細胞の応答はアポトーシスの比率の増加または減少である。特定の態様において、細胞の応答は細胞分裂の速度の変化である。
【0038】
略号
β2M β-2ミクログロブリン
FITC フルオレセインイソチオシアネート
GAPDH グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ
NSCLC 非小細胞肺癌
shRNA 短鎖ヘアピンRNA
siRNA 低分子干渉RNA
【0039】
定義
本明細書の文脈において、アンチセンス、リボザイム、shRNAまたはsiRNA構築物のヌクレオチド配列に関連して用いられる場合の「特異的な」という用語は、実質的に特異的であるが、必ずしも排他的にそうではないことを意味する。すなわち、ヌクレオチド配列は、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物に対して特異的でありながら、他のβ-チューブリンアイソタイプ遺伝子産物配列とも、それらの発現をも阻害するのに十分な量で交差ハイブリダイズしてもよい。そうしたヌクレオチド配列は、クラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVbでないβ-チューブリンアイソタイプの発現を低下させないこと、またはこれらの他のアイソタイプの発現を、それがクラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVbアイソタイプの発現を低下させるよりも少ない割合で低下させることが好ましいであろう。さらに、例えば、siRNA構築物のヌクレオチド配列が、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子に対して100%未満の配列同一性を呈し、それでもなおそれに対する特異性を保っていてもよい。
【0040】
クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンポリペプチドに対して特異的な抗体に関連して用いられる場合の「特異的な」という用語は、例えばELISAまたはウエスタンブロットアッセイにおいて、これらのチューブリンポリペプチドアイソタイプの1つを他のチューブリンポリペプチドアイソタイプと識別することのできる抗体を範囲に含むことを意図している。クラスIVb β-チューブリンポリペプチドに対して「特異的な」抗体の場合には、抗体はクラスIV β-チューブリンアイソタイプのポリペプチドを認識する一方で、クラスIIまたはクラスIII β-チューブリンアイソタイプは認識しないと考えられる。クラスIVb β-チューブリンアイソタイプに対して特異的な抗体は、クラスIVaおよびクラスIVbのβ-チューブリンポリペプチドを必ずしも識別しうる必要はない。
【0041】
本明細書で用いる場合、「有効量」という用語は、所望の治療的または予防的な効果をもたらすために十分な薬剤または化合物の量を、その意味の範囲内に含む。必要とされる正確な量は、治療しようとする種、対象の年齢および全般的健康状態、治療しようとする病状の重症度、投与される具体的な薬剤、ならびに投与の様式などといった要因によって対象毎に異なると考えられる。このため、正確な「有効量」を特定することは不可能である。しかし、任意の所定の症例に対して、適切な「有効量」は、当業者により、定型的な実験法のみを用いて決定されうる。有効量は、対象に対しては実質的に無毒性である一方で、腫瘍に対しては毒性であることが好ましい。
【0042】
本明細書で用いる場合、細胞におけるクラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリンの「発現を低下させる」構築物は、これらの遺伝子のいずれか1つ、いずれか2つ、または3つすべての発現の完全な阻害だけでなく、1つまたは複数のチューブリン結合剤に対する細胞の感受性を強化するのに十分なチューブリン遺伝子産物またはポリペプチドの発現の減弱化も範囲に含むことを意図している。このため、構築物に曝露されていない細胞と比較した場合の、細胞におけるクラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリンmRNAまたはポリペプチドの発現の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%の低下を想定している。細胞におけるクラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリンの発現の低下は、1つまたは複数の微小管脱感作剤(microtubule desensitizing agent)に対する細胞の感受性の最大限の強化を得るのに十分であることが好ましいであろう。構築物によるクラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリンの発現の低下は、例えば構築物が、それが曝露された腫瘍細胞などの体細胞のゲノム中に安定的に組み込まれる場合のように永続的であってもよく、または一時的に過ぎなくてもよいことは理解されるであろう。
【0043】
本明細書の文脈において、「含む(comprising)」という用語は、「含むものの、必ずしもそれのみを含むのではない」ことを意味する。その上、「含む」という語の変形物、例えば「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などは、それに応じた変化した意味を有する。
【0044】
本明細書の全体を通じて、「1つの(a)」または「1つの(one)」要素に対する言及は、文脈が別のものを規定する場合を除き、複数のものを除外しない。例えば、「1つの核酸構築物」に対する言及は、そのような核酸構築物の複数のコピーの可能性を除外するものと読み取られるべきではない。同様に、本明細書の全体を通じて「1つの腫瘍細胞」に対する言及は、単一の腫瘍細胞または複数の腫瘍細胞、例えば腫瘍から得られた細胞の集まりのいずれをも含むものと読み取られることを意図している。
【0045】
「クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数」という用語は、クラスII β-チューブリン、クラスIII β-チューブリン、クラスIVb β-チューブリンのいずれか1つ、クラスIIおよびクラスIIIのβ-チューブリン、クラスIIおよびクラスIVbのβ-チューブリン、クラスIIIおよびクラスIVbのβ-チューブリン、ならびにクラスII、クラスIIIおよびクラスIVbのβ-チューブリンを範囲に含むことを意図している。
【0046】
腫瘍細胞とチューブリン結合剤またはDNA傷害剤との間の相互作用の文脈における「感受性」という用語、および「感受性がある」などの対応する用語は、チューブリン結合剤またはDNA傷害剤の有糸分裂阻害活性および/または細胞傷害活性に対する腫瘍細胞の応答を範囲に含むことを意図している。すなわち、チューブリン結合剤に対する感受性が強化された腫瘍細胞は、チューブリン結合剤に曝露されると、より感受性の低い腫瘍細胞と比べて、有糸分裂のより高度の阻害を示す、および/またはより高度の細胞死を呈すると考えられる。
【0047】
代替的または追加的に、チューブリン結合剤に対する感受性が高められた、または強化された腫瘍細胞は、以前は応答しなかったチューブリン結合剤の有糸分裂阻害活性および/または細胞傷害活性に応答すると考えられる。
【0048】
代替的または追加的に、チューブリン結合剤に対する感受性が高められた、または強化された腫瘍細胞は、チューブリン結合剤に曝露されると、電離放射線および/またはDNA傷害剤に対する感受性の強化を呈すると考えられる。
【0049】
また、チューブリン結合剤に対する感受性が高められた、または強化された腫瘍細胞は、より感受性の低い細胞と比べて、チューブリン結合剤のより低い濃度で、チューブリン結合剤の有糸分裂阻害活性および/または細胞傷害活性に応答することもできる。
【0050】
インビトロまたはインサイチューにある腫瘍細胞の文脈において、1つまたは複数のチューブリン結合剤に対する感受性の強化は、1つまたは複数のチューブリン結合剤による治療に応じての、培養下もしくはインサイチューにある生細胞の数の減少の強化、腫瘍拡大進行の低下の強化、または腫瘍のサイズの減少の強化という点で表すことができる。その反対に、「耐性がある(resistant)」および類似の用語、例えば「耐性」などは、「感受性がある」と対応するものの反対の意味を有する。
【0051】
チューブリン結合剤またはDNA傷害剤に対する腫瘍細胞の耐性は、当技術分野で利用可能な種々の方法によって直接的に評価することができる。そのような手法の例には、腫瘍細胞をチューブリン結合剤またはDNA傷害剤の一連の希釈物に曝露させて、50%死滅が観察される濃度、またはアポトーシスの比率が増加する、もしくは細胞のクローン性増殖の阻害の濃度、または細胞分裂の速度が低下する濃度を決定することが含まれる。適したアッセイは、例えば、Verrills et al. (2003). Chemistry and Biology 10: 597-607、およびGan et al. (2007) Cancer Research 67:(19) 9356-9363に記載されており、それらの内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0052】
同様に、チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の「応答」について記載する場合、応答には、腫瘍細胞アポトーシスの存在、または腫瘍細胞分裂の速度の低下もしくは停止のうちいずれか一方または両方が含まれうる。
【0053】
「チューブリン結合性結合剤(tubulin-binding binding agent)」という用語は、細胞内のチューブリン重合および/または脱重合の動態をモジュレートする分子を含むことを意図しており、これには微小管不安定化剤および微小管安定化剤が含まれる。
【0054】
「微小管不安定化剤」という用語は、チューブリン二量体と結合して、チューブリン二量体からの微小管の形成を不安定化する化合物のクラスを幅広く範囲に含むことを意図している。チューブリンおよび微小管は化学療法の標的とされることが多いが、これは多くの種類の癌でそれらの機能が往々にして調節不全であるためである。チューブリンまたは微小管を標的とする薬剤は、進行期疾患を有する対象の生存の延長のために現在用いられている抗癌剤の中でも最も有効な化学療法薬のクラスである。典型的には、微小管不安定化剤はチューブリンのビンカドメインまたはコルヒチンドメインと結合することができる。種々の微小管不安定化剤を含む、チューブリンと相互作用する種々の有糸分裂阻害剤が、Hamel (1996) Med. Res. Rev. 16:207-231に記載されており、そのすべての内容が参照により本明細書に組み入れられる。微小管不安定化剤には、ビンカアルカロイド剤、ドロスタチン系薬剤、コルヒチン系薬剤、クリプトフィシン系薬剤、キュラシンA、2-メトキシエストラジオール、またはそれらの誘導体、類似体もしくはプロドラッグが含まれる。微小管不安定化剤という用語は、微小管重合体と結合して微小管を安定化する化合物、例えばタキサン系薬剤(パクリタキセルおよびドセタキセルを含む)ならびにエポチロン系薬剤などを範囲に含まないものとする。
【0055】
「ビンカアルカロイド剤」という用語は、抗微小管活性を保有し、かつ有糸分裂阻害薬として作用する、カタランタス属(Catharanthus)の植物から当初得られたアルカロイド化合物のクラスを幅広く範囲に含むことを意図している。このクラスのメンバーには、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンフルニン、ビンデシンおよびビノレルビン、ならびにそれらの半合成性もしくは合成性の類似体もしくは誘導体が非限定的に含まれる。
【0056】
「微小管安定化剤」という用語は、重合した微小管と結合して、重合した微小管の脱重合を阻害する化合物を範囲に含むことを意図している。微小管安定化剤である化合物には、タキサン系薬剤およびエポチロン系薬剤が非限定的に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
ここで本発明の1つまたは複数の好ましい態様を、添付の図面を参照しながら説明するが、これらは例示に過ぎない。
【図1】βIIまたはβIVb-チューブリンを対象とするsiRNAが、その各々の発現を特異的に阻害することを図示している。図1Aは、βIIおよびβIVbを対象とするそれぞれ25nMおよび100nMのsiRNAによるトランスフェクションから48時間後の半定量的逆転写-PCRポリアクリルアミドゲルによって調べた、2種のNSCLC細胞系、Calu-6およびH460におけるβII(Hβ9)およびβIVb(Hβ2)の遺伝子産物(mRNA)発現を示している。比較的一定したレベルで発現されるハウスキーピング遺伝子β-2ミクログロブリン(β2M)を用いて、それぞれのチューブリンmRNAの発現レベルを標準化した。図1Bは、ウエスタンブロットによって同定した、トランスフェクションから72時間後のβII-およびβIVb-チューブリンタンパク質の発現を示している。GAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ)ポリペプチドの発現を、ローディング対照として同時に検出した。M:モックトランスフェクション;C:対照siRNA-トランスフェクション;βII:クラスII β-チューブリンsiRNA-トランスフェクション;βIVb:クラスIVb β-チューブリンsiRNA-トランスフェクション;β2M:β2-ミクログロブリン対照。
【図2】ウエスタンブロットで示された、用いたsiRNAの特異性を図示している。図2AはβII siRNAの特異性を示している。図2BはβIVb siRNAの特異性を示している。βIIまたはβIVb H460ノックダウン細胞のいずれにおいても、他のβ-チューブリンアイソタイプについてはタンパク質発現のレベルに有意な変化は観察されなかった。
【図3】2種のNSCLC細胞系、Calu-6およびH460のチューブリン結合剤への感受性に対するクラスII β-チューブリンのノックダウンの影響を図示している。クロノジェニックアッセイ(clonogenic assay)を、モック-トランスフェクト細胞(●、実線)、対照siRNA-トランスフェクト細胞(□、実線)およびβII siRNA-トランスフェクト細胞(◆、破線)に対して行った。グラフは、生存率として表した、A ビンクリスチン、B パクリタキセルおよびC エポチロンに曝露された細胞のクローン性生存度(clonogenic survival)を示している。データは、少なくとも4回の独立した実験の平均±SEMを表している。
【図4】2種のNSCLC細胞系、Calu-6およびH460のチューブリン結合剤への感受性に対するクラスβIVb-チューブリンのノックダウンの影響を図示している。クロノジェニックアッセイを、モック-トランスフェクト細胞(●、実線)、対照siRNA-トランスフェクト細胞(□、実線)およびβIVb siRNA-トランスフェクト細胞(◆、破線)に対して行った。グラフは、生存率として表した、A ビンクリスチン、B パクリタキセルおよびC 微小管安定化剤エポチロンBに曝露された細胞のクローン性生存度を示している。データは、少なくとも4回の独立した実験の平均±SEMを表している。
【図5】ビンクリスチン(左側の列)およびパクリタキセル(右側の列)に対するCalu-6トランスフェクト細胞の用量反応を図示している、腫瘍細胞系Calu-6の培養コロニーの写真を提示している。トランスフェクションから24時間後に、各トランスフェクト細胞集団のおよそ600個ずつの細胞を、種々の濃度のチューブリン結合剤を含む6ウェルプレートに播いた。視認しうるコロニーが形成された時点で、プレートをクリスタルバイオレットで染色した。βIVb siRNAがトランスフェクトされた細胞はビンクリスチンに対して高感受性になったが、トランスフェクションはパクリタキセルへの感受性に対しては対照と比較して全く影響を及ぼさなかった。
【図6】モック-トランスフェクト、対照siRNA-トランスフェクト、およびβIVb siRNA-トランスフェクトを受けたCalu-6細胞およびH460 NSCLC細胞における[3H]-ビンクリスチンの細胞内取込みおよび保持を図示しているグラフである。[3H]-ビンクリスチンの保持については、添加時(ゼロ時間)および2時間後に評価した。細胞内[3H]-ビンクリスチン含有量に関してβIVbノックダウン細胞と対照細胞との間に有意差はなかった。白抜きバー:モック-トランスフェクト細胞および対照siRNA-トランスフェクト細胞;塗り潰したバー:βIVb siRNA-トランスフェクト細胞。示されている値は、少なくとも4回の独立した実験の平均±SEMである。
【図7】ビンクリスチンまたはパクリタキセルによる処理時の微小管ネットワークに対するβIIまたはβIVbノックダウンの影響を図示している顕微鏡写真を提示している。siRNAトランスフェクションから72時間後にCalu6細胞を固定してα-チューブリンで染色した。βIIおよびβIVb形質転換体はいずれも正常な微小管細胞骨格を呈した。図7Aは、βIIおよびβIVb siRNA-トランスフェクト細胞の微小管に対するビンクリスチン処理の影響を図示している。10nMのビンクリスチンで処理したところ、βIIおよびβIVb形質転換体はいずれも対照と比較して微小管の広範囲にわたる破壊を示した。図7Bは、βII形質転換体の微小管に対するパクリタキセルの影響を図示している。10nMパクリタキセルとのインキュベーション後にβII形質転換体の微小管ネットワークは対照と同等であった。
【図8】ビンクリスチンへの曝露後のβIIおよびβIVbトランスフェクトH460細胞の細胞周期分析を図示している。トランスフェクト細胞を5nMまたは40nMのビンクリスチンとともに24時間インキュベートし;固定してヨウ化プロピジウムで染色した上で、フローサイトメトリーにより分析した。図8Aは、βII形質転換体が対照と同等なG2-M蓄積を示したことを示している。図8Bは、βIVb枯渇がより高濃度のビンクリスチン処理後のG2-Mにある細胞の蓄積を消失させ、その代わりに細胞のsub-G1画分の増加を促したことを示している。示されているヒストグラムは、行った3回の実験の代表である。
【図9】図9Aは、25nmol/L(Calu-6)または100nmol/L(H460)でのβIII-チューブリンsiRNAトランスフェクションから48時間後のRT-PCRによるβIII-チューブリン遺伝子発現の分析を示している。β2-ミクログロブリン(β2M)「ハウスキーピング」遺伝子の発現を内部対照として利用した。図9Bは、βIII-チューブリントランスフェクションから72時間後のβIII-チューブリンのタンパク質発現を示している。「ハウスキーピング」GAPDHポリペプチドの発現をローディング対照として利用した。図9Cは、βIII-チューブリンsiRNAの特異性を図示している。クラスI、IIおよびIV β-チューブリンアイソタイプならびにβ-チューブリン全体のタンパク質レベルでの発現に関して有意差は観察されなかった。M、モック;C、対照-siRNA;βIII、βIII-チューブリンsiRNA。
【図10】10nmol/Lのパクリタキセル(中央)および10nmol/Lのビンクリスチン(右)とともに1時間インキュベートしたsiRNA-トランスフェクトCalu-6細胞における微小管形態を図示している。微小管はα-チューブリン免疫蛍光染色によって示されている。βIII形質転換体をパクリタキセルまたはビンクリスチンのいずれかで処理した場合には、広範囲にわたる微小管破壊が起こった。異常な形態の細胞に矢印を付している。
【図11】チューブリン結合剤またはDNA傷害剤の存在下でのクロノジェニックアッセイの結果を示している。クロノジェニックアッセイは、モック(●、実線)、対照siRNA(□、実線)およびβIII(◆、破線)トランスフェクト細胞に対して行った。図11Aは、パクリタキセルによる処理に関する、生存率として表したクローン性生存度を図示している。図11Bは、ビンクリスチンによる処置に関する、生存率として表したクローン性生存度を図示している。図11Cは、シスプラチン(上)、ドキソルビシン(中央)およびエトポシド(VP-16;下)などのDNA傷害剤に関する、生存率として表したクローン性生存度を図示している。図11Dは、ビノレルビンによるCalu-6細胞(上)およびH460細胞(下)の処理に関する、生存率として表したクローン性生存度を図示している。各々のデータポイントは、少なくとも4回の独立したアッセイの平均を表している。バーは平均の標準誤差を表している。統計量は、siRNAで処理した細胞とモック-トランスフェクト細胞の生存率を各薬剤濃度で比較することによって算出した。*、P<0.05;**、P<0.005;***、P<0.005。
【図12】パクリタキセル(A)またはビンクリスチン(B)で処理した、βIII-チューブリンを枯渇させたH460細胞の細胞周期分析を図示している。細胞を薬剤処理から24時間後に収集し、その後にそれらのDNA含有量に関してフローサイトメトリーによりアッセイした。複数の実験の代表的な図を示している。
【図13A−13B】パクリタキセルによる処理後(図13A)およびシスプラチンによる処理後(図13B)の、対照siRNAトランスフェクト(白のカラム)およびβIII-チューブリンsiRNAトランスフェクト(黒のカラム)を受けたH460細胞におけるアポトーシスの誘導を示しているグラフである。細胞を薬剤との48時間のインキュベーション後に収集し、その後にアポトーシス誘導に関して、Annexin V-FITC染色を用いたフローサイトメトリーによりアッセイした。各々のカラムは少なくとも3回の独立した実験の平均値を表しており、一方、バーは平均の標準誤差を表している。*、P<0.05;**、P<0.01。
【図14】チューブリン結合剤エポチロンの存在下でのクロノジェニックアッセイの結果を示している。クロノジェニックアッセイは、モック(●、実線)、対照siRNA(□、実線)およびβIII(◇、破線)トランスフェクト細胞に対して行った。図11は、エポチロンによるH460細胞(上)またはCalu-6(下)細胞の処理に関する、生存率として表したクローン性生存度を図示している。
【図15】ウエスタンブロットで示された、βIIIチューブリン発現をノックダウンするために用いた2種類の27-mer siRNA(この図ではseq 8およびseq 11と表記)の特異性を図示している。βIII H460ノックダウン細胞において他のβ-チューブリンアイソタイプについてはタンパク質発現のレベルに関して有意な変化は観察されなかった。
【図16】チューブリン結合剤であるパクリタキセル(上)またはビンクリスチン(下)の存在下におけるH460細胞のクロノジェニックアッセイの結果を示している。クロノジェニックアッセイは、モック-トランスフェクト細胞(▲、実線)、対照siRNA-トランスフェクト細胞(□、実線)、および複数の異なる27-mer siRNA(seq 8-◆、破線;seq 11 ■、実線)を用いたβIII-トランスフェクト細胞に対して行った。図16は、生存率として表したクローン性生存度を図示している。βIII 27-mer siRNAのそれぞれとモック-トランスフェクト細胞のID50値を比較したところ、両方のチューブリン結合剤に対する感受性の増加が、クラスIII β-チューブリンを対象とする異なる27-mer siRNAのそれぞれについて示された。**、P<0.005、***、P<0.0005。
【図17】βIIIチューブリン発現が安定的にノックダウンされた3種のクローン(クローン4、59および60)を作製するためにH460細胞に導入された短鎖ヘアピンRNAの特異性を図示している。ウエスタンブロットで示されているように、βIII H460ノックダウンクローンにおいて他のβ-チューブリンアイソタイプについてはタンパク質発現のレベルに関して有意な変化は観察されなかった。これらの安定的にノックダウンされたクローン間で、βIII-チューブリンタンパク質の発現の量にはある程度の差異が観察された。
【図18】チューブリン結合剤パクリタキセル(上)またはDNA傷害剤シスプラチン(下)の存在下での、βIIIチューブリン発現が安定的にノックダウンされたH460細胞のクローンにおけるクロノジェニックアッセイの結果を示している。クロノジェニックアッセイは、対照siRNA(■または▲、実線)および3種の異なるβIIIが安定的にトランスフェクトされたクローン(クローン4 ▼、破線;クローン59 ◆、実線;クローン60 ■、破線)。図18は、生存率として表したクローン性生存度を例示している。パクリタキセルおよびDNA傷害剤シスプラチンの両方に対する感受性の増加が、βIII-チューブリンの安定的ノックダウンを有する異なるクローンのそれぞれで観察された。βIIIチューブリンノックダウンの量が最大である(図17に示されているような)クローンは、薬剤のそれぞれに対する感受性の最大の増加を示すように思われた。
【図19】2-メトキシエストラジオールに対する耐性の点で選択された3種の異なる白血病細胞亜系統(7R、14R、28R)の相対的なチューブリンアイソタイプ発現を示している。ウエスタンブロットに示されたタンパク質発現は、親細胞系における対照発現レベルに対して標準化してプロットした。耐性細胞はすべて、クラスII β-チューブリンの発現の増加を呈した。
【図20】クラスII β-チューブリンノックダウン後のH460細胞によるクラスII β-チューブリン発現レベルの変化(A)、および、2-メトキシエストラジオールまたはコルヒチンの存在下での、クラスII β-チューブリンがノックダウンされたH460細胞のクロノジェニックアッセイの結果(B)を示している。クラスII β-チューブリンのノックダウンは、2-メトキシエストラジオールおよびコルヒチンの両方に対するH460細胞の感受性を大きく高めた。
【発明を実施するための形態】
【0058】
好ましい態様の詳細な説明
1つの局面においては、腫瘍細胞のチューブリン結合剤に対する耐性に関するスクリーニングの方法が本明細書で提供される。そのような方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階を含み、
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現により、チューブリン結合剤に対する耐性または潜在的耐性を有することが予測される。
【0059】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性を評価する方法も同じく提供される。本方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAの量を検出する段階を含む。被験腫瘍細胞チューブリン量がそれによって得られる。被験腫瘍細胞チューブリン量を対照細胞チューブリン量と比較し、それによってチューブリン量の差を決定する。対照細胞チューブリン量は、対照細胞におけるクラスII、クラスIIIもしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質、またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の各々の量である。チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性は、チューブリン量の差に基づいて評価される。
【0060】
「被験腫瘍細胞」とは単に、耐性評価の対象である試料腫瘍に由来する腫瘍細胞のことである。また、以上に示したように、被験腫瘍細胞チューブリン量とは単に、本方法で検出されるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質、またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の量のことである。
【0061】
「対照細胞」とは、クラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質またはクラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVb β-チューブリンmRNAの量が既知であり、かつチューブリン結合剤に対する耐性のレベルが既知である細胞のことである。いくつかの態様において、以下に考察するように、対照細胞は対照腫瘍細胞である。対照細胞は、生物体(もしくは臓器)から入手してもよく、または本発明の方法を用いて導き出してもよい。対照細胞は、細胞を多数の異なる用量のチューブリン結合剤に曝露させることによって作成された用量反応曲線の一部であってもよい。さらに、腫瘍細胞の耐性を評価する方法それ自体を、そのような用量反応曲線を作成するために用いることもできる。いくつかの態様において、対照細胞はヒト対照細胞などの哺乳動物対照細胞である。
【0062】
対照細胞チューブリン量は、被験腫瘍細胞チューブリン量のそれぞれに対するクラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質、またはクラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVb β-チューブリンmRNAの量のことである。例えば、被験腫瘍細胞チューブリン量が被験腫瘍細胞から検出されるクラスIIおよびクラスIII β-チューブリンタンパク質の量である場合には、対照細胞チューブリン量は対照細胞内部のクラスIIおよびクラスIII β-チューブリンの量である。
【0063】
腫瘍細胞の耐性を評価する方法についての以上の説明から明らかであるように、「チューブリン量の差」とは単に、被験腫瘍細胞チューブリン量と対照細胞チューブリン量との間の差のことである。
【0064】
本明細書における説明から明らかであるように、被験腫瘍細胞チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも多い場合には、いくつかの態様において、被験腫瘍細胞は対照細胞よりもチューブリン結合剤に対してより大きな耐性を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスIII チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも多い場合には、被験細胞は、ビンカアルカロイド、タキサン系薬剤、エポチロン系薬剤またはDNA傷害剤に対してより大きな耐性(およびより低い感受性)を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスII チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも多い場合には、被験細胞は、ビンカアルカロイドまたは2-メトキシエストラジオールに対してより大きな耐性(およびより低い感受性)を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスIVb チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも多い場合には、被験細胞はビンカアルカロイドに対してより大きな耐性(およびより低い感受性)を有し、かつエポチロン系薬剤に対してより低い耐性(およびより大きな感受性)を有すると評価されると考えられる。
【0065】
その反対に、被験腫瘍細胞のチューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも小さい場合には、いくつかの態様において、被験腫瘍細胞は対照細胞よりもチューブリン結合剤に対してより低い耐性(およびより大きな感受性)を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスIII チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも少ない場合には、被験細胞は、ビンカアルカロイド、タキサン系薬剤、エポチロン系薬剤またはDNA傷害剤に対してより低い耐性(およびより大きな感受性)を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスII チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも少ない場合には、被験細胞はビンカアルカロイドまたは2-メトキシエストラジオールに対してより低い耐性(およびより大きな感受性)を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスIVb チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも少ない場合には、被験細胞はビンカアルカロイドに対してより低い耐性(およびより大きな感受性)を有し、かつエポチロン系薬剤に対してはより大きな耐性(およびより低い感受性)を有すると評価されると考えられる。
【0066】
ある薬剤に対する耐性が既知である対照腫瘍細胞は、例えば、その薬剤による治療の成功の前に個体から単離された腫瘍細胞であってもよい。その薬剤に対するさまざまな耐性が既知である一連の対照腫瘍細胞を、例えば、その薬剤による治療の成功または失敗の前に一群の個体から単離された腫瘍細胞から構成することもできる。
【0067】
本明細書で示されているように、腫瘍細胞におけるある種のクラスのチューブリンの存在は、チューブリン結合剤またはDNA傷害剤などの有糸分裂阻害剤の投与に対する腫瘍細胞の応答性に寄与する。したがって、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現の評価は、種々のチューブリン結合剤またはDNA傷害剤に対する腫瘍細胞のチューブリン依存的応答性に関する指針を提供するほか、腫瘍を治療するための薬剤を選択しうる方法も提供する。
【0068】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性は完全な耐性であってもよく、または部分的耐性であってもよい。腫瘍細胞は、チューブリン結合剤の投与に対して非応答性であるならば、チューブリン結合剤に対して「耐性」であるとみなしうる。非応答性腫瘍細胞は、例えば、その薬剤に対して感受性がある非腫瘍性細胞または腫瘍細胞に対して、細胞傷害性となる濃度での、細胞分裂の速度の不変、アポトーシスの比率の不変、またはチューブリン結合剤への曝露時の細胞形態の不変を示しうる。
【0069】
腫瘍細胞はインビトロでのチューブリン結合剤の投与に対して耐性であってもよい。腫瘍細胞はインサイチューでのチューブリン結合剤の投与に対して耐性であってもよい。
【0070】
いくつかの態様において、腫瘍細胞は、薬剤に対する耐性が既知である対照腫瘍細胞と比較して、それがチューブリン結合剤の投与に対する応答の低下を示すならば、チューブリン結合剤に対して「耐性」であるとみなしうる。
【0071】
チューブリン結合剤に対してさまざまな耐性を有し、かつさまざまなチューブリン発現を伴う、単一の腫瘍に由来する対照腫瘍細胞を、比較のための対照細胞を用意する目的で作製することもできる。さまざまな感受性を有する細胞は、例えば、その薬剤に対して耐性であることが既知である対照腫瘍細胞を採取し、細胞を複数の群に分けた上で、例えば本明細書に記載したsiRNA法またはshRNA法を用いて、細胞の群のそれぞれにおけるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち少なくとも1つの発現を安定的にモジュレートすることによって作製することができる。クラスII、クラスIIIおよびクラスIVbのうち少なくとも1つの発現が制御された様式で安定的に低下している複数の異なる細胞群を作製することにより、本明細書で示されているように、単一の腫瘍から、チューブリン結合剤に対してさまざまな感受性を有する細胞を作製することができる。
【0072】
腫瘍の耐性は、ヒト対象において治療的に用いられるチューブリン結合剤の濃度と関連づけて評価することができる。
【0073】
いくつかの態様において、腫瘍細胞は、それが、チューブリン結合剤に対する耐性が既知である対照腫瘍の細胞の応答と同程度にチューブリン結合剤に対する応答を示すならば、チューブリン結合剤に対して「耐性」であるとみなしうる。チューブリン結合剤に対する耐性が既知である対照腫瘍は、例えば、チューブリン結合剤による治療の失敗の前に対象から単離することができる。または、耐性対照腫瘍細胞をインビトロの初代腫瘍細胞または腫瘍細胞系から、腫瘍初代腫瘍細胞または腫瘍細胞系を90%を上回る細胞死をもたらす濃度のチューブリン結合剤で少なくとも一回処理すること、および処理を生き延びた細胞を選択することによって作製することもできる。
【0074】
腫瘍細胞は、それが微小管結合剤に対して耐性であること、または耐性化することが疑われる場合には、「潜在的に耐性」でありうる。
【0075】
本方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を「検出する」段階を含む。ある態様において、ある特定の手法によって検出されるような腫瘍細胞における特定のチューブリンの存在の同定は、腫瘍をチューブリン結合剤に対して耐性であると評価するのに十分でありうる上、その反対に、その手法による腫瘍細胞における特定のチューブリンの欠如の同定は、腫瘍をその薬剤に対する感受性があると評価するのに十分でありうる。そのような態様においては、腫瘍細胞の耐性を評価する目的で腫瘍細胞によって発現されるチューブリンの量の決定を下す必要がないことがある。
【0076】
他の態様において、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現の検出は、腫瘍細胞によって発現されるこれらのクラスのいずれか1つまたは複数のチューブリンの量と、耐性が既知である少なくとも1つの細胞によって発現されるこれらのクラスのいずれか1つまたは複数のチューブリンの量との比較を伴うと考えられる。
【0077】
特定の態様において、この比較は、耐性が既知である多数の対照細胞によって発現されるチューブリンの量とのものであると考えられる。本明細書中に提供されている実施例で示されているように、少なくともある態様において、腫瘍細胞の度合いまたは耐性は、腫瘍細胞によって発現されるチューブリンの量と比例することもあれば(例えば、クラスIII β-チューブリンおよびビンカアルカロイドの場合)、または反比例することもある(例えば、クラスIVb β-チューブリンおよびエポチロンの場合)。したがって、比較は、例えば複数の対照腫瘍細胞から作成された用量反応曲線に対して行うことができる。
【0078】
このため、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現の検出は、腫瘍細胞におけるチューブリンmRNAの有無またはチューブリンポリペプチドの有無を検出することを含んでもよい。
【0079】
または、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現の検出は、腫瘍細胞によって発現されるチューブリンmRNAの相対量またはチューブリンポリペプチドの相対量を決定することを含んでもよい。
【0080】
この相対量は、既知の対照感受性腫瘍の細胞におけるチューブリンmRNAの存在量またはチューブリンポリペプチドの量との比較におけるものであってよい。相対量が、既知の耐性対照腫瘍の細胞におけるチューブリンmRNAの量またはチューブリンポリペプチドの量との比較におけるものであってもよい。相対量が、さまざまな感受性を有する対照腫瘍細胞におけるチューブリンmRNAの量またはチューブリンポリペプチドの量との比較におけるものであってもよい。相対量が、腫瘍の周囲の組織から採取した非腫瘍細胞におけるチューブリンmRNAの量またはチューブリンポリペプチドの量との比較におけるものであってもよい。相対量は、によって決定されるような標準化された量であってよい。
【0081】
チューブリンmRNAの有無または相対量は、ストリンジェントな条件下でのRT-PCR、定量的PCR、半定量的PCRまたはインサイチューハイブリダイゼーションのいずれか1つまたは複数により、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つに対して特異的な1つまたは複数のプローブまたはプライマーを用いて検出することができる。RT-PCRまたは半定量的PCRの手法のために用いうるポリヌクレオチドの例は、Kavallaris et al. (1997) J Clin Invest 100, 1282-1293に記載されており、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。1つの特定の態様において、mRNAの有無は、RT-PCRを用いて、例えば、Kavallaris et al. (1997) J Clin Invest 100, 1282-1293に記載された方法および特異的プライマーを用いて検出される。
【0082】
チューブリンmRNAの相対量の測定が必要とされる場合には、リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応などの公知の手法をRNAを逆転写するために用い、続いてその結果生じたcDNAをリアルタイムPCRを用いて定量する。RNAの発現を評価するための定量的手法は、Ding and Cantor (2004) J Biochem Mol Biol 37(1):1-10、およびBustin et al., (2005) Journal of Molecular Endocrinology 34: 579-601に総説されており、これらのすべての内容は参照により組み入れられる。
【0083】
チューブリンポリペプチドの有無または相対量は、ウエスタンブロット法、ELISA、または当技術分野で利用しうる他の標準的な定量的もしくは半定量的な手法のいずれか1つまたは複数、または特定のポリペプチドの存在を同定するためのそのような手法の組み合わせを用いて検出することができる。さまざまな定量的および半定量的なプロテオミクス手法が、例えば、Hirsch et al., (2004) Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 278: L1-L23に総説されており、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。1つまたは複数の特定のチューブリンアイソタイプポリペプチドの抗体認識に依拠する手法を特に想定している。1つの特定の態様において、チューブリンポリペプチドの有無または相対的存在量は、半定量的ウエスタンブロット法を含む手法により、例えば本明細書に記載された実施例2に記載のウエスタンブロット手法を用いて検出しうる。他の特定の態様において、チューブリンポリペプチドの有無または相対的存在量は、チューブリンポリペプチドの抗体捕捉と捕捉されたチューブリンポリペプチドの電気泳動分離との組み合わせを含む手法により、例えばIsonostic(商標)Assay(Target Discovery, Inc.)を用いて検出しうる。
【0084】
特定の態様において、β-IIIチューブリンを発現するものとして検出された腫瘍細胞は、ビンカアルカロイド、タキサン系薬剤、エポチロン系薬剤またはDNA傷害剤に対して耐性であると予測される。
【0085】
ある態様において、β-IIチューブリンを発現するものとして検出された腫瘍細胞は、ビンカアルカロイドまたは2-メトキシエストラジオールに対して耐性であると予測される。
【0086】
ある態様において、β-IVbチューブリンを発現するものとして検出された腫瘍細胞は、ビンカアルカロイドに対して耐性であって、かつエポチロン系薬剤に対して感受性であると予測される。
【0087】
ある態様において、チューブリン結合剤は、タキサン系薬剤またはエポチロン系薬剤などの微小管安定化剤である。
【0088】
ある態様において、チューブリン結合剤は、ビンカアルカロイドまたは2-メトキシエストラジオールなどの微小管不安定化剤である。
【0089】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性をスクリーニングまたは評価するための本明細書に記載された方法は、腫瘍の細胞が1つもしくは複数のチューブリン結合剤に応答するか否かを評価するために抗癌薬の投与の前に行うこともでき、または腫瘍の細胞がチューブリン結合剤に対する耐性を生じるか否かを判定するために治療の経過中に行うこともできる。
【0090】
1つのさらなる局面において、本発明は、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的な核酸配列を含む核酸構築物であって、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリンの発現を低下させる核酸構築物の、腫瘍への導入に関する。
【0091】
本明細書に記載されたヌクレオチド配列を含む、例示された核酸構築物はsiRNA配列またはshRNA配列であるが、クラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子の発現の標的指向的破壊を、クラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子を選択的に標的としてその発現を阻害する任意の分子、例えばアンチセンス配列、siRNA配列、shRNA配列、リボザイム配列などを用いて達成しうることは明らかに理解されるであろう。クラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子の「発現」とは、クラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン配列の転写および/または翻訳を範囲に含むことを意図している。したがって、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的な核酸配列も、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリンmRNAの少なくとも一部分に対して特異的な核酸配列の範囲に含むことを意図している。
【0092】
「発現を検出すること」は、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリンmRNAまたはタンパク質の存在の検出だけでなく、ある態様においては、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリンmRNAまたはタンパク質の量の検出も範囲に含むことを意図している。
【0093】
クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリンmRNAまたはタンパク質の「量を検出すること」は、mRNAもしくはタンパク質の絶対的レベルを、またはある態様においては、mRNAもしくはタンパク質の相対量を検出することを意図している。相対量は、1つまたは複数の他の細胞タンパク質またはmRNAに対して、例えば細胞内の他のチューブリンタンパク質もしくはmRNA、またはハウスキーピング遺伝子タンパク質またはmRNAなどに対して相対的である。このため、いくつかの態様において、これらの量は他の細胞タンパク質またはmRNAに対して標準化される。
【0094】
アンチセンス核酸の設計、合成および送達のための方法は当技術分野において周知である。アンチセンス分子はDNAまたはRNAでもよく、またはそれらの部分的もしくは完全な合成類似体でもよい。当該の遺伝子の領域に対して、その全長にわたって少なくとも実質的に相補的なアンチセンス構築物を作製することができる。アンチセンス構築物とその相補的な細胞配列との結合は、転写、RNAプロセシング、輸送、翻訳および/またはmRNA安定性に干渉することができる。
【0095】
適したアンチセンスオリゴヌクレオチドは、当業者に周知の方法によって調製することができる。典型的には、アンチセンスオリゴヌクレオチドは自動合成装置で合成されると考えられる。適したアンチセンスオリゴヌクレオチドは、それらの細胞内への送達、細胞内に入った後のそれらの安定性、および/または適切な標的とのそれらの結合を改善するように設計された修飾を含みうる。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、1つもしくは複数のホスホロチオエート結合の付加、または骨格内への1つもしくは複数のモルホリン環の包含によって修飾することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは長さが10〜30塩基対であってよく、かつクラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子の標的領域であると考えられる。1つの態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチド配列は、他の公知のチューブリンアイソタイプに対して90%を超えない配列同一性を有すると考えられる。
【0096】
実際の問題として、任意の特定の核酸分子が、例えば、他の公知のチューブリンアイソタイプのヌクレオチド配列に対して90%を超えない同一性を有するか否かは、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix(登録商標), Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, Wis. 53711)などの公知のコンピュータプログラムを用いて慣例的に判定することができる。Bestfitは、2つの配列間の最良の相同性セグメントを見いだすために、Smith and Watermanの局所的相同性アルゴリズムを用いる(Advances in Applied Mathematics 2:482-489 (1981))。特定の配列が、例えば、参照配列に対して90%同一であるか否かを判定するために、Bestfitまたは任意の他の配列アラインメントプログラムを用いる場合、パラメーターは、参照ヌクレオチド配列の全長にわたって同一性の比率が計算され、参照配列中のヌクレオチド総数の最大5%までの相同性のギャップが許容されるように設定される。クエリー配列と対象配列との間の全体として最も良好なマッチを決定するための好ましい方法は、グローバルシークエンスアラインメントとも呼ばれ、Brutlagら(Comp. App. Biosci. 6:237-245 (1990))のアルゴリズムに基づくFASTDBコンピュータープログラムを用いて決定することができる。配列アラインメントにおいて、クエリー配列および対象配列はいずれもDNA配列である。RNA配列は、UをTに変換することによって比較しうる。前記グローバルシークエンスアラインメントの結果は、一致度(percent identity)で表わされる。DNA配列のFASTDBアラインメントに用いられる好ましいパラメーターは以下である:マトリックス(Matrix)=ユニタリ(Unitary)、k-tuple=4、ミスマッチペナルティ(Mismatch Penalty)=1、ジョイニングペナルティ(Joining Penalty)=30、ランダム化グループ長(Randomization Group Length)=0、カットオフスコア(Cutoff Score)=1、ギャップペナルティ(Gap Penalty)=5、ギャップサイズペナルティ(Gap Size Penalty)0.05、ウインドウサイズ(Window Size)=500または対象ヌクレオチド配列の長さのうち短い方。
【0097】
対象配列が内部欠失のためではなく5'または3'での欠失が原因でクエリー配列よりも短いならば、結果に対して手作業での補正を行わなければならない。これは、FASTDBプログラムが一致度を計算する際に対象配列の5'および3'での短縮を考慮しないためである。クエリー配列に比して5'末端または3'末端で短縮している対象配列については、一致度は、対象配列の5'末端および3'末端にあってマッチ/アラインメントしないクエリー配列の塩基数を、クエリー配列の全塩基に占めるパーセントとして計算することによって補正される。ヌクレオチドがマッチ/アラインメントしているか否かは、FASTDB配列アラインメントの結果によって決定される。続いて、このパーセンテージを、指定のパラメーターを用いて上記のFASTDBプログラムによって計算した一致度から差し引いて、最終的な一致度スコアを導く。FASTDBアラインメントによって提示された時に、クエリー配列とマッチ/アラインメントしない、対象配列の5'塩基および3'塩基の外側にある塩基のみが、一致度スコアを手作業で補正する目的には考慮される。
【0098】
標的にしようとする特異的配列は、クラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子配列のいずれかに特有であることが望ましいと考えられる。ヒトβ-チューブリンアイソタイプのこれらのアミノ酸配列は、Verdier-Pinard et al., (2005) Biochemistry 44:15858-15870に記載されており、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。対応するcDNAおよび/またはゲノムDNAの配列も公知である。当業者は、任意の所定の配列がクラスII、IIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子配列のいずれかに対して特異的であるか否かを容易に判定しうると考えられる。
【0099】
低分子干渉RNA(siRNA)配列は、関心対象のRNA配列と特異的にハイブリダイズして、RNA誘導サイレンシング複合体の基質としての役を果たす、例えば長さが21、27または29塩基で突出を伴うことも伴わないこともある、小型で通常は二本鎖のRNAオリゴヌクレオチドのことである。一方の鎖がサイレンシングさせようとするmRNA転写物の特定領域と同一である二本鎖RNA分子を合成して、この二本鎖RNAを直接的に導入することができる。または、細胞内に提示されるとdsRNAに変換される、対応するdsDNAを用いることもできる。RNA干渉(RNAi)に用いるのに適したsiRNA分子の合成のため、および転写後遺伝子サイレンシングを達成するための方法は当業者に公知であり、現在ではsiRNAの設計および製造を行う商業サービスもある。
【0100】
当業者は、クラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリンの発現を阻害することのできるさまざまな適したsiRNA構築物を、必要以上の実験を行うことなしに当業者に公知の慣行的な手順を用いて、当該の遺伝子の配列の知識に基づいて同定して作製することができることを理解するであろう。本明細書で示されているように、特定のβ-チューブリンの異なる非重複領域を対象とする種々のsiRNA配列またはshRNA配列は、細胞内でのそのチューブリンの発現に影響を及ぼすことができる。当業者は、標的配列とsiRNA配列との間に必ずしも100%のヌクレオチド配列マッチは必要でないことを理解するであろう。ミスマッチに関する受容性は主として配列内部のミスマッチの位置に依存する。場合によっては2または3ヌクレオチドのミスマッチが許容されるが、また別の場合には、単一のヌクレオチドミスマッチでもsiRNAの効果を無効化するのに十分である。特定のsiRNA分子の適合性は、必要以上の実験を行うことなしに当業者に公知の慣行的な手順を用いて決定することができる。
【0101】
RNAまたはタンパク質の発現の特異的阻害に対するアンチセンス核酸およびsiRNAの最大効果は同等であるが、siRNAの方が一般により長く持続する効果を生じる。siRNAは、ベクターを経由して、例えばアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルス媒介性送達機構を介して細胞内に導入することもでき、または、例えばリポソーム複合体の一部として送達する場合のように外因性に送達することもできる。インビボでの合成siRNAの非ウイルス性送達のための手法は、Akhtar and Benter (2007) J. Clin. Invest 117:3623-3632に総説されており、そのすべての内容は参照により組み入れられる。マウス(Yano et al, (2004) Clinical Cancer Research 10: 7721-7726)、霊長動物(Zimmermann et al, (2006) Nature 441(7089):111-114)およびヒト(Nogawa et al. (2006) J Clin Invest 115:978-985)に対する、siRNA配列の局所的または全身的な投与のための手法が記載されており(例えば、Akhtar and Benter (2007) J Clin Invest 117: 3623-3632の総説を参照)、これらは、このクラスの分子を用いてインビボでの標的遺伝子の発現を低下させうることを実証している。これらの各々の引用物のすべての内容は、参照により本明細書に組み入れられる。コレステロール-siRNA結合物、カチオン性ナノ粒子またはカチオン性リポソームもしくはカチオン性ポリマーもしくはペプチド送達系を含むカチオン性送達系、またはキトサン-siRNA結合物などのsiRNA送達系が想定される。
【0102】
siRNAの全身投与は肝臓および肺を含む細網内皮系におけるsiRNAの蓄積をもたらすことが実証されており、したがって、これはsiRNAを肺腫瘍の治療のために投与する場合は有利な可能性がある。
【0103】
ハンマーヘッド型またはヘアピン型リボザイムなどのリボザイムは、mRNA配列およびゲノムRNA配列を含む、特定のRNA配列の標的指向的な触媒性切断およびスプライシングを行うことができる。リボザイムの設計および送達のための方法は、例えば、Vaish, Kore and Eckstein (1998) Nucleic Acids Research 26:5237-5242;Lieber and Strauss (1995) Mol. Cell. Biol. 15:540-551;およびUsman and Blatt (2000) J Clin Invest 106:1197-1202に総説されており、それらの各々のすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。特定の腫瘍を標的として縮退させるためのリボザイムの使用は、当技術分野において、例えば、Zhang et al. (2000) Gene Ther 7:2041-2050に記載されている。
【0104】
一般に、これらのクラスの分子のそれぞれは、ヒトまたは動物対象に対して、ボーラスなどの静脈内経路を介するかもしくは皮下的な持続放出手法によって全身的に投与された場合も、または腫瘍細胞に対して直接的に適用されるか、または腫瘍の内部もしくは近傍に注射された場合も、忍容性は良好であるように思われる。
【0105】
吸入可能なポリヌクレオチド構築物を含む製剤の形での肺への送達も、特に肺の腫瘍に対しては想定される。呼吸器合胞体ウイルス感染症の治療のためのネブライザーによるエアロゾルとしての肺への直接的なsiRNAの投与は、臨床試験が現在行われており(Alnylam ALN-RSVO1, Bitco et al, (2005) Nat Med 11:50-55)、安全性、忍容性および抗ウイルス活性の効力が実証されている。このため、肺の腫瘍における特定のチューブリンの発現をモジュレートするための肺へのsiRNAの送達が想定される。
【0106】
適したポリヌクレオチド配列は、単独で、または核酸構築物中にある形で投与することができる。構築物は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、または外来性配列の挿入および真核細胞への導入のために適合化された任意の他の適した媒体であってよい。ベクターは、DNA配列のRNAへの転写を導くことができる発現ベクターであってもよい。ウイルス発現ベクターには、例えば、エプスタイン-バーウイルス、ウシパピローマウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスを基にしたベクターが含まれる。
【0107】
1つの態様において、ベクターはエピソーム性である。適したエピソーム性ベクターの使用は、標的細胞内のポリヌクレオチド配列を染色体外に高コピー数で維持し、それによって染色体組込みの潜在的な影響をなくす手段を与える。
【0108】
本発明の文脈においては、クラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリンの発現の阻害の一時的制御が可能になるように、ポリヌクレオチド構築物を、それが投与された体細胞のゲノム中に永続的に取り込まれないような形態で投与することが好ましいと考えられる。
【0109】
本明細書の全体を通じて、ポリヌクレオチド構築物または核酸配列などのポリヌクレオチドへの言及がなされる場合は、それは非天然のポリヌクレオチドおよび核酸を、それらが細胞内で特異的に相互作用する能力を保つと同時に低毒性を有することを条件として、範囲に含むことを意図していることは理解されるであろう。ある種の非天然の核酸の使用は、例えば、ヌクレアーゼ消化に対する耐性の増加をもたらし、それは結果として投与後の核酸の半減期を延長させることができる。ヌクレアーゼ消化を減少させる化学的安定化は、例えば、臨床試験が現在行われているリボザイム「ANGIOZYME」で実証されている。
【0110】
外因性ポリヌクレオチド構築物を、単離された細胞に、または対象に投与する場合には、それらは食塩水などの適切な希釈剤中に製剤化されると考えられる。細胞質中への核酸構築物の移行を促進するために、構築物をリポソーム中に封入すること、ならびに/または所望の標的細胞の認識および/もしくは原形質膜の透過を促進するリガンドもしくは標的指向性分子とコンジュゲートさせることもできる。例えば、細胞透過性ペプチドとコンジュゲートさせたsiRNAは、siRNAの細胞取込みを増加させることが実証されている(Veldhoen et al. (2006) Nucleic Acids Res 34: 6561-6573。適用された核酸のトランスフェクション効率を高めるための当技術分野において公知のその他の手法には、DEAE-デキストラン、siRNAとナノ粒子のコンジュゲーション、リン酸カルシウムトランスフェクション法の使用といった生化学的方法、および/または、直接的なマイクロインジェクション、エレクトロポレーションまたは微粒子銃(biolistic particle)送達といった物理的トランスフェクション法が含まれる)。
【0111】
本明細書に記載されたポリヌクレオチド構築物の導入は、siRNAを癌細胞に送達するために用いうる化合物であるポリカチオン性作用物質の使用を範囲に含む。本明細書で開示されるように、低分子量化合物であるポリカチオン性作用物質ポリエチレンイミン(PEI)を、核酸構築物の送達のための送達媒体として用いることができる。PEIは、第1に、siRNAを細胞表面のアニオン性プロテオグリカンと相互作用しうる正に荷電した微粒子へと凝集させて、エンドサイトーシスによる細胞内への移入を促進することによって、siRNAを例えば細胞に送達する能力を有する。第2に、siRNAとPEIとの非共有結合的な複合体形成はsiRNAを効率的に安定化し、所与の濃度でのより高い作用効率をもたらす。
【0112】
本明細書で実証されているように、特定のβ-チューブリンアイソタイプはチューブリン結合剤およびDNA傷害剤に対する感受性の変化を与える。この情報は、特定の薬物に特定の腫瘍を標的とさせるために種々の細胞種間でのアイソタイプ組成の自然な違いを利用するために用いうる可能性がある。細胞の高感受性は、アポトーシス経路の亢進、ならびに微小管およびそれらの随伴タンパク質の修飾に起因し、それ故にチューブリン結合剤に対するこれらの細胞の感受性を強化する有糸分裂の欠陥の両方に起因する可能性がある。
【0113】
チューブリン結合剤に対するある種のNSCLC細胞系および白血病細胞系の感受性を強化するための、クラスIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子に対して特異的なポリヌクレオチド配列を含む核酸構築物の使用を本明細書では記載しているが、核酸構築物の作用様式の特異性が原因で、クラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子を発現する任意の他の腫瘍細胞種も、同様な様式で処理された場合に少なくとも1つの微小管不安定化剤に対する感受性の強化を示すことが予想される。例えば、パクリタキセルに対して耐性のある卵巣腫瘍はクラスIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリンを上昇したレベルで発現する可能性があり、神経芽細胞腫細胞はクラスIIを高レベルで発現する可能性があり、白血病細胞および乳癌細胞もクラスIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリンを発現する可能性がある。本明細書で用いる場合、腫瘍細胞とは新生物性細胞のことであり、これは、固形腫瘍中に認められる細胞だけでなく、単離された新生物性細胞または白血病細胞などの流血中腫瘍も範囲に含むことを意図している。
【0114】
当技術分野では、任意の特定の腫瘍細胞がクラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子を発現するか否かを判定するために、市販のチューブリンアイソタイプ特異的抗体ならびに/またはアイソタイプ特異的核酸プライマーおよび/もしくはプローブの使用を含む、数多くの方法が利用可能である。
【0115】
核酸構築物に曝露させる時の腫瘍細胞は、インビトロ、対象から取り出した腫瘍内のインサイチュー、またはインビボのいずれにあってもよい。腫瘍細胞は哺乳動物由来であると考えられ、1つの態様においてはヒト由来である。
【0116】
1つの態様において、核酸構築物配列は、1つまたは複数の微小管不安定化剤による治療の開始前に導入される。核酸構築物配列の導入の時機は、構築物の投与の経路、ならびに該当する標的のクラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の阻害の動態に依存すると考えられる。クラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子発現のレベルは、例えば、組織生検標本、ならびにクラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子発現に対して特異的なリアルタイムPCRを用いてモニターすることができる。細胞へのsiRNA投与の場合、最大の遺伝子抑制はsiRNAが細胞に入っておよそ72時間後に起こり、これが、1つまたは複数の微小管不安定化剤に対する細胞の感受性が最大になる時点である。したがって、微小管不安定化剤の投与は、その薬剤が存在すると同時に腫瘍細胞のクラスIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子発現が最大限に抑制されるような任意の時点で開始することが好ましい。
【0117】
本発明は、本明細書に記載された核酸構築物を含む組成物の使用を伴う治療の方法、およびそれを含む薬学的組成物を想定している。
【0118】
一般に、本発明の方法に従った使用のために適した組成物は、当業者に公知の方法および手順に従って調製することができ、したがって、薬学的に許容される担体、希釈剤および/または添加剤を含みうる。
【0119】
組成物は標準的な経路によって投与することができる。一般に、組成物は、非経口的(例えば、静脈内、脊髄内、皮下または筋肉内)、経口的または局所的な経路によって投与することができる。投与は全身的、局部的または局所的であってよい。任意の所与の状況において用いられる具体的な投与経路は、治療しようとする病状の性質、病状の重症度および程度、送達しようとする具体的な化合物の必要投与量、ならびに化合物の潜在的な副作用を含む、数多くの要因に依存すると考えられる。
【0120】
一般に、適した組成物は、当業者に公知の方法によって調製することができ、これは薬学的に許容される希釈剤、添加剤および/または賦形剤を含みうる。希釈剤、添加剤および賦形剤は、組成物の他の成分と適合性があって、そのレシピエントに対して有害でないという意味で「許容性」でなければならない。
【0121】
トランスフェクションの効率を高めうる前記の作用物質に加えて、薬学的に許容される担体または希釈剤の例には、以下のものが非限定的に含まれる:脱塩水または蒸留水、食塩液;植物ベースの油、例えばピーナッツ油、ベニバナ油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、落花生油またはヤシ油など;シリコーン油、これにはメチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサンおよびメチルフェニルポリソルポキサン(methylphenyl polysolpoxane)などのポリシロキサン類が含まれる;揮発性シリコーン;鉱油、例えば流動パラフィン、軟パラフィンまたはスクアランなど;セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど;低級アルカノール、例えばエタノールまたはイソプロパノールなど;低級アラルカノール;低級ポリアルキレングリコールまたは低級アルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールまたはグリセリンなど;脂肪酸エステル、例えばイソプロピルパルミテート、イソプロピルミリステートまたはオレイン酸エチルなど;ポリビニルピロリドン;寒天;カラゲナン;トラガカントゴムまたはアラビアゴム、およびワセリン。典型的には、担体(carrier)または担体(carriers)は、組成物の重量比で10%〜99.9%を占めると考えられる。
【0122】
本発明の組成物は、注射による投与のために適した形態、経口摂取のために適した形態(例えば、カプセル剤、錠剤、カプレット剤、エリキシル剤など)、局所投与のために適した軟膏、クリームまたはローションの形態、点眼剤としての送達のために適した形態、経鼻吸収または経口吸入などによる吸入による投与のために適したエアロゾル形態、非経口的投与、すなわち皮下、筋肉内または静脈内注射のために適した形態であってよい。
【0123】
注射用の溶液または懸濁液としての投与のための、無毒性の非経口的に許容される希釈剤または担体には、リンゲル液、等張食塩水、リン酸緩衝食塩水、エタノールおよび1,2プロピレングリコールが含まれうる。
【0124】
経口用途のために適した担体、希釈剤、賦形剤および添加剤のいくつかの例には、ピーナッツ油、流動パラフィン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、トラガカントゴム、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ゼラチンおよびレシチンが非限定的に含まれる。加えて、これらの経口製剤は、適した香味剤および着色剤を含んでもよい。カプセル形態で用いる場合には、カプセル剤を、崩壊を遅らせるモノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリルなどの化合物でコーティングしてもよい。
【0125】
添加剤には、典型的には、軟化剤、乳化剤、増粘剤、保存料、殺菌剤および緩衝剤が非限定的に含まれる。
【0126】
経口投与用の固体形態は、ヒトおよび獣医学的な薬学実務において許容される結合剤、甘味剤、崩壊剤、希釈剤、香味剤、コーティング剤、保存料、潤滑剤ならびに/または時間遅延剤を非限定的に含みうる。適した結合剤には、アラビアゴム、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースまたはポリエチレングリコールが非限定的に含まれる。適した甘味剤には、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテームまたはサッカリンが含まれる。適した崩壊剤には、コーンスターチ、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、グアーガム、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸または寒天非限定的に含まれる。適した希釈剤には、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、デキストロース、カオリン、セルロース、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムまたは第二リン酸カルシウムが非限定的に含まれる。適した香味剤には、ペパーミント油、冬緑油、チェリー、オレンジまたはラズベリーの香味剤が非限定的に含まれる。適したコーティング剤には、アクリル酸および/もしくはメタクリル酸および/もしくはそれらのエステルの重合体もしくは共重合体、蝋状物質、脂肪アルコール、ゼイン、セラックまたはグルテンが非限定的に含まれる。適した保存料には、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、α-トコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベンまたは重亜硫酸ナトリウムが非限定的に含まれる。適した潤滑剤には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウムまたはタルクが非限定的に含まれる。適した時間遅延剤には、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリルが含まれる。
【0127】
経口投与用の液体形態は、上記の作用物質に加えて液体担体を含みうる。適した液体担体には、水、油、例えばオリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、落花生油、ヤシ油など、流動パラフィン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、脂肪アルコール、トリグリセリドまたはそれらの混合物が非限定的に含まれる。
【0128】
経口投与用の懸濁液は、分散剤および/または懸濁剤をさらに含みうる。適した懸濁剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウムまたはアセチルアルコールが非限定的に含まれる。適した分散剤には、レシチン、ステアリン酸などの脂肪酸のポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンソルビトール-モノオレエートもしくは-ジオレエート、-ステアレートまたは-ラウレート、ポリオキシエチレンソルビタン-モノオレエートもしくはジオレエート、-ステアレートまたは-ラウレートなどが非限定的に含まれる。
【0129】
経口投与用の乳濁液は、1つまたは複数の乳化剤をさらに含みうる。適した乳化剤には、以上に例示した分散剤、またはグアーガム、アラビアゴムもしくはトラガカントゴムなどの天然ゴムが非限定的に含まれる。
【0130】
非経口的に投与しうる組成物を調製するための方法は当業者には明らかであり、例えば、Remington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton、Pa.にさらに詳細に記載されており、それは参照により本明細書に組み入れられる。
【0131】
本発明の局所用製剤は、有効成分を、1つまたは複数の許容される担体、および任意で、任意の他の治療用成分とともに含む。局所投与のために適した製剤には、治療が必要な部位に対する皮膚を通じての浸透のために適した液体または半流動体、例えばリニメント剤、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤またはパスタ剤など、および眼、耳または鼻に対する投与のために適した滴剤が非限定的に含まれる。
【0132】
肺への投与のためのアンチセンスオリゴヌクレオチド組成物の使用、およびこの用途のために適した組成物は、例えば米国特許第6,825,174号に記載されており、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。それらに記載された方法を用いて、吸入送達または鼻内送達のために適した組成物を調製することができる。
【0133】
本発明による滴剤は、無菌の水性または油性の溶液または懸濁液を含みうる。これらは、有効成分を、殺菌薬および/または殺真菌薬および/または任意の他の適した保存料の水溶液中に溶解させること、ならびに任意で界面活性剤を含めることによって調製しうる。その結果得られた溶液を、続いて、濾過によって透明化し、適した容器に移して滅菌することができる。滅菌は、濾過の後に無菌的手法によって容器に移すことにより達成できる。滴剤中に含めるのに適した殺菌薬および殺真菌薬の例には、硝酸フェニル水銀または酢酸フェニル水銀(0.002%)、塩化ベンザルコニウム(0.01%)および酢酸クロルヘキシジン(0.01%)がある。油性溶液の調製のために適した溶媒には、グリセロール、希釈アルコールおよびプロピレングリコールが非限定的に含まれる。
【0134】
本発明によるローション剤には、皮膚または眼に対する適用のために適したものが含まれる。眼用ローション剤は、任意で殺菌薬を含む滅菌水溶液を含むことができ、滴剤の調製に関して上述したものに類似した方法によって調製することができる。皮膚に対する適用のためのローション剤またはリニメント剤も、乾燥を早め、皮膚を冷却するための作用物質、例えばアルコールもしくはアセトン、および/またはグリセロールなどの保湿剤、またはヒマシ油もしくは落花生油などの油を非限定的に含みうる。
【0135】
本発明によるクリーム剤、軟膏剤またはパスタ剤は、外用のための有効成分の半固形製剤である。それらは、微細または微粉状の形態にある有効成分を、単独で、または水性もしくは非水性の流動体中にある液体または懸濁液として、油脂性または非油脂性の基剤と混合することによって製造することができる。基剤には、炭化水素、例えば硬、軟もしくは流動パラフィン、またはグリセロール、蜜蝋、金属セッケン;ゴム糊;天然物由来の油、例えば扁桃油、コーン油、落花生油、ヒマシ油またはオリーブ油;羊毛脂もしくはその誘導体、または脂肪酸、例えばステアリン酸またはオレイン酸が、プロピレングリコールまたはマクロゴールなどのアルコールとともに含まれうる。
【0136】
組成物には、陰イオン性、陽イオン性または非イオン性の界面活性剤、例えばソルビタンエステルまたはそのポリオキシエチレン誘導体などの、任意の適した界面活性剤を組み入れることができる。天然ゴム、セルロース誘導体、または珪質シリカなどの無機材料、およびラノリンなどの他の成分を含めることもできる。
【0137】
組成物をリポソームの形態で標的細胞に投与または送達することもできる。リポソームは一般にリン脂質または他の脂質物質から導き出され、水性媒体中に分散された単層または多層の水和液体結晶から形成される。組成物を標的細胞に投与または送達するのに用いられるリポソームの具体的な例は、合成コレステロール(Sigma)、リン脂質1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC;Avanti Polar Lipids)、PEG脂質3-N-[(-メトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバモイル]-1,2-ジミレスチルオキシ-プロピルアミン(PEG-cDMA)、およびカチオン性脂質1,2-ジ-o-オクタデセニル-3-(N,N-ジメチル)アミノプロパン(DODMA)または1,2-ジリノレイルオキシ-3-(N,N-ジメチル)アミノプロパン(DLinDMA)が、それぞれモル比55:20:10:15または48:20:2:30にあるもの、ならびにPEG-cDMA、DODMAおよびDLinDMAである。リポソームを形成することのできる、任意の無毒性で生理的に許容され、かつ代謝されうる脂質を用いることができる。リポソーム形態にある組成物は、安定剤、保存料、賦形剤などを含みうる。好ましい脂質は、天然性および合成性の両方の、リン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを形成するための方法は当技術分野で公知であり、この点に関する具体的な参照は以下のもの:Prescott, Ed., Methods in Cell Biology, Volume XIV, Academic Press, New York, N.Y.(1976), p. 33 et seq.に対してなされ、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0138】
DOTAPおよび/または他のカチオン性脂質を介した核酸送達系の使用も想定される。DOTAPは、例えば、遺伝子サイレンシング用のsiRNAの全身送達のために用いられており(Sorenson et al.,(2003)J. Mol. Biol. 327:761-766)、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0139】
組成物を、細胞内への組成物の送達のためにポリカチオン性作用物質とコンジュゲートさせることもできる。ポリカチオン性作用物質は、組成物の送達媒体として用いることができる。ポリカチオン性作用物質の一例は、ポリ(エチレンイミン)、別名PEIである。PEIは、siRNAなどの短い核酸鎖を、細胞のアニオン性表面と相互作用する正に荷電した微粒子へと凝集させる低分子量化合物である。PEIは単独で用いることもでき、またはさらにPEGとコンジュゲートさせることもできる。ポリカチオン性作用物質のもう1つの例はポリ-L-リジン(PLL)である。細胞への組成物の送達のためのポリカチオン性作用物質の使用は当技術分野で公知であり、この点に関する具体的な参照は、Judge et al. (2005). Nature 25: 457-462に対してなされ、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0140】
また、組成物を微粒子の形態で投与することもできる。ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)およびイプシロン-カプロラクトン(ε-カプロラクトン)から形成された生分解性微粒子は、血漿中半減期を延長させてそれによって有効性を持続化させるための薬物担体として幅広く用いられている(Kumar, M., 2000, J Pharm Pharmaceut Sci. 3(2) 234-258)。微粒子は、ワクチン、抗生物質およびDNAを含む、さまざまな薬物候補の送達のために製剤化されている。その上、これらの製剤は、非経口的な皮下注射、静脈内注射および吸入を含む、さまざまな送達経路用に開発されている。
【0141】
組成物がナノ粒子を含んでもよい。PEG含有ナノ粒子などのナノ粒子は、そのサイズのために細胞内に迅速に取り込まれることが示されている。本明細書に記載された組成物がナノ粒子と、例えば組成物上およびナノ粒子の表面上の相補的な電荷によって会合している場合には、細胞内への組成物の送達が、ナノ粒子によって与えられる細胞送達特性によって強化される可能性がある。
【0142】
組成物に、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)および有機溶媒または複数の有機溶媒の混合物から構成される、制御放出用マトリックスを組み入れることもできる。粘度をさらに高め、放出速度を低下させるための放出調節剤として媒体にポリマー性添加物を添加してもよい。SAIBはよく知られた食品添加物である。これは極めて疎水性が高く、イソ酪酸基6に対して酢酸基2という理論的比で完全にエステル化されたスクロース誘導体である。混合エステルとして、SAIBは結晶化しないが、透明な粘性液体として存在する。SAIBをエタノールまたはベンジルアルコールなどの薬学的に許容される有機溶媒と混合すると、混合物の粘度は注射が可能となるほどに十分に低下する。有効薬物成分をSAIB送達媒体に添加して、SAIB溶液または懸濁液の製剤を形成させることができる。製剤を皮下注射すると、溶媒がマトリックスから拡散することで、SAIB-薬物またはSAIB-薬物-ポリマー混合物をインサイチュー形成性デポとして設置することが可能になる。
【0143】
本発明の目的において、分子および薬剤は、対象に対して組成物として治療的または予防的に投与しうる。治療的な用途において、組成物は、疾患にすでに罹患している患者に対して、疾患およびその合併症を治癒させる、または少なくとも阻止するのに十分な量で投与される。組成物は、患者を有効に治療するのに十分な、分子または薬剤の量を提供すべきである。
【0144】
任意の特定の患者に対する治療的に有効な用量レベルは、以下のものを含む、さまざまな要因に依存すると考えられる:治療しようとする障害、および障害の重症度;用いる分子または作用物質の活性;用いる組成物;患者の年齢、体重、全般的健康状態、性別および食事内容;投与の時間;投与の経路;分子または薬剤の封鎖の速度;治療の持続時間;治療と組み合わせて、または同時に用いられる薬物、さらに医学において周知である他の関連した要因。
【0145】
当業者は、定型的な実験により、適用可能な疾患および病状を治療するために必要と考えられる薬剤または化合物の有効な無毒性量を決定しうると考えられる。
【0146】
微小管不安定化剤に対する腫瘍細胞の感受性が強化されたか否かを判定するための方法が、微小管不安定化剤への曝露時のアポトーシスマーカー、腫瘍縮小の度合い、および腫瘍細胞の代謝活性の変化のうちいずれか1つまたは複数の検討を含みうることは理解されるであろう。TUNEL標識陽性またはDNAラダリングの存在を含む、アポトーシスのマーカーの存在を利用して、腫瘍内の細胞がアポトーシスを来したか否かを判定することができる。
【0147】
腫瘍サイズの変化の判定は、デジタルラジオグラフィー、X線マンモグラフィーを含むX線技術、磁気共鳴映像法、コンピュータ断層撮影法、ポジトロン放出断層撮影法、ガンマカメラ映像法、超音波映像法、内視鏡映像法および臨床的評価を含む、臨床医が容易に利用しうる手法を用いて下すことができる。また、流血中または生検組織中の腫瘍特異的マーカーの存在またはレベルを、腫瘍特異的抗体を用いて、または腫瘍特異的プローブとのインサイチューハイブリダイゼーションによって評価することもできる。ポジトロン放出断層撮影法は、例えば、インサイチューの腫瘍の代謝活性を測定するために用いることができる。
【0148】
実施例
これらの実施例は、本発明を例証する役割を果たすことを意図しており、本明細書の全体にわたる説明の開示の一般的な性質を限定するものとみなされるべきではない。
【0149】
統計分析はGraphPad Prismプログラムを用いて行った。統計分析が提示されている場合、結果は少なくとも3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。種々の実験群と対照群との間の統計学的な差を判定するためには両側スチューデントt検定を用い、P<0.05を統計学的に有意とみなした。
【0150】
実施例1‐細胞培養およびsiRNAトランスフェクション
ヒトNSCLC細胞系Calu-6およびH460(ATCC:Calu6のカタログ番号HTB-56、およびNCI-H460のカタログ番号HTB-177)を、10%ウシ胎仔血清(FCS)および2mM L-グルタミンを補充した、それぞれダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中およびRPMI中で、単層培養物として維持した。細胞は、5% CO2を含む加湿大気中にて37℃で増殖させた。
【0151】
本明細書に記載した実施例では、種々のsiRNAまたはshRNAを用いた。
【0152】
クラスIII β-チューブリン
(公式名(official symbol):TUBB3)、MCIR;TUBB4;β-4としても知られる
SMARTpool、ヒトTUBB4、NM_006086(クラスIII β-チューブリン)
Dharmacon RNA Technologies
【0153】
クラスIII β-チューブリン配列1
センス配列:
(位置:327〜345、位置346〜347にミスマッチ)
アンチセンス配列:
【0154】
クラスIII β-チューブリン配列2
センス配列:
(位置174〜192)
アンチセンス配列:
【0155】
クラスIII β-チューブリン配列3
センス配列:
(位置98〜116)
アンチセンス配列:
【0156】
クラスIII β-チューブリン配列4
センス配列:
(位置470〜488)
アンチセンス配列:
【0157】
クラスIII β-チューブリン配列5
センス配列:
(位置459〜477)
アンチセンス配列:
標的配列はセンス配列であり、UをTに置き換える。
【0158】
27-mer βIII siRNA配列
Integrated DNA Technologies(IDT)
27-mer βIII siRNA 配列-8
(標的配列、UをTに置き換え;位置1521〜1545)
【0159】
27-mer βIII siRNA 配列-11
(標的配列、UをTに置き換え;位置1352〜1376)
【0160】
βIII shRNA発現pRSベクター
Origene
(位置1521〜1549)。
【0161】
クラスII β-チューブリン
(公式名:TUBB2A)、TUBB;TUBB2;dJ40E16.7としても知られる
siGenoME ON-Targetplus SMARTpool、ヒトTUBB2A、NM_001069
Dharmacon RNA Technologies
【0162】
クラスII β-チューブリン配列7
センス配列:
(位置163〜183;位置182にミスマッチ)
アンチセンス配列:
【0163】
クラスII β-チューブリン配列8
センス配列:
(位置1350〜1370;位置1369にミスマッチ)
アンチセンス配列:
【0164】
クラスII β-チューブリン配列9
センス配列:
(位置1371〜1389;位置1390〜1391にミスマッチ)
アンチセンス配列:
【0165】
クラスII β-チューブリン配列10
センス配列:
(位置1439〜1458;位置1459にミスマッチ)
アンチセンス配列:
標的配列はセンス配列であり、UをTに置き換える。
【0166】
クラスIVb β-チューブリン
(公式名:TUBB2C)、TUBB2としても知られる
siGenoME duplex、ヒトTUBB2、NM_006088
Dharmacon RNA Technologies。
クラスIVb β-チューブリン配列5
センス配列:
(位置28〜47;48にミスマッチ)
アンチセンス配列:
標的配列はセンス配列であり、UをTに置き換える。
【0167】
siRNAトランスフェクションのためには、3×104〜5×104個/ウェルの細胞を24ウェルプレートにプレーティングして、最大100nM siRNAで、クラスII β-チューブリンsiRNA ON-TARGET plus SMARTpool試薬(Dharmacon, Chicago, IL)をトランスフェクトした。
【0168】
いかなる公知のヒト遺伝子配列とも配列相同性のない非サイレンシング性対照siRNAを、27-mer βIII siRNA実験を除くすべての実験で陰性対照として用いた(Qiagen, Valencia, CA)。細胞にβIII siRNAを最終濃度25nM(Calu-6)および100nM(H460)としてトランスフェクトした。
【0169】
トランスフェクションは、Lipofectamine 2000(Invitrogen, Carlsbad, CA)を製造元の指示に従って用いて行った。対照実験は、いかなる公知のヒト遺伝子配列とも配列相同性のない非サイレンシング性対照siRNA(Qiagen, Valencia, CA)を標的siRNAと等しい濃度で細胞にトランスフェクトすることにより、並行して行った。別に指定する場合を除き、細胞をトランスフェクションから48〜72時間後に収集した。すべての実験に、Lipofectamineのみの対照(モック-トランスフェクト)および非サイレンシング性対照siRNA(陰性対照)を含めた。
【0170】
実施例2‐β-チューブリンアイソタイプの分析
β-チューブリンアイソタイプの発現に対するsiRNA転写の影響を、β-チューブリンアイソタイプの逆転写-PCR(RT-PCR)分析を用いて、およびウエスタンブロット法によって評価した。逆転写分析のためには、Trizol試薬(Invitrogen)を製造元の指示に従って用いて全RNAを単離した。そのすべての内容が参照により本明細書に組み入れられる、Kavallaris et al.(1997)J Clin Invest 100, 1282-1293に記載された通りの方法および特異的プライマーを用いて、RNA試料をDNアーゼで処理し、RT-PCR分析のために逆転写させた。Hβ9(クラスII)、H5β(クラスIVa)およびHβ2(クラスIVb)遺伝子に関して、半定量的PCRに基づくアッセイには、標的(β-チューブリン)および対照(β2-ミクログロブリン)遺伝子配列に関する2つの別個のPCRチューブの設定を含めた。増幅産物を12.5%ポリアクリルアミドゲル上で分離し、Gel Doc 1000画像化システムを用いる臭化エチジウム染色によって描出して、QuantityOneソフトウエアバージョン4.0(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いてデータ解析を行った。PCR増幅は、2つの独立したcDNA調製物を用いて3回ずつ行った。
【0171】
ウエスタンブロット法に関しては、トランスフェクト細胞からの全細胞タンパク質(10μg)を、標準的な方法を用いて、12%SDS-PAGE上で分離してニトロセルロース膜へのエレクトロトランスファーを行った。イムノブロット法は、クラスI β-チューブリンに対するモノクローナル抗体(1:5,000;Dr. R. Luduena, University of Texas, San Antonio, TXにより寄贈)または代替的には抗β-Iチューブリン(AbCam)、クラスII β-チューブリンに対するモノクローナル抗体(1:1,000, Covance, Richmond, CA)、クラスIII β-チューブリンに対するモノクローナル抗体(1:1,000, Covance)、クラスIV β-チューブリンに対するモノクローナル抗体(1:500、Sigma Chemical Co.-Aldrich, St Louis, MO)および全β-チューブリンに対するモノクローナル抗体(1:500、Sigma)を、以前の記載(Don et al.(2004)Mol Cancer Ther 3, 1137-1146)に若干の変更を加えた上で用いた。高感度化学発光法(Enhanced chemiluminescence)(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を検出のために用いた。ブロットをtyphoonスキャナを用いてスキャニングし、ImageQuantソフトウエアバージョン5.2(Molecular Dynamics Inc, Sunnyvale, CA)を用いて定量した。実験は、3回の独立した抽出によって単離したタンパク質を用いて3回ずつ行った。
【0172】
図1Aに示されているように、至適量のsiRNAで処理した場合、βIIチューブリン(Hβ9)発現はいずれの細胞系においても遺伝子レベルで大きく低下し、クラスIVb siRNA-トランスフェクト細胞ではβIVb(Hβ2)発現の完全な抑制が観察された。72時間の時点で、ウエスタンブロット分析により、クラスII β-チューブリンおよびクラスIV β-チューブリンのレベルは、βIIまたはβIVbチューブリンのそれぞれに対するsiRNAがトランスフェクトされた細胞では著しく低下したが、対照siRNAではそうでないことが示された(図1B)。siRNAの特異性は、他のβ-チューブリンアイソタイプの特異的抗体を用いたプロービングによって証明された。図2に示されているように、クラスII(図2A)またはクラスIVb β-チューブリン(図2B)のいずれのダウンレギュレーションも、他のβ-チューブリンアイソタイプの内因性レベルには影響を及ぼさなかった。
【0173】
実施例3‐薬物耐性のクロノジェニックアッセイ
細胞を24時間トランスフェクトさせ、およそ600個の細胞(Calu-6の場合)または150個の細胞(H460の場合)を6ウェルプレートの各ウェルに播いて、4〜6時間かけて付着させた。この試験に用いた細胞系は前もって薬物選択を受けておらず、肺癌で観察される固有の薬物耐性を表している可能性が高い。
【0174】
続いて、細胞を種々の濃度のさまざまな有糸分裂阻害薬で処理した。37℃での3日間のインキュベーションの後に薬物含有培地を除去し、新たな完全培地に置き換えた。培地は、視認しうるコロニーが形成されるまで7〜10日にわたり3〜4日間隔で交換した。対照細胞には全く同じ処理を行い、同等な培地交換を行った。生存コロニーを同時に固定し、0.5%クリスタルバイオレットを含むメタノール溶液で染色し、余分な色素を除くために水ですすぎ洗いして、一晩風乾させた。
【0175】
各ウェル内のコロニーを手作業で算定し、その結果を式に従って生存率として提示した:生存率は以下の通りに算出した:コロニー数/(播いた細胞の数×プレーティング効率)、式中、プレーティング効率は、コロニー数を、薬物非含有培地中に播いた細胞の数で除算したものに等しい。用量反応曲線を各々の薬物-細胞系の組み合わせに関してプロットし、GraphPad Prismプログラム(GraphPad Software、バージョン4、San Diego, CA)を用いて、この曲線から阻害用量(ID50)値を外挿した。ID50は、薬物で処理したウェル内のコロニー数を、該当する非処理対照ウェルのそれの50%に減少させるために必要な薬物の濃度と定義される。ID50値は、少なくとも4回の独立した実験の平均とした。
【0176】
このアッセイの結果から、βIIおよびβIVbチューブリンのノックダウンはビンカアルカロイドの細胞傷害性を有意に強化するが、タキサン系薬剤についてはそうでないことが実証された。図3A〜Bに示されているように、βIIのノックダウンは、両方の細胞系のビンクリスチンに対する感受性を有意に高めたが、パクリタキセルについてはそうでなかった。驚いたことに、βIVbチューブリンのダウンレギュレーションは、ビンクリスチンで処理した場合の生存コロニーの急激な減少を招いた(図4Aおよび図5)。クラスII形質転換体の観察所見と同様に、βIVbのダウンレギュレーションが、これらの細胞におけるパクリタキセルの細胞傷害性を有意に強化することはなかった(図4B)。
【0177】
これらの影響がパクリタキセルと特定のβ-チューブリンアイソタイプとの何らかの独特な相互作用に起因するという可能性を除外するために、追加的な微小管安定化剤であるエポチロンBを分析に含めた。エポチロンBによる処理は、パクリタキセルのデータと一致して、βII siRNAをトランスフェクトしたH460細胞における薬物感受性の有意な変化を招かなかった(図3C)。対照的に、クラスIVb形質転換体はエポチロンBに対する耐性が有意により大きかった(図4C)。クラスIIおよびIVb形質転換体の両方でビンクリスチンに関して観察された高感受性の影響を確かめるために、追加的なビンカアルカロイドについても検査した。これらのアッセイの結果は、βII siRNAについては表1Aに、βIVb siRNAについては表1Bに示されている。検討したビンカアルカロイドのすべてに関して得られた結果は両方のNSCLC細胞系で一致していたが、H460細胞のデータのみを提示している。
【0178】
クラスIVa(H5β)およびクラスIVb(Hβ2)発現を遺伝子発現(mRNA)レベルで特異的に識別することは可能であったが、クラスIVaタンパク質とクラスIVbタンパク質とを識別する市販の抗体は現在ないため、この試験ではこれらのポリペプチドの発現の差異については検討しなかった。クラスIV β-チューブリン特異的抗体を用いたアフィニティー捕捉と、キャピラリーゾーン電気泳動法などの高分解能電気泳動法との組み合わせは、これらの2種のタンパク質を分離して、それらの区別した定量を可能にすることが期待される。
【0179】
クラスIVb siRNAをトランスフェクトしたCalu-6細胞では、H5β遺伝子発現のおよそ40〜50%の低下が観察された(非提示データ)が、H460のクラスIVb形質転換体では有意な変化は観察されなかった。どちらの細胞系も同一のクロノジェニックな結果を示したことから、得られた薬物応答はクラスIVaではなくクラスIVbの抑制に起因するとされた。
【0180】
NSCLC細胞におけるβIIまたはβIVbの阻害はいずれも、パクリタキセルの細胞傷害性を有意に増強することはなかった。この結果は、β-チューブリンクラスI、IIまたはIVbによるCHO細胞のトランスフェクションはパクリタキセルに対する耐性を付与しなかったという観察所見に一致する。
【0181】
この試験に用いたsiRNAは、標的とした各β-チューブリンアイソタイプの発現の特異的ダウンレギュレーションをもたらし、他のβ-チューブリンアイソタイプのレベルの変化は観察されなかった。これらの結果は、細胞の化学感受性の決定における個々の各β-チューブリンアイソタイプの寄与の違いを強く示している。
【0182】
これらの結果に基づき、本発明者らは、各β-チューブリンアイソタイプが薬物相互作用の点で独特であること、および細胞のアイソタイプ組成が抗微小管剤に対するその応答に影響を及ぼすことを提唱する。βIVb形質転換体で観察されたビンクリスチン感受性に対する劇的な影響は、このアイソタイプがすべての組織で恒常的に発現されることから興味深い。
【0183】
β-チューブリン組成の違いが微小管と細胞骨格ネットワークの他の構成要素との相互作用に影響し、それ故に化学療法薬に対する細胞応答を含む、腫瘍細胞の挙動を決定づける可能性があることは想像できる。感受性の機序に関して考えられるもう1つの説明は、薬物結合親和性の変更である;しかしながら、ビンカアルカロイドはすべて(ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびビノレルビンを含め)、β-チューブリンアイソタイプと同程度の親和性で結合するため、アイソタイプ組成の違いに起因する薬物結合親和性の変更が基礎をなす機序である可能性は低い。
【0184】
実施例4‐チューブリンの免疫蛍光染色
トランスフェクトされたCalu-6細胞を、滅菌チャンバースライド上で集密度が60〜70%となるまで増殖させた。続いて細胞を10nMのパクリタキセルおよびビンクリスチンで1時間処理した。以前の記載(Don et al.(2004)前記)に若干の変更を加えた通りに、細胞をメタノール中で固定し、染色のための加工処理を行った。固定した細胞をα-チューブリン(5% FCS/PBS中に1:400、Sigma)で30分間かけて染色し、続いてCy2抗マウス蛍光タグ付加抗体(5% FCS/PBS中に1:1,000、GE Healthcare)で染色した。スライドを、DAPI II Counterstain(Vysis Inc., Downers Grove, IL)を用いてカバーグラス上にマウントした。スライドを、Zeiss Axioplan 2免疫蛍光顕微鏡(Mannheim, Germany)とImagePro Plus 4.1ソフトウエア(Media Cybernetics, L.P., Silver Spring, MD)を用いて描写した。
【0185】
図7Aに示されているように、処理していないβII形質転換体およびβIVb形質転換体は微小管形態の観察可能な変化を示さなかった。しかし、10nMビンクリスチンとのインキュベーション後には、βII siRNA-トランスフェクト細胞およびβIVb siRNA-トランスフェクト細胞はいずれも、対照siRNAと比較して微小管細胞骨格の劇的な破壊を示した。βII siRNA-トランスフェクト細胞およびβIVb siRNA-トランスフェクト細胞では、微小管は主として脱重合しており、ほとんどの細胞は丸みを帯び、微小管の小さな残渣が時折残っていた。対照的に、対照細胞の形態はビンクリスチンによってそれほど影響を受けなかった。微小管の形態は、ビンクリスチンの非存在下ではβII形質転換体およびβIVb形質転換体のいずれにおいても変化せず、低濃度のビンクリスチンは、これらの細胞において対照と比較して広範囲にわたる微小管破壊を引き起こした。
【0186】
βII形質転換体に対するパクリタキセル処理の影響についても検討した。10nMのパクリタキセルで1時間処理した後に、βII siRNA-トランスフェクト細胞をα-チューブリンで染色した。クロノジェニックデータと一致して、βII siRNAで処理した細胞の微小管には、処理した対照細胞のものとの有意な違いは認められないように思われた(図7B)。
【0187】
実施例5‐ビンクリスチンの細胞内蓄積の検討
薬物蓄積の変化が薬物高感受性に寄与したか否かを判定するために、[3H]-ビンクリスチンの蓄積を、βIVb siRNA-トランスフェクト細胞、および陽性対照としてのMRP1陽性MCF7-VP16細胞で測定した。
【0188】
細胞内ビンクリスチン蓄積は、以前の記載(Verrills, N. M., Flemming, C. L., Liu, M., Ivery, M. T., Cobon, G. S., Norris, M. D., Haber, M., and Kavallaris, M. (2003) Chem Biol 10, 597-607)に若干の変更を加えた通りに、放射標識した薬物を用いて定量した。手短に述べると、トランスフェクト細胞を、[3H]-ビンクリスチン(5.20 Ci/mmol;最終濃度、50nmol)(Moravek Biochemicals Inc, California)の存在下において37℃で2時間インキュベートした。以前の記載の通りに、細胞を洗浄し、加水分解して、[3H]放射能をカウントした。細胞溶解物のアリコートを、BCAアッセイキット(Pierce, Rockford, IL)を用いて細胞タンパク質濃度を決定するために並行して用いた。細胞内ビンクリスチン蓄積は2つずつの試料に関して決定し、ビンクリスチン/タンパク質mgのpmole数として表した。MCF7-VP16細胞(Schneider et al. Cancer Res. (1994) 54(1):152-8)を陽性対照として含めたが、これはこれらの細胞が多剤耐性関連タンパク質-1(MRP1)を過剰発現することが以前に示されているためである。
【0189】
MCF7-VP16細胞は、[3H]-ビンクリスチンの蓄積の有意な減少を示した(非提示データ)。Calu-6およびH460のいずれにおいても、βIVbノックダウン体と対照との間に、細胞内[3H]-ビンクリスチンレベルに関して有意差はみられなかった(図6)。これらの結果は、βIVbノックダウン体におけるビンクリスチンの感受性の強化が薬物蓄積の増加に起因するのではないことを示唆している。
【0190】
実施例6‐細胞周期分析
βIIまたはβIVbチューブリンsiRNA-トランスフェクトH460細胞におけるDNA含有量の分布を、フローサイトメトリーにより決定した。トランスフェクションから72時間後に、トランスフェクト細胞を濃度5nMまたは40nMのビンクリスチンに対して24時間曝露させた。分析当日に、付着細胞および浮遊細胞の両方を収集し、PBSで洗浄した上で、0.4% Triton X-100(Sigma)、50μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma)および2μg/mlのDNアーゼ非含有RNアーゼ(Roche, Indianapolis, IN)を含む溶液により、暗所にて37℃で15分間かけて染色した。DNA含有量は、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson, San Diego, CA)を用いて測定した。流速は1秒当たりの核の数を200個未満とし、各試料からの細胞10,000個を分析した。測定は同じ機器設定下で行った。CellQuestプログラムを用いて、各細胞周期相:sub-G1(アポトーシス細胞)、G1、SおよびG2/Mにある細胞の分布を定量した。
【0191】
図8Aおよび8Bに示されているように、βIIまたはβIVbチューブリンの単独での阻害は、対照と比較して、非処理H460細胞の細胞周期プロフィールに有意な影響を及ぼさなかった。しかし、5nMビンクリスチンで処理すると、βII形質転換体およびβIVb形質転換体はいずれも、G2/M集団およびsub-G1集団の増加を示した。クラスII形質転換体は、対照処理細胞と同様に、40nMビンクリスチンで処理した場合に、より高度のG2/M蓄積を示し、sub-G1集団には有意差はみられなかった(図8A)。
【0192】
一方、クラスIVb形質転換体は、等しい濃度のビンクリスチンで処理した場合にG2/M停止を受けることができず、G0-G1集団の増加を付随して示した(図8B)。有糸分裂の阻止は明らかではなかったが、それにもかかわらず、細胞はsub-G1集団の増加によって示されるようにアポトーシスを呈した。
【0193】
実施例7‐βIII-チューブリンノックダウン試験のための細胞傷害性薬物
以下の複数の実施例では、腫瘍細胞の感受性に対するβIIIチューブリンノックダウンの役割を調べた試験について述べる。
【0194】
パクリタキセル(Calbiochem, Merck Biosciences, Nottingham, U.K.)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に原液濃度2mMで調製した。ビンクリスチン(Sigma-Aldrich, St Louis, MO)は、食塩水(0.9% wt/vol NaCl)中に原液濃度2mMで調製した;ビノレルビン(Dr B Hill, Pierre Fabre, Franceにより寄贈)は水中に原液濃度2mMで調製した。ドキソルビシン(塩酸ドキソルビシン;Pfizer, Sydney, Australia)は、食塩水中に原液濃度3.45mMで調製した。エトポシド(VP-16;Sigma-Aldrich)は、DMSO中に原液濃度68mMで調製し、シスプラチン(Pharmacia, Rydalmere, Australia)は食塩水中に原液濃度3.3mMで調製した。
【0195】
実施例8‐NSCLC細胞系におけるβIII-チューブリンのサイレンシング
βIII-チューブリンsiRNAトランスフェクションがそのアイソタイプの遺伝子およびタンパク質の発現に及ぼす影響を、RT-PCRおよびウエスタンブロット法によって評価した。RT-PCRのためには、Trizol試薬(Invitrogen)を製造元の指示に従って用いて、全RNAをトランスフェクト細胞から抽出した。以前に詳細に記載された通りの方法および特異的プライマーを用いて、RNA試料をDNアーゼで処理し、RT-PCR分析のために逆転写させた(Kavallaris et al.(1997)J Clin Invest 100, 1282-1293)。β-2-ミクログロブリン(β2M)を内部mRNA対照として用いた。タンパク質溶解物の調製およびウエスタンブロット分析は以下の通りに行った。手短に述べると、標準的な方法を用いて、全細胞タンパク質を4%〜15%のSDS-PAGE上で分離して、ニトロセルロース膜へのエレクトロトランスファーを行った。イムノブロット法は、βI-チューブリン(クローンSAP 4G5, Abcam Ltd., Cambridgeshire, UK)、βII-チューブリン(クローン7B9, Chemicon, Temecula, CA)、βIII-チューブリン(クローンTUJ1, Chemicon)およびβIV-チューブリン(クローンONS 1A6, Sigma-Aldrich)、GAPDH(Abcam Ltd.)を対象とするモノクローナル抗体を用いて行った。一次抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼを連結させた二次抗体(Amersham Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)を用いて検出し、高感度化学発光法(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を検出のために用いた。ブロットをTyphoon(登録商標)スキャナを用いてスキャニングし、ImageQuantソフトウエアバージョン5.2(Molecular Dynamics Inc, Sunnyvale, CA)を用いて定量した。
【0196】
βIII-チューブリンsiRNAによるH460細胞およびCalu-6細胞の処理は、モック-トランスフェクト細胞および対照siRNA-トランスフェクト細胞と比較してβIII-チューブリンmRNAレベルの有意なノックダウンをもたらした(図9A)。この結果は、タンパク質レベルで観察された減少と一致した(図9B)。ウエスタンブロット法によって示されたように、βIII-チューブリンsiRNAはβIII-チューブリンを特異的に標的とし、検討した他のβ-チューブリンアイソタイプとの交差反応はなかった(図9C)。加えて、βIII-チューブリンのサイレンシングは、検討した他のアイソタイプの代償性変化を引き起こさなかった。
【0197】
実施例9‐クラスIII β-チューブリンのサイレンシングは、パクリタキセルまたはビンクリスチン処理時に微小管を破壊する
微小管の構成に対するβIIIダウンレギュレーションの影響を評価するために、トランスフェクトCalu-6細胞に対して以下の通りに免疫蛍光染色を行った。手短に述べると、siRNAトランスフェクト細胞をガラスチャンバースライドにプレーティングして、集密度70%に到達させた。続いて細胞を10nMのパクリタキセルまたはビンクリスチンで1時間処理した。続いて、細胞をPBSで洗浄することによって薬物を除去し、10% FCS/PBS中で固定した。二重染色のためには、加湿チャンバー内にて37℃で30分間インキュベートした細胞に曝露させたクラスIII β-チューブリンに対する抗体を用いて、細胞をまず標識した。室温での0.1% Tween 20/PBS中での洗浄後に、スライドをCy3抗マウス蛍光タグ付加抗体(GE Healthcare)とともに、加湿チャンバー内において暗所にて室温で40分間インキュベートした。インキュベーションの後に、スライドを再び0.1% Tween 20/PBSで洗浄した。これに続いて、α-チューブリンおよびCy2抗マウス蛍光タグ付加抗体(GE Healthcare)による染色を行った。DAPI II Counterstain(Vysis Inc., Downers Grove, IL)を用いて、スライドをカバーグラス上にマウントした。免疫蛍光顕微鏡検査を行い、Sensicam電荷結合素子カメラ(PCO Imaging, Kelheim, Bavaria, Germany)とImage-Pro Plus 4.1ソフトウエア(Media Cybernetics, L.P., Silver Spring, MD)を用いて画像を取り込んだ。
【0198】
βIII siRNA-トランスフェクト細胞は、微小管形態の観察可能な変化を示さなかった。ウエスタンブロットデー
タに一致して、βIII-チューブリンsiRNA処理細胞では、対照siRNA-トランスフェクト細胞およびモック-トランスフェクト細胞と比較して、同一条件下で画像化した場合にクラスIII β-チューブリン免疫蛍光強度の明らかな低下が観察された。対照細胞(モック-トランスフェクト細胞および対照siRNA-トランスフェクト細胞)は、βIIIノックダウン体と比較して同程度のレベルのクラスIII β-チューブリンを発現し、一方、βIII-チューブリン発現レベルは蛍光顕微鏡検査ではほとんど検出不能であった。
【0199】
βIII-チューブリンsiRNA処理細胞に対するチューブリン結合剤の影響を検討するために、細胞を10nMのパクリタキセルまたはビンクリスチンのいずれかに1時間曝露させ、細胞形態を調べた。図10に示されているように、βIII siRNA-トランスフェクトCalu-6細胞は、対照処理細胞と比較して、微小管細胞骨格の広範囲にわたる破壊を示した。βIII siRNA処理細胞の大半は丸みを帯び、これらの細胞の多くは異常な細胞形態または核形態を呈した(矢印、図10)。対照処理細胞は時折、パクリタキセル処理に通常伴ってみられる微小管のわずかな集束化を示したが、丸みを帯びた細胞の頻度および微小管破壊の程度は、βIII形質転換体と比較してわずかであった。
【0200】
実施例10‐βIII-チューブリンのサイレンシングはチューブリン結合剤およびDNA傷害剤に対する感受性を高める
前の実施例におけるデータから、βIII-チューブリン発現のサイレンシングが、パクリタキセルおよびビンクリスチンの両方に対する腫瘍細胞の感受性を高めた可能性が示唆された。薬物感受性の変化を定量するために、薬物処理クロノジェニックアッセイを行った。siRNAトランスフェクションから24時間後に細胞を収集し、6ウェルプレートにプレーティングして6時間おいた後に、図の説明文に表記した通りのさまざまな薬物を添加した。インキュベーションから72時間後に、薬物を含む培地を除去し、完全増殖培地に置き換えた。培地は、視認しうるコロニーが形成されるまで7〜10日にわたり3日毎に交換した。コロニーを同時に固定し、0.5%クリスタルバイオレットを含むメタノール溶液で染色して、手作業で算定した。各ウェル内の染色された個々のコロニーを算定し、生存率を以下の通りに算出した:コロニー数/(播いた細胞の数×プレーティング効率)、式中、プレーティング効率は、コロニー数を、薬物非含有培地中に播いた細胞の数で除算したものに等しい。
【0201】
トリチウム標識基質である[3H]-パクリタキセルおよび[3H]-ビンクリスチンの細胞内取込みおよび保持を、Verrills, et al. J Natl Cancer Inst 2006;98.1363-74に以前に記載された通りに測定した。手短に述べると、12ウェルプレート内で48時間にわたり細胞をトランスフェクトさせた。薬物取込みは、[3H]-パクリタキセル(14.7Ci/mmol;最終濃度50nM;Moravek Biochemicals Inc, Brea, CA)または[3H]-ビンクリスチン(7.1 Ci/mmol;最終濃度12.5nM;GE Healthcare)をトランスフェクト細胞に添加して37℃で2時間おくことによってモニターした。以前の実施例に記載したように、細胞を洗浄し、加水分解した上で算定した。細胞内に蓄積したトリチウム標識薬物の量を2つずつの試料に関して決定し、薬物/タンパク質mgのpmole数として表した。少なくとも3回の独立した実験を行った。それぞれ多剤耐性1(MDR1)および多剤耐性関連タンパク質1(MRP1)を過剰発現することが知られている、ビンクリスチン耐性神経芽細胞腫(BE/VCR10)およびVP-16耐性乳癌細胞(MCF7-VP16)を含む、該当する陽性対照を含めた。
【0202】
免疫蛍光観察所見に一致して、βIII-チューブリンのサイレンシングは、パクリタキセルおよびビンクリスチンに対する感受性の有意な増加をもたらした(図11AおよびB)。加えて、βIII-チューブリンのサイレンシングを受けた細胞は、対照と比較して、ビノレルビンに対する感受性の強化も呈した(図11D)。モック処理細胞および対照siRNA処理細胞と比較して、βIII-チューブリンsiRNAで処理したCalu-6細胞またはH460 NSCLC細胞のいずれにおいても細胞内薬物蓄積レベルに有意差はみられなかったため、感受性の増加は蓄積の変化に起因するものではなかった(非提示データ)。
【0203】
薬物処理クロノジェニックアッセイを、DNA傷害剤であるVP-16、シスプラチンおよびドキソルビシンを用いても行った。興味深いことに、H460細胞におけるβIII-チューブリンのサイレンシングは、検査した3種のDNA傷害剤すべてに対して感受性の増加をもたらした(図11C)。Calu-6細胞でも同様の結果が得られた。H460細胞は野生型p53を有し、Calu-6細胞は突然変異したp53を保有するため、これらの薬物に対する感受性はp53遺伝子型とは無関係であるように思われる。
【0204】
実施例11‐βIII-チューブリンのノックダウンは、パクリタキセルおよびビンクリスチンにより誘導されるG2/M停止を消失させ、sub-G1集団の増加を誘導する
βIII-チューブリンのサイレンシングが細胞周期プロフィールに影響を及ぼすか否かを判定するために、フローサイトメトリーを用いる細胞周期分析を行った。細胞周期分析は、H460細胞にsiRNAを72時間トランスフェクトさせて、薬物処理から24時間後に(付着性および浮遊性)細胞を収集することによって判定した。含有DNAを、0.4% Triton X-100(Sigma-Aldrich)、50μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich)および2μg/mlのDNアーゼ非含有RNアーゼ(Roche, Indianapolis, IN)を含む溶液により、37℃で15分間かけて染色した。続いて細胞を、FACSCalibur(Becton-Dickinson, Franklin Lakes, NJ)を用いて細胞周期の擾乱に関して分析した。CellQuestプログラムを用いて、各細胞周期相:sub-G1(アポトーシス細胞)、G1、SおよびG2/Mにある細胞の分布を定量した。
【0205】
H460細胞の細胞周期プロフィールは、βIII-チューブリンのサイレンシングによる影響を受けなかった。チューブリン結合剤がβIII-チューブリンsiRNA形質転換体の細胞周期プロフィールに影響を及ぼすか否かを判定するために、細胞をパクリタキセルまたはビンクリスチンのいずれかで処理した。5nMパクリタキセルとの24時間のインキュベーション後に、βIII-チューブリンのサイレンシングを受けた細胞では、対照siRNA処理細胞と比較してsub-G1(アポトーシス細胞)含有量が多かった(p<0.05)(図12A)が、βIII-チューブリンsiRNA処理細胞および対照siRNA処理細胞ではいずれも非処理試料と比較してG2/M含有量の同程度の増加がみられた。大きな違いは40nMパクリタキセルを用いた場合に観察され、対照siRNA処理細胞は顕著なG2/Mブロックを示し、一方、βIII-チューブリンsiRNA処理細胞ではアポトーシス細胞を反映するsub-G1集団の顕著な増加がみられた(図12A)。siRNA処理細胞をビンクリスチンに曝露させた場合にも同様の結果が観察され(図12B)、このことはβIII-チューブリンサイレンシング後のタキサン系薬剤およびビンカアルカロイドの両方の影響を強化する共通の機序があることを示唆する。
【0206】
実施例12‐βIII-チューブリンのノックダウンは、パクリタキセルまたはシスプラチンのいずれかの存在下においてアポトーシスに対する細胞の感受性を増加させる
βIII-チューブリンsiRNA処理細胞におけるチューブリン結合剤への曝露後のsub-G1集団の増加がアポトーシス誘導の増加と関係しているか否かを取り扱うために、アネキシンV-FITC染色後にフローサイトメトリー分析を行った。アポトーシス誘導は、Pasquier et al., Mol Cancer Ther 2004;3:1301-10に以前に記載された通りに、H460細胞をsiRNAを72時間トランスフェクトさせて、薬物処理から48時間後に(付着性および浮遊性)細胞を収集することによって判定した。手短に述べると、細胞1×105個をアネキシンV-FITCおよびヨウ化プロピジウムとともに暗所にて15分間インキュベートし(Becton-Dickinson)、その直後にFACSCalibur(Becton-Dickinson)を用いるフローサイトメトリーを行った。サイトグラム分析を、Cell Questソフトウエアを用いて行った。
【0207】
H460細胞とパクリタキセルとの48時間のインキュベーションにより、βIII-チューブリンsiRNA処理細胞では1nMから、対照siRNA処理細胞では5nMからアポトーシスが誘導された(図13A)。さらに、検査したすべてのパクリタキセル濃度(1、2および5nM)で、アポトーシス細胞のパーセンテージは、βIII-チューブリンsiRNA処理細胞の方が対照siRNA処理細胞よりも有意に高かった(図13A)。
【0208】
同様に、シスプラチンに48時間曝露させたβIII-チューブリンsiRNA処理細胞では、対照と比較して、0.4または1μMシスプラチンで処理した細胞におけるアポトーシス細胞の数の有意な増加がみられた(図13B)。以上を総合すると、このデータは、NSCLCにおけるβIII-チューブリンのサイレンシングが、チューブリン結合剤およびDNA傷害剤による処理後のアポトーシスに対する細胞の感受性を高めることを実証している。
【0209】
実施例13‐クラスIII β-チューブリンのサイレンシングは、チューブリン安定化剤エポチロンに対する感受性を高める
H460細胞およびCalu-6細胞のクラスIII β-チューブリンのノックダウンを以前の実施例に記載した通りに行い、チューブリン安定化剤であるエポチロンBを用いて薬物処理クロノジェニックアッセイを行った。これらの実験の結果は図14に図示されている。
【0210】
いずれの細胞系においても、クラスIII β-チューブリンのノックダウンは、エポチロンBに対するこれらの細胞の感受性を高めた。
【0211】
実施例14‐クラスIII β-チューブリンのサイレンシングのための代替的なsiRNA
他のsiRNAによるチューブリン発現のノックダウンが、チューブリン結合剤に応じて同等なレベルのクラスIII β-チューブリンサイレンシングの変化を誘導しうるか否かを調べるために、配列8(SEQ ID NO:11および12)または配列11(SEQ ID NO:13および14)と命名した27mer-siRNA試薬を用いて、H460細胞におけるクラスIII β-チューブリンの発現をノックダウンした。これらのsiRNAは、クラスIII β-チューブリンmRNA配列の異なる領域を認識する。
【0212】
これらの実験の結果は、図15および16ならびに表2に示されている。図15に図示されたウエスタンブロットは、これらのsiRNAのそれぞれが、クラスIII β-チューブリンタンパク質の発現をさまざまな程度でノックダウンさせるのに有効である一方で、他のチューブリンアイソタイプの発現には影響を及ぼさないことを実証している。図16および表2は、ノックダウンされた細胞が、パクリタキセルおよびビンクリスチンの両方に対する感受性のさまざまな度合いの増加も呈したことを実証しており、このことは、さまざまなsiRNAを用いて、チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を首尾良く強化しうることを示唆している。
【0213】
実施例15‐クラスIII β-チューブリンのサイレンシングのための短鎖ヘアピンRNA(shRNA)
短鎖ヘアピンRNA構築物(SEQ ID NO:15)を用いて、H460細胞におけるクラスIII β-チューブリンの発現を安定的にノックダウンすることを試みた。
【0214】
安定したクラスIII β-チューブリンのノックダウンが観察された、クローン4、クローン59およびクローン60と命名された3種のクローンを同定した。図17に図示されているように、これらのクローンのそれぞれは、他のチューブリンアイソタイプの発現を明らかに変化させることなく、クラスIII β-チューブリンアイソタイプの種々のレベルのノックダウン(標準化したウエスタンブロット中に検出されるクラスIII β-チューブリンタンパク質の強度のばらつきによって示される)を示した。これらの安定的ノックダウンクローンをクロノジェニックアッセイにおいてパクリタキセルまたはDNA傷害剤シスプラチン(CDDP)に対する感受性に関して検討したところ(図18および表3)、すべてのクローンがこれらの薬剤のそれぞれに対する感受性の増加を呈することが見いだされた。各々のクローンの感受性はクラスIII β-チューブリンのノックダウンの度合いと相関するように思われ、クローン4は最大量のノックダウンおよび薬剤のそれぞれに対する最大の感受性の両方を有するように思われた。
【0215】
実施例16‐白血病細胞における2メトキシエストラジオール耐性はクラスII β-チューブリンと関連している
チューブリン結合剤2-メトキシエストラジオール(2ME2)は、β-チューブリンとコルヒチン結合部位近くで結合し、微小管重合を阻害するとともに有糸分裂停止を誘導する。2ME2に対する耐性の増加を呈するCCRF-CEM白血病細胞を選択し、高度の2ME2耐性を持つ白血病亜系統4つを詳細な分析のために選別した。3.6〜28.8μMの2ME2中で選択された2ME2細胞は、親系統の細胞よりも2ME2に対する耐性が11〜107倍大きいことが見いだされた。
【0216】
これらの2ME2耐性細胞はエポチロンBに対して高感受性であり、コルヒチンおよびビンクリスチンに対して交差耐性があったのは、最も耐性の低い亜系統であるCEM/2ME2-3.6Rのみであった。これらの2ME2耐性細胞は親細胞で示されるようなG2/M細胞周期停止を呈さず、親細胞よりも高いレベルの重合チューブリンを示した。4種のクラスI β-チューブリン突然変異、S25N、D197N、A248TおよびL350Nが、これらの2ME2耐性細胞で検出された。S25N突然変異はβ-チューブリン上のパクリタキセル結合部位の内部にあり、A248TおよびL350Nはコルヒチン結合部位の内部にあったものの、耐性細胞はパクリタキセルまたはコルヒチンのいずれとも交差耐性がなかった。
【0217】
このことは、これらの突然変異がこれらの結合部位に対するコンフォメーション変化を誘導した可能性を示唆している。加えて、2ME2耐性亜系統ではクラスII β-チューブリンの発現がアップレギュレートしていることも実証された(図19)。
【0218】
クラスII β-チューブリンのレベルが感受性を予測しうるか否か、および耐性に寄与するか否かを判定するために、薬物感受性H460(NSCLC)細胞におけるクラスII β-チューブリンのsiRNA媒介性ノックダウンを行った。クラスII β-チューブリンのノックダウンは、2ME2およびコルヒチンに対するH460細胞の感受性を有意に増加させた。
【0219】
実施例17‐対象に対する核酸構築物の投与
NSCLC腫瘍を有するかまたはそれを有する疑いがあると診断された対象に対して腫瘍生検を実施する。腫瘍がβII、βIIIまたはβIVb β-チューブリンmRNAまたはタンパク質を発現するか否かを判定するために、生検組織を、本明細書に記載された通り、または以前に記載された通り(Kavallaris et al.(1997)J Clin Invest 100:1282)のRT-PCRにより、市販の特異的モノクローナル抗体または核酸を用いてプロービングする。腫瘍がβII、βIIIまたはβIVb β-チューブリンを発現するならば、その対象を本発明の方法に従って治療する。
【0220】
以前に記載された通りにカチオン性リポソーム内に封入されるか(Nogawa et al.(2005)前記)、ナノ粒子とコンジュゲートされるか、または食塩水中に懸濁され、かつ任意で、ヌクレアーゼ耐性化学修飾を用いて合成された、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンを対象とする1つまたは複数のsiRNA構築物を、2×109個の構築物/注射1回の用量で腫瘍内に直接注射し、注射を2日毎に3回または5回繰り返す。または、ナノ粒子とコンジュゲートされた構築物を全身投与して、肺に対して構築物を局在させるようなナノ粒子の能力を利用する。
【0221】
腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン発現の阻害をモニターする目的で、およそ72時間の時点でさらに生検試料を採取して、上記のように遺伝子発現に関して組織を検討することもできる。
【0222】
腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現の実質的な阻害の後に、対象に対して、当該の腫瘍型に応じた標準的な用量の微小管結合剤を、標準的な投与速度を用いて投与する。
【0223】
(表1A)βII siRNAをトランスフェクトしたNSCLC H460細胞の、ビンカアルカロイドの存在下でのクロノジェニック生存度
*ID50=細胞の50%を死滅させた薬物の濃度(ID50);
† スチューデントのt検定(両側)。
P値は、モック-トランスフェクト細胞のID50をsiRNA-トランスフェクト細胞のID50と比較することによって決定した。
【0224】
(表1B)
βIVb siRNAをトランスフェクトしたNSCLC H460細胞の、ビンカアルカロイドの存在下でのクロノジェニック生存度
【0225】
(表2)
27-mer βIII siRNAを用いたβIIIサイレンシング後のH460細胞に対する薬物処理クロノジェニックアッセイ
【0226】
(表3)
安定的H460 βIII-shRNA細胞の薬物処理クロノジェニックアッセイ
1 コロニー形成の50%を阻害するために必要な薬物濃度
2 相対的感受性(RS)は、ctrlクローン1と比較したsiRNA処理細胞の感受性の倍数である。RSは、ctrlクローン1のID50を、安定的βIIIクローンまたはctrlクローン2のID50で除算することによって決定した。NS-有意でない
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2007年3月5日に提出されたオーストラリア仮特許出願第2007901131号、および2007年9月28日に提出されたオーストラリア仮特許出願第2007905307号による優先権を主張する。これらの出願のそれぞれのすべての開示内容は、相互参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、腫瘍によるβ-チューブリン発現の特性決定に基づいた、有糸分裂阻害剤に対する腫瘍感受性に関するスクリーニングのための方法、腫瘍細胞におけるβ-チューブリン、特にII-、III-またはIVb-β-チューブリンの発現をモジュレートするための方法に関する。本発明はまた、ビンカアルカロイド、タキサン系薬剤およびエポチロン系薬剤などのチューブリン結合剤(tubulin-binding agent)に対する、ならびに他の抗癌剤に対する腫瘍細胞の感受性を強化するための分子および方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
微小管は真核細胞において細胞分裂のために必要であり、紡錘体が染色体の分配および分離を確実に遂行するための部分として機能する。微小管の主成分はα-チューブリンおよびβ-チューブリンであり、これらはヘテロ二量体を形成する。ヒトではこれまでに少なくとも7種類のβ-チューブリンアイソタイプが同定されている。これらのアイソタイプは、カルボキシ末端ドメインの配列に従って以下の通りに(タンパク質アイソタイプを指すローマ数字の分類番号、および括弧内のヒト遺伝子分類を用いて)分類される:クラスI(HM40)、クラスII(Hβ9)、クラスIII(Hβ4)、クラスIVa(H5β)、クラスIVb(Hβ2)、クラスVおよびクラスVI(Hβ1)。異なるアイソタイプは別個の組織発現パターンを呈する。例えば、クラスIII β-チューブリンは通常、神経細胞のみで発現される。
【0004】
チューブリン結合剤は、卵巣癌、乳癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、進行期神経芽細胞腫および種々のリンパ腫を含む、多くのヒト癌の治療における重要な構成要素である。これらの臨床的に重要な薬剤には、α/β-チューブリン由来のβ-チューブリンと結合して微小管動態を撹乱させ、それによって有糸分裂停止およびアポトーシスを誘導する、パクリタキセル(タキソール)などのタキサン系薬剤、エポチロン系薬剤、およびビンブラスチンなどのビンカアルカロイドが含まれる。
【0005】
チューブリンと結合すると、タキサン系薬剤およびエポチロン系薬剤は微小管の集成を強化し、その結果、重合した微小管の安定化、異常な紡錘体エステル(spindle ester)および有糸分裂中の細胞周期停止をもたらすことが知られている。一方、ビンカアルカロイドは、チューブリン二量体の付着に関与する領域を遮断することによって重合チューブリンの不安定化を誘導し、それによって微小管集成を妨げる、第2のクラスのチューブリン結合剤である。白金を基剤とするDNA傷害剤は、DNAと結合してそれを修飾する抗癌薬の大規模なクラスであり、これらは多種多様な癌の治療に有効であって、チューブリン結合剤との併用療法でよく投与される。
【0006】
しかしながら、腫瘍細胞によるタキサン系薬剤、エポチロン系薬剤およびビンカアルカロイドなどの微小管結合剤に対する耐性の発生が、さまざまな化学療法レジメンの成功のための重大な障害となっている。
【0007】
肺癌は、毎年100万例以上が診断される世界中で最も頻度の高い癌であり、依然として男性および女性の両方で癌による死亡の主な原因であり続けている。進行型非小細胞肺癌(NSCLC)はこれらの症例の80%超を占める。これらの対象のうち過半数は診断時点で転移を生じており、このため化学療法が依然として最も有効な治療選択肢である。過去10年間で、単剤としての、または併用化学療法レジメンの一部としての、パクリタキセルおよびビノレルビンなどの化学療法薬の第2相試験における使用は、期待の持てる活性および1年時の生存率の向上を示している。しかし、肺癌の治療におけるこれらの薬剤の臨床的有用性を大きく制限する薬剤耐性腫瘍細胞の出現が原因となり、一般に対象の予後は不良なままである。したがって、癌の治療における有糸分裂阻害剤の継続的な有効性を確保することを目的としてこの耐性に立ち向かってそれを克服するための方法およびアプローチに対しては、明らかな需要が存在する。
【0008】
すべての種を通じての組織発現の違いおよび高度に保存された配列を根拠として、各β-チューブリンアイソタイプは微小管における機能的な違いを与える独特な特性をもたらしている可能性が示唆されている。チューブリンアイソタイプの発現の変化は、パクリタキセル、ドセタキセルおよびエストラムスチンを含む抗微小管剤(antimicrotubule agent)に対する耐性の点から選択された細胞系で実証されているものの、得られているデータは、パクリタキセル耐性におけるβIIIチューブリンの役割に焦点を絞っている。他の種類のチューブリン結合剤に対する細胞の応答におけるβIIIチューブリンの関与度も、チューブリン結合剤に対する応答における非βIII型チューブリンアイソタイプの関与度も、ほとんど解明されていない。例えば、クラスII β-チューブリンは正常乳房組織および腫瘍乳房組織の両方で見いだされており、このことはそれがこれらの腫瘍に対する優れたバイオマーカーではない可能性を示唆している。さらに、ビンカアルカロイドとの併用療法においてDNA傷害剤を高い頻度で使用するにもかかわらず、これらの薬剤の有効性に対するβIII-チューブリン発現の影響については取り組みがなされていない。
【0009】
薬剤耐性細胞の研究に伴う1つの特有な難題は、耐性細胞で観察される可能性のあるβ-チューブリン発現の変化が、耐性表現型に寄与しているのか、それとも二次的な機序として生じているのかを確かめることである。多剤耐性細胞が複数の細胞変化を経ることは珍しいことではなく、そのため、それらは複数の耐性機序を取り入れている可能性がある。
【0010】
上記のことに鑑みれば、治療用途に関して、チューブリン結合剤および/もしくは他の有糸分裂阻害剤またはDNA傷害剤に対する腫瘍感受性を強化する薬剤に対しては需要が存在する。加えて、腫瘍を、さまざまなチューブリン結合剤および/または他の有糸分裂阻害剤に対するその感受性または潜在的感受性に関して、そのような薬剤による治療を開始する前および治療の経過中の両方においてスクリーニングしうることも望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【0011】
本発明者らは今回、NSCLC細胞および白血病細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現と、種々のチューブリン結合剤に対するこれらの細胞の応答との間の関連性を実証した。
【0012】
したがって、第1の局面においては、腫瘍細胞をチューブリン結合剤に対する耐性または潜在的耐性に関してスクリーニングする方法であって、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階を含み、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現により、腫瘍細胞がチューブリン結合剤に対する耐性または潜在的耐性を有することが指し示される方法が提供される。
【0013】
1つの態様において、チューブリン結合剤は微小管不安定化剤である。1つの態様において、チューブリン結合剤は微小管安定化剤である。
【0014】
1つの態様において、本方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか2つの発現を検出する段階を含む。もう1つの態様において、本方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンの発現を検出する段階を含む。
【0015】
ある態様において、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を検出する段階は、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のうち1つまたは複数の発現を検出する段階を含む。
【0016】
ある態様において、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を検出する段階は、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのうち1つまたは複数の発現を検出する段階を含む。
【0017】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を検出する段階は、チューブリンの発現のレベルを定量する段階を含んでもよい。
【0018】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を検出する段階は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を、対照細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現と比較する段階を含んでもよい。対照細胞は腫瘍細胞であってもよく、または非腫瘍細胞、例えば、腫瘍の周囲の組織から採取した細胞であってもよい。対照細胞は、チューブリン結合剤に対して耐性である腫瘍細胞であってよい。対照細胞は、チューブリン結合剤に対して感受性である腫瘍細胞であってもよい。対照細胞は、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現が低下している腫瘍細胞であってもよい。
【0019】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性を評価する方法も同じく提供される。本方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質、またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAの量を検出する段階を含む。被験腫瘍細胞チューブリン量がそれによって得られる。被験腫瘍細胞チューブリン量を対照細胞チューブリン量と比較し、それによってチューブリン量の差を決定する。対照細胞チューブリン量は、対照細胞におけるクラスII、クラスIIIもしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質、またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の各々の量である。チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性は、チューブリン量の差に基づいて評価される。
【0020】
上記の方法の対照細胞は対照非腫瘍性細胞であってもよい。上記の方法の対照細胞は対照腫瘍細胞であってもよい。対照腫瘍細胞は、チューブリン結合剤に対して耐性である腫瘍細胞であってもよく、またはチューブリン結合剤に対して感受性である腫瘍細胞であってもよい。
【0021】
ある態様において、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質の量の検出は、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質の量の検出である。1つの特定の態様において、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つまたは複数の量の検出は、クラスIII β-チューブリンタンパク質のみの量の検出である。
【0022】
他の態様において、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAの量の検出は、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAの量の検出である。1つの特定の態様において、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の量の検出は、クラスIII β-チューブリンmRNAのみの量の検出である。このため、「ある(a)」クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンタンパク質またはmRNAが検出されるという場合には、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンタンパク質またはmRNAのいずれか1つまたは複数が検出される。
【0023】
もう1つの局面においては、少なくとも1つのチューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を強化するための方法であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物の有効量を腫瘍細胞に導入する段階を含み、構築物が腫瘍細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させるような方法が提供される。
【0024】
もう1つの局面においては、対象における腫瘍を治療するための方法であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物の有効量を対象に投与する段階、および少なくとも1つのチューブリン結合剤を対象に投与する段階を含み、核酸構築物が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させ、それによって少なくとも1つのチューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を高めるような方法が提供される。
【0025】
1つの態様において、核酸構築物および少なくとも1つのチューブリン結合剤は同時に(simultaneously)投与される。1つの態様において、核酸構築物および少なくとも1つのチューブリン結合剤は並行して(concurrently)投与される。もう1つの態様において、核酸構築物は少なくとも1つのチューブリン結合剤の前に投与される。
【0026】
上記の諸局面の1つの態様において、ヌクレオチド配列はアンチセンス配列である。もう1つの態様において、ヌクレオチド配列はsiRNA配列である。もう1つの態様において、ヌクレオチド配列は短鎖ヘアピン(short hairpin)RNAである。さらにもう1つの態様において、ヌクレオチド配列はリボザイム配列である。
【0027】
上記の諸局面の任意のものの1つの特定の態様において、ヌクレオチド配列はクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である。もう1つの特定の態様において、ヌクレオチド配列はクラスII β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である。1つの特定の態様において、ヌクレオチド配列はクラスIII β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である。
【0028】
上記の諸局面の任意のものの1つの特定の態様において、少なくとも1つのチューブリン結合剤は、少なくとも1つの微小管不安定化剤であってよい。少なくとも1つの微小管不安定化剤は、ビンカアルカロイド剤、ドロスタチン系薬剤、コルヒチン系薬剤、クリプトフィシン系薬剤、キュラシンA、2-メトキシエストラジオール、およびそれらの誘導体、類似体またはプロドラッグのいずれか1つまたは複数からなる群より選択されうる。1つの特定の態様において、微小管不安定化剤はビンカアルカロイド剤である。1つの態様において、ビンカアルカロイド剤は、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンフルニン、ビンデシンおよびビノレルビン、またはそれらの誘導体、類似体もしくはプロドラッグのいずれか1つまたは複数からなる群より選択される。
【0029】
上記の諸局面の任意のものの1つの特定の態様において、少なくとも1つのチューブリン結合剤は、少なくとも1つの微小管安定化剤であってよい。少なくとも1つの微小管安定化剤は、タキサン系薬剤およびエポチロン系薬剤のいずれか1つまたは複数からなる群より選択されうる。タキサン系薬剤はパクリタキセルまたはドセタキセルであってよい。エポチロン系薬剤はエポチロンA、エポチロンBまたはエポチロンDであってよい。上記の諸局面の1つの特定の態様において、チューブリン結合剤はビンカアルカロイド剤、ドロスタチン系薬剤、コルヒチン、クリプトフィシン系薬剤、キュラシンA、2-メトキシエストラジオールまたはエポチロン系薬剤である。
【0030】
1つの特定の態様において、腫瘍細胞は非小細胞肺癌細胞(NSCLC)である。
【0031】
1つの特定の態様において、対象はヒトである。
【0032】
もう1つの局面においては、少なくとも1つのチューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を高めるための薬物の調製における、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物であって、腫瘍細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させることができる構築物の使用法も同じく提供される。
【0033】
少なくとも1つのチューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を高めるための薬学的組成物であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物である、腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させることができる構築物を、薬学的に許容される担体、希釈剤または添加剤とともに含む薬学的組成物も同じく提供される。
【0034】
もう1つの局面においては、チューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を評価するために用いられるキットであって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物を含み、その構築物が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を検出するために用いられるキットが提供される。ある態様において、キットはさらに、1つまたは複数のチューブリン結合剤を含む。特定の態様において、チューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性の診断はインビトロ診断である。もう1つの局面においては、チューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を評価するために用いられるキットであって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIV β-チューブリンポリペプチドのいずれか1つに対して特異的な少なくとも1つの抗体を含み、その抗体が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIV β-チューブリンの発現を検出するために用いられるキットが提供される。
【0035】
もう1つの局面においては、腫瘍を治療するために用いられるキットであって、(i)クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物を薬学的に許容される担体、希釈剤または添加剤とともに含む薬学的組成物、および任意で(ii)1つまたは複数のチューブリン結合剤、を含むキットが提供される。
【0036】
1つまたは複数のチューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を高めるための獣医学的組成物であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物を、許容される担体、希釈剤または添加剤とともに含む獣医学的組成物も同じく提供される。
【0037】
もう1つの局面においては、クラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリンと関連のある微小管動態を擾乱させる薬剤に関するスクリーニングの方法であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンのうち少なくとも1つと関連のある微小管動態を擾乱させる疑いのある候補薬剤を、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンのうち少なくとも1つを発現する第1の細胞に曝露させて、候補薬剤に対する細胞の応答を検出する段階、候補薬剤を、細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンのうち少なくとも1つの発現が低下している同じ種類の第2の細胞に曝露させて、候補薬剤に対する第2の細胞の応答を検出する段階、ならびに候補薬剤に対する第1および第2の細胞の応答を比較する段階を含み、第1の細胞の応答と比較した候補薬剤に対する第2の細胞の応答の変化により、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンと関連のある微小管動態を擾乱させる候補薬剤の活性が表される方法が提供される。特定の態様において、細胞の応答はアポトーシスの比率の増加または減少である。特定の態様において、細胞の応答は細胞分裂の速度の変化である。
【0038】
略号
β2M β-2ミクログロブリン
FITC フルオレセインイソチオシアネート
GAPDH グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ
NSCLC 非小細胞肺癌
shRNA 短鎖ヘアピンRNA
siRNA 低分子干渉RNA
【0039】
定義
本明細書の文脈において、アンチセンス、リボザイム、shRNAまたはsiRNA構築物のヌクレオチド配列に関連して用いられる場合の「特異的な」という用語は、実質的に特異的であるが、必ずしも排他的にそうではないことを意味する。すなわち、ヌクレオチド配列は、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物に対して特異的でありながら、他のβ-チューブリンアイソタイプ遺伝子産物配列とも、それらの発現をも阻害するのに十分な量で交差ハイブリダイズしてもよい。そうしたヌクレオチド配列は、クラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVbでないβ-チューブリンアイソタイプの発現を低下させないこと、またはこれらの他のアイソタイプの発現を、それがクラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVbアイソタイプの発現を低下させるよりも少ない割合で低下させることが好ましいであろう。さらに、例えば、siRNA構築物のヌクレオチド配列が、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子に対して100%未満の配列同一性を呈し、それでもなおそれに対する特異性を保っていてもよい。
【0040】
クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンポリペプチドに対して特異的な抗体に関連して用いられる場合の「特異的な」という用語は、例えばELISAまたはウエスタンブロットアッセイにおいて、これらのチューブリンポリペプチドアイソタイプの1つを他のチューブリンポリペプチドアイソタイプと識別することのできる抗体を範囲に含むことを意図している。クラスIVb β-チューブリンポリペプチドに対して「特異的な」抗体の場合には、抗体はクラスIV β-チューブリンアイソタイプのポリペプチドを認識する一方で、クラスIIまたはクラスIII β-チューブリンアイソタイプは認識しないと考えられる。クラスIVb β-チューブリンアイソタイプに対して特異的な抗体は、クラスIVaおよびクラスIVbのβ-チューブリンポリペプチドを必ずしも識別しうる必要はない。
【0041】
本明細書で用いる場合、「有効量」という用語は、所望の治療的または予防的な効果をもたらすために十分な薬剤または化合物の量を、その意味の範囲内に含む。必要とされる正確な量は、治療しようとする種、対象の年齢および全般的健康状態、治療しようとする病状の重症度、投与される具体的な薬剤、ならびに投与の様式などといった要因によって対象毎に異なると考えられる。このため、正確な「有効量」を特定することは不可能である。しかし、任意の所定の症例に対して、適切な「有効量」は、当業者により、定型的な実験法のみを用いて決定されうる。有効量は、対象に対しては実質的に無毒性である一方で、腫瘍に対しては毒性であることが好ましい。
【0042】
本明細書で用いる場合、細胞におけるクラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリンの「発現を低下させる」構築物は、これらの遺伝子のいずれか1つ、いずれか2つ、または3つすべての発現の完全な阻害だけでなく、1つまたは複数のチューブリン結合剤に対する細胞の感受性を強化するのに十分なチューブリン遺伝子産物またはポリペプチドの発現の減弱化も範囲に含むことを意図している。このため、構築物に曝露されていない細胞と比較した場合の、細胞におけるクラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリンmRNAまたはポリペプチドの発現の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%の低下を想定している。細胞におけるクラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリンの発現の低下は、1つまたは複数の微小管脱感作剤(microtubule desensitizing agent)に対する細胞の感受性の最大限の強化を得るのに十分であることが好ましいであろう。構築物によるクラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリンの発現の低下は、例えば構築物が、それが曝露された腫瘍細胞などの体細胞のゲノム中に安定的に組み込まれる場合のように永続的であってもよく、または一時的に過ぎなくてもよいことは理解されるであろう。
【0043】
本明細書の文脈において、「含む(comprising)」という用語は、「含むものの、必ずしもそれのみを含むのではない」ことを意味する。その上、「含む」という語の変形物、例えば「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などは、それに応じた変化した意味を有する。
【0044】
本明細書の全体を通じて、「1つの(a)」または「1つの(one)」要素に対する言及は、文脈が別のものを規定する場合を除き、複数のものを除外しない。例えば、「1つの核酸構築物」に対する言及は、そのような核酸構築物の複数のコピーの可能性を除外するものと読み取られるべきではない。同様に、本明細書の全体を通じて「1つの腫瘍細胞」に対する言及は、単一の腫瘍細胞または複数の腫瘍細胞、例えば腫瘍から得られた細胞の集まりのいずれをも含むものと読み取られることを意図している。
【0045】
「クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数」という用語は、クラスII β-チューブリン、クラスIII β-チューブリン、クラスIVb β-チューブリンのいずれか1つ、クラスIIおよびクラスIIIのβ-チューブリン、クラスIIおよびクラスIVbのβ-チューブリン、クラスIIIおよびクラスIVbのβ-チューブリン、ならびにクラスII、クラスIIIおよびクラスIVbのβ-チューブリンを範囲に含むことを意図している。
【0046】
腫瘍細胞とチューブリン結合剤またはDNA傷害剤との間の相互作用の文脈における「感受性」という用語、および「感受性がある」などの対応する用語は、チューブリン結合剤またはDNA傷害剤の有糸分裂阻害活性および/または細胞傷害活性に対する腫瘍細胞の応答を範囲に含むことを意図している。すなわち、チューブリン結合剤に対する感受性が強化された腫瘍細胞は、チューブリン結合剤に曝露されると、より感受性の低い腫瘍細胞と比べて、有糸分裂のより高度の阻害を示す、および/またはより高度の細胞死を呈すると考えられる。
【0047】
代替的または追加的に、チューブリン結合剤に対する感受性が高められた、または強化された腫瘍細胞は、以前は応答しなかったチューブリン結合剤の有糸分裂阻害活性および/または細胞傷害活性に応答すると考えられる。
【0048】
代替的または追加的に、チューブリン結合剤に対する感受性が高められた、または強化された腫瘍細胞は、チューブリン結合剤に曝露されると、電離放射線および/またはDNA傷害剤に対する感受性の強化を呈すると考えられる。
【0049】
また、チューブリン結合剤に対する感受性が高められた、または強化された腫瘍細胞は、より感受性の低い細胞と比べて、チューブリン結合剤のより低い濃度で、チューブリン結合剤の有糸分裂阻害活性および/または細胞傷害活性に応答することもできる。
【0050】
インビトロまたはインサイチューにある腫瘍細胞の文脈において、1つまたは複数のチューブリン結合剤に対する感受性の強化は、1つまたは複数のチューブリン結合剤による治療に応じての、培養下もしくはインサイチューにある生細胞の数の減少の強化、腫瘍拡大進行の低下の強化、または腫瘍のサイズの減少の強化という点で表すことができる。その反対に、「耐性がある(resistant)」および類似の用語、例えば「耐性」などは、「感受性がある」と対応するものの反対の意味を有する。
【0051】
チューブリン結合剤またはDNA傷害剤に対する腫瘍細胞の耐性は、当技術分野で利用可能な種々の方法によって直接的に評価することができる。そのような手法の例には、腫瘍細胞をチューブリン結合剤またはDNA傷害剤の一連の希釈物に曝露させて、50%死滅が観察される濃度、またはアポトーシスの比率が増加する、もしくは細胞のクローン性増殖の阻害の濃度、または細胞分裂の速度が低下する濃度を決定することが含まれる。適したアッセイは、例えば、Verrills et al. (2003). Chemistry and Biology 10: 597-607、およびGan et al. (2007) Cancer Research 67:(19) 9356-9363に記載されており、それらの内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0052】
同様に、チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の「応答」について記載する場合、応答には、腫瘍細胞アポトーシスの存在、または腫瘍細胞分裂の速度の低下もしくは停止のうちいずれか一方または両方が含まれうる。
【0053】
「チューブリン結合性結合剤(tubulin-binding binding agent)」という用語は、細胞内のチューブリン重合および/または脱重合の動態をモジュレートする分子を含むことを意図しており、これには微小管不安定化剤および微小管安定化剤が含まれる。
【0054】
「微小管不安定化剤」という用語は、チューブリン二量体と結合して、チューブリン二量体からの微小管の形成を不安定化する化合物のクラスを幅広く範囲に含むことを意図している。チューブリンおよび微小管は化学療法の標的とされることが多いが、これは多くの種類の癌でそれらの機能が往々にして調節不全であるためである。チューブリンまたは微小管を標的とする薬剤は、進行期疾患を有する対象の生存の延長のために現在用いられている抗癌剤の中でも最も有効な化学療法薬のクラスである。典型的には、微小管不安定化剤はチューブリンのビンカドメインまたはコルヒチンドメインと結合することができる。種々の微小管不安定化剤を含む、チューブリンと相互作用する種々の有糸分裂阻害剤が、Hamel (1996) Med. Res. Rev. 16:207-231に記載されており、そのすべての内容が参照により本明細書に組み入れられる。微小管不安定化剤には、ビンカアルカロイド剤、ドロスタチン系薬剤、コルヒチン系薬剤、クリプトフィシン系薬剤、キュラシンA、2-メトキシエストラジオール、またはそれらの誘導体、類似体もしくはプロドラッグが含まれる。微小管不安定化剤という用語は、微小管重合体と結合して微小管を安定化する化合物、例えばタキサン系薬剤(パクリタキセルおよびドセタキセルを含む)ならびにエポチロン系薬剤などを範囲に含まないものとする。
【0055】
「ビンカアルカロイド剤」という用語は、抗微小管活性を保有し、かつ有糸分裂阻害薬として作用する、カタランタス属(Catharanthus)の植物から当初得られたアルカロイド化合物のクラスを幅広く範囲に含むことを意図している。このクラスのメンバーには、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンフルニン、ビンデシンおよびビノレルビン、ならびにそれらの半合成性もしくは合成性の類似体もしくは誘導体が非限定的に含まれる。
【0056】
「微小管安定化剤」という用語は、重合した微小管と結合して、重合した微小管の脱重合を阻害する化合物を範囲に含むことを意図している。微小管安定化剤である化合物には、タキサン系薬剤およびエポチロン系薬剤が非限定的に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
ここで本発明の1つまたは複数の好ましい態様を、添付の図面を参照しながら説明するが、これらは例示に過ぎない。
【図1】βIIまたはβIVb-チューブリンを対象とするsiRNAが、その各々の発現を特異的に阻害することを図示している。図1Aは、βIIおよびβIVbを対象とするそれぞれ25nMおよび100nMのsiRNAによるトランスフェクションから48時間後の半定量的逆転写-PCRポリアクリルアミドゲルによって調べた、2種のNSCLC細胞系、Calu-6およびH460におけるβII(Hβ9)およびβIVb(Hβ2)の遺伝子産物(mRNA)発現を示している。比較的一定したレベルで発現されるハウスキーピング遺伝子β-2ミクログロブリン(β2M)を用いて、それぞれのチューブリンmRNAの発現レベルを標準化した。図1Bは、ウエスタンブロットによって同定した、トランスフェクションから72時間後のβII-およびβIVb-チューブリンタンパク質の発現を示している。GAPDH(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ)ポリペプチドの発現を、ローディング対照として同時に検出した。M:モックトランスフェクション;C:対照siRNA-トランスフェクション;βII:クラスII β-チューブリンsiRNA-トランスフェクション;βIVb:クラスIVb β-チューブリンsiRNA-トランスフェクション;β2M:β2-ミクログロブリン対照。
【図2】ウエスタンブロットで示された、用いたsiRNAの特異性を図示している。図2AはβII siRNAの特異性を示している。図2BはβIVb siRNAの特異性を示している。βIIまたはβIVb H460ノックダウン細胞のいずれにおいても、他のβ-チューブリンアイソタイプについてはタンパク質発現のレベルに有意な変化は観察されなかった。
【図3】2種のNSCLC細胞系、Calu-6およびH460のチューブリン結合剤への感受性に対するクラスII β-チューブリンのノックダウンの影響を図示している。クロノジェニックアッセイ(clonogenic assay)を、モック-トランスフェクト細胞(●、実線)、対照siRNA-トランスフェクト細胞(□、実線)およびβII siRNA-トランスフェクト細胞(◆、破線)に対して行った。グラフは、生存率として表した、A ビンクリスチン、B パクリタキセルおよびC エポチロンに曝露された細胞のクローン性生存度(clonogenic survival)を示している。データは、少なくとも4回の独立した実験の平均±SEMを表している。
【図4】2種のNSCLC細胞系、Calu-6およびH460のチューブリン結合剤への感受性に対するクラスβIVb-チューブリンのノックダウンの影響を図示している。クロノジェニックアッセイを、モック-トランスフェクト細胞(●、実線)、対照siRNA-トランスフェクト細胞(□、実線)およびβIVb siRNA-トランスフェクト細胞(◆、破線)に対して行った。グラフは、生存率として表した、A ビンクリスチン、B パクリタキセルおよびC 微小管安定化剤エポチロンBに曝露された細胞のクローン性生存度を示している。データは、少なくとも4回の独立した実験の平均±SEMを表している。
【図5】ビンクリスチン(左側の列)およびパクリタキセル(右側の列)に対するCalu-6トランスフェクト細胞の用量反応を図示している、腫瘍細胞系Calu-6の培養コロニーの写真を提示している。トランスフェクションから24時間後に、各トランスフェクト細胞集団のおよそ600個ずつの細胞を、種々の濃度のチューブリン結合剤を含む6ウェルプレートに播いた。視認しうるコロニーが形成された時点で、プレートをクリスタルバイオレットで染色した。βIVb siRNAがトランスフェクトされた細胞はビンクリスチンに対して高感受性になったが、トランスフェクションはパクリタキセルへの感受性に対しては対照と比較して全く影響を及ぼさなかった。
【図6】モック-トランスフェクト、対照siRNA-トランスフェクト、およびβIVb siRNA-トランスフェクトを受けたCalu-6細胞およびH460 NSCLC細胞における[3H]-ビンクリスチンの細胞内取込みおよび保持を図示しているグラフである。[3H]-ビンクリスチンの保持については、添加時(ゼロ時間)および2時間後に評価した。細胞内[3H]-ビンクリスチン含有量に関してβIVbノックダウン細胞と対照細胞との間に有意差はなかった。白抜きバー:モック-トランスフェクト細胞および対照siRNA-トランスフェクト細胞;塗り潰したバー:βIVb siRNA-トランスフェクト細胞。示されている値は、少なくとも4回の独立した実験の平均±SEMである。
【図7】ビンクリスチンまたはパクリタキセルによる処理時の微小管ネットワークに対するβIIまたはβIVbノックダウンの影響を図示している顕微鏡写真を提示している。siRNAトランスフェクションから72時間後にCalu6細胞を固定してα-チューブリンで染色した。βIIおよびβIVb形質転換体はいずれも正常な微小管細胞骨格を呈した。図7Aは、βIIおよびβIVb siRNA-トランスフェクト細胞の微小管に対するビンクリスチン処理の影響を図示している。10nMのビンクリスチンで処理したところ、βIIおよびβIVb形質転換体はいずれも対照と比較して微小管の広範囲にわたる破壊を示した。図7Bは、βII形質転換体の微小管に対するパクリタキセルの影響を図示している。10nMパクリタキセルとのインキュベーション後にβII形質転換体の微小管ネットワークは対照と同等であった。
【図8】ビンクリスチンへの曝露後のβIIおよびβIVbトランスフェクトH460細胞の細胞周期分析を図示している。トランスフェクト細胞を5nMまたは40nMのビンクリスチンとともに24時間インキュベートし;固定してヨウ化プロピジウムで染色した上で、フローサイトメトリーにより分析した。図8Aは、βII形質転換体が対照と同等なG2-M蓄積を示したことを示している。図8Bは、βIVb枯渇がより高濃度のビンクリスチン処理後のG2-Mにある細胞の蓄積を消失させ、その代わりに細胞のsub-G1画分の増加を促したことを示している。示されているヒストグラムは、行った3回の実験の代表である。
【図9】図9Aは、25nmol/L(Calu-6)または100nmol/L(H460)でのβIII-チューブリンsiRNAトランスフェクションから48時間後のRT-PCRによるβIII-チューブリン遺伝子発現の分析を示している。β2-ミクログロブリン(β2M)「ハウスキーピング」遺伝子の発現を内部対照として利用した。図9Bは、βIII-チューブリントランスフェクションから72時間後のβIII-チューブリンのタンパク質発現を示している。「ハウスキーピング」GAPDHポリペプチドの発現をローディング対照として利用した。図9Cは、βIII-チューブリンsiRNAの特異性を図示している。クラスI、IIおよびIV β-チューブリンアイソタイプならびにβ-チューブリン全体のタンパク質レベルでの発現に関して有意差は観察されなかった。M、モック;C、対照-siRNA;βIII、βIII-チューブリンsiRNA。
【図10】10nmol/Lのパクリタキセル(中央)および10nmol/Lのビンクリスチン(右)とともに1時間インキュベートしたsiRNA-トランスフェクトCalu-6細胞における微小管形態を図示している。微小管はα-チューブリン免疫蛍光染色によって示されている。βIII形質転換体をパクリタキセルまたはビンクリスチンのいずれかで処理した場合には、広範囲にわたる微小管破壊が起こった。異常な形態の細胞に矢印を付している。
【図11】チューブリン結合剤またはDNA傷害剤の存在下でのクロノジェニックアッセイの結果を示している。クロノジェニックアッセイは、モック(●、実線)、対照siRNA(□、実線)およびβIII(◆、破線)トランスフェクト細胞に対して行った。図11Aは、パクリタキセルによる処理に関する、生存率として表したクローン性生存度を図示している。図11Bは、ビンクリスチンによる処置に関する、生存率として表したクローン性生存度を図示している。図11Cは、シスプラチン(上)、ドキソルビシン(中央)およびエトポシド(VP-16;下)などのDNA傷害剤に関する、生存率として表したクローン性生存度を図示している。図11Dは、ビノレルビンによるCalu-6細胞(上)およびH460細胞(下)の処理に関する、生存率として表したクローン性生存度を図示している。各々のデータポイントは、少なくとも4回の独立したアッセイの平均を表している。バーは平均の標準誤差を表している。統計量は、siRNAで処理した細胞とモック-トランスフェクト細胞の生存率を各薬剤濃度で比較することによって算出した。*、P<0.05;**、P<0.005;***、P<0.005。
【図12】パクリタキセル(A)またはビンクリスチン(B)で処理した、βIII-チューブリンを枯渇させたH460細胞の細胞周期分析を図示している。細胞を薬剤処理から24時間後に収集し、その後にそれらのDNA含有量に関してフローサイトメトリーによりアッセイした。複数の実験の代表的な図を示している。
【図13A−13B】パクリタキセルによる処理後(図13A)およびシスプラチンによる処理後(図13B)の、対照siRNAトランスフェクト(白のカラム)およびβIII-チューブリンsiRNAトランスフェクト(黒のカラム)を受けたH460細胞におけるアポトーシスの誘導を示しているグラフである。細胞を薬剤との48時間のインキュベーション後に収集し、その後にアポトーシス誘導に関して、Annexin V-FITC染色を用いたフローサイトメトリーによりアッセイした。各々のカラムは少なくとも3回の独立した実験の平均値を表しており、一方、バーは平均の標準誤差を表している。*、P<0.05;**、P<0.01。
【図14】チューブリン結合剤エポチロンの存在下でのクロノジェニックアッセイの結果を示している。クロノジェニックアッセイは、モック(●、実線)、対照siRNA(□、実線)およびβIII(◇、破線)トランスフェクト細胞に対して行った。図11は、エポチロンによるH460細胞(上)またはCalu-6(下)細胞の処理に関する、生存率として表したクローン性生存度を図示している。
【図15】ウエスタンブロットで示された、βIIIチューブリン発現をノックダウンするために用いた2種類の27-mer siRNA(この図ではseq 8およびseq 11と表記)の特異性を図示している。βIII H460ノックダウン細胞において他のβ-チューブリンアイソタイプについてはタンパク質発現のレベルに関して有意な変化は観察されなかった。
【図16】チューブリン結合剤であるパクリタキセル(上)またはビンクリスチン(下)の存在下におけるH460細胞のクロノジェニックアッセイの結果を示している。クロノジェニックアッセイは、モック-トランスフェクト細胞(▲、実線)、対照siRNA-トランスフェクト細胞(□、実線)、および複数の異なる27-mer siRNA(seq 8-◆、破線;seq 11 ■、実線)を用いたβIII-トランスフェクト細胞に対して行った。図16は、生存率として表したクローン性生存度を図示している。βIII 27-mer siRNAのそれぞれとモック-トランスフェクト細胞のID50値を比較したところ、両方のチューブリン結合剤に対する感受性の増加が、クラスIII β-チューブリンを対象とする異なる27-mer siRNAのそれぞれについて示された。**、P<0.005、***、P<0.0005。
【図17】βIIIチューブリン発現が安定的にノックダウンされた3種のクローン(クローン4、59および60)を作製するためにH460細胞に導入された短鎖ヘアピンRNAの特異性を図示している。ウエスタンブロットで示されているように、βIII H460ノックダウンクローンにおいて他のβ-チューブリンアイソタイプについてはタンパク質発現のレベルに関して有意な変化は観察されなかった。これらの安定的にノックダウンされたクローン間で、βIII-チューブリンタンパク質の発現の量にはある程度の差異が観察された。
【図18】チューブリン結合剤パクリタキセル(上)またはDNA傷害剤シスプラチン(下)の存在下での、βIIIチューブリン発現が安定的にノックダウンされたH460細胞のクローンにおけるクロノジェニックアッセイの結果を示している。クロノジェニックアッセイは、対照siRNA(■または▲、実線)および3種の異なるβIIIが安定的にトランスフェクトされたクローン(クローン4 ▼、破線;クローン59 ◆、実線;クローン60 ■、破線)。図18は、生存率として表したクローン性生存度を例示している。パクリタキセルおよびDNA傷害剤シスプラチンの両方に対する感受性の増加が、βIII-チューブリンの安定的ノックダウンを有する異なるクローンのそれぞれで観察された。βIIIチューブリンノックダウンの量が最大である(図17に示されているような)クローンは、薬剤のそれぞれに対する感受性の最大の増加を示すように思われた。
【図19】2-メトキシエストラジオールに対する耐性の点で選択された3種の異なる白血病細胞亜系統(7R、14R、28R)の相対的なチューブリンアイソタイプ発現を示している。ウエスタンブロットに示されたタンパク質発現は、親細胞系における対照発現レベルに対して標準化してプロットした。耐性細胞はすべて、クラスII β-チューブリンの発現の増加を呈した。
【図20】クラスII β-チューブリンノックダウン後のH460細胞によるクラスII β-チューブリン発現レベルの変化(A)、および、2-メトキシエストラジオールまたはコルヒチンの存在下での、クラスII β-チューブリンがノックダウンされたH460細胞のクロノジェニックアッセイの結果(B)を示している。クラスII β-チューブリンのノックダウンは、2-メトキシエストラジオールおよびコルヒチンの両方に対するH460細胞の感受性を大きく高めた。
【発明を実施するための形態】
【0058】
好ましい態様の詳細な説明
1つの局面においては、腫瘍細胞のチューブリン結合剤に対する耐性に関するスクリーニングの方法が本明細書で提供される。そのような方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階を含み、
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現により、チューブリン結合剤に対する耐性または潜在的耐性を有することが予測される。
【0059】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性を評価する方法も同じく提供される。本方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAの量を検出する段階を含む。被験腫瘍細胞チューブリン量がそれによって得られる。被験腫瘍細胞チューブリン量を対照細胞チューブリン量と比較し、それによってチューブリン量の差を決定する。対照細胞チューブリン量は、対照細胞におけるクラスII、クラスIIIもしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質、またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の各々の量である。チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性は、チューブリン量の差に基づいて評価される。
【0060】
「被験腫瘍細胞」とは単に、耐性評価の対象である試料腫瘍に由来する腫瘍細胞のことである。また、以上に示したように、被験腫瘍細胞チューブリン量とは単に、本方法で検出されるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質、またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の量のことである。
【0061】
「対照細胞」とは、クラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質またはクラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVb β-チューブリンmRNAの量が既知であり、かつチューブリン結合剤に対する耐性のレベルが既知である細胞のことである。いくつかの態様において、以下に考察するように、対照細胞は対照腫瘍細胞である。対照細胞は、生物体(もしくは臓器)から入手してもよく、または本発明の方法を用いて導き出してもよい。対照細胞は、細胞を多数の異なる用量のチューブリン結合剤に曝露させることによって作成された用量反応曲線の一部であってもよい。さらに、腫瘍細胞の耐性を評価する方法それ自体を、そのような用量反応曲線を作成するために用いることもできる。いくつかの態様において、対照細胞はヒト対照細胞などの哺乳動物対照細胞である。
【0062】
対照細胞チューブリン量は、被験腫瘍細胞チューブリン量のそれぞれに対するクラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質、またはクラスII、クラスIIIおよび/もしくはクラスIVb β-チューブリンmRNAの量のことである。例えば、被験腫瘍細胞チューブリン量が被験腫瘍細胞から検出されるクラスIIおよびクラスIII β-チューブリンタンパク質の量である場合には、対照細胞チューブリン量は対照細胞内部のクラスIIおよびクラスIII β-チューブリンの量である。
【0063】
腫瘍細胞の耐性を評価する方法についての以上の説明から明らかであるように、「チューブリン量の差」とは単に、被験腫瘍細胞チューブリン量と対照細胞チューブリン量との間の差のことである。
【0064】
本明細書における説明から明らかであるように、被験腫瘍細胞チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも多い場合には、いくつかの態様において、被験腫瘍細胞は対照細胞よりもチューブリン結合剤に対してより大きな耐性を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスIII チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも多い場合には、被験細胞は、ビンカアルカロイド、タキサン系薬剤、エポチロン系薬剤またはDNA傷害剤に対してより大きな耐性(およびより低い感受性)を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスII チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも多い場合には、被験細胞は、ビンカアルカロイドまたは2-メトキシエストラジオールに対してより大きな耐性(およびより低い感受性)を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスIVb チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも多い場合には、被験細胞はビンカアルカロイドに対してより大きな耐性(およびより低い感受性)を有し、かつエポチロン系薬剤に対してより低い耐性(およびより大きな感受性)を有すると評価されると考えられる。
【0065】
その反対に、被験腫瘍細胞のチューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも小さい場合には、いくつかの態様において、被験腫瘍細胞は対照細胞よりもチューブリン結合剤に対してより低い耐性(およびより大きな感受性)を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスIII チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも少ない場合には、被験細胞は、ビンカアルカロイド、タキサン系薬剤、エポチロン系薬剤またはDNA傷害剤に対してより低い耐性(およびより大きな感受性)を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスII チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも少ない場合には、被験細胞はビンカアルカロイドまたは2-メトキシエストラジオールに対してより低い耐性(およびより大きな感受性)を有すると評価されると考えられる。例えば、被験腫瘍細胞のクラスIVb チューブリン量が対照細胞チューブリン量よりも少ない場合には、被験細胞はビンカアルカロイドに対してより低い耐性(およびより大きな感受性)を有し、かつエポチロン系薬剤に対してはより大きな耐性(およびより低い感受性)を有すると評価されると考えられる。
【0066】
ある薬剤に対する耐性が既知である対照腫瘍細胞は、例えば、その薬剤による治療の成功の前に個体から単離された腫瘍細胞であってもよい。その薬剤に対するさまざまな耐性が既知である一連の対照腫瘍細胞を、例えば、その薬剤による治療の成功または失敗の前に一群の個体から単離された腫瘍細胞から構成することもできる。
【0067】
本明細書で示されているように、腫瘍細胞におけるある種のクラスのチューブリンの存在は、チューブリン結合剤またはDNA傷害剤などの有糸分裂阻害剤の投与に対する腫瘍細胞の応答性に寄与する。したがって、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現の評価は、種々のチューブリン結合剤またはDNA傷害剤に対する腫瘍細胞のチューブリン依存的応答性に関する指針を提供するほか、腫瘍を治療するための薬剤を選択しうる方法も提供する。
【0068】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性は完全な耐性であってもよく、または部分的耐性であってもよい。腫瘍細胞は、チューブリン結合剤の投与に対して非応答性であるならば、チューブリン結合剤に対して「耐性」であるとみなしうる。非応答性腫瘍細胞は、例えば、その薬剤に対して感受性がある非腫瘍性細胞または腫瘍細胞に対して、細胞傷害性となる濃度での、細胞分裂の速度の不変、アポトーシスの比率の不変、またはチューブリン結合剤への曝露時の細胞形態の不変を示しうる。
【0069】
腫瘍細胞はインビトロでのチューブリン結合剤の投与に対して耐性であってもよい。腫瘍細胞はインサイチューでのチューブリン結合剤の投与に対して耐性であってもよい。
【0070】
いくつかの態様において、腫瘍細胞は、薬剤に対する耐性が既知である対照腫瘍細胞と比較して、それがチューブリン結合剤の投与に対する応答の低下を示すならば、チューブリン結合剤に対して「耐性」であるとみなしうる。
【0071】
チューブリン結合剤に対してさまざまな耐性を有し、かつさまざまなチューブリン発現を伴う、単一の腫瘍に由来する対照腫瘍細胞を、比較のための対照細胞を用意する目的で作製することもできる。さまざまな感受性を有する細胞は、例えば、その薬剤に対して耐性であることが既知である対照腫瘍細胞を採取し、細胞を複数の群に分けた上で、例えば本明細書に記載したsiRNA法またはshRNA法を用いて、細胞の群のそれぞれにおけるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち少なくとも1つの発現を安定的にモジュレートすることによって作製することができる。クラスII、クラスIIIおよびクラスIVbのうち少なくとも1つの発現が制御された様式で安定的に低下している複数の異なる細胞群を作製することにより、本明細書で示されているように、単一の腫瘍から、チューブリン結合剤に対してさまざまな感受性を有する細胞を作製することができる。
【0072】
腫瘍の耐性は、ヒト対象において治療的に用いられるチューブリン結合剤の濃度と関連づけて評価することができる。
【0073】
いくつかの態様において、腫瘍細胞は、それが、チューブリン結合剤に対する耐性が既知である対照腫瘍の細胞の応答と同程度にチューブリン結合剤に対する応答を示すならば、チューブリン結合剤に対して「耐性」であるとみなしうる。チューブリン結合剤に対する耐性が既知である対照腫瘍は、例えば、チューブリン結合剤による治療の失敗の前に対象から単離することができる。または、耐性対照腫瘍細胞をインビトロの初代腫瘍細胞または腫瘍細胞系から、腫瘍初代腫瘍細胞または腫瘍細胞系を90%を上回る細胞死をもたらす濃度のチューブリン結合剤で少なくとも一回処理すること、および処理を生き延びた細胞を選択することによって作製することもできる。
【0074】
腫瘍細胞は、それが微小管結合剤に対して耐性であること、または耐性化することが疑われる場合には、「潜在的に耐性」でありうる。
【0075】
本方法は、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を「検出する」段階を含む。ある態様において、ある特定の手法によって検出されるような腫瘍細胞における特定のチューブリンの存在の同定は、腫瘍をチューブリン結合剤に対して耐性であると評価するのに十分でありうる上、その反対に、その手法による腫瘍細胞における特定のチューブリンの欠如の同定は、腫瘍をその薬剤に対する感受性があると評価するのに十分でありうる。そのような態様においては、腫瘍細胞の耐性を評価する目的で腫瘍細胞によって発現されるチューブリンの量の決定を下す必要がないことがある。
【0076】
他の態様において、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現の検出は、腫瘍細胞によって発現されるこれらのクラスのいずれか1つまたは複数のチューブリンの量と、耐性が既知である少なくとも1つの細胞によって発現されるこれらのクラスのいずれか1つまたは複数のチューブリンの量との比較を伴うと考えられる。
【0077】
特定の態様において、この比較は、耐性が既知である多数の対照細胞によって発現されるチューブリンの量とのものであると考えられる。本明細書中に提供されている実施例で示されているように、少なくともある態様において、腫瘍細胞の度合いまたは耐性は、腫瘍細胞によって発現されるチューブリンの量と比例することもあれば(例えば、クラスIII β-チューブリンおよびビンカアルカロイドの場合)、または反比例することもある(例えば、クラスIVb β-チューブリンおよびエポチロンの場合)。したがって、比較は、例えば複数の対照腫瘍細胞から作成された用量反応曲線に対して行うことができる。
【0078】
このため、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現の検出は、腫瘍細胞におけるチューブリンmRNAの有無またはチューブリンポリペプチドの有無を検出することを含んでもよい。
【0079】
または、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現の検出は、腫瘍細胞によって発現されるチューブリンmRNAの相対量またはチューブリンポリペプチドの相対量を決定することを含んでもよい。
【0080】
この相対量は、既知の対照感受性腫瘍の細胞におけるチューブリンmRNAの存在量またはチューブリンポリペプチドの量との比較におけるものであってよい。相対量が、既知の耐性対照腫瘍の細胞におけるチューブリンmRNAの量またはチューブリンポリペプチドの量との比較におけるものであってもよい。相対量が、さまざまな感受性を有する対照腫瘍細胞におけるチューブリンmRNAの量またはチューブリンポリペプチドの量との比較におけるものであってもよい。相対量が、腫瘍の周囲の組織から採取した非腫瘍細胞におけるチューブリンmRNAの量またはチューブリンポリペプチドの量との比較におけるものであってもよい。相対量は、によって決定されるような標準化された量であってよい。
【0081】
チューブリンmRNAの有無または相対量は、ストリンジェントな条件下でのRT-PCR、定量的PCR、半定量的PCRまたはインサイチューハイブリダイゼーションのいずれか1つまたは複数により、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つに対して特異的な1つまたは複数のプローブまたはプライマーを用いて検出することができる。RT-PCRまたは半定量的PCRの手法のために用いうるポリヌクレオチドの例は、Kavallaris et al. (1997) J Clin Invest 100, 1282-1293に記載されており、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。1つの特定の態様において、mRNAの有無は、RT-PCRを用いて、例えば、Kavallaris et al. (1997) J Clin Invest 100, 1282-1293に記載された方法および特異的プライマーを用いて検出される。
【0082】
チューブリンmRNAの相対量の測定が必要とされる場合には、リアルタイム逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応などの公知の手法をRNAを逆転写するために用い、続いてその結果生じたcDNAをリアルタイムPCRを用いて定量する。RNAの発現を評価するための定量的手法は、Ding and Cantor (2004) J Biochem Mol Biol 37(1):1-10、およびBustin et al., (2005) Journal of Molecular Endocrinology 34: 579-601に総説されており、これらのすべての内容は参照により組み入れられる。
【0083】
チューブリンポリペプチドの有無または相対量は、ウエスタンブロット法、ELISA、または当技術分野で利用しうる他の標準的な定量的もしくは半定量的な手法のいずれか1つまたは複数、または特定のポリペプチドの存在を同定するためのそのような手法の組み合わせを用いて検出することができる。さまざまな定量的および半定量的なプロテオミクス手法が、例えば、Hirsch et al., (2004) Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 278: L1-L23に総説されており、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。1つまたは複数の特定のチューブリンアイソタイプポリペプチドの抗体認識に依拠する手法を特に想定している。1つの特定の態様において、チューブリンポリペプチドの有無または相対的存在量は、半定量的ウエスタンブロット法を含む手法により、例えば本明細書に記載された実施例2に記載のウエスタンブロット手法を用いて検出しうる。他の特定の態様において、チューブリンポリペプチドの有無または相対的存在量は、チューブリンポリペプチドの抗体捕捉と捕捉されたチューブリンポリペプチドの電気泳動分離との組み合わせを含む手法により、例えばIsonostic(商標)Assay(Target Discovery, Inc.)を用いて検出しうる。
【0084】
特定の態様において、β-IIIチューブリンを発現するものとして検出された腫瘍細胞は、ビンカアルカロイド、タキサン系薬剤、エポチロン系薬剤またはDNA傷害剤に対して耐性であると予測される。
【0085】
ある態様において、β-IIチューブリンを発現するものとして検出された腫瘍細胞は、ビンカアルカロイドまたは2-メトキシエストラジオールに対して耐性であると予測される。
【0086】
ある態様において、β-IVbチューブリンを発現するものとして検出された腫瘍細胞は、ビンカアルカロイドに対して耐性であって、かつエポチロン系薬剤に対して感受性であると予測される。
【0087】
ある態様において、チューブリン結合剤は、タキサン系薬剤またはエポチロン系薬剤などの微小管安定化剤である。
【0088】
ある態様において、チューブリン結合剤は、ビンカアルカロイドまたは2-メトキシエストラジオールなどの微小管不安定化剤である。
【0089】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性をスクリーニングまたは評価するための本明細書に記載された方法は、腫瘍の細胞が1つもしくは複数のチューブリン結合剤に応答するか否かを評価するために抗癌薬の投与の前に行うこともでき、または腫瘍の細胞がチューブリン結合剤に対する耐性を生じるか否かを判定するために治療の経過中に行うこともできる。
【0090】
1つのさらなる局面において、本発明は、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的な核酸配列を含む核酸構築物であって、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリンの発現を低下させる核酸構築物の、腫瘍への導入に関する。
【0091】
本明細書に記載されたヌクレオチド配列を含む、例示された核酸構築物はsiRNA配列またはshRNA配列であるが、クラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子の発現の標的指向的破壊を、クラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子を選択的に標的としてその発現を阻害する任意の分子、例えばアンチセンス配列、siRNA配列、shRNA配列、リボザイム配列などを用いて達成しうることは明らかに理解されるであろう。クラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子の「発現」とは、クラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン配列の転写および/または翻訳を範囲に含むことを意図している。したがって、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的な核酸配列も、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリンmRNAの少なくとも一部分に対して特異的な核酸配列の範囲に含むことを意図している。
【0092】
「発現を検出すること」は、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリンmRNAまたはタンパク質の存在の検出だけでなく、ある態様においては、クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリンmRNAまたはタンパク質の量の検出も範囲に含むことを意図している。
【0093】
クラスII、クラスIIIまたはIVb β-チューブリンmRNAまたはタンパク質の「量を検出すること」は、mRNAもしくはタンパク質の絶対的レベルを、またはある態様においては、mRNAもしくはタンパク質の相対量を検出することを意図している。相対量は、1つまたは複数の他の細胞タンパク質またはmRNAに対して、例えば細胞内の他のチューブリンタンパク質もしくはmRNA、またはハウスキーピング遺伝子タンパク質またはmRNAなどに対して相対的である。このため、いくつかの態様において、これらの量は他の細胞タンパク質またはmRNAに対して標準化される。
【0094】
アンチセンス核酸の設計、合成および送達のための方法は当技術分野において周知である。アンチセンス分子はDNAまたはRNAでもよく、またはそれらの部分的もしくは完全な合成類似体でもよい。当該の遺伝子の領域に対して、その全長にわたって少なくとも実質的に相補的なアンチセンス構築物を作製することができる。アンチセンス構築物とその相補的な細胞配列との結合は、転写、RNAプロセシング、輸送、翻訳および/またはmRNA安定性に干渉することができる。
【0095】
適したアンチセンスオリゴヌクレオチドは、当業者に周知の方法によって調製することができる。典型的には、アンチセンスオリゴヌクレオチドは自動合成装置で合成されると考えられる。適したアンチセンスオリゴヌクレオチドは、それらの細胞内への送達、細胞内に入った後のそれらの安定性、および/または適切な標的とのそれらの結合を改善するように設計された修飾を含みうる。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、1つもしくは複数のホスホロチオエート結合の付加、または骨格内への1つもしくは複数のモルホリン環の包含によって修飾することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは長さが10〜30塩基対であってよく、かつクラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子の標的領域であると考えられる。1つの態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチド配列は、他の公知のチューブリンアイソタイプに対して90%を超えない配列同一性を有すると考えられる。
【0096】
実際の問題として、任意の特定の核酸分子が、例えば、他の公知のチューブリンアイソタイプのヌクレオチド配列に対して90%を超えない同一性を有するか否かは、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix(登録商標), Genetics Computer Group, University Research Park, 575 Science Drive, Madison, Wis. 53711)などの公知のコンピュータプログラムを用いて慣例的に判定することができる。Bestfitは、2つの配列間の最良の相同性セグメントを見いだすために、Smith and Watermanの局所的相同性アルゴリズムを用いる(Advances in Applied Mathematics 2:482-489 (1981))。特定の配列が、例えば、参照配列に対して90%同一であるか否かを判定するために、Bestfitまたは任意の他の配列アラインメントプログラムを用いる場合、パラメーターは、参照ヌクレオチド配列の全長にわたって同一性の比率が計算され、参照配列中のヌクレオチド総数の最大5%までの相同性のギャップが許容されるように設定される。クエリー配列と対象配列との間の全体として最も良好なマッチを決定するための好ましい方法は、グローバルシークエンスアラインメントとも呼ばれ、Brutlagら(Comp. App. Biosci. 6:237-245 (1990))のアルゴリズムに基づくFASTDBコンピュータープログラムを用いて決定することができる。配列アラインメントにおいて、クエリー配列および対象配列はいずれもDNA配列である。RNA配列は、UをTに変換することによって比較しうる。前記グローバルシークエンスアラインメントの結果は、一致度(percent identity)で表わされる。DNA配列のFASTDBアラインメントに用いられる好ましいパラメーターは以下である:マトリックス(Matrix)=ユニタリ(Unitary)、k-tuple=4、ミスマッチペナルティ(Mismatch Penalty)=1、ジョイニングペナルティ(Joining Penalty)=30、ランダム化グループ長(Randomization Group Length)=0、カットオフスコア(Cutoff Score)=1、ギャップペナルティ(Gap Penalty)=5、ギャップサイズペナルティ(Gap Size Penalty)0.05、ウインドウサイズ(Window Size)=500または対象ヌクレオチド配列の長さのうち短い方。
【0097】
対象配列が内部欠失のためではなく5'または3'での欠失が原因でクエリー配列よりも短いならば、結果に対して手作業での補正を行わなければならない。これは、FASTDBプログラムが一致度を計算する際に対象配列の5'および3'での短縮を考慮しないためである。クエリー配列に比して5'末端または3'末端で短縮している対象配列については、一致度は、対象配列の5'末端および3'末端にあってマッチ/アラインメントしないクエリー配列の塩基数を、クエリー配列の全塩基に占めるパーセントとして計算することによって補正される。ヌクレオチドがマッチ/アラインメントしているか否かは、FASTDB配列アラインメントの結果によって決定される。続いて、このパーセンテージを、指定のパラメーターを用いて上記のFASTDBプログラムによって計算した一致度から差し引いて、最終的な一致度スコアを導く。FASTDBアラインメントによって提示された時に、クエリー配列とマッチ/アラインメントしない、対象配列の5'塩基および3'塩基の外側にある塩基のみが、一致度スコアを手作業で補正する目的には考慮される。
【0098】
標的にしようとする特異的配列は、クラスII、クラスIIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子配列のいずれかに特有であることが望ましいと考えられる。ヒトβ-チューブリンアイソタイプのこれらのアミノ酸配列は、Verdier-Pinard et al., (2005) Biochemistry 44:15858-15870に記載されており、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。対応するcDNAおよび/またはゲノムDNAの配列も公知である。当業者は、任意の所定の配列がクラスII、IIIおよび/またはIVb β-チューブリン遺伝子配列のいずれかに対して特異的であるか否かを容易に判定しうると考えられる。
【0099】
低分子干渉RNA(siRNA)配列は、関心対象のRNA配列と特異的にハイブリダイズして、RNA誘導サイレンシング複合体の基質としての役を果たす、例えば長さが21、27または29塩基で突出を伴うことも伴わないこともある、小型で通常は二本鎖のRNAオリゴヌクレオチドのことである。一方の鎖がサイレンシングさせようとするmRNA転写物の特定領域と同一である二本鎖RNA分子を合成して、この二本鎖RNAを直接的に導入することができる。または、細胞内に提示されるとdsRNAに変換される、対応するdsDNAを用いることもできる。RNA干渉(RNAi)に用いるのに適したsiRNA分子の合成のため、および転写後遺伝子サイレンシングを達成するための方法は当業者に公知であり、現在ではsiRNAの設計および製造を行う商業サービスもある。
【0100】
当業者は、クラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリンの発現を阻害することのできるさまざまな適したsiRNA構築物を、必要以上の実験を行うことなしに当業者に公知の慣行的な手順を用いて、当該の遺伝子の配列の知識に基づいて同定して作製することができることを理解するであろう。本明細書で示されているように、特定のβ-チューブリンの異なる非重複領域を対象とする種々のsiRNA配列またはshRNA配列は、細胞内でのそのチューブリンの発現に影響を及ぼすことができる。当業者は、標的配列とsiRNA配列との間に必ずしも100%のヌクレオチド配列マッチは必要でないことを理解するであろう。ミスマッチに関する受容性は主として配列内部のミスマッチの位置に依存する。場合によっては2または3ヌクレオチドのミスマッチが許容されるが、また別の場合には、単一のヌクレオチドミスマッチでもsiRNAの効果を無効化するのに十分である。特定のsiRNA分子の適合性は、必要以上の実験を行うことなしに当業者に公知の慣行的な手順を用いて決定することができる。
【0101】
RNAまたはタンパク質の発現の特異的阻害に対するアンチセンス核酸およびsiRNAの最大効果は同等であるが、siRNAの方が一般により長く持続する効果を生じる。siRNAは、ベクターを経由して、例えばアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルス媒介性送達機構を介して細胞内に導入することもでき、または、例えばリポソーム複合体の一部として送達する場合のように外因性に送達することもできる。インビボでの合成siRNAの非ウイルス性送達のための手法は、Akhtar and Benter (2007) J. Clin. Invest 117:3623-3632に総説されており、そのすべての内容は参照により組み入れられる。マウス(Yano et al, (2004) Clinical Cancer Research 10: 7721-7726)、霊長動物(Zimmermann et al, (2006) Nature 441(7089):111-114)およびヒト(Nogawa et al. (2006) J Clin Invest 115:978-985)に対する、siRNA配列の局所的または全身的な投与のための手法が記載されており(例えば、Akhtar and Benter (2007) J Clin Invest 117: 3623-3632の総説を参照)、これらは、このクラスの分子を用いてインビボでの標的遺伝子の発現を低下させうることを実証している。これらの各々の引用物のすべての内容は、参照により本明細書に組み入れられる。コレステロール-siRNA結合物、カチオン性ナノ粒子またはカチオン性リポソームもしくはカチオン性ポリマーもしくはペプチド送達系を含むカチオン性送達系、またはキトサン-siRNA結合物などのsiRNA送達系が想定される。
【0102】
siRNAの全身投与は肝臓および肺を含む細網内皮系におけるsiRNAの蓄積をもたらすことが実証されており、したがって、これはsiRNAを肺腫瘍の治療のために投与する場合は有利な可能性がある。
【0103】
ハンマーヘッド型またはヘアピン型リボザイムなどのリボザイムは、mRNA配列およびゲノムRNA配列を含む、特定のRNA配列の標的指向的な触媒性切断およびスプライシングを行うことができる。リボザイムの設計および送達のための方法は、例えば、Vaish, Kore and Eckstein (1998) Nucleic Acids Research 26:5237-5242;Lieber and Strauss (1995) Mol. Cell. Biol. 15:540-551;およびUsman and Blatt (2000) J Clin Invest 106:1197-1202に総説されており、それらの各々のすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。特定の腫瘍を標的として縮退させるためのリボザイムの使用は、当技術分野において、例えば、Zhang et al. (2000) Gene Ther 7:2041-2050に記載されている。
【0104】
一般に、これらのクラスの分子のそれぞれは、ヒトまたは動物対象に対して、ボーラスなどの静脈内経路を介するかもしくは皮下的な持続放出手法によって全身的に投与された場合も、または腫瘍細胞に対して直接的に適用されるか、または腫瘍の内部もしくは近傍に注射された場合も、忍容性は良好であるように思われる。
【0105】
吸入可能なポリヌクレオチド構築物を含む製剤の形での肺への送達も、特に肺の腫瘍に対しては想定される。呼吸器合胞体ウイルス感染症の治療のためのネブライザーによるエアロゾルとしての肺への直接的なsiRNAの投与は、臨床試験が現在行われており(Alnylam ALN-RSVO1, Bitco et al, (2005) Nat Med 11:50-55)、安全性、忍容性および抗ウイルス活性の効力が実証されている。このため、肺の腫瘍における特定のチューブリンの発現をモジュレートするための肺へのsiRNAの送達が想定される。
【0106】
適したポリヌクレオチド配列は、単独で、または核酸構築物中にある形で投与することができる。構築物は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、または外来性配列の挿入および真核細胞への導入のために適合化された任意の他の適した媒体であってよい。ベクターは、DNA配列のRNAへの転写を導くことができる発現ベクターであってもよい。ウイルス発現ベクターには、例えば、エプスタイン-バーウイルス、ウシパピローマウイルス、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスを基にしたベクターが含まれる。
【0107】
1つの態様において、ベクターはエピソーム性である。適したエピソーム性ベクターの使用は、標的細胞内のポリヌクレオチド配列を染色体外に高コピー数で維持し、それによって染色体組込みの潜在的な影響をなくす手段を与える。
【0108】
本発明の文脈においては、クラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリンの発現の阻害の一時的制御が可能になるように、ポリヌクレオチド構築物を、それが投与された体細胞のゲノム中に永続的に取り込まれないような形態で投与することが好ましいと考えられる。
【0109】
本明細書の全体を通じて、ポリヌクレオチド構築物または核酸配列などのポリヌクレオチドへの言及がなされる場合は、それは非天然のポリヌクレオチドおよび核酸を、それらが細胞内で特異的に相互作用する能力を保つと同時に低毒性を有することを条件として、範囲に含むことを意図していることは理解されるであろう。ある種の非天然の核酸の使用は、例えば、ヌクレアーゼ消化に対する耐性の増加をもたらし、それは結果として投与後の核酸の半減期を延長させることができる。ヌクレアーゼ消化を減少させる化学的安定化は、例えば、臨床試験が現在行われているリボザイム「ANGIOZYME」で実証されている。
【0110】
外因性ポリヌクレオチド構築物を、単離された細胞に、または対象に投与する場合には、それらは食塩水などの適切な希釈剤中に製剤化されると考えられる。細胞質中への核酸構築物の移行を促進するために、構築物をリポソーム中に封入すること、ならびに/または所望の標的細胞の認識および/もしくは原形質膜の透過を促進するリガンドもしくは標的指向性分子とコンジュゲートさせることもできる。例えば、細胞透過性ペプチドとコンジュゲートさせたsiRNAは、siRNAの細胞取込みを増加させることが実証されている(Veldhoen et al. (2006) Nucleic Acids Res 34: 6561-6573。適用された核酸のトランスフェクション効率を高めるための当技術分野において公知のその他の手法には、DEAE-デキストラン、siRNAとナノ粒子のコンジュゲーション、リン酸カルシウムトランスフェクション法の使用といった生化学的方法、および/または、直接的なマイクロインジェクション、エレクトロポレーションまたは微粒子銃(biolistic particle)送達といった物理的トランスフェクション法が含まれる)。
【0111】
本明細書に記載されたポリヌクレオチド構築物の導入は、siRNAを癌細胞に送達するために用いうる化合物であるポリカチオン性作用物質の使用を範囲に含む。本明細書で開示されるように、低分子量化合物であるポリカチオン性作用物質ポリエチレンイミン(PEI)を、核酸構築物の送達のための送達媒体として用いることができる。PEIは、第1に、siRNAを細胞表面のアニオン性プロテオグリカンと相互作用しうる正に荷電した微粒子へと凝集させて、エンドサイトーシスによる細胞内への移入を促進することによって、siRNAを例えば細胞に送達する能力を有する。第2に、siRNAとPEIとの非共有結合的な複合体形成はsiRNAを効率的に安定化し、所与の濃度でのより高い作用効率をもたらす。
【0112】
本明細書で実証されているように、特定のβ-チューブリンアイソタイプはチューブリン結合剤およびDNA傷害剤に対する感受性の変化を与える。この情報は、特定の薬物に特定の腫瘍を標的とさせるために種々の細胞種間でのアイソタイプ組成の自然な違いを利用するために用いうる可能性がある。細胞の高感受性は、アポトーシス経路の亢進、ならびに微小管およびそれらの随伴タンパク質の修飾に起因し、それ故にチューブリン結合剤に対するこれらの細胞の感受性を強化する有糸分裂の欠陥の両方に起因する可能性がある。
【0113】
チューブリン結合剤に対するある種のNSCLC細胞系および白血病細胞系の感受性を強化するための、クラスIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子に対して特異的なポリヌクレオチド配列を含む核酸構築物の使用を本明細書では記載しているが、核酸構築物の作用様式の特異性が原因で、クラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子を発現する任意の他の腫瘍細胞種も、同様な様式で処理された場合に少なくとも1つの微小管不安定化剤に対する感受性の強化を示すことが予想される。例えば、パクリタキセルに対して耐性のある卵巣腫瘍はクラスIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリンを上昇したレベルで発現する可能性があり、神経芽細胞腫細胞はクラスIIを高レベルで発現する可能性があり、白血病細胞および乳癌細胞もクラスIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリンを発現する可能性がある。本明細書で用いる場合、腫瘍細胞とは新生物性細胞のことであり、これは、固形腫瘍中に認められる細胞だけでなく、単離された新生物性細胞または白血病細胞などの流血中腫瘍も範囲に含むことを意図している。
【0114】
当技術分野では、任意の特定の腫瘍細胞がクラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子を発現するか否かを判定するために、市販のチューブリンアイソタイプ特異的抗体ならびに/またはアイソタイプ特異的核酸プライマーおよび/もしくはプローブの使用を含む、数多くの方法が利用可能である。
【0115】
核酸構築物に曝露させる時の腫瘍細胞は、インビトロ、対象から取り出した腫瘍内のインサイチュー、またはインビボのいずれにあってもよい。腫瘍細胞は哺乳動物由来であると考えられ、1つの態様においてはヒト由来である。
【0116】
1つの態様において、核酸構築物配列は、1つまたは複数の微小管不安定化剤による治療の開始前に導入される。核酸構築物配列の導入の時機は、構築物の投与の経路、ならびに該当する標的のクラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の阻害の動態に依存すると考えられる。クラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子発現のレベルは、例えば、組織生検標本、ならびにクラスII、クラスIIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子発現に対して特異的なリアルタイムPCRを用いてモニターすることができる。細胞へのsiRNA投与の場合、最大の遺伝子抑制はsiRNAが細胞に入っておよそ72時間後に起こり、これが、1つまたは複数の微小管不安定化剤に対する細胞の感受性が最大になる時点である。したがって、微小管不安定化剤の投与は、その薬剤が存在すると同時に腫瘍細胞のクラスIIおよび/またはクラスIVb β-チューブリン遺伝子発現が最大限に抑制されるような任意の時点で開始することが好ましい。
【0117】
本発明は、本明細書に記載された核酸構築物を含む組成物の使用を伴う治療の方法、およびそれを含む薬学的組成物を想定している。
【0118】
一般に、本発明の方法に従った使用のために適した組成物は、当業者に公知の方法および手順に従って調製することができ、したがって、薬学的に許容される担体、希釈剤および/または添加剤を含みうる。
【0119】
組成物は標準的な経路によって投与することができる。一般に、組成物は、非経口的(例えば、静脈内、脊髄内、皮下または筋肉内)、経口的または局所的な経路によって投与することができる。投与は全身的、局部的または局所的であってよい。任意の所与の状況において用いられる具体的な投与経路は、治療しようとする病状の性質、病状の重症度および程度、送達しようとする具体的な化合物の必要投与量、ならびに化合物の潜在的な副作用を含む、数多くの要因に依存すると考えられる。
【0120】
一般に、適した組成物は、当業者に公知の方法によって調製することができ、これは薬学的に許容される希釈剤、添加剤および/または賦形剤を含みうる。希釈剤、添加剤および賦形剤は、組成物の他の成分と適合性があって、そのレシピエントに対して有害でないという意味で「許容性」でなければならない。
【0121】
トランスフェクションの効率を高めうる前記の作用物質に加えて、薬学的に許容される担体または希釈剤の例には、以下のものが非限定的に含まれる:脱塩水または蒸留水、食塩液;植物ベースの油、例えばピーナッツ油、ベニバナ油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、落花生油またはヤシ油など;シリコーン油、これにはメチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサンおよびメチルフェニルポリソルポキサン(methylphenyl polysolpoxane)などのポリシロキサン類が含まれる;揮発性シリコーン;鉱油、例えば流動パラフィン、軟パラフィンまたはスクアランなど;セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど;低級アルカノール、例えばエタノールまたはイソプロパノールなど;低級アラルカノール;低級ポリアルキレングリコールまたは低級アルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールまたはグリセリンなど;脂肪酸エステル、例えばイソプロピルパルミテート、イソプロピルミリステートまたはオレイン酸エチルなど;ポリビニルピロリドン;寒天;カラゲナン;トラガカントゴムまたはアラビアゴム、およびワセリン。典型的には、担体(carrier)または担体(carriers)は、組成物の重量比で10%〜99.9%を占めると考えられる。
【0122】
本発明の組成物は、注射による投与のために適した形態、経口摂取のために適した形態(例えば、カプセル剤、錠剤、カプレット剤、エリキシル剤など)、局所投与のために適した軟膏、クリームまたはローションの形態、点眼剤としての送達のために適した形態、経鼻吸収または経口吸入などによる吸入による投与のために適したエアロゾル形態、非経口的投与、すなわち皮下、筋肉内または静脈内注射のために適した形態であってよい。
【0123】
注射用の溶液または懸濁液としての投与のための、無毒性の非経口的に許容される希釈剤または担体には、リンゲル液、等張食塩水、リン酸緩衝食塩水、エタノールおよび1,2プロピレングリコールが含まれうる。
【0124】
経口用途のために適した担体、希釈剤、賦形剤および添加剤のいくつかの例には、ピーナッツ油、流動パラフィン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、トラガカントゴム、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ゼラチンおよびレシチンが非限定的に含まれる。加えて、これらの経口製剤は、適した香味剤および着色剤を含んでもよい。カプセル形態で用いる場合には、カプセル剤を、崩壊を遅らせるモノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリルなどの化合物でコーティングしてもよい。
【0125】
添加剤には、典型的には、軟化剤、乳化剤、増粘剤、保存料、殺菌剤および緩衝剤が非限定的に含まれる。
【0126】
経口投与用の固体形態は、ヒトおよび獣医学的な薬学実務において許容される結合剤、甘味剤、崩壊剤、希釈剤、香味剤、コーティング剤、保存料、潤滑剤ならびに/または時間遅延剤を非限定的に含みうる。適した結合剤には、アラビアゴム、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースまたはポリエチレングリコールが非限定的に含まれる。適した甘味剤には、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテームまたはサッカリンが含まれる。適した崩壊剤には、コーンスターチ、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、グアーガム、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸または寒天非限定的に含まれる。適した希釈剤には、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、デキストロース、カオリン、セルロース、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムまたは第二リン酸カルシウムが非限定的に含まれる。適した香味剤には、ペパーミント油、冬緑油、チェリー、オレンジまたはラズベリーの香味剤が非限定的に含まれる。適したコーティング剤には、アクリル酸および/もしくはメタクリル酸および/もしくはそれらのエステルの重合体もしくは共重合体、蝋状物質、脂肪アルコール、ゼイン、セラックまたはグルテンが非限定的に含まれる。適した保存料には、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、α-トコフェロール、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベンまたは重亜硫酸ナトリウムが非限定的に含まれる。適した潤滑剤には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩化ナトリウムまたはタルクが非限定的に含まれる。適した時間遅延剤には、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリルが含まれる。
【0127】
経口投与用の液体形態は、上記の作用物質に加えて液体担体を含みうる。適した液体担体には、水、油、例えばオリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油、ヒマワリ油、ベニバナ油、落花生油、ヤシ油など、流動パラフィン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセロール、脂肪アルコール、トリグリセリドまたはそれらの混合物が非限定的に含まれる。
【0128】
経口投与用の懸濁液は、分散剤および/または懸濁剤をさらに含みうる。適した懸濁剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウムまたはアセチルアルコールが非限定的に含まれる。適した分散剤には、レシチン、ステアリン酸などの脂肪酸のポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンソルビトール-モノオレエートもしくは-ジオレエート、-ステアレートまたは-ラウレート、ポリオキシエチレンソルビタン-モノオレエートもしくはジオレエート、-ステアレートまたは-ラウレートなどが非限定的に含まれる。
【0129】
経口投与用の乳濁液は、1つまたは複数の乳化剤をさらに含みうる。適した乳化剤には、以上に例示した分散剤、またはグアーガム、アラビアゴムもしくはトラガカントゴムなどの天然ゴムが非限定的に含まれる。
【0130】
非経口的に投与しうる組成物を調製するための方法は当業者には明らかであり、例えば、Remington's Pharmaceutical Science, 15th ed., Mack Publishing Company, Easton、Pa.にさらに詳細に記載されており、それは参照により本明細書に組み入れられる。
【0131】
本発明の局所用製剤は、有効成分を、1つまたは複数の許容される担体、および任意で、任意の他の治療用成分とともに含む。局所投与のために適した製剤には、治療が必要な部位に対する皮膚を通じての浸透のために適した液体または半流動体、例えばリニメント剤、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤またはパスタ剤など、および眼、耳または鼻に対する投与のために適した滴剤が非限定的に含まれる。
【0132】
肺への投与のためのアンチセンスオリゴヌクレオチド組成物の使用、およびこの用途のために適した組成物は、例えば米国特許第6,825,174号に記載されており、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。それらに記載された方法を用いて、吸入送達または鼻内送達のために適した組成物を調製することができる。
【0133】
本発明による滴剤は、無菌の水性または油性の溶液または懸濁液を含みうる。これらは、有効成分を、殺菌薬および/または殺真菌薬および/または任意の他の適した保存料の水溶液中に溶解させること、ならびに任意で界面活性剤を含めることによって調製しうる。その結果得られた溶液を、続いて、濾過によって透明化し、適した容器に移して滅菌することができる。滅菌は、濾過の後に無菌的手法によって容器に移すことにより達成できる。滴剤中に含めるのに適した殺菌薬および殺真菌薬の例には、硝酸フェニル水銀または酢酸フェニル水銀(0.002%)、塩化ベンザルコニウム(0.01%)および酢酸クロルヘキシジン(0.01%)がある。油性溶液の調製のために適した溶媒には、グリセロール、希釈アルコールおよびプロピレングリコールが非限定的に含まれる。
【0134】
本発明によるローション剤には、皮膚または眼に対する適用のために適したものが含まれる。眼用ローション剤は、任意で殺菌薬を含む滅菌水溶液を含むことができ、滴剤の調製に関して上述したものに類似した方法によって調製することができる。皮膚に対する適用のためのローション剤またはリニメント剤も、乾燥を早め、皮膚を冷却するための作用物質、例えばアルコールもしくはアセトン、および/またはグリセロールなどの保湿剤、またはヒマシ油もしくは落花生油などの油を非限定的に含みうる。
【0135】
本発明によるクリーム剤、軟膏剤またはパスタ剤は、外用のための有効成分の半固形製剤である。それらは、微細または微粉状の形態にある有効成分を、単独で、または水性もしくは非水性の流動体中にある液体または懸濁液として、油脂性または非油脂性の基剤と混合することによって製造することができる。基剤には、炭化水素、例えば硬、軟もしくは流動パラフィン、またはグリセロール、蜜蝋、金属セッケン;ゴム糊;天然物由来の油、例えば扁桃油、コーン油、落花生油、ヒマシ油またはオリーブ油;羊毛脂もしくはその誘導体、または脂肪酸、例えばステアリン酸またはオレイン酸が、プロピレングリコールまたはマクロゴールなどのアルコールとともに含まれうる。
【0136】
組成物には、陰イオン性、陽イオン性または非イオン性の界面活性剤、例えばソルビタンエステルまたはそのポリオキシエチレン誘導体などの、任意の適した界面活性剤を組み入れることができる。天然ゴム、セルロース誘導体、または珪質シリカなどの無機材料、およびラノリンなどの他の成分を含めることもできる。
【0137】
組成物をリポソームの形態で標的細胞に投与または送達することもできる。リポソームは一般にリン脂質または他の脂質物質から導き出され、水性媒体中に分散された単層または多層の水和液体結晶から形成される。組成物を標的細胞に投与または送達するのに用いられるリポソームの具体的な例は、合成コレステロール(Sigma)、リン脂質1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC;Avanti Polar Lipids)、PEG脂質3-N-[(-メトキシポリ(エチレングリコール)2000)カルバモイル]-1,2-ジミレスチルオキシ-プロピルアミン(PEG-cDMA)、およびカチオン性脂質1,2-ジ-o-オクタデセニル-3-(N,N-ジメチル)アミノプロパン(DODMA)または1,2-ジリノレイルオキシ-3-(N,N-ジメチル)アミノプロパン(DLinDMA)が、それぞれモル比55:20:10:15または48:20:2:30にあるもの、ならびにPEG-cDMA、DODMAおよびDLinDMAである。リポソームを形成することのできる、任意の無毒性で生理的に許容され、かつ代謝されうる脂質を用いることができる。リポソーム形態にある組成物は、安定剤、保存料、賦形剤などを含みうる。好ましい脂質は、天然性および合成性の両方の、リン脂質およびホスファチジルコリン(レシチン)である。リポソームを形成するための方法は当技術分野で公知であり、この点に関する具体的な参照は以下のもの:Prescott, Ed., Methods in Cell Biology, Volume XIV, Academic Press, New York, N.Y.(1976), p. 33 et seq.に対してなされ、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0138】
DOTAPおよび/または他のカチオン性脂質を介した核酸送達系の使用も想定される。DOTAPは、例えば、遺伝子サイレンシング用のsiRNAの全身送達のために用いられており(Sorenson et al.,(2003)J. Mol. Biol. 327:761-766)、そのすべての内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0139】
組成物を、細胞内への組成物の送達のためにポリカチオン性作用物質とコンジュゲートさせることもできる。ポリカチオン性作用物質は、組成物の送達媒体として用いることができる。ポリカチオン性作用物質の一例は、ポリ(エチレンイミン)、別名PEIである。PEIは、siRNAなどの短い核酸鎖を、細胞のアニオン性表面と相互作用する正に荷電した微粒子へと凝集させる低分子量化合物である。PEIは単独で用いることもでき、またはさらにPEGとコンジュゲートさせることもできる。ポリカチオン性作用物質のもう1つの例はポリ-L-リジン(PLL)である。細胞への組成物の送達のためのポリカチオン性作用物質の使用は当技術分野で公知であり、この点に関する具体的な参照は、Judge et al. (2005). Nature 25: 457-462に対してなされ、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0140】
また、組成物を微粒子の形態で投与することもできる。ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)およびイプシロン-カプロラクトン(ε-カプロラクトン)から形成された生分解性微粒子は、血漿中半減期を延長させてそれによって有効性を持続化させるための薬物担体として幅広く用いられている(Kumar, M., 2000, J Pharm Pharmaceut Sci. 3(2) 234-258)。微粒子は、ワクチン、抗生物質およびDNAを含む、さまざまな薬物候補の送達のために製剤化されている。その上、これらの製剤は、非経口的な皮下注射、静脈内注射および吸入を含む、さまざまな送達経路用に開発されている。
【0141】
組成物がナノ粒子を含んでもよい。PEG含有ナノ粒子などのナノ粒子は、そのサイズのために細胞内に迅速に取り込まれることが示されている。本明細書に記載された組成物がナノ粒子と、例えば組成物上およびナノ粒子の表面上の相補的な電荷によって会合している場合には、細胞内への組成物の送達が、ナノ粒子によって与えられる細胞送達特性によって強化される可能性がある。
【0142】
組成物に、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)および有機溶媒または複数の有機溶媒の混合物から構成される、制御放出用マトリックスを組み入れることもできる。粘度をさらに高め、放出速度を低下させるための放出調節剤として媒体にポリマー性添加物を添加してもよい。SAIBはよく知られた食品添加物である。これは極めて疎水性が高く、イソ酪酸基6に対して酢酸基2という理論的比で完全にエステル化されたスクロース誘導体である。混合エステルとして、SAIBは結晶化しないが、透明な粘性液体として存在する。SAIBをエタノールまたはベンジルアルコールなどの薬学的に許容される有機溶媒と混合すると、混合物の粘度は注射が可能となるほどに十分に低下する。有効薬物成分をSAIB送達媒体に添加して、SAIB溶液または懸濁液の製剤を形成させることができる。製剤を皮下注射すると、溶媒がマトリックスから拡散することで、SAIB-薬物またはSAIB-薬物-ポリマー混合物をインサイチュー形成性デポとして設置することが可能になる。
【0143】
本発明の目的において、分子および薬剤は、対象に対して組成物として治療的または予防的に投与しうる。治療的な用途において、組成物は、疾患にすでに罹患している患者に対して、疾患およびその合併症を治癒させる、または少なくとも阻止するのに十分な量で投与される。組成物は、患者を有効に治療するのに十分な、分子または薬剤の量を提供すべきである。
【0144】
任意の特定の患者に対する治療的に有効な用量レベルは、以下のものを含む、さまざまな要因に依存すると考えられる:治療しようとする障害、および障害の重症度;用いる分子または作用物質の活性;用いる組成物;患者の年齢、体重、全般的健康状態、性別および食事内容;投与の時間;投与の経路;分子または薬剤の封鎖の速度;治療の持続時間;治療と組み合わせて、または同時に用いられる薬物、さらに医学において周知である他の関連した要因。
【0145】
当業者は、定型的な実験により、適用可能な疾患および病状を治療するために必要と考えられる薬剤または化合物の有効な無毒性量を決定しうると考えられる。
【0146】
微小管不安定化剤に対する腫瘍細胞の感受性が強化されたか否かを判定するための方法が、微小管不安定化剤への曝露時のアポトーシスマーカー、腫瘍縮小の度合い、および腫瘍細胞の代謝活性の変化のうちいずれか1つまたは複数の検討を含みうることは理解されるであろう。TUNEL標識陽性またはDNAラダリングの存在を含む、アポトーシスのマーカーの存在を利用して、腫瘍内の細胞がアポトーシスを来したか否かを判定することができる。
【0147】
腫瘍サイズの変化の判定は、デジタルラジオグラフィー、X線マンモグラフィーを含むX線技術、磁気共鳴映像法、コンピュータ断層撮影法、ポジトロン放出断層撮影法、ガンマカメラ映像法、超音波映像法、内視鏡映像法および臨床的評価を含む、臨床医が容易に利用しうる手法を用いて下すことができる。また、流血中または生検組織中の腫瘍特異的マーカーの存在またはレベルを、腫瘍特異的抗体を用いて、または腫瘍特異的プローブとのインサイチューハイブリダイゼーションによって評価することもできる。ポジトロン放出断層撮影法は、例えば、インサイチューの腫瘍の代謝活性を測定するために用いることができる。
【0148】
実施例
これらの実施例は、本発明を例証する役割を果たすことを意図しており、本明細書の全体にわたる説明の開示の一般的な性質を限定するものとみなされるべきではない。
【0149】
統計分析はGraphPad Prismプログラムを用いて行った。統計分析が提示されている場合、結果は少なくとも3回の独立した実験の平均±SEMとして表されている。種々の実験群と対照群との間の統計学的な差を判定するためには両側スチューデントt検定を用い、P<0.05を統計学的に有意とみなした。
【0150】
実施例1‐細胞培養およびsiRNAトランスフェクション
ヒトNSCLC細胞系Calu-6およびH460(ATCC:Calu6のカタログ番号HTB-56、およびNCI-H460のカタログ番号HTB-177)を、10%ウシ胎仔血清(FCS)および2mM L-グルタミンを補充した、それぞれダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中およびRPMI中で、単層培養物として維持した。細胞は、5% CO2を含む加湿大気中にて37℃で増殖させた。
【0151】
本明細書に記載した実施例では、種々のsiRNAまたはshRNAを用いた。
【0152】
クラスIII β-チューブリン
(公式名(official symbol):TUBB3)、MCIR;TUBB4;β-4としても知られる
SMARTpool、ヒトTUBB4、NM_006086(クラスIII β-チューブリン)
Dharmacon RNA Technologies
【0153】
クラスIII β-チューブリン配列1
センス配列:
(位置:327〜345、位置346〜347にミスマッチ)
アンチセンス配列:
【0154】
クラスIII β-チューブリン配列2
センス配列:
(位置174〜192)
アンチセンス配列:
【0155】
クラスIII β-チューブリン配列3
センス配列:
(位置98〜116)
アンチセンス配列:
【0156】
クラスIII β-チューブリン配列4
センス配列:
(位置470〜488)
アンチセンス配列:
【0157】
クラスIII β-チューブリン配列5
センス配列:
(位置459〜477)
アンチセンス配列:
標的配列はセンス配列であり、UをTに置き換える。
【0158】
27-mer βIII siRNA配列
Integrated DNA Technologies(IDT)
27-mer βIII siRNA 配列-8
(標的配列、UをTに置き換え;位置1521〜1545)
【0159】
27-mer βIII siRNA 配列-11
(標的配列、UをTに置き換え;位置1352〜1376)
【0160】
βIII shRNA発現pRSベクター
Origene
(位置1521〜1549)。
【0161】
クラスII β-チューブリン
(公式名:TUBB2A)、TUBB;TUBB2;dJ40E16.7としても知られる
siGenoME ON-Targetplus SMARTpool、ヒトTUBB2A、NM_001069
Dharmacon RNA Technologies
【0162】
クラスII β-チューブリン配列7
センス配列:
(位置163〜183;位置182にミスマッチ)
アンチセンス配列:
【0163】
クラスII β-チューブリン配列8
センス配列:
(位置1350〜1370;位置1369にミスマッチ)
アンチセンス配列:
【0164】
クラスII β-チューブリン配列9
センス配列:
(位置1371〜1389;位置1390〜1391にミスマッチ)
アンチセンス配列:
【0165】
クラスII β-チューブリン配列10
センス配列:
(位置1439〜1458;位置1459にミスマッチ)
アンチセンス配列:
標的配列はセンス配列であり、UをTに置き換える。
【0166】
クラスIVb β-チューブリン
(公式名:TUBB2C)、TUBB2としても知られる
siGenoME duplex、ヒトTUBB2、NM_006088
Dharmacon RNA Technologies。
クラスIVb β-チューブリン配列5
センス配列:
(位置28〜47;48にミスマッチ)
アンチセンス配列:
標的配列はセンス配列であり、UをTに置き換える。
【0167】
siRNAトランスフェクションのためには、3×104〜5×104個/ウェルの細胞を24ウェルプレートにプレーティングして、最大100nM siRNAで、クラスII β-チューブリンsiRNA ON-TARGET plus SMARTpool試薬(Dharmacon, Chicago, IL)をトランスフェクトした。
【0168】
いかなる公知のヒト遺伝子配列とも配列相同性のない非サイレンシング性対照siRNAを、27-mer βIII siRNA実験を除くすべての実験で陰性対照として用いた(Qiagen, Valencia, CA)。細胞にβIII siRNAを最終濃度25nM(Calu-6)および100nM(H460)としてトランスフェクトした。
【0169】
トランスフェクションは、Lipofectamine 2000(Invitrogen, Carlsbad, CA)を製造元の指示に従って用いて行った。対照実験は、いかなる公知のヒト遺伝子配列とも配列相同性のない非サイレンシング性対照siRNA(Qiagen, Valencia, CA)を標的siRNAと等しい濃度で細胞にトランスフェクトすることにより、並行して行った。別に指定する場合を除き、細胞をトランスフェクションから48〜72時間後に収集した。すべての実験に、Lipofectamineのみの対照(モック-トランスフェクト)および非サイレンシング性対照siRNA(陰性対照)を含めた。
【0170】
実施例2‐β-チューブリンアイソタイプの分析
β-チューブリンアイソタイプの発現に対するsiRNA転写の影響を、β-チューブリンアイソタイプの逆転写-PCR(RT-PCR)分析を用いて、およびウエスタンブロット法によって評価した。逆転写分析のためには、Trizol試薬(Invitrogen)を製造元の指示に従って用いて全RNAを単離した。そのすべての内容が参照により本明細書に組み入れられる、Kavallaris et al.(1997)J Clin Invest 100, 1282-1293に記載された通りの方法および特異的プライマーを用いて、RNA試料をDNアーゼで処理し、RT-PCR分析のために逆転写させた。Hβ9(クラスII)、H5β(クラスIVa)およびHβ2(クラスIVb)遺伝子に関して、半定量的PCRに基づくアッセイには、標的(β-チューブリン)および対照(β2-ミクログロブリン)遺伝子配列に関する2つの別個のPCRチューブの設定を含めた。増幅産物を12.5%ポリアクリルアミドゲル上で分離し、Gel Doc 1000画像化システムを用いる臭化エチジウム染色によって描出して、QuantityOneソフトウエアバージョン4.0(Bio-Rad, Hercules, CA)を用いてデータ解析を行った。PCR増幅は、2つの独立したcDNA調製物を用いて3回ずつ行った。
【0171】
ウエスタンブロット法に関しては、トランスフェクト細胞からの全細胞タンパク質(10μg)を、標準的な方法を用いて、12%SDS-PAGE上で分離してニトロセルロース膜へのエレクトロトランスファーを行った。イムノブロット法は、クラスI β-チューブリンに対するモノクローナル抗体(1:5,000;Dr. R. Luduena, University of Texas, San Antonio, TXにより寄贈)または代替的には抗β-Iチューブリン(AbCam)、クラスII β-チューブリンに対するモノクローナル抗体(1:1,000, Covance, Richmond, CA)、クラスIII β-チューブリンに対するモノクローナル抗体(1:1,000, Covance)、クラスIV β-チューブリンに対するモノクローナル抗体(1:500、Sigma Chemical Co.-Aldrich, St Louis, MO)および全β-チューブリンに対するモノクローナル抗体(1:500、Sigma)を、以前の記載(Don et al.(2004)Mol Cancer Ther 3, 1137-1146)に若干の変更を加えた上で用いた。高感度化学発光法(Enhanced chemiluminescence)(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を検出のために用いた。ブロットをtyphoonスキャナを用いてスキャニングし、ImageQuantソフトウエアバージョン5.2(Molecular Dynamics Inc, Sunnyvale, CA)を用いて定量した。実験は、3回の独立した抽出によって単離したタンパク質を用いて3回ずつ行った。
【0172】
図1Aに示されているように、至適量のsiRNAで処理した場合、βIIチューブリン(Hβ9)発現はいずれの細胞系においても遺伝子レベルで大きく低下し、クラスIVb siRNA-トランスフェクト細胞ではβIVb(Hβ2)発現の完全な抑制が観察された。72時間の時点で、ウエスタンブロット分析により、クラスII β-チューブリンおよびクラスIV β-チューブリンのレベルは、βIIまたはβIVbチューブリンのそれぞれに対するsiRNAがトランスフェクトされた細胞では著しく低下したが、対照siRNAではそうでないことが示された(図1B)。siRNAの特異性は、他のβ-チューブリンアイソタイプの特異的抗体を用いたプロービングによって証明された。図2に示されているように、クラスII(図2A)またはクラスIVb β-チューブリン(図2B)のいずれのダウンレギュレーションも、他のβ-チューブリンアイソタイプの内因性レベルには影響を及ぼさなかった。
【0173】
実施例3‐薬物耐性のクロノジェニックアッセイ
細胞を24時間トランスフェクトさせ、およそ600個の細胞(Calu-6の場合)または150個の細胞(H460の場合)を6ウェルプレートの各ウェルに播いて、4〜6時間かけて付着させた。この試験に用いた細胞系は前もって薬物選択を受けておらず、肺癌で観察される固有の薬物耐性を表している可能性が高い。
【0174】
続いて、細胞を種々の濃度のさまざまな有糸分裂阻害薬で処理した。37℃での3日間のインキュベーションの後に薬物含有培地を除去し、新たな完全培地に置き換えた。培地は、視認しうるコロニーが形成されるまで7〜10日にわたり3〜4日間隔で交換した。対照細胞には全く同じ処理を行い、同等な培地交換を行った。生存コロニーを同時に固定し、0.5%クリスタルバイオレットを含むメタノール溶液で染色し、余分な色素を除くために水ですすぎ洗いして、一晩風乾させた。
【0175】
各ウェル内のコロニーを手作業で算定し、その結果を式に従って生存率として提示した:生存率は以下の通りに算出した:コロニー数/(播いた細胞の数×プレーティング効率)、式中、プレーティング効率は、コロニー数を、薬物非含有培地中に播いた細胞の数で除算したものに等しい。用量反応曲線を各々の薬物-細胞系の組み合わせに関してプロットし、GraphPad Prismプログラム(GraphPad Software、バージョン4、San Diego, CA)を用いて、この曲線から阻害用量(ID50)値を外挿した。ID50は、薬物で処理したウェル内のコロニー数を、該当する非処理対照ウェルのそれの50%に減少させるために必要な薬物の濃度と定義される。ID50値は、少なくとも4回の独立した実験の平均とした。
【0176】
このアッセイの結果から、βIIおよびβIVbチューブリンのノックダウンはビンカアルカロイドの細胞傷害性を有意に強化するが、タキサン系薬剤についてはそうでないことが実証された。図3A〜Bに示されているように、βIIのノックダウンは、両方の細胞系のビンクリスチンに対する感受性を有意に高めたが、パクリタキセルについてはそうでなかった。驚いたことに、βIVbチューブリンのダウンレギュレーションは、ビンクリスチンで処理した場合の生存コロニーの急激な減少を招いた(図4Aおよび図5)。クラスII形質転換体の観察所見と同様に、βIVbのダウンレギュレーションが、これらの細胞におけるパクリタキセルの細胞傷害性を有意に強化することはなかった(図4B)。
【0177】
これらの影響がパクリタキセルと特定のβ-チューブリンアイソタイプとの何らかの独特な相互作用に起因するという可能性を除外するために、追加的な微小管安定化剤であるエポチロンBを分析に含めた。エポチロンBによる処理は、パクリタキセルのデータと一致して、βII siRNAをトランスフェクトしたH460細胞における薬物感受性の有意な変化を招かなかった(図3C)。対照的に、クラスIVb形質転換体はエポチロンBに対する耐性が有意により大きかった(図4C)。クラスIIおよびIVb形質転換体の両方でビンクリスチンに関して観察された高感受性の影響を確かめるために、追加的なビンカアルカロイドについても検査した。これらのアッセイの結果は、βII siRNAについては表1Aに、βIVb siRNAについては表1Bに示されている。検討したビンカアルカロイドのすべてに関して得られた結果は両方のNSCLC細胞系で一致していたが、H460細胞のデータのみを提示している。
【0178】
クラスIVa(H5β)およびクラスIVb(Hβ2)発現を遺伝子発現(mRNA)レベルで特異的に識別することは可能であったが、クラスIVaタンパク質とクラスIVbタンパク質とを識別する市販の抗体は現在ないため、この試験ではこれらのポリペプチドの発現の差異については検討しなかった。クラスIV β-チューブリン特異的抗体を用いたアフィニティー捕捉と、キャピラリーゾーン電気泳動法などの高分解能電気泳動法との組み合わせは、これらの2種のタンパク質を分離して、それらの区別した定量を可能にすることが期待される。
【0179】
クラスIVb siRNAをトランスフェクトしたCalu-6細胞では、H5β遺伝子発現のおよそ40〜50%の低下が観察された(非提示データ)が、H460のクラスIVb形質転換体では有意な変化は観察されなかった。どちらの細胞系も同一のクロノジェニックな結果を示したことから、得られた薬物応答はクラスIVaではなくクラスIVbの抑制に起因するとされた。
【0180】
NSCLC細胞におけるβIIまたはβIVbの阻害はいずれも、パクリタキセルの細胞傷害性を有意に増強することはなかった。この結果は、β-チューブリンクラスI、IIまたはIVbによるCHO細胞のトランスフェクションはパクリタキセルに対する耐性を付与しなかったという観察所見に一致する。
【0181】
この試験に用いたsiRNAは、標的とした各β-チューブリンアイソタイプの発現の特異的ダウンレギュレーションをもたらし、他のβ-チューブリンアイソタイプのレベルの変化は観察されなかった。これらの結果は、細胞の化学感受性の決定における個々の各β-チューブリンアイソタイプの寄与の違いを強く示している。
【0182】
これらの結果に基づき、本発明者らは、各β-チューブリンアイソタイプが薬物相互作用の点で独特であること、および細胞のアイソタイプ組成が抗微小管剤に対するその応答に影響を及ぼすことを提唱する。βIVb形質転換体で観察されたビンクリスチン感受性に対する劇的な影響は、このアイソタイプがすべての組織で恒常的に発現されることから興味深い。
【0183】
β-チューブリン組成の違いが微小管と細胞骨格ネットワークの他の構成要素との相互作用に影響し、それ故に化学療法薬に対する細胞応答を含む、腫瘍細胞の挙動を決定づける可能性があることは想像できる。感受性の機序に関して考えられるもう1つの説明は、薬物結合親和性の変更である;しかしながら、ビンカアルカロイドはすべて(ビンクリスチン、ビンブラスチンおよびビノレルビンを含め)、β-チューブリンアイソタイプと同程度の親和性で結合するため、アイソタイプ組成の違いに起因する薬物結合親和性の変更が基礎をなす機序である可能性は低い。
【0184】
実施例4‐チューブリンの免疫蛍光染色
トランスフェクトされたCalu-6細胞を、滅菌チャンバースライド上で集密度が60〜70%となるまで増殖させた。続いて細胞を10nMのパクリタキセルおよびビンクリスチンで1時間処理した。以前の記載(Don et al.(2004)前記)に若干の変更を加えた通りに、細胞をメタノール中で固定し、染色のための加工処理を行った。固定した細胞をα-チューブリン(5% FCS/PBS中に1:400、Sigma)で30分間かけて染色し、続いてCy2抗マウス蛍光タグ付加抗体(5% FCS/PBS中に1:1,000、GE Healthcare)で染色した。スライドを、DAPI II Counterstain(Vysis Inc., Downers Grove, IL)を用いてカバーグラス上にマウントした。スライドを、Zeiss Axioplan 2免疫蛍光顕微鏡(Mannheim, Germany)とImagePro Plus 4.1ソフトウエア(Media Cybernetics, L.P., Silver Spring, MD)を用いて描写した。
【0185】
図7Aに示されているように、処理していないβII形質転換体およびβIVb形質転換体は微小管形態の観察可能な変化を示さなかった。しかし、10nMビンクリスチンとのインキュベーション後には、βII siRNA-トランスフェクト細胞およびβIVb siRNA-トランスフェクト細胞はいずれも、対照siRNAと比較して微小管細胞骨格の劇的な破壊を示した。βII siRNA-トランスフェクト細胞およびβIVb siRNA-トランスフェクト細胞では、微小管は主として脱重合しており、ほとんどの細胞は丸みを帯び、微小管の小さな残渣が時折残っていた。対照的に、対照細胞の形態はビンクリスチンによってそれほど影響を受けなかった。微小管の形態は、ビンクリスチンの非存在下ではβII形質転換体およびβIVb形質転換体のいずれにおいても変化せず、低濃度のビンクリスチンは、これらの細胞において対照と比較して広範囲にわたる微小管破壊を引き起こした。
【0186】
βII形質転換体に対するパクリタキセル処理の影響についても検討した。10nMのパクリタキセルで1時間処理した後に、βII siRNA-トランスフェクト細胞をα-チューブリンで染色した。クロノジェニックデータと一致して、βII siRNAで処理した細胞の微小管には、処理した対照細胞のものとの有意な違いは認められないように思われた(図7B)。
【0187】
実施例5‐ビンクリスチンの細胞内蓄積の検討
薬物蓄積の変化が薬物高感受性に寄与したか否かを判定するために、[3H]-ビンクリスチンの蓄積を、βIVb siRNA-トランスフェクト細胞、および陽性対照としてのMRP1陽性MCF7-VP16細胞で測定した。
【0188】
細胞内ビンクリスチン蓄積は、以前の記載(Verrills, N. M., Flemming, C. L., Liu, M., Ivery, M. T., Cobon, G. S., Norris, M. D., Haber, M., and Kavallaris, M. (2003) Chem Biol 10, 597-607)に若干の変更を加えた通りに、放射標識した薬物を用いて定量した。手短に述べると、トランスフェクト細胞を、[3H]-ビンクリスチン(5.20 Ci/mmol;最終濃度、50nmol)(Moravek Biochemicals Inc, California)の存在下において37℃で2時間インキュベートした。以前の記載の通りに、細胞を洗浄し、加水分解して、[3H]放射能をカウントした。細胞溶解物のアリコートを、BCAアッセイキット(Pierce, Rockford, IL)を用いて細胞タンパク質濃度を決定するために並行して用いた。細胞内ビンクリスチン蓄積は2つずつの試料に関して決定し、ビンクリスチン/タンパク質mgのpmole数として表した。MCF7-VP16細胞(Schneider et al. Cancer Res. (1994) 54(1):152-8)を陽性対照として含めたが、これはこれらの細胞が多剤耐性関連タンパク質-1(MRP1)を過剰発現することが以前に示されているためである。
【0189】
MCF7-VP16細胞は、[3H]-ビンクリスチンの蓄積の有意な減少を示した(非提示データ)。Calu-6およびH460のいずれにおいても、βIVbノックダウン体と対照との間に、細胞内[3H]-ビンクリスチンレベルに関して有意差はみられなかった(図6)。これらの結果は、βIVbノックダウン体におけるビンクリスチンの感受性の強化が薬物蓄積の増加に起因するのではないことを示唆している。
【0190】
実施例6‐細胞周期分析
βIIまたはβIVbチューブリンsiRNA-トランスフェクトH460細胞におけるDNA含有量の分布を、フローサイトメトリーにより決定した。トランスフェクションから72時間後に、トランスフェクト細胞を濃度5nMまたは40nMのビンクリスチンに対して24時間曝露させた。分析当日に、付着細胞および浮遊細胞の両方を収集し、PBSで洗浄した上で、0.4% Triton X-100(Sigma)、50μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma)および2μg/mlのDNアーゼ非含有RNアーゼ(Roche, Indianapolis, IN)を含む溶液により、暗所にて37℃で15分間かけて染色した。DNA含有量は、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson, San Diego, CA)を用いて測定した。流速は1秒当たりの核の数を200個未満とし、各試料からの細胞10,000個を分析した。測定は同じ機器設定下で行った。CellQuestプログラムを用いて、各細胞周期相:sub-G1(アポトーシス細胞)、G1、SおよびG2/Mにある細胞の分布を定量した。
【0191】
図8Aおよび8Bに示されているように、βIIまたはβIVbチューブリンの単独での阻害は、対照と比較して、非処理H460細胞の細胞周期プロフィールに有意な影響を及ぼさなかった。しかし、5nMビンクリスチンで処理すると、βII形質転換体およびβIVb形質転換体はいずれも、G2/M集団およびsub-G1集団の増加を示した。クラスII形質転換体は、対照処理細胞と同様に、40nMビンクリスチンで処理した場合に、より高度のG2/M蓄積を示し、sub-G1集団には有意差はみられなかった(図8A)。
【0192】
一方、クラスIVb形質転換体は、等しい濃度のビンクリスチンで処理した場合にG2/M停止を受けることができず、G0-G1集団の増加を付随して示した(図8B)。有糸分裂の阻止は明らかではなかったが、それにもかかわらず、細胞はsub-G1集団の増加によって示されるようにアポトーシスを呈した。
【0193】
実施例7‐βIII-チューブリンノックダウン試験のための細胞傷害性薬物
以下の複数の実施例では、腫瘍細胞の感受性に対するβIIIチューブリンノックダウンの役割を調べた試験について述べる。
【0194】
パクリタキセル(Calbiochem, Merck Biosciences, Nottingham, U.K.)を、ジメチルスルホキシド(DMSO)中に原液濃度2mMで調製した。ビンクリスチン(Sigma-Aldrich, St Louis, MO)は、食塩水(0.9% wt/vol NaCl)中に原液濃度2mMで調製した;ビノレルビン(Dr B Hill, Pierre Fabre, Franceにより寄贈)は水中に原液濃度2mMで調製した。ドキソルビシン(塩酸ドキソルビシン;Pfizer, Sydney, Australia)は、食塩水中に原液濃度3.45mMで調製した。エトポシド(VP-16;Sigma-Aldrich)は、DMSO中に原液濃度68mMで調製し、シスプラチン(Pharmacia, Rydalmere, Australia)は食塩水中に原液濃度3.3mMで調製した。
【0195】
実施例8‐NSCLC細胞系におけるβIII-チューブリンのサイレンシング
βIII-チューブリンsiRNAトランスフェクションがそのアイソタイプの遺伝子およびタンパク質の発現に及ぼす影響を、RT-PCRおよびウエスタンブロット法によって評価した。RT-PCRのためには、Trizol試薬(Invitrogen)を製造元の指示に従って用いて、全RNAをトランスフェクト細胞から抽出した。以前に詳細に記載された通りの方法および特異的プライマーを用いて、RNA試料をDNアーゼで処理し、RT-PCR分析のために逆転写させた(Kavallaris et al.(1997)J Clin Invest 100, 1282-1293)。β-2-ミクログロブリン(β2M)を内部mRNA対照として用いた。タンパク質溶解物の調製およびウエスタンブロット分析は以下の通りに行った。手短に述べると、標準的な方法を用いて、全細胞タンパク質を4%〜15%のSDS-PAGE上で分離して、ニトロセルロース膜へのエレクトロトランスファーを行った。イムノブロット法は、βI-チューブリン(クローンSAP 4G5, Abcam Ltd., Cambridgeshire, UK)、βII-チューブリン(クローン7B9, Chemicon, Temecula, CA)、βIII-チューブリン(クローンTUJ1, Chemicon)およびβIV-チューブリン(クローンONS 1A6, Sigma-Aldrich)、GAPDH(Abcam Ltd.)を対象とするモノクローナル抗体を用いて行った。一次抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼを連結させた二次抗体(Amersham Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)を用いて検出し、高感度化学発光法(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を検出のために用いた。ブロットをTyphoon(登録商標)スキャナを用いてスキャニングし、ImageQuantソフトウエアバージョン5.2(Molecular Dynamics Inc, Sunnyvale, CA)を用いて定量した。
【0196】
βIII-チューブリンsiRNAによるH460細胞およびCalu-6細胞の処理は、モック-トランスフェクト細胞および対照siRNA-トランスフェクト細胞と比較してβIII-チューブリンmRNAレベルの有意なノックダウンをもたらした(図9A)。この結果は、タンパク質レベルで観察された減少と一致した(図9B)。ウエスタンブロット法によって示されたように、βIII-チューブリンsiRNAはβIII-チューブリンを特異的に標的とし、検討した他のβ-チューブリンアイソタイプとの交差反応はなかった(図9C)。加えて、βIII-チューブリンのサイレンシングは、検討した他のアイソタイプの代償性変化を引き起こさなかった。
【0197】
実施例9‐クラスIII β-チューブリンのサイレンシングは、パクリタキセルまたはビンクリスチン処理時に微小管を破壊する
微小管の構成に対するβIIIダウンレギュレーションの影響を評価するために、トランスフェクトCalu-6細胞に対して以下の通りに免疫蛍光染色を行った。手短に述べると、siRNAトランスフェクト細胞をガラスチャンバースライドにプレーティングして、集密度70%に到達させた。続いて細胞を10nMのパクリタキセルまたはビンクリスチンで1時間処理した。続いて、細胞をPBSで洗浄することによって薬物を除去し、10% FCS/PBS中で固定した。二重染色のためには、加湿チャンバー内にて37℃で30分間インキュベートした細胞に曝露させたクラスIII β-チューブリンに対する抗体を用いて、細胞をまず標識した。室温での0.1% Tween 20/PBS中での洗浄後に、スライドをCy3抗マウス蛍光タグ付加抗体(GE Healthcare)とともに、加湿チャンバー内において暗所にて室温で40分間インキュベートした。インキュベーションの後に、スライドを再び0.1% Tween 20/PBSで洗浄した。これに続いて、α-チューブリンおよびCy2抗マウス蛍光タグ付加抗体(GE Healthcare)による染色を行った。DAPI II Counterstain(Vysis Inc., Downers Grove, IL)を用いて、スライドをカバーグラス上にマウントした。免疫蛍光顕微鏡検査を行い、Sensicam電荷結合素子カメラ(PCO Imaging, Kelheim, Bavaria, Germany)とImage-Pro Plus 4.1ソフトウエア(Media Cybernetics, L.P., Silver Spring, MD)を用いて画像を取り込んだ。
【0198】
βIII siRNA-トランスフェクト細胞は、微小管形態の観察可能な変化を示さなかった。ウエスタンブロットデー
タに一致して、βIII-チューブリンsiRNA処理細胞では、対照siRNA-トランスフェクト細胞およびモック-トランスフェクト細胞と比較して、同一条件下で画像化した場合にクラスIII β-チューブリン免疫蛍光強度の明らかな低下が観察された。対照細胞(モック-トランスフェクト細胞および対照siRNA-トランスフェクト細胞)は、βIIIノックダウン体と比較して同程度のレベルのクラスIII β-チューブリンを発現し、一方、βIII-チューブリン発現レベルは蛍光顕微鏡検査ではほとんど検出不能であった。
【0199】
βIII-チューブリンsiRNA処理細胞に対するチューブリン結合剤の影響を検討するために、細胞を10nMのパクリタキセルまたはビンクリスチンのいずれかに1時間曝露させ、細胞形態を調べた。図10に示されているように、βIII siRNA-トランスフェクトCalu-6細胞は、対照処理細胞と比較して、微小管細胞骨格の広範囲にわたる破壊を示した。βIII siRNA処理細胞の大半は丸みを帯び、これらの細胞の多くは異常な細胞形態または核形態を呈した(矢印、図10)。対照処理細胞は時折、パクリタキセル処理に通常伴ってみられる微小管のわずかな集束化を示したが、丸みを帯びた細胞の頻度および微小管破壊の程度は、βIII形質転換体と比較してわずかであった。
【0200】
実施例10‐βIII-チューブリンのサイレンシングはチューブリン結合剤およびDNA傷害剤に対する感受性を高める
前の実施例におけるデータから、βIII-チューブリン発現のサイレンシングが、パクリタキセルおよびビンクリスチンの両方に対する腫瘍細胞の感受性を高めた可能性が示唆された。薬物感受性の変化を定量するために、薬物処理クロノジェニックアッセイを行った。siRNAトランスフェクションから24時間後に細胞を収集し、6ウェルプレートにプレーティングして6時間おいた後に、図の説明文に表記した通りのさまざまな薬物を添加した。インキュベーションから72時間後に、薬物を含む培地を除去し、完全増殖培地に置き換えた。培地は、視認しうるコロニーが形成されるまで7〜10日にわたり3日毎に交換した。コロニーを同時に固定し、0.5%クリスタルバイオレットを含むメタノール溶液で染色して、手作業で算定した。各ウェル内の染色された個々のコロニーを算定し、生存率を以下の通りに算出した:コロニー数/(播いた細胞の数×プレーティング効率)、式中、プレーティング効率は、コロニー数を、薬物非含有培地中に播いた細胞の数で除算したものに等しい。
【0201】
トリチウム標識基質である[3H]-パクリタキセルおよび[3H]-ビンクリスチンの細胞内取込みおよび保持を、Verrills, et al. J Natl Cancer Inst 2006;98.1363-74に以前に記載された通りに測定した。手短に述べると、12ウェルプレート内で48時間にわたり細胞をトランスフェクトさせた。薬物取込みは、[3H]-パクリタキセル(14.7Ci/mmol;最終濃度50nM;Moravek Biochemicals Inc, Brea, CA)または[3H]-ビンクリスチン(7.1 Ci/mmol;最終濃度12.5nM;GE Healthcare)をトランスフェクト細胞に添加して37℃で2時間おくことによってモニターした。以前の実施例に記載したように、細胞を洗浄し、加水分解した上で算定した。細胞内に蓄積したトリチウム標識薬物の量を2つずつの試料に関して決定し、薬物/タンパク質mgのpmole数として表した。少なくとも3回の独立した実験を行った。それぞれ多剤耐性1(MDR1)および多剤耐性関連タンパク質1(MRP1)を過剰発現することが知られている、ビンクリスチン耐性神経芽細胞腫(BE/VCR10)およびVP-16耐性乳癌細胞(MCF7-VP16)を含む、該当する陽性対照を含めた。
【0202】
免疫蛍光観察所見に一致して、βIII-チューブリンのサイレンシングは、パクリタキセルおよびビンクリスチンに対する感受性の有意な増加をもたらした(図11AおよびB)。加えて、βIII-チューブリンのサイレンシングを受けた細胞は、対照と比較して、ビノレルビンに対する感受性の強化も呈した(図11D)。モック処理細胞および対照siRNA処理細胞と比較して、βIII-チューブリンsiRNAで処理したCalu-6細胞またはH460 NSCLC細胞のいずれにおいても細胞内薬物蓄積レベルに有意差はみられなかったため、感受性の増加は蓄積の変化に起因するものではなかった(非提示データ)。
【0203】
薬物処理クロノジェニックアッセイを、DNA傷害剤であるVP-16、シスプラチンおよびドキソルビシンを用いても行った。興味深いことに、H460細胞におけるβIII-チューブリンのサイレンシングは、検査した3種のDNA傷害剤すべてに対して感受性の増加をもたらした(図11C)。Calu-6細胞でも同様の結果が得られた。H460細胞は野生型p53を有し、Calu-6細胞は突然変異したp53を保有するため、これらの薬物に対する感受性はp53遺伝子型とは無関係であるように思われる。
【0204】
実施例11‐βIII-チューブリンのノックダウンは、パクリタキセルおよびビンクリスチンにより誘導されるG2/M停止を消失させ、sub-G1集団の増加を誘導する
βIII-チューブリンのサイレンシングが細胞周期プロフィールに影響を及ぼすか否かを判定するために、フローサイトメトリーを用いる細胞周期分析を行った。細胞周期分析は、H460細胞にsiRNAを72時間トランスフェクトさせて、薬物処理から24時間後に(付着性および浮遊性)細胞を収集することによって判定した。含有DNAを、0.4% Triton X-100(Sigma-Aldrich)、50μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich)および2μg/mlのDNアーゼ非含有RNアーゼ(Roche, Indianapolis, IN)を含む溶液により、37℃で15分間かけて染色した。続いて細胞を、FACSCalibur(Becton-Dickinson, Franklin Lakes, NJ)を用いて細胞周期の擾乱に関して分析した。CellQuestプログラムを用いて、各細胞周期相:sub-G1(アポトーシス細胞)、G1、SおよびG2/Mにある細胞の分布を定量した。
【0205】
H460細胞の細胞周期プロフィールは、βIII-チューブリンのサイレンシングによる影響を受けなかった。チューブリン結合剤がβIII-チューブリンsiRNA形質転換体の細胞周期プロフィールに影響を及ぼすか否かを判定するために、細胞をパクリタキセルまたはビンクリスチンのいずれかで処理した。5nMパクリタキセルとの24時間のインキュベーション後に、βIII-チューブリンのサイレンシングを受けた細胞では、対照siRNA処理細胞と比較してsub-G1(アポトーシス細胞)含有量が多かった(p<0.05)(図12A)が、βIII-チューブリンsiRNA処理細胞および対照siRNA処理細胞ではいずれも非処理試料と比較してG2/M含有量の同程度の増加がみられた。大きな違いは40nMパクリタキセルを用いた場合に観察され、対照siRNA処理細胞は顕著なG2/Mブロックを示し、一方、βIII-チューブリンsiRNA処理細胞ではアポトーシス細胞を反映するsub-G1集団の顕著な増加がみられた(図12A)。siRNA処理細胞をビンクリスチンに曝露させた場合にも同様の結果が観察され(図12B)、このことはβIII-チューブリンサイレンシング後のタキサン系薬剤およびビンカアルカロイドの両方の影響を強化する共通の機序があることを示唆する。
【0206】
実施例12‐βIII-チューブリンのノックダウンは、パクリタキセルまたはシスプラチンのいずれかの存在下においてアポトーシスに対する細胞の感受性を増加させる
βIII-チューブリンsiRNA処理細胞におけるチューブリン結合剤への曝露後のsub-G1集団の増加がアポトーシス誘導の増加と関係しているか否かを取り扱うために、アネキシンV-FITC染色後にフローサイトメトリー分析を行った。アポトーシス誘導は、Pasquier et al., Mol Cancer Ther 2004;3:1301-10に以前に記載された通りに、H460細胞をsiRNAを72時間トランスフェクトさせて、薬物処理から48時間後に(付着性および浮遊性)細胞を収集することによって判定した。手短に述べると、細胞1×105個をアネキシンV-FITCおよびヨウ化プロピジウムとともに暗所にて15分間インキュベートし(Becton-Dickinson)、その直後にFACSCalibur(Becton-Dickinson)を用いるフローサイトメトリーを行った。サイトグラム分析を、Cell Questソフトウエアを用いて行った。
【0207】
H460細胞とパクリタキセルとの48時間のインキュベーションにより、βIII-チューブリンsiRNA処理細胞では1nMから、対照siRNA処理細胞では5nMからアポトーシスが誘導された(図13A)。さらに、検査したすべてのパクリタキセル濃度(1、2および5nM)で、アポトーシス細胞のパーセンテージは、βIII-チューブリンsiRNA処理細胞の方が対照siRNA処理細胞よりも有意に高かった(図13A)。
【0208】
同様に、シスプラチンに48時間曝露させたβIII-チューブリンsiRNA処理細胞では、対照と比較して、0.4または1μMシスプラチンで処理した細胞におけるアポトーシス細胞の数の有意な増加がみられた(図13B)。以上を総合すると、このデータは、NSCLCにおけるβIII-チューブリンのサイレンシングが、チューブリン結合剤およびDNA傷害剤による処理後のアポトーシスに対する細胞の感受性を高めることを実証している。
【0209】
実施例13‐クラスIII β-チューブリンのサイレンシングは、チューブリン安定化剤エポチロンに対する感受性を高める
H460細胞およびCalu-6細胞のクラスIII β-チューブリンのノックダウンを以前の実施例に記載した通りに行い、チューブリン安定化剤であるエポチロンBを用いて薬物処理クロノジェニックアッセイを行った。これらの実験の結果は図14に図示されている。
【0210】
いずれの細胞系においても、クラスIII β-チューブリンのノックダウンは、エポチロンBに対するこれらの細胞の感受性を高めた。
【0211】
実施例14‐クラスIII β-チューブリンのサイレンシングのための代替的なsiRNA
他のsiRNAによるチューブリン発現のノックダウンが、チューブリン結合剤に応じて同等なレベルのクラスIII β-チューブリンサイレンシングの変化を誘導しうるか否かを調べるために、配列8(SEQ ID NO:11および12)または配列11(SEQ ID NO:13および14)と命名した27mer-siRNA試薬を用いて、H460細胞におけるクラスIII β-チューブリンの発現をノックダウンした。これらのsiRNAは、クラスIII β-チューブリンmRNA配列の異なる領域を認識する。
【0212】
これらの実験の結果は、図15および16ならびに表2に示されている。図15に図示されたウエスタンブロットは、これらのsiRNAのそれぞれが、クラスIII β-チューブリンタンパク質の発現をさまざまな程度でノックダウンさせるのに有効である一方で、他のチューブリンアイソタイプの発現には影響を及ぼさないことを実証している。図16および表2は、ノックダウンされた細胞が、パクリタキセルおよびビンクリスチンの両方に対する感受性のさまざまな度合いの増加も呈したことを実証しており、このことは、さまざまなsiRNAを用いて、チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を首尾良く強化しうることを示唆している。
【0213】
実施例15‐クラスIII β-チューブリンのサイレンシングのための短鎖ヘアピンRNA(shRNA)
短鎖ヘアピンRNA構築物(SEQ ID NO:15)を用いて、H460細胞におけるクラスIII β-チューブリンの発現を安定的にノックダウンすることを試みた。
【0214】
安定したクラスIII β-チューブリンのノックダウンが観察された、クローン4、クローン59およびクローン60と命名された3種のクローンを同定した。図17に図示されているように、これらのクローンのそれぞれは、他のチューブリンアイソタイプの発現を明らかに変化させることなく、クラスIII β-チューブリンアイソタイプの種々のレベルのノックダウン(標準化したウエスタンブロット中に検出されるクラスIII β-チューブリンタンパク質の強度のばらつきによって示される)を示した。これらの安定的ノックダウンクローンをクロノジェニックアッセイにおいてパクリタキセルまたはDNA傷害剤シスプラチン(CDDP)に対する感受性に関して検討したところ(図18および表3)、すべてのクローンがこれらの薬剤のそれぞれに対する感受性の増加を呈することが見いだされた。各々のクローンの感受性はクラスIII β-チューブリンのノックダウンの度合いと相関するように思われ、クローン4は最大量のノックダウンおよび薬剤のそれぞれに対する最大の感受性の両方を有するように思われた。
【0215】
実施例16‐白血病細胞における2メトキシエストラジオール耐性はクラスII β-チューブリンと関連している
チューブリン結合剤2-メトキシエストラジオール(2ME2)は、β-チューブリンとコルヒチン結合部位近くで結合し、微小管重合を阻害するとともに有糸分裂停止を誘導する。2ME2に対する耐性の増加を呈するCCRF-CEM白血病細胞を選択し、高度の2ME2耐性を持つ白血病亜系統4つを詳細な分析のために選別した。3.6〜28.8μMの2ME2中で選択された2ME2細胞は、親系統の細胞よりも2ME2に対する耐性が11〜107倍大きいことが見いだされた。
【0216】
これらの2ME2耐性細胞はエポチロンBに対して高感受性であり、コルヒチンおよびビンクリスチンに対して交差耐性があったのは、最も耐性の低い亜系統であるCEM/2ME2-3.6Rのみであった。これらの2ME2耐性細胞は親細胞で示されるようなG2/M細胞周期停止を呈さず、親細胞よりも高いレベルの重合チューブリンを示した。4種のクラスI β-チューブリン突然変異、S25N、D197N、A248TおよびL350Nが、これらの2ME2耐性細胞で検出された。S25N突然変異はβ-チューブリン上のパクリタキセル結合部位の内部にあり、A248TおよびL350Nはコルヒチン結合部位の内部にあったものの、耐性細胞はパクリタキセルまたはコルヒチンのいずれとも交差耐性がなかった。
【0217】
このことは、これらの突然変異がこれらの結合部位に対するコンフォメーション変化を誘導した可能性を示唆している。加えて、2ME2耐性亜系統ではクラスII β-チューブリンの発現がアップレギュレートしていることも実証された(図19)。
【0218】
クラスII β-チューブリンのレベルが感受性を予測しうるか否か、および耐性に寄与するか否かを判定するために、薬物感受性H460(NSCLC)細胞におけるクラスII β-チューブリンのsiRNA媒介性ノックダウンを行った。クラスII β-チューブリンのノックダウンは、2ME2およびコルヒチンに対するH460細胞の感受性を有意に増加させた。
【0219】
実施例17‐対象に対する核酸構築物の投与
NSCLC腫瘍を有するかまたはそれを有する疑いがあると診断された対象に対して腫瘍生検を実施する。腫瘍がβII、βIIIまたはβIVb β-チューブリンmRNAまたはタンパク質を発現するか否かを判定するために、生検組織を、本明細書に記載された通り、または以前に記載された通り(Kavallaris et al.(1997)J Clin Invest 100:1282)のRT-PCRにより、市販の特異的モノクローナル抗体または核酸を用いてプロービングする。腫瘍がβII、βIIIまたはβIVb β-チューブリンを発現するならば、その対象を本発明の方法に従って治療する。
【0220】
以前に記載された通りにカチオン性リポソーム内に封入されるか(Nogawa et al.(2005)前記)、ナノ粒子とコンジュゲートされるか、または食塩水中に懸濁され、かつ任意で、ヌクレアーゼ耐性化学修飾を用いて合成された、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンを対象とする1つまたは複数のsiRNA構築物を、2×109個の構築物/注射1回の用量で腫瘍内に直接注射し、注射を2日毎に3回または5回繰り返す。または、ナノ粒子とコンジュゲートされた構築物を全身投与して、肺に対して構築物を局在させるようなナノ粒子の能力を利用する。
【0221】
腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン発現の阻害をモニターする目的で、およそ72時間の時点でさらに生検試料を採取して、上記のように遺伝子発現に関して組織を検討することもできる。
【0222】
腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現の実質的な阻害の後に、対象に対して、当該の腫瘍型に応じた標準的な用量の微小管結合剤を、標準的な投与速度を用いて投与する。
【0223】
(表1A)βII siRNAをトランスフェクトしたNSCLC H460細胞の、ビンカアルカロイドの存在下でのクロノジェニック生存度
*ID50=細胞の50%を死滅させた薬物の濃度(ID50);
† スチューデントのt検定(両側)。
P値は、モック-トランスフェクト細胞のID50をsiRNA-トランスフェクト細胞のID50と比較することによって決定した。
【0224】
(表1B)
βIVb siRNAをトランスフェクトしたNSCLC H460細胞の、ビンカアルカロイドの存在下でのクロノジェニック生存度
【0225】
(表2)
27-mer βIII siRNAを用いたβIIIサイレンシング後のH460細胞に対する薬物処理クロノジェニックアッセイ
【0226】
(表3)
安定的H460 βIII-shRNA細胞の薬物処理クロノジェニックアッセイ
1 コロニー形成の50%を阻害するために必要な薬物濃度
2 相対的感受性(RS)は、ctrlクローン1と比較したsiRNA処理細胞の感受性の倍数である。RSは、ctrlクローン1のID50を、安定的βIIIクローンまたはctrlクローン2のID50で除算することによって決定した。NS-有意でない
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍細胞をチューブリン結合剤(tubulin-binding agent)に対する耐性に関してスクリーニングする方法であって、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階を含み、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現により、その腫瘍細胞がチューブリン結合剤に対する耐性または潜在的耐性を有することが指し示される方法。
【請求項2】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか2つの発現を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンの発現を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つまたは複数の発現を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の発現を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現のレベルを定量することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を、対照細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現と比較することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性を評価する方法であって、以下の段階を含む方法:
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つもしくは複数、またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つもしくは複数の量を検出し、それによって被験腫瘍細胞チューブリン量を得る段階、
被験腫瘍細胞チューブリン量を対照細胞チューブリン量と比較し、それによってチューブリン量の差を決定する段階であって、対照細胞チューブリン量が、対照細胞におけるクラスII、クラスIIIもしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の各々の量である段階、ならびに
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性をチューブリン量の差に基づいて評価する段階。
【請求項9】
対照細胞が対照非腫瘍性細胞である、請求項7または請求項8記載の方法。
【請求項10】
対照細胞が対照腫瘍細胞である、請求項7または請求項8記載の方法。
【請求項11】
対照腫瘍細胞が、チューブリン結合剤に対して耐性のある腫瘍細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
対照腫瘍細胞が、チューブリン結合剤に対して感受性のある腫瘍細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つまたは複数の量の検出が、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質の量の検出である、請求項8記載の方法。
【請求項14】
クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つまたは複数の量の検出が、クラスIII β-チューブリンタンパク質のみの量の検出である、請求項8記載の方法。
【請求項15】
クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の量の検出が、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAの量の検出である、請求項9記載の方法。
【請求項16】
クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の量の検出が、クラスIII β-チューブリンmRNAのみの量の検出である、請求項9記載の方法。
【請求項17】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を強化するための方法であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物の有効量を腫瘍細胞に導入する段階を含み、構築物が腫瘍細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させ、それによってチューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を高める方法。
【請求項18】
対象における腫瘍を治療するための方法であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物の有効量を対象に投与する段階、およびチューブリン結合剤を対象に投与する段階を含み、核酸構築物が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させ、それによってチューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を高める方法。
【請求項19】
核酸構築物およびチューブリン結合剤が同時に(simultaneously)投与される、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項20】
核酸構築物およびチューブリン結合剤が並行して(concurrently)投与される、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項21】
核酸構築物がチューブリン結合剤の前に投与される、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項22】
ヌクレオチド配列が、アンチセンス配列、siRNA配列、短鎖ヘアピンRNA配列およびリボザイム配列からなる群より選択される、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項23】
ヌクレオチド配列が、クラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項24】
ヌクレオチド配列が、クラスII β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項25】
ヌクレオチド配列が、クラスIII β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項26】
チューブリン結合剤が微小管不安定化剤である、請求項1〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
微小管不安定化剤が、ビンカアルカロイド、ドロスタチン系薬剤、コルヒチン系薬剤、クリプトフィシン系薬剤、キュラシンAおよび2-メトキシエストラジオールからなる群より選択される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
チューブリン結合剤が微小管安定化剤である、請求項1〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
微小管安定化剤がタキサン系薬剤およびエポチロン系薬剤からなる群より選択される、請求項30記載の方法。
【請求項30】
腫瘍細胞が非小細胞肺癌細胞である、請求項1〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
腫瘍細胞がヒト腫瘍細胞である、請求項1〜30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物であって、腫瘍細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させることができる構築物の、チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を高めるための薬物の調製における使用。
【請求項33】
チューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を高めるための薬学的組成物であって、該薬学組成物がクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物を含み、該核酸構築物が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させることができる、薬学的に許容される担体、希釈剤または添加剤をともに含む、薬学的組成物。
【請求項34】
チューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を評価するために用いられるキットであって、該キットがクラスII、クラスIIIもしくはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物、またはクラスII、クラスIIIもしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つに対して特異的な少なくとも1つの抗体を含み、該構築物または該抗体が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を検出するために用いられる、キット。
【請求項35】
チューブリン結合剤をさらに含む、請求項34記載のキット。
【請求項1】
腫瘍細胞をチューブリン結合剤(tubulin-binding agent)に対する耐性に関してスクリーニングする方法であって、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階を含み、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現により、その腫瘍細胞がチューブリン結合剤に対する耐性または潜在的耐性を有することが指し示される方法。
【請求項2】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか2つの発現を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンの発現を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つまたは複数の発現を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の発現を検出することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現のレベルを定量することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのいずれか1つまたは複数の発現を検出する段階が、腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現を、対照細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンのうち1つまたは複数の発現と比較することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性を評価する方法であって、以下の段階を含む方法:
腫瘍細胞によるクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つもしくは複数、またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つもしくは複数の量を検出し、それによって被験腫瘍細胞チューブリン量を得る段階、
被験腫瘍細胞チューブリン量を対照細胞チューブリン量と比較し、それによってチューブリン量の差を決定する段階であって、対照細胞チューブリン量が、対照細胞におけるクラスII、クラスIIIもしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質またはクラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の各々の量である段階、ならびに
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の耐性をチューブリン量の差に基づいて評価する段階。
【請求項9】
対照細胞が対照非腫瘍性細胞である、請求項7または請求項8記載の方法。
【請求項10】
対照細胞が対照腫瘍細胞である、請求項7または請求項8記載の方法。
【請求項11】
対照腫瘍細胞が、チューブリン結合剤に対して耐性のある腫瘍細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
対照腫瘍細胞が、チューブリン結合剤に対して感受性のある腫瘍細胞である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つまたは複数の量の検出が、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質の量の検出である、請求項8記載の方法。
【請求項14】
クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つまたは複数の量の検出が、クラスIII β-チューブリンタンパク質のみの量の検出である、請求項8記載の方法。
【請求項15】
クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の量の検出が、クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAの量の検出である、請求項9記載の方法。
【請求項16】
クラスII、クラスIIIおよびクラスIVb β-チューブリンmRNAのいずれか1つまたは複数の量の検出が、クラスIII β-チューブリンmRNAのみの量の検出である、請求項9記載の方法。
【請求項17】
チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を強化するための方法であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物の有効量を腫瘍細胞に導入する段階を含み、構築物が腫瘍細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させ、それによってチューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を高める方法。
【請求項18】
対象における腫瘍を治療するための方法であって、クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物の有効量を対象に投与する段階、およびチューブリン結合剤を対象に投与する段階を含み、核酸構築物が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させ、それによってチューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を高める方法。
【請求項19】
核酸構築物およびチューブリン結合剤が同時に(simultaneously)投与される、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項20】
核酸構築物およびチューブリン結合剤が並行して(concurrently)投与される、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項21】
核酸構築物がチューブリン結合剤の前に投与される、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項22】
ヌクレオチド配列が、アンチセンス配列、siRNA配列、短鎖ヘアピンRNA配列およびリボザイム配列からなる群より選択される、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項23】
ヌクレオチド配列が、クラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項24】
ヌクレオチド配列が、クラスII β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項25】
ヌクレオチド配列が、クラスIII β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的である、請求項17または請求項18記載の方法。
【請求項26】
チューブリン結合剤が微小管不安定化剤である、請求項1〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
微小管不安定化剤が、ビンカアルカロイド、ドロスタチン系薬剤、コルヒチン系薬剤、クリプトフィシン系薬剤、キュラシンAおよび2-メトキシエストラジオールからなる群より選択される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
チューブリン結合剤が微小管安定化剤である、請求項1〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
微小管安定化剤がタキサン系薬剤およびエポチロン系薬剤からなる群より選択される、請求項30記載の方法。
【請求項30】
腫瘍細胞が非小細胞肺癌細胞である、請求項1〜29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
腫瘍細胞がヒト腫瘍細胞である、請求項1〜30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
クラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物であって、腫瘍細胞におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させることができる構築物の、チューブリン結合剤に対する腫瘍細胞の感受性を高めるための薬物の調製における使用。
【請求項33】
チューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を高めるための薬学的組成物であって、該薬学組成物がクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリン遺伝子の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物を含み、該核酸構築物が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を低下させることができる、薬学的に許容される担体、希釈剤または添加剤をともに含む、薬学的組成物。
【請求項34】
チューブリン結合剤に対する腫瘍の感受性を評価するために用いられるキットであって、該キットがクラスII、クラスIIIもしくはクラスIVb β-チューブリン遺伝子産物の少なくとも一部分に対して特異的なヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸構築物、またはクラスII、クラスIIIもしくはクラスIVb β-チューブリンタンパク質のいずれか1つに対して特異的な少なくとも1つの抗体を含み、該構築物または該抗体が腫瘍におけるクラスII、クラスIIIまたはクラスIVb β-チューブリンの発現を検出するために用いられる、キット。
【請求項35】
チューブリン結合剤をさらに含む、請求項34記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2010−521657(P2010−521657A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552029(P2009−552029)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000298
【国際公開番号】WO2008/106730
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(509121905)ニューサウス イノベイションズ ピーティーワイ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000298
【国際公開番号】WO2008/106730
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(509121905)ニューサウス イノベイションズ ピーティーワイ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】
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